(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】落下感を体験可能な仮想体験装置
(51)【国際特許分類】
A63G 31/06 20060101AFI20240529BHJP
【FI】
A63G31/06
(21)【出願番号】P 2023500170
(86)(22)【出願日】2021-02-17
(86)【国際出願番号】 JP2021005846
(87)【国際公開番号】W WO2022176044
(87)【国際公開日】2022-08-25
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】519152803
【氏名又は名称】株式会社ロジリシティ
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野々村 哲弥
【審査官】佐々木 崇
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-517366(JP,A)
【文献】国際公開第2020/178869(WO,A1)
【文献】[Online]Omoracy VRバンジージャンプ装置 3,2018年12月22日,omoracy.com/2018/12/22/bungy-vr-3/,[2021年4月23日検索]
【文献】Omoracy [Online],2020年09月28日,https://web.archive.org/web/20200928121211/http://omoracy.com/,[2021年4月23日検索]
【文献】「SKEのへーきん」でバンジージャンプのVR体験を提供しました![Online],2020年11月10日,インターネット:<URL:https://note.com/merrycopter/n/n5c6767bb2447>,[2021年4月28日検索]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63F 9/24
13/00-13/98
A63G31/00-31/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
体験者が固定される平板と、
前記平板を回転可能に支持する回転支持部が形成され、前記体験者を頭部が足部よりも上方に位置する、
前記体験者の身体が横になる姿勢の第1の状態から前記体験者の身体が倒立する倒立状態まで前記平板を回転可能にする器具と、
前記体験者の頭部に取り付けられ
、仮想空間上の映像表示を行う表示器を備えるVRヘッドセットと、
を備え、
前記器具が前記第1の状態から回転して前記器具が設置される床面からの高さが所定の高さ以下となったときの第2の状態を検出するセンサと、
前記第1の状態で前記表示器に表示される停止映像と、前記第2の状態になったときから前記表示器に表示される落下映像とを含む映像ソフトウエアと、を備える、
落下感を体験可能な仮想体験装置。
【請求項2】
前記落下映像は、前記体験者の身体が前記倒立状態となった以降も落下する映像を含む、請求項1記載の落下感を体験可能な仮想体験装置。
【請求項3】
前記VRヘッドセットは、前記落下映像が最下位置に達すると最下位置状態であることを外部に報知する請求項2記載の落下感を体験可能な仮想体験装置。
【請求項4】
前記停止映像と前記落下映像は、バンジージャンプをするときの映像で構成される、請求項1から3のいずれかに記載の落下感を体験可能な仮想体験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バンジージャンプやジェットコースター等の落下感を仮想体験できる仮想体験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運動器具を使って身体を動かすことにより健康を増進する様々なジムナスティックトレーニング装置が実用化されている。例えば、回転可能な平板上に身体を固定して、平板の回転と逆回転を繰り返すことで、身体をシーソー状に前後回転させるトレーニング装置が提案されている(特許文献1)。
【0003】
