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特許7495821半導体モジュール用部品の製造方法、及び半導体モジュール用部品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】半導体モジュール用部品の製造方法、及び半導体モジュール用部品
(51)【国際特許分類】
   C23C 4/134 20160101AFI20240529BHJP
   C23C 4/11 20160101ALI20240529BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20240529BHJP
   C23C 8/10 20060101ALI20240529BHJP
   C23C 28/04 20060101ALI20240529BHJP
   C23C 4/02 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
C23C4/134
C23C4/11
H01L23/36
C23C8/10
C23C28/04
C23C4/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020100104
(22)【出願日】2020-06-09
(65)【公開番号】P2021055180
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2019173454
(32)【優先日】2019-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】千葉 理大
(72)【発明者】
【氏名】岩渕 淳寿
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-186454(JP,A)
【文献】特開2014-240511(JP,A)
【文献】国際公開第2013/099890(WO,A1)
【文献】特開2012-241238(JP,A)
【文献】特開昭58-216756(JP,A)
【文献】国際公開第2009/054461(WO,A1)
【文献】特公昭48-034070(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C4/00-4/18
H01L23/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅または銅合金からなる基材と、前記基材の被溶射面を被覆する酸化イットリウムからなる溶射膜と、を備え、前記溶射膜の上方に半導体回路要素が搭載される半導体モジュール用部品の製造方法であって、
前記被溶射面における表面粗さRaが0.1~1μmの範囲に含まれている前記基材を加熱することにより、前記基材の被溶射面に厚さ20nm以上190nm以下の範囲に含まれている銅酸化層を形成する第1工程と、
前記基材の被溶射面に対して、粒子径D50が0.5~6μmの範囲に含まれる酸化イットリウムからなる原料粉末および水系の溶媒から調整されたスラリーを、非酸化性ガスを用いてプラズマ溶射することにより、厚さ40~350μmの範囲に含まれている前記溶射膜を形成する第2工程と、を含むことを特徴とする半導体モジュール用部品の製造方法。
【請求項2】
銅または銅合金からなる基材と、前記基材の被溶射面を被覆する酸化アルミニウムからなる溶射膜と、を備え、前記溶射膜の上方に半導体回路要素が搭載される半導体モジュール用部品の製造方法であって、
前記被溶射面における表面粗さRaが0.1~1μmの範囲に含まれている前記基材を加熱することにより、前記基材の被溶射面に厚さ200nm以上300nm以下の範囲に含まれている銅酸化層を形成する第1工程と、
前記基材の被溶射面に対して、粒子径D50が0.5~6μmの範囲に含まれる酸化アルミニウムからなる原料粉末および水系の溶媒から調整されたスラリーを、非酸化性ガスを用いてプラズマ溶射することにより、厚さ40~350μmの範囲に含まれている前記溶射膜を形成する第2工程と、を含むことを特徴とする半導体モジュール用部品の製造方法。
【請求項3】
銅または銅合金からなる基材と、前記基材の被溶射面を被覆するイットリウムアルミニウムガーネット(Y3Al612)からなる溶射膜と、を備え、前記溶射膜の上方に半導体回路要素が搭載される半導体モジュール用部品の製造方法であって、
前記被溶射面における表面粗さRaが0.1~1μmの範囲に含まれている前記基材を加熱することにより、前記基材の被溶射面に厚さ50nm以上300nm以下の範囲に含まれている銅酸化層を形成する第1工程と、
前記基材の被溶射面に対して、粒子径D50が0.5~6μmの範囲に含まれるイットリウムアルミニウムガーネットからなる原料粉末および水系の溶媒から調整されたスラリーを、非酸化性ガスを用いてプラズマ溶射することにより、厚さ40~350μmの範囲に含まれている前記溶射膜を形成する第2工程と、を含むことを特徴とする半導体モジュール用部品の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3の何れかに1項に記載の半導体モジュール用部品の製造方法において、
前記第1工程において、前記基材の被溶射面に対して、非酸化性ガスプラズマを照射することにより、前記基材を加熱して前記基材の被溶射面に前記銅酸化層を形成することを特徴とする半導体モジュール用部品の製造方法。
【請求項5】
銅または銅合金からなる基材と、前記基材の被溶射面を被覆する酸化イットリウムからなる溶射膜と、を備え、前記溶射膜の上方に半導体回路要素が搭載される半導体モジュール用部品であって、
前記基材の被溶射面と前記溶射膜の間の銅酸化層の厚さが20nm以上190nm以下であって、前記基材の前記被溶射面における表面粗さRaが0.1μm以上1μm以下であって、前記溶射膜の厚さが40μm以上350μm以下であって、前記銅酸化層は前記基材の被溶射面から前記溶射膜方向に、銅に対する原子の比率が増加することを特徴とする半導体モジュール用部品。
