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特許7495802浮体式水上構造物の施工方法及びそれに使用する仮係留用浮体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】浮体式水上構造物の施工方法及びそれに使用する仮係留用浮体
(51)【国際特許分類】
   B63B 75/00 20200101AFI20240529BHJP
   B63B 77/10 20200101ALI20240529BHJP
   B63B 21/50 20060101ALI20240529BHJP
   F03D 13/25 20160101ALI20240529BHJP
【FI】
B63B75/00
B63B77/10
B63B21/50 A
F03D13/25
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020052165
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021151800
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100172096
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 理太
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】道前 武尊
(72)【発明者】
【氏名】中川 大輔
(72)【発明者】
【氏名】横畠 隆広
(72)【発明者】
【氏名】森屋 陽一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 智彦
(72)【発明者】
【氏名】西郡 一雅
(72)【発明者】
【氏名】前田 誠
(72)【発明者】
【氏名】山田 理紗
【審査官】塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-207446(JP,A)
【文献】特表2017-501079(JP,A)
【文献】特表2019-518153(JP,A)
【文献】特開2010-101033(JP,A)
【文献】特開2014-227966(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 75/00
B63B 77/10
B63B 21/50
F03D 13/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に起立された下部浮体構造体上に上部構造体を連結させる浮体式水上構造物の施工方法において、
所定の仮係留海域において前記下部浮体構造体を起立させた後、該起立させた下部浮体構造体を仮係留用浮体に着脱可能に把持させ、該仮係留用浮体と水底に設置されたアンカー体とを係留索で連結して前記下部浮体構造体を起立させた状態で前記仮係留海域に係留させておくことを特徴とする浮体式水上構造物の施工方法。
【請求項2】
前記下部浮体構造体を把持させた複数の仮係留用浮体を互いに連結させ、該複数の下部浮体構造体を前記仮係留海域に係留させておく請求項1に記載の浮体式水上構造物の施工方法。
【請求項3】
前記下部浮体構造体を前記仮係留用浮体に把持させた状態で、前記下部浮体構造体にバラスト水を投入または排水する請求項1又は2に記載の浮体式水上構造物の施工方法。
【請求項4】
前記仮係留海域において前記仮係留用浮体に把持された下部浮体構造体上に前記上部構造体を連結させる請求項1~3の何れか一に記載の浮体式水上構造物の施工方法。
【請求項5】
前記下部浮体構造体を起立させた状態で前記仮係留海域に係留させた後、前記仮係留用浮体から前記係留索を取り外し、前記仮係留用浮体に把持させた状態で前記下部浮体構造体を設置海域まで移動させる請求項1~4の何れか一に記載の浮体式水上構造物の施工方法。
【請求項6】
請求項1~5の何れか一に記載の浮体式水上構造物の施工方法に使用する仮係留用浮体であって、
互いに水平方向に開閉可能な状態に連結された一対の把持用浮体を備え、該把持用浮体間に前記下部浮体構造体が起立させた状態で両側から把持されるようにしたことを特徴とする仮係留用浮体。
