(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】造形方法及び造形装置
(51)【国際特許分類】
B29C 64/112 20170101AFI20240529BHJP
B29C 64/218 20170101ALI20240529BHJP
B22F 10/10 20210101ALI20240529BHJP
B22F 12/63 20210101ALI20240529BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20240529BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20240529BHJP
【FI】
B29C64/112
B29C64/218
B22F10/10
B22F12/63
B33Y10/00
B33Y30/00
(21)【出願番号】P 2020190802
(22)【出願日】2020-11-17
【審査請求日】2023-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000237271
【氏名又は名称】株式会社FUJI
(74)【代理人】
【識別番号】110000992
【氏名又は名称】弁理士法人ネクスト
(74)【代理人】
【識別番号】100162237
【氏名又は名称】深津 泰隆
(74)【代理人】
【識別番号】100191433
【氏名又は名称】片岡 友希
(72)【発明者】
【氏名】竹内 佑
【審査官】今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-067119(JP,A)
【文献】特開2020-151971(JP,A)
【文献】国際公開第2019/058515(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/041189(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00 - 64/40
B22F 10/00 - 10/85
B22F 12/00 - 12/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硬化性粘性流体をステージの上面に吐出する吐出工程と、
前記吐出工程により吐出した前記硬化性粘性流体に、幅方向に沿って所定の部材幅を有する平坦化部材を接触させ前記硬化性粘性流体を平坦化する第1平坦化工程と、
前記第1平坦化工程を実行した後、前記ステージ及び前記平坦化部材の少なくとも一方を、前記部材幅よりも短いスライド距離だけ前記平坦化部材の幅方向に移動させ、前記第1平坦化工程で平坦化した前記硬化性粘性流体に対する前記平坦化部材の位置をずらす位置調整工程と、
前記位置調整工程を実行した後、前記第1平坦化工程で平坦化した前記硬化性粘性流体又は前記硬化性粘性流体の上に吐出した硬化性粘性流体に、位置をずらした前記平坦化部材を接触させ平坦化する第2平坦化工程と、
を含
み、
前記ステージの上面における前記硬化性粘性流体を吐出することが可能な吐出可能領域の前記幅方向に沿った長さを吐出領域幅とした場合、前記部材幅及び前記吐出領域幅の一方が他方に比べて余剰距離だけ長く、且つ、前記スライド距離が前記余剰距離よりも短い、造形方法。
【請求項2】
前記第1平坦化工程を実行する毎に、前記位置調整工程を実行し、
前記位置調整工程を実行する毎に、前記ステージ及び前記平坦化部材の少なくとも一方を、前記平坦化部材の幅方向へ同一の前記スライド距離だけ移動させる、請求項1に記載の造形方法。
【請求項3】
前記平坦化部材は、
前記幅方向に長い円柱形状をなし、前記幅方向を軸方向として回転するローラーである、請求項1又は請求項2に記載の造形方法。
【請求項4】
前記位置調整工程において、
前記軸方向における前記ステージの位置を固定し、前記軸方向に前記ローラーを前記スライド距離だけ移動させる、請求項3に記載の造形方法。
【請求項5】
前記位置調整工程において、
前記軸方向における前記ローラーの位置を固定し、前記軸方向に前記ステージを前記スライド距離だけ移動させる、請求項3に記載の造形方法。
【請求項6】
前記硬化性粘性流体は、
絶縁性を有する樹脂であり、
前記第2平坦化工程で平坦化した前記硬化性粘性流体を硬化させ絶縁部材を造形する硬化工程と、
前記硬化工程で硬化した前記絶縁部材の上に、金属粒子を含む流体を吐出する第2吐出工程と、
前記第2吐出工程により吐出した前記金属粒子を含む流体を硬化し、前記絶縁部材の上に金属製の導体を造形する第2硬化工程と、
を含む、請求項1から請求
項5の何れか1項に記載の造形方法。
【請求項7】
吐出装置と、
幅方向に沿って所定の部材幅を有する平坦化部材を備える平坦化装置と、
移動装置と、
制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記吐出装置を制御して、硬化性粘性流体をステージの上面に吐出させる吐出部と、
前記吐出部により吐出した前記硬化性粘性流体に、前記平坦化部材を接触させ前記硬化性粘性流体を平坦化する第1平坦化部と、
前記第1平坦化部による平坦化を実行した後、前記移動装置を制御して、前記ステージ及び前記平坦化部材の少なくとも一方を、前記部材幅よりも短いスライド距離だけ前記平坦化部材の幅方向に移動させ、前記第1平坦化部で平坦化した前記硬化性粘性流体に対する前記平坦化部材の位置をずらす位置調整部と、
前記位置調整部による調整を実行した後、前記第1平坦化部で平坦化した前記硬化性粘性流体又は前記硬化性粘性流体の上に吐出した硬化性粘性流体に、位置をずらした前記平坦化部材を接触させ平坦化する第2平坦化部と、
を備
え、
