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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】制御装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
   G05D 23/19 20060101AFI20240529BHJP
   G01K 7/00 20060101ALN20240529BHJP
【FI】
G05D23/19 J
G01K7/00 381L
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020141334
(22)【出願日】2020-08-25
(65)【公開番号】P2022037284
(43)【公開日】2022-03-09
【審査請求日】2023-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000002037
【氏名又は名称】新電元工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110858
【弁理士】
【氏名又は名称】柳瀬 睦肇
(72)【発明者】
【氏名】目黒 一由希
(72)【発明者】
【氏名】井ノ口 雄大
【審査官】西井 香織
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-168341(JP,A)
【文献】特開2017-055611(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 23/19
G01K 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱する回路と、
前記回路に電流を供給する電流源と、
前記回路及び前記電流源を制御する制御部と、
前記回路で発熱する熱源の近傍の温度を検出する温度検出部と、
前記回路から出力される電流値及び前記回路から出力される電流の周波数の組み合わせと、前記熱源の熱が飽和する最大の温度である飽和温度と、を関連付けた飽和温度情報テーブルを記憶する記憶部と、を備え、
前記制御部は、
前記回路から出力される電流値を取得するとともに、前記回路から出力される電流の周波数を取得し、
前記温度検出部が検出した実温度を取得し、
前記電流値、前記周波数、前記記憶部に記憶された前記飽和温度情報テーブル、及び、前記実温度を用いて制御用推定温度を算出し、
前記制御用推定温度に基づいて、前記回路から出力される電力を制御する
ことを特徴とする制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記回路から出力される電流値を取得するとともに、前記回路から出力される電流の周波数を取得した後に、
前記飽和温度情報テーブルを参照して、前記電流値と前記周波数との組み合わせに対応する、前記熱源の現在の飽和温度を算出するa工程と、
前記現在の飽和温度と第1係数を用いることで、前記熱源の温度を推定した現在推定熱源温度を算出するc工程と、
前記現在推定熱源温度と第2係数を用いることで、前記熱源の近傍の温度を推定した現在推定検出部温度を算出するe工程と、
前記温度検出部が検出した実温度を取得するf工程と、
前記現在推定検出部温度から前記実温度を減算することで、温度差分を算出するg工程と、
前記温度差分に予め設定された温度補正係数を乗算することで、温度補正値を算出するh工程と、
前記現在推定熱源温度に前記温度補正値を加算することで、制御用推定温度を算出するi工程と、
前記制御用推定温度に基づいて、前記回路から出力される電力を制御するj工程と、を実行する機能を備える
ことを特徴とする請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記c工程の前記現在推定熱源温度は、
前記現在の飽和温度が過去推定熱源温度以上である場合で、かつ、前記現在の飽和温度から前記過去推定熱源温度を減算した温度差が第1P閾値以上である場合は、前記第1係数を第1P係数とし、下記式31で算出され、
前記現在の飽和温度が前記過去推定熱源温度以上である場合で、かつ、前記現在の飽和温度から前記過去推定熱源温度を減算した温度差が前記第1P閾値未満である場合は、前記第1係数を前記第1P係数より小さい第2P係数とし、下記式32で算出され、
前記現在の飽和温度が前記過去推定熱源温度より低い場合で、かつ、前記現在の飽和温度から前記過去推定熱源温度を減算した温度差が第1N閾値以下である場合は、前記第1係数を第1N係数とし、下記式33で算出され、
前記現在の飽和温度が前記過去推定熱源温度より低い場合で、かつ、前記現在の飽和温度から前記過去推定熱源温度を減算した温度差が前記第1N閾値より大きい場合は、前記第1係数を前記第1N係数より小さい第2N係数とし、下記式34で算出され、
前記過去推定熱源温度は、第1の時間前に現在推定熱源温度の算出方法と同様の算出方法で算出された温度であり、
前記e工程の前記現在推定検出部温度は、
前記現在推定熱源温度が過去推定検出部温度より高い場合で、かつ、前記現在推定熱源温度から前記過去推定検出部温度を減算した温度差が第2P閾値以上である場合は、前記第2係数を第3P係数とし、下記式41で算出され、
前記現在推定熱源温度が過去推定検出部温度より高い場合で、かつ、前記現在推定熱源温度から前記過去推定検出部温度を減算した温度差が前記第2P閾値未満である場合は、前記第2係数を前記第3P係数より小さい第4P係数とし、下記式42で算出され、
前記現在推定熱源温度が過去推定検出部温度以下である場合で、かつ、前記現在推定熱源温度から前記過去推定検出部温度を減算した温度差が第2N閾値以下である場合は、前記第2係数を第3N係数とし、下記式43で算出され、
前記現在推定熱源温度が過去推定検出部温度以下である場合で、かつ、前記現在推定熱源温度から前記過去推定検出部温度を減算した温度差が第2N閾値より大きい場合は、前記第2係数を前記第3N係数より小さい第4N係数とし、下記式44で算出され、