【請求項7】
前記把持用浮体は、互いに対向する側部に前記下部浮体構造体が嵌まり込む凹状の保持部が形成されている請求項6に記載の仮係留用浮体。
【請求項8】
前記把持用浮体は、前記保持部の内周面に弾性材からなる緩衝部材を備えた請求項7に記載の仮係留用浮体。
【請求項9】
前記一対の把持用浮体は、一端側がヒンジ部によって互いに水平方向に回動可能に連結され、他端側に着脱可能に連結される連結部を備えている請求項6~8の何れか一に記載の仮係留用浮体。
【請求項10】
全体が矩形状に形成され、他の仮係留用浮体と互いに接合できるようにした請求項6~9の何れか一に記載の仮係留用浮体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洋上に設置される浮体式洋上風力発電装置等の浮体式水上構造物の施工方法及びそれに使用する仮係留用浮体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境への影響や自然エネルギーの有効活用の観点から、再生可能エネルギーの利用が進められており、その中でも発電賦存量が多い風力発電が注目されている。
【0003】
特に、洋上は、陸上と比較して風力発電に適した風が得やすい環境にあり、風力発電設備を設置する環境に適していることから、近年では、洋上風力発電装置の開発並びに設置が進められている。
【0004】
洋上風力発電装置は、大まかに水深50m以浅の海域に設置される着床式と水深50m以深の海域に設置される浮体式とに分類され、現在は着床式が主流となっている。
【0005】
しかしながら、水深50m以深の海域は、陸地より遠いこともあり風量が多く、発電賦存量の確保に適しているため、浮体式洋上風力発電装置の需要が高くなっていくと考えられている。
【0006】
浮体式洋上風力発電装置は、水中に浮かべられた浮体と、浮体に立設された支持塔部の頂部にナセル及びブレードが支持された上部構造体とを備え、浮体によって上部構造体を支持するようになっている。
【0007】
浮体には、上下方向に長く起立した状態で水中に浮かぶスパー型のものが広く知られている。
【0008】
従来、このスパー型の浮体式洋上風力発電装置を設置するには、横たえた浮体を設置海域まで台船又は曳航によって運搬した後、浮体にバラスト水を注入して上端が水面より突出した状態に浮体を起立させ、浮体を係留した後、その状態でクレーン船等によって上部構造体を浮体の上端部に移動させ、浮体と上部構造体とを連結する方法で行われている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2014-227966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、浮体式洋上風力発電装置が設置される水深50m以深の海域は、一般的な海洋工事が行われる海域に比べて海象条件が厳しい場合が多く、浮体式洋上風力発電装置の設置作業は、海象条件の厳しい状況下で海象条件の比較的穏やかな時期を見計らって実施しなければならないため、設置作業の実施時期や期間が限定される。
【0011】
この浮体式洋上風力発電装置の設置では、浮体の起立、上部構造体の吊り持ち、浮体と上部構造体の連結及び係留を一連の作業として実施しなければならず、この一連の作業が基本的に中断できないため、作業可能な海象条件の時期を確保することが難しいという問題があった。
【0012】
また、浮体式洋上風力発電装置の設置は、厳しい海象条件下にあるとともに、大型作業船を用いての繊細な作業が要求されるため、作業の稼働率が悪いという問題もあった。
【0013】
近年では、発電単価の低減を目的とした風車の大型化に伴い、それを支持する浮体も大型化されており、このような大型化された洋上風力発電装置を設置する海域もより水深の深い海域となってきているので、その分、海象条件がより厳しいものとなり、稼働率低下の要因となっている。
【0014】
