(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】有機シラノール化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 7/08 20060101AFI20240529BHJP
【FI】
C07F7/08 B
(21)【出願番号】P 2020104810
(22)【出願日】2020-06-17
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【氏名又は名称】神 紘一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100196298
【氏名又は名称】井上 高雄
(72)【発明者】
【氏名】八木ケ谷 謙一
(72)【発明者】
【氏名】堀 開史
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/176425(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第107235996(CN,A)
【文献】特開2004-168677(JP,A)
【文献】特開平04-187690(JP,A)
【文献】LOVRIC, M. et al.,Scope and limitations of sodium and potassium trimethylsilanolate as reagents for conversion of esters to carboxylic acids,Croatica Chemica Acta,2007年,Vol.80, No.1,pp.109-115
【文献】DENMARK, S. E. et al.,Cross-coupling of aromatic bromides with allylic silanolate salts,Journal of the American Chemical Society,2008年,Vol.130, No.48,pp.16382-16393,DOI:10.1021/ja805951j
【文献】NAGANO, H. et al.,Highly diastereoselective 7-endo radical cyclization of ethyl α-methylene-γ-(bromomethyl)dimethylsiloxycarboxylates,Tetrahedron Letters,2004年,Vol.45, No.22,pp.4329-4332,DOI:10.1016/j.tetlet.2004.03.188
【文献】Steffen, Patricia et al.,Catalytic and Stereoselective ortho-Lithiation of a Ferrocene Derivative,Angewandte Chemie, International Edition,2013年07月23日,vol.52, no.37,pp.9836-9840,DOI:10.1002/anie.201303650
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】
(式(1)中、R
1~R
3は各々独立に置換されていてもよい炭素数1~10個の炭化水素基であり、R
4は-OSiR
5R
6R
7(R
5~R
7は各々独立に置換されていてもよい炭素数1~10個の炭化水素基である。)、-OR
8(R
8は置換されていてもよい炭素数1~10個の炭化水素基である。)、またはX(Xはハロゲン原子である。)
で表されるシリル化合物と、
下記一般式(2):
【化2】
(式(2)中、Mはアルカリ金属、またはアルカリ土類金属であり、nは、Mがアルカリ金属の場合は1、アルカリ土類金属の場合は2である。)
で表される金属水酸化物との反応において、
硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、五酸化二リン、活性アルミナ、シリカゲル、およびモレキュラーシーブからなる群より選ばれる少なくとも1種の脱水剤を用いることを特徴とする、
下記一般式(3):
【化3】
(式(3)中、R
1~R
3は一般式(1)のR
1~R
3であり、M、nは一般式(2)のM、nである。)
で表される有機シラノール化合物の製造方法。
【請求項2】
