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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】アークを非接触式に点弧するための方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/067 20060101AFI20240529BHJP
【FI】
B23K9/067
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2023509372
(86)(22)【出願日】2021-08-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-09-04
(86)【国際出願番号】 EP2021072371
(87)【国際公開番号】W WO2022034132
(87)【国際公開日】2022-02-17
【審査請求日】2023-03-10
(31)【優先権主張番号】20190851.4
(32)【優先日】2020-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504380611
【氏名又は名称】フロニウス・インテルナツィオナール・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】FRONIUS INTERNATIONAL GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】ヴィリンガー・マルティン
(72)【発明者】
【氏名】ラットナー・ペーター
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-186118(JP,A)
【文献】登録実用新案第3203123(JP,U)
【文献】特開2000-141040(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/067
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ヘッド(3)の電極(2)と溶接プロセス用のワーク(5)の材料表面(4)との間にアーク(1)を非接触式に点弧するための方法において、
第1極性又は第2極性を有する1つの第1点弧電圧インパルスが、前記電極(2)と前記材料表面(4)との間に生成され、
前記アーク(1)は、点弧後に、場合によっては転極後に前記第2極性により又は交番する極性により維持され、
前記第1点弧電圧インパルス後に点弧が失敗した場合、前記アーク(1)の点弧が成功するまで、複数の点弧電圧インパルスのシーケンスが、シーケンススケジュールにしたがって生成され、
前記シーケンススケジュールは、前記第1極性を有する複数の点弧電圧インパルスと、前記第2極性を有する複数の点弧電圧インパルスとを含み、
点弧休止期間が、前記第1極性を有する複数の点弧電圧インパルスと前記第2極性を有する複数の点弧電圧インパルスとの間に提供されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記シーケンススケジュールは、前記第1極性を有する1つの点弧電圧インパルスと、これに追従する、前記第2極性を有する1つの点弧電圧インパルスとがそれぞれ交互するシーケンスによって規定されているか、又は前記第2極性を有する1つの点弧電圧インパルスと、これに追従する、前記第2極性を有する1つの点弧電圧インパルスとがそれぞれ交互するシーケンスによって規定されていることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記シーケンススケジュールは、前記第1極性を有する一定数若しくは可変数の第1点弧電圧インパルスと、これに追従する、前記第2極性を有する連続する一定数若しくは可変数の第2点弧電圧インパルスとによって規定されているか、又は前記第2極性を有する連続する一定数若しくは可変数の第2点弧電圧インパルスと、これに追従する、前記第1極性を有する一定数若しくは可変数の第1点弧電圧インパルスとによって規定されていることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1極性を有する1つの点弧電圧インパルス後にアーク(1)が点弧される場合、この点弧(1)は、加熱期間の間、前記第1極性で維持され、その後に前記第2極性に転極されることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記転極中にアークが消弧する場合、先に開始されている複数の点弧電圧インパルスのシーケンスが、前記シーケンススケジュールにしたがって続行されることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
その都度使用されるシーケンススケジュールの品質及び/又は点弧挙動を評価する少なくとも1つの特性変数が決定され、
決定された特性変数が、必要に応じて記憶され、及び/又はユーザインタフェース若しくは入出力装置を介して表示されることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前もって規定された限界値を前記特性変数が下回るか若しくは上回るか又は当該限界値に達する場合、代わりのシーケンススケジュールが自動的に選択されることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記代わりのシーケンススケジュールは、複数のシーケンススケジュールからランダムに選択されるか、又は必要に応じて学習可能なアルゴリズムによって生成されることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記溶接プロセスは、交流溶接プロセスであることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記溶接プロセスは、直流溶接プロセスであることを特徴とする請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記アークは、前記溶接プロセス中に非接触式に点弧されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記アークは、前記溶接プロセスの開始時に非接触式に点弧されることを特徴とする請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
