(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】マット材、排ガス浄化装置及び断熱材付き排気管
(51)【国際特許分類】
F01N 3/28 20060101AFI20240529BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
F01N3/28 311N
F01N3/28 ZAB
B01D53/94 300
(21)【出願番号】P 2019030608
(22)【出願日】2019-02-22
【審査請求日】2022-02-03
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 友久
(72)【発明者】
【氏名】岡部 隆彦
【審査官】山本 健晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-127244(JP,A)
【文献】特開2016-108987(JP,A)
【文献】特開2009-113336(JP,A)
【文献】特開2015-075084(JP,A)
【文献】特表2006-524777(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/28
B01D 53/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機バインダと無機繊維とを含み、巻付対象物に巻きつけるためのマット材であって、
前記マット材は、第1主面と、前記第1主面の反対側に位置する第2主面とを有し、前記マット材を厚さ方向に3分割し、第1主面側層、中間層、第2主面側層とした際の、前記第1主面側層の引張強度に対する前記第2主面側層の引張強度の比が1.2~2.2であり、前記第1主面側層の破断伸度に対する前記第2主面側層の破断伸度の比が1.1~1.3であり、
前記第2主面側層の前記有機バインダの含有量が、前記第1主面側層の前記有機バインダの含有量よりも多
く、
前記中間層の前記有機バインダの含有量が、前記第2主面側層の前記有機バインダの含有量よりも少なく、前記第1主面側層の前記有機バインダの含有量よりも多く、
前記有機バインダの含有量は、前記マット材の全量に対して固形分換算で4~10重量%であり、
前記マット材を厚さ方向に10分割し、前記第1主面側から第1層、第2層、第3層、第4層、第5層、第6層、第7層、第8層、第9層、第10層とした際の、前記第1層における前記有機バインダの含有量が、前記第10層における前記有機バインダの含有量の50~70wt%であることを特徴とするマット材。
【請求項2】
前記マット材は、さらに無機バインダを含む請求項1に記載のマット材。
【請求項3】
前記有機バインダのガラス転移温度Tgは、5℃以下である請求項1又は2に記載のマット材。
【請求項4】
前記無機繊維は、アルミナ繊維、シリカ繊維、アルミナ-シリカ繊維、ムライト繊維、ガラス繊維及び生体溶解性繊維からなる群から選択される少なくとも1種から構成されている請求項1~3のいずれかに記載のマット材。
【請求項5】
前記マット材は、抄造により無機繊維を積層したマット材である請求項1~4のいずれかに記載のマット材。
【請求項6】
排ガス処理体と、前記排ガス処理体を収容するケーシングと、前記排ガス処理体と前記ケーシングとの間に配設され、前記排ガス処理体を保持する保持材とを備える排ガス浄化装置であって、前記保持材は請求項1~5のいずれかに記載のマット材であることを特徴とする排ガス浄化装置。
【請求項7】
排ガス処理体と、
前記排ガス処理体を収容するケーシングと、
前記排ガス処理体と前記ケーシングとの間に配設され、前記排ガス処理体を保持する保持材と、
前記ケーシングを覆うように配置された断熱材と、
前記断熱材の外側に配置された金属カバーとを備える排ガス浄化装置であって、
前記保持材及び/又は前記断熱材は、請求項1~5のいずれかに記載のマット材であることを特徴とする排ガス浄化装置。
【請求項8】
排気管と、
前記排気管を覆うように配置された断熱材と、
前記断熱材の外側に配置された金属カバーとを備える断熱材付き排気管であって、
前記断熱材は、請求項1~5のいずれかに記載のマット材であることを特徴とする断熱材付き排気管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マット材、排ガス浄化装置及び断熱材付き排気管に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出される排ガス中には、パティキュレートマター(以下、PMともいう)が含まれており、近年、このPMが環境や人体に害を及ぼすことが問題となっている。また、排ガス中には、COやHC、NOx等の有害なガス成分も含まれていることから、この有害なガス成分が環境や人体に及ぼす影響についても懸念されている。
