(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】有価金属の回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 11/00 20060101AFI20240529BHJP
C22B 13/00 20060101ALI20240529BHJP
C22B 3/04 20060101ALI20240529BHJP
C22B 3/06 20060101ALI20240529BHJP
C22B 47/00 20060101ALI20240529BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
C22B11/00 101
C22B13/00 101
C22B3/04
C22B3/06
C22B47/00
C22B7/00 H
(21)【出願番号】P 2020130462
(22)【出願日】2020-07-31
【審査請求日】2023-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】306039131
【氏名又は名称】DOWAメタルマイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】荒川 和也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 彰悟
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-033626(JP,A)
【文献】特表2016-532011(JP,A)
【文献】特開2001-329391(JP,A)
【文献】特開平08-085895(JP,A)
【文献】特開昭60-228627(JP,A)
【文献】特開平06-206080(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MnO
2を含有するスケールをブライン液中に存在させ、前記ブライン液のClの濃度を5g/L以上、且つpHを6.0以下に設定し、前記スケールに含有されるAg及びPbの少なくともいずれかである有価金属αを前記ブライン液に浸出させる浸出工程と、
前記浸出工程後の浸出液から前記有価金属αを析出させる析出工程と、
を有
し、
前記浸出工程後、前記スケールからMnO
2
を回収するMnO
2
回収工程を更に有し、
前記浸出工程は、以下の2つの条件を満たした状況で行われる、有価金属の回収方法。
(条件1)スケール中のAg又はPb元素の30質量%以上が浸出する。
(条件2)スケール中のMn元素の30質量%未満しか浸出しない。
【請求項2】
前記浸出工程中において、前記ブライン液のClの濃度を80g/L以上に設定する、請求項1に記載の有価金属の回収方法。
【請求項3】
前記浸出工程中において、前記ブライン液のpHを0.5~4.0の範囲内に設定する、請求項1又は2に記載の有価金属の回収方法。
【請求項4】
前記浸出工程中において、前記ブライン液の液温を60℃以上に設定する、請求項1~3のいずれか1つに記載の有価金属の回収方法。
【請求項5】
前記ブライン液のCl源は中和塩及び煙灰処理後液の少なくともいずれかである、請求項1~
4のいずれか1つに記載の有価金属の回収方法。
【請求項6】
前記スケールは亜鉛製錬残渣である、請求項1~
5のいずれか1つに記載の有価金属の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有価金属の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、鉛及び銀の選択的な回収方法であって、
a)鉛及び銀を少なくとも含む湿式冶金残渣を、塩化物ブライン溶液及び酸化剤の存在下で、酸化的浸出に付して、これにより可溶性の塩化物化合物として鉛及び銀を選択的に溶解する工程、
b)工程a)で得られた浸出貴液を、沈殿剤として働く炭酸塩化合物と反応させ、これにより炭酸塩濃縮物として鉛及び銀を共沈させる工程と、そして
c)工程b)で得られた濃縮物を、当該濃縮物と炭酸塩化合物溶液と接触させることによって精製する工程、
を少なくとも含んでなる方法が記載されている(特許文献1の請求項1)。
【0003】