【請求項6】
銅または銅合金からなる基材と、前記基材の被溶射面を被覆する酸化アルミニウムからなる溶射膜と、を備え、前記溶射膜の上方に半導体回路要素が搭載される半導体モジュール用部品であって、
前記基材の被溶射面と前記溶射膜の間の銅酸化層の厚さが200nm以上300nm以下であって、前記基材の前記被溶射面における表面粗さRaが0.1μm以上1μm以下であって、前記溶射膜の厚さが40μm以上350μm以下であって、前記銅酸化層は前記基材の被溶射面から前記溶射膜方向に、銅に対する原子の比率が増加することを特徴とする半導体モジュール用部品。
【請求項7】
銅または銅合金からなる基材と、前記基材の被溶射面を被覆するイットリウムアルミニウムガーネットからなる溶射膜と、を備え、前記溶射膜の上方に半導体回路要素が搭載される半導体モジュール用部品であって、
前記基材の被溶射面と前記溶射膜の間の銅酸化層の厚さが50nm以上300nm以下であって、前記基材の前記被溶射面における表面粗さRaが0.1μm以上1μm以下であって、前記溶射膜の厚さが40μm以上350μm以下であって、前記銅酸化層は前記基材の被溶射面から前記溶射膜方向に、銅に対する原子の比率が増加することを特徴とする半導体モジュール用部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体モジュール用部品の製造方法、及び半導体モジュール用部品に関する。
【背景技術】
【0002】
パワー半導体として着目されているSiCは絶縁破壊電界強度がSiと比較して約10倍も高いことから、数百~数千Vの高耐電圧パワーデバイスとしての用途開発がなされ、特に、小型で大電力に対応可能なパワー半導体のモジュール化が検討されている。パワー半導体は、その発熱を放散させるためのヒートシンクなどの金属基材に搭載される必要があるが、半導体および金属基材の間の電気絶縁性を確保するため、当該半導体および当該金属基材の間にセラミックスの絶縁性基材を設けることが提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、電気的な絶縁性能、および、熱伝導性能が良好であることに加え、機械的にも強固な構造の絶縁層を形成して大電力に適用可能とした半導体装置において、金属(銅)上の絶縁層を溶射膜にすることが提案されている。
【0004】
特許文献2には、パワー半導体用の銅(Cu)系放熱板が開示されている。パワー素子から発生する熱をより効率良く系外に放散するための放熱板には、高熱伝導性を有する銅が好適であり、パワー素子あるいはセラミック絶縁板との熱膨張係数差に起因する熱応力の軽減には、銅よりも熱膨張係数及びヤング率が小さい物質からなる応力緩和層をパワー素子あるいはセラミック絶縁板との接合界面に形成することが有効であるとしている。そして、これに基づきとして、Cu板表面にCuとCu2O粒子からなる混合粉末を溶射して、Cuよりも低熱膨張で、かつヤング率の低いCuとCu2Oの複合組織を有する応力緩和層を放熱板に設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-305772号公報
【文献】特開2004-083964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1、2には、パワー半導体用基板として、Cu基板上に形成される酸化イットリウム溶射膜の耐熱衝撃性および電気絶縁性について十分に考察されていなかった。このため、Cu基板とパワーデバイスとの間に優れた耐熱衝撃性および電気絶縁性を有する酸化イットリウム溶射膜を形成する方法については実現が困難であった。
【0007】
そこで、本発明は、銅または銅合金からなる基材と半導体等の対象物とのY23溶射膜などによる優れた耐熱衝撃性および絶縁性を実現しうる半導体モジュール用部品等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、銅または銅合金からなる基材と、前記基材の被溶射面を被覆する酸化イットリウム、酸化アルミニウムまたは酸化イットリウムアルミニウムからなる溶射膜と、を備え、前記溶射膜の上方に半導体回路要素が搭載される半導体モジュール用部品の製造方法、及び半導体モジュール用部品に関する。
【0009】
本発明の第1の半導体モジュール用部品の製造方法は、銅または銅合金からなる基材と、前記基材の被溶射面を被覆する酸化イットリウムからなる溶射膜と、を備え、前記溶射膜の上方に半導体回路要素が搭載される半導体モジュール用部品の製造方法であって、前記被溶射面における表面粗さRaが0.1~1μmの範囲に含まれている前記基材を加熱することにより、前記基材の被溶射面に厚さ20nm以上190nm以下の範囲に含まれている銅酸化層を形成する第1工程と、前記基材の被溶射面に対して、粒子径D50が0.5~6μmの範囲に含まれる酸化イットリウムからなる原料粉末および水系の溶媒から調整されたスラリーを、非酸化性ガスを用いてプラズマ溶射することにより、厚さ40~350μmの範囲に含まれている前記溶射膜を形成する第2工程と、を含むことを特徴とする。
【0010】
当該方法によれば、銅または銅合金からなる基材に対して、水系の溶媒および酸化イットリウムから調整されたスラリーがプラズマ溶射される。スラリーを構成する酸化イットリウムがプラズマで溶融したうえで基材の上において固化するが、銅酸化層は水と反応し還元されやすいためスラリーに含まれる水分が銅酸化層と反応してCu-またはCu-O-の結合手が生じ、これに酸化イットリウムを構成する酸素(O)またはイットリウム(Y)が化学結合してその後で酸化イットリウムの溶射膜が成膜されていくと推察される。
【0011】
すなわち、基材の被溶射面に非酸化性ガスプラズマが照射された後に水系の溶媒を含むスラリーがプラズマ溶射されることにより、従来の溶融-固化による堆積のメカニズムに更に銅または銅合金と酸化イットリウムとの境界において化学的な反応が作用して強固に結合し、成膜されることを発見した。
【0012】
