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特許7496030塩化ビニリデン系樹脂フィルム、及びそれを用いた充填包装体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】塩化ビニリデン系樹脂フィルム、及びそれを用いた充填包装体
(51)【国際特許分類】
   B65D 65/04 20060101AFI20240529BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20240529BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240529BHJP
   C08L 27/08 20060101ALI20240529BHJP
   C08L 23/04 20060101ALI20240529BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20240529BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
B65D65/04 A
B65D65/40 D
C08L101/00
C08L27/08
C08L23/04
C08L23/26
C08J5/18 CER
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023510232
(86)(22)【出願日】2021-12-13
(86)【国際出願番号】 JP2021045866
(87)【国際公開番号】W WO2022209039
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-07-26
(31)【優先権主張番号】P 2021056968
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】増田 健一
【審査官】家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/141361(WO,A1)
【文献】特開2015-164860(JP,A)
【文献】特開2019-073306(JP,A)
【文献】特開2020-070058(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 65/00- 65/46
C08L 1/00-101/14
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニリデン系樹脂及び塩化ビニリデン系樹脂を除く樹脂を含有する塩化ビニリデン系樹脂フィルムであって、
前記塩化ビニリデン系樹脂を除く樹脂が、超低密度ポリエチレン及びアイオノマー樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含有する前記塩化ビニリデン系樹脂フィルムであり、
長手方向の両端部が集束された筒状の前記塩化ビニリデン系樹脂フィルムに、20質量%の脂質を含む内容物が充填されて封入されてなる充填包装体を、0.2MPaにおいて120℃の熱水中で10分間の加圧加熱殺菌に供し、前記加圧加熱殺菌前の前記塩化ビニリデン系樹脂フィルムの厚さ40μm換算の酸素ガス透過度をA(cm/m・day・atm)とし、前記加圧加熱殺菌後の前記塩化ビニリデン系樹脂フィルムの厚さ40μm換算の酸素ガス透過度をB(cm/m・day・atm)としたときに、(B-A)/A×100で求められる酸素ガス透過度の変化率が35.0%以下である塩化ビニリデン系樹脂フィルム。
【請求項2】
前記酸素ガス透過度の変化率が1.5%以下である請求項1に記載の塩化ビニリデン系樹脂フィルム。
【請求項3】
前記酸素ガス透過度の変化率が-10.0%以上である請求項1に記載の塩化ビニリデン系樹脂フィルム。
【請求項4】
前記酸素ガス透過度の変化率が-8.0%以上である請求項1に記載の塩化ビニリデン系樹脂フィルム。
【請求項5】
前記塩化ビニリデン系樹脂フィルムにおいて、前記塩化ビニリデン系樹脂を除く樹脂の含有率が0.5質量%以上3質量%未満である請求項に記載の塩化ビニリデン系樹脂フィルム。
【請求項6】
前記塩化ビニリデン系樹脂が、塩化ビニリデン60質量%以上95質量%以下と塩化ビニル5質量%以上40質量%以下との共重合体である請求項1に記載の塩化ビニリデン系樹脂フィルム。
