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  • 特許-粘着性シート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】粘着性シート
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/38 20180101AFI20240529BHJP
   C09J 7/24 20180101ALI20240529BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20240529BHJP
   C09J 107/00 20060101ALI20240529BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240529BHJP
   B32B 27/22 20060101ALI20240529BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240529BHJP
   B32B 25/12 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J7/24
C09J11/06
C09J107/00
B32B27/00 M
B32B27/22
B32B27/30 101
B32B25/12
B32B27/00 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021539199
(86)(22)【出願日】2020-07-30
(86)【国際出願番号】 JP2020029177
(87)【国際公開番号】W WO2021029225
(87)【国際公開日】2021-02-18
【審査請求日】2023-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2019147105
(32)【優先日】2019-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】三浦 学
(72)【発明者】
【氏名】吉村 大輔
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-82308(JP,A)
【文献】特開2017-179118(JP,A)
【文献】国際公開第2018/168990(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/069577(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系樹脂及び可塑剤を含む基材と、樹脂成分として、天然ゴムのみを含む粘着層とを有する粘着性シートであって、
前記天然ゴムが、有機過酸化物系化合物で架橋された架橋天然ゴムを含み、
前記粘着層のパルス固体H-NMR測定で、全緩和時間におけるH強度の積分値を100%としたときに緩和時間0.10ミリ秒以下のH強度比が5~30%である、粘着性シート。
【請求項2】
塩化ビニル系樹脂及び可塑剤を含む基材と、樹脂成分として、天然ゴムのみを含む粘着層とを有する粘着性シートであって、
前記天然ゴムの総質量に対する架橋天然ゴムの割合が、50~95質量%であり、
前記粘着層のパルス固体H-NMR測定で、全緩和時間におけるH強度の積分値を100%としたときに緩和時間0.10ミリ秒以下のH強度比が5~30%である、粘着性シート。
【請求項3】
塩化ビニル系樹脂及び可塑剤を含む基材と、樹脂成分として、天然ゴムのみを含む粘着層とを有する粘着性シートであって、
前記天然ゴムが、架橋天然ゴムのみを含
前記粘着層のパルス固体H-NMR測定で、全緩和時間におけるH強度の積分値を100%としたときに緩和時間0.10ミリ秒以下のH強度比が5~30%である、粘着性シート。
【請求項4】
前記粘着層のトルエン不溶分率が、前記粘着層の総質量に対して、75質量%以上である、請求項1から3のいずれかに記載の粘着性シート。
【請求項5】
前記粘着層中の硫黄元素の含有率が1.0質量%以下である、請求項1から4のいずれかに記載の粘着性シート。
【請求項6】
前記粘着層が酸化防止剤を含み、前記粘着層中の前記酸化防止剤の含有率が、前記粘着層の総質量に対して、0.3~5.0質量%である、請求項1から5のいずれか一項に記載の粘着性シート。
【請求項7】
前記酸化防止剤が、下記式(I)で表されるヒンダートフェノール系酸化防止剤である、請求項6に記載の粘着性シート。
【化1】
(式(I)中、R及びRは、それぞれ独立して、置換あるいは非置換の炭素数1~4の炭化水素基を表し、Aは、水素原子、炭素原子、又は置換あるいは非置換の炭素数1~18の炭化水素基を表し、nは1~4の数を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
建設物等の電線や配線を結束するために、ポリ塩化ビニルを基材とした結束テープが用いられている。電線や配線を束ねた後にテープをらせん状に繰り返し巻くことによって、電線や配線を結束するとともに、電線や配線に電気絶縁性、耐熱性、難燃性、耐摩耗性等を付与している。しかし、このようにテープを繰り返し巻く工法は作業工数がかかることから、近年は工数削減のため、束ねた電線や配線に1枚のシートを巻き付けた後、両面テープ等の強粘着のテープで固定する工法が増加しており、そのための両面テープを備えた保護シートが提案されている(特許文献1、2)。
【0003】
この両面粘着テープには、使用前に粘着層と基材とが被着することを防止する目的で、剥離紙が設けられている場合が多い。使用時には剥離紙を剥がす必要があるが、この剥離紙を剥がす作業に時間がかかり、また、剥がした後の剥離紙が廃棄物になるという問題がある。そこで、剥離紙を用いない粘着シートとして、熱により融着する粘着層を有するシート(特許文献3)、感圧粘着剤により粘着層同士を貼り合せるシート(特許文献4、5)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-104840号公報