複数の前記点弧電圧インパルスが、前記シーケンススケジュール中に少なくとも2回転極されることを特徴とする請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
電極(2)が設けられている溶接ヘッド(3)を有する溶接装置(6)であって、前記電極(2)は、電源ユニット(7)に接続されていて、電圧(U)が、前記電源ユニット(7)によって前記電極(2)とワーク(5)の材料表面(4)との間に規定通りに印加可能である当該溶接装置において、
前記電源ユニット(7)は、前記電極(2)と前記材料表面(4)との間にアークを非接触式に点弧するために、第1極性又は第2極性を有する第1点弧電圧インパルスを生成し、前記アーク(1)を点弧後に、場合によっては転極後に前記第2極性により維持するように構成されていて、
前記電源ユニット(7)は、前記第1点弧電圧インパルス後に点弧が失敗した場合、アーク(1)の点弧が成功するまで、複数の点弧電圧インパルスのシーケンスをシーケンススケジュールにしたがって生成するようにさらに構成されていて、
前記シーケンススケジュールは、前記第1極性を有する複数の点弧電圧インパルスと、前記第2極性を有する複数の点弧電圧インパルスとを含み、
点弧休止期間が、前記第1極性を有する複数の点弧電圧インパルスと前記第2極性を有する複数の点弧電圧インパルスとの間に提供されていることを特徴とする溶接装置。
【請求項15】
様々な材料及び/又は表面のための記憶された複数のシーケンススケジュールを有する内部データバンクが、前記溶接装置内に、特にこの溶接装置の制御調整装置(13)内に記憶されていることを特徴とする請求項14に記載の溶接装置。
【請求項16】
前記内部データバンクは、複数のシーケンススケジュールが記憶されている外部データバンクと少なくとも部分的に同期可能であり、
前記溶接装置は、外部データバンクが記憶されている外部メモリ及び/又はネットワーク及び/又はクラウドとの少なくとも一時的な接続を確立するように構成されている請求項15に記載の溶接装置。
【請求項17】
記憶された少なくとも1つのシーケンススケジュールが、入出力装置を介してユーザによってプログラミング可能である請求項14~16のいずれか1項に記載の溶接装置。
【請求項18】
実際に選択されたシーケンススケジュールが、ユーザインタフェース又は入出力装置を介して表示可能であることを特徴とする請求項14~17のいずれか1項に記載の溶接装置。
【請求項19】
その都度使用されるシーケンススケジュールの品質及び/又は点弧挙動を評価する少なくとも1つの特性変数が決定可能であり、
決定された特性変数が、必要に応じて記憶され、及び/又はユーザインタフェース若しくは入出力装置を介して表示可能であることを特徴とする請求項14~18のいずれか1項に記載の溶接装置。
【請求項20】
前記溶接装置は、学習可能なアルゴリズムを使用し、最適な点弧に適したシーケンススケジュールを自動的に選択し、適合するように構成されていることを特徴とする請求項14~19のいずれか1項に記載の溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接ヘッドの電極とワークの材料表面との間に溶接プロセスのためにアークを非接触式に点弧するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
具体的には、以下の説明の一部には、ただ1つの極性を有する溶接電圧が溶接プロセス中に使用される直流溶接プロセスと、溶接電圧の極性が溶接プロセス中に交番する交流溶接プロセスとが考慮される。
【0003】
直流溶接プロセスと交流溶接プロセスとの双方の場合、アークを最初に生成するため、1つの点弧電圧インパルス(初期点弧)が、点弧過程中の溶接プロセスの開始時に生成される。交流溶接プロセスの場合と、溶接過程中の溶接電圧の極性の交番時、すなわち零交差時とに、アークを維持するため、すなわちアークの消弧を回避するため、点弧電圧インパルス(零交差点弧)が生成される。これは、同様に点弧過程に相当する。
【0004】
溶接装置の電極とワークとの間にアークを非接触式に点弧するため、1つの点弧電圧インパルスが、この電極とこのワークとの間に印加され得る。電極とワークとの間の領域が、この点弧電圧インパルスによってイオン化される。その結果、アークが、当該イオン化領域内で点弧する。点弧が発生しない(すなわち、アークが形成されない)場合、同じ極性を有する別の1つの点弧電圧インパルスが、短い休止期間後に印加される。アークが点弧すると、溶接電圧が印加される。当該アークは、この溶接電圧によって溶接中に維持される。
【0005】
(特に、鋼及び高合金鋼を溶接するための)直流溶接プロセスの場合、溶接が、負の溶接電流によって実行されるので、負の点弧電圧インパルスによって開始される(「負極での点弧」)。
【0006】
最新の溶接装置は、点弧を正の点弧電圧インパルスによって開始する可能性も提供する(「正極での点弧」)。一般に、溶接は、負の溶接電流によって実行されなければならないので、転極が、点弧後に実行される。タングステン電極の場合、正極での点弧、例えば溶接の開始時の点弧挙動及びアークの安定性が改良され得る。当該正極での点弧は、当該電極に高い負荷をかける。
【0007】
平坦で研磨加工された表面の場合、正極での点弧は困難になり得て、既に点弧されたアークが転極時に消弧することがあるか、又はアークが多くの場合に点弧しないことがある。
【0008】
