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特許7495771鋳鉄を利用した鉄イオン供給構造体とその製造方法と鉄イオン供給構造体を用いた藻礁
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】鋳鉄を利用した鉄イオン供給構造体とその製造方法と鉄イオン供給構造体を用いた藻礁
(51)【国際特許分類】
   A01K 61/77 20170101AFI20240529BHJP
   A01G 33/00 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
A01K61/77
A01G33/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024012825
(22)【出願日】2024-01-31
【審査請求日】2024-01-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】512084802
【氏名又は名称】アボンコーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111132
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100170900
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 渉
(72)【発明者】
【氏名】松村 憲吾
(72)【発明者】
【氏名】梅田 孝夫
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-23698(JP,A)
【文献】特開2015-107084(JP,A)
【文献】特開2011-92082(JP,A)
【文献】特開2011-50934(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K61/70-61/77
A01G33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の鋳鉄プレートと、この鋳鉄プレートから突出する複数の鋳鉄ブロックと、を有し、前記鋳鉄ブロックは、前記鋳鉄ブロックの表面から露出する露出部と、前記鋳鉄ブロックの内部に埋設される埋設部と、を備える炭材を有することを特徴とする鉄イオン供給構造体。
【請求項2】
前記鋳鉄プレートの前記鋳鉄ブロックが突出していない側の面にフックが設けられていることを特徴とする請求項1に記載の鉄イオン供給構造体。
【請求項3】
平板状の消失プレートと、この消失プレートから突出する複数の消失ブロックと、鋳鉄を注湯するための消失湯道と、を有する消失鋳型を製作する工程と、前記消失鋳型の複数の前記消失ブロックの表面から露出する露出部と前記消失ブロックの内部に埋設される埋設部とを備えるように炭材を埋め込む工程と、前記消失鋳型の前記消失湯道の先端部を露出させながら、前記消失鋳型を砂鋳型で被覆する工程と、前記消失湯道の前記先端部から前記鋳鉄を注湯する工程と、注湯された前記鋳鉄を冷却する工程と、前記砂鋳型を剥離する工程と、を有することを特徴とする鉄イオン供給構造体の製造方法。
【請求項4】
格子状の側面を複数連結させ閉じて形成される籠状構造物と、請求項2に記載された鉄イオン供給構造体とを有し、前記鉄イオン供給構造体の前記フックを前記側面に掛止したことを特徴とする藻礁。
【請求項5】
フックを備えた多孔質のコンクリートプレートを前記側面に掛止したことを特徴とする請求項4に記載の藻礁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物性プランクトンや藻類あるいは海草の育成に必要な2価鉄イオンを海中や河川中に長期間に亘って継続的に供給可能な鉄イオン供給構造体とその製造方法と鉄イオン供給構造体を用いた藻礁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、「磯焼け」と呼ばれる現象をはじめ、海岸における環境汚染や環境悪化が懸念されており、海藻類の深刻な減少やそれに伴う魚貝の減少が漁業や水産業に大きな打撃を与えるようになっている。また、河川でも護岸工事や改修工事等の影響から川藻の生育が困難となり、それに伴って河川の浄化不足や魚類の生息域の狭小が問題となり、河川全体の環境悪化が問題となっている。