前記ステージの上面における前記硬化性粘性流体を吐出することが可能な吐出可能領域の前記幅方向に沿った長さを吐出領域幅とした場合、前記部材幅及び前記吐出領域幅の一方が他方に比べて余剰距離だけ長く、且つ、前記スライド距離が前記余剰距離よりも短い、造形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、3次元積層造形における平坦化処理に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、紫外線硬化樹脂などの硬化性粘性流体を用いて、3次元積層造形によって造形物を造形する技術が種々提案されている。下記特許文献1の立体物造形装置は、造形台に吐出したインクを紫外線で硬化して造形物を造形する。また、立体物造形装置は、造形台に吐出したインクを平坦化する平坦化ローラーを備えている。立体物造形装置は、平坦化ローラーをインクに接触させて回転させながら平坦化処理を行う。立体物造形装置は、平坦化ローラーによる平坦化処理において、造形台及び平坦化ローラーを上下方向に移動させ、平坦化ローラーの接触面の傾きを調整する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した平坦化ローラーのような平坦化部材を用いる平坦化処理では、平坦化部材に局所的な不具合が発生すると、インクを均等な厚みに均すことができず平坦化不良が発生する。例えば、平坦化部材のインクと接触する部分の一部に凹凸部分がある場合、その部分だけ平坦化後の厚みが厚く又は薄くなる可能性がある。また、平坦化部材自体に不具合がなくとも、例えば、平坦化部材で掻き取ったインクを回収機構で回収する際に、回収が不十分であると、平坦化部材の一部に回収漏れのインクが付着したまま平坦化処理が行われる。その結果、平坦化後のインクの一部が厚くなる可能性がある。
【0005】
このような平坦化不良の箇所が造形中に累積して積層されると、造形物の一部の厚みが想定していた以上の厚み、あるいは想定していた以下の厚みとなり、造形寸法の不良が発生する。また、造形物の一部が、想定していた厚みと異なる厚みで造形されることで、平坦化部材やインクヘッドなどの他の部材と造形物が干渉する虞がある。
【0006】
本開示は、そのような実情に鑑みてなされたものであり、平坦化部材を用いて硬化性粘性流体を平坦化する場合に、平坦化不良の箇所が累積して積層されることを抑制できる造形方法及び造形装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書は、硬化性粘性流体をステージの上面に吐出する吐出工程と、前記吐出工程により吐出した前記硬化性粘性流体に、幅方向に沿って所定の部材幅を有する平坦化部材を接触させ前記硬化性粘性流体を平坦化する第1平坦化工程と、前記第1平坦化工程を実行した後、前記ステージ及び前記平坦化部材の少なくとも一方を、前記部材幅よりも短いスライド距離だけ前記平坦化部材の幅方向に移動させ、前記第1平坦化工程で平坦化した前記硬化性粘性流体に対する前記平坦化部材の位置をずらす位置調整工程と、前記位置調整工程を実行した後、前記第1平坦化工程で平坦化した前記硬化性粘性流体又は前記硬化性粘性流体の上に吐出した硬化性粘性流体に、位置をずらした前記平坦化部材を接触させ平坦化する第2平坦化工程と、を含み、前記ステージの上面における前記硬化性粘性流体を吐出することが可能な吐出可能領域の前記幅方向に沿った長さを吐出領域幅とした場合、前記部材幅及び前記吐出領域幅の一方が他方に比べて余剰距離だけ長く、且つ、前記スライド距離が前記余剰距離よりも短い、造形方法を開示する。
尚、本開示の内容は、造形方法としての実施に限らず、種々の形態により実施することができる。例えば、本開示の内容は、造形装置として実施しても有益である。
【発明の効果】
【0008】
本開示の造形方法、造形装置によれば、位置調整を実行することで、ステージ及び平坦化部材の少なくとも一方をスライド距離だけ幅方向に移動させ、平坦化した硬化性粘性流体に対する平坦化部材の位置をずらす。そして、スライド距離だけずらした上で、平坦化部材によって硬化性粘性流体を平坦化する。これにより、仮に、平坦化部材に局所的な不具合が発生したとしても、平坦化部材をずらしながら平坦化処理を実行することで、より均一に平坦化することができる。平坦化不良が造形中に累積していくことを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態の製造装置を平面視した状態を模式的に示す平面図である。
【
図3】吐出工程、平坦化工程、硬化工程の一例を示す図である。
【
図4】平坦化工程の前後における紫外線硬化樹脂の状態を示す図である。
【
図5】絶縁層に導体を造形する工程を示す図である。
【
図6】絶縁層に電子部品を実装する工程を示す図である。
【
図7】平坦化不良が発生する状態を示す模式図である。
【
図8】第1平坦化処理と、その次に実行する第2平坦化処理の上面図、及び側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(1.製造装置10の構成)
図1は、本開示の造形装置を具体化した一実施形態の製造装置10の平面図を示している。本実施形態の製造装置10は、搬送装置20と、造形ユニット22と、装着ユニット23と、検査ユニット24と、制御装置26(
図2参照)とを備えている。搬送装置20、造形ユニット22、装着ユニット23、検査ユニット24は、製造装置10のベース28の上に配置されている。ベース28は、概して長方形状をなしている。以下の説明では、ベース28の長手方向をX軸方向、ベース28の短手方向をY軸方向、X軸方向及びY軸方向の両方に直交する方向をZ軸方向と称して説明する。
【0011】
搬送装置20は、X軸スライド機構30と、Y軸スライド機構32とを備えている。そのX軸スライド機構30は、X軸スライドレール34と、X軸スライダ36とを有している。X軸スライドレール34は、X軸方向に延びるように、ベース28の上に配設されている。X軸スライダ36は、X軸スライドレール34によって、X軸方向にスライド可能に保持されている。さらに、X軸スライド機構30は、電磁モータ38(
図2参照)を有しており、電磁モータ38の駆動により、X軸スライダ36をX軸方向の任意の位置に移動させる。
【0012】
また、Y軸スライド機構32は、Y軸スライドレール50と、ステージ52とを有している。Y軸スライドレール50は、Y軸方向に延びるように、ベース28の上に配設されている。Y軸方向におけるY軸スライドレール50の一端部は、X軸スライダ36に連結されている。これにより、Y軸スライドレール50は、X軸スライダ36のスライド移動にともなって、X軸方向に移動可能とされている。ステージ52は、Y軸スライドレール50によってY軸方向にスライド可能に保持されている。さらに、Y軸スライド機構32は、電磁モータ56(
図2参照)を有しており、電磁モータ56の駆動により、ステージ52をY軸方向の任意の位置に移動させる。これにより、ステージ52は、X軸スライド機構30及びY軸スライド機構32の駆動により、ベース28上において、X軸方向及びY軸方向の任意の位置に移動可能となっている。
