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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】昇降機落下試験装置
(51)【国際特許分類】
   B66B 5/00 20060101AFI20240529BHJP
【FI】
B66B5/00 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020093344
(22)【出願日】2020-05-28
(65)【公開番号】P2021187602
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】390030328
【氏名又は名称】イーグルクランプ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085589
【弁理士】
【氏名又は名称】▲桑▼原 史生
(72)【発明者】
【氏名】中山 太一
(72)【発明者】
【氏名】豊岡 実
【審査官】太田 義典
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-172748(JP,A)
【文献】特開2003-215006(JP,A)
【文献】実開昭60-001791(JP,U)
【文献】米国特許第06325434(US,B1)
【文献】中国特許出願公開第109179119(CN,A)
【文献】中国実用新案第207844782(CN,U)
【文献】中国実用新案第203519317(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/00- 5/28
B66C 1/00- 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻上機に連結可能な連結部を有する本体と、
試験体の吊りピンを係止する閉じ位置と吊りピンを開放する開き位置との間で開閉可能に設けられる一対のアームと、
アームの各上端に連結されてアームの開閉に伴って開閉する一対のアームリンクと、
アームリンクの上端同士を連結して本体の長穴に沿って上下移動可能に設けられる移動ピンと、
移動ピンを長穴の下方に向けて押さえ付ける力を与えるロック位置と、移動ピンに干渉しないアンロック位置との間で移動可能に設けられる開放アームと、
開放アームに係合して開放アームをロック位置に保持する動作位置と、開放アームに干渉しない退避位置との間で移動可能に設けられる開放レバーと、
開放アームがロック位置にあるときに開放レバーを動作位置に保持して退避位置への移動を阻止するセット位置と、開放レバーの動作位置から退避位置への移動を許容する開放位置との間で移動可能に設けられるロックピンと、を備え、
開放アームがロック位置にあるときに移動ピンおよびアームリンクを介してアームが閉じ位置に保持され、開放アームがアンロック位置に移動したときにアームを開き位置に移動させることを特徴とする、昇降機落下試験装置。
【請求項2】
本体の長穴が吊り軸線に沿って上下方向に延長形成され、一対のアームおよび一対のアームリンクが吊り軸線に対して線対称に設けられることを特徴とする、請求項1記載の昇降機落下試験装置。
【請求項3】
動作位置にある開放レバーにより開放アームがロック位置に保持されている状態で、開放レバーが退避位置に移動したときに、開放アームはその自重によって自動的に且つ徐々にアンロック位置に向けて移動することを特徴とする、請求項1または2に記載の昇降機落下試験装置。
【請求項4】
開放レバーを動作位置に向けて付勢する第1のバネと、第1のバネの付勢に抗して開放レバーを動作位置から退避位置に移動させるための手動操作可能な開放補助レバーとを有することを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか記載の昇降機落下試験装置。
【請求項5】
開放補助レバーは、第1のバネの付勢を受けて開放レバーを動作位置に保持する第1の位置と、第1のバネの付勢に抗して開放レバーを動作位置から退避位置に移動させる第2の位置との間を移動可能であり、開放補助レバーを本体に対して第1の位置に保持するために抜き差しピンが設けられることを特徴とする、請求項4記載の昇降機落下試験装置。
【請求項6】
ロックピンを開放位置に向けて付勢する第2のバネと、ロックピンをロック位置と開放位置との間で移動させるロック開閉手段とを有することを特徴とする、請求項1ないし5のいずれか記載の昇降機落下試験装置。
【請求項7】
ロック開閉手段は、開放位置にあるロックピンを第2のバネの付勢に抗してロック位置に向けて移動させるロックハンドルと、ロック位置にあるロックピンに係合可能な第1の位置とロックピンに係合しない第2の位置との間を移動可能に設けられる開放板と、開放板を第1の位置に向けて付勢する第3のバネとを有することを特徴とする、請求項6記載の昇降機落下試験装置。
【請求項8】
ロックピンがロック位置にあるときに、開放板を第3のバネの付勢に抗して第1の位置から第2の位置に向けて移動させ、これによりロックピンとの係合を解除して、ロックピンを開放位置に向けて移動させるロック解除手段を有することを特徴とする、請求項1ないし7記載の昇降機落下試験装置。
【請求項9】
ロックピンが開放位置にあるときに、開放レバーを動作位置から退避位置に移動させて開放アームに対する係合を解除する落下実行手段を有することを特徴とする、請求項8記載の昇降機落下試験装置。
【請求項10】
ロックピンがセット位置にあることを検知する第1の検知手段と、ロックピンが開放位置にあることを検知する第2の検知手段とを有し、これら第1および第2の検知手段からの検知信号が制御盤に入力されることを特徴とする、請求項1ないし9のいずれか記載の昇降機落下試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は昇降機落下試験装置に関し、より詳しくは、昇降機のかごを自然落下させて各種の安全装置が正常に作動することを確認するために行う昇降機落下試験に使用する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
