(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】摩耗検知システム及び摩耗検知方法
(51)【国際特許分類】
F04D 29/04 20060101AFI20240529BHJP
【FI】
F04D29/04 U
(21)【出願番号】P 2021207078
(22)【出願日】2021-12-21
【審査請求日】2023-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】辛 ▲キン▼
【審査官】森 秀太
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-229979(JP,A)
【文献】特開平7-290145(JP,A)
【文献】特開2010-24919(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/04
F04D 29/16
F04D 29/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転自在に支持された主軸と、前記主軸の一端に取り付けられ、複数の羽根を有する羽根車と、前記主軸及び前記羽根車を収容するケーシングとが備えられたターボ機械の羽根車の摩耗を検知する摩耗検知システムであって、
前記主軸に作用するスラスト荷重を取得する荷重取得部と、
前記ケーシング内を流れる流体の流量を取得する流量取得部と、
前記荷重取得部によって取得された前記スラスト荷重及び前記流量取得部によって取得された前記流量により前記羽根の先端部と前記ケーシングの内壁面との間の隙間を推定し、前記隙間に基づいて前記羽根車の摩耗状態を推定する推定部とを備える、摩耗検知システム。
【請求項2】
前記推定部は、予め用意された前記スラスト荷重及び前記流量と、前記隙間との相関関係を示す情報を用いて前記隙間を推定する、請求項1に記載の摩耗検知システム。
【請求項3】
前記主軸の回転数を取得する回転数取得部を更に備え、
前記流量取得部は、予め用意された前記スラスト荷重及び前記回転数と、前記流量との相関関係を示す情報を用いて、前記荷重取得部によって取得された前記スラスト荷重及び前記回転数取得部によって取得された前記回転数により前記流量を取得する、請求項1又は2に記載の摩耗検知システム。
【請求項4】
前記主軸は、軸受箱内に収容されて当該主軸に作用するスラスト荷重を受ける軸受によって支持され、
前記荷重取得部は、前記軸受を介して前記軸受箱に作用するスラスト荷重を測定するロードセルを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の摩耗検知システム。
【請求項5】
前記ロードセルは、前記主軸の周方向に等間隔で複数設けられている、請求項4に記載の摩耗検知システム。
【請求項6】
前記推定部によって推定された前記隙間が予め用意された前記隙間についての閾値に達したことに応じて警報を報知する報知部を更に備える、請求項1から5のいずれか一項に記載の摩耗検知システム。
【請求項7】
回転自在に支持された主軸と、前記主軸の一端に取り付けられ、複数の羽根を有する羽根車と、前記主軸及び前記羽根車を収容するケーシングとが備えられたターボ機械の羽根車の摩耗を検知する摩耗検知方法であって、
前記羽根車に向かう方向に沿って前記主軸に作用するスラスト荷重を取得する荷重取得工程と、
前記ケーシング内を流れる流体の流量を取得する流量取得工程と、
前記荷重取得工程において取得された前記スラスト荷重及び前記流量取得工程において取得された前記流量により前記羽根の先端部と前記ケーシングの内壁面との間の隙間を推定し、前記隙間に基づいて前記羽根の摩耗状態を推定する推定工程とを含む摩耗検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はターボ機械の羽根車の摩耗を検知する摩耗検知システム及び摩耗検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ターボ機械においては、作動流体に不可避的に含まれている固体微粒子との衝突により羽根車に摩耗が生じることが知られている。摩耗の進行によりターボ機械の性能が低下することを回避するために、摩耗を検知して羽根車の補修又は交換を行う必要がある。
【0003】
