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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】透析患者における物質の生成速度の推定
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/16 20060101AFI20240529BHJP
【FI】
A61M1/16 117
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021554388
(86)(22)【出願日】2020-02-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-06
(86)【国際出願番号】 EP2020053563
(87)【国際公開番号】W WO2020182395
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2023-01-30
(31)【優先権主張番号】1950303-6
(32)【優先日】2019-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】501473877
【氏名又は名称】ガンブロ・ルンディア・エービー
【氏名又は名称原語表記】GAMBRO LUNDIA AB
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】スターンビー, ジャン
【審査官】大橋 俊之
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-535644(JP,A)
【文献】米国特許第04244787(US,A)
【文献】国際公開第98/055166(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透析患者(100)における物質の生成速度(G;G/V)を算出するコンピュータにより実施される方法であって、
前記コンピュータが、間欠的透析療法の治療セッションの開始時に前記透析患者(100)の血液中の前記物質の第1の濃度値(Cs)を取得すること(301)と、
前記コンピュータが、前記治療セッションを含む所定の期間(t)にわたる前記物質の標準Kt/V値を取得すること(306)と、
前記コンピュータが、前記標準Kt/V値、前記第1の濃度値(Cs)および前記所定の期間(t)の関数として、前記透析患者(100)における前記物質の前記生成速度(G;G/V)を算出すること(307)と、
を含む方法。
【請求項2】
前記コンピュータが、前記治療セッションに対するセッションKt/V値、又は、前記治療セッションの終了時に前記透析患者(100)の血液中の前記物質に対する第2の濃度値(Ce)を取得すること(302)と、前記所定の期間(t)中に前記血液から除去された総流体体積を表す体積値(UFV)を取得すること(303)と、前記治療セッションの継続時間(d)を取得すること(304)とをさらに含み、前記標準Kt/V値を取得すること(306)は、前記体積値(UFV)、前記継続時間(d)、及び、前記セッションKt/V値と前記第1および第2の濃度値(Cs,Ce)とのうちの1つの関数として前記標準Kt/V値を計算することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記物質は尿素である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記物質は、クレアチニンである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記物質は、β-2-ミクログロブリンである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記生成速度(G;G/V)を算出すること(307)は、前記標準Kt/V値と、前記所定の期間(t)の逆数と、前記所定の期間(t)中の前記透析患者(100)の血液中の前記物質の平均透析前濃度を表す推定濃度値(
【数17】
)とを乗算することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記コンピュータが、前記推定濃度値(
【数18】
)を前記第1の濃度値(Cs)の関数として決定することをさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記コンピュータが、前記第1の濃度値(Cs)に対して前記推定濃度値(
【数19】
)を設定することをさらに含む、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記コンピュータが、前記所定の期間(t)中の間欠透析療法の1つ以上のさらなる治療セッションの開始時に前記透析患者(100)の血液中の前記物質についての前記第1の濃度値(Cs)および1つ以上のさらなる濃度値の平均として前記推定濃度値(
【数20】
)を計算することをさらに含む、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項10】
前記所定の期間(t)は、前記透析患者(100)の血液中の前記物質の濃度が前記所定の期間(t)の開始時および終了時に実質的に等しくなるように選択される、請求項1乃至9の何れか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記所定の期間(t)は、1週間である、請求項1乃至10の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記所定の期間(t)は、1つ以上のさらなる治療セッションを含み、前記標準Kt/V値は、前記1つ以上のさらなる治療セッションを含むように推定される、請求項1乃至11の何れか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記標準Kt/V値は、前記1つ以上のさらなる治療セッション中に前記透析患者(100)の血液中の前記物質の濃度値が存在せず、前記1つ以上のさらなる治療セッションのKt/V値が存在しないと推定される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記治療セッションの前記第1の濃度値(Cs)は、それぞれのさらなる治療セッションの開始時の前記透析患者(100)の血液中の前記物質の予想濃度値と比較して、前記所定の期間(t)中の前記透析患者(100)の血液中の前記物質の平均透析前濃度に最も近い、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記コンピュータが、前記生成速度(G;G/V)を表示することと、前記コンピュータが、前記透析患者(100)の生理状態の評価のために前記生成速度(G;G/V)を評価することと、前記コンピュータが、前記透析患者(100)の前記生理状態を表すパラメータ値を表示することと、のうちの1つ以上をさらに含む、請求項1乃至14の何れか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記治療セッションの後に実行される、請求項1乃至15の何れか1項に記載の方法。