【請求項7】
請求項1に記載の塩化ビニリデン系樹脂フィルムと内容物とを備える充填包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニリデン系樹脂フィルム、及びそれを用いた充填包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
畜肉や魚肉等の内容物を筒状フィルムに充填し、両端を結紮して製造される包装体は、帯状のフィルムを筒状に巻き側縁部を重ね縦シールして筒状フィルムを形成する機構と、筒状フィルムに内容物を充填する機構と、内容物が充填された筒状フィルムの両端を結紮する機構とを備える包装体製造装置で製造でき、包装体を製造後、内容物の殺菌や調理を目的としたレトルト処理が行われることが知られている。レトルト処理後には、内容物の味や色の保持が求められるため、上記包装体に用いられるフィルムには、塩化ビニリデン系樹脂等の酸素ガスバリア性が優れる材料が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-231639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来は、上記包装体に用いられるレトルト処理前の塩化ビニリデン系樹脂フィルムの酸素ガス透過度が小さいほど、内容物の味や色の保持期間が長くなると考えられていた。しかし、塩化ビニリデン系樹脂フィルムのレトルト処理後の酸素ガス透過度がレトルト処理前よりも大きくなる場合があり、レトルト処理前の酸素ガス透過度が小さくても、内容物の味や色の保持期間が不十分となることがあった。
【0005】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、内容物を充填包装したとき、レトルト処理前後において、該内容物の色の保持期間不足を解消する塩化ビニリデン系樹脂フィルム、及びそれを用いた充填包装体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定のレトルト処理前後において、塩化ビニリデン系樹脂フィルムの酸素ガス透過度の変化率を特定の範囲に制御することにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明に係る塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、塩化ビニリデン系樹脂を含有し、長手方向の両端部が集束された筒状の前記塩化ビニリデン系樹脂フィルムに、20質量%の脂質を含む内容物が充填されて封入されてなる充填包装体を、0.2MPaにおいて120℃の熱水中で10分間の加圧加熱殺菌に供し、前記加圧加熱殺菌前の前記塩化ビニリデン系樹脂フィルムの厚さ40μm換算の酸素ガス透過度をA(cm/m・day・atm)とし、前記加圧加熱殺菌後の前記塩化ビニリデン系樹脂フィルムの厚さ40μm換算の酸素ガス透過度をB(cm/m・day・atm)としたときに、(B-A)/A×100で求められる酸素ガス透過度の変化率が35.0%以下である。
【0008】
上記塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、前記酸素ガス透過度の変化率が1.5%以下であることが好ましい。
【0009】
上記塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、前記酸素ガス透過度の変化率が-10.0%以上であることが好ましい。
【0010】
上記塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、前記酸素ガス透過度の変化率が-8.0%以上であることが好ましい。
【0011】
上記塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、更に、塩化ビニリデン系樹脂を除く樹脂を含有することが好ましい。
【0012】
上記塩化ビニリデン系樹脂フィルムにおいて、前記塩化ビニリデン系樹脂を除く樹脂が、超低密度ポリエチレン及びアイオノマー樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含有することが好ましい。
【0013】
前記塩化ビニリデン系樹脂フィルムにおいて、前記塩化ビニリデン系樹脂を除く樹脂の含有率が0.5質量%以上3質量%未満であることが好ましい。
