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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】睡眠改善剤の有効性を評価する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20240529BHJP
   C12Q 1/6813 20180101ALI20240529BHJP
   C12Q 1/6858 20180101ALI20240529BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20240529BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
C12N15/12
C12Q1/6813 Z
C12Q1/6858 Z
C12Q1/6869 Z
G01N33/53 M
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020129864
(22)【出願日】2020-07-31
(65)【公開番号】P2022026406
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀 智史
(72)【発明者】
【氏名】山本 尚基
(72)【発明者】
【氏名】鈴鴨 知佳
(72)【発明者】
【氏名】三澤 幸一
(72)【発明者】
【氏名】山本 泰徳
(72)【発明者】
【氏名】井上 高良
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-199686(JP,A)
【文献】特開2016-086950(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0139676(KR,A)
【文献】特開2018-009986(JP,A)
【文献】特開2018-045539(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/12
C12Q 1/6869
C12Q 1/6858
C12Q 1/6813
G01N 33/53
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の遺伝子:FLOT2、AURKAIP1、NSFP1、SMARCA4、PSEN1、CTSH、PSMD7、CDKN1B、BUD31、HNRNPL、TOLLIP及びTOMM6をコードする核酸、ならびに該遺伝子にコードされるタンパク質からなる群より選択される少なくとも1種を含む、クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤の被験者に対する有効性を評価するためのマーカー。
【請求項2】
さらに、下記表1に示す遺伝子をコードする核酸、及び該遺伝子にコードされるタンパク質からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1記載のマーカー。
【表1】
【請求項3】
さらに、下記表2に示す遺伝子をコードする核酸、及び該遺伝子にコードされるタンパク質からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1記載のマーカー。
【表2】
【請求項4】
さらに、下記表3に示す遺伝子をコードする核酸、及び該遺伝子にコードされるタンパク質からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1記載のマーカー。
【表3】
【請求項5】
以下の遺伝子:BUD31、HNRNPL、TOLLIP及びTOMM6をコードする核酸、及び該遺伝子にコードされるタンパク質からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1記載のマーカー。
【請求項6】
核酸マーカーである、請求項1~5のいずれか1項記載のマーカー。
【請求項7】
前記核酸が皮膚表上脂質から採取されたmRNAである、請求項6記載のマーカー。
【請求項8】
前記クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤がコーヒーポリフェノールを含有する睡眠改善剤である、請求項1~7のいずれか1項記載のマーカー。
【請求項9】
前記被験者が、前記睡眠改善剤を適用されていない状態にある者である、請求項1~8のいずれか1項記載のマーカー。
【請求項10】
クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤の被験者に対する有効性を評価する方法であって、被験者における請求項1~9のいずれか1項記載のマーカーの発現を測定することを含む、方法。
【請求項11】
予測モデルを用いて、クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤の被験者に対する有効性を評価することをさらに含み、
該予測モデルが、教師サンプル集団の各人における前記マーカーの発現レベルについてのデータを説明変数とし、該集団の各人において該睡眠改善剤が有効に作用したか否かについてのデータを目的変数とした機械学習により構築され、
該教師サンプル集団は、該睡眠改善剤が有効に作用する者及び有効に作用しない者を含む、
請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記マーカーの発現レベルに基づいて被験者に対するクロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤の有効性を評価することをさらに含む、請求項10記載の方法。
【請求項13】
クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤の適用に適した被験者を選択する方法であって、被験者における請求項1~9のいずれか1項記載のマーカーの発現を測定することを含む、方法。
【請求項14】
予測モデルを用いて、クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤の適用に適した被験者を選択することをさらに含み、
該予測モデルが、教師サンプル集団の各人における前記マーカーの発現レベルについてのデータを説明変数とし、該集団の各人において該睡眠改善剤が有効に作用したか否かについてのデータを目的変数とした機械学習により構築され、
該教師サンプル集団は、該睡眠改善剤が有効に作用する者及び有効に作用しない者を含む、
請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記マーカーの発現レベルに基づいてクロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤の適用に適した被験者を選択することをさらに含む、請求項13記載の方法。
【請求項16】
前記被験者が、前記睡眠改善剤を適用されていない状態にある者である、請求項10~15のいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
前記クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤がコーヒーポリフェノールを含有する睡眠改善剤である、請求項10~16のいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個々人に対するクロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤の有効性を評価する方法、及びそのためのマーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多くの人々が睡眠の問題を抱えている。不眠は、寝つきが悪い、眠りが浅い、早く目が覚める、十分眠った感じがしないなどの睡眠の質の低下が自覚される状態を招く。睡眠の質の低下は、心筋梗塞や脳梗塞等の重大な疾患に繋がるだけでなく、日中の眠気から作業能率を低下させ、重大な事故を誘発する可能性がある。睡眠の質を改善することは保健上の重要な課題である。
【0003】
