(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】家畜における精子機能改善剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/197 20060101AFI20240529BHJP
A61P 15/08 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
A61K31/197
A61P15/08
(21)【出願番号】P 2020559156
(86)(22)【出願日】2019-12-02
(86)【国際出願番号】 JP2019046930
(87)【国際公開番号】W WO2020116361
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2022-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2018226611
(32)【優先日】2018-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】517198735
【氏名又は名称】KIYAN PHARMA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】吉本 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】谷口 慎
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/139156(WO,A1)
【文献】特開2016-037473(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102014890(CN,A)
【文献】濱田雄行,造精機能障害を有する男性不妊における5 アミノレブリン酸(5 Amino Levulinic Aci,日本生殖医学会雑誌,2017年,Vol.62, No.4,p.208, Abstract No.O-132
【文献】TAPEH, R.S., et al.,Effects of guanidinoacetic acid diet supplementation on semen quality and fertility of broiler breed,Theriogenology,2017年,Vol.89,p.178-182
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61P 15/00
A61P 43/00
A23K 10/00-40/35
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
5-アミノレブリン酸又はその塩を含有する、家畜における
奇形精子率の減少剤。
【請求項2】
家畜が雄牛又は雄鶏であることを特徴とする、請求項
1記載の
奇形精子率の減少剤。
【請求項3】
精子の形態の正常率が5%未満の
家畜に投与することを特徴とする請求項
1記載の
奇形精子率の減少剤。
【請求項4】
90日間投与可能であることを特徴とする請求項
1記載の
奇形精子率の減少剤。
【請求項5】
精子の形態の正常率が80%未満の
家畜に投与することを特徴とする請求項
1記載の
奇形精子率の減少剤。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか記載の
奇形精子率の減少剤を添加した
奇形精子率の減少のための家畜用飼料。
【請求項7】
請求項1~
5のいずれか記載の
奇形精子率の減少剤を、家畜の雄に経口投与することを特徴とする
精子の奇形率を減少させるための方法。
【請求項8】
請求項1~
5のいずれか記載の
奇形精子率の減少剤を、体重1kgあたり、アミノレブリン酸換算で0.01~1.5mg/日を経口投与することを特徴とする請求項
7記載の精子の
奇形率を減少させるための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家畜における精子機能改善剤に関し、さらに詳しくは、5-アミノレブリン酸(5-ALA)若しくはその誘導体又はそれらの塩を含む、家畜における精子機能改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
優れた精肉を生産するために、肉質的に優れた形質を有し、かつ健康で増体の良い血統の子牛が、肉牛として飼養されている。しかしながら、最近日本では、受胎率の低下が報告されており、肉牛においては20年間で約10%、乳牛においては20年間で約20%低下したという報告(例えば、非特許文献1参照)もある。
【0003】
特定の血統を有する牛由来の人工授精用精液が全国規模で繁殖に利用されており、交配や人工授精に供する牛については、疾患の有無や繁殖機能の障害の有無について確認するため、家畜改良増殖法により種畜検査が義務づけられ、対象の牛の血液や精液が採取される。採取された精子については、精子奇形率等の検査が行われるが、優れた血統を有する牛の精子であって、精液量に問題がない場合においても、精子が奇形である割合が増加しているとされる。
【0004】
牛における奇形精子症の原因は未だ明確にはなっていない。例えば、ヒト男性の場合beta-estradiol 3-benzoate等のエストロジェン作用を持つ化合物を投与することによって、精子細胞の奇形や上皮からのはく離が起こること(例えば、非特許文献2参照)等、精巣毒性による障害例が報告されているが、雄牛においても同じ理由であるかどうかについての検討はほとんどなされていない。
【0005】
