(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-28
(45)【発行日】2024-06-05
(54)【発明の名称】非対称形状を有する単結晶SiC基板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/36 20060101AFI20240529BHJP
C30B 33/00 20060101ALI20240529BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20240529BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B33/00
H01L21/304 611W
(21)【出願番号】P 2023513551
(86)(22)【出願日】2022-04-14
(86)【国際出願番号】 EP2022060040
(87)【国際公開番号】W WO2022219129
(87)【国際公開日】2022-10-20
【審査請求日】2023-04-20
(32)【優先日】2021-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519167232
【氏名又は名称】サイクリスタル ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100136744
【氏名又は名称】中村 佳正
(72)【発明者】
【氏名】岡本 國美
(72)【発明者】
【氏名】フォーゲル,マイケル
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-166937(JP,A)
【文献】米国特許第10421158(US,B1)
【文献】特開2010-087486(JP,A)
【文献】米国特許第10611052(US,B1)
【文献】台湾特許出願公開第201835393(TW,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/36
C30B 33/00
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱的に誘導される変形に対して基板の剛性を高めるための非対称形状を有する単結晶SiC基板であって、
主領域と、
前記基板の周辺領域において前記主領域に隣り合って配置された非対称領域と、
を備え、
前記非対称領域が、前記基板に非対称形状を与えるため、前記主領域に対して内向きに傾斜した、単結晶SiC基板。
【請求項2】
前記非対称領域が、基板リムと前記主領域との間に範囲が定められ、
前記非対称領域が、前記主領域に連続してつながり、前記非対称領域と前記主領域との間の傾斜が、前記基板の前記非対称形状における肘部または肩部を規定する、請求項1に記載の単結晶SiC基板。
【請求項3】
前記非対称領域が、前記非対称領域の範囲を定める基板リムの最大高さが前記主領域の基準平面に対して15μm~60μmの範囲、好ましくは25μmとなるように寸法設定され、前記主領域に対して内向きに傾斜した、請求項1に記載の単結晶SiC基板。
【請求項4】
前記最大高さが、前記主領域の前記基準平面に対して、前記非対称領域の基準平面と前記非対称領域の範囲を定める前記基板リムとの交点における最大高さに対応する、請求項3に記載の単結晶SiC基板。
【請求項5】
前記非対称領域が、前記主領域の基準平面に対する前記非対称領域の範囲を定める基板リムの投射と前記主領域との間の最大距離が5mm~30mmの範囲、好ましくは15mmとなるように寸法設定され、前記主領域に対して内向きに傾斜した、請求項1に記載の単結晶SiC基板。
【請求項6】
前記主領域の前記基準平面が、前記基板の前記周辺領域を伴わない前記基板の中間面に対応し、および/または
前記非対称領域の前記基準平面が、前記非対称領域の中間面に対応した、請求項3に記載の単結晶SiC基板。
【請求項7】
前記非対称領域が、前記基板中の配向平板または切り欠きと反対の基板周辺エリアに配置され、
前記非対称領域の角度変位が、前記配向平板または切り欠きに対して±90°、好ましくは±60°である、請求項1に記載の単結晶SiC基板。
【請求項8】
前記非対称領域が、前記非対称領域の範囲を定める基板リムの最大高さが前記主領域における前記基板のSi面に対して正の高さとなるように寸法設定され、前記主領域に対して内向きに傾斜した、請求項1に記載の単結晶SiC基板。
【請求項9】
前記主領域および前記非対称領域により形成される前記基板が、
-40μm~0μmの範囲、好ましくは-35μm~0μmの範囲の反り値、および/または
70μm未満、好ましくは45μmの歪み値、
を特徴とする、請求項1に記載の単結晶SiC基板。
【請求項10】
前記非対称領域および前記主領域の厚さが、200μm~1000μmの範囲、好ましくは250μm~500μmの範囲であり、
前記基板が、前記主領域において、直径dが149.5mm超の部分円筒形状を有し、
前記基板が、5μm未満の全厚さばらつきを有し、
前記基板の前記非対称領域および前記主領域が、修飾4H-SiC、6H-SiC、および15R-SiCのうちの1つを施した単一のSiC単結晶により形成され、および/または
SiC結晶構造が、前記主領域において、基底面(1000)のα°軸外配向を有し、0.5°~8°の軸外配向、好ましくは4°の軸外配向である、請求項1に記載の単結晶SiC基板。
【請求項11】
前記主領域が、実質的に平坦な表面を有し、
前記非対称領域が、前記隣り合う主領域
と基板リムとの間に範囲が定められた円形セグメントの形状を有し、および/または
前記非対称領域が、実質的に平坦な形状または凸曲率もしくは凹曲率の非平坦形状を有する、請求項1に記載の単結晶SiC基板。
【請求項12】
非対称形状を有する1つまたは複数の基板を製造する方法であって、
ステージ上に配置されたインゴットからワイヤソーイングウェブによって1つまたは複数の基板が切断されるマルチワイヤソーイングプロセスを実行することと、
前記ワイヤソーイングウェブと前記ステージとの間の相対移動を制御することによって、前記非対称形状を有する前記1つまたは複数の基板を切断することであって、前記相対移動によって、前記非対称形状を切断するための前記インゴットを横切る非線形ソーイング経路を前記ワイヤソーイングウェブが描く、ことと、
を含む、方法。
【請求項13】
前記ワイヤソーイングウェブと前記ステージとの間の前記相対移動を制御することが、
線形ソーイング方向に沿って前記ステージへと移動するように前記ワイヤソーイングウェブを制御すること、
