(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】固定用治具
(51)【国際特許分類】
H02G 1/06 20060101AFI20240529BHJP
H02G 3/30 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
H02G1/06
H02G3/30
(21)【出願番号】P 2020164191
(22)【出願日】2020-09-29
【審査請求日】2023-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108419
【氏名又は名称】大石 治仁
(74)【代理人】
【識別番号】100109221
【氏名又は名称】福田 充広
(72)【発明者】
【氏名】宮沢 靖直
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0098557(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 1/06
H02G 3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定用テープを介して線状に延びる被固定体上の対象を挟む一対の狭持部材と、
前記一対の狭持部材に対して対象を挟み込む付勢力を与える付勢部材とを備え、
前記一対の狭持部材は、対象に接合された部分から側方に延びるテープ部分を曲げて前記被固定体の表面形状に沿わせるとともに、前記固定用テープの延びる方向への移動を滑らかにする滑動支持部材を有
し、かつ、前記テープ部分を被固定体の表面に沿って押圧させる一対の板状の拡張部を備える、
固定用治具。
【請求項2】
前記滑動支持部材は、球状回転支持体又は円筒状のローラを含む、請求項1に記載の固定用治具。
【請求項3】
前記滑動支持部材は、前記テープ部分を曲げる箇所を押さえ付ける位置に配置される、請求項1及び2のいずれか一項に記載の固定用治具。
【請求項4】
前記一対の狭持部材に付随して前記固定用テープを介して対象に付勢力を与える仕上げ部材をさらに備える、請求項1~
3のいずれか一項に記載の固定用治具。
【請求項5】
前記一対の狭持部材は、対象の断面形状に対応する内面形状を有する、請求項1~
4のいずれか一項に記載の固定用治具。
【請求項6】
仮固定された進行方向前方の前記固定用テープの受け入れを容易にするガイド部材を備える、請求項1~
5のいずれか一項に記載の固定用治具。
【請求項7】
前記固定用テープを一対の前記狭持部材の先端部に向けて供給するテープ供給部をさらに備える、請求項1~
6のいずれか一項に記載の固定用治具。
【請求項8】
前記一対の狭持部材と前記付勢部材とを一組とする把持ユニットを複数有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の固定用治具。
【請求項9】
前側の前記把持ユニットの前端側に、仮固定された進行方向前方の前記固定用テープの受け入れを容易にするガイド部材をさらに備える、請求項
8に記載の固定用治具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線状に延びる被固定体上の対象をテープによって被固定体に固定するための固定用治具に関し、例えば工業用の場合、ケーブルを被固定体に固定するための固定用治具に関する。
【背景技術】
【0002】
ケーブルの配線装置として、接着性の基材の上方で3次元的に移動する位置制御装置と、その下部に固定された光ファイバ配線ヘッドとを備え、光ファイバ配線ヘッドの下端に傾斜したガイド溝を設けたものが公知となっている(特許文献1)。
【0003】
上記のような配線装置は、接着性の基材が前提となっており、壁面のような接着剤層を有しない対象にケーブルを固定することができない。
【0004】
一方で、ケーブルを粘着テープで覆うように取付箇所に貼り付けて固定することも従来行われている。粘着テープを用いる方法は、取付箇所の自在性が高くコストを低くできるが、確実で無駄のない固定を達成するためには、作業者の熟練を要するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【0006】
本発明は、上記背景技術に鑑みてなされたものであり、配線その他の対象を様々な箇所に、簡便かつ容易に低コストで固定することができる固定用治具を提供することを目的とする。
【0007】
上記目的を達成するための固定用治具は、固定用テープを介して線状に延びる被固定体上の対象を挟む一対の狭持部材と、一対の狭持部材に対して対象を挟み込む付勢力を与える付勢部材とを備え、一対の狭持部材は、対象に接合された部分から側方に延びるテープ部分を曲げて被固定体の表面形状に沿わせるとともに、固定用テープの延びる方向への移動を滑らかにする滑動支持部材を有する。
【0008】
上記固定用治具によれば、一対の狭持部材が、対象に接合された部分から側方に延びるテープ部分を曲げて被固定体の表面形状に沿わせるとともに、固定用テープの延びる方向への移動を滑らかにする滑動支持部材を有するので、固定用治具の移動を滑らかにしつつ、対象を様々な箇所に作業性を高めつつ低コストで取付けることができる。
【0009】
具体的な側面において、滑動支持部材は、球状回転支持体又は円筒状のローラを含む。この場合、固定用テープに発生する応力を低減し、固定用治具の滑動性を向上させることができる。
【0010】
別の側面において、滑動支持部材は、テープ部分を曲げる箇所を押さえ付ける位置に配置される。この場合、テープ部分を曲げる箇所でテープ部分を被固定体に付着させやすくなる。
【0011】
さらに別の側面において、一対の狭持部材は、テープ部分を被固定体の表面に沿って押圧させる一対の板状の拡張部を備える。拡張部は、テープ部分を被固定体の表面に押圧することによって、テープ部分を被固定体に貼り付ける。
【0012】
さらに別の側面において、一対の狭持部材に付随して固定用テープを介して対象に付勢力を与える仕上げ部材をさらに備える。仕上げ部材により、固定用テープを介して対象に外方向から付勢力を与えることができ、固定用テープの要所を対象に密着させることができる。
【0013】
さらに別の側面において、一対の狭持部材は、対象の断面形状に対応する内面形状を有する。これにより、一対の狭持部材と対象との間に固定用テープを挟み込むようして対象に固定用テープを張り付けることができる。
【0014】
さらに別の側面において、仮固定された進行方向前方の固定用テープの受け入れを容易にするガイド部材を備える。この場合、一対の狭持部材の前進を滑らかなものにすることができる。