一方、鶏においても、1960年代より、飼料効率増進を目的とした検討において人工授精について関心が高まっていた(例えば、非特許文献3参照)。最近は、コクや旨味を特徴とする銘柄地鶏の作出、増産も進められており、人工授精の効率的な方法についての検討が行われ、精子の冷凍方法や解凍方法や精液希釈によるふ化率等への影響が報告されている(例えば、非特許文献4参照)。
【0006】
他方、5-アミノレブリン酸(5-ALA)は、動物や植物や菌類に広く存在するテトラピロール生合成経路の中間体として知られており、動物ではアミノレブリン酸合成酵素により、スクシニルCoAとグリシンから生合成され、植物ではグルタミン酸から三段階の酵素反応により生合成される。ALA合成からプロトポルフィリンIXに至る反応は、ヘムの合成系と共有されており、すなわち、プロトポルフィリンIXはクロロフィルとヘム合成の共通の基質であり、Fe2+が配位するとヘムが作られる一方、Mg2+が配位するとMg-ProtoIXが合成され、その後クロロフィル合成経路へと進む。
【0007】
5-ALAが、豚の成育を促進する旨の報告(例えば、特許文献1参照)がされている。また、哺乳動物を対象とする男性不妊治療剤について報告(例えば、特許文献2参照)があるが、かかる報告は乏精子症・精子無力症を原因とする男性不妊症、勃起不全を原因とする男性不妊症に対する効果についての報告であり、ラットの精嚢の実重量及び体重比重量や、ヒトの勃起不全に対する効果や、ヒトの精子の運動量と生存率について具体的な検討がなされているが、家畜における精子機能の改善との関連については検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2003-40770号公報
【文献】国際公開WO2009/139156号パンフレット
【非特許文献】
【0009】
【文献】LIAJ News No.147、2-5、2014
【文献】Mol Cell Endocrinol 2001;178:161-168
【文献】中川佳美、最近の試験成績から、岡山県養鶏試験場、岡山畜産便り1960.09
【文献】新銘柄地鶏「フジ小軍鶏」の最適冷凍・解凍方法の確立と人工授精方法の改善、あたらしい農業技術No.616、2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、雄の家畜の奇形精子症をはじめとする精子機能の改善のための手段や、家畜の受精率を向上させるための手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは家畜の受精率を向上させるために様々な試行錯誤を重ねてきたが、5-アミノレブリン酸が添加された改良飼料を雄牛に投与した場合に、精子の奇形率が減少することを見いだした。また、5-アミノレブリン酸を飼料に10ppm配合した改良試料を調製し、雄鶏に対して150g/日の改良試料を摂取させたところ、雄鶏の精子奇形率が減少し、精子の密度が増加したことを確認し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の事項により特定されるものである。
[1]下記式(I)で示される化合物又はその塩を含有する家畜における精子機能改善剤。
【化1】
(式中、R
1は、水素原子又はアシル基を表し、R
2は、水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基又はアラルキル基を表す)
[2]奇形精子率が減少することを特徴とする、上記[1]記載の精子機能改善剤。
[3]家畜が雄牛又は雄鶏であることを特徴とする、上記[1]又は[2]記載の精子機能改善剤。
[4] 精子機能の改善が雄牛における精子の前進運動率の向上であることを特徴とする、上記[3]記載の精子機能改善剤。
[5]精子の形態の正常率が5%未満の雄牛に投与することにより、精子の形態の正常率の数値が5倍以上となる改善が得られることを特徴とする上記[3]記載の精子機能改善剤。
[6]精子の形態の正常率の数値が5倍以上となる改善が、投与開始後50日以内に得られることを特徴とする上記[5]記載の精子機能改善剤。
[7]精子の形態の正常率が65%以上80%未満の雄牛に投与することにより、精子の形態の正常率が5%以上増加する改善が得られることを特徴とする上記[3]記載の精子機能改善剤。
[8]雄鶏における精液中の精子の密度が増加することを特徴とする上記[3]記載の精子機能改善剤。
[9]精子の密度の増加が、投与開始後3カ月以内に得られることを特徴とする上記[8]記載の精子機能改善剤。
[10]上記[1]~[9]のいずれか記載の精子機能改善剤を添加した家畜用飼料。
[11]上記[1]~[9]のいずれか記載の精子機能改善剤を、家畜の雄に経口投与することを特徴とする精子の機能改善方法。
[12]上記[1]~[9]のいずれか記載の精子機能改善剤を、体重1kgあたり、アミノレブリン酸換算で0.01~1.5mg/日を経口投与することを特徴とする上記[11]記載の精子の機能改善方法。
[13]上記[1]~[9]のいずれか記載の精子機能改善剤を投与した家畜から採取した精子を用いて、家畜の受精率を向上させる方法。
【0013】
さらに、本発明は、以下の態様を含む。
(1)精子の機能改善に使用する上記[1]~[9]のいずれかに記載のALA若しくはその誘導体又はその薬理学的に許容される塩。
(2)精子の機能を改善するための上記[1]~[9]のいずれかに記載のALA若しくはその誘導体又はその薬理学的に許容される塩の使用。
(3)精子の機能改善剤の製造における上記[1]~[9]のいずれかに記載のALA若しくはその誘導体又はその薬理学的に許容される塩の使用。