前記インゴットを横切る前記非線形ソーイング経路を前記ワイヤソーイングウェブが描くように、前記ワイヤソーイングウェブの移動と協調して、前記ソーイング方向に対して直交する方向に移動するように前記ステージを制御すること、または、
前記インゴットを横切る前記非線形ソーイング経路を前記ワイヤソーイングウェブが描くように、前記ソーイング方向の移動と協調して、前記ソーイング方向に対して直交する方向に移動するように前記ワイヤソーイングウェブを制御すること、
を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ソーイング方向に前記ワイヤ直径の少なくとも半分だけ前記ワイヤソーイングウェブのワイヤが前記インゴットに進入した後に開始となるように、前記ワイヤソーイングウェブと前記ステージとの間の前記ソーイング方向に対して直交する方向の前記相対移動を制御することによって、前記マルチワイヤソーイングプロセス中に前記ワイヤソーイングウェブの前記ワイヤに加わる応力を制御することを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
選択非対称形状が、前記基板の実質的に平坦な主領域に隣り合う前記基板の周辺エリアに非対称領域を含み、
前記選択非対称形状が、前記ワイヤソーイングウェブと前記ステージとの間の前記ソーイング方向に対して直交する方向の前記相対移動の継続時間および変位量を制御することにより切断され、
前記ソーイング方向に対して直交する方向の前記相対移動の前記継続時間が、前記ソーイング方向に沿って、前記非対称領域における基板リムと前記主領域との間の最大距離を決定し、
前記ソーイング方向に対して直交する方向の前記相対移動の前記変位量が、前記主領域に対する前記非対称領域の最大高さを決定する、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱的に誘導される内部応力に対して基板の剛性を高めるための非対称形状を有する単結晶SiC基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の製造には、炭化ケイ素(SiC)基板を一般的に使用する。標準的には、適当な原料を用いることにより、物理的気相成長(PVT)プロセスによってSiC単結晶(SiCインゴットとも称する)を成長させる。そして、たとえばマルチワイヤソーの利用により、成長させたSiC単結晶からSiC基板を構成した後、多段階研磨ステップによってその表面を精緻化する。後続のエピタキシャルプロセスにおいては、最初に、薄い単結晶層(たとえば、SiC、GaN)をSiC基板上に堆積させる。これらの層および当該層により構成される構成要素の特性は、SiC基板の品質に大きく依存する。
【0003】
SiC結晶の生成は、米国特許第8,865,324号明細書等に記載の物理的気相成長(PVT)の標準的な方法により実行可能である。その後、たとえばX線を用いることにより、このようにして得られたSiC原料結晶を配向させて、格子面の配向を別途処理に必要な状態とする。
【0004】
その後、さまざまな表面処理ステップ(たとえば、研削)により、単結晶SiC半製品に対して後続の基板直径を設定し、1つまたは複数の平板を取り付け、このようにして処理された結晶円筒の端面を分離プロセス(たとえば、マルチワイヤソーイング)に向けて備える。
【0005】
その後、たとえばマルチワイヤソーイングプロセスによって、このように作成されたSiC半製品を個々の原料基板へと分離する。品質管理の後、単結晶SiC原料基板の別の機械的処理を実行する。たとえば、原料基板の縁部を機械的に処理した後、単段階または多段階研削または研磨プロセスによって、分離プロセスにより導入された干渉層を除去するとともに、粗さを徐々に小さくする。その後、片面または両面の化学機械的研磨プロセス(CMP)によって、最終表面を設定する。
【0006】
そして、後続のエピタキシャルプロセスにおいては、半導体材料の単結晶層(たとえば、SiC、GaN)をSiC基板上に堆積させる。これらのエピタキシャル層および当該層により構成される構成要素の特性は、その下側のSiC基板の品質に大きく依存する。エピタキシャル(EPI)層の生成には、特に基板の形状が非常に重要となる。たとえば、EPIリアクタにおける熱結合(均質で高品質な層の成長に重要)は、大きく曲がっていない面に対してのみ保証される。
【0007】
このため、製造される半導体基板では、基板の平坦度を特徴付ける反り(bow)および歪み(warp)等の特性が大きな関心事である。シリコンウェハにおいて使用される標準的な定義として、反りの測定結果は、ウェハの縁部の周りに規定された3点平面等、円上の等間隔の3つの点により確立された中間面基準平面からの非固定自由ウェハの中間面の中心点の偏差を示す。反りは、中心点が基準平面の下方か上方かに応じて、負または正となり得る。歪みの測定結果は、反りの測定結果のように中心点のみならず、基板の中間面全体を考慮に入れた場合の基準平面からの中間面の最大距離と最小距離との差を示す。製造される半導体基板の別の重要なパラメータは全厚さばらつき(TTV)であり、これは、基板の最大厚さと最小厚さとの差である。中間面は、ウェハの表面と裏面との間で等距離にある点の軌跡として規定され得る。半導体エピタキシャルプロセスにおいては、SiC基板が一般的に、平坦なプレートまたは支持部上に配置されており、基板の裏面(すなわち、エピタキシャル成長を行おうとする基板の表面と反対の基板面)がプレートに面している。そして、SiC基板を伴うプレートをリアクタに入れてエピタキシャルプロセスを実行するが、その際は通常、1500℃以上の温度に達する。SiC基板の表面にSiC層等の半導体層を堆積させるためのキャリアガスとしては通常、シランならびに水素で希釈されたプロパンもしくはエチレン等の軽質炭化水素が使用される。
【0008】
したがって、SiC基板がその全エリアで歪んでいる場合は、プレートと接触するエリアと、ある間隙だけプレートから分離されたエリアと、が基板裏面に存在することになる。また、エピタキシャル成長のためリアクタの内側(半径方向および軸方向の両者)に生じた熱勾配によって、SiC基板の温度分布が面内で不均一になり、SiC基板全体で熱的に誘導される内部応力によって基板に歪みが生じ、最終的には、基板と基板支持部との間の間隙が増大する可能性がある。その結果、エピタキシャルプロセスにおいて使用されるキャリアガスがこの間隙にも進入可能となり、支持部に密接していない基板裏面のエリア上の半導体材料の不均質な堆積が生じ得る。エピタキシャルプロセスの後は、歪みおよび全厚さばらつき(TTV)等、理想的な平坦形状からの基板形状の偏差が裏面成長によって悪化するため、後続のフォトリソグラフィプロセスでデフォーカスが起こるとともに、このようなエピタキシャル基板から製造されるSiCデバイスの歩留まりが低下する。
