(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】バッフルプレート
(51)【国際特許分類】
F16H 57/04 20100101AFI20240529BHJP
F16J 15/10 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
F16H57/04 J
F16J15/10 N
(21)【出願番号】P 2021038177
(22)【出願日】2021-03-10
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000135209
【氏名又は名称】株式会社ニフコ
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100174425
【氏名又は名称】水崎 慎
(74)【代理人】
【識別番号】100203932
【氏名又は名称】高橋 克宗
(72)【発明者】
【氏名】大石 大輔
(72)【発明者】
【氏名】中島 卓彦
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-072262(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
F16J 15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスミッションケースに取り付けられて前記トランスミッションケースの内部を区分すると共にオイルの流入を防ぐバッフルプレートであって、
前記トランスミッションケースとの接続箇所に介在するシール部を有し、
前記シール部が、
撓む際の基点である基点部と、
前記基点部から、前記トランスミッションケース側に張り出すと共に前記トランスミッションケースと交差する向きに伸びた腕部と、
前記腕部の先端において屈折して前記トランスミッションケース側に張り出したリップ部と、を有
し、
前記腕部に対して前記トランスミッションケースと反対側から、前記リップ部の近傍に渡って前記シール部を覆う規制部を有する、
ことを特徴とするバッフルプレート。
【請求項2】
前記
規制部が、
前記腕部に対して前記トランスミッションケースと反対側に形成された壁部と、
前記壁部から前記トランスミッションケース側に張り出すと共に、前記リップ部近傍を覆う突起部と、を有し、
前記基点部が撓んだ状態で、前記シール部が前記規制部に収容されると共に前記リップ部の先端が前記突起部よりも張り出す、
ことを特徴とする請求項1に記載されたバッフルプレート。
【請求項3】
前記
トランスミッションケースへの取付方向のうち、前記トランスミッションケースに対して摺動する方向において、前記シール部よりも下流側に、前記規制部が配置された、
ことを特徴とする請求項
1又は請求項2に記載されたバッフルプレート。
【請求項4】
前記トランスミッションケースへの取付方向のうち、前記トランスミッションケースに対して摺動する方向に
向けて前記リップ部が屈曲した、
ことを特徴とする請求項
1から請求項3
のいずれか1項に記載されたバッフルプレート。
【請求項5】
前記
リップ部が、区分された前記トランスミッションケースの内側に前記オイルが流入する方向において、前記基点部よりも下流側にある、
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載されたバッフルプレート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗り物に備えられたトランスミッションケースに取り付けられるバッフルプレートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の乗り物に搭載されるトランスミッションは、トランスミッションケースに収容され、このトランスミッションケースの一部に、バッフルプレートが取り付けられている。このバッフルプレートは、ギヤやプーリーの下方に配置され、トランスミッションケース内を区分することで、オイル(又はフルード。以下、総称して単に「オイル」と記す。)が、バッフルプレートの外側から、内側にあるギヤやプーリー側に過剰に流入することを防いでいる。
【0003】