【0013】
ステージ52は、基台60と、保持装置62と、昇降装置64とを有している。基台60は、平板状に造形され、X軸方向及びY軸方向に平行な上面が形成され、その上面にベース部材70(
図3参照)が載置される。ベース部材70は、例えば、鉄やステンレスなどの金属製の板である。保持装置62は、基台60のY軸方向の両側部に設けられている。そして、基台60に載置されたベース部材70のY軸方向の両縁部が、保持装置62によって挟まれることで、ベース部材70が基台60に対して固定的に保持される。また、昇降装置64は、基台60の下方に配設されており、基台60をZ軸方向に昇降させる。
【0014】
造形ユニット22は、ステージ52の基台60に載置されたベース部材70の上に造形物を造形するユニットであり、印刷部72と、硬化部74とを有している。印刷部72は、
図3に示すように、インクジェットヘッド75を有しており、基台60に載置されたベース部材70の上に、流体を薄膜状に吐出する。インクジェットヘッド75が吐出する流体としては、紫外線によって硬化する紫外線硬化樹脂76(
図3参照)を採用することができる。紫外線硬化樹脂76は、本願の硬化性粘性流体の一例である。尚、硬化性粘性流体としては、紫外線硬化樹脂の他に、熱硬化性樹脂などの他の粘性流体を採用することができる。基台60やベース部材70の上面は、本開示のステージ52の上面の一例である。
【0015】
また、インクジェットヘッド75は、紫外線硬化樹脂76の他に、例えば、金属インク77(
図5参照)を吐出可能となっている。金属インク77は、例えば、ナノメートルサイズの金属(銀など)の微粒子を溶剤中に分散させたものであり、熱により焼成され硬化する。金属微粒子の表面は、例えば、分散剤によりコーティングされており、溶剤中での凝集が抑制されている。
【0016】
インクジェットヘッド75は、紫外線硬化樹脂76を吐出する場合、例えば、圧電素子を用いたピエゾ方式によって複数のノズルから紫外線硬化樹脂76を吐出する。尚、インクジェットヘッド75は、ピエゾ方式に限らず、紫外線硬化樹脂76を加熱して気泡を発生させノズルから吐出するサーマル方式によって複数のノズルから紫外線硬化樹脂76を吐出しても良い。また、インクジェットヘッド75は、金属インク77を吐出する場合、例えば、圧電素子を用いたピエゾ方式によって複数のノズルから金属インク77を吐出する。尚、吐出装置としては、複数のノズルを備えるインクジェットヘッド75に限らず、例えば、1つのノズルを備えたディスペンサーでも良い。また、インクジェットヘッド75は、金属インク77を吐出するノズルと、紫外線硬化樹脂76を吐出するノズルとを別々に備えてもよく、2つの硬化性粘性流体を吐出するノズルを共用しても良い。
【0017】
図2に示すように、硬化部74は、平坦化装置78と、照射装置81と、ヒータ82とを有している。平坦化装置78は、インクジェットヘッド75によってベース部材70の上に吐出された紫外線硬化樹脂76を平坦化する装置である。
図4に示すように、平坦化装置78は、ローラー79と、回収機構80とを有している。
【0018】
図3は、吐出工程、平坦化工程、硬化工程の一例を示している。
図4は、平坦化工程の前後における、紫外線硬化樹脂76の状態を示している。尚、
図3は、基台60、保持装置62、回収機構80等の図示を省略している。
図3及び
図4に示すように、ベース部材70の上面には、例えば、熱によって剥離可能な剥離フィルム91が貼り付けられており、その剥離フィルム91の上に造形物(電子デバイスなど)が製造される。剥離フィルム91は、例えば、所定温度以上まで加熱されることで、ベース部材70から剥離する部材である。剥離フィルム91をベース部材70から剥離させることで、造形物をベース部材70から分離することができる。尚、ベース部材70と造形物を分離する方法は、剥離フィルム91を用いる方法に限らない。例えば、ベース部材70と造形物の間に、熱によって溶ける部材(サポート材など)を配置し、その部材を溶かして分離しても良い。また、剥離フィルム91などの分離する部材を用いずに、ベース部材70の上に直接、造形物を造形しても良い。
【0019】
また、ローラー79は、例えば、Y軸方向に沿った円柱形状をなし、金属材料により形成されている。ローラー79は、Y軸方向を回転軸として回転可能に移動機構90によって保持されている。移動機構90は、例えば、Y軸方向の両端においてローラー79を回転可能に保持し、平坦化装置78の制御に基づいて、ローラー79を回転可能な状態でXYZの各軸方向へ移動可能となっている。移動機構90は、平坦化装置78の制御に基づいて、流動可能な状態の紫外線硬化樹脂76の表面にローラー79を接触させながら回転させてX軸方向へ移動させ、紫外線硬化樹脂76の表面を平坦化する(
図4参照)。以下の説明では、例えば、ローラー79をX軸方向に沿って1回走査して紫外線硬化樹脂76を平坦化する動作を平坦化処理と称して説明する。尚、製造装置10は、平坦化処理において、ローラー79を移動させずに、ステージ52をX軸方向に移動させて、紫外線硬化樹脂76の平坦化を実行しても良い。また、製造装置10は、ローラー79とステージ52の両方を移動させて平坦化処理を実行しても良い。
【0020】
図4の左側の図は、平坦化処理前の状態を示しており、インクジェットヘッド75から吐出された紫外線硬化樹脂76が、紫外線硬化樹脂76を硬化した絶縁層93の上に吐出された状態となっている。吐出された紫外線硬化樹脂76は、例えば、インクジェットヘッド75の各ノズルの吐出量のばらつきなどにより、Z方向の厚みにばらつきが発生する。このような状態において、平坦化装置78は、ローラー79を紫外線硬化樹脂76に接触させた状態でX軸方向へ回転させながら移動させる。平坦化装置78は、Z方向における所定の高さを維持した状態でローラー79をX軸方向へ走査させる。ローラー79は、紫外線硬化樹脂76を均しながら、厚みが均一となるように余剰の紫外線硬化樹脂76を表面に付着させながら回転する。
【0021】
回収機構80は、例えば、ローラー79の表面に向かって突出するブレード95を有しており、ローラー79の表面からブレード95で掻き取った紫外線硬化樹脂76を貯めて排出する。回収機構80は、例えば、回収した紫外線硬化樹脂76を廃液タンクに排出する。これにより、平坦化装置78は、紫外線硬化樹脂76の表面を均しながら余剰分の紫外線硬化樹脂76を掻き取って排出することで、紫外線硬化樹脂76を均一な厚みに平坦化する。
