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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】鉄道車両
(51)【国際特許分類】
   B61D 17/10 20060101AFI20240529BHJP
   B61C 17/12 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
B61D17/10
B61C17/12 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020129533
(22)【出願日】2020-07-30
(65)【公開番号】P2022026186
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】市位 卓久
(72)【発明者】
【氏名】大島 聡
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 恭平
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 功
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 哲郎
【審査官】長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-335409(JP,A)
【文献】特開平06-008821(JP,A)
【文献】実開平07-031547(JP,U)
【文献】中国特許出願公開第108657202(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0203131(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61D 17/10
B61C 17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
客室の床部を構成する構造床と、前記構造床の前記客室とは反対側に配設される床下機器と、を備え、前記構造床は、複数の押出形材を結合した構造を用いて構成される鉄道車両において、
前記構造床の、少なくとも一部において、前記複数の押出形材のそれぞれは、前記鉄道車両の枕木方向と平行な方向に押出方向を有しており、前記鉄道車両の軌道方向に隣接して並び、相互に結合されていること、
前記複数の押出形材は、前記床下機器を保持する重量物保持用押出形材と、前記重量物保持用押出形材よりも厚みの薄い押出型材と、を含むこと、
を特徴とする鉄道車両。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄道車両において、
前記床下機器は、前記構造床に吊り下げ保持されること、
を特徴とする鉄道車両。
【請求項3】
請求項1または2に記載の鉄道車両において、
前記複数の押出形材のそれぞれは、前記床下機器の荷重および客室側からの荷重の、少なくともいずれか一方に対して要求される耐荷重に応じ、前記鉄道車両の高さ方向の厚みが設定されること、
を特徴とする鉄道車両。
【請求項4】
請求項3に記載の鉄道車両において、
前記複数の押出形材のうち、厚みが最も薄い押出形材よりも厚い厚みを備える押出形材は、前記客室の側とは反対側から、前記客室に向かって切り欠かれた艤装用切欠きを備えること、
を特徴とする鉄道車両。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1つに記載の鉄道車両において、
前記押出形材は、少なくとも前記客室側の面または前記床下機器側の面のいずれか一方に、押出方向と平行な方向に延伸する、艤装用の固定溝を備えること、
を特徴とする鉄道車両。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1つに記載の鉄道車両において、
前記構造床は、枕木方向の両端部を、前記鉄道車両の車体に挟持固定されていること、
を特徴とする鉄道車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、客室の床部を構成する構造床と、構造床の客室とは反対側に配設される床下機器と、を備え、構造床は、複数の押出形材を結合することで構成される鉄道車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通勤電車、特急電車等の鉄道車両は、特許文献1に示すように、台枠に結合されることで、客室の床部を構成する構造床を備えている。この構造床は、側梁、横梁、枕梁、端梁等からなる台枠の上面に取り付けられ、車両構体の気密を保つために用いられている。そして、この構造床は、例えばアルミ合金製の、複数の押出形材からなっており、該押出形材の押出方向は、鉄道車両の軌道方向に平行となっている。