一般式(2)において、Mがアルカリ金属である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、および4-メチルテトラヒドロピランからなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒を利用する、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
一般式(1)で表される前記シリル化合物、一般式(2)で表される前記金属水酸化物、および前記脱水剤を含む混合物中で、一般式(1)で表される前記シリル化合物と一般式(2)で表される前記金属水酸化物とを反応させる、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
A)一般式(1)で表される前記シリル化合物、および一般式(2)で表される前記金属水酸化物を含む混合物中で、一般式(1)で表される前記シリル化合物と一般式(2)で表される前記金属水酸化物とを反応させる工程Aと、
B)前記工程Aにおいて蒸発した、水を含む物質を液化させる工程Bと、
C)前記工程Bにおいて、液化した水を含む物質と脱水剤とを接触させる工程Cと、
D)前記工程Cにおいて、液化し、脱水剤と接触させた物質を、前記工程Aに再利用する工程Dと、
を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機シラノール化合物の製造方法に関する。より詳細には、水素の発生を抑えつつ、有機シラノール化合物を収率よく、製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機シラノールの金属塩(本明細書において、「有機シラノール化合物」という。)は従来、対応するシラノールと、金属単体または金属の水酸化物との反応により合成されてきた(例えば、非特許文献1)。しかしながら、この方法は、原料のシラノールが一般的に不安定でありあることから、比較的高価であり、有機シラノール化合物を製造するコストを高くする傾向にあった。また、金属単体を用いる場合、水素を発生することがあり、改善の余地があった。
【0003】
比較的安定で安価なジシロキサン化合物と、金属の水酸化物とを原料とする有機シラノール化合物の合成方法が報告されている(例えば、非特許文献2)。しかしながら、該方法は、下記に示す平衡反応であるため、目的物である有機シラノール化合物の収率が低い傾向にあった。
【化1】
【0004】
比較的安定で安価なジシロキサン化合物と、金属の水酸化物とを原料とする有機シラノール化合物の製造方法において、脱水剤として水素化ナトリウムを添加する方法が開示されている(特許文献1)。この方法は、水素化ナトリウムにより、副生する水を除去し、平衡を有機シラノール化合物が生成する側に偏らせ、収率よく有機シラノール化合物を製造する方法と推察される。しかしながら、該方法では、水素化ナトリウムと水が反応し、水素を発生することがあり、改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Journal of American Chemical Society 68巻(1946年)2282-2284貢
【文献】Croatica Chemica Acta 80巻(2007年)109-115貢
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情を鑑みなされたものであり、水素の発生を抑え、収率が高い有機シラノール化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、シリル化合物と金属水酸化物を反応させ、特定の脱水剤を利用して副生する水を除去し、有機シラノール化合物を製造する方法は、水素の発生を抑え、収率が高いことを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
即ち、本発明は以下のとおりである。
[1]
下記一般式(1):
【化2】
(式(1)中、R
1~R
3は各々独立に置換されていてもよい炭素数1~10個の炭化水素基であり、R
4は-OSiR
5R
6R
7(R
5~R
7は各々独立に置換されていてもよい炭素数1~10個の炭化水素基である。)、-OR
8(R
8は置換されていてもよい炭素数1~10個の炭化水素基である。)、またはX(Xはハロゲン原子である。)
で表されるシリル化合物と、
下記一般式(2):
【化3】
(式(2)中、Mはアルカリ金属、またはアルカリ土類金属であり、nは、Mがアルカリ金属の場合は1、アルカリ土類金属の場合は2である。)
で表される金属水酸化物との反応において、
硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、五酸化二リン、活性アルミナ、シリカゲル、およびモレキュラーシーブからなる群より選ばれる少なくとも1種の脱水剤を用いることを特徴とする、