【0022】
尚、平坦化装置78は、ローラー79によって平坦化を行なう構成に限らない。例えば、平坦化装置78は、スキージなどの板状の部材を紫外線硬化樹脂76の表面にあてて、平坦化処理を実行する構成でも良い。あるいは、平坦化装置78は、ブラシやレーキを用いて、紫外線硬化樹脂76の表面を平坦化する構成でも良い。また、平坦化装置78は、紫外線硬化樹脂76に限らず、金属インク77の平坦化を実行しても良い。また、回収機構80は、回収した紫外線硬化樹脂76を、再度、供給タンクに戻しても良い。また、回収機構80は、ローラー79の表面に付着した紫外線硬化樹脂76をブレード95で掻き取る構成に限らない。例えば、回収機構80は、ローラー79に付着した紫外線硬化樹脂76を布などで吸収して回収する構成でも良い。
【0023】
また、硬化部74の照射装置81は、例えば、ベース部材70の上に吐出された紫外線硬化樹脂76に紫外線を照射する。紫外線硬化樹脂76は、紫外線の照射により硬化し、絶縁層93を造形する(
図3、
図4参照)。
図3に示すように、製造装置10は、インクジェットヘッド75からベース部材70の上に紫外線硬化樹脂76を吐出する吐出工程、ローラー79によって平坦化処理を実行する平坦化工程、平坦化した紫外線硬化樹脂76に照射装置81から紫外線を照射して硬化する硬化工程を複数回だけ繰り返し実行し、所望の厚みの絶縁層93を造形する。製造装置10は、例えば、吐出工程と硬化工程の間の1回の吐出工程において、1回又は複数回の平坦化処理を実行する。尚、製造装置10は、吐出工程の後に平坦化工程を毎回実行せずに、吐出工程を複数回実行するごとに平坦化工程を実行しても良い。例えば、製造装置10は、特定の層の造形時のみ平坦化工程を実行しても良い。
【0024】
また、硬化部74のヒータ82は、インクジェットヘッド75から吐出された金属インク77に熱を付与して焼成し、金属配線などの導体を造形する。
図5は、絶縁層93に導体を造形する工程を示している。
図6は、絶縁層93に電子部品を実装する工程を示している。
図5に示すように、製造装置10は、例えば、絶縁層93を造形する工程において、インクジェットヘッド75から金属インク77を吐出する工程(本開示の第2吐出工程の一例)を適宜実行する。また、
図6に示すように、製造装置10は、吐出した金属インク77をヒータ82によって焼成し、金属インク77を硬化させて導体を造形する工程(本開示の第2硬化工程の一例)を実行する。この導体は、例えば、絶縁層93の各層の上面に配設された配線97、各層の配線97を互いに接続するスルーホール98、電子部品100を配線97に接続する接続端子99などである。
【0025】
ヒータ82は、例えば、発熱体(フィラメントなど)を備え、発熱体に電力を供給して赤外線により金属インク77を加熱して焼成する。金属インク77の焼成とは、例えば、エネルギーを付与することによって、溶媒の気化や金属微粒子の保護膜、つまり、分散剤の分解等が行われ、金属微粒子が接触又は融着をすることで、導電率が高くなる現象である。そして、金属インク77を焼成することで、配線97等の導体を造形することができる。尚、金属インク77を加熱する装置は、ヒータ82に限らない。例えば、製造装置10は、金属インク77を加熱装置としてレーザ光を金属インク77に照射するレーザ照射装置や、金属インク77を吐出された絶縁層93を炉内に入れて加熱する雰囲気炉を備えても良い。
【0026】
また、製造装置10は、配線97、スルーホール98、接続端子99の造形に使用する金属インク77を使い分けても良い。例えば、接続端子99などの電子部品100等を固定する接着力が要求される箇所に、導電性樹脂ペーストを用いても良い。ここでいう導電性樹脂ペーストとは、例えば、加熱により硬化する樹脂に、マイクロメートルサイズの金属粒子(銀など)が分散されたものである。金属粒子は、例えば、フレーク状とされている。導電性樹脂ペーストは、熱を加えられることで硬化して樹脂が収縮し、その樹脂に分散されたフレーク状の金属粒子が互いに接触する。これにより、導電性樹脂ペーストが導電性を発揮する。導電性樹脂ペーストで形成した接続端子99は、例えば、上記したナノメートルサイズの金属の微粒子を溶剤中に分散させた金属インク77で形成した配線に比べて導電率が低い一方、樹脂の硬化により接着力が強く、密着性に優れている。従って、製造装置10は、導電率の高い金属インク77と、密着性の高い導電性樹脂ペースト(金属インク77)を使い分けることで、配線97や接続端子99などの用途に合った導体を造形しても良い。
【0027】
また、
図1に示す装着ユニット23は、例えば、造形ユニット22によって造形した配線97に接続される各種の電子部品100を装着するユニットであり、装着部83と、供給部84とを備えている。装着部83は、例えば、電子部品100を吸着する吸着ノズル(図示略)を有しており、吸着ノズルで保持した電子部品100を造形物に装着する。供給部84は、例えば、テーピング化された電子部品100を1つずつ送り出すテープフィーダを複数有しており、装着部83へ電子部品100を供給する。尚、供給部84は、テープフィーダから電子部品100を供給する装置に限らず、トレイから電子部品100をピックアップして供給するトレイ型の供給装置でもよい。
【0028】
装着ユニット23は、例えば、ステージ52の移動にともなって、装着部83の下方の位置にベース部材70が移動してくると、装着部83を供給部84の部品供給位置まで移動させるとともに、供給部84を駆動させて必要な電子部品100を供給させる。装着部83は、吸着ノズルによって供給部84の部品供給位置から電子部品100を吸着保持し、ベース部材70上に造形された絶縁層93の上に電子部品100を装着する。
図6に示すように、例えば、装着ヘッド116は、電子部品100の電極101と配線97とが、金属インク77(上記した導電性樹脂ペーストなど)を介して接続されるように、電子部品100を配置する。そして、製造装置10は、ステージ52を造形ユニット22へ移動させ、ヒータ82によって金属インク77を焼成し接続端子99を造形する。電子部品100は、接続端子99によって固定され、配線97に電気的に接続される。
【0029】