睡眠の質の低下にはストレス、加齢に伴う生理的な変化、性差等の多くの因子が関与している。従来、睡眠の質の改善を目的とする睡眠改善素材が多種開発されているが、それらの素材は、必ずしも全ての者において一様に、期待される最大限の効果を発揮するわけではない。睡眠の質の改善を求める個人は、様々な睡眠改善素材を自ら試し、自身に適したものを見つけねばならない。さらに、それらの素材の多くは、効果を発揮するためには長期的に摂取されねばならない。そのため、個人が自身に適した睡眠改善素材を見つけるためには、長い期間と、コスト、労力を要する。さらに、たとえ個人が自身に有効な睡眠改善素材を見つけたとしても、それが数ある睡眠改善素材の中で自身にとって最適なものであるか、又は該素材の最大限の効果が自身に対して発揮されているかを判別することは困難である。睡眠は、精神又は神経状態の影響を強く受けるため、睡眠改善素材の効果への不安は、該素材の効果を妨げ、睡眠の質を低下させる原因になり得る。
【0004】
コーヒーポリフェノール(以下、「CPP」と称する)又はその主要成分であるクロロゲン酸類は、睡眠の質を改善する素材として報告されている(非特許文献1)。特許文献1及び2には、クロロゲン酸類が中途覚醒時間の短縮、早朝覚醒の改善、睡眠効率の改善、起床時の熟眠感の改善などの睡眠の質の改善に有効であることが開示されている。しかしながら、クロロゲン酸類もまた、上述と同様に効果には個人差があり、必ずしも全ての使用者に対して十分な効果が発揮されるわけではなかった。
【0005】
生体試料中のDNAやRNA等の核酸の解析によりヒトの生体内の現在、さらには将来の生理状態を調べる技術が開発されている。生体由来の核酸は、血液等の組織、体液、分泌物などから抽出することができる。特許文献3、4には、皮膚表上脂質(SSL)から被験者の皮膚細胞に由来するRNA等の核酸を分離し、生体の解析用の試料として用いることが記載されている。従来、睡眠に関連する可能性があるものとして多数の遺伝子が報告されており、一方で、クロロゲン酸類の投与に応じて発現が変化する遺伝子についての報告がある。しかし、前者の遺伝子と後者の遺伝子は共通していない。これまでに、クロロゲン酸類の睡眠改善効果に関与する遺伝子についての報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-199686号公報
【文献】特開2018-100293号公報
【文献】国際公開公報第2018/008319号
【文献】国際公開公報第2020/091044号
【非特許文献】
【0007】
【文献】Food Sci Nutr, 6(8):2530-2536, 2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、個々人に対するクロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤の有効性を評価する方法、及びそのためのマーカーを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一態様において、本発明は、以下の遺伝子:FLOT2、AURKAIP1、NSFP1、SMARCA4、PSEN1、CTSH、PSMD7、CDKN1B、BUD31、HNRNPL、TOLLIP及びTOMM6をコードする核酸、及び該遺伝子にコードされるタンパク質からなる群より選択される少なくとも1種を含む、クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤の被験者に対する有効性を評価するためのマーカーを提供する。
別の一態様において、本発明は、クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤の被験者に対する有効性を評価する方法であって、被験者における前記マーカーの発現を測定することを含む、方法を提供する。
別の一態様において、本発明は、クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤の適用に適した被験者を選択する方法であって、被験者における前記マーカーの発現を測定することを含む、方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、個々人に対するクロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤の有効性を、該睡眠改善剤を実際に用いることなく評価することができる。本発明により、消費者は、クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤を実際に服用せずとも、それが自身にとって有効かどうかを評価することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書中で引用された全ての特許文献、非特許文献、及びその他の刊行物は、その全体が本明細書中において参考として援用される。
【0012】
本明細書中に開示される遺伝子の名称は、NCBI([www.ncbi.nlm.nih.gov/])に記載のあるOfficial Symbolに従う。
【0013】
本明細書において、「皮膚表上脂質(skin surface lipids;SSL)」とは、皮膚の表上に存在する脂溶性画分をいい、皮脂と呼ばれることもある。一般に、SSLは、皮膚にある皮脂腺等の外分泌腺から分泌された分泌物を主に含み、皮膚表面を覆う薄い層の形で皮膚表上に存在している。
【0014】
本明細書において、「皮膚」とは、特に限定しない限り、体表の表皮、真皮、毛包、ならびに汗腺、皮脂腺及びその他の腺などの組織を含む領域の総称である。
【0015】
本明細書において、「睡眠改善」とは、好ましくは睡眠の質、すなわち睡眠時間に限られない、睡眠に対する総合的な満足度の改善のことをいう。「睡眠改善」は、例えば、OSA睡眠調査票(山本由華吏ら:脳と精神の医学 10:401-409,1999)で評価することができる。OSA睡眠調査票では、個人の自覚症状に基づく睡眠の質、すなわち、一般的な生活態度や、就寝前の身体的・精神的状態、起床時の自覚的睡眠の質を評価する。より具体的には、OSA睡眠調査票では、睡眠の質を第1因子~第5因子の5つの評価尺度から総合的に評価する。第1因子は起床時眠気の評価であり、第2因子は入眠と睡眠維持の評価であり、第3因子は夢みの評価であり、第4因子は疲労回復の評価であり、第5因子は睡眠時間の評価である。したがって、本明細書における「睡眠改善」とは、OSA睡眠調査票で評価される5因子、すなわち起床時眠気、入眠と睡眠維持、夢み、疲労回復、及び睡眠時間のいずれか1つ以上を改善することであり得る。あるいは、本明細書における「睡眠改善」は、OSA睡眠調査票の5因子のスコアの平均値の増加に反映される。
【0016】
本明細書における「クロロゲン酸類」とは、3-カフェオイルキナ酸、4-カフェオイルキナ酸及び5-カフェオイルキナ酸等のモノカフェオイルキナ酸と、3-フェルロイルキナ酸、4-フェルロイルキナ酸及び5-フェルロイルキナ酸等のモノフェルロイルキナ酸と、3,4-ジカフェオイルキナ酸、3,5-ジカフェオイルキナ酸及び4,5-ジカフェオイルキナ酸等のジカフェオイルキナ酸を併せての総称である。クロロゲン酸類は、塩の形態でもよく、塩としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属塩、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン塩、アルギニン、リジン、ヒスチジン、オルニチン等の塩基性アミノ酸塩等が挙げられる。
【0017】
クロロゲン酸類は、コーヒー豆などの植物原料から抽出又は精製することができる。例えば、コーヒー豆抽出物、及びそれから精製されたコーヒーポリフェノールは、クロロゲン酸類を豊富に含む。したがって、本発明で評価される「クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤」の例としては、精製されたクロロゲン酸類を有効成分として含有する睡眠改善剤、コーヒー豆抽出物又はコーヒーポリフェノールを有効成分として含有する睡眠改善剤、等が挙げられる。
【0018】
クロロゲン酸類の摂取は、睡眠改善、例えば、中途覚醒時間の短縮、早朝覚醒の改善、睡眠効率の改善、起床時の熟眠感の改善などをもたらす(特許文献1及び2)。クロロゲン酸による総合的な「睡眠改善」の効果の大きさは、OSA睡眠調査票の5因子のスコアの平均値の増加量として表すことができる。
【0019】
本発明で評価されるクロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤は、医薬品、又は医薬部外品であっても、食品であってもよい。該食品には、睡眠の質の改善をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した食品、例えば機能性食品、病者用食品、特定保健用食品、サプリメントなどが包含される。該医薬品(医薬部外品も含む)の形態としては、例えば錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤等による経口投与形態、又は注射剤、坐剤、吸入薬等による非経口投与形態が挙げられるが、好ましくは経口投与形態である。該食品の形態としては、清涼飲料水、茶系飲料、コーヒー飲料、果汁飲料、炭酸飲料、ゼリー、ウエハース、ビスケット、パン、麺、ソーセージ等の飲食品や栄養食等の各種食品の他、さらに、上述した経口投与製剤と同様の形態(錠剤、カプセル剤、シロップ等)の栄養補給用組成物が挙げられる。