一方、運動器具とVR(Virtual Reality)ヘッドセットとの組み合わせで健康を増進するトレーニング装置も実用化されている。例えば、エアロバイク(登録商標)やスピンバイクと称される室内での自転車形状の運動器具と、VRヘッドセットとを組み合わせ、VRヘッドセットにBluetooth(登録商標)で接続したスピンセンサが取り付けられているペダルの回転に応じて、VRヘッドセットでStreet View(登録商標)の映像を進めるトレーニング装置(ソフトウエア)が販売されている(非特許文献1)。
【0004】
また、VRヘッドセットと手元スイッチを使って3D映像やより現実感のあるゲームを楽しめる様々なソフトウエアも普及しつつある。その中には、VRヘッドセットにジェットコースター時の映像や、バンジージャンプ時の映像を流すバンジーVRソフトウエアも含まれる(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】VZFIT (https://www.virzoom.com/)
【文献】竜神大吊橋バンジーVR (https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.co.ohtsuribashi.bungee)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、運動器具だけを使うトレーニング装置は、健康を増進することを目的とするものであるため、それ自体、ゲーム性を持つものではない。また、運動器具とVRヘッドセットとの組み合わせは、ゲームとしての楽しみに限界があり、若年層に支持されるような恐怖感や挑戦感を出すことが出来ない。また、VRヘッドセットと手元スイッチを使うゲームは、たとえ、バンジージャンプ映像ソフトウエアであっても、身体が動かないため恐怖感や挑戦感は不十分で、体感的にも実際のバンジージャンプに比して満足感が不十分である。
【0008】
そこで、本発明は、実際のバンジージャンプやジェットコースターにより近い体感を得ることができる、落下感を体験可能な仮想体験装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる落下感を体験可能な仮想体験装置は、
体験者が固定される平板と、
前記平板を回転可能に支持する回転支持部が形成され、前記体験者を頭部が足部よりも上方に位置する第1の状態から前記体験者の身体が倒立する倒立状態まで前記平板を回転可能にする器具と、
前記体験者の頭部に取り付けられるVRヘッドセットと、を備え、
前記VRヘッドセットは、
前記器具が前記第1の状態から回転して前記器具が設置される床面からの高さが所定の高さ以下となったときの第2の状態を検出するセンサと、
仮想空間上の映像表示を行う表示器と、
前記第1の状態で前記表示器に表示される停止映像と、前記第2の状態になったときから前記表示器に表示される落下映像とを含む映像ソフトウエアと、を備えている。
【0010】
平板には体験者が伏臥位の姿勢で固定される。体験者の固定には例えばベルトが使用され、このベルトで体験者の足首や腹部を平板に固定する。体験者が固定された平板は、体験者を頭部が足部よりも上方に位置する第1の状態から体験者の身体が倒立する倒立状態まで回転可能である。
【0011】
体験者は、頭部にVRヘッドセットを付属のベルト等で取り付ける。VRヘッドセットに設けられているセンサは前記第2の状態を検出する。このセンサには、VRヘッドセットの位置(ポジション)を検出するポジショニングセンサが使用可能である。ポジショニングセンサは、例えばVRヘッドセットに配置された複数のカメラで構成される。これらのカメラで撮像した画像を処理することで、VRヘッドセットの位置(3軸上のポジション)を検出する。ポジショニングセンサの他の例としてジャイロセンサを使うことも可能であり、さらに、赤外線センサやLEDセンサ等の周知のセンサで構成することも可能である。本発明では、少なくともZ軸上の高さを検出できるセンサであれば良い。なお、これらのセンサは、VRヘッドセットの位置の変化を追尾(トラッキング)する機能を備えていることが望ましい。
【0012】
また、VRヘッドセット内には、映像ソフトウエアが予めインストールされている。
【0013】
映像ソフトウエアは、第1の状態で前記表示器に表示される停止映像と、前記第2の状態になったときから前記表示器に表示される落下映像とを含む。停止映像は、落下前の周囲の映像であり、落下映像は、落下後の落下方向の映像である。映像ソフトウエアは例えばバンジージャンプ映像ソフトウエアである。
【0014】