羽根車の摩耗を検出する手法としては、羽根車に近い材質の摩耗検知片をターボ機械の配管内に設置し、固体微粒子との衝突による摩耗検知片の摩耗に伴って発生する弾性振動波を検知することによって羽根車の摩耗を検知することが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された手法において、摩耗検知片は、配管壁を貫通した片持ち状態で支持されている。この場合、配管内を流れる作動流体に晒される摩耗検知片が流体振動によって疲労破損して摩耗を検知できなくなる虞があり、また、配管壁を貫通することによる配管強度の低下や貫通箇所からの漏れといった懸念もあった。
【0006】
本発明は上記した実情に鑑みてなされたものであり、ターボ機械の羽根車の摩耗をより簡易な構成で確実に検知できる摩耗検知システム及び摩耗検知方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するための本発明に係る摩耗検知システムは、回転自在に支持された主軸と、前記主軸の一端に取り付けられ、複数の羽根を有する羽根車と、前記主軸及び前記羽根車を収容するケーシングとが備えられたターボ機械の羽根車の摩耗を検知する摩耗検知システムであって、前記主軸に作用するスラスト荷重を取得する荷重取得部と、前記ケーシング内を流れる流体の流量を取得する流量取得部と、前記荷重取得部によって取得された前記スラスト荷重及び前記流量取得部によって取得された前記流量により前記羽根の先端部と前記ケーシングの内壁面との間の隙間を推定し、前記隙間に基づいて前記羽根車の摩耗状態を推定する推定部とを備えることを特徴とする。
【0008】
ターボ機械において、作動流体に含まれている固体微粒子との衝突により羽根車の摩耗が進行すると、羽根の先端部とケーシングの内壁面との間の隙間は大きくなる。ターボ機械は通常、作動流体の流量が一定となるように運転されるが、この場合では隙間の拡大に伴い、吸い込み側に戻される作動流体の量が増大して吸い込み側と吐き出し側との圧力差が低下するので、羽根車から主軸に作用する吸い込み側へのスラスト荷重は小さくなる。すなわち、流量が一定である場合にスラスト荷重の低下が見られたことは、隙間が拡大していること、したがって羽根車の摩耗が進行中であることを意味する。
【0009】
上記構成においては、流量及びスラスト荷重を経時的に取得することで、一定の流量でのスラスト荷重の変化をモニタリングすることが可能となる。その結果、一定の流量でのスラスト荷重が所定期間にわたって低下したことをもって羽根の先端部とケーシングの内壁面との間の隙間が拡大していると推定し、これに基づいて羽根車の摩耗が進行中であると推定することができる。すなわち、上記構成によれば、羽根車の摩耗が進行中であることを検知することができる。また、隙間の拡大度合と、スラスト荷重の低下度合とは相関関係があるので、スラスト荷重の低下度合から隙間の拡大度合を推定し、これに基づいて羽根車の摩耗度合を推定することができる。すなわち、上記構成によれば、羽根車の摩耗の進み具合を検知することもできる。
【0010】
そして、上記構成は、ケーシングを貫通する摩耗検知部材の設置を必要としないので、摩耗検知部材の破損及びケーシングの強度の低下や作動流体の漏れといった懸念がなく、摩耗を簡易な構成で確実に検知することができる。
【0011】
本発明に係る摩耗検知システムにおいて、前記推定部は、予め用意された前記スラスト荷重及び前記流量と、前記隙間との関係を示す情報を用いて前記隙間を推定すると好適である。
【0012】
上記構成によれば、推定部は、荷重取得部によって取得されたスラスト荷重に対応する隙間を定量的に推定することが可能となり、その結果、羽根車の摩耗の度合いをより正確に推定することが可能となる。
【0013】
本発明に係る摩耗検知システムにおいて、前記主軸の回転数を取得する回転数取得部を更に備え、前記流量取得部は、予め用意された前記スラスト荷重及び前記回転数と、前記流量との相関関係を示す情報を用いて、前記荷重取得部によって取得された前記スラスト荷重及び前記回転数取得部によって取得された前記回転数により前記流量を取得すると好適である。
【0014】
ターボ機械は、特にケーシングの寸法が大きい場合において、スペースの制約により流量計の設置が困難であることがある。上記構成によれば、流量計を用いることなく、スラスト荷重及び回転数により流量を取得することが可能となる。
【0015】
本発明に係る摩耗検知システムにおいて、前記主軸は、軸受箱内に収容されて当該主軸に作用するスラスト荷重を受ける軸受によって支持され、前記荷重取得部は、前記軸受を介して前記軸受箱に作用するスラスト荷重を測定するロードセルを含むと好適である。