【0020】
該クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤は、好ましくは食品であり、より好ましくは飲料又はサプリメントである。該食品(飲料、サプリメントを含む)は、クロロゲン酸類、又はそれを含むコーヒー豆抽出物もしくはコーヒーポリフェノールを単独で、又は他の食品材料、添加物等と適宜組み合わせて、含有することができる。
【0021】
該クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤の投与量又は摂取量は、適宜決定され得るが、通常、成人(60kg)に対して1日あたり、クロロゲン酸類として、好ましくは50mg以上、より好ましくは200mg以上であり、また、好ましくは1000mg以下、より好ましくは700mg以下である。斯かる量を1回で投与又は摂取するのが好ましい。
【0022】
該クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤は、任意の計画に従って投与又は摂取され得るが、就寝前に投与又は摂取するのが好ましく、就寝前60分以内に投与又は摂取するのがより好ましく、就寝前30分以上60分以内に投与又は摂取するのがさらに好ましい。投与又は摂取期間は特に限定されないが、反復又は連続して投与又は摂取することが好ましく、3日間以上連続して投与又は摂取することがより好ましく、5日間以上連続して投与又は摂取することがさらに好ましい。
【0023】
(1.睡眠改善剤の有効性を評価するためのマーカー)
個々人が睡眠改善素材を選択するための指針があれば、自身に適した適切な素材を選択するための時間、コスト、労力等の使用者の負担が低減されるだけでなく、使用者の不安による効果の低下を抑えることで、該素材の効果の向上に繋がり得る。
【0024】
本発明者は、クロロゲン酸類を有効成分として含有する睡眠改善剤に対する被験者の感受性が、該睡眠改善剤を適用する前の該被験者における、特定の遺伝子の発現に反映されていることを見出した。
後述の実施例に示すとおり、被験者の遺伝子発現解析用のサンプルを予め採取した後に、該被験者に対してクロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤を服用させ、その睡眠改善効果を調べた。その結果、該睡眠改善剤が有効に作用した被験者群とそうでない被験者群との間で、予め採取したサンプルにおける遺伝子の発現パターンが異なっていた。このような両群の間で異なる発現を示した遺伝子をコードする核酸、及びそれらの遺伝子にコードされるタンパク質は、クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤に対する被験者の感受性、言い換えれば該睡眠改善剤の被験者への有効性を評価するためのマーカーとして使用できる。例えば、該遺伝子をコードする核酸、又はそれらの遺伝子にコードされるタンパク質の発現を指標に、クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤の個々の被験者に対する有効性を評価することや、クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤の適用に適した被験者を選択することが可能になる。
【0025】
したがって、一態様において本発明は、クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤の被験者に対する有効性を評価するためのマーカーを提供する。本発明で提供される、クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤の被験者に対する有効性を評価するためのマーカー(以下、本発明のマーカーともいう)は、該マーカーが由来する個々の被験者に対するクロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤の有効性を、実際に該被験者に該睡眠改善剤を適用することなく評価することを可能にする。
【0026】
本発明のマーカーは、下記表1に示す123遺伝子をコードする核酸、及び該遺伝子にコードされるタンパク質(以下、表1のマーカーともいう)からなる群より選択される少なくとも1種を含み得る。本発明のマーカーは、下記表1に示す遺伝子をコードする核酸(核酸マーカー)であっても、該遺伝子にコードされるタンパク質(タンパク質マーカー)であっても、それらの組み合わせであってもよいが、好ましくは、核酸マーカーである。
【0027】
【表1】
【0028】
一実施形態において、本発明のマーカーは、表2及び表3に示す遺伝子をコードする核酸(以下、それぞれ表2及び表3の核酸マーカーともいう)、及び該遺伝子にコードされるタンパク質(以下、それぞれ表2及び表3のタンパク質マーカーともいう)からなる群より選択される少なくとも1種を含む。表2の核酸マーカーとタンパク質マーカーとを総称して表2のマーカーということがあり、また表3の核酸マーカーとタンパク質マーカーとを総称して表3のマーカーということがある。好ましくは、表2及び表3のマーカーは核酸マーカーである。
後述する実施例に示すように、表2に示す62遺伝子は、クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤が有効に作用する群で発現が高く、表3に示す19遺伝子は、クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤が有効に作用する群で発現が低い。したがって、表2のマーカーは、睡眠改善剤の有効性が高い被験者においてその発現レベルが高い、ポジティブマーカーである。一方、表3のマーカーは、睡眠改善剤の有効性が高い被験者においてその発現レベルが低い、ネガティブマーカーである。本発明においては、前者のポジティブマーカーと、後者のネガティブマーカーのいずれか一方を使用してもよく、又は両方を組み合わせて使用してもよい。
【0029】
別の一実施形態において、本発明のマーカーは、表4に示す50遺伝子をコードする核酸(以下、表4の核酸マーカーともいう)、及び該遺伝子にコードされるタンパク質(以下、表4のタンパク質マーカーともいう)からなる群より選択される少なくとも1種を含む。表4の核酸マーカーとタンパク質マーカーとを総称して表4のマーカーということがある。好ましくは、表4のマーカーは核酸マーカーである。
後述する実施例に示すように、表4に示す遺伝子は、被験者におけるその発現量のデータを説明変数とし、クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤が有効であるか否かを目的変数として、機械学習アルゴリズムとしてランダムフォレストを用いて特徴量遺伝子の抽出及び予測モデルの構築を試みた際に、ジニ係数に基づく変数重要度上位50に相当する遺伝子である。
【0030】
別の一実施形態において、本発明のマーカーは、表5に示す4遺伝子をコードする核酸(以下、表5の核酸マーカーともいう)、及び該遺伝子にコードされるタンパク質(以下、表5のタンパク質マーカーともいう)からなる群より選択される少なくとも1種を含む。表5の核酸マーカーとタンパク質マーカーとを総称して表5のマーカーということがある。好ましくは、表5のマーカーは核酸マーカーである。
後述する実施例に示すように、表5に示す遺伝子は、機械学習アルゴリズムとしてBoruta法を用いた場合に特徴量遺伝子として抽出された遺伝子である。
【0031】
好ましい一実施形態において、本発明のマーカーは、表6に示す12遺伝子をコードする核酸(以下、表6の核酸マーカーともいう)、及び該遺伝子にコードされるタンパク質(以下、表6のタンパク質マーカーともいう)からなる群より選択される少なくとも1種を含む。表6の核酸マーカーとタンパク質マーカーとを総称して表6のマーカーということがある。好ましくは、表6のマーカーは核酸マーカーである。
表6に示す遺伝子は、表2又は3と表4に共通に含まれる8遺伝子、並びに表2又は3と表5に共通に含まれる4遺伝子を合わせた遺伝子である。
【0032】