以上の構成で、体験者が平板に伏臥位の姿勢で固定され映像ソフトウエアを起動される。このとき、体験者は頭部が足部よりも上方に位置する第1の状態であり、映像ソフトウエアは停止映像を出力し、VRヘッドセット内の表示器は、停止映像を表示する。VRヘッドセットのセンサがVRヘッドセットの位置(ポジション)検出とそのトラッキングをするセンサであれば、その検出出力に応じて停止映像が変化する。すなわち、体験者が頭部を回転すれば、その回転方向に追従した映像が停止映像として表示される。
【0015】
前記センサが、前記器具が第1の状態から回転して前記器具が設置される床面からの高さが所定の高さ以下となったときの第2の状態を検出すると、停止映像から落下映像に切り替わる。すなわち、第1の状態から、平板が前方に回転しだすと、床からVRヘッドセットの位置までの高さが所定の高さ以下である第2の状態になったときをトリガーとして、停止映像から落下映像に切り替わる。このとき、平板は回転しているため、体験者は身体が回転することに同期してVRヘッドセット内の表示器に落下映像が表示される。
【0016】
このように、平板が回転することと同期して、VRヘッドセットの表示器に表示される映像を停止映像から落下映像に切り替えることで、体験者は仮想空間上で最上位置から下方に落下するときの恐怖感を含む強い没入感を体験できる。
【0017】
好ましい実施形態では、前記落下映像は、体験者の身体が前記倒立状態となった以降も落下する映像を含む。平板が第2の状態から倒立状態に回転する時間は1秒程度であるが、落下映像の時間はそれ以上、例えば4秒前後である。したがって、体験者が倒立状態になって回転が停止したときから、さらに落下映像が続く。
【0018】
ここで重要なことは、体験者が第2の状態から倒立状態になる1秒の間に落下映像が表示されていることである。体験者は、この1秒の間に落下映像と回転により落下を体感するため落下感が強く印象付けられる。このため、その後に倒立状態で回転が停止している状態では、落下映像を表示するだけで、引き続き落下していると錯覚する。これにより、回転が1秒の短時間であっても、4秒の落下を仮想体験することが出来る。
【0019】
このように、最初に平板の回転と落下画像の表示を行うことで、体験者に落下感を強く印象付けることが出来ることから、その後は落下映像を表示するだけで体験者にそれまでと同様な落下感を錯覚させることが出来る。このように人の脳の錯覚を利用することで実際の落下感のある仮想体験を可能にするため、構造が簡易で良い利点がある。
【0020】
さらに、好ましい実施形態では、前記VRヘッドセットは、前記落下映像が最下位置に達すると最下位置状態であることを外部に報知する。外部への報知は、例えば、VRヘッドセットにBluetooth(登録商標)で接続された手元スイッチを振動させることで可能である。落下映像が最下位置状態であることを外部に報知することで、最下位置に達した後の没入感をさらに強くすることが可能である。例えば、落下映像が最下位置状態であることを補助者が手元スイッチの振動で把握すると、平板を逆回転させる。このとき、落下映像は最下位置から上方に戻る時の映像としておく。この映像と平板の逆回転とにより、体験者は最下位置近辺でマイナス加速度により上方に戻ったり浮遊しているように錯覚する。このときも人の脳の錯覚を利用することで、実際の最下位置近辺での落下状態の仮想体験を可能にする。
【発明の効果】
【0021】
このように、本発明は、平板を回転可能に支持する回転中心部が形成された器具と、センサを内蔵したVRヘッドセットとの組み合わせで、仮想空間において実際の落下状態を強い没入感で体験することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明のバンジージャンプ仮想体験装置において体験者が平板に固定されたときの図である。
【
図2】
図2は、本発明のバンジージャンプ仮想体験装置において平板が回転している途中の状態を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明のバンジージャンプ仮想体験装置において体験者が倒立状態になったときの状態を示す図である。
【
図4】
図4(A)~(C)は、本発明のバンジージャンプ仮想体験装置の停止映像と落下映像の切り出し画像である。
【
図5】
図5(D)~(F)は、本発明のバンジージャンプ仮想体験装置の落下映像の切り出し画像である。
【
図6】
