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特許7496000炭素前駆体粒子及び二次電池負極用炭素質材料の製造方法
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  • 特許-炭素前駆体粒子及び二次電池負極用炭素質材料の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】炭素前駆体粒子及び二次電池負極用炭素質材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/05 20170101AFI20240529BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20240529BHJP
【FI】
C01B32/05
H01M4/587
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022570072
(86)(22)【出願日】2021-12-17
(86)【国際出願番号】 JP2021046723
(87)【国際公開番号】W WO2022131361
(87)【国際公開日】2022-06-23
【審査請求日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2020209212
(32)【優先日】2020-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】園部 直弘
(72)【発明者】
【氏名】小松 真友
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-181348(JP,A)
【文献】国際公開第2019/235586(WO,A1)
【文献】特開2015-207428(JP,A)
【文献】特開2008-305661(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00 - 32/991
H01M 4/587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物粒子を酸化して炭素前駆体粒子を製造する方法であって、
回転軸と前記回転軸に設けられた撹拌翼とを備えた撹拌手段を有する反応容器を用いて、前記反応容器に平均粒子径1~100μmの有機物粒子を含む原料を入れること、
前記撹拌手段により前記原料を撹拌しながら、前記反応容器の中へ酸化性ガスを導入して、前記有機物粒子の酸化処理を行うこと、
前記酸化処理において、前記反応容器の中の前記原料を150℃以上の温度で処理するとともに、最高到達温度が180~350℃であるように温度を制御すること、
を含む、炭素前駆体粒子の製造方法。
【請求項2】
前記撹拌翼の前記回転軸と水平面とのなす角度は、60度以上90度以下である、請求項1に記載の炭素前駆体粒子の製造方法。
【請求項3】
前記反応容器の内面と前記撹拌翼の表面とが離隔しており、前記内面と前記表面とが最も近接した離隔距離が50mm以下である、請求項1又は2に記載の炭素前駆体粒子の製造方法。
【請求項4】
前記有機物粒子の有機物は、石油ピッチ又は石炭ピッチである、請求項に記載の炭素前駆体粒子の製造方法。
【請求項5】
前記炭素前駆体粒子は、難黒鉛化性炭素前駆体粒子である、請求項に記載の炭素前駆体粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項に記載の炭素前駆体粒子を用いて、非酸化性ガス雰囲気中の1000~1400℃の温度で熱処理して炭素質材料を製造する工程を含む、二次電池負極用炭素質材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素前駆体粒子の製造方法と、当該炭素前駆体粒子を用いた二次電池負極用炭素質材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題への関心の高まりから、エネルギー密度が高く、出力特性の優れた大型の二次電池が、電気自動車(xEV)等に搭載されている。車載用二次電池には、非水溶媒リチウム二次電池であるリチウムイオン二次電池が使用され、負極材料としては、高容量で耐久性の観点で炭素質材料が使用されている。
【0003】
炭素質の負極材料は、一般に、炭素前駆体粒子を焼成することによって製造される。当該炭素前駆体粒子としては、酸化ピッチを粉砕して得られた粉末状の酸化ピッチが使用される。ピッチは、加熱によって溶融し、易黒鉛化性炭素を形成する。他方で、ピッチは、酸化されると、架橋構造が形成され、熱に対し不融となり、難黒鉛化性炭素の前駆体となる。ピッチの酸化度合を制御することにより、炭素前駆体としての構造を制御することができる。ピッチの酸化は、酸化性ガス雰囲気中で加熱することによって行われる。この際、ピッチを溶融させることなく酸化させる必要があり、そのためには、酸化速度、酸化発熱による温度上昇、そしてピッチの軟化を考慮しつつ、精密な温度制御が必要となる。
【0004】
ピッチを均一に酸化させる場合、粒子と酸化性ガスとの接触面積を大きくし、粒子内部まで均一に酸化性ガスを拡散させるという観点から、粒子径が小さいほど有利である。そのため、ピッチを細かく粉砕して粉末状のピッチを形成し、これを酸化することが考えられる。工業プロセスにおいて気-固反応を均一に行うには、流動層反応装置を用いるのが一般的である。流動層反応装置により粉末状のピッチに酸化処理を施す場合、流動層内で当該ピッチを均一に流動させることが必要である。粒子径が小さいほど流動層形成のためのガス流量が減少し、層内のガスが偏流し、流動が不均一になり易い傾向にある。流動が不十分な領域では、酸化発熱に伴う熱の徐熱が不十分になり、流動層内の温度が局部的に上昇する。この温度上昇に伴い前記ピッチが溶解し、粒子同士が融着して粒子径が増大し、粒子の流動がさらに不均一になる。それらの状態が進行すると、前記の融着した粒子内の徐熱がさらに不十分となり、熱暴走するに至る恐れがあるという問題がある。
【0005】
これらの課題を解決する手段として、従来、粉末状酸化ピッチの調製方法は、特許文献1の段落[0058]に記載されたような方法が知られている。この調製方法は、石油系または石炭系のピッチに添加剤を加え、球状化して、添加剤を含むピッチ成形体を得た後、当該ピッチ成形体から当該添加剤を溶剤で抽出除去して、球状の多孔質ピッチを調製する。そして、当該多孔性ピッチに加熱酸化(不融化)処理を施して酸化ピッチを得た後、粉砕することにより粉末状の酸化ピッチを製造するものである。このような製造方法は、原料ピッチから球状の多孔性ピッチを調製する必要があり、そのために多くの複雑な工程が含まれる。