【0015】
さらに別の側面において、固定用テープを一対の狭持部材の先端部に向けて供給するテープ供給部をさらに備える。この場合、固定用テープの仮止めといった前作業が必須のものでなくなり、対象の固定作業がより簡便となる。
【0016】
さらに別の側面において、一対の狭持部材と付勢部材とを一組とする把持ユニットを複数有する。この場合、曲線状に配置される固定用テープに対する適合性を高めることができる。
【0017】
さらに別の側面において、前側の把持ユニットの前端側に、仮固定された進行方向前方の固定用テープの受け入れを容易にするガイド部材をさらに備える。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る第1実施形態の固定用治具を説明する斜視図である。
【
図2】
図1の固定用治具の一部破断正面断面図である。
【
図3】(A)は、
図1の固定用治具の側面図であり、(B)は、固定用治具の平面図である。
【
図4】(A)は、固定用治具を用いたケーブルの固定作業を説明する概念図であり、(B)は、固定後の状態を示す断面図である。
【
図5】変形例の固定用治具を説明する側面図である。
【
図6】別の変形例の固定用治具を説明する斜視図である。
【
図7】第2実施形態の固定用治具を説明する図である。
【
図8】(A)及び(B)は、第3実施形態の固定用治具を説明する断面図である。
【
図9】(A)及び(B)は、第4実施形態の固定用治具を説明する図である。
【
図11】(A)及び(B)は、第5実施形態の固定用治具を説明する側面図及び平面図である。
【
図12】(A)は、第6実施形態の固定用治具を説明する側面図であり、(B)は、変形例の固定用治具を説明する要部平面図である。
【
図13】(A)及び(B)は、第7実施形態の固定用治具を説明する図である。
【
図14】第7実施形態の固定用治具を用いたケーブルの固定作業を説明する概念図である。
【
図15】(A)~(C)は、第8実施形態の固定用治具を説明する部分的斜視図、部分拡大正面断面図、及び概念的側方断面図である。
【
図16】(A)及び(B)は、変形例の固定用治具を説明する部分的斜視図及び部分拡大断面図である。
【
図17】(A)~(C)は、変形例の固定用治具を説明する部分的斜視図、部分拡大正面断面図、及び概念的側方断面図である。
【
図18】(A)~(C)は、第9実施形態の固定用治具を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
〔第1実施形態〕
以下、図面を参照して、第1実施形態である固定用治具の詳細について説明する。
図1は、第1実施形態の固定用治具10の外観を説明する斜視図であり、
図2は、固定用治具10の正面断面図である。また、
図3(A)は、
図1の固定用治具10の側面図であり、
図3(B)は、固定用治具10の平面図である。ここで、
図2は、
図3(A)におけるEE矢視断面を示す一部破断図である。
【0020】
固定用治具10は、クリップ状の部材であり、第1の狭持部材2と、第2の狭持部材3と、付勢部材5と、グリップ7a,7bとを備える。
【0021】
図2に示すように、固定用治具10は、対象であるケーブルCAを、固定用テープである粘着テープATによって、被固定体である壁体BPの表面PSに固定するための器具である。一対の狭持部材2,3は、粘着テープATを介して線状に延びるケーブルCAを所定の力で挟む。この際、一対の狭持部材2,3は、粘着テープATのうちケーブルCAに接合された部分から側方に延びるテープ部分を曲げて壁体BPの表面形状に沿わせる。一対の狭持部材2,3は、連結軸4を介して連結され、第2の狭持部材3は、
図2において点線で示すように、第1の狭持部材2に対して連結軸4を中心として回動可能になっている。付勢部材5は、一対の狭持部材2,3に対してこれらを近接させ閉じるような付勢力を与える。つまり、一対の狭持部材2,3は、付勢部材5に駆動されて対象であるケーブルCAに対してこれを挟み込むような付勢力を与える。付勢部材5は、例えばねじりコイルバネであり、第1の狭持部材2に対して第2の狭持部材3を時計方向に回転させる回転力を与える。グリップ7a,7bは、一対の狭持部材2,3に接続部21,31を介して接続され上方に延びる。グリップ7a,7bは、固定用治具10を用いたケーブルCAの固定作業開始の際に作業者が握って一対の狭持部材2,3を開状態とする部分である。ケーブルCAの固定作業に際しては、固定用治具10を開始点にセットし動作方向ABに沿って前方(A方向)移動させて、粘着テープATによってケーブルCAを包むようにして壁体BPに固定する。
【0022】
図2に示す固定対象であるケーブルCAは、図示のように複数の被覆導線をシースで覆う構造のものに限らず、例えば複数の被覆導線をテープで束ねたようなものであってもよく、テープで束ねる前の複数の被覆導線であってもよい。粘着テープATは、基材ATf上に粘着層ATgを設けたものである。粘着テープATは、ケーブルCA等の表面形状に合わせて変形し、ケーブルCAの表面CSや壁体BPの表面PSに接着可能になっている。基材ATfは、例えばポリエステルその他の樹脂、不織布、紙等で形成することができ、好ましくは塑性変形する材料、より好ましくは金属箔又はこれを含む積層体で形成することができる。粘着層ATgは、ゴム系、アクリル系、シリコーン系等のいずれであってもよい。粘着層ATgは、ケーブルCA等の外観形状から受ける反発力に抵抗し得る粘着力を有し、基材ATfは、材質や厚みの設定によってケーブルCAの外形等に応じて変形する柔軟性を有する必要がある。
【0023】
図2及び3を参照して、第1の狭持部材2について説明する。第1の狭持部材2は、金属や樹脂で形成することができ、円筒面状の本体2aと、平板状の拡張部2bと、ガイド部材2cとを備える。本体2aは、ケーブルCAの側面にフィットするように湾曲し、円筒面の母線に沿ったような細長い形状を有する。つまり、本体2aは、対象であるケーブルCAの断面形状に対応する内面形状を有する。これにより、狭持部材2と対象との間に固定用テープを挟み込むようして対象に固定用テープを張り付けることができる。ここで、本体2aの内面の内径曲率Icは、ケーブルCAの側面の外径曲率Ccと一致することが望ましいが、ケーブルCAの側面の外径曲率Ccより小さくなってもよい。平板状の拡張部2bは、本体2aの下端から横方向に延びている。拡張部2bは、ケーブルCAの固定作業時に、固定用治具10の動作方向ABと直交方向CDとに平行に延びる状態となる。本体2aに取り付けられたガイド部材2cは、本体2aの先端部2fから前方下向きに延びる。ガイド部材2cは、仮固定された進行方向前方の固定用テープとしての粘着テープATの受け入れを容易にする。
