(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】シミュレーション方法、シミュレーション装置、膜形成装置、物品の製造方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B29C 59/02 20060101AFI20240529BHJP
B29K 101/10 20060101ALN20240529BHJP
H01L 21/00 20060101ALN20240529BHJP
H01L 21/027 20060101ALN20240529BHJP
【FI】
B29C59/02 B
B29K101:10
H01L21/00
H01L21/30 502D
(21)【出願番号】P 2020128507
(22)【出願日】2020-07-29
【審査請求日】2023-06-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】勝田 健
(72)【発明者】
【氏名】相原 泉太郎
(72)【発明者】
【氏名】大口 雄一郎
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-124389(JP,A)
【文献】特開2012-212833(JP,A)
【文献】特表2012-506600(JP,A)
【文献】特開2018-133379(JP,A)
【文献】特開2019-066692(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 59/02
B29K 101/10
H01L 21/00,21/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材の上に配置された硬化性組成物の複数の液滴と第2部材とを接触させ、前記第1部材と前記第2部材との間の空間に前記硬化性組成物の膜を形成する処理における前記硬化性組成物の挙動を予測するシミュレーション方法であって、
前記挙動
を第2精度で予測する第2シミュレーション
の対象範囲である第2範囲を決定する第1工程と、
前記第2範囲に対して前記第2シミュレーションを実行する第2工程と、
前記第2シミュレーションの結果を表示する第3工程と、
を有し、
前記第1工程では、前記第1部材の設計情報、前記第2部材の設計情報、前記硬化性組成物の複数の液滴の配置情報、前記硬化性組成物の複数の液滴と接触する前記第2部材の接触面の位置情報、及び、
前記第2範囲を含み前記第2範囲よりも大きい第1範囲に
対して前記第2精度よりも低い第1精度で実行され
た第1シミュレーションの結果に関する情報のうちの少なくとも1つの情報に基づいて、前記第2範囲を決定することを特徴とするシミュレーション方法。
【請求項2】
前記第1工程では、前記少なくとも1つの情報に基づいて、前記第1部材の上の前記硬化性組成物の複数の液滴が配置される領域において充填不良が生じる領域を特定し、当該充填不良が生じる領域を含むように前記第2範囲を決定することを特徴とする請求項1に記載のシミュレーション方法。
【請求項3】
前記第1工程の前に、前記第1範囲に対して前記第1シミュレーションを実行する第4工程を更に有することを特徴とする請求項1又は2に記載のシミュレーション方法。
【請求項4】
前記第3工程では
、前記第1シミュレーションの結果も表示することを特徴とする請求項3に記載のシミュレーション方法。
【請求項5】
前記第1工程は、
前記第1部材の設計情報、前記第2部材の設計情報、前記硬化性組成物の複数の液滴の配置情報、及び、前記硬化性組成物の複数の液滴と接触する前記第2部材の接触面の位置情報のうちの少なくとも1つの情報に基づいて、前記第2範囲を仮決定する工程と、
前記第1シミュレーションの結果に関する情報に基づいて、仮決定された前記第2範囲を調整することで前記第2範囲を決定する工程と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載のシミュレーション方法。
【請求項6】
前記第1工程は、
前記少なくとも1つの情報に基づいて、前記第2範囲を仮決定する工程と、
仮決定された前記第2範囲をユーザの入力に応じて調整することで前記第2範囲を決定する工程と、
を有することを特徴とする請求項1に記載のシミュレーション方法。
【請求項7】
前記第2シミュレーションにおいて前記挙動を予測する際に定義される計算格子の数は、前記第1シミュレーションにおいて前記挙動を予測する際に定義される計算格子の数よりも多いことを特徴とする請求項1乃至6のうちいずれか1項に記載のシミュレーション方法。
【請求項8】
前記第2シミュレーションにおいて前記挙動を予測する際の計算負荷は、前記第1シミュレーションにおいて前記挙動を予測する際の計算負荷よりも大きいことを特徴とする請求項1乃至7のうちいずれか1項に記載のシミュレーション方法。
【請求項9】
第1部材の上に配置された硬化性組成物の複数の液滴と第2部材とを接触させ、前記第1部材と前記第2部材との間の空間に前記硬化性組成物の膜を形成する処理における前記硬化性組成物の挙動を予測するシミュレーション方法であって、
前記挙動を予測するシミュレーション
の対象範囲である第2範囲を決定する第1工程と、
前記第2範囲に対して前記シミュレーションを実行する第2工程と、
前記シミュレーションの結果を表示する第3工程と、
を有し、
前記第1工程では、前記処理を実行して形成された前記硬化性組成物の膜を計測した結果に関する情報に基づいて、前記第2範囲を決定
し、
前記シミュレーションは、前記第2範囲を含む前記第2範囲よりも大きい第1範囲に対して実行可能であることを特徴とするシミュレーション方法。
【請求項10】
第1部材の上に配置された硬化性組成物の複数の液滴と第2部材とを接触させ、前記第1部材と前記第2部材との間の空間に前記硬化性組成物の膜を形成する処理における前記硬化性組成物の挙動を予測するシミュレーション装置であって、
前記挙動
を第2精度で予測する第2シミュレーション
の対象範囲である第2範囲を決定し、
前記第2範囲に対して前記第2シミュレーションを実行し、
前記第2シミュレーションの結果を表示し、
前記第2範囲を決定する際に、前記第1部材の設計情報、前記第2部材の設計情報、前記硬化性組成物の複数の液滴の配置情報、前記硬化性組成物の複数の液滴と接触する前記第2部材の接触面の位置情報、及び、
前記第2範囲を含み前記第2範囲よりも大きい第1範囲に
対して前記第2精度よりも低い第1精度で実行され
た第1シミュレーションの結果に関する情報のうちの少なくとも1つの情報に基づいて、前記第2範囲を決定することを特徴とするシミュレーション装置。
【請求項11】
第1部材の上に配置された硬化性組成物の複数の液滴と第2部材とを接触させ、前記第1部材と前記第2部材との間の空間に前記硬化性組成物の膜を形成する処理における前記硬化性組成物の挙動を予測するシミュレーション装置であって、