それらを改善する方策の一つとして、2価鉄イオン(Fe2+)を海や河川に供給することで、海や河川に生息する植物性プランクトンや海藻あるいは川藻の生育を促進させる技術が開発されている。2価鉄イオンはフルボ酸やフミン酸といった腐植酸と錯体を形成することで植物性プランクトンや海藻に吸収される。
例えば、特許文献1では、粉状又は粒状の鉄と粉状又は粒状の炭を水溶性バインダーと共に混合して固めて多数の小塊を成形し、それらの一部同士を非水溶性バインダーで固めて成形した鉄イオン溶出体が開示されている。この鉄イオン溶出体は、水中に没する状態にすることで、非水溶性バインダーで固められていない小塊の部分の水溶性バインダーが水と接触して溶けるにつれて炭と鉄が次々に接触して鉄イオンを溶出可能であるので、鉄イオンの溶出を長期に亘りコンスタントに持続させることが可能である。
また、特許文献2では、コンクリートブロックの表面に鋼製の有孔板体が取り付けられた鉄イオン溶出ブロックが開示されている。この鉄イオン溶出ブロックでは海中に設置することで、鋼製の有孔板体と海水の反応によって有孔板体から鉄イオンを発生させることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5258171号公報
【文献】特開2019-208463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示される発明は、非水溶性バインダーで固められていない小塊が水と接触して溶けるとすぐに水中で流されていまい、鉄イオンの溶出を一定の地点で持続させることができない可能性があった。また、小塊自体も海岸や河川で用いる場合には流される可能性もあると同時に固めている非水溶性バインダーも、石や岩あるいは海中や河川中の生物や漂流物によって摩耗したり劣化する可能性もあり、一定の地点で鉄イオンの溶出を持続させることが難しい可能性があった。
また、特許文献2に開示される発明では、鋼製の有孔板体を表面に設置したコンクリートブロックであるので、一定地点での鉄イオンの溶出は見込まれる。しかしながら、鋼製であることから、鉄が酸化されて2価鉄イオンとなるもののそれから3価鉄イオン(Fe3+)への酸化が速く進んでしまい、水酸化第二鉄(Fe(OH))、すなわち赤錆となって剥がれ落ちてしまう。
しかも、3価鉄イオンではフルボ酸やフミン酸といった腐植酸とは錯体が形成されず、植物性プランクトンや藻類には吸収されないため、植物性プランクトンや藻類の育成の促進に寄与することができない可能性があるといった課題があった。
【0005】
本発明は、かかる従来の事情に対処してなされたものであり、植物性プランクトンや藻類の育成に必要な鉄イオンを、海中や河川中の定めた位置で長期間に亘り継続的に安定して供給可能な鉄イオン供給構造体とその製造方法と鉄イオン供給構造体を用いた藻礁を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、第1の発明である鉄イオン供給構造体は、平板状の鋳鉄プレートと、この鋳鉄プレートから突出する複数の鋳鉄ブロックと、を有し、前記鋳鉄ブロックは、前記鋳鉄ブロックの表面から露出する露出部と、前記鋳鉄ブロックの内部に埋設される埋設部と、を備える炭材を有することを特徴とするものである。
上記構成の鉄イオン供給構造体は、鋳鉄プレートと鋳鉄ブロックから2価鉄イオンが溶出するが、鋼製のものと比較すると、鋳鉄は黒鉛を2.5-3重量%程度含んでおり、黒鉛は錆びることがないため腐食が進み難く、徐々に2価鉄イオンとして海水や河川水(以下、本願明細書では海水と河川水を併せて単に水といい海水中と河川水を併せて単に水中ということもある。)に溶出させるように作用する。また、腐食が進まない結果、腐食に対する耐久性に優れ、長期間に亘って継続的・安定的に2価鉄イオンを供給するように作用する。
【0007】
また、炭材の埋設部と鋳鉄ブロックとの間で鉄炭素電池が形成され、鋳鉄から電子が放出されて2価鉄イオンが発生し、放出された電子は炭材の埋設部から露出部へ移動して水中に放出されるかあるいは埋設部と鋳鉄ブロックの隙間から水中に放出され、2価鉄イオンは埋設部と鋳鉄ブロックの隙間から水中に溶出する。