【0024】
本体2aは、ケーブルCAの側面に対応する粘着テープATの部分をケーブルCAの軸心に向けて主に横方向から付勢することを可能にする。拡張部2bは、ケーブルCAを覆う粘着テープATのうちケーブルCAの側方にはみ出したテープ部分である側部92を曲げて被固定体である壁体BPの表面PSに沿うように押圧し、側部92を壁体BPの表面PSに貼り付ける部分である。ガイド部材2cは、粘着テープATを予め曲げた状態にして本体2aの内側と拡張部2bの下側とに誘導する。以上の第1の狭持部材2において、本体2aと拡張部2bとの境界である角部2jは、全体として屈曲に近い状態となっているが、内面側には、鉛直方向に所定の幅を有し前後のAB方向に延びる帯状の平坦部FLが形成されている。角部2jには、後述するように滑動支持部材28が埋め込むように設けられている。角部2j及びその近傍における本体2aと拡張部2bとの成す角や連結形状は、図示のものに限らず、ケーブルCAの形状や固定条件に応じて適宜設定することができる。
【0025】
図3に示すように、ガイド部材2cは、先端に球状で滑らかな表面を有する当接部2caを有し、当接部2caを支持体2cbによって支持している。当接部2caの表面は、摩擦抵抗が小さい材料で形成され、粘着テープATの表面に対して少ない抵抗で滑らかに移動する。支持体2cbは、第1ロッド2cfと第2ロッド2cgと連結部2chとを有し、連結部2chに内蔵されたクリック機構によって、第1ロッド2cfと第2ロッド2cgを直線状に延びる状態と屈曲した状態とで安定させることができるになっている。ガイド部材2cは、実線で示す動作状態にあるとき、支持体2cbを所定方向に屈曲させるべく、第1ロッド2cfがスライド部2cjから前方に引き出され、第1ロッド2cfの先端に固定された当接部2caが前方下方に突出する。ガイド部材2cは、一点鎖線で示す退避状態にあるとき、支持体2cbが直線状に延びることにより、第1ロッド2cfがスライド部2cj内に収納されて当接部2caがスライド部2cjの前端位置まで後退する。第1ロッド2cfについては、弾性を持たせることができ、この場合、当接部2caの横方向(つまり直交方向CD)等への変位を許容することができ、当接部2caの粘着テープATの表面に対する接触を優しくしなやかにすることができる。
【0026】
図2及び3を参照して、第2の狭持部材3について説明する。第2の狭持部材3は、金属や樹脂で形成することができ、円筒面状の本体3aと、平板状の拡張部3bと、ガイド部材3cとを備える。本体3aは、ケーブルCAの側面にフィットするように湾曲し、円筒面の母線に沿ったような細長い形状を有する。つまり、本体3aは、対象であるケーブルCAの断面形状に対応する内面形状を有し、一対の狭持部材2,3全体として、一対の本体2a,3aは、対象であるケーブルCAの断面形状に対応する内面形状を有するものとなる。これにより、一対の狭持部材2,3とケーブルCAとの間に粘着テープATを挟み込むようしてケーブルCAに粘着テープATを張り付けることができる。ここで、本体3aの内面の内径曲率Icは、ケーブルCAの側面の外径曲率Ccと一致することが望ましいが、ケーブルCAの側面の外径曲率Ccより小さくなってもよい。平板状の拡張部3bは、本体3aの下端から横方向に延びている。拡張部3bは、ケーブルCAの固定作業時に、固定用治具10の動作方向ABと直交方向CDとに平行に延びる状態となる。本体3aに取り付けられたガイド部材3cは、本体3aの先端部3fから前方下向きに延びる。ガイド部材3cは、第1の狭持部材2に設けたガイド部材2cに対向し、このガイド部材2cと協働して、進行方向前方の粘着テープATの受け入れを容易にし、一対の狭持部材2,3の前進を滑らかなものにする。
【0027】
本体3aは、ケーブルCAの側面に対応する粘着テープATの部分をケーブルCAの軸心に向けて主に横方向から付勢することを可能にする。拡張部3bは、ケーブルCAを覆う粘着テープATのうちケーブルCAの側方にはみ出したテープ部分である側部92を被固定体である壁体BPの表面PSに沿うように押圧し、側部92を壁体BPの表面PSに貼り付ける部分である。ガイド部材3cは、粘着テープATを予め曲げた状態にして本体3aの内側と拡張部3bの下側とに誘導する。以上の第2の狭持部材3において、本体3aと拡張部3bとの境界である角部3jは、全体として屈曲に近い状態となっているが、内面側には、鉛直方向に所定の幅を有し前後のAB方向に延びる帯状の平坦部が形成されている。角部3jには、後述するように滑動支持部材38が埋め込むように設けられている。角部3j及びその近傍における本体3aと拡張部3bとの成す角や連結形状は、図示のものに限らず、ケーブルCAの形状や固定条件に応じて適宜設定することができる。
【0028】
図3に示すように、ガイド部材3cは、先端に球状で滑らかな表面を有する当接部3caを有し、当接部3caを支持体3cbによって支持している。当接部3caの表面は、摩擦抵抗が小さい材料で形成され、粘着テープATの表面に対して少ない抵抗で滑らかに移動する。支持体3cbは、第1ロッド3cfと第2ロッド3cgと連結部3chとを有し、連結部3chに内蔵されたクリック機構によって、第1ロッド3cfと第2ロッド3cgを直線状に延びる状態と屈曲した状態とで安定させることができるになっている。ガイド部材3cは、実線で示す動作状態にあるとき、支持体3cbを所定方向に屈曲させるべく、第1ロッド3cfがスライド部3cjから前方に引き出され、第1ロッド3cfの先端に固定された当接部3caが前方下方に突出する。ガイド部材3cは、一点鎖線で示す退避状態にあるとき、支持体3cbが直線状に延びることにより、第1ロッド3cfがスライド部3cj内に収納されて当接部3caがスライド部3cjの前端位置まで後退する。第1ロッド3cfについては、弾性を持たせることができ、この場合、当接部3caの横方向(つまり直交方向CD)等への変位を許容することができ、当接部3caの粘着テープATの表面に対する接触を優しくしなやかにすることができる。
【0029】
固定用治具10の先端部10fは、前方に向かって拡径する形状を有する。具体的には、第1の狭持部材2を構成する本体2a及び拡張部2bの先端部2f,2gや、第2の狭持部材3を構成る本体3a及び拡張部3bの先端部3f,3gは、ケーブルCAやこれを覆う粘着テープATを狭持部材2,3間の凹所に受け入れやすくするため、ケーブルCAから離れる外側又は表面PSから離れる上側に反った形状を有する。
【0030】