【0003】
従来技術に係る鉄道車両としては、例えば、図11および図12に示すような鉄道車両1Dのような構成を有する。なお、図11中の二点鎖線Rは、軌道の上端面の位置を表したものである。
【0004】
鉄道車両1Dは、台枠200を有しており、台枠200は、台枠200の枕木方向の両端部をなす一対の側梁21を有している。台枠200の枕木方向の両端部には、側構体3が立設されており、側構体3は、鉄道車両1Dの側面部をなしている。また、台枠200の軌道方向の両端部には、妻構体(不図示)が立設され、鉄道車両1Dの前面部または後面部をなしている。さらにまた、側構体3および妻構体の上端部には、屋根構体4が接続されており、屋根構体4は、鉄道車両1Dの屋根部をなしている。
【0005】
鉄道車両1Dは、内部に客室5を有しており、客室5は床部55を有している。この床部55は、以下のようにして構成されている。台枠200の側梁21と側梁21との間には、横梁54が横架されている。なお、横梁54の枕木方向の両端部は、側梁21に溶接されている。そして、横梁54の上面には、複数の押出形材531が相互に溶接されてなる構造床53が溶接されている。押出形材531のそれぞれは、押出方向D21が、軌道方向に平行である。構造床53の上方には、客室5の床面を形成する床板パネル8が配設されており、床板パネル8は、構造床53の上面に設けられた床受9Aによって支えられている。
【0006】
横梁54は、構造床53を下方から支持するとともに、構造床53の客室5の反対側に配設される床下機器6を、取付金(結合部材の一例)10により吊り下げ保持している。
【0007】
もし、横梁54を用いないこととすると、例えば図11に示す構造床53が、客室5側から床部55に負荷される荷重や、床下機器6の質量により、側梁21と結合されている箇所を支点として、下方へ膨出するようにして、弓なり状に変形するおそれがある(図11中の二点鎖線F参照)。構造床53が変形すると、床板パネル8が、構造床53に引っ張られ、構造床53と同様に、弓なり状に変形する。すると、床板パネル8にひび割れ等の損傷が生じ、客室5の機能に支障を来すおそれがある。よって、従来、構造床53の支えとして、横梁54が用いられてきた。なお、客室5側から床部55に負荷される荷重とは、例えば、鉄道車両1Dがトンネルに突入する時またはトンネルから脱出する時に、鉄道車両1D内外の圧力差により生じる気密荷重などである。
【0008】
また、鉄道車両1Dは艤装のための配管16(または配線)を有しており、配管16は、横梁54を軌道方向に貫通する貫通孔541や、横梁54の下面の枕木方向の両端部に備えられた保持部材15によって、保持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2017-43278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記従来技術には次のような問題があった。
(第1の問題点)
従来技術に係る鉄道車両1Dにおいては、上述の通り、床板パネル8の損傷防止のために横梁54を用いている。しかし、横梁54の厚みは、例えば約200mmあるため、構造床53の厚みと横梁54の厚みを合計した厚みt21がかさんでしまう。厚みt21がかさむため、客室5の居住性を確保するためのスペース(客室高さH13)や、軌道の上端面(二点鎖線R)から横梁54の下端面までの高さ(軌道上高さH23)を確保することが困難となり、床上艤装や床下艤装のためのスペース確保が困難となっていた。
【0011】
(第2の問題点)
上記の通り、床上艤装や床下艤装のためのスペース確保が困難であるため、横梁54に、貫通孔541を設け、配管16を通すことが行われている。この貫通孔541を設けるためには、横梁54を加工しなければならない。また、構造床53と横梁54との溶接は、床下での溶接作業を要するため、自動溶接を行うことができず、手溶接で行うこととなる。以上の横梁54の加工や、手溶接を要することにより、製造コストがかさむおそれがあった。
【0012】