検査ユニット24は、造形ユニット22及び装着ユニット23によって製造された構造物(電子デバイスなど)を検査するユニットである。検査ユニット24は、例えば、カメラ等の撮像装置を備える。製造装置10は、検査ユニット24で撮像した画像データに基づいて、電子部品100が正常に絶縁層93に実装されているか否かを判断することができる。
【0030】
図2に示すように、制御装置26は、コントローラ102と、複数の駆動回路104と、記憶装置106とを備えている。複数の駆動回路104は、上記した電磁モータ38,56、保持装置62、昇降装置64、インクジェットヘッド75、平坦化装置78、照射装置81、ヒータ82、装着部83、供給部84、検査ユニット24に接続されている。コントローラ102は、CPU,ROM,RAM等を備え、コンピュータを主体とするものであり、複数の駆動回路104に接続されている。記憶装置106は、RAM、ROM、ハードディスク等を備えており、製造装置10の制御を行う制御プログラム107が記憶されている。コントローラ102は、制御プログラム107をCPUで実行することで、搬送装置20、造形ユニット22等の動作を制御することが可能となっている。以下の説明では、CPUで制御プログラム107を実行するコントローラ102のことを、単に装置名で記載する場合がある。例えば、「コントローラ102が造形ユニット22を制御する」という記載は、「コントローラ102がCPUで制御プログラム107を実行することで造形ユニット22を制御する」ということを意味する場合がある。
【0031】
本実施形態の製造装置10は、上述した構成によって、紫外線硬化樹脂76や金属インク77を硬化させることで、絶縁層93、配線97、電子部品100等(
図6参照)を有する電子デバイスを製造する。製造装置10のコントローラ102は、造形ユニット22を制御し、絶縁層93や配線97等の形状を変更することで、任意の形状の電子デバイスを造形することができる。また、コントローラ102は、造形する過程で装着ユニット23を制御し、電子部品100を絶縁層93に実装する。また、記憶装置106には、完成品の電子デバイスや、電子デバイスをスライスした各層の三次元データ108(設計データとも言い得る)が記憶されている。コントローラ102は、記憶装置106の三次元データ108に基づいて紫外線硬化樹脂76の吐出位置等を判断し、配線97等を有する絶縁層93を造形する。また、コントローラ102は、三次元データ108に基づいて電子部品100を配置する層や位置を判断し、電子部品100を絶縁層93に実装する。これにより、電子部品100を実装した電子デバイスを製造することができる。
【0032】
(2.平坦化工程の動作)
ここで、上記した金属製のローラー79では、例えば、製造時の切削加工の精度などによって、表面に微細な凹凸が発生する可能性がある。また、仮に、製造時に凹凸がなかったとしてもユーザが使用する段階でローラー79にキズ等が生じる可能性がある。このような局所的な不具合がローラー79に発生すると、紫外線硬化樹脂76を均等な厚みに均すことができず平坦化不良が発生する。
【0033】
図7は、平坦化不良が発生する状態を示す模式図である。尚、
図7は、回収機構80等の図示を省略している。
図7に示すように、例えば、ローラー79の一部に凹部79Aが形成されているとする。この場合、ローラー79によって平坦化された紫外線硬化樹脂76は、例えば、凹部79Aで均された部分の厚みが、他の部分に比べて厚くなり、平坦化不良が発生する(
図7の黒色で塗りつぶした部分参照)。また、ローラー79自体に不具合がなくとも、例えば、回収機構80のブレード95(
図4参照)の一部に、ローラー79との接触不良が発生すると、ローラー79の一部に回収漏れの紫外線硬化樹脂76が付着したまま平坦化処理が実行される。その結果、平坦化後の紫外線硬化樹脂76の一部が厚くなる可能性がある。そして、Y軸方向におけるローラー79の位置を変えずにX軸方向への走査を繰り返し実行すると、平坦化不良の箇所の厚みが累積的に増大する。
【0034】
逆に、例えば、ローラー79の一部に凸部があった場合、平坦化後の紫外線硬化樹脂76の一部が薄くなる可能性がある。そして、ローラー79の位置を変えずに走査を繰り返し実行すると、平坦化不良の箇所の厚みが累積的に減少する可能性がある。このような平坦化不良が造形中に累積していくと、造形物の一部の厚みが想定していた以上に厚く又は薄くなる。例えば、絶縁層93の一部が突出することで、突出部分と、ローラー79やインクジェットヘッド75が干渉する虞がある。また、絶縁層93の上に形成した配線97の一部に割れや断線等が発生する虞がある。
【0035】
そこで、本実施形態の製造装置10は、平坦化処理において、吐出された紫外線硬化樹脂76に対するローラー79のY軸方向における位置をずらすことで、平坦化不良の累積を抑制する。詳述すると、
図8は、第1平坦化処理と、その次に実行する第2平坦化処理の上面図及び側面図を示している。
【0036】
例えば、Y軸方向に沿ったローラー79の幅を、部材幅120とする。この場合、Y軸方向は、本開示の幅方向の一例であり、ローラー79を移動させるX軸方向(移動方向)に垂直で、ステージ52(基台60、ベース部材70)の上面に平行な方向である。換言すれば、部材幅120は、ローラー79の移動方向に直交する方向に沿った幅である。尚、幅方向と移動方向とは、直交する関係でなくとも良い。例えば、移動機構90は、X軸方向とは所定の角度をなす方向へローラー79を移動させて走査を実行しても良い。また、幅方向は、ステージ52(基台60)の上面と所定の角度をなす方向(平行でない方向)でも良い。
【0037】
また、ステージ52の上面において、インクジェットヘッド75から紫外線硬化樹脂76を吐出することが可能な領域を吐出可能領域122とした場合に、吐出可能領域122のY軸方向に沿った長さを吐出領域幅121とする。本実施形態では、例えば、部材幅120が、吐出領域幅121に比べて余剰距離123だけY軸方向に沿って長くなっている。尚、
図8では、一例として、吐出可能領域122の全体に紫外線硬化樹脂76が吐出された状態を示している。
【0038】