実際に、ユーザは、望ましい点弧位置又は点弧極性を選択しなければならず、当該選択された設定が、実際の作業に適しない場合は、当該ユーザは、この点弧位置又は点弧極性を再変換しなければならない。その結果、消弧が頻繁に発生するので、不快に感じられる。また、当該頻繁な消弧は、溶接継目の品質に悪影響を及ぼし得る。この場合、どうゆう理由で(どの程度)双方の点弧過程は互いに異なるのか、又は、この場合にどのパラメータが重要であり、どうゆう理由で所定の場合に一方の点弧過程又は他方の点弧過程がより良好に機能するかは、当該ユーザは分からないので、適切な設定は、多くの場合は試行錯誤によって見つけ出され得る。例えば、同じワークの既に形成された溶接継目にわたって溶接されなければならず、この溶接継目が、当該ワークよりも小さい表面粗度を有し、それ故に当該選択された点弧過程がほとんど信頼できないときに、パラメータが、溶接中に変化することもあり得る。
【0009】
点弧の最適な設定又は最適な点弧極性は、例えば表面粗度、化学組成、結晶特性、粒径、コーティング等のような多数の材料係数に依存する。例えば粒径及び結晶特性、すなわち点弧挙動が、特に既に存在する溶接継目又は所定の材料表面の別の、例えば局所的な温度処理によって変化し得る。さらに、例えば凝固した湯(溶融池)の偏析及び変質が、様々な点弧挙動を引き起こし得る。表面の空隙、混入、空洞、スラグ残留物及びその他の不均一性が点弧挙動に影響を及ぼし得ることも知られている。さらに、熱処理によって発生した表面の酸化膜によって、窒化、炭化、プラズマ窒化等のように、例えば表面処理時に生成されるような、例えば表面中への窒素又は炭素の先行する導入によって、点弧挙動が変化し得る。同様に、例えば切削加工、グラインド加工、研磨加工、ラップ加工等のような機械式の局所の表面加工又は機械式の表面加工が、通常は点弧挙動を変化させる。表面の場合によっては存在する異物若しくは異物混入層、又は洗浄手段による残留物、又は時間の経過にわたって形成された大気による吸収層若しくは場合によっては時間の経過にわたって大気の影響によって形成された反応層が、アークの点弧挙動に影響を及ぼし得る。それ故に、経験のあるユーザでも、どの設定及びどの好適な極性が現在の作業に対して最適であるか常に分からない。さらに、溶接工にとって視覚的に常に目視可能であるときでも、点弧設定がそれぞれの用途ごとに個別に適合されなければならないように、表面が、不均一な点弧挙動を引き起こし得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、アークの非接触式の点弧時の点弧信頼性が改良される装置及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
1つの観点によれば、本発明は、溶接ヘッドの電極とワークの材料表面との間にアークを非接触式に点弧するための方法に関する。第1極性又は第2極性を有する1つの第1点弧電圧インパルスが、当該電極と当該材料表面との間に生成される。この場合、当該アークは、当該点弧後に、場合によっては転極後に当該第2極性により又は交番する極性により維持される。この場合、当該第1点弧電圧インパルス後に点弧が失敗した場合、当該アークの点弧が成功するまで、連続する複数の点弧電圧インパルスが、シーケンススケジュールにしたがって生成される。この場合、当該シーケンススケジュールは、当該第1極性を有する複数の点弧電圧インパルスと、当該第2極性を有する複数の点弧電圧インパルスとを含む。そしてこの場合、1つの点弧休止期間が、当該第1極性を有する複数の点弧電圧インパルスと当該第2極性を有する複数の点弧電圧インパルスとの間に提供されている。これにより、操作者の介入が必要であることなしに、アークが、常に最適な点弧過程によって点弧され得る。消弧が回避される。シーケンススケジュールが、特に規則的に繰り返される異なる極性の複数の点弧電圧インパルスのパターンによって規定されている。
【0012】
本発明による1つの実施の形態は、第1極性の点弧電圧又は点弧電流の値が、第2極性の点弧電圧又は点弧電流の値と異なることも含む。本発明による別の実施の形態は、第1極性の点弧電圧又は点弧電流の期間が、第2極性の点弧電圧又は点弧電流の期間と異なることも含む。必要に応じて、同じ極性の連続する複数の点弧電圧インパルスの値及び長さが互いに異なってもよい。
【0013】
複数の点弧インパルス間の点弧休止期間は、システムによって決定されてもよく、及び/又は溶接装置を実行することによって決定されてもよく、及び/又はユーザから提供される点弧休止期間でもよい。この場合、異なる極性の複数の点弧インパルス間に提供されている点弧休止期間は、アークが既に点弧したか否かを検査するために利用され得る。
【0014】
アークを非接触式に点弧するための方法は、点弧過程とも呼ばれる。溶接プロセスは、アークが点弧される点弧過程と、アークが発生する溶接過程と、アークが発生せず点弧もされない休止フェーズとを含む。交流溶接プロセスの場合、溶接プロセス中の溶接電流の零交差時に、点弧過程が実行されてもよい。
【0015】
用語「極性」は、電極の極性に関する。第1極性は、電極の正極又は負極でもよく、第2極性は、第1極性に対して反転された極性を規定し得る。当該極性の選択は、特に溶接すべき材料に依存する。この場合、多くの材料は、負極にされた電極によって溶接される。この場合、第2極性は、負極に相当する。しかしながら、負極だけで溶接され得る材料、特にアルミニウム及びその合金も存在する。この場合、例えばヘリウムのような高価な保護ガスによって負極で溶接されなければならないか、又は例えばアルゴン若しくはヘリウムとアルゴンとの混合物によって正極で溶接されなければならないか、又は交流電流(交流溶接プロセス)によって溶接されなければならない。
【0016】
好ましくは、シーケンススケジュールは、当該第1極性を有する1つの点弧電圧インパルスと、これに追従する、当該第2極性を有する1つの点弧電圧インパルスとがそれぞれ交互するシーケンスによって規定され得るか、又は当該第2極性を有する1つの点弧電圧インパルスと、これに追従する、当該第1極性を有する1つの点弧電圧インパルスとがそれぞれ交互するシーケンスによって規定され得る。このようなシーケンスは、特に有益な点弧極性が未知であるときに最適である。
【0017】
