(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】波形解析装置、及び波形解析方法
(51)【国際特許分類】
G01H 17/00 20060101AFI20240529BHJP
H01L 21/677 20060101ALI20240529BHJP
B25J 9/06 20060101ALI20240529BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20240529BHJP
【FI】
G01H17/00 Z
H01L21/68 A
B25J9/06 D
G01M99/00 Z
(21)【出願番号】P 2020162174
(22)【出願日】2020-09-28
【審査請求日】2023-06-19
(73)【特許権者】
【識別番号】591213232
【氏名又は名称】ローツェ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091719
【氏名又は名称】忰熊 嗣久
(72)【発明者】
【氏名】玉造 大悟
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-109566(JP,A)
【文献】特開2001-74616(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 99/00
H01L 21/677
G01H 1/00-17/00
B25J 9/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械装置の動作時に発生する物理的現象を検出して、検出信号を解析する波形解析装置であって、
前記物理的現象を検出するセンサ部と、
前記センサ部から送信される検出信号を離散フーリエ変換する離散フーリエ変換部と、
前記離散フーリエ変換部によって生成される各周波数の振幅に対して、所定の上限値を超えるものは、前記所定の上限値とする後段の重み付け部と、
前記後段の重み付け部によって重み付けられた各周波数の振幅を累積する累積部と、を備えることを特徴とする波形解析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の波形解析装置であって、
前記離散フーリエ変換部は、前記センサ部から所定のサンプリング周期により取得されたn個の連続した検出信号をrずつずらして離散フーリエ変換を行うことを特徴とする波形解析装置。
ここで、rは1からn/16の整数であり、nは256以上の2のべき乗である。
【請求項3】
請求項1に記載の波形解析装置であって、
前記n個の検出信号に対して、窓関数による重み付けを行う前段の重み付け部を備える
ことを特徴とする波形解析装置。
【請求項4】
請求項1に記載の波形解析装置であって、
前記後段の重み付け部は、前記離散フーリエ変換部によって生成される各周波数の振幅に対して、周波数に応じて変更される重み付けを減算し、マイナスになる場合はゼロとする重み付けを行うことを特徴とする波形解析装置。
【請求項5】
請求項1に記載の波形解析装置であって、
前記累積部によって加算された加算値が所定のしきい値を超えたときに異常発生を検出することを特徴とする波形解析装置。
【請求項6】
請求項1に記載の波形解析装置であって、前記所定の上限値はオペレータコンソールにより設定されることを特徴とする波形解析装置。
【請求項7】
アーム体と、
前記アーム体の先端に軸受けを介して設けられ、被搬送物を搭載するフィンガと、
前記フィンガで発生した物理的現象の検出信号を演算する波形解析装置とを具備する搬送ロボットであって、
前記波形解析装置は、
前記物理的現象を検出するセンサ部と、
前記センサ部から送信される検出信号を離散フーリエ変換する離散フーリエ変換部と、
前記離散フーリエ変換部によって生成される各周波数の振幅に対して、所定の上限値を超えるものは、前記所定の上限値とする後段の重み付け部と、
前記後段の重み付け部によって重み付けられた各周波数の振幅を累積する累積部と、を備えることを特徴とする搬送ロボット。
【請求項8】
案内軌道と、
前記案内軌道に沿って被搬送物を搬送する走行駆動モータと、
前記案内軌道で発生する物理的現象の検出信号を演算する波形解析装置とを具備する走行機構であって、
前記波形解析装置は、
前記物理的現象を検出するセンサ部と、
前記センサ部から送信される検出信号を離散フーリエ変換する離散フーリエ変換部と、
前記離散フーリエ変換部によって生成される各周波数の振幅に対して、所定の上限値を超えるものは、前記所定の上限値とする後段の重み付け部と、
前記後段の重み付け部によって重み付けられた各周波数の振幅を累積する累積部と、を備えることを特徴とする走行機構。
【請求項9】
請求項7に記載の搬送ロボットを備えることを特徴とする搬送装置。
【請求項10】
請求項7に記載の搬送ロボットと請求項8に記載の走行機構とを備える搬送装置であって、前記走行機構は、前記搬送ロボットを前記案内軌道に沿って搬送することを特徴とした搬送装置。
【請求項11】
機械装置の動作時に発生する物理的現象を物理センサにより検出して、検出された信号の波形を解析する波形解析方法であって、
前記物理センサの検出信号を離散フーリエ変換するステップと、
前記離散フーリエ変換によって生成される各周波数の振幅に対して、所定の上限値を超えるものは、前記所定の上限値とする重み付けを行うステップと、