(4)上記[1]~[9]のいずれかに記載のALA若しくはその誘導体又はその薬理学的に許容される塩の治療有効量を家畜に投与することによる精子の機能の改善方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の精子機能改善剤を家畜に投与することにより、家畜の精子の機能改善、例えば、精子の奇形率を減少させることができ、とりわけ奇形精子症の予防・治療をすることができ、ひいては家畜の受精率の向上という効果を得ることができる。なお、本発明において、受精率とは卵子と精子とが存在し、精子の核と卵子の核が融合する受精を試みた場合に、実際に受精が成立する割合を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の家畜の精子機能改善剤としては、上記式(I)で示される化合物又はその塩(以下、これらを総称して「ALA類」ということもある)を有効成分として含むものであれば特に制限されず、本発明における家畜としては、肉や乳を利用するために人間が飼育している、牛、豚、羊、馬、を挙げることができ、さらに肉や卵を利用するために人間が飼育している、ニワトリ、アヒル、ウズラ、七面鳥、鴨等の家禽を含めることができる。
【0016】
上記牛は、ウシ亜科(Bovinae)、ウシ属(Bos)に属する、家畜化された牛であれば特に制限されず、家畜化された牛としては、肉用牛、乳用牛、乳肉兼用牛を例示することができ、具体的には、アバディーン・アンガス種、ヘレフォード種、ショートホーン種、シャロレー種、リムジン種、黒毛和種、褐毛和種、日本短角種、無角和種等の肉用牛;ブラウンスイス種、ガンジー種、ホルスタイン種、ジャージー種、ケリー種、ミルキングデボン種、ノルウェイジャンレッド種等の乳用牛;これらの交雑種の牛;を挙げることができるが、純粋種の和種牛に分類される黒毛和種、褐毛和種、日本短角種、及び無角和種の牛が好ましく、中でも黒毛和種の牛を好適に挙げることができる。また、本発明の精子機能改善剤が適用される年齢の牛としては、精子が繁殖に用いられ得る年齢の、精子の機能を改善する必要のある牛であれば、特に制限されず、上記精子の機能を改善する必要のある牛としては、例えば、精子の奇形が認められ、牛奇形精子症に罹患している雄牛又は罹患する可能性のある雄牛であって、牛奇形精子症を予防する又は治療する必要のある牛を挙げることができる。
【0017】
上記ニワトリは、キジ亜科、ヤケイ属(Gallus)に属する家畜化された鶏であれば特に制限されず、家畜化された鶏としては、卵肉兼用種、卵用種、肉用種に大別され、卵肉兼用種としては、横斑プリマスロック種、ロードアイランドレッド種、ニューハンプシャー種を例示することができるが、実際は、卵用又は肉用に専用化された系統が用いられている。卵用種としては、白色レグホーン種、黒色ミノルカ種等、及びそれらの交配系を例示することができ、肉用種としては、コーニッシュ種、横斑プリマスロック種の突然変異によって生じた白色プリマスロック種、白色コーニッシュ雄と白色プリマスロック雌を交配して得られる雑種第一世代(F1)であるブロイラー等を例示することができる。また、日本鶏としては、コクや旨味を追求するため日本の在来種から改良や交配がされている、青森シャモロック、奥久慈しゃも、純系名古屋コーチン、阿波尾鶏、さつま地鶏等多数の国産銘柄鶏をはじめ、軍鶏、チャボ、烏骨鶏等の多数の在来種を含めることができる。また、本発明の精子機能改善剤が適用される年齢の鶏としては、精子が繁殖に用いられ得る年齢の、精子の機能を改善する必要のある鶏であれば、特に制限されず、精子の奇形が認められる鶏や、精液中の精子の密度が少ないと認められる鶏を例示することができる。
【0018】
本発明における精子機能の改善としては、奇形精子率の減少、奇形精子症の予防・治療、精子の前進運動率の向上、精液中の精子濃度(精子密度)の増加等を挙げることができる。したがって、本発明の精子機能改善剤としては、家畜の精子の機能を改善することができる改善剤であれば特に制限されないが、奇形精子減少剤や、奇形精子症の予防・治療のために用いることができる奇形精子症の予防・治療剤や、前進運動する精子の割合を増加させることができる、精子運動性向上機能改善剤や、精液中の精子の濃度を増加させることができる精子濃度増加剤を含めることができる。
【0019】
上記奇形精子症は、睾丸(精巣)で精子を造る機能に関する造精障害の一つであって、家畜の精子において、正常な形態の精子の割合(精子の形態の正常率)が80%未満である、すなわち精子の奇形率が20%以上である場合の病態を挙げることができる。
【0020】
そして、精子の構造としては、先端から遺伝情報である核DNAを有する頭部;頭部と尾部の連結部の頚部;微小管や周辺繊維の外側をミトコンドリアがラセン状に取り巻いてミトコンドリア鞘を形成している中片部;中心小体から伸びた軸糸からなる鞭毛主部;末端の短い部分で、尾鞘がない終末部;を含む構造を挙げることができる。
【0021】
上記精子の形態が正常であるか否かを判定する部位としては、上記頭部、頚部、中片部、鞭毛主部、及び/又は終末部を挙げることができる。精子の頭部については、正常型の卵型やうちわ型と言われる丸みを帯びた外形に対し、尖っている、球形である、いびつに変形している、小さい、巨大、矮小、変形、円形、2頭、等の場合;頚部については、小さい、短い、変形している、切断(中片部位後欠損)、屈曲等の場合;中片部については、短い、細い、変形している、短小、長大、屈曲、湾曲、2尾等の場合;鞭毛主部については、短い、細い、2本以上ある、折れ曲がっている、短小、長大、屈曲、2尾等の場合;終末部については、丸い、欠損等の場合;に精子の形態が正常ではなく、奇形であると判断することができる。中でも、精子の受精機能低下と関連がより高いという点で、精子の頭部の奇形を重要視して判断することもある。なお、複数の部位に奇形が認められる複合奇形の場合は、頭部により近い部位の奇形として分類することもできる。
【0022】
精子が奇形であるか否かを決定する方法としては、顕微鏡下で観察を行って判定する方法が一般的であり、精子の各部の奇形の有無を簡便に判定できるという点で、顕微鏡下で観察を行って目視にて判定する方法を好ましく挙げることができる。