図6(G)~(I)は、本発明のバンジージャンプ仮想体験装置の落下映像の切り出し画像である。
【
図7】
図7は、仮想体験装置1の電気的な構成図を示している。
【
図8】
図8は、仮想体験装置1の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、本発明のバンジージャンプ仮想体験装置において体験者が平板に固定されたときの図である。
【0024】
図1において、仮想体験装置1は、器具10と、VRヘッドセット11とで構成されている。
【0025】
器具10は、体験者2を伏臥位の姿勢で固定可能な平板100と、平板100上の体験者2の両足首を平板100に固定するベルト101と、平板100を回転可能に支持する回転支持部102と、回転支持部102が固定され、平板100を安定に保持する器具本体103とで構成される。
【0026】
器具本体103は、正面視で逆V字形状となる構造を備え、平面な床3上に設置される。器具本体103を逆V字形状となる構造としているのは、頂角部分を閉じることによって器具本体103全体の運搬を簡便にするためである。器具本体103は、平板100を回転可能に支持できるものであればどのような構造であっても良い。
【0027】
VRヘッドセット11には、複数のカメラで構成されるポジショニングセンサ110、制御部111、表示器112が設けられている(
図7参照)。ポジショニングセンサ110は、例えばVRヘッドセットに配置された複数のカメラで構成される。これらのカメラで撮像した画像を処理することで、床3とセンサ110間の距離(高さ)を含む、VRヘッドセット11の位置(3軸上のポジション)を検出する。ポジショニングセンサ110の他の例としてジャイロセンサを使うことも可能であり、さらに、赤外線センサやLEDセンサ等の周知のセンサで構成することも可能である。本発明では、少なくともZ軸上の高さを検出できるセンサであれば良い。なお、これらのセンサは、VRヘッドセットの位置の変化を追尾(トラッキング)する機能を備えていることが望ましい。
【0028】
図1では、体験者2が平板100上に乗り、両足首がベルト101で平板100に固定される。これでバンジージャンプ仮想体験の準備が完了する。この状態は体験者2の頭部が足部よりも上方に位置する第1の状態である。なお、VRヘッドセット11には予めバンジー映像ソフトウエアがインストールされていて、且つ同ソフトウエアも動作状態とされている。このバンジー映像ソフトウエアは、落下前の周囲の映像を示す停止映像と、落下時の落下映像とで構成される。
図1の第1の状態では、VRヘッドセット11の表示器112に停止映像が表示されている。停止映像は、落下前のVRヘッドセット11の周囲の映像である。VRヘッドセット11には、トラッキング機能を持つポジショニングセンサ110が設けられているため、体験者2が下方を見るように顔を下げればジャンプ時の最下位置を臨む映像がVRヘッドセット11内の表示器112に表示される。また、体験者2が左右を見るために頸部を回すと、それに応じて周囲の映像も変わる。
【0029】
図1の状態から、
図2のように平板100が前方に少しだけ回転される。例えば、補助者が平板100の底部を上方に持ち上げて平板100を回転させる。補助者がいない場合は、体験者自らが前方に重心を移動させると、平板100は、
図1の状態から
図2のように回転する。このときは実際のバンジージャンプにおいて体験者が飛び降りる直前の状態であり、表示器112には落下直前の状態で最下位置を見る映像が表示されている。
【0030】
図2は、バンジージャンプ仮想体験装置1において平板100が回転している途中の状態で、ポジショニングセンサ110と床3間の距離がh1になる直前の状態を示している。つまり、
図2は、VRヘッドセット11の床3からの高さがh1+Δとなる状態である。
【0031】
VRヘッドセット11内に設けられているポジショニングセンサ110は、
図1から
図2の状態までの変化でVRヘッドセット11が数10センチ低下することを検出する。この間、バンジー映像ソフトウエアから出力される映像は停止映像であるが、体験者2の頭部の位置変化に応じたVRヘッドセット11の位置変化がトラッキングされるため、その位置変化に応じた停止映像となる。
図2では、停止映像は、ビルの上から下を見下ろす映像である。
【0032】