昇降機には、かごが降下する際に所定の速度を超えたときに制動する電磁ブレーキ、電磁ブレーキが作動してもかごの落下速度が低下しないときに強制停止させる非常止め装置、かごが昇降路の最下部まで落下したときに制動停止させる緩衝装置などを設けて安全性を確保している(特許文献1参照)。そして、このような各種の安全装置が正常に作動することを確認するために、高さ100~200mもある試験塔において、かごの重量(たとえば5~40t)と略同一重量の試験体を電気ホイストなどの巻上機で一定の高さまで吊り上げた後、試験体を落下させる試験を行う必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-121742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ビルの高層化および昇降機の高速化に伴って、このような昇降機落下試験を適切に行うことがより重要になってきているにもかかわらず、現在に至っても、昇降機落下試験装置として満足できる性能を有するものが市場に存在しないのが実情である。
【0005】
出願人は、以前に、図14および図15に示す構成の昇降機落下試験装置を作製した。この昇降機落下試験装置100は、本体101の下端にフックボルト102を介してフック103が回転自在に連結され、スプリング104にバネ付勢されたトリガー105にフック103の先端が係止されることによりフック103が閉じた状態(図14(a))に維持され、試験体80の吊りピン81(図14および図15には吊りピン81のみが示され、試験体80は図示省略されている)を本体101とフック103との間で保持する。符号112は、油圧シリンダー106や取手110などの重量とバランスを取るために本体101の反対側に取り付けられるバランスウエイトである。
【0006】
この状態で、本体101に連結したホイストなどの巻上機で巻き上げて所定の高さ位置まで試験体80を吊り上げた後、本体101に取り付けた油圧シリンダー106を作動させると、その先端でトリガー105の後端部が押されて、トリガーボルト107が本体101の横溝108内を図左方向に移動する。これによりフック103に対する係合が解除され、フック103は自重でフックボルト102を中心として図反時計方向に略半回転して吊りピン81を開放し、試験体80を落下させる。
【0007】
図14(b)は吊りピン81がフック103から外れる瞬間の状態が示されているが、このときに、試験体80の重量と同一の荷重が反力として作用するので、フック103は同図に矢印で示すように反時計方向に回転する。この落下試験装置100では、本体101の下部にダンバー109を設けると共にフック103の側方に取手110を取り付けて、吊りピン81が外れて回転するフック103の取手110をダンパー109に当てて緩衝するようにしている(図15)。
【0008】
しかしながら、この落下試験装置100においては、試験体80の全重量がフック103の一点に集中し、試験体80がフック103から外れた瞬間に該試験体の全重量に相当する反力が発生してフック103を回転させ、取手110がダンバー109に衝突することになるため、非常に大きな衝撃音が生ずる。また、試験体80がフック103から外れたときに装置全体が大きく横揺れする(図14(b)参照)。さらに、超高層ビルなどにおいて昇降機かごが大型化するにつれて試験体80の重量も大きくなり、それと同一の荷重が反力として作用することになるので、ダンパー109だけで緩衝することが困難になり、落下試験装置100を損壊させ、安全性を低下させることが懸念された。これらの理由により、この落下試験装置100を実用に供するには至らなかった。
【0009】
本出願人は各種クランプを始めとする吊り装置の専業メーカーであり、クランプに多用されているリンク機構にヒントを得て、試験体を落下させたときの衝撃に伴う反力をリンク機構によって低減させることにより装置の損壊を未然に防止し、安全性を向上させることを課題として開発を進めた結果、本発明の完成に至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本願の請求項1に係る発明は、巻上機に連結可能な連結部を有する本体と、試験体の吊りピンを係止する閉じ位置と吊りピンを開放する開き位置との間で開閉可能に設けられる一対のアームと、アームの各上端に連結されてアームの開閉に伴って開閉する一対のアームリンクと、アームリンクの上端同士を連結して本体の長穴に沿って上下移動可能に設けられる移動ピンと、移動ピンを長穴の下方に向けて押さえ付ける力を与えるロック位置と、移動ピンに干渉しないアンロック位置との間で移動可能に設けられる開放アームと、開放アームに係合して開放アームをロック位置に保持する動作位置と、開放アームに干渉しない退避位置との間で移動可能に設けられる開放レバーと、開放アームがロック位置にあるときに開放レバーを動作位置に保持して退避位置への移動を阻止するセット位置と、開放レバーの動作位置から退避位置への移動を許容する開放位置との間で移動可能に設けられるロックピンと、を備え、開放アームがロック位置にあるときに移動ピンおよびアームリンクを介してアームが閉じ位置に保持され、開放アームがアンロック位置に移動したときにアームが開き位置に移動することを許容することを特徴とする、昇降機落下試験装置である。
【0011】
本願の請求項2に係る発明は、請求項1記載の昇降機落下試験装置において、本体の長穴が吊り軸線に沿って上下方向に延長形成され、一対のアームおよび一対のアームリンクが吊り軸線に対して線対称に設けられることを特徴とする。
【0012】
本願の請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載の昇降機落下試験装置において、動作位置にある開放レバーにより開放アームがロック位置に保持されている状態で、開放レバーが退避位置に移動したときに、開放アームはその自重によって自動的且つ徐々にアンロック位置に向けて移動することを特徴とする。
【0013】
