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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】電界効果トランジスタ及びその設計方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/336 20060101AFI20240529BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
H01L29/78 301B
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020031456
(22)【出願日】2020-02-27
(65)【公開番号】P2021136331
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-02-02
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「低コスト250℃動作p/n-MOSFETの開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】515277942
【氏名又は名称】株式会社ノベルクリスタルテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加瀬 正史
(72)【発明者】
【氏名】青木 和夫
(72)【発明者】
【氏名】山腰 茂伸
(72)【発明者】
【氏名】内田 悠貴
【審査官】石塚 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/013262(WO,A1)
【文献】特開昭62-248255(JP,A)
【文献】特開2018-98478(JP,A)
【文献】特開2019-106417(JP,A)
【文献】特開2013-131736(JP,A)
【文献】特開2015-2343(JP,A)
【文献】国際公開第2019/191465(WO,A1)
【文献】Zongyang et al.,1.6 kV Vertical Ga2O3 FinFETs With Source-Connected Field Plates and Normally-off Operation,Proceedings of the 31st International Symposium on Power Semiconductor Devices & ICs,2019年,p. 483-486
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 21/336
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ga系半導体層と、
前記Ga系半導体層の内部に形成されたn型のソース領域及びn型のドレイン領域と、
前記ソース領域と前記ドレイン領域間の前記Ga系半導体層であるn型のチャネル領域上に、ゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極と、
前記ソース領域に接続されたソース電極と、
前記ドレイン領域に接続されたドレイン電極と、
を備えた電界効果トランジスタであって、
前記ゲート電極と前記チャネル領域間にマイナス電荷からなる界面電荷が形成され、
ゲート閾値電圧が4.5V以上である、
電界効果トランジスタ。
【請求項2】
前記チャネル領域のドナーキャリア濃度が、1×1015cm-3以上1×1018cm-3以下である、
請求項1に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項3】
前記チャネル領域の深さは10nm以上3μm以下とする、
請求項1または2に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項4】
前記ゲート絶縁膜が、Alからなり、その厚さが5nm以上140nm以下である、
請求項1乃至3の何れか1項に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項5】
前記界面電荷は、前記チャネル領域の上部、または前記チャネル領域の前記ゲート絶縁膜との界面に形成される、
請求項1乃至4の何れか1項に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項6】
前記界面電荷は、前記ゲート絶縁膜の内部、または前記ゲート絶縁膜の前記チャネル領域との界面に形成される、
請求項1乃至4の何れか1項に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項7】
前記チャネル領域と前記ドレイン領域に接する領域の前記Ga系半導体層に形成されたドリフト領域をさらに備えた、
請求項1乃至6の何れか1項に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項8】