前記過去推定検出部温度は、前記第1の時間前に現在推定検出部温度の算出方法と同様の算出方法で算出された温度である
ことを特徴とする請求項2に記載の制御装置。
現在推定熱源温度 = 第1P係数 ×(現在の飽和温度 - 過去推定熱源温度)+過去推定熱源温度 ・・・(式31)
現在推定熱源温度 = 第2P係数 ×(現在の飽和温度 - 過去推定熱源温度)+過去推定熱源温度 ・・・(式32)
現在推定熱源温度 = 第1N係数 ×(現在の飽和温度 - 過去推定熱源温度)+過去推定熱源温度 ・・・(式33)
現在推定熱源温度 = 第2N係数 ×(現在の飽和温度 - 過去推定熱源温度)+過去推定熱源温度 ・・・(式34)
現在推定検出部温度 =第3P係数 ×(現在推定熱源温度 - 過去推定検出部温度)+過去推定検出部温度・・・(式41)
現在推定検出部温度 =第4P係数 ×(現在推定熱源温度 - 過去推定検出部温度)+過去推定検出部温度・・・(式42)
現在推定検出部温度 =第3N係数 ×(現在推定熱源温度 - 過去推定検出部温度)+過去推定検出部温度・・・(式43)
現在推定検出部温度 =第4N係数 ×(現在推定熱源温度 - 過去推定検出部温度)+過去推定検出部温度・・・(式44)
【請求項4】
前記a工程、前記c工程、前記e工程及び前記i工程は、前記第1の時間毎に繰り返し、
前記f工程、前記g工程及び前記h工程は、前記第1の時間より長い第2の時間毎に繰り返す
ことを特徴とする請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記第1係数は、0より大きく且つ1より小さい値であり、前記第2係数は、0より大きく且つ1より小さい値である
ことを特徴とする請求項2から4のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項6】
前記回路から出力される電流値及び前記回路から出力される電流の周波数の組み合わせは、予め設定された回路動作期間だけ連続して前記回路を動作させたときにおける、前記回路から出力される電流値及び前記回路から出力される電流の周波数の組み合わせである
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項7】
前記第1係数は、前記現在の飽和温度に対する前記熱源の温度の時間変化の一次遅れの関係に基づいた時定数であり、
前記第2係数は、前記熱源からサーミスタへの熱伝導の時間変化の一次遅れの関係に基づき且つ前記第1係数と異なる時定数である
ことを特徴とする請求項2から5のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項8】
前記飽和温度は、少なくとも前記回路動作期間において、前記制御部が前記回路から所定電力を連続して出力するように前記回路を制御することで、飽和する前記熱源の温度である
ことを特徴とする請求項6に記載の制御装置。
【請求項9】
前記温度検出部は、前記熱源の近傍に配置されている
ことを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項10】
電流源から電流を供給する回路を制御する方法において、
前記回路から出力される電流値及び前記回路から出力される電流の周波数の組み合わせと、前記回路で発熱する熱源の熱が飽和する最大の温度である飽和温度と、を関連付けた飽和温度情報テーブルを用意し、
前記回路から出力される電流値を取得するとともに、前記回路から出力される電流の周波数を取得し、
前記回路で発熱する熱源の近傍に配置された温度検出部が検出した実温度を取得し、
前記電流値、前記周波数、前記飽和温度情報テーブル、及び、前記実温度を用いて制御用推定温度を算出し、
前記制御用推定温度に基づいて、前記回路から出力される電力を制御する
ことを特徴とする制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電動車両は、車輪を駆動するためのモータと、モータに電力を供給するためのインバータ回路を備えた電力供給部と、モータ等を制御する制御部を有する(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような電動車両において、モータを駆動させるときに発熱する回路部品の熱源の温度をサーミスタによって検出し、当該回路部品が破損する温度以上にならないように、制御部により熱源の温度に基づいて温度保護機構を実行させる必要がある。
【0004】
しかし、回路部品から発熱する熱源の温度を直接検出することができない場合がある。そのため、熱源の近傍ではあるけれど、熱源から少し離れた場所にサーミスタを配置し、そのサーミスタによって熱源の温度を検出することになる。このような場合、サーミスタによって検出された温度が熱源の実際の温度と乖離することがある。
【0005】
そこで、熱伝導や周囲温度の影響を考慮した物理モデルに沿って、トランジスタ等の熱源の温度を精度良く推定することが求められている。
また、電動車両に限らず、他の製品においても回路部品から発熱する熱源の温度を精度良く推定することが求められることは多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-168341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の種々の態様は、熱源の温度を直接検出できなくても、熱伝導や周囲温度の影響を考慮し、熱源の温度を精度良く推定できる制御装置、及び、制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下に本発明の種々の態様について説明する。
【0009】
[1]発熱する回路と、
前記回路に電流を供給する電流源と、
前記回路及び前記電流源を制御する制御部と、
前記回路で発熱する熱源の近傍の温度を検出する温度検出部と、