下記特許文献1に記載されたデファレンシャル装置用バッフルプレート(以下、「文献公知発明」と記す。)は、デファレンシャルケース内の空間を区分して、デファレンシャルケース内におけるオイルの流入量等を制御している。文献公知発明の縁には、シール部材が取り付けられ、このシール部材がデファレンシャルケースの底部に押し当てられることで、空間が二分される。二分された空間のうち、デファレンシャル装置におけるリングギアが配置された一方の空間には、リングギアに用いられるオイルが貯留され、一方で、他方の空間には、リングギアによって巻き上げられた余分なオイルが貯留される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、一般的に、製品は寸法に多少のバラツキがあることから、シール部材とデファレンシャルケースとの間に隙間が生じ、シール部材がデファレンシャルケースに適切に押し当てられない場合が考えられる。特に、上記した文献公知発明のシール部材は、二分した両空間におけるオイルの量を制御するものであることから、両空間を確実に隔てるために、回転するリングギアの油圧に負けない程度の剛性を要すると考えられるため、寸法のバラツキに柔軟に対応できる程度の弾性を備えるのは困難であると考えられる。
【0006】
本発明は、この様な実情に鑑みて提案されたものである。すなわち、製品における寸法のバラツキに対応することができるバッフルプレートの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係るバッフルプレートは、トランスミッションケースに取り付けられて前記トランスミッションケースの内部を区分すると共にオイルの流入を防ぐバッフルプレートであって、前記トランスミッションケースとの接続箇所に介在するシール部を有し、前記シール部が、撓む際の基点である基点部と、前記基点部から、前記トランスミッションケース側に張り出すと共に前記トランスミッションケースと交差する向きに伸びた腕部と、前記腕部の先端において屈折して前記トランスミッションケース側に張り出したリップ部と、を有する、ことを特徴とする。
【0008】
上記目的を達成するために、本発明に係るバッフルプレートは、前記腕部に対して前記トランスミッションケースと反対側から、前記リップ部の近傍に渡って前記シール部を覆う規制部を有する、ことを特徴とする。
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係るバッフルプレートは、前記規制部が、前記腕部に対して前記トランスミッションケースと反対側に形成された壁部と、前記壁部から前記トランスミッションケース側に張り出すと共に、前記リップ部近傍を覆う突起部と、を有し、前記基点部が撓んだ状態で、前記シール部が前記規制部に収容されると共に前記リップ部の先端が前記突起部よりも張り出す、ことを特徴とする。
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係るバッフルプレートは、前記トランスミッションケースへの取付方向(のうち、前記トランスミッションケースに対して摺動する方向)において、前記シール部よりも下流側に、前記規制部が配置された、ことを特徴とする。
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係るバッフルプレートは、前記トランスミッションケースへの取付方向(のうち、前記トランスミッションケースに対して摺動する方向)に向けて前記リップ部が屈曲した、ことを特徴とする。
【0012】
上記目的を達成するために、本発明に係るバッフルプレートは、前記リップ部が、区分された前記トランスミッションケースの内側に前記オイルが流入する方向において、前記基点部よりも下流側にある、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るバッフルプレートは、トランスミッションケースとの接続箇所に介在するシール部を有し、このシール部が、撓む際の基点である基点部と、この基点部から、トランスミッションケース側に張り出すと共にトランスミッションケースと交差する向きに伸びた腕部と、この腕部の先端において屈折してトランスミッションケース側に張り出したリップ部とを有している。すなわち、シール部は、基点部から先が、トランスミッションケース側に張り出した腕部とリップ部とで構成されているため、基点部からトランスミッションケースまでの直線距離が、リップ部が無い場合と比較して長く形成されている。したがって、仮に、製品におけるトランスミッションケースとバッフルプレートとの隙間が、設計上の寸法よりも広い場合であっても、リップ部がトランスミッションケースに届くし、シール部が基点部において撓むことで、隙間の広狭に応じて変形すると共に確実にトランスミッションケースに押し当てられる。したがって、製品における寸法のバラツキに対応することができる。
【0014】
本発明に係るバッフルプレートは、腕部に対してトランスミッションケースと反対側から、リップ部の近傍に渡ってシール部を覆う規制部を有している。この構成により、バッフルプレートがトランスミッションケースに取り付けられる過程(以下、「取付過程」と記す。)において、シール部がトランスミッションケースに当たって、基点部が撓むところ、腕部からリップ部の近傍に渡って、規制部によって覆われたことで、当該箇所は、トランスミッションケースと接触しない。換言すれば、取付過程において、リップ部の先端のみが、トランスミッションケースに接触する。この構成により、シール部がトランスミッションケースから受ける力の方向は、リップ部が押される方向に制限されるため、基点部が撓む方向も制限される。したがって、基点部が不本意な向きに撓んでシール部が捲れ上がることを防ぐことができる。なお、仮に、規制部が無く、取付過程において、腕部からリップ部の近傍に至る部位が、トランスミッションケースと接触した場合、シール部が規制部から離れる方向に基点部が撓み、シール部が捲れ上がる可能性がある。
