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特許7496011純ジルコン質鋳込み焼成品の製造方法及び純ジルコン質鋳込み焼成品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】純ジルコン質鋳込み焼成品の製造方法及び純ジルコン質鋳込み焼成品
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/66 20060101AFI20240529BHJP
【FI】
C04B35/66
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023066121
(22)【出願日】2023-04-14
【審査請求日】2023-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000138772
【氏名又は名称】株式会社ヨータイ
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】弁理士法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】福田 紘柾
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-218980(JP,A)
【文献】特開平01-317176(JP,A)
【文献】特開昭61-286270(JP,A)
【文献】特開昭56-073672(JP,A)
【文献】特開平06-157150(JP,A)
【文献】特開2018-111612(JP,A)
【文献】特開2020-001992(JP,A)
【文献】特公昭60-018625(JP,B2)
【文献】特開昭63-252971(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/622 - 35/84
F27D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコンを主成分とするジルコン質鋳込み原料を鋳込んでジルコン質鋳込み品を得るための鋳込み工程と、
前記ジルコン質鋳込み品を焼成してジルコン質鋳込み焼成品を得るための焼成工程と、を有し、
前記ジルコン質鋳込み原料に、粒子径が1~5mmのジルコン粒子を20~40質量%、粒子径が0.1~1mmのジルコン粒子を25~45質量%、粒子径が0.1mm以下のジルコン粒子を25~40質量%含有させ、
粒子径が10μm以下のジルコン粒子の含有量を5~10質量%とし、
前記ジルコン質鋳込み原料に6.0~7.5質量%のシリカゾルを添加し、
前記シリカゾルの濃度を30~50質量%とし、
前記シリカゾルに含まれるシリカの粒子径を40~80mとし、
前記焼成工程における焼成温度を1475~1525℃とすること、
を特徴とする純ジルコン質鋳込み焼成品の製造方法。
【請求項2】
前記ジルコン質鋳込み焼成品における前記ジルコンと前記シリカの含有量の合計が98.0質量%以上となるように、前記ジルコン質鋳込み原料の成分を調整すること、
を特徴とする請求項1に記載の純ジルコン質鋳込み焼成品の製造方法。
【請求項3】
前記ジルコン質鋳込み原料にアルミナセメント及び水硬性アルミナを添加しないこと、
を特徴とする請求項1又は2に記載の純ジルコン質鋳込み焼成品の製造方法。
【請求項4】
ジルコンとシリカの含有量の合計が98.0質量%以上であり、
前記ジルコンは、粒子径が1~5mmのジルコン粒子を20~40質量%、粒子径が0.1~1mmのジルコン粒子を25~45質量%、粒子径が0.1mm以下のジルコン粒子を25~40質量%含有し、
粒子径が10μm以下のジルコン粒子の含有量が5~10質量%であり、
前記シリカの含有量が1.5~3.0質量%であり、
前記シリカの粒径が40~80mであり、
アルミナセメント及び水硬性アルミナを含有しないこと、
を特徴とする純ジルコン質鋳込み焼成品。
【請求項5】
荷重軟化点が1650℃以上であること、
を特徴とする請求項に記載の純ジルコン質鋳込み焼成品。
【請求項6】
圧縮強さが150MPa以上であること、