【0006】
そのほかに、粉末状ピッチを酸化処理して酸化ピッチ粒子を得る方法としては、例えば、特許文献2の段落[0028]に転動式の炉を用いる方法が開示され、特許文献3の段落[0049]に回転炉を用いる方法が開示されている。しかし、これらの転動式の炉や回転式の炉によってピッチ粒子を酸化する方法は、炉内におけるピッチ粒子の運動が遅いため、粒子同士を融着させる恐れがある。さらに、ピッチ粒子が炉の回転にともない炉の側壁面に沿って持ち上げられる一方で、炉内を流通する酸化性ガスは、炉の中心付近を主に流れるため、ピッチ粒子と酸化性ガスとの接触効率が低くなる。
【0007】
また、酸化処理されるピッチ粒子が少量であれば、平板の上に広げて、空気中で加熱酸化することにより、粉末状の酸化ピッチが得られる。しかし、ピッチ粒子を配置する平板の大きさには限界がある。さらに、処理量を増大させるためにピッチ粒子の層を厚くすると、酸化反応の自己発熱により粒子層内に蓄熱されるので、酸化処理の制御が困難であり、条件によっては熱暴走して燃焼に至る恐れもある。
【0008】
以上のことから、粉末状の酸化ピッチなどの炭素前駆体粒子を少ない処理工程で短時間に製造することができる方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2016/021736号
【文献】特開平10-32004号公報
【文献】特開2016-13948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、有機物粒子を酸化して炭素前駆体粒子を製造する方法において、少ない処理工程で短時間に製造できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、撹拌翼を備えた撹拌手段を有する反応容器を用いて、当該反応容器の中に入れた原料の有機物粒子を撹拌しながら、当該反応容器内へ酸化性ガスを導入することにより、当該有機物粒子が短時間で酸化されて、効率良く炭素前駆体粒子を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は、下記(1)~(6)の態様を包含する。
【0012】
(1)有機物粒子を酸化して炭素前駆体粒子を製造する方法であって、回転軸と当該回転軸に設けられた撹拌翼とを備えた撹拌手段を有する反応容器を用いて、前記反応容器に平均粒子径1~100μmの有機物粒子を含む原料を入れること、前記撹拌手段により前記原料を撹拌しながら、前記反応容器の中へ酸化性ガスを導入して、前記有機物粒子の酸化処理を行うこと、前記酸化処理において、前記反応容器の中の前記原料を150℃以上の温度で処理するとともに、最高到達温度が180~350℃であるように温度を制御すること、を含む、炭素前駆体粒子の製造方法。
【0013】
(2)前記撹拌翼の回転軸と水平面とのなす角度は、60度以上90度以下である、前記(1)に記載の炭素前駆体粒子の製造方法。
【0014】
(3)前記反応容器の内面と前記撹拌翼の表面とが離隔しており、前記内面と前記表面とが最も近接した離隔距離が50mm以下である、前記(1)又は(2)に記載の炭素前駆体粒子の製造方法。
【0015】
(4)前記有機物粒子の有機物は、石油ピッチ又は石炭ピッチである、前記(1)~(3)のいずれかに記載の炭素前駆体粒子の製造方法。
【0016】
(5)前記炭素前駆体粒子は、難黒鉛化性炭素前駆体粒子である、前記(1)~(4)のいずれかに記載の炭素前駆体粒子の製造方法。
【0017】
(6)前記(1)~(5)のいずれかに記載の炭素前駆体粒子を用いて、非酸化性ガス雰囲気中の1000~1400℃の温度で熱処理して炭素質材料を製造する工程を含む、二次電池負極用炭素質材料の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、有機物粒子が酸化されて、炭素前駆体粒子を少ない処理工程で短時間に製造することができるので、当該炭素前駆体粒子を効率的に量産する製造方法を提供することができる。本発明の製造方法によって得られた当該炭素前駆体粒子は、非水電解質二次電池及び固体電池等における負極用炭素質材料を作製するための原料として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態に係る製造装置の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、本明細書において、「X~Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0021】
1.炭素前駆体粒子の製造方法
本実施形態は、有機物粒子を酸化して炭素前駆体粒子を製造する方法であり、その特徴は、次の事項を含むことにある。
回転軸と当該回転軸に設けた撹拌翼とを備えた撹拌手段を有する反応容器を用いて、前記反応容器に平均粒子径1~100μmの有機物粒子を含む原料を入れること。
前記撹拌手段により前記原料を撹拌しながら、前記反応容器の中へ酸化性ガスを導入して、前記有機物粒子の酸化処理を行うこと。
前記酸化処理において、前記反応容器の中の前記原料を150℃以上の温度で処理するとともに、最高到達温度が180~350℃であるように温度を制御すること。
【0022】
<有機物粒子>
原料である有機物粒子における有機物は、例えば、石油ピッチ又は石炭ピッチを使用することができる。当該ピッチを粉砕して、粒子状のピッチを作製し、それを原料とすることができる。
【0023】
有機物粒子を含む原料は、反応容器の中に入れて、撹拌しながら所定の酸化処理が施される。有機物粒子を含む原料は、撹拌されて流動させると、有機物の高分子同士が擦れ合うことで発生した静電気により、有機物粒子の流動が妨げられる場合がある。原料には、有機物粒子に加えて、静電気の発生を防ぐため、カーボンブラックなど導電性の微粒子を混合してもよい。なお、本明細書では、「有機物粒子を含む原料」を、単に「有機物粒子」または「原料」ということもある。また、当該原料が反応容器内に蓄えられた形態を「粒子層」ということもある。
【0024】
反応容器の中に装入されて蓄えられた原料は、平均粒子径が1~100μmである有機物粒子を含む。本実施形態に係る平均粒子径(μm)は、粒径分布において累積容積が50%となるDV50(μm)をいう。炭素前駆体粒子を得るために、反応容器の中で有機物粒子と酸化性ガスとを混合し、有機物粒子の内部へ酸素を拡散させる必要がある。有機物粒子の平均粒子径が100μmを超えると、有機物粒子の内部まで十分に酸素を拡散させられない恐れがある。有機物粒子の平均粒子径は100μm以下が好ましく、さらに好ましくは50μm以下、または30μm以下である。当該平均粒子径が1μm未満であると、有機物粒子が軽くて酸化性ガスによって飛散し易い。その飛散を避けるため、酸化性ガスの導入量を低減する必要があり、その結果、酸化処理の効率が低下する。有機物粒子の平均粒子径は1μm以上が好ましく、さらに好ましくは2μm以上、または3μm以上である。よって、酸化処理される有機物粒子の平均粒子径は、1~100μmであることが好ましい。