本発明は、上記問題点を解決するためのものであり、艤装のためのスペース確保を容易にするとともに、製造コストを抑えることが可能な鉄道車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明の鉄道車両は次のような構成を有している。
(1)客室の床部を構成する構造床と、構造床の客室とは反対側に配設される床下機器と、を備え、構造床は、複数の押出形材を結合した構造を用いて構成される鉄道車両において、構造床の、少なくとも一部において、複数の押出形材のそれぞれは、鉄道車両の枕木方向と平行な方向に押出方向を有しており、鉄道車両の軌道方向に隣接して並び、相互に結合されていること、複数の押出形材は、床下機器を保持する重量物保持用押出形材と、重量物保持用押出形材よりも厚みの薄い押出型材と、を含むこと、を特徴とする。
【0014】
(2)(1)に記載の鉄道車両において、床下機器は、構造床に吊り下げ保持されること、を特徴とする。
【0015】
(1)または(2)に記載の鉄道車両によれば、艤装のためのスペース確保を容易にするとともに、製造コストを抑えることが可能となる。
【0016】
(第1の問題点について)
出願人は、押出形材は、押出方向に平行な方向の軸(以下、平行軸という)まわりの曲げ剛性に比べ、押出方向に垂直な方向の軸(以下、垂直軸という)まわりの曲げ剛性の方が、20%程度大きいことを確認した。そこで、構造床の、少なくとも一部において、鉄道車両の枕木方向と平行な方向に押出方向を有する複数の押出形材を、鉄道車両の軌道方向に隣接して並べ、相互に結合することで、構造床を構成する。そうすれば、上述の通り、平行軸まわりの曲げ剛性よりも、垂直軸まわりの曲げ剛性の方が強いため、横梁を用いずとも、床下機器の質量や客室からの荷重によって構造床が変形するおそれが低減される。横梁を用いなければ、その分、床上艤装または床下艤装のためのスペース確保が容易となる。また、構造床が変形するおそれが低減されることで、横梁を用いずに、構造床が直接床下機器を吊り下げ保持することも可能となる。
【0017】
(第2の問題点について)
また、横梁が必要なく、スペース確保が容易となることで、横梁に艤装のための配管等を保持する貫通孔を設ける加工が必要無くなった。さらに、従来行っていた構造床と横梁とを結合するための溶接作業が不要である。よって、製造コストの増大を抑えることが可能である。
【0018】
(3)(1)または(2)に記載の鉄道車両において、複数の押出形材のそれぞれは、床下機器の荷重および客室側からの荷重の、少なくともいずれか一方に対して要求される耐荷重に応じ、鉄道車両の高さ方向の厚みが設定されること、を特徴とする。
【0019】
(3)に記載の鉄道車両によれば、構造床を構成する押出形材のうち、例えば、床下機器(例えば、変圧器、空調機、コンバータ・インバータ、バッテリ、エンジン、水タンク、汚物タンク、燃料タンク、ごみ箱など)を吊り下げ保持する部分を構成する押出形材は、その他の部分の押出形材よりも厚くするなど、必要に応じて厚みの異なる押出形材を用いることで、最小限の質量で構造床を構成することができるようになる。
【0020】
(4)(3)に記載の鉄道車両において、複数の押出形材のうち、厚みが最も薄い押出形材よりも厚い厚みを備える押出形材は、客室の側とは反対側から、客室に向かって切り欠かれた艤装用切欠きを備えること、を特徴とする。
【0021】
(4)に記載の鉄道車両によれば、複数の押出形材のうち、厚みが最も薄い押出形材よりも厚い厚みを備える押出形材は、艤装用のスペースを侵食するおそれがあるが、艤装用切欠きを設けることで、艤装のためのスペースを確保することがより容易となる。
【0022】
(5)(1)乃至(4)のいずれか1つに記載の鉄道車両において、押出形材は、少なくとも客室側の面または床下機器側の面のいずれか一方に、押出方向と平行な方向に延伸する、艤装用の固定溝を備えること、を特徴とする。
【0023】
(5)に記載の鉄道車両によれば、艤装用の固定溝は、押出方向と平行な方向に延伸するものであるため、押出形材を押出成形する際に、成形可能である。よって、例えば、床下機器側の面に固定溝を設ければ、横梁等の別途の部材を要することなく、構造床が、直接に床下機器を吊り下げ保持することが可能である。構造床が、別途の部材を要することなく、床下機器を吊り下げ保持することができれば、艤装用のスペース確保が容易となる。また、例えば、客室側の面に固定溝を設ければ、別途の部材を要することなく、床上艤装部品を構造床に固定可能である。
【0024】
(6)(1)乃至(5)のいずれか1つに記載の鉄道車両において、構造床は、枕木方向の両端部を、鉄道車両の車体に挟持固定されていること、を特徴とする。