前記Ga系半導体層は、Ga、AlN、SiC、ダイヤモンド、サファイア、Si、SiO、Si、あるいはBNのいずれかからなる基板上に形成されている、
請求項1乃至7の何れか1項に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項9】
Ga系半導体層と、
前記Ga系半導体層の内部に形成されたn型のソース領域及びn型のドレイン領域と、
前記ソース領域と前記ドレイン領域間の前記Ga系半導体層であるn型のチャネル領域上に、ゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極と、
前記ソース領域に接続されたソース電極と、
前記ドレイン領域に接続されたドレイン電極と、
を備えた電界効果トランジスタであって、
前記ゲート電極と前記チャネル領域間にマイナス電荷からなる界面電荷が形成され、
少なくとも、前記界面電荷、前記ゲート絶縁膜の厚さ及び比誘電率を考慮して決定されたゲート閾値電圧を有する、
電界効果トランジスタ。
【請求項10】
前記ゲート絶縁膜の厚さ、前記ゲート絶縁膜の比誘電率、前記チャネル領域のドナーキャリア濃度、及び前記チャネル領域のチャネル深さの何れか1つ以上を用いて制御されたゲート閾値電圧を有する、
請求項9に記載の電界効果トランジスタ。
【請求項11】
Ga系半導体層と、
前記Ga系半導体層の内部に形成されたn型のソース領域及びn型のドレイン領域と、
前記ソース領域と前記ドレイン領域間の前記Ga系半導体層であるn型のチャネル領域上に、ゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極と、
前記ソース領域に接続されたソース電極と、
前記ドレイン領域に接続されたドレイン電極と、
を備えた電界効果トランジスタの設計方法であって、
前記ゲート電極と前記チャネル領域間にマイナス電荷からなる界面電荷が形成され、
少なくとも、前記界面電荷、前記ゲート絶縁膜の厚さ及び比誘電率を考慮して、ゲート閾値電圧を決定する、
電界効果トランジスタの設計方法。
【請求項12】
前記ゲート絶縁膜の厚さ、前記ゲート絶縁膜の比誘電率、前記チャネル領域のドナーキャリア濃度、及び前記チャネル領域のチャネル深さの何れか1つ以上を用いて、ゲート閾値電圧を制御する、
請求項11に記載の電界効果トランジスタの設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界効果トランジスタ及びその設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高温環境下や放射線被曝環境下等の過酷な環境下でも動作可能なセンサーシステムに用いる半導体として、バンドギャップが非常に大きいGaが注目されている。
【0003】
Gaでは、n型は出来るが、p型は高抵抗となり現状では安定して実現することが困難であった。そのため、Ga系半導体を用いた電界効果トランジスタでは、構造上ディプレッション型のMOS-FETを採用し、ゲート金属とGa系半導体層の界面にゲート絶縁膜を設けた構造となっている。
【0004】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2019/191465号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、Ga系半導体を用いた電界効果トランジスタでは、上述のような構造となっているために、ノーマリオン動作となっている。しかし、現状用いられているSiやSiCを用いたパワーデバイスからの置き換えや、安全性を考慮すると、ノーマリオフ動作とすることが望まれる。その上で、現状用いられているSiやSiCを用いたパワーデバイスと同程度のゲート閾値電圧とし、誤動作を抑制し汎用性を高めることが望まれる。
【0007】
そこで、本発明は、高温環境下や放射線被曝環境下で使用可能であり、かつ、ノーマリオフ動作を実現した汎用性の高い電界効果トランジスタ及びその設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、上記目的を達成するために、下記[1]乃至[10]の電界効果トランジスタ、及び下記[11],[12]の電界効果トランジスタの設計方法を提供する。
【0009】
[1]Ga系半導体層と、前記Ga系半導体層の内部に形成されたn型のソース領域及びn型のドレイン領域と、前記ソース領域と前記ドレイン領域間の前記Ga系半導体層であるn型のチャネル領域上に、ゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極と、前記ソース領域に接続されたソース電極と、前記ドレイン領域に接続されたドレイン電極と、を備えた電界効果トランジスタであって、前記ゲート電極と前記チャネル領域間にマイナス電荷からなる界面電荷が形成され、ゲート閾値電圧が4.5V以上である、電界効果トランジスタ。
【0010】
[2]前記チャネル領域のドナーキャリア濃度が、1×1015cm-3以上1×1018cm-3以下である、[1]に記載の電界効果トランジスタ。
【0011】