そこで、本発明は、このような従来の問題に鑑み、設置海域での作業を軽減し、効率よく設置が可能な浮体式洋上風力発電装置の設置方法及びの提供を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述の如き従来の問題を解決するための請求項1に記載の発明の特徴は、水中に起立された下部浮体構造体上に上部構造体を連結させる浮体式水上構造物の施工方法において、所定の仮係留海域において前記下部浮体構造体を起立させた後、該起立させた下部浮体構造体を仮係留用浮体に着脱可能に把持させ、該仮係留用浮体と水底に設置されたアンカー体とを係留索で連結して前記下部浮体構造体を起立させた状態で前記仮係留海域に係留させておくことにある。
【0016】
請求項2に記載の発明の特徴は、請求項1の構成に加え、前記下部浮体構造体を把持させた複数の仮係留用浮体を互いに連結させ、該複数の下部浮体構造体を前記仮係留海域に係留させておくことにある。
【0017】
請求項3に記載の発明の特徴は、請求項1又は2の構成に加え、前記下部浮体構造体を前記仮係留用浮体に把持させた状態で、前記下部浮体構造体にバラスト水を投入または排水することにある。
【0018】
請求項4に記載の発明の特徴は、請求項1~3の何れか一の構成に加え、前記仮係留海域において前記仮係留用浮体に把持された下部浮体構造体上に前記上部構造体を連結させることにある。
【0019】
請求項5に記載の発明の特徴は、請求項1~4の何れか一の構成に加え、前記下部浮体構造体を起立させた状態で前記仮係留海域に係留させた後、前記仮係留用浮体から前記係留索を取り外し、前記仮係留用浮体に把持させた状態で前記下部浮体構造体を設置海域まで移動させることにある。
【0020】
請求項6に記載の発明の特徴は、請求項1~5の何れか一に記載の浮体式水上構造物の施工方法に使用する仮係留用浮体であって、互いに水平方向に開閉可能な状態に連結された一対の把持用浮体を備え、該把持用浮体間に前記下部浮体構造体が起立させた状態で両側から把持されるようにしたことにある。
【0021】
請求項7に記載の発明の特徴は、請求項6の構成に加え、前記把持用浮体は、互いに対向する側部に前記下部浮体構造体が嵌まり込む凹状の保持部が形成されていることにある。
【0022】
請求項8に記載の発明の特徴は、請求項7の構成に加え、前記把持用浮体は、前記保持部の内周面に弾性材からなる緩衝部材を備えたことにある。
【0023】
請求項9に記載の発明の特徴は、請求項6~8の何れか一の構成に加え、前記一対の把持用浮体は、一端側がヒンジ部によって互いに水平方向に回動可能に連結され、他端側に着脱可能に連結される連結部を備えていることにある。
【0024】
請求項10に記載の発明の特徴は、請求項6~9の何れか一の構成に加え、全体が矩形状に形成され、他の仮係留用浮体と互いに接合できるようにしたことにある。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る浮体式水上構造物の施工方法は、請求項1の構成を具備することによって、静穏な海域で浮体を起立させた状態で仮係留を行うことができ、海象現象の厳しい設置海域での作業を軽減し、効率よく施工することができる。
【0026】
また、本発明において、請求項2の構成を具備することによって、複数の下部浮体構造体が互いに支持しあうことで安定して仮係留することができる。
【0027】
また、本発明において、請求項3の構成を具備することによって、係留時における下部浮体構造体の喫水を調節し、より安定した状態で仮係留することができる。
【0028】
さらに、本発明において、請求項4の構成を具備することによって、静穏な海域において安定した状態で上部構造体の連結作業を行うことができる。
【0029】
さらにまた、本発明において、請求項5の構成を具備することによって、安定した状態で下部浮体構造体又は浮体式水上構造物を設置海域まで移動させることができる。
【0030】
また、本発明に係る仮係留用浮体は、請求項6の構成を具備することによって、的確に下部浮体構造体を把持し、安定した状態で仮係留することができる。
【0031】
さらに、本発明において、請求項7の構成を具備することによって、仮係留用浮体に確実に把持させることができる。
【0032】
さらにまた、本発明において、請求項8の構成を具備することによって、下部浮体構造体の損傷を防止することができる。