【0003】
そこで、排ガス中のPMを捕集したり、有害なガス成分を浄化したりする排ガス浄化装置として、炭化ケイ素やコージェライトなどの多孔質セラミックからなる排ガス処理体と、排ガス処理体を収容するケーシングと、排ガス処理体とケーシングとの間に配設される保持材とから構成される排ガス浄化装置が種々提案されている。この保持材は、自動車の走行等により生じる振動や衝撃により、排ガス処理体がその外周を覆うケーシングと接触して破損するのを防止することや、排ガス処理体とケーシングとの間から排気ガスが漏れることを防止すること等を主な目的として配設されている。
【0004】
このような用途で用いられる保持材としては、無機繊維からなるマット材が用いられる。
【0005】
特許文献1には、無機繊維からなるマット材の表面に可撓性シートを貼り付けることによってマット表面の裂けを防止することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、マット表面に可撓性シートを添付するという工程が生じるため、製造効率の観点から可撓性シートを添付しないでも表面の裂けが防止できるマット材が求められている。
一方で、マット裂けを防止するための方法としてマットに含有させる有機バインダの量を増加させる方法があるが、マット材に含まれる有機バインダは排気ガスとともに排気されるため、環境への負荷を低減する観点から、有機バインダ量を増加させることは好ましくない。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、有機バインダ量を増加させることなくマット裂けを防止することができるマット材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のマット材は、有機バインダと無機繊維とを含み、巻付対象物に巻きつけるためのマット材であって、上記マット材は、第1主面と、上記第1主面の反対側に位置する第2主面とを有し、上記マット材を厚さ方向に3分割し、第1主面側層、中間層、第2主面側層とした際の、上記第1主面側層の引張強度に対する上記第2主面側層の引張強度の比が1.2~2.2であり、上記第1主面側層の破断伸度に対する上記第2主面側層の破断伸度の比が1.1~1.3であることを特徴とする。
【0010】
本発明のマット材は、第1主面側層の引張強度に対する上記第2主面側層の引張強度の比が1.2~2.2であるため、第2主面が第1主面よりも割れにくい。
第1主面側層の引張強度に対する第2主面側層の引張強度の比が1.2~2.2、かつ、第1主面側層の破断伸度に対する第2主面側層の破断伸度の比が1.1~1.3であると、第1主面側層と比較して第2主面側層の機械的強度及び可撓性が高くなるため、第2主面側層が外側となるように巻きつけた際に、マット材を割れにくくすることができる。
【0011】
本発明のマット材において、上記有機バインダの含有量は、上記マット材の全量に対して固形分換算で4~10重量%であることが好ましい。
有機バインダの含有量が上記範囲であると、マット材の可撓性と機械的強度とを両立させることができる。
有機バインダの含有量が4重量%未満である場合には、マット材を排ガス処理体に巻きつけた際に、マット材が割れてしまうことがあり、10重量%を超える場合には、排ガスの熱によって発生する分解ガスの量が多くなり、周囲の環境に悪影響を与える可能性がある。
【0012】
本発明のマット材において、上記有機バインダのガラス転移温度Tgは、5℃以下であることが好ましい。
有機バインダのガラス転移温度Tgが5℃以下であると、有機バインダにより形成される有機バインダ皮膜の強度を高くしつつ、皮膜伸度が高くて可撓性に優れたマット材とすることができる。そのため、マット材を排ガス処理体に巻きつける際等にマット材が割れにくくなる。また、有機バインダ皮膜が硬くなり過ぎないため、無機繊維が破断した際に、無機繊維同士を繋ぎ止める効果を発揮し、無機繊維の飛散を抑制することができる。一方、有機バインダのガラス転移温度Tgが5℃を超える場合、マット材の可撓性が低下し、破断伸度が低下してしまうことがある。
【0013】
本発明のマット材において、上記無機繊維は、アルミナ繊維、シリカ繊維、アルミナ-シリカ繊維、ムライト繊維、ガラス繊維及び生体溶解性繊維からなる群から選択される少なくとも1種から構成されていることが好ましい。