図1は、エピタキシャル層120を基板の表面に成長させるエピタキシャルプロセスの後のSiC基板100の例示的なケースを概略的に示しており、基板100の歪みによって、基板100の裏面140に望ましくない材料層130が成長している。
【0009】
図2に示す理想的なケースでは、SiC基板200が最初から平坦であり、エピタキシャルプロセス中の加熱によって変形することはない。その結果、エピタキシャルプロセスにおいて、SiC基板200とプレート110との間に間隙は存在せず、結果として、SiCウェハ200の裏面に材料の堆積/成長は起こらない。ただし、このように加熱プロセスで平坦なSiC基板200が平坦性を維持する理想的なケースは、現実的には見られない。実際の条件において、SiC基板は、エピタキシャルプロセスに先立つ歪みおよび/またはエピタキシャルプロセス中に加わる熱勾配(軸方向および半径方向)による付加的な歪みを受ける可能性がある。このため、SiC裏面成長がよく見られる。
【0010】
図3~
図5は、SiC基板の表面にエピタキシャル層を成長させるエピタキシャルプロセスにおいて、キャリアガスにより搬送された材料が裏面に堆積される異なるシナリオを示している。
【0011】
図3は、加熱プロセス前には平坦なSiCウェハ300が加熱プロセスにおいて、エピタキシャル成長条件によって生じる内部応力により凸形状となって(すなわち、SiCウェハ300の表面が外方に湾曲して)、ウェハ300の中央領域とプレート110との間に間隙320が形成されるケースを示している。その結果、キャリアガスにより運ばれる材料の層330の裏面成長がエピタキシャルプロセスにおいて発生する。
【0012】
図4および
図5は、SiCウェハ400および500が凹形状ひいては負の反りを有する(すなわち、エピタキシャル成長を行おうとするSiCウェハの表面が内向きに湾曲した)例を示している。
図4に示す例において、SiCウェハ400が加熱プロセスにおいて変形するのではなく、加熱前に非平坦形状となっている(基板の反りが30μmよりも大きい)場合は、エピタキシャルプロセスにおいて、SiCウェハ400とプレート110との間に間隙420が存在する。その結果、キャリアガスによって同様に、SiCウェハ400の裏面に材料の堆積430が生じる。
図5の例を参照して、SiCウェハ500が加熱前に平坦ではなく(基板の反りが30μmよりも大きく)、同様にエピタキシャル成長条件下で熱的に誘導される変形が生じる(基板の反りが増大する)場合は、SiCウェハ500とプレート110との間の間隙520によって、エピタキシャルプロセス中に裏面成長530が発生することになる。特に、加熱条件下でのSiC基板500の反りの進展が裏面成長にとっては重大である。室温での反りが30μm未満であっても、加熱によって基板の変形が生じ得る。
【0013】
このため、SiCウェハの表面が主として凸状(正の反り)であるか凹状(負の反り)であるかに関わらず、エピタキシャル成長プロセスの前に非平坦形状であった場合またはエピタキシャル成長プロセスにおいて非平坦形状となった場合は、裏面成長が生じるものと予想される。前述の通り、裏面成長によって基板の歪みおよびTTVがさらに悪化し、SiCデバイスを製造する後続のプロセスにおいてフォトリソグラフィパターンのデフォーカスが起こるため、これにより製造されるSiCデバイスの歩留まりが低下する。このようなSiC裏面成長に伴う不都合は、この問題に対する技術的な解決手段がこれまでに示されていないため、当分野において容認されてきた。
【0014】
したがって、エピタキシャルプロセス中のSiC基板上の裏面成長に伴う不都合を抑制または少なくとも軽減することによって、これにより構成されるSiCデバイスの歩留まりを向上し得る解決手段が求められている。
【発明の概要】
【0015】
本発明は、従来技術の欠点および不都合に鑑みてなされたものであり、その目的は、関連する従来技術の上記不都合および欠点を回避または少なくとも軽減する非対称形状の単結晶SiC基板およびその製造方法を提供することである。
【0016】
この目的は、独立請求項の主題により達成される。本発明の有利な実施形態は、従属請求項の主題である。
【0017】
本発明によれば、熱的に誘導される変形に対して基板の剛性を高めるための非対称形状を有する単結晶SiC基板であって、主領域と、当該基板の周辺領域において主領域に隣り合って配置された非対称領域と、を備え、非対称領域が、当該基板に非対称形状を与えるため、主領域に対して内向きに傾斜した、単結晶SiC基板が提供される。
【0018】
別の展開においては、非対称領域が、基板リムと主領域との間に範囲が定められ、非対称領域が、主領域に連続してつながり、非対称領域と主領域との間の傾斜が、当該基板の非対称形状における肘部または肩部を規定する。
【0019】
別の展開においては、非対称領域が、当該非対称領域の範囲を定める基板リムの最大高さが主領域の基準平面に対して15μm~60μmの範囲、好ましくは25μmとなるように寸法設定され、主領域に対して内向きに傾斜する。
【0020】
別の展開においては、前記最大高さが、主領域の基準平面に対して、非対称領域の基準平面と非対称領域の範囲を定める基板リムとの交点における最大高さに対応する。
【0021】
別の展開においては、非対称領域が、主領域の基準平面に対する当該非対称領域の範囲を定める基板リムの投射と主領域との間の最大距離が5mm~30mmの範囲、好ましくは15mmとなるように寸法設定され、主領域に対して内向きに傾斜する。
【0022】
別の展開においては、主領域の基準平面が、当該基板の周辺領域を伴わない当該基板の中間面に対応し、および/または、非対称領域の基準平面が、非対称領域の中間面に対応する。
【0023】
別の展開においては、非対称領域が、当該基板中の配向平板または切り欠きと反対の基板周辺エリアに配置され、非対称領域の角度変位が、配向平板または切り欠きに対して±90°、好ましくは±60°である。
【0024】
別の展開においては、非対称領域が、当該非対称領域の範囲を定める基板リムの最大高さが主領域における当該基板のSi面に対して正の高さとなるように寸法設定され、主領域に対して内向きに傾斜する。
【0025】
別の展開においては、主領域および非対称領域により形成される当該基板が、-40μm~0μmの範囲、好ましくは-35μm~0μmの範囲の反り値、および/または、70μm未満、好ましくは45μmの歪み値、を特徴とする。
【0026】