【文献】特開2001-348547号公報
【文献】特開平11-7856号公報
【文献】特開2013-168322号公報
【文献】特開2016-056270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献3に記載の方法では、熱融着機にて圧着する作業が発生して作業時間が長くなる他、被保護物の耐熱性が低い場合には使用できないという問題がある。また、特許文献4、5に記載の方法では、粘着剤に天然から得られるゴムが使用されている。この天然ゴムは1,4-cis-イソプレンが重合した構造として知られており、高温環境下で保存した場合等に、イソプレン骨格が二重結合を起点として切断し、分子量の低下が起こる。そのため、高温環境下や高湿環境下においては粘着剤が劣化し、べたつきの発生や粘着力の低下による結束の剥れ等が発生する懸念がある。そのため、べたつきが発生しにくく、高温環境下で保存した場合でも粘着力が低下しにくい粘着性シートが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
係る課題に対し、本発明者らは鋭意検討した結果、塩化ビニル系樹脂を含む基材と、特定の天然ゴムを含む粘着層とを備える粘着性シートを用いることにより、べたつきは少ないが粘着層同士の粘着力は高く、更に使用環境における劣化が起こりにくい粘着性シートが得られることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明に係る粘着性シートは以下の態様を有する。
[1]塩化ビニル系樹脂及び可塑剤を含む基材と、天然ゴムを含む粘着層とを有する粘着性シートであって、前記粘着層のパルス固体H-NMR測定で、全緩和時間におけるH強度の積分値を100%としたときに緩和時間0.10ミリ秒以下のH強度比が5~30%である、粘着性シート。
[2]前記粘着層のトルエン不溶分率が、前記粘着層の総質量に対して、75質量%以上である、[1]に記載の粘着性シート。
[3]前記粘着層中の硫黄元素の含有率が1.0質量%以下である、[1]又は[2]に記載の粘着性シート。
[4]前記粘着層が酸化防止剤を含み、前記粘着層中の前記酸化防止剤の含有率が、前記粘着層の総質量に対して、0.3~5.0質量%である、[1]から[3]のいずれか一項に記載の粘着性シート。
[5]前記酸化防止剤が、下記式(I)で表されるヒンダートフェノール系酸化防止剤である、[4]に記載の粘着性シート。
【0008】
【化1】
【0009】
(式(I)中、R及びRは、それぞれ独立して、置換あるいは非置換の炭素数1~4の炭化水素基を表し、Aは、水素原子、炭素原子、又は置換あるいは非置換の炭素数1~18の炭化水素基を表し、nは1~4の数を表す。)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、べたつきは少ないが粘着層同士の粘着力は高く、更に使用環境における劣化が起こりにくい粘着性シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の粘着性シートの1つの態様を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。
【0013】
[粘着性シート]
本発明の粘着性シートは、塩化ビニル系樹脂及び可塑剤を含む基材と、天然ゴムを含む粘着層とを有する粘着性シートであって、前記粘着層のパルス固体H-NMR測定における、全緩和時間におけるH強度の積分値を100%としたときに、緩和時間0.10ミリ秒以下のH強度比が5~30%であることを特徴とする。
また、本発明の粘着性シートは、前記基材と、前記基材の一方の面に設けられた前記粘着層とを有することが好ましい。
図1は、本発明の粘着性シートの1つの態様を表す断面図である。粘着性シート10は、基材1と基材1の一方の面に設けられた粘着層2とを有する。粘着性シート10は、粘着層2の、パルス固体H-NMR測定における、全緩和時間のH強度の積分値を100%としたときに、緩和時間0.10ミリ秒以下のH強度比が5~30%である。
【0014】
<基材>
粘着性シートには、電線や配線等の長尺物品を集束し、かつさまざまな環境から前記長尺物品を保護することが求められる。そのため、粘着性シートの基材は、電気絶縁性、耐熱性、難燃性を有し、かつ、強度と柔軟性とを両立させることのできる樹脂を用いる必要がある。これらの要求を満たすことのできる樹脂としては、塩化ビニル系樹脂が好適である。本実施形態の粘着性シートの基材は、塩化ビニル系樹脂及び可塑剤を含むものである。
塩化ビニル系樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-エチレン共重合体、塩化ビニル-プロピレン共重合体等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、柔軟性、伸張性、及び成型加工性に優れ、かつ汎用的で安価に使用可能であることから、ポリ塩化ビニルが好ましい。
【0015】
ポリ塩化ビニルの重合度は、本発明の効果を有する限り特に限定されないが、良好な加工性を得る観点から、平均重合度が500~4000のものが好ましく、800~3000のものがより好ましく、1000~2000のものが特に好ましい。
【0016】
基材は、粘着性シートに柔軟性と伸長性、加工性を付与するために可塑剤を含む。
可塑剤としては、フタル酸系可塑剤、イソフタル酸系可塑剤、テレフタル酸系可塑剤、アジピン酸系可塑剤及びそれらのポリエステル系可塑剤、リン酸系可塑剤、トリメリット酸系可塑剤、エポキシ系可塑剤等を使用することができる。このうち、安価で可塑化効果が高いフタル酸系可塑剤を含むことが好ましい。