本願の請求項4に係る発明は、請求項1ないし3のいずれか記載の昇降機落下試験装置において、開放レバーを動作位置に向けて付勢する第1のバネと、第1のバネの付勢に抗して開放レバーを動作位置から退避位置に移動させるための手動操作可能な開放補助レバーとを有することを特徴とする。
【0014】
本願の請求項5に係る発明は、請求項4記載の昇降機落下試験装置において、開放補助レバーは、第1のバネの付勢を受けて開放レバーを動作位置に保持する第1の位置と、第1のバネの付勢に抗して開放レバーを動作位置から退避位置に移動させる第2の位置との間を移動可能であり、開放補助レバーを本体に対して第1の位置に保持するために抜き差しピンが設けられることを特徴とする。
【0015】
本願の請求項6に係る発明は、請求項1ないし6のいずれか記載の昇降機落下試験装置において、ロックピンを開放位置に向けて付勢する第2のバネと、ロックピンをロック位置と開放位置との間で移動させるロック開閉手段とを有することを特徴とする。
【0016】
本願の請求項7に係る発明は、請求項7記載の昇降機落下試験装置において、ロック開閉手段は、開放位置にあるロックピンを第2のバネの付勢に抗してロック位置に向けて移動させるロックハンドルと、ロック位置にあるロックピンに係合可能な第1の位置とロックピンに係合しない第2の位置との間を移動可能に設けられる開放板と、開放板を第1の位置に向けて付勢する第3のバネとを有することを特徴とする。
【0017】
本願の請求項8に係る発明は、請求項1ないし7記載の昇降機落下試験装置において、ロックピンがロック位置にあるときに、開放板を第3のバネの付勢に抗して第1の位置から第2の位置に向けて移動させ、これによりロックピンとの係合を解除して、ロックピンを開放位置に向けて移動させるロック解除手段を有することを特徴とする。
【0018】
本願の請求項9に係る発明は、請求項8記載の昇降機落下試験装置において、ロックピンが開放位置にあるときに、開放レバーを動作位置から退避位置に移動させて開放アームに対する係合を解除する落下実行手段を有することを特徴とする。
【0019】
本願の請求項10に係る発明は、請求項1ないし9のいずれか記載の昇降機落下試験装置において、ロックピンがセット位置にあることを検知する第1の検知手段と、ロックピンが開放位置にあることを検知する第2の検知手段とを有し、これら第1および第2の検知手段からの検知信号が制御盤に入力されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本願の請求項1に係る発明によれば、ロック位置にあるロックピンによって開放レバーが動作位置に保持され、これによって係合される開放アームがロック位置に保持され、これによって下方に押さえ付けられる移動ピンおよびアームリンクを介してアームが閉じ位置に保持される。したがって、試験体の吊りピンを確実に係止した状態で安全に所定の高さ位置まで吊り上げることができる。開放アームがアンロック位置に移動するとアームを閉じ位置に維持する作用は働かなくなるが、ロックピンがロック位置に止まっていて開放レバーを動作位置に保持している限り、開放アームがアンロック位置に移動することは無いので、不慮にアームが開いて試験体を落下させる恐れはない。
【0021】
また、所定の高さ位置まで吊り上げた後にアームを開いて試験体を落下させたときに、試験体の重量と同一の反力が作用してアームを更に大きく開かせようとする力が働くが、アームおよびアームリンクがパンタグラフのように伸縮し、且つ、移動ピンが長穴に沿って上方に移動することによってこの力をスムーズに吸収することができ、部材同士の衝突も発生しないので、装置の破損や大きな衝撃音の発生を防止することができる。
【0022】
本願の請求項2に係る発明によれば、試験体の解放落下時の反力を吸収する際に動作する各部材が、吊り軸線に沿って、または吊り軸線に対して線対称に設けられるので、反力は吊り軸線に沿って直上方向にのみ作用し、アームを吊り軸線から外れる方向に回転ないし揺動させることがない。したがって、アームが試験塔の側面などに衝突して破損する危険もない。
【0023】
本願の請求項3に係る発明によれば、試験体を所定の高さ位置まで吊り上げた後に落下させようとするために、開放レバーを退避位置に移動させて開放アームに対する係合を解除させたときに、開放アームはその自重によって自動的にアンロック位置に向けて移動するので、開放アームをアンロック位置に移動させるための手段を別途に設ける必要がない。また、開放レバーを退避位置に移動させて開放アームに対する係合を解除させても、開放アームは直ちにアンロック位置に移動することなく、徐々に移動していくので、開放レバーを動作位置から退避位置に移動させる操作を行った後も、若干のタイムラグを置いてアームが開くことになり、より一層の安全性を確保することができる。
【0024】
本願の請求項4に係る発明によれば、開放レバーは常に第1のバネにより動作位置に向けて移動付勢されているが、開放補助レバーの手動操作により開放レバーを退避位置に移動させて開放アームに対する係合を解除させることができる。開放レバーが退避位置に移動して開放アームに対する係合が解除されると、開放アームは自重でアンロック位置に移動してアームを開かせるので、これにより、試験体の吊りピンを挟持して試験体を吊り上げるための準備が整う。
【0025】
本願の請求項5に係る発明によれば、抜き差しピンを装着しておくことにより開放レバーを動作位置に保持することができると共に、アームを開いて試験体を落下させるときには、抜き差しピンを引き抜いた上で開放補助レバーを操作する必要があり、安全性がさらに向上する。
【0026】
本願の請求項6に係る発明によれば、ロックピンは第2のバネにより常に開放位置に向けて移動付勢されているが、装置の状態や実行すべき動作などに応じて、ロック開閉手段によりロックピンをロック位置と開放位置との間で移動させることができる。
【0027】