別の好適な実施の形態では、シーケンススケジュールは、当該第1極性を有する連続する一定数若しくは可変数の第1点弧電圧インパルスと、これに追従する、当該第2極性を有する一定数若しくは可変数の第2点弧電圧インパルスとによって規定され得るか、又は当該第2極性を有する連続する一定数若しくは可変数の第2点弧電圧インパルスと、これに追従する、当該第1極性を有する一定数若しくは可変数の第1点弧電圧インパルスとによって規定され得る。これは、例えば、有益な極性が既知であり、点弧が最初にこの極性によって試みられなければならないときに有益であり得る。点弧が、数回の試みの後に実行されなかったときに初めて、別の極性に切り換えられる。第1の回数及び第2の回数は、同じでもよく又は異なってもよい。こうして規定されたシーケンスは、アークが点弧するまでか又は予め設定されている最大長さまで繰り返される。
【0018】
当該第1極性を有する1つの点弧電圧インパルス後にアークが点弧される場合、この点弧は、特に加熱期間の間、当該第1極性で維持され、その後に当該第2極性に転極される。アークの安定性が、当該加熱期間によって向上するので、当該転極が容易になる。
【0019】
有益な方法では、転極中にアークが消弧する場合、先に開始されている連続する複数の点弧電圧インパルスが、当該シーケンススケジュールにしたがって続行される。これは、アークが第1極性を有する1つの点弧電圧インパルスで点弧するが、転極時に再び消弧するときに点弧挙動を改良できる。代わりに、連続する複数の点弧電圧インパルスが、転極時のアークの消弧後に同じ又は別のシーケンススケジュールにしたがって新たに開始されてもよい。
【0020】
有益な方法では、その都度使用されるシーケンススケジュールの品質及び/又は点弧挙動を評価する少なくとも1つの特性変数が決定され、決定された特性変数が、必要に応じて記憶され、及び/又はユーザインタフェース若しくは入出力装置を介して表示される。当該特性変数は、品質及び/又は点弧挙動の評価を可能にする任意に測定された変数又は導き出された変数でもよい。当該特性変数は、例えば1つの極性又は両極性での成功しなかった複数回の点弧の試みを示し得る。場合によっては、当該特性変数は、1つのシーケンススケジュール及び/又は1つの点弧インパルスの所定の特性(特に、このシーケンススケジュール及び/又はこの点弧インパルスの期間及び/又は電圧)を示し得る。しかしながら、多数の別の測定値及び/又は算出可能な値が、特性変数として使用されてもよい。
【0021】
別の好適な実施の形態では、当該特性変数が先に規定された限界値を下回るか若しくは上回るか又は当該限界値に達するときに、代わりのシーケンススケジュールが自動的に選択される。これにより、点弧が、所定の使用時に最適に機能しない場合に、当該方法が自動的に改良され得る。
【0022】
有益な方法では、当該代わりのシーケンススケジュールは、複数のシーケンススケジュールから任意に選択され得るか、又は必要に応じて学習可能なアルゴリズムによって生成され得る。この場合、当該学習可能なアルゴリズムは、(例えば、ニューラルネットワークを使用する)人工知能の方法を使用してもよく、又は例えば特性曲線特性領域に基づく「典型的な」プログラミングを使用してもよい。これにより、例えば、本発明の方法を実行する個々の溶接装置の点弧挙動が、ユーザにとって有益で及び/又は必要な周囲条件及び溶接条件に自動的に最適に適合され得る。必要に応じて、当該学習可能なアルゴリズムは、任意に入手可能な周囲条件及び/又は材料パラメータ及び/又は溶接パラメータに関する情報を当該シーケンススケジュールの最適化のために使用してもよい。
【0023】
当該溶接プロセスは、交流溶接プロセスでもよい。これは、溶接過程中にアークが非接触式に点弧された後に、極性の交番する溶接電流が通電することを意味する。
【0024】
当該溶接プロセスは、直流溶接プロセスでもよい。これは、溶接過程中にアークが非接触式に点弧された後に、1つの極性を有する溶接電流が通電することを意味する。この場合、当該溶接電流は、パルス化されてもよい。
【0025】
溶接プロセスが、交流溶接プロセスである場合、アークは、溶接プロセス中に非接触式に点弧され得る。これは、当該非接触式の点弧が転極時に、すなわち溶接電流の零交差時に実行されることを意味する。これにより、アークの消弧が回避される。
【0026】
しかし、アークは、溶接プロセスの開始時に非接触式に点弧されてもよい。したがって、当該溶接プロセスは、点弧過程によって開始される。当該溶接プロセスは、交流溶接プロセスと直流溶接プロセスとに対して使用され得る。
【0027】
特に、複数の点弧電圧インパルスが、シーケンススケジュール中に少なくとも2回転極される。これは、当該シーケンススケジュールが、第1極性を有する少なくとも1つの点呼電圧インパルスと、これに追従する、第2極性を有する少なくとも1つの点呼電圧インパルスと、これに追従する、第1極性を有する少なくとも1つの点呼電圧インパルスとを含むか、又は第2極性を有する少なくとも1つの点呼電圧インパルスと、これに追従する、第1極性を有する少なくとも1つの点呼電圧インパルスと、これに追従する、第2極性を有する少なくとも1つの点呼電圧インパルスとを含むことを意味する。特に、この意味において、2回以上の極性の転換が実行されてもよい。
【0028】
第2の観点では、本発明は、1つの電極が設けられている1つの溶接ヘッドを有する溶接装置であって、当該電極は1つの電源ユニットに接続されていて、電圧が当該電源ユニットによって当該電極と1つのワークの材料表面との間に規定通りに印加可能である当該溶接装置に関する。当該電源ユニットは、当該電極と当該材料表面との間にアークを非接触式に点弧するために、第1極性又は第2極性を有する1つの第1点弧電圧インパルスを生成し、当該アークを点弧後に、場合によっては転極後に当該第2極性により維持するように構成されている。この場合、当該電源ユニットは、第1点弧電圧インパルス後に点弧が失敗した場合、アークの点弧が成功するまで、複数の点弧電圧インパルスのシーケンスを、シーケンススケジュールにしたがって生成するようにさらに構成されている。この場合、当該シーケンススケジュールは、当該第1極性を有する複数の点弧電圧インパルスと、当該第2極性を有する複数の点弧電圧インパルスとを含む。これにより、当該溶接装置は、簡単に操作することができ、様々な材料及びパラメータの場合でもアークを確実に非接触式に点呼することができる。