を特徴とする請求項又はに記載の純ジルコン質鋳込み焼成品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種窯炉に使用することができる純ジルコン質鋳込み焼成品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジルコン質耐火物は製鋼やガラス製造等で使用されており、当該ジルコン質耐火物は、例えば、ジルコン質鋳込み品を適当な条件で焼成することで製造される。鋳込み成型法を用いることで、プレス成型が難しい大型ジルコン質耐火物や異形ジルコン質耐火物を得ることもできる。
【0003】
例えば、特許文献1(特開平06-157150号公報)においては、ジルコン原料を主骨材とした耐火性配合物100重量%に対し、シリカゾルをSiO分に換算して0.2~2.0重量%と、軽焼マグネシア0.005~1.0重量%を添加してなる流し込み施工用ジルコン質不定形耐火物、が提案されている。
【0004】
上記特許文献1に記載の流し込み施工用ジルコン質不定形耐火物においては、硬化剤として軽焼マグネシアを併用添加することで常温硬化が可能となり、ジルコン成分と反応しやすいAl、CaO、MgO、NaOなどの成分を結合部から極力減らすことができ、熱間強度を向上させることができる、とされている。加えて、適切な流動性と硬化性を与えることで、熱間強度の低下による耐食性の低下を抑制することができる、とされている。
【0005】
また、特許文献2(特開昭55-116680号公報)においては、ジルコンを重量比で40~90パーセント含有するジルコン質不定形耐火物に転炉滓を重量比で0.3~5パーセント添加したスラグ添加ジルコン質不定形耐火物、が提案されている。
【0006】
上記特許文献2に記載のスラグ添加ジルコン質不定形耐火物においては、ジルコン質不定形耐火物に転炉滓を添加することによって接着性及び焼結性が改善され、曲げ強さ、圧縮強さ等の物性値を向上させることができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平06-157150号公報
【文献】特開昭55-116680号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に記載の流し込み施工用ジルコン質不定形耐火物や上記特許文献2に記載のスラグ添加ジルコン質不定形耐火物においては、乾燥時における亀裂の発生については考慮されておらず、これらの耐火物原料を鋳込むことについても検討されていない。
【0009】
また、ジルコン質鋳込み焼成品には室温から高温域における高い強度と信頼性が要求される。これに対して、アルミナセメントや水硬性アルミナを添加するとジルコン質鋳込み品を高強度化することができることが知られているが、これらの成分はジルコン質の荷重軟化点を低下させるため、高温特性を考慮すると添加しないことが好ましい。
【0010】
即ち、燥時に発生する割れを効果的に抑制できることに加え、ジルコン質鋳込み焼成品に高い荷重軟化点を付与することができるジルコン質鋳込み焼成品の製造方法及び割れの発生が抑制された高い荷重軟化点を有するジルコン質鋳込み焼成品は存在しないのが実情である。
【0011】
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明の目的は、乾燥時に発生する割れを効果的に抑制できることに加えて、高い荷重軟化点を付与することができる純ジルコン質鋳込み焼成品の製造方法及び割れの発生が抑制された高い荷重軟化点を有する純ジルコン質鋳込み焼成品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、ジルコン質鋳込み原料の組成等について鋭意研究を重ねた結果、ジルコン粒子を主成分とするジルコン鋳込み原料に適量のシリカゾルを添加し、当該シリカゾルの濃度及び当該シリカゾルに含まれるシリカ粒子の粒子径を最適化すること等が極めて重要であることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
即ち、本発明は、
ジルコンを主成分とするジルコン質鋳込み原料を鋳込んでジルコン質鋳込み品を得るための鋳込み工程と、
前記ジルコン質鋳込み品を焼成してジルコン質鋳込み焼成品を得るための焼成工程と、を有し、
前記ジルコン質鋳込み原料に6.0~7.5質量%のシリカゾルを添加し、
前記シリカゾルの濃度を30質量%以上とし、
前記シリカゾルに含まれるシリカの粒子径を40nm以上とし、
前記焼成工程における焼成温度を1475~1525℃とすること、
を特徴とする純ジルコン質鋳込み焼成品の製造方法、を提供する。