特許文献2には、湿式亜鉛製錬における電解採取工程で副生する二酸化マンガン含有アノードスケールを、浸出液中の二価鉄イオンを酸化する目的で浸出工程に繰り返すことによって亜鉛電解液のマンガン濃度を調節する方法において、該二酸化マンガン含有アノードスケールを分級装置によって粗粒部分と細粒部分とに分級し、細粒部分のみを浸出工程に繰り返すことを特徴とする亜鉛電解液のマンガン濃度調節法を提供する方法が記載されている(特許文献2の請求項1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2016-532011号公報
【文献】特開2001-329391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非鉄製錬の中間工程において残渣が発生する。中間工程のうち電解析出工程の際に発生する残渣はスケールと呼ばれ、アノードに付着した状態で発生したり、電解槽の底に澱物として発生したりする。亜鉛製錬の中間工程で発生するスケールには二酸化マンガン(MnO2)が含有される。
【0006】
亜鉛製錬の電解採取工程では、純亜鉛を得られ、電極、電解液からの成分から残渣が発生する。電極では、スライム、スケールが発生し、一部は電解槽の底部に電解澱物として滞留する。
【0007】
スケールは、電極の保護膜としての機能もあるが、電解後においては、次の電解に備え、一定量以上のスケールは排除され、回収される。
【0008】
その一方、スケールには、非鉄製錬に携わった各種金属が主には金属酸化物、金属化合物として含有される。各種金属の中には有価金属も含まれる。有価金属には銀等の貴金属も微量に含まれる。
【0009】
しかし、当該スケールは、強酸性、強酸化状況で生成されたのものであり、所望の有価な金属は微量であり、簡便に選別し回収することは困難であった。
【0010】
それに加え、有価金属によっては、酸化物の態様での回収が望まれる。例えば、上記スケールを構成するMnO2は、亜鉛製錬の中間工程にて酸化剤(例えば過マンガン酸の原料)として使用可能である。そのため、上記スケールを構成するMnO2は、可能な限り溶解させない一方、有価金属はスケールから浸出させる必要がある。
【0011】
本発明の目的は、MnO2を含有するスケールから、有価金属(特に銀(Ag)及び/又は鉛(Pb))と、スケールを構成するMnO2とを簡便に分離することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様は、
MnO2を含有するスケールをブライン液中に存在させ、前記ブライン液のClの濃度を5g/L以上、且つpHを6.0以下に設定し、前記スケールに含有されるAg及びPbの少なくともいずれかである有価金属αを前記ブライン液に浸出させる浸出工程と、
前記浸出工程後の浸出液から前記有価金属αを析出させる析出工程と、
を有する、有価金属の回収方法である。
【0013】
本発明の第2の態様は、第1の態様において、
前記浸出工程中において、前記ブライン液のClの濃度を80g/L以上に設定する。
【0014】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様において、
前記浸出工程中において、前記ブライン液のpHを0.5~4.0の範囲内に設定する。
【0015】
本発明の第4の態様は、第1~第3のいずれかの態様において、
前記浸出工程中において、前記ブライン液の液温を60℃以上に設定する。
【0016】
本発明の第5の態様は、第1~第4のいずれかの態様において、
前記浸出工程後、前記スケールからMnO2を回収するMnO2回収工程を更に有する。
【0017】
本発明の第6の態様は、第1~第5のいずれかの態様において、
前記ブライン液のCl源は中和塩及び煙灰処理後液の少なくともいずれかである。
【0018】
本発明の第7の態様は、第1~第6のいずれかの態様において、
前記スケールは亜鉛製錬残渣である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、MnO2を含有するスケールから、有価金属と、スケールを構成するMnO2とを簡便に分離する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、有価金属の回収方法に関し、主に以下の工程を有する。本明細書における「~」は所定の数値以上かつ所定の数値以下を指す。
・MnO2を含有するスケールをブライン液中に存在させ、前記ブライン液のClの濃度を5g/L以上、且つpHを6.0以下に設定し、前記スケールに含有されるAg及びPbの少なくともいずれかである有価金属αを前記ブライン液に浸出させる浸出工程
・前記浸出工程後の浸出液から前記有価金属αを析出させる析出工程
【0021】