炭材の埋設部は徐々に欠けたり朽ちたりして水中に放出されると考えられるが、それによってできる凹部には水が浸入するため、その場合も2価鉄イオンを水中に溶出させるように作用する。
なお、本願における鋳鉄は、片状の黒鉛を含有するねずみ鋳鉄と球状の黒鉛を含有するダクタイル鋳鉄の2通りを含むものである。また、炭材とは、竹炭、木炭及びコークスを含む概念である。
【0008】
第2の発明である鉄イオン供給構造体は、第1の発明において、前記鋳鉄プレートの前記鋳鉄ブロックが突出していない側の面にフックが設けられていることを特徴とするものである。
上記構成の鉄イオン供給構造体のフックは、籠状の構造物や格子状の構造物等に掛止可能に作用する。
【0009】
第3の発明である鉄イオン供給構造体の製造方法は、平板状の消失プレートと、この消失プレートから突出する複数の消失ブロックと、鋳鉄を注湯するための消失湯道と、を有する消失鋳型を製作する工程と、前記消失鋳型の複数の前記消失ブロックの表面から露出する露出部と前記消失ブロックの内部に埋設される埋設部とを備えるように炭材を埋め込む工程と、前記消失鋳型の前記消失湯道の先端部を露出させながら、前記消失鋳型を砂鋳型で被覆する工程と、前記消失湯道の前記先端部から前記鋳鉄を注湯する工程と、注湯された前記鋳鉄を冷却する工程と、前記砂鋳型を剥離する工程と、を有することを特徴とするものである。
上記構成の鉄イオン供給構造体の製造方法は、消失鋳型の消失ブロックが炭材を埋め込み可能に作用し、鋳鉄ブロックにおける炭材の露出部と埋設部の形成を促すように作用する。
【0010】
第4の発明である藻礁は、格子状の側面を複数連結させ閉じて形成される籠状構造物と、第2の発明である鉄イオン供給構造体とを有し、前記鉄イオン供給構造体の前記フックを前記側面に掛止したことを特徴とするものである。
上記構成の藻礁は、フックを備えた第2の発明である鉄イオン供給構造体を掛止して、籠状構造物の周囲に2価鉄イオンの溶出を促すように作用する。
なお、籠状の構造物とは、格子状の側面が複数連結されて閉じている状態であればよく、蓋や底面がないものも含まれる概念である。また、閉じている状態とは、周方向に例えばコの字状に端部を形成して開いておらず、ロの字のように連続している状態を意味する。したがって、立方体のように6面で閉じる必要はなく、上下面はいずれも常に備えられていなくともよい。
【0011】
第5の発明である藻礁は、第4の発明において、フックを備えた多孔質のコンクリートプレートを前記側面に掛止したことを特徴とするものである。
上記構成の藻礁は、多孔質のコンクリートプレートのフックが、籠状の構造物に掛止可能に作用し、多孔質のコンクリートプレートは着床具として作用し、藻に着生を促すように作用する。
【発明の効果】
【0012】
第1の発明である鉄イオン供給構造体は、腐食に対する耐久性に優れ、長期間に亘って継続的・安定的に2価鉄イオンを供給することが可能である。また、鋳鉄ブロックと炭材の埋設部の隙間からも2価鉄イオンを供給することが可能であるし、炭材が消失した後でも鋳鉄ブロック内に凹部が発生することから、水との接触面積を増やすことが可能で、溶出する2価の鉄イオンを増大させることが可能である。
さらに、鉄イオン溶出構造体自体が鋳鉄で構成されており、重量物であるので一旦設置すると海や河川において流され難く、定めた位置で2価鉄イオンの供給を継続させることが可能である。
【0013】
第2の発明である鉄イオン供給構造体は、フックを備えることで鋳鉄プレートを格子状の構造物や籠状の構造物に掛止可能であるので、鋳鉄プレートを鉛直方向に安定的に立てることが可能となる。したがって、鋳鉄ブロックを鉛直方向に対して垂直に鋳鉄プレートから突出させることが可能であり、鋳鉄ブロックは水中で水流に対向し、より2価鉄イオンを溶出させることが可能である。
【0014】
第3の発明である鉄イオン供給構造体の製造方法は、消失鋳型を用いることで、炭材を鋳鉄ブロックに埋設可能となり、炭材に鋳鉄ブロックとの間に露出部と埋設部の両方を形成させることが可能となった。これによって、埋設部で接触している鋳鉄は電子を放出して2価鉄イオンとなり、電子は炭材の埋設部から露出部へ移動して水中に放出され、あるいは埋設部と鋳鉄ブロックの隙間から水中に放出され、2価鉄イオンは鋳鉄と埋設部の隙間から水中に溶出される。