無機繊維が、アルミナ繊維、シリカ繊維、アルミナ-シリカ繊維、ムライト繊維、ガラス繊維及び生体溶解性繊維からなる群から選択された少なくとも1種から構成されていると、耐熱性、耐風食性等、本発明のマット材に要求される特性を充分に満足することができる。
【0014】
本発明のマット材は、抄造により無機繊維を積層したマット材であることが好ましい。
抄造により無機繊維を積層したマット材は、マット材表面の摩擦が大きいため高い保持力を発揮することができる。また、高坪量のマット材を容易に作製することができる。
【0015】
本発明の第1の排ガス浄化装置は、排ガス処理体と、上記排ガス処理体を収容するケーシングと、上記排ガス処理体と上記ケーシングとの間に配設され、上記排ガス処理体を保持する保持材とを備える排ガス浄化装置であって、上記保持材は本発明のマット材であることを特徴とする。
本発明の第1の排ガス浄化装置は、保持材として本発明のマット材を備えるため、排ガス浄化触媒を安定的に保持し、脱落を防止することができる。
【0016】
本発明の第2の排ガス浄化装置は、排ガス処理体と、上記排ガス処理体を収容するケーシングと、上記排ガス処理体と上記ケーシングとの間に配設され、上記排ガス処理体を保持する保持材と、上記ケーシングを覆うように配置された断熱材と、上記断熱材の外側に配置された金属カバーとを備える排ガス浄化装置であって、上記保持材及び/又は上記断熱材は、本発明のマット材であることを特徴とする。
本発明の第2の排ガス浄化装置は、保持材及び/又は断熱材として本発明のマット材を備える。
本発明のマット材が、保持材として用いられる場合には、巻きつけ時のマット裂け等が発生しにくく、排ガス浄化装置への組み付け後において排ガス処理体を安定的に保持することができる。
本発明のマット材が、断熱材として用いられる場合には、マット裂け等が発生しにくい。
【0017】
本発明の断熱材付き排気管は、排気管と、上記排気管を覆うように配置された断熱材と、上記断熱材の外側に配置された金属カバーとを備える断熱材付き排気管であって、上記断熱材は、本発明のマット材であることを特徴とする。
本発明の断熱材付き排気管は、断熱材として本発明のマット材を備えるため、排気管にマット材を巻きつける際のマット裂け等が発生しにくく、好適に断熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明のマット材の一例を模式的に示す斜視図である。
【0019】
(発明の詳細な説明)
以下、本発明のマット材、排ガス浄化装置及び断熱材付き排気管について具体的に説明する。しかしながら、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下において記載する本発明の個々の望ましい構成を2つ以上組み合わせたものもまた本発明である。
【0020】
本発明のマット材は、有機バインダと無機繊維とを含み、巻付対象物に巻きつけるためのマット材であって、上記マット材は、第1主面と、上記第1主面の反対側に位置する第2主面とを有し、上記マット材を厚さ方向に3分割し、第1主面側層、中間層、第2主面側層とした際の、上記第1主面側層の引張強度に対する上記第2主面側層の引張強度の比が1.2~2.2であり、上記第1主面側層の破断伸度に対する上記第2主面側層の破断伸度の比が1.1~1.3であることを特徴とする。
【0021】
図1は、本発明のマット材の一例を模式的に示す斜視図である。
マット材1は、有機バインダと無機繊維とを含み、第1主面10と、第1主面の反対側に位置する第2主面20と、巻きつけ方向となる長手方向Lと、長手方向に直交する短手方向Wと、所定の厚さTを有する。
マット材1の一方の端部である第1端部には凹部30が形成されており、他方の端部である第2端部には凸部40が形成されており、凹部30と凸部40は、外周が円柱状の排ガス浄化装置、排ガス処理体や排気管等にマット材1を巻きつける際に、丁度互いに嵌合するような形状となっている。
【0022】
本発明のマット材は、マット材を厚さ方向に3分割し、第1主面側層、中間層、第2主面側層とした際の、第1主面側層の引張強度に対する上記第2主面側層の引張強度の比が1.2~2.2であり、第1主面側層の破断伸度に対する上記第2主面側層の破断伸度の比が1.1~1.3である。
第1主面側層の引張強度に対する第2主面側層の引張強度の比が1.2~2.2、かつ、第1主面側層の破断伸度に対する第2主面側層の破断伸度の比が1.1~1.3であると、第1主面側層と比較して第2主面側層の機械的強度及び可撓性が高くなるため、第2主面側層が外側となるように巻きつけた際に、マット裂けを防止することができる。
【0023】