図2に示すように、第1の狭持部材2において、本体2aと拡張部2bとの境界に設けられてAB方向に直線状に延びる角部2jには、滑動支持部材28としてAB方向に並ぶ多数の球状回転支持体B21が設けられている。角部2jに一連の球状回転支持体B21を設けることで、固定用テープである粘着テープATを曲げる箇所でテープ部分である側部92を被固定体である壁体BPの表面PSに付着させやすくなる。各球状回転支持体B21は、滑動支持部材28のホルダ28a中に任意の方向に滑らかに回転可能な状態で収納されている。球状回転支持体B21により、固定用テープである粘着テープATに発生する応力を低減し、固定用治具10の滑動性を向上させることができる。球状回転支持体B21は、公知のプレインベア又はフリーベアと同様の構造を有し、例えば球状回転支持体B21を支持する多数の受け玉を保持する受け部、各球状回転支持体B21を露出するように保持するキャップ部材等を有する。
【0031】
第2の狭持部材3において、本体3aと拡張部3bとの境界に設けられてAB方向に直線状に延びる角部3jには、滑動支持部材38としてAB方向に並ぶ多数の球状回転支持体B31が設けられている。角部3jに一連の球状回転支持体B31を設けることで、固定用テープである粘着テープATを曲げる箇所でテープ部分である側部92を被固定体である壁体BPの表面PSに付着させやすくなる。各球状回転支持体B31は、滑動支持部材38のホルダ38a中に任意の方向に滑らかに回転可能な状態で収納されている。球状回転支持体B31により、固定用テープである粘着テープATに発生する応力を低減し、固定用治具10の滑動性を向上させることができる。第2の狭持部材3に設けた滑動支持部材38は、第1の狭持部材2において組み込まれた滑動支持部材28と同様の構造を有するものである。
【0032】
第1の狭持部材2において、本体2aの内面2i側には、滑動支持部29aが設けられている。この滑動支持部29aの内面2iは、例えばフッ素系樹脂又はシリコーン系樹脂等の被膜で形成され、粘着テープATと接触した状態で、本体2aが低摩擦で滑らかに移動することを可能にする。第2の狭持部材3において、本体3aの内面3i側には、滑動支持部39aが設けられている。この滑動支持部39aの内面3iは、上記滑動支持部29aと同様に、例えばフッ素系樹脂又はシリコーン系樹脂等の被膜で形成され、粘着テープATと接触した状態で、本体3aが低摩擦で滑らかに移動するスライド移動することを可能にする。
【0033】
第1の狭持部材2において、拡張部2bの下面2k側には、滑動支持部29bが設けられており、この滑動支持部29bの下面2kは、例えばフッ素系樹脂又はシリコーン系樹脂等の被膜で形成され、粘着テープATと接触した状態で、本体2b等が低摩擦で滑らかに移動することを可能にする。第2狭持部材3において、本体3bの下面3k側には、滑動支持部39bが設けられており、この滑動支持部39bの下面3kは、上記滑動支持部29bと同様に、例えばフッ素系樹脂又はシリコーン系樹脂等の被膜で形成され、粘着テープATと接触した状態で、本体3bが低摩擦で滑らかに移動するスライド移動することを可能にする。
【0034】
以上において、第1の狭持部材2や第2の狭持部材3に設けた滑動支持部材28,38又は球状回転支持体B21,B31によって、ケーブルCAの下側に巻き込むように粘着テープATを押し付けることができる。さらに、第1の狭持部材2や第2の狭持部材3に設けた滑動支持部材28,38と、滑動支持部29a,29bと、滑動支持部39a,39bとによって、ケーブルCAに粘着テープATを押し付けつつ狭持部材2,3を動作方向ABに滑らかに移動させることが可能になる。特に、第1の狭持部材2の角部2jに設けられている滑動支持部材28又は球状回転支持体B21と、第2の狭持部材3の角部3jに設けられている滑動支持部材38又は球状回転支持体B31とは、粘着テープATのうち大きな曲率で曲げる必要のある箇所である根本周辺部のテープ部分を押さえ付ける位置に配置されており、粘着テープATに少ないダメージで湾曲形状を形成する観点で重要である。
【0035】
連結軸4については、蝶ナット状の締結具4aにより、狭持部材2,3に対して着脱可能になっており、付勢部材5の交換を可能にしている。付勢部材5の交換により、本体2a,3aによって粘着テープATやケーブルCAを把持する力を増減調整することができる。
【0036】
図4(A)を参照して、固定用治具10を用いたケーブルCAの固定作業を説明する。ケーブルCAは、複数の仮止めテープ98によって予め規定の位置に沿って仮固定されている。ケーブルCAの一端側からケーブルCAに沿って粘着テープATをあてがいつつ、粘着テープATの一端E1において、固定用治具10をグリップ7a,7bを強く挟み込むことによって開状態に開いて粘着テープATとケーブルCAとを挟むように押し下げる。固定用治具10を壁体BPに押し付けた状態で、グリップ7a,7bを離すことで、一対の狭持部材2,3が粘着テープAT越しにケーブルCAを側方から挟み込むようにクリップする。その後、固定用治具10を壁体BP側に押さえ付けつつ前方すなわちA方向に移動させる。これにより、ガイド部材2c,3c及び固定用治具10の先端部10f(つまり第1の狭持部材2の先端部2f,2gや第2の狭持部材3の先端部3f,3g)によって粘着テープATを変形させながら、粘着テープATをケーブルCAの周りに貼付けする。このような固定用治具10の前進により、粘着テープATをケーブルCAの周りに貼付けするようにして、粘着テープATの中央部91をケーブルCAに圧着しつつ、粘着テープATの側部92を壁体BPに圧着する。この状態で、固定用治具10を粘着テープATの他端E2まで移動させれば、ケーブルCAの固定が完了する。なお、仮止めテープ98を用いないで、ケーブルCA全体を粘着テープATによって壁体BPに直接固定することもできる。
【0037】
図4(B)は、
図4(A)に示すケーブルCA及び粘着テープATのFF断面を示す断面図である。ケーブルCAの上面及び側面は、粘着テープATの中央部91に囲まれて、粘着テープATの中央部91内に固定されている。粘着テープATの側部92は、壁体BPの表面PSに固定されている。ここで、粘着テープATの側部92は、ケーブルCAの側方にはみ出したテープ部分であり、中央部91と側部92との境界部93は、固定用治具10によって押さえ付けられて曲げられた根元部分となっている。
【0038】
図4(A)では、ケーブルCAを直線的に配置する場合を説明しているが、若干の湾曲で2次元的又は3次元的に配置されるケーブルCAであっても、固定用治具10を用いることで、作業性良く粘着テープATによってケーブルCAを固定することができる。
【0039】