本願の請求項7に係る発明によれば、ロック開閉手段についての好適な一態様が提供される。ロックピンは、開放板が第1の位置にあってロックピンと係合するときにロック位置に保持されるが、この位置から開放板が第2の位置に移動するとロックピンとの係合が外れ、ロックピンは第2のバネの付勢を受けて開放位置に移動する。開放位置にあるロックピンをロック位置に移動させるときは、ロックハンドルを第2のバネの付勢に抗して移動させ、開放板がロックピンに係合可能な位置に到達したときに開放板が第3のバネの付勢を受けて第1の位置に移動し、ロックピンに係合してロックピンがロック位置に保持される。すなわち、アームを閉じた状態にして試験体を吊り上げるときには、必ずロックハンドルを操作してロックピンをロック位置に移動させる必要があるので、安全性がさらに向上する。
【0028】
本願の請求項8に係る発明によれば、アームで吊りピンを係止して試験体を所定の高さ位置まで吊り上げて落下の準備が整ったときに、操作盤に設けたロックピン開放釦などを押すことによりロック解除手段を作動させて、ロックピンをロック位置から開放位置に移動させることができる。このとき、開放レバーは第一のバネの付勢によって動作位置に止まって開放アームとの係合を維持するので、直ちにアームを開いて試験体を落下させることはない。
【0029】
本願の請求項9に係る発明によれば、ロックピンを開放位置にあることが確認された場合にのみ、落下実行手段が作動してアーム開放により試験体を落下させるので、試験体を落下させるためには、少なくとも、ロック解除手段を作動させた後に落下実行手段を作動させる必要があり、二重の操作により安全性をさらに高めることができる。
【0030】
本願の請求項10に係る発明によれば、ロックピンのロック位置/開放位置が検知手段によって検知され、その検知信号が制御盤に入力されるので、ロックピンの位置を正確に把握した上で開放レバーなどの動作(位置移動)を制御することができ、安全性がさらに向上する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の一実施形態によるドロップフック(昇降機落下試験装置)の斜視図である。
図2】このドロップフックの正面図である。
図3】このドロップフックの側面図である。
図4】このドロップフックの要部拡大正面図である。
図5】このドロップフックにおけるロックピン動作機構部の拡大断面図であり、(a)はロックピンのセット位置、(b)はロックピンが開放位置にある各状態を示す。
図6】このドロップフックにおけるロックピン開放機構部の拡大正面図である。
図7】ロックピン動作機構部の開放レバーをドロップフックから取り外した状態で示す平面図である。
図8】開放補助レバーおよび開放補助レバーガイドに関連する部材をドロップフックから取り外した状態で示す平面図である。
図9】ロックピン動作機構部の開放板をドロップフックから取り外した状態で示す平面図である。
図10】このドロップフックにおける操作盤の説明図である。
図11】このドロップフックを用いて昇降機の落下試験を行う場合において、試験体の吊りピンの直上位置にアームを吊り下ろしたときの状態を示す説明図(a)、および、さらにアームを吊り下ろしてアームが吊りピンに当接したときの状態を示す説明図(b)である。
図12図11(b)の状態からさらにアームを吊り下ろしてアームが開き始めたときの状態を示す説明図(c)、および、さらにアームを吊り下ろすことによりアームが閉じて吊りピンを挟み込むようにして係止したときの状態を示す説明図(d)である。
図13図12(d)の状態で所定の高さ位置まで吊り上げた後に試験体を落下させるためにアームを開いた直後の状態を示す説明図(e)、および、この状態の後にアームおよびリンク機構が反力で伸び上がった状態を示す説明図(f)である。
図14】出願人が以前に作製した落下試験装置を用いて昇降機の落下試験を行う場合において、試験体の吊りピンをフックで係止して試験体を吊り上げているときの状態を示す説明図(a)、および、この状態で所定の高さ位置まで吊り上げた後に試験体を落下させるためにフックを開いた直後の状態を示す説明図(b)である。
図15図14(b)の状態の後にフックが反力で回転したときの状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1図3は、本発明の一実施形態による昇降機落下試験装置(以下「ドロップフック」と称する。)の全体構成を示す。このドロップフック10は、所定間隔を隔てて平行に保持された一対の本体板からなる本体11を有し、その上端には接続ピン12を介して一対の板部材からなる接続金具13が回動自在に連結されている。接続金具13の上端には主吊りピン14が架け渡され、この主吊りピン14を、試験塔(図示せず)に設けた巻上機(図示せず)に連結して使用される。
【0033】
本体11の下部には、昇降機のかご重量に応じた重量を有する試験体80の吊りピン81(いずれも図11図12に示す)を挿入可能な開口部15が形成され、この開口部に挿入された吊りピン81を両側から挟み込むようにして係止可能なアーム16を有する。アーム16は正面視で略S字形および略逆S字形を有する一対のアーム部材からなり、下記するリンク機構を介して、本体11に設けたアームボルト17を回転軸として、吊りピン81を係止する閉じ位置(図2に実線および点線で示す)と、吊りピン81を開放する開き位置(図2で仮想線で示す)との間で開閉可能に設けられている。また、本体11の下部には、不使用時にドロップフック10を試験塔の底面などに自立させるために、一対の自立脚43が固定されている。
【0034】
アーム16の一対のアーム部材の各上端は、アームリンクボルト18を介してアームリンク19に連結され、アームリンク19の上端同士は連結プレート20の下部ボルト21に連結されている。連結プレート20は本体11の一対の本体板の各外側に配置された一対の連結プレート部材からなり、下部ボルト21は、本体11の吊り軸線に沿って所定長さ延長形成された長穴23を通って、その両端で連結プレート20に固定されている。連結プレート20の上部ボルト22も同様に長穴23を通ってその両端で連結プレート20に連結されているが、本体11の一対の本体板の間に配置されたローラー24の内部に収容されている。したがって、長穴23を通る下部ボルト21および上部ボルト22を一体に有する連結プレート20は、所定の範囲内で長穴23に沿って上下動可能であり、その上方位置にあるときにアーム16は開き位置を取り、下方位置にあるときにアーム16は閉じ位置を取る。図1図3はいずれもアーム16が閉じ位置にある状態を示しており、図2(およびその要部拡大図である図4)においては、アーム16が閉じ位置にあるときの各部が実線(および点線)で示され、アーム16が開き位置にあるときの各部が仮想線で示されている。
