IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スズキ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-車両前部構造 図1
  • 特許-車両前部構造 図2
  • 特許-車両前部構造 図3
  • 特許-車両前部構造 図4
  • 特許-車両前部構造 図5
  • 特許-車両前部構造 図6
  • 特許-車両前部構造 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-29
(45)【発行日】2024-06-06
(54)【発明の名称】車両前部構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/08 20060101AFI20240530BHJP
   B62D 21/00 20060101ALI20240530BHJP
   B62D 21/15 20060101ALI20240530BHJP
   B60K 1/00 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
B62D25/08 E
B62D21/00 B
B62D21/15 C
B60K1/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020203431
(22)【出願日】2020-12-08
(65)【公開番号】P2022090869
(43)【公開日】2022-06-20
【審査請求日】2023-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】長崎 雄太
【審査官】長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-032954(JP,A)
【文献】特開2013-112195(JP,A)
【文献】特開2007-090965(JP,A)
【文献】特開2003-326983(JP,A)
【文献】特開2020-037313(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109204529(CN,A)
【文献】特開2016-000607(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/08
B62D 21/00
B62D 21/15
B60K 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前部に配置され車両前後方向へ延びているサイドメンバと、
前記サイドメンバの車幅方向外側に設けられているストラットタワーと、
前記サイドメンバの車幅方向外側に位置し、かつ、前記ストラットタワーの車両前側に位置し、車両前後方向に延びているエプロンパネルと
前記サイドメンバの車幅方向内側に配置され車幅方向へ延びており、電気部品を支持するためのクロスメンバと、
前記サイドメンバの上面部に固定され、前記クロスメンバの車幅方向端部が取り付けられるブラケットと、を備え、
前記サイドメンバは、車両前後方向に前部と中間部と後部とを有し、前記中間部が前記エプロンパネルに固定され、かつ、前記後部が前記ストラットタワーの車幅方向内側壁面に固定されており、車両側方視で、前記中間部と前記後部との境界部分が前記ストラットタワーと前記エプロンパネルとの境界部分と重なる位置に設けられているとともに、車両上方視で、前記後部が車両後方へ行くに従って車幅方向内側へ向かう形状に形成されており、
前記ブラケットは、車両上方視で、前記サイドメンバの上面部における前記中間部と前記後部との境界部分と重なる位置に設けられている、車両前部構造において、
前記ストラットタワーと前記エプロンパネルとの境界部分は、前記ストラットタワーの車幅方向内側壁面の前端部と、前記ストラットタワーの前壁面と、前記エプロンパネルの後端部と、から形成される段差部を有しており、
前記ブラケットは、車幅方向に延びる上面部と該上面部の前後端部から下方に延びる一対の側壁面とにより断面コ字状に形成され、前記上面部には、前記クロスメンバの車幅方向端部が車幅方向に向かって離脱可能な状態で連結される連結部が設けられている、ことを特徴とする車両前部構造。
【請求項2】
前記連結部は、車両側方視で、前記段差部よりも車両後側に設けられていることを特徴とする請求項に記載の車両前部構造。
