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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】流量制御装置および流量制御方法
(51)【国際特許分類】
   G05D 7/06 20060101AFI20240529BHJP
【FI】
G05D7/06 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021516046
(86)(22)【出願日】2020-04-16
(86)【国際出願番号】 JP2020016674
(87)【国際公開番号】W WO2020218138
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2023-03-06
(31)【優先権主張番号】P 2019083562
(32)【優先日】2019-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390033857
【氏名又は名称】株式会社フジキン
(74)【代理人】
【識別番号】100129540
【弁理士】
【氏名又は名称】谷田 龍一
(74)【代理人】
【識別番号】100137648
【弁理士】
【氏名又は名称】吉武 賢一
(72)【発明者】
【氏名】平田 薫
(72)【発明者】
【氏名】井手口 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】小川 慎也
(72)【発明者】
【氏名】杉田 勝幸
(72)【発明者】
【氏名】永瀬 正明
(72)【発明者】
【氏名】西野 功二
(72)【発明者】
【氏名】池田 信一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 祐之
【審査官】西井 香織
(56)【参考文献】
【文献】特許第4204400(JP,B2)
【文献】国際公開第2017/057129(WO,A1)
【文献】特開2004-138425(JP,A)
【文献】特開2013-185873(JP,A)
【文献】国際公開第2008/053839(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コントロール弁と、
前記コントロール弁の下流側に設けられた絞り部と、
前記コントロール弁と前記絞り部との間の圧力を測定する上流圧力センサと、
前記絞り部の上流側と下流側との差圧を直接的に測定する差圧センサと、
前記コントロール弁、前記上流圧力センサおよび前記差圧センサに接続された演算制御回路と
を備え、
前記差圧センサは、
前記絞り部の上流側の流路に連通する一次側接続部材と、
前記絞り部の下流側の流路に連通する二次側接続部材と、
前記一次側接続部材および前記二次側接続部材に接続され、差圧を測定するセンサチップを内蔵するセンサ本体と
を含み、
前記演算制御回路は、前記上流圧力センサの出力と前記差圧センサの出力とに基づいて決定される演算流量が設定流量となるように前記コントロール弁の制御を行うように構成されており、
前記コントロール弁の制御は、
演算流量QcがQc=K2・(P1-ΔP) ΔP またはQc=C1・P1/√T・(((P1-ΔP)/P1) -((P1-ΔP)/P1) 1/2 に従って決定される差圧制御であって、上記式において、P1は、前記上流圧力センサが出力する上流圧力、ΔPは前記差圧センサが出力する差圧、K2は流体の種類と流体温度に依存する比例係数、m、nは実際の流量から導出された定数、C1はオリフィス断面積を含む係数、Tはガス温度である差圧制御と、
演算流量QcがQc=K1・P1に従って決定される比例制御であって、上記式においてK1は流体の種類と流体温度に依存する比例係数である比例制御と
を含む、流量制御装置。
【請求項2】
前記上流圧力センサの出力と、前記上流圧力センサの出力から前記差圧センサの出力を減算することによって得られる演算下流圧力との比を、予め設定された閾値と比較することによって、前記比例制御または前記差圧制御のいずれかに決定される、請求項1に記載の流量制御装置。
【請求項3】
前記センサチップは、
前記絞り部の上流側の圧力が伝達される一方の面と前記絞り部の下流側の圧力が伝達される他方の面とを有する感圧部と、
前記感圧部の歪を検知する歪センサとを含む、請求項1または2に記載の流量制御装置。
【請求項4】
前記二次側接続部材は、接続位置調整可能な配管部材を備える、請求項3に記載の流量制御装置。
【請求項5】
前記上流圧力センサと前記差圧センサとが一体的に形成されている、請求項1から4のいずれかに記載の流量制御装置。
【請求項6】
コントロール弁と、
前記コントロール弁の下流側に設けられた絞り部と、
前記絞り部の上流側と下流側との差圧を直接的に測定する差圧センサと、
前記絞り部の下流側の圧力を測定する下流圧力センサと、
前記コントロール弁、前記差圧センサおよび前記下流圧力センサに接続された演算制御回路と
を備え、
前記差圧センサは、
前記絞り部の上流側の流路に連通する一次側接続部材と、
前記絞り部の下流側の流路に連通する二次側接続部材と、
前記一次側接続部材および前記二次側接続部材に接続され、差圧を測定するセンサチップを内蔵するセンサ本体と
を含み、
前記演算制御回路は、前記差圧センサの出力と前記下流圧力センサの出力とに基づいて決定される演算流量が設定流量となるように前記コントロール弁の制御を行うように構成されており
前記コントロール弁の制御は、
演算流量QcがQc=K2・P2 ・ΔP またはQc=C1・(ΔP+P2)/√T・((P2/(ΔP+P2)) -(P2/(ΔP+P2)) 1/2 に従って決定される差圧制御であって、上記式において、ΔPは前記差圧センサが出力する差圧、P2は前記下流圧力センサが出力する下流圧力、K2は流体の種類と流体温度に依存する比例係数、m、nは実際の流量から導出された定数、C1はオリフィス断面積を含む係数、Tはガス温度である差圧制御と、
演算流量QcがQc=K1・(ΔP+P2)に従って決定される比例制御であって、上記式においてK1は流体の種類と流体温度に依存する比例係数である比例制御と
を含む、流量制御装置。
【請求項7】
前記差圧センサの出力に前記下流圧力センサの出力を加算することによって得られる演算上流圧力と、前記下流圧力センサの出力との比を、予め設定された閾値と比較することによって、前記比例制御または前記差圧制御のいずれかに決定される、請求項6に記載の流量制御装置。