【0029】
好ましくは、様々な材料及び/又は表面のための記憶された複数のシーケンススケジュールを有する内部データバンクが、当該溶接装置内に、特にこの溶接装置の制御調整装置内に記憶され得る。
【0030】
好ましくは、当該内部データバンクは、複数のシーケンススケジュールが記憶されている外部データバンクと少なくとも部分的に同期可能である。この場合、当該溶接装置は、外部データバンクが記憶されている外部メモリ及び/又はネットワーク及び/又はクラウドとの少なくとも一時的な接続を確立するように構成され得る。これにより、当該溶接装置によって取得された知識及び改良点が、別の同様な溶接装置に対しても利用され得て、且つ別の同様な溶接装置によって取得された知識及び改良点が、当該溶接装置に対しても利用され得る。
【0031】
別の好適な実施の形態では、記憶された少なくとも1つのシーケンススケジュールが、入出力装置を介してユーザによってプログラミング可能であり得る。これは、特に非常に腕のいい熟練のユーザが溶接装置をその固有の条件に特別に適合させることを可能にする。
【0032】
好ましくは、実際に選択されたシーケンススケジュールが、ユーザインタフェース又は入出力装置を介して表示可能であり得る。当該表示は、例えば、シーケンススケジュールを提示することによって、又はピクトグラムによって、又は図を含む表示によって実行され得る。これは、ユーザが選択されたシーケンスアルゴリズムを知ることと、先に問題なく使用されたシーケンスアルゴリズムを再確認することとを容易にする。
【0033】
好ましくは、その都度使用されるシーケンススケジュールの品質及び/又は点弧挙動を評価する少なくとも1つの特性変数が決定可能であり得る。この場合、当該決定された特性変数が、必要に応じて記憶され、及び/又はユーザインタフェース若しくは入出力装置を介して表示可能であり得る。当該特性変数のこの決定及び管理は、品質保証機構及び品質向上機構の実装を容易にする。必要に応じて、当該特性変数は、同期によって他の実際値に適合され得て、必要に応じてメーカに送信され得る。これは、生産を適切に改良するために利用され得る。
【0034】
別の好適な実施の形態では、当該溶接装置は、学習可能なアルゴリズムを使用し、最適な点弧に適したシーケンススケジュールを自動的に選択し、適合するように構成され得る。これにより、当該溶接装置は、取得した「経験」及び知識に基づいて「学習」する。失敗の原因が、学習可能なアルゴリズムによって確認され得て、当該失敗の原因の解決策が自動的に実行され得る。
【0035】
以下に、本発明を本発明の例示的で、概略的で且つ限定されない有益な実施の形態を示す図1~7を参照して詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】溶接装置の概略ブロック図である。
図2】負極でのアークの点弧時の代表的な電圧の推移チャート及び電流の推移チャートである。
図3】正極でのアークの点弧時の代表的な電圧の推移チャート及び電流の推移チャートである。
図4】負インパルスで開始する連続する点弧電圧インパルスによるアークの点弧時の代表的な電圧の推移チャート及び電流の推移チャートである。
図5】異なるシーケンススケジュールによる連続する複数の点弧電圧インパルスのチャートである。
図6】異なるシーケンススケジュールによる連続する複数の点弧電圧インパルスのチャートである。
図7】異なるシーケンススケジュールによる連続する複数の点弧電圧インパルスのチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
図1は、電源ユニット7とチューブパッケージ8を介して電源ユニット7に接続されている溶接ヘッド3とを有する溶接装置6の概略図である。電源ユニット7は、公知のように少なくとも1つの溶接電源9と少なくとも1つの保護ガス源10とを有する。
【0038】
溶接ヘッド3は、非溶融電極2と保護ガスノズル11とを有する。溶接スケジュール9によって点弧され、調整され設定された溶接スケジュールにしたがって維持されるアーク1が、溶接中にこの電極2と1つのワーク5との間で発生する。開ループ制御と閉ループ制御とのため、溶接電源9は、開ループ制御装置及び/又は閉ループ制御装置13に接続している。アークを覆い、当該アークによって生成された溶接池を周囲空気の望まない影響から保護する保護ガスが、溶接中に保護ガスノズル11を通流する。例えばアルゴン、ヘリウム及びこれらの混合物並びに窒素成分と酸素成分とを僅かに含むアルゴンが、保護ガスとして使用され得る。さらに、不活性ガス混合物、還元性ガス混合物及び酸化性ガス混合物が同様に使用され得る。例えば、ガス混合物中の水素の割合は、5容量%に達し得る。溶接ヘッド3は、必要に応じてより複雑に構成されてもよい。例えば、溶接ヘッド3は、通常は冷却されたプラズマノズルをアークの圧縮のために有し得るプラズマ溶接ヘッドとして構成され得る。必要に応じて、保護ガスの供給及び/又は保護ガスの合成が、閉ループ制御装置及び/又は開ループ制御13によって閉ループ制御又は開ループ制御され得る。
【0039】
溶接棒12が、溶接中に手動で又は自動供給によって溶接中にアークによって加熱された領域内に送り込まれる。この場合、溶接棒12は、溶融し、ワーク5の当該溶融された材料と一緒に溶融池を形成する。当該溶融池は、硬化時に溶接継目を形成する。溶接ヘッド3は、手動で又は自動式に、例えば溶接ロボットによって操作され得る。当該溶接棒も、手動で、又は溶接棒の自動送りによって挿入され得る。当該溶接棒の自動送りの送り速度は、溶接ヘッド3の移動に適合されている。
【0040】
非溶融電極は、ワークの表面に接触してはならないので、アーク1は、それぞれの溶接プロセス前に非接触式に点弧されなければならない。一般に純粋なタングステン電極又は酸化添加物を含むタングステン電極である非溶融電極が、ワークの表面に接触すると、タングステン含有物又はタングステン残留物が、ワーク中又は溶接継目中に再析出する。当該点弧は、一般に、溶接電源9によって電極2とワーク5との間に印可される点弧電圧インパルスによって実行される。以下に、アーク1の非接触式の点弧をさらに詳しく説明する。