好ましい一実施形態において、本発明のマーカーは、表6のマーカーからなる群より選択される少なくとも1種に加えて、さらに表1のマーカーからなる群より選択される少なくとも1種(ただし表6のマーカー以外のもの)を含んでいてもよい。例えば、本発明のマーカーは、表6のマーカーからなる群より選択される少なくとも1種に加えて、さらに表2のマーカー、表3のマーカー、又は表4のマーカーからなる群より選択される少なくとも1種(ただし表6のマーカー以外のもの)を含んでいてもよい。上記の場合、表6のマーカーからなる群より選択される少なくとも1種としては、表2又は3と表4に共通に含まれるFLOT2、AURKAIP1、NSFP1、SMARCA4、PSEN1、CTSH、PSMD7及びCDKN1Bの8種のマーカー全て、表2又は3と表5に共通に含まれるBUD31、HNRNPL、TOLLIP及びTOMM6の4種のマーカー全て、又は表6の12種のマーカー全てであることが好ましい。
【0033】
別の好ましい一実施形態においては、表2及び表3の核酸マーカーの全て、又は表2及び表3のタンパク質マーカーの全てを組み合わせて本発明のマーカーとして使用する。
別の好ましい一実施形態においては、表4の核酸又はタンパク質マーカーの全てを組み合わせて本発明のマーカーとして使用する。
別の好ましい一実施形態においては、表5の核酸又はタンパク質マーカーの全てを組み合わせて本発明のマーカーとして使用する。
別の好ましい一実施形態においては、表6の核酸又はタンパク質マーカーの全てを組み合わせて本発明のマーカーとして使用する。
別の好ましい一実施形態においては、表1の核酸又はタンパク質マーカーの全てを組み合わせて本発明のマーカーとして使用する。
【0034】
【表2】
【0035】
【表3】
【0036】
【表4】
【0037】
【表5】
【0038】
【表6】
【0039】
本発明のマーカーは、被験者から採取した生体試料、例えば、細胞、体液(血液等)、尿、分泌物(唾液、SSL等)などから常法に従って調製することができる。例えば、生体試料からの核酸又はタンパク質の調製には、市販のキットを使用することができる。好ましくは、本発明のマーカーは核酸マーカーであり、生体試料から調製される核酸の好ましい例としては、ゲノムDNA及びmRNAが挙げられる。
【0040】
本発明のマーカーを含む生体試料を採取される被験者の例としては、不眠の症状を有する者、睡眠の質の改善を所望する者、クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤を使用しているか又は使用を希望する者、クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤の自身に対する有効性を知りたい者、などが挙げられる。好ましくは、該被験者は、不眠の症状を有するか、睡眠の質の改善を所望する者であって、かつクロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤の自身に対する有効性を知りたい者である。
【0041】
より好ましくは、本発明のマーカーは、被験者のSSLから調製される核酸又はタンパク質、さらに好ましくはmRNAである。SSLが採取される皮膚の部位としては、頭、顔、首、体幹、手足等の身体の任意の部位の皮膚が挙げられ、皮脂の分泌が多い部位、例えば顔の皮膚が好ましい。
【0042】
被験者の皮膚からのSSLの採取には、皮膚からのSSLの回収又は除去に用いられているあらゆる手段を採用することができる。好ましくは、後述するSSL吸収性素材、SSL接着性素材、又は皮膚からSSLをこすり落とす器具を使用することができる。SSL吸収性素材又はSSL接着性素材としては、SSLに親和性を有する素材であれば特に限定されず、例えばポリプロピレン、パルプ等が挙げられる。皮膚からのSSLの採取手順のより詳細な例としては、あぶら取り紙、あぶら取りフィルム等のシート状素材へSSLを吸収させる方法、ガラス板、テープ等へSSLを接着させる方法、スパーテル、スクレイパー等によりSSLをこすり落として回収する方法、などが挙げられる。SSLの吸着性を向上させるため、脂溶性の高い溶媒を予め含ませたSSL吸収性素材を用いてもよい。一方、SSL吸収性素材は、水溶性の高い溶媒や水分を含んでいるとSSLの吸着が阻害されるため、水溶性の高い溶媒や水分の含有量が少ないことが好ましい。SSL吸収性素材は、乾燥した状態で用いることが好ましい。
【0043】
採取されたSSLは、直ちに後述の核酸又はタンパク質の抽出工程に用いられてもよく、又は、該核酸又はタンパク質抽出工程に用いるまで保存されてもよい。保存する場合、SSLは、好ましくは低温条件で保存される。SSLの保存の温度条件は、0℃以下であればよく、好ましくは-20±20℃~-80±20℃、より好ましくは-20±10℃~-80±10℃、さらに好ましくは-20±20℃~-40±20℃、さらに好ましくは-20±10℃~-40±10℃、さらに好ましくは-20±10℃、さらに好ましくは-20±5℃である。SSLの保存の期間は、特に限定されないが、好ましくは12か月以下、例えば6時間以上12ヶ月以下、より好ましくは6ヶ月以下、例えば1日間以上6ヶ月以下、さらに好ましくは3ヶ月以下、例えば3日間以上3ヶ月以下である。
【0044】
採取したSSLからの核酸又はタンパク質の抽出には、生体試料からの核酸又はタンパク質の抽出又は精製に通常使用される方法を使用することができる。核酸の抽出又は精製方法の例としては、フェノール/クロロホルム法、AGPC(acid guanidinium thiocyanate-phenol-chloroform extraction)法、又はTRIzol(登録商標)、RNeasy(登録商標)、QIAzol(登録商標)などのカラムを用いた方法、シリカをコーティングした特殊な磁性体粒子を用いる方法、Solid Phase Reversible Immobilization磁性体粒子を用いる方法、ISOGEN等の市販のRNA抽出試薬による抽出、などが挙げられる。タンパク質の抽出又は精製には、QIAzol Lysis Reagent(Qiagen)等の市販のタンパク質抽出試薬を用いることができる。
【0045】
(2.睡眠改善剤の有効性を評価するための方法)
別の一態様において、本発明は、上記1.で説明した本発明のマーカーを用いた、クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤の被験者に対する有効性を評価する方法を提供する。当該方法では、個々の被験者における本発明のマーカーの発現に基づいて、該被験者に対するクロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤の有効性を評価する。さらに別の一態様において、本発明は、上記1.で説明した本発明のマーカーを用いた、クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤の適用に適した被験者を選択する方法を提供する。当該方法では、個々の被験者における本発明のマーカーの発現に基づいて、クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤の適用に適した被験者を選択する。以下、上記の方法をまとめて、本発明の方法と称することがある。
【0046】
(2.1 マーカー発現の解析)
本発明の方法に供される被験者は、上述した本発明のマーカーを含む生体試料を採取される被験者と同様である。該被験者は、該クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤を適用されていない状態にある者、例えば、過去に該クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤を適用された経験のない者、又は過去に該クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤を適用された経験があるとしても、現在はその薬理作用の影響下にない者である。したがって、本発明の方法は、実際に被験者にクロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤を適用することなく、該睡眠改善剤の該被験者に対する有効性を評価し、又は該睡眠改善剤の適用に適した被験者を選択することを可能にする。
【0047】
好ましい実施形態において、本発明の方法は、被験者から採取した生体試料における本発明のマーカーの発現を測定することを含む。該生体試料の種類は、上述したとおりであり、好ましくはSSLである。一実施形態において、本発明の方法は、該被験者のSSLを採取することをさらに含んでいてもよい。SSLの採取手順、及びSSLからのマーカーの抽出手順は、上述したとおりである。
【0048】