従来は、一般に基材の被溶射面の表面粗さを大きくして溶融-固化時のアンカー効果を作用させることによって溶射膜を固定化させる必要があった。これに対して、本発明によれば、化学的な結合がより大きく作用するため、基材の被溶射面の表面粗さを大きくするための表面処理の必要がなく、粗すとむしろスラリー中に分散している酸化イットリウム粒子の粒子径が小さいため、基材の表面粗さの狭隘部に溶融粒子が侵入して固化しても十分なアンカー効果が発揮されず溶射膜の剥離の原因となっていた。本発明のように、被溶射面の表面粗さRaが1μm以下と小さくかつ原料粉末の粒子径が小さい場合は、原料粉末の溶融粒子が被溶射面の粗さ曲線の凹凸に侵入する効果は小さいものの、基材の表面に残存する数μm以下の小径のボイドに溶融粒子が侵入し微視的なアンカー効果は発揮されているものと推定される。
【0013】
本発明の第2の半導体モジュール用部品の製造方法は、銅または銅合金からなる基材と、前記基材の被溶射面を被覆する酸化アルミニウムからなる溶射膜と、を備え、前記溶射膜の上方に半導体回路要素が搭載される半導体モジュール用部品の製造方法であって、前記被溶射面における表面粗さRaが0.1~1μmの範囲に含まれている前記基材を加熱することにより、前記基材の被溶射面に厚さ200nm以上300nm以下の範囲に含まれている銅酸化層を形成する第1工程と、前記基材の被溶射面に対して、粒子径D50が0.5~6μmの範囲に含まれる酸化アルミニウムからなる原料粉末および水系の溶媒から調整されたスラリーを、非酸化性ガスを用いてプラズマ溶射することにより、厚さ40~350μmの範囲に含まれている前記溶射膜を形成する第2工程と、を含むことを特徴とする。
【0014】
当該方法によれば、前述した本発明の第1の半導体モジュール用部品の製造方法と同様の作用効果を奏する。ただし、酸化アルミニウムは、酸化イットリウムと比べて融点が低いので、相対的に低い温度で融液が凝固する。そのため、形成される溶射膜と酸化層とのの間に作用する残留応力は、銅酸化層の厚みが同じであれば、酸化アルミニウムの溶射膜のほうが酸化イットリウムの溶射膜よりも小さくなる。これにより、溶射膜の厚みが同じである場合、溶射膜と銅酸化層の間に作用する残留応力に起因するクラックや剥離が生じない銅酸化層の厚みは、酸化アルミニウムの溶射膜のほうが酸化イットリウムの溶射膜よりも厚くしても許容される。
【0015】
本発明の第3の半導体モジュール用部品の製造方法は、銅または銅合金からなる基材と、前記基材の被溶射面を被覆するイットリウムアルミニウムガーネット(Y3Al612)からなる溶射膜と、を備え、前記溶射膜の上方に半導体回路要素が搭載される半導体モジュール用部品の製造方法であって、前記被溶射面における表面粗さRaが0.1~1μmの範囲に含まれている前記基材を加熱することにより、前記基材の被溶射面に厚さ50nm以上300nm以下の範囲に含まれている銅酸化層を形成する第1工程と、前記基材の被溶射面に対して、粒子径D50が0.5~6μmの範囲に含まれるイットリウムアルミニウムガーネットからなる原料粉末および水系の溶媒から調整されたスラリーを、非酸化性ガスを用いてプラズマ溶射することにより、厚さ40~350μmの範囲に含まれている前記溶射膜を形成する第2工程と、を含むことを特徴とする。
【0016】
当該方法によれば、前述した本発明の第1及び第2の半導体モジュール用部品の製造方法と同様の作用効果を奏する。ただし、イットリウムアルミニウムガーネットは、酸化アルミニウムと酸化イットリウムとの共晶であるので融点が低いので、低い温度で融液が凝固する。そのため、形成される溶射膜と酸化層とのの間に作用する残留応力は、銅酸化層の厚みが同じであれば、イットリウムアルミニウムガーネットの溶射膜のほうが酸化アルミニウムの溶射膜および酸化イットリウムの溶射膜よりも小さくなる。これにより、溶射膜の厚みが同じである場合、溶射膜と銅酸化層の間に作用する残留応力に起因するクラックや剥離が生じない銅酸化層の厚みは、イットリウムアルミニウムガーネットの溶射膜のほうが酸化アルミニウムの溶射膜および酸化イットリウムの溶射膜よりも厚くしても許容される。
【0017】
本発明の第1から第3の半導体モジュール用部品の製造方法において、前記第1工程において、前記基材の被溶射面に対して、非酸化性ガスプラズマを照射することにより、前記基材を加熱して前記基材の被溶射面に前記銅酸化層を形成することが好ましい。
【0018】
当該方法によれば、非酸化性ガスのプラズマが用いられる点で共通する第1工程および第2工程に連続性をもたせることができ、ひいては半導体モジュール用部品の製造コストの低減が図られる。
【0019】
本発明の第1の半導体モジュール用部品は、銅または銅合金からなる基材と、前記基材の被溶射面を被覆する酸化イットリウムからなる溶射膜と、を備え、前記溶射膜の上方に半導体回路要素が搭載される半導体モジュール用部品であって、前記基材の被溶射面と前記溶射膜の間の銅酸化層の厚さが20nm以上190nm以下であって、前記基材の前記被溶射面における表面粗さRaが0.1μm以上1μm以下であって、前記溶射膜の厚さが40μm以上350μm以下であって、前記銅酸化層は前記基材の被溶射面から前記溶射膜方向に、銅に対する原子の比率が増加することを特徴とする。
本発明の第2の半導体モジュール用部品は、銅または銅合金からなる基材と、前記基材の被溶射面を被覆する酸化アルミニウムからなる溶射膜と、を備え、前記溶射膜の上方に半導体回路要素が搭載される半導体モジュール用部品であって、前記基材の被溶射面と前記溶射膜の間の銅酸化層の厚さが200nm以上300nm以下であって、前記基材の前記被溶射面における表面粗さRaが0.1μm以上1μm以下であって、前記溶射膜の厚さが40μm以上350μm以下であって、前記銅酸化層は前記基材の被溶射面から前記溶射膜方向に、銅に対する原子の比率が増加することを特徴とする。
