(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】直動案内ユニット
(51)【国際特許分類】
F16C 29/06 20060101AFI20240529BHJP
【FI】
F16C29/06
(21)【出願番号】P 2020180708
(22)【出願日】2020-10-28
【審査請求日】2023-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000229335
【氏名又は名称】日本トムソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【氏名又は名称】田中 勝也
(72)【発明者】
【氏名】山田 和希
(72)【発明者】
【氏名】田中 俊道
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】実開昭60-075722(JP,U)
【文献】特開2007-177993(JP,A)
【文献】特開2017-009011(JP,A)
【文献】特開2004-019728(JP,A)
【文献】特開平05-099225(JP,A)
【文献】特開2018-071592(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110195743(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に互いに平行に延びる一対の第1転走面を有するレールと、
前記レールに相対移動可能に跨架し、かつ、前記一対の第1転走面のそれぞれに対向する一対の第2転走面を有するスライダと、
前記第1転走面および前記第2転走面に接触しつつ転がる球体である複数の転動体と、を備え、
前記第1転走面と前記第2転走面とから形成される軌道路と、
前記軌道路と並行し、前記スライダ内に形成される第1循環路と、
前記軌道路と前記第1循環路との接続部である2つの第2循環路と、からなる環状路が形成されており、
前記複数の転動体が前記環状路を循環する直動案内ユニットであって、
前記軌道路における前記第2循環路との境界部には軌道路第1部分があり、前記軌道路第1部分における前記転動体と前記軌道路第1部分の前記第2転走面との接触角θ
1は、前記軌道路の前記軌道路第1部分以外における前記転動体と前記第2転走面との接触角θ
2よりも大きく、
前記スライダは、ケーシングと、前記レールの長手方向において前記ケーシングを挟むように配置される一対のエンドキャップと、前記ケーシングと前記一対のエンドキャップの少なくとも一方との間に配置されるスペーサと、を含み、
前記スペーサは、前記軌道路第1部分を構成する前記第2転走面を有する
直動案内ユニット。
【請求項2】
前記スペーサが樹脂成型部材である、請求項1に記載の直動案内ユニット。
【請求項3】
前記レールの長手方向における前記軌道路第1部分の長さが、前記転動体の直径の0.25倍以上3倍以下である、請求項1または請求項2に記載の直動案内ユニット。
【請求項4】
前記軌道路第1部分において、前記転動体と前記軌道路第1部分の前記第2転走面とは2点で接触し、接点を含む面はそれぞれ前記レールの長手方向に延在する平面である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項5】
前記接触角θ
1は、前記接触角θ
2よりも1~20°大きい、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直動案内ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
一対の第1転走面を有するレールと、一対の第1転走面のそれぞれに対向する一対の第2転走面を有するスライダと、第1転走面および第2転走面上を転動可能に配置され、環状の空間を循環する複数の転動体と、を備える直動案内ユニットが知られている(たとえば特許文献1参照)。
【0003】
転動体の循環路は、レールとスライダとによって形成される軌道路と、スライダ内に軌道路と並行に形成される第1循環路と、軌道路と第1循環路との接続部である2つの第2循環路と、から構成される。スライダは、ケーシングと、第1循環路部材と、エンドキャップとを含み、ケーシングとエンドキャップとの間にスペーサが配置されるものが知られている(たとえば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-135981号公報
【文献】特開2003-90338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