前記回路から出力される電流値及び前記回路から出力される電流の周波数の組み合わせと、前記熱源の熱が飽和する最大の温度である飽和温度と、を関連付けた飽和温度情報テーブルを記憶する記憶部と、を備え、
前記制御部は、
前記回路から出力される電流値を取得するとともに、前記回路から出力される電流の周波数を取得し、
前記温度検出部が検出した実温度を取得し、
前記電流値、前記周波数、前記記憶部に記憶された前記飽和温度情報テーブル、及び、前記実温度を用いて制御用推定温度を算出し、
前記制御用推定温度に基づいて、前記回路から出力される電力を制御する
ことを特徴とする制御装置。
[2]前記制御部は、
前記回路から出力される電流値を取得するとともに、前記回路から出力される電流の周波数を取得した後に、
前記飽和温度情報テーブルを参照して、前記電流値と前記周波数との組み合わせに対応する、前記熱源の現在の飽和温度を算出するa工程と、
前記現在の飽和温度と第1係数を用いることで、前記熱源の温度を推定した現在推定熱源温度を算出するc工程と、
前記現在推定熱源温度と第2係数を用いることで、前記熱源の近傍の温度を推定した現在推定検出部温度を算出するe工程と、
前記温度検出部が検出した実温度を取得するf工程と、
前記現在推定検出部温度から前記実温度を減算することで、温度差分を算出するg工程と、
前記温度差分に予め設定された温度補正係数を乗算することで、温度補正値を算出するh工程と、
前記現在推定熱源温度に前記温度補正値を加算することで、制御用推定温度を算出するi工程と、
前記制御用推定温度に基づいて、前記回路から出力される電力を制御するj工程と、を実行する機能を備える
ことを特徴とする上記[1]に記載の制御装置。
[3]前記c工程の前記現在推定熱源温度は、
前記現在の飽和温度が過去推定熱源温度以上である場合で、かつ、前記現在の飽和温度から前記過去推定熱源温度を減算した温度差が第1P閾値以上である場合は、前記第1係数を第1P係数とし、下記式31で算出され、
前記現在の飽和温度が前記過去推定熱源温度以上である場合で、かつ、前記現在の飽和温度から前記過去推定熱源温度を減算した温度差が前記第1P閾値未満である場合は、前記第1係数を前記第1P係数より小さい第2P係数とし、下記式32で算出され、
前記現在の飽和温度が前記過去推定熱源温度より低い場合で、かつ、前記現在の飽和温度から前記過去推定熱源温度を減算した温度差が第1N閾値以下である場合は、前記第1係数を第1N係数とし、下記式33で算出され、
前記現在の飽和温度が前記過去推定熱源温度より低い場合で、かつ、前記現在の飽和温度から前記過去推定熱源温度を減算した温度差が前記第1N閾値より大きい場合は、前記第1係数を前記第1N係数より小さい第2N係数とし、下記式34で算出され、
前記過去推定熱源温度は、第1の時間前に現在推定熱源温度の算出方法と同様の算出方法で算出された温度であり、
前記e工程の前記現在推定検出部温度は、
前記現在推定熱源温度が過去推定検出部温度より高い場合で、かつ、前記現在推定熱源温度から前記過去推定検出部温度を減算した温度差が第2P閾値以上である場合は、前記第2係数を第3P係数とし、下記式41で算出され、
前記現在推定熱源温度が過去推定検出部温度より高い場合で、かつ、前記現在推定熱源温度から前記過去推定検出部温度を減算した温度差が前記第2P閾値未満である場合は、前記第2係数を前記第3P係数より小さい第4P係数とし、下記式42で算出され、
前記現在推定熱源温度が過去推定検出部温度以下である場合で、かつ、前記現在推定熱源温度から前記過去推定検出部温度を減算した温度差が第2N閾値以下である場合は、前記第2係数を第3N係数とし、下記式43で算出され、
前記現在推定熱源温度が過去推定検出部温度以下である場合で、かつ、前記現在推定熱源温度から前記過去推定検出部温度を減算した温度差が第2N閾値より大きい場合は、前記第2係数を前記第3N係数より小さい前記第4N係数とし、下記式44で算出され、
前記過去推定検出部温度は、前記第1の時間前に現在推定検出部温度の算出方法と同様の算出方法で算出された温度である
ことを特徴とする上記[2]に記載の制御装置。
現在推定熱源温度 = 第1P係数 ×(現在の飽和温度 - 過去推定熱源温度)+過去推定熱源温度 ・・・(式31)
現在推定熱源温度 = 第2P係数 ×(現在の飽和温度 - 過去推定熱源温度)+過去推定熱源温度 ・・・(式32)
現在推定熱源温度 = 第1N係数 ×(現在の飽和温度 - 過去推定熱源温度)+過去推定熱源温度 ・・・(式33)
現在推定熱源温度 = 第2N係数 ×(現在の飽和温度 - 過去推定熱源温度)+過去推定熱源温度 ・・・(式34)
現在推定検出部温度 =第3P係数 ×(現在推定熱源温度 - 過去推定検出部温度)+過去推定検出部温度・・・(式41)
現在推定検出部温度 =第4P係数 ×(現在推定熱源温度 - 過去推定検出部温度)+過去推定検出部温度・・・(式42)
現在推定検出部温度 =第3N係数 ×(現在推定熱源温度 - 過去推定検出部温度)+過去推定検出部温度・・・(式43)
現在推定検出部温度 =第4N係数 ×(現在推定熱源温度 - 過去推定検出部温度)+過去推定検出部温度・・・(式44)
【0010】
[4]前記a工程、前記c工程、前記e工程及び前記i工程は、前記第1の時間毎に繰り返し、
前記f工程、前記g工程及び前記h工程は、前記第1の時間より長い第2の時間毎に繰り返す
ことを特徴とする上記[2]又は[3]に記載の制御装置。
【0011】
[5]前記第1係数は、0より大きく且つ1より小さい値であり、前記第2係数は、0より大きく且つ1より小さい値である
ことを特徴とする上記[2]から[4]のいずれか一項に記載の制御装置。
【0012】
[6]前記回路から出力される電流値及び前記回路から出力される電流の周波数の組み合わせは、予め設定された回路動作期間だけ連続して前記回路を動作させたときにおける、前記回路から出力される電流値及び前記回路から出力される電流の周波数の組み合わせである
ことを特徴とする上記[1]から[5]のいずれか一項に記載の制御装置。
【0013】