【0014】
本発明の純ジルコン質鋳込み焼成品の製造方法においては、濃度及びシリカ粒子の粒子径が最適化された適量のシリカゾルをジルコン質鋳込み原料に添加することで、ジルコン質鋳込み焼成品の荷重軟化点を低下させるアルミナセメントや水硬性アルミナを使用することなく、亀裂等の欠陥が効果的に抑制された高い強度と優れた高温安定性を有する純ジルコン質鋳込み焼成品を製造することができる。
【0015】
より具体的には、ジルコン質鋳込み原料に6.0質量%以上のシリカゾルを添加することで、鋳込み品に適切な流動性を付与し、鋳込みにかかる時間を短縮することで組織の分離を抑制することができ、シリカゾルの添加量を7.5質量%以下とすることで、シリカゾル中のシリカ粒子の分離を抑制することができる。
【0016】
また、シリカゾルの濃度を30質量%以上とすることで、乾燥前鋳込み品に適切な粘度を付与し、シリカ粒子の分離を抑制することができる。シリカゾル濃度の好ましい範囲は30~50質量%であり、より好ましい範囲は30~40質量%である。
【0017】
また、シリカゾルに含まれるシリカの粒子径を40nm以上とすることで、比表面積が小さくなり急速な硬化が抑制され、亀裂の発生を抑制するとともに、シリカ粒子の拡散性が下がるために分離を抑制することができる。シリカ粒子径は40~80nmとすることが好ましく、60~80nmとすることがより好ましい。
【0018】
また、焼成温度を1475℃以上とすることで純ジルコン質鋳込み焼成品の荷重軟化点を高くすることができ、1525℃以下とすることで分解による融点低下を抑制することができる。焼成温度は1490~1510℃とすることが好ましく、略1500℃とすることがより好ましい。
【0019】
また、本発明の純ジルコン質鋳込み焼成品の製造方法においては、前記ジルコン質鋳込み焼成品における前記ジルコンと前記シリカの含有量の合計が98.0質量%以上となるように、前記ジルコン質鋳込み原料の成分を調整すること、が好ましい。主成分であるジルコンと結合剤として添加したシリカゾルに起因するシリカの含有量の合計を98.0質量%とし、純ジルコン質鋳込み焼成品の殆どを安定な無機成分で構成することで、純ジルコン質鋳込み焼成品に高い圧縮強さと荷重軟化点を付与することができる。ジルコンとシリカの含有量の合計は98.5質量%以上とすることがより好ましく、99.0質量%以上とすることが最も好ましい。
【0020】
また、本発明の純ジルコン質鋳込み焼成品の製造方法においては、前記ジルコン質鋳込み原料にアルミナセメント及び水硬性アルミナを添加しないこと、が好ましい。アルミナセメント及び水硬性アルミナを完全に排除することで、純ジルコン質鋳込み焼成品の荷重軟化点の低下を確実に抑制することができる。
【0021】
更に、本発明の純ジルコン質鋳込み焼成品の製造方法においては、前記ジルコン質鋳込み原料に、粒子径が1~5mmのジルコン粒子を20~40質量%、粒子径が0.1~1mmのジルコン粒子を25~45質量%、粒子径が0.1mm以下のジルコン粒子を25~40質量%含有させ、粒子径が10μm以下のジルコン粒子の含有量を5~10質量%とすること、が好ましい。
【0022】
粒子径が1~5mmのジルコン粒子を20~40質量%、粒子径が0.1~1mmのジルコン粒子を25~45質量%、粒子径が0.1mm以下のジルコン粒子を25~40質量%含有させることで、添加水量および微粉の量が最適化され、組織の分離および乾燥時の亀裂を抑制することができる。また、粒子径が10μm以下のジルコン粒子の含有量を5~10質量%とすることで流動性が向上し、減水しつつ密充填することができ、組織の分離を抑制しつつ高い圧縮強度を付与することができる。
【0023】
また、本発明は、
ジルコンとシリカの含有量の合計が98.0質量%以上であり、
前記シリカの含有量が1.5~3.0質量%であり、
前記シリカの粒径が40nm以上であり、
アルミナセメント及び水硬性アルミナを含有しないこと、
を特徴とする純ジルコン質鋳込み焼成品、も提供する。
【0024】
本発明の純ジルコン質鋳込み焼成品においては、シリカ含有量を2.0質量%超とすることが好ましく、2.3質量%以上とすることがより好ましい。シリカ含有量を2.3質量%以上とすることで、純ジルコン質鋳込み焼成品の圧縮強さと荷重軟化点を高い値で両立することができる。
【0025】