前記重み付けられた各周波数の振幅を加算するステップと、を備えることを特徴とする波形解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被搬送物を搬送する多関節の搬送ロボットや案内軌道に沿って被搬送物を搬送する走行機構等の機械装置の動作時に発生する振動、音、電磁波といった物理的現象を検出するセンサ(以下、物理センサと称する)の信号波形として検出して、機械装置の状態を診断する解析装置及び解析方法に関するものである。特に、多関節ロボットの可動部分に備えられる軸受けや送りネジ機構、減速機等の回転機器やリニアガイドといった駆動機構の動作により発生する振動や音の信号波形を解析するための波形解析装置、及び波形解析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、機械装置を構成する機械要素の劣化を発見して、故障による停止や動作中の破損事故を未然に防止する方法や装置が考案されてきた。例えば、特許文献1には、機械装置が発する音または振動、或いは機械要素の歪みといった物理的現象を検出する物理センサを設け、この物理センサが検出した値を、予め記憶させておいた基準値と比較し、検出した値が基準値以上であった場合に劣化信号を送信する判断手段が開示されている。また、この判断手段が送信する劣化検出信号に応答して、アラーム信号の発信や機械装置の動作停止といった、所要の処理動作を実行する処理手段を備えるロボットの部品劣化検出装置が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、不具合が発生した機械装置が発する物理センサの出力波形の中には、機械装置の劣化の発生や機械要素同士の衝突が、インパルス波形として物理センサの検出信号の中に含まれるとして、このインパルス波形を捕らえて障害を発見する解析装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平2-262993号公報
【文献】国際公開WO2018/110337A1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の発明によれば、機械装置の異常を検出するために、劣化が生じた場合に生じる実際の様々な劣化音を事前に実測して登録しておく必要がある。この方法だと、様々な劣化音を事前に調べて登録するまでには相当の時間が掛かるという問題点がある。
【0006】
一方、特許文献2では、劣化音ではなくてインパルス波形を捕らえようとしている。劣化音は、機械要素が振動することによって発生する波であって、機械要素固有の周波数を有する。劣化音は、機械要素の状態に応じて様々な周波数のものが発生しうる。従って、特定の周波数を持たないインパルス波形が捕らえられれば、特許文献1のように様々な劣化音を予め収集しておかなくとも、不具合の検出が可能になる。
【0007】
尚、機械要素の衝突の中には、一旦は衝突してその後分離する「擦れ」を含んでいる。また、機械要素同士が擦れる場合とは、本来潤滑油で潤滑された機械要素の潤滑が切れた場合や、変形により衝突する場合等に生じると考えられる。例えば、ベアリングボールの潤滑油切れの箇所が一部に存在したときに、その箇所が擦れるときである。この擦れが繰り返されることに起因する故障が比較的短時間以内に発生する。
【0008】
理想的なインパルス波形は限りなく短い時間だけ発生し、且つ広範囲な周波数帯で一定の振幅を含むことが知られている。よって、物理センサの検出信号にインパルス波形が含まれているときにフーリエ変換を行うと、全ての周波数において一様に信号レベルが増大するはずである。特許文献2においては、実験を通して得られたフーリエ変換のデータを評価したところ、比較的低い周波数では測定対象自体が持つ周波数の中に埋没しインパルス波形による信号レベルの増加は明確には観測できなかった。そこで、特許文献2の発明では、測定対象が発生する様々な振動のうち機械装置が通常発生させることの少ない周波数帯を作業員が手動で設定し、その特定周波数帯の範囲で加算を行うこととした。この結果、機械要素同士が擦れた時に一瞬発生するインパルス波形は、設定された周波数範囲でもスペクトルを持つため、その範囲で累積させることにより特定周波数の範囲で発生する固有振動により生じる周波数のスペクトルよりも強調される。
【0009】
特許文献2においてはフーリエ変換によりどの周波数にもスペクトルが存在するインパルス波形を対象として障害検出を行うため、機械装置が異常等による劣化音について予め様々なものを事前に知っておき、その劣化音に合わせた周波数を障害検出器側に設定しておくような特許文献1の問題は解決された。しかし、測定対象自体が通常発しない周波数範囲を設定する必要が生じるため、障害検出は検出対象の機械装置に依存するという課題は残った。また、そもそものインパルス波形をより的確に捕らえて分析するための解析装置の仕組みにおいても改良の必要があった。
【0010】
本発明は上記課題に鑑みて考案されたものであり、機械装置が通常発生する振動や劣化音がどのような周波数を持っていたとしても、その影響を低減させてインパルスにより生じた波形のみを精度良く解析する手法を提供し、機械装置に依存せずに、機械装置の故障による停止や動作中の破損事故を未然に防止し、且つ、効率の良い保守作業を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明の波形解析装置は、機械装置の動作時に発生する物理的現象を検出して、検出信号を解析する波形解析装置であって、
前記物理的現象を検出するセンサ部と、
前記センサ部から送信される検出信号を離散フーリエ変換する離散フーリエ変換部と、
前記離散フーリエ変換部によって生成される各周波数の振幅に対して、所定の上限値を超えるものは、前記所定の上限値とする後段の重み付け部と、