【0025】
(6)に記載の鉄道車両によれば、構造床の枕木方向の両端部が挟持固定されるため、従来のように台枠と構造床を溶接するよりも、構造床の固定を強固に行うことができる。よって、客室側から床部に負荷される荷重や、床下機器の質量によって、構造床が変形することを、より確実に抑えることが可能となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の鉄道車両によれば、艤装のためのスペース確保を容易にするとともに、製造コストを抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本実施形態に係る鉄道車両の、枕木方向に切断した断面図である。
図2図1のA-A断面図である。
図3図2のX部分の部分拡大図である。
図4】押出形材の変形例を示す図であり、図3に対応する図である。
図5】第1の変形例に係る鉄道車両の、枕木方向に切断した断面図である。
図6】第2の変形例に係る鉄道車両の、枕木方向に切断した断面図である。
図7】構造床と側梁との結合部分の変形例を表す図である。
図8】構造床と側梁との結合部分の変形例を表す図である。
図9】構造床と側梁との結合部分の変形例を表す図である。
図10】鉄道車両1両分の構造床の平面図である。
図11】従来技術に係る鉄道車両の、枕木方向に切断した断面図である。
図12図11のB-B断面図である。
図13】押出形材に圧力荷重を負荷した場合の変位量を解析した結果を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明に係る鉄道車両の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0029】
図1は、本実施形態に係る鉄道車両1Aの、枕木方向に切断した断面図である。なお、図1中の二点鎖線Rは、軌道の上端面の位置を表したものである。また、図2は、図1のA-A断面図である。図3は、図2のX部分の部分拡大図である。
【0030】
鉄道車両1Aの車体100は、台枠2、側構体3、屋根構体4、不図示の妻構体からなる。台枠2は、台枠2の軌道方向両端部をなす端梁(不図示)と、台車に支えられる枕梁(不図示)と、台枠2の枕木方向の両端部をなす一対の側梁21を有している。台枠2の枕木方向の両端部には、側構体3が立設されており、側構体3は、鉄道車両1Aの側面部をなしている。また、台枠2の軌道方向の両端部には、妻構体が立設され、鉄道車両1Aの前面部または後面部をなしている。さらにまた、側構体3および妻構体の上端部には、屋根構体4が接続されており、屋根構体4は、鉄道車両1Aの屋根部をなしている。
【0031】
鉄道車両1Aは、内部に客室5を有しており、客室5は床部51を有している。この床部51は、構造床7Aと、床受9Aと、床板パネル8とにより構成されている。構造床7Aは、台枠2の側梁21と側梁21との間に横架されている。なお、構造床7Aの枕木方向の両端部は、側梁21に溶接され、台枠2の一部をなすようにされている。構造床7Aの客室5側に、客室5の床面を形成する床板パネル8が配設されており、床板パネル8は、構造床7Aの客室5側の面に設けられた床受9Aによって支えられている。
【0032】
また、構造床7Aの客室5の反対側には、床下機器6や、艤装用の配管(または配線)14が配設されている。床下機器6は、取付金10によって構造床7Aに吊り下げ保持されている。この床下機器6は、例えば、変圧器、空調機、コンバータ・インバータ、バッテリ、エンジン、水タンク、汚物タンク、燃料タンク、ゴミ箱等である。また、配管14は、構造床7Aの軌道側の面の、枕木方向の両端部に備えられた保持部材13によって、保持されている。
【0033】
次に、構造床7Aの構成について、より詳細に説明する。
構造床7Aは、例えばアルミ合金からなる、複数の押出形材71A,72により構成されている。押出形材71A,72は中空状であり、内部にはトラス状のリブを備えている。複数の押出形材71A,72のそれぞれは、一対の側梁21の間を横架する長さを有している。そして、複数の押出形材71A,72は、軌道方向に複数並び、相互に溶接されている。なお、この複数の押出形材71A,72同士の溶接は、自動溶接により行われるものであり、例えば、摩擦攪拌接合や溶接棒を用いたアーク溶接により行われる。また、押出形材71A,72のそれぞれは、押出方向D11が、鉄道車両1Aの枕木方向に平行である。なお、押出形材71A,72は、トラス状の断面を有するものであるが、ハモニカ状の断面を有するものとしても良い。