【請求項8】
コントロール弁と、前記コントロール弁の下流側に設けられた絞り部と、前記コントロール弁と前記絞り部との間の圧力を測定する上流圧力センサと、前記絞り部の上流側と下流側との差圧を直接的に測定する差圧センサと、前記コントロール弁、前記上流圧力センサおよび前記差圧センサに接続された演算制御回路とを備え、前記演算制御回路が、前記差圧センサの出力と前記上流圧力センサの出力とに基づいて決定される演算流量が設定流量となるように、差圧制御または比例制御によって前記コントロール弁の制御を行うように構成されている流量制御装置を用いて行う流量制御方法であって、
前記差圧制御における演算流量Qcを、Qc=K2・(P1-ΔP) ΔP またはQc=C1・P1/√T・(((P1-ΔP)/P1) -((P1-ΔP)/P1) 1/2 に従って決定するステップであって、上記式において、P1は、前記上流圧力センサが出力する上流圧力、ΔPは前記差圧センサが出力する差圧、K2は流体の種類と流体温度に依存する比例係数、m、nは実際の流量から導出された定数、C1はオリフィス断面積を含む係数、Tはガス温度である、ステップと、
前記比例制御における演算流量Qcを、Qc=K1・P1に従って決定するステップであって、上記式において、P1は、前記上流圧力センサが出力する上流圧力、ΔPは前記差圧センサが出力する差圧、K1は流体の種類と流体温度に依存する比例係数である、ステップと、
前記差圧制御および前記比例制御において、前記演算流量Qcが設定流量となるようにコントロール弁の開度を調整するステップと、
前記演算流量を決定する前に、予め、前記差圧センサの上流側の圧力と下流側の圧力とが同じ条件下で、前記差圧センサのゼロ点補正を行っておくステップと
を含む、流量制御方法。
【請求項9】
コントロール弁と、前記コントロール弁の下流側に設けられた絞り部と、前記絞り部の上流側と下流側との差圧を直接的に測定する差圧センサと、前記絞り部の下流側の圧力を測定する下流圧力センサと、前記コントロール弁、前記差圧センサおよび前記下流圧力センサに接続された演算制御回路とを備え、前記演算制御回路が、前記差圧センサの出力と前記下流圧力センサの出力とに基づいて決定される演算流量が設定流量となるように、差圧制御または比例制御によって前記コントロール弁の制御を行うように構成されている流量制御装置を用いて行う流量制御方法であって、
前記差圧制御における演算流量Qcを、Qc=K2・P2 ・ΔP またはQc=C1・(ΔP+P2)/√T・((P2/(ΔP+P2)) -(P2/(ΔP+P2)) 1/2 に従って決定するステップであって、上記式において、ΔPは前記差圧センサが出力する差圧、P2は前記下流圧力センサが出力する下流圧力、K2は流体の種類と流体温度に依存する比例係数、m、nは実際の流量から導出された定数、C1はオリフィス断面積を含む係数、Tはガス温度である、ステップと、
前記比例制御における演算流量Qcを、Qc=K1・(ΔP+P2)に従って決定すステップであって、上記式において、ΔPは前記差圧センサが出力する差圧、P2は前記下流圧力センサが出力する下流圧力、K1は流体の種類と流体温度に依存する比例係数である、ステップと、
前記差圧制御および前記比例制御において、前記演算流量Qcが設定流量となるようにコントロール弁の開度を調整するステップと、
前記演算流量を決定する前に、予め、前記差圧センサの上流側の圧力と下流側の圧力とが同じ条件下で、前記差圧センサのゼロ点補正を行っておくステップと
を含む、流量制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流量制御装置に関し、特に、半導体製造設備や化学品製造設備等のガス供給ラインに設けられる流量制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置や化学プラントにおいて、材料ガスやエッチングガス等の流量を制御するために、種々のタイプの流量計および流量制御装置が利用されている。このなかで圧力式流量制御装置は、コントロール弁と絞り部(例えばオリフィスプレートや臨界ノズル)とを組み合せた比較的簡単な機構によって各種流体の質量流量を高精度に制御することができるので広く利用されている。圧力式流量制御装置は、熱式流量制御装置とは異なり、一次側供給圧が大きく変動しても安定した流量制御が行えるという優れた流量制御特性を有している。
【0003】
圧力式流量制御装置には、絞り部の上流側の流体圧力(以下、上流圧力P1と呼ぶことがある)を制御することによって流量を調整するものがある。また、上流圧力P1は、絞り部の上流側に配置されたコントロール弁の開度を調整することによって制御される。
【0004】
上流圧力P1に対する下流圧力P2(絞り部の下流側の流体圧力)が十分に小さい場合、絞り部を通過するガスの速度は音速に固定され、質量流量は、下流圧力P2によらず上流圧力P1によって決定される。このとき、上流圧力P1を測定する圧力センサの出力に基づいてコントロール弁をフィードバック制御することによって、流量を制御することが可能である。このような挙動が生じる圧力条件を臨界膨張条件と呼び、例えばP2/P1≦αのように規定される。この式におけるαは臨界圧力比と呼ばれ、ガス種により異なるが、おおよそ0.45から0.6の値をとる。
【0005】
また、特許文献1には、絞り部の上流側だけでなく下流側にも圧力センサを設けた圧力式流量制御装置が記載されている。このような圧力式流量制御装置では、下流圧力P2が比較的大きく、上記の臨界膨張条件を満たさない場合であっても、上流圧力P1および下流圧力P2の双方に基づいて流量を演算により求めることができる。このため、より広い流量範囲にわたって流量制御を行うことができる。
【0006】
特許文献1に記載の圧力式流量制御装置において、臨界膨張条件下では、上流圧力P1を参照する比例制御が行われる。一方、非臨界膨張条件下では、上流圧力P1および下流圧力P2を参照する差圧制御が行われる。
【0007】
具体的には、臨界膨張条件下では、流量Q=K1・P1(K1は流体の種類と流体温度に依存する比例係数)の関係が成立するので、上流圧力P1に基づく比例制御が行われる。一方、非臨界膨張条件下では、流量Q=K2・P2m(P1-P2)n(K2は流体の種類と流体温度に依存する比例係数、指数m、nは実際の流量から導出された値)の関係が成立するので、上流圧力P1および下流圧力P2に基づく差圧制御が行われる。実際の動作としては、臨界膨張条件下および非臨界膨張条件下における上記式に従って演算流量Qcが求められ、この演算流量Qcと入力された設定流量Qsとの差が0になるようにコントロール弁の開度調整が行われる。