本発明のマット材において、マット材を厚さ方向に3分割し、第1主面側層、中間層、第2主面側層とした際の、第1主面側層の引張強度は、100~180kPaであることが好ましい。
また、上記第1主面側層の破断伸度は、3.0%以上であることが好ましい。
【0024】
本発明のマット材において、マット材を厚さ方向に3分割し、第1主面側層、中間層、第2主面側層とした際の、第2主面側層の引張強度は、180~300kPaであることが好ましい。
また、上記第2主面側層の破断伸度は、5.0%以上であることが好ましい。
【0025】
マット材を厚さ方向に3分割し、第1主面側層、中間層、第2主面側層とした際の、第1主面側層の引張強度及び破断伸度、並びに、第2主面側層の引張強度及び破断伸度は、マット材を厚さ方向に3分割して得られる第1主面側層及び第2主面側層を、引張試験用のつかみ治具を備える万能材料試験機を用いて100mm/minの速度で引っ張った際の、破断時の荷重及び長さから求めることができる。
【0026】
本発明のマット材において、マット材を厚さ方向に3分割し、第1主面側層、中間層、第2主面側層とした際の、第1主面側層における有機バインダの含有量が、第2主面側層における有機バインダの含有量よりも少ないことが好ましい。
【0027】
本発明のマット材においては、マット材を厚さ方向に10分割し、第1主面側から第1層、第2層、第3層、・・・第10層とした際の、第1層における有機バインダの含有量が、その他の層(第2層~第10層)よりも少ないことが好ましい。
上記第1層における有機バインダの含有量は、その他の層(第2~第10層)における有機バインダの含有量の、50~70wt%であることがより好ましい。
【0028】
本発明のマット材は有機バインダと無機繊維とを含む。
無機繊維は、特に限定されず、アルミナ-シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維等であってもよい。また、ガラス繊維や生体溶解性繊維であってもよい。耐熱性や耐風蝕性等、マット材に要求される特性等に応じて変更すればよく、各国の環境規制に適合できるような太径繊維や繊維長のものを使用するのが好ましい。
【0029】
この中でも、低結晶性アルミナ質の無機繊維が好ましく、ムライト組成の低結晶性アルミナ質の無機繊維がより好ましい。
【0030】
無機繊維の平均繊維長は、200μm~20000μmであることが好ましく、300~10000μmであることがより好ましく、500~1500μmであることがさらに好ましく、700~1100μmであることが特に好ましい。
無機繊維の平均繊維長が200μm未満である場合、このような場合、無機繊維同士が充分に絡み合わずに、充分な面圧及び引張強さを発揮できないことや、無機繊維が排ガスの風圧により飛散しやすくなることがある。一方、無機繊維の平均繊維長が20000μmを超える場合、マット材を構成する無機繊維の密度にムラが発生することがある。
繊維長の測定は、ピンセットを使用して、マット材から無機繊維が破断しないように抜き取り、光学顕微鏡を使用して繊維長を測定する。本明細書では、無機繊維300本を抜き取り、平均繊維長を求める。
マット材から無機繊維を採取する際には、必要に応じてマット材を脱脂処理して水の中へ投入し、無機繊維同士の絡みをほぐしながら無機繊維が破断しないように採取してもよい。
【0031】
無機繊維の平均繊維径は、3~10μmであり、かつ、繊維径が3μm未満の無機繊維を含まないことが好ましい。
無機繊維の平均繊維径は、3~7μmであることがより好ましい。
無機繊維の平均繊維径が3μm未満の場合、無機繊維の変形に対する復元力が低下し、充分な面圧を発揮しにくくなる。一方、無機繊維の平均繊維径が10μmを超える場合、無機繊維の柔軟性が失われ、変形時に折れやすくなることがある。
【0032】
マット材を構成する有機バインダは特に限定されないが、例えば、ゴム系樹脂、スチレン系樹脂、シリコーン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。
高分子樹脂成分として、アクリル系樹脂やゴム系樹脂等を含んだエマルジョン液を無機繊維に付着させて溶媒を除去することで、無機繊維に有機バインダを含有させることができる。
【0033】
本発明のマット材は、有機バインダをマット材の全量に対して固形分換算で4~10重量%含有していることが好ましく、4~8重量%含有していることがより好ましい。
有機バインダの含有量が4重量%未満の場合、マット材に充分な可撓性を付与することができないことがあり、マット材を構造体に巻きつける際に、割れが発生することがある。一方、有機バインダの含有量が10重量%を超える場合、排ガスの熱によって発生するバインダ樹脂の分解ガスの量が多くなり、排ガスに含まれる成分に影響を与える可能性がある。