前記挙動を予測するシミュレーション
の対象範囲である第2範囲を決定し、
前記第2範囲に対して前記シミュレーションを実行し、
前記シミュレーションの結果を表示し、
前記第2範囲を決定する際に、前記処理を実行して形成された前記硬化性組成物の膜を計測した結果に関する情報に基づいて、前記第2範囲を決定
し、
前記シミュレーションは、前記第2範囲を含む前記第2範囲よりも大きい第1範囲に対して実行可能であることを特徴とするシミュレーション装置。
【請求項12】
請求項10又は11に記載のシミュレーション装置が組み込まれた膜形成装置であって、
第1部材の上に配置された硬化性組成物の複数の液滴と第2部材とを接触させ、前記第1部材と前記第2部材との間の空間に前記硬化性組成物の膜を形成する処理を、前記シミュレーション装置による前記硬化性組成物の挙動の予測に基づいて制御する、
ことを特徴とする膜形成装置。
【請求項13】
請求項1乃至9のうちいずれか1項に記載のシミュレーション方法を繰り返しながら、第1部材の上に配置された硬化性組成物の複数の液滴と第2部材とを接触させ、前記第1部材と前記第2部材との間の空間に前記硬化性組成物の膜を形成する処理の条件を決定する工程と、
前記条件に従って前記処理を実行する工程と、
を含むことを特徴とする物品の製造方法。
【請求項14】
請求項1乃至9のうちいずれか1項に記載のシミュレーション方法をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シミュレーション方法、シミュレーション装置、膜形成装置、物品の製造方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に硬化性組成物を配置し、硬化性組成物を型と接触させ、硬化性組成物を硬化させることによって基板上に硬化性組成物からなる膜を形成する膜形成技術がある。このような膜形成技術は、インプリント技術や平坦化技術に適用される。インプリント技術では、パターンを有する型を用いて、基板上の硬化性組成物と型のパターンとを接触させて硬化性組成物を硬化させることによって基板上の硬化性組成物に型のパターンが転写される。平坦化技術では、平坦面を有する型を用いて、基板上の硬化性組成物と平坦面とを接触させて硬化性組成物を硬化させることによって平坦な上面を有する膜が形成される。
【0003】
基板上には、硬化性組成物が液滴の状態で配置され、その後、硬化性組成物の液滴に型が押し付けられる。これにより、基板上の硬化性組成物の液滴が広がって硬化性組成物の膜が形成される。この際、厚さが均一な硬化性組成物の膜を形成することや膜に気泡が残存しないことなどが重要であり、これを実現するために、硬化性組成物の液滴の配置や硬化性組成物への型の押し付けの方法及び条件などが調整される。このような調整を、装置を用いた試行錯誤によって実現するためには、膨大な時間と費用とを必要とする。そこで、このような調整を支援するシミュレータの開発が望まれている。
【0004】
特許文献1には、パターン形成面に配置された複数の液滴の濡れ広がり及び合一(液滴の接合)を予測するためのシミュレーション方法が開示されている。かかるシミュレーション方法では、基板上の硬化性硬化物の個々の液滴ごとに広がり形状を予測することで、軽量な計算を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
インプリント処理では、硬化性組成物の液滴が濡れ広がって膜を形成する際に、気泡が膜に残存すると、かかる気泡が残存している部分(未充填部分)が欠陥となる。欠陥の発生を低減するためには、シミュレーションによって、気泡の発生を予測することが有効であり、気泡の発生を予測するためには、型や基板の局所的な形状を考慮し、且つ、液滴の相互作用を考慮した流体計算が必要となる。
【0007】
しかしながら、このようなシミュレーションには、高い計算負荷を要することになるため、計算コストが上昇してしまう。また、計算コストが高いシミュレーションの対策として、計算領域を限定(指定)して計算を実施することで全体の計算コストを低減させることが考えられる。但し、計算領域を限定することで得られる効果は、計算領域を限定するユーザ(作業者)の力量(能力)に大きく左右され、例えば、ユーザのミスによって、計算のやり直しが発生して計算コストが上昇してしまうこともある。
【0008】
本発明は、このような従来技術の課題に鑑みてなされ、シミュレーションの精度を維持しながらも計算コストを低減することができるシミュレーション方法を提供することを例示的目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の一側面としてのシミュレーション方法は、第1部材の上に配置された硬化性組成物の複数の液滴と第2部材とを接触させ、前記第1部材と前記第2部材との間の空間に前記硬化性組成物の膜を形成する処理における前記硬化性組成物の挙動を予測するシミュレーション方法であって、前記挙動を第2精度で予測する第2シミュレーションの対象範囲である第2範囲を決定する第1工程と、前記第2範囲に対して前記第2シミュレーションを実行する第2工程と、前記第2シミュレーションの結果を表示する第3工程と、を有し、前記第1工程では、前記第1部材の設計情報、前記第2部材の設計情報、前記硬化性組成物の複数の液滴の配置情報、前記硬化性組成物の複数の液滴と接触する前記第2部材の接触面の位置情報、及び、前記第2範囲を含み前記第2範囲よりも大きい第1範囲に対して前記第2精度よりも低い第1精度で実行された第1シミュレーションの結果に関する情報のうちの少なくとも1つの情報に基づいて、前記第2範囲を決定することを特徴とする。
【0010】
本発明の更なる目的又はその他の側面は、以下、添付図面を参照して説明される実施形態によって明らかにされるであろう。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、例えば、シミュレーションの精度を維持しながらも計算コストを低減することができるシミュレーション方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態における膜形成装置及びシミュレーション装置の構成を示す概略図である。
【
図2】シミュレーション装置のディスプレイに提供されるユーザインターフェースの一例を示す図である。
【
図3】第1実施形態におけるシミュレーション方法の概略を示す図である。
【
図4】第1実施形態におけるシミュレーション方法を説明するためのフローチャートである。
【
図5】第2実施形態におけるシミュレーション方法を説明するためのフローチャートである。
【