本発明のマーカーの発現は、当該分野で通常用いられる核酸又はタンパク質の定量法に従って、測定することができる。例えば、核酸マーカーの発現レベルは、当該分野で通常用いられる遺伝子発現解析の手順に従って測定すればよい。遺伝子発現解析の手法の例としては、リアルタイムPCR、マルチプレックスPCR、マイクロアレイ、シーケンシング、クロマトグラフィーなどによりDNA又はその増幅産物を定量する方法が挙げられる。核酸がRNAの場合は、RNAを逆転写によりcDNAに変換した後、上記方法で定量すればよい。タンパク質マーカーの発現レベルは、当該分野で通常用いられるタンパク質定量法、例えばELISA、免疫染色、蛍光法、電気泳動、クロマトグラフィー、質量分析などを用いて測定することができる。算出されるマーカーの発現レベルは、生体試料中の該標的マーカーの絶対量に基づく発現レベルであっても、他の標準物質や、全核酸又はタンパク質の発現レベルに対する相対発現レベルであってもよい。
【0049】
好ましくは、本発明の方法で使用される本発明のマーカーは、SSL由来mRNAである。該RNAは、逆転写によりcDNAに変換され、次いで該cDNAをPCRにかけ、得られた反応産物を精製する。該逆転写には、解析したい特定のRNAを標的としたプライマーを用いてもよいが、より包括的な核酸の保存及び解析のためにはランダムプライマーを用いることが好ましい。該逆転写には、一般的な逆転写酵素又は逆転写試薬キットを使用することができる。好適には、正確性及び効率性の高い逆転写酵素又は逆転写試薬キットが用いられ、その例としては、M-MLV Reverse Transcriptase及びその改変体、あるいは市販の逆転写酵素又は逆転写試薬キット、例えばPrimeScript(登録商標)Reverse Transcriptaseシリーズ(タカラバイオ社)、SuperScript(登録商標)Reverse Transcriptaseシリーズ(Thermo Scientific社)等が挙げられる。SuperScript(登録商標)III Reverse Transcriptase、SuperScript(登録商標)VILO cDNA Synthesis kit(いずれもThermo Scientific社)などが好ましく用いられる。得られたcDNAのPCRでは、解析したい特定のDNAを標的としたプライマーペアを用いて該特定のDNAのみを増幅してもよいが、複数のプライマーペアを用いて複数のDNAを増幅してもよい。好ましくは、該PCRはマルチプレックスPCRである。マルチプレックスPCRは、PCR反応系に複数のプライマー対を同時に使用することで、複数の遺伝子領域を同時に増幅する方法である。マルチプレックスPCRは、市販のキット(例えば、Ion AmpliSeqTranscriptome Human Gene Expression Kit;ライフテクノロジーズジャパン株式会社等)を用いて実施することができる。
【0050】
当該逆転写及びPCRの反応条件を調整することで、PCR反応産物の収率がより向上し、ひいてはそれを用いた解析の精度がより向上する。好適には、該逆転写での伸長反応において、温度を好ましくは42℃±1℃、より好ましくは42℃±0.5℃、さらに好ましくは42℃±0.25℃に調整し、一方、反応時間を好ましくは60分間以上、より好ましくは80~120分間に調整する。また好適には、該PCRにおけるアニーリング及び伸長反応の温度は、好ましくは62℃±1℃、より好ましくは62℃±0.5℃、さらに好ましくは62℃±0.25℃である。したがって、該PCRでは、好ましくはアニーリング及び伸長反応が1ステップで行われる。該アニーリング及び伸長反応のステップの時間は、増幅すべきDNAのサイズ等に依存して調整され得るが、好ましくは14~18分間である。該PCRにおける変性反応の条件は、増幅すべきDNAに依存して調整され得るが、好ましくは95~99℃で10~60秒間である。上記のような温度及び時間での逆転写及びPCRは、一般的にPCRに使用されるサーマルサイクラーを用いて実行することができる。
【0051】
当該PCRで得られた反応産物の精製は、反応産物のサイズ分離によって行われることが好ましい。サイズ分離により、目的のPCR反応産物を、PCR反応液中に含まれるプライマーやその他の不純物から分離することができる。DNAのサイズ分離は、例えば、サイズ分離カラムや、サイズ分離チップ、サイズ分離に利用可能な磁気ビーズなどによって行うことができる。サイズ分離に利用可能な磁気ビーズの好ましい例としては、Ampure XP等のSolid Phase Reversible Immobilization(SPRI)磁性ビーズが挙げられる。
【0052】
精製したPCR反応産物に対して、その後の定量解析を行うために必要なさらなる処理を施してもよい。例えば、DNAのシーケンシングのために、精製したPCR反応産物を、適切なバッファー溶液へと調製したり、PCR増幅されたDNAに含まれるPCRプライマー領域を切断したり、増幅されたDNAにアダプター配列をさらに付加したりしてもよい。例えば、精製したPCR反応産物をバッファー溶液へと調製し、増幅DNAに対してPCRプライマー配列の除去及びアダプターライゲーションを行い、得られた反応産物を、必要に応じて増幅して、定量解析のためのライブラリーを調製することができる。これらの操作は、例えば、SuperScript(登録商標)VILO cDNA Synthesis kit(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)に付属している5×VILO RT Reaction Mix、ならびに、Ion AmpliSeq Transcriptome Human Gene Expression Kit(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)に付属している5×Ion AmpliSeq HiFi Mix、及びIon AmpliSeq Transcriptome Human Gene Expression Core Panelを用いて、各キット付属のプロトコルに従って行うことができる。シーケンシングには、好ましくは次世代シーケンサー(例えばIon S5/XLシステム、ライフテクノロジーズジャパン株式会社)が用いられる。シーケンシングで作成されたリードの数(リードカウント)に基づいて、RNA発現を定量することができる。
【0053】
(2.2 マーカーの発現レベルに基づく有効性評価)
本発明の方法の一実施形態においては、各被験者に由来する本発明のマーカー(該被験者から採取した生体試料中に含まれる本発明のマーカー)の発現レベルを、クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤の該被験者に対する有効性(例えば有効又は非有効)を評価し、又は該睡眠改善剤の適用に適した被験者を選択するための指標として用いる。
【0054】
上述したように、表2及び表3のマーカーは、その発現レベルが被験者に対する睡眠改善剤の有効性に応じて変動するマーカーである。より詳細には、表2のマーカーは、クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤が有効に作用する群でその発現レベルが高いポジティブマーカーであり、一方、表3のマーカーは、クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤が有効に作用する群でその発現レベルが低いネガティブマーカーである。したがって、該ポジティブマーカー又は該ネガティブマーカーの発現レベルを指標として、クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤の該被験者に対する有効性(例えば有効又は非有効)を評価することができ、又は、該被験者が、クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤が有効に作用する者であるか否かを判断することができる。
【0055】
本実施形態においては、被験者から採取した生体試料における、該ポジティブマーカー及び該ネガティブマーカーから選択される1種以上のマーカーを、上述した評価又は選択の指標として用いる標的マーカーとすることができる。本発明の方法においては、該ポジティブマーカーと該ネガティブマーカーのいずれか1種を標的マーカーとして用いてもよく、又は、該ポジティブマーカー及び該ネガティブマーカーから選択される2種以上を組み合わせて標的マーカーとして用いてもよい。あるいは、該ポジティブマーカー及び該ネガティブマーカーの全てからなる核酸マーカー又はタンパク質マーカーを組み合わせて標的マーカーとして使用してもよい。
【0056】