【0016】
上記構成によれば、主軸に作用するスラスト荷重を安価で精度が高いロードセルによって測定することができる。
【0017】
本発明に係る摩耗検知システムにおいて、前記ロードセルは、前記主軸の周方向に等間隔で複数設けられていると好適である。
【0018】
上記構成によれば、主軸に作用するスラスト荷重が複数のロードセルに均等的に伝達するので、より精度の高い測定が可能となる。
【0019】
本発明に係る摩耗検知システムにおいて、前記推定部によって推定された前記隙間が予め用意された前記隙間についての閾値に達したことに応じて警報を報知する報知部を更に備えると好適である。
【0020】
上記構成によれば、羽根車の交換や補修が必要になる隙間について閾値を予め設定し、推定部によって推定された隙間が閾値に達すると警報を報知して作業員に交換や補修を促すことで、ターボ機械の性能を適切に維持することができる。
【0021】
上述の目的を達成するための本発明に係る摩耗検知方法は、回転自在に支持された主軸と、前記主軸の一端に取り付けられ、複数の羽根を有する羽根車と、前記主軸及び前記羽根車を収容するケーシングとが備えられたターボ機械の羽根車の摩耗を検知する摩耗検知方法であって、前記羽根車に向かう方向に沿って前記主軸に作用するスラスト荷重を取得する荷重取得工程と、前記ケーシング内を流れる流体の流量を取得する流量取得工程と、前記荷重取得工程において取得された前記スラスト荷重及び前記流量取得工程において取得された前記流量により前記羽根の先端部と前記ケーシングの内壁面との間の隙間を推定し、前記隙間に基づいて前記羽根車の摩耗状態を推定する推定工程とを含むことを特徴とする。
【0022】
上記構成によれば、羽根の先端部とケーシングの内壁面との間の隙間を推定し、これに基づいて羽根車の摩耗が進行中であること及び羽根車の摩耗の進み具合を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】ターボ機械の一例である立軸斜流ポンプの構成を概略的に示す図である。
【
図2】
図1に示す斜流ポンプの吸込ベル近辺の構成を概略的に示す図である。
【
図3】本発明に係る摩耗検知システムの構成を示すブロック図である。
【
図4】スラスト荷重と流量と隙間との関係を示す図である。
【
図5】本発明に係る摩耗検知システムの別実施形態を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、ターボ機械の一例として立軸斜流ポンプを用い、ターボ機械の羽根車の摩耗を検知する本発明の摩耗検知システム及び摩耗検知方法を説明する。但し、本発明に係る摩耗検知システム及び摩耗検知方法は、羽根車の回転により主軸にスラスト荷重が作用するターボ機械であれば適用可能である。例えば、立軸斜流ポンプ以外のポンプ(横軸型のポンプや直流ポンプなど)にも適用可能であり、また、ポンプ以外のターボ機械(タービン、ファン、ジェットエンジンなど)にも適用可能である。
【0025】
〔立軸斜流ポンプの構成〕
立軸斜流ポンプ1は、略鉛直方向に延びる主軸2と、主軸2の下端に取り付けられた羽根車3と、羽根車3の上方に配置されて主軸2が挿設される案内羽根ボス4と、案内羽根ボス4の外周に設けられた複数の案内羽根5と、主軸2を駆動する駆動源6と、主軸2、羽根車3、案内羽根ボス4及び案内羽根5を収容する管状のポンプケーシング7とを備えている。
【0026】
ポンプケーシング7は、吸込ベル71、吐出しボウル72及び吐出配管73が下方から上方へ順に接続されて構成される。主軸2の下端21は、吸込ベル71の上部近傍まで延びており、主軸2の下端21に取り付けられた羽根車3は、羽根31の先端部311と吸込ベル71の内壁面711との間に所定の隙間gが形成された状態で、吸込ベル71の上部及び吐出しボウル72の下部によって包囲されている。案内羽根ボス4は、吐出しボウル72内に収容されており、案内羽根5を介して吐出しボウル72に固定されている。主軸2の上端22は、吐出配管73を貫通して上方に延びており、駆動源6の一例としての電動機や減速機に連結されている。
【0027】
主軸2は、下端21の近傍において軸受23によって回転自在に支持されている。本実施形態において、軸受23は、主軸2に作用するラジアル荷重を受ける軸受であり、主軸2が挿設される吐出しボウル72の貫通孔内に設けられている。軸受23の一例として、セラミック軸受けを用いることができる。