図7】第3実施形態におけるシミュレーション方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。更に、添付図面においては、同一もしくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0014】
図1は、本発明の実施形態における膜形成装置IMP及びシミュレーション装置1の構成を示す概略図である。膜形成装置IMPは、基板Sの上に配置された硬化性組成物IMの複数の液滴と型Mとを接触させ、基板Sと型Mとの間の空間に硬化性組成物IMの膜を形成する処理を実行する。膜形成装置IMPは、例えば、インプリント装置として構成されてもよいし、平坦化装置として構成されてもよい。ここで、基板Sと型Mとは相互に入れ替え可能であり、型Mの上に配置された硬化性組成物IMの複数の液滴と基板Sとを接触させることで、型Mと基板Sとの間の空間に硬化性組成物IMの膜を形成してもよい。従って、包括的には、膜形成装置IMPは、第1部材の上に配置された硬化性組成物IMの複数の液滴と第2部材とを接触させ、第1部材と第2部材との間の空間に硬化性組成物IMの膜を形成する処理を実行する装置である。本実施形態では、第1部材を基板Sとし、第2部材を型Mとして説明するが、第1部材を型Mとし、第2部材を基板Sとしてもよい。この場合、以下の説明における基板Sと型Mとを相互に入れ替えればよい。
【0015】
インプリント装置では、パターンを有する型Mを用いて、基板Sの上の硬化性組成物IMに型Mのパターンが転写される。インプリント装置では、パターンが設けられたパターン領域PRを有する型Mが用いられる。インプリント装置では、インプリント処理として、基板Sの上の硬化性組成物IMと型Mのパターン領域PRとを接触させ、基板Sのパターンを形成すべき領域と型Mとの間の空間に硬化性組成物IMを充填させ、その後、硬化性組成物IMを硬化させる。これにより、基板Sの上の硬化性組成物IMに型Mのパターン領域PRのパターンが転写される。インプリント装置では、例えば、基板Sの複数のショット領域のそれぞれに硬化性組成物IMの硬化物からなるパターンが形成される。
【0016】
平坦化装置では、平坦化処理として、平坦面を有する型Mを用いて、基板Sの上の硬化性組成物IMと型Mの平坦面とを接触させ、硬化性組成物IMを硬化させることによって、平坦な上面を有する膜が形成される。平坦化装置では、基板Sの全域をカバーする寸法(大きさ)を有する型Mが用いられる場合、基板Sの全域に硬化性組成物IMの硬化物からなる膜が形成される。
【0017】
硬化性組成物としては、硬化用のエネルギーが与えられることにより硬化する材料が使用される。硬化用のエネルギーとしては、電磁波や熱などが用いられる。電磁波は、例えば、その波長が10nm以上1mm以下の範囲から選択される光、具体的には、赤外線、可視光線、紫外線などを含む。このように、硬化性組成物は、光の照射、或いは、加熱により硬化する組成物である。光の照射により硬化する光硬化性組成物は、少なくとも重合性化合物と光重合開始剤とを含有し、必要に応じて、非重合性化合物又は溶剤を更に含有してもよい。非重合性化合物は、増感剤、水素供与体、内添型離型剤、界面活性剤、酸化防止剤、ポリマー成分などの群から選択される少なくとも一種である。硬化性組成物の粘度(25℃における粘度)は、例えば、1mPa・s以上100mPa・s以下である。
【0018】
基板の材料としては、例えば、ガラス、セラミックス、金属、半導体、樹脂などが用いられる。必要に応じて、基板の表面に、基板とは別の材料からなる部材が設けられてもよい。基板は、例えば、シリコンウエハ、化合物半導体ウエハ、石英ガラスを含む。
【0019】
本明細書及び添付図面では、基板Sの表面に平行な方向をXY平面とするXYZ座標系で方向を示す。XYZ座標系におけるX軸、Y軸及びZ軸のそれぞれに平行な方向をX方向、Y方向及びZ方向とし、X軸周りの回転、Y軸周りの回転及びZ軸周りの回転のそれぞれをθX、θY及びθZとする。X軸、Y軸、Z軸に関する制御又は駆動は、それぞれ、X軸に平行な方向、Y軸に平行な方向、Z軸に平行な方向に関する制御又は駆動を意味する。また、θX軸、θY軸、θZ軸に関する制御又は駆動は、それぞれ、X軸に平行な軸の周りの回転、Y軸に平行な軸の周りの回転、Z軸に平行な軸の周りの回転に関する制御又は駆動を意味する。また、位置は、X軸、Y軸及びZ軸の座標に基づいて特定される情報であり、姿勢は、θX軸、θY軸及びθZ軸の値で特定される情報である。位置決めは、位置及び/又は姿勢を制御することを意味する。
【0020】
膜形成装置IMPは、基板Sを保持する基板保持部SHと、基板保持部SHを駆動することで基板Sを移動させる基板駆動機構SDと、基板駆動機構SDを支持するベースSBとを有する。また、膜形成装置IMPは、型Mを保持する型保持部MHと、型保持部MHを駆動することで型Mを移動させる型駆動機構MDとを有する。
【0021】
基板駆動機構SD及び型駆動機構MDは、基板Sと型Mとの相対位置が調整されるように、基板S及び型Mの少なくとも一方を移動させる相対移動機構を構成する。かかる相対移動機構による基板Sと型Mとの相対位置の調整は、基板Sの上の硬化性組成物IMと型Mとの接触のための駆動、及び、基板Sの上の硬化した硬化性組成物IMからの型Mの分離のための駆動を含む。また、相対移動機構による基板Sと型Mとの相対位置の調整は、基板Sと型Mとの位置合わせを含む。基板駆動機構SDは、基板Sを複数の軸(例えば、X軸、Y軸及びθZ軸の3軸、好ましくは、X軸、Y軸、Z軸、θX軸、θY軸及びθZ軸の6軸)に関して駆動するように構成されている。型駆動機構MDは、型Mを複数の軸(例えば、Z軸、θX軸及びθY軸の3軸、好ましくは、X軸、Y軸、Z軸、θX軸、θY軸及びθZ軸の6軸)に関して駆動するように構成されている。
【0022】
膜形成装置IMPは、基板Sと型Mとの間の空間に充填された硬化性組成物IMを硬化させるための硬化部CUを有する。硬化部CUは、例えば、型Mを介して硬化性組成物IMに硬化用のエネルギーを与えることによって、基板Sの上の硬化性組成物IMを硬化させる。
【0023】
膜形成装置IMPは、型Mの裏面側(基板Sに対面する面の反対側)に空間SPを形成するための透過部材TRを有する。透過部材TRは、硬化部CUからの硬化用のエネルギーを透過させる材料で構成され、基板Sの上の硬化性組成物IMに対して硬化用のエネルギーを与えることを可能にする。
【0024】
膜形成装置IMPは、空間SPの圧力を制御することによって、型MのZ軸方向への変形を制御する圧力制御部PCを有する。例えば、圧力制御部PCが空間SPの圧力を大気圧よりも高くすることによって、型Mは、基板Sに向けて凸形状に変形する。
【0025】
膜形成装置IMPは、基板Sの上に硬化性組成物IMを配置、供給又は分配するためのディスペンサDSPを有する。但し、膜形成装置IMPには、他の装置によって硬化性組成物IMが配置された基板Sが供給(搬入)されてもよい。この場合、膜形成装置IMPは、ディスペンサDSPを有していなくてもよい。