図2の状態から補助者によりまたは体験者2の重心移動によって平板100がさらに回転すると、すぐにポジショニングセンサ110と床3間の距離がh1になる。このときが第2の状態である。第2の状態になったときをトリガーとして、バンジー映像ソフトウエアの映像が停止映像から落下映像に切替えられる。また、平板100は
図3の倒立状態まで一気に回転する。
【0033】
このように、第1の状態(
図1)から平板100が少し前方に回転して落下直前となり(
図2)、その状態から平板100がさらに回転すると、ポジショニングセンサ110と床3間の距離がh1となる第2の状態を経て一気に倒立状態(
図3)となって平板100の回転が停止する。
図2から
図3までの回転時間は1秒前後(以下、単に1秒とする)である。
【0034】
後述のように、バンジー映像ソフトウエアは、
図1の第1の状態から
図2の状態になるまで停止映像を出力し、
図2から平板100がさらに回転してポジショニングセンサ110と床3間の距離がh1になると(第2の状態)、落下映像の出力に切り替える。そして、倒立状態(
図3)になってさらに落下映像を出力し続ける。落下映像は4秒程度(以下、単に4秒とする)の長さである。したがって、体験者2は、第2の状態から倒立状態となって、さらに数秒間経過するまでの間落下映像を見る。
【0035】
このように、ポジショニングセンサ110と床3間の距離がh1になる第2の状態から、さらに平板100が回転し、
図3の状態となる間、体験者2は、ビルの上から下をみたときの停止映像から急に落下映像を見る。また、体験者2は、その期間において身体が急激に90度回転して倒立状態になる。落下映像は、倒立状態となってからもさらに数秒間続く。
【0036】
ここで重要なことは、体験者2が第2の状態から倒立状態になる1秒の間に落下映像が表示されていることである。体験者は、この1秒の間に落下映像と平板100の回転により落下を体感するため落下感が強く印象付けられる。このため、その後に倒立状態となって回転が停止していても、その後に落下映像を表示するだけで、引き続き落下していると錯覚する。このような錯覚は、クロスモーダル効果によるものと推定される。クロスモーダル効果はある感覚情報が他の感覚情報(メカニズム)に干渉して、感覚情報自体が変化する現象をいう。本実施形態では、VRヘッドセット11による視覚入力、平板100の回転による重力加速度の感覚入力、倒立状態での体感入力などにより、空間認知をクロスモーダル効果によって変調させることで、倒立状態において継続的な落下を錯覚させているものと思われる。本実施形態では、このクロスモーダル効果による錯覚を利用しているものと言える。これにより、回転が1秒の短時間であっても、4秒の落下を仮想体験することが出来る。
【0037】
以上のように、最初に平板100の短時間1(秒)の回転と落下画像の表示を同期して行うことで、体験者2に落下感を強く印象付けることができるため、その後は落下映像を表示するだけで体験者2にそれまでと同様な落下感を錯覚させることが出来る。このため、平板100を短時間回転させるだけで、体験者2はその回転時間を超える時間の落下する強い没入感を体験できる。
【0038】
本実施形態では、VRヘッドセット11は、落下映像が最下位置に達すると最下位置状態であることを手元スイッチ113に報知する。手元スイッチ113はこのとき振動する。すると、補助者は、落下映像が最下位置状態であることを知ることが出来るため、平板100を逆回転する。このとき、落下映像から、最下位置から上方に戻ったり最下位置付近で浮遊する浮遊映像に切り替わる。この浮遊映像と平板100の逆回転とにより、体験者2は最下位置近辺でマイナス加速度により上方に戻ったり浮遊しているように錯覚する。
【0039】
このあと、平板100を
図1の元の位置に戻して、体験者2は平板100から解放される。
【0040】
このようにして、体験者2は、バンジージャンプの仮想体験を得ることが出来る。本実施形態では、バンジージャンプの映像を見ることと同期して体験者2の身体が回転するから、落下時の没入感が大きい。このため、体験者2は実際のバンジージャンプと同様な恐怖感を含む仮想体験をすることが出来る。
【0041】
なお、
図1~
図3では、仮想体験装置1の前方に送風機114を配置している。送風機114は、体験者2に対し、落下時の風を与えるものである。送風機114は、停止映像が表示されるときから送風を開始し、落下映像が完全に終了したときに送風を停止する。また、変形例として、落下映像の表示が開始したときから送風量を急激に多くする。このように送風量を制御すれば、実際のバンジージャンプの感覚にさらに近づけることが出来る。