【0015】
本発明に係るバッフルプレートは、規制部が、腕部に対してトランスミッションケースと反対側に形成された壁部と、壁部からトランスミッションケース側に張り出すと共に、リップ部近傍を覆う突起部とを有し、基点部が撓んだ状態で、シール部が規制部に収容されると共にリップ部の先端が突起部よりも張り出す。この構成により、取付過程において、基点部が撓むと、腕部が壁部によって覆われ、リップ部の近傍が突起部によって覆われることで、腕部及びリップ部の近傍は、トランスミッションケースと接触せず、リップ部の先端のみがトランスミッションケースと接触する。すなわち、取付過程において、リップ部の先端のみが、トランスミッションケースに接触することで、シール部がトランスミッションケースから受ける力の方向が制限されると共に、基点部が撓む方向も、リップ部が押されて腕部が壁部に向かう方向に制限される。したがって、基点部が不本意な向きに撓んでシール部が捲れ上がることを防ぐことができる。
【0016】
本発明に係るバッフルプレートは、トランスミッションケースへの取付方向(のうち、トランスミッションケースに対して摺動する方向)において、シール部よりも下流側に、規制部が配置されている。例えば、バッフルプレートがトランスミッションケースに取り付けられる方向(以下、「取付方向」と記す。)が、上向きであった場合、規制部は、シール部の上方に配置されている。取付過程において、リップ部の先端のみが、トランスミッションケースに接触することが適切であるところ、仮に、リップ部の近傍や腕部がトランスミッションケースに近接した場合であっても、下流側の規制部がトランスミッションケースと接触し、シール部材のうち、規制部によって覆われた上流側の部位は、トランスミッションケースと接触しない。すなわち、取付過程において、リップ部の先端のみが、トランスミッションケースに接触することで、シール部がトランスミッションケースから受ける力の方向が制限されると共に、基点部が撓む方向も、リップ部が押されて腕部が壁部に向かう方向に制限される。したがって、基点部が不本意な向きに撓んでシール部が捲れ上がることを防ぐことができる。
【0017】
本発明に係るバッフルプレートは、トランスミッションケースへの取付方向(のうち、トランスミッションケースに対して摺動する方向)に向けてリップ部が屈曲している。すなわち、リップ部は、トランスミッションケースに対して取付方向に向けて傾斜している。取付過程において摺動する方向に沿って、リップ部が傾斜していることから、リップ部の先端が円滑に摺動するため、取付方向と逆向きに基点部が撓んでシール部が捲れ上がることを防ぐことができる。
【0018】
本発明に係るバッフルプレートは、リップ部が、区分されたトランスミッションケースの内側にオイルが流入する方向において、基点部よりも下流側にある。すなわち、リップ部が、下流側にあるため、上流側と比較すれば、リップ部の先端とトランスミッションケースとの接触部位から、オイルが流入する可能性が低い。また、接触部位では、屈折したリップ部でオイルが戻されるため、接触部位におけるシール性が確保される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係るバッフルプレートがトラッスミッションケースに取り付けられた状態のの概断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係るバッフルプレートの斜視図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態に係るバッフルプレートの分解斜視図である。
【
図4】
図4は、
図2のIV-IV断面であって、本発明の実施形態に係るバッフルプレートのシール部がトランスミッションケース側に向けて張り出す度合いを説明するための説明図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施形態に係るバッフルプレートがトランスミッションケースに取り付けられる途中の状態が示された断面図である。
【
図6】
図6は、本発明の実施形態に係るバッフルプレートがトランスミッションケースに取り付けられた第一の状態が示された断面図である。
【
図7】