以上では、固定用治具10の内面形状に略適合した標準的な外形のケーブルCAを粘着テープATによって固定する場合を説明したが、固定用治具10の内面形状よりも小さなあるいは大きなケーブルCAであっても、ある程度の許容範囲で固定することができる。よって、ケーブルCAの直径が経路に沿って増減するような場合であっても、固定用治具10によって安定した固定が可能になる。
【0040】
図5は、ガイド部材3cの変形例を説明する図である。この場合、ガイド部材3cは、回転軸3cdの周りに回転可能になっており、ガイド部材3cを収納方向RD2に回転させることによって当接部3caや支持体3cbを跳ね上げることができ、一点鎖線で示すようにガイド部材3cを非動作状態とすることができる。ガイド部材3cは、動作方向RD1に回転させたり収納方向RD2に回転させたりすることで、実線で示す動作状態と一点鎖線で示す非動作状態とのいずれかに切り替えることができ、ラッチ部3ceによって各状態で安定した状態に保持される。なお、図示を省略するが、第1の狭持部材2に設けられたガイド部材2cは、第2の狭持部材3に設けられたガイド部材3cと同一の構造を有する。
【0041】
なお、図示を省略するが、ガイド部材3cを固定式とすることもできる。この場合、ガイド部材3cは、実線で示す状態に維持される。
【0042】
図6は、固定用治具10の別の変形例を説明する図である。この場合、狭持部材2,3の拡張部2b,3bに円筒状のローラRBを組み込んでいる。ローラRBは、例えば拡張部2b,3bの前端側と後端側に設けられて拡張部2b,3bの下面から部分的に露出する。ローラRBは、拡張部2b,3bに埋め込まれた保持機構(不図示)に回転可能に支持されており、粘着テープAT上での固定用治具10の前後方向の移動を滑らかにする。
【0043】
以上で説明した、第1実施形態の固定用治具10では、一対の狭持部材2,3が、対象たるケーブルCAの側方にはみ出した粘着テープATの部分(中央部91)を曲げつつ側部92を被固定体たる壁体BPに押圧することを可能にするとともに、粘着テープATの延びる方向への移動を滑らかにする滑動支持部材としての球状回転支持体B21,B31を有するので、固定用治具10の移動を滑らかにしつつケーブルCAを様々な箇所に作業性を高めつつ低コストで取付けることができる。
【0044】
〔第2実施形態〕
以下、第2実施形態の固定用治具について説明する。第2実施形態の固定用治具は、第1実施形態の固定用治具を部分的に変更したものであり、共通部分については説明を省略する。
【0045】
図7は、第2実施形態の固定用治具10を説明する正面断面図である。この場合、
図2に示す第1の狭持部材2や第2の狭持部材3に設けた滑動支持部材28,38を、非回転型であって摺動型の滑動支持部材228,238に置き換えている。滑動支持部材228,238の表面部28c,38cは、例えばフッ素系樹脂又はシリコーン系樹脂等の被膜で形成され、円筒面状に滑らかに湾曲して低摩擦の滑動表面を有し、粘着テープATと接触した状態で、粘着テープATを押さえ付けて窪ませつつ狭持部材2,3の角部2j,3jが滑らかに移動することを許容する。なお、第1実施形態の場合と同様に、第1の狭持部材2において、滑動支持部材29a,29bの内面は、例えばフッ素系樹脂又はシリコーン系樹脂等の被膜で形成されている。また、第2の狭持部材3において、滑動支持部39a,39bの内面は、例えばフッ素系樹脂又はシリコーン系樹脂等の被膜で形成されている。
【0046】
〔第3実施形態〕
以下、第3実施形態の固定用治具について説明する。第3実施形態の固定用治具は、第1実施形態の固定用治具を部分的に変更したものであり、共通部分については説明を省略する。
【0047】
図8(A)は、第3実施形態の固定用治具10を説明する正面断面図である。この場合、
図2に示す第1の狭持部材2の拡張部2bに設けた滑動支持部29bや、第2の狭持部材3の拡張部3bに設けた滑動支持部39bを、回転型の滑動支持部材328,338に置き換えている。滑動支持部材328,338には、CD方向やこれに直交するAB方向に並ぶ多数の球状回転支持体B22,B32が設けられている。各球状回転支持体B22,B32は、滑動支持部材328,338のホルダ328a,338a中に任意の方向に回転可能な状態で収納され、かつ、コイルバネ28p,38pによって下面2k,3kに垂直な方向に進退可能な状態になっている。なお、第1実施形態の場合と同様に、第1の狭持部材2において、滑動支持部29aの内面は、例えばフッ素系樹脂又はシリコーン系樹脂等の被膜で形成されている。また、第2の狭持部材3において、滑動支持部39aの内面は、例えばフッ素系樹脂又はシリコーン系樹脂等の被膜で形成されている。固定用治具10を用いたケーブルCAの固定作業に際して、拡張部2bや拡張部3bを対象である壁体表面に所定以上の力で押し付けると、球状回転支持体B22,B32が後退し、その頂部が下面2k,3kの位置まで戻される。この場合、拡張部2bや拡張部3bによって粘着テープATの側部92を壁体表面に適切な力で押し付けることが容易になる。なお、球状回転支持体B22,B32のAB方向やCD方向に関する配列密度は、ケーブルCAの形状や粘着テープATの状態を考慮して適宜設定することができる。
【0048】
図8(B)は、
図8(A)に示す固定用治具10の変形例を説明する正面断面図である。この場合、
図2(A)に示す第1の狭持部材2の本体2a等に設けた滑動支持部29aや、第2の狭持部材3の本体3aに設けた滑動支持部39aを、回転型の滑動支持部材428,438に置き換えている。滑動支持部材428,438には、本体2a,3aに沿って並ぶ多数の球状回転支持体B23,B33が設けられている。各球状回転支持体B23,B33は、任意の方向に回転可能な状態で不図示のホルダ中に収納され、かつ、コイルバネ28q,38qによって内面2i,3iに垂直な方向に進退可能な状態になっている。固定用治具10を用いたケーブルCAの固定作業に際して、本体2a,3aによってケーブルCAの側面を挟むと、球状回転支持体B23,B33が後退し、その頂部が内面2i,3iの位置まで戻される。この場合、本体2aや本体3aによって粘着テープATの中央部をケーブルCAの表面に適切な力で押し付けることが容易になる。なお、球状回転支持体B23,B33の配列密度は、ケーブルCAの形状や粘着テープATの状態を考慮して適宜設定することができる。
【0049】
〔第4実施形態〕
以下、第4実施形態の固定用治具について説明する。第4実施形態の固定用治具は、第1実施形態の固定用治具を部分的に変更したものであり、共通部分については説明を省略する。
【0050】