別の展開においては、非対称領域および主領域の厚さが、200μm~1000μmの範囲、好ましくは250μm~500μmの範囲であり、当該基板が、主領域において、直径dが149.5mm超の部分円筒形状を有し、当該基板が、5μm未満の全厚さばらつきを有し、当該基板の非対称領域および主領域が、修飾4H-SiC、6H-SiC、および15R-SiCのうちの1つを施した単一のSiC単結晶により形成され、および/または、SiC結晶構造が、主領域において、基底面(1000)のα°軸外配向を有し、0.5°~8°の軸外配向、好ましくは4°の軸外配向である。
【0027】
別の展開においては、主領域が、実質的に平坦な表面を有し、非対称領域が、隣り合う主領域と基板リムとの間に範囲が定められた円形セグメントの形状を有し、および/または、前記非対称領域が、実質的に平坦な形状または凸曲率もしくは凹曲率の非平坦形状を有する。
【0028】
また、本発明は、非対称形状を有する1つまたは複数の基板を製造する方法であって、ステージ上に配置されたインゴットからワイヤソーイングウェブによって1つまたは複数の基板が切断されるマルチワイヤソーイングプロセスを実行することと、ワイヤソーイングウェブとステージとの間の相対移動を制御することによって、非対称形状を有する1つまたは複数の基板を切断することであって、相対移動によって、非対称形状を切断するためのインゴットを横切る非線形ソーイング経路をワイヤソーイングウェブが描く、ことと、を含む、方法を提供する。
【0029】
別の展開においては、ワイヤソーイングウェブとステージとの間の相対移動を制御することが、線形ソーイング方向に沿ってステージへと移動するようにワイヤソーイングウェブを制御すること、インゴットを横切る前記非線形ソーイング経路をワイヤソーイングウェブが描くように、ワイヤソーイングウェブの移動と協調して、ソーイング方向に対して直交する方向に移動するようにステージを制御すること、または、インゴットを横切る前記非線形ソーイング経路をワイヤソーイングウェブが描くように、ソーイング方向の移動と協調して、ソーイング方向に対して直交する方向に移動するようにワイヤソーイングウェブを制御すること、を含む。
【0030】
別の展開によれば、この方法は、ソーイング方向にワイヤ直径の少なくとも半分だけワイヤソーイングウェブのワイヤがインゴットに進入した後に開始となるように、ワイヤソーイングウェブとステージとの間のソーイング方向に対して直交する方向の相対移動を制御することによって、マルチワイヤソーイングプロセス中にワイヤソーイングウェブのワイヤに加わる応力を制御することを含む。
【0031】
別の展開においては、選択非対称形状が、基板の実質的に平坦な主領域に隣り合う基板の周辺エリアに非対称領域を含み、選択非対称形状が、ワイヤソーイングウェブとステージとの間のソーイング方向に対して直交する方向の相対移動の継続時間および変位量を制御することにより切断され、ソーイング方向に対して直交する方向の相対移動の継続時間が、ソーイング方向に沿って、非対称部分における基板リムと主領域との間の最大距離を決定し、ソーイング方向に対して直交する方向の相対移動の変位量が、主領域に対する非対称領域の最大高さを決定する。
【0032】
添付の図面は、本発明の原理の説明を目的として本明細書に組み込まれ、その一部を構成する。これらの図面は、本発明の構成および使用が可能となる方法に関する図示および記載の例だけに本発明を限定するものと解釈されるべきではない。
【0033】
他の特徴および利点については、添付の図面に示すような本発明に関する以下のより詳細な説明から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】基板の表面にエピタキシャル層を成長させるエピタキシャルプロセスにおいて、基板裏面と支持プレートとの間の間隙により基板の裏面に材料が成長した後の支持プレート上の歪んだ単結晶SiC基板を示した断面図である。
【
図2】理想的なケースにおけるSiC基板であり、a)当該SiC基板が加熱プロセスの前に実質的に平坦な形状を有し、b)基板の裏面との間に歪みによる間隙が現れないように、平坦形状が加熱プロセスにおいて維持された、SiC基板を示した断面図である。
【
図3】a)加熱プロセス前にSiC基板が支持プレート上で実質的に平坦に存在し、b)加熱プロセス中のSiC基板の形状の変形によって、基板裏面と支持プレートとの間に間隙が現れ、結果として基板裏面に材料が堆積するシナリオにおける従来のSiC基板の歪みを示した断面図である。
【
図4】a)加熱プロセスの前にSiC基板が歪んで基板裏面と支持プレートとの間に間隙が生じ、b)加熱プロセスにおいてはSiC基板の形状が変形しないものの、裏面成長が依然として発生するシナリオにおける従来のSiC基板の歪みを示した断面図である。
【
図5】a)加熱プロセスの前にSiC基板が歪んでSiC基板と支持プレートとの間に間隙が存在し、b)加熱プロセスにおいて最初のSiC基板の形状が変形して、支持プレートと直接接触しない増大エリアにおいて裏面成長が発生するシナリオにおける従来のSiC基板の歪みを示した断面図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る、非対称形状を有するSiC基板の概略斜視図である。
【
図7】
図6に示すSiC基板の断面図であり、鋭い肘部を有するL字状の断面を示しており、a)非対称形状を有するSiC基板の加熱プロセス前の断面と、b)加熱プロセスの後、SiC基板エリアの非対称領域でのみ裏面成長が発生するSiC基板の断面と、を示した図である。
【
図8】本発明の別の実施形態に係る、非対称形状(肘部が丸みを帯びたL字形状)を有するSiC基板の概略断面図である。
【
図9】本発明の別の実施形態に係る、非対称形状(凸状脚部を伴うL字形状)を有するSiC基板の概略断面図である。
【
図10】SiCインゴットからSiCウェハを切断する従来のマルチワイヤソーイング装置のステージ上に配置されたSiCインゴットを概略的に示した(インゴットの表面から見た)図である。
【
図11】
図10に示すマルチワイヤソーイング装置のワイヤソーイングウェブの鉛直方向移動により従来の平板形状を有するSiCウェハが切断される様子を概略的に示した(SiCインゴットの側面から見た)図である。
【
図12】一実施形態に係る、ワイヤソーイングウェブおよびインゴットが配置されたステージの運動制御により非対称形状を有するSiCウェハを切断するマルチワイヤソーイング装置を概略的に示した(インゴットの側面から見た)図である。
【
図13】別の実施形態に係る、インゴットが配置されたステージに対するワイヤソーイングウェブの2次元の運動制御により非対称形状を有するSiCウェハを切断するマルチワイヤソーイング装置を概略的に示した(インゴットの側面から見た)図である。
【
図14】本発明の実施形態に係る、制御運動手順においてステージに向かうワイヤソーイングウェブの線形移動に対して直交する方向のワイヤソーイングウェブとステージとの間の相対移動の時間の関数としての速度を示したグラフである。