【0023】
上記顕微鏡下で観察を行う際には、ヘマトキシリン・エオジン染色、ギムザ染色等を行ってから、観察を行うことが好ましい。なお、二次奇形の発生を防ぐため、グルタールアルデヒド固定後に精子をスライドグラスに塗抹し、ギムザ染色を行う方法を好ましく挙げることができる。
【0024】
牛の精子の採取方法としては、人工膣法による採精、精巣内精子採取法、顕微鏡下精巣上体精子採取法、経皮的精巣上体精子採取法、精子濃縮洗浄法等を挙げることができる。鶏の精子の採取方法としては、供試鶏の腹部又は背部をマッサージし、総排泄腔の両脇を軽く押しながらつまみ、精液を採取する方法を挙げることができる。
【0025】
上記採取された精液に関して精子形態などの観察及び(前進)運動率などを算出することができ、また、精子を冷凍保存後に解凍した精子等の形態の正常率を算出することもできる。精子の形態を判断する時期としては特に制限されないが、例えば、精子の採取直後;検査場所への運搬後;リン酸緩衝生理食塩水を添加後、500~1000gにて3~7分間の遠心分離を3回行った後;解凍直後;を例示することができるが、経済的なコスト等を考慮すると、精子の採取直後に顕微鏡下で観察を行って精子の形態を判断することが好ましく、運動率及び奇形率など問題がないものだけに対して凍結処理を行うことが望ましい。
【0026】
本発明において、奇形の精子(精子奇形率)が減少すると判断される場合としては、奇形の精子の割合が減少し、精子の形態が正常である割合(精子の形態の正常率)が増加する場合を挙げることができる。例えば、投与開始前と比較して、本発明の精子機能改善剤を投与開始3カ月後以内に奇形率が1%、好ましくは3%減少した場合を挙げることができる。
【0027】
とりわけ、牛における奇形精子症が治療される程度に精子奇形率が減少する場合としては、以下の態様を挙げることができる。すなわち、精子の形態の正常率が増加する場合としては、精子の形態の正常率が5%未満(精子の奇形率が95%以上)である雄牛に、本発明の精子機能改善剤(牛奇形精子症の予防又は治療剤)を添加した飼料を投与したときに、投与後採取した精子の形態の正常率の数値が5倍以上、好ましくは7倍以上、より好ましくは10倍以上、さらに好ましくは15倍以上となることを挙げることができ、具体的には、精子の形態の正常率が1%の雄牛に精子機能改善剤を添加した飼料を投与したときに、投与後採取した精子の形態の正常率の数値が5%以上、好ましくは7%以上、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは15%以上となることを挙げることができる。かかる増加による改善は、本発明の精子機能改善剤を添加した飼料の継続投与開始後50日以内、好ましくは40日以内、より好ましくは30日以内のいずれかの日に得られる数値であることが望ましい。
【0028】
精子の形態の正常率が増加する別の態様としては、精子の形態の正常率の数値が65%以上80%未満である雄牛に、本発明の精子機能改善剤(牛奇形精子症の予防又は治療剤)や飼料を投与した場合に、投与後採取した精子の形態の正常率が、投与前の5%以上、好ましくは7%以上、より好ましくは10%高くなることを挙げることができる。かかる数値の増加は、本発明の精子機能改善剤や飼料の継続投与開始後50日以降、好ましくは55日以降、より好ましくは60日以降のいずれかの日に達成される数値であることが望ましい。
【0029】
上記精子の運動率を判定する方法としては、従来公知の方法を挙げることができるが、顕微鏡を用いた目視による判定を好適に挙げることができる。具体的には、各精子が、静止しているか否かを判定し、動いていることが確認できる場合に、精子が運動している運動精子であると判定する方法を挙げることができる。
【0030】
上記奇形の有無、前進運動率は、精液運動解析装置(Computer Assisted Sperm Analysis)等の自動分析装置を用いることもでき、例えば、高精細カメラと所定のアルゴリズムを組み合わせて自動解析することにより、簡便に測定して数値化することもできる。
【0031】
前記前進運動率が向上した場合としては、観察された精子群において、1秒間に45μm以上、前方に進んでいる精子を活発な前進運動を行っている精子の確率が増加した場合を挙げることができる。
【0032】
前記精液中の精子の密度の測定方法としては、公知の方法であれば特に限定されないが、血球計算板と顕微鏡とを用いて精液中の精子数を算出し、精子数/mLとして算出する方法を例示することができる。
【0033】
上記精子の密度が増加した場合としては、観察された精液における精子の投与前の密度を1とした場合に、1.35以上に増加する場合を挙げることができ、投与開始後1.5カ月以内に1.35以上に増加することが好ましい。
【0034】
上記ALA類の中でも式(I)のR1及びR2が共に水素原子の場合である5-ALA又はその塩を好適に例示することができる。5-ALAは、δ-アミノレブリン酸とも呼ばれるアミノ酸の1種である。また、5-ALA誘導体としては、式(I)のR1が水素原子又はアシル基であり、式(I)のR2が水素原子、直鎖若しくは分岐状アルキル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基又はアラルキル基である、5-ALA以外の化合物を挙げることができる。
【0035】
式(I)におけるアシル基としては、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリル、ピバロイル、ヘキサノイル、オクタノイル、ベンジルカルボニル基等の直鎖又は分岐状の炭素数1~8のアルカノイル基や、ベンゾイル、1-ナフトイル、2-ナフトイル基等の炭素数7~14のアロイル基を挙げることができる。
