(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】幅広スロットダイおよび幅広スロットダイの作動方法
(51)【国際特許分類】
B05C 5/02 20060101AFI20240529BHJP
B05C 11/10 20060101ALI20240529BHJP
B05D 1/26 20060101ALI20240529BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
B05C5/02
B05C11/10
B05D1/26 Z
B05D3/00 B
(21)【出願番号】P 2022537648
(86)(22)【出願日】2020-12-02
(86)【国際出願番号】 EP2020084277
(87)【国際公開番号】W WO2021122001
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-07-14
(31)【優先権主張番号】102019220151.2
(32)【優先日】2019-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】522241505
【氏名又は名称】エフエムピー テクノロジー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング フルーイド メジャーメンツ アンド プロジェクツ
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ベッツ,ジェラルド
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-164788(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0280443(US,A1)
【文献】特開2014-060014(JP,A)
【文献】特開2019-071222(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C5/00-21/00
B05D1/00-7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子を含んだ流体を塗布するための幅広スロットダイであって、
前記幅広スロットダイは、ダイ本体(2)を有し、前記ダイ本体(2)は、前記粒子を含んだ流体を受け入れるためのダイ内室(6)を備え、前記粒子を含んだ流体を、2つの壁によって囲まれるダイギャップ(7)を介して、前記幅広スロットダイに対して搬送方向(TR)に移動する基板(20)上に吐出することができ、
および、前記幅広スロットダイは、前記ダイギャップ(7)と、前記ダイ内室(6)内に位置し粒子を含んだ前記流体と、を振動させるために前記ダイ本体(2)に機械的に結合された振動装置(16)を有し、
前記ダイ本体(2)が機械的に固定される締結装置(10)は、減衰要素(14、15)を介して取り付けられ、
前記振動装置(16)は、前記ダイ本体(2)を最大1kHzの上限周波数で加振するように適合されることを特徴とする、
幅広スロットダイ。
【請求項2】
前記振動装置(16)が、少なくとも1Hzの下限周波数で前記ダイ本体(2)を加振するように適合されることを特徴とする、請求項1に記載の幅広スロットダイ。
【請求項3】
前記流体中に含まれる粒子の公称直径に対する前記振動装置(16)の機械的振幅が、0.1以上であることを特徴とする、請求項1または2に記載の幅広スロットダイ。
【請求項4】
前記振動装置(16)の機械的振幅が最大で5mmであることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の幅広スロットダイ。
【請求項5】
前記振動装置(16)の機械的振幅が、前記搬送方向(TR)に対応する前記ダイ本体(2)の横方向(q)に作用することを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の幅広スロットダイ。
【請求項6】
前記振動装置(16)の機械的振幅が、前記ダイ本体(2)の高さ方向(h)に作用することを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の幅広スロットダイ。
【請求項7】
前記粒子を含んだ流体が構造的に粘性であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の幅広スロットダイ。