【0034】
有機バインダのガラス転移温度は、5℃以下であることが好ましく、-5℃以下であることがより好ましく、-10℃以下であることがさらに好ましく、-30℃以下であることが特に好ましい。
有機バインダのガラス転移温度Tgが5℃以下であると、有機バインダにより形成される有機バインダ皮膜の強度を高くしつつ、皮膜伸度が高くて可撓性に優れたマット材とすることができる。そのため、マット材を排ガス処理体に巻きつける際等にマット裂けが発生しにくくなる。また、有機バインダ皮膜が硬くなり過ぎないため、無機繊維が破断した際に、無機繊維同士を繋ぎ止める効果を発揮し、無機繊維の飛散を抑制することができる。一方、有機バインダのガラス転移温度Tgが5℃を超える場合、マット材の可撓性が低下し、破断伸度が低下してしまうことがある。
【0035】
本発明のマット材はさらに、無機バインダを含有することが好ましい。
【0036】
無機バインダとしては、特に限定されず、アルミナゾル、シリカゾル等が挙げられる。
【0037】
本発明のマット材は、無機バインダをマット材の全量に対して固形分換算で0.1~3重量%含有していることが好ましく、0.3~2.5重量%含有していることがより好ましい。
【0038】
本発明のマット材中に含まれる有機バインダは、例えば以下の方法により測定することができる。
まず、マット材を一定重量サンプルとして採取する。続いて、サンプルをるつぼに入れて加熱して有機バインダを燃焼除去し、加熱により減少した重量を有機バインダの重量とみなし、マット材の重量に対する含有量(重量%)を算出する。
一方、マット材中に有機バインダ及び無機バインダが含まれる場合、これらの含有量は、例えば以下の方法により測定することができる。
まず、マット材を一定重量サンプルとして採取する。続いて、サンプル中に含まれる有機バインダが溶解する有機溶媒(例えばテトラヒドロフラン)を選び、ソックスレー抽出器にて上記有機バインダを溶解し、サンプルから分離する。溶解した上記有機バインダに含まれる無機バインダもサンプルから分離され、有機溶媒中に上記有機バインダと上記無機バインダとが回収されることとなる。
次に、上記有機バインダと上記無機バインダからなる有機溶媒をるつぼに入れ、加熱により有機溶剤を蒸発除去する。るつぼに残った残渣を、マット材に対する上記有機バインダと上記無機バインダの合計重量とみなし、マット材の重量に対する含有量(重量%)を算出する。
さらに、るつぼを600℃で1時間加熱処理し、有機バインダを焼失させる。るつぼ中には、無機バインダが残留しているので、これを有機バインダと無機バインダの合計に対する無機バインダの含有量(重量%)とみなし、その含有量を算出する。残りが有機バインダの含有量(重量%)となる。
【0039】
本発明のマット材は、巻きつけ方向となる長手方向と、長手方向に直交する短手方向を有する。
マット材の形状は特に限定されず、例えば、略矩形形状で、長手方向側の端部のうち、一方の端部である第1の端部に凸部が形成されており、他方の端部である第2の端部に凹部が形成されている形状であってもよいし、該凹部や凸部が形成されていない略矩形形状であってもよい。
【0040】
マット材の厚さは、2~30mmであることが望ましい。
マット材の厚さが2mm未満であると、その厚さが薄すぎるため、断熱性能や防音性能が低下してしまう。一方、マット材の厚さが30mmを超えると、柔軟性が低下し、装着対象となる部材への装着性が低下する。
【0041】
マット材のかさ密度は、特に限定されるものではないが、0.05~0.30g/cm3であることが望ましい。マット材のかさ密度が0.05g/cm3未満であると、無機繊維のからみ合いが弱く、無機繊維が剥離しやすいため、マット材の形状を所定の形状に保ちにくくなる。一方、マット材のかさ密度が0.30g/cm3を超えると、マット材が硬くなり、装着対象となる部材への装着性が低下し、マット材が割れやすくなる。
【0042】
本発明のマット材は、抄造により無機繊維を積層したマット材であることが好ましい。
抄造により無機繊維を積層したマット材は、マット材表面の摩擦が大きいため高い保持力を発揮することができる。また、高坪量のマット材を容易に作製することができる。
【0043】
本発明のマット材を巻きつける巻付対象物は特に限定されず、例えば、排ガス処理体、排ガス浄化装置、排気管等が挙げられる。
本発明のマット材を円柱状の排ガス処理体の側面に巻きつけてケーシング内に収容することで排ガス浄化装置が得られる。従って、本発明のマット材は保持材として使用することもできる。
