(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】内循環式ボールねじ
(51)【国際特許分類】
F16H 25/22 20060101AFI20240529BHJP
F16H 25/24 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
F16H25/22 C
F16H25/24 B
(21)【出願番号】P 2022179941
(22)【出願日】2022-11-10
【審査請求日】2022-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】596016557
【氏名又は名称】上銀科技股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】余思緯
(72)【発明者】
【氏名】蔡志慶
(72)【発明者】
【氏名】蔡尚樺
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103912646(CN,A)
【文献】特開2003-202063(JP,A)
【文献】実開昭58-052357(JP,U)
【文献】特開2014-129870(JP,A)
【文献】中国実用新案第203743358(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/22
F16H 25/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじ軸、ナット、閉鎖ユニット、還流ユニットおよび複数のボールを備え、
前記ねじ軸は外側ねじ溝を有し、
前記ナットは前記ねじ軸の軸方向に沿って移動できるように前記ねじ軸に装着され、内側ねじ溝、径方向に沿って前記内側ねじ溝に繋がる配置溝および径方向に沿って前記配置溝に繋がるボール排出孔を有し、
前記ナットの前記内側ねじ溝と前記ねじ軸の前記外側ねじ溝は相互に対応して負荷経路を構成し、
前記還流ユニットは前記ナットの前記配置溝に嵌まり込み、内側面に還流溝を有し、前記還流ユニットの前記還流溝は前記ナットの前記内側ねじ溝に繋がることで前記ねじ軸の前記外側ねじ溝との間が非負荷経路になり、前記非負荷経路と前記負荷経路とは相互に繋がって循環経路になり、
前記還流ユニットはさらに一つ以上の前記還流溝に接するボール排出通路を有し、一つ以上の前記ボール排出通路は前記還流ユニットの前記内側面および外側面を貫通し、一端が前記ナットの前記内側ねじ溝の無効な歯部エリアに繋がり、別の一端が前記ナットの前記ボール排出孔に繋がり、
複数の前記ボールは前記循環経路に転動可能に配置されることを特徴とする、
内循環式ボールねじ。
【請求項2】
前記還流ユニットは二つの前記ボール排出通路を有し、二つの前記ボール排出通路は互いに反対方向に伸びながらずれることを特徴とする、請求項1に記載の内循環式ボールねじ。
【請求項3】
前記ボール排出通路は入口および出口を有し、前記入口は前記還流ユニットの前記内側面に形成され、前記出口は前記ナットの前記ボール排出孔に繋がるように前記還流ユニットの前記外側面に形成されることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の内循環式ボールねじ。
【請求項4】
前記還流ユニットはさらに前記入口に接する凸状ガイド部を有することを特徴とする、請求項3に記載の内循環式ボールねじ。
【請求項5】
前記ナットは内周面に第一凹状溝を有し、
前記還流ユニットは前記内側面に第二凹状溝を有し、
前記第一凹状溝と前記第二凹状溝は相互に繋がって前記ボール排出通路の前記入口になり、前記ボール排出通路は出口を有し、前記出口は前記ナットの前記ボール排出孔に繋がるように前記還流ユニットの前記外側面に形成されることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の内循環式ボールねじ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ、特に内循環式ボールねじに関するものである。
【背景技術】
【0002】
内循環式ボールねじを小さいリードに対応させる際、
図1に示すように、二つの隣り合う還流溝2の壁が薄すぎることが原因で還流ユニット1を損壊させて効果を失うことを避けるために還流ユニット1の還流溝2を中断させる設計を採用することが一般的である。それ故、ボール3の装着作業を進める際、還流ユニット1の還流溝2以外の部位にボール3を落とさないように気を付けても、装着作業の最中に一部分のボール3は二つの隣り合う還流溝2の間の無効な歯部エリア4に転がり込んで無効なボール3’になることは抑制できない。無効な歯部エリア4内の無効なボール3’は取り出せないため、後続の作動に大きな抵抗が生じるだけでなく、付属品(ねじ軸またはナット)を摩損させてしまう。言い換えれば、従来の還流ユニット1にボール3を装着する作業に手間が非常にかかる。
【0003】