本発明の第3の半導体モジュール用部品は、銅または銅合金からなる基材と、前記基材の被溶射面を被覆するイットリウムアルミニウムガーネットからなる溶射膜と、を備え、前記溶射膜の上方に半導体回路要素が搭載される半導体モジュール用部品であって、前記基材の被溶射面と前記溶射膜の間の銅酸化層の厚さが50nm以上300nm以下であって、前記基材の前記被溶射面における表面粗さRaが0.1μm以上1μm以下であって、前記溶射膜の厚さが40μm以上350μm以下であって、前記銅酸化層は前記基材の被溶射面から前記溶射膜方向に、銅に対する原子の比率が増加することを特徴とする。
【0020】
当該半導体モジュール用部品によれば、銅酸化層は基材の被溶射面から溶射膜方向に、銅に対する原子の比率が増加する。これは、銅酸化層は基材の被溶射面から溶射膜方向に向かうにつれて、Cu、Cu2O、CuOと銅の酸化度合い(酸素濃度)が高くなることを意味する。そして、銅酸化層と溶射膜とは、銅酸化層の酸素濃度が高い部分が溶射膜と接して、銅酸化層中の酸素と溶射膜中の金属とが化学結合しているため、強固に結合されている。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の半導体モジュール用部品の製造方法のフローチャート。
図2A】第1工程に関する説明図。
図2B】第2工程に関する説明図。
図2C】本発明の半導体モジュール用部品の構成に関する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一実施形態としての溶射被覆部材の製造方法によれば、まず、表面粗さRaが0.1~1μmの範囲に含まれている被溶射面100を有する銅(Cu)または銅合金からなる板状の基材10が準備される(図2A参照)。銅合金としては、黄銅、青銅、白銅、赤銅およびクロム銅など、銅を55重量%以上含有する合金が挙げられる。基材10の一方の主面としての被溶射面100の表面粗さRaが0.1~1μmの範囲に含まれるように基材1の被溶射面10に対して表面処理が施されてもよい。
【0023】
第1工程(図1/STEP01)において、基材10が加熱される。具体的には、図2Aに示されているように、第1非酸化性ガス供給装置211から第1プラズマ溶射装置210に対して第1非酸化性ガスが供給され、第1プラズマ溶射装置210またはこれを構成するノズルから基材10の被溶射面100に当該第1非酸化性ガスのプラズマP1が照射される。第1非酸化性ガスとしては、例えば、Arガス、H2ガスもしくはN2ガスまたはこれらの任意の組み合わせの混合ガスが用いられる。
【0024】
第1工程により、図2Bに示されているように、後述の溶射されるスラリーの原料粉末がイットリウム酸化物である場合、基材10の被溶射面100に厚さ20~100nmの範囲に含まれている銅酸化層11が形成される。溶射されるスラリーの原料粉末がアルミニウム酸化物である場合、基材10の被溶射面100に厚さ200~300nmの範囲に含まれている銅酸化層11が形成される。後述する溶射されるスラリーの原料粉末がイットリウムアルミニウム酸化物である場合、基材10の被溶射面100に厚さ50~300nmの範囲に含まれている銅酸化層11が形成される。第1工程において、第1非酸化性プラズマガスP1の照射に代えて、大気雰囲気または非酸化性雰囲気でホットプレート等の加熱装置を用いて基材10が加熱されてもよい。
【0025】
そして、第2工程(図1/STEP02)において、図2Bに示されているように、粒子径D50が0.5~6μmの範囲に含まれるイットリウム酸化物、アルミニウム酸化物またはイットリウムアルミニウム酸化物からなる原料粉末および水系の溶媒から調整されたスラリーが、スラリー供給装置222から第2プラズマ溶射装置220またはこれを構成するノズルに対して供給される。その上で、第2非酸化性ガス供給装置221から第2プラズマ照射装置220に対して第2非酸化性ガスが供給され、第2非酸化性ガスまたはそのプラズマP2を用いて第2プラズマ溶射装置220またはこれを構成するノズルから基材10の被溶射面100に当該スラリーがプラズマ溶射される。
【0026】
第2非酸化性ガスは、第1非酸化性ガスと同一であってもよく、相違していてもよい。第1プラズマ溶射装置210および第2プラズマ溶射装置220として共通のプラズマ溶射装置が用いられる場合、第1工程および第2工程が、当該共通のプラズマ溶射装置において基材10を搬送する必要なく連続的に実施されうる。第1プラズマ溶射装置210および第2プラズマ溶射装置220は別個のプラズマ溶射装置であってもよい。
【0027】
これらの結果、図2Cに示されているように、基材10の被溶射面100を、銅酸化層11を介して被覆する当該スラリー由来の酸化イットリウム(Y23)、酸化アルミニウム(Al23)または酸化イットリウムアルミニウム(Y3Al212)の溶射膜12が形成され、本発明の実施形態に係る半導体モジュール部品が得られる。溶射膜12の厚さは40~350μmに調節されることが好ましい。溶射膜12の厚さが40μm未満であると当該溶射膜12の絶縁性が低下し、溶射膜12の厚さが350μmを超えると当該溶射膜12の内部応力が大きくなり密着力の低下または剥離が生じるためである。溶射膜12の気孔率は1~5%に調節されることが好ましい。
【0028】
また、第2工程が複数回にわたり繰り返されてもよい。例えば、1回目の第2工程により基材10の被溶射面100を被覆する第1溶射膜が形成された後、2回目の第2工程により当該第1溶射膜の被溶射面を被覆する第2溶射膜が形成されてもよい。
【実施例
【0029】
(実施例1)
(第1工程)
被溶射面100の表面粗さRaが1μmであり、縦横寸法20mm×30mm、厚み3mmのCu基材が基材10として準備された。第1プラズマ溶射装置210(高速プラズマ溶射装置)が用いられて第1非酸化性ガスのプラズマP1が基材10の被溶射面100に対して照射された(図2A参照)。第1非酸化性ガスとして、Arガス、N2ガスおよびH2ガスの混合ガスが用いられた。溶射装置を構成するノズルに対するArガスの供給量が100l/minに制御され、N2ガスの供給量70l/minに制御され、かつ、H2ガスの供給量が60l/minに制御された。
【0030】