前記後段の重み付け部によって重み付けられた各周波数の振幅を加算する累積部と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、どのような周波数に対して振幅を持つ固有振動が発生するかを予め知っておく必要はないという効果を有する。つまり、離散フーリエ変換を行うと、インパルスは複数の周波数に分解されるため、夫々の大きさは元のインパルスの大きさよりもデータ数nに応じて小さくなる。一方、機械装置の固有振動による波形は、特定の周波数を有しており、離散フーリエ変換を行っても、当該特定周波数の振幅がほぼそのまま大きく現れる。固有振動は、障害とは関係有無に拘わらず発生する可能性が有り、また、共振により大きくなることもあるが、どの周波数においても上限値に制限されていることにより、固有振動の影響が縮小化される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】インパルスを説明する図であり、
図2Aは減衰波形を示す図、
図2Bはインパルスのフーリエ変換を説明する図、
図2Cはセンサ部の特性とサンプリング周波数の関係を示す図である。
【
図3】重み付けデータを示す図であり、
図3Aは重み付けデータW、
図3B~
図3Dは重み付けデータFLを示している。
【
図4】オペレータコンソールと波形解析装置の動作を示すフローチャートであり、
図4Aは初期値を設定する設定フロー、
図4Bは物理的現象を検出する際の検出フローである。
【
図5】半導体製造システムを構成する装置であるEFEMを示す斜視図である。
【
図6】ファン軸受けについて振動を測定した例である。
図6Aは正常時、
図6Bは異常時を示している。
【
図7】離散フーリエ変換の結果を示す図であり、
図7Aは正常時、
図7Bは異常時の各周波数の振幅である。
【
図8】音を測定対象とした離散フーリエ変換の結果を示す図であり、
図8Aは接触が発生しないときの離散フーリエ変換の結果、
図8Bはチューブと接触したときの離散フーリエ変換の結果、
図8Cは配線と接触したときの離散フーリエ変換の結果、
図8Dは金属部と接触したときの離散フーリエ変換の結果を示している。
【
図9】半導体ウエハを接触させた場合の振動を検出した例を示す図で有り、
図9Aは使用した重み付けデータFL、
図9B、9Cは正常時の結果で有り、
図9D、9Eは異常時の結果であって、夫々順に離散フーリエ変換の結果と振幅累積値を示している。
【
図10】他のEFEMに適用した例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
理想的なインパルス波形、すなわち、デルタ関数としてのインパルス波形は、ゼロの幅に無限大のエネルギーを持つものとして数学的なモデルとしては存在するものの物理的には存在しないとされている。しかしながら、本明細書においては、機械要素同士が擦れたときに発生する非連続な波形をインパルスと称することにする。
【0015】
機械要素に衝撃が加えられたときに物理センサは、
図2Aに示すような典型的な減衰波形を観測する。このような減衰波形は、機械要素に衝撃を与えた瞬間に非連続な波形が突如発生し、その後は機械要素の構造によりある特定の固有振動数の波形が発生していると解釈できる。本発明においては、このような物理センサが観測した検出信号のうち、最初の部分(非連続的に発生した波形)をインパルスとし、これを捕捉しようとしている。そして、その後に続く減衰波形についてはある特定の周波数において振動する部分であるとして区別する。例えば、この振動する部分は特許文献1でいえば、劣化音に相当すると解釈できる。
【0016】
物理センサで観測されるインパルスは、理想的なインパルスのようなゼロの幅に無限大のエネルギーを有するものではない。しかしながら、非連続的に発生した波形であるため、フーリエ変換により周波数分析を行った際には、広い周波数に渡ってスペクトルを有するものと分析されるはずである。
【0017】
本実施例の波形解析装置においては、デジタル技術を用いて、公知の離散フーリエ変換(Discrete Fourier Transform、DFT)を行っている。離散フェーリエ変換は、AD変換器を用いて物理センサから検出された電気信号による連続的な波を一定間隔でサンプリングして得られたn個の連続したサンプリングデータを用いる。ここで、nはフーリエ変換アルゴリズムにより高速演算できるため有利ということで2のべき乗とされており、サンプリング周波数をfsとすると、離散フーリエ変換によりn/2個(Δf、2Δf、・・・・(n/2)Δf)の周波数と直流成分に分解される。尚、Δf=fs/nである。
図2Bにおいて、あるサンプリング周波数fsにより取得されたn個のデータを取得したときに、
図2Bのようなn個の中の1つのサンプリングデータのみに有意なデータが現れるインパルス波形が検出されたとすると、離散フーリエ変換をすることによって、各周波数に対して、ほぼ一定の振幅を算出することができる。
【0018】
本実施例の波形解析装置においては、この振幅を累積した値を求めるという演算を行う。「累積」の手法としては、
図2Bの中の斜線で示した部分の面積を求めても良いし、各周波数の振幅を足し合わせたものでも良い。なお、累積部の出力について「振幅」というときには、振幅の2乗値相当のパワースペクトル、その平方根を取ったものであるリニアスペクトルを含むものとする。
【0019】