例えば、標的マーカーの発現レベルを測定し、測定した標的マーカーの発現レベルを基準値と比較することによって、該被験者が、クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤が有効に作用する者であるか否か(言い換えると、クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤が該被験者にして有効であるか否か)を判断することができる。
該基準値には、予め決定した値、例えば、クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤が有効に作用する者(有効群)、又は、クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤が有効に作用しない者(非有効群)における標的マーカーの発現レベルの統計値(例えば平均値)を用いることができる。標的マーカーとして複数種の核酸又はタンパク質を用いる場合は、各々の核酸又はタンパク質について基準値を求めることが好ましい。
【0057】
一例において、被験者に由来する該ポジティブマーカーの発現レベルが有効群と同等又はそれよりも高い場合、該被験者は、クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤が有効に作用する者(言い換えると、クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤は該被験者に対して有効である)と判断される。あるいは、被験者に由来する該ポジティブマーカーの発現レベルが非有効群よりも高い場合、該被験者は、クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤が有効に作用する者(言い換えると、クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤は該被験者に対して有効である)と判断される。
一方、該ポジティブマーカーの発現レベルが有効群よりも低いか、非有効群と同等又はそれよりも低い場合、該被験者は、クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤が有効に作用する者(言い換えると、クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤は該被験者に対して有効である)とは判断されない。
【0058】
別の一例において、被験者に由来する該ネガティブマーカーの発現レベルが有効群と同等又はそれよりも低い場合、該被験者は、クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤が有効に作用する者(言い換えると、クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤は該被験者に対して有効である)と判断される。あるいは、被験者に由来する該ネガティブマーカーの発現レベルが非有効群よりも低い場合、該被験者は、クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤が有効に作用する者(言い換えると、クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤は該被験者に対して有効である)と判断される。
一方、該ネガティブマーカーの発現レベルが有効群よりも高いか、非有効群と同等又はそれよりも高い場合、該被験者は、クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤が有効に作用する者(言い換えると、クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤は該被験者に対して有効である)とは判断されない。
【0059】
被験者由来のマーカーの発現レベルと基準値との差異は、例えば両者が統計学的に有意に異なるか否かによって評価することができる。標的マーカーとして複数のマーカーを用いる場合には、個々の標的マーカーの発現レベルを基準値と比較し、一定割合、例えば50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは100%のマーカーの発現レベルが基準値と異なるか否かを調べることで、該被験者に対する睡眠改善剤の有効性を評価することができる。
【0060】
(2.3 予測モデルに基づく有効性評価)
本発明の方法の別の一実施形態においては、本発明のマーカー(該被験者から採取した生体試料中に含まれる本発明のマーカー)の発現レベルについてのデータ(以下、発現プロファイルと呼ぶ)を用いて構築した予測モデルに基づいて、クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤の被験者に対する有効性を評価し、又は該睡眠改善剤の適用に適した被験者を選択する。発現プロファイルの例としては、シーケンシングリード数等の発現レベルに関するデータが挙げられる。
【0061】
例えば、教師サンプル集団(例えば、有効群及び非有効群を含む集団)の各人から取得した1つ以上のマーカー(核酸又はタンパク質)の各々についての発現プロファイルを説明変数とし、該集団の各人におけるクロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤の有効性(例えば、有効又は非有効)についてのデータを目的変数とした機械学習により、任意の被験者に対する該睡眠改善剤の有効性を評価するための予測モデル(例えば判別式)を構築することができる。
構築した予測モデルを利用して、個々の被験者に対する該睡眠改善剤の有効性(例えば有効又は非有効)を評価し、又は該睡眠改善剤の適用に適した被験者を選択することができる。
【0062】
本明細書において、「特徴量」とは、機械学習における「説明変数」と同義である。本明細書において、その発現プロファイルが機械学習の説明変数(特徴量)として使用されるマーカーを「特徴量マーカー(群)」と称することがある。また特徴量マーカーが核酸マーカーの場合、特徴量遺伝子と称することがある。
【0063】
本実施形態で用いられる特徴量マーカー(群)は、表1に示す遺伝子をコードする核酸、及び該遺伝子にコードされるタンパク質からなる群より選択される少なくとも1種であればよい。特徴量マーカーの発現プロファイルは、絶対値であっても相対値であってもよく、あるいは正規化処理されていてもよい。特徴量マーカー群として複数のマーカーを使用する場合、例えば、本発明のマーカーの中からクロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤の有効性との相関が高いものを複数選択し、それらの発現プロファイルの各々を説明変数として用いることができる。
【0064】
好ましい実施形態においては、表2及び表3の核酸マーカーの全て、又は表2及び表3のタンパク質マーカーの全てを組み合わせて、特徴量マーカー群として使用する。別の好ましい実施形態においては、表4の核酸又はタンパク質マーカーの全てを組み合わせて特徴量マーカー群として使用する。別の好ましい実施形態においては、表5の核酸又はタンパク質マーカーの全てを組み合わせて特徴量マーカー群として使用する。別の好ましい実施形態においては、表6の核酸又はタンパク質マーカーの全てを組み合わせて特徴量マーカー群として使用する。別の好ましい実施形態においては、表1の核酸又はタンパク質マーカーの全てを組み合わせて特徴量マーカー群として使用する。
【0065】
好ましい実施形態においては、機械学習のための教師サンプルとして、クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤が有効に作用する者(有効群)及び該睡眠改善剤が有効に作用しない者(非有効群)における特徴量マーカー(群)の発現プロファイルを用いる。該教師サンプルを用いて、被験者を有効群と非有効群に分けるための判別式(予測モデル)を構築する。判別式の構築に用いる説明変数としては、特徴量マーカー(群)の発現プロファイルを用いることができる。目的変数としては、例えば、特徴量マーカー(群)が由来する者が有効群か非有効群かを表す変数を用いることができる。構築した判別式に基づいて、有効群と非有効群を判別するためのカットオフ値を求めることができる。次いで、睡眠改善剤の有効性を調べたい被験者由来の該特徴量マーカー(群)の発現プロファイルを測定し、得られた測定値を当該判別式に代入し、該判別式から得られた結果を該カットオフ値と比較することによって、該被験者が有効群か非有効群かを判別する。
【0066】
例えば、判別すべき2群間(有効群及び非有効群)の統計学的に有意な差異、例えば、発現プロファイルが2群間で有意に変動するマーカーを特徴量マーカー(群)とし、その発現プロファイルを説明変数として用いることができる。あるいは、特徴量マーカー(群)は、機械学習アルゴリズムなどの公知のアルゴリズムを利用して抽出することができる。例えば、下記に示すランダムフォレストにおける変数重要度の高さや、R言語の“Boruta”パッケージなどを用いて特徴量マーカー(群)を抽出することができる。