【0025】
有機物粒子を構成する有機物は、炭素前駆体となるものであれば、特に限定されない。例えば、石油系ピッチ、石炭系ピッチ、又は熱可塑性樹脂(例えば、ポリアクリロニトリル、スチレン/ジビニルベンゼン共重合体、アクリロニトリル/スチレン/ジビニルベンゼン共重合体、)、熱硬化性樹脂(例えば、ポリイミド、フラン樹脂、フェノール樹脂、セルロース樹脂)を挙げることができる。
【0026】
有機物粒子を調製する方法としては、公知の粒子製造方法を使用することができる。例えば、石油系又は石炭系のピッチ等を破砕し、所定の平均粒子径DV50の範囲のピッチ粒子を形成することができる。粉砕に用いる粉砕機は、特に限定されるものではない。例えば、ジェットミル、ロッドミル、振動ボールミル、又はハンマーミルなどを用いることができる。
【0027】
有機物粒子は、攪拌混合により粒子同士の摩擦により静電気が発生し、有機物粒子が凝集することがある。その場合、有機物粒子に導電性粒子を混合しても良い。導電性粒子としては、カーボンブラックや炭素質材料の微粒子などが好ましい。
【0028】
<反応容器>
本実施形態に係る製造方法は、反応容器に有機物粒子を含む原料を入れることを含む。本明細書では、当該「入れる」の語句を「装入する」と記載することもあり、当該原料を「装入された原料」のように記載することもある。当該反応容器は、原料を蓄えるのに必要な容積を有している。また、反応容器の形状は、円筒状、円錐状、球状などの形状を有するものであればよい。回転する撹拌手段によって容器内の原料を流動させることから、原料の流動性及び撹拌手段の撹拌作用を高める観点で、容器の内面に曲面を有する構造が好ましい。例えば、円筒状または円錐状の反応容器の場合、その内面は、曲面状の側面と、平面状の底面とより構成されている。球状の反応容器の場合、曲面状の内面によって構成されている。原料粒子が曲面に沿って流動するので、原料粒子の滞留が抑制される。
【0029】
反応容器の断面を見た場合、断面における内面の形状が真円であることが好ましい。本実施形態における反応容器の「断面」とは、底面を有する容器の場合は、当該底面に平行な位置における断面を意味する。球状容器の場合は、断面の位置は限られない。
【0030】
本実施形態に係る製造方法を使用される製造装置の一例を図1に示す。図1の製造装置は、反応容器1と、撹拌機2と、チョッパー3と、冷却水供給機4と、バグフィルター5と、ガス排出配管6を備えている。
【0031】
<被処理物の反応容器への供給と排出手段>
反応容器1は、上蓋105と、被処理物の排出口106と、観察窓107と、ガス導入口108とを備えている。原料10は、前記上蓋105を開けて反応容器1へ供給され、反応容器1の中に蓄えられる。当該原料10に所定の酸化処理が施された後、被処理物は、前記排出口106を通して排出される。被処理物の排出に際しては、例えば、反応容器の側壁103と排出口106との間に設置された仕切り(図示しない。)を開けた後、撹拌翼202をゆっくり回転させることにより被処理物を排出することができる。反応容器1の内面に付着した被処理物は、上蓋105を開放して回収することができる。また、反応容器1内の原料10の状態は、上蓋105に設けられた観察窓107を通して確認することができる。
【0032】
<攪拌手段>
前記撹拌機2は、回転軸201と、当該回転軸201に装着された撹拌翼202と、回転軸201を駆動するモーター203とを有しており、反応容器1の中に装入された原料10を撹拌して混合する手段である。撹拌翼202の回転により撹拌流17が形成されて原料10が流動する。
【0033】
反応容器は、その内部に、回転軸と当該回転軸に設けられた撹拌翼とを備えた撹拌手段を有する。図1に示すように、撹拌翼202は、回転軸を中心にして周囲に延びている。本明細書では、撹拌翼202の最外部に位置する部分を先端部204といい、回転中心から当該先端部へ延びる部分のうち、反応容器の底面102に対向する部分を下端部205という。撹拌翼202を反応容器1の内面に接触させないため、前記反応容器の内面である側面101及び底面102と前記撹拌翼202の表面とが離隔している必要がある。具体的には、撹拌翼の先端部204の表面と反応容器の側面101との間、及び、撹拌翼の下端部205の表面と反応容器の底面102との間に、それぞれ一定の距離を空けて、両者を離隔させる必要がある。他方、そのように離隔させた距離が過大であると、反応容器の内面付近の原料にまで撹拌翼の作用が十分に及ばないため、原料の流動状態が不足する。その結果、反応容器内に原料粒子が滞留する領域が生じることにより、粒子の塊が解砕されず、粒子同士の部分的な融着を招く恐れがある。粒子同士が融着して大きな融着物が形成されると、粒子個々に酸化性ガスとの接触が阻害されて、良好な品質の炭素前駆体粒子が得られない。その観点で、反応容器の内面と撹拌翼の表面とが最も近接した離隔距離は、50mm以下に設定することが好ましく、30mm以下であってもよい。
【0034】
反応容器の上記の「内面」には、反応容器の側面や底面が含まれる。反応容器が円筒形状または円錐形状のように底面を有する態様では、反応容器の側面または底面と撹拌翼の端部とが離隔した距離を上述した範囲に設定することが好ましい。球状容器のように内面全体が曲面からなる態様においては、撹拌翼の端部と容器の内面とが離隔した距離を上述した範囲に設定することが好ましい。
【0035】
本実施形態に係る撹拌機は、回転軸と当該回転軸に設けられた撹拌翼とを備えている。撹拌翼の形状は、特に限定されない。既存の形状の撹拌翼を使用することができる。例えば、回転軸に垂直に羽根板が取り付けられたパドル翼、ディスクタービン翼、湾曲翼、ファウドラー翼など、又、翼に傾斜角を付けた傾斜パドル翼やプロペラ翼等を選択できる。モーターなどの駆動手段によって回転軸が駆動されて、撹拌翼が回転することにより、反応容器内に装入された原料が撹拌される。また、原料の有機物粒子が反応容器の底面に沈積する傾向にあることから、沈積した粒子層を十分に撹拌するため、撹拌翼は、図1に示すように、撹拌翼の下端部が、当該底面と平行な形状であることが好ましい。
【0036】
撹拌翼の配置については、反応容器を水平面に設置したとき、撹拌翼の高さの中心が容器の高さの半分より下方に位置することが好ましい。反応容器内の下方領域で撹拌翼が回転しているので、下方領域へ沈降した粒子の塊を効率良く解砕できる。