【0026】
膜形成装置IMPは、基板S(又は基板Sのショット領域)と型Mとの位置ずれ(位置合わせ誤差)を計測するためのアライメントスコープASを有していてもよい。
【0027】
シミュレーション装置1は、膜形成装置IMPにおいて実行させる処理における硬化性組成物IMの挙動を予測する計算を実行する。具体的には、シミュレーション装置1は、基板Sの上に配置された硬化性組成物IMの複数の液滴と型Mとを接触させ、基板Sと型Mとの間の空間に硬化性組成物IMの膜を形成する処理における硬化性組成物IMの挙動を予測する計算を実行する。
【0028】
シミュレーション装置1は、例えば、汎用又は専用のコンピュータにシミュレーションプログラム21を組み込むことによって構成される。また、シミュレーション装置1は、FPGA(Field Programmable Gate Arrayの略。)などのPLD(Programmable Logic Deviceの略。)、又は、ASIC(Application Specific Integrated Circuitの略。)によって構成されてもよい。
【0029】
シミュレーション装置1は、本実施形態では、プロセッサ10と、メモリ20と、ディスプレイ30と、入力デバイス40とを有するコンピュータにおいて、メモリ20にシミュレーションプログラム21が格納されることによって構成される。メモリ20は、半導体メモリであってもよいし、ハードディスクなどのディスクであってもよいし、他の形態のメモリであってもよい。シミュレーションプログラム21は、コンピュータによって読み取り可能なメモリ媒体に格納されて、又は、電気通信回線などの通信設備を介してシミュレーション装置1に提供されてもよい。
【0030】
本発明のシミュレーション方法及びシミュレーション装置は、基板と型との間の空間に硬化性組成物の膜を形成する処理、例えば、インプリント処理における硬化性組成物の挙動のシミュレーションに関するものである。以下、各実施形態において、シミュレーション装置1によって実行されるシミュレーション方法について具体的に説明する。
【0031】
<第1実施形態>
図2は、本実施形態におけるシミュレーション方法に関連して、シミュレーション装置1のディスプレイ30に提供(表示)されるユーザインターフェースの一例を示す図である。本実施形態では、
図2に示すように、ユーザがディスプレイ30に提供されるユーザインターフェースを参照しながら、入力デバイス40を介して必要な情報を入力することで、硬化性組成物IMの挙動を予測するシミュレーションが実行される。
【0032】
例えば、シミュレーションの条件(以下、「シミュレーション条件」と称する)を入力する場合、設定ファイル201を予め作成してメモリ20に格納する。設定ファイル201は、シミュレーションするインプリント処理の条件を統合して管理するファイルである。設定ファイル201には、設定条件として、型Mの設計情報を含む型設計ファイル202と、基板Sの設計情報を含む基板設計ファイル203と、硬化性組成物IMの液滴の吐出量や配置を示す液滴配置ファイル204とが指定されている。
【0033】
なお、本実施形態では、説明を簡略化するために、設定ファイル201に指定されるインプリント処理の条件に関する設定条件として、3つの具体的なファイル(型設計ファイル202、基板設計ファイル203、液滴配置ファイル204)を示した。但し、本実施形態で示していないインプリント処理の条件についても、設定条件としてファイルを作成し、メモリ20に格納してライブラリを構成してもよい。
【0034】
設定ファイル201で指定する各ファイルは、通常、メモリ20に予め格納されているファイルを用いる。このように、複数のファイルをメモリ20に格納してライブラリ化することで、解析条件の設定を容易にすることが可能となる。設定ファイル201で指定した各ファイルのファイル名は、条件表示ウィンドウ205に表示される。また、ビジュアルウィンドウ206には、設定ファイル201の誤入力を防止するために、設定ファイル201に関する画像情報が表示される。
【0035】
また、設定ファイル201には、シミュレーション条件も設定される。シミュレーション条件には、例えば、基板Sの上に配置された硬化性組成物IMに型Mを押し付ける際の力(押印力)や硬化性組成物IMに型Mを押し付けている時間(充填時間)などのインプリントに関係する情報が設定される。
【0036】
また、設定ファイル201には、計算モードも設定される。計算モードとは、シミュレーションの工程を決めたものであり、計算モードに従ってシミュレーション(の各工程の計算)が実行される。
【0037】
シミュレーションを実行する際には、条件表示ウィンドウ205及びビジュアルウィンドウ206に表示される情報をユーザ(作業者)が確認し、かかる情報に問題がなければ、例えば、ユーザが実行ボタンを操作することによって、シミュレーションが実行される。
シミュレーションの結果は、ビジュアルウィンドウ206に表示される。なお、ビジュアルウィンドウ206は、
図2に示す大きさ、形状及び数に限定されるものではなく、シミュレーションの結果として表示する対象に応じて、大きさ、形状及び数を自由に変更してディスプレイ30に表示される。
【0038】
図3(a)乃至
図3(c)は、本実施形態におけるシミュレーション方法の概略を示す図である。
図3(a)乃至
図3(c)を参照して、本実施形態におけるシミュレーション方法におけるシミュレーション(計算手法)について説明する。
図3(a)は、型Mのパターン領域PRと基板Sとを重ねて+Z方向から見た状態を示し、
図3(b)及び
図3(c)は、後述するシミュレーション範囲306を拡大して-Y方向から見た状態を示している。また、
図3(b)は、第1シミュレーション(計算手法)の概略を示し、
図3(c)は、第2シミュレーション(計算手法)の概略を示している。ここで、型Mのパターン領域PRとは、硬化性組成物IMと接触する型Mの接触面である。
【0039】
図3(a)乃至
図3(c)に示すように、型Mのパターン領域PRには、型側マーク301が設けられている。型側マーク301は、基板Sに対する位置決めやインプリント処理後の位置計測などの複数の用途に用いられるマークである。例えば、型側マーク301は、TTM(Through the mold)アライメントスコープで検出されるマークであって、型Mと基板Sとのアライメント(位置合わせ)に用いられる。なお、型Mには、多くのマークやパターンが設けられているが、
図3(a)乃至
図3(c)では、型側マーク301以外のマークやパターンの図示を省略している。
【0040】