本実施形態における「有価金属α」は、回収費用に見合う有価な金属のことを指し、金属単体又はイオンの状態を指し、Ag及びPbの少なくともいずれか(以降、「Ag又はPb」と称する。)を指す。
【0022】
Ag又はPb以外の有価金属をスケールからブライン液に浸出させてもよい。本実施形態における有価金属には貴金属も含まれる。本実施形態における「貴金属」は、化合物をつくりにくく希少性のある金属を指し、具体的には、金(Au)、銀(Ag)、そしてパラジウム類であるルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、そして白金類であるオスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、のうち少なくともいずれかを指す。貴金属以外の有価金属の一例は、鉛(Pb)、亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)が挙げられる。
【0023】
本実施形態における「MnO2を含有するスケール」は、有価金属αとMnO2とを含有する化合物である。当該スケールには複数の価数のMnが存在すると思われるが、代表的にMnO2と記載する。本実施形態においては、非鉄製錬(特に亜鉛製錬の中間工程における電解析出)に伴い発生する残渣を例示する。該残渣には、他の金属元素として、銅(Cu)、錫(Sn)、カドミウム(Cd)、ヒ素(As)、珪素(Si)等が、金属、金属間化合物、酸化物の形態で含まれても構わない。
【0024】
スケール(dry)の組成の一例は以下のとおりである。以下の組成は、スケールを溶液化して化学分析法にて測定可能である。
Ag:1~2000g/t(ppm)
Pb:0.1~20質量%
Zn:0~5質量%
Mn:1~50質量%(価数は問わない)
【0025】
本実施形態の大きな特徴の一つが、所定条件下において、スケールから有価金属をブライン液に浸出させる浸出工程を有することである。
【0026】
本明細書における「MnO2を含有するスケールから有価金属をブライン液に浸出」とは、以下の2つの条件を満たした状況を指す。
(条件1)スケール中のAg又はPb元素の30質量%以上(好適にはAgが80質量%以上、別の好適例はAg及びPb元素の50質量%以上)が浸出する。
(条件2)スケール中のMn元素の30質量%未満(ゼロを含む。好適には20質量%以下、より好適には10質量%以下、更に好適には1質量%以下)しか浸出しない。
条件2は、浸出工程中、スケール中のMnO2は実質的に溶解させないことが好ましいことを意味する。
【0027】
浸出工程の所定条件の詳細は以下のとおりである。
・MnO2を含有するスケールをブライン液中に存在させる。
・前記ブライン液のClの濃度を5g/L以上に設定する。
・前記ブライン液のpHを6.0以下に設定する。
【0028】
ブライン溶液は、高濃度塩素溶液であり、ブライン液中のClの濃度は、80g/L以上に設定するのが好ましく、180g/L以上がより好ましい。Clの濃度の上限には限定は無く、液中に溶解する金属の飽和濃度などに応じて設定してもよい。装置仕様上、Clの濃度の上限を1000g/Lに設定してもよい。
【0029】
Cl源としては、Clを含有する化合物であって、プロトン又は水酸基が放出されない状況となった化合物であるのが好ましい。別の言い方をすると、Cl源は、Clを含有し且つプロトン又は水酸基を含有する化合物(例えば塩酸(HCl))をアルカリ成分又は酸成分(例えばNaOH)により中和して得られる塩(例えばNaCl)であるのが好ましい。本明細書では、この化合物のことを中和塩ともいう。
【0030】
Cl源としては、例えば、水に対して高い溶解度を有する塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カルシウム(CaCl2)又はその水和物、塩化亜鉛(ZnCl2)等が挙げられる。
【0031】
Cl源として、有機塩素化合物を含有する廃棄物を焼却処理することで生じる煙灰や、非鉄製錬の中間工程で生じる煙灰(非鉄製錬煙灰)を使用してもよい。その場合、廃棄物となる煙灰をCl源としてリサイクル可能となる。
【0032】
本明細書における「非鉄製錬煙灰」とは、乾式製錬炉にて粗銅を製造する際に発生する煙灰が挙げられる。近年、銅製錬の原料として、精鉱のほか、廃電子機器、基板等、他添加剤として樹脂等を用いることもあり、複雑化している。このため、非鉄製錬煙灰には、有機塩素化合物を含有する廃棄物を焼却処理することで生じる煙灰と同様、塩素(ハロゲン類)が混入されている。
【0033】
ブライン液のpHは6.0以下であり、4.0以下であるのが好ましく、2.0以下がより好ましく、1.0以下が更に好ましい。下限としては0.5が好ましい。