【請求項3】
前記ブラケットの前記上面部には、前記一対の側壁面の間に位置し車幅方向へ延びている稜線が形成されており、車両側方視で、前記稜線と前記段差部とが重なる位置に設けられているとともに、前記連結部が前記稜線よりも車両後側に設けられていることを特徴とする請求項に記載の車両前部構造。
【請求項4】
前記連結部は、車幅方向に対して斜め向きに形成され車幅方向内側に開口している切欠きを有し、該切欠きに前記クロスメンバの車幅方向端部が係合されることを特徴とする請求項のいずれか1つに記載の車両前部構造。
【請求項5】
前記サイドメンバは、車両上方視で、前記後部の車幅方向の幅が前記前部の車幅方向の幅および前記中間部の車幅方向の幅よりも大きいことを特徴とする請求項1~のいずれか1つに記載の車両前部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両前部構造として、例えば、特許文献1には、車体フロアの前側傾斜部にフロントサイドフレームの後端を接続し、該フロントサイドフレームの車幅方向内壁に、上下方向に延びる凹部(脆弱部)を形成することによって、該凹部が前面衝突の衝突荷重により水平面内で車幅方向に折れ曲がるようにした自動車の車体構造が開示されている。この車体構造において、フロントサイドフレームの下壁で凹部の前方に位置する部分には、枠状のフロントサブフレームを吊り下げるように支持する取付ブラケットが設けられている。フロントサブフレームには、エンジン、トランスミッション、サスペンション装置等が支持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両のエンジンや電動モータなどのパワーユニットが搭載される車両前部の空間には多数の機器が配置されるため、各々の機器を限られたスペースに効率良く配置する必要がある。この際、前後方向に延びる左右のサイドメンバ上に、車幅方向に延びるクロスメンバを架け渡し、該クロスメンバによりコンバータやSPU(Sensor Processing Unit)等の電気部品を支持することが必要になる場合がある。この場合、高電圧が印加される電気部品の下方にパワーユニットが配置されることになる。
【0005】
前述した従来構造においては、前面衝突時、フロントサイドフレーム(サイドメンバ)の下壁に吊り下げられているフロントサブフレームに作用する衝突荷重がフロントサイドフレームへ及ぼす影響は考慮されている。しかしながら、前記フロントサブフレームに支持されたパワーユニットの上方に配置され得る高電圧の電気部品に対して前面衝突時に作用する衝突荷重までを考慮したフレーム構造の工夫はなされておらず、改善の余地があった。
【0006】
本発明はこのような実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、前面衝突時、クロスメンバに支持された電気部品に作用する衝突荷重を周辺構造で吸収できる車両前部構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明の一態様は、車両前部に配置され車両前後方向へ延びているサイドメンバと、前記サイドメンバの車幅方向外側に設けられているストラットタワーと、前記サイドメンバの車幅方向外側に位置し、かつ、前記ストラットタワーの車両前側に位置し、車両前後方向に延びているエプロンパネルと前記サイドメンバの車幅方向内側に配置され車幅方向へ延びており、電気部品を支持するためのクロスメンバと、前記サイドメンバの上面部に固定され、前記クロスメンバの車幅方向端部が取り付けられるブラケットと、を備え前記サイドメンバは、車両前後方向に前部と中間部と後部とを有し、前記中間部が前記エプロンパネルに固定され、かつ、前記後部が前記ストラットタワーの車幅方向内側壁面に固定されており、車両側方視で、前記中間部と前記後部との境界部分が前記ストラットタワーと前記エプロンパネルとの境界部分と重なる位置に設けられているとともに、車両上方視で、前記後部が車両後方へ行くに従って車幅方向内側へ向かう形状に形成されており、前記ブラケットは、車両上方視で、前記サイドメンバの上面部における前記中間部と前記後部との境界部分と重なる位置に設けられている、車両前部構造を提供する。この車両前部構造における前記ストラットタワーと前記エプロンパネルとの境界部分は、前記ストラットタワーの車幅方向内側壁面の前端部と、前記ストラットタワーの前壁面と、前記エプロンパネルの後端部と、から形成される段差部を有しており、前記ブラケットは、車幅方向に延びる上面部と該上面部の前後端部から下方に延びる一対の側壁面とにより断面コ字状に形成され、前記上面部には、前記クロスメンバの車幅方向端部が車幅方向に向かって離脱可能な状態で連結される連結部が設けられている。