【0033】
また、本発明において、請求項9の構成を具備することによって、下部浮体構造体を把持する作業を円滑に行うことができる。
【0034】
さらに、本発明において、請求項10の構成を具備することによって、仮係留用浮体同士が互いに支持することによって、起立した複数の下部浮体構造体を安定した状態で仮係留させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明に係る浮体式水上構造物の一例を示す正面図である。
図2】本発明に係る浮体式水上構造物の施工方法の手順を示す図であって、仮係留海域における下部浮体構造体の起立作業の状態を示す断面図である。
図3】同上の仮係留用浮体の取り付け作業の状態を示す断面図である。
図4】(a)は図3中の仮係留浮体の一例を示す斜視図、(b)は同仮係留浮体の他の一例を示す斜視図である。
図5】同上のバラスト調整作業の状態を示す断面図である。
図6】同上の仮係留時の状態を示す断面図である。
図7】同上の斜視図である。
図8】同上の複数の下部浮体構造体を仮係留した状態を示す斜視図である。
図9】同上の仮係留海域における下部浮体構造体と上部構造体との連結作業及び仮係留の状態を示す断面図である。
図10】同上の浮体式水上構造物の曳航作業の状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
次に、本発明に係る浮体式水上構造物の施工方法及びそれに使用する仮係留用浮体の実施態様を図1図10に示した実施例に基づいて説明する。
【0037】
本実施例は、浮体式水上構造物1である浮体式洋上風力発電装置を例に説明し、図中符号は浮体式水上構造物1である。
【0038】
浮体式水上構造物1は、図1に示すように、水中に起立された下部浮体構造体2と、下部浮体構造体2上に連結された上部構造体3とを備え、所定の設置海域4において上部構造体3を下部浮体構造体2に支持させた状態で設置されるようになっている。
【0039】
設置海域4は、水深が50m以深の海域であって、風量が多く、風力発電における発電賦存量が多く見込まれる海域である。
【0040】
上部構造体3は、支持塔部5の頂部にナセル6及びブレード7が支持され、支持塔部5の下端が下部浮体構造体2の上端に連結されるようになっている。
【0041】
下部浮体構造体2は、スパー型(釣浮き型)の浮体であって、内部に空洞部を備えた上下方向に長い筒状の浮体本体8と、浮体本体8の上面に突出した上部構造体連結部9とを備え、上部構造体連結部9に上部構造体3が連結されるようになっている。
【0042】
上部構造体連結部9は、浮体本体8より小径に形成され、上部構造体連結部9と浮体本体8との継ぎ目に段部10が形成されている。
【0043】
浮体本体8は、空洞部にバラスト水11を注排水することによって浮力調整及び重心移動ができるとともに、空洞部の内底部にバラスト材12を投入することによって水中において安定して起立するようになっている。
【0044】
尚、バラスト材12には、砂利、鉄鉱石、スラグ、コンクリート等の水より比重の大きな素材を用いている。
【0045】
このような浮体式水上構造物1を施工するには、先ず、陸上の製作ヤードにおいて下部浮体構造体2を製作する。尚、製作ヤードは、沿岸部に設定されていればよく、後述する設置海域4及び仮係留海域13より離れた個所であってもよい。
【0046】
下部浮体構造体2は、製作が完了した後、製作ヤード又は近辺の仮置き場において横たえた状態で仮置きしておく。
【0047】
そして、運搬に支障がない時期を選んで、下部浮体構造体2を横たえた状態のまま、半潜水台船やクレーン等を用いて沿岸より水上に浮かべ、その状態で所定の仮係留海域13まで曳航する。
【0048】
仮係留海域13は、下部浮体構造体2を起立させることができる水深を確保しつつ、比較的水深が浅く、海象条件の影響が小さい静穏な海域に設定されている。
【0049】
そして、図2に示すように、所定の仮係留海域13において浮体本体8内の空洞部にバラスト水11を注水し、下部浮体構造体2の下端側に重心を移動させ、下部浮体構造体2を起立させる(起立工程)。
【0050】
次に、図3に示すように、起立させた下部浮体構造体2を仮係留用浮体14に着脱可能に把持させ、所定の係留位置に移動させる(把持工程)。