それに対し、特許文献1は駒部材の一つのアームに潤滑油を回収する回収口を配置し、駒部材の別のアームに回収された潤滑油を吐出する吐出口を配置することを掲示したが、該案の回収口および吐出口はボールの転動に用いるものでないため、無効な歯部エリアにボールが嵌まり込むという問題を解決することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は組立作業の効率の向上が実現できる内循環式ボールねじを提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するため、内循環式ボールねじはねじ軸、ナット、閉鎖ユニット、還流ユニットおよび複数のボールを備える。ねじ軸は外側ねじ溝を有する。ナットはねじ軸の軸方向に沿って移動できるようにねじ軸に装着され、内側ねじ溝を有する。ナットの内側ねじ溝とねじ軸の外側ねじ溝は相互に対応して負荷経路を構成する。ナットはさらに径方向に沿って内側ねじ溝に繋がる配置溝と、径方向に沿って配置溝に繋がるボール排出孔とを有する。還流ユニットはナットの配置溝に嵌まり込み、内側面に還流溝を有する。還流ユニットの還流溝はナットの内側ねじ溝に繋がることでねじ軸の外側ねじ溝との間が非負荷経路になる。非負荷経路と負荷経路とは相互に繋がって循環経路になる。複数のボールは循環経路に転動可能に配置される。還流ユニットはさらに還流溝に接するボール排出通路を有する。ボール排出通路は還流ユニットの内側面および外側面を貫通し、一端がナットの内側ねじ溝の無効な歯部エリアに繋がり、別の一端がナットのボール排出孔に繋がる。
【0007】
上述した構造特徴により、本発明による内循環式ボールねじの組立作業を進める最中、還流溝以外の部位に転がり込んだ無効なボールをボール排出通路からボール排出孔に転動させ、ボール排出孔からナットの外部へ排出することができる。すべてのボールの装着作業が終わった後、閉鎖ユニットでボール排出孔を閉じればよい。つまり、無効なボールがナットの内部に嵌まり込んで大きな抵抗を生じさせることが原因で付属品を摩損させてしまうという問題を解消することができる。
【0008】
比較的好ましい場合、還流ユニットは二つのボール排出通路を有する。二つのボール排出通路は互いに反対方向に伸びながら離れる。上述した構造特徴により、いずれか一つのボール排出通路に無効なボールを転がり込ませてナットの外部へ排出することができる。
【0009】
比較的好ましい場合、ボール排出通路は入口および出口を有する。入口は還流ユニットの内側面に形成される。出口はナットのボール排出孔に繋がるように還流ユニットの外側面に形成される。上述した構造特徴により、無効なボールは入口からボール排出通路に転がり込んで出口からボール排出孔まで転動することができる。
【0010】
比較的好ましい場合、還流ユニットはさらに入口に接する凸状ガイド部を有する。凸状ガイド部は無効なボールをボール排出通路に転がり込ませる。
【0011】
比較的好ましい場合、ナットは内周面に第一凹状溝を有する。還流ユニットは内側面に第二凹状溝を有する。第一凹状溝と第二凹状溝は相互に繋がってボール排出通路の入口になる。ボール排出通路は出口を有する。出口はナットのボール排出孔に繋がるように還流ユニットの外側面に形成される。上述した構造特徴により、無効なボールは入口からボール排出通路に転がり込んで出口からボール排出孔まで転動することができる。
【0012】
比較的好ましい場合、本発明による内循環式ボールねじはさらに閉鎖ユニットを備える。閉鎖ユニットはナットのボール排出孔内に装着されてボール排出孔を閉じる。
【0013】
本発明による内循環式ボールねじの詳細な構造、特徴、組み立てまたは使用方法は、以下の実施形態の詳細な説明を通して明確にする。また、以下の詳細な説明および本発明により提示された実施形態は本発明を説明するための一例に過ぎず、本発明の請求範囲を限定できないことは、本発明にかかわる領域において常識がある人ならば理解できるはずである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】周知の還流ユニットがナットに装着された状態を示す断面図の一部分である。
【
図2】本発明の第1実施形態による内循環式ボールねじを示す斜視図である。
【
図3】本発明の第1実施形態による内循環式ボールねじを示す分解斜視図である。
【
図4】本発明の第1実施形態による内循環式ボールねじを示す断面図である。
【
図5】本発明の第1実施形態による内循環式ボールねじの還流ユニットを上から見た斜視図である。
【
図6】本発明の第1実施形態による内循環式ボールねじの還流ユニットを下から見た斜視図である。
【
図7】本発明の第1実施形態による内循環式ボールねじにおいてねじ軸が省略された状態を横から見た断面図である。
【
図8】本発明の第1実施形態による内循環式ボールねじにおいてねじ軸および閉鎖ユニットが省略された状態を先端から見た断面図である。
【
図9】本発明の第1実施形態による内循環式ボールねじにおいて中空管の一端がボール排出通路に差し込まれた状態を先端から見た断面図である。
【
図10】本発明の第2実施形態による内循環式ボールねじにおいてねじ軸が省略された状態を示す断面図の一部分である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明による内循環式ボールねじを図面に基づいて説明する。なお、明細書および図面において、方向性用語は図面中の方向に基づいて表現される。同じ符号は同じ部品または類似した部品の構造特徴を示す。
【0016】
(第1実施形態)
図2および
図3に示すように、本発明の第1実施形態による内循環式ボールねじ10はねじ軸20、ナット30、閉鎖ユニット38、還流ユニット40および複数のボール50を備える。