【請求項8】
前記ダイギャップ(7)が、前記搬送方向(TR)に対して横方向に延びる幅方向(b)において10mm~5mの間の幅を有することを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の幅広スロットダイ。
【請求項9】
前記ダイギャップ(7)が10μm~2.5mmの間のスロット幅を有することを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の幅広スロットダイ。
【請求項10】
粒子を含んだ流体を塗布するための幅広スロットダイを作動させる方法であって、
前記幅広スロットダイは、ダイ本体(2)を有し、前記ダイ本体(2)は、前記粒子を含んだ流体を受け入れるためのダイ内室(6)を備え、前記粒子を含んだ流体を、2つの壁によって囲まれるダイギャップ(7)を介して、前記幅広スロットダイに対して搬送方向(TR)に移動する基板(20)上に吐出することができ、
および、前記幅広スロットダイは、前記ダイギャップ(7)と、前記ダイ内室(6)内に位置し粒子を含んだ前記流体と、を振動させるために前記ダイ本体(2)に機械的に結合された振動装置(16)を有し、
前記ダイ本体(2)が機械的に固定される締結装置(10)は、減衰要素(14、15)を介して取り付けられ、
前記方法は、前記ダイ本体(2)が最大1kHzの上限周波数で加振されるように、前記振動装置(16)を作動させるステップを含む、
方法。
【請求項11】
前記振動装置(16)が、少なくとも1Hzの下限周波数で前記ダイ本体(2)が加振されるように作動される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記振動装置(16)の機械的振幅が、前記流体中に含まれる粒子の公称直径に対して0.1以上であるように設定される、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記振動
装置(16)の機械的振幅が、最大で5mmに設定される、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子を含む流体を塗布するための幅広スロットダイ、およびそのような幅広スロットダイを作動させるための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック、アルミニウム、または紙で作られたフォイルなど、平らな基板をコーティングするために、接着剤、コーティング、または機能性媒体など様々な材料が、1μmから最大5mmまでの湿潤フィルム厚さで基板の表面全体に提供される。媒体を塗布するために、吹付け、スキージ、および浸漬法を使用することができる。別の方法は、いわゆるスロットダイコーティングである。この場合、コーティングされる媒体をポンプや圧力容器を用いて、いわゆるスロットダイ(スロットノズル)に供給する。スロットダイは、塗布される媒体をダイの幅全体に分散するように配置されている。そして、流体が、高精度のダイギャップ(スロットまたはノズルスロットとしても知られる)を通って出て、コーティングされる基板に塗布される。ダイギャップの幅は最大5mまで可能なので、このようなスロットダイは幅広スロットダイとも呼ばれる。スロットダイ方法は、いわゆる全面コーティング方法である。コーティング流体の塗布厚さは、ダイ内部の設計と質量連続性によって確保される。この方法は、製紙および包装産業、バッテリおよび燃料電池製造の分野、ならびに光学活性部品や電子部品の製造など、幅広い産業分野で使用されている。
【0003】
用途によって、コーティングに使用する媒体に粒子(固形物)が含まれていることがある。このような媒体の処理における1つの問題は、粒子の大きさに起因して、粒子が一般に、著しく凝集し、時には沈降する傾向があることである。このような挙動がある場合、幅広スロットダイに沈降ゾーンや凝集塊の沈積が発生することがある。凝集塊が流れによってダイギャップに入り込む場合、またはギャップの領域に直接沈着物が蓄積する場合、コーティング欠陥をもたらす。その結果、コーティングされる基板上の媒体の横方向と縦方向の分布が不均一になる。分布の均一性が不十分だったり、さらにはダイギャップが閉塞したりした場合、現状ではコーティングプロセスを中断し、ダイを洗浄する必要がある。これにより長い中断時間が生じ、製品の品質にもばらつきが生じる。
【0004】