【0042】
図4~
図6は、バンジー映像ソフトウエアでVRヘッドセット11内の表示器112に表示される停止映像と落下映像を切り出した画像(映像フレーム)を示している。
【0043】
図4(A)・・・落下直前の停止映像の映像フレーム
図4(B)・・・落下開始直後のt=0の映像フレーム
図4(C)・・・落下開始直後のt=1の映像フレーム
図5(D)・・・落下開始直後のt=2の映像フレーム
図5(E)・・・落下開始直後のt=3の映像フレーム
図5(F)・・・落下開始直後のt=4の映像フレーム
図6(G)・・・落下開始直後のt=5の映像フレーム
図6(H)・・・落下開始直後のt=6の映像フレーム
図6(I)・・・落下開始直後のt=7の映像フレーム
落下映像は4秒であるが、上記の落下時の映像フレームは落下映像を一部切り出したものであり、t=7以降の映像フレームは省略している。実際にはt=7以降の落下時の映像フレームも存在している。また、
図1の状態での停止映像の映像フレームと最下位置に達した以降の浮遊時の映像フレームも省略している。
【0044】
バンジー映像ソフトウエアは
図1のように体験者2が平板100に固定されてから起動される。バンジー映像ソフトウエアは、
図2の落下直前では、
図4(A)の映像フレームを含む停止映像を出力する。この停止映像は、ビルの屋上から下を見た落下直前の映像である。実際には、
図4(A)の映像フレームは周囲を3D表示する映像から体験者2の視野方向を切り出したものである為、体験者2が上下左右へ頸部を回すと、それに応じた視野方向の動画映像を表示する。
【0045】
平板100が
図2の状態から回転し始めて、ポジショニングセンサ110が、VRヘッドセット11から床3までの距離が高さh1となったことを検出すると、映像は停止映像から落下映像に切り替わる。落下映像は、t=0、t=1、t=2・・・・・と連続的に変化する動画映像となって表示器112に表示される。
【0046】
t=0~t=7までの映像フレームは、体験者2がビルの屋上から飛び降りて地上に向かって落下しているときの映像フレームである。この落下時の連続的な映像がVRヘッドセット11内の表示器112に表示されることと、体験者2の身体が回転することとにより、体験者2は、落下している強い没入感を得る。
【0047】
落下映像は、平板100の回転が停止して
図3の倒立状態となってからもさらに続いている。しかし、体験者2は、t=0以降の落下映像と平板100の回転により、落下を体感するため落下感が強く印象付けられる。このため、平板100の回転が停止していても、その後に続く落下映像により、上述のクロスモーダル効果により引き続き落下していると錯覚する。これにより、回転が1秒の短時間であっても、4秒の落下を仮想体験することが出来る。
【0048】
落下映像が最下位置に達したときの映像になれば、制御部111は手元スイッチ113を振動させる。このとき、補助者は手元スイッチの振動を知ることで、平板100を逆回転させる。このとき、バンジー映像ソフトウエアは、落下映像から最下位置付近で上下動して浮遊する浮遊映像に切り替える。この浮遊映像と平板100の逆回転とにより、体験者2は最下位置近辺でマイナス加速度により上方に戻ったり浮遊しているように錯覚する。
【0049】
図7は、仮想体験装置1の電気的な構成図を示している。
【0050】
VRヘッドセット11は、複数のカメラで構成されるポジショニングセンサ110と制御部111と3D表示が可能な表示器112を備えている。また、VRヘッドセット11は、Bluetooth(登録商標)により、手元スイッチ113と送風機114に接続されている。制御部111は図示しないメモリを備え、このメモリに予めバンジー映像ソフトウエアがインストールされている。
【0051】
図8は、仮想体験装置1の動作を示すフローチャートである。
【0052】
このフローチャートは、VRヘッドセット11内に設けられている制御部111によって実行される。
【0053】
VRヘッドセット11は、本体に設けられている電源スイッチをオンすることで起動する。起動後に、上記制御部111とBluetooth(登録商標)によって接続されている手元スイッチ113でバンジー映像ソフトウエアを起動する(ST1、2)。このとき表示器112に表示されている映像は停止映像である。