【0067】
あるいは、予測モデルの構築にマーカーの発現プロファイルを使用する場合、必要に応じて、次元削減によってデータを圧縮してから予測モデルの構築を行ってもよい。例えば、表1に示す遺伝子群をコードする核酸マーカーの中から複数のマーカーを抽出する。次いで、該抽出したマーカーの発現プロファイルについて主成分分析を実施する。該主成分分析で算出された1つ以上の主成分を説明変数とし、該説明変数が由来する者が有効群か非有効群かを表す変数を目的変数とした機械学習により、被験者が有効群か非有効群かを判別するための予測モデルを構築することができる。
【0068】
予測モデルの構築におけるアルゴリズムは、機械学習に用いるアルゴリズムなどの公知のものを利用することができる。機械学習アルゴリズムの例としては、限定ではないが、線形回帰モデル(Linear model)、ラッソ回帰(Lasso)、ランダムフォレスト(Random Forest)、ニューラルネットワーク(Neural net)、線形カーネルのサポートベクターマシン(SVM (linear))、rbfカーネルのサポートベクターマシン(SVM (rbf))などのアルゴリズムが挙げられる。本発明で用いるアルゴリズムとしては、ランダムフォレストが好ましい。
【0069】
構築した予測モデルに検証用のデータを入力して予測値を算出し、該予測値が実測値と最も適合するモデル、例えば、該予測値の実測値に対する正解率(Accuracy)が最も大きいモデル、又は該予測値と実測値の差の二乗平均平方根誤差(RMSE)が最も小さいモデルを、最適モデルとして選択することができる。構築した予測モデルに対して被験者から実測した特徴量マーカー(群)の発現プロファイルを入力することによって、該被験者に対するクロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤の有効性(例えば有効又は非有効)を評価することができる。有効の判定を受けた被験者は、クロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤の適用に適した被験者として選択することができる。
【0070】
(3.睡眠改善剤の有効性の評価キット)
さらなる一態様において、本発明は、上記2.で説明した本発明の方法に従ってクロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤の被験者に対する有効性を評価するためのキットを提供する。一実施形態において、本発明のキットは、上述した本発明のマーカーの発現を測定するための試薬又は器具を備える。例えば、本発明のキットは、本発明の核酸マーカーを増幅又は定量するための試薬(例えば、逆転写酵素、PCR用試薬、シーケンシング用アダプター配列等)を備え得る。好ましくは、本発明のキットは、本発明のマーカーの発現を評価するための指標又はガイダンスを備える。例えば、本発明のキットは、各マーカーの発現レベルの増減と睡眠改善剤の被験者に対する有効性との関係を説明するガイダンス、又は睡眠改善剤の有効性の評価のための各マーカーの発現レベルの基準値を説明するガイダンス、又は予測モデルに基づく判別式とそれに入力する特徴量マーカーについてのガイダンスを備え得る。また本発明のキットは、生体試料採取デバイス(例えば、上記のSSL吸収性素材又はSSL接着性素材)、生体試料から本発明のマーカーを抽出するための試薬(例えば核酸精製用試薬)、などをさらに備えていてもよい。
【実施例
【0071】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0072】
実施例1 発現変動遺伝子を用いたクロロゲン酸類含有睡眠改善剤の有効性予測モデルの構築
1)試験参加者
睡眠に不満を有する30~60歳代の健常な男女52名を試験参加者に選抜した。いずれの試験参加者も、「過去1ヶ月間において、ご自分の睡眠の質を全体として、どのように評価しますか?」という質問に対して「とても良い」、「やや良い」、「やや悪い」、「とても悪い」の4段階のうち、「やや悪い」もしくは「とても悪い」と回答した。
【0073】
2)皮脂の採取
睡眠改善剤の摂取試験前に、試験参加者の全顔からあぶら取りフィルム(5cm×8cm、ポリプロピレン製、3M社)を用いてRNAを含む皮脂を採取した。該あぶら取りフィルムはガラスバイアルに移し、RNA抽出に使用するまで-80℃で保存した。
【0074】
3)睡眠改善剤の摂取試験
クロロゲン酸類(CGA)含有睡眠改善剤としてコーヒーポリフェノール(CPP)含有糖衣錠(4錠中に有効成分としてクロロゲン酸類を270mg含有)を用いた。試験参加者に、睡眠改善剤4錠を就寝30~60分前を目安に1日1回、1週間継続摂取させた。試験参加者には、摂取開始当日の朝と1週間摂取後の翌朝に、起床時の睡眠内省を評価する心理尺度であるOSA睡眠調査票(山本由華吏ら:脳と精神の医学 10:401-409,1999)に回答させた。睡眠改善剤摂取前後でのOSA睡眠調査票スコア(第1~第5因子のスコアの平均値)の変化をもとに、CGA含有睡眠改善剤による試験参加者の睡眠改善効果を評価した。その結果、1週間の睡眠改善剤の摂取前後で、OSA睡眠調査票スコアの変化量に基づく睡眠改善度合いが、試験参加者間で大きくばらつくことが確認された。
【0075】
4)被験者の選抜
試験参加者の中から、OSA睡眠調査票スコアの改善度合いが高かった上位25%(13名)の参加者をCGA含有睡眠改善剤の効果の有効群として選抜し、OSA睡眠調査票スコアの改善度合いが低かった下位25%(13名)の参加者をCGA含有睡眠改善剤の効果の低い非有効群として選抜した。選抜した両群合わせて26名の試験参加者を被験者とし、2)で回収した皮脂を含むあぶら取りフィルムを以下の解析に供した。
【0076】
5)RNA調製及びシーケンシング
あぶら取りフィルムを適当な大きさに切断し、QIAzol Lysis Reagent(Qiagen)を用いて、付属のプロトコルに準じてRNAを抽出した。抽出されたRNAを元に、SuperScript VILO cDNA Synthesis kit(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)を用いて42℃、90分間逆転写を行いcDNAの合成を行った。逆転写反応のプライマーには、キットに付属しているランダムプライマーを使用した。得られたcDNAから、マルチプレックスPCRにより20802遺伝子に由来するDNAを含むライブラリーを調製した。マルチプレックスPCRは、Ion AmpliSeqTranscriptome Human Gene Expression Kit(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)を用いて、[99℃、2分→(99℃、15秒→62℃、16分)×20サイクル→4℃、Hold]の条件で行った。得られたPCR産物は、Ampure XP(ベックマン・コールター株式会社)で精製した後に、バッファーの再構成、プライマー配列の消化、アダプターライゲーションと精製、及び増幅を行い、ライブラリーを調製した。調製したライブラリーをIon 540 Chipにローディングし、Ion S5/XLシステム(ライフテクノロジーズジャパン株式会社)を用いてシーケンシングした。シーケンシングで得られた各リード配列をヒトゲノムのリファレンス配列であるhg19 AmpliSeq Transcriptome ERCC v1を用いて遺伝子マッピングすることで各リード配列の由来する遺伝子を決定した。
【0077】
6)データ解析および特徴量遺伝子の選択
上記5)で取得した被験者のSSL由来RNAのシーケンシングで得られた各リードのリードカウントを、各RNAの発現量のデータとした。サンプル間の総リードカウントの違いを補正するため、各リードカウントをRPM(Reads per million mapped reads)値に変換した。但し、リードカウントが10未満のリードは欠損値として扱った。90%以上の被験者で欠損値ではない発現量データが得られた3250種の遺伝子について、その発現情報に基づいて群間(有効群及び非有効群)でStudent’s t testを行い、p<0.05となる遺伝子を抽出した。表7に示す、群間で統計学的に有意に発現が変動する81種の遺伝子が得られた。表7Aの62遺伝子は、有効群で発現レベルがより高かったことから、CGA含有睡眠改善剤が有効に作用する被験者でその発現レベルが高いマーカー(ポジティブマーカー)であった。表7Bの19遺伝子は、有効群で発現レベルがより低かったことから、CGA含有睡眠改善剤が有効に作用する被験者でその発現レベルが低いマーカー(ネガティブマーカー)であった。これらの遺伝子を以下の予測モデル構築に用いる特徴量遺伝子として選択した。