下記一般式(3):
【化4】
(式(3)中、R
1~R
3は一般式(1)のR
1~R
3であり、M、nは一般式(2)のM、nである。)
で表される有機シラノール化合物の製造方法。
[2]
一般式(2)において、Mがアルカリ金属である、[1]に記載の製造方法。
[3]
1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、および4-メチルテトラヒドロピランからなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒を利用する、[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]
一般式(1)で表される前記シリル化合物、一般式(2)で表される前記金属水酸化物、および前記脱水剤を含む混合物中で、一般式(1)で表される前記シリル化合物と一般式(2)で表される前記金属水酸化物とを反応させる、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]
A)一般式(1)で表される前記シリル化合物、および一般式(2)で表される前記金属水酸化物を含む混合物中で、一般式(1)で表される前記シリル化合物と一般式(2)で表される前記金属水酸化物とを反応させる工程Aと、
B)前記工程Aにおいて蒸発した、水を含む物質を液化させる工程Bと、
C)前記工程Bにおいて、液化した水を含む物質と脱水剤とを接触させる工程Cと、
D)前記工程Cにおいて、液化し、脱水剤と接触させた物質を、前記工程Aに再利用する工程Dと、
を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、有機シラノール化合物を、水素の発生を抑えて、収率が高く製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の本実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0012】
本実施形態に係る製造方法は、下記一般式(1):
【化5】
(式(1)中、R
1~R
3は各々独立に置換されていてもよい炭素数1~10個の炭化水素基であり、R
4は-OSiR
5R
6R
7(R
5~R
7は各々独立に置換されていてもよい炭素数1~10個の炭化水素基である。)、-OR
8(R
8は置換されていてもよい炭素数1~10個の炭化水素基である。)、またはX(Xはハロゲン原子である。)、
で表されるシリル化合物と、
下記一般式(2):
【化6】
(式(2)中、Mはアルカリ金属、またはアルカリ土類金属であり、nは、Mがアルカリ金属の場合は1、アルカリ土類金属の場合は2である。)
で表される金属水酸化物との反応において、
硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、五酸化二リン、活性アルミナ、シリカゲル、およびモレキュラーシーブからなる群より選ばれる少なくとも1種の脱水剤を利用することを特徴とする、
下記一般式(3):
【化7】
(式(3)中、R
1~R
3は上記一般式(1)と同じR
1~R
3であり、M、nは上記一般式(2)と同じM、nである。)
で表される有機シラノール化合物の製造方法。
【0013】
本明細書において、上記一般式(1)で表されるシリル化合物を「化合物(1)」、上記一般式(2)で表される金属水酸化物を「化合物(2)」、上記一般式(3)で表される有機シラノール化合物を「化合物(3)」と称する場合がある。
【0014】
以下、シリル化合物、金属水酸化物、有機シラノール化合物およびその他の成分の詳細について説明する
【0015】
<シリル化合物(化合物(1))>
化合物(1)において、R1~R3は各々独立に置換されていてもよい炭素数1~10個の炭化水素基であり、R4は-OSiR5R6R7(R5~R7は各々独立に置換されていても良い炭素数1~10個の炭化水素基である。)、-OR8(R8は置換されていてもよい炭素数1~10個の炭化水素基である。)、またはX(Xはハロゲン原子である。)である。
【0016】
R1~R3、R5~R8について「置換されていてもよい炭化水素基」とは、例えば、脂肪族炭化水素基、フェニル基等の芳香族炭化水素基、または炭化水素基中の水素原子がフッ素原子に置換されたトリフルオロメチル基等のフッ素置換炭化水素基等が挙げられる。
上記炭化水素基は、必要に応じて、官能基を有していてもよい。