基板Sには、基板側マーク305が設けられている。基板側マーク305は、例えば、型Mを介して、TTMアライメントスコープで検出され、型Mと基板Sとのアライメントに用いられる。なお、基板Sには、多くのマークやパターンが設けられているが、
図3(a)乃至
図3(c)では、基板側マーク305以外のマークやパターンの図示を省略している。
【0041】
型Mと基板Sとの間には、硬化性組成物IMの液滴302が配置されている。
図3(a)に示す液滴302の大きさや数は、説明を容易にするために簡易化しているが、実際には、多数の液滴302が型Mと基板Sとの間に配置される。
【0042】
本実施形態では、硬化性組成物IMの挙動を予測する精度が互いに異なる2つのシミュレーション、即ち、第1シミュレーション及び第2シミュレーションが用いられる。第1シミュレーションは、硬化性組成物IMの挙動を第1精度で予測する簡易的な計算手法であり、第2シミュレーションは、硬化性組成物IMの挙動を第1精度よりも高い第2精度で予測する詳細な計算手法である。第1シミュレーションは、
図3(b)に示すように、第1計算格子303を用いて硬化性組成物IMの挙動を予測(計算)し、第2シミュレーションは、
図3(c)に示すように、第2計算格子304を用いて硬化性組成物IMの挙動を予測(計算)する。ここで、第1計算格子303及び第2計算格子304は、計算の単位を示す計算要素の集合体である。
図3(b)及び
図3(c)において、格子を構成するように配置された複数の微小な矩形の各々が計算要素である。一般的な手法では、硬化性組成物IMの液滴302の挙動を解析するために、硬化性組成物IMの液滴302の寸法よりも十分に小さい計算要素からなる計算格子が定義される。そして、各計算要素に対応した型Mのパターン情報が抽出され、硬化性組成物IMの液滴302の挙動は、硬化性組成物IMの液滴302の体積が各々の計算要素の体積に対して占める割合として表現される。
【0043】
シミュレーション範囲306は、シミュレーションを実行する範囲を示している。本実施形態では、計算コスト(計算負荷)を低減するために、シミュレーションを実行する範囲、即ち、シミュレーション範囲306を限定する。本実施形態では、第1シミュレーションは、型Mのパターン領域PRの全面をシミュレーション範囲とすることを想定している。但し、ここでは、図を簡略に示すために、第1シミュレーションを実行する範囲をシミュレーション範囲306として説明する。
【0044】
第1シミュレーションは、簡易的な計算手法であるため、第2シミュレーションと比較して、シミュレーション範囲306に定義される計算格子の数が少ない。例えば、液滴302を、型Mと基板Sとを繋ぐ1つの柱とみなして流体的な挙動を簡易化して計算する場合は、シミュレーションで用いる第1計算格子303の数は、比較的少なくてもよい。また、第1シミュレーションでは、計算を簡易的にするために、微小空間である型側マーク301及び基板側マーク305に定義される計算格子を省略して計算する。第1シミュレーションでは、計算格子の数を少なく抑えることで計算コストを低減しているため、基板Sの上の硬化性組成物IMの複数の液滴が配置される領域(型Mのパターン領域PRの全体)をシミュレーション範囲として計算することが可能である。
【0045】
第2シミュレーションは、詳細な計算手法であるため、硬化性組成物IMの液滴302が結合する流体的な挙動を計算することを想定している。例えば、型M(のパターン領域PR)と基板Sとの間の空間での液滴302の流体的な挙動を計算する場合には、型Mと基板Sとの間の空間に、比較的多数の計算格子を定義しなければならない。また、型側マーク301に流入する液滴302の挙動(充填)を計算する場合は、型側マーク301にも計算格子を定義する必要がある。
【0046】
型側マーク301は凹部で構成され、型側マーク301に硬化性組成物IMが充填されることで、インプリント処理後に、硬化性組成物IMの膜に型側マーク301に対応する凸部が形成される。液滴302の直径は約数百μm程度であるのに対し、型側マーク301の線幅は数μmから数十μmの範囲であるため、型側マーク301(凹部)の空間は非常に小さい。従って、型側マーク301における硬化性組成物IMの充填性を計算する場合には、型側マーク301や基板Sと型Mとの間の空間に細かい計算格子を定義しなければならない。換言すれば、第2シミュレーションにおいて硬化性組成物IMの挙動を予測する際に定義される第2計算格子304の数は、第1シミュレーションにおいて硬化性組成物IMの挙動を予測する際に定義される第1計算格子303の数よりも多い。このように、計算格子の数が多くなることは、計算コストの上昇に繋がるため、基板Sの上の硬化性組成物IMの複数の液滴が配置される領域(型Mのパターン領域PRの全体)をシミュレーション範囲とすることは困難となる。
【0047】
本実施形態におけるシミュレーション方法では、第1シミュレーションと第2シミュレーションとを組み合わせて硬化性組成物IMの挙動を予測する。第1シミュレーションは、型Mのパターン領域PRの全体をシミュレーション範囲として、液滴302の広がり、液滴302の間に閉じ込められた気体の分布、閉じ込められた気体の圧力分布などを計算する。一方、第2シミュレーションは、第1シミュレーションの結果を引用して、硬化性組成物IMの挙動をより詳細に計算する。
【0048】
上述したように、第2シミュレーションは、計算コストが非常に高い計算手法であるため、型Mのパターン領域PRの全体をシミュレーション範囲とするのは現実的ではない。そこで、第2シミュレーションを実行するシミュレーション範囲306を、硬化性組成物IMの挙動(液滴302の広がり)が特異になる領域、具体的には、充填不良が生じる領域に限定することで、計算コストを低減させる。例えば、型側マーク301の周辺の領域を、第2シミュレーションを実行するシミュレーション範囲306とする。
【0049】
型Mのパターン領域PRにおける型側マーク301の位置は、型Mの設計情報を含む型設計ファイル202から得ることができる。そこで、型設計ファイル202から型側マーク301の位置情報を抽出して、型側マーク301の位置の周辺の領域にシミュレーション範囲306を限定して第2シミュレーションを実行する。型側マーク301から離れた領域に配置されている液滴302の流動性を考慮しても、それに要する計算コストに対する計算精度の向上が小さいため、第2シミュレーションを実行するシミュレーション範囲306を限定することが計算コストの低減に繋がる。
【0050】
図4を参照して、第1実施形態におけるシミュレーション方法について説明する。本実施形態では、硬化性組成物IMの挙動として、型側マーク301における硬化性組成物IMの充填性を予測する場合を例に説明する。
【0051】