【0035】
連結プレート20の上下動(したがってアーム16の開閉)は開放アーム25によって操作ないし制御される。開放アーム25は全体が鈍角に折れ曲がった形状を有しており、本体11の一対の本体板の間に架け渡された軸ピン26を中心として、アーム16を閉じ位置に保持するときのロック位置(実線)と、アーム16を開き位置に移動可能にするときのアンロック位置(仮想線)との間で回動可能である。開放アーム25の本体11側方に突出する端部には、開放アーム25をアンロック位置からロック位置に移動(図4反時計方向回転)させる際に指を掛けるための操作棒27が、図4紙面鉛直方向に延長して形成されている。
【0036】
より詳しく説明すると、開放アーム25は、後述する開放レバー30が動作位置(実線)にあって係合ピン31が開放アーム25の先端部28に係合しているときにロック位置(実線)にロックされ、連結プレート20および上部ボルト22と一緒に上下動するローラー24の外周を上から押さえ付けることにより、連結プレート20を下方位置(したがってアーム16を閉じ位置)に保持する。開放レバー30が退避位置(仮想線)に移動して係合ピン31による係合が解除されると、開放アーム25は自重(操作棒27の重量を含む。以下も同じ。)によって徐々に軸ピン26を中心として図4時計方向に回転してアンロック位置(仮想線)に移動するので、ローラー24を押さえ付ける力が消失し、連結プレート20が上方位置(したがってアーム16が開き位置)に移動することが可能となる。この開閉制御に関する機構および動作について、さらに図4を参照して詳述する。
【0037】
開放レバー30(図7)は、軸ピン穴30cを通って本体11の一対の本体板の間に架け渡された軸ピン29を中心として、動作位置(実線)と退避位置(仮想線)との間で回動可能であるが、引きバネ32によって常に図4時計方向に回転(退避位置から動作位置に向けて移動)するように付勢されている。上述したように、開放レバー30が動作位置(実線)にあるとき、その長さの略中間部に設けられたピン穴30dを通る係合ピン31が、開放アーム25の先端部28に係合して、開放アーム25をロック位置(実線)に保持し、アンロック位置(仮想線)への移動を阻止するが、開放レバー30が退避位置(仮想線)に移動すると、係合ピン31による係合が解除されるので、開放アーム25がアンロック位置(仮想線)に移動することが可能になる。
【0038】
開放レバー30を手動操作によって動作位置(実線)と退避位置(仮想線)との間で移動させるために、開放補助レバーガイド33およびその一端に回転可能に連結された開放補助レバー34が設けられている。開放補助レバー34(図8)は略L字形に形成され、本体11の一対の本体板の間に架け渡された軸ピン35(軸ピン穴34aを通る)を中心として回転可能であるが、本体11の抜き差しピン穴(図示せず)に通して抜き差しピン36を装着したときに、図4に実線で示される位置に固定され、抜き差しピン36を外したときに、開放補助レバー34は該実線位置から同図時計方向に回転して仮想線で示される位置に移動する。符号37は、抜き差しピン36を外した時に開放補助レバー34が実線位置より同図反時計方向に回転することを防ぐために、開放補助レバー34の長辺外側面に当接する回転止めである。
【0039】
開放補助レバーガイド33(図8)は長尺板状部材であり、その一端が開放補助レバー34の短辺先端に軸ピン34bで連結され、他端近くに長穴33aが形成されている。本体11の一対の本体板の間に架け渡したストッパーボルト58が長穴33a内にスライド移動可能に収容されているので、開放補助レバー34の回転(実線位置/仮想線位置)に応じて開放補助レバーガイド33が長穴33aに沿って移動する。開放補助レバーガイド33の先端にはローラー59(図8)が回転自在に軸支され、開放補助レバー34が実線位置から仮想線位置に移動したときに、開放レバー30の上端30aがこのローラー59によって押されることにより、開放レバー30が軸ピン29を中心として図4反時計方向に回転して、動作位置(実線)から退避位置(仮想線)に移動する。これによって、開放レバー30の係合ピン31が開放アーム先端部28から外れるので、開放アーム25がロック位置(実線)からアンロック位置(仮想線)に移動させる手動操作が可能になる。
【0040】
開放レバー30を動作位置(実線)に保持(したがって開放アーム25をロック位置に、アーム16を閉じ位置に保持)して退避位置(仮想線)への移動を確実に阻止するために、ロックピン38が設けられる。このロックピン38に関連する機構および動作について、さらに図5および図6を参照して説明する。
【0041】
ロックピン38は、本体11の一方の本体板に取り付けたロックピン保持体39a、開放板40およびロックピンケース41の内径部に収容されて本体板間の内部空間42には実質的に突出しない開放位置(図5(b))と、内部空間42を通って他方の本体板に取り付けたロックピン保持体39bの内径部に収容されるセット位置(図5(a))との間で移動可能である。ロックピン38が図5(a)のセット位置にあるとき、開放レバー30は動作位置(図4実線)に保持され、退避位置(図4仮想線)への移動を阻止されるので、開放アーム25がロック位置に、したがってアーム16が閉じ位置に確実に保持され、アーム16が不慮に開いてしまうことを防止することができる。
【0042】
開放板40(図9)は、ロックピン38が通過する内部空間40aを有する中間部40bと、上方に突出する上方部40cと、下方に突出する下方部40dとを有して一体に形成されている。内部空間40aの下辺部には、ロックピン38の軸部38aと係合可能な係合凹部40eが凹設されている。上方部40cの上端には、レバー板52と連結する連結ピン60を通すピン穴40fが形成されている。下方部40dには、開放板40を手で引き下げる際に使用する穴40gが形成されている。