【請求項17】
プロセッサ(41)によって実行されると、前記プロセッサ(41)に請求項1乃至16の何れか1項に記載の方法を実行させるプログラム命令(61)を含むコンピュータ可読媒体。
【請求項18】
透析患者(100)における物質の生成速度(G;G/V)を算出するためのコンピュータシステムであって、前記コンピュータシステムは、間欠的透析療法の治療セッションの開始時に前記透析患者の血液中の前記物質の第1の濃度値(Cs)を取得し、前記治療セッションを含む所定の期間(t)にわたる前記物質の標準Kt/V値を取得し、前記標準Kt/V値、前記第1の濃度値(Cs)および前記所定の期間(t)の関数として、前記透析患者(100)における前記物質の前記生成速度(G;G/V)を算出するように構成されている、コンピュータシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透析患者における尿素を含むがこれに限定されない物質の生成速度を推定するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
栄養不良は透析患者によくみられ、高い死亡率および罹病率と関連している。栄養不良は、透析不足、炎症、食欲不振が原因で起こる。栄養不良の初期徴候は、特に流体貯留により体重減少がなければ、透析患者で見逃されやすい。
【0003】
患者の栄養状態は、タンパク質代謝の副産物である尿素の生成速度を測定することによって評価(査定)することができる。したがって、患者のタンパク質摂取は、透析セッション中に生成される使用済み透析液または限外濾過液中の尿素の出現、および患者が残腎機能を有する場合には患者の尿中の尿素の出現に関連する。
【0004】
腹膜透析および連続血液透析などの連続透析療法では、尿素生成速度が透析患者の血液中の尿素クリアランスと尿素濃度との積によって与えられる。このような計算は、血中尿素濃度が経時的に一定であり、尿素クリアランスが得られるので、連続透析治療においては自明である。
【0005】
しかし、間欠的透析療法では、透析患者の栄養状態の評価のために尿素生成率を取得することはより困難である。
【0006】
1つの公知の技術は、使用済み透析流体または限外濾過液中の尿素の量を、例えば、透析機械中のオンライン尿素センサによって測定することである。定常状態条件では、透析セッション中に除去され、尿素センサによって感知される尿素の総量は、患者の体内の尿素の生成速度に等しく、例えば、タンパク質異化速度(PCR)または関連する期間における体重1キログラム当たりに生成される尿素のグラム数を算出することによって、栄養状態を評価するために使用されてもよい。このような技法は、例えば、国際公開第2011/147425号、国際公開第94/08641号、米国特許出願公開第2014/0190886号明細書、国際公開第94/09351号、国際公開第98/55116号、およびSaudi J Kidney Dis Transplant 12(3):364-374(2001)において発行されたStillerらによる論文「On-line Urea Monitoring During Hemodialysis: A Review」に開示される。上述のように、これらの技術は、定常状態条件を推定し、それによって、複数の治療セッションにわたって測定され、集約される尿素の量を必要とし、これは非実用的であり得る。さらに、1つ以上の尿素センサの必要性は、透析機械のコストを増加させる。一体化されたオンライン監視装置を有する市販の透析機械があるが、現在使用されている透析機械の大部分はそのような機能性を欠いている。また、オンライン監視機能を有する既存の透析機械を改造することは、現実的な選択肢であるには高価すぎる。
【0007】
すべての間欠的透析療法に適用可能な別の公知の技術は透析セッションの開始および終了時、ならびに次の透析セッションの開始時に血液サンプルを採取し、3つの血液サンプル中の血液尿素濃度を決定し、血液尿素濃度に基づいて3ポイント尿素動態モデリング(UKM)を実施することである。UKMは、相対的な尿素生成速度、すなわち、透析患者の水量に対する透析患者の尿素生成速度を得るために実施されてもよい。しかしながら、UKMは、結合方程式を解くための反復計算を含み、従って比較的複雑である。さらに、3ポイントUKMは、2つの連続した透析セッションにおいて3つの血液サンプルが収集されることを必要とする。一般に、コストおよび複雑さは、実験室内の特殊な装置によって採取および分析される必要があるあらゆる血液サンプルと共に増加する。
【0008】
現在、アルブミン、尿素、カルシウム、リン酸等の血中濃度を評価するために、透析患者の血液検査を毎月1回等、定期的に行うことが透析クリニックでは一般的に行われている。また、定期的に、通常は月に1回、透析セッションの開始時および終了時に血液をサンプリングし、2つの血液サンプル中の尿素レベルを比較することによって、例えば、尿素減少比(URR)または透析セッションのKt/V(「セッションKt/V」)を算出することによって、間欠透析療法の透析の妥当性を評価することも一般的な慣行である。
【0009】
尿素生成速度は、食事蛋白質摂取量(DPI)と間接的に関係しているに過ぎず、透析患者が負の窒素出納にあり、比較的異化されていれば、栄養状態の誤判定が生じる可能性があり、それは栄養失調患者にとってかなり可能性があることである。例えば、尿素生成速度は、尿素が筋肉異化によって生成される場合、栄養不良患者において正常であるように見える。したがって、尿素生成速度は、筋肉量の評価を含む他の食事評価ツールによって補足(補助)される必要があり得る。クレアチニンは、筋肉量の周知のマーカーである。尿素と同様に、クレアチニン生成速度は、2つの後続の透析セッションおよび3ポイント動態モデリングで採取された3つの血液サンプルの分析によって決定され得る。
【0010】
クレアチニン生成速度はまた、患者の生理学的状態を評価するために、尿素生成速度とは独立して使用され得る。
【0011】
透析患者におけるさらなる物質の生成速度はまた、生理学的状態を評価するために、または動態モデリングにおける使用のために、興味深いものであり得る。例えば、アミロイドーシスは、患者の組織や臓器にアミロイドという異常なタンパク質が蓄積する透析患者の合併症として知られている。アミロイドの主成分はβ-2-ミクログロビン(B2M)である。透析患者におけるB2Mの生成速度は、将来のアミロイドーシスのリスクの正確な評価と、それに応じた治療計画の調整方法を決定するための関連するインプットとなる可能性がある。
【発明の概要】
【0012】
本発明の目的は、従来技術の1つ以上の制限を少なくとも部分的に克服することである。
【0013】
さらなる目的は、透析患者における物質の生成速度を推定するための代替技術を提供することである。
【0014】