【0037】
撹拌機の回転軸は、反応容器の断面の中心を通って当該断面に対して垂直方向に延びる形態であることが好ましい。このような形態を備えることにより、撹拌翼が反応容器の内面との間で一定の距離を離隔した状態で回転するので、原料の全体を満遍なく均質に撹拌することができる。その結果、個々の粒子が流動する良好な混合状態が維持されるので、粒子層内に粒子の凝集した塊が形成されることが抑制される。粒子同士が融着したり、粒子が凝集した塊が形成されたりしても、直ちに解砕されるので、粒子融着の連鎖に起因して生じる熱暴走を抑制できる。また、粒子の流動状態が維持されるので、粒子に酸化性ガスが適度に接触して、効率良く酸化処理を進めることができる。
【0038】
反応容器の底面を水平面と平行になるように反応容器が設置された形態においては、反応容器の断面に対して垂直方向に延びる回転軸は、水平面に対しても垂直方向すなわち鉛直方向に配置されている。よって、回転軸と水平面とのなす角度は、90度に相当する。この場合、原料に対する重力の向きは、回転途中の原料全体で略同じであるから、原料を均質に流動させることができる。また、粒子同士が凝集した塊は、凝集していない粒子に比べて重いので、撹拌中に沈降して、下方に位置する撹拌翼に接する。それにより、粒子の塊を効率良く解砕することができる。
【0039】
また、本実施形態は、反応容器を水平面上に配置する形態に限られない。反応容器を傾けて撹拌翼の回転軸と水平面のなす角度が90度未満の場合であっても、撹拌手段の回転軸が反応容器の断面に対して垂直方向を保持されているので、撹拌翼は、反応容器の内面との間で一定の離隔距離が維持されて回転する。そのため、原料の全体を均質に流動させるのに必要な撹拌作用が得られる。また、原料に対する重力の向きは、回転途中において大きく変わらないので、粒子の塊が下方へ沈降して撹拌翼によって解砕され、良好な撹拌効率が維持される。他方、反応容器を傾ける角度が過大であると、原料の粒子層の外に撹拌翼が飛び出る割合が増加して、原料が撹拌翼に接触する割合が減るため、撹拌効率の低下を招く。以上のことから、撹拌翼の回転軸と水平面とのなす角度は、60度以上90度以下であることが好ましい。角度の下限は、70度以上または80度以上であってもよい。
【0040】
また、撹拌翼による撹拌手段を補助する手段として、回転軸に複数枚のチョッパー羽根が取り付けたチョッパー3を反応器の側面に付帯してもよい。前記チョッパー3とは、回転軸301に直交して複数枚のチョッパー羽根302が取り付けられた構造を備えた撹拌手段である。駆動手段であるモーター303によって回転軸301及びチョッパー羽根302が回転する。チョッパー羽根302の回転によって、原料10を撹拌したり、粒子の塊を解砕したりする作用を有しているので、撹拌翼202による撹拌手段2を補助するために付帯することができる。チョッパーは凝集した粒子の解砕に有効である。
【0041】
<酸化処理手段>
本実施形態に係る製造方法は、撹拌手段により原料を撹拌しながら、前記反応容器の中へ酸化性ガスを導入して、前記有機物粒子の酸化処理を行うことを含む。この酸化処理は、前記有機物粒子を不融化し炭素前駆体粒子を得るための処理である。有機物粒子の酸化によって、軟化温度及び融点が高い炭素前駆体粒子が得られる。このような炭素前駆体粒子を用いて、その後の熱処理を行って炭素質材料を製造する際、当該粒子の軟化及び溶融が抑制されるので、構造の制御された炭素質材料を得ることができる。この不融化処理においては、酸化反応によって有機物に取り込まれた酸素原子が有機物の分子同士を架橋する働きをする。そこで、酸化処理が施された炭素前駆体粒子の酸素含有量を測定して、架橋された程度を評価することができる。なお、本明細書では、この酸化処理を「不融化処理」ということもある。
【0042】
酸化性ガスは、反応容器に設けたガス導入口を通じて反応容器の中の原料へ供給される。図1に示すように、酸化性ガス11を原料10と効率良く接触させるため、ガス導入口108は、反応容器1の底壁104に設けることが好ましい。ガス導入口108を複数個所に設置してもよく、また、ガス分散板や分散管(スパージャー)などのガス分散装置(図示を省略)を反応容器の底面102の上に設置し、前記ガス分散装置を通して酸化性ガス11を原料に供給してもよい。当該ガス分散装置を設置する場合は、ガス分散装置と撹拌翼の下端部205の表面とが接触しないように、両者を離隔させる必要がある。反応容器1の形状や構造に応じて、ガス導入口108を反応容器の側壁103に設けてもよい。原料の有機物粒子は、撹拌されながら酸化性ガスと接触するので、粒子個々に均質に酸化処理が施される。
【0043】
なお、酸化処理を終了するときは、酸化性ガス11の導入を停止し、ガス導入口108から窒素ガス等の非酸化性ガス12を導入する。加熱用媒体の供給口109より冷却した加熱用媒体を導入し、反応容器を含む製造装置及び被処理物を冷却する。
【0044】
酸化性ガスの種類は、酸素を含むガスであれば、特に限定されない。例えば、空気を用いることができる。さらに、酸素ガスを空気、不活性ガス(例えば、窒素ガス、希ガス)等で希釈して用いることができる。
【0045】
本実施形態に係る酸化処理における酸化反応は、酸化性ガス中の酸素ガスの導入量によって律速される傾向にある。酸素ガスの導入量は、酸化性ガス中の酸素ガス濃度と酸化性ガス導入量との積で表される。酸素ガス濃度が低いと、原料の反応系内に導入される単位時間当たりの酸素ガス量が減少し、処理時間が長くなるので好ましくない。また、酸素ガス濃度が低いと、連鎖的な酸化反応を維持するのに必要な発熱が得られなくなるので、原料を外部から補助的に加熱する必要も生じる。そのため、酸化性ガス中の酸素ガス濃度は、10体積%以上、18体積%以上、または25体積%以上が好ましい。一方、酸素ガス濃度が高すぎると、原料内で部分的に酸化反応が進行し、燃焼あるいは不均一な反応が起きる恐れがあるので好ましくない。そのため、酸素ガス濃度は、90体積%以下、80体積%以下、または70体積%以下が好ましい。
【0046】
酸化性ガスの導入量は、酸素ガスの導入量、原料の装入量や酸化処理を行う時間などに応じて適宜に選択できる。酸素ガスの導入量が過小であると、処理時間が増加して処理効率が低下する。他方、酸化性ガスの導入量が過大であると、原料の有機物粒子が飛散してバグフィルターに捕集される割合が増加し、酸化された炭素前駆体粒子の回収率が低下する。例えば、原料の有機物粒子1kg当たりの酸化性ガス導入量は、15~500NL/kg/hの範囲で導入量を調整することができる。
【0047】
<温度制御>