【0034】
押出形材71Aの厚みt11と、押出形材72の厚みt12とは、異なる厚みとなっており、厚みt11は約100mm、厚みt12は、約60mmである。押出形材71Aと押出形材72の厚みが異なるものとされているのは、構造床7Aの軌道方向の位置によって、構造床7Aに負荷される荷重(例えば、床下機器6の荷重や客室5側からの荷重)が異なるためである。つまり、当該荷重に対して要求される耐荷重に応じて、押出形材71Aと押出形材72の厚みが設定されるため、構造床7Aは、構造床7Aの軌道方向の位置によって厚みが異なるように構成される。
【0035】
押出形材71Aは、構造床7Aを構成する押出形材のうち、床下機器6を吊り下げ保持するための重量物保持用押出形材であるため、剛性確保のために、構造床7Aを構成する押出形材のうちでも最も厚い厚みを有するものとされている。
【0036】
床下機器6の吊り下げ保持は、取付金10が押出形材71Aに結合されることで行われる。この結合は、押出形材71Aの軌道側の面に設けられた吊り溝(固定溝の一例)711を備えており、ボルト11の頭部が吊り溝711に挿入されるとともに、ボルト11のねじ部が取付金10の中空部101に挿入され、中空部101において、ボルト11にナット12が螺合されることで行われる。なお、吊り溝711は、押出方向D11と平行な方向に延伸するものであるため、押出形材71Aを押出成形する際に、成形可能である。また、図4に示す押出形材71Bのように、押出形材71Bの下端面に凸部712を設け、凸部712に吊り溝713を設けることとしても良い。さらには、押出形材71Aや、押出形材72の、客室5側の面に吊り溝711と同様の固定溝を設け、床受9Aなどの床上艤装用の部品を、押出形材71A,72に固定するものとしても良い。
【0037】
上述の通り、押出形材71Aは、押出方向D11が、鉄道車両1Aの枕木方向に平行であるため、従来用いられていた横梁54を用いずに、構造床7Aによって床下機器6を吊り下げ保持したとしても、側梁21との結合箇所を支点として、下方へ膨出するようにして、弓なり状に変形してしまうおそれが低減される。これは、押出形材は、押出方向に平行な方向の軸(以下、平行軸という)まわりの曲げ剛性に比べ、押出方向に垂直な方向の軸(以下、垂直軸という)まわりの曲げ剛性の方が、20%程度大きいためである。
【0038】
押出形材の、平行軸まわりの曲げ剛性よりも、垂直軸まわりの曲げ剛性の方が大きいと言う点は、出願人が、以下の通り解析を行うことにより確認した。 図13は、押出形材に圧力荷重を負荷した場合の変位量を解析した結果を表した図である。図中X軸は、軌道方向に平行な軸であり、図中Y軸は、枕木方向に平行な軸である。解析用モデル201は、従来技術に係る鉄道車両1Dに用いられている構造床53を模したものであり、押出方向が軌道方向に平行になっている。解析用モデル202は、本実施形態に係る構造床7Aを模したものであり、押出方向が枕木方向に平行になっている。解析用モデル203は、本実施形態に係る構造床7Aを模したものであり、押出方向が枕木方向に平行になっている。解析用モデル202と異なる点は、解析用モデル202はトラス状の断面形状を有するのに対し、解析用モデル203は、ハモニカ状の断面形状とした点である。解析用モデル201,202,203は、全て厚みを40mmとしている。そして、解析用モデル201,202,203のそれぞれの端部201a,202a,203aは、台枠2を構成する側梁21に結合されている部分と仮定し、さらに、解析用モデル201,202,203のそれぞれの端部201b,202b,203bは、構造床7A,53の枕木方向の中央部と仮定し、解析用モデル201,202,203のそれぞれの上面に圧力荷重10KPaを負荷し、図中Z方向の変位量を解析した。
【0039】
構造床7A,53の枕木方向の中央部と仮定した端部201b,202b,203bが、解析用モデル201,202,203のそれぞれにおいて最も変位量が大きくなる部分である。図13に示すように、変位後の端部201bに基準線L11を引き、端部201b,202b,203bの変位量を比べると、変位後の端部202b,203bのZ方向の高さは、変位後の端部201bのZ方向の高さよりも高い位置にある。よって、解析用モデル202,203は、解析用モデル201よりも変位量が小さいことが分かる。正確には、端部202bの変位量は、端部201bの変位量に比べて約13%小さく、端部203bの変位量は、端部201bの変位量に比べて約17%小さい結果となっている。よって、上述の通り、押出形材71Aは、押出方向D11が、鉄道車両1Aの枕木方向に平行であるため、従来用いられていた横梁54を用いずに、構造床7Aによって床下機器6を吊り下げ保持したとしても、側梁21との結合箇所を支点として、下方へ膨出するようにして、弓なり状に変形してしまうおそれが低減されるのである。