【0078】
【表7】
【0079】
7)モデル構築
6)で選択した特徴量遺伝子の発現量データを、負の二項分布に従うRPM値から正規分布に近似するため、整数1を加算した底2の対数値(Log2(RPM+1)値)に変換した。得られた81の特徴量遺伝子の発現量データのLog2(RPM+1)値を説明変数とし、CGA含有睡眠改善剤の有効性の有無(有効群か非有効群か)を目的変数として用いて、有効群と非有効群を判別する予測モデルを構築した。R言語の“caret”パッケージにおいてランダムフォレストのアルゴリズムをメソッドとして指定し、1回の決定木の構築に用いる変数の数(mtry値)の最適値をチューニングした。チューニングによって決定したmtry値を用いて、ランダムフォレストのアルゴリズムを実行し、推定誤答率(OOB error rate)を算出した。その結果、81遺伝子全ての発現量データを変数に用いた場合のモデルではOOB error rateは30.8%であり、表7に示す遺伝子を、個々人に対するクロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤の有効性を評価するためのマーカーとして使用できることが示された。
【0080】
実施例2 ランダムフォレスト変数重要度の高い遺伝子を用いたクロロゲン酸類含有睡眠改善剤の有効性予測モデルの構築
1)使用データ
実施例1の6)で取得した90%以上の被験者で欠損値ではない発現量データが得られた3250種の遺伝子を以下の解析に使用した。遺伝子の発現量データを、負の二項分布に従うRPM値から正規分布に近似するため、整数1を加算した底2の対数値(Log2(RPM+1)値)に変換した。
【0081】
2)特徴量遺伝子の選択
ランダムフォレストのアルゴリズムを用いて、予測モデル構築に用いる特徴量遺伝子の選択を行った。1)で得られた3250遺伝子の発現量データのLog2(RPM+1)値を説明変数とし、CGA含有睡眠改善剤の有効性の有無(有効群か非有効群か)を目的変数として用いて、有効群と非有効群を判別する予測モデルを構築した。R言語の“caret”パッケージにおいてランダムフォレストのアルゴリズムをメソッドとして指定し、1回の決定木の構築に用いる変数の数(mtry値)の最適値をチューニングした。チューニングによって決定したmtry値を用いて、ランダムフォレストのアルゴリズムを実行し、ジニ係数に基づく変数重要度の上位50遺伝子を算出した(表8)。これら50遺伝子を予測モデル構築に用いる特徴量遺伝子として選択した。
【0082】
【表8】
【0083】
3)モデル構築
2)で選択した50の特徴量遺伝子の発現量データのLog2(RPM+1)値を説明変数とし、CGA含有睡眠改善剤の有効性の有無(有効群か非有効群か)を目的変数として用いて、有効群と非有効群を判別する予測モデルを構築した。R言語の“caret”パッケージにおいてランダムフォレストのアルゴリズムをメソッドとして指定し、1回の決定木の構築に用いる変数の数(mtry値)の最適値をチューニングした。チューニングによって決定したmtry値を用いて、ランダムフォレストのアルゴリズムを実行し、推定誤答率(OOB error rate)を算出した。その結果、50遺伝子の発現量データを変数に用いた場合のモデルではOOB error rateは30.8%であり、表8に示す遺伝子を、個々人に対するクロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤の有効性を評価するためのマーカーとして使用できることが示された。
【0084】
実施例3 Boruta法により抽出した特徴量遺伝子を用いたクロロゲン酸類含有睡眠改善剤の有効性予測モデルの構築
1)使用データ
実施例1の6)で取得した90%以上の被験者で欠損値ではない発現量データが得られた3250種の遺伝子を以下の解析に使用した。遺伝子の発現量データを、負の二項分布に従うRPM値から正規分布に近似するため、整数1を加算した底2の対数値(Log2(RPM+1)値)に変換した。
【0085】
2)特徴量遺伝子の選択
1)で得られた3250遺伝子の発現量データのLog2(RPM+1)値を説明変数とし、CGA含有睡眠改善剤の有効性の有無(有効群か非有効群か)を目的変数として用いて、R言語の“Boruta”パッケージのアルゴリズムを実行し、有効群と非有効群を判別する予測モデルを構築した。最大試行回数を1000回とし、p値が0.01未満である4遺伝子(BUD31、HNRNPL、TOLLIP、TOMM6)を算出した。これら4遺伝子を予測モデル構築に用いる特徴量遺伝子として選択した。
【0086】
3)モデル構築
2)で選択した4つの特徴量遺伝子の発現量データのLog2(RPM+1)値を説明変数とし、CGA含有睡眠改善剤の有効性の有無(有効群か非有効群か)を目的変数として用いて、有効群と非有効群を判別する予測モデルを構築した。R言語の“caret”パッケージにおいてランダムフォレストのアルゴリズムをメソッドとして指定し、1回の決定木の構築に用いる変数の数(mtry値)の最適値をチューニングした。チューニングによって決定したmtry値を用いて、ランダムフォレストのアルゴリズムを実行し、推定誤答率(OOB error rate)を算出した。その結果、4遺伝子の発現量データを変数に用いた場合のモデルではOOB error rateは11.5%であった。BUD31、HNRNPL、TOLLIP、TOMM6の4遺伝子を、個々人に対するクロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤の有効性を評価するためのマーカーとして使用できることが示された。
【0087】
実施例4 実施例1~3で重複して用いられた特徴量遺伝子に基づくクロロゲン酸類含有睡眠改善剤の有効性予測モデルの構築
1)特徴量遺伝子の選択
実施例1~3で用いられた特徴量遺伝子のうち、実施例間で重複して用いられた遺伝子は、実施例1と2で重複して用いられたFLOT2、AURKAIP1、NSFP1、SMARCA4、PSEN1、CTSH、PSMD7及びCDKN1Bの8遺伝子と、実施例1と3で重複して用いられたBUD31、HNRNPL、TOLLIP及びTOMM6の4遺伝子の計12遺伝子であった。これら12遺伝子を予測モデル構築に用いる特徴量遺伝子として選択した。
【0088】
2)モデル構築
1)で選択した12の特徴量遺伝子の発現量データのLog2(RPM+1)値を説明変数とし、CGA含有睡眠改善剤の有効性の有無(有効群か非有効群か)を目的変数として用いて、有効群と非有効群を判別する予測モデルを構築した。R言語の“caret”パッケージにおいてランダムフォレストのアルゴリズムをメソッドとして指定し、1回の決定木の構築に用いる変数の数(mtry値)の最適値をチューニングした。チューニングによって決定したmtry値を用いて、ランダムフォレストのアルゴリズムを実行し、推定誤答率(OOB error rate)を算出した。その結果、12遺伝子の発現量データを変数に用いた場合のモデルではOOB error rateは15.4%であり、上記12遺伝子を、個々人に対するクロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤の有効性を評価するためのマーカーとして使用できることが示された。
【0089】
実施例5 実施例1~3のいずれかで用いられた全ての特徴量遺伝子に基づくクロロゲン酸類含有睡眠改善剤の有効性予測モデルの構築
1)特徴量遺伝子の選択
実施例1~3のいずれかで用いられた全ての特徴量遺伝子(表1に示された計123種の遺伝子)を予測モデル構築に用いる特徴量遺伝子として選択した。
【0090】
2)モデル構築
1)で選択した123の特徴量遺伝子の発現量データのLog2(RPM+1)値を説明変数とし、CGA含有睡眠改善剤の有効性の有無(有効群か非有効群か)を目的変数として用いて、有効群と非有効群を判別する予測モデルを構築した。R言語の“caret”パッケージにおいてランダムフォレストのアルゴリズムをメソッドとして指定し、1回の決定木の構築に用いる変数の数(mtry値)の最適値をチューニングした。チューニングによって決定したmtry値を用いて、ランダムフォレストのアルゴリズムを実行し、推定誤答率(OOB error rate)を算出した。その結果、123遺伝子の発現量データを変数に用いた場合のモデルではOOB error rateは26.9%であり、上記123遺伝子を、個々人に対するクロロゲン酸類を含有する睡眠改善剤の有効性を評価するためのマーカーとして使用できることが示された。