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る車両前部構造によれば、前面衝突時、サイドメンバが中間部と後部との境界部分付近で車幅方向外側に曲がるようになるので、クロスメンバに支持された電気部品に作用する衝突荷重を周辺構造で吸収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施形態に係る構造が適用される車両前部の概略構成を車両前方側の斜め上方から見た斜視図である。
図2図1において後部ブラケットを取り除いた状態でサイドメンバおよびその周辺を拡大して示す斜視図である。
図3図1においてカウルアッパパネルを取り除いた状態を車両上方側から見た平面図である。
図4図3においてストラットタワー、エプロンパネル、後側ブラケットおよびフードロックメンバを取り除いた状態を示す平面図である。
図5図2におけるA-A線断面図である。
図6図1における後部ブラケットを拡大して示す斜視図である。
図7図6における後部ブラケットを車幅方向内側から見た側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1図7は、本発明の実施形態に係る車両前部構造を示すものである。なお、図において、矢印F方向は車両前後方向で前方を示し、矢印O方向は車幅方向で外方を示し、矢印U方向は車両上下方向で上方を示している。また、実施形態の説明における「左右」は、車両室内から前方を見たときの左右に対応している。
【0011】
本発明の実施形態に係る構造が適用される車両前部1には、図1図3に示すように、車両のパワーユニットが搭載されるパワーユニットルーム(若しくはモータルーム)Pが設けられている。このパワーユニットルームPの車両後方にはダッシュパネル2が設けられおり、該ダッシュパネル2によってパワーユニットルームPと車室Rとが区画されている。ダッシュパネル2の車両上方にはカウルアッパパネル3が設けられている。車両前部1の左右には、車両前後方向に延びる一対のサイドメンバ4が設けられている。以下では、車両右側に配置されているサイドメンバ4およびその周辺の構造について説明する。なお、車両左側に配置されているサイドメンバ4およびその周辺の構造は、車両右側と同様の構造であるため説明を省略する。
【0012】
サイドメンバ4は、図2図4に示すように、車両前後方向に前部41と中間部42と後部43とを有している。前部41の前端は、車両前端部に設けられているフロントバンパクロスメンバ5に固定されている。後部43の後端は、ダッシュパネル2の前壁部に固定されている。図中の破線は、前部41と中間部42との境界部分4a、および中間部42と後部43との境界部分4bを表している。前部41、中間部42および後部43は、一体に成形されていても、結合部材等を介して互いに結合されていてもよい。
【0013】
サイドメンバ4の後部43は、車両上方視で、車両後方へ行くに従って車幅方向内側へ向かう形状に形成されている(図3および図4)。具体的に本実施形態では、車両上方視で、後部43の後端側部分が前端側部分よりも車幅方向内側に位置するように湾曲した形状に形成されている。ただし、後部43は湾曲形状に限定されるものではなく、中間部42との境界部分4bの近傍で車幅方向内側に屈曲した傾斜形状などであってもよい。
【0014】
また、サイドメンバ4は、車両上方視で、後部43の車幅方向の幅W3が前部41の車幅方向の幅W1および中間部42の車幅方向の幅W2よりも大きくなるように形成されている(図4)。なお、車幅方向の幅W1,W2およびW3は、前部41、中間部42および後部43それぞれの範囲内での平均値を表している。本実施形態では、前部41および中間部42の各幅が、前部41および中間部42の範囲内で略一定となるように形成されている。一方、後部43の幅は、車両後方に向かうに従い徐々に大きくなるように形成されている。したがって、前部41、中間部42および後部43の平均的な幅の関係はW1=W2<W3となっている。これにより、サイドメンバ4の後部43の剛性が高められている。
【0015】