【0014】
上記塩化ビニリデン系樹脂フィルムにおいて、前記塩化ビニリデン系樹脂が、塩化ビニリデン60質量%以上95質量%以下と塩化ビニル5質量%以上40質量%以下との共重合体であることが好ましい。
【0015】
本発明に係る充填包装体は、上記塩化ビニリデン系樹脂フィルムと内容物とを備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、内容物を充填包装したとき、レトルト処理前後において、該内容物の色の保持期間不足を解消する塩化ビニリデン系樹脂フィルム、及びそれを用いた充填包装体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<塩化ビニリデン系樹脂フィルム>
本発明に係る塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、塩化ビニリデン系樹脂を含有する塩化ビニリデン系樹脂フィルムであって、長手方向の両端部が集束された筒状の前記塩化ビニリデン系樹脂フィルムに、20質量%の脂質を含む内容物が充填されて封入されてなる充填包装体を、0.2MPaにおいて120℃の熱水中で10分間の加圧加熱殺菌に供し、前記加圧加熱殺菌前の前記塩化ビニリデン系樹脂フィルムの厚さ40μm換算の酸素ガス透過度をA(cm/m・day・atm)とし、前記加圧加熱殺菌後の前記塩化ビニリデン系樹脂フィルムの厚さ40μm換算の酸素ガス透過度をB(cm/m・day・atm)としたときに、(B-A)/A×100で求められる酸素ガス透過度の変化率は35.0%以下であり、好ましくは30.0%以下、より好ましくは20.0%以下、更により好ましくは2.0%以下、特に好ましくは1.5%以下である。前記酸素ガス透過度の変化率が35.0%以下であると、内容物の色の保持期間不足が解消されやすい。前記酸素ガス透過度の変化率の下限値は特に限定されず、-10.0%以上でよく、-8.0%以上でもよい。なお、酸素ガス透過度の変化率を測定する際に用いられる脂質としては、特に限定されず、例えば、豚脂肪が用いられる。
【0018】
上記塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、更に、塩化ビニリデン系樹脂を除く樹脂を含有してもよい。上記塩化ビニリデン系樹脂を除く樹脂は、超低密度ポリエチレン及びアイオノマー樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含有することができる。
【0019】
〔ポリ塩化ビニリデン系樹脂〕
ポリ塩化ビニリデン系樹脂(以下、「PVDC」ということがある。)は、塩化ビニリデンのホモ重合体でもよく、塩化ビニリデン60~98質量%と、塩化ビニリデンと共重合可能な他の単量体2~40質量%との共重合体でもよい。塩化ビニリデンと共重合可能な他の単量体としては、例えば、塩化ビニル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ラウリル等のアクリル酸アルキルエステル(アルキル基の炭素数1~18);メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ラウリル等のメタクリル酸アルキルエステル(アルキル基の炭素数1~18);アクリロニトリル等のシアン化ビニル;スチレン等の芳香族ビニル;酢酸ビニル等の炭素数1~18の脂肪族カルボン酸のビニルエステル;炭素数1~18のアルキルビニルエーテル;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸等のビニル重合性不飽和カルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のビニル重合性不飽和カルボン酸のアルキルエステル(部分エステルを含み、アルキル基の炭素数1~18)等が挙げられる。より好ましくは塩化ビニル、アクリル酸メチル、及びアクリル酸ラウリルから選ばれる少なくとも1種である。塩化ビニリデンと共重合可能な他の単量体は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。他の単量体の共重合割合は、より好ましくは3~35質量%、更に好ましくは3~29質量%、特に好ましくは4~22質量%の範囲である。他の単量体の共重合割合が3質量%以上であると溶融加工性が低下しにくく、他方、他の単量体の共重合割合が35質量%以下であるとガスバリア性が低下しにくい。また、溶融加工性を向上させるために2種以上のPVDCを混合してもよい。PVDCは、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法等の任意の重合法により合成することができる。PVDCは、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