【
図15】本発明の実施形態に係る、MWSプロセス中のワイヤソーイングウェブとステージとの間の相対移動の継続時間および変位量を制御することにより設定された
図6に示すSiC基板の非対称形状のパラメータ(非対称領域の最大距離および最大高さ)を概略的に示した図である。
【
図16】非対称形状のパラメータ(非対称領域の最大距離および最大高さ)の規定に用いられる厚さが不規則なSiC基板および基準平面の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図面に示す寸法および相対角度は、本発明の理解を目的としているに過ぎず、原寸に比例した描写ではない。
【0036】
以下、本発明の例示的な実施形態を示す添付の図面を参照して、本発明をより詳しく説明する。ただし、本発明は、多くの異なる形態で実施可能であり、本明細書に記載の実施形態に限定されるものと解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、開示が徹底的かつ完全なものとなり、本発明の範囲が当業者に十分伝わるように提供されるものである。全体を通して、同様の番号は同様の要素を表す。
【0037】
本発明の基礎となる原理は、従来のエピタキシャル成長プロセスにおいてSiC基板(半径方向および軸方向の両者)に加わる変形等、熱勾配により生じる変形に対してSiC基板の剛性を高めることにより、SiCデバイスのエピタキシャルプロセスおよび製造の品質にとって重要な反り、歪み、およびTTV等のSiCウェハのパラメータに対する裏面成長の悪影響を低減することである。剛性の向上は、周辺領域に特定の非対称形状を有するSiC基板を設計することにより実現され、これによって、SiC基板全体で熱的に誘導される内部応力の進展に対抗する一方、最終的な裏面成長を基板の周辺エリアに限定する。
【0038】
より具体的に、基板の剛性は、
図6を参照して後述する通り、エピタキシャル成長が行われる基板の表面へと基板の周辺部が上向きに傾斜した非対称形状によって向上可能である。
【0039】
図6は、熱的に誘導される変形に対して剛性を高める非対称形状を有するSiC基板600の概略斜視図である。
図6に示すように、非対称形状は、SiCウェハ600の周辺エリアで基板600の主領域620に隣り合って配置された基板領域610により与えられ、内向きすなわちSiC基板600の表面630側(すなわち、
図6に示すY方向)に傾斜している。主領域620は本質的に、非対称領域610を伴わないSiC基板600のその他の部分に対応し、平坦であるのが好ましい。非対称領域610は、主領域620に連続してつながるため、基板リム650と主領域620との間に範囲が定められ、非対称領域610と主領域620との間の傾斜が基板600の非対称形状における肘部または肩部660を規定する。(
図6のX方向と平行な)主領域620の基準平面に対する非対称領域610の面外配向によって、SiCウェハ600の熱的に誘導される変形に対抗する基板断面の非対称性が導入される。その結果、中央の主領域620が及ぶ基板600のより大きな面積が平坦性を維持し、半導体エピタキシャルプロセスで従来使用されているような加熱プロセスにおいて、主領域620と支持プレートとの間の間隙の出現が回避される。結果として、SiC基板600の非対称形状による剛性の向上によって、加熱プロセス中の基板の歪みが抑えられ、裏面成長が排除または大幅に抑制され得る。
【0040】
図7は、基板600がエピタキシャル成長プロセスにおいて加熱される前後の
図6に示す非対称SiC基板600の断面を示している(
図7においては、簡素化のため、基板600の表面630のエピタキシャル層を省略している)。
図7に示すように、非対称領域610と基板支持部(図示せず)との間の分離によって、基板リム650の近くで裏面成長が生じる可能性がある。ただし、非対称形状によって剛性が向上しているため、エピタキシャル成長プロセスにおいて主領域620と基板支持部との間に間隙が生じないことから、基板600の中央領域における裏面成長が防止される。その結果、裏面成長が基板の反りに及ぼす悪影響が大幅に抑えられる。さらに、基板の非対称形状によって、エピタキシー後の反りに及ぼす悪影響が小さな基板の周辺エリアへと裏面成長がシフトする。基板600の周辺エリアすなわち非対称領域610に裏面成長が限定される別の利点として、この領域は、エピタキシャルプロセス後に容易に廃棄可能である。このため、従来のSiC基板に見られる歪み、反り、および裏面堆積に伴う望ましくない影響を受けることなく、基板600の主領域620からSiCデバイスを製造可能である。その結果、非対称基板600の主領域620上に堆積/成長させるエピタキシャル材料により構成されるSiCデバイスのより高い歩留まりを実現可能である。
【0041】
非対称領域610の傾斜は、主領域620の基準平面690に対する非対称領域610の中間面の傾斜として特性化されることにより、基板の厚さの不規則性を補償していてもよい。基板600に配向平板または切り欠き670が設けられている場合、非対称領域610は、配向平板または切り欠き670と反対の基板600の周辺エリアに配置されているのが好ましい。たとえば、非対称領域610は、
図6に示すように、切り欠き670の正反対であってもよいし、配向平板または切り欠き670に対して、角度変位が±90°、好ましくは±60°であってもよい。後者の場合は、非対称領域610の中間点および/または配向平板が角度変位の規定に用いられる。
【0042】
上述の非対称形状による基板剛性の向上の基礎となる原理は、SiC基板の広範な直径および厚さ、すなわち、149.5mmよりも大きな直径d、200μm~1000μmの範囲、好ましくは250μm~500μmの範囲の基板厚さ(非対称領域および主領域)、および5μm未満の全厚さばらつき(TTV)といったパラメータのうちの1つまたはパラメータの組み合わせを特徴とするSiC基板にも適用可能である。非対称SiC基板600の直径dは、主領域620(部分)円筒形状すなわち非対称領域610に対応する円形セグメントのない形状の直径dとして規定されていてもよい。
【0043】
SiC基板600の有利な構成においては、主領域620の表面630がSiC単結晶のSi面である。そして、非対称領域610は、非対称領域610の範囲を定める基板リム650の最大高さが主領域620の基準平面690に対して正の高さとなるように、表面630に対して内向きに傾斜している(たとえば、
図15参照)。
【0044】