【0036】
式(I)におけるアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル基等の直鎖又は分岐状の炭素数1~8のアルキル基を挙げることができる。
【0037】
式(I)におけるシクロアルキル基としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロデシル、シクロドデシル基等の炭素数3~12のシクロアルキル基を挙げることができる。
【0038】
式(I)におけるシクロアルケニル基としては、シクロプロペニル(例えば、1-シクロプロペニル)、シクロブテニル(例えば、1-シクロブテニル)、シクロペンテニル(例えば、1-シクロペンテニル)、シクロヘキセニル(例えば、1-シクロヘキセニル)、シクロヘプテニル(例えば、1-シクロヘプテニル)、シクロオクテニル(例えば、1-シクロオクテニル)、シクロデセニル(例えば、1-シクロデセニル)、シクロドデセニル(例えば、1-シクロドデセニル)基等の炭素数3~12のシクロアルケニル基を挙げることができる。
【0039】
式(I)におけるアリール基としては、フェニル、ナフチル(例えば、1-ナフチル)、アントリル(例えば、1-アントリル)、フェナントリル(例えば、1-フェナントリル)、ピレニル(例えば、1-ピレニル)基等の炭素数6~18のアリール基を挙げることができる。
【0040】
式(I)におけるアラルキル基としては、アリール部分は上記アリール基と同じ例示ができ、アルキル部分は上記アルキル基と同じ例示ができ、具体的には、ベンジル、フェネチル、フェニルプロピル、フェニルブチル、ベンズヒドリル、トリチル、ナフチルメチル、ナフチルエチル基等の炭素数7~15のアラルキル基を挙げることができる。
【0041】
上記5-ALA誘導体としては、R1が、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル基等である化合物や、上記R2が、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル基等である化合物が好ましく、上記R1とR2の組合せが、ホルミルとメチル、アセチルとメチル、プロピオニルとメチル、ブチリルとメチル、ホルミルとエチル、アセチルとエチル、プロピオニルとエチル、ブチリルとエチルの組合せなどを好適に例示することができる。
【0042】
ALA類は、生体内で式(I)の5-ALA又はその誘導体の状態で有効成分として作用すればよく、投与する形態に応じて、溶解性を上げるため各種の塩の形として投与し、また、消化管吸収性、組織移行性、組織選択性、化学的安定性等を向上するために、あるいは副作用を軽減するために生体内の酵素で代謝されてから作用を及ぼすプロドラッグ(前駆体)の形(例えば、エステル)として投与することができる。例えば、5-ALA及びその誘導体の塩としては、薬理学的に許容される酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩等を挙げることができる。酸付加塩としては、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩等の各無機酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、トルエンスルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、グリコール酸塩、メタンスルホン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩等の各有機酸付加塩を例示することができる。金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等の各アルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム塩等の各アルカリ土類金属塩、アルミニウム、亜鉛等の各金属塩を例示することができる。アンモニウム塩としては、アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩等のアルキルアンモニウム塩等を例示することができる。有機アミン塩としては、トリエチルアミン塩、ピペリジン塩、モルホリン塩、トルイジン塩等の各塩を例示することができる。なお、これらの塩は使用時において溶液としても用いることができる。
【0043】
以上のALA類のうち、望ましいものは、5-ALA、及び5-ALAメチルエステル、5-ALAエチルエステル、5-ALAプロピルエステル、5-ALAブチルエステル、5-ALAペンチルエステル等の各種エステル類、並びに、これらの塩酸塩、リン酸塩、硫酸塩であり、5-ALA塩酸塩や5-ALAリン酸塩を特に好適に例示することができる。
【0044】
上記ALA類は、化学合成、微生物による生産、酵素による生産のいずれの公知の方法によって製造することができる。また、上記ALA類は、水和物又は溶媒和物を形成していてもよく、またいずれかを単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0045】
本発明の精子機能改善剤の使用態様としては、顆粒状、粒状、粉末状、溶液状にして、通常牛に与えている飼料に混合して投与することもできるが、粉末剤、顆粒剤、細粒剤、錠剤等の経口投与製剤;液剤、用時溶解型粉末剤等の注射製剤等の製剤の形態で用いることもできる。上記製剤の投与方法は、経口投与、静脈内投与、筋肉内投与、局所投与、腹腔投与、経皮投与、経直腸投与等を挙げることができる。
【0046】