【0041】
アーク1が安定して発生しているときに(これは、溶接電源9によって溶接電流の増大によって確認される)、アーク1が、選択された溶接スケジュールにしたがって維持される。この場合、当該溶接スケジュールは、例えば、一定の電流若しくは一定の電力によるアークの使用、インパルスアークの使用(両者は、直流溶接プロセスを示す)又は交流アーク(交流溶接プロセス)であり得る。
【0042】
図2~4はそれぞれ、アーク前、アーク中及びアーク後の溶接電圧U及び溶接電流Iの推移が対比されているシーケンスを示す。
【0043】
図2は、負極でのアークの点弧を示す。点弧工程が、時点t1に開始する。この場合、アークを点弧するため、連続する負の点弧電圧インパルスが、電極2とワーク5との間に印加される。当該電極でのこの種類の負の点弧電圧インパルスによる点弧は、「負点弧」と呼ばれる。当該点弧工程は、例えば、(手動の溶接の場合は)溶接装置のボタンを押すことによって、又は(機械溶接の場合は)機械制御によって起動され得る。例示された例では、アークは、著しい遅延を伴って初めて、すなわち第6の点弧電圧インパルス(時点t2)によって点弧する。例えば、複数個の点弧電圧インパルスが、それぞれ5msの長さを有し、1秒当たり100個の点弧電圧インパルスによって印加される場合、図2では、これは、70msの点弧遅延に相当する。確かに、このような点弧遅延は、ユーザによってすぐに知覚され得るが、一般に依然として不快とは感じられない。しかしながら、当該点弧遅延は、当該点弧過程が所定の溶接作業にとって最適でないという兆候である。
【0044】
当該第6の点弧電圧インパルスの場合、溶接プロセスにとって典型的なアーク1が、時点t2に電極2とワーク5との間の点弧電圧インパルスによって生成されたイオン化領域内で発生する。これは、電流推移中に溶接電流Iの大きい(負の)増大によって認識可能である。溶接電源9は、当該溶接電流の推移に基づいて当該アークの点弧を認識し、別の点弧電圧インパルスを生成するのではなくて、選択された溶接スケジュールにしたがって、例えば一定の溶接電流若しくは一定の電力によって、又は図示された場合のように溶接インパルスとして通電される可変の溶接電流によって、別の溶接プロセスを制御する。この場合、インパルスアークが生成される。必要に応じて、例えばアルミニウム及びアルミニウムの合金又はマグネシウム及びマグネシウムの合金の溶接時に有益であり得るように、当該溶接スケジュールは、交流電流(交流溶接プロセス)によって続行され得る。アルミニウム、マグネシウム及びこれらの合金のWIG(タングステン・イナート・ガス)溶接に対して典型的に設定される交流周波数は、100Hzである。
【0045】
負極でのアークの点弧時に(すなわち負点弧時に)、電子が、電極2からワーク5に移動する。その結果、熱が、主に当該ワークで生成される。これは、溶接池を生成するためにも望ましい。電極2は、それほど加熱せず、このため過度な摩滅から保護される。溶接の開始時のアークが、多くの場合に非常に不安定に発生すること、及び特定の溶接材料時に、点弧が、目に見えて遅延し得ることが、当該負点弧時の欠点である。0.5秒以上の点弧遅延が、多くのユーザによってすぐに不快と感じられる。場合によっては、点弧が、完全に発生しないことも起こり得る。この場合、アークが、予め設定されている長さの点弧電圧インパルスのシーケンス中に全く点弧しない。点弧電圧インパルスのシーケンスの長さは、例えば安全規制及び規格によって又は溶接電流9の出力によって、動作条件にしたがって予め設定され得る。
【0046】
点弧の確実性と点弧後のアークの安定性とを向上させるため、点弧を正極で実行する代わりの点弧過程が開発された。溶接プロセス自体は、多くの場合に負極で実行されるので、アークが安定に発生するとすぐに、当該溶接のためのアークは、一般にさらに負極に転極されなければならない。図3は、「逆極性点弧(Reversed Polarity Ignition)」(RPI点弧)とも呼ばれる正極での点弧過程の場合の溶接電圧U及び溶接電流Iの代表的な推移を示す。正極での点弧の場合、例えば酸化付着物が、ワークの表面から除去されることによって、当該表面が、射出する電子によってほぼ「洗浄」される。正極での点弧の場合、タングステン電極の温度が上昇する。これは、アークの点弧を容易にする。
【0047】
図3に示された点弧過程は、時点t1に正の点弧電圧インパルスのシーケンスによって開始する。この場合、アークが、第4の点弧電圧インパルスによって(時点t2に)点弧する。これは、(正の)溶接電流の増大によって認識可能である。当該アークの点弧後に、溶接電圧及び溶接電流が、短い加熱期間(例えば、約10~20ms)の間、正極によって維持され、その後、負極への転極が行われる。図3では、当該加熱期間は、当該点弧電圧インパルスの終了から時点t3まで及んでいる。この場合、当該アークが、転極時にさらに消弧することが起こり得る。これは、図3では時点t3に対する場合である。それ故に、アークを点弧する正の点弧電圧インパルスが再び続く。このアークは、加熱期間の間、正極で再び維持され、次いで負極に再び転極される。この場合、図示された例では、当該アークは再び消弧する。アークが、正極で3回目に点弧し、さらなる加熱期間後に初めて、負極への転極が、時点t4に対して問題なく実行され、実際の溶接過程が、選択された溶接スケジュールにしたがって実行され得る。図3では、当該溶接スケジュールは、インパルス溶接過程として示されている。しかしながら、溶接が、一定の直流で又は一定の電力で又は交流(交流溶接プロセス)で実行されてもよい。
【0048】
タングステン電極によって正極で点弧されると、これは、点弧の信頼性及び溶接開始時のアーク安定性を改良できる。しかしながら、アークが転極できずに、したがって再び消弧することがあり得る。正極での点弧時に、電子が、ワークから電極に移動するので、電極先端部が強く発熱する。これは、当該電極先端部の摩滅を加速する。アークが、転極できないと、アーク負荷が、点弧している正のアークによって当該電極先端部に強くかかり続ける。