このような官能基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、ニトリル基(-CN)、エーテル基(-O-)、カーボネート基(-OCO2-)、エステル基(-CO2-)、カルボニル基(-CO-)、スルフィド基(-S-)、スルホキシド基(-SO-)、スルホニル基(-SO2-)、およびウレタン基(-NHCO2-)等が挙げられる。
【0017】
R1~R3、R5~R8の炭素数は1~10個が好ましい。化合物(1)の入手が容易であり、製造コストをより抑制でき、経済性により優れる製造方法となる傾向にあることから、炭素数1~8個がより好ましい。化合物(1)と、化合物(2)との反応性がより高くなり、反応時間が短くなる傾向にあることから、炭素数1~6個がさらに好ましい。
【0018】
R1~R3、R5~R8を具体的に例示するならば、メチル基、エチル基、ビニル基、アリル基、1-メチルビニル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、およびフルオロメチル基等の脂肪族炭化水素基、ベンジル基、フェニル基、ニトリル置換フェニル基、およびフルオロ化フェニル基等の芳香族炭化水素基等が挙げられる。入手が容易であり、製造コストをより抑制でき、経済性により優れる製造方法となる傾向にあることから、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ベンジル基、およびフェニル基がより好ましく、メチル基、エチル基、iso-プロピル基、tert-ブチル基、およびフェニル基が特に好ましい。
【0019】
Xは、ハロゲン原子であれば特に限定されないが、入手が容易となり、製造コストをより抑制でき、経済性により優れる製造方法となる傾向にあることから、フッ素原子、および塩素原子が好ましい。目的物である化合物(3)に含まれるハロゲン原子の量を低減でき、より高い純度の有機シラノール化合物を得られる傾向にあることから、フッ素原子がさらに好ましい。
【0020】
化合物(1)を具体的に例示するならば、ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサエチルジシロキサン、ヘキサイソプロピルジシロキサン、1,2-ジ(tert-ブチル)1,1,2,2-テトラメチルジシロキサン、ヘキサフェニルジシロキサン、メトキシトリメチルシラン、メトキシトリエチルシラン、メトキシトリイソプロピルシラン、メトキシ(tert-ブチル)ジメチルシラン、メトキシトリフェニルシラン、エトキシトリメチルシラン、エトキシトリエチルシラン、エトキシトリイソプロピルシラン、エトキシ(tert-ブチル)ジメチルシラン、エトキシトリフェニルシラン、トリメチルシリルフルオリド、トリエチルシリルフルオリド、トリイソプロピルシリルフルオリド、(tert-ブチル)ジメチルシリルフルオリド、トリフェニルシリルフルオリド、トリメチルシリルクロリド、トリエチルシリルクロリド、トリイソプロピルシリルクロリド、(tert-ブチル)ジメチルシリルクロリド、およびトリフェニルシリルクロリド等が挙げられる。
上記の中でも、入手が容易であり、製造コストをより抑制でき、経済性により優れる製造方法となる傾向にあることから、ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサフェニルジシロキサン、メトキシトリメチルシラン、エトキシトリメチルシラン、トリメチルシリルフルオリド、トリエチルシリルフルオリド、トリフェニルシリルフルオリド、トリメチルシリルクロリド、およびトリエチルシリルクロリドがより好ましい。同様の観点から、ヘキサメチルジシロキサン、メトキシトリメチルシラン、およびトリフェニルシリルフルオリドがさらに好ましい。
化合物(1)は、単独で用いても良いし、複数種を組み合わせて用いても良い。
【0021】
<金属水酸化物(化合物(2))>
金属水酸化物を示す一般式(2)において、Mはアルカリ金属、またはアルカリ土類金属である。化合物(1)との反応性がより高くなり、反応時間がより短くなる傾向にあることから、アルカリ金属がより好ましい。アルカリ金属としては特に限定されないが、入手が容易であり、製造コストをより抑制でき、経済性により優れる製造方法となる傾向にあることから、リチウム、ナトリウム、およびカリウムが好ましい。化合物(3)の収率がより高くなる傾向にあることから、ナトリウム、カリウムがさらに好ましい。
化合物(2)は、単独で用いても良いし、複数種を組み合わせて用いても良い。
【0022】
<有機シラノール化合物(化合物(3))の製造>
化合物(1)と化合物(2)とを反応させることにより、化合物(3)を得ることができる。