[3]前記チャネル領域の深さは10nm以上3μm以下とする、[1]または[2]に記載の電界効果トランジスタ。
【0012】
[4]前記ゲート絶縁膜が、Alからなり、その厚さが5nm以上140nm以下である、[1]乃至[3]の何れか1項に記載の電界効果トランジスタ。
【0013】
[5]前記界面電荷は、前記チャネル領域の上部、または前記チャネル領域の前記ゲート絶縁膜との界面に形成される、[1]乃至[4]の何れか1項に記載の電界効果トランジスタ。
【0014】
[6]前記界面電荷は、前記ゲート絶縁膜の内部、または前記ゲート絶縁膜の前記チャネル領域との界面に形成される、[1]乃至[4]の何れか1項に記載の電界効果トランジスタ。
【0015】
[7]前記チャネル領域と前記ドレイン領域に接する領域の前記Ga系半導体層に形成されたドリフト領域をさらに備えた、[1]乃至[6]の何れか1項に記載の電界効果トランジスタ。
【0016】
[8]前記Ga系半導体層は、Ga3、AlN、SiC、ダイヤモンド、サファイア、Si、SiO、Si、あるいはBNのいずれかからなる基板上に形成されている、[1]乃至[7]の何れか1項に記載の電界効果トランジスタ。
【0017】
[9]Ga系半導体層と、前記Ga系半導体層の内部に形成されたn型のソース領域及びn型のドレイン領域と、前記ソース領域と前記ドレイン領域間の前記Ga系半導体層であるn型のチャネル領域上に、ゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極と、前記ソース領域に接続されたソース電極と、前記ドレイン領域に接続されたドレイン電極と、を備えた電界効果トランジスタであって、前記ゲート電極と前記チャネル領域間にマイナス電荷からなる界面電荷が形成され、少なくとも、前記界面電荷、前記ゲート絶縁膜の厚さ及び比誘電率を考慮して決定されたゲート閾値電圧を有する、電界効果トランジスタ。
【0018】
[10]前記ゲート絶縁膜の厚さ、前記ゲート絶縁膜の比誘電率、前記チャネル領域のドナーキャリア濃度、及び前記チャネル領域のチャネル深さの何れか1つ以上を用いて制御されたゲート閾値電圧を有する、[9]に記載の電界効果トランジスタ。
【0019】
[11]Ga系半導体層と、前記Ga系半導体層の内部に形成されたn型のソース領域及びn型のドレイン領域と、前記ソース領域と前記ドレイン領域間の前記Ga系半導体層であるn型のチャネル領域上に、ゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極と、前記ソース領域に接続されたソース電極と、前記ドレイン領域に接続されたドレイン電極と、を備えた電界効果トランジスタの設計方法であって、前記ゲート電極と前記チャネル領域間にマイナス電荷からなる界面電荷が形成され、少なくとも、前記界面電荷、前記ゲート絶縁膜の厚さ及び比誘電率を考慮して、ゲート閾値電圧を決定する、電界効果トランジスタの設計方法。
【0020】
[12]前記ゲート絶縁膜の厚さ、前記ゲート絶縁膜の比誘電率、前記チャネル領域のドナーキャリア濃度、及び前記チャネル領域のチャネル深さの何れか1つ以上を用いて、ゲート閾値電圧を制御する、[11]に記載の電界効果トランジスタの設計方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高温環境下や放射線被曝環境下で使用可能であり、かつ、ノーマリオフ動作を実現した汎用性の高い電界効果トランジスタ及びその設計方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1(a)は、本発明の一実施の形態に係る電界効果トランジスタ(FET)を示す垂直断面図、図1(b)はその平面図である。
図2】電界効果トランジスタ(FET)の動作を説明する図である。
図3図3(a)は、図1(a)の電界効果トランジスタ(FET)においてゲート絶縁膜とゲート電極を省略し、チャネル深さDを50nmとした際のI-V特性であり、図3(b)はチャネル深さDを120nmとした際のI-V特性である。
図4】本発明の一変形例に係る電界効果トランジスタ(FET)の垂直断面図である。
図5図5(a)は、図1(a)の電界効果トランジスタ(FET)を試作した際のドレイン電流-ゲート電圧曲線の測定結果を示す図であり、図5(b)は、図4の電界効果トランジスタ(FET)を試作した際のドレイン電流-ゲート電圧曲線の測定結果を示す図である。
図6図1(a)の電界効果トランジスタ(FET)において、ゲート絶縁膜の厚さを変化させた際のゲート閾値電圧及びフラットバンド電圧を示す図である。
図7図1(a)の電界効果トランジスタ(FET)において、チャネル領域のドナーキャリア濃度を変化させた際のドレイン電流-ゲート電圧曲線を示す図である。
図8図1(a)の電界効果トランジスタ(FET)において、チャネル深さDを変化させた際のドレイン電流-ゲート電圧曲線を示す図である。
図9図4の電界効果トランジスタ(FET)において、チャネル深さDを変化させた際のドレイン電流-ゲート電圧曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0024】