また、1番目からn番目までのサンプリングデータに対して離散フーリエ変換を行い、次のn+1番目から2n番目までのサンプリングデータに対して離散フーリエ変換を行うのではなく、本実施例の波形解析装置においては、インパルス成分を精度よく捕らえるために、1番目からn番目までのサンプリングデータの次に1+k番目からn+k番目のサンプリングデータを用いて離散フーリエ変換を行う。なお、ここでkは、1からn/16の数値であり、k=1が最も望ましい。また、本実施例の波形解析装置において、nは、256以上の2のべき乗の数値とすることが望ましい。n=256の場合には周波数は128個に分解でき、インパルスを測定するには十分であるが、nの値を小さくしすぎるとインパルスを測定することが難しくなるためである。
【0020】
図1において、本実施例の波形解析装置200は、機械装置内に設置されており、測定対象となる機械要素の物理現象を測定するセンサ部(物理センサ)203と、ゲートアレイやマイクロプロセッサで構成された演算部201と、無線によりデータの送受信を行うリモート側通信部202とを備えている。波形解析装置200は、オペレータコンソール100と接続されている。オペレータコンソール100は、モニタと入力装置を有する一般的な一体型のコンピュータ(所謂、ノートパソコン)であり、さらにリモート側通信部202と無線通信ができる本体側通信部102を備えている。
【0021】
図においては、演算部201を機能的なブロックに分けて示している。演算部201は、コントロール部204と、シフトストア部205と、前段の重み付け部207と、離散フーリエ変換部208と、後段の重み付け部209と、累積部210とを具備している。コントロール部204は、シフトストア部205に対してサンプリング周期(1/fs)毎にタイミング信号t1を与え、シフトストア部205はセンサ部からの信号波形をサンプリングする。シフトストア部205は、n段の記憶部206を具備しており、サンプリング周期毎にデータを次段へ順に送る。シフトストア部205は、さらに、n段の記憶部206が記憶したサンプリングデータを並列に出力する。また、シフトストア部205の中央に位置する記憶部206からは、サンプリングデータが出力されてコントロール部204へ送られる。中央に位置する記憶部206としたのは、後に説明する前段の重み付け部207により、最も重い重み付けをされる場合があるデータであるからである。コントロール部204は、メモリ211を有しており、シフトストア部205が保持できるサンプリングデータ量よりも大きな記憶領域を有しており、数時間にわたるデータを保持することができる。また、上書きして継続的に更新されている。オペレータコンソール100からの要求があれば、記憶しているサンプルデータを転送することができる。
【0022】
前段の重み付け部207は、シフトストア部205からサンプリングデータを並列に受け取り、各サンプリングデータに適当な重み付けを行い、夫々のサンプリングテータを離散フーリエ変換部208へ並列に渡す。
【0023】
前段の重み付け部207は、重み付けデータWをコントロール部から予め受け取る。重み付けデータWは、所謂「窓関数」と呼ばれるものであり、重み付けを各サンプリングデータに乗じる機能を有する。
図3Aに、窓関数の一例を示した。窓関数は、ある有限区間以外で0となる関数とされており、中央を凸とした山型の重み付けである。1からnのサンプルデータに対して、中央の位置のサンプルデータに対する重み付けを大きくし、両端を小さくする。前段の重み付け部を設けることで、センサ部に非常に長い周期を有する波形が検出されたときに生じる問題を回避することができる。この問題は、次のように説明できる。例えば、サンプリング周波数fs=2KHz、データ数n=256に設定した場合、時間窓長n/fsは128msecである。仮に128msecの近辺の周期を持つ波形がセンサ部により検出されたときに、1周期が128msecの範囲に収まらずに不連続になる。そのような不連続なサンプルデータが存在すると、インパルスとして検出してしまう。このような問題を、前段の重み付け部により避けることが出来る。そのような、長周期を有する波形が想定されなければ、前段の重み付け部207を設けずに、シフトストア部205と離散フーリエ変換部208を直接に繋げても良い。
【0024】
離散フーリエ変換部208は、タイミング信号t2を受け取り、n/2個(Δf、2Δf、・・・・(n/2)Δf)の周波数成分と直流成分とを計算して出力する。タイミング信号t2は、サンプリング周期(1/fs)のr倍(rは正の整数)の周期で発生する(演算周期CLと称することにする)。すなわち、離散フーリエ変換部208の演算をサンプリング周期(1/fs)と同じ周期で(r=1の場合)行うか、遅い周期(r=n/16の場合)で行うか、それともその間のいずれかのタイミングで行うかをコントロール部204が指示する。
【0025】
後段の重み付け部209は、離散フーリエ変換部208から各周波数成分及び直流成分の振幅を並列に受け取り、適当な重み付けを行い、各振幅を累積部210に送る。累積部210は、各振幅を加算し、これを振幅累積値としてコントロール部204へ送る。振幅累積値は、演算周期CL毎に新しい値がコントロール部204へ送られる。
【0026】
後段の重み付け部209は、重み付けデータFLをコントロール部204から予め受け取る。重み付けデータFLは、離散フーリエ変換部208から得られた振幅に対して重み付けをする。
図3B、3C、3Dに、重み付けのパターンを示した。
【0027】
図3Bは、所定の高さ以上の振幅については、上限値を制限する重み付けデータである。「上限ウエイト」と称することにする。上限値は周波数毎に定めても良いが、本実施例においては、最大値は各周波数において共通な上限値としてp0に制限している。離散フーリエ変換を行うと、インパルスは複数の周波数に分解されるため、夫々の大きさは元のインパルスの大きさよりもデータ数nに応じて小さくなる。一方、機械装置の固有振動による波形は、特定の周波数を有しており、離散フーリエ変換を行っても、当該特定周波数の振幅がほぼそのまま大きく現れる。固有振動は、障害とは関係有無に拘わらず発生する可能性が有り、また、共振により大きくなることもある。どの周波数においても上限値を制限することにより、どのような周波数に対して振幅を持つ固有振動が発生するかを予め知っておく必要はない。