直動案内ユニットは様々な設置態様で使用され、設置の向きによっては転動体同士の詰まりが生じやすくなることがあった。そこで、直動案内ユニットの設置態様に関わらず、転動体の詰まりが抑制される直動案内ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に従った直動案内ユニットは、
長手方向に互いに平行に延びる一対の第1転走面を有するレールと、
前記レールに相対移動可能に跨架し、前記一対の第1転走面のそれぞれに対向する一対 の第2転走面を有するスライダと、
前記第1転走面および前記第2転走面に接触しつつ転がる球体である複数の転動体と、
を備え、
前記第1転走面と前記第2転走面とから形成される軌道路と、
前記軌道路と並行し、前記スライダ内に形成される第1循環路と、
前記軌道路と前記第1循環路との接続部である2つの第2循環路と、
からなる環状路が形成されており、
前記複数の転動体が前記環状路内を循環する直動案内ユニットであって、
前記軌道路における前記第2循環路との境界部には軌道路第1部分があり、前記軌道路第1部分における前記転動体と前記軌道路第1部分の前記第2転走面との接触角θ1は、前記軌道路の前記軌道路第1部分以外における前記転動体と前記第2転走面との接触角θ2よりも大きく、
前記スライダは、ケーシングと、前記レールの長手方向において前記ケーシングを挟むように配置される一対のエンドキャップと、前記ケーシングと前記一対のエンドキャップの少なくとも一方との間に配置されるスペーサと、を含み、
前記スペーサは、前記軌道路第1部分を構成する前記第2転走面を有する
直動案内ユニットである。
【発明の効果】
【0007】
上記直動案内ユニットによれば、直動案内ユニットの設置態様に関わらず転動体の詰まりが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施の形態1における直動案内ユニットの構造を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、実施の形態1における直動案内ユニットの構造を示す断面図である。
【
図3】
図3は、実施の形態1におけるスライダの構造を示す斜視図である。
【
図4】
図4は、実施の形態1におけるエンドシールおよびエンドキャップを取り外したスライダの構造を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、実施の形態1におけるエンドキャップの構造を示す背面図である。
【
図6】
図6は、実施の形態1におけるエンドキャップの構造を示す斜視図である。
【
図7】
図7は、実施の形態1におけるスペーサの構造を示す前面図である。
【
図8】
図8は、実施の形態1におけるスペーサの構造を示す背面図である。
【
図9】
図9は、実施の形態1におけるスペーサの構造を示す斜視図である。
【
図10】
図10は、実施の形態1におけるスペーサの構造を示す側面図である。
【
図11】
図11は、実施の形態1におけるスペーサとエンドキャップを組み合わせた構造を示す斜視図である。
【
図12】
図12は、実施の形態1の直動案内ユニットの一部断面を拡大して示す概略図である。
【
図13】
図13は、実施の形態1の軌道路第2部分における、壁面と転動体との接触態様を示す概略図である。
【
図14】
図14は、実施の形態1の軌道路第1部分における、壁面と転動体との接触態様を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施形態の概要]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。本開示の直動案内ユニットは、長手方向に互いに平行に延びる一対の第1転走面を有するレールと、前記レールに相対移動可能に跨架し、前記一対の第1転走面のそれぞれに対向する一対の第2転走面を有するスライダと、前記第1転走面および前記第2転走面に接触しつつ転がる球体である複数の転動体と、を備える。本開示の直動案内ユニットは、前記第1転走面と前記第2転走面とから形成される軌道路と、前記軌道路と並行し前記スライダ内に形成される循環路と、前記軌道路と前記循環路との接続部である2つの第2循環路と、からなる環状路が形成されており、前記複数の転動体が前記環状路を循環する直動案内ユニットである。本開示の直動案内ユニットは、前記軌道路における前記第2循環路との境界部には軌道路第1部分があり、前記軌道路第1部分における前記転動体と前記軌道路第1部分の前記第2転走面との接触角θ1は、前記軌道路の前記軌道路第1部分以外における前記転動体と前記第2転走面との接触角θ2よりも大きい。本開示の直動案内ユニットにおいて、前記スライダは、ケーシングと、前記レールの長手方向において前記ケーシングを挟むように配置される一対のエンドキャップと、前記ケーシングと前記一対のエンドキャップの少なくとも一方との間に配置されるスペーサと、を含み、前記スペーサは、前記軌道路第1部分を構成する前記第2転走面を有する。