(電界効果トランジスタの全体構成)
図1(a)は、本実施の形態に係る電界効果トランジスタ(FET)の垂直断面図であり、図1(b)はその平面図である。
【0025】
図1(a),(b)に示すように、FET1は、Ga系半導体層2と、Ga系半導体層2の内部に形成されたソース領域3及びドレイン領域4と、ソース領域3とドレイン領域4間のGa系半導体層2であるチャネル領域5上に、ゲート絶縁膜6を介して形成されたゲート電極7と、ソース領域3に接続されたソース電極8と、ドレイン領域4に接続されたドレイン電極9と、を備えている。
【0026】
Ga系半導体層2は、Ga系材料からなる層である。Ga系半導体層2は、絶縁性又は弱いn型伝導性を有し、典型的には、意図的に添加される不純物を含まないGa系材料からなる。
【0027】
ここで、Ga系材料とは、Ga、又は、Al、In等の元素が添加されたGaをいう。例えば、Al及びInが添加されたGaである(GaAlIn(1-x-y)(0<x≦1、0≦y<1、0<x+y≦1)であってもよい。Alを添加した場合にはバンドギャップが広がり、Inを添加した場合にはバンドギャップが狭くなる。
【0028】
Ga系半導体層2を構成するGa系材料が単結晶である場合、Ga系半導体層2は、例えば、Ga系単結晶からなる基板10上に、当該基板10を下地とするエピタキシャル成長により形成されるエピタキシャル層である。Ga系半導体層2を構成するGa単結晶の結晶構造は、典型的には単斜晶系であるβ型である。本実施の形態では、MBE(Molculer Beam Epitaxy)法やHVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)法によりGa系半導体層2を形成した。
【0029】
基板10は、例えば、Fe、Mgなどのアクセプター不純物が添加されたGa系単結晶からなる基板であり、アクセプター不純物の添加により高抵抗化されている。なお、MgよりもFeの方がGa系単結晶中での熱拡散が小さく、チャンネル領域まで拡散してデバイス性能を低下させるおそれが少ないため、基板10へ添加されるアクセプター不純物として好ましい。なお、基板10は、Ga系単結晶に限らず、例えば、AlN、SiC、ダイヤモンド、サファイア、Si、SiO、Si(SiN)、あるいはBNのいずれかから構成されてもよい。
【0030】
ソース領域3及びドレイン領域4は、イオン注入などによりn型不純物が添加された領域である。ソース領域3及びドレイン領域4は、Ga系半導体層2に含まれるn型の領域であり、n型のGa系材料からなる領域である。ソース領域3及びドレイン領域4のドナーキャリア濃度は、例えば1×1019cm-3である。
【0031】
FET1では、Ga系半導体層2の内部の表面近傍のソース領域3とドレイン領域4との間に連続する領域が、FET1の動作時にチャネルが形成されるチャネル領域5となる。チャネル領域5は、例えばイオン注入などによりn型不純物が添加されたn-領域であり、Ga系半導体層2の意図的に添加される不純物を含まない領域が有し得るn型伝導性より強く、ソース領域3及びドレイン領域4より弱いn型伝導性を有する。
【0032】
チャネル領域5のドナーキャリア濃度は、1×1015cm-3以上1×1018cm-3以下とするとよい。チャネル領域5のドナーキャリア濃度を1×1015cm-3以上とするのは、チャネル領域5のドナーキャリア濃度を1×1015cm-3未満とすることは技術的に困難であるためである。本実施の形態では、HVPE法によりGa系半導体層2を形成することで、1×1015cm-3程度の低いドナーキャリア濃度を実現可能としており、これにより、FET1の設計を容易としている。また、チャネル領域5の深さであるチャネル深さDが10nm未満になると量子効果が表れるため、チャネル深さDは10nm以上とすることが望まれるが、チャネル深さを10nm以上とし、かつゲート閾値電圧を4.5V以上とするためには、チャネル領域5のドナーキャリア濃度を1×1018cm-3以下とする必要がある。
【0033】
さらに、チャネル領域5のドナーキャリア濃度を1×1015cm-3以上、かつゲート閾値電圧を4.5V以上とするためには、チャネル深さDを3μm以下とする必要がある。上述のように、量子効果を避けるためにはチャネル深さDを10nm以上とすることが望ましいため、チャネル深さDは、10nm以上3μm以下とするとよい。
【0034】
ゲート電極7は、例えば、Au、Al、Ti、Sn、Ge、In、Ni、Co、Pt、W、Mo、Cr、Cu、Pbなどの金属、これらの金属のうちの2つ以上を含む合金、又は高濃度のドーパントを含む半導体からなる。ソース電極8及びドレイン電極9は、ソース領域3及びドレイン領域4とオーミック接合を形成するTi/Au,In等の導電性材料からなる。
【0035】
ゲート絶縁膜6は、SiO、HfO、AlN、SiN、Al、β-(AlGa1-x(0≦x≦1)などの絶縁材料からなる。ゲート絶縁膜6の厚さ及び比誘電率を制御することで、FET1のゲート閾値電圧Vthを制御することが可能である。この点の詳細については後述する。ゲート絶縁膜6は、例えばALD(Atomic Layer Deposition)法等により形成される。