フタル酸系可塑剤としては、例えば、フタル酸ジイソニル(DINP)、フタル酸ジヘプチン(DHP)、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DOP)、フタル酸ジ-n-オクチル(n-DOP)、フタル酸ジイソデシル(DIDP)、イソフタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DOIP)、テレフタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DOTP)、ベンジルブチルフタレート(BBP)、トリメリット酸トリ-2-エチルヘキシル(TOTM)、アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル(DOA)、トリクレジルホスフェート(TCP)、ベンジルオクチルアジペート(BOA)アジピン酸-プロピレングリコール系ポリエステル、アジピン酸-ブチレングリコール系ポリエステル、フタル酸-プロピレングリコール系ポリエステル、ジフェニルクレジルホスフェート(DPCP)、アジピン酸ジイソデシル、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、塩素化パラフィン等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記フタル酸系可塑剤のうち、可塑化効果が特に高く、人体への健康影響の少ない、DINPがより好ましい。
【0017】
基材中の可塑剤の含有量は、塩化ビニル系樹脂100質量部に対し、20~100質量部が好ましく、30~80質量部がより好ましく、40~60質量部がさらに好ましい。可塑剤の含有量が20質量部以上であれば、粘着性シートの伸張性が向上しやすくなり、長尺の被保護物を覆った後に被保護物を屈曲させやすくなる。可塑剤の含有量が100質量部以下であれば、粘着性シートの耐摩耗性が低下しにくく、摩耗による被保護物の傷つきを防止しやすくなる。
【0018】
基材には、必要に応じて本発明の効果を阻害しない範囲で、無機充填剤、改質剤、又はその他添加剤等を配合することができる。その他添加剤としては、例えば、着色剤、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤等が挙げられる。
【0019】
前記無機充填剤としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化ジルコニウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、ポリリン酸アンモニウム、ポリリン酸アミド、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化モリブデン、リン酸グアニジン、ハイドロタルサイト、スネークタイト、硼酸亜鉛、無水硼酸亜鉛、メタ硼酸亜鉛、メタ硼酸バリウム、酸化アンチモン、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、赤燐、タルク、アルミナ、シリカ、ベーマイト、ベントナイト、珪酸ソーダ、珪酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カーボンブラック等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記の無機充填剤のうち、タルク、アルミナ、シリカ、珪酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムが好ましく、より好ましくは経済性に優れた炭酸カルシウムである。
前記無機充填剤は、天然物を粉砕して得られたものでもよく、水溶液等にしたものを中和させ析出して得られたものであっても良い。また、表面処理剤等で官能基を導入したものであってもよい。表面処理剤としては、例えば、脂肪酸、ロジン酸、リグニン酸、4級アンモニウム塩等が使用できる。
【0020】
前記改質剤としては、例えば、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-エチレン共重合体、塩化ビニル-プロピレン共重合体、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリ塩化ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート-ブチルアクリレート共重合体、熱可塑性ポリウレタン、ポリエステル系熱可塑性エラストマー等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
無機充填剤、改質剤、及びその他添加剤の含有量は、特に限定されず、本発明の効果を阻害しない範囲で配合することができる。例えば前記の基材に用いられる塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、0質量部を超え50質量部以下を配合することができる。
【0022】
基材の成形方法としては、例えば、塩化ビニル系樹脂、可塑剤、及び必要に応じて、無機充填剤、熱安定剤、光吸収剤、顔料、その他添加剤等を混合した組成物を溶融混練したのち、所定の厚みに成形する方法が挙げられる。溶融混練方法は、本発明の効果を有する限り特に限定されないが、例えば、二軸押出機、連続式及びバッチ式のニーダー、ロール、バンバリーミキサー等の加熱装置を備えた各種混合機、混練機が使用できる。前記混錬方法によって、前記組成物が均一分散するように混合し、得られた混合物を慣用の成形方法であるカレンダー法、Tダイ法、インフレーション法等により基材に成形する。成形機は生産性、色変え、形状の均一性等の面からカレンダー成形機が好ましい。カレンダー成形におけるロール配列方式は、例えば、L型、逆L型、Z型等の公知の方式を採用でき、また、ロール温度は通常150~200℃、好ましくは155~190℃に設定される。
【0023】
基材の厚みは、使用目的や用途等に応じて様々であるが、好ましくは100~2000μmであり、より好ましくは200~1000μmであり、さらに好ましくは300~500μmである。