本発明の純ジルコン質鋳込み焼成品においては、荷重軟化点が1650℃以上であること、が好ましい。本発明の純ジルコン質鋳込み焼成品はアルミナセメント及び水硬性アルミナを含有していないことから、荷重軟化点が高い値となっている。より好ましい荷重軟化点は1670℃以上であり、最も好ましい荷重軟化点は1690℃以上である。
【0026】
また、本発明の純ジルコン質鋳込み焼成品においては、圧縮強さが150MPa以上であること、が好ましい。本発明の純ジルコン質鋳込み焼成品は結合相であるシリカの含有量と粒径を最適化することで、アルミナセメント及び水硬性アルミナを含有していない状態において、高い圧縮強さが実現されている。より好ましい圧縮強さは155MPa以上であり、最も好ましい圧縮強さは160MPa以上である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、乾燥時に発生する割れを効果的に抑制できることに加えて、高い荷重軟化点を付与することができる純ジルコン質鋳込み焼成品の製造方法及び割れの発生が抑制された高い荷重軟化点を有する純ジルコン質鋳込み焼成品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の純ジルコン質鋳込み焼成品の製造方法及び純ジルコン質鋳込み焼成品の代表的な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0029】
1.純ジルコン質鋳込み焼成品の製造方法
本発明の純ジルコン質鋳込み焼成品の製造方法は、ジルコンを主成分とするジルコン質鋳込み原料を鋳込んでジルコン質鋳込み品を得るための鋳込み工程と、ジルコン質鋳込み品を焼成してジルコン質鋳込み焼成品を得るための焼成工程と、を有している。以下、ジルコン質鋳込み原料及び各工程について詳細に説明する。
【0030】
(1)ジルコン質鋳込み原料
本発明の純ジルコン質鋳込み品の製造方法で用いるジルコン質鋳込み原料は、結合剤として添加されるシリカゾルに含まれるシリカの粒子径が制御されていることを最大の特徴とするものである。
【0031】
(1-1)主成分(ジルコン粒子)
ジルコン質鋳込み原料は、粒子径が1~5mmのジルコン粒子を20~40質量%、粒子径が0.1~1mmのジルコン粒子を25~45質量%、粒子径が0.1mm以下のジルコン粒子を25~40質量%含有している。また、粒子径が10μm以下のジルコン粒子の含有量が5~10質量%となっている。なお、粒子径が10μm以下のジルコン粒子は、粒子径が0.1mm以下のジルコン粒子に含まれるものである。
【0032】
粒子径が1~5mmのジルコン粒子を20~40質量%、粒子径が0.1~1mmのジルコン粒子を25~45質量%、粒子径が0.1mm以下のジルコン粒子を25~40質量%含有させることで、添加水量および微粉の量が最適化され、組織の分離および乾燥時の亀裂を抑制することができる。また、粒子径が10μm以下のジルコン粒子の含有量を5~10質量%とすることで流動性が向上し、減水しつつ密充填することができ、組織の分離を抑制しつつ高い圧縮強度を付与することができる。
【0033】
粒子径が1~5mmのジルコン粒子の好ましい含有量は20~40質量%であり、より好ましい含有量は25~35質量%である。また、粒子径が0.1~1mmのジルコン粒子の好ましい含有量は25~45質量%であり、より好ましい含有量は30~40質量%である。また、粒子径が0.1mm以下のジルコン粒子の好ましい含有量は25~40質量%であり、より好ましい含有量は30~40質量%である。また、粒子径が10μm以下のジルコン粒子の好ましい含有量は8~10質量%である。10質量%を超えて粒子径が10μm以下の微細ジルコン粒子を添加すると、当該微細ジルコン粒子が浮上し、分離が生じてしまう虞がある。
【0034】
ジルコン粒子は粒径と含有量が規定の範囲であればよい。ジルコン粒子の製造方法や粒子形状等については、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々のジルコン粒子を用いることができる。
【0035】
例えば、天然鉱物に由来する粗大なジルコン粒子を入手することが困難な場合、人工的にジルコンサンドを粉砕、造粒、焼成、破砕、分級して得た粒子径が1~5mmのジルコンペレットを粗粒として使用してもよい。また、粒子径が0.1~1mmのジルコン粒子については、ジルコンペレットの破砕物及び/又はジルコン質れんが屑の破砕物を使用することができる。また、粒子径が0.1mm以下のジルコン粒子にはジルコンサンドを使用することができ、粒子径が10μm以下の微細なジルコン粒子にはジルコンフラワーやジルコンパックス等を使用することができる。