第1プラズマ溶射装置210を構成するノズルに対する印加電流が250Aに制御されることにより、当該ノズルへの供給電力が65kWに調節された。ノズルの先端と基材10の被溶射面100との間隔が75mmに調節された。基材10に対するノズルの走査速度または変位速度が850mm/sに調節された。そして、Arガス、N2ガスおよびH2ガスの混合ガスのプラズマP1が生成され、当該プラズマP1がノズルの先端から基材10の被溶射面100に対して照射または噴射された。これにより、基材10の被溶射面100に厚さ20nmの銅酸化層11が形成された(図2B参照)。
【0031】
(第2工程)
第1プラズマ溶射装置210がそのまま第2プラズマ溶射装置220として用いられてY23スラリーが第2非酸化性ガスのプラズマP2を用いて基材10の被溶射面100に対してプラズマ溶射された(図2B参照)。粒子径D50が3μmである純度99.9%以上のY23原料粉末300gと、水700gと、によりY23スラリーが調整された。第2非酸化性ガスとして、Arガス、N2ガスおよびH2ガスの混合ガスが用いられた。第2プラズマ溶射装置220を構成するノズルに対するArガスの供給量が100l/minに制御され、N2ガスの供給量70l/minに制御され、かつ、H2ガスの供給量が60l/minに制御された。これにより、溶射速度が600~700mm/sに制御された。
【0032】
第2プラズマ溶射装置220を構成するノズルに対する印加電流が250Aに制御されることにより、当該ノズルへの供給電力が65kWに調節された。ノズルの先端と基材10の被溶射面100との間隔が75mmに調節された。基材10に対するノズルの走査速度または変位速度が850mm/sに調節された。そして、Arガス、N2ガスおよびH2ガスの混合ガスのプラズマP2が生成され、当該プラズマP2により溶融された原料粉末がノズルの先端から基材10の被溶射面100に対して噴射された。これにより、基材10の被溶射面10が厚さ150μmの溶射膜12により被覆されている実施例1の半導体モジュール用部品が形成された(図2C参照)。
【0033】
(実施例2)
被溶射面100の表面粗さRaが0.48μmの基材10が準備されたほかは、実施例1と同一条件にしたがって、実施例2の半導体モジュール用部品が作製された。
【0034】
(実施例3)
被溶射面100の表面粗さRaが0.20μmの基材10が準備されたほかは、実施例1と同一条件にしたがって、実施例3の半導体モジュール用部品が作製された。
【0035】
(実施例4)
被溶射面100の表面粗さRaが0.10μmの基材10が準備されたほかは、実施例1と同一条件にしたがって、実施例4の半導体モジュール用部品が作製された。
【0036】
(実施例5)
第1工程(図1/STEP01参照)において、基材10が非酸化性ガスプラズマの溶射ではなく、ホットプレートに載置された状態で加熱されることにより、基材10の被溶射面100に厚さ50nmの銅酸化層11が形成されたほかは、実施例1と同一条件にしたがって、実施例5の半導体モジュール用部品が作製された。
【0037】
(実施例6)
第1工程(図1/STEP01参照)において、基材10が非酸化性ガスプラズマの溶射ではなく、ホットプレートに載置された状態で加熱されることにより、基材10の被溶射面100に厚さ100nmの銅酸化層11が形成されたほかは、実施例2と同一条件にしたがって、実施例6の半導体モジュール用部品が作製された。
【0038】
(実施例7)
第1工程(図1/STEP01参照)において、非酸化性ガスプラズマの溶射により、基材10の被溶射面100に厚さ10nmの銅酸化層11が形成されたほかは、実施例2と同一条件にしたがって、実施例7の半導体モジュール用部品が作製された。
【0039】
(実施例8)
第2工程(図1/STEP02参照)において、厚さ350μmの溶射膜12が形成されたほかは、実施例2と同一条件にしたがって、実施例8の半導体モジュール用部品が作製された。
【0040】
(実施例9)
第2工程(図1/STEP02参照)において、厚さ40μmの溶射膜12が形成されたほかは、実施例2と同一条件にしたがって、実施例8の半導体モジュール用部品が作製された。
【0041】
(実施例10)
第2工程(図1/STEP01参照)において、粒径D50が0.5μmのY23原料粉末が用いられてスラリーが調整されたほかは、実施例2と同一条件にしたがって、実施例10の半導体モジュール用部品が作製された。
【0042】
(実施例11)
第2工程(図1/STEP01参照)において、粒径D50が6μmのY23原料粉末が用いられてスラリーが調整されたほかは、実施例2と同一条件にしたがって、実施例11の半導体モジュール用部品が作製された。
【0043】
(実施例12)
第1工程(図1/STEP01参照)において、非酸化性ガスプラズマの溶射により、基材10の被溶射面100に厚さ100nmの銅酸化層11が形成されたほかは、実施例2と同一条件にしたがって、実施例12の半導体モジュール用部品が作製された。
【0044】
(実施例13)
第1工程(図1/STEP01参照)において、非酸化性ガスプラズマの溶射により、基材10の被溶射面100に厚さ190nmの銅酸化層11が形成されたほかは、実施例2と同一条件にしたがって、実施例13の半導体モジュール用部品が作製された。
【0045】
(比較例1)
第1工程(図1/STEP01参照)に際して、基材10の被溶射面100にサンドブラスト加工が施されることにより、被溶射面100の表面粗さRaが2μmの基材10が準備されたほかは、実施例1と同一条件にしたがって、比較例1の半導体モジュール用部品が作製された。
【0046】
(比較例2)
第1工程(図1/STEP01参照)に際して、基材10の被溶射面100が研削加工および研磨加工が施されることにより、被溶射面100の表面粗さRaが0.04μmの基材10が準備されたほかは、実施例1と同一条件にしたがって、比較例2の半導体モジュール用部品が作製された。
【0047】
(比較例3)
第1工程(図1/STEP01参照)において、酸化性ガスプラズマの照射によりホットプレートを用いた基材10の加熱により、基材10の被溶射面100に厚さ10nm未満の銅酸化層11が形成されたほかは、実施例2と同一条件にしたがって、比較例3の半導体モジュール用部品が作製された。