【0015】
第4の発明である藻礁は、籠状構造物の格子状の側面に鉄イオン供給構造体を、フックを介して掛止することで、水中で水流に対向することが可能であり、籠状構造物近傍に2価鉄イオンをより多く溶出させつつ、籠状構造物内に着生している藻類を水流から保護することも可能である。また、フックを備えて鉄イオン供給構造体が着脱可能であることから、籠状構造物の規模、水中の環境の状況、藻の生育の状況に応じて、鉄イオン供給構造体の数や配置を自由に設定することが可能であり、自由度の高い藻礁とすることが可能である。
【0016】
第5の発明である藻礁は、鉄イオン供給構造体に加えてフックを備えた多孔質コンクリートプレートを籠状構造物の格子状の側面に掛止することが可能であるので、この多孔質コンクリートプレートを藻類の着床具として機能させることが可能であり、籠状構造物の内部に加えて、格子状の側面にも藻場を形成させることが可能である。また、この多孔質コンクリートプレートに着生した藻を多孔質コンクリートプレートごと籠状構造物から取り外して、他も場所に移植して新たな藻場を造成することも可能である。
また、多孔質コンクリートプレートもフックを備えているので、フックに基づいて鉄イオン供給構造体が発揮する機能と同様の機能を発揮することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態に係る鉄イオン供給構造体の(a)は斜視正面図、(b)は斜視背面図である。
図2】本発明の実施の形態に係る鉄イオン供給構造体の試作品画像である。
図3】本発明の実施の形態に係る鉄イオン供給構造体の製造方法のフロー図である。
図4】本発明の実施の形態に係る鉄イオン供給構造体を製造する際に用いる消失鋳型の(a)は平面図、(b)は(a)におけるA-A線矢視断面図である。
図5】本発明の実施の形態に係る鉄イオン供給構造体を製造する際に用いる消失鋳型の試作品画像である。
図6】本発明の実施の形態に係る鉄イオン供給構造体の製造方法において、消失鋳型を砂鋳型で被覆した状態を示す断面概念図である。
図7】本発明の実施の形態に係る藻礁の外形概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の実施の形態に係る鉄イオン供給構造体について図1及び図2を参照しながら説明する。
図1(a)は本発明の実施の形態に係る鉄イオン供給構造体の斜視正面図であり、(b)は斜視背面図である。また、図2は本発明の実施の形態に係る鉄イオン供給構造体の試作品画像である。
これらの図において、鉄イオン供給構造体1aは、鋳鉄を用いて成形した略矩形で平板状の鋳鉄プレート2aを9区分に分けて、それぞれの区分に鋳鉄プレート2aから突出した鋳鉄ブロック3aを形成させたものである。鋳鉄ブロック3aと鋳鉄プレート2aは一体に成形されている。また、鋳鉄ブロック3aには炭材4が一部を露出させて埋設されている。
【0019】
図2における鉄イオン供給構造体1aの試作品ではねずみ鋳鉄(材質記号:FC200)を用いており、黒鉛(炭素)を2.5-3%程度含んでいる。ねずみ鋳鉄の他、鋳鉄であればダクタイル鋳鉄であってもよい。鋳鉄は黒鉛(炭素)を2.5-3%程度含み、鋼鉄よりも多くの炭素を含んでいることから、腐食の進行が遅く、2価鉄イオンから3価鉄イオンになるまでの時間を稼ぐことが可能であるため、赤錆(Fe(OH))を生じることなく2価鉄イオンとしてフルボ酸やフミン酸に吸収され易く、よって植物性プランクトンや藻類への栄養源となり易いという特徴がある。すなわち、鉄イオン供給構造体1aは、長期間に亘って腐食することなく継続的に2価鉄イオンを供給することが可能である。
また、鉄イオン溶出構造体1aは鋳鉄で構成され、重量物となるので海や河川に設置しても海流や水流に流され難く、簡単に変形することもなく耐久性も高いので、一旦設置した場合にその位置に長期間留まらせることが可能であり、その意味でも長期間に亘って継続的に2価鉄イオンを供給することが可能である。
そして、炭材4としてはコークス、木炭あるいは竹炭のいずれでもよく、炭素を主成分とするものであれば特に限定しない。