別の目的は、費用効果が高く、全ての間欠透析療法に実施され得るこのような技術を提供することである。
【0015】
さらに別の目的は、単一の透析セッションにおける測定から生成速度を決定することを可能にするこのような技法を提供することである。
【0016】
本発明の第1の態様は、透析患者における物質の生成速度を算出するコンピュータ実施方法である。前記方法は、間欠的透析療法の治療セッションの開始時に前記透析患者の血液中の物質の第1の濃度値を取得することと、前記治療セッションを含む所定の期間にわたって前記物質の標準Kt/V値を取得することと、前記標準Kt/V値、前記第1の濃度値、および前記所定の期間の関数として前記透析患者中の前記物質の生成速度を算出することとを含む。
【0017】
本発明の第1の態様は、透析患者における物質の生成速度を算出する方法である。前記方法は、間欠的透析療法の治療セッションの開始時に前記透析患者の血液中の物質の第1の濃度値を取得することと、前記治療セッションを含む所定の期間にわたって前記物質の標準Kt/V値を取得することと、前記標準Kt/V値、前記第1の濃度値、および前記所定の期間の関数として前記透析患者中の前記物質の生成速度を算出することとを含む。
【0018】
第1の態様は、物質の生成速度が当技術分野で「標準Kt/V」として知られているパラメータ(一般に略称「stdKt/V」)を使用することによって、単純かつ直接的な計算によって導出され得るという洞察に基づくものである。このパラメータは、透析適正度の周知かつ確立された指標(尺度(measure))であり、急性腎不全に対する間歇的血液透析療法、持続的及び間歇的限外濾過療法、持続的及び間歇的腹膜透析、持続的血液透析療法を含む、幅広い透析療法のスペクトルの比較が可能となるように開発されている。パラメータは一般に尿素について導出されるが、一般に、透析治療において透析患者の血液から抽出される任意の物質に適用可能である。その基礎となる定義に従い、stdKt/Vは、
【数1】
として与えられ、ここでGは、透析患者における物質の生成速度(生成レート)であり、tは所定の期間であり、
【数2】
は所定期間tにわたる透析患者の血液中の部室の平均透析前濃度であり、Vは、物質の透析患者における分布体積(ボリューム)である。洞察力のある推論により、発明者は、もしstdKt/Vが既知であれば、平均透析前濃度
【数3】
がその期間tについて測定または推定されるならば、既知の値に基づいて生成速度Gまたは相対生成速度G/Vを直接計算することに、stdKt/Vの基礎となる定義を適用することが可能であることを理解した。
【0019】
透析療法の既知のまたは測定可能なパラメータにstdKt/Vを関係づける多くの異なる計算アルゴリズムが開発されている。一般に、stdKt/Vのための既存の計算アルゴリズムは、期間t内のそれぞれの治療セッションのための物質のセッションKt/Vの関数として、または、期間t内のそれぞれの治療セッションの開始時および終了時の物質の血中濃度の関数として与えられる。さらに、stdKt/Vのための計算アルゴリズムは、それぞれの治療セッションの継続時間と、その期間tにわたる透析療法によって血液から除去された総流体体積(もしあれば)とに関して演算する。しかしながら、所定の期間が2つ以上の治療セッションを含む限り、セッションKt/V又は治療セッションの開始時および終了時の血中濃度であっても、単一の治療セッションについての測定データに基づいてstdKt/Vを近似することを可能にする計算アルゴリズムが存在する。一般に、このような近似は、stdKt/V値に比較的小さな不正確さを導入する。したがって、第1の態様のいくつかの実施形態によれば、stdKt/V値は、所定の期間中の1つの治療セッションについての測定データに少なくとも基づいて推定され、所定の期間中の1つ以上のさらなる治療セッションについての対応する測定データにも基づいてもよいが、そうである必要はない。透析療法の設定は、所定の期間中の治療セッション間で異なってもよいことを理解しておく必要がある。さらに、例えば、血液透析、血液透析濾過、血液濾過、限外濾過、および腹膜透析の任意の組合せのような、異なるタイプの間欠的透析療法を、所定の期間中の異なる治療セッションにおいて使用することができる。
【0020】
上述の血中濃度は、治療セッションに関連して採取された血液サンプルから得ることができる。それぞれの治療セッションのための物質のセッションKt/Vは、当技術分野で知られているように、例えば、フォーマル動態モデリングによって、または、単一プールKt/V、単一プール可変容量Kt/V、ダブルプールKt/V、または平衡化されたKt/Vのための確立された方程式の使用によって、血中濃度の関数として計算することができる。血中濃度に加えて、セッションKt/Vのそのような計算は、治療セッション中に血液から除去される流体の体積、患者の体重、および治療セッション中の有効透析時間に関して演算してもよい。あるいは、セッションKt/Vは、物質のクリアランスK、有効透析時間、および分布体積Vに基づく直接的な計算によって得られてもよい。治療セッションのための物質のインビボクリアランスKを測定または推定するための確立された技法がある。例えば、インビボクリアランスKは、透析器に入る透析流体のパラメータの短期ボーラスを生成し、例えば、米国特許第5024756号明細書、米国特許第5100554号明細書、欧州特許出願公開第0658352号明細書および米国特許第6702774号明細書に開示されるように、このパラメータを透析器の少なくとも下流で測定することによって、決定され得る。透析システムにおけるインビボクリアランスを測定する市販のデバイス、例えば、Gambro/BaxterからのDIASCAN、およびFreseniusからのオンラインクリアランスモニタリング(OCM)がある。実装に応じて、このような測定デバイスは、クリアランス値Kまたは対応するセッションKt/Vを出力することができる。
【0021】
第1の態様は、透析患者における物質の生成速度を推定するための新規かつ代替の技術を提供する。第1の態様は、任意の間欠的透析療法およびそのような療法の任意の組合せのために実施することができる。また、第1の態様は、上述の3ポイント動態モデリングによって導出されるより短期の生成値ではなく、所定の期間tの平均生成速度を提供してもよい。そのような平均生成速度は、患者の生理学的状態の誤解を招く画像を与える可能性がある付随的な短期変動に対して本質的に感度が低い。また、第1の態様は、そのような測定データによってstdKt/V及び平均透析前濃度
【数4】
の両方が与えられる場合、単一の治療セッションのための測定データから生成速度を決定することを可能にする。この結果、費用効果が高く、時間効率のよい手順が得られる。例えば、生成速度は、透析の妥当性の定期的な評価(背景技術の項を参照のこと)のためにいずれにしても採取される血液サンプルによって与えられる濃度値に基づいて、および/または、市販の標準的な装置の使用によって治療セッションのために得られ得るセッションKt/Vに基づいて、計算され得る。
【0022】