S401において、シミュレーション装置1は、シミュレーション条件を決定する。ここでは、シミュレーション条件として、膜形成装置IMP、型M、基板S及びディスペンサDSPなどに関する情報を決定する。このような情報を設定ファイル201に反映させるため、情報がメモリ20に格納されているかを確認し、情報がメモリ20に格納されていない場合には、入力デバイス40を介して、情報をメモリ20に格納する。
【0052】
S402において、シミュレーション装置1は、設定ファイル201を作成する。S402で作成された設定ファイル201はメモリ20に格納され、シミュレーションプログラム21が実行されることになる。また、本実施形態では、設定ファイル201には、型側マーク301における硬化性組成物IMの充填性を評価する計算モードを設定する。このような計算モードは、型設計ファイル202に含まれている型側マーク301の座標情報(位置情報)を参照し、かかる座標情報に基づいて、第2シミュレーションを実行するシミュレーション範囲を設定する。このような計算モードを設定することで、シミュレーションの設定が最適化される仕組みがシミュレーションプログラム21には設けられている。
【0053】
S403において、シミュレーション装置1は、第1シミュレーションを実行する(第4工程)。第1シミュレーションは、上述したように、計算コストが小さいため、本実施形態では、型Mのパターン領域PRの全体における液滴302の挙動を把握することを目的として実行される。従って、第1シミュレーションは、型Mのパターン領域PRの全体をシミュレーション範囲として実行される。第1シミュレーションでは、液滴302の全体の広がり、液滴302の間に閉じ込められる気泡の分布などを計算(予測)する。また、第1シミュレーションの結果を第2シミュレーションで参照することで、第2シミュレーションの計算コストを低減することが可能となる。第1シミュレーションを実行するシミュレーション範囲を型Mのパターン領域PRの全体としているのは、この時点で、第2シミュレーションを実行するシミュレーション範囲が不確定であることも理由の1つである。
【0054】
S404において、シミュレーション装置1は、第2シミュレーションを実行するシミュレーション範囲を決定する。このように、硬化性組成物IMの挙動を第1精度で予測する第1シミュレーションを実行する第1範囲に含まれ、硬化性組成物IMの挙動を第1精度よりも高い第2精度で予測する第2シミュレーションを実行する第2範囲を決定する(第1工程)。本実施形態では、硬化性組成物IMの充填性を評価する計算モードが設定されているため、型設計ファイル202を参照して型側マーク301の計算対象領域(第2シミュレーションを実行するシミュレーション範囲)をビジュアルウィンドウ206に表示する。
【0055】
なお、本実施形態では、型側マーク301を含む領域を、第2シミュレーションを実行するシミュレーション範囲として決定しているが、基板側マーク305に関する情報から第2シミュレーションを実行するシミュレーション範囲を決定することも可能である。設定ファイル201に、基板側マーク305を対象とする計算モードを設定することで、基板設計ファイル203に含まれる基板側マーク305の座標情報(位置情報)を参照して、第2シミュレーションを実行するシミュレーション範囲を決定することができる。また、基板側マーク305の座標情報に限らず、基板設計ファイル203に含まれるその他のマークやパターンなどの情報を参照することができる。
【0056】
また、第1シミュレーションの結果から第2シミュレーションを実行するシミュレーション範囲を決定する計算モードを設定してもよい。本実施形態では、第1シミュレーションを実行することで、液滴302の間に閉じ込められる気泡の分布を計算することができる。従って、第1シミュレーションの結果、例えば、気泡の数や大きさなどを参照して、異常な箇所、具体的には、充填不良が生じる領域を特定し、かかる領域を含むように、第2シミュレーションを実行するシミュレーション範囲を決定してもよい。
【0057】
本実施形態では、型側マーク301に関する情報のみから第2シミュレーションを実行するシミュレーション範囲を決定しているが、これに限定されるものではない。例えば、型側マーク301に関する情報のみではなく、基板側マーク305に関する情報や第1シミュレーションの結果を組み合わせて、第2シミュレーションを実行するシミュレーション範囲を決定することも可能である。
【0058】
なお、第2シミュレーションを実行するシミュレーション範囲は、シミュレーションプログラム21で自動的に決定してもよい。また、シミュレーションプログラム21で仮決定(提案)されたシミュレーション範囲を、ユーザの入力に応じて調整することで、第2シミュレーションを実行するシミュレーション範囲を決定してもよい。第2シミュレーションを実行するシミュレーション範囲を自動的に決定する場合には、ユーザの入力を待つ時間を短縮することができるため、計算コストの向上に繋がる。また、第2シミュレーションを実行するシミュレーション範囲をユーザが調整する場合には、例えば、第1シミュレーションの結果を参照することができるため、より適切なシミュレーション範囲を決定することができる。
【0059】
S405において、シミュレーション装置1は、S404で決定されたシミュレーション範囲に対して、第2シミュレーションを実行する(第2工程)。第2シミュレーションを実行するシミュレーション範囲を自動的に決定する場合には、ユーザは、シミュレーション範囲を手動で設定及び調整する必要がないため、S404の工程やS405の工程を意識しなくてよい。従って、第2シミュレーションを実行する上で更なる効率化を図ることができる。
【0060】
S406において、シミュレーション装置1は、S403で実行された第1シミュレーションの結果やS405で実行された第2シミュレーションの結果をビジュアルウィンドウ206に表示する(第3工程)。本実施形態では、型側マーク301における硬化性組成物IMの充填性を評価する計算モードが設定されているため、第2シミュレーションの結果をビジュアルウィンドウ206に表示する。但し、第2シミュレーションの結果とともに、第1シミュレーションの結果をビジュアルウィンドウ206に表示してもよい。
【0061】
本実施形態によれば、計算コストの高い第2シミュレーションを実行するシミュレーション範囲を最適に決定することができるため、シミュレーションの精度を維持しながらも計算コストを低減することができる。また、ユーザのミスを最小限に抑えて、シミュレーションを実行することができる。このように、本実施形態におけるシミュレーション方法は、シミュレーションの精度を維持し、且つ、計算コストを抑えることを実現することができる。
【0062】