【0036】
ゲート長GLは、例えば1.0μm以上3.0μm以下である。ゲート幅GWは、例えば200μmである。ただし、ゲート長GLやゲート幅GWはこれに限らず、適宜調整可能である。
【0037】
(ノーマリオフ動作の実現とゲート閾値電圧Vthの制御)
図2に示すように、本実施の形態に係るFET1では、ゲート電極7とチャネル領域5間に、マイナス電荷からなる界面電荷11が形成されており、この界面電荷11とゲート絶縁膜6の影響(厚さ及び比誘電率)を考慮することで、4.5V以上のゲート閾値電圧Vthを実現している。以下、この点について詳細に説明する。
【0038】
ゲート電圧が0Vの時の空乏層12の深さWは、[数1]に示す式(1)で表される。この空乏層12の深さWがチャネル深さDよりも大きい関係、すなわちW>Dの関係にあれば、FET1はノーマリオフとなる。
【数1】
【0039】
式(1)中のフラットバンド電圧VFBに関しては、下式(2)が一般に用いられている。
FB=ΦMS+(Qit/Cox) ・・・(2)
式(2)中、φMSは仕事関数電位差(Ga系半導体層2の仕事関数とゲート電極7の仕事関数との差分)であり、Qitは界面電荷11における単位面積当たりの実効界面電荷、COXは単位面積当たりのゲート絶縁膜6の静電容量である。
【0040】
上述の式(2)において、φMSについては、ゲート絶縁膜6が非常に薄いとすること、及び、通常のゲートにp型を使用した場合には空乏層12がすぐに反転してn型になることから、ゲート絶縁膜6の影響を無視する傾向にある。しかし、FET1においては、空乏層12の深さWのみでゲート制御を行うため、空乏層12の静電容量に対してゲート絶縁膜6の静電容量が直列に入ることとなり、ゲート絶縁膜6の影響を無視できなくなってくる。
【0041】
例えば、界面電荷11が無くゲート絶縁膜6も無いと仮定し、ゲート電極7にNiを用いた場合、Niの仕事関数を5.2eVとし、Ga系半導体層2の仕事関数を4.0eVとすると、φMSは1.2Vとなり、これがVFBとなる。この時の空乏層12の深さは51.5nmとなるので、例えばチャネル深さDが50.0nmである場合には、ノーマリオフとなるはずである。
【0042】
しかし、例えば、厚さ20nm、比誘電率8.1(Al)のゲート絶縁膜6が存在する場合、このゲート絶縁膜6をGaの比誘電率10とした場合の等価厚さが24.7nmとなるため、等価的なGaの厚さ(チャネル深さ)は、50.0+24.7=74.7nmとなる。そのため、上述のように空乏層12の深さが51.5nmである場合、空乏層12がチャネル領域5の端点まで届かずノーマリオンとなってしまう。これは、φMSが下がったのと等価と考えることができる。以下、ゲート絶縁膜6をGaの比誘電率10とした場合の等価厚さを、等価絶縁膜厚さという。
【0043】
ここで、空乏層12の深さが等価絶縁膜厚さに届く(空乏層12の深さが等価絶縁膜厚さと等しくなる)電圧をVGAOとすると、ゲート絶縁膜6の等価絶縁膜厚さtGAOは、[数2]に示す式(3)により求めることができる。
【数2】
【0044】
式(3)を変形し、ゲート絶縁膜6をGaの比誘電率10とした場合の等価単位面積静電容量をCGAOとすると、下式(4)が得られる。
GAO=(tGAOqN)/(2CGAO) ・・・(4)
【0045】
本発明者らは、式(4)で得られるVGAOを考慮し、上述の式(2)に代えて、下式(5)を用いてフラットバンド電圧VFBを求めるようにした。
FB=ΦMS-VGAO+(Qit/Cox) ・・・(5)
式(5)より、フラットバンド電圧VFBは、ゲート絶縁膜6の影響により低下することが分かる。
【0046】
次に、界面電荷11について検討する。一般的にシリコンなどに、酸化絶縁膜を設けると、酸化絶縁膜の酸素欠損により、界面にプラス電荷が出来るとされている。本発明者らは、図1(a)においてゲート絶縁膜6とゲート電極7を省略し、チャネル深さDを50nm、120nmとしたFETを作成し試験を行った。チャネル領域5のドナーキャリア濃度は5×1017cm-3とし、ゲート長GLは3μmとした。その結果、チャネル深さDを50nmとしたFETはノーマリオフとなり、チャネル深さDを120nmとしたFETはノーマリオンとなった。チャネル深さDを50nmとしたFETでは、バリアーが出来高抵抗でありショットキーライクな特性が得られ、図3(a)に示すようなI-V特性となった。また、チャネル深さDを120nmとしたFETでは、オーミック特性が得られ図3(b)に示すようなI-V特性が得られた。なお、図3(a),(b)における横軸のゲート電圧は、チャネル領域5の上部における電圧(ゲート電極7を設ける位置での電圧)を表している。
【0047】