化合物(1)と化合物(2)とを反応させることにより、化合物(3)が得られる詳細な理由は明らかではないが、下記に示すように化合物(1)と化合物(2)が反応することでシラノール(R
1R
2R
3SiOH)を形成し、シラノールと化合物(2)とが反応することで、下記式(3)で表される化合物と水とが生成すると推察される。
【化8】
【0023】
上述したように、シラノール(R1R2R3SiOH)と金属水酸化物との反応は平衡反応であるため、副生する水を脱水剤により除去することで、平衡を有機シラノール化合物が生成する側に偏らせ、有機シラノール化合物の収率をより高くできる傾向がある。
【0024】
脱水剤は、一般的に使用されるものであれば特に限定されないが、化合物(1)と、化合物(2)との反応により発生する水を除去でき、且つ水素の発生を抑えつつ、化合物(3)を製造できるという観点から、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、五酸化二リン、活性アルミナ、シリカゲル、およびモレキュラーシーブが好ましい。また、脱水能力が高く、効率的に脱水ができ、化合物(3)の収率が一層高まる傾向にあることから、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、五酸化二リン、活性アルミナ、およびモレキュラーシーブがより好ましい。
これらの脱水剤は単独で用いても良いし、複数種を組み合わせて用いても良い。
【0025】
化合物(1)と化合物(2)との反応時、化合物(1)、化合物(2)、および脱水剤を含む混合物を用いても良い。本実施形態の製造方法において、化合物(1)、化合物(2)および上記脱水剤を含む混合物中で、化合物(1)と化合物(2)とを反応させることが好ましい。化合物(1)、化合物(2)、および脱水剤を含む混合物を使用することにより、化合物(1)と化合物(2)との反応により副生する水を除去し、化合物(3)を収率よく製造することができる。化合物(3)の収率がより高まる傾向にあることから、脱水剤は、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、および五酸化二リンが好ましく、酸化カルシウムがさらに好ましい。
【0026】
化合物(1)と化合物(2)との反応時、化合物(1)、および化合物(2)を含む混合物を用い、蒸発した水を少なくとも含む物質を液化させ、液化した物質と脱水剤とを接触させ、化合物(1)と化合物(2)との反応に再利用しても良い。液化した水を少なくとも含む物質と脱水剤を接触させることにより、化合物(1)と化合物(2)との反応により副生する水を除去し、化合物(3)を収率よく製造することができる。本実施形態の製造方法は、
工程A)化合物(1)、および化合物(2)を含む混合物中で、化合物(1)と化合物(2)とを反応させる工程A、
工程B)上記工程Aにおいて蒸発した水を含む物質Bを、液化させる工程B、
工程C)上記工程Bにおいて液化した水を含む物質Cと脱水剤とを、接触させる工程C、
工程D)上記工程Cにおいて液化し、脱水剤を接触させた物質Dを、上記工程Aに再利用する工程D、
を含むことが好ましい。上記工程Dにおける再利用としては、上記物質Dを工程Aの混合物中に添加することが挙げられる。
化合物(3)の収率がより優れる傾向にあり、脱水剤が簡便な操作で再生、再利用でき、経済性により優れる製造方法となる傾向にあることから、脱水剤は活性アルミナ、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、およびモレキュラーシーブがより好ましい。同様の観点から、活性アルミナ、モレキュラーシーブがより好ましく、モレキュラーシーブさらに好ましい。
【0027】
脱水剤は乾燥ガス気流下で加熱することにより、再生、再利用することができる。例えば、活性アルミナは180℃、酸化カルシウムは1000℃、酸化マグネシウムは800℃、モレキュラーシーブは400℃に加熱することでそれぞれ再生することができる。
【0028】
化合物(1)と化合物(2)とのモル比は、化合物(3)の収率がより高まる傾向にあることから、1:0.5~1:10であることが好ましい。同様の観点から、化合物(1)と化合物(2)とのモル比は、1:0.75~1:5であることがより好ましく、収率が一層向上する観点から、さらに好ましくは1:2~1:3、特に好ましくは1:2.05~1:3である
【0029】