また、本発明のマット材を排ガス浄化装置の外周部や周囲に巻きつけて配置することによって、断熱材、防音材、吸音材等の用途に使用することができる。
【0044】
本発明のマット材を製造する方法としては、例えば、無機繊維を含む溶液を抄造して上記無機繊維の集合体である繊維集合体を作製する抄造工程と、上記繊維集合体を脱水する脱水工程と、上記繊維集合体を予備乾燥させる予備乾燥工程と、上記繊維集合体を本乾燥させる本乾燥工程とを含み、上記予備乾燥工程では、脱水した上記繊維集合体を上面が露出するように載置して、上記上面を乾燥させ、上記本乾燥工程では、上記繊維集合体を圧縮しながら内部まで乾燥させる方法が挙げられる。
【0045】
予備乾燥工程において、脱水した繊維集合体を上面が露出するように載置して該上面を乾燥させ、その後本乾燥工程によって、繊維集合体を圧縮しながら内部まで乾燥させることで、繊維集合体の表面のうち、上面とは反対側の面に多くの有機バインダが存在することとなる。
相対的に有機バインダの量が多い側の表面(上面とは反対側の面であり、下面ともいう)は、相対的に有機バインダの量が少ない側の表面(上面)よりも引張強度及び破断伸度が高くなるため、マット材を厚さ方向に3分割し、有機バインダの量が多い側の表面(下面)を含む層、中間層、有機バインダの量が少ない側の表面(上面)を含む層とした際に、上面を含む層の引張強度に対する下面を含む層の引張強度の比が1.2~2.2であり、上面を含む層の破断伸度に対する下面を含む層の破断伸度の比が1.1~1.3である本発明のマット材を得ることができる。
【0046】
[抄造工程]
抄造工程では、無機繊維及び有機バインダを含む溶液を抄造して上記無機繊維の集合体である繊維集合体を作製する。
無機繊維及び有機バインダを含む溶液を準備する方法としては、例えば、無機繊維を開繊し、開繊した無機溶液を溶媒中に分散させた後、有機バインダを添加して混合する方法等が挙げられる。
無機繊維及び有機バインダを含む溶液を抄造する方法としては、連続式抄造法やバッチ式抄造法が挙げられる。
【0047】
[脱水工程]
脱水工程では、抄造工程により得られた繊維集合体を脱水する。
脱水の方法は特に限定されないが、抄造後の繊維集合体を下面から吸引する方法などが挙げられる。
【0048】
[予備乾燥工程]
予備乾燥工程では、脱水した繊維集合体を上面が露出するように載置して、繊維集合体の上面を乾燥させる。
繊維集合体の上面を乾燥させる方法としては、繊維集合体の上面に熱風を吹き付ける方法や、繊維集合体の上面を露出させた状態で放置する方法などが挙げられる。
繊維集合体の上面に熱風を吹き付ける場合、70~200℃の熱風を1~10分間吹き付けることが好ましい。このとき、繊維集合体の下面に熱風が到達しないことが好ましい。
繊維集合体の上面を露出させた状態で放置する場合、室温で8~48時間放置することが好ましい。
【0049】
[本乾燥工程]
本乾燥工程では、繊維集合体を圧縮しながら内部まで乾燥させる。
繊維集合体を圧縮しながら内部まで乾燥させる方法としては、ヒータを備えたプレス機を用いて繊維集合体を圧縮しながら加熱する方法や、プレス機を用いて繊維集合体を圧縮しながら、繊維集合体に対して熱風を吹き付ける方法などが挙げられる。
【0050】
続いて、本発明のマット材が用いられた第1の排ガス浄化装置について説明する。なお、本発明のマット材が用いられた第1の排ガス浄化装置は、本発明の排ガス浄化装置でもある。
【0051】
本発明の第1の排ガス浄化装置は、排ガス処理体と、上記排ガス処理体を収容するケーシングと、上記排ガス処理体と上記ケーシングとの間に配設され、上記排ガス処理体を保持する保持材とを備える排ガス浄化装置であって、上記保持材は本発明のマット材であることを特徴とする。
本発明の排ガス浄化装置は、保持材として本発明のマット材を備えるため、マット裂け等が発生しにくく、排ガス処理体を安定的に保持することができる。
【0052】
排ガス処理体としては、金属ハニカム体や、セラミックハニカム体を用いることができる。これらの中では、セラミックハニカム体を用いることが望ましい。
【0053】
排ガス処理体が、セラミックハニカム体の場合、その素材は、炭化ケイ素質及び窒化ケイ素質等の非酸化物、並びに、コージェライト及びチタン酸アルミニウム等の酸化物を用いることができる。これらのうち、特に、炭化ケイ素質又は窒化ケイ素質等の非酸化物多孔質焼成体であることが好ましい。
またその形状としては、多数のセルがセル壁を隔てて長手方向に並設された柱状のものであってもよい。
【0054】
排ガス処理体は、セルのいずれかの端部が、封止材により封止されていてもよい。セルのいずれかの端部が封止材により封止されていると、排ガス処理体はフィルタとして機能するのでPMを捕集するのに適した形状となる。