ここで、チャネル深さDを120nmとしたFETについて検討する。上述のように、チャネル領域5のドナーキャリア濃度は5×1017cm-3であり、ゲート長GLは3μmであるから、抵抗率ρは1/(素電荷×キャリア移動度×キャリア濃度)より、0.156Ω・cmとなり、抵抗値は19.5Ωとなる。しかし、作成したFETに実際に電流を流して抵抗値を計測したところ、抵抗値の測定結果は1140Ωであった。このことから、I-V特性はオーミックであるが、チャネルが大幅に狭くなっている事が推測できる。これは、Gaの空間表面界面(チャネル領域5の表面あるいは上部)にマイナス電荷からなる界面電荷11が存在し、それによる空乏層12が、チャネルを狭めているためと考えられる。この事から、Gaの場合、ゲート絶縁膜6による電荷よりも、Gaそのものの表面電荷(界面電荷11)がノーマリオフとその閾値の決定に関して支配的であると考えられる。
【0048】
以上の検討結果より、本実施の形態では、ゲート電極7とチャネル領域5間にマイナス電荷からなる界面電荷11が存在することを考慮し、かつ、ゲート絶縁膜6の厚さ及び比誘電率(上述のVGAO)を考慮して、ゲート閾値電圧Vthを決定するようにした。ここでは、ゲート絶縁膜6やゲート電極7を省略した状態で検討を行ったが、実際にはチャネル領域5上にゲート絶縁膜6及びゲート電極7が形成されることになる。この場合、界面電荷11は、ゲート電極7とチャネル領域5間に形成されることになる。ここでは、界面電荷11が、チャネル領域5の上部またはチャネル領域5のゲート絶縁膜6との界面に形成されるとする。ただし、これに限らず、界面電荷11は、ゲート絶縁膜6の内部またはゲート絶縁膜6のチャネル領域5との界面に形成されるとしてもよい。
【0049】
ゲート閾値電圧をVth、チャネル深さをDとすると、[数3]に示す式(6)が得られる。
【数3】
この式(6)を変形すると、下式(7)が得られる。
th=VFB-(DqN)/(2εε) ・・・(7)
なお、式(7)におけるVFBは、上述の式(5)により求める。
【0050】
このように、本実施の形態によれば、上述の式(7)を用いて、FET1のゲート閾値電圧Vthを適宜に制御することが可能である。本実施の形態では、各パラメータを調整することで、ゲート閾値電圧Vthを4.5V以上に制御する。
【0051】
なお、ゲート閾値電圧VthがFET1に供給される電源電圧より大きいと、スイッチ動作が行えなくなるため、ゲート閾値電圧Vthは、FET1に供給される電源電圧以下であるとよい。つまり、ゲート閾値電圧Vthは、4.5V以上電源電圧以下であるとよい。
【0052】
また、ゲート絶縁膜6としてAlを用いる場合、ゲート絶縁膜6の厚さは、5nm以上140nm以下とすることが望ましい。この理由については、図6を用いて後に説明する。なお、ゲート絶縁膜6としては、SiOやHfO等の他の絶縁膜を用いてもよく、この場合、当該絶縁膜の比誘電率をεs_x、Alの比誘電率をεs_aとすると、ゲート絶縁膜6の厚さは、5×(εs_x/εs_a)nm以上140×(εs_x/εs_a)nm以下とするとよい。
【0053】
(変形例)
図4に示すFET1aは、図1(a)のFET1において、チャネル領域5とドレイン領域4に接する領域のGa系半導体層2に形成されたドリフト領域13をさらに備えたものである。ドリフト領域13は、チャネル領域5とドレイン領域4に接する領域のGa系半導体層2にイオン注入などによりn型不純物を添加することで形成される。
【0054】
ドリフト領域13を備え、ゲート-ドレイン間の空乏層12を広げる事により、短ゲート効果を抑制し、ソース-ドレイン間の漏れ電流を抑えると共に、ドレインの飽和電流特性を改善し、ソース-ドレイン電流遮断時の耐圧を高めることが可能になる。なお、ドリフト領域13のドナーキャリア濃度を高めることで、ドリフト領域13の厚さDdを抑えることも可能である。
【0055】
(検証)
ゲート絶縁膜6を厚さ20nmのAlとした図1(a)のFET1と、ゲート絶縁膜6を厚さ40nmのAlとした図4のFET1aとを試作した。両FET1,1aとも、ゲート絶縁膜6はALD(原子層堆積)により形成した。ゲート電極7は、Niの上にAuを蒸着して形成し、仕事関数電位差φMSは1.2Vとした。ソース領域3及びドレイン領域4のドナーキャリア濃度は3×1019cm-3とし、チャネル領域5のドナーキャリア濃度は5×1017cm-3とし、ゲート長GLは1μm、チャネル深さDは45nmとした。また、FET1aにおけるドリフト領域13の長さDLは5μmとし、ドリフト領域13の厚さDdは105nmとした。
【0056】
試作したFET1のドレイン電流-ゲート電圧曲線の測定結果を図5(a)に示す。図5(a)より、ゲート閾値電圧Vthの測定結果は3.7Vであった。なお、ゲート閾値電圧Vthは、ドレイン電流-ゲート電圧曲線において、ドレイン電流の漸近線(図示破線)がドレイン電流ゼロの時の(ドレイン電流=0の線と交わる位置での)ゲート電圧の値である。この結果から、界面電荷11の電荷密度は8.50×1012/eVcmであることが分かった。得られた界面電荷11の電荷密度を用いて、上述の式(7)によりFET1aのゲート閾値電圧Vthを求めたところ、7.5Vであった。
【0057】
これに対して、試作したFET1aのドレイン電流-ゲート電圧曲線の測定結果は図5(b)のようになった。図5(b)より、ゲート閾値電圧Vthの測定結果は7.5Vであり、演算により求めた値(7.5V)とほぼ同じ結果が得られた。以上より、式(7)で示されるモデルの妥当性が検証できた。