特に、塩化ビニリデンと共重合可能な他の単量体が塩化ビニルである場合、溶融加工性、ガスバリア性等の観点から、PVDCは、塩化ビニリデン60質量%以上95質量%以下と塩化ビニル5質量%以上40質量%以下との共重合体であることが好ましく、塩化ビニリデン63質量%以上90質量%以下と塩化ビニル10質量%以上37質量%以下との共重合体であることがより好ましく、塩化ビニリデン66質量%以上85質量%以下と塩化ビニル15質量%以上34質量%以下との共重合体であることが更により好ましく、塩化ビニリデン69質量%以上83質量%以下と塩化ビニル17質量%以上31質量%以下との共重合体であることが特に好ましい。
【0021】
〔超低密度ポリエチレン〕
超低密度ポリエチレンとは、密度が0.915g/cm以下のポリエチレンであって、例えば、ブテン、ヘキセン、オクテン等のC4~C8のα-オレフィンコモノマーを有するエチレン-α-オレフィンコポリマーを表す。超低密度ポリエチレンは、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
〔アイオノマー樹脂〕
アイオノマー樹脂とは、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(ベースポリマー)が有する酸性基の少なくとも一部が、金属イオンで中和された化合物を意味する。アイオノマー樹脂は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
不飽和カルボン酸に由来する構成単位としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、又はマレイン酸等に由来する構成単位が挙げられる。
【0024】
アイオノマー樹脂を形成するエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(ベースポリマー)は、少なくとも、エチレンと、不飽和カルボン酸と、の共重合体であり、エチレンに由来する構成単位と、不飽和カルボン酸に由来する構成単位と、を有している。
【0025】
これらの中でも、不飽和カルボン酸に由来する構成単位としては、(メタ)アクリル酸であることが好ましい。
【0026】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体は、エチレンに由来する構成単位と、不飽和カルボン酸に由来する構成単位とに加えて、エチレン及び不飽和カルボン酸以外のモノマーに由来する構成単位を含んでいてもよい。
【0027】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体(ベースポリマー)が有する酸性基の中和に用いられる金属イオンとしては、特に制限はなく、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等のアルカリ金属イオンが好ましく、特にナトリウムが好ましい。
【0028】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及び「メタクリル」の少なくとも一方を意味する。
【0029】
〔他の樹脂〕
本発明に係る塩化ビニリデン系樹脂フィルムは、種々の特性及び/又は成形加工性の改良を目的として、必要に応じて、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、超低密度ポリエチレン、及びアイオノマー樹脂以外の他の樹脂を含有してもよい。他の樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン―アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン-メチルアクリレート共重合体(EMA)、エチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレンーブチルアクリレート共重合体(EBA)等が挙げられる。他の樹脂は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