[7]前記第1係数は、前記現在の飽和温度に対する前記熱源の温度の時間変化の一次遅れの関係に基づいた時定数であり、
前記第2係数は、前記熱源から前記サーミスタへの熱伝導の時間変化の一次遅れの関係に基づき且つ前記第1係数と異なる時定数である
ことを特徴とする上記[2]から[5]のいずれか一項に記載の制御装置。
【0014】
[8]前記飽和温度は、少なくとも前記回路動作期間において、前記制御部が前記回路から所定電力を連続して出力するように前記回路を制御することで、飽和する前記熱源の温度である
ことを特徴とする上記[6]又は[7]に記載の制御装置。
【0015】
[9]前記温度検出部は、前記熱源の近傍に配置されている
ことを特徴とする上記[1]から[8]のいずれか一項に記載の制御装置。
【0016】
[10]電流源から電流を供給する回路を制御する方法において、
前記回路から出力される電流値及び前記回路から出力される電流の周波数の組み合わせと、前記回路で発熱する熱源の熱が飽和する最大の温度である飽和温度と、を関連付けた飽和温度情報テーブルを用意し、
前記回路から出力される電流値を取得するとともに、前記回路から出力される電流の周波数を取得し、
前記回路で発熱する熱源の近傍に配置された温度検出部が検出した実温度を取得し、
前記電流値、前記周波数、前記飽和温度情報テーブル、及び、前記実温度を用いて制御用推定温度を算出し、
前記制御用推定温度に基づいて、前記回路から出力される電力を制御する
ことを特徴とする制御方法。
[11]前記回路から出力される電流値を取得するとともに、前記回路から出力される電流の周波数を取得した後に、
前記飽和温度情報テーブルを参照して、前記電流値と前記周波数との組み合わせに対応する、前記熱源の現在の飽和温度を算出するa工程と、
前記現在の飽和温度と第1係数を用いることで、前記熱源の温度を推定した現在推定熱源温度を算出するc工程と、
前記現在推定熱源温度と第2係数を用いることで、前記熱源の近傍の温度を推定した現在推定検出部温度を算出するe工程と、
前記温度検出部が検出した実温度を取得するf工程と、
前記現在推定検出部温度から前記実温度を減算することで、温度差分を算出するg工程と、
前記温度差分に予め設定された温度補正係数を乗算することで、温度補正値を算出するh工程と、
前記現在推定熱源温度に前記温度補正値を加算することで、制御用推定温度を算出するi工程と、
前記制御用推定温度に基づいて、前記回路から出力される電力を制御するj工程と、を備える
ことを特徴とする上記[10]に記載の制御方法。
[12]前記c工程の前記現在推定熱源温度は、
前記現在の飽和温度が過去推定熱源温度以上である場合で、かつ、前記現在の飽和温度から前記過去推定熱源温度を減算した温度差が第1P閾値以上である場合は、前記第1係数を第1P係数とし、下記式31で算出され、
前記現在の飽和温度が前記過去推定熱源温度以上である場合で、かつ、前記現在の飽和温度から前記過去推定熱源温度を減算した温度差が前記第1P閾値未満である場合は、前記第1係数を前記第1P係数より小さい第2P係数とし、下記式32で算出され、
前記現在の飽和温度が前記過去推定熱源温度より低い場合で、かつ、前記現在の飽和温度から前記過去推定熱源温度を減算した温度差が第1N閾値以下である場合は、前記第1係数を第1N係数とし、下記式33で算出され、
前記現在の飽和温度が前記過去推定熱源温度より低い場合で、かつ、前記現在の飽和温度から前記過去推定熱源温度を減算した温度差が前記第1N閾値より大きい場合は、前記第1係数を前記第1N係数より小さい第2N係数とし、下記式34で算出され、
前記過去推定熱源温度は、第1の時間前に現在推定熱源温度の算出方法と同様の算出方法で算出された温度であり、
前記e工程の前記現在推定検出部温度は、
前記現在推定熱源温度が過去推定検出部温度より高い場合で、かつ、前記現在推定熱源温度から前記過去推定検出部温度を減算した温度差が第2P閾値以上である場合は、前記第2係数を第3P係数とし、下記式41で算出され、
前記現在推定熱源温度が過去推定検出部温度より高い場合で、かつ、前記現在推定熱源温度から前記過去推定検出部温度を減算した温度差が前記第2P閾値未満である場合は、前記第2係数を前記第3P係数より小さい第4P係数とし、下記式42で算出され、
前記現在推定熱源温度が過去推定検出部温度以下である場合で、かつ、前記現在推定熱源温度から前記過去推定検出部温度を減算した温度差が第2N閾値以下である場合は、前記第2係数を第3N係数とし、下記式43で算出され、
前記現在推定熱源温度が過去推定検出部温度以下である場合で、かつ、前記現在推定熱源温度から前記過去推定検出部温度を減算した温度差が第2N閾値より大きい場合は、前記第2係数を前記第3N係数より小さい前記第4N係数とし、下記式44で算出され、
前記過去推定検出部温度は、前記第1の時間前に現在推定検出部温度の算出方法と同様の算出方法で算出された温度である
ことを特徴とする上記[11]に記載の制御方法。
現在推定熱源温度 = 第1P係数 ×(現在の飽和温度 - 過去推定熱源温度)+過去推定熱源温度 ・・・(式31)
現在推定熱源温度 = 第2P係数 ×(現在の飽和温度 - 過去推定熱源温度)+過去推定熱源温度 ・・・(式32)
現在推定熱源温度 = 第1N係数 ×(現在の飽和温度 - 過去推定熱源温度)+過去推定熱源温度 ・・・(式33)
現在推定熱源温度 = 第2N係数 ×(現在の飽和温度 - 過去推定熱源温度)+過去推定熱源温度 ・・・(式34)
現在推定検出部温度 =第3P係数 ×(現在推定熱源温度 - 過去推定検出部温度)+過去推定検出部温度・・・(式41)
現在推定検出部温度 =第4P係数 ×(現在推定熱源温度 - 過去推定検出部温度)+過去推定検出部温度・・・(式42)
現在推定検出部温度 =第3N係数 ×(現在推定熱源温度 - 過去推定検出部温度)+過去推定検出部温度・・・(式43)
現在推定検出部温度 =第4N係数 ×(現在推定熱源温度 - 過去推定検出部温度)+過去推定検出部温度・・・(式44)
【0017】
[13]前記a工程、前記c工程、前記e工程及び前記i工程は、前記第1の時間毎に繰り返し、