【0058】
(電界効果トランジスタの設計方法)
本実施の形態に係る電界効果トランジスタの設計方法では、上述の式(7)を用いて、少なくとも、界面電荷11、ゲート絶縁膜6の厚さ及び比誘電率を考慮して、ゲート閾値電圧Vthを決定する。より詳細には、本実施の形態に係る電界効果トランジスタの設計方法では、ゲート絶縁膜6の厚さ、ゲート絶縁膜6の比誘電率、チャネル領域5のドナーキャリア濃度、及びチャネル領域5のチャネル深さの何れか1つ以上を用いて、ゲート閾値電圧Vthを制御する。
【0059】
具体的には、まず、仕事関数電位差φMSを決定すべく、ゲート電極7に用いる金属を決定するとよい。この際、上述の式(5)で示されるフラットバンド電圧VFBを大きくしておくと、ゲート閾値電圧Vthの調整が容易になるため、仕事関数の大きな金属を選択するとよい。
【0060】
単位面積当たりの実効界面電荷Qitについては、Gaは他の半導体に比べ大きいものの、ゲート絶縁膜6を設ける面によって変化する。ゲート絶縁膜6をGaの(010)面に設けた場合に界面電荷11は最大となり、電荷密度は8.50×1012/eVcmとなり、Qitは1.36×10C/cmとなる。なお、ゲート絶縁膜6をGaの(100)面に設けた場合には、Qitは半分の値となり、その間の角度では(100)面を0度、(010)面を90度として角度に比例して変化する。界面電荷11の電荷密度は、例えば、1.00×1011/eVcm以上1.00×1013/eVcm以下である。
【0061】
単位面積当たりのゲート絶縁膜6の静電容量COXを小さくすること、すなわちゲート絶縁膜6を厚くすることでも、ゲート閾値電圧Vthを上げる事ができるが、相互コンダクタンスが低下してしまうため、ゲート-ソース間の電圧に耐える厚さを選択する必要がある。その上で、ゲート閾値電圧Vthの調整は、チャネル領域のドナーキャリア濃度Nとチャネル深さDで行うことがより好ましい。特に、チャネル深さDは二乗で変化するため、効果が大きい(式(7)参照)。
【0062】
このように、ゲート絶縁膜6を設けるGaの面方位によって界面電荷11の密度は変化するが、予測が可能であり、予め試作により界面電荷11の密度を知ることができる。その上で、チャネル領域5のドナーキャリア濃度N、チャネル深さD、ゲート絶縁膜6の厚さ、ゲート絶縁膜6の比誘電率のいずれかを選択的に変えることで、所望のゲート閾値電圧Vthを実現することができる。以下、これらのパラメータを変化させた際のゲート閾値電圧Vthの変化について検討する。
【0063】
まず、ゲート絶縁膜6の材質の影響を検討するため、ゲート絶縁膜6をSiO、Al、HfOとしたそれぞれの場合について、ゲート閾値電圧Vth、最大電流、フラットバンド電圧VFB、及びドレイン電流1mA時の相互コンダクタンスgmを計算により求めた。計算では、図1(a)の構造とし、ゲート電極7は、Niの上にAuを蒸着して形成し、仕事関数電位差φMSは1.2Vとした。ソース領域3及びドレイン領域4のドナーキャリア濃度は3×1019cm-3とし、チャネル領域5のドナーキャリア濃度は5×1017cm-3とし、ゲート長GLは3μm、チャネル深さDは45nmとした。また、FeをドープしたGa系単結晶からなる基板10を用い、その基板10の(010)面上にGa系半導体層2を形成するものとした。結果を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
表1より、ゲート絶縁膜6の材質による影響は、比誘電率の違いによるゲート閾値電圧Vthとフラットバンド電圧VFBのみの変化となる。換言すれば、ゲート絶縁膜6の比誘電率により、ゲート閾値電圧Vthを制御することが可能である。SiOはゲート閾値電圧Vthが高くなるため、高いゲート閾値電圧Vthが要求されるパワーデバイス等に適している。また、デジタル回路等の低いゲート閾値電圧Vthが要求される用途においては、HfOが適しているといえる。
【0066】
次に、ゲート絶縁膜6をAlとし、ゲート絶縁膜6の厚さを変化させてゲート閾値電圧Vth等を計算により求めた。なお、他の条件等については表1と同様とした。結果を表2及び図6に示す。
【0067】
【表2】
【0068】
表2及び図6に示すように、ゲート絶縁膜6の厚さを増加させると、これに伴いゲート閾値電圧Vth及びフラットバンド電圧VFBも増加する。つまり、ゲート絶縁膜6の厚さにより、ゲート閾値電圧Vthを制御することが可能である。ただし、ゲート絶縁膜6の厚さが大きくなりすぎる(具体的には140nmより大きくなる)と、等価絶縁膜効果(ゲート絶縁膜6をGaの比誘電率10とした場合の等価厚さによる効果)が大きくなり、ゲート閾値電圧Vth及びフラットバンド電圧VFBの値は飽和(または減少)する。そのため、ゲート絶縁膜6の厚さは、5nm以上140nm以下とすることが望ましい。
【0069】