図9(A)は、第4実施形態の固定用治具10を説明する正面断面図である。この場合、グリップ7a,7b間にストッパ72を配置し、スライド機構73によってストッパ72をグリップ7aに沿って上下方向に移動させることができる。スライド機構73は、ラチェット(不図示)を有し、ストッパ72を上下方向の任意の位置で緩く固定することを可能にする。ストッパ72を設けることで、一対の狭持部材2,3が過度に開状態となることを回避することができる。ストッパ72は、硬質の材料に限らず、軟質の材料で形成することができる。
【0051】
図9(B)は、
図9(A)に示す固定用治具10の変形例を説明する正面断面図である。この場合、グリップ7a,7b間に可動域制限部材472を組み込んでいる。可動域制限部材472は、ボルト等である軸状の支持部材75aと、グリップ7a,7bの間隔が所定以上に狭くなることを防止する内側当接部材75bと、グリップ7a,7bの間隔が所定以上に広くなることを防止する外側当接部材75cとを含む。可動域制限部材472を設けることで、一対の狭持部材2,3が過度に開状態なったり過度に閉状態となったりすることを回避することができる。内側当接部材75bや外側当接部材75cは、ナット又はダブルナットと同様の構造により、支持部材75aに対して軸方向に変位させて固定する位置調整が可能になっている。
【0052】
図10は、
図9(A)に示す固定用治具10の別の変形例を説明する正面断面図である。この場合、ストッパ572は、グリップ7aに支持されて回転可能になっており、レバー72fを操作することで、実線で示す開制限状態と点線で示す開許容状態とにすることができる。開制限状態において、ストッパ572に設けた内側の部材72gは、第1の狭持部材2のグリップ7aに第2の狭持部材3のグリップ7bが過度に近づくことを防止し、一対の狭持部材2,3が過度に開状態となることを防止している。
【0053】
〔第5実施形態〕
以下、第5実施形態の固定用治具について説明する。第5実施形態の固定用治具は、第1実施形態の固定用治具を部分的に変更したものであり、共通部分については説明を省略する。
【0054】
図11(A)は、第5実施形態の固定用治具10を説明する側面図であり、
図11(B)は、第5実施形態の固定用治具10を説明する平面図である。第5実施形態の固定用治具10は、仕上げ部材81a,81b,81cを追加したものとなっている。仕上げ部材81a,81b,81cは、本体の後端部10eから後方に延びるように設けられている。より詳細には、仕上げ部材81a,81cは、第1の狭持部材2の後端部2eから後方に延び、仕上げ部材81bは、第2の狭持部材3の後端部3eから後方に延びる。仕上げ部材81aは、先端側で軸AX方向に近づくように傾いている。ここで、軸AXは、ケーブルCAの中心付近を想定したものとなっている。また、仕上げ部材81b,81cは、斜め下方かつ内側に延びており、先端部は、ケーブルCAの下側部分や粘着テープATの境界部93(
図4(B)参照)に沿って延びる。なお、仕上げ部材81a,81b,81cの先端には、ガイド部材2c,3cと同様に、球状の当接部を設けることができる。
【0055】
仕上げ部材81a,81b,81cは、板バネ状の部材であり弾性変形できる。仕上げ部材81aは、先端側で外力を受けて軸AXから離れる外方向又は上方向であるJ方向に変形可能となっており、仕上げ部材81b,81cは、先端側で外力を受けて横方向であるK方向に変形可能となっている。仕上げ部材81aは、その先端部において粘着テープATをケーブルCAの上部に圧着し、仕上げ部材81b,81cは、それらの先端部において粘着テープATをケーブルCAの下側部分に圧着する。つまり、仕上げ部材81b,81cは、粘着テープATを介してケーブルCAの下側部分に外方向から付勢力を与えることにより、粘着テープATの主に境界部93をケーブルCAに密着させる。
【0056】
仕上げ部材81a,81b,81cは、クリック関節機構CJによって、所定以上の力を加えられることで、一点鎖線で示すように前方に折り畳み可能になっており、狭持部材2,3側に収納可能になっている。
【0057】
固定用治具10は、形状的に最も適合する標準的サイズのケーブルCAに用いられることよってその機能を発揮するが、標準的サイズよりも小さなケーブルCAに対しても適用可能である。このため、上記仕上げ部材81a,81b,81cによって粘着テープATを介してケーブルCAの上部及び下側部分を押圧するような付勢力を与えることで、粘着テープATの中央部91(
図4(B)等参照)内にケーブルCAを安定して固定することができる。
【0058】
〔第6実施形態〕
以下、第6実施形態の固定用治具について説明する。第6実施形態の固定用治具は、第1実施形態の固定用治具を変更したものであり、共通部分については説明を省略する。
【0059】
図12(A)は、第6実施形態の固定用治具610を説明する側面図である。第6実施形態の固定用治具610は、
図2に示すような第1実施形態の固定用治具10を複数連結したものである。固定用治具610は、第1の固定用治具10Aと第2の固定用治具10Bとを連結部材83を用いて連結したものであり、第1の固定用治具10Aと第2の固定用治具10Bとは、その動作方向ABに垂直な方向に屈曲するように変形する。第1の固定用治具10Aは、一対の狭持部材2,3と付勢部材5とを一組とする把持ユニットであり、第2の固定用治具10Bも、一対の狭持部材2,3と付勢部材5とを一組とする把持ユニットである。ただし、ガイド部材2c,3cを省略したものとなっている。固定用治具610は、曲線状に配置されるケーブルCAに対する適合性が高い。ただし、第1の固定用治具10Aと第2の固定用治具10Bとの境界における球状回転支持体B25,B35等の配置は、固定用治具10A,10Bの隙間側にはみ出したものであることが望ましい。つまり、第1の固定用治具10Aの後端部10eの球状回転支持体B25,B35や、第2の固定用治具10Bの先端部10fの球状回転支持体B25,B35は、隙間側に突起したものとなっている。さらに、第1の固定用治具10Aの先端部10fや第2の固定用治具10Bの後端部10eにも、はみ出すように球状回転支持体B25,B35を設けることが望ましい。これにより、粘着テープATの皺の原因となるような過度の力が働くことを回避することが容易になる。
【0060】
なお、第1の固定用治具10Aと第2の固定用治具10Bとの境界において、状況によるが拡張部2b,3bの横幅を狭くしたり、
図12(B)に示すように拡張部2b,3bの角の形状を修正したりすることで、固定用治具10A,10Bの可動範囲又は相対角を広くすることができる。なお、
図12(B)は、固定用治具610の平面図であり、一点鎖線は、第1の固定用治具10Aに対して第2の固定用治具10Bの角度が変化した状態を示している。
【0061】
〔第7実施形態〕
