(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】多層プリント配線板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 3/46 20060101AFI20240529BHJP
H05K 3/00 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
H05K3/46 T
H05K3/46 G
H05K3/00 P
(21)【出願番号】P 2020072302
(22)【出願日】2020-04-14
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000228833
【氏名又は名称】日本シイエムケイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 裕二
(72)【発明者】
【氏名】塩原 正幸
【審査官】ゆずりは 広行
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-069221(JP,A)
【文献】特開平03-250789(JP,A)
【文献】特開2014-231566(JP,A)
【文献】特開平05-343850(JP,A)
【文献】特開2017-186414(JP,A)
【文献】特開2006-202978(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/46
H05K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表裏面に内層回路を有するコア基板の上下に、
金属水酸化物を含むノンハロゲン樹脂基材からなる第1の絶縁層が配置されていると共に、当該第1の絶縁層の上下に、金属水酸化物と繊維基材を含むノンハロゲン樹脂基材からなる第2の絶縁層が配置され、且つ当該第2の絶縁層の
外層に、外層回路が配置されている多層プリント配線板であって、
当該第1の絶縁層を構成するノンハロゲン樹脂基材の金属水酸化物の充填量は、第2の絶縁層を構成するノンハロゲン樹脂基材の金属水酸化物の充填量より少なく、当該第2の絶縁層の外層回路と第2の絶縁層中の繊維基材との間に、金属水酸化物と絶縁樹脂とからなる膜が形成されていることを特徴とする多層プリント配線板。
【請求項2】
第2の絶縁層を構成するノンハロゲン樹脂基材の樹脂量が45質量%以上であることを特徴とする請求項
1記載の多層プリント配線板。
【請求項3】
コア基板の表裏面に内層回路を形成する工程と、当該コア基板の上下に、
後記第2のノンハロゲン樹脂基材の金属水酸化物の充填量より少ない充填量の金属水酸化物を含む第1のノンハロゲン樹脂基材と、金属水酸化物と繊維基材を含む第2のノンハロゲン樹脂基材と、金属箔をこの順に配置する工程と、この配置状態で
、昇温3.0℃/分以下、圧力4.0Mpa以下、樹脂のゲルタイム160℃以下、トータル2時間から4時間の積層条件で一括加熱・積層プレスを行い、第1の絶縁層及び第2の絶縁層を形成すると共に、金属箔と第2のノンハロゲン樹脂基材に含まれる繊維基材との間に、金属水酸化物と絶縁樹脂とからなる膜を形成する工程と、当該第2の絶縁層の外層に配線回路を形成する工程と、を有することを特徴とする多層プリント配線板の製造方法。
【請求項4】
第1のノンハロゲン樹脂基材又は第2のノンハロゲン樹脂基材のいずれか一方に、識別マークを付与することを特徴とする請求項
3記載の多層プリント配線板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐トラッキング性と、湿負荷試験における高電圧による絶縁性能を両立させた多層プリント配線板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化に伴って、両面プリント配線板から多層プリント配線板へと多層化が進み高い絶縁性が要求されるようになった。使用用途によっては、使用電圧の高電圧化と耐トラッキング性の向上が要求されている。
耐トラッキング性試験は、IEC60112に準拠した試験であり、絶縁基板の表面に、白金製の一対の電極を4mm間隔で設け、600Vまでの交流電圧を段階的に印加する。そして、電解液0.02gを30秒ごとに50滴まで滴下し、電極間に形成されるトラッキング部が絶縁破壊するまでの交流電圧値と滴下数とをトラッキング指数として求める。
【0003】