【0048】
(比較例4)
第1工程(図1/STEP01参照)において、ホットプレートを用いた基材10の加熱により、基材10の被溶射面100に厚さ200nmの銅酸化層11が形成されたほかは、実施例2と同一条件にしたがって、比較例4の半導体モジュール用部品が作製された。
【0049】
(比較例5)
第1工程(図1/STEP01参照)が省略され、基材10の被溶射面100に銅酸化層11が形成されなかったほかは、実施例2と同一条件にしたがって、比較例5の半導体モジュール用部品が作製された。
【0050】
(比較例6)
第1工程(図1/STEP01参照)において、酸化性ガスプラズマが用いられ、基材10の被溶射面100に銅酸化層11が形成された。酸化性ガスとして、Arガス、N2ガスおよびO2ガスの混合ガスが用いられた。第1プラズマ溶射装置210を構成するノズルに対するArガスの供給量が100l/minに制御され、N2ガスの供給量70l/minに制御され、かつ、O2ガスの供給量が70l/minに制御された。これ以外は、実施例2と同一条件にしたがって、比較例6の半導体モジュール用部品が作製された。
【0051】
(比較例7)
第2工程(図1/STEP02参照)において、湿式溶射ではなく乾式溶射が採用された。粒径D50が30μmのY23原料粉末または顆粒が用いられ、キャリアガスとしてArガス、N2ガスおよびH2ガスの混合ガスが用いられた。第2プラズマ溶射装置220を構成するノズルに対するArガスの供給量が100l/minに制御され、N2ガスの供給量70l/minに制御され、かつ、H2ガスの供給量が70l/minに制御された。これにより、溶射速度が600~700mm/sに制御された。
【0052】
第2プラズマ溶射装置220を構成するノズルに対する印加電流が100~110Aの範囲で制御されることにより、当該ノズルへの供給電力が50~60kWに調節された。ノズルの先端と基材1の被溶射面10との間隔が80mmに調節された。基材1に対するノズルの走査速度または変位速度が100~1000mm/sの範囲に含まれるように調節された。
【0053】
これら以外は、実施例2と同一条件にしたがって、比較例7の半導体モジュール用部品が作製された。
【0054】
(比較例8)
第2工程(図1/STEP02参照)において、水ではなくエタノールを溶媒としてスラリーが調整された。これ以外は、実施例2と同一条件にしたがって、比較例8の半導体モジュール用部品が作製された。
【0055】
(比較例9)
第2工程(図1/STEP02参照)において、基材10の被溶射面100に厚さ400μmの溶射膜12が形成された。これ以外は、実施例2と同一条件にしたがって、比較例9の半導体モジュール用部品が作製された。
【0056】
(比較例10)
第2工程(図1/STEP02参照)において、基材10の被溶射面100に厚さ20μmの溶射膜12が形成された。これ以外は、実施例2と同一条件にしたがって、比較例10の半導体モジュール用部品が作製された。
【0057】
(比較例11)
第2工程(図1/STEP02参照)において粒径D50が9μmのY23原料粉末が用いられてスラリーが調整されたほかは、実施例2と同一条件にしたがって、比較例11の半導体モジュール用部品が形成された。
【0058】
各実施例1~13および各比較例1~11の半導体モジュール用部品を製造する際に、第1工程において基材10の被溶射面100に形成された銅酸化層11の厚さは、次のいずれかの方法により測定することができる。第1の方法としては、基材10の銅および銅酸化層11のそれぞれの屈折率から測定する方法が挙げられる。例えば、フィルメトリクス社F40-UVを用いた反射率分光法により測定する方法が挙げられる。このとき酸化銅の屈折率として2.71を用いる。第1の方法による測定が困難である場合、第2の方法として、SEMを用いて銅酸化層11の厚み方向の断面を直接観察する方法のほか、EDXまたはEPMAを用いて基材10、銅酸化層11および溶射膜12にわたってO分布を測定し、O濃度の変化態様に基づいて測定する方法が挙げられる。第2の方法による測定が困難である場合、第3の方法として、銅酸化層11の厚み方向の断面を透過型電子顕微鏡を用いて撮像した2次元画像を直接観察する、あるいは、必要に応じて2次元画像を特開2018-6728号に開示されているような画像処理によって測定する方法が挙げられる。
【0059】
各実施例1~13および各比較例1~11の半導体モジュール用部品を構成する溶射膜12の厚さが渦電流膜厚計により測定された。表1には、各実施例1~13および各比較例1~11の半導体モジュール用部品の製造条件が示されている。
【0060】
【表1】
* 基材加熱方法に関して「0」は加熱なし、「*1」はプラズマ照射、「*2」はホットプレートを意味する。
【0061】
各実施例1~13および各比較例1~11の半導体モジュール用部品において、基材10に対する溶射膜12の剥離の有無(および溶射膜12の形成有無)が目視で確認された。耐電圧試験において、溶射膜12に15×10mmのAg電極が形成され、半導体モジュール用部品が絶縁油中に浸された状態で、当該Ag電極と基材10との間にAC60Hzの電圧が印加され、ブレークダウン電圧が評価された。耐熱衝撃試験において、半導体モジュール用部品が300℃に加熱された後で水没急冷され、クラックまたは剥離発現までの回数が評価された。表2には、各実施例1~13および各比較例1~11の半導体モジュール用部品の当該測定結果が示されている。
【0062】
【表2】
【0063】
表1および表2から、各実施例1~13における溶射膜12が、基材10に対して剥離せずに密着し、比較例1、2、4、6、9および10のそれぞれにおける溶射膜12よりも、耐絶縁性および耐熱衝撃性に優れていることがわかる。比較例3、5、7、8および11のそれぞれにおいてはそもそも溶射膜が基材10の被溶射面100に形成されなかった。比較例2、4、6および9のそれぞれにおける溶射膜12が基材10から剥離しているまたはクラックが溶射膜12に生じていた。
【0064】