【0043】
ロックピン38の後端近くには環状の溝部38aが形成されており、ロックピン28は、この溝部38aに開放板40の係合凹部40e(図9)が嵌まり込むことによって図5(a)のセット位置に保持される。開放板40はバネ48によって常に上方に付勢されており、したがって、ロックピン38が図5(a)の軸方向位置になったときに、バネ48の付勢を受けて溝部38aが自動的に係合凹部40aに嵌まり込むように形成されている。
【0044】
ロックピン38の開放位置からセット位置への移動は、ロックハンドル45を本体11側に押し込む手動操作によって行うことができる。ロックハンドル45は、ロックピン38の後端を貫通する穴(符号なし)を通り、さらにロックピンケース41の側面に対向形成したスライド穴46を通って、ロックピンケース41の両側から外方に突出し、その両端には緩衝用のゴムボール47が被着されている。ロックピンケース41内に配置した押しバネ44の付勢に抗して、ロックハンドル45を本体11側に押し込んでいくと、ロックピン38が図5(b)の開放位置から同図右方向に移動し、上記したように、図5(a)の位置に到達したときに開放板40がバネ48の付勢を受けて上昇して溝部38aに入り込んで、図5(a)のセット位置を取る。セット確認リミットスイッチ49は、ロックピン38がセット位置にあることを検知して検知信号を送出する。ロックピン38は、下記のようにして開放板40を手動で引き下げる操作またはロック解除用リニアアクチュエーターONによるロック解除操作のいずれかが行われない限り、セット位置に保持される。
【0045】
すなわち、開放板40をバネ48の付勢に抗して引き下げることにより、開放板40が溝部38aから離脱し、押しバネ44の付勢を受けてロックピン38が図左方向に移動して、図5(b)の開放位置に移行する。また、後述するロックピン開放釦75を押してロック解除リニアアクチュエーター50がONにされると、押しピン51がレバー板52を押し下げ、これによって連結ピン60(ピン穴40fを通る)でレバー板52に連結されている開放板40がバネ48の付勢に抗して下方に移動するので、同様にして、図5(b)の開放位置に移動する。開放確認リミットスイッチ53は、ロックピン33が開放位置にあることを検知して検知信号を送出する。ロックピン38は、既述したロックハンドル45の本体11側への押し込み操作が行われない限り、押しバネ44の付勢を受けて開放位置に保持される。
【0046】
ロックピン38が開放位置(図5(b))にある状態において、開放レバー30の動作位置(図4実線)/退避位置(図4仮想線)の切替制御は、本体11の正面視一方側に取り付けたギヤードモーター付ジャッキ54によって行われる。開放レバー30の下端30bは、ギヤードモーター付ジャッキ54の昇降シリンダー55の下端に固着した押圧板56に連結され、昇降シリンダー55が上昇位置にあるとき(図4実線)には、開放レバー30は動作位置に止まるが、昇降シリンダー55が下降位置にあるとき(図4仮想線)は、開放レバー30の下端30bが押圧板56に押され、開放レバー30を軸ピン29を中心として図4反時計方向に回転させるので、退避位置(図4仮想線)に移動させる。これにより、係合ピン31による係合が解除されるので、開放アーム25がロック位置(実線)からアンロック位置(仮想線)に向けて移動可能となる。なお、本体11の正面視他方側には、試験体80を吊り下げたときに吊り軸線を鉛直線上に維持するために、ギヤードモーター付ジャッキ54の重量に応じたバランスウエイト57が取り付けられている。
【0047】
また、本体11の一方の本体板の外側には制御盤61が取り付けられている。ケーブル62の先端のプラグ63をコンセントに接続することにより制御盤61に電源が供給され、また、プラグ64を接続することによりケーブル65を介してリミットスイッチ49,53などからの検知信号が入力されるようになっている。制御盤61は、これらの検知信号に基づいてドロップフック10の状態(ロックピン38の位置など)を把握し、また、スイッチ74や各種釦75~78の操作に応答して、ロック解除リニアアクチュエーター50やギヤードモーター付ジャッキ54などのドロップフック10の各部の動作を制御する。本体11の他方の本体板の外側には、試験体80を吊り下げたときに吊り軸線を鉛直線上に維持するために、制御盤61の重量に応じたバランスウエイト66が取り付けられている。
【0048】
以上のように構成されたドロップフック10を用いて試験体80について落下試験を行う際の操作手順ないし動作について、特に図11および図12を参照して説明する。なお、この操作開始時において、ドロップフック10の各部は実線(および点線)で示される位置にあり、ロックピン38は図5(a)のセット位置にある。
【0049】
この状態から、開放板40をバネ48の付勢に抗して引き下げることにより、開放板40がロックピン38の溝38aから離脱するので、押しバネ44の付勢を受けてロックピン35が図5左方向に移動して、図5(b)の開放位置となる。
【0050】
次いで、本体11に装着されている抜き差しピン36を引き抜くと、開放補助レバー34が軸ピン35を中心として図4時計方向に回転可能になるので、長辺部を手で持って同図仮想線位置まで引き下げる。これにより、開放補助レバーガイド33が図4実線位置から仮想線位置に移動して、開放レバー30の上端30aを押すので、開放レバー30が軸ピン29を中心として同図反時計方向に回転し、開放レバー30が動作位置(実線)から退避位置(仮想線)に移動する。そうすると、開放レバー30の係合ピン31と開放アーム先端部28との係合が外れるので、開放アーム25は自重で軸ピン26を中心として同図時計方向に回転し、ロック位置(実線)からアンロック位置(仮想線)に移動する。開放アーム25がアンロック位置に移動することにより、連結プレート20を下方に押し下げる力は働かなくなるが、下部ボルト21および上部ボルト22を備える連結プレート20やアームリンク19、アームリンクボルト18、アームボルト17およびアーム16などの自重により、アーム16はこの時点では閉じた状態に止まっている。
【0051】