【0024】
<粘着層>
本発明の粘着層は、天然ゴムを含む。また、本発明の粘着層は、天然ゴムを含む粘着剤から構成されていることが好ましい。天然ゴムを含む粘着層は、粘着層同士の粘着力が高く、粘着層以外の被着物への粘着力は低いという特性を有する。そのために粘着層同士のみを密着させて使用する本発明の粘着性シートに好適に用いることができる。
【0025】
本発明の粘着層は、パルス固体H-NMR測定で、全緩和時間におけるH強度の積分値を100%としたときに緩和時間0.10ミリ秒以下のH強度比が5~30%である。また、前記強度比は、10~30%が好ましく、12~28%がより好ましい。パルス固体H-NMR測定における緩和時間0.10ミリ秒以下の積分値は、粘着層に含まれる天然ゴムの架橋密度に由来する値である。
本発明の粘着性シートにおいて、前記緩和時間0.10ミリ秒以下のH強度比が5%未満であると、高温環境や高湿環境において粘着層が劣化し、粘着性シートのべたつきが強くなる。緩和時間0.10ミリ秒以下のH強度比が30%超であると、粘着層同士を貼り合わせた際に十分な粘着力を得ることができない。なお、パルス固体H-NMRにおける緩和時間0.10ミリ秒以下の範囲の強度比は、以下の条件で測定した値のことを指す。
【0026】
粘着性シートから粘着層約5gを採取し、NMRチューブに分取し、測定試料としたものを、以下の方法にてNMR測定を実施する。
装置:ブルカー・オプティクス(株)製 NMR、型名「minispec mq20」
パルス系列:Solid Echo法 観測核:
測定時間:10秒 ポイント数:1000
測定温度:27℃ 積算回数:32回
本測定において、全緩和時間におけるH強度の積分値を100%としたときに、緩和時間0.10ミリ秒以下の範囲におけるH強度の積分値を、緩和時間0.10ミリ秒以下のH強度比とする。
【0027】
粘着層中のトルエン不溶分率は、粘着層の総質量に対して、75質量%以上であることが好ましい。また、前記トルエン不溶分率は、75~100質量%であることが好ましく、85~100質量%がより好ましく、90~100質量%がさらに好ましい。粘着層中のトルエン不溶分率が上記範囲内であれば、高温及び高湿度環境下でのプローブタックの上昇や粘着層同士の粘着力の低下を抑えることができる。なお、粘着層中のトルエン不溶分率は、例えば以下の方法により測定することができる。
【0028】
粘着性シートから粘着層をw1[g]分取し、トルエン100mLをホールピペットで加え、回転子を入れた後、密栓する。恒温水槽(50℃±2℃)に共栓付三角フラスコをセットし、スターラーで回転数600回/minで2時間撹拌する。撹拌後、共栓付三角フラスコを氷水で23℃以下まで冷却する。試料を予め重量を計量しておいた270メッシュの金網にて全量濾過する(濾過前の金網重量をw2[g]とする)。濾過後の金網を防爆オーブン内で150℃、1時間加熱したのち、金網重量を計量する(濾過後の金網重量をw3[g]とする)。以下の式(1)より、粘着層中のトルエン不溶分率を測定する。
トルエン不溶分率(質量%)=((w3-w2)/w1)×100 ・・・(1)
【0029】
粘着層中の硫黄元素の含有率は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、0.3質量%以下であることがさらに好ましく、0.1質量%以下であることが特に好ましい。粘着層中の硫黄元素の含有率が低いことにより、硫黄原子の架橋構造の存在による脱加硫が起こりにくく、高温及び高湿度環境下での保管性がより良好となる。
なお、粘着層中の硫黄元素の含有率は、エネルギー分散型広角X線装置による元素分析にて、硫黄元素のスペクトル強度の比率から算出することができる。
【0030】
(粘着剤)
本発明の粘着層は、天然ゴムを含む粘着剤から構成されていることが好ましい。
天然ゴムとしては、例えば、固形分が30~80質量%の未架橋の天然ゴムエマルジョン、固形分が30~80質量%の架橋天然ゴムエマルジョン等を用いることができる。このような天然ゴムとしては、市販されているものを用いてもよく、例えば、(株)レヂテックス製の架橋天然ゴムエマルジョン(商品名「SS58」、「PC-518R」)、ムサシノケミカル(株)製の架橋天然ゴムエマルジョン(商品名「S#55」)、(株)レヂテックス製の天然ゴムエマルジョン(商品名「HA LATEX」、「DPL-30C」)等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明の1つの態様において、粘着剤に含まれる天然ゴムは、架橋天然ゴムを含むことが好ましい。また、粘着剤中の架橋天然ゴムの含有量は、粘着剤中の天然ゴムの総質量に対して、50質量%以上であることが好ましく、50~100質量%であることがより好ましい。架橋天然ゴムを含むことにより、粘着面同士の粘着力をより高くすることができる。
【0031】
また、前記粘着剤には、架橋剤が含まれていてもよい。架橋剤としては、例えば、硫黄系化合物、有機過酸化物系化合物等が挙げられる。硫黄系化合物としては、例えば、硫黄、塩化硫黄、二塩化硫黄、高分子多硫化物、モルホリンジスルフィド(4,4’-ジチオジモルホリン)、アルキルフェノ-ルジスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、ジメチルジチオカルバミン酸セレン等が挙げられる。有機過酸化物系化合物としては、例えば、ジアルキルパーオキサイド類(ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ-t-ブチルクミルパーオキサイド等)、ジアシルパーオキサイド類(ジベンゾイルパーオキサイド等)、ケトンパーオキサイド類(メチルエチルケトンパーオキサイド等)、アルキルパーエステル類(t-ヘキシルペルオキシラウレート等)、パーオキシカーボネート類(t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート等)が挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これら架橋剤のうち、硫黄原子の架橋構造の存在による脱加硫が起こりにくいことによって、高温及び高湿度環境での保管性により優れる観点から、有機過酸化物系化合物を用いることが特に好ましい。