吐出可能領域122は、例えば、ベース部材70の上面に貼り付けた剥離フィルム91と同一の大きさの領域である。あるいは、吐出可能領域122は、剥離フィルム91の端部から所定の距離だけ内側に小さくした領域でも良い。この所定の距離は、吐出可能領域122に吐出した紫外線硬化樹脂76や金属インク77が、吐出可能領域122の外側まで塗れ広がらないための距離である。具体的には、この所定の距離は、吐出可能領域122の端部に紫外線硬化樹脂76等を吐出した場合に、紫外線硬化樹脂76等が剥離フィルム91の外側まで塗れ広がらない距離であり、紫外線硬化樹脂76及び金属インク77の粘性、液滴の量、剥離フィルム91に対する接触角等に応じて設定可能な距離である。また、例えば、X軸方向及びY軸方向におけるインクジェットヘッド75の可動範囲が、剥離フィルム91に比べて小さい場合、吐出可能領域122は、インクジェットヘッド75の可動範囲でも良い。
【0039】
例えば、コントローラ102は、第1平坦化処理において、
図8のY軸方向におけるローラー79の右側端部と、吐出領域幅121の右側端部を揃えた状態(以下、初期状態という場合がある)で平坦化処理を実行する。この場合、ローラー79は、Y軸方向における左側部分を、吐出領域幅121の左側端部からY軸方向に沿って余剰距離123だけ突出させた状態となる。コントローラ102は、例えば、移動機構90を制御して、ローラー79を紫外線硬化樹脂76に接触させながらX方向へ移動させ第1平坦化処理を実行する。
【0040】
コントローラ102は、例えば、第1平坦化処理を実行した後、移動機構90を制御して、ローラー79をZ軸方向に沿って上昇させ、紫外線硬化樹脂76からローラー79を離間させる。コントローラ102は、ローラー79を初期状態の位置まで戻し、第2平坦化処理を実行する。あるいは、コントローラ102は、第1平坦化処理を実行した後、ステージ52を照射装置81の位置に移動させ紫外線硬化樹脂76の硬化を実行しても良い。コントローラ102は、第1平坦化処理で平坦化した紫外線硬化樹脂76を硬化した後、ステージ52を印刷部72に移動させ、硬化した紫外線硬化樹脂76の上に紫外線硬化樹脂76を吐出する。そして、コントローラ102は、硬化後に吐出された紫外線硬化樹脂76を対象に第2平坦化処理を実行しても良い。
【0041】
コントローラ102は、第2平坦化処理を実行する前に、移動機構90(
図3参照)を制御し、例えば、ローラー79をY軸方向に沿ってスライド距離125だけ右方向へ移動させ、第1平坦化処理で平坦化した紫外線硬化樹脂76に対するローラー79のY軸方向における位置をずらす位置調整を実行する(本開示の位置調整工程の一例)。これにより、Y軸方向において、凹部79Aの位置は、吐出可能領域122に対して相対的にずれる。スライド距離125は、例えば、余剰距離123よりも短い距離であり、Y軸方向に沿ったローラー79(不具合箇所)の幅よりも長い距離である。
【0042】
そして、コントローラ102は、スライド距離125だけずらした位置で、ローラー79を紫外線硬化樹脂76に接触させながらX軸方向へ移動させ、第2平坦化処理を実行する。これにより、平坦化不良が造形中に累積していくことを抑制できる。例えば、
図8の第1平坦化処理の側面図に示すように、第1平坦化処理において凹部79Aで均された部分には、他の部分に比べZ軸方向の厚みが厚くなった肉厚部93Aが形成される。また、
図8の第2平坦化処理の側面図に示すように、第2平坦化処理において凹部79Aで均された部分には、他の部分に比べZ軸方向の厚みが厚くなった肉厚部93Bが形成される。第2平坦化処理を実行する前に、ローラー79をY軸方向へスライド距離125だけずらすことで、例えば、第2平坦化処理で形成される肉厚部93Bの位置は、第1平坦化処理で形成される肉厚部93Aの位置に比べ、Y軸方向にスライド距離125だけずれた位置となる。
【0043】
コントローラ102は、例えば、インクジェットヘッド75による吐出工程、第1平坦化処理、移動機構90によるローラー79をY軸方向にずらす位置調整工程、照射装置81による硬化工程、インクジェットヘッド75による吐出工程、第2平坦化処理、照射装置81による硬化工程を順番に実行する。この場合、本開示の第1平坦化工程と、第2平坦化工程は、吐出工程、硬化工程を間に挟んだ別々の平坦化工程となる。
【0044】
尚、コントローラ102は、1回の平坦化工程で、複数回の平坦化処理を実行する場合、1回の平坦化工程の中で、第1平坦化処理、位置調整工程、第2平坦化処理を実行しても良い。この場合、本開示の第1平坦化工程と、第2平坦化工程は、同一の平坦化工程となる。また、コントローラ102は、第2平坦化処理の後に、ローラー79をさらにスライド距離125だけY軸方向にずらす位置調整工程を実行し、ずらした位置で平坦化処理を実行しても良い。即ち、平坦化処理と位置調整工程とを何度も繰り返しても良い。また、コントローラ102は、Y軸方向におけるローラー79の位置を適宜戻しても良い。例えば、コントローラ102は、第2平坦化処理を実行するごとに、ローラー79の位置を、
図8の第1平坦化処理の位置(初期状態)に戻しても良い。また、コントローラ102は、例えば、平坦化処理を所定回数実行するごとに、ローラー79の位置を初期状態に戻しても良い。あるいは、コントローラ102は、位置調整工程を複数回実行しローラー79をY軸方向に移動させ、余剰距離123がゼロとなる位置までローラー79を移動させた場合に、ローラー79を初期状態に戻しても良い。
【0045】
従って、本実施形態では、ステージ52の上面における紫外線硬化樹脂76を吐出することが可能な吐出可能領域122のY軸方向に沿った長さを吐出領域幅121とした場合、部材幅120が吐出領域幅121に比べて余剰距離123だけ長く、且つ、スライド距離125が余剰距離123よりも短い。これによれば、スライド距離125を余剰距離123よりも短くし、ローラー79を、スライド距離125だけ移動させる。Y軸方向において、ローラー79が吐出可能領域122より長い場合、ローラー79が余剰距離123だけ長くなる。この場合、Y軸方向における吐出可能領域122の全体をローラー79でカバーしながら、ローラー79をスライド距離125だけずらしつつ平坦化処理を実行できる。
【0046】
また、Y軸方向において部材幅120と吐出領域幅121は同一長さでも良い。また、吐出領域幅121が、部材幅120よりも長い構成でも良い。この場合にも、コントローラ102は、平坦化処理を実行するごとに、ローラー79をスライド距離125だけずらしても良い。吐出可能領域122がローラー79より長い場合、吐出可能領域122が余剰距離123だけ長くなる。Y軸方向において吐出可能領域122が存在する範囲内でローラー79を移動させながら平坦化処理を実行できる。
【0047】