【0051】
仮係留用浮体14は、図4(a)に示すように、互いに開閉可能な状態に連結された一対の把持用浮体15,15を備え、一対の把持用浮体15,15を互いに連結させることによって、把持用浮体15,15間に下部浮体構造体2が起立させた状態で把持されるようになっている。
【0052】
また、仮係留用浮体14は、一対の把持用浮体15,15を連結した状態で全体が矩形状を成すように形成され、側面を互いに突き合わせることによって他の仮係留用浮体14と互いに接合できるようになっている。
【0053】
尚、接合された仮係留用浮体14は、特に図示しないが、例えば、互いを連結用索で繋ぎ止めてもよく、両仮係留用浮体14、14間に鋼材等を架け渡し、その両端をそれぞれ仮係留用浮体14に溶接等で固定することによって連結してもよい。
【0054】
各把持用浮体15,15は、内部に空洞部を有する中空直方体状に形成され、対向する側部に凹状の保持部16を備え、保持部16側を互いに対向させた状態で連結できるようになっている。
【0055】
一対の把持用浮体15,15の連結手段は、特に限定されず、例えば、互いを連結用索で繋ぎ止めてもよく、把持用浮体15,15間に鋼材等を架け渡し、その両端をそれぞれ把持用浮体15,15に溶接等で固定することによって連結してもよい。
【0056】
また、各把持用浮体15,15は、空洞部内に注排水することによって浮力を調整し、喫水を調整できるようになっている。
【0057】
保持部16は、下部浮体構造体2の把持する部分の外形、本実施例では、上部構造体連結部9の外径に合わせて形成され、一対の把持用浮体15,15が互いに接合された際に両保持部16,16によって円状の穴を成すようになっている。
【0058】
そして、両保持部16によって形成される穴は、上部構造体連結部9の直径と略同径又はそれよりも稍大きい直径を有している。
【0059】
また、各保持部16の内側には、ゴムなどの弾性材からなる円弧状の緩衝部材17を固定し、一対の把持用浮体15,15が接合されることによって、保持部16が緩衝部材17を介して下部浮体構造体2の上部構造体連結部9を把持するようにしてもよい。
【0060】
尚、仮係留用浮体14の態様は、上述の実施例に限定されず、例えば、図4(b)に示すように、一対の把持用浮体15,15が一端側にヒンジ部18を備え、ヒンジ部18によって互いに水平方向に回動可能に連結され、他端側が着脱可能に連結されるようにしたものであってもよい。
【0061】
また、仮係留用浮体14を構成する把持用浮体15,15に既存の作業台船等を使用し、作業台船によって下部浮体構造体2を挟み込み把持するようにしてもよい。
【0062】
一方、仮係留用浮体14による把持工程が開始される前に、仮係留海域13の水底13aにアンカー体20を設置するとともに、アンカー体20に係留索19の一端を連結しておき、係留索19の他端に目印としてブイ等をつけて海上に浮かべておく。
【0063】
そして、仮係留浮体14をアンカー体20に係留する際には、ブイ等を引き上げて係留索19を仮係留浮体14の所定の箇所(本実施例では四隅)に着脱可能に連結することによって、仮係留体14がアンカー体20に係留索19,19…が懸垂し弛んだ状態で係留(カテナリー係留)される。
【0064】
尚、アンカー体20は、仮係留浮体14とアンカー体20とが係留索19で連結されている状態で、水底13aに設置するようにしてもよい。
【0065】
アンカー体20は、特に限定されないが、シンカー、パイル、ドラグアンカー、サクションパイル等を用いることができる。
【0066】
次に、図5に示すように、ガット船やガットバージ等の材料運搬船21を仮係留用浮体14の脇に横付けし、下部浮体構造体2を仮係留用浮体14に把持させた状態で、浮体本体8部にバラスト材12を投入する(バラスト調節作業)。
【0067】
その際、仮係留用浮体14上には、発電機や水中ポンプを設置し、浮体本体8内部のバラスト水11を注排水することによって、下部浮体構造体2の喫水を一定に保ちながら作業を行う。
【0068】