DE 10 2009 017 453 A1号は、液体を噴霧するためのギャップダイを開示しており、これは噴霧される液体の異なる特性に適合させることができる。このギャップダイにより、粘度の異なる液体や固形分の異なる液体の処理が可能になる。そこで提案されたギャップダイは、中央の液体ギャップの両側に2つのスプレーエアギャップが配置され、それを介して液体を霧化するためのスプレーエアが吐出可能であり、櫛状の中間層として設計された構造が液体ギャップに配置されている。この構造は、液体ギャップの境界を定める2つの壁の間に配置され、中間層の歯は液体ギャップのオリフィスに向かって伸びている。このため、ギャップ幅を変えることができ、液体ギャップの境界を定める2つの壁の間に、異なる櫛状の中間層が配置される。固形分の多い液体の処理には、櫛状の中間層と攪拌を組み合わせ、1/100mmの攪拌振幅が最大として提案される。
【0005】
CA869959号は、超音波を利用してダイを振動させ、コーティング材を吐出するコーティング装置を提案している。これは、ダイギャップにゴミやコーティング材の凝集がない状態を保つ。低周波で機械的なたわみが大きいと、逆にコーティング材を含んだ容器が動き始めてしまい、コーティングの品質が低下することがあるので、超音波領域の振動を使用することが好ましい。ダイギャップはせいぜい0.5インチ以下、つまり約13mmの幅である。
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、粒子を含んだ流体を塗布するための幅広スロットダイ、および幅広スロットダイを作動させるための方法を提供することであり、これらは、ダイ内の粒子の凝集および沈降挙動をコーティング中に回避または低減できるように構造的および/または機能的に改良されている。
【0007】
これらの目的は、請求項1の特徴による幅広スロットダイ、および請求項11の特徴による幅広スロットダイの作動方法によって解決される。有利な実施形態は、従属請求項に示されている。
【0008】
本発明の第1の態様によれば、粒子を含んだ流体を塗布するための幅広スロットダイが提案される。粒子を含んだ流体は、コーティング流体とも呼ばれ、1種または複数種の異なる液体、例えば溶媒と、1種または複数種の異なる固体材料とを含んでいる。固体材料は、同じサイズおよび/または異なるサイズ、ならびに規則的および/または不規則な表面を有する粒子として流体に含まれている。液体、材料、粒子サイズ、および組成の選択は用途に依存する。
【0009】
幅広スロットダイは、ダイ本体を備え、ダイ本体は、粒子を含んだ流体(コーティング流体)を受け入れるためのダイ内室を備えている。ダイ本体は、特に、2つのダイ半部から形成されてもよく、ダイ内室は、ダイ半部の間に形成されている。また、ダイ本体は、2つのダイ半部に加えて、他の構成要素を備え得る。例えば、ダイ半部の間に所定の厚さの金属フォイルが配置される。ダイ内室は、断面で見たときにどのような形状であってもよく、ダイ内室は複数の室を備えてもよい。例えば、ダイ内室は、実質的に円形または涙滴形の断面を有し得る。また、それらの断面の組み合わせも提供することができる。断面において、ダイ内室の設計は変化する場合と、一定の場合がある。
【0010】
粒子を含んだ流体は、2つの壁で区切られたダイギャップを介して、幅広スロットダイに対して搬送方向に移動する平面基板上に吐出され得る。ダイギャップは、特にダイの半部の間に形成される。ダイ半部の間に金属フォイルを配置した場合、ギャップ幅は金属フォイルの厚みに起因し、したがって金属フォイルはダイフォイルとも呼ばれる。断面において、ダイギャップの設計は変化することもあれば、一定であることもある。ダイギャップの長さは一定であることが好ましい。粒子を含んだ液体は、ダイ内室を通って、ダイギャップに流れ込む。そこから流れ、いわゆるダイリップを出て、幅広スロットダイに対して相対速度を有する基板に塗布される。幅広スロットダイと基板との間の相対的な移動は、幅広スロットダイに対する基板の移動を含む。例えば、基板は、公知のリール・ツー・リール法でコーティングされてもよく、その結果、搬送方向への基板の移動がある一方で、幅広スロットダイは静止していてもよい。代替的または追加的に、幅広スロットダイを基板に対して相対的に移動させることも可能である。ここで、基板は、例えば、シートの形態で存在してもよく、この場合、ダイ本体と幅広スロットダイは基板に対して搬送方向に移動される。
【0011】
コーティングされる基板は、任意の材料または任意の材料の組み合わせで作ることができる。例えば、平らな基板は、プラスチック、アルミニウム、織物、または紙から作られたフォイルであることができる。
【0012】