多層プリント配線板においては、耐トラッキング性の向上ため、水酸化アルミニウム等の無機充填剤を含み、ガラス繊維にエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸させたハロゲン樹脂基材で構成したものが知られている(特許文献1参照)。
図4は、従来の多層プリント配線板の例を示すもので、表裏に内層回路21が形成されたコア基板20の上下に、同一のハロゲン樹脂基材からなる第1の絶縁層22と第2の絶縁層23が配置され、最外層には配線回路25が形成されている。
図4に示す多層プリント配線板200では、無機充填剤を含む複数のハロゲン樹脂基材により、良好な耐トラッキング性を有する。
【0004】
しかしながら、多層プリント配線坂の絶縁信頼性試験(湿負荷試験)は、温度85℃、湿度85%、DC30Vから50V印加し、1000時間から3000時間の絶縁劣化試験を行っていたところ、最近では、一部に高電圧が流れるコンバータやインバータ用の基板として、温度85℃、湿度85%、DC1000V以上と高電圧の印加が要求されるようになった。この1000V以上と高電圧による絶縁性能を従来のハロゲン樹脂基材を用いた多層プリント配線板では満たすことができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、
図5に示したように、多層プリント配線板300において、第1の絶縁層32と第2の絶縁層33にハロゲン樹脂基材ではなくノンハロゲン樹脂基材を使用することで、湿負荷試験における高電圧による絶縁性能を満たすことが考えられる。
しかし、ノンハロゲン樹脂基材はハロゲン樹脂基材に比べて耐トラッキング性にバラツキが生じやすく、安定した耐トラッキング性能を得ることができないという問題があった。
【0007】
本発明は、上記の如き従来の問題に鑑みてなされたものであり、耐トラッキング性と、湿負荷試験における高電圧による絶縁性能を両立させた多層プリント配線板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決すべく、耐トラッキング性が不安定となる要因について検証したところ、
図5に示すように、第2の絶縁層33を構成するノンハロゲン樹脂基材に含まれるガラス繊維34が最外層の配線回路35に接するように配置されると、耐トラッキング性が不安定となることが判明した。そして、さらに研究を重ねた結果、最外層の配線回路とノンハロゲン樹脂基材に含まれるガラス繊維との間に、無機充填剤である金属水酸化物と絶縁樹脂とからなる膜を介在させれば、極めて良い結果が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、表裏面に内層回路を有するコア基板の上下に、金属水酸化物を含むノンハロゲン樹脂基材からなる第1の絶縁層が配置されていると共に、当該第1の絶縁層の上下に、金属水酸化物と繊維基材を含むノンハロゲン樹脂基材からなる第2の絶縁層が配置され、且つ当該第2の絶縁層の外層に、外層回路が配置されている多層プリント配線板であって、当該第1の絶縁層を構成するノンハロゲン樹脂基材の金属水酸化物の充填量は、第2の絶縁層を構成するノンハロゲン樹脂基材の金属水酸化物の充填量より少なく、当該第2の絶縁層の外層回路と第2の絶縁層中の繊維基材との間に、金属水酸化物と絶縁樹脂とからなる膜が形成されていることを特徴とする多層プリント配線板により、上記課題を解決したものである。
また、本発明は、コア基板の表裏面に内層回路を形成する工程と、当該コア基板の上下に、後記第2のノンハロゲン樹脂基材の金属水酸化物の充填量より少ない充填量の金属水酸化物を含む第1のノンハロゲン樹脂基材と、金属水酸化物と繊維基材を含む第2のノンハロゲン樹脂基材と、金属箔をこの順に配置する工程と、この配置状態で、昇温3.0℃/分以下、圧力4.0Mpa以下、樹脂のゲルタイム160℃以下、トータル2時間から4時間の積層条件で一括加熱・積層プレスを行い、第1の絶縁層及び第2の絶縁層を形成すると共に、金属箔と第2のノンハロゲン樹脂基材に含まれる繊維基材との間に、金属水酸化物と絶縁樹脂とからなる膜を形成する工程と、当該第2の絶縁層の外層に配線回路を形成する工程と、を有することを特徴とする多層プリント配線板の製造方法により、上記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の多層プリント配線板によれば、第1の絶縁層と第2の絶縁層にノンハロゲン樹脂基材が用いられると共に、最外層の配線回路と第2の絶縁層中の繊維基材との間に、金属水酸化物と絶縁樹脂とからなる膜が形成されているため、高い耐トラッキング性と湿負荷試験における高電圧による絶縁性能を保つことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明多層プリント配線板の実施の形態を示す概略断面説明図。