【0034】
本発明は、後掲の実施例にてpH調整剤として水酸化ナトリウム(NaOH)を使用した場合のように、従来では処理困難と考えられてきたスケールに対し、浸出工程中のpHが比較的高い状態(例えばpHが2.0を超え且つ6.0)で、上記浸出(条件1、2の充足)が可能という利点も有する。
【0035】
なお、浸出工程中のブライン液の温度には特に限定は無いが、例えば0℃を超えるのが好ましく、60℃以上がより好ましい。ブライン液が水溶液の場合、温度の上限は100℃である。なお、浸出工程において、ブライン液を煮沸させてもよい。この煮沸とは、一定の圧力下(例えば大気圧)、加温して液温が上昇せず飽和温度に達した状態である。後掲の実施例にてブライン液を煮沸させた場合、短時間であっても上記浸出(条件1、2の充足)を実現できる。
【0036】
浸出工程におけるORP(3.3M KCl-Ag/AgCl)は、本発明では標準電極に対して+199mV(vs.SHE、25℃)でいわゆる酸化還元電位(vsAg/AgCl)である。以降、ORPは同様の定義とする。浸出工程におけるORPには限定は無いが、例えば0を超え且つ1200mV以下の範囲内としてもよい。
【0037】
本実施形態において酸化剤を別途使用することは妨げないが、そもそもMnO2含有スケールが酸化剤の役割を幾ばくか果たすため、酸化剤を別途用意せずともよい。また、上記浸出工程の条件1、2を満たす状況を得るためには別の酸化剤を極力使用しないのが好ましい。
【0038】
浸出工程後の析出工程の具体的手法には限定は無く、公知の手法を採用すればよい。例えば、浸出工程後の浸出液からAg又はPbを析出させるべく、電解析出を採用してもよい。
【0039】
析出工程では、浸出工程にて得られた浸出液にZn粉末を添加してもよい。これによりAg又はPbを還元析出させられる。電解析出の際にAg又はPbを還元析出させられるものであれば、Zn粉末以外の金属水酸化物及び/又は金属炭酸塩を使用可能である。
【0040】
析出工程におけるORPの終点は、-600mV以下に設定するのが好ましい。下限には限定は無いが、例えば-1200mVが挙げられる。
【0041】
本発明の技術的範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0042】
浸出工程、析出工程に加え、MnO2回収工程を実施するのが好ましい。
【0043】
本発明の主目的は有価金属αの回収であるが、上記スケールを構成するMnO2は、亜鉛製錬の中間工程にて酸化剤(例えば過マンガン酸の原料)として使用可能である。そして、本実施形態では、上記スケールを構成するMnO2は、可能な限り溶解させずに済む。
【0044】
別の視点で見ると、有価金属αの浸出により、上記スケールにおけるMnO2の割合は増加しており、MnO2が高濃度となっており、回収の際に有利となる。
【0045】
スケールからのMnO2の回収の具体的手法には限定は無く、例えば本出願人による特許文献2に記載の手法を採用してもよい。
【0046】
Cl源として中和塩及び煙灰処理後液の少なくともいずれかを例示したが、後掲の実施例が示すように、浸出工程におけるpH調整剤としてHClを使用することは妨げない。つまり、結果として、pH調整剤のHClがCl源の一つとなることは妨げない。仮に、中和塩及び煙灰処理後液の少なくともいずれか以外の化合物(例えばpH調整剤のHCl)がCl源になるとしても、ブライン液中のClのうち該化合物のClが50質量%未満であるのが好ましく、10質量%以下であるのがより好ましく、5質量%以下であるのが更に好ましい。
【0047】
本実施形態ではブライン液のハロゲンをClとしたが、それ以外の元素(例えばNaBrに由来するBr)をClと共に使用してもよいし、Clに代えて該元素を使用してもよい。この変形例を包含する表現は以下の通りである。
「Ag及びPbの少なくともいずれかである有価金属αとMnO2とを含有するスケールをブライン液中に存在させ、前記スケールから前記有価金属αを浸出させる一方で前記MnO2は実質的に溶解させない浸出工程と、
前記浸出工程後の浸出液から前記有価金属αを析出させる析出工程と、
を有する、有価金属の回収方法。」
【0048】
また、本発明の大きな特徴は浸出工程にある。そのため、析出工程を行わない場合、本発明は「有価金属の分離方法」としても成り立つ。
【実施例】
【0049】
次に実施例を示し、本発明について具体的に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下に記載のない内容は、本実施形態で述べた内容と同様とする。