【0010】
直動案内ユニットの設置態様の一つとして、レールの両側にある循環路が、互いに上下に位置するように設置する態様がある。この態様は横置きや横向き姿勢と称される。従来、直動案内ユニットを横置きする場合、スライダの摺動不良が生じることがあった。スライダの摺動不良が分析された結果、次の事象が原因の一つとなることが見出された。すなわち、直動案内ユニットを横置きする場合、軌道路および第1循環路が水平方向に延在するのに対して、それらを接続する第2循環路は鉛直方向に延在する。このため、上方に位置する第1循環路から第2循環路に進入した転動体は、第2循環路において自重落下する。自重落下によって加速した転動体が負荷域である軌道路に絶え間なく次々と進入すると、転動体同士の適正な間隔が失われてしまう。これによって、軌道路内で転動体が競り合い、転動体の詰まりが生じて、摺動不良が発生する。
【0011】
この課題に対して、負荷域である軌道路における転動体の競り合いを抑制することが検討された。そして、転動体が第2循環路から軌道路に進入する位置において、転動体の転走を調整する走行調整部分を設け、軌道路を転走する他の転動体との速度差を生み出すことが着想された。さらなる検討の結果、走行調整部分において転動体と軌道路との接触角を大きくするという構成によって、第2循環路から軌道路へと進入する転動体の公転速度を抑制できることが見出された。この構成によって、軌道路を先行して転走する転動体と、後続する転動体との間に速度差を生み出すことが可能となり、転動体と転動体との間に適正な間隔を作り出し、転動体の競り合いが抑制されることが見出された。
【0012】
本開示の直動案内ユニットによれば、直動案内ユニットの設置方向によらず、特に、直動案内ユニットを横置きした場合でも摺動不良が生じ難く、直動案内ユニットのスムーズな動作が実現される。また、本開示の直動案内ユニットは、軌道路における第2循環路との境界部に、転動体と壁面との接触角が、軌道路の他の部分における転動体と壁面との接触角よりも大きくなる部分を設けるというシンプルな構成によって、その部分を通過する転動体の公転速度を確実に変化させ、転動体の間に適正な隙間を作り出すことができる。
【0013】
また本開示の直動案内ユニットは、スライダが、ケーシングと、前記レールの長手方向において前記ケーシングを挟むように配置される一対のエンドキャップと、前記ケーシングと前記一対のエンドキャップの少なくとも一方との間に配置されるスペーサと、を含み、前記スペーサは、前記軌道路第1部分を構成する前記第2転走面を有する。
【0014】
この構成によれば、直動案内ユニットにおいて、走行調整部分である軌道路第1部分の壁面を構成する挿入部材が、スペーサの一部として組み込まれるため、走行調整部分の設定、調整、変更等が容易であり、メンテナンス性と製造における合理性とに優れる。
【0015】
本開示の直動案内ユニットは、スペーサが樹脂成型部材であってもよい。
【0016】
直動案内ユニットのレールおよびスライダはその大部分が鋼材で作製されるが、スペーサを樹脂成型部材とすることによって、作製が容易で、かつ必要な強度と耐久性を確保することができる。
【0017】
本開示の直動案内ユニットは、レールの長手方向における軌道路第1部分の長さが、転動体の直径の0.25倍以上3倍以下であってもよい。
【0018】
レールの長手方向は軌道路第1部分の長さ方向である。つまり、軌道路第1部分の長さ方向とは、転動体の軌道に沿う方向である。すなわち、軌道路第1部分の長さ方向の長さは、軌道において、主領域と異なる接触角を有する部分(走行調整部分)の長さである。言い換えると、軌道路第1部分の長さは、転動体の公転速度が変わる(低下する)部分の長さである。本開示によれば、環状路の中に、転動体の直径の0.25倍以上3倍以下というごく短い接触角変化部分を設けることによって、直動案内ユニットのスムーズな摺動が実現される。この構成によれば、直動案内ユニット全体の設計に対する影響を最小限に抑えながら、摺動不良の発生を効果的に抑制することができる。
【0019】
本開示の直動案内ユニットは、軌道路第1部分において、転動体とスペーサの軌道路第1部分の壁面の一部とが2点で接触してもよい。また、接点を含む面はそれぞれ、前記レールの長手方向に延在する平面であってもよい。
【0020】
転動体と軌道路第1部分の壁面との接点を含む面を平面とすることによって、形状がシンプルになり、作製が容易で個体差の少ないスペーサを合理的な製造工程によって得ることができる。本開示では、1つの直動案内ユニットの中に4箇所の走行調整部分(軌道路第1部分)が備えられるが、かかる形状とすることによって、走行調整部分の個体差から生じる不具合の可能性を低減できる。
【0021】