以下では、第1の態様の様々な実施形態が定義される。これらの実施形態は例えば、以下の詳細な説明を考慮して、当業者によって容易に理解されるように、前述の技術的効果および利点のうちの少なくともいくつか、ならびに追加の技術的効果および利点を提供する。
【0023】
一実施形態では、前記方法は、前記治療セッションに対するセッションKt/V値、又は、前記治療セッションの終了時に前記透析患者(100)の血液中の前記物質に対する第2の濃度値を取得することと、前記所定の期間中に前記血液から除去された総流体体積を表す体積値を取得することと、前記治療セッションの継続時間を取得することとをさらに含み、前記標準Kt/V値を取得することは、前記体積値、前記継続時間、及び、前記セッションKt/V値と前記第1および第2の濃度値とのうちの1つの関数として前記標準Kt/V値を計算することを含む。
【0024】
一実施形態では、前記物質は、尿素、クレアチニン、およびβ-2-ミクログロブリンのうちの1つである。
【0025】
一実施形態では、前記生成速度を算出することは、前記標準Kt/V値と、前記所定の期間の逆数と、前記所定の期間中の前記透析患者の血液中の前記物質の平均透析前濃度を表す推定濃度値とを乗算することを含む。
【0026】
一実施形態では、前記方法は、前記第1の濃度値の関数として前記推定濃度値を決定することをさらに含む。一例では、前記推定濃度値は、前記第1の濃度値に対して設定される。別の例では、前記推定濃度値は、前記所定の期間中の間欠透析療法の1つ以上のさらなる治療セッションの開始時に前記透析患者の血液中の前記物質についての前記第1の濃度値および1つ以上のさらなる濃度値の平均として計算される。
【0027】
一実施形態では、前記所定の期間は、前記透析患者の血液中の前記物質の濃度が前記所定の期間の開始時および終了時に実質的に等しくなるように選択される。
【0028】
一実施形態では、前記所定の期間は、1週間である。
【0029】
一実施形態では、前記所定の期間は、1つ以上のさらなる治療セッションを含み、前記標準Kt/V値は、前記1つ以上のさらなる治療セッションを含むように推定される。
【0030】
一実施形態では、前記標準Kt/V値は、前記1つ以上のさらなる治療セッション中に前記透析患者の血液中の前記物質の濃度値が存在せず、前記1つ以上のさらなる治療セッションのKt/V値が存在しないと推定される。例えば、前記治療セッションの前記第1の濃度値が、それぞれのさらなる治療セッションの開始時の前記透析患者の血液中の前記物質の予想濃度値と比較して、前記所定の期間中の前記透析患者の血液中の前記物質の平均透析前濃度に最も近くなるように、前記治療セッションが選択されてもよい。
【0031】
一実施形態では、前記方法は、前記生成速度を表示することと、前記透析患者の生理状態の評価のために前記生成速度を評価することと、前記透析患者の前記生理状態を表すパラメータ値を表示することと、のうちの1つ以上をさらに含む。
【0032】
一実施形態では、前記方法が前記治療セッションの後に実行される。
【0033】
本発明の第2の態様は、プロセッサによって実行されると、前記プロセッサに前記第1の態様又はその何れかの実施形態を実行させるコンピュータ命令を含むコンピュータ可読媒体である。
【0034】
第3の態様は、透析患者における物質の生成速度を算出するためのコンピュータシステムである。前記コンピュータシステムは、間欠的透析療法の治療セッションの開始時に前記透析患者の血液中の前記物質の第1の濃度値を取得し、前記治療セッションを含む所定の期間にわたる前記物質の標準Kt/V値を取得し、前記標準Kt/V値、前記第1の濃度値および前記所定の期間の関数として、前記透析患者における前記物質の前記生成速度を算出するように構成されている。
【0035】
第1の態様の実施形態のうちの任意の1つは、第3の態様の実施形態として適合され、実施されてもよい。
【0036】
本発明のさらに他の目的、特徴、実施形態、態様、および利点は、以下の詳細な説明、添付の特許請求の範囲、ならびに図面から明らかになるのであろう。
【図面の簡単な説明】
【0037】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照してより詳細に説明する。
図1図1は、透析患者の栄養状態を評価するためのシステムの概略図である。
図2図2は、1週間の経過中に3回の透析治療セッションを受けた透析患者の血中尿素濃度の例示的なグラフである。
図3図3は、一実施形態に従った、透析患者における物質の生成速度を算出する方法のフローチャートである。
図4図4は、一実施形態に従った、コンピュータシステムの機能ブロック、ならびに関連する入出力データのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
ここで、本発明のいくつかの、しかし全てではない実施形態が示されている添付の図面を参照して、本発明の実施形態を以下により詳しく説明する。実際、本発明は多くの異なる形態で具現化することができ、本明細書に記載の実施形態に限定されるものと解釈されるべきではなく、むしろ、これらの実施形態は、本開示が適用可能な法的要件を満たすことができるように提供される。同じ参照符号は全体を通して同じ要素を指す。
【0039】
また、可能であれば、本明細書に記載および/または企図される本発明の実施形態のいずれかの利点、特徴、機能、デバイス、および/または動作態様のいずれかが、本明細書に記載および/または企図される本発明の他の実施形態のいずれかに含まれてもよく、および/またはその逆であってもよいことが理解されるのであろう。さらに、可能であれば、本明細書で単数形で表される任意の用語は特に明記しない限り、複数形も含むこと、および/またはその逆も意味する。本明細書で使用されるように、「少なくとも1つの」は「1つ以上の」を意味し、これらの語句は交換可能であることが意図される。したがって、語句「1つの(a)」および/または「1つの(an)」は、用語「1つ以上の」または「少なくとも1つ」が本明細書で使用される場合でも、用語「少なくとも1つ」又は「1つ以上の」を意味しうる。本明細書で使用される場合、文脈が言語または必要な含意を表現するために、そうではないことを必要とする場合を除いて、語句「備える(comprise)」、または「備える(comprises)」又は「備えている(comprising)」などの変形は、包括的な意味で使用され、すなわち、述べられた特徴の存在を指定するが、本発明の様々な実施形態におけるさらなる特徴の存在または追加を排除しない。同様に、表現「の関数として」および「に基づいて」は、パラメータの指定されたセットなどと組み合わせて包括的であり、さらなるパラメータの存在または追加を排除しない。
【0040】