なお、図2に示される鋳鉄溝5aは、鋳鉄ブロック3aを小分け可能なように設けられたものであり、選択的な構成要素である。また、鋳鉄プレート2aの裏面側には鋳鉄フック6aが略中央の上部と下部に1体ずつ設けられているが、これらも選択的な構成要素である。鋳鉄フック6aの数や配置あるいは幅は、鉄イオン供給構造体1aの重量や鋳鉄プレート2aの面積にもよるので、鉄イオン供給構造体1aの重量や形状あるいは求められる耐久性に応じて設計されることが望ましい。
【0020】
次に、図3-6を参照しながら本実施の形態に係る鉄イオン供給構造体の製造方法について説明する。
図3は本発明の実施の形態に係る鉄イオン供給構造体の製造方法のフロー図である。図3では各工程(ステップ)に関連する構成を引き出し線と符号で示しているが、その符号は他の図面に示したその構成と共通に付すものである。
図3において、鉄イオン供給構造体の製造方法のステップS1は消失鋳型1bを製作する工程である。消失鋳型1bは発泡スチロール(発泡ポリスチレン)製であり、溶融した鋳鉄の温度(1150-1400℃)に対して消失するものである。
【0021】
消失鋳型1bの構造について図4を参照しながら説明する。図4(a)は鉄イオン供給構造体を製造する際に用いる消失鋳型の平面図、(b)は(a)におけるA-A線矢視断面図である。この図4(a),(b)は鉄イオン供給構造体の製造方法のステップS2のコークスから成る炭材4を消失鋳型1bに嵌め込んだ後の状態を示している。
消失鋳型1bは基本的には鉄イオン供給構造体1aと同様の構造をしており、ステップS1の段階では、図4(a),(b)における炭材4がない状態であり、平板状の消失プレート2bの表面上には縦3列横3列で9つの消失ブロック3bが突出し、また、端部には消失湯道7が立設された状態となっている。
消失プレート2bが鉄イオン供給構造体1aでは鋳鉄プレート2aとなり、消失ブロック3bが同様に鋳鉄ブロック3aとなる。
消失湯道7の先端部8から溶融した鋳鉄を流し込むので、先端部8の消失プレート2b表面からの高さとしては、炭材4の上端部が砂鋳型で隠れる程度から少なくとも消失ブロック3bの上面が砂鋳型で覆われる程度は必要である。
【0022】
また、ステップS2の段階では、図4(a),(b)に示されるとおり、炭材4の下部を消失ブロック3bに嵌め込んで、上部を消失ブロック3bの表面から露出させるように埋設する。したがって、消失鋳型1bに消失湯道7から鋳鉄を流し込んで鉄イオン供給構造体1aを製作すると、図4(b)で消失ブロック3bに埋設されている炭材4の部分が埋設部4bとなり、露出している炭材4の部分が露出部4aとなる。
消失プレート2bの裏面側には消失フック6bが形成されており、鉄イオン供給構造体1aでは鋳鉄フック6aとなる。
なお、本実施の形態に係る消失鋳型1bでは、消失ブロック3bの各々の角に炭材4を4つ配置しているが、このような数や大きさ、配置に限定されるものではなく、鉄イオン供給構造体1aの鋳鉄ブロック3aも用いられるものとして、消失ブロック3bの上端部の面積や2価鉄イオンの供給必要量に応じて適宜設計されることが望ましい。
ステップS2によって製作された消失鋳型1bの試作品を図5に示す。この試作品は図2に示した鉄イオン供給構造体1aの試作品を製作するためのものであるので、鉄イオン供給構造体1aに備えられていた溝5aを形成するための消失溝5bを備えている。
【0023】
図3に戻って、ステップS3は砂鋳型の製作の工程である。ここで、図6も参照しながら説明を加える。図6は、鉄イオン供給構造体の製造方法において、消失鋳型を砂鋳型で被覆した状態を示す断面概念図である。
図6において、砂鋳型としては、消失鋳型1bの下部に敷くようにして設けられる下部砂鋳型9bと、下部砂鋳型9bに消失鋳型1bを載置した後に、その上から消失鋳型1bを覆うようにして設けられる上部砂鋳型9aの2種類がある。
下部砂鋳型9bも上部砂鋳型9aも砂鋳型として成形する前に、砂を固化させるための液状のバインダー(硬化剤)を添加してこねて粘度を出しておく。ステップS3では、まず上部砂鋳型9aを製作して、消失鋳型1bを載置できる程度の大きさとして形を整えて、その上から消失鋳型1bを載置して固定する。