軌道路第1部分における接触角θ1は、軌道路第1部分以外の軌道路における接触角θ2よりも1~20°大きいものとすることができる。
【0022】
接触角の差を1~20°の範囲とすることによって、転動体の転走を調整して転動体同士の間隔を保ち、かつ、転動体の走行を妨げることがなく、直動案内ユニットのスムーズな動作を実現できる。
【0023】
[実施形態の具体例]
次に、本開示の直動案内ユニットの具体的な実施の形態の一例を、図面を参照しつつ説明する。以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
【0024】
(実施の形態1)
図1は、本開示の一実施形態における直動案内ユニット1の構造を示す斜視図である。
図1において、X軸は直動案内ユニット1の幅方向、Y軸方向は直動案内ユニット1(レール10)の長手方向、Z軸は直動案内ユニット1の厚み方向である。
図2は、
図1の直動案内ユニット1をZ軸方向における中央部で切断した状態を示す断面図である。
図3は直動案内ユニット1のスライダ100の一部を示す斜視図である。
【0025】
図1、
図2を参照して、直動案内ユニット1は、レール10と、スライダ100と、転動体であるボール200と、を備える。転動体であるボール200は、直動案内ユニット1に複数挿入されている。直動案内ユニット1は、レール10とスライダ100とが対向して形成される軌道路102と、軌道路102と並行し、スライダ100内に形成される第1循環路103と、軌道路102と循環路104との接続部である2つの第2循環路104と、から構成される環状路を有する。実施の形態1においては、環状路の長さは約100mmである。また、ボール200の直径は3mmであり、環状路に約32個のボール200が封入されている。環状路の長さやボールの大きさ、数はこれらに制限されず、例えば、環状路は20~1000mm程度とすることができ、ボール(転動体)として例えば直径が0.4~13mm程度のものを、10~60個程度用いることができる。
【0026】
図1を参照して、レール10には、直動案内ユニット1を取付る相手部材を固定するための取付け孔11が形成されている。レール10には、長さ方向の両側面に第1軌道溝12が形成されている。第1軌道溝12の壁面は、第1転走面である。第1軌道溝12は、レール10の長さ方向の両側面に形成された一対の凹溝である。第1軌道溝12の凹形状は、レール10の全長にわたって同一である。つまり、第1軌道溝12を構成する側壁の形状および角度、溝の深さは、第1軌道溝12の全長にわたって一定である。
【0027】
スライダ100はレール10に跨架されている。レール10とスライダ100は、互いに摺動自在である。スライダ100は、ケーシング110と、ケーシング110の長さ方向両端面に取付られたエンドキャップ120と、ケーシング110とエンドキャップ120の間に挿入されたスペーサ130と、エンドキャップ120の外側の端面に装着されたエンドシール140と、を有する。
【0028】
図3は、スライダ100において、一方側のエンドシール140を取り外した状態を示す図である。
図2、
図3を参照して、スライダ100は、上部と、当該上部の側部から垂下した袖部と、から構成される。スライダ100の上部には、ワークや機器等の相手部材を取付るための取付け用のねじ穴である穴101が複数形成されている。スライダ100の袖部の内部に、第1循環路103と、第1循環路103の両端にそれぞれ連続する第2循環路104とが形成されている。また、スライダ100の袖部におけるレール10との対向面には、第2軌道溝13が形成されている。第2軌道溝13の壁面は第2転走面である。レール10の第1軌道溝12とスライダ100の第2軌道溝13とが対向して、それらの間に、軌道路102が形成される。レール10の第1軌道溝12とスライダ100の第2軌道溝13とが対向して形成される管路は、軌道路102の主領域である軌道路第2部分102b(
図12)である。軌道路102および第1循環路103はそれぞれ、レール10の長さ方向に沿う直線状の管路である。一方、第2循環路104は、それらを連結する弧状の管路である。軌道路102、第1循環路103およびそれらを連結する第2循環路104によって、無端の環状路が形成される。直動案内ユニット1は、環状路に封入されたボール200が環状路の中を無限循環する、無限循環式の直動案内ユニットである。
【0029】
スライダ100がレール10の上を移動するとき、ボール200が転動することによって、スライダ100はレール10上を摺動する。エンドキャップ120には、エンドキャップ120をエンドシール140およびスペーサ130とともにケーシング110に固定するための固定用ボルトが挿入される、貫通穴123が形成されている。エンドキャップ120の正面(エンドシール140と対向する面)には、保持バンド溝128が形成されている。保持バンド150(