【0028】
また、主軸2は、上端22の近傍において軸受24によって回転自在に支持されている。主軸2には、主軸2や羽根車3等の自重と、羽根車3の回転によって発生する吸込み側に向かう力とを含むスラスト荷重が作用する。本実施形態において、軸受24は、ラジアル荷重及びスラスト荷重を受ける軸受であり、一例として、複式スラストアンギュラ玉軸受を用いることができる。軸受24は、軸受箱25内に収容されており、軸受箱25は、外周面から突設されたフランジ251を介して軸受台26に載置されて支持されている。
【0029】
駆動源6によって主軸2が回転されると、羽根車3が回転し、ポンプ井内の作動流体が吸込ベル71から吸い込まれ、吐出しボウル72内において案内羽根5によって整流された後、吐出配管73から吐き出される。
【0030】
〔摩耗検知システムの構成(第一の実施形態)〕
第一の実施形態において、摩耗検知システム8は、立軸斜流ポンプ1の運転状態に基づいて羽根車3の摩耗状態を推定するものであり、制御部81と、流量取得部82と、荷重取得部83と、報知部84とを備えている。
【0031】
流量取得部82は、立軸斜流ポンプ1の運転状態に関するデータとしての流量を取得し、信号として制御部81に送信する(本発明における流量取得工程に相当)。本実施形態において、流量取得部82は立軸斜流ポンプ1を流れる作動流体の流量を計測する流量計(図示せず)によって構成される。流量計としては、超音波流量計、電磁流量計やベンド流量計等を用いることができる。
【0032】
荷重取得部83は、立軸斜流ポンプ1の運転状態に関するデータとしてのスラスト荷重を取得し、信号として制御部81に送信する(本発明におけるスラスト荷重取得工程に相当)。本実施形態においては、軸受箱25のフランジ251と軸受台26との間に配置されたロードセルによって構成される。主軸2に作用するスラスト荷重は、軸受24を介して軸受箱25に作用し、ロードセルは、軸受箱25に作用するスラスト荷重を測定し、主軸2に作用するスラスト荷重として取得する。測定精度を向上する観点から、ロードセルは主軸2の周方向に等間隔で三つ設けられ、これらのロードセルの測定値が合算されて主軸2のスラスト荷重として取得される。但し、ロードセルの数はこれに限られず、二つ以下であってもよく、四つ以上であってもよい。
【0033】
制御部81は、摩耗検知システム8の動作を制御するものであり、推定部811として機能するCPU等のプロセッサと、記憶部812として機能するメモリやハードディスク等の記憶装置とによって構成される。記憶部812には、摩耗検知システム8の動作を実現するためのプログラムが記憶されており、推定部811はプログラムを実行することにより実現される。
【0034】
推定部811には、流量取得部82によって取得された流量と、荷重取得部83によって取得されたスラスト荷重とを示す信号が送信される。推定部811は、受信した流量及びスラスト荷重により、羽根車3が有する羽根31の先端部311と吸込ベル71の内壁面711との間の隙間gを推定し、推定した隙間gに基づいて羽根車の摩耗状態を推定する(本発明における推定工程に相当)。
【0035】
具体的に説明すると、作動流体に含まれている固体微粒子との衝突により羽根車3の摩耗が進行すると、羽根31の先端部311と吸込ベル71の内壁面711との間の隙間gは大きくなるのであるが、隙間gと、立軸斜流ポンプ1の流量及び主軸2に作用するスラスト荷重とには、一例として
図4に示されるように、流量の多寡にかかわらず隙間gの拡大に応じてスラスト荷重が低下するという相関関係が見られる。したがって、通常は流量が一定となるように運転する立軸斜流ポンプ1において、運転中にスラスト荷重が低下したことは、隙間gが拡大していること、すなわち羽根車3の摩耗が進行中であることを意味する。
【0036】
そこで、制御部81は、羽根車3に摩耗が生じていない立軸斜流ポンプ1の運転初期のスラスト荷重を取得すると共に、運転初期以降のスラスト荷重を連続的に又は定期的に取得するように荷重取得部83を制御する。そして、推定部811は、流量取得部82によって取得された流量に対応するスラスト荷重が、運転初期からの任意の所定期間にわたって低下した場合に、隙間gが拡大していると推定し、羽根車3の摩耗が進行中であると推定する。更に、推定部811は、運転初期からの任意の所定期間にわたってスラスト荷重が低下する度合を算出し、記憶部812に予め記憶された所定の相関関係を用いて隙間の拡大度合を推定し、これに基づいて羽根車3の摩耗度合を推定してもよい。