〔樹脂の含有率〕
本発明に係る塩化ビニリデン系樹脂フィルムにおいて、塩化ビニリデン系樹脂を除く樹脂の含有率は、0.5質量%以上3.0質量%未満が好ましく、1.0質量%以上3.0質量%未満がより好ましく、1.0質量%以上2.5質量%以下が特に好ましい。上記含有率が0.5質量%以上であると加圧加熱殺菌(レトルト処理)後の内容物の退色の抑制効果が十分となりやすい。上記含有率が3.0質量%未満であるとフィルムが白濁しにくい。また、上記含有率を変えることによって、酸素ガス透過度の変化率を調整することができる。一方、本発明に係る塩化ビニリデン系樹脂フィルムにおいて、塩化ビニリデン系樹脂の含有率は、97.0質量%超99.5質量%以下が好ましく、97.0質量%超99.0質量%以下がより好ましく、97.5質量%以上99.0質量%以下が特に好ましい。
【0031】
〔添加剤〕
本発明に係る塩化ビニリデン系樹脂フィルムには、必要に応じて、従来、充填包装体に備えられる筒状の包装フィルムに対し、種々の特性や成形加工性の改良を目的として添加される熱安定剤、可塑剤、加工助剤、着色剤、紫外線吸収剤、pH調整剤、分散助剤等の各種添加剤を含有させることができる。例えば、熱安定剤としては、エポキシ化植物油、エポキシ化動物油、エポキシ化脂肪酸エステル、エポキシ樹脂プレポリマー等のエポキシ化合物;エポキシ基含有樹脂等が挙げられ、好ましくはエポキシ化植物油である。添加剤の種類及び添加量は、従来、充填包装体に備えられる筒状の包装フィルムにおいて、使用される各種添加剤におけると同様に選択することができる。添加剤は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、添加剤は、その使用量の一部又は全部をPVDCの重合工程で単量体組成物中に含有させてもよいし、重合後にPVDCにブレンドしてもよい。
【0032】
<充填包装体及びその製造方法>
本発明に係る充填包装体は、本発明に係る塩化ビニリデン系樹脂フィルムと内容物とを備える。上記充填包装体によれば、レトルト処理前後において、上記内容物の色の保持期間不足を解消することができる。
【0033】
上記内容物としては、特に限定されず、脂質を含んでもよく、例えば、ソーセージ、チーズ、バター、ハンバーグ等の、固体状又はペースト状の加工食品等、従来、充填包装体に充填される内容物を用いることができる。内容物の組成や形状は適宜選択することができる。特に好ましい内容物としては、畜肉ソーセージや魚肉ソーセージ等が挙げられる。
【0034】
本発明に係る充填包装体の製造方法としては、本発明に係る塩化ビニリデン系樹脂フィルムにより内容物が充填包装されて、本発明に係る充填包装体が得られる限り、特に限定されない。
【0035】
以下、本発明の一実施形態に係る充填包装体及びその製造方法について詳述する。
【0036】
1.筒状の包装フィルム
本発明の一実施形態に係る充填包装体は、筒状の包装フィルム及び内容物を備える充填包装体であって、該筒状の包装フィルムは、長手方向に延びる縦シール部を備え、長手方向の両端部が集束されたものである。上記包装フィルムは、本発明に係る塩化ビニリデン系樹脂フィルムを含む。上記包装フィルムは、本発明に係る塩化ビニリデン系樹脂フィルムからなるものでもよい。
【0037】
〔筒状の包装フィルムの大きさ及び厚み〕
筒状の包装フィルムの大きさ及び厚みは、特に限定されず、充填される内容物の大きさに応じて定められる。筒状の包装フィルムの周長は、例えば、15~400mm、多くの場合30~300mm、広く採用されるのは40~200mmの範囲であり、筒状の包装フィルムの長手方向の長さは、例えば、50~400mm、多くの場合70~300mm、広く採用されるのは80~250mmの範囲である。また、筒状の包装フィルムの厚みは、充填される内容物に応じたフィルムの強度やバリア性等を勘案して定められるが、例えば、15~300μm、多くの場合18~200μm、広く採用されるのは20~150μmの範囲である。
【0038】
筒状の包装フィルムとしては、熱収縮性フィルム(一軸延伸フィルム又は二軸延伸フィルム)を使用することもできる。更に、筒状の包装フィルムの強度の増大、ガスバリア性の改良、耐熱性の改良、収縮性の調整等のために、積層フィルムを使用することもでき、例えば、本発明に係る塩化ビニリデン系樹脂フィルムと、ポリエチレンテレフタレートフィルム又はポリプロピレンフィルム等の他のフィルムとの積層フィルムを使用することができる。また、筒状の包装フィルムは、印刷が施されたものでもよい。