【0049】
特に平坦で研磨加工された表面の場合、正極での点弧は困難になり得る。例えば、高合金鋼及び低合金鋼並びに非鉄金属の溶接時に、又は同じ溶接点若しくは重なり合っている複数の溶接点での再点弧時に、点弧失敗が、正極で発生し得る。何故なら、この場合に存在する非常に平坦なワークの表面が、当該正極での点弧挙動を悪化させるからである。この場合、点弧過程の最適な選択は、例えば、表面粗度、材料の化学組成、結晶構造、粒径、粒度、コーティング等のような、ワークの多様な特性及びパラメータに依存する。実際の選択が、既に維持困難に適切でない場合、状況が、溶接中に変化することも場合によっては起こり得て、例えば、溶接が、先に形成された継目で続行されなければならないときに、例えば、先に選択され最適に機能している点弧過程が、突然にもはや機能しないことも起こり得る。
【0050】
図4には、その都度のワークの特性及びパラメータに依存せずに最適な点弧信頼性を常に保証する好適な点弧過程中の溶接電圧U及び溶接電流Iの推移が示されている。この場合、アークが点弧するまで、第1極性を有する点弧電圧インパルスと第2極性を有する点弧電圧インパルスとを含む連続する複数の点弧電圧インパルスが生成される。図示された例では、最初に、1つの負の第1点弧電圧インパルスが、時点t1で印加される。この場合、アークが直ちに点弧すると、当該過程は、図2に示されたように続行される。例示されているように、この第1点弧電圧インパルスが、アークを発生させないときに、この第1点弧電圧インパルスの直後に(必要に応じて、予め設定されている遅延を伴って)、逆の正の極性を有する1つの第2点弧電圧インパルスが追従する。アークが、この第2点弧電圧インパルスによって時点t2に点弧する。次いで、当該アークは、同様に加熱期間にわたって維持され、時点t3に転極される。その後に、従来の溶接過程が、選択された溶接スケジュールにしたがって後続する。
【0051】
図4では、アークは、既に第2点弧電圧インパルス時に発生している。しかしながら、点弧が発生するまで、当該アークはより長く持続してもよい。この場合、問題のない点弧が発生するまで、当該点弧過程は、予め規定された連続する正の点弧電圧インパルスと負の点弧電圧インパルスとによって続行される。この場合、当該シーケンスは、この正の点弧電圧インパルスとこの負の点弧電圧インパルスとを規定する所定のシーケンススケジュールに相当する。
【0052】
図4は、時点t3後の溶接作業中の溶接電圧インパルス(図4の上側)と溶接電流インパルス(図4の下側)とのシーケンスを示す。アークの問題のない点弧が、時点t2後に実行される。例えば、連続する複数の溶接電圧インパルス連続する複数の溶接電流インパルスとから成るインパルス溶接過程(パルス化直流溶接プロセス)(Impulsschweissverfahren(gepulster DC-Schweissprozess))が示されている。当該図示されたインパルス溶接過程では、複数の溶接中間フェーズによって中断されている複数の溶接電圧インパルス(図4の上側)と複数の溶接電流インパルス(図4の下側)とが供給されている。これらの溶接中間フェーズでは、溶接電圧/溶接電流が、絶対値的により低い基底溶接電圧/基底溶接電流に減少されている。
【0053】
当該基底溶接電圧/当該基底溶接電流は、溶接中間フェーズ中は零でもよい。複数の溶接電圧インパルス(図4の上側)と複数の溶接電流インパルス(図4の下側)とは、0.1~10kHzの範囲内の周波数で発生し得る。
【0054】
図4には、パルス化直流溶接プロセスが示されているが、時点t3以降は、定電流溶接プロセス(非パルス化直流溶接プロセス)、交流溶接プロセス、又は交流溶接プロセスと直流溶接プロセスとから成る組み合わせである、いわゆる交流直流混成溶接プロセスが実行されてもよい。
【0055】
交流直流混成溶接プロセスは、特にパルス化直流溶接プロセスが実行される溶接フェーズと、交流溶接プロセスが実行される溶接フェーズとから成る。したがって、交流直流混成溶接プロセスは、溶接プロセス中に、第1極性を有する複数の溶接電圧インパルスが発生し(例えば、第1極性によるパルス化直流溶接プロセスの一部)、その後に当該溶接電圧が、別の第2極性に転極され(交流溶接プロセスの一部)、同様にこの別の第2極性を有する複数の溶接電圧インパルスが発生し(第2極性によるパルス化直流溶接プロセスの一部)、その後に再び当該溶接電圧が転極され、以下同様に実行されることを意味する。
【0056】
しかし、交流直流混成溶接プロセスは、第1極性を有する複数の溶接電圧インパルスの発生後に(例えば、第1極性によるパルス化直流溶接プロセスの一部)、当該溶接電圧が複数回転極される、すなわち最初に第2極性に転極され、その後に第1極性に戻り、その後に必要に応じて第2極性に再び戻り(交流溶接プロセスの一部)、以下同様に実行され、当該極性の複数回の転極後に初めて、所定の極性を有する同じ極性の複数の溶接電圧インパルスが新たに後続することも意味し得る。この場合、当該溶接プロセスの種類は、実行すべき溶接作業に応じて選択される。
【0057】
この過程の場合、正極で点弧されたアークが、転極中に再び消弧すると、既に開始されている所定のシーケンスの点弧電圧インパルスが、当該シーケンススケジュールにおいてその次に提供される1つの点弧電圧インパルスによって続行され得るか、又は、当該シーケンスが、同じシーケンススケジュール又は変更されたシーケンススケジュールにしたがって新たに開始され得る。
【0058】
ここでの具体的な開示内容に関連して、シーケンス状に連続する複数の点弧電圧インパルスの少なくとも複数の極性の取り決めが、「シーケンススケジュール」と呼ばれる。必要に応じて、当該シーケンススケジュールは、別のパラメータを規定してもよい。この場合、当該パラメータは、例えば、点弧電圧インパルスの振幅と、それぞれ2つの点弧電圧インパルス間の間隔と、シーケンスの最大長さとから選択され得る。
【0059】
図5~7には、代表的な異なるシーケンススケジュールが例示されている。