なお、開放アーム25がアンロック位置に移動したことを確認した後であれば、開放補助レバー34から手を放しても良い。開放補助レバー34から手を離すと、引きバネ32の付勢を受けて、開放補助レバー34、開放補助レバーガイド33および開放レバー30がそれぞれ実線位置に復帰することになるが、開放アーム25がアンロック位置に止まっている限り、開放レバー30がいかなる位置にあっても、係合ピン31は開放アーム先端部28に干渉しない。
【0052】
ドロップフック10を上記のようにセットし、主吊りピン14に電気ホイストなどの巻上機のフック(いずれも図示せず)を係止した状態で、ドロップフック10を試験体80の直上まで巻上機で吊り下ろし、試験体80の吊りピン81とドロップフック10の吊り軸線が鉛直線上に合致するように位置合わせする(図11(a))。
【0053】
開放アーム25がアンロック位置(仮想線)にあることを確認し、さらに巻上機を静かに丁寧に操作して、ドロップフック10のアーム16を試験体80の吊りピン81と接触させる(図11(b))。そうすると、ドロップフック10の全重量が吊りピン81に作用することになるので、アーム16が開いて吊りピン81を抱え込む状態となり(図12(c))、さらに吊り下ろすことにより、アーム16が最大に開いて吊りピン81を収容した後に自重によって自動的に閉じて、図12(d)に示すように吊りピン81を係止した状態が得られる。
【0054】
図12(d)の状態が得られたことを確認した後、開放アーム25の先端に取り付けた操作棒27を両手で持ってアンロック位置(図4仮想線)からロック位置(図4実線)に移動させ、同位置に保持したまま、開放補助レバー34を引き上げることにより、開放補助レバーガイド33を介して開放レバー30を動作位置(図4実線)に移動させて、係合ピン31を開放アーム先端部28に係合させる。これにより、開放アーム25がロック位置(図4実線)にロックされるので、アーム16を閉じ位置にロックし、アーム16が不慮に開いて試験体80を落下させてしまうリスクを完全に排除することができる。開放アーム25がロック位置(実線)にロックされたことを確認した後、抜き差しピン36を挿入して、開放補助レバー34を実線位置に保持する。
【0055】
さらに、ロックハンドル45を両手で持って本体11側に押し込むことにより、押しバネ44の付勢に抗してスライド穴46に沿ってスライド移動させて、ロックピン38を図5(b)の開放位置から図5(a)のロック位置に移動させる。既述したように、ロックピン38が図5(a)の位置まで押し込まれると、開放板40がバネ48の付勢を受けて上昇し、係合凹部40aに溝部38aが嵌まり込むので、ロックピン38が同位置に保持され、開放レバー30を動作位置(実線)に維持する。すなわち、開放レバー30は、上記のようにしてロック位置に保持されるロックピン38によって動作位置(実線)から退避位置(仮想線)への移動が阻止されると共に、抜き差しピン36が開放補助レバー34にセットされたときに開放補助レバーガイド33および引きバネ32を介して退避位置(仮想線)から動作位置(実線)に向けて移動付勢されることによっても開放レバー30が動作位置(実線)に保持されており、これら二重の安全機構によってアーム16を閉じ位置に保持し、試験体80の落下を確実に防止する。
【0056】
このようにして閉じ位置にロックされたアーム16で試験体80の吊りピン81を確実に挟み込んで連結した状態で、巻上機を操作して、試験体80を落下させる所定の高さ位置まで吊り上げて停止させた後、操作盤61から出ているケーブル62の先端のプラグ63をコンセントに接続する。そうすると、一時側電源ONを示す表示灯67が点灯するので、次いで、スイッチ74をONにすると、落下フック電源表示灯68およびロックセット表示灯70が点灯する。ロックセット表示灯70は、セット確認リミットスイッチ49からの検知信号に基づいて、ロックピン38がセット位置(図5(a))にあるときに点灯するものであり、このときには既述したようにロックピン38のセットが完了しているので、正常であればスイッチ74のONと同時に点灯する。万一点灯しないときは、ロックピン38がセットされていることを再確認する必要がある。落下フック電源表示灯68は、ジャッキ54が待機状態にあるときに点灯する。
【0057】
以上で試験体80を落下させる準備が整う、この準備段階においては、ロックハンドル45を引き下げ、抜き差しピン36を引き抜いて開放補助レバー34を引き下げ、開放アーム25をロック位置に移動・保持し、開放補助レバー34を引き上げて抜き差しピン36をセットし、ロックハンドル45を押し込むという一連の手動操作が要求され、各部材はバネ32,44,48などによって機械的に所定の位置(実線)に確実に保持される。すなわち、遠隔操作による自動セットアップを排除することにより、電気的・電子的トラブルによる事故(吊り上げ中にアーム16が開いてしまうことによる試験体80の落下事故)を未然に防止することができる。
【0058】
ここでロックピン開放釦75を押すと、ロック解除アクチュエーター50が作動し、押しピン51でレバー板52を押し下げ、開放板40を下降させるので、ロックピン38の溝部38aとの係合が外れ、ロックピン38は押しバネ44に押されて図5左方向に移動して、図5(a)のセット位置から図5(b)の開放位置に移動する。開放確認リミットスイッチ53からの検知信号を受けてロックピン38が開放位置に移動したことが確認されると、ロックセット表示灯70が消灯し、代わりにロック開放表示灯71が点灯する。これにより、セット位置にあるときのロックピン38によって開放レバー30を動作位置(図4実線)に強制的に保持する働きは無くなるが、引きバネ32の付勢によって開放レバー30は依然として動作位置(図4実線)に止まるので、開放アーム25もロック位置(図4実線)に維持され、この時点でアーム16を開かせることは無い。
【0059】