【0039】
〔筒状の包装フィルムの製造〕
本発明における筒状の包装フィルムは、従来、充填包装体に備えられる筒状の包装フィルムを製造する方法として採用されている方法によって得ることができる。具体的には、帯状の包装フィルムを、長手方向に延びる両側縁部が重なるように筒状に巻いて筒状フィルムを形成し、次いで、筒状フィルムの前記両側縁部を縦シールすることにより、筒状の包装フィルムを形成することができる。
【0040】
〔帯状の包装フィルムの製造〕
筒状の包装フィルムを形成するための帯状の包装フィルムの製造方法は、特に限定されない。例えば、押出成形によって、シート状又は管状の押出フィルムを製造し、必要に応じて延伸処理して熱収縮性を付与した後、管状の押出フィルムの場合は内側同士を重ねて所定の幅を有する2枚重ねの帯状の包装フィルムを得ることができ、更に必要に応じ長手方向に切断することにより、所望の幅を有する帯状の包装フィルムを製造することができる。筒状の包装フィルムが積層フィルムである場合は、共押出成形又は押出ラミネーションにより積層した帯状の包装フィルムを製造してもよいし、複数のフィルムを接着剤、例えばウレタン系接着剤により接着させて積層した帯状の包装フィルムを製造してもよい。筒状の包装フィルムを印刷が施されたものとする場合は、得られた帯状の包装フィルムに印刷を施してもよい。
【0041】
〔長手方向に延びる縦シール部〕
本発明の一実施形態に係る充填包装体に備えられる筒状の包装フィルムは、長手方向に延びる縦シール部を備えるものである。上記縦シール部は、従来、充填包装体に備えられる筒状の包装フィルムに備えられる長手方向に延びる縦シール部と同様の趣旨で備えられるものである。即ち、帯状の包装フィルムを長手方向に延びる両側縁部が重なるように筒状に巻いて筒状フィルムを形成し、次いで、該筒状フィルムの前記の両側縁部を、高周波誘電加熱、超音波加熱、レーザー加熱、抵抗加熱等による溶着、接着剤による接着(ヒートシールを含む。)等の常法に従って、長手方向(縦方向)に連続してシール(接着)することにより、筒状の包装フィルムが形成されるものである。縦シール部は、筒状の包装フィルムの長手方向の全長に亘って備えられ、これにより、筒状の包装フィルムに充填されて封入される内容物を密封状態に保存することができる。筒状の包装フィルムに備えられる長手方向に延びる縦シール部の幅は、適宜定めることができる。
【0042】
〔長手方向の両端部の集束〕
本発明の一実施形態に係る充填包装体は、長手方向に延びる縦シール部を備え、長手方向の両端部が集束された筒状の包装フィルムを備える。即ち、本発明の一実施形態に係る充填包装体は、筒状の包装フィルムに脂質を含む加工食品等の内容物を充填した後に、筒状の包装フィルムの長手方向の両端部を集束することによって形成され、内容物を密封状態に保存することができる。筒状の包装フィルムの長手方向の両端部の集束は、従来、充填包装体に備えられる筒状の包装フィルムについてされていた長手方向の両端部の集束方法、例えば、アルミワイヤクリップ等の金属製のワイヤクリップ或いは横シールフィルム又はその他の手段による集束方法を採用することができる。
【0043】
2.筒状の包装フィルムに充填されて封入された内容物
本発明の一実施形態に係る充填包装体に備えられる、前記の筒状の包装フィルムに充填されて封入された内容物としては、特に限定されず、前述と同様であり、例えば、脂質を含んでもよい。
【0044】
3.充填包装体
本発明の一実施形態に係る充填包装体は、長手方向に延びる縦シール部を備え、長手方向の両端部が集束された筒状の包装フィルムに、内容物が充填されて封入されてなる充填包装体であって、上記包装フィルムは、本発明に係る樹脂フィルムを含む。上記包装フィルムは、本発明に係る樹脂フィルムからなるものであってもよい。充填包装体の形状及び大きさは、通常、筒状の包装フィルムの形状及び大きさに従って定まる。
【0045】
4.充填包装体の製造方法