図12)は、スライダ100をレール10から取りはずしたときに、ボール200が脱落しないように保持するバンドである。
【0030】
図4は、スライダ100から一方側のエンドキャップ120及びエンドシール140を取り外した状態を示す図であり、一方側のスペーサ130が露出している。スライダ100の長手方向において、ケーシング110を挟むように、ケーシング110の両端面に接してスペーサ130が配置されている。
図4を参照して、スペーサ130は、大略的には、上方に位置しスライダ100の幅方向にわたって延在するスペーサ板131と、スペーサ板131の下方に位置し、環状路の一部を構成する脚部139と、を含む。スペーサ130の脚部139は、第2循環路104の壁面である第2循環路内周壁132を含む。さらに、スペーサ130の脚部139は、第2循環路104と軌道路102の境界部に位置する挿入部材135を含む。挿入部材135は、スペーサ130と一体に形成されている。挿入部材135は、軌道路102の第2転走面の一部を構成する。レール10とスライダ100とが組み合わされた時、挿入部材135と、レール10の第1軌道溝12とが対向して、それらの間に軌道路102が形成される。挿入部材135とレール10の第1軌道溝12とが対向して形成される管路は、軌道路102と第2循環路104との境界部における軌道路102の一部分である、軌道路第1部分102a(
図12)である。挿入部材135の内周面と第2軌道溝13とが連続し、軌道路102の第2転走面が構成される。
【0031】
スペーサ板131には、貫通穴123が形成されている。貫通穴123は、スペーサ130を、エンドキャップ120およびエンドシール140(
図1)とともにケーシング110に固定するための固定用ボルトが挿入される穴である。第2循環路内周壁132の上部には、突部136が形成されている。突部136によって、スペーサ130とエンドキャップ120とを組み合わせる時に位置決めを容易にすることができる。
【0032】
図5は、エンドキャップ120の背面(スペーサ130と対向する面)を示す。
図6は、エンドキャップ120の背面の斜視図である。
図5、
図6を参照して、エンドキャップ120には油孔121および油孔121に連通する油溝122が形成されている。エンドシール140に設けられたグリース注入口から注入された潤滑剤が、油孔121および油溝122を通って、環状路内に供給されうる。
【0033】
エンドキャップ120は、第2循環路外周壁125を有する。第2循環路外周壁125は、スペーサ130の第2循環路内周壁132(
図4)と対向して、方向転換路104を形成する。第2循環路外周壁125の上部には、位置決めのための凹部124が形成されている。凹部124は、スペーサ130の突部136(
図4)と嵌合する形状である。凹部124とスペーサ130の突部136(
図4)とが組み合わされ、エンドキャップ120とスペーサ130とが密着すると、弧状の経路である第2循環路104が形成される。第2循環路外周壁125は、その内方端(軌道路102に連続する端)に、軌道路102に沿う方向に突出するすくい爪126を有する。すくい爪126は、レール10の第1軌道溝12(
図1)に適合する。すくい爪126によって、ボール200が軌道路102から第2循環路104へと進入させられる。第2循環路外周壁125の外方端においては、第2循環路外周壁125に連続して、第1循環路103の外周壁の一部を構成する第1循環路外周壁端部127が設けられている。
【0034】
図7はスペーサ130の正面(エンドキャップ120と対向する面)を示す。
図8は、スペーサ130の背面(ケーシング110と対向する面)を示す。
図9はスペーサ130の斜視図である。
図10はスペーサ130の側面を示す。
図7、
図9、
図10を参照して、スペーサ130の正面側では、脚部139において、第2循環路内周壁132および突部136がスペーサ板131よりも外方に張り出すように設けられている。突部136の中央には油溝133が設けられている。
【0035】
図8~
図10を参照して、スペーサ130の背面側には、脚部139において、軌道路102の内周壁の一部を構成する挿入部材135と、第1循環路103の内周壁の一部を構成する、第1循環路内周壁端部134とが設けられている。スペーサ130の背面側では、挿入部材135および第1循環路内周壁端部134がスペーサ板131よりも外方に張り出すように設けられている。挿入部材135は、レール10の第1軌道溝12(
図1)と対向して、軌道路第1部分102a(
図12)を形成する。第1循環路内周壁端部134は、第2循環路内周壁132と連続している。スペーサ130とエンドキャップ120(
図6)とを組み合わせた時、第1循環路内周壁端部134は、エンドキャップ120の第1循環路外周壁端部127(