【0037】
或いは、記憶部812には、
図4に示されるような相関関係を示す情報が記憶されており、推定部811は、相関関係を用いて、流量取得部82によって取得された流量と、荷重取得部83によって取得された任意のタイミングのスラスト荷重とにより隙間gを定量的に推定し、推定された隙間gに基づいて摩耗が進行中であるか否か又は摩耗度合を推定する。相関関係は、実験等を通じて予め求めることができる。
【0038】
更に、推定部811は、摩耗状態についての推定の結果に基づいて、記憶部812に予め記憶されている羽根車の交換や補修が必要になる隙間gについての閾値を用いて、羽根車3の交換や補修が必要になったか否かを判断し、判断の結果を信号として報知部84に送信する。具体的に、推定部811は、スラスト荷重の低下度合から推定した隙間gの拡大度合と、隙間gの拡大度合についての閾値とを比較し、推定した隙間gの拡大度合が閾値に達した場合に、羽根車の交換や補修が必要であると判断する。或いは、推定部811は、相関関係を用いて流量及びスラスト荷重により定量的に推定した隙間gと、隙間gについての閾値とを比較し、推定した隙間gが閾値に達した場合に、羽根車の交換や補修が必要であると判断する。
【0039】
報知部84は、推定部811から受信した、羽根車の交換や補修が必要であるとの判断の結果を示す信号に応じて警報を出力し、立軸斜流ポンプ1の作業員に交換や補修を促す。報知部84としては、音声、光、色及び文字のいずれか又はその組み合わせで警報を出力する公知の装置を用いることができる。更に、報知部84は、流量取得部82によって取得された流量、荷重取得部83によって取得されたスラスト荷重及び推定部811によって推定された隙間gのうちの少なくとも一つを示す信号を受信して報知するように構成されてもよい。
【0040】
〔摩耗検知システムの構成(第二の実施形態)〕
第二の実施形態において、摩耗検知システム8は、制御部81と、荷重取得部83と、報知部84と、回転数取得部85とを備え、制御部81は、推定部811及び流量取得部813として機能するCPU等のプロセッサと、記憶部812として機能するメモリやハードディスク等の記憶装置とによって構成される。
【0041】
本実施形態は、推定部811による隙間gの推定に必要な立軸斜流ポンプ1の流量について、流量計によって計測する代わりに、荷重取得部83によって取得されたスラスト荷重と、回転数取得部85によって取得された回転数とにより取得するように構成された点において第一の実施形態と異なる。以下、第一の実施形態と異なる構成について説明する。第一の実施形態において説明したのと同一の構成である荷重取得部83、報知部84等については、煩雑を避けるため説明を省略する。
【0042】
回転数取得部85は、立軸斜流ポンプ1の運転状態に関するデータとしての主軸2の回転数を取得し、信号として制御部81に送信する。本実施形態において、回転数取得部85は主軸2の回転数を計測する回転計(図示せず)によって構成される。回転計としては、公知の接触式又は非接触式のものを用いることができる。
【0043】
記憶部812には、主軸2の回転数及び主軸2に作用するスラスト荷重と、立軸斜流ポンプ1の流量との相関関係を示す情報(式、モデル、グラフなど)が予め記憶され、この相関関係は、例えば、回転数及びスラスト荷重を説明変数とし、流量を目的変数とした重回帰分析を行うことによって求めることができる。推定部811は、この相関関係を用いて、荷重取得部83によって取得されたスラスト荷重及び回転数取得部85によって取得された回転数により立軸斜流ポンプ1の流量を推定する。そして、推定部811は、このように推定した流量を用いて、第一の実施形態において説明したように隙間gを推定し、隙間gに基づいて摩耗状態を推定する。
【符号の説明】
【0044】
1 :立軸斜流ポンプ
2 :主軸
21 :下端
22 :上端
23 :軸受
24 :軸受
25 :軸受箱
251 :フランジ
26 :軸受台
3 :羽根車
31 :羽根
311 :先端部
4 :案内羽根ボス
5 :案内羽根
6 :駆動源
7 :ポンプケーシング
71 :吸込ベル
711 :内壁面
72 :吐出しボウル
73 :吐出配管
8 :摩耗検知システム
81 :制御部
811 :推定部
812 :記憶部
813 :流量取得部
82 :流量取得部
83 :荷重取得部
84 :報知部
85 :回転数取得部
g :隙間