このステップS3では、図6に示すとおり下部砂鋳型9b内に消失フック6bが埋まった状態で消失鋳型1bが設置されている状態となるが、上部砂鋳型9aは次のステップS4で消失鋳型1bを覆うのでまだ存在していない。
下部砂鋳型9bに消失鋳型1bを固定した後に、ステップS4として上部砂鋳型9aで消失鋳型1bを被覆する工程を実施する。その際には、消失鋳型1bの炭材4の周囲を上部砂鋳型9aが隙間なく覆うように、また、立設された消失湯道7が折れないようにも注意しながら丁寧に作業する。なお、消失鋳型1bの消失湯道7の先端部8が上部砂鋳型9aから露出するようにしておく。
このようにして行ったステップS4の完了時の状態が図6に示された状態である。
【0024】
ステップS4において、上部砂鋳型9aと下部砂鋳型9bが硬化した後に実行するのがステップS5で、溶融した鋳鉄を消失湯道7の先端部8から注湯する工程である。この工程で、溶融した鋳鉄によって発泡スチロール製の消失鋳型1bが消失し、その型に鋳鉄が流れ込んで鉄イオン供給構造体1aが形成される。消失ブロック3bに埋設された炭材4は消失することなく、消失ブロック3bに替わって鋳鉄ブロック3aに埋設されるように形成される。
ステップS6は鉄イオン供給構造体1aの冷却工程である。冷却方法は常温で上部砂鋳型9aと下部砂鋳型9bで覆ったまま放置(自然乾燥)するだけでよいが、送風機で冷却してもよい。冷却時間は鉄イオン供給構造体1aの大きさや厚みにもよるが自然乾燥で6-10時間程度である。
ステップS7は上部砂鋳型9aと下部砂鋳型9bを剥離して、鉄イオン供給構造体1aを取り出す工程である。
取り出した鉄イオン供給構造体1aには消失湯道7に流れ込んだ鋳鉄がそのまま残るので、その部分を切除する。
このようにして鉄イオン供給構造体1aを製造する。
【0025】
本実施の形態に係る鉄イオン供給構造体の製造方法では、消失鋳型1bの消失ブロック3bに炭材4を埋め込むことで、鋳鉄によって消失した消失ブロック3bに替わって鋳鉄ブロック3aで炭材4を保持することが可能であり、鋳鉄ブロック3aとの間で、炭材4は埋設部4bと露出部4aを備えることが可能である。
鉄イオン溶出構造体1aにおいて、炭材4が埋設部4bと露出部4aを備えることで、炭材4の埋設部4bと鋳鉄ブロック3aとの間で鉄炭素電池が形成され、鋳鉄から電子が放出されて2価鉄イオンが発生し、放出された電子は炭材4の埋設部4bから露出部4aへ移動して水中に放出されるかあるいは埋設部4bと鋳鉄ブロックの隙間3aから水中に放出され、2価鉄イオンは埋設部4bと鋳鉄ブロック3aの隙間から水中に溶出する。溶出した2価鉄イオンはフルボ酸やフミン酸等の腐植酸と結合して植物性プランクトンや藻類、海草に吸収されて栄養源となることができる。
また、炭材4の埋設部4bは徐々に欠けたり朽ちたりして水中に放出されると考えられるが、それによってできる凹部には水が浸入するため、その場合も2価鉄イオンを水中に溶出し、同様に栄養源となる。
【0026】
次に、本実施の形態に係る鉄イオン供給構造体を用いた藻礁について図7を参照しながら説明する。図7は、本実施の形態に係る藻礁の外形概念図である。
図7において、藻礁10は格子状の側面パネル11を上下2段に8枚組み合わせて、水平断面を四角形として閉じた状態で2段重ねた籠状構造物12とし、側面パネル11の格子に鉄イオン供給構造体1aの鋳鉄フック6aを掛止させたものである。本実施の形態に係る藻礁10では1面の側面パネル11に鉄イオン供給構造体1aをユニットとして1体のみ掛止しているが、鉄イオン供給構造体1aは複数掛止させてもよいし、複数の側面パネル11に掛止してもよい。また、鉄イオン供給構造体1aの配置も、水流を考慮しながらどのように配置してもよい。
藻礁10は炭素を多く含んだ鋳鉄製の鉄イオン供給構造体1aを掛止することで、2価鉄イオンから3価鉄イオンとなるまでの時間が長く、腐植酸との結合が容易となり赤錆が発錆し難いため、長期間に亘って安定して2価鉄イオンを供給することが可能である。
さらに、鉄イオン供給構造体1aは裏面に鋳鉄フック6aを備えることで側面パネル11から成る籠状構造物12に対して着脱が容易で、配置変更も容易となり、藻礁10の形成に対して自由度を高めることも可能である。また、鋳鉄フック6aで掛止することで、鉄イオン供給構造体1aを鉛直方向に安定的に立てることが可能となり、鋳鉄ブロック3aを鉛直方向に対して垂直に鋳鉄プレート2aから突出するので水流に対向し、鋳鉄ブロック3a近傍で滞留することなく下流側の籠状構造物12内部の方向へ向けて2価鉄イオンを溶出させることが可能である。