【0060】
図5は、連続する複数の点弧電圧インパルスを示す。これらの点弧電圧インパルスの場合、1つの正の点弧電圧インパルスで開始して、1つの正の点弧電圧インパルスと、1つの負の点弧電圧インパルスとが、それぞれ交互に追従する。同様に、図5に示されたシーケンススケジュールは、1つの負の点弧電圧インパルスにより開始してもよい。
【0061】
図5は、異なる極性の連続する2つの点弧電圧インパルス間にそれぞれの1つの点弧休止期間を示す。この場合、点弧休止期間は、点弧電圧が第1極性の点弧電圧インパルスから第2極性の点弧電圧インパルスへの(又は第2極性の点弧電圧インパルスから第1極性の点弧電圧インパルスへの)転極中にほぼ零にある時間間隔を意味する。上記のように、アークが既に点弧したか否かを検査するため、(零交差時に発生する)点弧休止期間が利用され得る。このような点弧休止期間は、好ましくは短く保持する必要がある。一般に、このような点弧休止期間は、50μs~0.1μsの期間であり、好ましくは20μs~0.2μsの期間にあり、特に好ましくは10μs~0.5μsの期間にある。
【0062】
当該点弧休止期間は、説明したように非常に短くできるので、図4では、時点t1以降の最初の負の点弧電圧インパルスから次の正の点弧電圧インパルスへの移行時に、点弧休止期間が図示されていない。当該図示されていない点弧休止期間は、図4では時点t1と時点t2との間に発生する。一方で、図4に時点t3以降に示された溶接フェーズは、上記のように、溶接電圧/溶接電流が溶接作業中に絶対値的により低い基底溶接電圧/基底溶接電流に減少される溶接中間フェーズを示し、したがって点弧休止期間と明確に区別することができる。
【0063】
説明したように、アークが、既に点弧したか否かを検査するため、(零交差時に発生する)点弧休止期間が利用され得る。
【0064】
図6は、別の好適なシーケンススケジュールを示す。この場合、点弧中間フェーズによって離間された一定数の正の点弧電圧インパルスに、それぞれ、点弧中間フェーズによって離間された一定数の負の点弧電圧インパルスが追従する。転極が、複数の正の点弧電圧インパルスの間で又は複数の負の点弧電圧インパルスの間で実行されないので、点弧中間フェーズと呼ばれる、ただ1つの極性の複数の点弧電圧インパルス間にある複数の間隔は、本発明の意味における点弧休止期間ではない。
【0065】
図6に示された場合では、複数の点弧中間フェーズによってそれぞれ離間された8つの正の点弧電圧インパルスに、複数の点弧中間フェーズによってそれぞれ離間された8つの負の点弧電圧インパルスが後続する。この場合、このシーケンスは、必要に応じて最大長さに達するまで繰り返され得る。図6は、極性の異なる隣接した2つの点弧電圧インパルス間にある、本発明の点弧休止期間も示す(チャートの中央)。
【0066】
図7は、極性だけが異なり、複数の点弧中間フェーズによって離間された8つの負の点弧電圧インパルスで開始され、複数の点弧中間フェーズによって離間された8つの正の点弧電圧インパルスが追従する同様なシーケンススケジュールを示す。図6と同様に、図7も、極性の異なる隣接した2つの点弧電圧インパルス間にある、本発明の点弧休止期間を示す。この場合、転極は、ここでは図6に対して反対方向に実行される。
【0067】
複数の正の点弧電圧インパルス間にある複数の点弧中間フェーズは、複数の負の点弧電圧インパルス間にある複数の点弧中間フェーズと同じでもよく又は異なる長さでもよい。これらの点弧中間フェーズは、異なる期間を有してもよく、例えば、50ms~5msの比較的長い期間持続でき、5ms~50μsの比較的短い期間持続でき又は50μs~0.1μsの非常に短い期間持続できる。これらの期間を選択する場合、アークを点弧するための条件に加えて、国内規格若しくは国際規格又は国内規制若しくは国際規制も考慮され得る。
【0068】
シーケンススケジュールにおいてそれぞれ連続する同じ極性の点弧電圧インパルスの数は、図6又は7に示された数よりも多くてもよく又は少なくてもよい。必要に応じて、1つのシーケンススケジュールにおける同じ極性のそれぞれ連続する点弧電圧インパルスの数は変化してもよく、又は、連続する正の極性を有する点弧電圧インパルスの数と、連続する負の極性を有する点弧電圧インパルスの数とは互いに異なってもよい。必要に応じて、正の極性を有する点弧電圧インパルスの総数は、負の極性を有する点弧電圧インパルスの総数と互いに異なってもよく、又は、双方の点弧電圧インパルスの総数は等しくてもよい。
【0069】
図5~7に示された場合、個々の点弧電圧インパルスはそれぞれ、同じ(正又は負の)振幅と同じ期間とを有し、連続するそれぞれ2つの点弧電圧インパルス間の時間間隔は、それぞれ等しい。しかしながら、連続して生成される複数の点弧電圧インパルスのパラメータが所定の規則で相違するシーケンススケジュールを規定することも可能である。当業者は、ここで開示された内容を知ることで、型通りの作業及び労力によって適切なシーケンススケジュールを自発的に有益に選択することができ、したがって上記の補助条件を考慮することができる。
【0070】
いずれの場合も、アークが点弧するまでか、又は、シーケンススケジュールに対して規定された最大期間若しくは最大点弧電圧インパルス数に達し、点弧過程が点弧なしに失敗するまで、当該複数の点弧電圧インパルスは、対応するシーケンススケジュールにしたがって生成される。
【0071】
個々の構成及び事例において記載されている特徴及びバリエーションは、(場所及び位置に関して異なって構成されていない限り)別の事例及び構成の特徴及びバリエーションと任意に組み合わせられ得て、特に、それぞれの構成又はそれぞれの事例の他の詳細を必ず追記することなしに、特許請求の範囲に記載の発明の特徴を説明するために使用され得る。
【符号の説明】
【0072】
1 アーク
2 電極
3 溶接ヘッド
4 材料表面
5 ワーク
6 溶接装置
7 電源ユニット
8 チューブパッケージ
9 溶接電源
10 保護ガス源
11 保護ガスノズル
12 溶接棒
13 制御調整装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7