基板剛性を高めるための非対称形状の好適なパラメータは、SiC基板の所望の寸法およびエピタキシャル成長プロセスにおいて非対称基板が従う温度条件を考慮に入れたシミュレーション解析および/または実験に基づいて選択/決定されるようになっていてもよい。たとえば、直径が149.5mmよりも大きなSiC基板600の場合は、非対称領域610の範囲を定める基板リム650の最大高さが主領域620の基準平面に対して15μm~60μmの範囲、好ましくは25μmとなるように非対称領域610を寸法設定し、主領域620に対して内向きに傾斜させることによって、基板剛性の向上が実現され得る。この場合、最大高さは、主領域620の基準平面690に対して、非対称領域610の基準平面695と非対称領域610の範囲を定める基板リム650の最高点との間の最大高さとして規定されていてもよい。主領域620に隣り合う非対称領域610の辺680と主領域620の基準平面690に対する非対称領域610の範囲を定める基板リム650の投射との間の最大距離は、5mm~30mmの範囲が好ましく、15mmであるのが最も好ましい。非対称基板600の最大距離および最大高さは、
図15に示すように規定されていてもよく、主領域620の基準平面は、非対称領域610を伴わない基板600の中間面690に対応する。非対称領域610の基準平面は、非対称領域610の中間面695として規定されていてもよい。
【0045】
図6および
図7に示す非対称形状において、非対称領域610および主領域620は、実質的に平坦な表面を有するとともに、鋭い肘部660を有するL字状断面を構成する。L字状断面には、剛性の向上によって、エピタキシャルプロセス中に変形しにくいという技術的利点がある。さらに、主領域620が実質的に平坦で、SiC基板600の相当な面積に対応するため、裏面640の面積の大部分がエピタキシャル成長プロセスにおいて支持部との接触を維持することから、L字形状によって、SiC基板600の大面積にわたる裏面成長が防止される。結果として、エピタキシャル成長プロセスにおいて裏面成長の影響を受けるSiC基板600の全体面積は、相応に最小化される。
【0046】
一方で、他の形状の非対称領域を有する他の非対称形状を採用することも可能である。たとえば、
図8および
図9は、基板の周辺領域に設けられ、主領域の表面に対して上向きに傾斜する、という共通の原理を共有する非対称領域の考え得る形状を示している。
【0047】
図8は、基板リムの近くで略平坦かつ主領域820の近くで漸次湾曲(凹状化)することにより裏面840で肘部または肩部860が丸みを帯びたL字状断面を規定する表面により規定された非対称領域810が形成された非対称SiC基板800の断面を示している。この非対称形状による剛性の向上によって、主領域820がエピタキシャル成長プロセスにおいてその実質的に平坦な形状を維持するため、裏面成長845が非対称領域810の裏面840にのみ限定される。
【0048】
図9は、基板の剛性を高めるためのSiC基板900の非対称形状の別の例を示している。この構成において、非対称形状は、実質的に平坦な主領域920と、主領域920に対して上向きに傾斜し、わずかな凸曲率にて成形された非対称領域910と、で設計されている。主領域920の表面が同様に、剛性の向上により加熱プロセスにおいて実質的な平坦性を維持するため、裏面成長945が非対称領域910の裏面940に限定される。
【0049】
非対称領域および主領域の基準平面間の最大高さ、非対称領域のリムからの最大距離等、非対称基板600を参照して上述した非対称領域のパラメータは、
図8および
図9に示す非対称形状にも同様に適用可能である。
【0050】
本発明の原理に係る非対称形状を有するSiCウェハは、ワイヤソーイングウェブの移動および/またはインゴットステージの移動を協調制御してSiCウェハを所望の非対称形状で切断する制御運動手順を伴うマルチワイヤソーイング(MWS)プロセス等のウェハ分離技術を用いることにより、単結晶SiC結晶またはインゴットから製造されるようになっていてもよい。
【0051】
マルチワイヤソーイングは従来、SiC結晶またはインゴットからのSiC基板の製造に用いられている。従来のマルチワイヤソーイング装置1000の動作原理を
図10および
図11に示す。従来のマルチワイヤソーイング装置1000においては、単一のソーイングワイヤがワイヤガイドローラ1010に巻かれている。各ワイヤガイドローラ1010には、一定のピッチで溝が形成されており、離間した溝上のソーイングワイヤは、ワイヤと平行な水平ウェブ1020を構成している。マルチソーイングプロセスにおいては、スラリー(冷却液中の砥粒の懸濁液)が移動ワイヤに供給され、移動ワイヤがスラリーを切断ゾーンに運ぶ。SiCインゴット1030等の切断対象材料がステージ1040に固定され、ステージ1040上に配置された結晶1030の頂部からワイヤソーイングウェブ1020が降下することによりウェハ1050を切断する。ワイヤソーイングウェブ1020全体は、一定の速度で垂直方向に移動する。ステージ1040に向かうワイヤソーイングウェブ1020の運動によって、結晶1030がワイヤソーイングウェブ1020から押し出され、多数のウェハ1050が同時に製造される。ワイヤソーイングウェブ1020がステージ表面に対して横断する方向にしか移動し得ないため、ウェハ1050は、平坦な表面(すなわち、対称形状を有する断面)を伴って切断される。
【0052】
本発明では、ワイヤソーイングウェブとステージとの間の2次元(ワイヤソーイングウェブの線形ソーイング方向およびソーイング方向に対して直交する方向)の相対移動を制御する制御運動手順を伴う改良MWS法を使用する。ワイヤソーイングウェブとステージとの間の相対移動は、インゴット断面を横切る(すなわち、2次元の)非線形ソーイング経路をワイヤソーイングウェブが描くように調整され、その結果、1つまたは複数の基板が所望の非対称形状で直接切断される。このような非線形ソーイング経路は、
図12および
図13を参照して説明する通り、2つの代替的な制御運動手順を用いて実現され得る。
【0053】
図12は、インゴット1230が配置されたステージ1240がワイヤソーイングウェブ1210に対して移動することにより、ワイヤソーイングウェブ1210がインゴット1230を横切る非線形非対称ソーイング経路を描いて、
図8に示す非対称形状等の所望の非対称形状で基板1250を切断するように制御される制御運動手順を実行するMWS装置1200を示している。この制御運動手順において、ワイヤソーイングウェブ1210は、線形ソーイング方向(
図12の左側の鉛直方向矢印の方向または