上述したように、反応容器の中に蓄えられた原料の有機物粒子は、導入された酸化性ガスにより酸化処理が施される。酸化反応を効率的に進行させるために、原料の有機物粒子を一定以上の高温の温度範囲において処理することが好ましい。そのため、所定の温度範囲まで原料を昇温させる必要がある。そして、原料が所定の温度範囲へ到達した後は、原料内の自己発熱を伴って酸化反応が進行することから、所定温度を下回るときを除いて外部から補助的に加熱をしなくてもよい。
【0048】
他方で、酸化反応により自己発熱して原料の粒子層内に蓄熱されることにより、粒子層内の温度が上昇する。その温度が過度に高いと、酸化反応が激しく進行し、更なる酸化発熱を引き起こして温度が上昇するという熱暴走に至る可能性がある。
【0049】
また、酸化処理中の有機物粒子は、酸化反応により融点が上昇し、高温の酸化反応においても軟化・溶融することなく不融化を進行させることができる。しかし、酸化反応が不十分な状態で有機物粒子を高温にさらすと、当該粒子の一部が溶融し、粒子同士の融着が生じる場合がある。融着した粒子は、粒子径が大きいため、接触した酸化性ガスの酸素が当該粒子の内部まで十分に拡散しないので、酸化による不融化が十分に行われず、粒子の軟化温度及び融点が低いレベルにある。そのため、炭素質材料を製造する焼成工程において、当該粒子を焼成した場合、軟化及び溶融が起きて、均質な炭素質材料の形成が困難である。
【0050】
以上の観点から、本実施形態に係る製造方法は、酸化処理において、反応容器の中に蓄えられた原料を150℃以上の温度で処理するとともに、最高到達温度が180~350℃であるように温度を制御することが好ましい。酸化処理中の原料は、150℃以上の温度範囲に加熱されて酸化処理される。上記の「最高到達温度」は、加熱される前記温度のうち最高値を指す。酸化処理中の原料が150℃未満で処理されたり、最高到達温度が180℃未満であったりすると、酸化反応に時間が掛かり、処理効率が低下する。処理時間によっては、粒子が十分に酸化されず、不融化の足りない炭素前駆体粒子が形成される。
【0051】
他方、原料の温度が350℃を超えると、酸化消耗が過大となり、酸化処理の収率が減少する。さらに粒子の酸化が急激に進むと燃焼する恐れがある。そのため、経済的に不利であり、安全性な酸化処理が困難になる恐れがある。
【0052】
原料を加熱する方法としては、反応容器の内面からの加熱や系内への投入ガスの加熱により原料を加熱することができる。それに加えて、原料の酸化発熱が原料の温度上昇に寄与する。そのため、反応容器の外部から原料を加熱する場合、その外部加熱と原料の酸化による発熱との両者を調整しながら、原料を所定温度範囲に保持することが好ましい。
【0053】
また、原料の過熱を防止して温度を制御するため、原料の酸化反応を進行させつつ、系内を冷却することが好ましい。その冷却方法としては、例えば、原料へ散水して、水の蒸発潜熱で冷却することが挙げられる。なお、酸化処理が終了した後は、酸化性ガスに代えて、非酸化性ガスを導入して原料を冷却する方法が用いられる。非酸化性ガスとしては、窒素ガスや不活性ガスを使用できる。
【0054】
酸化処理における温度制御の一例を説明する。反応容器に原料を装入した後、撹拌しながら、酸化性ガスを導入する。反応容器内の原料は、外部加熱と酸化発熱によって昇温する。その際、外部加熱による温度(以下、「外部温度」ということもある。)と、原料の温度(以下、「内部温度」ということもある。)を監視する。内部温度は、外部加熱に酸化発熱が加わるので、外部温度よりも高くすることができる。
【0055】
まず、外部温度を所定の温度(例えば、160℃)まで上昇させた後、外部温度を前記所定の温度で保持する。内部温度が上昇し、外部温度よりも低い温度で一定となる。次に、外部温度をさらに上昇(例えば、10℃上昇)させた後、保持する。外部温度よりも内部温度が低い温度で保持されている期間において、このような温度保持操作を繰り返す。原料の酸化反応が進行し、酸化発熱が大きくなり、内部温度が外部温度を超える段階においては、散水して原料を冷却しながら、外部温度と内部温度との温度差が一定の範囲(例えば、10℃)を超えないように内部温度を保持する。その保持温度における酸化発熱が減少した後、再び、外部温度をさらに所定の温度(例えば、10℃)ほど上昇させる。そして、上記の操作と同様に、温度差が一定の範囲を超えないように原料を冷却しながら内部温度を保持する。このような温度保持操作を繰り返して、所定の最高到達温度(例えば、240℃)において酸化発熱が終了するまで当該温度を保持する。冷却のための散水をしなくても内部温度が一定に保持され、さらに内部温度が外部温度よりも低くなることにより、酸化発熱の終了を確認することができる。外部温度の昇温は、前記のように段階的に行っても、或いは連続的に昇温しても良い。酸化発熱は、外部温度と内部温度の温度差から知ることができる。
【0056】
最高到達温度における酸化発熱が終了した後、外部加熱を停止するとともに、酸化性ガスの導入を停止する。次いで、反応容器内へ窒素ガス等の非酸化性ガスを導入して、原料を放冷した後、反応容器から排出し、炭素前駆体粒子を回収する。
【0057】
反応時間は、特に限定されない。処理する原料の量に応じて適宜設定することができる。所定の最高到達温度に保持して、酸化発熱が終了する時間まで酸化反応を進め、その最高到達温度を制御することにより、有機物粒子の酸化度合を制御することができる。
【0058】
<製造装置の加熱手段>
図1に示す製造装置の例は、さらに、加熱用媒体の供給口109及び排出口111、を備える。加熱用媒体15(以下、「熱媒」ともいう。)による加熱方法は、反応容器1の側壁103及び底壁104から原料10を加熱する外部加熱の一例である。反応容器1の側壁103及び底壁104に面して熱媒の流通路110が設置されており、当該流通路110の熱媒供給口109から所定温度の熱媒15が供給され、熱媒排出口111から排出される。側壁103及び底壁104を介して、熱媒15からの伝熱により反応容器内の原料10が加熱される。なお、熱媒の流通路110は、側壁103あるいは底壁104の一方だけに付設してもよい。加熱用媒体としては、外部加熱の温度において利用可能な熱媒であれば、とくに限定されない。鉱油系、合成系、無機系などの熱媒を使用できる。適用温度範囲の観点から合成系熱媒が好ましく使用できる。熱媒の供給量や供給速度によって原料の温度を制御することができる。
【0059】
また、図1に示すように、熱媒15による外部温度を測定するため、熱媒排出口111に通じる配管に第1の温度測定器8が設置されている。原料の内部温度を測定するため、第2の温度測定器7が反応容器1の側壁103を貫通して原料10内へ挿入されている。
【0060】
.