また、コントローラ102は、平坦化処理(上記した第1平坦化処理や第2平坦化処理など)を実行する毎に、位置調整工程を実行し、ローラー79をY軸方向へ移動させても良い。この場合、コントローラ102は、位置調整工程を実行する毎に、ステージ52及びローラー79の少なくとも一方を、Y軸方向へ同一のスライド距離125だけ移動させても良い。この同一のスライド距離125の値は、例えば、記憶装置106に予め記憶させ、コントローラ102に使用させても良い。
【0048】
例えば、試験的にステージ52やローラー79をずらさずに造形を行い、不具合箇所に応じて造形物に実際に造形される凹凸を計測し、Y軸方向のスライド距離125を決定することもできる。しかしながら、この場合、試験品の造形、凹凸の計測、計測結果の入力処理等をユーザに要求することとなり、ユーザビリティが低下する。そこで、部材幅120よりも短いスライド距離125を予め設定し、位置調整工程ごとに使用するスライド距離125として同一のスライド距離125を用いる。これにより、ユーザビリティの向上を図ることができる。また、同一のスライド距離125を用いることで、位置調整を行う処理の簡素化を図ることができ、製造装置10の処理負荷を軽減できる。
【0049】
また、本実施形態では、本開示の平坦化部材として、Y軸方向を幅方向として、幅方向に長い円柱形状をなし、幅方向を軸方向として回転するローラー79を採用している。円柱形状をなすローラー79では、製造時の加工精度が低いと、表面の一部に凹凸が発生する虞がある。また、ローラー79の使用中に表面の一部に傷などが発生しても平坦化不良が発生する虞がある。また、ブレード95等の回収機構による掻き取りが不十分になると、ローラー79の表面に紫外線硬化樹脂76が残る虞がある。従って、平坦化部材としてローラー79を用いる場合、軸方向における一部で、局所的な不具合が発生する可能性が高い。そこで、平坦化処理の実行に合わせて、紫外線硬化樹脂76に対するローラー79の位置を軸方向にずらすことで、このような局所的な不具合による平坦化不良の箇所が累積して積層されることを抑制できる。
【0050】
また、コントローラ102は、位置調整工程において、Y軸方向におけるステージ52の位置を固定し、移動機構90を制御してY軸方向にローラー79をスライド距離125だけ移動させる。これによれば、ステージ52の位置を固定してローラー79を移動させることで、紫外線硬化樹脂76に対するローラー79の位置をずらすことができる。また、吐出工程や硬化工程など、他の工程においてもY軸方向におけるステージの位置を固定することで、ステージ52をY軸方向に移動させる移動機構が不要となる。
【0051】
例えば、
図9は、別例の製造装置10Aの構成を示している。
図9に示す製造装置10Aは、
図1に示す製造装置10とは異なり、Y軸スライド機構32を備えていない。また、造形ユニット22、装着ユニット23、検査ユニット24の各々が、X軸スライド機構30の移動方向であるX軸方向に一列に並んで配置されている。このような構成では、硬化部74において、ローラー79の位置をY軸方向にずらすだけで、吐出した紫外線硬化樹脂76に対するローラー79の位置をずらすことができる。さらに、Y軸スライド機構32をなくすことで、製造装置10Aの小型化を図ることが可能となる。
【0052】
尚、コントローラ102は、ローラー79を移動させずに、Y軸スライド機構32を制御して、ステージ52(ベース部材70)をY軸方向にスライド距離125だけ移動させても良い。この場合、製造装置10は、ローラー79を移動させる移動機構90を備えなくとも良い。あるいは、コントローラ102は、ローラー79とステージ52の両方をY軸方向に移動させて、スライド距離125を調整しても良い。
【0053】
従って、コントローラ102は、位置調整工程において、Y軸方向におけるローラー79の位置を固定し、Y軸スライド機構32を制御して、Y軸方向にステージ52をスライド距離125だけ移動させても良い。この場合、ローラー79の位置を固定してステージ52を移動させることで、紫外線硬化樹脂76に対するローラー79の位置をずらすことができる。また、ローラー79の位置を固定することでローラー79を移動させる移動機構90などが不要となり、平坦化装置78の構造を簡略化することができる。
【0054】
また、コントローラ102は、ローラー79を段階的にずらしても良い。例えば、余剰距離123が15cmとする。また、コントローラ102は、例えば、1回の平坦化工程において、平坦化処理及び位置調整工程を5回実行する。この場合、コントローラ102は、スライド距離125として3cm(=15cm/5回)を設定し、1回の位置調整工程ごとに、ローラー79を3cmずつスライドさせながら平坦化処理を実行しても良い。また、コントローラ102は、例えば、吐出工程、平坦化工程、硬化工程、位置調整工程を繰り返し実行する場合に、位置調整工程を実行するごとに、3cmずつローラー79をY軸方向へ移動させても良い。そして、コントローラ102は、位置調整工程を5回実行すると、コントローラ102を元の位置(
図8の初期状態)に戻して、同じ動作を繰り返しても良い。
【0055】
また、コントローラ102は、位置調整工程を実行するごとに、スライド距離125を変更しても良い。例えば、コントローラ102は、位置調整工程を実行する前に、インクジェットヘッド75から紫外線硬化樹脂76を吐出した領域(実際に吐出した領域)のY軸方向に沿った幅と部材幅120との差を演算しても良い。この差は、実際に吐出した領域のY軸方向の幅に対する部材幅120の余剰距離となる。そして、部材幅120は、実際に吐出した領域のY軸方向に沿った幅と部材幅120との差に応じて、スライド距離125を変更しても良い。
【0056】
また、コントローラ102は、スライド距離125の設定値をユーザから受け付けても良い。例えば、ユーザは、試験的に、Y軸方向におけるローラー79の位置を固定して、造形物を製造装置10に造形させる。ユーザは、完成した造形物に形成された凸部や凹部(累積した肉厚部93A等)のY軸方向の幅を測定し、製造装置10に入力する。そして、コントローラ102は、入力された幅、あるいは幅以上の距離を、スライド距離125として設定する。これにより、実際に造形される凸部等の大きさに合わせて、スライド距離125を設定し、効率的にローラー79の位置をずらすことができる。
【0057】
また、本実施形態では、硬化性粘性流体として、絶縁性を有する紫外線硬化樹脂76を採用している。また、
図5及び