図12の右側の差し込み図に示すX方向)に沿ってステージ1240側へと移動するように制御される。ワイヤソーイングウェブ1210は、MWSプロセスの全体を通して、この同一の線形ソーイング方向で直線的に移動し続ける。インゴット1230を横切る非線形非対称ソーイング経路をワイヤソーイングウェブ1210に描かせるため、ステージ1240は、ワイヤソーイングウェブ1210の移動方向に対して直交する方向(
図12の右側の差し込み図に示すY方向と平行な
図12の左側の水平方向矢印の方向)に移動するように制御される。基板1250の特定の非対称形状は、ワイヤソーイングウェブ1210の線形移動に対するステージ1240の移動の調整(たとえば、一定であることが好ましいワイヤソーイングウェブ1210の速度に対するステージ移動の速度(または、変位量)および継続時間の調整)によって実現される(その逆もまた同様である)。たとえば、
図12の右側に示すL字形状の基板1250は、MWSプロセスの全体を通して、線形ソーイング方向(すなわち、
図12の右側に示すX方向)に一定の速度で移動するようにワイヤソーイングウェブ1210を制御することにより得られる。一方、ステージ1240は、基板1250のL字形状の傾斜脚部をワイヤソーイングウェブ1210が切断するのに十分な限られた時間にわたって、ワイヤソーイングウェブ1210の移動方向に対して直交する方向に移動するように制御される。その後、ステージ1240の移動を停止する一方、ワイヤソーイングウェブ1210の線形ソーイング方向の移動は維持することによって、基板1250のL字形状の直線的な脚部を切断する。
【0054】
この制御運動手順では、MWSプロセスの最初に、少なくともD/2の深さすなわちワイヤ直径Dの半分だけワイヤがインゴット1230に進入するまで、(鉛直ソーイング方向に沿って)ステージ1240側へとワイヤソーイングウェブ1210のみを移動させることにより、ワイヤソーイングウェブ1210のワイヤに加わる応力を制御するようにしてもよい。この時点の後、ステージ1240が鉛直ソーイング方向に対して直交する方向に移動し始めるようになっていてもよい。一方、ワイヤソーイングウェブ1210は、好ましくは一定の速度で、ステージ1240に向かう鉛直方向運動を継続する。
【0055】
図14は、丸みを帯びたL字状断面の基板1250を製造するとともにワイヤ応力の制御を含む制御運動手順における時間の関数としてのステージ1240の速度(ワイヤソーイングウェブ1210の鉛直方向運動に対して横断する方向)を例示している。
図14において、時点t
0は、ワイヤソーイングウェブ1210のワイヤがインゴット1230に接触した時間に対応するが、これは、専用センサ等の既知の手段により検出可能である。この時点t
0において、ステージ1240は、依然として停止状態であり、ワイヤソーイングウェブ1210のワイヤが少なくともD/2だけインゴット1230に進入する時点t
1までは移動しない。時点t
1において、制御運動手順は、ソーイング方向に対して直交する方向のステージ1240の移動を開始し、所望の非対称形状で基板1250を切断するように、ワイヤソーイングウェブ1210の速度に対してステージ移動を調整する。たとえば、
図14に示すように、ステージ1240は最初、高速で移動するようになっていてもよいが、これによって、主領域に対する非対称領域の最初の傾斜が決まることになる。その後、ワイヤソーイングウェブ1210の一定速度を維持しつつ、ステージ移動の速度を徐々に遅くすることによって、基板1250の湾曲肘部または肩部が得られる。基板1250の非対称領域が切断されたら、制御運動手順がステージ1240を停止させる。この時点から、制御運動手順は、鉛直ソーイング方向のワイヤソーイングウェブ1210の移動のみを維持し、ワイヤソーイングウェブ1210がステージ1240に達した場合にのみ停止させて、インゴット1230を横切る基板1250の主領域を完全に切断する。
【0056】
ステージ移動の速度対時間の関数およびワイヤソーイングウェブ1210の速度を調整することにより、上述の制御運動手順を伴うMWS法によって、異なる種類の非対称形状を実現可能である。たとえば、非対称領域610および主領域620の両者が平坦な表面を有する
図6に示すSiC基板600の非対称形状は、非対称領域610の切断に必要な時間にわたって、ワイヤソーイングウェブ1210の移動に対して直交する方向で実質的に一定の速度のステージ相対移動を維持することにより生成され得る。
【0057】
結果としては、ステージ移動の総継続時間および変位の組み合わせを制御するだけで、非対称領域の特定のサイズ、形状、および傾斜を実現可能である。基板600に関して
図15に示すように、非対称領域610の範囲を定める基板リム650と非対称領域610の端部(非対称領域610および主領域620が会合する基板600の領域で肘部660が現れる場所に略対応する)との間の最大距離は、主領域620の基準平面690に沿った測定の場合、ステージ1240が移動するように制御される時間区間におけるワイヤソーイング方向のワイヤソーイングウェブ1210の総変位によって決まる。したがって、この最大距離は、ワイヤソーイングウェブ1210の速度に基づいてステージ移動の継続時間を調整することにより設定可能である。一方、非対称領域610における基板リム650と基板肘部660の領域における基準平面690との間の最大高さは、ステージ1240の総変位によって決まる。最大距離および最大高さはいずれも、主領域620の中間面690および非対称領域610の中間面695に対して規定されるのが好ましい。これにより、異なる基板厚さに対して、制御運動手順の最大距離および高さを均一に設定可能となる。また、
図16に示す非対称形状を有する基板700の基準平面790等、基板厚さの不規則性を考慮に入れた基準平面を規定することも可能になる。
【0058】
非対称形状の断面を有するSiC基板1350を製造するための制御運動手順を伴うMWS法の別の例を
図13に示す。
図13を参照して、MWS装置1300は、MWSプロセスにおいてステージ1340を移動させず、鉛直方向および横方向のワイヤガイドローラ1310の移動を制御することによりSiCインゴット1330を横切る非対称ソーイング経路が実現される点において、
図12を参照して上述した手順と異なる制御運動手順を実行する。より具体的には、ソーイングワイヤの応力を低減するため、ワイヤソーイングウェブ1310(すなわち、ワイヤガイドローラ)の移動は最初、ソーイングワイヤの太さの少なくとも半分D/2だけワイヤがインゴット1330に進入するまで、線形方向(すなわち、
図13の左側の鉛直方向矢印の方向または
図13の右側の差し込み図に示すX方向)にステージ1340側へと移動するように制御され、これによってワイヤの応力が制御される。この最初の段階の後、ワイヤソーイングウェブ1310の運動は、鉛直方向の移動を維持するとともに、鉛直方向移動に対して直交する第2の方向(すなわち、(