【0055】
排ガス処理体には、排ガスを浄化するための触媒を担持させてもよく、担持させる触媒としては、例えば、白金、パラジウム、ロジウム等の貴金属が好ましく、この中では、白金がより好ましい。また、その他の触媒として、例えば、カリウム、ナトリウム等のアルカリ金属、バリウム等のアルカリ土類金属を用いることもできる。これらの触媒は、単独で用いても良いし、2種以上併用しても良い。これら触媒が担持されていると、PMを燃焼除去しやすくなり、有毒な排ガスの浄化も可能になる。
【0056】
排ガス処理体は、コージェライト等からなり、一体的に形成された一体型ハニカム構造体であってもよく、あるいは、炭化ケイ素等からなり、多数の貫通孔が隔壁を隔てて長手方向に並設された柱状のハニカム焼成体を主にセラミックを含むペーストを介して複数個結束してなる集合型ハニカム構造体であってもよい。
【0057】
ケーシングは、ステンレス等の金属からなることが望ましい。
ケーシングの形状は、両端部の内径が中央部の内径よりも小さい略円筒状であってもよいし、内径が一定である略円筒状であってもよい。
ケーシングの内径は、排ガス処理体にマット材を巻きつけた巻付体の直径より若干短くなっていることが望ましい。ケーシングの内径が、巻付体の直径より若干短いと、巻付体はしっかりと押さえつけられるので、排ガス浄化装置の使用時に、排ガス処理体が脱落しにくくなる。
【0058】
続いて、本発明のマット材が用いられた第2の排ガス浄化装置について説明する。なお、本発明のマット材が用いられた第2の排ガス浄化装置は、本発明の排ガス浄化装置でもある。
【0059】
本発明の第2の排ガス浄化装置は、排ガス処理体と、上記排ガス処理体を収容するケーシングと、上記排ガス処理体と上記ケーシングとの間に配設され、上記排ガス処理体を保持する保持材と、上記ケーシングを覆うように配置された断熱材と、上記断熱材の外側に配置された金属カバーとを備える排ガス浄化装置であって、上記保持材及び/又は上記断熱材は、本発明のマット材であることを特徴とする。
【0060】
本発明の第2の排ガス浄化装置は、保持材及び/又は断熱材として本発明のマット材を備える。
本発明のマット材が、保持材として用いられる場合には、マット裂け等が発生しにくく、排ガス処理体を安定的に保持することができる。
本発明のマット材が、断熱材として用いられる場合には、マット裂け等が発生しにくい。
【0061】
本発明の第2の排ガス浄化装置における排ガス処理体及びケーシングの好ましい態様は、上記本発明の第1の排ガス浄化装置における排ガス処理体及びケーシングの好ましい態様と同じである。
【0062】
本発明の第2の排ガス浄化装置における金属カバーは、ステンレス等の金属からなることが好ましい。
【0063】
次に、本発明のマット材が用いられた断熱材付き排気管について説明する。なお、本発明のマット材が用いられた断熱材付き排気管は、本発明の断熱材付き排気管でもある。
本発明の断熱材付き排気管は、排気管と、上記排気管を覆うように配置された断熱材と、上記断熱材の外側に配置された金属カバーとを備える断熱材付き排気管であって、上記断熱材は、本発明のマット材であることを特徴とする。
【0064】
本発明の断熱材付き排気管は、断熱材として本発明のマット材を備えるため、マット裂けが発生しにくく、好適に断熱することができる。
【0065】
本発明の断熱材付き排気管において、排気管は、ステンレス等の金属からなることが好ましい。
また、本発明の断熱材付き排気管において、金属カバーは、ステンレス等の金属からなることが好ましい。
【0066】
(実施例)
以下、本発明をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0067】
(実施例1)
[無機繊維の作製]
Al含有量が70g/Lであり、Al:Cl=1:1.8(原子比)となるように調製した塩基性塩化アルミニウム水溶液に対して、焼成後の無機繊維における組成比が、Al2O3:SiO2=72:28(重量比)となるようにシリカゾルを配合し、さらに、有機重合体(ポリビニルアルコール)を適量添加して混合液を調製した。
得られた混合液を濃縮して紡糸用混合物とし、この紡糸用混合物をブローイング法により紡糸して無機繊維前駆体を作製した。続いてこの無機繊維前駆体を圧縮して、長方形のシート状物を作製した。圧縮したシート状物を最高温度1250℃で焼成し、アルミナとシリカとを72重量部:28重量部で含む無機繊維(平均繊維径5μm)を作製した。
【0068】
[無機繊維の開繊]