【0028】
図3Cは、
図3Bの「上限ウエイト」に加えて、周波数に応じて変更される重み付けを減算し、マイナスになる場合はゼロとするものである。これを「減算ウエイト」と称する。この減算ウエイトにおいては、直流成分0からある周波数mΔfまでの勾配と、周波数mΔfから周波数(n/2)Δfまでの勾配を変更するようなウエイトである。直流成分0からmΔfまでの勾配を((p2-p1)/m)とし、周波数mΔfから周波数(n/2)Δfまでの勾配を((p3-p2)/(n-m))とする。なお、
図3Cに示した例では、p1=p2となっており、低い周波数においては減算値を一定にしている。
【0029】
図3Dでは、直流成分0からmΔfまでの勾配は
図3Cと同じであるが、周波数mΔfからは周波数(n/2)Δfにいたる途中で、減算する重みデータをゼロとする。「減算ウエイト」は、機器の作動に伴い常態的にバックグラウンドで発生する各周波数の振幅を減じるものであって、機器に依存する。
【0030】
図3C、
図3Dにおいては、例えばある周波数の振幅がpxであったとすると、pxがp0よりも大きければ当該周波数の振幅は「上限ウエイト」によりp0に制限され、そして、「減算ウエイト」により決められた数値だけ減算され、もしくはゼロにされる。
【0031】
「上限ウエイト」は、p0の一定値(傾き0)でなくとも良く、正負の傾きを有するものでも良い。また、「減算ウエイト」もp2における一箇所で傾きが変わるもので無くとも良く、複数箇所で変わるものでも良いが、発明者の実験によれば「上限ウエイト」および「減算ウエイト」は単純なパターンで良いことが分かっている。重み付けデータFLは、予めコントロール部204から後段の重み付け部209から設定される。後段の重み付け部209を設けることにより、インパルスを検出する精度を向上させることができる。
【0032】
センサ部203は、振動、音、電磁波といった物理的現象を検出するセンサであり、アナログ的に得られた検出値にA/D変換を施してデジタル値として出力する。アナログセンサは、応答周波数を有していることは知られている。応答周波数は、一般的に、直流時を100%として、約70%(厳密には、1/√2)まで落ちた周波数と言われている。
図2Cは、一例としてセンサ部の特性を示している。一方、サンプリング周波数fsは、インパルスの短い波形を捕らえるために、応答周波数よりも高い周波数に設定されている。但し、高すぎるサンプリング周波数にすると信号減衰が激しいため、正しい演算が行えない可能性がある。従って、サンプリング周波数fsは、応答周波数の2倍程度にしておくのが良い。
【0033】
図4は、オペレータコンソール100と波形解析装置200の動作を示すフローチャートであり、
図4Aは初期値を設定する設定フロー、
図4Bは物理的現象を検出する際の検出フローである。
【0034】
図4Aにおいて、操作者は、オペレータコンソール100を使って、波形解析装置200に初期値を設定する。波形解析装置200には、振動、音、電磁波といった物理的現象を検出するために、その用途に即した機能を有するセンサ部203が具備されている。振動は、音に比べて低い周波数である。振動を検出するセンサ部203の場合には、数KHzのサンプリング周波数、音の場合には数10KHzのサンプリング周波数を用いる。本実施例においては、コストを考慮して各波形解析装置200の演算部201は共通の構成を有する部材を利用する。演算周期CLとサンプリング周期は同じことが望ましいが、音においては離散フィーリエ変換により計算する能力が間に合わないことがある。波形解析装置200は、演算周期CLとサンプリング周期とを別に設定できるようにして、演算周期CLをサンプリング周期よりも遅い値を選ぶことができることにしてある。
【0035】
設定フローにおいて、各波形解析装置200に対して設定を行う。オペレータコンソール100には、まず、各波形解析装置200がどの場所に搭載されているかの位置情報が入力される。位置情報は、各種の測定対象、例えば軸受けに対応付けられている。次に、特定の波形解析装置200に対して、操作者によりサンプリング周波数fs、演算等のパラメータが入力される。また、重み付けデータWを用いるか、どうかも入力される。また、重み付けデータFLを特定するために、p0、p1、p2、p3、p2のときの周波数、p3のときの周波数が指定される。これらから各周波数の重み付けデータからなる重み付けデータFLを作成する。なお、
図3Dの例では、振幅が0になる周波数が指定される。また、オペレータコンソール100を介して当該波形解析装置200における振幅累積値に対するしきい値が設定される。こうして入力された各種パラメータは本体側通信部102を介して、当該波形解析装置200を特定する情報を付加して波形解析装置200に送信される。そして、オペレータコンソール100では、この処理を繰り返して各波形解析装置200に対してパラメータを送信する。波形解析装置200においては、リモート側通信部202を介して受信した情報が、自身へのパラメータの設定であると判断すると、受信した情報に含まれるパラメータに基づき、コントロール部204は自身のしきい値として取得したしきい値を設定し、さらにコントロール部204は前段の重み付け部207、後段の重み付け部209に重み付けデータW、FLを設定し、また、タイミング信号t1、t2を発生する。