この状態で、落下開始釦76を押すと、ジャッキ54の昇降シリンダー55が下降し、その先端に固着した押圧板56によって開放レバー30の下端30bが押されるので、開放レバー30が軸ピン29を中心として図4反時計方向に回転して、動作位置(図4実線)から退避位置(図4仮想線)に移動する。これにより係合ピン31が開放アーム先端部28から外れるので、開放アーム25は自重によって徐々にアンロック位置(図4仮想線)に向けて移動(図4時計方向回転)していくにつれて、開放アーム25が連結プレート20の下部ピン21を押さえ付けていた力が消失し、アームリンク19を介してアーム16が開いて吊りピン81が外れ、試験体80を落下させる(図13(e))。
【0060】
落下開始釦76を押してから試験体80が落下し始めるまでの時間は、安全確保の時間を考慮して、たとえば20~30秒程度に設定することが好ましい。設計の一例として、落下開始釦76が押されたときに落下開始表示灯72を点灯させ、1秒ごとに作動時間を表示窓79にデジタル表示し、12秒経過後に落下直前表示灯73を点灯させるようにすることができる。落下開始表示灯72の点灯後、落下直前表示灯73が点灯する前の12秒間の間に落下作業を停止させる必要が生じたときには、一時停止釦77を押すことによりジャッキ54を一時停止させることができる。このときは、落下開始釦76を押したことによって始動した動作はリセットされ、再度落下開始釦76を押すことにより落下作業を再開させることができる。
【0061】
また、落下直前表示灯73が点灯した後であっても、非常停止釦78を押せば一時側電源がシャットオフされるので、ジャッキ54を非常停止させることができるが、間に合わずに試験体80を落下させてしまう可能性があるので非常に危険であり、緊急時以外は使用を控えるのが良い。非常停止釦78が押されたときは、回路が遮断されて以降の操作ができなくなるので、スイッチ74をOFFにして、一旦巻上機を巻き下げて、最初から操作をやり直す必要がある。符号69はドロップフック10の異常動作時や異常操作時に点灯する異常警告表示灯であり、これが点灯したときは直ちに試験を中止して、修理または点検を行う。
【0062】
出願人が以前に作製した落下試験装置100について図14および図15を参照して既述したように、このドロップフック10においても、アーム16を開いて吊りピン81を開放し、試験体80を落下させたときに、試験体80の重量と略同一重量の反力がアーム16に作用する。この反力はアーム16をさらに大きく開かせようとする力として作用するが、アーム16がアームボルト17を中心として開き方向に回転すると、アーム16の上端にアームリンクボルト18で回転自在に連結されているアームリンク19が閉じていき、アームリンク19の各上端に回転自在に連結されている下部ボルト21が連結プレート20と共に長穴23に沿って上昇する。すなわち、落下開放時に反力がアーム16に作用したときに、アーム16およびこれに連動するアームリンク19がパンタグラフのように伸縮し、最終的には連結プレート20の上方移動によって反力を吸収する(図13(f)。
【0063】
既述したように、落下開始釦76を押して開放レバー30が動作位置(図4実線)から退避位置(図4仮想線)に移動することにより、開放アーム25は自重でアンロック位置(図4仮想線)に向けて徐々に移動していくので、アーム16が開いて試験体80を落下させるときには既に開放アーム25はアンロック位置に到達している。したがって、試験体80の落下開放により反力が生じたときに、連結プレート20と共に上部ボルト21が長穴23内の最上方位置まで上昇しても、開放アーム25には衝突しない(図4参照)。すなわち、このときに部材間の衝突は全く起きないので、出願人が以前に作製した落下試験装置100のようにダンバー109に衝突させて衝撃吸収させる構成とは異なり、大きな衝撃音は発生しない。また、アーム16およびアームリンク19はいずれも鉛直線上となる吊り軸線に対して線対称に配置され、下部ボルト21の移動経路となる長穴23も該吊り軸線上に延長するように形成されているので、反力は吊り軸線に沿って直上方向にのみ作用し、アーム16を吊り軸線から外れる方向に回転ないし揺動させることがないので、試験塔の側面などに衝突して破損する危険もない。
【0064】
本発明は既述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載される発明の範囲内において様々な実施形態を取ることができる。
【符号の説明】
【0065】
10 ドロップフック(昇降機落下試験装置)
11 本体
12 接続ピン
13 接続金具
14 主吊りピン(連結部)
15 開口部
16 アーム
17 アームボルト
18 アームリンクボルト
19 アームリンク
20 連結プレート
21 下部ボルト(移動ピン)
22 上部ボルト
23 長穴
24 ローラー
25 開放アーム
26 軸ピン
27 操作棒
28 開放アーム先端部
29 軸ピン
30 開放レバー
31 係合ピン
32 引きバネ(第1のバネ)
33 開放補助レバーガイド
34 開放補助レバー
35 軸ピン
36 抜き差しピン
37 回転止め
38 ロックピン
38a 溝
39a,39b ロックピン保持体
40 開放板(ロック開閉手段)
41 ロックピンケース
42 本体内部空間
43 自立脚
44 押しバネ(第2のバネ)
45 ロックハンドル(ロック開閉手段)
46 スライド穴
47 ゴムボール
48 開放バネ(第3のバネ)
49 セット確認リミットスイッチ(第1の検知手段)
50 ロック解除リニアアクチュエーター(ロック解除手段)
51 押しピン
52 レバー板
53 開放確認リミットスイッチ(第2の検知手段)
54 ギヤードモーター付ジャッキ(落下実行手段)
55 昇降シリンダー
56 押圧板
57 バランスウエイト
58 ストッパーボルト
59 ローラー
60 ピン
61 制御盤
62 ケーブル
63 プラグ
64 ケーブル
65 プラグ
66 バランスウエイト
67 一時側電源表示灯
68 落下フック電源表示灯
69 異常警告表示灯
70 ロックセット表示灯
71 ロック開放表示灯
72 落下開始表示灯
73 落下直前表示灯
74 スイッチ
75 ロックピン開放釦
76 落下開始釦
77 一時停止釦
78 非常停止釦
79 作動時間表示窓
80 試験体
81 吊りピン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15