以下、第7実施形態の固定用治具について説明する。第7実施形態の固定用治具は、第1実施形態の固定用治具を部分的に変更したものであり、共通部分については説明を省略する。
【0062】
図13(A)は、第7実施形態の固定用治具710を説明する側面図である。第7実施形態の固定用治具710は、粘着テープATのテープ供給部60を備える。テープ供給部60は、第1の狭持部材2に設けた台座2t上に固定されてグリップ7a,7bの前方に配置されている。テープ供給部60は、粘着テープATを一対の狭持部材2,3の先端部2f,3fに向けて送り出す。テープ供給部60は、回転可能に支持され粘着テープATを巻き付けた粘着ロール61を取り付けた回転軸68と、これを覆うケース66とを備える。テープ供給部60の回転軸68に回転可能に支持された粘着ロール61からは、固定用治具710の前進に伴って、粘着テープATが引き出される。この際、粘着テープATは、ガイド部材2c,3cに案内され固定用治具710の先端部10fの内面形状に合わせて変形しつつ先端部10fに供給される。
【0063】
図13(B)は、
図13(A)に示す固定用治具710の変形例を説明する側面図である。この場合、粘着テープATに剥離ライナー95が付随しており、テープ供給部60は、回転可能に支持され粘着テープATを巻き付けた粘着ロール61を取り付ける回転軸68だけでなく、粘着テープATの剥離ライナー95を巻き取る巻取りロール62と、回転軸68と巻取りロール62とを連動させる連動機構64と、粘着テープATを押し付けるタッチロール69とを備える。粘着テープATに付随する剥離ライナー95は、粘着テープATの引き出しに伴って巻取りロール62に徐々に巻き取られる。連動機構64は、歯車やクラッチといった機械機構を有し、回転軸68の回転量に対する巻取りロール62の回転量を適切に保って剥離ライナー95の弛みや張り過ぎを防止する。
【0064】
第7実施形態の固定用治具710の場合、粘着テープATの仮止めといった前作業が必須のものでなくなり、ケーブルCAの固定作業がより簡便となる。
【0065】
図14は、第7実施形態の固定用治具710を用いたケーブルCAの固定作業を説明する図である。この場合、ケーブルCAは、壁体BP上でクランク状に曲がった経路に沿って延び、仮止めテープ98によって予め規定の位置に沿って仮固定されている。ケーブルCAの一端側において、固定用治具710から粘着テープATを供給しつつ、固定用治具710の一対の狭持部材2,3によって粘着テープATとケーブルCAとを挟み込むようにクリップする。その後、固定用治具710を壁体BP側に押さえ付けつつ前方すなわちA方向に移動させる。これにより、固定用治具710のガイド部材2c,3c(
図1参照)や先端部10fによって粘着テープATを変形させながら、粘着テープATをケーブルCAの周りに貼付けすることができる。そして、固定用治具710の前進により、粘着テープATをケーブルCAの周りに巻き付けるようにして、粘着テープATの中央部91をケーブルCAに圧着しつつ、粘着テープATの側部92を壁体BPに圧着する。なお、図示のように曲がった経路で延びるケーブルCAに適用する場合、粘着テープATは、塑性変形するものであることが望ましい。粘着テープATの塑性変形が少ない場合、第7実施形態の固定用治具710は、比較的直線的に配置されるケーブルCAの固定に適するものとなる。図示のように曲がった経路で延びるケーブルCAに適用する場合、固定用治具710は、
図12(A)に示す固定用治具610の先頭部にテープ供給部60を付加したものとすることもできる。
【0066】
〔第8実施形態〕
以下、第8実施形態の固定用治具について説明する。第8実施形態の固定用治具は、第1実施形態の固定用治具を部分的に変更したものであり、共通部分については説明を省略する。
【0067】
図15(A)~15(C)は、第8実施形態の固定用治具を説明する図である。
図15(A)は、一方の狭持部材3を含む部分を取り外した部分的な斜視図であり、
図15(B)は、拡張部の部分拡大正面断面図であり、
図15(C)は、拡張部の支持構造を説明する概念的な側方断面図である。
【0068】
第8実施形態の場合、第2の狭持部材3の拡張部3bが横のCD方向に延長可能になっている。これにより、拡張部3bを粘着テープの側部92の幅に適合させることができる。拡張部3bは、本体803bと、カバー状のスライド部材803fと、スライド部材803fのCD方向の移動を案内する一対のガイド部材GMとを有する。スライド部材803fの上側部分において一対の端辺部EPは、一対のガイド部材GMと嵌合している。スライド部材803fは、一対のガイド部材GMにより本体803bに対して横のCD方向に摺動可能になっており、外側である第1方向DR1に移動することで拡張部3bの横幅を増加させることができ、内側である第2方向DR2に移動することで拡張部3bの横幅を減少させることができる。スライド部材803fの下面3kaは、フッ素系樹脂やシリコーン等の材料で被膜されている。本体803bの下面3kには、滑動支持部材838が埋め込まれている。滑動支持部材838には、本体803bに沿って並ぶ多数の球状回転支持体B36が設けられている。各球状回転支持体B36は、任意の方向に回転可能な状態でホルダ中に収納され、かつ、コイルバネ38xによって下面3kに垂直な方向に進退可能な状態になっている。スライド部材803fを紙面上で左側(
図15(B)参照)に移動させて拡張部3bの横幅を狭める場合、球状回転支持体B36の下端がスライド部材803fによって押されて下面3kまで後退して、スライド部材803fの内側に収納される。
【0069】
なお、図示を省略しているが、第1の狭持部材2の拡張部2bも、第2の狭持部材3の拡張部3bと同様の構造を有する。
【0070】
図16(A)及び16(B)は、
図15(A)等に示す固定用治具の変形例を説明する図である。
図16(A)は、一方の狭持部材3を含む部分を取り外した部分的な斜視図であり、
図16(B)は、拡張部の部分拡大正面断面図である。この場合も、第2の狭持部材3の拡張部3bが横のCD方向に延長可能になっている。拡張部3bは、本体803bと、平板状のスライド部材803gと、ガイド部材GMとを有する。スライド部材803gは、本体803bとガイド部材GMとに挟まれた引き出し状の部材であり、本体803bに対して横のCD方向に摺動可能になっている。スライド部材803gは、本体803bとガイド部材GMと間の空間に収納されたり、ここから引き出されたりして、拡張部3bの横幅を増減する。本体803bの下面3kには、第1実施形態の場合と同様に滑動支持部39bが設けられ、スライド部材803gの下面側には、滑動支持部材838が埋め込まれている。滑動支持部材838には、スライド部材803gから下方に延びて本体803bの下面3kを延長した平面つまり壁体BPの表面PSに沿って並ぶ多数の球状回転支持体B36が設けられている。各球状回転支持体B36は、任意の方向に回転可能な状態でホルダ38y中に収納され、かつ、コイルバネ38xによって下面3kに垂直な方向に進退可能な状態になっている。スライド部材803gを紙面上で左側(