【0036】
(1-2)必須の添加成分(シリカゾル)
ジルコン質鋳込み原料には、濃度が30質量%以上のシリカゾルが6.0~7.5質量%添加されている。シリカゾル濃度の好ましい範囲は30~50質量%であり、より好ましい範囲は30~40質量%である。当該要件を満たすシリカゾルを添加することで、ジルコン質鋳込み焼成品の荷重軟化点を低下させるアルミナセメントや水硬性アルミナを使用することなく、亀裂等の欠陥が効果的に抑制された高い強度と優れた高温安定性を有する純ジルコン質鋳込み焼成品を製造することができる。
【0037】
また、シリカゾルに含まれるシリカの粒子径を40nm以上とすることで、比表面積が小さくなり急速な硬化が抑制され、亀裂の発生を抑制するとともに、シリカ粒子の拡散性が下がるために分離を抑制することができる。シリカ粒子径は40~80nmとすることが好ましく、60~80nmとすることがより好ましい。
【0038】
また、ジルコン粒子とシリカ粒子の含有量の合計が98.0質量%以上となるように、ジルコン質鋳込み原料の成分を調整することが好ましい。主成分であるジルコンと結合剤として添加したシリカゾルに起因するシリカの含有量の合計を98.0質量%とし、純ジルコン質鋳込み焼成品の殆どを安定な無機成分で構成することで、純ジルコン質鋳込み焼成品に高い圧縮強さと荷重軟化点を付与することができる。ジルコンとシリカの含有量の合計は98.5質量%以上とすることがより好ましく、99.0質量%以上とすることが最も好ましい。
【0039】
(1-3)任意の添加成分
任意の添加成分として、粘土を添加してもよい。粘土の添加量は適宜調整すればよいが、例えば、0.5~1.5質量%とすることができる。0.5~1.5質量%の粘土を添加することで、組織の分離を軽減することができる。
【0040】
また、任意の添加成分として、分散剤を添加してもよい。分散剤の種類は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の分散剤を用いることができる。分散剤の添加量は分散剤の種類、ジルコン質鋳込み原料の成分及びその含有量等に応じて適宜調整すればよいが、例えば、0.01~0.10質量%とすることができる。
【0041】
(2)鋳込み工程
上述のジルコン質鋳込み原料を所望の鋳型に鋳込むことで、任意の形状を付与することができ、乾燥工程を経て、ジルコン質鋳込み品を得ることができる。
【0042】
鋳込み作業に際して、円滑な鋳込みを実現するために、適量の水を添加してジルコン質鋳込み原料の流動性を調整してもよい。なお、添加した水やシリカゾルに含まれる水分は乾燥工程及び焼成工程で蒸発して除去されるため、本発明の純ジルコン質鋳込み焼成品の成分には含まれない。
【0043】
当該ジルコン粒子の粒度構成が精緻に最適化することで、比重が大きなジルコン粒子を主成分とする鋳込み原料を用いた場合であっても、鋳込み工程における組織の分離を極めて効果的に抑制することができる。
【0044】
(3)乾燥工程
鋳込み工程で形成させたジルコン質鋳込み品を乾燥させて水分を除去することで、本発明の純ジルコン質鋳込み品を得ることができる。鋳込み工程における組織の分離が抑制されることから、乾燥工程における割れの発生も極めて効果的に抑制することができる。
【0045】
乾燥条件は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、ジルコン質鋳込み品の組成、形状及び大きさ等に応じて適宜調整すればよい。例えば、50℃で1日養生後脱枠、その後70℃で1日、140℃で2日、180℃で2日乾燥とすることができる。
【0046】
(4)焼成工程
焼成工程は、乾燥工程後のジルコン質鋳込み品を1475~1525℃で焼成し、本発明のジルコン質鋳込み焼成品を得るための工程である。焼成時間は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、ジルコン質鋳込み品の組成、形状及びサイズ等に応じて適宜調整すればよい。
【0047】
焼成温度を1475℃以上とすることで純ジルコン質鋳込み焼成品の荷重軟化点を高くすることができ、1525℃以下とすることで分解による融点低下を抑制することができる。焼成温度は1490~1510℃とすることが好ましく、略1500℃とすることがより好ましい。