上記無機繊維10kgを水1500Lに投入し、650rpmで20分間、市販のパルパー(容量2000L程度)を用いて撹拌することで、無機繊維を破砕し、短繊維化することで、開繊された無機繊維の溶液を得た。
この開繊された無機繊維の溶液を光学顕微鏡で観察し、無機繊維の平均繊維長を求めた。
無機繊維の平均繊維長は、900μmであった。
【0069】
[スラリーの調製]
工程により得た開繊された上記無機繊維の溶液の一部を、繊維分が170g、水が75Lとなるように取り出し、ここにアクリル系樹脂(ガラス転移温度Tg:-15℃)を水に分散させた市販のアクリルラテックス溶液(固形分重量50重量%)を21.7g投入し、650rpmで1分間撹拌することにより、スラリーを調製した。
なお、開繊工程で得られた溶液から特定量の繊維及び水を取り出す場合、あらかじめ乾燥状態の無機繊維の重量及び水分を含んだ状態の無機繊維の重量を測定して、無機繊維がどの程度の水分を含有できるのかを求めておくことにより、必要量を逆算することができる。
【0070】
[抄造工程]
上記スラリーを、連続抄造機を用いて連続式抄造法により抄造し、繊維集合体を得た。
【0071】
[脱水工程]
得られた繊維集合体を下側から吸引することにより脱水した。
【0072】
[予備乾燥工程]
脱水した繊維集合体の上面に向かって室温下で風を60分間吹き付けて、予備乾燥を行った。
【0073】
[本乾燥工程]
繊維集合体をプレス機を用いて厚さ7.0mmに圧縮しながら140℃で15分間加熱して本乾燥を行い、実施例1に係るマット材(目付量1500g/m2、厚さ10.0mm)を得た。
【0074】
(比較例1)
抄造工程において、抄造方法をバッチ式に変更し、アクリルラテックス溶液の添加量を25.6gに変更し、予備乾燥工程を行わなかったほかは、実施例1と同様の方法で、比較例1に係るマット材を得た。
【0075】
(比較例2)
予備乾燥工程を行わなかったほかは、実施例1と同様の手順で、比較例2に係るマット材を得た。
【0076】
[有機バインダ含有量の測定(3分割)]
実施例1及び比較例1~2に係るマット材を厚さ方向に3分割し、それぞれの層における有機バインダの含有量を測定した。結果を表1に示す。なお、上面に近い層が第1層、下面に最も近い層が第3層である。
【0077】
【0078】
[有機バインダ含有量の測定(10分割)]
実施例1及び比較例1~2に係るマット材を厚さ方向に10分割し、それぞれの層における有機バインダの含有量を測定した。結果を表2に示す。なお、上面に近い層が第1層、下面に最も近い層が第10層である。
【0079】
【0080】
表2の結果より、本発明のマット材ではマット材を厚さ方向に10分割した際の、上面に最も近い第1層だけ有機バインダ含有量が低くなっていることを確認した。
また、バッチ式抄造法の比較例1及び予備乾燥工程を行わなかった比較例2では、有機バインダ含有量がばらついていないことを確認した。
【0081】
[引張強度及び破断伸度の測定]
実施例1及び比較例1~2に係るマット材を厚さ方向に3等分して上面側の層、中間層、下面側の層に分離した。
その後、上面側の層(表3中、上面と略記)及び下面側の層(表3中、下面と略記)を長さ100mm×幅50mmに切り出して試験片とした後、引張試験用のつかみ治具を装着した万能材料試験機で試験片を100mm/minの速度で引っ張り、破断した際の荷重から引張強度を、破断した際の試験片の長さから破断伸度を求めた。結果を表3に示す。
【0082】
(参考例1)
比較例1に係るマット材の下面側の表面に、PET繊維からなる有機シートを熱圧着して参考例1に係るマット材を得た。
【0083】
[巻きつけ性の確認]
実施例1、比較例1~2及び参考例1に係るマット材を長さ190mm×幅30mmの矩形形状に打ち抜いて試験片を作製した。この試験片を、直径55mmの筒状体に巻きつけて、固定した状態で5分間静置し、表面にマット裂けが発生していないかどうかを確認した。巻きつけは、抄造時に上面であった面(表3中、上面と略記)が内側に下面であった面(表3中、下面と略記)が外側に配置される状態で行った。マット裂けが発生しなかったものを○、マット裂けが発生したものを×と評価し、結果を表3に示す。
【0084】
【0085】
表3の結果より、本発明のマット材は、下面が外側となるように巻きつけた際に、マット裂けが発生しにくい。
これに対して、比較例1~2に係るマット材では、マット裂けが生じることがわかった。また、マット材の表面に有機シートを貼り付けた参考例1も、実施例1と同様にマット裂けが生じにくいことがわかった。
【符号の説明】
【0086】
1 マット材
10 第1主面
20 第2主面
30 凹部
40 凸部
L 長手方向
W 短手方向
T 厚さ