そして、図6及び図7に示すように、浮体本体8内部よりバラスト水11を排水し、段部10を両保持部16の周縁部下縁、即ち、仮係留用浮体14の底面に当接させ、下部浮体構造体2を起立させた状態で仮係留海域13に係留させる。
【0069】
複数の下部浮体構造体2を仮係留海域13において係留する場合は、図2~6に示す一連の作業を下部浮体構造体2毎に繰り返し、しかる後、図8に示すように、仮係留用浮体14を互いに接合させ、その状態で仮係留しておく。
【0070】
尚、図8に示すように、新たな下部浮体構造体2が仮係留された際には、既存の下部浮体構造体2を把持する仮係留用浮体14に連結された係留索19,19…を取り外し、新たな下部浮体構造体2を把持する仮係留用浮体14に付け替えるようにしてもよい。
【0071】
そして、図9に示すように、必要に応じて、仮係留海域13において仮係留した状態で下部浮体構造体2と上部構造体3との連結作業を行う。
【0072】
上部構造体3は、仮係留海域13の沿岸部や仮係留海域13に近い製作ヤードにおいて組立てられ、組み立てられた上部構造体3を起重機船等で吊り上げて仮係留された下部浮体構造体2上に移動させ、位置を合わせて降下させて支持塔部5の下端部を上部構造体連結部9に連結させる。
【0073】
上部構造体3と下部浮体構造体2とが連結された浮体式水上構造物1は、当該仮係留海域13又は別の仮係留海域において仮係留用浮体14に把持させた状態で仮係留させておく。
【0074】
そして、設置海域4の海象条件が良好で設置が可能な時期を見計らい、図10に示すように、仮係留用浮体14を取り外し、仮係留海域13より上部構造体3と下部浮体構造体2とが連結された浮体式水上構造物1を起立させた状態で設置海域4まで曳航する。
【0075】
尚、曳航は、係留索19,19…のみを仮係留用浮体14より取り外し、浮体式水上構造物1を仮係留用浮体14に把持させた状態のまま行ってもよい。
【0076】
次に、設置海域4において、図1に示すように、所定の位置で浮体式水上構造物1に一端を水底のアンカー部材22に連結した係留索23,23…の他端を連結し、係留(本係留)させることによって施工が完了する。
【0077】
このように構成された浮体式水上構造物1の施工方法では、下部浮体構造体2を静穏な仮係留海域13において起立させ、起立させた状態で仮係留させておくことによって、海象条件の厳しい設置海域4での下部浮体構造体2の起立作業を省くことができる。
【0078】
それに伴い、本願発明では、従来、一連の作業として実施していた下部浮体構造体2の起立、上部構造体3の設置及び下部浮体構造体2と上部構造体3の連結の各工程を段階的に行うことができるので、設置海域4の海象条件に応じて作業の実施及び中止を適宜選択することができ、安全に作業を行うことができる。
【0079】
また、仮係留海域13に起立した状態の下部浮体構造体2を複数仮係留させておくことによって、海象条件が良好な期間に複数の上部構造体3との連結作業を一気に進めることもできる。
【0080】
また、仮係留海域13に仮係留用浮体14に把持させた状態の浮体式水上構造物1を複数仮係留させておくことによって、設置海域4の海象条件に応じた移動から設置までの工程が容易に行える。
【0081】
尚、上述の実施例では、上部構造体3を仮係留海域13で下部浮体構造体2に連結した場合について説明したが、下部浮体構造体2のみを起立した状態で設置海域4まで曳航し、設置海域4で上部構造体3と下部浮体構造体2との連結作業を行ってもよい。
【0082】
また、上述の実施例では、浮体式水上構造物1として浮体式風力発電装置を例に挙げたが、浮体式水上構造物1はこれに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0083】
1 浮体式水上構造物
2 下部浮体構造体
3 上部構造体
4 設置海域
5 支持塔部
6 ナセル
7 ブレード
8 浮体本体
9 上部構造体連結部
10 段部
11 バラスト水
12 バラスト材
13 仮係留海域
14 仮係留用浮体
15 把持用浮体
16 保持部
17 緩衝部材
18 ヒンジ部
19 係留索
20 アンカー体
21 材料運搬船
22 アンカー部材
23 係留索
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10