ダイギャップの形状は、特定の用途向けに個別に設計される。ダイギャップの形状は、例えば、コーティング流体の種類および/または組成に依存し得る。さらに、基板へのコーティング流体の塗布速度や、ダイギャップを介して達成される圧力低下も、影響を及ぼすパラメータであり得る。特定の用途に依存して、ダイギャップの内側および外側リップのサイズおよび/または形状、ならびにダイギャップから内室への幾何学的な移行部を個別に設計することができる。
【0013】
幅広スロットダイは、ダイギャップと、ダイ内室に位置し粒子を含んだ流体(コーティング流体)とを振動させるために、ダイ本体に機械的に結合された振動装置をさらに備える。振動装置は、圧縮空気、油圧、または電気で動作させることができる。本発明によれば、振動装置は、ダイ本体を最大でも1kHzの上限周波数で加振するように適合される。
【0014】
質量慣性による機械振動を発生させる振動ユニットにより、本質的に静止状態にあるダイ本体とその幅広スロットダイおよびダイ内室内に位置するコーティング流体を振動させることができる。驚くべきことに、振動装置が超音波よりかなり低い周波数、特に最大でも1kHzの上限周波数で加振されると、流体中に含まれる粒子の凝集および沈降の傾向が確実に抑制されることが見出された。
【0015】
これは、流体中に含まれる粒子の凝集の発生が、特にダイ内室とダイギャップとの間の移行領域において、壁面への沈着をもたらすという観察に基づくものである。幅広スロットダイを一定期間使用すると、この部分の沈着物が、少なくとも部分的に、ダイギャップをダイ内室から塞ぐことになる。粒子の凝集体の発達は、重力場と、粒子が粒子同士および壁との間で経験する、流れの中の運動量交換が関係している。したがって、凝集体の形成は、局所的な流れの状態、複数の材料データと相互作用、粒子フラクションの特性、および周囲条件に依存し、予測することはできない。
【0016】
凝集および/または沈降の傾向を抑制するために、比較的低い周波数で作動する振動装置により、十分高い運動エネルギーを幅広スロットダイに導入し、したがって内部のコーティング流体に導入する。これにより、運動量交換を追加することで流体を安定させ、流れに連動して均質化することが可能になる。最大1kHzの周波数範囲での振動の結果、粒子の凝集を減少させること、またはダイギャップへの進入のために流れの中のせん断力の助けを借りてそれらを破壊することが可能である。凝集体の成長や沈降ゾーンの形成も同様である。このように、振動装置を用いることで、コーティングのプロセス安定性に影響を与えることなく、これらのエネルギー成分を増加させることが可能になる。その結果、コーティングを中断することなく、したがって安定した品質で行うことができる。
【0017】
1つの有用な実施形態において、振動装置は、少なくとも1Hzの下限周波数でダイ本体を加振するように適合されている。そのため、振動装置が使用する周波数範囲は1Hz~1kHzである。好ましい周波数範囲は60Hz~70Hzのオーダーである。選択された周波数は、幅広スロットダイの態様だけでなく、コーティング流体特性、特に粒子の特性(サイズおよび/または粒度分布)およびその濃度に依存し得る。流体中の粒子の密度差および、粒子自身とダイの内壁との間の付着力が、このプロセスを強く決定づける。適切な周波数は、コーティング流体の異なる種類および/または組成ごとに異なり得る。特定のコーティング流体に適した周波数は、特に実験によって見つけることができる。最適な周波数または周波数範囲に影響を及ぼし得る他のパラメータは、ダイ上の振動ユニットの位置、局所的な流れの状態、および幅広スロットダイで使用される塗布方法である。また、ダイギャップの形状も最適な周波数に影響を与え得る。
【0018】
別の有用な実施形態において、振動装置の機械的振幅は、流体中に含まれる粒子の公称直径に対して0.1以上である。特に、振動装置の機械的な振幅が最大で5mmである場合、有益である。粒度分布の場合、最大粒径に対する振幅を包括的に決定することができる。ここで、振幅は、振動装置の端から端までの全振動長(ピーク・トゥ・ピーク)と定義される。しかしながら、粒子フラクションの加振も目的を果たすことができるため、粒度分布範囲に対応したより小さな振幅の選択をプロセス原理の適用から除外するものではない。振動装置の機械的振幅は、幅広スロットダイの形状、取り付け、質量に強く依存する。特に、ダイ本体の振幅は、場所と周波数に依存する。また、ダイに対して移動する基板に欠陥なく塗布する必要があるため、適切な機械的振幅が制限される。適切な機械的振幅は、例えば、実験によって見つけることができる。