【0008】
上記の比例制御と差圧制御との切り替えは、上流圧力P1と下流圧力P2の比であるP2/P1が、臨界圧力比αに対応する閾値を超えるか否かに従って行われる。ガスの種類によって臨界圧力比は異なるが、閾値を、使用対象の全ガス種の臨界圧力比以下に設定することによって、使用対象の全ガス種に対応させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2004-138425号公報
【文献】特許第4204400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上流圧力P1と下流圧力P2とに基づいて流量を求めるように構成された流量制御装置は、特許文献2にも記載されている。特許文献2の流量制御装置では、オリフィスの上流側と下流側とにそれぞれ圧力センサを別々に設けて、各圧力センサの出力から流量を求めている。
【0011】
昨今、このような流量制御装置において、下流圧力P2が従来よりも高い状態で流量制御を行うことが求められており、このような条件においては、各圧力センサの精度誤差、特に圧力センサのゼロ点ズレなどによって、流量測定誤差が比較的大きくなることを本願発明者は見出した。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、圧力センサのゼロ点ズレなどに起因する精度低下が生じにくく制御流量範囲が広い流量制御装置を提供することをその主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の実施形態による流量制御装置は、コントロール弁と、前記コントロール弁の下流側に設けられた絞り部と、前記コントロール弁と前記絞り部との間の圧力を測定する上流圧力センサと、前記絞り部の上流側と下流側との差圧を測定する差圧センサと、前記コントロール弁、前記上流圧力センサおよび前記差圧センサに接続された演算制御回路とを備える。
【0014】
ある実施形態において、前記演算制御回路は、前記上流圧力センサの出力と前記差圧センサの出力とに基づいて決定される演算流量が設定流量となるように前記コントロール弁の制御を行う。
【0015】
ある実施形態において、前記コントロール弁の制御は、演算流量QcがQc=K2・(P1-ΔP)mΔPnまたはQc=C1・P1/√T・(((P1-ΔP)/P1)m-((P1-ΔP)/P1)n1/2に従って決定される差圧制御を含み、上記式において、P1は、前記上流圧力センサが出力する上流圧力、ΔPは前記差圧センサが出力する差圧、K2は流体の種類と流体温度に依存する比例係数、m、nは実際の流量から導出された定数、C1はオリフィス断面積を含む係数、Tはガス温度である。
【0016】
ある実施形態において、前記コントロール弁の制御は、演算流量QcがQc=K1・P1に従って決定される比例制御をさらに含み、上記式においてK1は流体の種類と流体温度に依存する比例係数である。
【0017】
ある実施形態において、前記上流圧力センサの出力と、前記上流圧力センサの出力から前記差圧センサの出力を減算することによって得られる演算下流圧力との比を、予め設定された閾値と比較することによって、前記比例制御または前記差圧制御のいずれかに決定される。
【0018】
ある実施形態において、前記差圧センサは、前記絞り部の上流側の流路に接続される一次側接続部材と、前記絞り部の下流側の流路に接続される二次側接続部材と、前記一次側接続部材および前記二次側接続部材に接続され、差圧を測定するセンサチップを内蔵するセンサ本体とを備え、前記センサチップは、前記絞り部の上流側の圧力が伝達される一方の面と前記絞り部の下流側の圧力が伝達される他方の面とを有する感圧部と、前記感圧部の歪を検知する歪センサとを含む。
【0019】
ある実施形態において、前記二次側接続部材は、接続位置調整可能な配管部材を備える。
【0020】
ある実施形態において、前記上流圧力センサと前記差圧センサとが一体的に形成されている。
【0021】
本発明の他の実施形態による流量制御装置は、コントロール弁と、前記コントロール弁の下流側に設けられた絞り部と、前記絞り部の上流側と下流側との差圧を測定する差圧センサと、前記絞り部の下流側の圧力を測定する下流圧力センサと、前記コントロール弁、前記差圧センサおよび前記下流圧力センサに接続された演算制御回路とを備える。
【0022】
ある実施形態において、前記演算制御回路は、前記差圧センサの出力と前記下流圧力センサの出力とに基づいて決定される演算流量が設定流量となるように前記コントロール弁の制御を行う。
【0023】
ある実施形態において、前記コントロール弁の制御は、演算流量QcがQc=K2・P2m・ΔPnまたはQc=C1・(ΔP+P2)/√T・((P2/(ΔP+P2))m-(P2/(ΔP+P2))n1/2に従って決定される差圧制御を含み、上記式において、ΔPは前記差圧センサが出力する差圧、P2は前記下流圧力センサが出力する下流圧力、K2は流体の種類と流体温度に依存する比例係数、m、nは実際の流量から導出された定数、C1はオリフィス断面積を含む係数、Tはガス温度である。
【0024】
ある実施形態において、前記コントロール弁の制御は、演算流量QcがQc=K1・(ΔP+P2)に従って決定される比例制御をさらに含み、上記式においてK1は流体の種類と流体温度に依存する比例係数である。
【0025】
ある実施形態において、前記差圧センサの出力に前記下流圧力センサの出力を加算することによって得られる演算上流圧力と、前記下流圧力センサの出力との比を、予め設定された閾値と比較することによって、前記比例制御または前記差圧制御のいずれかに決定される。
【発明の効果】
【0026】
本発明の実施形態によれば、圧力センサの誤差に強い圧力式の流量制御装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施形態に係る流量制御装置が組み込まれたガス供給系を模式的に示す図である。
図2】本発明の実施形態に係る流量制御装置を模式的に示す図である。
図3】本発明の実施形態に係る流量制御装置のより具体的な構成を示す側面図である。
図4】本発明の実施形態に係る流量制御装置が備える差圧センサを示す側面図である。