【
図2】本発明多層プリント配線板の製造例を示す概略断面工程図。
【
図4】従来のハロゲン樹脂基材を用いた多層プリント配線板の概略断面説明図。
【
図5】ノンハロゲン樹脂基材を用いた多層プリント配線板の概略断面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明多層プリント配線板の実施の形態を、
図1を用いて説明する。
【0013】
図1において、多層プリント配線板100は、表裏面に内層回路11が形成されたコア基板10と、当該コア基板10の上下にそれぞれ積層されたノンハロゲン樹脂基材からなる第1の絶縁層12と第2の絶縁層13と、最外層に形成された外層回路15と、当該外層回路15及び内層回路11を上下方向で接続する貫通めっきスルーホール16と、最外層の外層回路15を保護するソルダーレジスト17とから構成されている。また、当該第2の絶縁層13を構成するノンハロゲン樹脂基材は、金属水酸化物(図示なし)と繊維基材14を含み、外層回路15と当該第2の絶縁層13中の繊維基材14との間には、金属水酸化物と絶縁樹脂とからなる膜18が形成されている。当該膜18の膜厚は、耐トラッキング性を安定化させる観点から、好ましくは6~50μmの範囲である。
【0014】
図1に示したように、第1の絶縁層12は、第2の絶縁層13と同様に、繊維基材14を含む。第1の絶縁層12中にも繊維基材14を含有することで、多層プリント配線板の基板自体の剛性がアップする。また、耐圧熱性が向上する。
繊維基材14としては、ガラスクロス(ガラス繊維)、ガラスペーパー(ガラス不織布)、アラミド不織布等を用いることができる。
【0015】
また、この実施の形態では、第1の絶縁層12を構成するノンハロゲン樹脂基材には、金属水酸化物が充填されているが、樹脂の埋め込み性をよくするために、その充填量は第2の絶縁層13を構成するノンハロゲン樹脂基材より少ないことが好ましい。第1の絶縁層12中の金属水酸化物の充填量が少なければ、積層工程で、第1の絶縁層12中の樹脂の流動性が第2の絶縁層に比べてよくなり、内層回路11へのボイドやマイクロボイドの発生を抑制することが可能となる。当該内層回路11へのボイドやマイクロボイドを抑制することにより、湿負荷試験において、高電圧による絶縁性能を向上させることができる。
一方、第1の絶縁層12よりも第2の絶縁層13中の金属水酸化物の充填量が多いと、積層工程で、当該第2の絶縁層13中の樹脂の流動性を抑制しやすく、外層回路15と第2の絶縁層13中の繊維基材14との間に膜18を設けることが容易になる。そして、当該膜18の形成により耐トラッキング性能が安定する。
金属水酸化物としては、無機充填剤として用いられるものであれば特に限定されず、例えば、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム等を用いることができる。金属水酸化物の形状は、基材に与える熱膨張の関係で丸み状、球状・鱗片状等任意に選択することができる。
【0016】
ノンハロゲン樹脂基材は、ハロゲン、すなわち周期表の第17族の元素(塩素、臭素等)が含有されていない若しくは意図的に用いられていないハロゲンフリー材であれば特に限定されないが、Tgが高く、熱膨張係数が低い基材を使用することが好ましい。その理由は、Tgが高く、熱膨張係数が低い基材は、絶縁信頼性試験前の前処理(熱処理)時の樹脂-繊維基材-導体回路間で生じる熱処理による歪が小さくなる。その為、樹脂中のクラックや繊維基材と樹脂との剥離を抑えることにより、湿負荷試験において、1000V以上と高電圧による絶縁性能を高めるからである。また、熱分解温度が高くなると、熱処理による樹脂の熱劣化が少なく、樹脂中のクラックや樹脂と繊維基材との界面での剥離が発生しなくなるからである。
因に、ハロゲンフリー材の規格としてはJPCA-ES01があり、ハロゲンの閾値は含有率0.09wt%以下が定められている。
【0017】
ノンハロゲン樹脂基材の樹脂としては、熱硬化性樹脂、硬化剤、硬化促進剤等を適宜配合・混合したものである。熱硬化樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、イミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂等を用いることができる。これらの中でもエポキシ樹脂が好適に使用される。硬化剤としては、熱硬化性樹脂と反応して架橋構造を形成しうるものであれば特に限定されない。硬化促進剤は、第3級アミン類、イミダゾール類、リン化合物等適宜使用される。