【0040】
従来用いていた横梁54を用いないため、押出形材71Aは、従来用いていた押出形材531よりも厚くする必要がある。しかし、厚みt11は約100mmであるため、構造床53の厚みと横梁54の厚みを合計した厚みt21よりも薄くすることができる。よって、客室高さH11を、従来の客室高さH13と同等以上に保ちつつ、軌道の上端面(二点鎖線R)から構造床7Aの下端面までの高さ(軌道上高さH21)を、軌道の上端面(二点鎖線R)から横梁54の下端面までの高さ(軌道上高さH23)よりも大きくすることができる。よって、艤装用のスペース確保が容易となる。
【0041】
さらに、押出形材71Aは、押出形材71Aの軌道側の面に、艤装用のスペース確保のため、艤装用切欠き714,715を備えている。この艤装用切欠き714,715は、押出形材71Aの中でも、剛性を要する部分(すなわち、取付金10が結合され、床下機器6を吊り下げ保持している部分)を避けて設けられている。押出形材71Aの枕木方向両端部に設けられた艤装用切欠き714には、保持部材13が取り付けられており、保持部材13により、配管14が保持されている。艤装用切欠き715も、必要に応じて配管や配線を行うなど、艤装用のスペースとして活用可能である。このように、押出形材71Aの剛性を要しない部分に艤装用切欠き714,715を備えることで、
艤装用スペースの確保がより容易となる。
【0042】
押出形材72は、構造床7Aの中で、床下機器6を吊り下げ保持する部分を構成するものではないため、押出形材71Aほどの剛性を備える必要がない。よって、押出形材72の厚みt12は、押出形材71Aよりも薄く構成されている。本実施形態においては、構造床7Aを、押出形材71Aと押出形材72との2種類の厚みt11,t12の組み合わせにより構成しているが、このような組み合わせに限定されない。例えば、変圧器や空調機などの重量物以外の比較的軽量な床下機器を吊り下げ保持する部分には、押出形材71Aよりも薄く、押出形材72よりも厚い厚みを有する押出形材を用いるなど、構造床7Aの求められる耐荷重に応じて、複数種の厚みの押出形材を組み合わせて、構造床7Aの軌道方向の位置によって厚みの異なる構造床7Aを構成するものとしても良い。必要に応じて厚みの異なる押出形材を用いて構造床7Aを構成することで、最小限の質量で構造床7Aを構成することができるようになる。
【0043】
また、鉄道車両1Aの第1の変形例として、図5に示す鉄道車両1Bが挙げられる。鉄道車両1Bは、構造床7Aと、構造床7Aが支える床受9Aおよび床板パネル8の、鉄道車両1Bの高さ方向の位置が、鉄道車両1Aに比べて低くされており、客室5の客室高さH12が、鉄道車両1Aの客室高さH11よりも大きくされている。これにより、客室5の居住性が向上されている。構造床7Aの位置が低くされている分、軌道上高さH22が、軌道上高さH21よりも小さくなるが、構造床7Aを構成する押出形材のうち、最も厚い押出形材71Aの厚みt11が、従来技術に係る鉄道車両1Dの、構造床53の厚みと横梁54の厚みを合計した厚みt21より薄いため、鉄道車両1Dの軌道上高さH23と同等以上に、軌道上高さH22を確保可能であるため、十分に艤装用のスペースを確保することが可能である。
【0044】
また、鉄道車両1Aの第2の変形例として、図6に示す鉄道車両1Cが挙げられる。鉄道車両1Cは、構造床7Aの鉄道車両1Cの高さ方向の位置が、鉄道車両1Bの構造床7Aと同一の位置とされている。一方で、構造床7Aが支える床受9Bの長さが鉄道車両1A,1Bの床受9Aよりも長くされ、床板パネル8の、鉄道車両1Cの高さ方向の位置が、鉄道車両1Aと同一にされている。これにより、客室高さH11が鉄道車両1Aと同等であり、軌道上高さH22が鉄道車両1Bと同等とされている。よって、客室5の居住性と、床下艤装用のスペースを従来と同等以上に確保したまま、床板パネル8と構造床7Aとの間のスペースを従来よりも大きくとることが出来るため、床上艤装用のスペースを従来よりも大きく確保することが可能となる。
【0045】