【0048】
2.純ジルコン質鋳込み焼成品
本発明の純ジルコン質鋳込み焼成品は本発明の純ジルコン質鋳込み焼成品の製造方法によって得られるものである。
【0049】
純ジルコン質鋳込み焼成品の主成分、必須の添加成分及び任意の添加成分は、乾燥工程及び焼成工程で水分が除去されること以外、ジルコン質鋳込み原料として説明した通りであるが、ジルコンとシリカの含有量の合計が98.0質量%以上であり、シリカの含有量が1.5~3.0質量%であり、シリカの粒径が40nm以上であり、アルミナセメント及び水硬性アルミナを含有しないこと、を特徴としている。
【0050】
シリカ含有量は2.0質量%超とすることが好ましく、2.3質量%以上とすることがより好ましい。シリカ含有量を2.3質量%以上とすることで、純ジルコン質鋳込み焼成品の圧縮強さと荷重軟化点を高い値で両立することができる。
【0051】
また、焼成前のジルコン質鋳込み品におけるシリカ粒子の分散状況や焼成条件に依っては、シリカ粒子同士のネッキングや焼結が進行し、シリカ粒子の形状や大きさが変化するが、ジルコン質鋳込み原料に添加されるシリカの粒子径が40nm以上であることから、純ジルコン質鋳込み焼成品におけるシリカの粒径は確実に40nm以上となっている。ここで、シリカの粒径を測定する方法は特に限定されず、例えば、高倍率の走査電子顕微鏡観察や透過電子顕微鏡観察等を用いることができる。
【0052】
純ジルコン質鋳込み焼成品の荷重軟化点は1650℃以上であることが好ましい。純ジルコン質鋳込み焼成品はアルミナセメント及び水硬性アルミナを含有していないことから、荷重軟化点が高い値となっている。より好ましい荷重軟化点は1670℃以上であり、最も好ましい荷重軟化点は1690℃以上である。
【0053】
また、純ジルコン質鋳込み焼成品の圧縮強さは150MPa以上であることが好ましい。純ジルコン質鋳込み焼成品は結合相であるシリカの含有量と粒径を最適化することで、アルミナセメント及び水硬性アルミナを含有していない状態において、高い圧縮強さが実現されている。より好ましい圧縮強さは155MPa以上であり、最も好ましい圧縮強さは160MPa以上である。
【0054】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それら設計変更は全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例
【0055】
≪実施例≫
表1に実施例1~実施例4として示す割合で原料を調製し、ジルコン質鋳込み原料を得た。その後、各原料に0.05質量%の分散剤を添加し、十分に混練した。その後、適度な流動性を有するジルコン質鋳込み原料を鋳型に鋳込み、230mm×114mm×65mmの板状の純ジルコン質鋳込み成型品を得た。
【0056】
次に、得られた各純ジルコン質鋳込み成型品を50℃で1日養生後脱枠、その後70℃で1日、140℃で2日、180℃で2日として乾燥させた。次に、各純ジルコン質鋳込み成型品を表1に示す温度で5時間焼成し、本発明の実施例である純ジルコン質鋳込み焼成品を得た。
【0057】
表1には得られた純ジルコン質鋳込み焼成品におけるシリカ含有量を示しているが、全ての実施例において、純ジルコン質鋳込み焼成品は1.5~3.0質量%のシリカを含有している。加えて、表1には得られた純ジルコン質鋳込み焼成品におけるジルコンとシリカの合計含有量も示しているが、全ての実施例において、当該合計含有量は98.0質量%以上となっている。
【0058】
【表1】
【0059】
[評価]
各組成を有するジルコン質鋳込み原料の鋳造性、ジルコン質鋳込み品の状態及び純ジルコン質鋳込み焼成品の強度及び荷重軟化点を評価した。
【0060】
(1)鋳込み時の上下の分離
焼成品の鋳込み面の外観から、鋳込み時の上下の分離状態を評価した。鋳込み面に分離したジルコン微粉またはシリカ粒子の層がみられない場合を◎、鋳込み面に分離したジルコン微粉またはシリカ粒子の層が厚さ<1mmみられる場合を〇、鋳込み面に分離したジルコン微粉またはシリカ粒子の層が厚さ≧1mmみられる場合を×とし、得られた結果を表1に示す。
【0061】
(2)乾燥後の亀裂の有無
乾燥後鋳込み品の外観、および切断面の状態から乾燥後の亀裂の有無を評価した。外観、切断面ともに亀裂がみられない場合を〇、外観または切断面に亀裂がみられる場合を×とし、得られた結果を表1に示す。