【0032】
粘着剤が架橋剤を含む場合、前記架橋剤の含有量は、粘着剤の総質量に対して、0.1~10質量%であることが好ましく、0.3~5質量%であることがより好ましく、0.5~3質量%であることがさらに好ましい。架橋剤の含有量が0.1質量%以上であれば、粘着層の劣化によるべたつきが発生しにくい。10質量%以下であれば、粘着層同士を貼り合わせた際に十分な粘着力を得やすくなる。
【0033】
粘着剤には、酸化防止剤が含有されていてもよい。酸化防止剤としては、例えば、フェノール系化合物(4,4-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,5-ジ-t-ブチルヒドロキノン、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール等)、リン系化合物(ジフェニルノニルフェニルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト等)、硫黄系化合物(ビス(2-メチル-4-(3-n-アルキルチオプロピオニルオキシ)-5-t-ブチルフェニル)スルフィド、2,2-チオジエチレンビス(3-(3,5-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ジラウリルチオプロピオネート等)が挙げられる。これらの中でも、粘着剤に含まれる天然ゴムの高温環境における酸化抑制の観点から、フェノール系酸化防止剤が好ましく、下記式(I)で表される、ヒンダートフェノール系酸化防止剤がより好ましい。
【0034】
【化2】
【0035】
上記式(I)中、R及びRは、それぞれ独立して、置換あるいは非置換の炭素数1~4の炭化水素基を表し、Aは、水素原子、炭素原子、又は置換あるいは非置換の炭素数1~18の炭化水素基を表し、nは1~4の数を表す。
上記式(I)において、R及びRは、非置換の炭素数1~4のアルキル基が好ましく、メチル基又はt-ブチル基がより好ましい。また、RとRは同じであってもよく、異なっていてもよい。
上記式(I)中、Aは、水素原子、炭素原子、又は置換あるいは非置換の炭素数1~18の炭化水素基を表す。前記置換基としては、例えば、エーテル基、カルボキシル基、カルボニル基、アミノ基、アミド基、イミド基、チオエーテル基、チオカルボキシル基、ジチオカルボキシル基、チオカルボニル基、チオアミド基等が挙げられる。
上記式(I)で表されるヒンダートフェノール系酸化防止剤としては、例えば、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、エチレン-ビス(オキシエチレン)-ビス-(3-(5-t-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート、ペンタエリスリトール-テトラキス-(3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)等が挙げられる。
また、上記式(I)で表される構造を分子内に有するヒンダートフェノール系酸化防止剤としては、市販品を用いてもよい。このような市販品としては、例えば、BASF社製の「Irganox(登録商標) 1076」、「Irganox 1010」、「Irganox 245」(いずれも商品名)等が挙げられる。これら酸化防止剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
粘着剤が酸化防止剤を含む場合、その含有量は、粘着剤中の天然ゴム100質量部に対して、0.3~5質量部が好ましく、0.5~4質量部がより好ましい。酸化防止剤の含有量が前記範囲内であれば、保管性がより良好となる。また、粘着層中の酸化防止剤の割合を好ましい範囲に制御しやすくなる。本発明の1つの態様において、粘着層の酸化防止剤の含有量は、粘着層の総質量に対して、0.3~5.0質量%が好ましく、0.5~4.0質量%がより好ましい。
【0036】
前記粘着剤は、必要に応じて適量の充填材を含むことができる。充填材を適量含むことによって、粘着層のべたつきが低減されやすくなる。また、充填材と天然ゴムが擬似架橋構造を形成することによって分子の運動性が制限され、熱的安定性が更に向上しやすくなる。さらに、粘着面同士の粘着性をある程度維持しつつ、プローブタックを軽減しやすくなる。このような充填材としては、例えば、無機微粒子が挙げられる。無機微粒子の具体例としては、例えば、カーボンブラック、シリカ、タルク、アルミナ、珪酸ソーダ、珪酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、ベーマイト、ベントナイト、ハイドロタルサイト等が挙げられる。このうち、粘着剤成分への分散性が良好で、かつ人体への健康影響の少ないカーボンブラック、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウムが好ましく、経済性の点から、炭酸カルシウムが特に好ましい。これら無機微粒子は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
粘着剤が無機微粒子を含む場合、その含有量は、天然ゴム100質量部に対して、5~100質量部が好ましく、10~50質量部がより好ましい。
【0037】