以下の記述は、標準化されたKt/V、またはstdKt/Vとしても知られている、透析の妥当性の確立された指標(尺度)である「標準Kt/V」に言及している。この指標(尺度)を開発するための基礎にある動機は、連続療法および間欠療法の両方を含む、異なるタイプの透析療法および透析療法の組合せによって提供される透析用量(dose)を比較することができる必要性であった。この指標(尺度)は、Nephrol Dial Transplant. 13 [Suppl 6]: 10-14 (1998)で発行された、Frank Gotchの論文"The current place of urea kinetic modelling with respect to difference dialysis modalities"において最初に提示されたものであり、これは、本明細書中に参照により援用される。本質的に、Gotchは、平均透析前血中尿素濃度で割った尿素生成速度としてクリアランスを再定義することによって、間欠的透析器クリアランスを連続的クリアランス(stdK)の均等物に格下げ(ダウングレード)する方法を提示した。その定義は、血中尿素濃度が期間tの開始時と終了時で同じであると仮定する。具体的には、Gotchは、stdKt/Vの以下の定義を提供した:
【数5】
【0041】
ここで、Gは、所定の期間tにわたる透析患者の尿素の平均時間生成速度であり、
【数6】
は、期間t中に実行される治療セッションの開始(オンセット)時の血中尿素濃度の平均値であり、Vは、患者における分布体積である。期間tは、任意の数の治療セッションを含むことができる。伝統的に、期間tは1週間に設定され、「週のstdKt/V」をもたらすが、任意の他の期間、例えば、1日、2週間、1ヶ月などが使用されてもよい、以下では、透析療法は患者の血中尿素濃度を期間後に開始値に戻すと仮定されるので、期間tは「均等化期間」と示される。Gotchは、尿素についての定義を与えたが、式(1)は、透析治療中に透析患者の血液と交換される任意の他の物質に等しく適用可能である。
【0042】
時間の経過とともに、stdKt/Vは、確立された指標(尺度)となり、腎臓学において広く受け入れられている臨床診療ガイドラインであるKDOQI-Kidney Disease Outcomes Quality Initiative、「"KDOQI Clinical Practice Guideline for Hemodialysis Adequacy: 2015 Update", Am J Kidney Dis. 2015;66(5), pages 908-912: "Guideline 3: Measurement of Dialysis - Urea Kinetics"」を参照されたい。stdKt/Vの根拠と確立された使用法については、参考書「Replacement of Renal Function by Dialysis", 5th revised edition, 2004, editors Horl, Koch, Lindsay, Ronco and Winchester, Chapter 22 - Adequacy of hemodialysis, pages 597-638」、ならびに論文「"Assessing the Adequacy of Small Solute Clearance for Various Dialysis Modalities, with Inclusion of Residual Native Kidney Function", by Chin et al, published in Seminars in Dialysis, 30(3), 235-240 (2017)」で論じられている。
【0043】
stdKt/Vは、Kt/Vと同じではなく、それは、単一の治療セッションの効果(「透析用量」)を記述する確立された指標(尺度)であり、透析前および透析後の尿素濃度の比の対数によって理論的に与えられるものであることを理解することが重要である。患者における尿素の分布を説明するために、より特殊な方程式が開発されており、例えば、いわゆるシングルプールKt/V(spKt/V)または平衡化Kt/V(eKt/V)をもたらしている。以下では、単一の治療セッションのためのKt/Vは、stdKt/Vと区別するために「セッションKt/V」と示される。
【0044】
臨床状況では、少なくともGが未知である場合、式(1)に基づいてstdKt/Vを算出することは困難である。したがって、stdKt/Vを計算または推定するための様々なアルゴリズムが開発されてきた。1つの計算アルゴリズムは、Leypoldらによって、Semin Dil 17:142-145 (2004)で発表されたで発表された「Predicting treatment dose for novel therapies using urea standard Kt/V」という記事で提案されている。ここではstdKt/Vは、1週間の間のすべての治療セッションが等しく、等間隔であるという仮定の下で、限外濾過(UF)又は残腎機能(rrf)無しに単一の治療セッションのためのspKt/Vの知識から計算される。別の計算アルゴリズムは、Daugirdasらによって、Kidney Int 77: 637-644 (2010)で発表された「Standard Kt/Vurea: a method of calculation that includes effects of fluid removal and residual kidney clearance」という記事で提案されている。このアルゴリズムはUFおよびrrfを説明し、治療セッションが等しく、週にわたって均等に分布している場合にはうまく機能する。さらなる計算アルゴリズムが、Blood Purif.8:1-7 (2018)で発表された「Calculating Standard Kt/V during Hemodialysis Based on Urea Mass Removed」という記事で、Leypold及びVoneshにより提案されている。このアルゴリズムは、治療セッションの開始時及び終了時に血中尿素濃度に関して演算する。治療セッションが等しければアルゴリズムはうまく機能する。さらに別の計算アルゴリズムが、SternbyによってASAIO J. 64(5), e88-e93 (2018)に発表された論文「Mathematical Representation of Standard Kt/V Including Ultrafiltration and Residual Renal Function」で提案されている。このアルゴリズムは、治療セッションの性質、数および間隔に関係なくstdKt/Vの算出を可能にし、UFおよびrrfの両方を説明(考慮)する。rrfを説明(考慮)しない計算アルゴリズムは、例えば、上述のKDOQIガイドラインの911~912頁に記載されているように、rrfの寄与の推定値を、stdKt/Vの算出値に加算するように更新されてもよいことにも留意されたい。前述の刊行物の全ては、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0045】