図5】本発明の実施形態に係る差圧センサが備えるセンサチップを示す断面図である。
図6】実施例における、圧力センサのゼロ点ズレの大きさと流量誤差との関係を示すグラフである。
図7】比較例における、圧力センサのゼロ点ズレの大きさと流量誤差との関係を示すグラフである。
図8】本発明の他の実施形態に係る流量制御装置の構成を示す側面図である。
図9】本発明の他の実施形態に係る差圧センサが備えるセンサチップを示す断面図である。
図10】本発明の他の実施形態に係る流量制御装置を用いて行う流量制御の例示的なフローチャートである。
図11】本発明のさらに実施形態に係る流量制御装置を模式的に示す図である。
図12】本発明のさらに実施形態に係る流量制御装置のより具体的な構成を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0029】
図1は、本発明の実施形態による圧力式の流量制御装置10が組み込まれたガス供給系1を示す。ガス供給系1は、ガス供給源2と、ガス供給ラインを形成する流路4に設けられた流量制御装置10と、流量制御装置10の上流側および下流側に設けられた開閉弁(オンオフ弁)3、5と、開閉弁5の下流側に接続されたプロセスチャンバ6と、プロセスチャンバ6に接続された真空ポンプ7とを含んでいる。
【0030】
流量制御装置10は、流路4を流れるガスの流量を制御するように設けられている。真空ポンプ7は、プロセスチャンバ6および流路4を真空引きすることができ、流量制御装置10の下流側が減圧された状態で流量制御されたガスがプロセスチャンバ6に供給される。ガス供給源2からは、原料ガス、エッチングガスまたはキャリアガスなど、半導体の製造プロセスに用いられる種々のガスが供給されてよい。
【0031】
なお、図1には1系統のガス供給ラインのみが示されているが、各ガスに対応した複数のガス供給ラインがプロセスチャンバ6に接続されていてもよい。また、本実施形態では、流量制御装置10の上流側および下流側に開閉弁3、5を設けているが、下流側の開閉弁5は、流量制御装置10の出口側に内蔵されていてもよい。開閉弁3、5としては、遮断性および応答性が良好なバルブ、例えば、空気駆動弁(AOV)、電磁弁(ソレノイドバルブ)、電動弁が好適に用いられる。
【0032】
図2は、本実施形態の流量制御装置10の構成を示す模式図である。図2に示すように、流量制御装置10は、流路4に介在するコントロール弁11と、コントロール弁11の下流側に設けられた絞り部12と、コントロール弁11と絞り部12との間の圧力(上流圧力)P1を測定する上流圧力センサ13と、絞り部12の上流側と下流側との差圧ΔPを直接的に測定する差圧センサ20と、コントロール弁11の上流側の圧力(供給圧力)P0を測定する流入圧力センサ14と、流体の温度Tを測定する温度センサ15と、演算制御回路16とを備えている。
【0033】
演算制御回路16には、上流圧力センサ13、差圧センサ20、流入圧力センサ14、温度センサ15などが接続されており、演算制御回路16は各センサの出力を受け取ることができる。また、演算制御回路16は、コントロール弁11の駆動素子に接続されており、各センサの出力に基づいてコントロール弁11の開度を調整し、絞り部12の下流側に流れるガスの流量を制御することができる。
【0034】
図3は、本実施形態の流量制御装置10の具体的な構成を示す側面図および内部の流路(破線)を示す図である。
【0035】
図3に示すように、流路4は、本体ブロック17および出口ブロック18に穴を設けることによって形成されている。本体ブロック17および出口ブロック18は、好適には、使用するガスとの反応性を有しない物質、例えばステンレス鋼(SUS316Lなど)から形成される。なお、図3には、図2に示した温度センサ15は示していないが、流路4の近傍に有底の穴を設けその内部にサーミスタなどを配置することによって温度センサとして用いることができる。
【0036】
本体ブロック17の上面には、流入圧力センサ14、コントロール弁11、上流圧力センサ13および差圧センサ20の一次側ポートが取り付けられており、これらは絞り部12の上流側の流路4と流通している。また、出口ブロック18の上面には、差圧センサ20の二次側ポートが接続されており、絞り部12の下流側の流路4と流通している。
【0037】
本体ブロック17と出口ブロック18との境界において、絞り部12としてのオリフィス部材、より具体的にはオリフィスプレートが内蔵されたガスケット型オリフィス部材が設けられている。ただし、絞り部12は、オリフィスプレートに限られず、音速ノズル等を用いて構成することもできる。オリフィスまたはノズルの口径は、例えば10μm~500μmに設定される。
【0038】
上流圧力センサ13は、コントロール弁11と絞り部12との間の流路の圧力(上流圧力P1)を測定することができ、上流圧力P1に基づく比例流量制御のために用いられる。また、流入圧力センサ14は、ガス供給源2(例えば原料気化器)から供給されるガスの圧力(供給圧力P0)を測定することができ、ガス供給量または供給圧を調整するために用いられる。上流圧力センサ13および流入圧力センサ14は、例えばシリコン単結晶のセンサチップとダイヤフラムとを内蔵するものであってよい。
【0039】
また、差圧センサ20は、コントロール弁11と絞り部12との間の圧力と、絞り部12の下流側の圧力との差圧ΔPを直接的に測定するように構成されており、差圧流量制御を行うために用いられる。差圧センサ20も、シリコン単結晶のセンサチップとダイヤフラムとを内蔵するものであってよい。差圧センサ20の詳細構成については後述する。
【0040】
コントロール弁11は、例えば、弁体としての金属製ダイヤフラムと、これを駆動する駆動装置としてのピエゾ素子(ピエゾアクチュエータ)とによって構成されたピエゾ素子駆動式バルブであってよい。ピエゾ素子駆動式バルブは、ピエゾ素子への駆動電圧に応じて開度を変更することが可能であり、駆動電圧の制御により任意開度に調整することが可能である。
【0041】
本実施形態では、本体ブロック17の上流側に、流入口を有する入口ブロック19がガスケットを介して固定され、本体ブロック17の下流側に、流出口を有する出口ブロック18がガスケット型オリフィス部材(絞り部12)を介して固定されている。入口ブロック19および出口ブロック18も、例えばステンレス鋼(SUS316Lなど)から形成される。
【0042】