【0036】
次に検出フローにおいて、波形解析装置200は、タイミング信号t1、t2に基づいて得られた累積部210の振幅累積値を取得して、振幅累積値がしきい値を超えているかどうかを判定する。しきい値を超えている場合には、トラブル発生と判定し、この判定結果に当該波形解析装置200を特定する情報を付加してリモート側通信部202を介して送信する。さらに、波形解析装置200は、シフトストア部205からメモリ211に出力されるサンプリングデータにつき、トラブル発生時の前後数分間のデータをマーキングして、上書きしないように設定する。メモリ211のデータは、後にオペレータコンソール100の要求に応じて読み出される。オペレータコンソール100は、波形解析装置200からトラブル発生を受信すると、モニタ上に、当該波形解析装置200が搭載されている場所に異常が発生していると表示する。
【0037】
パーソナルコンピュータであるオペレータコンソール100は、(1)波形解析装置200のシフトストア部205からコントロール部204へ送られたサンプリングデータをメモリ211から読み出し、(2)サンプリング周期を1又はrだけずらしたn個の検出信号に対して重み付けデータWによる重み付けをし、(3)n個の検出信号を用いて離散フーリエ変換を行い、(4)得られた振幅に対して重み付けデータFLにより重み付けを行い、(5)振幅累積値を求め、(6)しきい値による判定をするという一連のステップを波形解析装置200と同様に自身に格納されたソフトウェアにてバッチ処理することが可能である。オペレータコンソール100側でも、波形解析装置200において生じたことをオペレータコンソール100側でも再現することができ、例えば異常が検出されたときに、どのような離散フーリエ変換結果が得られていたかをモニタ上に表示して解析することが可能である。
【0038】
[適用例]
以下に、搬送ロボットを備える半導体製造システム2に波形解析装置を適用する例について説明する。以下、本実施例においての設定は、以下の通りである。なお、電磁波についての検出は行っていない。
【0039】
検出対象:振動
サンプリング周期:500μsec(fs:2KHz)
演算周期CL:500μsec(2KHz)
データ数n:256個(500μsec×256=128msec)
周波数範囲(n/2)Δf:1KHz
周波数分解能Δf:7.8125Hz
【0040】
検出対象:音
サンプリング周期:25μsec(fs:40KHz)
演算周期CL:150μsec(r=6)
データ数n:256個(6.4msec)
周波数範囲(n/2)Δf:20KHz
周波数分解能Δf:156.25Hz
【0041】
半導体製造システム2では、処理部において所定の雰囲気下で半導体ウエハの表面に各種処理を施す。処理部の手前にはロードロック室が存在し、大気雰囲気と真空雰囲気との間の中継が行われる。FOUP(Front-Opening Unified Pod)に格納された半導体ウエハを、ロードロック室へ受け渡す処理は、
図5に示す搬送装置の一形態であるEFEM(Equipment Front End Module)4で行われる。
【0042】
EFEM4、14は、FOUPをその裏側に載置してその蓋を開閉するロードポート6と、FOUPの内部に収納された半導体ウエハを取り出してロードロック室へ差し入れる搬送ロボット3とをその内部に具備している。
【0043】
図5に示すEFEM4が備える搬送ロボット3は、走行機構7に搭載されており、走行機構7は、搬送ロボット3(被搬送物)を水平面内で直線方向に移動させる。走行機構7は、搬送ロボット3を水平面内の所定の方向に案内する不図示の一対の案内軌道と、この案内軌道に対して平行に配設された同じく不図示の送りネジ機構と、この送りネジ機構のネジ軸を回転駆動するための走行駆動モータ8とで構成されている。なお、走行駆動モータ8や送りねじ機構には駆動用の軸部材を円滑に回転させるための軸受けが備えられており、また、ガイドレールにはレール上を摺動移動するスライドブロックの摺動抵抗を低減するためのボールリテーナが備えられている。これらの軸受けやボールリテーナといった摩擦低減部材は、長期間にわたる動作により摩耗や、内部に塗布されたグリスの劣化が進行して、動作中の振動発生の原因となる。走行機構7には、測定対象となるこれらの摩擦低減部材の夫々に近接して波形解析装置28(代表して、1つのみ図示した)が搭載されている。波形解析装置28のセンサ部は、振動を検出する加速度センサーである。
【0044】
搬送ロボット3は、一対のアーム体11、12が左右対称に備えられていて、アーム体11は、胴体10に軸受けを介して回転可能に取り付けられていて水平面内で回転可能な構成になっている。アーム体11、12の先端には軸受けを介してフィンガ21、22が設けられている。また、アーム体11は多関節を有しており、フィンガ21を所定の方向に向けた状態で伸縮動作することが可能であり、フィンガ21上に支持する半導体ウエハ(被搬送物)を所定の位置まで搬送することが出来る。アーム体12は多関節を有しており、フィンガ22を所定の方向に向けた状態で伸縮動作することが可能であり、フィンガ22上に支持する半導体ウエハを所定の位置まで搬送することが出来る。
【0045】
フィンガ21、22は、アーム体11、12の伸縮動作によりそれぞれ独立して進退移動する。そして、
図5には測定対象としたフィンガ21の軸受けに対して近接して波形解析装置29が搭載されている。波形解析装置29は、搬送ロボット3の他の測定対象に対しても設けられており、全ては図示されていない。波形解析装置29も、波形解析装置28と同様にセンサ部203として加速度センサーを備えている。
【0046】