また、以上に説明した鉄道車両1A,1B,1Cにおいては、構造床7Aは、側梁21に結合されるものであったが、図7に示す押出形材71Cのように、鉄道車両1A,1B,1Cの車体100の枕木方向の幅と同等の長さの押出形材を用いて構造床7Bを構成し、側梁21と側構体3とにより構造床7Bを挟み込んだ上、溶接により固定するものとしても良い。このように構造床7Bの枕木方向の両端部を車体100に挟持固定することで、従来よりも、台枠2と構造床7Bとの結合部分の剛性を高めることが可能である。台枠2と構造床7Bとの結合部分の剛性を高めることができれば、客室5側から床部52に負荷される荷重や、床下機器6の質量によって、床部52または構造床7Bが変形することを、より確実に抑えることが可能となる。また、図8に示す押出形材71Dのように、一対の側梁21の対向する面同士の距離よりも長く、鉄道車両1A,1B,1Cの車体100の枕木方向の幅よりも短い長さの押出形材を用いて構造床7Cを構成するとともに、側梁21Bに切欠き部211を設け、当該切欠き部211に、構造床7Cの枕木方向の両端部をはめ込むことで、構造床7Cの枕木方向の両端部を、側梁21Bと側構体3とにより挟持固定することとしても良い。さらにまた、図9に示すように、側構体3Bおよび側梁21Cのそれぞれに、凸部31,212を設け、凸部31,212によって、構造床7Aの枕木方向の両端部を挟持固定することとしても良い。
【0046】
また、構造床7Aは、鉄道車両1A,1B,1Cの軌道方向の一方の端部から他方の端部までの全てを、枕木方向と平行な方向に押出方向D11を有する押出形材71A,72によって構成するものとしても良いが、構造床7Aの一部を枕木方向と平行な方向に押出方向D11を有する押出形材71A,72によって構成するものとしても良い。例えば、図10に示すように、構造床7Aの中央床部81のみを枕木方向と平行な方向に押出方向D11を有する押出形材71A,72によって構成し、構造床7Aの軌道方向の両端部を形成する車端床部82は、従来と同様に、軌道方向と平行な方向に押出方向D21を有する押出形材531により構成することとしても良い。
【0047】
以上説明したように、本実施形態に係る鉄道車両1A(1B,1C)によれば、
(1)客室5の床部51を構成する構造床7A(7B,7C)と、構造床7A(7B,7C)の客室5とは反対側に配設される床下機器6と、を備え、構造床7A(7B,7C)は、複数の押出形材71A(71B,71C,71D),72を結合した構造を用いて構成される鉄道車両1A(1B,1C)において、構造床7A(7B,7C)の、少なくとも一部において、複数の押出形材71A(71B,71C,71D),72のそれぞれは、鉄道車両1A(1B,1C)の枕木方向と平行な方向に押出方向D11を有しており、鉄道車両1A(1B,1C)の軌道方向に隣接して並び、相互に結合されていること、を特徴とする。
【0048】
(2)(1)に記載の鉄道車両1A(1B,1C)において、床下機器6は、構造床7A(7B,7C)に吊り下げ保持されること、を特徴とする。
【0049】
(1)または(2)に記載の鉄道車両1A(1B,1C)によれば、艤装のためのスペース確保を容易にするとともに、製造コストを抑えることが可能となる。
【0050】
(第1の問題点について)
出願人は、押出形材は、押出方向に平行な方向の軸(以下、平行軸という)まわりの曲げ剛性に比べ、押出方向に垂直な方向の軸(以下、垂直軸という)まわりの曲げ剛性の方が、20%程度大きいことを確認した。そこで、鉄道車両1A(1B,1C)の枕木方向と平行な方向に押出方向D11を有する複数の押出形材71A(71B,71C,71D),72を、鉄道車両1A(1B,1C)の軌道方向に隣接して並べ、相互に結合することで、構造床7A(7B,7C)を構成すれば、上述の通り、平行軸まわりの曲げ剛性よりも、垂直軸まわりの曲げ剛性の方が強いため、横梁54を用いずとも、床下機器6の質量や客室5からの荷重によって構造床7A(7B,7C)が変形するおそれが低減される。横梁54を用いなければ、その分、床上艤装または床下艤装のためのスペース確保が容易となる。また、構造床7A(7B,7C)が変形するおそれが低減されることで、横梁54を用いずに、構造床7A(7B,7C)が直接床下機器6を吊り下げ保持することも可能となる。
【0051】
(第2の問題点について)
また、横梁54が必要なく、スペース確保が容易となることで、横梁54に艤装のための配管16等を保持する貫通孔541を設ける加工が必要無くなった。さらに、従来行っていた構造床53と横梁54とを結合するための溶接作業が不要である。よって、製造コストの増大を抑えることが可能である。
【0052】