入口ブロック19および出口ブロック18に設けられた流路は比較的太く形成されているのに対して、本体ブロック17の特にコントロール弁11と絞り部12との間の流路は、できる限り細く形成されている。また、コントロール弁11の下流側の流路は、コントロール弁11の弁体の中央部から垂下するように延びている。
【0043】
このような構成によれば、コントロール弁11を閉鎖したときの、コントロール弁11と絞り部12との間の内容積を極力小さくすることができる。これにより、コントロール弁11を閉鎖した後に絞り部12を介して流出するガスの量が低減され、立下り応答性を向上させることができる。コントロール弁11の下流側の流路の径は、典型的には、コントロール弁11の上流側の流路の径よりも小さく設計される。
【0044】
演算制御回路16は、例えば、回路基板上に設けられたプロセッサやメモリなどによって構成され、入力信号に基づいて所定の演算を実行するコンピュータプログラムを含み、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせによって実現され得る。図示する態様では演算制御回路16は、流量制御装置10に内蔵されているが、その構成要素の一部(CPUなど)または全部が流量制御装置10の外側に設けられていてもよい。
【0045】
以下、図4および図5を参照して、流量制御装置10が備える差圧センサ20の構成を説明する。
【0046】
差圧センサ20は、絞り部12の上流側に接続される一次側接続部材21と、絞り部12の下流側に接続される二次側接続部材22と、一次側接続部材21および二次側接続部材22に接続されるセンサ本体23とによって構成されている。差圧センサ20において、センサ本体23の下面に一次側接続部材21が固定され、センサ本体23の側面に二次側接続部材22が固定されている。
【0047】
差圧センサ20は、図3に示したように、絞り部12をまたぐようにして、本体ブロック17および出口ブロック18に取り付けられる。このとき、一次側ポートと二次側ポートとの2か所での固定が必要になるので、位置ずれが生じやすい。このため、二次側接続部材22は、ある程度、接続位置調整しやすいように設計されていることが好ましく、本実施形態では、変形可能な配管部材としてのL字型に折れ曲がった薄肉の金属製細管を用いて構成されている。これにより、差圧センサ20を固定する際に位置ずれが生じたときにも、二次側接続部材22を変形させて、固定を適切に行うことができる。二次側接続部材22としては、よりフレキシブルなチューブ材を用いることもできる。
【0048】
差圧センサ20において、上流圧力P1は、一次側接続部材21を介してセンサ本体23に内蔵されたセンサチップへと伝達され、下流圧力P2は、二次側接続部材22を介して同じセンサチップへと伝達される。圧力の伝達は、例えば、圧力伝達用の封入液などを用いて行うことができる。
【0049】
図5は、センサ本体23に内蔵されたセンサチップ30を示す断面図である。センサチップ30は、薄板形状の感圧部(ダイヤフラム)31を有している。感圧部31は、例えばシリコン単結晶を切削加工することによって形成される。
【0050】
センサチップ30において、感圧部31の一方の面(ここでは下面)は第1封入液28に接しており、他方の面(ここでは上面)は第2封入液29に接している。第1封入液28は、上流圧力P1を伝達するものであり、第2封入液29は、下流圧力P2を伝達するものである。この構成において、感圧部31の一方の面には上流圧力P1が伝達され、感圧部31の他方の面には下流圧力P2が伝達される。なお、センサチップ30は、周囲を囲む支持部材34によって、センサ本体23に固定されている。
【0051】
また、センサチップ30の感圧部31には、歪センサ(またはピエゾ抵抗体)32が設けられている。歪センサ32は、感圧部31に生じる応力や歪を検出することが可能な限り、単体で構成されていてもよいし、複数で構成されていてもよい。また、その取り付け位置についても図示する態様に限定されるものではない。感圧部31に配置された歪センサ32の出力(電気抵抗値の変化)は、歪センサ32に接続された配線24(図4参照)を介して演算制御回路16に伝送される。
【0052】
以上の構成を有する差圧センサ20において、上流圧力P1は、第1封入液28を通じてセンサチップ30の感圧部31の一方の面に伝達される。また、下流圧力P2は、第2封入液29を通じてセンサチップ30の感圧部31の他方の面に伝達される。そして、感圧部31には、上流圧力P1と下流圧力P2との差圧の大きさに応じた表面応力が発生し、差圧の大きさに応じた歪みが生じる。
【0053】
感圧部31の歪みの大きさは、歪センサ32の電気抵抗値変化として配線24を通じて検出される。このようにして、差圧センサ20は、上流圧力P1と下流圧力P2との差圧ΔPを、各圧力の絶対値から減算により間接的に求めるのではなく、歪センサ32を用いて直接的に測定することができる。なお、歪センサ32は、通常、ブリッジ回路に組み込まれており、歪センサ32の歪量(抵抗値変化)はブリッジ出力信号として出力され、ブリッジ出力信号から差圧ΔPを求めることが可能である。
【0054】
再び図3を参照して、本実施形態の流量制御装置10では、上流圧力センサ13を用いて上流圧力P1を測定できるとともに、差圧センサ20を用いて絞り部12の両側の差圧ΔPを測定することができる。そして、流量制御装置10は、臨界膨張条件を満たしているか否かを、上流圧力P1と差圧ΔPとに基づいて判断する。より具体的には、(P1-ΔP)/P1が、臨界圧力比に対応する閾値(例えば、0.45)を超えているか否かによって臨界膨張条件下であるか、非臨界膨張条件下であるかを判断する。閾値は、全ガス種に対応する値を用いてもよいし、ガス種ごとに設定された値を用いてもよい。
【0055】
上記の(P1-ΔP)は、下流圧力P2に対応する圧力である。ただし、下流圧力センサを用いて測定されたものではなく、上流圧力センサ13と差圧センサ20との測定結果から演算によって求められるものである。そこで、本明細書では、区別のために、演算により求められる(P1-ΔP)を演算下流圧力P2’と呼ぶことがある。
【0056】