搬送ロボット3における測定対象としては、クロスローラ軸受けやラジアル軸受け等である。これら軸受けは、例えばアーム体11、12においてはラジアル荷重やスラスト荷重、軸のモーメント荷重を支持しており、長期の使用により劣化したり破損したりする。
【0047】
EFEM4の内部空間は、四方をフレーム18とカバー19とから成る仕切り部材で囲まれていて、EFEM4の天井部分にはFFU(Fun Filter Unit)23が搭載されている。FFU23は、ファンの回転によって導入してきた空気をフィルタによって清浄なクリーンエアとして濾過してEFEM4内部に供給するもので、このFFU23から供給されるクリーンエアのダウンフローよって、搬送ロボット3の動作により発生した塵埃はEFEM4の外部へと排出されることとなり、EFEM4内部は常に清浄な雰囲気に維持されている。ファンの軸受けに対して近接して波形解析装置30が搭載されている。ビデオカメラ37はEFEM4の内部清浄空間に配置されていて、搬送ロボット3やその他の機械装置の動作を常時撮影して、その画像を録画データとしてハードディスクやメモリーといった不図示の記録装置に記録している。
【0048】
EFEM4の内部には、搬送ロボット3の動作によって発生する音を検出する音を測定対象とする波形解析装置38が固定されており、搬送ロボット3が動作している間は、搬送ロボット3の動作によって生じる音を常時検出するようにする。波形解析装置38が備えるセンサ部203は、マイクロフォンである。機械要素同士の接触音以外にも、フィンガ21、22に搭載された半導体ウエハが搬送中に、樹脂製のチューブや、配線ケーブル、若しくは金属と接触することも想定される。音は設置場所を選ばずに取得出来る情報であるため、音を測定対象とする波形解析装置38は、広い範囲をカバーする用途に好適である。波形解析装置38により得た振幅累積値に異常を検出したら、ビデオカメラ37が前後数分間に記録された画像データを上書きすることなく記憶装置に保存する。上記構成とすることで、ウエハの接触や衝突といった品質を大きく低下させる可能性のある異常が発生した際に、作業者は即座に異常が発生したことを把握出来る。さらに、保存された画像データを確認することで、どういった異常が発生したかも把握することが可能になり、短時間でトラブルを解消することが可能になる。
【0049】
[測定結果]
図6は、波形解析装置30がファンの軸受けについて振動を測定した例である。
図6Aは正常時、
図6Bは異常時を示している。異常は、僅かに擦れが発生するように実験的に設定したものである。図において、横軸は時間である。波形h1、h3は、センサ部からの測定信号(生の波形)を示している。また、波形h2、h4は、累積部から得られた振幅累積値である。なお、波形解析装置30への設定は、先に示した振動に対するサンプリング周期、データ数であり、前段の重み付け部207に設定する重み付けデータWとして窓関数を使用した。また、後段の重み付け部209には重み付けデータFLは設定せず、累積部は離散フーリエ変換部で算出された各周波数をそのまま加算した。
【0050】
図6Bの波形h3を観察すると、
図6Aの波形h1に対して周波数が全体的に乱れている様子がうかがえる。この状態では、固有振動が発生して乱れているのか、インパルスが発生しているのかどうかの判別は付けられない。一方、
図6Bの波形h4を観察すると、
図6Aの波形h2に対して全体的に振幅累積値が増加している傾向が見られ、インパルス、すなわち非連続的な振動が発生していることが分かる。図には、一定のしきい値Th1を示している。
図6Bを観察するとしきい値Th1を10秒近く超えている。ベアリングがスリップして不連続な振動を発生していると類推できる。このようなスリップをしたまま長時間放置すると、ベアリングが摩耗して故障につながるのである。
【0051】
図7は、オペレータコンソールのソフトウェアによりバッチ処理されて求められた離散フーリエ変換の結果を示している。
図7Aは正常時の各周波数成分における振幅のプロットh5、
図7Bは異常時の各周波数におけるにおける振幅のプロットh6である。異常時においては、どの周波数成分においても振幅が増加している様子が観察できる。
【0052】
図8は、音を測定対象とした波形解析装置38からの検出信号を離散フーリエ変換した結果を示している。半導体ウエハを半導体製造システム2の構成部品と実験的に接触させて、音を検出する。
図8の離散フーリエ変換の結果は、半導体ウエハにチューブ、配線、金属部を試験的に接触させて波形解析装置38により取得された検出信号を、オペレータコンソールのソフトウェアによりバッチ処理させて求めたものである。重み付けデータWとしては窓関数を使用し、重み付けデータFLを設定しなかった。尚、音を検出するためにマイクロフォンを波形解析装置38のセンサ部に用いた。
【0053】
図8Aは接触が発生しないときの離散フーリエ変換の結果であり、
図8Bはチューブと接触したときの離散フーリエ変換の結果、
図8Cは配線と接触したときの離散フーリエ変換の結果、
図8Dは金属部と接触したときの離散フーリエ変換の結果である。各結果とも同様に接触したときに全周波数に渡って広い範囲で大きな振幅が検出されており、不連続な振動が発生したことが示されている。よって、樹脂製部材のチューブ、配線ケーブルといった柔軟なものであっても、金属部と同様に、振幅累積値には非接触時とは明確な違いが現れることになり、しきい値設定により異常が検出できるのである。
【0054】
図9は、FOUPに半導体ウエハを接触させた場合の振動(音では無い)を検出した例である。この例も、オペレータコンソールのソフトウェアによりバッチ処理させて求めたものである。重み付けデータWとしては窓関数を使用し、重み付けデータFLとして