化合物(2)と脱水剤との質量比は、1:0.3~1:5が好ましい。化合物(2)と脱水剤との質量比が上記範囲内であると、化合物(3)をより収率よく製造することができる。質量比が1:0.3以上であると、水を効率的に除去できる傾向にある。質量比が1:5以下であると、脱水剤の利用効率が向上し、経済性により優れる傾向にある。同様の観点から、1:0.5~1:3であることがより好ましく、収率が一層向上する観点から、さらに好ましくは1:0.5~1:2.5、特に好ましくは1:0.5~1:1.35である。
【0030】
本実施形態の製造方法において、化合物(1)と化合物(2)との反応時には、溶媒を用いてもよい。
上記溶媒としては、反応時に不活性であり、一般的に使用されるものであれば特に限定されないが、具体例としては、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、および1,2-ジクロロベンゼン等の芳香族系溶媒、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、4-メチルテトラヒドロピラン、シクロペンチルメチルエーテル、およびアニソール等のエーテル基含有溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル、およびベンゾニトリル等のニトリル基含有溶媒、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、および2-ブタノール等の水酸基含有溶媒等が挙げられる。中でも、化合物(3)の収率が高まる傾向にあることから、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、4-メチルテトラヒドロピラン、シクロペンチルメチルエーテル、およびアニソール等のエーテル基含有溶媒がより好ましい。同様の観点から、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、および4-メチルテトラヒドロピランがより好ましく、1,2-ジメトキシエタン、および4-メチルテトラヒドロピランがさらに好ましい。
これらの有機溶媒は単独で用いても良いし、複数種を組み合わせて用いても良い。
【0031】
化合物(2)と溶媒との質量比は1:1~1:100であることが好ましく、より好ましくは1:2~1:50である。化合物(2)と溶媒との質量比が1:2以上であると、化合物(1)と化合物(2)との反応により生成した化合物(3)の析出を抑制できる傾向にある。化合物(2)と溶媒との質量比が1:50以下であると、化合物(3)の収率がより優れる傾向にある。同様の観点から、化合物(2)と溶媒との質量比は、1:3~1:30であることがさらに好ましい。
【0032】
化合物(1)と化合物(2)との反応温度は、通常用いられる範囲であれば特に限定されないが、40℃~160℃であることが好ましく、より好ましくは60℃~130℃である。温度が上記範囲内であると、化合物(3)を収率よく製造することができる。反応温度が60℃以上であると、化合物(3)の収率が高まる傾向にある。130℃以下であると、化合物(1)、および化合物(3)の分解を抑制でき、化合物(3)を収率よく製造することができる。
反応温度は上記範囲であれば一定である必要はなく、途中で変化させてもよい。
【0033】
化合物(1)と化合物(2)との反応時間は、通常用いられる範囲であれば特に限定されないが、1~100時間が好ましく、5~50時間がより好ましい。
【0034】
混合撹拌時の圧力は、混合撹拌を行う温度によるが、通常用いられる範囲であれば特に限定されないが、10kPa~5000kPaが好ましい。
【0035】
反応雰囲気は、通常用いられる雰囲気であれば特に限定されないが、通常は大気雰囲気、窒素雰囲気、およびアルゴン雰囲気等が用いられる。これらの中でも、より安全に化合物(3)を製造できる傾向にあることから、窒素雰囲気、およびアルゴン雰囲気が好ましい。また、より経済性に優れる製造方法となる傾向にあることから、窒素雰囲気がさらに好ましい。
反応雰囲気は、単独で用いても良いし、複数種の反応雰囲気を組み合わせて用いても良い。
【0036】
目的物である化合物(3)と、化合物(1)、化合物(2)、および脱水剤とを少なくとも含む反応生成物から、各々を分離除去する方法としては、一般的に用いられる分離除去方法であれば特に限定されず用いることができる。例えば、蒸留による揮発成分の分離除去、濾過による不溶固体の分離除去、再結晶による分離精製等が挙げられる。
これらの方法は、単独で用いても良いし、複数種の方法を組み合わせて用いても良い。
【0037】
例えば、溶媒を用いて化合物(3)を製造する場合における濾過による分離除去方法では、化合物(2)、および脱水剤を濾過により除去し、化合物(1)、化合物(3)、および溶媒の混合物を取得することができる。さらに、蒸留、再結晶等により、化合物(1)、化合物(3)、および溶媒を各々分離することができる。