本発明のALA類を含有する精子機能改善剤の、経口投与の場合の投与量としては、本発明の効果を奏する限り特に制限されないが、雄牛の場合は、体重1kgあたりアミノレブリン酸換算で、0.01~1.5mg/日、好ましくは0.05~1mg/日、より好ましくは0.075~0.5mg/日、さらに好ましくは0.08~0.3mg/日を挙げることができ、雄鶏の場合は、150g/日摂取する試料中に、アミノレブリン酸換算で0.2~25ppm、好ましくは2~15ppm、より好ましくは8~12ppm含む量を挙げることができる。すなわち、平均体重が2500g~3000g(2.5kg~3kg)程度の雄鶏における摂取量としては、0.03mg/日~3.75mg/日、好ましくは0.3mg/日~2.25mg/日、より好ましくは1.2mg/日~1.8mg/日を挙げることができ、かかる数値は、雄鶏の体重1kgあたりアミノレブリン酸換算で、0.01mg/日~1.5mg/日、好ましくは0.1mg/日~0.9mg/日、より好ましくは0.4mg/日~0.72mg/日に相当する。
【0047】
本発明の精子機能改善剤を飼料に添加して使用する場合の、飼料の給餌方法としては、1日2回以上給餌を行う分離給餌法や、特定の給与時間を設けないで自由に摂取させる不断給餌等の給与方法を挙げることができるが、朝と夕方の1日2回給餌を行う分離給餌法が好ましく、朝の給餌時間としては、6:00~11:00、好ましくは8:00~10:00を例示することができ、夕方の給餌時間としては、15:00~20:00、好ましくは16:00~18:00を例示することができる。なお、ALA類を添加する飼料としては、一般的に牛や鶏に給与するために使用されている飼料であれば特に制限されず、トウモロコシ、大豆ミール、アルファルファ、もみ殻、小麦ふすま、米ぬか、オーツヘイ、綿実油ミール、骨粉、石灰、リン酸二カルシウム、塩化ナトリウム、尿素、糖蜜等の従来公知の飼料原料から調製された、牛や鶏用の飼料を挙げることができる。
【0048】
本発明により得られた正常な形態の精子は、精子の核と卵子の核が融合する受精に供することができ、受精の方法としては、人工授精や体外受精を挙げることができる。上記体外受精としては、上記受精を人為的に体外において行うことを挙げることができ、体外受精の方法としては、培養液中で卵と精子を受精させ、自然受精に近い状態を体外で作り出す、いわゆるコンベンショナルIVFや、体外に取り出した卵子と精子とを共培養させることにより行う方法や、透明帯開口法、囲卵腔内精子注入法、卵細胞質内精子注入法(intracytoplasmic sperm injection :ICSI)等の顕微授精法を挙げることができるが、コスト的にコンベンショナルIVFが好ましい。鶏の場合は、前記採取した精液の原液又は希釈液、あるいは、凍結保存後に解凍した精液の原液又は希釈液を、雌鶏の膣内に注入する方法を例示することができる。
【0049】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例】
【0050】
[参考例1]
A1(実験開始時1歳8月、体重約490kg)、A2(実験開始時1歳6月、体重約490kg)、A3(実験開始時1歳8月、体重約530kg)、及びA4(実験開始時1歳6月、体重約490kg)の4頭の雄の黒毛和種の牛について検討を行った。本発明の治療剤を含有する飼料(ALA含有飼料)の投与前においては、ALA類不含の和牛繁殖用飼料(西日本くみあい飼料社製)とオーツヘイ等粗飼料とを、自由摂取させた。平均飼料摂取量は、一日あたり和牛繁殖用飼料が3~3.5kg、オーツヘイ等粗飼料が4.0kg~5.5kgであった。
【0051】
上記4頭の雄牛についてALA含有飼料投与直前に、2回ずつ精子の形態を観察した。各雄牛から人工膣法により採取された精子を研究室に運搬した後、リン酸緩衝生理食塩水で3回洗浄(700g5分間の遠心洗浄3回)した。本試験では、二次奇形の発生を防ぐため、グルタールアルデヒド固定後に精子をスライドグラスに塗抹し、ギムザ染色を行った。
染色標本の観察は1標本あたり100個以上の精子を対象に実施した。また、観察用の写真撮影は1標本あたり100個以上の精子を対象に実施した。写真撮影(CCD camera DP73、Olympus)は、顕微鏡の最高倍率である1000倍で行い、位相査装置を用いて精子の輪郭が鮮明になるように行った。奇形率の判定はPC上に撮影写真の拡大像を写して正確に行った。結果を以下の表1に示す。
観察時の奇形の分類については、複合奇形が認められた場合は、より上位の部位として奇形率を算出している。例えば、頭部と中片部に奇形が認められた場合は頭部奇形とした。
【0052】
【0053】
(結果)
A2の牛については、本発明の治療剤を投与する前の2017年12月20日には精子の形態の正常率が1%と非常に低い割合であった。また、頭部の奇形率が94%であった。他のA1、A3、及びA4の牛については、精子の形態の正常率が72~79%であり、80%未満であった。頭部奇形率は、14%~22%であった。また、頚部奇形、中片部奇形、鞭毛主部・終末部奇形は、A1~A4のいずれの雄牛においても、0~4%であり、精子の奇形は、主として頭部の形態における奇形が多かった。
【0054】
[実施例1]
上記A1、A2、A3、及びA4の平均500kgの4頭の各牛に、それぞれ朝、夕の一日2回、上記5-ALA不含の和牛繁殖用飼料とオーツヘイ等粗飼料の給餌を行う際に、アミノレブリン酸リン酸塩を1%含んだ飼料を5g/回ずつ、一日あたり10gを飼料の上にトップドレスでふりかけ摂取させた。飼料の平均摂取量は、一日あたり和牛繁殖用飼料が3~3.5kg、オーツヘイ等粗飼料が4.0kg~5.5kgであって試験前と変わらなかった。
【0055】