図6)と対向して、第1循環路103の端部を構成する。
【0036】
図11はエンドキャップ120とスペーサ130とを組み合わせた状態を示す。スペーサ130の第1循環路内周壁端部134と、エンドキャップ120の第1循環路外周壁端部127とが対向し、第1循環路103の端部を形成している。第2循環路104の内周壁132と軌道路102の内周壁の一部を構成する挿入部材135との接続部は、内周壁132および挿入部材135の壁面の形状が互いに異なることから、僅かな段差がある。
【0037】
図12は、
図2に示す直動案内ユニット1の断面図の一部拡大図である。
図12を参照して、レール10とスライダ100とが組み合わさっている。スライダ100が外力によって動かされる時、ボール200が第1軌道溝12の壁面と接触し、ボール200が転動することによって、レール10とスライダ100とが摺動する。
【0038】
スライダ100において、第1循環路103の主領域の壁部は、第1循環路103の長手方向に延在する円筒部材151で構成される。第1循環路103の端部(第1循環路103と第2循環路104の境界部分)では、スペーサ130の第1循環路内周壁端部134と、エンドキャップ120の第1循環路外周壁端部127とが対向している。また、第2循環路内周壁132と第2循環路外周壁125が対向して、弧状の第2循環路104が形成されている。
【0039】
軌道路102は、レール10の第1軌道溝12とスライダ100の挿入部材135とが対向して形成される軌道路第1部分102aと、レール10の第1軌道溝12とスライダ100の第2軌道溝13とが対向して形成される軌道路第2部分102bと、を含む。軌道路第1部分102aは、軌道路102における、第2循環路104との境界部分にある。
【0040】
図12を参照して、第1循環路103および第2循環路104は無負荷域であり、ボール200は自由に転動する。第1循環路103の円筒部材151は潤滑部品であり、ボール200は潤滑されながら転動する。一方、軌道路102は負荷域であり、ボール200は軌道路12の壁面(軌道路第1部分102aにおいては第1軌道溝12および挿入部材135の表面、軌道路第2部分102bにおいては第1軌道溝12および第2軌道溝13の表面)と当接しながら自転および公転を生じる。
【0041】
図12を参照して、直動案内ユニット1の動作について説明する。直動案内ユニット1において、レール10は固定され、スライダ100は外部から力を加えられてレール10上を移動する。例えばスライダ100が右方向(
図12の紙面における右方向)に移動するとき、ボール200は自転しながら、時計回りに公転する。すなわち、ボール200は、第1循環路103から第2循環路104を経て、軌道路102へと進行する。第2循環路104と軌道路102との境界部分である軌道路第1部分102aには、挿入部材135がある。このため、第2循環路104から軌道路102に進入するボール200は、軌道路102においてまず挿入部材135(軌道路第1部分102a)を通過し、次いで、第1軌道溝12及び第2軌道溝13から形成される軌道路第2部分102bに進入する。
【0042】
図13は、
図12におけるA-A´断面を示し、軌道路第2部分102bにおける断面である。
図13を参照して、ボール200が、レール10とスライダ100の間に保持されている。ボール200とレール10とは、レール10の第1軌道溝12の表面の2箇所の接点p
3において接している。接触角θ
3は50°である。接触角θ
3は、ボール200の中心を通り水平方向に延びる線Lと、ボール200の中心と接点p
3とを通る線L
3とがなす角である。また、スライダ100における第2軌道溝13は、その長手方向に直交する断面がゴシックアーチ形状である、ゴシックアーチ溝である。ボール200とスライダ100の第2軌道溝13(第2転走面)とは、2箇所の接点p
2において当接している。その接触角θ
2は50°である。接触角θ
2は、ボール200の中心を通り水平方向に延びる線Lと、ボール200の中心と接点p
2とを通る線L
2とがなす角である。
【0043】
図14は
図12におけるB-B´断面を示す。ボール200が、レール10と、挿入部材135との間に保持されている。ボール200とレール10とは、レール10の第1軌道溝12の表面の2箇所の接点p
3にて接している。接触角θ
3は50°である。接触角θ
3は、ボール200の中心を通り水平方向に延びる線Lと、ボール200の中心と接点p
3とを通る線L
3とがなす角である。スライダ100には挿入部材135が挿入されており、ボール200と挿入部材135とは、挿入部材135の表面(第2転走面)の2箇所の接点p
1にて接している。ボール200と挿入部材135との接触角θ
1は60°である。接触角θ