【0027】
また、側面パネル11をユニットとして、設置場所の深さに応じて自由に数や高さを調整することが可能である。また、藻礁10は側面パネル11と鉄イオン供給構造体1aから構成されているので、浅い海において重機等を使用することなく、小型の船舶と少人数による作業で容易に設置することが可能である。
さらに、この藻礁10を海岸近くの浅い海に配置することで、植物性プランクトンや藻類、あるいは海草に対して2価鉄イオンを含む栄養源を供給することが可能であり、磯焼けを回避可能であり、海岸近くの海で藻類や海草を育成することができる。海のみならず、河川でも側面パネル11の高さを低くすることで浅い箇所でも対応可能であり、同様に川藻等に対する藻礁10として活用することが可能である。
なお、側面パネル11の材質は問わないが、金属で構成させることで重量物として、海流や水流にも流され難くすることができるので望ましいが、例えば鋼鉄や鋳鉄でもよく、特に鋳鉄であれば、鉄イオン溶出構造体1aと同様に赤錆を発錆することなく腐食に強いと同時に徐々に2価鉄イオンを供給することが可能であるので、鉄イオン溶出構造体1aと相俟って植物性プランクトンや藻類、海草に対して、より長期的に安定して2価鉄イオンを供給することができる。
また、本実施の形態では藻礁10として側面パネル11を水平断面を四角形に閉じた構造を示したが、閉じていれば四角形に限定するものではなく、三角形の他六角形等の多角形でもよい。
【0028】
さらに、藻礁10に多孔質コンクリートプレート13を設置してもよい。この多孔質コンクリートプレート13は、多孔質コンクリート製であることから表面に藻類や海草が着生し易く着床具として機能するので、鉄イオン供給構造体1aの近傍の側面パネル11の格子に同様にフックで掛止することで栄養源も供給され易い環境となり、より藻類や海草が生育し易い藻場を形成することが可能である。
また、多孔質コンクリートプレート13に着生した藻類や海草を多孔質コンクリートプレート13ごと取外し、他の場所に移植することも可能であり、新たな藻場を造成するための育苗拠点として活用することも可能である。
なお、多孔質コンクリートプレート13もユニットとして、その数や配置は自由に設定可能である。また、本実施の形態に係る藻礁10では、藻類や海草を育成、繁茂させることができるため、それを食する魚類を蝟集させることが可能となり漁礁あるいは産卵場としても活用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本願発明における鉄イオン供給構造体は、海や河川において2価鉄イオンを溶出し植物性プランクトン、藻類や海草に対する栄養源として利用することが可能であり、鉄イオン供給構造体を備えた藻礁は藻類や海草の生育場所、別場所での藻場等の形成のための育苗拠点、さらには漁礁あるいは産卵場として利用することが可能である。
【符号の説明】
【0030】
1a…鉄イオン供給構造体 1b…消失鋳型 2a…鋳鉄プレート 2b…消失プレート 3a…鋳鉄ブロック 3b…消失ブロック 4…炭材 4a…露出部 4b…埋設部 5a…鋳鉄溝 5b…消失溝 6a…鋳鉄フック 6b…消失フック 7…消失湯道 8…先端部 9a…上部砂鋳型 9b…下部砂鋳型 10…藻礁 11…側面パネル 12…籠状構造物 13…多孔質コンクリートプレート
【要約】
【課題】植物性プランクトンや藻類の育成に必要な鉄イオンを、海中や河川中の定位置で長期間に亘り継続的に安定して供給可能な鉄イオン供給構造体とその製造方法と鉄イオン供給構造体を用いた藻礁を提供する。
【解決手段】鉄イオン供給構造体1aは、平板状の鋳鉄プレート2aと、この鋳鉄プレート2aから突出する複数の鋳鉄ブロック3aと、を有し、鋳鉄ブロック3aは、鋳鉄ブロック3aの表面から露出する露出部と、鋳鉄ブロック3aの内部に埋設される埋設部と、を備える炭材4を有する。また、鋳鉄プレート2aの裏面には鋳鉄フック6aを有する。
【選択図】図1
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図7