図7は、本発明の実施形態に係るバッフルプレートがトランスミッションケースに取り付けられた第二の状態が示された断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施形態に係るバッフルプレートを図面に基づいて説明する。
図1は、バッフルプレート10がトランスミッションケース1に取り付けられた状態の断面の概略が示されている。
図2及び3は、バッフルプレート10の外観が示されている。
【0021】
図1に示されているとおり、バッフルプレート10は、例えば、自動車等(図示省略。)におけるトランスミッションケース1に取り付けられるものである。なお、以下の説明では、バッフルプレート10がトランスミッションケース1に取り付けられる際、バッフルプレート10がトランスミッションケース1に近づく側を前方(Front)とし、トランスミッションケース1から離れる側を後方(Back)とし、重力の作用する方向を下方(Down)とし、その反対側を上方(Up)とし、一方の側方を左方(Left Side)とし、他方の側方を右方(Right Side)とする(
図1及び2参照。)。
【0022】
トランスミッションケース1は、ベアリング5を介して、前後方向を軸とするシャフト4に取り付けられている。シャフト4は、リングギア8及び一対のプーリー6が連結され、プーリー6同士の間に、プーリーベルト7が取り付けられている。バッフルプレート10は、トランスミッションケース1内に取り付けられ、リングギア8及びプーリー6の下方に配置されている。バッフルプレート10の前端は、トランスミッションケース1の被接続面2に押し当てられ、トランスミッションケース1の内部を上下に区分している。バッフルプレート10によって区分された空間のうち、リングギア8側に貯留されたオイル3aは、シャフト8の回転に伴ってリングギア8が回転することで巻き上げられ、オイル3bとしてプーリー6側に供給される。一方で、バッフルプレート10によってリングギア8及びプーリー6の外側に区分された空間に貯留されたオイル3cは、バッフルプレート10が障壁となることによって、内側であるリングギア8及びプーリー6側への過剰な流入が妨げられる。
【0023】
図2及び3に示されているとおり、バッフルプレート10は、プレート本体部11と、このプレート本体部11に取り付けられるシール部23とを有している。プレート本体部11は、薄板状であると共に、半円筒状に形成されている。すなわち、プレート本体部11は、下方に向けて湾曲して張り出すと共に、上部が開放されている。プレート本体部11の外面からは、ボルト等(図示省略。)が通される複数のフランジ12が左右側方に向けて突出している。また、プレート本体部11は、トランスミッションケース1との接続個所である前方の端部に、接続部13が形成されている。接続部13は、前方から視して円弧状であり、円弧のうちの最下部よりも高い位置であって左側に、孔部14が形成されている。接続部13には、シール部23が取り付けられる被取付部15と、シール部23の一部を覆う規制部20とが形成されている。被取付部15は、孔部14の左方において接続部13の下面から吐出した第一位置決め部16と、孔部14の右方であって、円弧に沿って接続部13の下面から突出した筋状の第二位置決め部17と、接続部13の下面から突出した複数の係止突部18とが形成されている。規制部20は、被取付部15の前端に連接され、上方に向けて伸びると共に、上端が前方に向けて突出している。規制部20の前面には、複数のリブ部19が形成されている。単一のリブ部19は、規制部20の前面における下部から上部に至っている。リブ部19は、円弧に沿う方向に間隔を空けて複数形成されている。
【0024】
一方で、シール部23は、例えば、天然ゴム、合成ゴム、エラストマー等であって弾性を有している。シール部23は、薄板状であると共に、前方から視して、接続部13の形状に対応した円弧状である。シール部23は、円弧のうちの最下部よりも高い位置であって左側に、接続部13の孔部14に対応した切欠き部24が形成されている。シール部23は、プレート本体部11の被取付部15に取り付けられる取付部25と、一部がプレート本体部11の規制部20に覆われるシール本体部26とを有している。取付部25は、切欠き部24の左方において取付部25の下面から後方に向けて突出した棒状取付部27と、切欠き部24の右方において下面から突出した複数の係止孔部28とが形成されている。シール本体部26は、取付部25の前端に連接され、上方に向けて伸びると共に、上端が前方に向けて突出している。
【0025】
棒状取付部27は、プレート本体部11の第一位置決め部16に挿入されて取り付けられる。取付部25は、プレート本体部11の第二位置決め部17に取り付けられ、係止孔部28にプレート本体部11の係止突部18が係止する。切欠き部24は、プレート本体部11の孔部14に合わせられる。
【0026】
次に、プレート本体部11の規制部20とシール部23のシール本体部26とを図面に基づいて詳説する。