前記f工程、前記g工程及び前記h工程は、前記第1の時間より長い第2の時間毎に繰り返す
ことを特徴とする上記[11]又は[12]に記載の制御方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の種々の態様によれば、熱源の温度を直接検出できなくても、熱伝導や周囲温度の影響を考慮し、熱源の温度を精度良く推定できる制御装置、及び、制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一態様に係る制御装置を示す模式図である。
図2図1に示す筐体30を示す図である。
図3】回路から所定の電力を予め設定された回路動作期間だけ連続して出力させたときにおける、回路から出力される電流の電流値61、サーミスタが検出した実サーミスタ温度62、熱源の実際の温度63、及び、熱源の飽和温度64の関係の一例を示す図である。
図4】一定の電流で回路から電力を出力させて熱源の温度が上昇する場合の通電時間と熱源の温度との関係を示す図である。
図5】一定の電流で回路から電力を出力させても熱源の温度が下降する場合の通電時間と熱源の温度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下では、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0021】
<制御装置>
図1は、本発明の一態様に係る制御装置を示す模式図である。図2は、図1に示す筐体30を示す図である。
【0022】
図1に示すように、制御装置は、発熱する回路12を有し、この回路12には電流を供給する電流源2が電気的に接続されている。回路12は、例えばインバータ回路又はコンバータ回路であるとよい。回路12及び電流源2は制御部10によって制御される。詳細な制御方法は後述する。
【0023】
図2に示すように、回路12は筐体30に配置されており、筐体30には温度検出部11が配置されている。温度検出部11は回路12で発熱する熱源12aの近傍に配置されており、その熱源の近傍の温度を検出するものである。温度検出部11は、例えばサーミスタである。
【0024】
また、図1に示すように、制御装置は、回路12から出力される電流値及び回路12から出力される電流の周波数の組み合わせと、前記熱源の熱が飽和する最大の温度である飽和温度と、を関連付けた飽和温度情報テーブルを記憶する記憶部20を備えている。また、回路12には、回路12から出力される電力が供給される部品(図示せず)が電気的に接続されている。
【0025】
ここでの飽和温度情報テーブルとは、回路12から所定の電力を予め設定された回路動作期間だけ連続して出力させたときにおける、回路12から出力される電流の電流値及び回路12から出力される電流の周波数の組み合わせと、回路12で発熱する熱源の熱が飽和する最大の温度である飽和温度と、を関連付けたテーブルである。この飽和温度は、少なくとも上記の回路動作期間において、制御部10が回路12から所定電力を連続して出力するように回路12を制御することで、飽和する熱源の温度である。このような飽和温度を用いることで、熱源の温度を推定するのに役立つと考えられる。
【0026】
ここで、回路12が動作することによる熱源12aの温度上昇と、筐体30の熱容量、筐体30の周囲温度との熱伝導(図2の矢印41~48参照)による物理モデルを考える。そして、熱源12aの熱が飽和するまで時間経過した際の飽和温度64から熱源12aの温度を推測する。この推測温度と、計算誤差による実温度との乖離を防ぐために実温度を用いた手法とするものである(図3参照)。
【0027】
<制御方法>
図1の制御部10は、回路12及び電流源2を以下のように制御する。
制御部10は、回路12から出力される電流値を取得するとともに、回路12から出力される電流の周波数を取得し、温度検出部11が検出した実温度を取得し、前記電流値、前記周波数、記憶部20に記憶された前記飽和温度情報テーブル、及び、前記実温度を用いて制御用推定温度を算出し、前記制御用推定温度に基づいて、回路12から出力される電力を制御する。飽和温度情報テーブルを用いることで、より正確な制御用推定温度を算出することが可能となる。
以下に詳細に説明する。
【0028】
(a工程)制御部10aは、記憶部20aに記憶された飽和温度情報テーブルを参照して、取得した電流値と取得した周波数との組み合わせに対応する(関連付けた)、熱源12aの現在の飽和温度(例えば90℃)を算出する。
【0029】
このように、現在の電流値と周波数の各計測データに基づいて、予め設定された飽和温度情報テーブルを参照して、熱源12aの現在の飽和温度を算出する。
【0030】
次に、制御部10は、以下の(式3)に示すように、現在の飽和温度に対する熱源12aの温度の時間変化の一次遅れの関係に基づいた第1係数(時定数)を用いることで、暫定的に推定した熱源12aの温度として現在推定熱源温度を算出する。つまり、図3に示すように、熱源12aの温度は、現在の飽和温度に対する一次遅れの関係65に基づく時定数(第1係数)を用いることで推定される。
なお、この第1係数は、例えば、0より大きく且つ1より小さい値である。この第1係数によって現在の飽和温度に対する一次遅れを補正することができる。
【0031】
以下に、上記の現在推定熱源温度の算出方法を詳細に説明する。
まず、第1係数について以下に詳細に説明する。図4は、一定の電流で回路から電力を出力させて熱源の温度が上昇する場合の通電時間と熱源の温度との関係を示す図である。図5は、一定の電流で回路から電力を出力させても熱源の温度が下降する場合の通電時間と熱源の温度との関係を示す図である。
【0032】
(b工程)上記の現在の飽和温度と第1の時間(例えば10ms)前(1回前)に算出した過去推定熱源温度(例えば100℃)を比較する。このとき、現在の飽和温度が過去推定熱源温度以上である以下の(式a)の場合は熱源の温度が上昇するものと判断する。このときの第1係数は正(P)となる。