これらの計算アルゴリズムの全てに共通することは、それらが、均等化期間t中の1つ以上の治療セッションの患者の血液中の透析前および透析後の尿素濃度のいずれか又は1つ以上の治療セッションの尿素のセッションKt/V、ならびにそれぞれの治療セッションの継続時間を含む入力データからのstdKt/Vの算出を可能にすることである。特定の計算アルゴリズムはまた、より正確なstdKt/V値を提供するために、それぞれの治療セッションの開始時点および終了時点、均等化期間t中に血液から除去された全限外濾過容量(UFV)、および患者の残腎機能(rrf)などのさらなる入力データに関して演算する。しかし、UFV及びrrfは、治療法や患者によってはゼロになる可能性があることに注意する必要がある。
【0046】
上記において、間欠的な透析療法と連続的な透析療法とが区別される。本明細書で使用される場合、「連続透析療法」は、尿素(または別の物質)の濃度が患者の血液中で本質的に一定のままであるように、均等化期間tにわたって患者に対して連続的に操作される任意の腎置換療法を指す。対照的に、「間欠的透析療法」は、それぞれが均等化期間tのそれぞれのサブセット中に患者に対して操作され、均等化期間t中に尿素(または別の物質)の濃度を変化させる1つ以上の腎置換療法を含む。このような腎置換療法は、血液透析、血液透析濾過、血液濾過、限外濾過および腹膜透析のうちの1つ以上を含み得る。
【0047】
本発明の実施形態は、物質の生成速度は、物質のstdKt/Vが既知である場合、例えば、式(1)の賢明な使用によって、上述の計算アルゴリズムのいずれかによって推定される場合、単純な方法で算出されてもよいという洞察に基づくものである。例えば、再配置によって、相対生成速度(G/V)は、
【数7】
によって与えられ、絶対生成速度(G)は、
【数8】
によって与えられる。
【0048】
生成速度の算出を単純化するために、stdKt/Vの計算および/または
【数9】
の計算に関して様々な仮定を行うことができることに留意されたい。例えば、仮定は、均等化期間tが1つ以上の追加の治療セッションを含む場合であっても、単一の治療セッションの開始時および終了時における物質の血中濃度の測定値または推定値に基づいて、生成速度の算出を可能にするようになされてもよい。
【0049】
以下では、本発明の実施形態は、尿素の測定、および、一緒にUGRとして示される相対的または絶対的な尿素生成速度の算出のために例示される。図1を参照すると、患者100、すなわち人間の被験者に接続されたときに血液透析を実行するための血液処理システム1が概略的に示されている。この例では、患者100は、患者の腎臓による本来の尿素クリアランスである残腎機能rrfを有し、例えば、それはmL/分で与えられてもよい。
【0050】
システム1は、体外血液回路(「EC回路」)10を備え、この回路は血液採取エンドおよび血液戻りエンドにおいて患者100の血管系に接続されている。その接続は、針またはカテーテルなどの任意の従来のデバイスによって行われ得る。血液ラインまたはチューブが、血液採取経路又は肢(リム:limb)10a、およびEC回路10の血液戻り経路又は肢(リム:limb)10bを規定するように配置される。血液濾過ユニット11(本明細書中では「透析器」と示される)が、採取経路10aと戻り経路10bとの間に接続される。透析器11は、透析器11を血液コンパートメントに分離するように構成された半透膜11aを備え、この血液コンパートメントは採取および戻り経路10a、10b、および透析流体コンパートメントに流体的に接続されている。血液ポンプ12は、採取経路10aに配置され、患者100から血液を採取し、透析器11の血液コンパートメントを介して、戻り経路10bを通って患者100に戻るように血液を送り出すように動作可能である。システム1は、透析流体の供給源13をさらに備える。透析流体経路又はライン13aは、供給源13を透析器11の透析流体コンパートメントに接続する。同様に、流出経路またはライン14aは、透析器11の透析流体コンパートメントを、使用済み透析流体(「流出物」としても知られる)のためのシンク14に接続する。透析液ポンプ13bは、透析流体経路13aに配置され、流出液ポンプ14bが流出液路14aに配置される。当業者は、血液処理システム1が、静脈点滴チャンバ、クランプ、センサなどのさらなる構成要素を含み得ることを理解する。
【0051】
制御装置30は、ポンプ12、13b、14bなどのシステム1の動作構成要素のための制御信号を生成して、システム1に、例えば世話人(介護者、ケアテイカー)または患者100によって制御装置30に入力された設定に従って治療セッションを実行させるように構成される。血液透析システム1の動作は当業者に知られており、ここでは詳述しない。
【0052】
図1はまた、EC回路10の採取経路10a(図示)から、または患者100の血管系から直接的に、患者の血液のサンプルを採取するために使用されるサンプリング装置20aを示している。図示されるように、サンプリング装置20aは、システム1とは別個であり、尿素を含む1つ以上の物質の濃度を決定するために血液サンプルを分析するように構成された血液分析装置50に接続されてもよい。装置50は、それぞれの血液サンプルの分析の結果を、表示装置51上で操作者(オペレータ)に提示してもよい。あるいは、血液サンプルは、濃度を得るために手動の実験室分析に供され得る。当技術分野で知られているように、血液中の尿素濃度は、尿素分子全体またはその窒素含有量(一般に「血液尿素窒素」、BUNと呼ばれる)に関して与えられてもよい。
【0053】
図1はまた、臨床医が患者100の栄養状態を評価することを可能にする出力データを生成するために専用の計算を実行するように構成された計算デバイスまたはコンピュータシステム40を示す。コンピュータシステム40は、透析機械の一部であってもよいし一部でなくてもよく、プロセッサ41およびコンピュータメモリ42を備える。制御プログラムがメモリ42に記憶され、プロセッサ41によって実行されて、計算が実行される。示されるように、制御プログラム61は、有形の(一時的でない:非一時的)製品(例えば、磁気媒体、光ディスク、読み出し専用メモリ、フラッシュメモリなど)または伝搬信号であってもよい、コンピュータ可読媒体60上のコンピュータシステム40に供給されてもよい。図示の例では、コンピュータシステム40は、オペレータが入力データを供給することを可能にする1つ以上の入力デバイス44に接続するための入力インターフェース43aと、オペレータに出力データを提供するための1つ以上の出力デバイス45に接続するための出力インターフェース43bとを備える。例えば、入力デバイス44は、キーボード、キーパッド、コンピュータマウス、制御ボタン、タッチスクリーンなどを含むことができ、出力デバイス45は、表示装置、インジケータランプ、アラームデバイス、マイクロフォン、プリンタなどを含むことができる。
【0054】
オペレータは例えば、血中濃度値を含む入力データを、入力デバイス44を介してコンピュータシステム40に入力することができる。これに代えて、またはこれに加えて、図1に破線矢印で示すように、血液分析装置50を有線または無線で入力インターフェース43aに接続して、血中濃度値をコンピュータシステム40に転送することができる。これに代えて、またはこれに加えて、図1に破線矢印で示すように、制御装置30を同様に接続して、入力データをコンピュータシステム40に転送することができる。また、コンピュータシステム40が制御装置30に統合されていることも考えられるし、その逆も考えられる。