図13の右側の差し込み図に示すY方向と平行な)
図13の左側の水平方向矢印の方向)の移動を開始するように制御される。このワイヤソーイングウェブ1310の組み合わせ移動は、基板1350の非対称形状の肘部が切断されるまで維持される。この時点の後は、ワイヤソーイングウェブ1310の水平方向の移動が停止となり、垂直方向の移動のみが進行して、インゴット1330の残りの部分についてステージ1340に達するまで維持され、これにより基板1350の主領域が切断される。選択された時間にわたる選択された水平方向変位の鉛直方向および垂直方向のワイヤソーイングウェブ1310の組み合わせ移動によって、
図13の右側に示すように、所望の非対称形状で基板1350が切断され得る。
【0059】
したがって、
図12を参照して説明したMWSプロセスと同様に、
図13に示す制御運動手順によれば、鉛直方向および水平方向のワイヤソーイングウェブ1310の移動の制御および調整によって、基板1350のサイズおよび形状の設定/調整が可能となる。たとえば、
図15に示すように、垂直方向にも移動する時間区間のワイヤソーイングウェブ1310の鉛直方向変位によって、非対称領域610の範囲を定める基板リム650と非対称領域610の端部(肘部660が現れる場所に略対応する)との間の最大距離が決まる。一方、非対称領域610における基板リム650と基板肘部660の領域における基準平面690との間の最大高さは、水平方向のワイヤソーイングウェブ1310の総変位によって決まる。結果としては、鉛直方向のローラ移動と協調して横方向のローラ1310の移動の継続時間および変位を制御するだけで、非対称領域610の特定のサイズ、形状、および傾斜を実現可能である。
【0060】
上記
図7~
図9に示すSiC基板の剛性を高めるための非対称形状は、
図12および
図13を参照して説明した制御運動手順のいずれかを用いることにより得られる。一方で、基板の中央エリアに対応する実質的に平坦な主領域と、基板周辺エリアに配置され、基板表面側への内向き傾斜すなわち主領域の平面外への配向を伴う非対称領域と、を有する、という同じ原理に基づく
図7~
図9以外の非対称形状についても、基板の剛性の向上が考えられる。
【0061】
図12および
図13に示す2つの代替的な制御運動手順を伴うMWS法は、所与の非対称形状での基板の切断を可能にする。一方で、ステージおよび/またはワイヤソーイングウェブにより実行される移動の他の改良/組み合わせを伴う制御運動手順であっても、同一または他の非対称形状の切断が考えられる。たとえば、
図12および
図13を参照して説明した制御運動手順は、SiC基板の非対称領域が最初に切断されるのではなく、MWSプロセスの最後に切断されるように改良可能である。また、ステージとワイヤソーイングウェブとの間の相対移動は、ワイヤソーイングウェブの線形移動とステージの回転移動との組み合わせの結果により、湾曲した非対称領域を切断するものであってもよい。これらのケースのいずれかにおいて、制御運動手順を伴うMWS法は、(たとえば、ワイヤガイドローラ1210(または、1310)の鉛直方向すなわちステージ1240(または、1340)の表面に対して直交する方向の移動およびワイヤガイドローラの鉛直方向移動に対して直交する方向のステージ1240(または、ワイヤガイドローラ1310)の移動を生成するための)ワイヤガイドローラとインゴットステージとの間の所望の相対移動を生成可能な機械的手段の組み合わせと、
図12および
図13に示すような所望の非対称形状でSiC基板を切断するためのステージおよび/またはワイヤガイドローラの移動の量、継続時間、および方向を規定するソフトウェア/ルーチンに従ってステージおよび/またはワイヤガイドローラを移動させるように上記機械的手段を制御するコントローラと、をMWS装置に実装することにより実現され得る。
【0062】
本発明の原理は、-40μm~0μmの範囲、好ましくは-35μm~0μmの範囲の総反り値、および/または、70μm未満、好ましくは45μmの歪み値を特徴とするSiC基板の剛性の向上に適用可能であるため都合が良い。さらに、本発明に係る非対称形状を有するSiC基板は、修飾4H-SiC、6H-SiC、および15R-SiCのうちの1つを施したSiC単結晶、ならびに/または、主領域において、基底面(1000)の軸外配向を有し、0.5°~8°の軸外配向、好ましくは4°の軸外配向を有するSiC単結晶により製造されるのが好ましい。
【0063】
結論として、本発明の原理に係る非対称形状を有するSiC基板およびその製造方法は、歪みおよび/または反り等の熱的に誘導される変形に対する剛性が向上したSiC基板の提供を可能にする。したがって、非対称形状を有するSiC基板上の裏面成長が効率的に抑えられ、基板周辺エリアに限定されることにより、対称断面を有する従来の平坦な基板と比較して、基板の反りに対する悪影響が抑えられる。
【0064】
最後に、「上向き(upwards)」、「内向き(inwards)」、「鉛直方向(vertical)」、および「水平方向(horizontal)」等の用語を用いて上記例示的な実施形態の特定の特徴を説明したが、これらの用語は、基板の非対称形状およびMWSプロセスにおけるプレートとワイヤガイドローラとの間の相対運動の説明を容易にする目的で使用したものであるため、特許請求の範囲に係る発明またはその構成要素のいずれかを特定の空間的配向での使用に限定するものと解釈されるべきではない。さらに、単結晶SiC基板を参照して本発明を説明してきたが、本発明の原理は、AlNおよびGaN等の他の半導体単結晶により構成された基板にも同様に適用可能であるため都合が良い。
【符号の説明】
【0065】
600、700 非対称基板
610、710 非対称領域
620、720 主領域
630、730 表面
640、740 裏面
645 裏面成長
650、750 基板リム
660 基板肘部または肩部
670 配向切り欠き
680 非対称領域の隣接辺
690、790 主領域の基準平面
695 非対称領域の基準平面
800 非対称基板
810 非対称領域
820 主領域
840 裏面
845 裏面成長
860 基板肩部
900 非対称基板
910 非対称領域
920 主領域
940 裏面
945 裏面成長
960 基板肩部
1000 従来のマルチワイヤソーイング装置
1010 ワイヤガイドローラ
1020 ワイヤソーイングウェブ
1030 SiCインゴット
1040 MWSステージ
1050 ウェハ
1200、1300 マルチワイヤソーイング装置
1210、1310 ワイヤガイドローラまたはワイヤソーイングウェブ
1230、1330 SiCインゴット
1240、1340 MWSステージ
1250、1350 非対称ウェハ