【0054】
この後、補助者が体験者2の足元に位置する平板100の底部を上方に持ち上げる。または、体験者2が前方に少し移動することで自身の重心を前方(頭部方向)に移動させ、必要に応じて両手を上方に持ち上げる。すると、平板100が回転支持部102を中心に回転し始め、頭部が水平よりも少し下がった状態(
図2)で平板100の回転が一旦停止する。このとき、VRヘッドセット11と床3間の距離は所定の高さh1未満である。VRヘッドセット11の表示器112には
図4(A)のように、ビルの屋上から下を見る停止映像が出力され、落下直前の状態である。
【0055】
図2から平板100がさらに回転すると、ポジショニングセンサ110は、VRヘッドセット11と床3間の距離が所定の高さh1となって第2の状態となったことを検出する(ST3)。すると、映像が停止映像から落下映像に切替えられる。平板100は第2の状態から
図3の倒立状態まで回転する。この時間は1秒である。落下映像は4秒続くため、
図3の倒立状態となっても落下映像はしばらく表示器112に表示される。
【0056】
落下映像が最下位置の映像になると(ST5)、手元スイッチ113を振動させる。補助者は、落下映像が最下位置の映像になったことを知り、このタイミングで平板100を逆回転させる。すると、映像が落下映像から浮遊映像に切替えられる(ST7)。体験者2は最下位置近辺でマイナス加速度により上方に戻ったり浮遊しているように錯覚する。
【0057】
浮遊映像が終了した段階で全ての動作が終了する。
【0058】
なお、本実施形態では、仮想体験装置1の前方(
図1~3の左側)の床3上にBluetooth(登録商標)で接続された送風機114を配置している。制御部111は、ST1になると送風機114をからの送風を開始する。ST5になったとき、またはST7を終了したときに送風を停止する。このように送風を同期させることで、バンジージャンプによる落下感をより一層高めることが出来る。送風による風圧の感覚は、上述のクロスモーダル効果に寄与するものと思われる。変形例として、ST1のときの送風量よりもST4での送風量を大きくすることが可能である。これにより、停止時(
図1、2)よりも落下時(
図2→
図3)の風が強くなり、落下感がより大きくなる。また、ST4において送風量を時間の経過にしたがって大きくすることも可能であり、このようにすることで落下感がより一層大きくなる。
【0059】
以上の動作により、平板100が、
図1の状態から
図3の状態になるまで回転することで、そして、それに同期してバンジージャンプ時の停止映像と落下映像をVRヘッドセット11内の表示器112に表示することで、体験者2は、仮想空間において実際のバンジージャンプを強い没入感で体験することが可能である。
【0060】
別の実施例として、バンジー映像ソフトウエアに代えて、ジェットコースターの落下映像ソフトウエアをインストールすることもできる。ジェットコースターの落下映像ソフトウエアでも、バンジー映像ソフトウエアと同様に、実際のジェットコースターの急激な降下時を強い没入感で体験することが可能である。
【0061】
なお、本実施形態では、器具本体103を逆V字形状となる構造としているが、平板100と回転支持部102とを安定に保持することのできる形状であれば、その形状は逆V字形状でなくても構わない。また、床3は、器具本体103を略水平に保つことができるのであれば、器具本体103を左右に回転あるいは前後させる台やレールを組み合わせても構わない。このような構造であれば、停止状態のときに、器具本体103を前進または左右に回転させることで、実際のバンジージャンプにより近い仮想体験が可能となる。
【0062】
また、平板100の回転は手動ではなく、モータを使って自動で行うことも可能である。さらに、本実施形態では、平板100が
図2~
図3まで回転する時間を1秒とし、落下映像の出力時間を4秒としたが、その時間に限定されるものではない。これらの時間は、体験者2の種類(大人や子供)、器具本体103の大きさ・構造、映像ソフトウエアの特性(バンジージャンプやジェットコースターの種類や落下時)などにより適宜設定される。これらの設定を手元スイッチやVRヘッドセット11のスイッチ等で行うことも可能である。
【符号の説明】
【0063】
1-仮想体験装置
2-体験者
3-床
10-器具
11-VRヘッドセット
100-平板