【0055】
図2は、1週間にわたる患者100の血液中の尿素濃度の例を示し、患者は、3つの別々の治療セッションにおいて間欠的な透析を受ける。各治療セッションにおいて、EC回路10は、図1に示されるように、患者100の血管系に接続され、そこで、システム1は、尿毒症溶質および水が透析膜11aを介して患者の血液から除去される血液治療手順を実行するように動作される。このような溶質としては、尿素、クレアチニン、βー2ーミクログロビン(B2M)、β-トレースタンパク質、ビタミンB12などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
図2では、治療セッションは、時点t1~t2、t3~t4、およびt5~t6の間でそれぞれ実行され、それぞれ、第1のセッションではC1からC2まで、第2のセッションではC3からC4まで、第3のセッションではC5からC6まで、血中尿素濃度の有意な(著しい)減少をもたらす。治療セッションの間に、血中尿素濃度は、患者における代謝プロセスの結果として、第1セッションと第2セッションとの間のC2からC3まで、第2セッションと第3セッションとの間のC4からC5まで、および第3セッションの後の時点t7までのC6からC7まで上昇する。この例では、残腎機能(rrf)がゼロであることに留意されたい。図2は、毎週3回、例えば月曜日、水曜日および金曜日に実施される透析療法の特徴(特性)である。見られるように、血中尿素濃度は、週の始めと週の終わりとでほぼ同じである。実際、全ての透析療法は、ほぼ同じ血中尿素濃度で開始および終了する期間に細分され得る。一般に、期間は、1日以上、または1週間以上である。したがって、この期間は、stdKt/Vの定義における均等化期間である。図2はまた、透析前血中尿素濃度C1、C3、C5が、均等化期間内の最初のセッションから最後のセッションまで単調に減少することを示す。これは、少なくとも1つの時間隔が他の時間隔と異なる、均等化期間中の2つ以上の時間隔の治療セッションを含む透析治療の特徴(特性)である。
【0057】
図3は、一実施形態による、透析患者においてUGRを決定するための方法300を示す。方法300は、図1のコンピュータシステム40によって実行することができ、図2を参照しながら例示する。図示された実施形態は、均等化期間tがさらなる治療セッションを含む場合であっても、例えば上述の計算アルゴリズムを使用することによって、単一の選択された治療セッションについて十分な精度でstdKt/Vを推定することが可能であることが多いという理解に基づいている。選択されたセッションは、好ましくは均等化期間中のセッションのうちの中間セッション、例えば、3つのセッションのうちの第2のセッション、4つのセッションのうちの第2または第3のセッション、または5つのセッションのうちの第3のセッションである。
【0058】
上記から理解されるように、利用可能な計算アルゴリズムのいくつかは、専用の測定デバイスによって測定され得るか、または透析前および透析後の濃度に基づいて計算され得るセッションKt/Vに関して演算する。例えば、上述したspKt/VまたはeKt/Vは、または計算アルゴリズムに入力されるセッションKt/Vを形成することができる。他の計算アルゴリズムは、セッションKt/Vの代わりに、測定された透析前および透析後の濃度に関して演算するように構成される。したがって、方法300は、入力データのタイプに応じて異なってもよい。
【0059】
方法300は、計算ステップ306~307のための入力データを取得するステップ301~305を含み、その後にオプションの評価ステップ308が続く。ステップ301は、選択されたセッションの開始時の血中尿素濃度を表す第1の測定値を取得する。ステップ302は、選択されたセッションの終了時の血中尿素濃度を表す第2の測定値、または選択されたセッションの尿素のセッションKt/Vのいずれかを取得する。図2の例では、第1および第2の測定値は、塗りつぶされたドットによって示される、第2のセッションの時点t3、t4における濃度値C3およびC4であってもよい。図1において、第1及び第2の測定値は、入力デバイス44を介して世話人によって入力されてもよいし、血液分析装置50から電子的に転送されてもよい。セッションKt/Vはまた、入力デバイス44を介して世話人によって入力されてもよく、サマリーのセクションで論じられるデバイスを含むがこれに限定されない、透析システム1内の任意の適切な測定デバイス(図示せず)によって与えられてもよい。あるいは、世話人は例えば、そのような測定デバイスによって与えられるインビボ尿素クリアランスKを入力することができ、その後、ステップ302は、従来の様式でセッションKt/Vを計算する。セッションKt/V又は尿素クリアランスKは、代替的に、測定デバイス又は制御装置30からコンピュータシステム40に電子的に転送されてもよい。さらなる代替において、セッションKt/Vは例えば、任意の確立された式に従って、透析前および透析後の濃度に基づいて別々に計算され、次いで、ステップ32において、コンピュータシステム40に入力される。
【0060】
ステップ303は、均等化期間中の治療セッションのための全限外濾過体積UFVを取得する。全(トータル)UFVは、一般に世話人に知られている。図1において、全UFVは、入力デバイス44を介して世話人によって入力されてもよいし、又は制御装置30から電子的に転送されてもよい。全UFVは、均等化期間のための集計値として、またはそれぞれのセッションのためのUFV値として入力されてもよい。特定の治療についてUFVがゼロであることが知られている場合、ステップ303は省略されてもよい。
【0061】
ステップ304は、選択されたセッションの継続時間を取得する。図1において、継続時間は、入力デバイス44を介して世話人によって入力されてもよいし、又は、制御装置30から電子的に転送されてもよい。図2において、第2セッションの継続時間はd3、4である。
【0062】
患者が残腎機能rrfを有する場合、ステップ305は、例えば尿素クリアランス値Krrfとして定量化される、rrfを表すデータを取得するために含まれてもよい。rrfデータは、入力デバイス44を介して世話人によって入力されてもよい。
【0063】
ステップ306は、ステップ301~305からの入力データに関して演算し、例えば、上述の計算アルゴリズムのいずれかを使用することによって、尿素のstdKt/Vの推定値を計算する。一例では、stdKt/Vは、第1および第2の測定値、選択されたセッションの継続時間、全(トータル)UFVの関数として計算される。別の例では、stdKt/Vは、セッションKt/V、選択されたセッションの継続時間、および全UFVの関数として計算される。透析後の濃度、すなわち第2の測定値を決定する際に、患者における再循環およびリバウンドを考慮することによって、stdKt/Vのより正確な値を得ることができることが一般に認識される。このタイプの値は、当技術分野では「平衡濃度」として知られている。平衡濃度は、透析後血液サンプルを得る前に治療セッションの終了後30分待つことによって、またはセッションの実際の終了時に採取された血液サンプルの濃度値を数学的に操作することによって、得ることができる。したがって、第2の測定値がt4における濃度C4(図2)である場合、ステップ306は、stdKt/V算出の一部として、第2の測定値を平衡尿素濃度に変換することができる。同様に、ステップ306は、ステップ302によって取得されたセッションKt/V、例えばspKt/Vを、平衡化されたセッションKt/V(eKt/V)に変換することができる。他の実施形態では、平衡濃度またはeKt/Vは、ステップ302によって取得され、ステップ306で入力されてもよい。