【0038】
以上のように、本発明は、有機シラノール化合物を安全に、収率が高く製造することができる。
【実施例】
【0039】
以下に本実施形態を具体的に説明した実施例を例示する。本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
実施例および比較例において使用された分析方法は、以下の通りである。
核磁気共鳴分析(NMR):1H-NMR、19F-NMRによる分子構造解析
測定装置:JNM-ECZ400S型核磁気共鳴装置(日本電子株式会社製)
溶媒:重クロロホルム
基準物質:テトラメチルシラン(0.00ppm)
積算回数:8回
【0041】
<反応温度>
反応温度は、外部加熱冷却装置を用いず、室温である場合は、室温である。また、ウォーターバスやオイルバス等の外部加熱冷却装置を利用する場合には、外部加熱冷却装置に用いられている媒体の温度が反応温度である。
【0042】
[実施例1]
還流冷却器を取り付けた200mLの3口フラスコに、窒素雰囲気下、ヘキサメチルジシロキサン(10.0g、61.6mmol)、4-メチルテトラヒドロピラン(50.0g)、水酸化ナトリウム(5.0g、125.0mmol)、酸化カルシウム(6.9g、123.0mmol)を加え、125℃で30時間加熱後、室温まで冷却した後、不溶物を濾過し、ナトリウムトリメチルシラノラートを含有する4-メチルテトラヒドロピラン溶液を得た。得られた溶液をサンプリングし、1H-NMRで測定すると、ナトリウムトリメチルシラノラート(有機シラノール化合物)が80.0mol%生成していることが確認された。さらに、得られた溶液から未反応のヘキサメチルジシロキサンと、4-メチルテトラヒドロピランを減圧留去すると白色固体(11.0g)が得られた。得られた白色固体は1H-NMRより、ナトリウムトリメチルシラノラート(有機シラノール化合物)が98.0質量%(収率78.0mol%)、4-メチルテトラヒドロピランが2.0質量%含まれていることが確認された。
ナトリウムトリメチルシラノラート(有機シラノール化合物)
1H-NMR:δ(ppm)0.20(9H)
なお、室温まで冷却した3口フラスコの気相部を、可燃性ガス検知器(新コスモス株式会社製、XP-3110)にて測定をした結果、水素は検出されなかった。
【0043】
[実施例2]
還流冷却器を取り付けた200mLの3口フラスコに、窒素雰囲気下、ヘキサメチルジシロキサン(10.0g、61.6mmol)、1,2-ジメトキシエタン(50.0g)、水酸化ナトリウム(5.0g、125.0mmol)、酸化カルシウム(6.9g、123.0mmol)を加え、85℃で10時間加熱後、室温まで冷却した後、不溶物を濾過し、ナトリウムトリメチルシラノラート(有機シラノール化合物)を含有する1,2-ジメトキシエタン溶液を得た。得られた溶液をサンプリングし、1H-NMRで測定すると、ナトリウムトリメチルシラノラート(有機シラノール化合物)が74.1mol%生成していることが確認された。
なお、室温まで冷却した3口フラスコの気相部を、可燃性ガス検知器(新コスモス株式会社製、XP-3110)にて測定をした結果、水素は検出されなかった。
【0044】
[実施例3]
還流冷却器を取り付けた200mLの3口フラスコに、窒素雰囲気下、ヘキサメチルジシロキサン(10.0g、61.6mmol)、4-メチルテトラヒドロピラン(50.0g)、水酸化カリウム(10.0g、178.2mmol)、酸化カルシウム(6.9g、123.0mmol)を加え120℃で7時間加熱後、室温まで冷却した後、不溶物を濾過し、カリウムトリメチルシラノラート(有機シラノール化合物)を含有する4-メチルテトラヒドロピラン溶液を得た。得られた溶液をサンプリングし、1H-NMRで測定すると、カリウムトリメチルシラノラート(有機シラノール化合物)が99.5mol%生成していることが確認された。
カリウムトリメチルシラノラート(有機シラノール化合物)
1H-NMR:δ(ppm)0.21(9H)
なお、室温まで冷却した3口フラスコの気相部を、可燃性ガス検知器(新コスモス株式会社製、XP-3110)にて測定をした結果、水素は検出されなかった。
【0045】
[実施例4]
300mLの3口フラスコに、窒素雰囲気下、ヘキサメチルジシロキサン(30.0g、184.8mmol)、4-メチルテトラヒドロピラン(210.0g)、水酸化ナトリウム(14.8g、370.0mmol)、を加え、モレキュラーシーブ3A1/16(33.3g)を充填したソックスレー抽出器を取り付け、その上に還流冷却器を取り付けた。その後、125℃で30時間加熱後、室温まで冷却した後、不溶物を濾過し、ナトリウムトリメチルシラノラート(有機シラノール化合物)を含有する4-メチルテトラヒドロピラン溶液を得た。得られた溶液をサンプリングし、1H-NMRで測定すると、ナトリウムトリメチルシラノラート(有機シラノール化合物)が95.0mol%生成していることが確認された。