1は、ボール200の中心を通り水平方向に延びる線Lと、ボール200の中心とボール200接点p
1とを通る線L
1とがなす角である。接触角θ
1は、挿入部材135の長手方向にわたって(すなわち、軌道路第1部分102aの長さ方向にわたって)同じである。なお、実施の形態1では、前述のとおり、接触角θ
1は軌道路第1部分102aの長さ方向にわたって同じであるが、軌道路第1部分の中で接触角を変化させてもよい。
【0044】
挿入部材135の長手方向に直交する断面において、接点p1を含む壁面はそれぞれ平面である。すなわち、軌道路第1部分102aにおいて、挿入部材135の内側壁面(ボール200に対向する壁面)は、2点の接点p1それぞれにおける接面でありかつ軌道路102の長手方向に延在する2つの平面m11、m12と、2つの平面m11、m12を接続する曲面m13と、を含む。実施の形態1では曲面m13はその断面において一定の曲率を有する曲面であるが、2つの平面m11、m12を接続する面であれば、1の面であっても複数の面が組み合わされていてもよい。
【0045】
図13、14を参照して、軌道路102の中で、挿入部材135が配置された部分(軌道路第1部分102a)におけるボール200と軌道路壁面との接触角θ
1は、軌道路12のその他の部分(軌道路第2部分102b)におけるボール200と軌道路壁面との接触角θ
2よりも大きい。ここで、ボールと軌道路との接触角が大きいほど、ボールの回転半径は小さくなり、公転速度が遅くなるという関係がある。このことから、第2循環路104から軌道路102に進入したボール200は、軌道路第1部分102aにおいて、軌道路12に先に進入したボール(先行するボール)よりも公転速度が遅くなる。このため、軌道路102内でボール間に適正な隙間が作られ、ボール同士の競り合いの発生が抑えられる。
【0046】
実施の形態1においては、接触角θ1は接触角θ2よりも10°大きいが、接触角の差はこれに限定されず、例えば1~20°程度とすることができ、接触角の差が5~15°であればより好ましい。接触角の差が1~20°程度であれば、転動体の転走を調整して転動体同士の間隔を保つことができるとともに、転動体の転走を妨げることがない。
【0047】
挿入部材135の軌道方向の長さ(つまり、軌道路第1部分102aの長さ)は発明の効果が得られる限り特に制限されないが、例えば、転動体200の直径の0.25倍以上3倍以下とすることができる。軌道路第1部分102aの長さが転動体の直径の0.25倍以上であれば、転動体の走行を調整して転動体の競り合いの発生を抑えるという効果を得ることができる。また、軌道路第2部分102bに位置する転動体が負荷を受けることから、軌道路第2部分102bに位置する転動体の数を多くできるよう、軌道路第2部分102bの長さは長い(すなわち軌道路第1部分102aの長さが短い)ことが好ましい。このため、軌道路第1部分102aの長さは、転動体の直径の3倍以下であることが好ましい。また、挿入部材135の軌道方向の具体的な長さは、直動案内ユニット1全体の大きさ等に応じて選択され、特に制限されないが、例えば0.5~5mm程度とすることができ、2~4mmであればより好ましい。また、挿入部材135は、例えば樹脂で形成することができる。挿入部材135を樹脂で形成すると、鋼材で形成する場合よりも設計の自由度が高く、また、スペーサと一体とすることによって、組み立てが容易で確実に挿入部材を軌道路内に配置することができる。
【0048】
(実施例)
実施の形態1として示した直動案内ユニットを作製し、横置きにて動作させた。軌道路第1部分102aと軌道路第2部分102bの転動体200の公転速度を測定した結果、軌道路第1部分102aが軌道路第2部分102bと比べて遅くなっており、軌道路第2部分102bで転動体間に隙間が生じることが確認された。
【0049】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、請求の範囲によって規定され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0050】
1 直動案内ユニット、10 レール、12 第1軌道溝、13 第2軌道溝、100 スライダ、101 ねじ穴、102 軌道路、102a 軌道路第1部分、102b 軌道路第2部分、103 第1循環路、104 第2循環路、110 ケーシング、120 エンドキャップ、121 油孔、122 油溝、123 貫通穴、124 凹部、125 第2循環路外周壁、126 すくい爪、127 第1循環路外周壁端部、128 保持バンド溝、130 スペーサ、131 スペーサ板、132 第2循環路内周壁、133 油溝、134 第1循環路内周壁端部、135 挿入部材、136 突部、139 脚部、140 エンドシール、150 保持バンド、151 円筒部材、200 ボール。