図4は、仮に、バッフルプレート10がトランスミッションケース1に取り付けられてシール部23が変形しなかった場合に、どの程度シール部23がトランスミッションケース1と干渉するかが示されている。
図5は、バッフルプレート10がトランスミッションケース1に取り付けられる途中の状態が示されている。
図6及び7は、バッフルプレート10がトランスミッションケース1に取り付けられ、トランスミッションケース1からの反力によってシール部23が変形した状態が示されている。
図4及び6において、トランスミッションケース1とバッフルプレート10との間隔は同じであるため、両図から、バッフルプレート10がトランスミッションケース1に取り付けられたことで、シール部23がトランスミッションケース1からの反力によってどの程度撓むか(換言すれば、バッフルプレート10がトランスミッションケース1に取り付けられる前に、シール部23がどの程度トランスミッションケース1側に張り出しているか)がわかる。以下、
図4に示された状態を、取付前状態とし、
図5に示された状態を、取付過程状態とし、
図6に示された状態を、第一取付状態とし、
図7に示された状態を、第二取付状態とする。
【0027】
図4に示されているとおり、シール部23のシール本体部26は、後方においてバッフルプレート10の規制部20と間を空けて対面し、シール部23の一部は規制部20に覆われている。シール部23は、バッフルプレート10とトランスミッションケース1の被接続面2との接続箇所に介在している。シール部23のシール本体部26は、取付部25に連接されて撓む際の基点となる基点部29と、この基点部29から、被接続面2側である前方に張り出すと共に被接続面2と交差する向きである斜め上方に伸びた腕部30と、この腕部30の先端において屈曲部31を介して屈折して被接続面2側である前方に張り出すと共に被接続面2と交差する斜め下方に伸びたリップ部32とを有している。基点部29は、シール部23における他の部位と比較して薄肉である。したがって、基点部29は撓みやすく、外力がシール本体部26に作用して基点部29が撓むことで、シール本体部26は後方に傾く。外力から解放されれば、シール本体部26は元の状態に戻る。すなわち、シール部23は弾性変形する。シール部23は、基点部29が撓まない状態で、リップ部32の先端が規制部20の突起部22よりも前方に張り出している。また、取付前状態において、仮に、シール部23が変形しなかった場合、リップ部32は、ほぼ全体が被接続面2と重なる程度に張り出している。したがって、実際にバッフルプレート10がトランスミッションケース1に取り付けられた場合、リップ部32における前方への長さ相当分、基点部29が撓むと共にシール本体部26が後方に傾く。
【0028】
規制部20は、シール部23の腕部30に対して被接続面2と反対側である後方から、シール部23におけるリップ部32の近傍に渡ってシール本体部26を覆っている。詳説すれば、規制部20は、腕部30の後方に形成された壁部21と、屈曲部31の上方を覆う突起部22とを有している。壁部21は、上方に向けて伸び、プレート本体部11の被取付部15に対してほぼ直角に配置されている。突起部22は、壁部21から被接続面2側である前方に張り出し、壁部21に対してほぼ直角に配置されている。
【0029】
次に、バッフルプレート10がトランスミッションケース1に取り付けられる過程を、本実施形態の効果と共に説明する。
【0030】
図5に示されているとおり、取付過程状態では、バッフルプレート10は、前方かつ下方である斜めの取付方向33から、トランスミッションケース1の被接続面2に押し当てられる。この状態から、バッフルプレート10は、後部が傾倒方向35に向けて下げられると共に、前部が被接続面2に対して摺動する上向きの取付方向34に引き上げられ、
図6に示されているとおり、第一取付状態となる。プレート本体部11の規制部20は、上向きの取付方向34において、シール部23よりも下流側に配置されているため、シール部23の屈曲部31や腕部30は、規制部20に覆われ、被接続面2と接触しない。その結果、リップ部32の先端のみが被接続面2に接触して摺動し、シール部23が被接続面2から受ける力の方向は、リップ部32の先端が受けた力の方向に制限されるため、リップ部32が押される方向も基点部が撓む方向も、後方に制限される。換言すれば、腕部30から屈曲部31に至る部位が被接続面2と接触した状態で、上向きの取付方向34にバッフルプレート10が引き上げられた場合に生じる、シール部23におけるシール本体部26の捲れが抑止される。
【0031】
また、リップ部32が屈曲した方向は、上向きの取付方向34と同じ向き(上方)であることから、リップ部32は、摺動する方向に沿って傾斜しているため、リップ部32の先端が円滑に摺動し、上向きの取付方向34と逆向きに基点部29が撓んでシール部23におけるシール本体部26が捲れ上がることが抑止される。