本発明の一実施形態に係る、充填包装体の製造方法は、長手方向に延びる縦シール部を備え、長手方向の両端部が集束された筒状の包装フィルムに、内容物が充填されて封入されてなる充填包装体であって、前記包装フィルムは、本発明に係る樹脂フィルムを含む充填包装体を得ることができる限り、特に限定されない。上記製造方法としては、例えば、帯状の包装フィルムを、長手方向に延びる両側縁部が重なるように筒状に巻いて筒状フィルムを形成する筒状フィルム形成工程;前記筒状フィルムの前記両側縁部を縦シールして、長手方向に延びる縦シール部を備える筒状の包装フィルムを形成する縦シール工程;前記筒状の包装フィルムに内容物を充填する充填工程;及び前記筒状の包装フィルムの長手方向の両端部を集束する端部集束工程;を含む、充填包装体の製造方法が挙げられる。
【0046】
〔筒状フィルム形成工程〕
帯状の包装フィルムを、長手方向に延びる両側縁部が重なるように筒状に巻いて筒状フィルムを形成する。帯状の包装フィルムは先に説明した方法に従って製造することができる。例えば、両側縁部が帯状の包装フィルムの長手方向に直交する外周面に沿って重なるようにすればよく、所望によっては、両側縁部が前記の外周面から立ち上がって重なるようにして筒状フィルムを形成してもよい。
【0047】
〔縦シール工程〕
前記筒状フィルムの前記両側縁部を縦シールして、長手方向に延びる縦シール部を備える筒状の包装フィルムを形成する。即ち、帯状の包装フィルムから形成された筒状フィルムの長手方向に重なって延びる両側縁部を、長手方向に延びる所定の幅で連続的に縦シールすることにより長手方向に延びる縦シール部を形成する。
【0048】
縦シールする方法は、高周波誘電加熱、超音波加熱、レーザー加熱、抵抗加熱等による溶着、接着剤による接着(ヒートシールを含む。)等の常法を採用することができる。筒状の包装フィルムは、極性を有する樹脂であるポリ塩化ビニリデン系樹脂を含むことから、縦シールの効率性や、シール強度の調整の容易さ等の観点から、高周波誘電加熱による縦シールが好ましい。具体的には、筒状フィルムの長手方向に重なって延びる両側縁部を走行させながら、高周波誘電加熱装置のシール電極とアース電極との間を通過させる。この両電極の間に高周波電力を供給することにより、筒状フィルムの重なった両側縁部に高周波溶着による連続的な縦シール部が形成される。
【0049】
〔充填工程〕
縦シール工程によって得られた筒状の包装フィルムには、内容物を充填する。即ち、筒状の包装フィルムを、例えば、上方から下方に所定速度で走行させながら、筒状の包装フィルムの開口部に、ポンプとノズルとを備える充填装置のノズルから内容物を連続的に供給して充填を行う。充填装置や、筒状の包装フィルムを走行させ案内する機構等はそれ自体公知のものから適宜選択することができ、筒状の包装フィルムの走行及び内容物の充填速度等は、通常の範囲内において適宜選択することができる。
【0050】
〔端部集束工程〕
内容物が充填された筒状の包装フィルムの長手方向の両端部を集束することにより、筒状の包装フィルムに、内容物が充填されて封入されてなる充填包装体を得ることができる。具体的には、内容物が充填された筒状の包装フィルムを走行させながら、例えば一対のローラからなるしごき装置を使用して、本発明の一実施形態に係る充填包装体の下端部に相当する箇所の下方及び上端部に相当する箇所の上方の筒状の包装フィルムに内容物の不存在部を形成し、該内容物の不存在部の上端部及び下端部を集束することにより、本発明の一実施形態に係る充填包装体の下端部及び上端部を形成し、所定の長さに切断して本発明の一実施形態に係る充填包装体を得る。端部集束工程において、端部を集束する方法としては、従来、充填包装体に備えられる筒状の包装フィルムについてされていた長手方向の両端部の集束方法、例えば、アルミワイヤクリップ等の金属製のワイヤクリップ或いは横シールフィルム又はその他の手段による集束方法を採用することができる。
【実施例
【0051】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を更に説明するが、本発明は、本実施例に限定されるものではない。
【0052】
〔実施例1〕
(母材フィルムの製造)