比較例1では、酸化イットリウムの粒径に鑑みて基材10の被溶射面100の表面粗さRaが過度に大きいので、表面微細構造における狭隘部に酸化イットリウムの溶融粒子が侵入することによる溶射膜12の基材10に対するアンカー効果が十分に発現しなかったと推察される。比較例2では、酸化イットリウムの粒径に鑑みて基材10の被溶射面100の表面粗さRaが過度に小さいので、表面微細構造における狭隘部に酸化イットリウムの溶融粒子が侵入することによる溶射膜12の基材10に対するアンカー効果が十分に発現しなかったと推察される。比較例3、5では、銅酸化層11がほとんどまたは全く形成されていないため、前述のような化学結合が発現せず、基材10および溶射膜12の密着性が発現しなかったと推察される。比較例4、6では、基材10の被溶射面100に形成された銅酸化層11が厚過ぎ、被溶射面100の酸化が過度に進行して安定化し、前述の化学結合の発現がなかったと推察される。
【0065】
基材10全体を熱処理して溶射膜12を形成した実施例6と比較して、非酸化性プラズマで基材10の一表面のみに溶射膜12を形成した実施例12のほうが、絶縁性が高かった。これは熱処理炉で形成される溶射膜12とプラズマにより形成される溶射膜12の表面状態が異なっているためであると推察される。
【0066】
比較例7では、酸化イットリウムの粒径が基材10の被溶射面100の表面粗さRaよりも過度に大きいので、表面微細構造における狭隘部に酸化イットリウムの溶融粒子が侵入することによる溶射膜12の基材10に対するアンカー効果が十分に発現しなかったと推察される。比較例8では、スラリーの溶媒であるエタノールがCuとの反応性に乏しいため、前述のような化学結合が発現せず、基材10および溶射膜12の密着性が発現しなかったと推察される。比較例9では、溶射膜12が過度に厚いため、膜応力が緩和されず、基材10との熱膨張係数の差に由来する熱応力が溶射膜12と基材10との界面(被溶射面100)に集中して剥離が生じたと推察される。比較例10では、溶射膜12が過度に薄いため、耐絶縁性が損なわれている。比較例11では、酸化イットリウム原料粉末の粒径が大きすぎるため、流動性のあるスラリーが調整できなかった。
【0067】
(実施例21)
第1工程(図1/STEP01参照)において、基材10の被溶射面100に厚さ300nmの銅酸化層11が形成され、かつ、第2工程(図1/STEP02参照)において、スラリーがAl23スラリーであったほかは、実施例2と同一条件にしたがって、実施例21の半導体モジュール用部品が作製された。
【0068】
(実施例22)
第1工程(図1/STEP01参照)において、基材10の被溶射面100に厚さ200nmの銅酸化層11が形成されたほかは、実施例21と同一条件にしたがって、実施例22の半導体モジュール用部品が作製された。
【0069】
(実施例23)
第1工程(図1/STEP01参照)において、基材10の被溶射面100に厚さ250nmの銅酸化層11が形成され、かつ、第2工程(図1/STEP02参照)において、厚さ350μmの溶射膜12が形成されたほかは、実施例21と同一条件にしたがって、実施例23の半導体モジュール用部品が作製された。
【0070】
(実施例24)
第2工程(図1/STEP02参照)において、厚さ40μmの溶射膜12が形成されたほかは、実施例23と同一条件にしたがって、実施例24の半導体モジュール用部品が作製された。
【0071】
(実施例25)
第1工程(図1/STEP01参照)において、厚さ250nmの銅酸化層11が形成され、かつ、第2工程(図2/STEP02参照)において、粒径D50が0.5μmのAl23原料粉末が用いられてスラリーが調整されたほかは、実施例21と同一条件にしたがって、実施例25の半導体モジュール用部品が作製された。
【0072】
(実施例26)
第2工程(図2/STEP02参照)において、粒径D50が6μmのAl23原料粉末が用いられてスラリーが調整されたほかは、実施例25と同一条件にしたがって、実施例26の半導体モジュール用部品が作製された。
【0073】
(比較例21)
第1工程(図1/STEP01参照)において、基材10の被溶射面100に厚さ150nmの銅酸化層11が形成されたほかは、実施例21と同一条件にしたがって、比較例21の半導体モジュール用部品が作製された。
【0074】
(比較例22)
第1工程(図1/STEP01参照)において、基材10の被溶射面100に厚さ350nmの銅酸化層11が形成されたほかは、実施例21と同一条件にしたがって、比較例22の半導体モジュール用部品が作製された。
【0075】
(比較例23)
第2工程(図1/STEP02参照)において、厚さ400μmの溶射膜12が形成されたほかは、実施例23と同一条件にしたがって、比較例23の半導体モジュール用部品が作製された。
【0076】
(比較例24)
第2工程(図1/STEP02参照)において、厚さ20μmの溶射膜12が形成されたほかは、実施例23と同一条件にしたがって、比較例24の半導体モジュール用部品が作製された。
【0077】
(比較例25)
第2工程(図1/STEP02参照)において粒径D50が9μmのAl23原料粉末が用いられてスラリーが調整されたほかは、実施例23と同一条件にしたがって、比較例25の半導体モジュール用部品が形成された。
【0078】
各実施例21~26および各比較例21~25の半導体モジュール用部品を構成する溶射膜12の厚さが渦電流膜厚計により測定された。表3には、各実施例21~26および各比較例21~25の半導体モジュール用部品の製造条件が示されている。
【0079】
【表3】
【0080】
表4には、各実施例21~26および各比較例21~25の半導体モジュール用部品において、基材10に対する溶射膜12の剥離の有無(および溶射膜12の形成有無)の目視による確認結果、耐電圧試験におけるブレークダウン電圧に基づく評価結果、および、耐熱衝撃試験におけるクラックまたは剥離発現までの回数に基づく評価結果が示されている。
【0081】
【表4】
【0082】