【0062】
(3)圧縮強さ
JIS R2206(耐火れんがの圧縮強さ試験方法)に基づいて、焼成後のジルコン質鋳込み焼成品の圧縮強さを測定した。得られた結果を表1に示す。
【0063】
(4)荷重軟化点
JIS R2209(耐火れんがの荷重軟化点の試験方法)に基づいて、荷重軟化点を測定した。得られた結果を表1に示す。
【0064】
≪比較例≫
表1に比較例1~比較例8として示す割合で原料を調整したこと以外は実施例と同様にして、ジルコン質鋳込み原料、ジルコン質鋳込み品及びジルコン質鋳込み焼成品を得た。ここで、シリカゾルを添加していない比較例5については、5.5質量%の水と3質量%のアルミナセメントを添加した。また、シリカゾルを添加していない比較例6については、5.5質量%の水と2質量%の水硬性アルミナを添加した。また、実施例と同様にして、各評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0065】
表1に示す結果より、全ての実施例(実施例1~実施例4)において、1650℃以上の高い荷重軟化点が得られていることが分かる。一方で、アルミナセメントを添加した比較例5における荷重軟化点は1620℃、水硬性アルミナを添加した比較例6の荷重軟化点は1640℃と、それぞれ低い値となっている。また、適当なシリカゾルを添加した場合であっても、焼成温度が低い比較例7と焼成温度が高い比較例8では、荷重軟化点が低い値となっている。
【0066】
また、表1に示す評価結果より、全ての実施例(実施例1~実施例4)において、鋳込み時の上下の分離(組織の分離)が極めて効果的に抑制されていることが分かる。特に、適当なシリカゾルを7質量%以上含有させた実施例1、2及び4については、当該評価が◎であった。一方で、適当なシリカゾルを添加した場合であっても、含有量が少ない場合(比較例2)及び含有量が多い場合(比較例3)においては、鋳込み時の上下の分離を抑制することができていない。また、適当な濃度のシリカゾルを適量添加した場合であっても、当該シリカゾルに含まれるシリカの粒径が40nm未満の場合、鋳込み時の上下の分離を抑制することができていない(比較例1)。また、粒径が40nm以上のシリカを含むシリカゾルを適量添加した場合であっても、当該シリカゾルの濃度が適当でない場合は、鋳込み時の上下の分離を抑制することができていない(比較例4)。
【0067】
また、乾燥後の亀裂の有無に関しても、全ての実施例において評価が〇となっており、顕著な亀裂抑制効果を確認することができる。一方で、適当なシリカゾルを添加した場合であっても、含有量が少ない場合(比較例2)及び含有量が多い場合(比較例3)においては、乾燥後の亀裂の発生を抑制することができていない。
【0068】
更に、焼成温度を1500℃とした実施例1~実施例3で得られた純ジルコン質鋳込み焼成品において、150MPa以上の高い圧縮強さが得られている。焼成温度を1525℃とした実施例4で得られた純ジルコン質鋳込み焼成品の圧縮強さは140MPaと低下していることから、高い圧縮強さを得るためには焼成温度の制御が重要であることが分かる。
【0069】
以上の結果より、乾燥時に発生する割れを効果的に抑制することに加えて、高い荷重軟化点と強度を有する純ジルコン質鋳込み焼成品を得るためには、ジルコン質鋳込み原料に6.0~7.5質量%のシリカゾルを添加し、当該シリカゾルの濃度を30質量%以上とし、当該シリカゾルに含まれるシリカの粒子径を40nm以上とし、焼成工程における焼成温度を1475~1525℃とすることが極めて重要であることが分かる。
【要約】
【課題】乾燥時に発生する割れを効果的に抑制できることに加えて、高い荷重軟化点を付与することができる純ジルコン質鋳込み焼成品の製造方法及び割れの発生が抑制された高い荷重軟化点を有する純ジルコン質鋳込み焼成品を提供する。
【解決手段】ジルコンを主成分とするジルコン質鋳込み原料を鋳込んでジルコン質鋳込み品を得るための鋳込み工程と、ジルコン質鋳込み品を焼成してジルコン質鋳込み焼成品を得るための焼成工程と、を有し、ジルコン質鋳込み原料に6.0~7.5質量%のシリカゾルを添加し、当該シリカゾルの濃度を30質量%以上とし、当該シリカゾルに含まれるシリカの粒子径を40nm以上とし、焼成工程における焼成温度を1475~1525℃とすること、を特徴とする純ジルコン質鋳込み焼成品の製造方法。
【選択図】なし