サイドメンバ4の車幅方向外側には、図1図3に示すように、ストラットタワー6およびエプロンパネル7が設けられている。ストラットタワー6は、図示しない車輪を懸架するサスペンションのばね、およびショックアブソーバからなる懸架装置を収納しており、高い剛性を有している。ストラットタワー6の下方には、図示しないホイールハウスが配置されている。ストラットタワー6の車幅方向内側壁面6aの下端部には、サイドメンバ4の後部43の車幅方向外側に形成されているフランジ部43aがスポット溶接等によって接合されている(図2)。つまり、サイドメンバ4の後部43は、ストラットタワー6の車幅方向内側壁面6aに固定されている。
【0016】
エプロンパネル7は、ストラットタワー6の車両前側に位置し、車両前後方向に延びて立設されている。エプロンパネル7は、車両側方視で略三角形状に形成されている。エプロンパネル7には、後端部7aから車幅方向内側に突出したフランジ部7bが設けられており、該フランジ部7bがストラットタワー6の前壁面6bにスポット溶接等によって接合されている(図2)。また、エプロンパネル7の後端下部には、ストラットタワー6の前壁面6bの車幅方向内側下部から前方に突出したフランジ部6cがスポット溶接等によって接合されている。これらの接合箇所付近に位置する部分が、ストラットタワー6とエプロンパネル7との境界部分Bに該当する。
【0017】
エプロンパネル7の下端部7cには、サイドメンバ4の中間部42の車幅方向外側に形成されているフランジ部42aがスポット溶接等によって接合されている(図2)。つまり、サイドメンバ4の中間部42は、エプロンパネル7に固定されている。したがって、車両側方視で、前述したサイドメンバ4の中間部42と後部43との境界部分4bは、ストラットタワー6とエプロンパネル7との境界部分Bと重なる位置に設けられている。
【0018】
ストラットタワー6とエプロンパネル7との境界部分Bは、図5に示すような段差部20を有している。なお、図5は、図2におけるA-A線断面図である。具体的に、段差部20は、ストラットタワー6の車幅方向内側壁面6aの前端部と、ストラットタワー6の前壁面6bと、エプロンパネル7の後端部7a(およびフランジ部7b)と、から形成されている。換言すると、境界部分Bには、ストラットタワー6の車幅方向内側壁面6aおよび前壁面6bが交わるコーナー部分と、該コーナー部分から車幅方向外側に続く前壁面6bに接合されたエプロンパネル7の後端部7aとから形成される段差部20が設けられている。
【0019】
なお、エプロンパネル7の外側壁面には、補強部材7d,7eが接合されており(図5)、補強部材7dはエプロンパネル7の前側部分の剛性を高め、補強部材7eはエプロンパネル7の後側部分の剛性を高めている。ただし、補強部材7d,7eにより補強されたエプロンパネル7の剛性は、ストラットタワー6の剛性よりも低い。
【0020】
エプロンパネル7の上方には、図1図3に示すように、車両前後方向に延びるエプロンサイドフレーム8が配置されている。エプロンサイドフレーム8は、車両前方へ行くに従って車両下方に傾斜している。エプロンサイドフレーム8の前端部は、横枠部材9を介してサイドメンバ4の前部41に連結されている(図1および図3)。サイドメンバ4の前部41には、車幅方向に延びるフードロックメンバ10の端部も固定されている。
【0021】
サイドメンバ4の車幅方向内側には、図1図4に示すように、車幅方向に延びる前側クロスメンバ11および後側クロスメンバ12が車両前後方向に間隔を空けて配置されている。前側クロスメンバ11は、前側ブラケット13を介してサイドメンバ4に取り付けられており、後側クロスメンバ12は、後側ブラケット14を介してサイドメンバ4に取り付けられている。前側クロスメンバ11と後側クロスメンバ12との間は、車両前後方向に延びる複数の連結部材15によって互いに連結されている。前側クロスメンバ11、後側クロスメンバ12および連結部材15は、図示しないコンバータやSPU等の電気部品を支持しており、電気部品の下方には、図示しない電動モータ等のパワーユニットが配置されている。なお、本実施形態では、後側クロスメンバ12が本発明に係る「クロスメンバ」に相当し、後側ブラケット14が本発明に係る「ブラケット」に相当している。
【0022】
前側ブラケット13は、前側部分13aおよび後側部分13bから構成されている。前側部分13aは、車両上下方向に延び車幅方向内側に開口した断面コ字状に形成されている。前側部分13aの車幅方向外側に位置する側壁面の下部は、サイドメンバ4の中間部42における車幅方向内側に位置する側面に接合されている。前側部分13aの上面には、前側クロスメンバ11を固定するための固定孔が形成されており、前側クロスメンバ11の車幅方向端部がボルト等で固定される。