第1の絶縁層12と第2の絶縁層13中の樹脂量(RC)は特に限定されないが、積層工程で、第2の絶縁層13中の樹脂の流動性をコントロールし、外層回路15と当該第2の絶縁層13中の繊維基材14との間に形成する膜18の膜厚をコントロールする上で、第2の絶縁層中の樹脂量を45質量%以上とすることが好ましい。
【0018】
続いて、上記本発明の多層プリント配線板100の製造方法を
図2~
図3を用いて説明する。
【0019】
まず、
図2(a)に示したように、コア基板10(例えば、ガラスクロス等の補強繊維基材にエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸させた絶縁基板)の表裏面に、感光性のエッチングレジストを設け、写真法にて露光・現像し、エッチング処理(例えば、塩化第二鉄溶液や塩化第二銅溶液等を用いたエッチング処理)にて内層回路11を形成する。当該内層回路11に黒化処理等による粗化処理を施してもよい。
【0020】
次に、
図2(b)に示したように、コア基板10の上下に、繊維基材14を含む第1のノンハロゲン樹脂基材12aと、金属水酸化物と繊維基材14を含む第2のノンハロゲン樹脂基材13aと、金属箔(例えば、銅箔)15aをこの順にレイアップする。
ここで、作業上、第1のノンハロゲン樹脂基材12aと第2のノンハロゲン樹脂基材13aを作業者が識別し易くする為に、どちらか一方(
図2(b)の例では「第1のノンハロゲン樹脂基材12a」)に、刻印等の識別マークWを付与することが好ましい。これにより、レイアップする順番を間違えることなく、絶縁層の取扱が正しくできるため、多層プリント配線板を歩留まりよく生産することができる。
【0021】
次に、前記の配置状態で一括加熱・積層プレスを行い、第1のノンハロゲン樹脂基材からなる第1の絶縁層12と、第2のノンハロゲン樹脂基材からなる第2の絶縁層13を形成すると共に、金属箔15aと第2のノンハロゲン樹脂基材に含まれる繊維基材14との間に、金属水酸化物と絶縁樹脂とからなる膜18を形成する(
図2(c)参照)。
第1の絶縁層12と第2の絶縁層13を一括積層することにより、双方の密着性が向上し、湿負荷試験において、1000V以上と高電圧による絶縁性能が向上する。
積層条件としては、昇温3.0℃/分以下、圧力4.0Mpa以下において、トータル2時間から4時間程である。また、樹脂のゲルタイムを160℃以下とすることが好ましい。その理由は、第2のノンハロゲン樹脂基材13aの樹脂の流動性をコントロールして、膜18の形成、膜厚をコントロールできるからである。
【0022】
次に、
図3(d)から(e)に示したように、貫通孔19をドリル加工やレーザ加工により形成した後、貫通孔内をデスミア処理(例えば、過マンガン酸ナトリウム溶液や過マンガン酸カリウム溶液等の湿式デスミア処理、プラズマ等の乾式デスミア処理)し、次いで、無電解・電解銅めっき15bを施すことによって、貫通めっきスルーホール16を形成する。
【0023】
次に、
図3(f)に示したように、第2の絶縁層の外層にそれぞれ感光性のエッチングレジストを設け、写真法にて露光・現像し、エッチング処理にて最外層の外層回路15を形成し、次いで、写真法にて露光・現像工程にて当該外層回路15を保護するソルダーレジスト17を形成することによって、多層プリント配線板100を得る。
【0024】
本発明を説明するに当たって、1層コア基板10の表裏の両面に、第1の絶縁層12と第2の絶縁層13を積層した両面構造のものを用いて説明したが、本発明を逸脱しない範囲であれば、他の構成にも本発明を適用することは可能であり、さらにまた、層数、材料等も本発明の範囲内で変更が可能である。
【符号の説明】
【0025】
10、20:コア基板
11、21:内層回路
12、32:第1の絶縁層
12a:第1のノンハロゲン樹脂基材
13、33:第2の絶縁層
13a:第2のノンハロゲン樹脂基材
14:繊維基材
15:外層回路
15a:金属箔
15b:無電解・電解銅めっき
16:貫通めっきスルーホール
17:ソルダーレジスト
18:膜
19:貫通孔
22:ハロゲン樹脂基材からなる第1の絶縁層
23:ハロゲン樹脂基材からなる第2の絶縁層
24、34:ガラス繊維
25、35:最外層の配線回路
100:多層プリント配線板
200:従来のハロゲン樹脂基材を用いた多層プリント配線板
300:ノンハロゲン樹脂基材を用いた多層プリント配線板
W:第1のノンハロゲン樹脂基材と第2のノンハロゲン樹脂基材を区別する識別マーク