【0019】
以下のような配慮をすることができる。振動装置の機械的振幅は最大加速力に比例し、最大加速力は粒子に作用する力にほぼ比例する。加速度が高いほど、意図した効果が得られる。下式の基準は、重力加速度gに対する加速度の、次元のない(de-dimensioned)表現である。値100は適切な上限値と考えられる。
【数1】
加速度
【数2】
の式に関連して、
【数3】
とすると、振動装置の最大振幅の上限値を求めることができる。最大はsin=1または-1の場合の値で、最大加速度は
【数4】
である。ここで
【数5】
はピーク・トゥ・ピーク振幅の半分であり、fは振動装置が動作する周波数である。
【0020】
振動ユニットを使用することで、与えられた条件下で最大粒子サイズと選択可能なダイギャップとの間の係数を最小にすることが可能である。これにより、幅広スロットダイの均一な塗布を損なうことなく、より大きな粒子フラクションを使用することが可能になる。振動は流れの挙動を均一化し、流体状態を安定させるため、より良い処理およびプロセスの安定を可能にする。さらに、ダイの内面の製造時公差がフロープロセスに与える影響も、振動によって低減することができる。このように、導入された機械的振動によって、コーティング流体の湿潤フィルムの幅および長さにおける均一性を実現または最適化することができる。
【0021】
1つの有用な実施形態において、振動装置の機械的振幅は、基板の搬送方向に対応する方向でダイ本体に作用する。代替的または追加的に、振動装置の機械的振幅は、主流れ方向(すなわち高さ方向)およびさらにダイ本体に沿って(すなわちその幅方向)に作用し得る。1つまたは複数の空間方向に機械的な振幅を持つ振動は、流体中またはダイの内面における凝集体および/または沈降ゾーンの形成を低減または防止する。これにより、コーティング欠陥およびダイギャップの閉塞を防止することができる。
【0022】
別の有用な実施形態において、前述の幅広スロットダイを使用して、構造的に粘性のあるコーティング流体を基板に塗布する。ほとんどすべてのコーティング流体、特に粒子を含むものは、いわゆる構造-粘性挙動を示す。つまり、粘度は材料定数ではなく、圧力および温度に加えて、せん断およびせん断時間にも依存する。構造的粘性挙動に特徴的なのは、せん断の開始とともに粘度が減少していくことである。さらに、せん断に応じた粘度の経過も様々である。固有粘度が現れることもあるが、局所的な極大値や粘度の急激な上昇もあり得る。場合によって敏感なこの流体の挙動は、ダイ、特にダイ内面やダイリップの製造精度と相まって、幅広スロットダイ内の流体の横方向分布に悪影響を及ぼす可能性がある。振動装置の使用により、流体の均質化、安定化効果が備わる。これにより、例えば、ダイギャップの入口長や局所的な境界層が減少する。そのため、断面における流れの状態がより均質化される。そのため、用途に依存して、製造精度が均一な分布に与える影響を低減することができる。その結果、同じ製造精度で横方向の分布の改善が基本的に可能である。
【0023】
さらなる有用な実施形態によれば、ダイギャップは、搬送方向に対して横方向に延びる幅方向において10mm~5mの間の幅を有する。ダイギャップは、好ましくは、もっぱら直線的な、すなわち真っ直ぐな延びを有するが、例えば、搬送方向に対して横方向に延びる幅方向に湾曲することもできる。
【0024】
別の有用な実施形態において、ダイギャップは、10μm~2.5mmの間のスロット幅を有する。特にスロット幅は、コーティング流体に含まれる粒子の大きさに応じて選択される。粒子の公称直径は、選択したスロット幅よりも一般に小さくなければならない。理論的には、スロット幅が200μmの場合、最大粒子サイズは200μmとなる。しかしながら、実際には粒子を小さくしないと、すぐにダイは閉塞してしまうだろう。記載した振動ユニットにより、大きな粒子や高濃度の粒子に対する耐性を向上させることができる。
【0025】
別の有用な実施形態において、ダイ本体が機械的に固定される幅広スロットダイの締結装置が、減衰要素を介して取り付けられる。これにより、振動装置で発生した振動が、排他的にまたは主にダイ本体とその中に含まれるコーティング流体に対して所望の態様で作用できることが保証される。
【0026】
本発明の第2の態様によれば、1つまたは複数の実施形態による幅広スロットダイを作動する方法が提案される。この方法では、ダイ本体が最大1kHzの上限周波数で加振されるように振動装置が作動される。この方法は、本発明による装置に関連して上述したのと同じ利点を有する。
【0027】