【0023】
前側ブラケット13の後側部分13bは、車幅方向に延び車両下方に開口した断面コ字状に形成されており、前側の側壁面のうちの車幅方向内側に位置する部分が、前側部分13aの後側の側壁面に接合されている。また、後側部分13bの前後の側壁面の下端部は、サイドメンバ4の上面部4cにおける中間部42に位置する部分に接合されている。さらに、後側部分13bの上面の車幅方向外側に位置する端部、および前後の側壁面の車幅方向外側に位置する端部は、エプロンパネル7の内側壁面に接合されている。
【0024】
後側ブラケット14は、図1図3図6および図7に示すように、車幅方向に延びる上面部14aと、該上面部14aの前後端部から下方に延びる一対の側壁面14b,14cとにより断面コ字状に形成されている。後側ブラケット14には、前側の側壁面14bの下端と車幅方向外側端とから前方に突出する前側フランジ部14d、後側の側壁面14cの下端と車幅方向外側端とから後方に突出する後側フランジ部14e、および、上面部14aの車幅方向外側端から上方に突出する外側フランジ部14fが形成されている(図6)。
【0025】
後側ブラケット14の前側フランジ部14dのうちの下側部分は、サイドメンバ4の上面部4cにおける中間部42に位置する部分に接合されている。また、前側フランジ部14dのうちの車幅方向外側部分、および外側フランジ部14fのうちの前側部分は、エプロンパネル7の内側壁面に接合されている。さらに、後側フランジ部14eのうちの下側部分は、サイドメンバ4の上面部4cにおける後部43に位置する部分に接合されている。加えて、後側フランジ部14eのうちの車幅方向外側部分、および外側フランジ部14fのうちの後側部分は、ストラットタワー6の車幅方向内側壁面6aおよび前壁面6bに接合されている。したがって、後側ブラケット14は、車両上方視で、サイドメンバ4の上面部4cにおける中間部42と後部43との境界部分4bと重なる位置に設けられている(図3)。
【0026】
また、後側ブラケット14の上面部14aには、連結部14gが設けられている。連結部14gは、後側クロスメンバ12の車幅方向端部が車幅方向に向かって離脱可能な状態で連結される。連結部14gは、車両側方視で、ストラットタワー6とエプロンパネル7との境界部分B(段差部20)よりも車両後側に設けられている。具体的に、本実施形態における連結部14gは、車幅方向に対して斜め後ろ向きに形成され車幅方向内側に開口している切欠きを有している。なお、ここでは、連結部14gの切欠きが車幅方向に対して斜め後ろ向きに形成されている一例を示したが、車幅方向に対して斜め前向きに切欠きを形成することも可能である。
【0027】
後側ブラケット14の連結部14gに連結される後側クロスメンバ12の車幅方向端部には、図4に示すように、取付孔12aが形成されている。後側ブラケット14の連結部14gの切欠きと後側クロスメンバ12の取付孔12aとにボルト等を挿通して締め付けることにより、後側クロスメンバ12の車幅方向端部が連結部14gの切欠きに係合される。このような後側クロスメンバ12と後側ブラケット14の連結(係合)状態により、前面衝突時、後述するようなサイドメンバ4の曲がり変形に伴って後側ブラケット14が車幅方向外側に変位することで、後側クロスメンバ12が後側ブラケット14の連結部14gから離脱するようになる。その際、連結部14gの切欠きが車幅方向に平行ではなく斜めに形成されているので抵抗が生じ、後側クロスメンバ12が連結部14gからスムーズには離脱できない。
【0028】
さらに、後側ブラケット14の上面部14aには、一対の側壁面14b,14cの間に位置し車幅方向へ延びる稜線14hが形成されている。この稜線14hは、車両側方視で、ストラットタワー6とエプロンパネル7との境界部分B(段差部20)と重なる位置に設けられている。したがって、後側ブラケット14の連結部14gは、稜線14hよりも車両後側に設けられていることになる。
【0029】
次に、本実施形態に係る車両前部構造の作用について説明する。
上述したような本実施形態に係る車両前部1の構造では、当該車両の前面衝突時、衝突荷重がフロントバンパクロスメンバ5を介してサイドメンバ4に入力する。衝突荷重を受けたサイドメンバ4では、まず、前部41が車両前後方向に圧縮変形して潰れることにより、衝突荷重の一部が吸収される。