粘着剤は、必要に応じて天然ゴム以外のゴム成分、例えば、合成ゴムを含んでいてもよい。合成ゴムとしては、例えば、ブタジエンゴム、イソプレンゴム(ブチルゴム)、スチレン-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、メタクリル酸メチル-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム、熱可塑性エラストマー(エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、スチレン-ブタジエン-スチレンブロックコポリマー、スチレン-イソプレン-スチレンブロックコポリマー、スチレン-エチレン-スチレンコポリマー、スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレンコポリマー、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンコポリマー)等が挙げられる。このうち、粘着剤成分の粘着性を阻害せず、かつべたつきの少ない、スチレン-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、メタクリル酸メチル-ブタジエンゴムが好ましい。粘着剤が他の合成ゴムを含む場合、その含有量は、粘着剤の総質量に対して、40質量%以下が好ましく、1~25質量%がより好ましい。
【0038】
粘着剤は、必要に応じて粘着付与剤を含むことができる。粘着付与剤を含む場合、粘着層のべたつきを防ぐ観点から、粘着剤の総質量に対して、20質量%未満であることが好ましい。前記粘着付与剤としては、例えば、ロジン樹脂、水添ロジン樹脂、ロジンエステル樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、フェノール樹脂、アルキルフェノール樹脂、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、クマロン樹脂、インデン樹脂、クマロン-インデン樹脂、クマロン-インデン-スチレン樹脂、スチレン樹脂、キシレン樹脂、スチレン-マレイン酸樹脂、脂肪族系石油樹脂、脂環族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、脂肪族炭化水素-芳香族系炭化水素共重合石油樹脂等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
粘着剤には、粘着性能を阻害しない範囲で、界面活性剤、粘度調整剤、老化防止剤、その他添加剤等を含有してもよい。粘着剤中のこれら添加剤の含有量は、本発明の効果を有する限り特に限定されず、例えば、粘着剤の総質量に対して、20質量%以下であることが好ましい。
【0040】
粘着剤は、基材中の可塑剤に対しても耐性を有していることが好ましい。粘着剤の耐可塑剤性が低いと、基材から染み出した可塑剤が粘着剤に移行してべたつきの増大や粘着力の低下を招く恐れがある。本発明の粘着層に用いられる粘着剤は、基材中の可塑剤に対する溶解度が20質量%未満かつ膨潤後の質量増加率が200質量%未満であることが好ましく、溶解度が10質量%未満かつ膨潤後の質量増加率が100質量%未満であることが更に好ましい。
【0041】
粘着層の厚みは、粘着力の発現と、粘着層の構造維持の観点から、3~100μmが好ましく、10~50μmがより好ましい。粘着層の厚みを3μm以上とすることで、長尺物品を束ねるのに十分な粘着力を発現しやすくなる。また、粘着層の厚みを100μm以下にすることで、粘着層の構造を維持しやすくなり、粘着剤の凝集破壊が起こりにくくなる。
【0042】
<中間層>
本発明の1つの態様においては、基材と粘着層との密着性をより向上させる目的で、基材と粘着層との間に中間層を設けることが好ましい。
前記中間層を構成する材料としては、例えば、メタクリル酸メチルグラフト天然ゴム等が挙げられる。
メタクリル酸メチルグラフト天然ゴムは、天然ゴムとメタクリル酸とがグラフト共重合した重合体である。このような重合体は、基材を構成するポリ塩化ビニル系樹脂、粘着層を構成する前記粘着剤の両方と親和性を有するため、これを用いて中間層を形成することにより、ポリ塩化ビニル系樹脂を含む基材と、粘着層との接着性がより向上しやすくなる。また、中間層を構成する材料には、前記メタクリル酸メチルグラフト天然ゴムに、その他のモノマーを共重合させたものを用いてもよい。その他のモノマーとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸i-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸i-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル等のメタクリル酸エステル、スチレン、アクリロニトリル、メタクリル酸等が挙げられる。これらその他のモノマーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
中間層を構成する材料には、必要に応じて他の合成ゴムを添加してもよい。合成ゴムとしては、例えば、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴム、メタクリル酸メチル-ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム、熱可塑性エラストマー(例えば、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、スチレン-ブタジエン-スチレンブロックコポリマー、スチレン-イソプレン-スチレンブロックコポリマー、スチレン-エチレン-スチレンコポリマー、スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレンコポリマー、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンコポリマー等)、アクリルゴム、ウレタンゴム等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
中間層の厚みは、基材と粘着層との密着力、中間層の構造維持の観点から、0.1~3μmが好ましく、0.2~2μmがより好ましく、0.3~1μmが特に好ましい。
【0045】