臨界膨張条件下であるか否かの判定は、上記のようにP2’/P1が閾値を超えるか否かによって行うものに限られない。例えば、P1/P2’が閾値(例えば、2.2)を超える場合に、臨界膨張条件下であると判定してもよい。好適な態様においては、上流圧力センサの出力する上流圧力P1と、上流圧力P1から差圧センサの出力する差圧ΔPを減算することによって得られる演算下流圧力P2’との比を、予め設定された対応する閾値と比較することによって判定が行われる。ただし、上流圧力P1および差圧ΔPを用いるものである限り、他の適切な判定式も使用し得る。また、上記のように閾値を超えたか否かではなく、閾値以上であるか否かによって判定してもよいことは言うまでもない。
【0057】
流量制御装置10は、臨界膨張条件下であると判断した場合、上流圧力P1に基づく比例制御による流量制御を行う。他方、非臨界膨張条件下であると判断した場合、上流圧力P1と、演算下流圧力P2’(=P1-ΔP)または差圧ΔPとに基づく差圧制御による流量制御を行う。
【0058】
より具体的には、臨界膨張条件下では、流量Qc=K1・P1(K1は流体の種類と流体温度に依存する比例係数)の関係が成立するので、上流圧力P1に基づく比例制御を行う。一方、非臨界膨張条件下では、流量Qc=K2・P2’m(P1-P2’)n=K2・P2’m(ΔP)n=K2・(P1-ΔP)mΔPn(K2は流体の種類と流体温度に依存する比例係数、指数m、nは実際の流量から導出された定数)の関係が成立するので、上流圧力P1と、演算下流圧力P2’または差圧ΔPとに基づく差圧制御を行う。演算制御回路16は、上記式によって求められた演算流量Qcと、入力された設定流量Qsとの差を求め、この差が0に近づくようにコントロール弁11の開度をフィードバック制御する。これにより、絞り部12の下流側に設定流量Qsでガスを流すことが可能である。
【0059】
なお、上記の比例制御および差圧制御としては、公知の種々の方法を採用することが可能である。例えば、特許文献2に記載されている方法と同様に、差圧制御を行う時には、下記の式に従って演算流量Qcを求めるようにしてもよい。
Qc=C1・P1/√T・((P2’/P1)m-(P2’/P1)n1/2
=C1・P1/√T・(((P1-ΔP)/P1)m-((P1-ΔP)/P1)n1/2
上記式において、C1はオリフィス断面積を含む係数、P1は上流圧力(Pa)、Tはガス温度(K)、P2’は演算下流圧力(Pa)、mおよびnは実際の流量から導出された定数である。
【0060】
また、特許文献2に記載の方法と同様に、差圧制御を行う時には、演算下流圧力P2’と流量誤差との関係を記憶した補正データ記憶回路を用いて、演算流量を補正するようにしてもよい。本実施形態の流量制御装置10は、下流圧力センサによって測定した下流圧力P2を用いる代わりに演算下流圧力P2’を用いることを除き、特許文献2等に記載の種々の公知の流量制御方式を採用し得る。同様に、本実施形態の流量制御装置10は、上流圧力センサおよび下流圧力センサの測定値から演算により求めた(P1-P2)を用いる代わりに、差圧センサを用いて直接測定した差圧ΔPを用いることを除き、特許文献2等に記載の種々の公知の流量制御方式を採用し得る。
【0061】
以下、本実施形態の流量制御装置において、絶対圧センサである下流圧力センサによる下流圧力P2を用いるのではなく、上流圧力センサおよび差圧センサによる演算下流圧力P2’を用いる理由について説明する。
【0062】
図6および図7は、それぞれ実施例および比較例における、圧力センサおよび差圧センサのゼロ点変動量(kPa)と、流量誤差(%S.P.)との関係を示すグラフ(シミュレーション結果)である。図6の実施例は、図3に示した差圧センサを備える流量制御装置を用いた場合に対応しており、図7の比較例は、特許文献1に記載のように上流圧力センサと下流圧力センサとを備えた従来の流量制御装置を用いた場合に対応している。なお、ゼロ点変動量とは、いずれの圧力においても生じる、真の圧力と測定圧力との差(シフト量)を意味し、圧力センサにおいて校正しきれない誤差や、圧力センサの長期間の使用にともなって発生する測定圧力のずれ、あるいは、温度による測定圧力のずれ(温度ドリフト)などに対応するものである。
【0063】
図6には、上流圧力センサ(P1センサ)と差圧センサとのいずれか一方にゼロ点変動が生じており、測定圧力が真の圧力値と異なる場合に、誤差による圧力のずれの大きさが流量にどのように影響するかを示している。同様に、図7には、上流圧力センサ(P1センサ)と下流圧力センサ(P2センサ)とのいずれか一方にゼロ点変動が生じており、測定圧力が真の圧力値と異なる場合に、誤差による圧力のずれの大きさが流量にどのように影響するかを示している。なお、流量誤差は、差圧制御を行うときに生じる流量誤差を示している。
【0064】
図6において、「差圧センサ固定」とは、差圧センサにゼロ点変動が生じていない一方でP1センサにゼロ点変動が生じていることを意味し、「P1センサ固定」とは、P1センサにゼロ点変動が生じていない一方で差圧センサにゼロ点変動が生じていることを意味する。同様に、図7において、「P2センサ固定」とは、P2センサにゼロ点変動が生じていない一方でP1センサにゼロ点変動が生じていることを意味し、「P1センサ固定」とは、P1センサにゼロ点変動が生じていない一方でP2センサにゼロ点変動が生じていることを意味する。
【0065】
また、図6および図7には、下流圧力P2が100Torrの場合と400Torrの場合との2種類のグラフが示されている。上流圧力P1が2280Torrのときに100%流量(最大制御流量)でガスを流すように構成された流量制御装置において、下流圧力P2が100Torrのときは、上流圧力P1が222Torr(9.7%流量に対応)以下であれば差圧制御が行われる。また、同装置において、下流圧力P2が400Torrのときは、39.0%以下において差圧制御が行われる。図6および図7には、4%流量でガスを流すように差圧制御を行ったときの関係が示されている。
【0066】
図6に示す実施例では、P1センサにゼロ点変動が生じている場合(差圧センサ固定)において、その変動量が比較的大きく、例えば、±0.2kPaのゼロ点変動が生じていたとしても、流量誤差は±1%S.P.以内に収まる。これは、下流圧力P2が100Torrのときにも、400Torrのときにも言えることであり、下流圧力P2が大きいときほどP1センサのゼロ点変動が流量精度に与える誤差の程度は小さくなっている。なお、流量誤差が±1%S.P.以内の場合、一般的には、精度良く流量制御が行われているものと考えることができる。以下、流量誤差が±1%S.P.以内に収まるゼロ点変動量を、許容変動量と呼ぶことがある。
【0067】