なお、フラットバンド電圧VFBについては、ディプレッション型の計算式を使用しているため、チャネル領域5の空乏層12がなくなったところまでの内容となっており、ドレイン電流は飽和することになっている。現実には、フラットバンド電圧VFBより高いゲート電圧を印加すると、n+領域(ソース領域3やドレイン領域4)から電子が引き出されチャネル領域5に集まり、チャネル領域5のドナーキャリア濃度が上昇したかのような状態となり、ドレイン電流は増加し続け、緩やかに飽和していく(蓄積効果)。この際、FET1の形状にもよるが、フラットバンド電圧VFBは1V~2Vほど高くなったように見える。
【0070】
次に、ゲート絶縁膜6を厚さ40nmのAlとし、チャネル領域5のドナーキャリア濃度を変化させてゲート閾値電圧Vth等を計算により求めた。なお、他の条件等については表1と同様とした。結果を表3に示し、ドレイン電流-ゲート電圧曲線を図7に示す。
【0071】
【表3】
【0072】
表3及び図7に示すように、チャネル領域5のドナーキャリア濃度を増加させると、これに伴いゲート閾値電圧Vth及びフラットバンド電圧VFBが減少する。すなわち、チャネル領域5のドナーキャリア濃度により、ゲート閾値電圧Vthを制御することが可能である。
【0073】
次に、ゲート絶縁膜6を厚さ40nmのAlとすると共に、チャネル領域5のドナーキャリア濃度を5×1017cm-3とし、チャネル深さD(イオン注入深さ)を変化させてゲート閾値電圧Vth等を計算により求めた。なお、他の条件等については表1と同様とした。結果を表4に示し、ドレイン電流-ゲート電圧曲線を図8に示す。
【0074】
【表4】
【0075】
表4及び図8に示すように、チャネル深さDを増加させると、これに伴いゲート閾値電圧Vthが低下する。すなわち、チャネル深さDにより、ゲート閾値電圧Vthを制御することが可能である。表4と上述の表3とを比較すると、チャネル深さDを変化させた場合は、チャネル領域5のドナーキャリア濃度を変化させた場合と比較して、フラットバンド電圧VFBに変化がないことが分かる。
【0076】
次に、ドリフト領域13を備えた図4の構造とした場合について検討を行った。ゲート絶縁膜6は、厚さ40nmのAlとした。また、チャネル領域5のドナーキャリア濃度は5×1016cm-3とした。パワーデバイスでは、ドリフト領域13のドナーキャリア濃度を低くして耐圧を確保することが多いため、その点を考慮し、ここではドリフト領域のドナーキャリア濃度を5×1017cm-3とした。ドリフト領域13の長さDLは5.1μmとした。他の条件は表1と同じとした。チャネル深さDを変化させてゲート閾値電圧Vth等を計算した結果を表5に示し、ドレイン電流-ゲート電圧曲線を図9に示す。
【0077】
【表5】
【0078】
表5及び図9に示すように、図4の構造とした場合においても、チャネル深さDの増加に伴いゲート閾値電圧Vthが低下しており、チャネル深さDにより、ゲート閾値電圧Vthを制御できることが分かる。ドリフト領域13のドナーキャリア濃度を低くすることで、図1の構造と比較してチャネル深さDを深く設定することが可能であり、特許文献1のFig.1Aのような立体構造とする場合にエッチング等の切削加工が容易になる。なお、表5において、チャネル深さDを500nmとした場合はゲート閾値電圧が負となりノーマリオンとなっているが、例えばゲート絶縁膜6を厚さ80nmのAlとすることで、ゲート閾値電圧4.28Vのノーマリオフとすることができる。
【0079】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係る電界効果トランジスタ1では、Ga系半導体を用いた電界効果トランジスタにおいて、ゲート電極7とチャネル領域5間にマイナス電荷からなる界面電荷11が形成されており、この界面電荷11と、ゲート絶縁膜6の厚さ及び比誘電率を考慮してゲート閾値電圧Vthを制御することにより、ゲート閾値電圧Vthを4.5V以上としている。
【0080】
電界効果トランジスタ1では、Ga系半導体を用いているため、高温環境下や放射線被曝環境下で使用可能である。また、電界効果トランジスタ1では、ノーマリオフ動作を実現し、パワーデバイス等に用いる際の安全性を向上できる。さらに、電界効果トランジスタ1では、現状用いられているSiやSiCを用いたパワーデバイスと同程度の4.5V以上のゲート閾値電圧Vthとすることができ、誤動作を抑制し汎用性を高めることができる。
【0081】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。例えば、上記実施の形態では、横型のFETについて説明したが、本発明は、縦型のFETにも適用可能である。
【0082】
また、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0083】
1,1a…FET(電界効果トランジスタ)、 2…Ga系半導体層、 3…ソース領域、 4…ドレイン領域、 5…チャネル領域、 6…ゲート絶縁膜、 7…ゲート電極、 8…ソース電極、 9…ドレイン電極、 10…基板、 11…界面電荷、 12…空乏層、 13…ドリフト領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9