(3)(1)または(2)に記載の鉄道車両1A(1B,1C)において、複数の押出形材71A(71B,71C,71D),72のそれぞれは、床下機器6の荷重および客室5側からの荷重の、少なくともいずれか一方に対して要求される耐荷重に応じ、鉄道車両1A(1B,1C)の高さ方向の厚みが設定されること、を特徴とする。
【0053】
(3)に記載の鉄道車両1A(1B,1C)によれば、構造床7A(7B,7C)を構成する押出形材71A(71B,71C,71D),72のうち、床下機器6(例えば、変圧器、空調機、コンバータ・インバータ、バッテリ、エンジン、水タンク、汚物タンク、燃料タンク、ごみ箱など)を吊り下げ保持する部分を構成する押出形材71A(71B,71C,71D)(例えば、重量物保持用押出形材)は、その他の部分の押出形材72よりも厚くするなど、必要に応じて厚みの異なる押出形材を用いることで、最小限の質量で構造床7A(7B,7C)を構成することができるようになる。
【0054】
(4)(3)に記載の鉄道車両1A(1B,1C)において、複数の押出形材71A(71B,71C,71D),72のうち、厚みが最も薄い押出形材72よりも厚い厚みを備える押出形材71A(71B,71C,71D)は、客室5の側とは反対側から、客室5に向かって切り欠かれた艤装用切欠き714,715を備えること、を特徴とする。
【0055】
(4)に記載の鉄道車両1A(1B,1C)によれば、複数の押出形材71A(71B,71C,71D),72のうち、厚みが最も薄い押出形材72よりも厚い厚みを備える押出形材71A(71B,71C,71D)は、艤装用のスペースを侵食するおそれがあるが、艤装用切欠き714,715を設けることで、艤装のためのスペースを確保することがより容易となる。
【0056】
(5)(1)乃至(4)のいずれか1つに記載の鉄道車両1A(1B,1C)において、押出形材71A(71B,71C,71D)は、少なくとも客室5側の面または床下機器6側の面のいずれか一方に、押出方向D11と平行な方向に延伸する、艤装用の固定溝(例えば吊り溝711)を備えること、を特徴とする。
【0057】
(5)に記載の鉄道車両によれば、艤装用の固定溝(吊り溝711)は、押出方向D11と平行な方向に延伸するものであるため、押出形材71A(71B,71C,71D)を押出成形する際に、成形可能である。よって、例えば、床下機器6側の面に固定溝(吊り溝711)を設ければ、横梁54等の別途の部材を要することなく、構造床7A(7B,7C)が、直接に床下機器6を吊り下げ保持することが可能である。構造床7A(7B,7C)が、別途の部材を要することなく、床下機器6を吊り下げ保持することができれば、艤装用のスペース確保が容易となる。また、例えば、客室5側の面に固定溝を設ければ、別途の部材を要することなく、床上艤装部品(例えば床受9A,9B)を構造床7A(7B,7C)に固定可能である。
【0058】
(6)(1)乃至(5)のいずれか1つに記載の鉄道車両1A(1B,1C)において、構造床7A(7B,7C)は、枕木方向の両端部を、鉄道車両1A(1B,1C)の車体100に挟持固定されること、を特徴とする。
【0059】
(6)に記載の鉄道車両1A(1B,1C)によれば、構造床7A(7B,7C)の枕木方向の両端部が挟持固定されるため、従来のように台枠2と構造床53を溶接するよりも、構造床7A(7B,7C)の固定を強固に行うことができる。よって、客室5側から床部52に負荷される荷重や、床下機器6の質量によって、構造床7A(7B,7C)が変形することを、より確実に抑えることが可能となる。
【0060】
なお、上記の実施形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に、その要旨を逸脱しない範囲内で様々な改良、変形が可能である。例えば、本実施形態においては、ダブルスキンの押出形材71A(71B,71C,71D),72を用いて構造床7A(7B,7C)を構成しているが、シングルスキンの押出形材を用いて構造床を構成することとしても良い。また、本実施形態における構造床7A(7B,7C)は、押出形材71A(71B,71C,71D),72の客室5側の面を同一平面上に並べることで構成されているが、これに限定されるものでなく、押出形材71A(71B,71C,71D),72の床下機器6側の面を同一平面上に並べることで、構造床を構成することとしても良い。
【符号の説明】
【0061】
1A 鉄道車両
2 台枠
5 客室
6 床下機器
7A 構造床
21 側梁
51 床部
71A 押出形材
72 押出形材
D11 押出方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13