<粘着性シートの製造方法>
本発明の粘着性シートは、例えば、天然ゴムと、必要に応じて、粘着付与剤、無機微粒子等の充填材、可塑剤、界面活性剤、粘度調整剤、老化防止剤、その他添加剤等とを混合した粘着剤の溶液、エマルジョン、又はディスパージョンを、基材の一方の面に塗工し、乾燥炉により乾燥した後、ロール状に巻き取る方法によって製造することができる。
また、本発明の粘着性シートの製造方法における1つの態様としては、中間層を構成する材料の溶液、エマルジョン、又はディスパージョンを、前記基材の一方の面に塗工し、乾燥炉により乾燥する乾燥工程にて中間層を形成した後、前記中間層の上に、前述の粘着剤の溶液、エマルジョン又はディスパージョンを塗工して乾燥し、その後、ロール状に巻き取ることによって、粘着性シートを製造してもよい。
巻き取り時の応力緩和、中間層及び粘着層の密着性の向上、粘着層成分同士の親和性を向上させる目的で、さらに、ロール状に巻き取った粘着性シートを所定時間エージングする工程、所定温度で熱処理を施す工程を備えていてもよい。なお、粘着剤、及び中間層を構成する材料の塗工方法としては、例えば、正回転ロール方式、リバースロール方式、グラビアロール方式、スプレー方式、キスロール方式、バー方式、ナイフ方式、コンマ方式、リップダイ方式等が挙げられる。
また、上記粘着剤の塗工時の形態としては、安全性及び環境負荷の観点から、水とのエマルジョン、又はディスパージョンを用いることが好ましい。また、エージングや熱処理は粘着性シートの性能が十分に安定する時間、温度にて行うことが好ましく、特に本発明の粘着性シートの場合は中間層、粘着層の軟化点またはガラス転移点以上の温度で行うことが好ましい。
具体的には、粘着性シートの熱処理温度としては、例えば、100℃以上130℃以下が好ましい。また、エージングの時間は、1時間以上6時間以下であることが好ましい。この条件でエージング又は熱処理を行うことによって、基材から粘着剤へ必要な量の可塑剤を移行させやすくなり、かつ過剰な熱による基材や粘着剤の劣化を抑制しやすくなる。
【0046】
本発明の粘着性シートの厚みは、50~1000μmが好ましく、100~600μmがより好ましい。粘着性シートの厚みがこの上限値以下であることにより被保護物に巻きつける作業がしやすくなり、下限値以上であることにより巻きつけた後の被保護物の機械的破損や磨耗を十分に防ぐことができる。
【0047】
<用途>
本発明の粘着性シートは、被保護物の表面や内部を機械的破損や磨耗から保護することができるほか、電気から絶縁したり、日光等による紫外線照射を遮断するためのシートとして用いることができる。特に、電線や配線をはじめとする長尺物品を被覆した後、粘着層同士を貼り合わせることで結束かつ保護するためのシートとして好適に用いることができる。
すなわち、本発明の粘着性シートのその他の態様は、保護シートとしての使用である。
また、本発明の粘着性シートの別の態様は、結束用シートとしての使用である。
また、本発明の粘着性シートの別の態様は、紫外線遮断用シートとしての使用である。
また、本発明の粘着性シートの別の態様は、電気絶縁性シートとしての使用である。
本発明の粘着性シートを、上記用途で使用する場合、その使用方法としては、例えば、被保護物に粘着性シートを巻き付けたのち、前記粘着性シートの粘着層同士を貼り合わせて結束する工程を有する方法等が挙げられる。粘着性シートを巻き付ける際、粘着性シートの粘着層と被保護物とが接触するように巻き付けることが望ましい。また、粘着層同士を貼り合わせる際は、手や適当な冶具を用いて粘着層同士を圧着する方法で貼り合わせることが好ましい。粘着層同士を貼り合わせる際、粘着面の剥がれにくさ、外部との干渉しにくさの観点から、その貼り合わせ部分の幅は5~50mmであることが好ましく、貼り合わせ部分の面積は50~10000mmであることが好ましい。
【0048】
本発明のその他の態様は、ポリ塩化ビニル及びDINPを含む基材と、前記基材の一方の面に設けられた天然ゴムを含む粘着層とを有する粘着性シートであって、前記粘着層のパルス固体H-NMR測定で、全緩和時間におけるH強度の積分値を100%としたときに、緩和時間0.10ミリ秒以下のH強度比が5~30%である、粘着性シートである。前記天然ゴムは、架橋天然ゴムを含むことが好ましい。前記粘着層は、さらに、前記式(I)で表されるヒンダートフェノール系酸化防止剤を含むことが好ましい。前記粘着層の厚みは10~50μmであることが好ましい。
【実施例
【0049】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0050】
[実施例1]
(基材の作製)
塩化ビニル系樹脂としてポリ塩化ビニル(大洋塩ビ(株)製、商品名「TH-1000」)100質量部に対し、可塑剤としてフタル酸ジイソニル(株)((株)ジェイプラス製、商品名「DINP」)40質量部を配合し、更に安定剤として脂肪酸亜鉛(東京ファインケミカル(株)製、商品名「EMBILIZER(登録商標) A1341」)を1質量部、滑剤としてステアリン酸(日油(株)製、商品名「ステアリン酸さくら」)を0.2質量部それぞれ配合し、ロール温度170℃の二本ロールにて10分間混練後、厚さ400μmに成形して基材を得た。
【0051】
(粘着性シートの作製)
架橋天然ゴムエマルジョン((株)レヂテックス製、商品名「SS58」)と、天然ゴムエマルジョン((株)レヂテックス製、商品名「DPL-30C」)とを、固形分がそれぞれ、95質量部、5質量部となるように配合し、更に、酸化防止剤(BASF社製、商品名「Irganox 1010」)1質量部を添加し、粘着剤のエマルジョンを得た。前記基材の表面に前記エマルジョンを塗布し、オーブンを用いて110℃で1分間加熱乾燥させることにより、厚さが400μmの基材と厚さが40μmの粘着層を有する粘着性シートを得た。なお、実施例1で用いたエマルジョンの固形分配合を表1に示した。
【0052】
[実施例2~16、比較例1~5]