1つの有用な実施形態において、ダイ本体は、少なくとも1Hzの下限周波数で加振される。
【0028】
別の有用な実施形態において、振動装置の機械的振幅は、流体中に含まれる粒子の公称直径に対して0.1以上となるように設定される。特に、振動装置の機械的な振幅は、最大でも5mmになるように設定される。
【0029】
本発明のさらなる特徴及び利点を、図面を参照して以下に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明による幅広スロットダイの断面図を示し、締結装置に取り付けられている。
【
図3】
図2の幅広スロットダイの線III-IIIに沿った断面図を示し、振動装置が幅広スロットダイに機械的に接続されている。
【
図4】
図2の幅広スロットダイの締結装置の部分断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1は、下方に配置された基板20に、粒子を含んだ流体を塗布するための本発明による幅広スロットダイ1を示す。基板20と幅広スロットダイ1との間の距離、および幅広スロットダイ1の構成要素は、描画の都合上、原寸に比例して描かれているわけではない。以下、この流体をコーティング流体と呼ぶ。幅広スロットダイ1の横には座標系が示され、qが幅広スロットダイ1の横方向、hが高さ方向、bが幅方向を示す。横方向qは、基板20の搬送方向TRに対応する方向に走る。幅方向bは、横方向と搬送方向TRに直交する幅方向とで規定される平面内を伸びる。
【0032】
コーティング流体は、1種または複数種の異なる液体、例えば1種または複数種の溶媒、および1種または複数種の粒子状固形物を含む。コーティング流体中の粒子の濃度、大きさ、密度、および形状が、本願によって選択される。よくある用途の例をこの記載の最後に示す。
【0033】
幅広スロットダイ1は、ダイ本体2を備え、このダイ本体2は、例えば2つのダイ半部3、4から形成されている。ダイ半部3、4の間には、ダイ内室6が形成されており、図示の断面図ではもっぱら例示的に円の形状である。ダイ半部3、4の間には、所定の厚さのダイフォイル5が配置されている。これは、ダイ本体2の下方領域における各ダイ半部3、4の対向壁7a、7b間のダイギャップ7のスロット幅を規定し、ダイ半部3、4とともにダイ内室6に位置する流体を取り囲む。ダイフォイル5には、幅方向bに必要なコーティング幅に対応するダイ内室6とダイギャップ7の凹部が形成されている。このようにダイギャップ7のスロット幅はダイフォイル5の厚さに対応している。用途に応じて、スロット幅は、ダイギャップの十分な圧力低下により幅広スロットダイが本質的に所望の均一な分配を可能にするように選択される。しかしながら、ダイの最小ギャップ幅は、流体中に存在する粒子によって制限される。この場合、スロット幅は、常にコーティング流体に含まれる粒子の粒径より少なくともわずかに大きい。好ましくは、ダイギャップ7は、10μm~2.5mmの間のスロット幅を有する。
【0034】
明示しない1つまたは複数の注入口を介して搬送されるダイ内室6内に位置するコーティング流体は、ダイギャップ開口部7Lを介して、幅広スロットダイ1に対して搬送方向TRに移動する基板20上に吐出可能である。基板20は、平坦な基板であり、例えば、プラスチック、アルミニウム、もしくは紙で作られたフォイルまたは別のコーティングされる材料である。基板20と、基板20のコーティングされる側に面するダイリップ9との間の距離は、数マイクロメートルから数センチメートルの間とすることができる。
【0035】
選択された用途に応じて、ダイギャップ7は、幅方向bに10mm~5mの間の幅を有し得る。
【0036】
ダイギャップ7の選択、本質的にはギャップ長(すなわち、内室から出口までの流体が必要とする長さ)およびギャップ幅は、コーティング流体と所望のプロセスおよび動作条件とに依存する。コーティング流体は、2つのダイリップ9と基板20との間の出口地点で塗布される。選択された動作地点に対して、主に粘性力によって生じる均一な分布を、幅広スロットダイにより達成可能である。得られる圧力低下の大部分は、ダイギャップ7を通過する流体によって生じ、これによりダイ本体に内側から大きな圧力がかかる。この圧力低下は、均一な分布を実現するために特に調整されるが、ダイ本体の材料の弾性値によって技術的に制限されている。そのため、粘度が高すぎるとダイギャップがたわみ、結果的に均一な分布に影響を与えることになる。
【0037】