【0017】
ねじ軸20は外周面に外側ねじ溝22を有する。外側ねじ溝22はねじ軸20の軸方向に沿って伸びるように形成される。
【0018】
ナット30はねじ軸20の軸方向に沿って移動できるようにねじ軸20に装着され、内周面に内側ねじ溝32と、径方向に沿って内側ねじ溝32に繋がる配置溝34とを有する。ナット30の内側ねじ溝32とねじ軸20の外側ねじ溝22は相互に対応して負荷経路52(
図4参照)を構成する。ナット30はさらに内周面および外周面を貫通するボール排出孔36を有する。ボール排出孔36は径方向に沿って配置溝34に繋がる。
【0019】
閉鎖ユニット38は嵌合方式、接着方式または別の方式によってナット30のボール排出孔36内に装着されてボール排出孔36を閉じる。
【0020】
還流ユニット40はナット30の配置溝34に嵌まり込む。
図5および
図6に示すように、還流ユニット40は内側面41に間隔を置いて配置された三つの還流溝43を有する。
図4に示すように、還流ユニット40の三つの還流溝43はナット30の内側ねじ溝32に繋がることでねじ軸20の外側ねじ溝22との間が非負荷経路54になる。非負荷経路54と負荷経路52とは結合して循環経路56になる。複数のボール50は循環経路56に転動可能に配置される。
図5および
図6に示すように、還流ユニット40は二つの隣り合う還流溝43の間に二つのボール排出通路44を有するが、これに限定されない。ボール排出通路44が一つ以上であればよい。二つのボール排出通路44はそれぞれ一端がナット30の内側ねじ溝32の無効な歯部エリア58(
図7参照)に繋がり、別の一端がナット30のボール排出孔36に繋がる。二つのボール排出通路44は互いに反対方向に伸びながら位置がずれて前後に配置される。それぞれのボール排出通路44は還流ユニット40の内側面41および外側面42を貫通し、入口45および出口46を有する。本実施形態において、入口45は還流ユニット40の内側面41に形成される。出口46は還流ユニット40の外側面42に形成される。
図5に示すように、還流ユニット40は内側面41に四つの凸状ガイド部47を有する。四つの凸状ガイド部47は一つずつ入口45に接するように配置される。
図7に示すように、無効な歯部エリア58はナット30とねじ軸20との間を循環するボール50の通らないエリアである。有効な歯部エリア59はナット30とねじ軸20との間を循環するボール50の通るエリアである。
【0021】
ボール50の装着作業を進める最中、ボール50が二つの隣り合う還流溝43の間の無効な歯部エリア58に転がり込むと無効なボール50’になる。上述した構造特徴により、
図7および
図8に示すように、無効なボール50’は凸状ガイド部47によって入口45からボール排出通路44に転がり込んで出口46からボール排出孔36まで転動することができる。続いて無効なボール50’をボール排出孔36からナット30の外部へ排出することができる。つまり、無効なボール50’が無効な歯部エリア58に嵌まり込むという問題を解消することができる。すべてのボール50の装着作業が終わった後、閉鎖ユニット38でボール排出孔36を閉じればナット30の外部の異物の侵入を防止することができる。
【0022】
図9に示すように、無効なボール50’をスムーズに排出するために、ボール排出通路44に中空管60を出口46から差し込む。続いて中空管60によってボール排出通路44に空気を吹き込むか吸気すれば無効なボール50’をナット30の外部に迅速に排出し、組立作業の効率を向上させることができる。
【0023】
(第2実施形態)
第1実施形態において、ボール排出通路44の入口45は還流ユニット40の内側面41に形成されるが、これに限定されない。
図10に示すように、第2実施形態において、ボール排出通路44の入口45はナット70と還流ユニット80との間に形成される。詳しく言えば、ナット70は内周面に第一凹状溝72を有する。還流ユニット80は内側面に第二凹状溝82を有する。第一凹状溝72と第二凹状溝82は相互に繋がってボール排出通路44の入口45になる。上述した構造特徴により、無効なボール50’を入口45からボール排出通路44に転がり込ませて外部へ排出することができる。
【0024】
上述した構造特徴により、本発明による内循環式ボールねじ10の組立作業を進める最中、無効な歯部エリア58に転がり込んだ無効なボール50’をボール排出通路44からボール排出孔36まで転動させ、ボール排出孔36からナット30の外部へ排出することができる。つまり、無効なボール50’が無効な歯部エリア58に嵌まり込んで大きな抵抗を生じさせることが原因で付属品を摩損させてしまうという問題を解消し、組立作業を向上させることができる。
【符号の説明】
【0025】
1:還流ユニット
2:還流溝
3:ボール
3’:無効なボール
4:無効な歯部エリア
10:内循環式ボールねじ
20:ねじ軸
22:外側ねじ溝
30:ナット
32:内側ねじ溝
34:配置溝
36:ボール排出孔
38:閉鎖ユニット
40:還流ユニット
41:内側面
42:外側面
43:還流溝
44:ボール排出通路
45:入口
46:出口
47:凸状ガイド部
50:ボール
50’:無効なボール
52:負荷経路
54:非負荷経路
56:循環経路
58:無効な歯部エリア
59:有効な歯部エリア
60:中空管
70:ナット
72:第一凹状溝
80:還流ユニット
82:第二凹状溝