表3および表4から、各実施例21~26における溶射膜12が、基材10に対して剥離せずに密着し、比較例21~24のそれぞれにおける溶射膜12よりも、耐絶縁性および耐熱衝撃性に優れていることがわかる。比較例25においてはそもそも溶射膜が基材10の被溶射面100に形成されなかった。比較例21~23のそれぞれにおける溶射膜12が基材10から剥離しているまたはクラックが溶射膜12に生じていた。
【0083】
比較例21では、基材10の被溶射面100に形成された銅酸化層11が薄過ぎ、成膜に至らなかった。
【0084】
比較例22では、基材10の被溶射面100に形成された銅酸化層11が厚過ぎ、被溶射面100の酸化が過度に進行して安定化し、前述の化学結合の発現がなかったと推察される。比較例23では、溶射膜12が過度に厚いため、膜応力が緩和されず、基材10との熱膨張係数の差に由来する熱応力が溶射膜12と基材10との界面(被溶射面100)に集中して剥離が生じたと推察される。比較例24では、溶射膜12が過度に薄いため、耐絶縁性が損なわれている。比較例25では、Al23原料粉末の粒径が大きすぎるため、流動性のあるスラリーが調整できず成膜ができなかった。
【0085】
なお、溶射膜12の原料粉末がAl23原料粉末である場合とY23原料粉末である場合とでは、銅酸化層11の適切な厚さの許容範囲が相違することが分かった。これは、Al23とY23 との融点の差に起因するものと推察されるが詳細は不明である。
【0086】
(実施例31)
第1工程(図1/STEP01参照)において、基材10の被溶射面100に厚さ300nmの銅酸化層11が形成され、かつ、第2工程(図1/STEP02参照)において、スラリーがYAG(Y3Al212)スラリーであったほかは、実施例2と同一条件にしたがって、実施例31の半導体モジュール用部品が作製された。
【0087】
(実施例32)
第1工程(図1/STEP01参照)において、基材10の被溶射面100に厚さ50nmの銅酸化層11が形成されたほかは、実施例31と同一条件にしたがって、実施例32の半導体モジュール用部品が作製された。
【0088】
(実施例33)
第1工程(図1/STEP01参照)において、基材10の被溶射面100に厚さ250nmの銅酸化層11が形成され、かつ、第2工程(図1/STEP02参照)において、厚さ350μmの溶射膜12が形成されたほかは、実施例31と同一条件にしたがって、実施例33の半導体モジュール用部品が作製された。
【0089】
(実施例34)
第2工程(図1/STEP02参照)において、厚さ40μmの溶射膜12が形成されたほかは、実施例33と同一条件にしたがって、実施例34の半導体モジュール用部品が作製された。
【0090】
(比較例31)
第1工程(図1/STEP01参照)において、基材10の被溶射面100に厚さ20nmの銅酸化層11が形成されたほかは、実施例31と同一条件にしたがって、比較例31の半導体モジュール用部品が作製された。
【0091】
(比較例32)
第1工程(図1/STEP01参照)において、基材10の被溶射面100に厚さ350nmの銅酸化層11が形成されたほかは、実施例31と同一条件にしたがって、比較例32の半導体モジュール用部品が作製された。
【0092】
(比較例33)
第2工程(図1/STEP02参照)において、厚さ400μmの溶射膜12が形成されたほかは、実施例33と同一条件にしたがって、比較例33の半導体モジュール用部品が作製された。
【0093】
(比較例34)
第2工程(図1/STEP02参照)において、厚さ20μmの溶射膜12が形成されたほかは、実施例33と同一条件にしたがって、比較例34の半導体モジュール用部品が作製された。
【0094】
各実施例31~34および各比較例31~34の半導体モジュール用部品を構成する溶射膜12の厚さが渦電流膜厚計により測定された。表5には、各実施例31~34および各比較例31~34の半導体モジュール用部品の製造条件が示されている。
【0095】
【表5】
【0096】
表6には、各実施例31~34および各比較例31~34の半導体モジュール用部品において、基材10に対する溶射膜12の剥離の有無(および溶射膜12の形成有無)の目視による確認結果、耐電圧試験におけるブレークダウン電圧に基づく評価結果、および、耐熱衝撃試験におけるクラックまたは剥離発現までの回数に基づく評価結果が示されている。
【0097】
【表6】
【0098】
表5および表6から、各実施例31~34における溶射膜12が、基材10に対して剥離せずに密着し、比較例32~34のそれぞれにおける溶射膜12よりも、耐絶縁性および耐熱衝撃性に優れていることがわかる。比較例31においてはそもそも溶射膜が基材10の被溶射面100に形成されなかった。比較例32~34のそれぞれにおける溶射膜12が基材10から剥離しているまたはクラックが溶射膜12に生じていた。
【0099】
比較例32では、基材10の被溶射面100に形成された銅酸化層11が厚過ぎ、被溶射面100の酸化が過度に進行して安定化し、前述の化学結合の発現がなかったと推察される。比較例31では、銅酸化層11が薄過ぎ、前述のような化学結合が発現せず、基材10および溶射膜12の密着性が発現しなかったと推察される。比較例33では、溶射膜12が過度に厚いため、膜応力が緩和されず、基材10との熱膨張係数の差に由来する熱応力が溶射膜12と基材10との界面(被溶射面100)に集中して剥離が生じたと推察される。比較例34では、溶射膜12が過度に薄いため、耐絶縁性が損なわれている。
【0100】
なお、溶射膜12の原料粉末がYAG原料粉末である場合、Al23原料粉末及びY23原料粉末である場合と、銅酸化層11の適切な厚さの許容範囲が相違することが分かった。これは、YAGがAl23およびY23 と比較して融点が低いことに起因するものと推察されるが詳細は不明である。
【符号の説明】
【0101】
10‥基材、11‥銅酸化層、12‥溶射膜、100‥被溶射面、210‥第1プラズマ溶射装置、211‥第1非酸化性ガス供給装置、220‥第2プラズマ溶射装置、221‥第2非酸化性ガス供給装置、222‥スラリー供給装置。
図1
図2A
図2B
図2C