(現在の飽和温度 -過去推定熱源温度)≧ 0 ・・・(式a)

なお、過去推定熱源温度は、前記第1の時間前に、現在推定熱源温度の算出方法と同様の方法で算出された温度である。また、過去推定熱源温度が算出されていない場合はサーミスタSで検出した実サーミスタ温度を用いてもよい。
【0033】
第1係数が正(P)となる場合で、現在の飽和温度と過去推定熱源温度との温度差がP傾き閾値(第1P閾値;例えば20℃)以上である以下の(式b)の場合は熱源の温度上昇が急激である以下の(i)と判断する。P傾き閾値は、ともいう。

(現在の飽和温度 -過去推定熱源温度) ≧ P傾き閾値 ・・・(式b)

(i) 熱源の温度が現在の飽和温度に向けて急激に上昇する場合(図4に示す符号81)であり、第1係数としてP係数(急)を使用する。このP係数(急)は例えば0.05である。このP係数(急)は、第1P係数ともいう。
【0034】
また、第1係数が正(P)となる場合で、現在の飽和温度と過去推定熱源温度との温度差がP傾き閾値(第1P閾値;例えば20℃)未満である以下の(式c)の場合は熱源の温度上昇が緩やかである以下の(ii)と判断する。

(現在の飽和温度 - 過去推定熱源温度)< P傾き閾値 ・・・(式c)

(ii) 熱源の温度が現在の飽和温度に向けて緩やかに上昇する場合(図4に示す符号82)であり、第1係数としてP係数(緩)を使用する。このP係数(緩)は例えば0.03である。このP係数(緩)は、P係数(急)より小さく、第2P係数ともいう
【0035】
また、現在の飽和温度が過去推定熱源温度より低い以下の(式d)の場合は熱源の温度が下降するものと判断する。このときの第1係数は負(N)となる。

(現在の飽和温度 -過去推定熱源温度)< 0 ・・・(式d)

第1係数が負(N)となる場合で、現在の飽和温度と過去推定熱源温度との温度差がN傾き閾値(第1N閾値;例えば-30℃)以下である以下の(式e)の場合は熱源の温度下降が急激である以下の(iii)と判断する。

(現在の飽和温度 - 過去推定熱源温度) ≦ N傾き閾値 ・・・(式e)

(iii) 熱源の温度が現在の飽和温度に向けて急激に下降する場合(図5に示す符号83)であり、第1係数としてN係数(急)を使用する。このN係数(急)は例えば0.06である。このN係数(急)は、第1N係数ともいう。
【0036】
また、第1係数が負(N)となる場合で、現在の飽和温度と過去推定熱源温度との温度差がN傾き閾値(第1N閾値;例えば-30℃)より大きい以下の(式f)の場合は熱源の温度下降が緩やかである以下の(iv)と判断する。

(現在の飽和温度 - 過去推定熱源温度) > N傾き閾値 ・・・(式f)

(iv) 熱源の温度が現在の飽和温度に向けて緩やかに下降する場合(図5に示す符号84)であり、第1係数としてN係数(緩)を使用する。このN係数(緩)は例えば0.04である。なお、N係数(緩)は、N係数(急)より小さく、第2N係数ともいう。
【0037】
上記の判断に基づき、第1係数として上記の(i)から(iv)のP係数(急)からN係数(緩)のいずれかを使用する。
なお、第1係数は時定数であるため、温度が上昇する場合も下降する場合も係数は複雑なものとなるが、時定数を上記の4つの場合に近似することで、計算負荷を減らすことができるとともに熱源の温度推定の精度を高めることができる。
【0038】
(c工程)次に、以下の(式3)に示すように、上記の説明のとおり判断した第1係数(即ち、P係数(急)、P係数(緩)、N係数(急)、N係数(緩))を、前述した方法で算出した現在の飽和温度(例えば90℃)と過去推定熱源温度(例えば100℃)の差分に乗算し過去推定熱源温度に加算することで、暫定的に推定した熱源の温度として現在推定熱源温度(例えば99.6℃)を算出する。

現在推定熱源温度 = 第1係数(P係数(急)、P係数(緩)、N係数(急)、N係数(緩)のいずれか)×(現在の飽和温度 - 過去推定熱源温度)+過去推定熱源温度 ・・・(式3)
【0039】
上記の式3を上記の(i)から(iv)の各々に対応する式は以下のとおりである。
(i)現在の飽和温度が過去推定熱源温度以上である場合で、かつ、前記現在の飽和温度から前記過去推定熱源温度を減算した温度差が第1P閾値以上である場合は、前記第1係数を第1P係数とし、下記式31で算出される。

現在推定熱源温度 = 第1P係数 ×(現在の飽和温度 - 過去推定熱源温度)+過去推定熱源温度 ・・・(式31)
【0040】
(ii) 前記現在の飽和温度が前記過去推定熱源温度以上である場合で、かつ、前記現在の飽和温度から前記過去推定熱源温度を減算した温度差が前記第1P閾値未満である場合は、前記第1係数を前記第1P係数より小さい第2P係数とし、下記式32で算出される。

現在推定熱源温度 = 第2P係数 ×(現在の飽和温度 - 過去推定熱源温度)+過去推定熱源温度 ・・・(式32)
【0041】
(iii)前記現在の飽和温度が前記過去推定熱源温度より低い場合で、かつ、前記現在の飽和温度から前記過去推定熱源温度を減算した温度差が第1N閾値以下である場合は、前記第1係数を第1N係数とし、下記式33で算出される。

現在推定熱源温度 = 第1N係数 ×(現在の飽和温度 - 過去推定熱源温度)+過去推定熱源温度 ・・・(式33)

(iv)前記現在の飽和温度が前記過去推定熱源温度より低い場合で、かつ、前記現在の飽和温度から前記過去推定熱源温度を減算した温度差が前記第1N閾値より大きい場合は、前記第1係数を前記第1N係数より小さい第2N係数とし、下記式34で算出される。