なお、本実施形態では、型Mの設計情報に基づいて、第2シミュレーションを実行するシミュレーション範囲を決定する場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、基板Sの設計情報、硬化性組成物IMの複数の液滴の配置情報、型Mのパターン領域PRの位置情報、及び、第1シミュレーションの結果に関する情報のうち少なくとも1つに基づいて、シミュレーション範囲を決定してもよい。
【0063】
また、型Mの設計情報、基板Sの設計情報、硬化性組成物IMの複数の液滴の配置情報及び型Mのパターン領域PRの位置情報のうち少なくとも1つに基づいて、シミュレーション範囲を決定する場合には、S403と並行してS404及びS405を行ってもよい。なお、S403、S404及びS405の順に行う場合には、上述した情報に基づいてシミュレーション範囲を仮決定し、その後、第1シミュレーションの結果に関する情報に基づいて、仮決定されたシミュレーション範囲を調整してもよい。
【0064】
<第2実施形態>
図5を参照して、第2実施形態におけるシミュレーション方法について説明する。本実施形態では、硬化性組成物IMの挙動として、型Mのパターン領域PRのエッジ部における硬化性組成物IMの染み出し又は未充填を予測する場合を例に説明する。また、本実施形態では、液滴配置ファイル204を用いて第2シミュレーションを実行するシミュレーション範囲を決定する。具体的には、液滴配置ファイル204からボロノイ図を作成し、硬化性組成物IMの液滴(の広がり)の粗密を参照する。
【0065】
S601において、シミュレーション装置1は、シミュレーション条件を決定する。S601は、
図4に示すS401と同様であるため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0066】
S602において、シミュレーション装置1は、設定ファイル201を作成する。本実施形態では、設定ファイル201には、ボロノイ図の液滴の面積情報及び位置情報から第2シミュレーションを実行するシミュレーション範囲を決定する計算モードを設定する。かかる計算モードでは、型Mのパターン領域PRの全体のボロノイ図を作成した後に、硬化性組成物IMの液滴の位置情報からパターン領域PRのエッジ部の近傍の液滴に限定して第2シミュレーションを実行するシミュレーション範囲を決定する。
【0067】
S603において、シミュレーション装置1は、ボロノイ図を作成する。ここで、ボロノイ図は、型Mと基板Sとの間に配置される複数の液滴302の位置を母点として、型Mのパターン領域PRにおける点がどの母点に近いかによって領域分けされた図である。また、ボロノイ図は、複数の液滴302とそれぞれの液滴302に対応する領域とによって構成されている図である。また、ボロノイ図の作成は、第1実施形態で説明した第1シミュレーションを実行することに相当する(第4工程)。ここでは、型Mのパターン領域PRにおける液滴302に対応する領域の面積を全て把握するため、パターン領域PRの全体を対象としてボロノイ図を作成する。ボロノイ図を作成する際に、各液滴302が配置される位置の座標情報と各液滴302に対応する領域の面積情報とが数値化され、メモリ20にリスト化される。座標情報と面積情報とをボロノイ図として可視化するのは、ビジュアルウィンドウ206を介して、ユーザが液滴配置を確認しやすくするためである。
【0068】
図6は、S603で作成されるボロノイ
図501の一例を示す図である。ボロノイ
図501は、液滴配置ファイル204に含まれる液滴配置情報に基づき作成される。また、本実施形態では、上述したように、型Mのパターン領域PRの全体のボロノイ
図501が作成されるが、
図6では、パターン領域PRのエッジ部502(角部)を抽出して示している。
【0069】
エッジ部502は、硬化性組成物IMが形成する膜の端部、即ち、型Mのパターン領域PRの最外周となる部分である。なお、エッジ部502は、型設計ファイル202又は基板設計ファイル203を参照することで、その座標情報を得ることができる。
【0070】
ボロノイ
図501から、複数の液滴302のそれぞれが広がる領域が予測され、液滴302の粗密を把握することができる。
図6を参照するに、大きな面積の領域は、液滴302の配置が粗であり、小さな面積の領域は、液滴302の配置が密である。通常、ディスペンサDSPからの液滴302の吐出量は一定であるため、小さな面積の領域では、液滴302の高さが高く、大きな面積の領域では、液滴302の高さが低くなる。また、大きな面積の領域では、硬化性組成物IMの未充填が懸念され、小さな面積の領域では、硬化性組成物IMの染み出しが懸念される。従って、液滴302の面積が他と極端に異なる部分に対して、第2シミュレーションを実行することで、計算コストを抑制することができる。
【0071】
S604において、シミュレーション装置1は、第2シミュレーションを実行するシミュレーション範囲を決定する(第1工程)。本実施形態では、S603で作成したボロノイ
図501(液滴302の粗密)から、メモリ20に格納されているリストと照らし合わせて、型Mのパターン領域PRのエッジ部502の周辺を、第2シミュレーションを実行するシミュレーション範囲として決定する。S604で決定されたシミュレーション範囲は、ビジュアルウィンドウ206に表示され、ユーザは、ビジュアルウィンドウ206を介して、第2シミュレーションを実行するシミュレーション範囲を確認することができる。また、ビジュアルウィンドウ206に表示されたシミュレーション範囲を、ユーザの入力に応じて調整可能にしてもよい。
【0072】
S605において、シミュレーション装置1は、S604で決定されたシミュレーション範囲に対して、第2シミュレーションを実行する(第2工程)。
【0073】
S606において、シミュレーション装置1は、S605で実行された第2シミュレーションの結果をビジュアルウィンドウ206に表示する(第3工程)。本実施形態では、型Mのパターン領域PRのエッジ部502からの硬化性組成物IMの染み出し又は未充填が発生している箇所がビジュアルウィンドウ206に表示される。
【0074】
本実施形態によれば、計算コストの高い第2シミュレーションを実行するシミュレーション範囲を最適に決定することができるため、シミュレーションの精度を維持しながらも計算コストを低減することができる。また、ユーザのミスを最小限に抑えて、シミュレーションを実行することができる。このように、本実施形態におけるシミュレーション方法は、シミュレーションの精度を維持し、且つ、計算コストを抑えることを実現することができる。
【0075】
<第3実施形態>
図7を参照して、第3実施形態におけるシミュレーション方法について説明する。本実施形態では、外部計測装置である顕微鏡を用いて、インプリント処理を経て基板Sの上に形成された硬化性組成物IMの膜に発生した気泡などの欠陥の位置を特定する。そして、このようにして特定された位置に基づいて、欠陥が多く発生している箇所に対して第1シミュレーションを実行する。
【0076】