<原料の冷却手段>
製造装置には、冷却水供給機4が付帯されている。スプレーノズル401は、反応容器1内の上方付近に配置されている。反応容器1内の原料10の過熱を防止するため、反応容器外に設置した貯蔵容器404に貯蔵された冷却水13が、配管402によりスプレーノズル401へ供給され、スプレーノズル401を介して原料10へ散布される。冷却水を供給する制御方法の一例としては、図1に示すように、重量計403で貯蔵容器404内の冷却水13の変動を監視しながら、圧力測定器405により調整された加圧用空気406を貯蔵容器404内へ導入し、冷却水面を押圧して必要な量の冷却水13をスプレーノズル401へ供給することができる。
【0061】
<飛散した原料の回収手段、及び排ガスの酸素濃度測定手段>
製造装置には、バグフィルター5が付帯されており、当該バグフィルター5は、反応容器1内のガスを排出するガス排出配管6の途中に設置されている。さらに当該バグフィルター5の下流側には、逆洗用空気14の導入管が設置され、排ガス16の酸素濃度を測定する酸素濃度測定器9が設置されている。撹拌中に原料10の粒子層から上方へ飛散した粉末は、当該バグフィルター5によって捕集される。上記の逆洗用空気14をバグフィルター5へ流すことにより、捕集された粉末は、反応容器1内へ戻して再使用することができる。また、上記の酸素濃度測定器9により排ガス16の酸素濃度が測定される。前記酸素濃度は、酸化反応で消費された残留酸素濃度に相当する。残留酸素濃度を検出することにより、酸化反応量を知ることができる。内部温度が高い状態で前記残留酸素濃度が高くなると、粉塵爆発の恐れがあるので好ましくない。具体的には、内部温度が200℃以上の温度における前記排ガス中の酸素濃度は、10体積%以下が好ましく、より好ましくは5体積%以下、さらに好ましくは3体積%以下である。
【0062】
<反応容器の支持手段>
反応容器1は、支持台112の上に配置する構造にしてもよい。この配置構造とすることにより、反応容器1の下方側に撹拌手段2を設置する空間が形成される。
【0063】
<炭素前駆体粒子>
本実施形態に係る製造方法によって得られる炭素前駆体粒子は、難黒鉛化性炭素前駆体粒子であることが好ましい。難黒鉛化性炭素前駆体粒子とは、当該難黒鉛化性炭素前駆体粒子を窒素ガス雰囲気中1100℃で1時間熱処理したときに得られる炭素質材料の真密度が、1.70g/cm以下であることによって特定されるものである。難黒鉛化性炭素前駆体は、熱処理により難黒鉛化性炭素質材料を提供し、高い放電容量を有する二次電池負極用炭素質材料を提供する。なお、本明細書に記載された「炭素質材料の真密度」は、ブタノール法によって求められた真密度を意味する。
【0064】
本実施形態に係る製造方法によって得られる炭素前駆体粒子は、その酸素含有量は、本発明の効果が得られる限りにおいて、特に限定されない。酸化処理は、有機物粒子を不融化して炭素前駆体粒子を得ることにある。酸素含有量が3重量%未満であると、不融化処理が十分でないため、炭素前駆体粒子を熱処理して炭素質材料を製造する際、粒子の軟化や融着が起きる恐れがある。その結果、炭素質材料の真密度が変動するなど品質の低下を招くので、酸素含有量は、好ましくは3重量%以上であり、さらに好ましくは7重量%以上である。7重量%以上であると、より均一な難黒鉛化性炭素質材料を形成することができ、また、酸素架橋によって炭素化時の分解が抑制されて炭素化収率の向上に寄与する。
【0065】
<負極用炭素質材料>
本実施形態に係る製造方法によって得られる炭素前駆体粒子は、非酸化性ガス雰囲気中の1000~1400℃の温度で本焼成する工程を含む二次電池負極用炭素質材料の製造方法に適用することが好ましく、より好ましい本焼成温度は1050~1350℃、さらに好ましくは1100~1300℃である。当該熱処理する工程には焼成する工程が含まれる。焼成工程は、前記炭素前駆体粒子を、(a)非酸化性ガス雰囲気中において、1000~1400℃で本焼成すること、又は、(b)非酸化性ガス雰囲気中において400~1000℃未満で予備焼成し、そして非酸化性ガス雰囲気中において、1000~1400℃で本焼成することを含む。本実施形態に係る二次電池負極用炭素質材料を得るための焼成工程においては、前記(b)の操作に従い、予備焼成を行い、次いで本焼成を行ってもよく、前記(a)の操作に従い、予備焼成を行わずに本焼成を行ってもよい。また、本焼成後に炭化水素ガスを含有する非酸化性ガス雰囲気中で熱処理し、熱分解炭素で被覆する工程を含んでも良い。
【0066】
二次電池負極用炭素質材料の製造方法は、炭素前駆体粒子を焼成する工程の前に、炭素前駆体粒子にアルカリ金属化合物を添着してもよい。アルカリ金属化合物の添着により、高い充放電容量を示す炭素質材料が得られる。アルカリ金属元素としてはナトリウムが好ましい。アルカリ金属元素は、金属の状態で炭素質前駆体に添着してもよい。水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、又はハロゲン化合物などアルカリ金属元素を含む化合物として添着してもよい。アルカリ金属化合物としては、限定されるものではない。浸透性が高く、炭素質前駆体に均一に含浸できるため、水酸化物、又は炭酸塩が好ましく、特に水酸化物が好ましい。
【0067】
本実施形態に係る炭素前駆体粒子を窒素ガス雰囲気中1100℃で1時間熱処理したときに得られる炭素質材料の真密度の上限は、1.70g/cm以下であることが好ましく、1.65g/cm以下、1.60g/cm以下でもよい。炭素前駆体粒子を窒素ガス雰囲気中1100℃で1時間熱処理したときに得られる炭素質材料の真密度の下限は、1.40g/cm以上があることが好ましく、1.45g/cm以上、1.50g/cm以上でもよい。
【実施例
【0068】
以下に実施例を挙げて、本発明についてさらに詳細に説明する。本発明は、これらの実施例により限定されるものではない。
【0069】
本実施例で使用された有機物粒子の平均粒子径及び軟化点の測定方法を以下に説明する。当該製造方法によって得られた炭素前駆体粒子は、その物性として、融着の有無、酸素含有量及びブタノール法による真密度によって評価した。それらの測定方法を以下に説明する。炭素前駆体粒子における融着の有無は、目視によって観察した。
【0070】
<平均粒子径>
試料約0.1gに対し、分散剤(サンノプコ株式会社製のカチオン系界面活性剤「SNウェット366」)を3滴加え、試料に分散剤を馴染ませた。次に、純水30mLを加え、超音波洗浄機で約2分間分散させた後、粒径分布測定器(マイクロトラック・ベル株式会社製の「マイクロトラックMT3300II」)により、粒径0.02~2000μmの範囲の粒径分布を求めた。得られた粒径分布に基づいて累積容積が50%となる平均粒子径DV50(μm)を得た。
【0071】
<軟化点>