ALA含有飼料の摂取を継続した各牛について、ALA含有飼料の摂取開始後16日経過時(2018年1月5日)、28日経過時(2018年1月17日)、49日経過時(2018年2月7日)、63日経過時(2018年2月21日)、76日経過時(2018年3月6日)、90日経過時(2018年3月20日)に各雄牛から精子を採取後、参考例1における手順により、雄牛毎に約100の精子について、頭部奇形、頚部奇形、中片部奇形、及び鞭毛主部・終末部奇形の有無を確認した。A2の牛の結果を以下の表2に示す。
【0056】
【0057】
(結果)
表2から明らかなとおり、ALA含有飼料を投与前の精子の形態の正常率が1%であったA2の正常率の数値は、投与開始16日経過後に7%、28日経過後に22%、49日経過後に25%となり、24%の増加を確認した。ALA含有飼料の経口摂取を継続することにより、精子の形態の正常率の数値は、最大で25倍となった。また、頭部奇形率も、投与開始16日経過後に86%、28日経過後に69%、49日経過後に67%となり、投与前の頭部奇形率94%と比較すると顕著に減少した。
【0058】
[実施例2]
A1の牛の結果を以下の表3に示す。
【0059】
【0060】
(結果)
表3から明らかなとおり、ALA含有飼料を投与前の精子の形態の正常率が78%であったA1の正常率は、投与開始16日経過後に89%、63日経過後に87%、76日経過後に89%、90日経過後に85%となり、ALA含有飼料の経口摂取を継続することにより、投与後採取した精子の形態の正常率の数値は上昇し、投与前の数値の78%から少なくとも7%以上増加した。
【0061】
[実施例3]
A3の牛の結果を表4に示す。
【0062】
【0063】
(結果)
表4から明らかなとおり、ALA含有飼料を投与前の精子の形態の正常率が79%であったA3の正常率は、投与開始16日経過後に81%、28日経過後に83%、63日経過後に84%、76日経過後に84%、90日経過後に84%となり、ALA含有飼料の経口摂取を継続することにより、投与後採取した精子の形態の正常率の数値は上昇し、63日経過以降は、投与前の数値の79%から5%以上増加した。
【0064】
[実施例4]
A4の牛の結果を表5に示す。
【0065】
【0066】
(結果)
表5から明らかなとおり、ALA含有飼料を投与前の精子の形態の正常率が72%であったA4の正常率は、投与開始16日経過後に91%、49日経過後に92%、63日経過後に85%、76日経過後に89%、90日経過後に77%となり、ALA含有飼料の経口摂取を継続することにより、投与後採取した精子の形態の正常率の数値は上昇し、投与前の数値の72%から、少なくとも5%以上増加した。
【0067】
[実施例5]
A2、A3、A4の牛について、ALA含有飼料を投与前と投与後における精子の前進運動率を算出した。いずれも各雄牛から精子を人工膣法により採取し、リン酸緩衝生理食塩水で3回洗浄(700g5分間の遠心洗浄3回)した後、グルタールアルデヒドで固定し、ギムザ染色により染色後観察を行った。
結果を表6に示す。
【0068】
【0069】
(結果)
表6から明らかなとおり、A2の牛については、本発明の予防又は治療剤を添加した飼料を投与する前の2017年12月20日には、精子前進運動率の数値は0%であったが、投与開始16日経過後に20%、28日経過後に30%、49日経過後に20%、63日経過後に20%となり、ALA含有飼料の経口摂取を継続することにより、精子の精子前進運動率の数値は、0から最大30%まで増加した。また、A3の牛については、本発明の予防又は治療剤を添加した飼料を投与する前の2017年12月20日には、精子前進運動率の数値は40%であったが、49日経過後に60%、63日経過後に60%となり、76日経過後に50%となり、ALA含有飼料の経口摂取を継続することにより、投与開始後28日~76日の精子の前進運動率は投与前数値と比較して12%~50%増となり顕著に増加した。A4の牛については、本発明の予防又は治療剤を添加した飼料を投与する前の2017年12月20日には、精子前進運動率は、30%であったが、投与開始16日経過後に60%、28日経過後に65%、49日経過後に40%、63日経過後に40%となり、ALA含有飼料の経口摂取を継続することにより、投与開始後28日~76日の精子の前進運動率の数値と比較して投与前の16%~116%増となり顕著に増加した。
【0070】
[実施例6]
[鶏についての検討]
(供試鶏)
供試鶏には約500日齢の横斑プリマスロック雄を用いた。8羽の雄を実験に用い、4羽ずつの2群に分け、対照区:(5-ALA無添加)4羽と、処理区:(5-ALA添加)4羽とを設けた。
【0071】
横斑プリマスロックに供試した5-ALA不含の基本飼料としては、粗たん白質:17%以上、粗脂肪:3%以上、粗繊維:6%以下、粗灰分:14%以下、カルシウム:3.5%以上、リン:0.4%以上を含み、ME:2850kcal/kg以上である、成鶏飼育用配合飼料(中部飼料株式会社製)を用いた。
【0072】
上記成鶏飼育用配合飼料に5-ALAを10ppmの濃度となるように添加してALA含有鶏飼料を調製し、一羽あたり一日150g摂取させた。すなわち、処理区の各鶏は、5-ALAを0.0015g/日摂取した。
【0073】
5-ALAの飼料への添加が雄鶏の繁殖能力に及ぼす影響を検証するために、8羽の供試鶏について、ALA含有飼料の給餌開始前(ALA投与前)(2019年7月1~5日);ALA含有飼料1.5ヶ月投与後(1.5ヶ月後)(2019年8月19~26日);ALA含有飼料3ヶ月投与後(3ヶ月後)(2019年10月1~7日);の3つの期間に分けて精液を採取した。具体的には、各期間において3回ずつBogdonoff et al.,Poult. Sci.,33: 665-669,1954の記載に従って、精液は、供試鶏の腹部をマッサージすることにより総排泄腔から採取された。即ち、ALA投与前の期間においては、7月1日、3日、及び5日に精液を採取した。1.5ヶ月後の期間においては、8月19日、22日、及び26日に精液を採取した。3ヶ月後の期間においては、10月1日、4日、及び7日に精液を採取した。なお、8羽の雄横斑プリマスロックのうち、「対照区」の4羽(個体番号1-4)は、全期間にわたってALA不含の基本飼料を与え、「処理区」4羽(個体番号5-8)は、ALA投与前の期間はALA不含の基本飼料を与えたが、7月6日以降はALA含有飼料を摂取させた。各期間の、各鶏から採取された、精液中の精子の運動性、密度、及び奇形率、並びに血漿中のテストステロン濃度を測定した。