実施例1の架橋天然ゴムエマルジョン、天然ゴムエマルジョン、架橋剤、酸化防止剤の配合を変更した以外は、実施例1と同様の方法で粘着性シートを得た。なお、実施例2~16、比較例1~5で用いたエマルジョンの固形分配合を表1~2に示した。なお、各実施例及び比較例で用いた架橋天然ゴムエマルジョン及び天然ゴムエマルジョンの配合量は固形分を意味する。また、表1~2に示す使用原料の詳細は以下のとおりである。
<使用原料>
(天然ゴム)
架橋天然ゴム1:架橋天然ゴムエマルジョン((株)レヂテックス製、商品名「SS58」)。
架橋天然ゴム2:架橋天然ゴムエマルジョン(ムサシノケミカル(株)製、商品名「S#55」)。
架橋天然ゴム3:架橋天然ゴムエマルジョン((株)レヂテックス製、商品名「PC-518R」)。
天然ゴム1:天然ゴムエマルジョン((株)レヂテックス製、商品名「HA LATEX」)。
天然ゴム2:天然ゴムエマルジョン((株)レヂテックス製、商品名「DPL-30C」)。
架橋剤:テトラメチルチウラムジスルフィド((株)レヂテックス製、商品名「TT加硫剤」)。
酸化防止剤1:上記式(I)で表されるヒンダートフェノール系酸化防止剤(上記式(I)において、nが4、R及びRがt-ブチル基、Aが炭素原子の酸化防止剤)(BASFジャパン(株)社製、商品名「Irganox 1010」)。
酸化防止剤2:上記式(I)で表されるヒンダートフェノール系酸化防止剤(上記式(I)において、nが1、R及びRがt-ブチル基、Aがオクタデシル基の酸化防止剤)(BASFジャパン(株)社製、商品名「Irganox 1076」)。
酸化防止剤3:ヒンダートフェノール系酸化防止剤(BASFジャパン(株)社製、商品名「Irganox 1520L」。
【0053】
[粘着層の評価]
上記粘着性シート中の粘着層を採取したのち、パルス固体H-NMR測定、元素分析、トルエン不溶分率測定を実施した。その結果を表1~2に示した。
【0054】
<緩和時間0.10ミリ秒以下のH強度比>
各実施例及び比較例で得られた粘着性シートから粘着層約5gを採取してNMRチューブに分取し、測定試料としたものについてパルス固体H-NMR測定を行い、上述の測定方法に従って算出した。
【0055】
<トルエン不溶分率>
各実施例及び比較例で得られた粘着性シートから粘着層w1[g]を分取し、トルエン100mLをホールピペットで加え、回転子を入れた後、密栓した。その後、恒温水槽(50℃±2℃)に共栓付三角フラスコをセットし、スターラーで回転数600/minで2時間撹拌した。撹拌後、共栓付三角フラスコを氷水で23℃以下まで冷却した。得られた試料を、予め重量を計量しておいた270メッシュの金網にて全量濾過した(濾過前の金網重量をw2[g]とした)。濾過後の金網を防爆オーブン内で150℃、1時間加熱したのち、金網重量を計量した(濾過後の金網重量をw3[g]とする)。以下の式(1)より、粘着層中のトルエン不溶分率を測定した。
トルエン不溶分率(質量%)=((w3-w2)/w1)×100・・・(1)
【0056】
<元素分析>
各実施例及び比較例で得られた粘着性シートから粘着層約400μm×50mmφを採取し、測定試料としたものを、以下の条件で元素含有率の定量を行った。
装置:(株)島津製作所社製 エネルギー分散型広角X線装置 型名「EDX-720」
分析条件:FP法
厚み設定:400μm
検出元素:硫黄
スペクトル:S-Kα
【0057】
<粘着力評価>
各実施例及び比較例で得られた粘着性シートのべたつき、粘着層同士の粘着力、及び高温環境・高湿環境での物性変化を、以下の条件に沿って評価した。
各例の粘着性シートを3サンプル準備し、各サンプルを23℃×50%RH(常態)、65℃×5%RH(高温乾燥)、65℃×95%RH(高温高湿)のそれぞれの環境下で30日間放置した。その後、23℃×50%RH環境下で24時間静置した後、各サンプルのプローブタック(べたつき)、粘着層同士の粘着力を下記の条件で測定した。
【0058】
(プローブタック試験)
ASTM D 2979に従って、プローブタックテスター(NS PROBE TACK TESTER ニチバン(株)製)を用い、23℃の環境下で直径5mmの円柱状のプローブを1cm/秒の速度で接触させた後、0.02秒接触させ、1cm/秒の速度で引き剥がすときの荷重を測定した。得られたプローブタックの値について、以下の評価基準に沿って評価を行った。また、A評価を合格とした。
<評価基準>
A:常態、高温環境、及び高温高湿環境の全てのサンプルにおいて、プローブタックの値が4N/cm以下であった。
B:常態、高温環境、高温高湿環境のいずれかのサンプルにおいて、プローブタックの値が4N/cmを超えていた。
【0059】
<粘着層同士の粘着力>
粘着性シートの各サンプルから幅10mm×長さ120mmの試験片を2枚作製し、23℃の環境下で試験片の粘着層同士を10mm×100mmの面積で貼り合わせ、荷重2kgの圧着ローラーで5mm/秒の速度で1往復した後、20分間放置した。次に、23℃の環境下で試験片を速度300mm/分で引き剥がしたときの荷重を測定した。試験片の引き剥がし方向は、引き剥がした後の2枚の試験片のなす角度が180°になるようにした。粘着層同士の粘着力は以下の評価基準に従って評価を行った。また、A評価を合格とした。
<評価基準>
A:常態、高温環境、高温高湿環境の全てのサンプルにおいて、粘着層同士の粘着力が4N/10mm以上であった。
B:常態、高温環境、高温高湿環境のいずれかのサンプルにおいて、粘着層同士の粘着力が4N/10mm未満であった。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】
【0062】
表1、2に示すように、本発明の構成を満たす実施例1~16の粘着性シートは、べたつきが少ないものの、粘着層同士の粘着力が高く、更に高温環境や高湿環境における劣化が起こりにくいことが分かった。一方、本発明の構成を満たさない比較例1~5の粘着性シートでは、べたつき評価、粘着層同士の粘着力のいずれかが劣っていた。
【符号の説明】
【0063】
1:基材
2:粘着層
10:粘着性シート

図1