図16(B)参照)に移動させて拡張部3bの横幅を狭める場合、球状回転支持体B36の下端がスライド部材803gの下面803kまで後退して、スライド部材803gの内側に収納される。
【0071】
図17(A)~17(C)は、
図16(A)等に示す固定用治具の変形例を説明する図である。
図17(A)は、一方の狭持部材3を含む部分を取り外した部分的な斜視図であり、
図17(B)は、拡張部の部分拡大正面断面図であり、
図17(C)は、拡張部の支持構造を説明する概念的な側方断面図である。この場合も、第2の狭持部材3の拡張部3bが横のCD方向に延長可能になっている。拡張部3bは、本体803bと、平板状のスライド部材803gと、一対のガイド部材GMとを有する。スライド部材803gは、一対の端辺部に一対の段差部SPを有し、一対の段差部SPは、一対のガイド部材GMと嵌合している。スライド部材803gは、一対のガイド部材GMにより本体803bに対して横のCD方向に摺動可能になっており、拡張部3bの横幅を増減する。
【0072】
図17(D)は、
図16(A)等に示す固定用治具の別の変形例を説明する図であり、
図17(C)に対応する。この場合、ガイド部材GMに溝GVが形成されており、スライド部材803gに形成された凸条PRを案内する。この場合、球状回転支持体B36がスライド部材803g中に完全に収納されず、下端部が本体803b側にわずかに突出した状態となっている。
【0073】
〔第9実施形態〕
以下、第9実施形態の固定用治具について説明する。第9実施形態の固定用治具は、第1実施形態の固定用治具を部分的に変更したものであり、共通部分については説明を省略する。
【0074】
図18(A)は、第9実施形態の固定用治具910を説明する正面図である。第9実施形態の固定用治具910の場合、一対の狭持部材2,3が付勢部材905によって連結されている。付勢部材905は、板バネ状の部材であり、本体2a,3aの先端間隔を既定値に設定し、強制的に押し広げる間隔調整を可能としている。この場合、固定用治具910の内面IFは、断面U字状であり、円形断面のケーブルCAその他の対象にフィットするものとなっている。また、内面IFは、例えばフッ素系樹脂又はシリコーン系樹脂等の被膜が形成された状態となっており、粘着テープATの表面に対して滑らかな接触が可能となっている。図示の例では、狭持部材2,3において、第1実施形態の
図2に示すような球状回転支持体B21,B31を設けていないが、球状回転支持体B21,B31を内面IFに露出するように狭持部材2,3等に埋め込むことができる。
【0075】
図18(B)は、
図13(A)に示す固定用治具910の変形例を説明する正面図である。この場合、付勢部材905等の形状について変更を加えており、固定用治具910の内面IFは、断面三角形状であり、三角形断面のケーブルCAその他の対象にフィットするものとなっている。また、内面IFは、例えばフッ素系樹脂又はシリコーン系樹脂等の被膜が形成されたとなっており、粘着テープATの表面に対して滑らかな接触が可能となっている。図示の例では、狭持部材2,3において、第1実施形態の
図2に示すような球状回転支持体B21,B31を設けていないが、球状回転支持体B21,B31を内面IFに露出するように狭持部材2,3等に埋め込むことができる。
【0076】
図18(C)は、
図13(A)に示す固定用治具910の変形例を説明する正面図である。この場合、付勢部材905等の形状について変更を加えており、固定用治具910の内面IFは、断面矩形状又は平板状であり、矩形断面又は平板状のケーブルCAその他の対象にフィットするものとなっている。また、内面IFは、例えばフッ素系樹脂又はシリコーン系樹脂等の被膜が形成されたとなっており、粘着テープATの表面に対して滑らかな接触が可能となっている。図示の例では、狭持部材2,3において、第1実施形態の
図2に示すような球状回転支持体B21,B31を設けていないが、球状回転支持体B21,B31を内面IFに露出するように狭持部材2,3等に埋め込むことができる。詳細な説明を省略するが、固定用治具910の内面IFの断面は、半円状であってもよい。
【0077】
図18(A)~18(C)において、一対の狭持部材2,3自体がバネ材(例えばバネ鋼)で形成されてもよい。
【0078】
この発明は、上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施することが可能である。例えば、
図19に示すように、
図2、5等に示す本体2a,3aや拡張部2b,3bの下面2k,3k及び内面2i,3i、或いは固定用治具910の内面IFにおいて、球状回転支持体B21,B31,B22,B32,B23,B33に代えて、摩擦抵抗の少ない突起10pを設けることができる。突起10pは、半球状であり、固定用治具10,910が粘着テープATの延びる方向へ移動する動きを滑らかにする滑動支持部材として機能する。少なくとも突起10pやその周辺については、例えばフッ素系樹脂又はシリコーン系樹脂等で形成することができるが、これに限るものではない。
【0079】
以上では、ケーブルCAを建材用途のような壁体BPに固定する場合について説明したが、ケーブルCAを電気製品や車体の内壁に固定する場合にも、上記実施形態のような固定用治具10を用いることができる。さらに、ケーブルCA以外の各種部材を粘着テープによって製品、室内、車体内に固定する場合にも、上位のような固定用治具10を用いることができる。
【符号の説明】
【0080】
2…第1の狭持部材、3…第2の狭持部材、2a,3a…本体、2b,3b…拡張部、2c…ガイド部材、2e…後端部、2f,2g,3f,3g…先端部、2j,3j…角部、4…連結軸、5…付勢部材、7…グリップ、10,610,710…固定用治具、10A,10B…固定用治具、10e…後端部、10f…先端部、10p…突起、28a…ホルダ、28b…ボール、32…押圧操作部、60…テープ供給部、81a,81b,81c…部材、83…連結部材、91…中央部、92…側部、93…境界部、95…剥離ライナー、AT…粘着テープ、ATf…基材、ATg…粘着層、AX…軸、B21,B22,B23,B31,B32,B33…球状回転支持体、BP…壁体、CA…ケーブル、IF…内面