【0074】
上記精液中の精子の運動性の測定としては、精液中の精子の運動精子率と活発な前進運動を行っている精子率の2つの項目の測定を挙げることができ、精子運動性解析装置(Computer Assisted Sperm Analysis: CASA、HAMILTON社製)を用いて、運動精子率(Motility(Mol.))と活発な前進運動を行っている精子率(Progressive Motility(Pro.M.))を算出した。運動精子率については、各精子が、静止しているか否かを判定し、動きが確認できる精子を運動精子と判定した。また、活発な前進運動については、1秒間に45μm以上進んでいる精子を活発な前進運動を行っている精子と判定した。
【0075】
上記精液中の精子の奇形率は、上記牛実施例と同様、二次奇形の発生を防ぐため、グルタールアルデヒド固定後に精子をスライドグラスに塗抹し、ギムザ染色を行い、顕微鏡の最高倍率である1000倍で行い、位相査装置を用いて精子の輪郭が鮮明になるように行った。奇形率の判定はPC上に撮影写真の拡大像を写して正確に行った。上記頭部、頚部、中片部、鞭毛主部、及び/又は終末部に奇形があった場合は、奇形があると判定した。
【0076】
上記精液中の精子の密度(濃度)は、血球計算板と顕微鏡とを用いて精子数を算出し、精子数/mLとして算出した。
【0077】
上記ALA投与前、1.5ヶ月後、3ヶ月投与後の各期間に、上記同様3回ずつ供試鶏から血液を採取し、血漿中のテストステロン濃度を測定した。血漿中のテストステロン濃度測定には、テストステロン EIA キット(フナコシ株式会社製)を用い、キットの手順書に準じて濃度を測定した。
【0078】
各雄鶏における各採取日の精液における精子の運動精子率、前進運動精子率、濃度、及び奇形率を以下の表7に示す。
【0079】
【0080】
上記表7の結果を基に、投与前、1.5ヶ月後及び3ヶ月後の各期に得られた精子の運動精子率、前進運動精子率、密度、及び奇形率の3回のデータの平均値を算出し、5-ALAの飼料への添加効果(雄鶏への投与効果)を以下の表8に示す。
【0081】
【0082】
(結果)
上記表8が示すとおり、精子の運動性、密度及び奇形率のいずれの項目においても、対照区と比較して、処理区において、投与による有効性が認められた個体が多かった。
【0083】
次に、投与による影響をより明確にするため、各個体における1.5ヶ月後又は3ヶ月後における値の投与前の値に対する比(投与前の値を1とする)を、上記運動精子率、前進運動精子率、精子の密度及び精子の奇形率について算出した。結果を以下の表9に示す。
【0084】
【0085】
さらに、対照区(個体番号1~4)及び処理区(個体番号5~8)の上記運動精子率、前進運動精子率、精子の密度及び精子の奇形率について統計処理を行い、ALAの投与が精子の運動性(運動精子率及び前進運動精子率)、濃度及び奇形率に及ぼす影響について、有意差検定を実施した(ANOVA解析後、Student's t-testによる有意差検定)。結果を以下の表10に示す。
【0086】
【0087】
(結果)
表10より明らかなとおり、運動精子率及び前進運動精子率においては、3ヶ月間の5-ALAの飼料への添加(投与)により、平均値は高くなったが、対照区と処理区の間には有意差は認められなかった。
【0088】
一方、精子密度(濃度)は、投与前に比べ投与後の値が高くなり、特に3ヶ月後においては、両区間に有意な差が認められた(P<0.01)。また、精子奇形率は、投与前に比べ投与後の値が低くなり、特に1.5ヶ月後においては、両区間に有意な差が認められた(P<0.05)。これらの結果より、5-ALAの飼料への添加(飼料における濃度:10ppm)は、雄鶏の精子の運動率や前進運動率等の精子運動性には顕著な有効性を示さないが、精子密度及び精子奇形率に対しては有意差をもって有効であると確認された。
【0089】
[参考例]
前記投与前、1.5ヶ月後及び3ヶ月後の各期にそれぞれ採取された各個体の血漿中のテストステロン濃度について、測定値を以下の表11に示す。
【0090】
【0091】
上記表11の各数値について、統計処理し(ANOVA解析)、ALA投与が血漿中のテストステロン濃度に及ぼす影響について、有意差検定(Student’s t-test)した結果を以下の表12に示す。
【0092】
【0093】
(結果)
対照区の鶏では、4羽中1羽において投与後(3ヶ月後)にテストステロン濃度が低くなっていた。また、処理区の鶏では4羽中3羽において、投与前に比較し、低い値であった。しかし、各区における、投与前と投与後の値を統計処理した結果(ANOVA解析)有意な差は認められなかった。また、各期における、対照区と処理区の値を比較した結果(Student’s t-test)、投与前、中間期(1.5ヶ月後)及び投与後(3ヶ月後)のP値がそれぞれ0.61、0.49、及び0.47であり、いずれの時期においても、対照区と処理区との間には有意な差は認められなかった(表12)。以上の結果より、3ヶ月間の5-ALAの飼料への添加(投与)は、血漿中のテストステロン濃度には影響しないと考えられた。
【0094】
(鶏に関するまとめ)
5-ALAの養鶏飼料への添加(10ppm)は、雄鶏の精子運動性及び血漿中テストステロン濃度には顕著な有効性を示さないが、精子密度及び精子奇形率に対しては有効であると考えられた。