また、図6に示す実施例において、差圧センサにゼロ点変動が生じている場合(P1センサ固定)には、下流圧力P2が100Torrと比較的小さいときには、許容変動量は±0.1kPa程度であり、下流圧力P2が400Torrと比較的大きいときには、許容変動量は±0.02kPa程度と非常に狭い範囲となっている。
【0068】
一方で、図7に示す比較例では、P1センサにゼロ点変動が生じている場合(P2センサ固定)にも、P2センサにゼロ点変動が生じている場合(P1センサ固定)にも、比較的狭い許容変動量となっている。特に、下流圧力P2が400Torrと比較的大きいときには、P1センサおよびP2センサのいずれにゼロ点変動が生じたときにも、その許容変動量εは±0.02kPaであり、非常に狭い範囲となっている。
【0069】
以上のことから、少なくとも上流圧力センサ(P1センサ)にゼロ点変動が生じている場合においては、実施例の流量制御装置の方が、比較例の流量制御装置に比べて、許容変動量が大きく、ゼロ点ズレに強いものであることがわかる。そして、実施例においては、上流圧力センサのゼロ点変動は、下流圧力P2が大きいときほど流量誤差に反映されにくい。したがって、実施例の方が、下流圧力P2が大きく小流量の流量制御を行うときに有利であることが分かる。
【0070】
さらに、差圧センサを用いた本実施形態の流量制御装置では、差圧センサのゼロ点変動が比較的生じにくいという特長がある。その理由は、差圧センサのゼロ点校正は、上流圧力P1と下流圧力P2とが同じであれば、それらの大きさにかかわらず、適切に実行することが可能であり、流量制御装置がラインに搭載された状態でも前後に設けられたバルブを閉止することで校正が可能だからである。これに対して、上流圧力センサおよび下流圧力センサのゼロ点校正は、理想的には圧力が完全に0の真空空間に接続した状態で行われる必要があるが、このような真空空間を実現することは容易ではなく、また、基準となる真空度を測定するセンサが必要となるため、ラインに搭載された状態では実質的に校正を行うことができない。したがって、差圧センサに比べれば、上流圧力センサおよび下流圧力センサのゼロ点変動は大きくなりやすい。
【0071】
このように、本実施形態の流量制御装置10によれば、差圧センサのゼロ点変動は比較的小さく、また、上流圧力センサのゼロ点変動が生じていたとしても、比較的高い精度で流量制御を行うことができる。特に、下流圧力P2が高く、小流量の制御を行うときにも上流圧力センサのゼロ点変動が流量誤差へと反映されにくいので、広い制御範囲にわたって適切に流量制御を行うことができる。
【0072】
以下、図8および図9を参照しながら、他の実施形態の流量制御装置10Aについて説明する。なお、図3図5に示した実施形態の流量制御装置10と同様の構成を有する要素については、同じ参照符号を付すとともに説明を省略する場合がある。
【0073】
図8は、流量制御装置10Aの具体的な構成を示す側面図および内部の流路(破線)を示す図である。流量制御装置10Aでは、図3に示した流量制御装置10とは異なり、上流圧力センサと差圧センサとを別個に設ける代わりに、上流圧力センサと差圧センサとが一体的に形成された一体型センサ35が設けられている。
【0074】
一体型センサ35の一次側ポートは、絞り部12の上流側(本体ブロック17)に接続され、一体型センサ35の二次側ポートは、絞り部12の下流側(出口ブロック18)に接続される。一体型センサ35は、従来の流量制御装置の本体ブロックに設けられていた上流圧力センサ用の取付部および下流圧力センサ用の取付部を利用して取り付けることも可能である。
【0075】
図9は、一体型センサ35が備えるセンサチップ30Aの構成を示す断面図である。センサチップ30Aにおいて、第1封入液28は、差圧ΔPを測定するための感圧部31と、上流圧力P1を測定するための第2感圧部37との双方に接してる。
【0076】
感圧部31の対向面には、図5に示したセンサチップ30と同様に、第2封入液29が接しており、歪センサ32を用いて上流圧力P1と下流圧力P2との差圧ΔPを測定することができる。一方、第2感圧部37の対向面は、内部が真空圧Pvに保たれた真空部屋36に接している。この構成において、第2感圧部37に取り付けられた歪センサ38は、第2感圧部37に生じた応力、すなわち、上流圧力P1の大きさに応じた応力を検出することができる。
【0077】
以上に説明したセンサチップ30Aを備えた一体型センサ35では、上流圧力P1と、差圧ΔPとの両方を独立して測定することができる。したがって、上流圧力センサと差圧センサとを別個に設ける必要がなく、装置のコンパクト化に貢献することができ、さらなる利便性を得ることができる。
【0078】
以下、図10を参照しながら、本発明の実施形態に係る流量制御装置を用いた流量制御方法の例示的なフローチャートを説明する。
【0079】
まず、ステップS1において、上流圧力センサおよび差圧センサ(あるいは一体型センサ)を用いて、上流圧力P1および差圧ΔPを測定する。
【0080】
次に、ステップS2において、臨界膨張条件下であるか否かを判定する。より具体的には、ステップS1の測定によって得られた(P1-ΔP)/P1が、閾値を超えているか否かを判定する。
【0081】
ステップS2において、閾値を超えていない場合、臨界膨張条件下であると判断して、ステップS3において、上流圧力P1に基づく比例制御方式を選択する。一方、ステップS2において、閾値を超えている場合、ステップS4において、上流圧力P1および差圧ΔPに基づく差圧制御方式を選択する。
【0082】
その後、ステップS5において、選択されたいずれかの制御方式に従って、コントロール弁をフィードバック制御し、設定流量でガスを流すことができる。
【0083】
以上のように、上流圧力センサおよび差圧センサを用いれば、臨界膨張条件下であるか否かを適切に判定することが可能であり、比例制御および差圧制御のうちの適切な制御を選択することができる。そして選択された制御方式に従って、センサ誤差の影響が低減された状態で、幅広い流量範囲にわたって適切に流量制御を行うことができる。
【0084】
以下、下流圧力センサと差圧センサとを用いる、さらに他の実施形態の流量制御装置10Bについて説明する。なお、前述の実施形態の流量制御装置10(図2、3参照)と同様の構成要素については、同じ参照符号を付すとともに、詳細な説明を省略することがある。
【0085】