【0030】
そして、サイドメンバ4の前部41で吸収し切れなかった衝突荷重は、サイドメンバ4の中間部42および後部43に伝達される。このとき、上述したようなサイドメンバ4の構造、すなわち、中間部42がエプロンパネル7に固定され、かつ、サイドメンバ4の後部43がストラットタワー6の車幅方向内側壁面6aに固定されており、車両側方視で、中間部42と後部43との境界部分4bがストラットタワー6とエプロンパネル7との境界部分Bと重なる位置に設けられているとともに、車両上方視で、後部43が車両後方へ行くに従って車幅方向内側へ向かう形状(湾曲形状)に形成されていることにより、サイドメンバ4が中間部42と後部43との境界部分4b付近で車幅方向外側に曲がるようになり、当該曲がり変形によって衝突荷重が吸収される。
【0031】
上記サイドメンバ4の車幅方向外側への曲がり変形について詳しく説明すると、サイドメンバ4の後部43が固定されているストラットタワー6の剛性は、サイドメンバ4の中間部42が固定されているエプロンパネル7の剛性よりも高い。このため、サイドメンバ4の前部41からの衝突荷重が中間部42および後部43を介してエプロンパネル7およびストラットタワー6に伝達されるとき、低剛性のエプロンパネル7は変形して(潰れて)衝突荷重を吸収し、高剛性のストラットタワー6は衝突荷重に抗する。特に、本実施形態では、ストラットタワー6とエプロンパネル7との境界部分Bが段差部20を有しているので、段差部20の前方に位置するエプロンパネル7が変形し易く、段差部20の後方に位置するストラットタワー6が変形し難い構造になっている。
【0032】
また、本実施形態のサイドメンバ4は、後部43が車幅方向内側へ湾曲した形状になっているので、前部41からの衝突荷重が中間部42および後部43に作用すると、中間部42と後部43との境界部分4b付近で車幅方向外側に曲がり易くなっている。さらに、本実施形態では、後部43の車幅方向の幅W3を前部41および中間部42の車幅方向の各幅W1,W2よりも大きくすることで、後部43の剛性が高められている。このため、サイドメンバ4は、中間部42と後部43との境界部分4bでより曲がり易くなっている。
【0033】
サイドメンバ4における中間部42と後部43との境界部分4bは、車両側方視で、ストラットタワー6とエプロンパネル7との境界部分Bと重なる位置にある。このため、前述したようなエプロンパネル7の変形に伴って、該エプロンパネル7に固定されているサイドメンバ4の中間部42がエプロンパネル7の側(車幅方向外側)へ変位する。これにより、サイドメンバ4は、中間部42と後部43との境界部分4b付近において「く」の字状に車幅方向外側へ変形するようになり、当該曲がり変形によって衝突荷重が吸収される。
【0034】
上記のようなサイドメンバ4の車幅方向外側への曲がり変形に合わせて、後側ブラケット14が車幅方向外側へ移動する。すなわち、後側ブラケット14は、車両上方視で、サイドメンバ4の上面部4cにおける中間部42と後部43との境界部分4bと重なる位置に設けられている。このため、サイドメンバ4が中間部42と後部43との境界部分4b付近で車幅方向外側へ曲がり始めると、そのサイドメンバ4の変形に追随して後側ブラケット14も移動する。この際、後側ブラケット14の上面部14aには、車幅方向へ延びている稜線14hが形成されているので、サイドメンバ4を介して後側ブラケット14に伝達される衝突荷重が稜線14hに沿った方向に作用するようになる。これにより、サイドメンバ4の曲がり変形に追随した後側ブラケット14の移動が促進される。
【0035】
後側ブラケット14が車幅方向外側へ移動すると、連結部14gに連結されていた後側クロスメンバ12が後側ブラケット14から離脱する。具体的に、後側ブラケット14の連結部14gには、車幅方向に対して斜め後ろ向きに形成され車幅方向内側に開口している切欠きが設けられている。このような連結部14gの切欠きに連結(係合)された後側クロスメンバ12は、前面衝突の初期においてサイドメンバ4の前部41が圧縮変形する間は、切欠きとの係合状態が維持される。一方、前部41の圧縮変形後にサイドメンバ4の車幅方向外側への曲がり変形が生じ、後側ブラケット14が車幅方向外側へ移動し始めると、後側クロスメンバ12の車幅方向端部が切欠きの開口側へ相対的に移動するようになる。換言すると、サイドメンバ4の曲がり変形に対して、後側ブラケット14は追随するが、後側クロスメンバ12は追随しない。そして、後側ブラケット14の車幅方向外側への移動が進むことで、後側クロスメンバ12が後側ブラケット14から離脱する。