ダイ本体2は、締結装置10に機械的に接続されている。締結装置10は、第1の保持要素11と第2の保持要素12とを備えている。第1の保持要素11は、保持延長部11Fを有する。第2の保持要素12は、それに対応する係合延長部12Fを有する。第2の保持要素12は、例えば、ダイ半部4に機械的に接続されている。係合延長部12Fを介して、ダイ本体2が取り付けられた第2の保持要素を、第1の保持要素11と係合させることができる。第1及び第2の保持要素11、12は、係合延長部12F及び保持延長部11Fをクランプする固定要素13を介して互いに機械的に接続されている。したがって、図示された保持装置は、いわゆるダブテールとしてもっぱら例示的に設計されている。実際にどの保持装置が選択されるかは、これ以上詳しくは規定されていない。
【0038】
後で詳述する振動装置16によって第2の保持要素12から第1の保持要素11に振動が伝わらないように、第1の保持要素11と第2の保持要素12との間に減衰要素14が設けられ、第2の保持要素12と固定要素13との間に減衰要素15が設けられる。
【0039】
図1に示す幅広スロットダイ1の異なる詳細を示す
図2~4のそれぞれにおいて、ダイ本体2に機械的に結合された振動装置16が示されている。ダイ本体2のダイギャップ7と反対側の面に、例えば圧縮空気、油圧または電気で作動する振動装置16が配置されている。機械的な取り付けは、例えばネジ等を用いて行うことができる。
【0040】
振動装置16は、ダイ本体2、ひいてはダイギャップ7およびダイ内室6に配置されたコーティング流体を振動させるように適合されている。振動装置16は、主にダイ本体2の横方向qおよび高さ方向hに機械的振幅を発生させるように設計されている。代替的または追加的に、振動装置によって、ダイ本体2の幅方向bに機械的振幅を発生させることもできる。好ましくは、振動装置16は、機械的振幅が横方向qと高さ方向hの両方に作用するように適合され、作動される。
【0041】
振動装置16の機械的振幅は、流体中に含まれる粒子の公称直径に対して0.1以上である。好ましくは、振動装置16の機械的振幅は最大で5mmである。粒度分布の場合、最も大きな粒径に対して振幅を決定することができる。しかしながら、これは粒度分布範囲に対応したより小さな振幅の選択をプロセス原理の適用から除外するものではない。粒子フラクションの加振が等しく目的を果たすことができるからである。この場合、振動装置は1Hz~1kHzの範囲の周波数で作動され得る。用途に最適な周波数と正確な機械的たわみは、多数のパラメータに依存する。幅広スロットダイ1の形状や材質、ダイ内室6やダイギャップ7の形状、コーティング流体やその流れがすべて関係している。ダイギャップ開口部7Lの塗布地点と2つのダイリップ9は、通常、コーティングの間コーティング流体で濡れている。基板20の相対速度との相互作用において、これはダイリップ9との接触により囲まれたダイギャップの上流に流体不確定を生じ、また加振されるため、プロセスも決定する。
【0042】
振動装置16は、機械的な振幅により、ダイ本体2およびコーティング流体に運動エネルギーを導入する。これにより、追加の運動量交換によって流体を安定させ、流れに関連して均質化させることが可能になる。さらに、コーティング流体に含まれる粒子の凝集を分解し、ダイ内室6内の沈降ゾーンを回避することができる。同様に、導入した運動エネルギーにより、粒子の凝集成長を回避することができる。このように、振動装置16によって、コーティングプロセスのプロセス安定性に大きな影響を与えることなく、運動エネルギー成分を増加させることが可能である。
【0043】
図3および
図4はそれぞれ、
図2の幅広スロットダイ1の異なる部分断面を示す。
図3はダイ本体2の断面を示す一方(ダイギャップ7はこの表現では明示的に示されていない)、
図4は締結装置10の部分断面を示し、ダイ本体2は切断されていない状態で示されている。
【0044】
幅広スロットダイ1によるコーティング流体の均一な全面塗布のプロセスの技術的な基礎は、ダイギャップ7で発生する圧力低下である。圧力低下は、基本的には、ダイギャップ7、ダイ内室6とダイギャップ開口部7Lとの接続、およびダイギャップ開口部7Lからのコーティング流体の出口地点によって発生する。基板20上に十分に均一に分布させるための圧力低下は、その厚みが出口ギャップのスロット幅、すなわちダイギャップ開口部7Lに相当する、ダイフォイル5を選択することで達成することができる。基本的に、圧力低下は、圧力による幅広スロットダイ1の機械的たわみによって制限される。
【0045】