目開き150μmの篩を通過した試料1.0gをフローテスター(株式会社島津製作所製の「CFT-500EX」)に仕込み、昇温速度6.0℃/min、試料荷重圧0.98MPa、ダイ穴径1.0mm、ダイの長さ1.0mmの条件で軟化点(℃)を測定した。
【0072】
<酸素含有量>
JIS M8819に定められた方法に準拠して測定した。CHNアナライザーによる元素分析により得られる試料中の炭素、水素、窒素の質量百分率を100から差引き、これを酸素含有量(重量%(wt%))とした。
【0073】
<ブタノール法による真密度>
日本産業規格JIS R7222:2017に定められた方法に準拠し、ブタノールを用いて真密度(g/cm)を測定した。
【0074】
(実施例1)
反応容器として、図1に示す製造装置を用いて不融化のための酸化処理を行った。当該製造装置は、直径600mm、内容積100Lである円筒状の反応容器を備えている。さらに、上述したように、撹拌翼とチョッパーを備え、外部加熱手段を付属している。
【0075】
まず、軟化点205℃、平均粒子径20μmの石油ピッチ30kgを前記製造装置の反応容器内に入れた後、撹拌翼を200rpm、チョッパーを1500rpmでそれぞれ回転させるとともに、酸化性ガスとして空気を2000NL/h(67NL/kg/h)の流量で反応容器底面のガス導入口から原料内へ導入した。当該流量の単位「NL/h」は、1時間当たりのノルマルリットルを意味し、括弧で付記した単位「NL/kg/h」の数値は、原料1kg当たりで示した流量を意味する。飛散した粉体は、バグフィルターで捕集し、原料に戻した。外部温度を160℃まで昇温し、酸化発熱によって外部温度と内部温度との温度差が10℃を超えないように原料へ散水して冷却しながら、原料の温度を保持した。その保持温度における酸化発熱が停止した後、外部温度を10℃昇温させて、前記の保持操作と同様に、原料の温度保持操作を繰り返した。そして、最高到達温度の240℃に到達して酸化発熱が終了するまでその温度を保持した。その後、空気の導入を停止し、外部加熱を停止した。
【0076】
次いで、原料へ窒素ガスを導入して放冷した後、炭素前駆体粒子を回収した。内部温度が150℃を超えてから最高到達温度240℃における酸化発熱が終了するまでの時間(以下、「反応時間」という。)は、14時間であった。また、排ガス中の残留酸素濃度は、2.0体積%(vol%)以下であった。得られた炭素前駆体粒子の融着は、観察されなかった。窒素雰囲気下1100℃の熱処理によって軟化及び溶融することは無かった。得られた炭素前駆体粒子の物性を表1に示す。
【0077】
(実施例2)
最高到達温度を200℃としたこと以外は、実施例1と同様にして炭素前駆体粒子を得た。反応時間は5時間であった。得られた炭素前駆体粒子の融着は観察されず、その後の熱処理によって軟化及び溶融することは無かった。得られた炭素前駆体粒子の物性を表1示す。
【0078】
(実施例3)
最高到達温度を260℃としたこと以外は、実施例1と同様にして炭素前駆体粒子を得た。反応時間は18時間であった。得られた炭素前駆体粒子の融着は観察されず、その後の熱処理によって軟化及び溶融することは無かった。得られた炭素前駆体粒子の物性を表1に示す。
【0079】
(実施例4)
酸化性ガスとして、空気に酸素ガスを混合した酸素含有率30体積%(vol%)の混合ガスを用いたこと、最高到達温度を250℃としたこと以外は、実施例1と同様にして炭素前駆体粒子を得た。反応時間は13時間であった。得られた炭素前駆体粒子の融着は観察されず、その後の熱処理によって軟化及び溶融することは無かった。得られた炭素前駆体粒子の物性を表1に示す。
【0080】
(実施例5)
石油ピッチの平均粒子径が40μm、酸化性ガスの反応系内への流量を100NL/kg/h、最高到達温度を260℃としたこと以外、実施例1と同様にして炭素前駆体粒子を得た。反応時間は15時間であった。得られた炭素前駆体粒子の融着は観察されず、その後の熱処理によって軟化及び溶融することは無かった。得られた炭素前駆体粒子の物性を表1に示す。
【0081】
(実施例6)
石油ピッチに代わり平均粒子径23μmの石炭ピッチを用いたこと、酸化性ガスの反応系内への流量を67NL/kg/h、最高到達温度を260℃としたこと以外は、実施例1と同様にして炭素前駆体粒子を得た。反応時間は15時間であった。得られた炭素前駆体粒子の融着は観察されず、その後の熱処理によって軟化及び溶融することは無かった。得られた炭素前駆体粒子の物性を表1に示す。
【0082】
(実施例7)
本実施例は、有機物粒子として、AN/St/DVB共重合体の粒子を使用した。まず、アクリロニトリル(AN)45重量%、スチレン(St)41重量%、ジビニルベンゼン(DVB)13重量%の割合で混合し、さらに、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリルを加えて、モノマー混合物を調製した。このモノマー混合物を水系分散媒体へ添加し、ホモジナイザーにより分散させて、モノマー混合物の微小液滴を形成した。次いで、撹拌機付き重合缶により重合させて、平均粒子径(DV50)17μmの球状のAN/St/DVB共重合体を得た。
【0083】
本実施例は、反応容器として、分散盤付き円筒型縦型管状炉(直径100mm)を使用して、炭素前駆体粒子を作製した。得られた上記のAN/St/DVB共重合体700gを、前記縦型管状炉(直径100mm)の中へ装入した後、前記縦型管状炉の横断面の中心を通る回転軸に装着された撹拌翼を、当該共重合体層に設置した。そして、空気を180NL/h(257NL/kg/h)の流量で前記縦型管状炉の底面から当該共重合体層の中に導入し、撹拌翼を50~100rpmで回転させた。
【0084】
実施例1と同様の手順で、当該共重合体層の温度を保持しながら昇温し、280℃で1時間保持した。その後、空気の導入を停止し、外部加熱を停止した。次いで、当該共重合体層へ窒素ガスを導入して放冷し、酸化処理された炭素前駆体粒子を回収した。得られた炭素前駆体粒子の融着は観察されず、その後の熱処理によって軟化及び溶融することは無かった。得られた炭素前駆体粒子の物性を表1に示す。
【0085】
(比較例1)
撹拌を行わないこと以外は、実施例1と同様にして炭素前駆体粒子の調製を行った。しかし、本比較例では、チャネリング現象が起きたことにより、加熱時に石油ピッチに部分発熱が生じて、ピッチ粒子において融着及び溶融が生じた。そのため、実験の継続が困難であった。なお、チャネリング現象とは、粒子層内部を流通するガスの流通経路が局部的な領域に制限された結果、粒子層の均一な流動が妨げられる現象を意味する。
【0086】
(比較例2)
最高到達温度を160℃としたこと以外は、実施例1と同様にして炭素前駆体粒子を得た。反応時間は3時間であった。得られた炭素前駆体粒子の融着は観察されなかった。しかし、その後の熱処理によって軟化したので、必要な物性を備えた炭素質材料を得ることができなかった。得られた炭素前駆体粒子の物性を表1に示す。