塩化ビニリデン(VD)及び塩化ビニル(VC)の重合時におけるモノマー仕込み質量比(VD/VC)が81/19で重合時間が38時間である共重合体(85質量部)と塩化ビニリデン(VD)及び塩化ビニル(VC)の重合時におけるモノマー仕込み質量比(VD/VC)が71/29で重合時間が37時間である共重合体(15質量部)とを混ぜ合わせて得た共重合体混合物100質量部に、ジブチルセバケート(DBS)及びエポキシ化植物油を合計5.4質量部配合し、更にエポキシ基含有ポリマー、酸化防止剤、界面活性剤、エルカ酸アミド、炭酸カルシウム、及び色材(タンゴ)を合計1.7質量部加え、更に超低密度ポリエチレン(東ソー製、商品名:LUMITAC 22-6、密度0.900g/cm)を2.5質量部加えて、塩化ビニリデン系樹脂組成物を得た。次に、得られた塩化ビニリデン系樹脂組成物を、直径40mmの押出機スクリューを用いて溶融押出した後、MD(長手)に2.4倍、TD(短手)に4.0倍のインフレーション二軸延伸を行い、環状フィルムの内側同士を重ね合わせて、厚み40μm(厚み20μmのフィルム2枚の厚み)の帯状の塩化ビニリデン系樹脂フィルムaを得て母材フィルムとした。
【0053】
(充填包装体の製造)
塩化ビニリデン系樹脂フィルムaを幅65mmに裁断し、高周波誘電加熱シールを行い筒状に成形しながら、脂質を含む内容物(豚肉52質量%、氷水21.5質量%、豚脂肪20質量%、コーンスターチ5質量%、食塩1.4質量%、トリポリリン酸ナトリウム0.05質量%、アスコルビン酸ナトリウム0.04質量%、及び亜硝酸ナトリウム0.01質量%を含むペースト)を自動充填包装機(クレハ社製、商品名:KAP3000型自動充填包装機)にて充填し、フィルムの端部を収束しつつ、塩化ビニリデン系樹脂テープでクリップしたものを超音波シールで密封して充填包装体(以下、「加圧加熱殺菌前の充填包装体」ともいう。)を得た。なお、筒状の母材フィルムにおいては、折幅(円周の半分の長さ)が28mm、カット長(筒状包装体から内容物を抜き取り、筒状の母材フィルムを平らに押し広げて長手方向に測定した際の長さ)が190mm、質量が35gとなるように条件を調整した。充填包装体を0.2MPaにおいて120℃の熱水中で10分間の加圧加熱殺菌(レトルト処理)に供し、加圧加熱殺菌後の充填包装体を得た。
【0054】
〔実施例2〕
実施例1において、超低密度ポリエチレンの代わりにアイオノマー樹脂(Dow製、商品名:Surlyn 1707、エチレン-メタクリル酸共重合体のナトリウムイオン中和物、密度0.95g/cm)を用いた以外は実施例1と同様にして、フィルムbを得て母材フィルムとし、更に、加圧加熱殺菌前及び加圧加熱殺菌後の充填包装体を得た。
【0055】
〔比較例1〕
実施例1において、超低密度ポリエチレンを添加しない以外は実施例1と同様にして、フィルムcを得て母材フィルムとし、更に、加圧加熱殺菌前及び加圧加熱殺菌後の充填包装体を得た。
【0056】
<測定方法>
〔酸素ガス透過度〕
・加圧加熱殺菌(レトルト処理)前
塩化ビニリデン系樹脂フィルムにマスキング処理(面積12.56cm(2cm×2cm×3.14))して測定した。
・加圧加熱殺菌(レトルト処理)後
充填包装体(内容物:ソーセージ)から塩化ビニリデン系樹脂フィルムを剥離し、マスキング処理(面積12.56cm)して測定した。
・測定機:MOCON社製酸素透過率測定装置OXTRAN 2/21
・測定温湿度:23℃,dry
【0057】
〔熱収縮率〕
塩化ビニリデン系樹脂フィルムを5cm×5cmに切り出し、吊り下げ治具に固定し、120℃に設定したギアオーブンに入れた。その後、吊り下げ治具を回転させながら5分間加熱し、フィルムを取り出した。約23℃の室温で自然冷却後、MD(長手)の寸法DcmとTD(短手)の寸法Ecmを測定し、次式から収縮率を算出した。
MDの熱収縮率(%):(1-D/5)×100
TDの熱収縮率(%):(1-E/5)×100
【0058】
〔退色変化〕
加圧加熱殺菌(レトルト処理)直後と23℃にて1か月保存後に充填包装体から母材フィルムを剥離してソーセージの色味を比較し、赤色から褐色への色の変化が相対的に小さかった場合を〇、当該変化が相対的に大きかった場合を×とした。
【0059】
【表1】
【0060】
ブレンド樹脂の含有率(質量%)の計算:
2.5/(85+15+5.4+1.7+2.5)×100=2.28≒2.3
なお、表中、ブレンド樹脂とは、実施例1における超低密度ポリエチレン及び実施例2におけるアイオノマー樹脂をいう。
【0061】
超低密度ポリエチレンを添加した実施例1は、比較例1よりも酸素ガス透過度の変化率が小さい。アイオノマー樹脂を添加した実施例2は、レトルト処理後(B)の酸素ガス透過度がレトルト処理前(A)の酸素ガス透過度よりも小さく、バリア性が向上している。この理由は必ずしも明らかでないが、アイオノマー樹脂が内容物の脂質を吸収して塩化ビニリデン系樹脂への脂質の拡散を抑制すると共に塩化ビニリデン系樹脂の結晶化を促進したためと考えられる。