なお、室温まで冷却した3口フラスコの気相部を、可燃性ガス検知器(新コスモス株式会社製、XP-3110)にて測定をした結果、水素は検出されなかった。
【0046】
[実施例5]
実施例4で使用したモレキュラーシーブ3A1/16を取り出し、180℃、0.5kPa、24時間の条件にて、真空乾燥機で乾燥した。乾燥したモレキュラーシーブ3A1/16を用い、実施例4と同じ条件にて反応し、ナトリウムトリメチルシラノラート(有機シラノール化合物)を含有する4-メチルテトラヒドロピラン溶液を得た。得られた溶液をサンプリングし、1H-NMRで測定すると、ナトリウムトリメチルシラノラート(有機シラノール化合物)が94.6mol%生成していることが確認された。
なお、室温まで冷却した3口フラスコの気相部を、可燃性ガス検知器(新コスモス株式会社製、XP-3110)にて測定をした結果、水素は検出されなかった。
【0047】
[実施例6]
還流冷却器を取り付けた100mLの3口フラスコに、窒素雰囲気下、トリフェニルシリルフルオリド(5.0g、18.0mmol)、1,2-ジメトキシエタン(40.0g)、水酸化ナトリウム(1.5g、37.5mmol)、酸化カルシウム(2.0g、35.7mmol)を加え90℃で8時間加熱後、室温まで冷却した後、不溶物を濾過し、ナトリウムトリフェニルシラノラート(有機シラノール化合物)を含有する1,2-ジメトキシエタン溶液を得た。得られた溶液をサンプリングし、1H-NMRで測定すると、ナトリウムトリフェニルシラノラート(有機シラノール化合物)が96.5mol%生成していることが確認された。
ナトリウムトリフェニルシラノラート(有機シラノール化合物)
1H-NMR:δ(ppm)7.52-7.60(9H)、7.97-8.00(6H)
なお、室温まで冷却した3口フラスコの気相部を、可燃性ガス検知器(新コスモス株式会社製、XP-3110)にて測定をした結果、水素は検出されなかった。
【0048】
[実施例7]
還流冷却器を取り付けた100mLの3口フラスコに、窒素雰囲気下、メトキシトリメチルシラン(10.0g、96.0mmol)、1,2-ジメトキシエタン(50.0g)、水酸化カリウム(16.0g、285.2mmol)、酸化カルシウム(8.1g、144.4mmol)を加え60℃で2時間、100℃で4時間加熱後、室温まで冷却した後、不溶物を濾過し、カリウムトリメチルシラノラート(有機シラノール化合物)を含有する1,2-ジメトキシエタン溶液を得た。得られた溶液をサンプリングし、1H-NMRで測定すると、カリウムトリメチルシラノラート(有機シラノール化合物)が99.9mol%生成していることが確認された。
なお、室温まで冷却した3口フラスコの気相部を、可燃性ガス検知器(新コスモス株式会社製、XP-3110)にて測定をした結果、水素は検出されなかった。
【0049】
[比較例1]
還流冷却器を取り付けた300mLの3口フラスコに、窒素雰囲気下、ヘキサメチルジシロキサン(30.0g、184.8mmol)、4-メチルテトラヒドロピラン(150.0g)、水酸化ナトリウム(14.8g、370.0mmol)を加え、125℃で30時間加熱後、室温まで冷却した後、不溶物を濾過し、ナトリウムトリメチルシラノラート(有機シラノール化合物)を含有する4-メチルテトラヒドロピラン溶液を得た。得られた溶液をサンプリングし、1H-NMRで測定すると、ナトリウムトリメチルシラノラート(有機シラノール化合物)が45.0mol%生成していることが確認された。
【0050】
[比較例2]
還流冷却器を取り付けた100mLの3口フラスコに、窒素雰囲気下、ヘキサメチルジシロキサン(5.0g、30.8mmol)、エタノール(30.1g)、水酸化ナトリウム(3.1g、77.5mmol)を加え、70℃で7時間加熱後、室温まで冷却した後、不溶物を濾過し、ナトリウムトリメチルシラノラート(有機シラノール化合物)を含有するエタノール溶液を得た。得られた溶液をサンプリングし、1H-NMRで測定すると、ナトリウムトリメチルシラノラート(有機シラノール化合物)が64.0mol%生成していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明により、有機シラノール化合物を水素の発生を抑え、収率が高く製造することができる。