【0064】
ステップ307は、上記式(2)または(3)を使用して、stdKt/V、t及び
【数10】
に基づいてUGRを計算する。ここで、tは均等化期間の既知の長さである。平均透析前血中尿素濃度
【数11】
は、好ましくは第1の測定値の関数として推定することができる。図2から、透析前濃度値C1、C3およびC5の中で、値C3は真の
【数12】
(C1、C3およびC5の平均である)に最も近いことが理解される。したがって、
【数13】
の推定値はC3によって与えられてもよく、または、例えば、所定の補正係数(補正ファクタ)との乗算および/または所定の補正値(正または負)の加算によって、C3に関して設定されてもよい。式(3)が使用される場合、患者100内の分布体積Vは、先行するステップ(図示せず)で得ることができる。例えば、分布体積Vは、入力デバイス44を介して世話人に知られ、入力されるか、または制御装置30から電子的に転送されてもよい。尿素(およびクレアチニン)については、分布体積Vは、患者について推定され得る体内全水分量(TBW)によって近似され得る。例えば、世話人は、患者の乾燥重量(ドライウェイト)または体重、および場合によっては性別、年齢、身長などのさらなる患者データを入力することができ、それによって、方法300は例えば、TBWが患者の体重の所与のパーセンテージであると仮定することによって、またはWatson公式、Hume-Weyers公式、もしくはChertow公式などの任意の確立された方程式を使用することによって、患者100のTBWを推定することができる。あるいは、TBWは、例えば、生体電気インピーダンス解析(BIA)によって、患者上で測定され得る。
【0065】
ステップ307に続いて、UGRが、例えばディスプレイ45上に表示(提示)するために出力され、及び/又は患者100の患者IDに関連してメモリ42に記憶されてもよい。図3に示すように、方法300はまた、患者100の生理状態、例えば栄養状態の評価のためにUGRを評価して、生理状態を表すパラメータ値を表示するステップ308を含むことができる。例えば、生理状態は、患者について以前に計算されたUGR値と比較することによって、および/または現在のUGR値を閾値と比較することによって、評価されてもよい。窒素出現のタンパク質均等物(PNA)としても知られる正味のタンパク質異化レート(PCR)が、UGRから計算され、世話人に提示されることも考えられる。
【0066】
ステップ306で使用するための計算アルゴリズムの選択は、所望の精度と、計算の複雑さと、入力データの利用可能性との間のトレードオフとすることができる。透析療法が計算アルゴリズムの基礎となる仮定を合理的に満たす場合、例えば、セッションが均等化期間中に等しく等間隔であると見なされ得る場合、より複雑でない計算アルゴリズムが選択され得る。しかしながら、複数のセッションのうちの1つのセッションのみについて血中尿素濃度またはセッションKt/Vに関して演算する代わりに、ステップ306は、均等化期間中のさらなるまたはすべてのセッションについての対応するデータに関して演算することが考えられる。図2の例では、方法300は、各セッションのセッションKt/V(または濃度値C1~C7)および対応する時点t1~t7を取得し、既知の計算アルゴリズムのうちの1つを適用して実質的に正確なstdKt/V値を取得することを含むことができる。さらに、
【数14】
は、C1、C3、およびC5の任意の組合せの平均として計算されてもよく、式(2)または(3)とともに使用することができる。
【0067】
図4は、例えば方法300に従って、入力データに基づいてUGRパラメータを共同で計算するように構成された計算モジュール又はユニット401~405の構成のブロック図である。この構成は、図1のコンピュータシステム40に含まれてもよく、それぞれのモジュールは、ソフトウェア命令とハードウェア構成要素(プロセッサ41とメモリ42を含む)との組合せによって、または排他的にハードウェア構成要素によって、実装されてもよい。モジュール401は、第1の入力データに対して所定の関数fを演算してstdKt/V値を生成する。図示の例では、第1の入力データは、第1および第2の測定値Cs、Ce、すなわち、治療セッションの開始および終了血中尿素濃度、または治療セッションのセッションKt/V値のいずれかを含み、さらに、存在する場合には、治療セッションの継続時間d、均等化期間tの全(トータル)UFV、およびrrfを含む。モジュール402は、平均透析前血中尿素濃度
【数15】
を推定するために、第1の測定値Csを含む第2の入力データに対して所定の関数fを演算する。モジュール403は、stdKt/V値及び
【数16】
に対して所定の関数fを演算し、相対的な尿素生成速度G/Vを計算する。モジュール404は、分布体積Vを推定するために、患者の体重Wを含む第3の入力データに対して所定の関数fを演算する。モジュール405は、絶対尿素生成速度GまたはPCR値を計算するために、G/V値および分布体積Vに対して所定の関数fを操演算する。
【0068】
上記のように、前述の実施形態の全ては、透析治療において患者の血液から除去される任意の他の物質に等しく適用可能である。したがって、任意のそのような物質についてのセッションKt/V、または物質についての第1および第2の測定値を得ることによって、前述の方法論は、患者における物質の絶対的または相対的な生成速度を提供する。例えば、この物質は、背景技術の項で議論されるように、クレアチニンまたはB2Mであってもよい。一実施形態では、2つ以上の物質の生成速度が計算され、患者の生理学的状態の評価のために共同で評価される(図3のステップ308参照)。例えば、尿素およびクレアチニンの生成速度は、栄養状態の評価のために共同で評価され得る。
【0069】
本発明は現在最も実用的で好ましい実施形態であると考えられるものに関連して説明されてきたが、本発明は開示された実施形態に限定されるべきではなく、反対に、添付の特許請求の範囲の精神および範囲内に含まれる種々の変形および同等の構成を包含することが意図されることを理解されたい。
【0070】
さらに、動作(オペレーション)は特定の順序で図面に示されているが、これは望ましい結果を達成するために、そのような動作が示された特定の順序で、または連続的な順序で実行されること、または示されたすべての動作が実行されることを必要とするものとして理解されるべきではない。特定の状況では、並列処理が有利であり得る。
図1
図2
図3
図4