図6に示すように、コントローラ102は、ローラー79の位置をずらして平坦化した紫外線硬化樹脂76を硬化させ絶縁層93を造形する。また、コントローラ102は、絶縁層93の上に、金属インク77を吐出する工程(本開示の第2吐出工程の一例)と、吐出した金属インク77を硬化し、絶縁層93の上に配線97を造形する工程(本開示の第2硬化工程)とを実行する。
【0058】
金属インク77を硬化させて配線97やスルーホール98を、絶縁層93の上等に造形する場合、平坦化不良の箇所が累積して造形された凹凸が絶縁層93に発生すると、配線97等の厚さ・太さが不均一となる、配線97等に切断や割れが発生するなどの不具合が発生する。その結果、所望の電気的特性を有する導体を造形することが困難となる。そこで、ステージ52やローラー79をずらしながら絶縁層93を造形することで、より平坦化された絶縁層93を造形することができる。導体の切断等の発生を抑制することができる。
【0059】
因みに、上記実施例において、製造装置10は、製造装置の一例である。インクジェットヘッド75は、吐出装置の一例である。紫外線硬化樹脂76は、硬化性粘性流体の一例である。金属インク77は、金属粒子を含む流体の一例である。ローラー79は、平坦化部材の一例である。移動機構90は、移動装置の一例である。絶縁層93は、絶縁部材の一例である。配線97は、金属製の導体の一例である。Y軸方向は、幅方向の一例である。
【0060】
上記した実施形態によれば、以下の効果を奏する。
製造装置10のコントローラ102は、紫外線硬化樹脂76をステージ52の上面に吐出する吐出工程を実行する(
図3参照)。コントローラ102は、吐出工程により吐出した紫外線硬化樹脂76に、Y軸方向に沿って所定の部材幅120を有するローラー79を接触させ紫外線硬化樹脂76を平坦化する第1平坦化処理(本開示の平坦化工程の一例)を実行する(
図8参照)。コントローラ102は、第1平坦化処理を実行した後、ローラー79を、部材幅120よりも短いスライド距離125だけY軸方向に移動させ、第1平坦化処理で平坦化した紫外線硬化樹脂76に対するローラー79の位置をずらす位置調整工程を実行する。コントローラ102は、第1平坦化処理で平坦化した紫外線硬化樹脂76又は、平坦化した紫外線硬化樹脂76の上に吐出した紫外線硬化樹脂76に、位置をずらしたローラー79を接触させ平坦化する第2平坦化処理(本開示の第2平坦化工程の一例)を実行する(
図8参照)。
【0061】
これによれば、位置調整を実行することで、ローラー79をスライド距離125だけY軸方向に移動させ、平坦化した紫外線硬化樹脂76に対するローラー79の位置をずらす。そして、スライド距離125だけずらした上で、ローラー79によって紫外線硬化樹脂76を平坦化する。これにより、仮に、ローラー79に局所的な不具合(凹部79Aなど)が発生したとしても、ローラー79をずらしながら平坦化処理を実行することで、より均一に平坦化することができる。平坦化不良の箇所が造形中に累積して積層されることを抑制できる。
【0062】
尚、制御装置26のコントローラ102は、
図2に示すように、吐出部110、第1平坦化部111、位置調整部112、第2平坦化部113を有している。吐出部110等は、例えば、コントローラ102のCPUにおいて制御プログラム107を実行することで実現される処理モジュールである。尚、吐出部110等を、ソフトウェア処理で実現せずに、ハードウェア処理で実現しても良く、ソフトウェア処理とハードウェア処理を組み合わせて実現しても良い。
【0063】
吐出部110は、インクジェットヘッド75を制御して、紫外線硬化樹脂76をステージ52の上面に吐出させる機能部である。第1平坦化部111は、吐出部110により吐出した紫外線硬化樹脂76に、ローラー79を接触させ紫外線硬化樹脂76を平坦化する機能部である。位置調整部112は、第1平坦化部111による平坦化を実行した後、移動機構90を制御して、ローラー79を、部材幅120よりも短いスライド距離125だけローラー79の幅方向に移動させ、第1平坦化部111で平坦化した紫外線硬化樹脂76に対するローラー79の位置をずらす機能部である。第2平坦化部113は、位置調整部112による調整を実行した後、第1平坦化部111で平坦化した紫外線硬化樹脂76又は紫外線硬化樹脂76の上に吐出した紫外線硬化樹脂76に、位置をずらしたローラー79を接触させ平坦化する機能部である。
【0064】
(3.その他)
尚、本開示は、上記実施例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することが可能である。
本開示の硬化性粘性流体は、紫外線硬化樹脂76に限らず、光、熱等により硬化する種々の硬化性粘性流体を採用することが可能である。従って、硬化性粘性流体を硬化させる方法は、紫外線に限らない。また、本願の硬化性粘性流体として、金属インク77を採用しても良い。
また、本開示の平坦化部材は、ローラー79に限らず、ブラシ、レーキ、スキージ等、硬化性粘性流体を均すことが可能な他の部材でも良い。
【0065】
また、製造装置10は、装着ユニット23や検査ユニット24を備えなくとも良い。従って、製造装置10は、電子部品100の実装や検査を実行しなくとも良い。
上記実施形態では、本開示の造形装置として電子部品100を実装した電子デバイスを製造する製造装置10を採用したが、これに限らない。本開示の造形装置としては、硬化性粘性流体を平坦化して造形を行なう様々な造形装置を採用できる。
また、3次元積層造形法としては、光造形法(SL:Stereo Lithography)に限らず、例えば、粉末焼結法(SLS:Selective Laser Sintering)、熱溶解積層法(FDM:Fused Deposition Molding)などの他の方法を採用できる。この場合に、造形に用いる媒体を平坦化する場合に、本開示の平坦化部材の位置を調整する処理を実行しても良い。
【符号の説明】
【0066】
10,10A 製造装置(造形装置)、26 制御装置、52 ステージ、75 インクジェットヘッド(吐出装置)、76 紫外線硬化樹脂(硬化性粘性流体)、77 金属インク(金属粒子を含む流体)、78 平坦化装置、79 ローラー(平坦化部材)、90 移動機構(移動装置)、93 絶縁層(絶縁部材)、97 配線(金属製の導体)、110 吐出部、111 第1平坦化部、112 位置調整部、113 第2平坦化部、120 部材幅、125 スライド距離。