【0032】
図6に示されているとおり、第一取付状態では、バッフルプレート10が適度にトランスミッションケース1の被接続面2に近接し、基点部29が撓んでシール部23が後方に傾いている。シール部23のリップ部32は、弾性力により被接続面2を押し、被接続面2からの反力で停止している。
図7に示されているとおり、第二取付状態では、バッフルプレート10が過度に被接続面2に近接しているが、第一取付状態と同様に、リップ部32が被接続面2に押し当てられている。いずれの状態においても、基点部29が撓み、シール本体部26が規制部20の内側に収容されるが、第二取付状態であっても、リップ部32の先端は、規制部20の突起部22よりも前方に張り出している。換言すれば、いずれの状態であっても、突起部22は、被接続面2と接触していない。
【0033】
図6及び7に示されているとおり、オイル3a,b,cがトランスミッションケース1に貯留された状態において、リップ部32は、バッフルプレート10によって区分された内側であるリングギア8及びプーリー6側にオイル3cが流入し得る方向において、基点部29よりも下流側である上方にある。したがって、リップ部32の先端とトランスミッションケース1の被接続面2との接触部位から、オイル3cがオイル3a側に流入する可能性は低い。すなわち、仮に、リップ部32が下流側にあった場合と比較して、オイル3cの油圧が低い上流側の方が、接触部位からオイル3cが流入する可能性は低い。また、接触部位では、屈折したリップ部32でオイル3cがバッフルプレート10の外側に戻るため、接触部位におけるシール性が確保される。
【0034】
また、シール部23のシール本体部26は、撓む際の基点となる肉薄の基点部29と、この基点部29から、前方に張り出すと共に被接続面2と交差する向きである斜め上方に伸びた腕部30と、この腕部30の先端において屈曲部31を介して屈折して被接続面2側である前方に張り出すと共に被接続面2と交差する斜め下方に伸びたリップ部32とを有していることから、基点部29から被接続面2までの直線距離が、リップ部32が無い場合と比較して長く形成されている。したがって、仮に、製品における被接続面2とバッフルプレート10との隙間が、設計上の寸法よりも広い場合であっても、リップ部32が被接続面2に届く。その際、
図4及び6に示されているとおり、被接続面2からの反力がシール本体部26に作用することで、リップ部32の長さ相当分、基点部29が撓むと共にシール本体部26が弾性変形して後方に傾く。さらに、
図6及び7に示されているとおり、被接続面2とバッフルプレート10との隙間が、製品によって異なる場合であっても、隙間の広狭に応じて、製品における寸法のバラツキに対応することができる。
【0035】
なお、本発明の他の実施形態では、リップ部は、腕部の先端において屈曲部を介して屈折して被接続面側である前方に張り出すと共に被接続面と交差する斜め上方に伸びている。また、他の実施形態では、リップ部は、腕部の先端において屈曲部を介して屈折して被接続面側である前方に真っ直ぐに張り出している。また、他の実施形態では、シール部の腕部は、基点部から、被接続面側である前方に張り出すと共に被接続面と交差する向きである斜め下方に伸びている。この実施形態の場合、規制部の壁部は、下方に向けて伸びている。したがって、この実施形態の場合、規制部は、上向きの取付方向において、シール部よりも上流側に配置されている。また、他の実施形態の突起部は、屈曲部に至らない腕部の上方、又は、屈曲部の真上、基点部が撓んだ際に妨げとならない程度でリップ部の上方を覆う構成である。また、他の実施形態は、規制部を有していない。また、他の実施形態では、シール部とプレート本体部とが、ネジや溶着によって取り付けられる。この場合、当該実施形態は、シール部の棒状取付部及び係止孔部、プレート本体部の第一位置決め部及び係止突部を有していない。
【0036】
以上、本発明の実施形態を詳述したが、本発明は上記した実施形態に限定されるものではない。そして本発明は、特許請求の範囲に記載された事項を逸脱することがなければ、種々の設計変更を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0037】
1 トランスミッションケース
2 被接続面
3a,b,c オイル
4 シャフト
5 ベアリング
6 プーリー
7 プーリーベルト
8 リングギア
10 バッフルプレート
11 プレート本体部
12 フランジ
13 接続部
14 孔部
15 被取付部
16 第一位置決め部
17 第二位置決め部
18 係止突部
19 リブ部
20 規制部
21 壁部
22 突起部
23 シール部
24 切欠き部
25 取付部
26 シール本体部
27 棒状取付部
28 係止孔部
29 基点部
30 腕部
31 屈曲部
32 リップ部
33 斜めの取付方向
34 上向きの取付方向
35 傾倒方向