【0087】
(比較例3)
石油ピッチの平均粒子径を150μmとしたこと以外は、実施例5と同様にして炭素前駆体を得た。得られた炭素前駆体粒子の融着は観察されなかった、しかし、その後の熱処理で粒子内部からの発泡が観察された。得られた炭素前駆体粒子の物性を表1に示す。
【0088】
(比較例4)
反応容器内で撹拌翼による撹拌を行わなかったこと以外は、実施例7と同様にしてAN/St/DVB共重合体の不融化処理を行った。当該共重合体層内にチャネリング現象が観察され、部分発熱を生じ、当該共重合体に融着及び溶融が生じた。得られた炭素前駆体粒子の物性を表1に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
<評価>
本発明の範囲に含まれる実施例1~7は、得られた炭素前駆体粒子に融着が観察されなかった。そして、酸素含有量が高かったことから、十分に酸化されて不融化した炭素前駆体粒子が得られた。また、1100℃で熱処理して得られた炭素質材料の真密度からみて、難黒鉛化性炭素前駆体粒子が得られたことを確認できた。
【0091】
他方、比較例1と比較例4は、撹拌を行わなかったので、粒子同士の融着が起きて、所望の炭素前駆体粒子が得られなかった。比較例2は、最高到達温度が180~350℃の範囲よりも低かったので、炭素前駆体粒子の酸素含有量が少なく、十分に酸化(不融化)された炭素前駆体粒子が得られなかった。そのため、その後の熱処理において軟化した。
【0092】
比較例3は、有機物粒子の平均粒子径が大きく、1~100μmの範囲を上回っていたので、その後の熱処理において粒子内部からの発泡が観察された。有機物粒子の平均粒子径が過大であると、酸素が有機物粒子の内部まで十分に拡散できず、粒子全体にわたって不融化された構造を形成することが困難である。そのような構造の粒子を加熱すると、不融化されていない部分で急激な分解が起きて粒子の表面が割れるため、比較例3のような発泡した表面性状を呈すると考えられる。
【0093】
<電池性能評価>
本発明に係る炭素前駆体粒子を用いて得られた炭素質材料により電極を作製した。当該電極を用いて非水電解液電解質二次電池を作製し、電池性能を測定した。各操作を以下の「(a)電極の作製」、「(b)試験電池の作製」及び「(c)電池容量の測定」に示す。電池性能は、炭素質材料の充電容量(ドープ量)及び放電容量(脱ドープ量)でもって評価した。
【0094】
(a)電極の作製
得られた炭素質材料90重量%、ポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製)10重量%にNMPを加えてペースト状にし、銅箔上に均一に塗布した。乾燥した後、塗工電極を直径15mmの円板状に打ち抜き、これをプレスして、試験用の電極とした。
【0095】
(b)試験電池の作製
リチウム金属を対極として、上記で得られた試験用電極を用いて、リチウム二次電池を構成した。具体的には、コイン型電池用缶の外蓋にステンレススチール網円盤をスポット溶接し、これにAr雰囲気中で厚さ0.8mmの金属リチウム薄板を直径15mmの円盤状に打ち抜いたものを圧着し、電極(対極)とした。
【0096】
電解液としてはエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとメチルエチルカーボネートを容量比1:2:2で混合した混合溶媒に1.5mol/Lの割合でLiPF6を加えたものを使用し、セパレータは直径19mmの硼珪酸塩ガラス繊維製微細細孔膜を使用し、ガスケットとしてはポリエチレン製を用いて、Ar雰囲気中で、2016サイズのコイン型非水電解質液系リチウム二次電池を組み立て、試験用のリチウム二次電池とした。
【0097】
(c)電池容量の測定
上記の試験用のリチウム二次電池を用いて充放電試験を行い、炭素質材料の電極による電池容量を45℃で測定した。ドープ反応は、定電流定電圧充電を行った。電流密度0.5mA/cmで定電流充電を行い、端子電圧が-5mVに達した後、制御電圧を-5mVで定電圧充電を行った。印加電流を減衰させながら印加電流が20μAに到達するまで行った。このときの電気量を使用した炭素質材料の重量で除した値を、充電容量と定義し、Ah/kgの単位で表した。次に、同様にして逆方向に電流を流し、炭素質材料にドープされたリチウムを脱ドープした。脱ドープは、0.5mA/cmの電流密度で端子電位が1.5Vになるまで行った。このとき脱ドープした電気量を電極の炭素材の重量で除した値を、炭素材の単位重量当たりの放電容量(Ah/kg)と定義した。
【0098】
(実施例8)
実施例3で調製した炭素前駆体粒子に水酸化ナトリウム水溶液を加えて含浸させた。その後、この溶液を窒素雰囲気中で乾燥し、炭素前駆体粒子に対して10.0重量%の水酸化ナトリウムを添着した水酸化ナトリウム添着炭素前駆体を得た。次いで、炭素前駆体10g相当の水酸化ナトリウム添着炭素前駆体を横型管状炉の中へ装入し、窒素雰囲気中の700℃で1時間保持して予備焼成を行った。そして、流量10L/minの窒素雰囲気下の1200℃で1時間保持して本焼成を行って、焼成炭を得た。つぎに、前記焼成炭を目皿付き石英製縦型管状炉に仕込み、窒素気流中で750℃まで昇温した後、750℃で保持した。次いで、窒素ガス中のヘキサンガス濃度が30体積%になるように、ヘキサンガスを炉内に導入し、750℃で30分間保持した後、ヘキサンガスの導入を停止し、窒素気流下、室温まで放冷した。得られた炭素質材料の平均粒子径は、19μmであり、ブタノール法による真密度が1.42g/cmであった。
【0099】
実施例8の炭素質材料を用いて電池性能を測定した結果によると、充電容量は、593Ah/kg、放電容量は、541Ah/kgであった。本発明に係る炭素前駆体粒子を用いて得られた炭素質材料は、高い充電容量及び放電容量を有する二次電池を提供できることを確認できた。
【符号の説明】
【0100】
1 反応容器
101 側面
102 底面
103 側壁
104 底壁
105 上蓋
106 被処理物の排出口
107 観察窓
108 ガス導入口
109 加熱用媒体の供給口
110 加熱用媒体の流通路
111 加熱用媒体の排出口
112 支持台
2 撹拌手段(撹拌機)
201 回転軸
202 撹拌翼
203 モーター
204 撹拌翼の先端部
205 撹拌翼の下端部
3 チョッパー
301 回転軸
302 チョッパー羽根
303 モーター
4 冷却水供給機
401 スプレーノズル
402 冷却水配管
403 重量計
404 冷却水貯蔵容器
405 圧力測定器
406 加圧用空気
5 バグフィルター
6 ガス排出配管
7 第2の温度測定器
8 第1の温度測定器
9 酸素濃度測定器
10 原料(有機物粒子)
11 酸化性ガス(空気)
12 非酸化性ガス(窒素ガス)
13 冷却水
14 バグフィルター逆洗用空気
15 加熱用媒体(熱媒)
16 排ガス
17 撹拌流

図1