【0036】
ただし、後側ブラケット14の連結部14gが衝突荷重により変形してしまうと、上記のような後側クロスメンバ12の離脱が妨げられる可能性がある。しかしながら、本実施形態では、後側ブラケット14の連結部14gが、車両側方視で、ストラットタワー6とエプロンパネル7との境界部分Bの段差部20よりも車両後側に設けられており、高剛性なストラットタワー6の側にある連結部14gは変形が生じ難い構造となっている。このため、前面衝突時、後側クロスメンバ12を後側ブラケット14から確実に離脱させることができる。
【0037】
上記のような後側クロスメンバ12の挙動に対して、前側クロスメンバ11は、サイドメンバ4の曲がり変形に追随して前側ブラケット13が移動しても、前側ブラケット13から離脱することはない。つまり、前面衝突時、前側クロスメンバ11は、前側ブラケット13から離脱することなくサイドメンバ4の曲がり変形に追随して移動するが、後側クロスメンバ12は、後側ブラケット14から離脱してサイドメンバ4の曲がり変形には追随しない。これにより、前側クロスメンバ11、後側クロスメンバ12、およびそれらに支持されている電気部品の挙動を制御しつつ、電気部品に作用する衝突荷重をサイドメンバ4の曲がり変形によって吸収することができる。
【0038】
すなわち、前側クロスメンバ11および後側クロスメンバ12の双方が、前側ブラケット13および後側ブラケット14に取り付けられたままの状態では、前側クロスメンバ11および後側クロスメンバ12がサイドメンバ4の曲がり変形を妨げてしまうことになる。このため、前側クロスメンバ11および後側クロスメンバ12に支持されている電気部品に作用する衝突荷重をサイドメンバ4の曲がり変形によって十分に吸収することが難しくなる。また、前側クロスメンバ11および後側クロスメンバ12の双方が、前側ブラケット13および後側ブラケット14から離脱してしまうと、前側クロスメンバ11、後側クロスメンバ12および電気部品の挙動を制御することが困難になる。このような状況下では、高電圧が印加される電気部品が、その下方に配置されているパワーユニットと接触してしまう可能性が生じる。
【0039】
一方、本実施形態のように後側クロスメンバ12が後側ブラケット14から離脱するようにすれば、サイドメンバ4の曲がり変形が後側クロスメンバ12によって妨げられることがなくなるので、電気部品に作用する衝突荷重をサイドメンバ4の曲がり変形により十分に吸収することができる。これと同時に、前側クロスメンバ11が前側ブラケット13に取り付けられたままにすることで、電気部品の挙動を制御することができるため、高電圧の電気部品とパワーユニットとの接触を回避することが可能になる。
【0040】
以上、本発明の実施形態について述べたが、本発明は既述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。例えば、既述の実施形態では、前側ブラケット13および後側ブラケット14を介してサイドメンバ4上に固定された前側クロスメンバ11および後側クロスメンバ12により電気部品が支持される一例を示したが、電気部品が後側クロスメンバ12だけで支持される、或いは、後側クロスメンバ12を含む3つ以上のクロスメンバで電気部品が支持されるようにしてもよい。また、後側ブラケット14が断面コ字状に形成される一例を示したが、任意の形状のブラケットによりクロスメンバをサイドメンバ上に固定することが可能である。
【符号の説明】
【0041】
1…車両前部
2…ダッシュパネル
3…カウルアッパパネル
4…サイドメンバ
4a…前部と中間部との境界部分
4b…中間部と後部との境界部分
4c…上面部
41…前部
42…中間部
43…後部
5…フロントバンパクロスメンバ
6…ストラットタワー
6a…車幅方向内側壁面
6b…前壁面
7…エプロンパネル
7a…後端部
8…エプロンサイドフレーム
9…横枠部材
10…フードロックメンバ
11…前側クロスメンバ
12…後側クロスメンバ
13…前側ブラケット
14…後側ブラケット
14a…上面部
14b,14c…側壁面
14g…連結部
14h…稜線
15…連結部材
20…段差部
B…ストラットタワーとエプロンパネルの境界部分
P…パワーユニットルーム
R…車室
W1~W3…車幅方向の幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7