図11は、さらに他の実施形態にかかる流量制御装置10Bを示す。流量制御装置10Bは、流量制御装置10と同様に、コントロール弁11と、絞り部12と、差圧センサ20と、流入圧力センサ14と、温度センサ15と、演算制御回路16とを備えている。ただし、流量制御装置10Bは、流量制御装置10の上流圧力センサ13の代わりに、下流圧力センサ13Bを有している。
【0086】
図12は、流量制御装置10Bの具体的な構成を示す側面図である。本体ブロック17の上面には、流入圧力センサ14、コントロール弁11、および差圧センサ20の一次側ポートが取り付けられており、これらは絞り部12の上流側の流路と流通している。また、出口ブロック18の上面には、差圧センサ20の二次側ポートが接続されており、絞り部12の下流側の流路と流通している。
【0087】
また、流量制御装置10Bにおいて、出口グロック18の上面には、下流圧力センサ13Bが固定されている。下流圧力センサ13Bは、絞り部12の下流側の流路の圧力(下流圧力P2)を測定することができる。下流圧力センサ13Bは、例えばシリコン単結晶のセンサチップとダイヤフラムとを内蔵するものであってよい。
【0088】
また、本実施形態においても、差圧センサ20は、コントロール弁11と絞り部12との間の圧力と、絞り部12の下流側の圧力との差圧ΔPを直接的に測定するように構成されており、差圧流量制御を行うために用いられる。差圧センサ20は、前述の実施形態と同じ構成を有していてよい。
【0089】
流量制御装置10Bでは、図2、3に示した流量制御装置10とは異なり、上流圧力センサ13が設けられていない。このため、コントロール弁11と絞り部12との間の容積Vsが、より低減されている。これにより、コントロール弁11を閉鎖した後に絞り部12を介してより速くガスが流出し、流量制御装置10に比べても、立下り応答性をさらに向上させることができる。
【0090】
次に、流量制御装置10Bを用いた流量制御について説明する。流量制御装置10Bは、差圧センサ20の出力する差圧ΔPと、下流圧力センサ13Bの出力する下流圧力P2とを用いて、絞り部12の下流側に流れるガスの流量を制御するように構成されている。
【0091】
流量制御装置10Bは、臨界膨張条件を満たしているか否かを、差圧ΔPと下流圧力P2に基づいて判断し、例えば、P2/(ΔP+P2)が、臨界圧力比に対応する閾値(例えば、0.45)を超えているか否かによって臨界膨張条件下であるか、非臨界膨張条件下であるかを判断する。ここで、(ΔP+P2)は、上流圧力P1に対応する圧力である。本明細書では、演算により求められる(ΔP+P2)を演算上流圧力P1’と呼ぶことがある。本実施形態では、演算上流圧力P1’と下流圧力P2との比を、予め設定された閾値と比較することによって臨界膨張条件下であるか否かが判断される。
【0092】
流量制御装置10Bは、臨界膨張条件下であると判断した場合、演算上流圧力P1’(=ΔP+P2)に基づく比例制御による流量制御を行い、非臨界膨張条件下であると判断した場合、演算上流圧力P1’または差圧ΔPと、下流圧力P2とに基づく差圧制御による流量制御を行う。
【0093】
より具体的には、臨界膨張条件下では、流量Qc=K1・(ΔP+P2)に基づく比例制御を行う。また、非臨界膨張条件下では、流量Qc=K2・P2m(P1’-P2)n=K2・P2m・ΔPnに基づく差圧制御を行う。ここで、K1、K2は、流体の種類と流体温度に依存する比例係数であり、指数m、nは実際の流量から導出された定数である。演算制御回路16は、上記式によって求められた演算流量Qcと、入力された設定流量Qsとの差を求め、この差が0に近づくようにコントロール弁11の開度をフィードバック制御する。これにより、絞り部12の下流側に設定流量Qsでガスを流すことが可能である。
【0094】
また、流量制御装置10Bにおいて、差圧制御は、特許文献2に記載されている方法と同様に、下記の式に従って演算流量Qcを求めるようにしてもよい。
Qc=C1・P1’/√T・((P2/P1’)m-(P2/P1’)n1/2
=C1・(ΔP+P2)/√T・((P2/(ΔP+P2))m-(P2/(ΔP+P2))n1/2
上記式において、C1はオリフィス断面積を含む係数、P1は上流圧力(Pa)、Tはガス温度(K)、P2’は演算下流圧力(Pa)、mおよびnは実際の流量から導出された定数である。
【0095】
本実施形態の流量制御装置10Bは、上流圧力センサによって測定した上流圧力P1を用いる代わりに演算上流圧力P1’を用いることを除き、あるいは、上流圧力センサおよび下流圧力センサの測定値から演算により求めた(P1-P2)を用いる代わりに差圧センサを用いて直接測定した差圧ΔPを用いることを除き、特許文献2等に記載の種々の公知の流量制御方式を採用し得る。
【0096】
また、流量制御装置10Bにおいて、下流圧力P2が相当小さい状態(高真空状態)で、臨界膨張条件下であると判断されたときには、差圧センサ20が出力する差圧ΔPを上流圧力P1と見なし、比例制御をQc=K1・ΔPに基づいて行うことも可能である。また、流量制御装置10Bにおいても、図8および9に示した一体型センサと同様の構成により、差圧センサ20と下流圧力センサ13Bとを統合した一体型センサを用いることも可能である。
【0097】
以上に説明した流量制御装置10Bにおいても、差圧センサ20を用いているので、圧力センサに生じ得るゼロ点変動の影響が流量制御に反映されにくく、また、比例制御および差圧制御の両方が行えるので、臨界膨張条件下および非臨界膨張条件下のいずれであっても精度よく流量制御が可能である。したがって、広い制御範囲にわたって適切に流量制御を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の実施形態による流量制御装置は、広い制御範囲で精度よく流量制御を行うために好適に利用される。
【符号の説明】
【0099】
1 ガス供給系
2 ガス供給源
3、5 開閉弁
4 流路(ガス供給ライン)
6 プロセスチャンバ
7 真空ポンプ
10 流量制御装置
11 コントロール弁
12 絞り部
13 上流圧力センサ
13B 下流圧力センサ
14 流入圧力センサ
15 温度センサ
16 演算制御回路
17 本体ブロック
18 出口ブロック
19 入口ブロック
20 差圧センサ
21 一次側接続部材
22 二次側接続部材
23 センサ本体
30 センサチップ
31 感圧部
32 歪センサ
35 一体型センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12