図9Aに示す重み付けデータFLを用いた。
【0055】
図9B、9Cは正常時の離散フーリエ変換の結果として得た各周波数成分における振幅のプロットh7と振幅累積値h8で有る。
図9D、9Eは異常時の離散フーリエ変換の結果として得た各周波数成分における振幅のプロットh9と振幅累積値h10で有る。
図9Bと
図9Dには、重み付けデータFLで重み付けを行う範囲を重ねて表示した。
図9Cと
図9Eとを比較すると、振幅累積値には非接触時とは明確な違いが現れており、しきい値Th2(
図9E)を設定することにより、異常を検出することができる。なお、
図9Dにおいては、重み付けデータFLで重み付けを行う範囲を超えた振幅を有する周波数が現れている。いくつかは、
図9Bには観察されないピーク(例えば、
図9Dの中のpk)であるので、機械要素の共振により振幅が増加したものと推測される。このようなピークは、広い範囲に均一的に振幅が生じるインパルスとは異なるものである。重み付けデータFLにより、大きな振幅を有する特定の周波数による影響を縮小することが出来る。
【0056】
上記実施例においては、波形解析装置とオペレータコンソールは、無線により交信を行なったが、有線で行っても良い。また、演算部201の処理能力が高ければ、1つの波形解析装置の中に、振動と音、音と電磁波などのように複数の物理現象を検出するセンサに対して1つの演算部201により実時間で対応させても良い。この場合、例えば、シフトストア部、前段の重み付け部、後段の重み付け部をセンサ部毎に設けて、コントロール部と離散フーリエ変換部は共用する等の構成を採用しても良い。
【0057】
上記においては、実施例の波形解析装置が搭載される搬送装置の例としてEFEM4を示した。EFEM4は、搬送ロボット3を走行機構7に搭載して水平面内で直線方向に移動させたものであるが、他の構成の搬送装置に搭載しても良い。
図10に、他の搬送装置の例として、EFEM14を示す。処理部5は所定の雰囲気下で半導体ウエハの表面に各種処理を施す。処理部の手前にはロードロック室9が存在し、大気雰囲気と真空雰囲気との間の中継が行われる。EFEM14は、EFEM4と同様に、FOUP20に格納された半導体ウエハを、ロードロック室9へ受け渡す処理を行うものである。EFEM14が備える搬送ロボット13は、EFEM14の床面のフレーム18にその基台24が固定されている点でEFEM4とは異なる。搬送ロボット13は、基端が基台24に対して回転自在に構成備えられる第1アーム15と、基端が第1アーム15の先端に回転自在に備えられる第2アーム16と、それぞれの基端が第2アーム16の先端に回転自在に備えられる上下フィンガ17a、17bとを少なくとも備えている。第1アーム15、第2アーム16、上下フィンガ17a、17bは、それぞれを個別に回転動作させる不図示の駆動モータと減速機を備えていて、これら第1アーム15と第2アーム16と上下フィンガ17a、17bとが同期補間動作を行うことで、搬送ロボット13は、走行機構7が無くても上下フィンガ17a、17bで支持する半導体ウエハを所定の位置まで搬送することが出来る。
【0058】
図10には測定対象としたフィンガ17a、17bの軸受けに対して近接して波形解析装置29が搭載されている。波形解析装置29は、搬送ロボット13の他の測定対象に対しても設けられており、全ては図示されていない。また、EFEM14の天井部分にはFFU23が搭載されていて、このFFU23から供給されるクリーンエアのダウンフローよって、搬送ロボット13の動作により発生した塵埃はEFEM14の外部へと排出されることとなり、EFEM14内部は常に清浄な雰囲気に維持される。ファンの軸受けに対して近接して波形解析装置30が搭載されている。ビデオカメラ37はEFEM14の内部清浄空間に配置されていて、搬送ロボット13やその他の機械装置の動作を常時撮影して、その画像を録画データとしてハードディスクやメモリーといった不図示の記録装置に記録している。
【0059】
EFEM14の内部には、搬送ロボット13の動作によって発生する音を検出する音を測定対象とする波形解析装置38が固定されており、搬送ロボット13が動作している間は、搬送ロボット3の動作によって生じる音を常時検出するようにする。波形解析装置38が備えるセンサ部203は、マイクロフォンである。さらに、波形解析装置38により得た振幅累積値に異常を検出したら、ビデオカメラ37が前後数分間に記録された画像データを上書きすることなく記憶装置に保存する。上記構成とすることで、ウエハの接触や衝突といった品質を大きく低下させる可能性のある異常が発生した際に、作業者は即座に異常が発生したことを把握出来る。さらに、保存された画像データを確認することで、どういった異常が発生したかも把握することが可能になり、短時間でトラブルを解消することが可能になる。
【符号の説明】
【0060】
2 半導体製造システム
3、13 搬送ロボット
4、14 EFEM
5 処理部
6 ロードポート
7 走行機構
8 走行駆動モータ
9 ロードロック室
10 胴体
11、12 アーム体
15 第1アーム
16 第2アーム
17a、17b 上下フィンガ
18 フレーム
19 カバー
20 FOUP
21、22 フィンガ
23 FFU
24 基台
200、28、29、30、38 波形解析装置
37 ビデオカメラ
100 オペレータコンソール
102 本体側通信部
201 演算部
202 リモート側通信部
203 センサ部
204 コントロール部
205 シフトストア部
206 記憶部
207 前段の重み付け部
208 離散フーリエ変換部
209 後段の重み付け部
210 累積部
211 メモリ