現在推定熱源温度 = 第2N係数 ×(現在の飽和温度 - 過去推定熱源温度)+過去推定熱源温度 ・・・(式34)
【0042】
このように、時定数を計数化した第1係数を用いて、現在の飽和温度から、熱源12aの温度を暫定的に推測する。
【0043】
次に、制御部10aは、以下の(式4)に示すように、熱源12aからサーミスタ(図2に示す温度検出部11)への熱伝導の時間変化の一次遅れの関係(図2に示す矢印49,59参照)に基づき且つ既述の第1係数と異なる第2係数(時定数)を用いることで、暫定的に推定したサーミスタの温度である現在推定サーミスタ温度を算出する。つまり、図3に示すように、実サーミスタ温度は、熱源12aからサーミスタ11への熱伝導の時間変化の一次遅れの関係66に基づく時定数(第2係数)を用いることで推定される。
なお、現在推定サーミスタ温度は、現在推定検出部温度ともいう。
また、この第2係数は、例えば、0より大きく且つ1より小さい値である。この第2係数によって熱源12aからサーミスタ11への熱伝導の時間変化の一次遅れを補正することができる。
【0044】
以下に、上記の現在推定サーミスタ温度(現在推定検出部温度)の算出方法を詳細に説明する。
【0045】
まず、第2係数について以下に詳細に説明する。
(d工程)上記(式3)で算出した現在推定熱源温度と第1の時間(例えば10ms)前(1回前)に算出した過去推定サーミスタ温度を比較する。このとき、現在推定熱源温度が過去推定サーミスタ温度より高い以下の(式g)の場合はサーミスタの温度が上昇するものと判断する。このときの第2係数は正(P)となる。

(現在推定熱源温度 -過去推定サーミスタ温度)≧ 0 ・・・(式g)

なお、過去推定サーミスタ温度は、前記第1の時間前に、現在推定サーミスタ温度の算出方法と同様の方法で算出された温度である。また、過去推定サーミスタ温度が算出されていない場合はサーミスタSで検出した実サーミスタ温度を用いてもよい。
【0046】
第2係数が正(P)となる場合で、現在推定熱源温度と過去推定サーミスタ温度との温度差がP傾き閾値(第2P閾値;例えば20℃)以上である以下の(式h)の場合はサーミスタの温度上昇が急激である以下の(i)と判断する。

(現在推定熱源温度 -過去推定サーミスタ温度) ≧ P傾き閾値 ・・・(式h)

(i)サーミスタの温度が急激に上昇する場合であり、第2係数としてP係数(急)を使用する。このP係数(急)は例えば0.03である。このP係数(急)は、第3P係数ともいう。
【0047】
また、第2係数が正(P)となる場合で、現在推定熱源温度と過去推定サーミスタ温度との温度差がP傾き閾値(第2P閾値;例えば20℃)未満である以下の(式i)の場合はサーミスタの温度上昇が緩やかである以下の(ii)と判断する。

(現在推定熱源温度 -過去推定サーミスタ温度)< P傾き閾値・・・(式i)

(ii) サーミスタの温度が緩やかに上昇する場合であり、第2係数としてP係数(緩)を使用する。このP係数(緩)は例えば0.02である。このP係数(緩)は、P係数(急)より小さく、第4P係数ともいう。
【0048】
また、現在推定熱源温度が過去推定サーミスタ温度より低い以下の(式j)の場合はサーミスタの温度が下降するものと判断する。このときの第2係数は負(N)となる。

(現在推定熱源温度 -過去推定サーミスタ温度)< 0 ・・・(式j)

第2係数が負(N)となる場合で、現在推定熱源温度と過去推定サーミスタ温度との温度差がN傾き閾値(第2N閾値;例えば-10℃)以下である以下の(式k)の場合はサーミスタの温度下降が急激である以下の(iii)と判断する。

(現在推定熱源温度 -過去推定サーミスタ温度) ≦ N傾き閾値・・・(式k)

(iii) サーミスタの温度が急激に下降する場合であり、第2係数としてN係数(急)を使用する。このN係数(急)は例えば0.02である。N係数(急)は、第3N係数ともいう。
【0049】
また、第2係数が負(N)となる場合で、現在推定熱源温度と過去推定サーミスタ温度との温度差がN傾き閾値(第2N閾値;例えば-10℃)より大きい以下の(式m)の場合はサーミスタの温度下降が緩やかである以下の(iv)と判断する。

(現在推定熱源温度 -過去推定サーミスタ温度) > N傾き閾値・・・(式m)

(iv) サーミスタの温度が緩やかに下降する場合であり、第2係数としてN係数(緩)を使用する。このN係数(緩)は例えば0.01である。N係数(緩)は、第3N係数より小さく、第4N係数ともいう。
【0050】
上記の判断に基づき、第2係数として上記の(i)から(iv)のP係数(急)からN係数(緩)のいずれかを使用する。
なお、第2係数は時定数であるため、温度が上昇する場合も下降する場合も係数は複雑なものとなるが、時定数を上記の4つの場合に近似することで、計算負荷を減らすことができるとともに熱源の温度推定の精度を高めることができる。
【0051】
(e工程)次に、以下の(式4)に示すように、上記の説明のとおり判断した第2係数(即ち、P係数(急)、P係数(緩)、N係数(急)、N係数(緩))を、上記(式3)で算出した現在推定熱源温度(例えば46.65℃)と過去推定サーミスタ温度(例えば30℃)の差分に乗算し過去推定サーミスタ温度に加算することで、暫定的に推定したサーミスタの温度である現在推定サーミスタ温度(例えば30.5)を算出する。

現在推定サーミスタ温度 = 第2係数(P係数(急)、P係数(緩)、N係数(急)、N係数(緩)のいずれか) ×(現在推定熱源温度 - 過去推定サーミスタ温度)+過去推定サーミスタ温度・・・(式4)
【0052】
上記の式4を上記の(i)から(iv)の各々に対応する式は以下のとおりである。
(i)前記現在推定熱源温度が過去推定検出部温度より高い場合で、かつ、前記現在推定熱源温度から前記過去推定検出部温度を減算した温度差が第2P閾値以上である場合は、前記第2係数を第3P係数とし、下記式41で算出される。