十分に大きな圧力低下を達成し、したがって基板20上に生成される層の良好な横方向分布または均一性を達成することは、所望の塗布速度、コーティング流体の材料特性、および決定的なことにダイギャップパラメータの間の関係からもたらされる。振動ユニット16を用いることで、粒子サイズをダイギャップに対してより大きく選択することができる。そのため、粒子を備えるコーティング流体のためにギャップ厚をより小さく選択することが可能である。幅広スロットダイは、実現可能な湿潤膜厚の範囲を広げることができる。また、振動ユニットの使用は、コーティング流体の均質性の安定に影響し、実現可能な処理速度の範囲を拡大する。この振動は、ダイギャップ内の境界層の形成と特徴に均質化の影響を与え、これは幅広スロットダイのダイギャップのプロセス安定性と製造精度に関連して有利である。このため、圧力低下の影響に加え、導入された機械的振動によって、基板上の湿潤膜の幅と長さの均質性を最適化することができる。
【0046】
流れの周波数を超音波領域ではなく、それより十分に低い周波数、好ましくは1kHzを上限として設定することにより、基板20へのコーティング流体の最適な塗布を実現できることが分かっている。設定された周波数は、特に適切に選択された機械的振幅と関連して、ダイ本体2への運動エネルギーの伝達を可能にする。これは、コーティング流体の運動量交換を改善することを可能にし、したがって流れとの相互作用において均質化および安定化効果を有する。この挙動により、沈降ゾーンを減少させることが可能になり、および/または、流れのせん断力の支援により、粒子凝集体を分解すること、またはダイギャップ7への進入のためにその形成を防止することが可能となる。
【0047】
上記のダイは、様々な用途に使用することができる。好ましくは、幅広スロットダイは、可能な限りすべてのプロセスおよび動作条件に適合される。例えば以下のような用途が可能である。
【0048】
バッテリ製造:
乾燥機内蔵型のリール・ツー・リール装置を使用して、スラリーを厚さ約100μmの薄い銅およびアルミフォイルにコーティングする。基板を形成する銅/アルミニウムフォイルをローラの上を通過させる。幅広スロットダイを、アプリケータによってローラに対して、例えばいわゆる9時の位置に配置し、そこで幅広スロットダイをコーティングローラの水平方向および中央に配置する。この距離は湿潤フィルムの厚さの約2倍であり、ローラの同心度、ダイリップおよび基板の公差に高い要求がある。水または溶剤、様々な粒子サイズ範囲のカーボン粒子、結合剤、粘度調整剤、およびバッテリ機能のための活性材料を含むバッテリスラリーが塗布される。流体の固体質量分率は、通常、30%から60%の範囲である。生産速度は約10m~100m/分(ウェブ速度)である。
【0049】
エポキシ樹脂UVコーティング用途:
コーティング台を使用してシートと呼ばれる基板にコーティングを施す。ダイはアプリケータに垂直に取り付けられ、コーティング流体が下向きに吐出される。幅広スロットダイの移動にロボットアームを使用することもできる。基板材料はプラスチックフォイルまたはガラスである。湿潤フィルムの厚さは10μmの範囲にある。コーティング媒体は、樹脂、時に揮発性有機溶剤、そしてしばしば粒子状フラクション、例えば光学機能性コーティング剤を含んでいる。処理は順次行われ、例えばUVランプによるUVコーティングの場合、乾燥は乾燥機を使用せずに薄層を通して起こる。生産速度は、基板に対するダイの相対速度が0.01~5m/分の範囲である。用途の公差に対する要求は、時に非常に高い。
【0050】
カーテン用途:
幅広スロットダイが基板のごく近くで直接コーティングする方法に加えて、幅広スロットダイを高流量で動作させ、出口開口部にカーテンを形成することもできる。このカーテンは、液体の均一な薄い落下膜である。カーテンを通り抜ける基板にカーテンを落下させる。10cmを超える距離も可能である。この方法の特徴は、カーテン形成により可能な速い基板速度と、良好な横方向分布特性である。50μm以上の範囲の湿潤フィルム厚さが可能である。カーテンの形成と安定性は、流体パラメータによって決定される。
【符号の説明】
【0051】
1 幅広スロットダイ
2 ダイ本体
3 ダイ半部
4 ダイ半部
5 ダイフォイル(フォイル)
6 ダイ内室
7 ダイギャップ
7a 壁(ギャップの内壁)
7b 壁(ギャップの内壁)
7L ダイギャップ開口部
9 ダイリップ
10 締結装置
11 第1の保持要素
11F 保持延長部
12 第2の保持要素
12F 係合延長部
13 固定要素
14 減衰要素
15 減衰要素
16 振動装置
20 基板
TR 搬送方向
b 幅方向
q 横方向
h 高さ方向