【0050】
<実施例1>
本実施形態で示した組成を有するスケールを用意した。該スケールは、亜鉛製錬残渣であり、中間工程にて行った電解析出の際に用いたアノードに付着したスケールである。
【0051】
以下、ブライン液の作製等を以下の手法で行った。諸条件は以下の表1に示す。
【表1】
【0052】
中和塩であるNaCl試薬を水に添加し、表1に記載のCl濃度(182g/L)となるよう、ブライン液を作製した。ブライン液を22.2℃に保った状態で、上記スケールを50g/Lのスラリー濃度(PD)となるようにブライン液に添加した。そして、表1に示す反応時間、pH値及びORP(3.3M KCl-Ag/AgCl)値にて、スケールからAg及びPbをブライン液に浸出させる浸出工程を行った。撹拌はスターラーで行った。反応時間は、ORPの変動が収まるまでの時間に設定した(本例では90分)。
【0053】
実施例1では、上記pH値に設定するためのpH調整剤として、表1に記載のようにHClを使用した。HClの使用量は7.1g/Lとした。なお、ブライン液中の全ClのうちNaCl試薬由来のClの割合は、100×(182-7.1)/182=約96質量%である。
【0054】
<実施例2~4>
表1に示すように、実施例1の液温を変更することを主旨として各例を行った。
【0055】
<実施例5~10>
表1に示すように、実施例1のpHを変更することを主旨として各例を行った。実施例5~8ではpH調整剤としてHClを採用し、実施例9、10ではpH調整剤としてNaOHを採用した。
【0056】
<実施例11~15>
表1に示すように、実施例1のブライン液のCl濃度を変更することを主旨として各例を行った。ブライン液の液温は64℃とし、スケールのスラリー濃度(PD)は50g/Lとした。
【0057】
<実施例16>
表1に示すように、実施例1で使用したNaCl試薬の代わりに、溶融飛灰由来の煙灰
処理後液を使用した。その他の諸条件は表1に示す。
【0058】
<実施例17>
表1に示すように、実施例1で使用したNaCl試薬の代わりに、CaCl2・2H2
O試薬を使用した。また、中和剤としてHClではなくH2SO4(非Cl源)を使用し
た。その他の諸条件は表1に示す。
【0059】
<比較例1>
表1に示すように、実施例1で使用したNaCl試薬の代わりに、HClを使用した。
つまり、pH調整剤であるHClのみをCl源とした。ブライン液の液温は64℃とし、
スケールのスラリー濃度(PD)は50g/Lとした。
【0060】
上記各例におけるスケールからの各元素の浸出率を以下の表2に示す。浸出率は、100×(液中の各金属元素量/残渣中の各金属元素が100%浸出した場合の量)で表す。
【表2】
【0061】
<実施例18、比較例2~5>
上記各例ではブライン液を煮沸し、浸出工程を行った。諸条件は以下の表3に示し、上記各例のスケールからの各元素の浸出率を以下の表4に示す。なお、ブライン液を煮沸させたため、表3中の最終pHは、完全電離状態と仮定したうえでの計算値を記載した。
【表3】
【表4】
【0062】
<実施例19~21>
上記各例は、本実施形態にて述べた析出工程に対応する。具体的な作業内容は以下の通りである。
【0063】
実施例19では、実施例15にて得られた浸出液をビーカーに入れ、そのビーカーに対してZn粉末を添加し、スターラーを用いて撹拌した。この添加によりセメンテーション反応を利用し、沈殿分離した。
【0064】
実施例20、21では、実施例6にて得られた浸出液をビーカーに入れ、そのビーカーに対してZn粉末を添加し、スターラーを用いて撹拌した。この添加によりセメンテーション反応を利用し、沈殿分離した。
【0065】
試験の諸条件は以下の表5に示し、浸出液中の各元素の沈殿率を以下の表6に示す。沈殿率は、100×(1-(液中の各金属元素量(反応後)/ 液中の各金属元素量(反応前)))で表す。
【表5】
【表6】
【0066】
<まとめ>
各比較例ではAg又はPbの浸出(条件1、2の充足)は実現できなかった一方、各実施例ではそれが実現できた。各実施例でのMnの浸出率は低く抑えられた。つまり、浸出工程後の澱物(ひいては該澱物を乾燥させた後のMnO2粉)にはMnO2を多く残存させることができた。そして、Ag及びPbを十分に回収できた。なお、各実施例にて浸出したZnは、例えば溶媒抽出等の手法にて回収可能である。
そして、本発明ならば、ブライン液を煮沸した場合、実施例18が示すように、Ag及びPbは高い浸出率を示す一方、Mnの浸出率は煮沸状態にもかかわらず低く抑えられた。