現在推定検出部温度 =第3P係数 ×(現在推定熱源温度 - 過去推定検出部温度)+過去推定検出部温度・・・(式41)
【0053】
(ii)前記現在推定熱源温度が過去推定検出部温度より高い場合で、かつ、前記現在推定熱源温度から前記過去推定検出部温度を減算した温度差が前記第2P閾値未満である場合は、前記第2係数を前記第3P係数より小さい第4P係数とし、下記式42で算出され、

現在推定検出部温度 =第4P係数 ×(現在推定熱源温度 - 過去推定検出部温度)+過去推定検出部温度・・・(式42)
【0054】
(iii)前記現在推定熱源温度が過去推定検出部温度以下である場合で、かつ、前記現在推定熱源温度から前記過去推定検出部温度を減算した温度差が第2N閾値以下である場合は、前記第2係数を第3N係数とし、下記式43で算出され、

現在推定検出部温度 =第3N係数 ×(現在推定熱源温度 - 過去推定検出部温度)+過去推定検出部温度・・・(式43)
【0055】
(iv)前記現在推定熱源温度が過去推定検出部温度以下である場合で、かつ、前記現在推定熱源温度から前記過去推定検出部温度を減算した温度差が第2N閾値より大きい場合は、前記第2係数を前記第3N係数より小さい前記第4N係数とし、下記式44で算出され、

現在推定検出部温度 =第4N係数 ×(現在推定熱源温度 - 過去推定検出部温度)+過去推定検出部温度・・・(式44)
【0056】
前記過去推定検出部温度は、前記第1の時間前に現在推定検出部温度の算出方法と同様の算出方法で算出された温度である。
【0057】
このように、時定数を計数化した第2係数を用いて、サーミスタSの温度を推測する。
【0058】
(f工程)次に、制御部10aは、サーミスタSが検出した実サーミスタ温度(例えば30.9℃)を取得する。
【0059】
(g工程)次に、制御部10aは、以下の(式5)に示すように、上記(式4)の現在推定サーミスタ温度(例えば30.5℃)からサーミスタSが検出した実サーミスタ温度(例えば30.9℃)を減算することで、温度差分(例えば0.4℃)を算出する。

現在推定サーミスタ温度-実サーミスタ温度=温度差分 ・・・(式5)

なお、実サーミスタ温度は、実温度ともいう。
【0060】
(h工程)次に、制御部10aは、以下の(式6)に示すように、予め設定された温度補正係数(例えば0.9)を、上記(式5)で算出した温度差分に乗算することで、上記(式3)の現在推定熱源温度(例えば46.65℃)を補正するための温度補正値(例えば0.36℃)を算出することができる。

温度差分×温度補正係数=温度補正値 ・・・(式6)

なお、温度補正係数は、温度検出部(例えばサーミスタ)の種類や個体のバラツキから温度差分を制御用推定温度に反映させる割合である。
【0061】
(i工程)次に、制御部10aは、以下の(式7)に示すように、上記(式3)の現在推定熱源温度に上記(式6)の温度補正値を加算することで、制御用推定温度(例えば47.01℃)を算出する。

現在推定熱源温度+温度補正値=制御用推定温度 ・・・(式7)
【0062】
(j工程)次に、上記(式7)で算出された制御用推定温度に基づいて、回路12から出力される電力を制御部10により制御する。
【0063】
上記の(a工程)から(e工程)と(i工程)は、第1の時間毎(例えば10ms毎)に繰り返し、上記の(f工程)から(h工程)は第2の時間毎(例えば100ms毎)に繰り返す。これにより、温度の誤差を補正する温度補正値を算出する(f工程)から(h工程)については第1の時間より長い第2の時間毎とすることで、制御用推定温度の精度を保持しつつ制御部の負荷を低減することができる。なお、(h工程)の温度補正値は100ms毎にしか得られないので、10ms毎に行われる(i工程)で使用する温度補正値は10回同じ値が用いられる。
また、第1の時間毎(例えば10ms毎)に得られた制御用推定温度及び計算過程の現在推定熱源温度は記憶部に記憶され、第2の時間毎(例えば100ms毎)に得られた温度補正値及び計算過程の現在推定サーミスタ温度は記憶部に記憶される。また、第1の時間毎に得られた現在の飽和温度も記憶部に記憶されてもよいし、第2の時間毎に得られた実温度も記憶部に記憶されてもよい。
【0064】
なお、過去推定サーミスタ温度は一定間隔にて実サーミスタ温度に戻すとよい。その理由は、制御用推定温度の誤差が積み立てでずれていくので、それの対応策として誤差による実温度との差分が大きく乖離する前に補正して戻すためである。例えば、10msec毎に現在推定熱源温度と現在推定サーミスタ温度を算出し、実サーミスタ温度を使った現在推定熱源温度の補正は100msec毎に実施する。
【0065】
これにより、熱伝導や周囲温度の影響を考慮して、サーミスタの検出温度、回路から出力される電流及びその電流の周波数に基づいて、熱源12aの温度を精度良く推定することが可能となる。
【符号の説明】
【0066】
2 電流源
10 制御部
11 温度検出部
12 回路
12a 熱源
20 記憶部
30 筐体
41~50 矢印
61 回路から出力される電流の電流値
62 サーミスタが検出した実サーミスタ温度
63 熱源の実際の温度
64 熱源の飽和温度
65 現在の飽和温度に対する一次遅れの関係
66 熱源からサーミスタへの熱伝導の時間変化の一次遅れの関係
81 熱源の温度が現在の飽和温度に向けて急激に上昇する場合
82 熱源の温度が現在の飽和温度に向けて緩やかに上昇する場合
83 熱源の温度が現在の飽和温度に向けて急激に下降する場合
84 熱源の温度が現在の飽和温度に向けて緩やかに下降する場合
図1
図2
図3
図4
図5