S701において、シミュレーション装置1は、シミュレーション条件を決定する。S701は、
図4に示すS401と同様であるため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0077】
S702において、シミュレーション装置1は、設定ファイル201を作成する。本実施形態では、設定ファイル201には、後述する欠陥情報に基づいて第1シミュレーションを実行するシミュレーション範囲を決定する計算モードを設定する。このように、本実施形態では、基板Sの上に硬化性組成物IMの膜を形成したときのインプリント条件が設定ファイル201に反映されていることが重要になる。
【0078】
S703において、シミュレーション装置1は、基板Sの上に形成された硬化性組成物IMの膜に発生した欠陥の位置を示す欠陥情報を取得する。欠陥情報は、インプリント処理を実行して形成された硬化性組成物IMの膜を計測した結果に関する情報であって、例えば、基板Sの上に形成された硬化性組成物IMの膜を顕微鏡で計測することで取得される。この際、欠陥の面積と座標情報とをリスト化してメモリ20に格納する。リスト化する範囲は、型Mのパターン領域PRの全体とする。
【0079】
S704において、シミュレーション装置1は、第1シミュレーションを実行するシミュレーション範囲を決定する。このように、硬化性組成物IMの挙動を予測する第1シミュレーションを実行する第1範囲(型Mのパターン領域PRの全体)に含まれ、第1範囲よりも小さい第2範囲(欠陥が派生している箇所を含む範囲)を決定する(第1工程)。本実施形態では、S703で取得された欠陥情報に基づいて、メモリ20に格納されているリストと照らし合わせて、欠陥が発生している箇所を、第1シミュレーションを実行するシミュレーション範囲として決定する。本実施形態では、これらの情報をビジュアルウィンドウ206に表示することなく、第1シミュレーションを実行するように、設定ファイル201に設定している。従って、ユーザによるシミュレーション範囲の調整は入らず、シミュレーションプログラム21に従ってシミュレーション範囲が自動的に決定され、第1シミュレーションが自動的に開始される。このため、第1シミュレーションを実行する上で更なる効率化を図ることができる。また、欠陥が発生している箇所が限定的な領域である場合には、型Mのパターン領域PRの全体に対して第1シミュレーションを実行する必要はなく、シミュレーション範囲を限定することができるため、計算コストを低減することができる。
【0080】
S705において、シミュレーション装置1は、S704で決定されたシミュレーション範囲に対して、第1シミュレーションを実行する(第2工程)。
【0081】
S706において、シミュレーション装置1は、S705で実行された第1シミュレーションの結果をビジュアルウィンドウ206に表示する(第3工程)。本実施形態では、硬化性組成物IMの挙動として、欠陥が発生している箇所に関する情報がビジュアルウィンドウ206に表示される。本実施形態では、顕微鏡で取得された欠陥情報と、第1シミュレーションの結果とを相対比較することができるため、欠陥の発生の原因が特定しやすくなる。
【0082】
このように、本実施形態では、インプリント処理を実行して形成された硬化性組成物IMの膜を計測した結果に関する情報に基づいて、第1シミュレーションを実行するシミュレーション範囲を決定する。これにより、第1シミュレーションを実行するシミュレーション範囲を、目的に適合した範囲で的確に決定することができるため、シミュレーションの精度を維持しながらも計算コストを低減することができる。また、ユーザのミスを最小限に抑えて、シミュレーションを実行することができる。このように、本実施形態におけるシミュレーション方法は、シミュレーションの精度を維持し、且つ、計算コストを抑えることを実現することができる。
【0083】
本発明は、上述の実施形態の1つ以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1つ以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【0084】
シミュレーション装置1が組み込まれた膜形成装置IMPは、第1部材の上に配置された硬化性組成物と第2部材とを接触させ第1部材の上に硬化性組成物の膜を形成する処理を、シミュレーション装置1による硬化性組成物の挙動の予測に基づいて制御する。
【0085】
実施形態の物品製造方法は、上述したシミュレーション方法を繰り返しながら第1部材の上に配置された硬化性組成物と第2部材とを接触させ第1部材の上に該化性組成物の膜を形成する処理の条件を決定する工程と、該条件に従って該処理を実行する工程とを含む。ここまでは、型がパターンを有する形態について説明したが、本発明は、基板がパターンを有する形態にも適用できる。
【0086】
図8(a)乃至
図8(f)には、物品の製造方法のより具体的な例が示されている。
図8(a)に示すように、絶縁体などの被加工材が表面に形成されたシリコンウエハなどの基板を用意し、続いて、インクジェット法などにより、被加工材の表面にインプリント材(硬化性組成物)を付与する。ここでは、複数の液滴状になったインプリント材が基板上に付与された様子を示している。
【0087】
図8(b)に示すように、インプリント用の型を、その凹凸パターンが形成された側を基板上のインプリント材に向け、対向させる。
図8(c)に示すように、インプリント材が付与された基板と型とを接触させ、圧力を加える。インプリント材は、型と被加工材との隙間に充填される。この状態で硬化用のエネルギーとして光を型を介して照射すると、インプリント材は硬化する。
【0088】
図8(d)に示すように、インプリント材を硬化させた後、型と基板を引き離すと、基板上にインプリント材の硬化物のパターンが形成される。この硬化物のパターンは、型の凹部が硬化物の凸部に、型の凸部が硬化物の凹部に対応した形状になっており、即ち、インプリント材に型の凹凸のパターンが転写されたことになる。
【0089】
図8(e)に示すように、硬化物のパターンを耐エッチングマスクとしてエッチングを行うと、被加工材の表面のうち、硬化物がない、或いは、薄く残存した部分が除去され、溝となる。
図8(f)に示すように、硬化物のパターンを除去すると、被加工材の表面に溝が形成された物品を得ることができる。ここでは、硬化物のパターンを除去したが、加工後も除去せずに、例えば、半導体素子などに含まれる層間絶縁用の膜、即ち、物品の構成部材として利用してもよい。
【0090】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0091】
1:シミュレーション装置 10:プロセッサ 20:メモリ 21:シミュレーションプログラム 30:ディスプレイ 40:入力デバイス