(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-29
(45)【発行日】2024-06-06
(54)【発明の名称】炭素複合磁性体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/21 20170101AFI20240530BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20240530BHJP
H01F 1/00 20060101ALI20240530BHJP
A61N 2/10 20060101ALI20240530BHJP
A61K 33/26 20060101ALI20240530BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20240530BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240530BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240530BHJP
A61K 9/51 20060101ALI20240530BHJP
A61K 41/00 20200101ALI20240530BHJP
【FI】
C01B32/21
C23C26/00 C
H01F1/00 145
A61N2/10
A61K33/26
A61K47/04
A61P35/00
A61P43/00 125
A61K9/51
A61K41/00
(21)【出願番号】P 2019213999
(22)【出願日】2019-11-27
【審査請求日】2022-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2019047701
(32)【優先日】2019-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】310013299
【氏名又は名称】國友熱工株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】509294999
【氏名又は名称】カインド・ヒート・テクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】坪田 輝一
(72)【発明者】
【氏名】上島 康嗣
(72)【発明者】
【氏名】種岡 一男
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特表平09-506210(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B
C23C
H01F
A61N
A61K
A61P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素母材と鉄母材とを処理炉内に配置する準備工程と、
前記処理炉の内部を、前記炭素母材の表面から炭素原子が遊離可能であると共に前記鉄母材から鉄原子又は鉄結晶が遊離可能な高活性化雰囲気にする処理工程とを備えており、
前記処理工程において、前記鉄母材から鉄原子又は鉄結晶を遊離させてこれを磁性核と成して前記炭素母材に結合させると共に、前記炭素母材から炭素原子の群を遊離させて前記磁性核に結合させて炭素系磁性微粒子を生成させることにより、炭素母材が炭素系磁性微粒子の群よりなる表面層で覆われた炭素複合磁性体を製造する方法であって、
前記炭素母材として、グラファイト又はグラファイト系炭素同素体を使用している一方、
前記鉄母材として鉄製容器を使用しており、前記鉄製容器に炭素母材を載せるか又は収納した状態で前記処理炉の内部を高活性化雰囲気と成すことを特徴とする、
炭素複合磁性体の製造方法。
【請求項2】
前記処理工程で、30~40nmの大きさの炭素系磁性微粒子を生成させることを特徴とする、
請求項1に記載した炭素複合磁性体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、炭素複合磁性体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁性体は、磁石を初めとして様々な分野に使用されている。磁性体の用途の代表例である磁石はモータに使用されているが、モータは電気自動車の発展と共に高性能化が進んでおり、例えば特許文献1には、自動車用モータにネオジウム磁石を使用することが開示されている。
【0003】
他方、磁性体を人体や動物の治療用物質として使用することも提案されており、その例として特許文献2には、腫瘍の温熱治療のための物質として、磁性体ナノ粒子の表面を有機化合物で被覆してなるものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-143651号公報
【文献】特開2007-031393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ネオジウム磁石は強い磁力を有しているが、耐熱温度が低いという問題や、高価である問題、或いは産地が限定されているため政変等による供給不安を払拭できないといった問題がある(他の希土類金属も同様である。)。また、ネオジウム磁石に限らず、金属磁石には耐蝕性の問題があって用途が限られるという問題があった。
【0006】
他方、特許文献2に開示されている温熱治療用物質は磁性体の有効利用の例であるが、磁性体ナノ粒子を有機化合物で被覆した構造では、被覆層が剥離する可能性がないとも云えないと思われ、信頼性に問題があると懸念される。
【0007】
本願発明はこのような現状を契機として成されたものであり、従来にない画期的な磁性体とその利用技術を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決すべく、本願発明者たちは、従来にない磁性体として炭素複合磁性体を発明した。この炭素複合磁性体は多彩な構成を含んでおり、その典型例を各請求項で特定している。
【0009】
本願発明は炭素複合磁性体の製法に係るもので、このうち請求項1の発明は、
「炭素母材と鉄母材とを処理炉内に配置する準備工程と、
前記処理炉の内部を、前記炭素母材の表面から炭素原子が遊離可能であると共に前記鉄母材から鉄原子又は鉄結晶が遊離可能な高活性化雰囲気にする処理工程とを備えており、
前記処理工程において、前記鉄母材から鉄原子又は鉄結晶を遊離させてこれを磁性核と成して前記炭素母材に結合させると共に、前記炭素母材から炭素原子の群を遊離させて前記磁性核に結合させて炭素系磁性微粒子を生成させることにより、炭素母材が炭素系磁性微粒子の群よりなる表面層で覆われた炭素複合磁性体を製造する方法であって、
前記炭素母材として、グラファイト又はグラファイト系炭素同素体を使用している一方、
前記鉄母材として鉄製容器を使用しており、前記鉄製容器に炭素母材を載せるか又は収納した状態で前記処理炉の内部を高活性化雰囲気と成すことを特徴とする」
というものである。
この場合、鉄原子又は鉄結晶は、炭素との化合物や窒素との化合物のような化合物も含んでいる。
【0010】
グラファイトでないグラファイト系炭素同素体として、グラフェンやフラーレン、カーボンナノチューブなどが挙げられる。実際の製品では、グラファイトが基材になっているものと他の炭素同素体が基材になっているものとが混在していることも有り得る。
【0011】
請求項2の発明は請求項1の発明の具体例であり、
「前記処理工程で、30~40nmの大きさの炭素系磁性微粒子を生成させることを特徴とする」
という構成になっている。
【0013】
本願発明の炭素複合磁性体は磁石に使用できるが、この場合、磁石は、電動モータ、電磁シリンダ、電磁弁、その他の電気式アクチェータに使用できる。この場合の磁石には、永久磁石と電磁石との両方を含んでいる。
【0014】
本願発明の炭素複合磁性体は塗料に使用できるが、この場合、塗料は、水性又は油性のような液体塗料と、粉末塗料との両方を含んでいる。
【0015】
本願発明の炭素複合磁性体は治療用の医療用材料に使用できるが、この場合、治療用の医療用材料としては、癌細胞や腫瘍などを加温又は加振して攻撃するターゲット剤が例として挙げられる。検査用材料の例としては、造影剤への添加物が挙げられる。
【発明の効果】
【0017】
本願発明の磁性微粒子は鉄の核を炭素で覆った構造になっているが、炭素は耐熱性が高いため、例えば、磁石に使用してモータや電磁シリンダ等の電気式アクチェータに適用するに当たって、高温環境に晒される電気式アクチェータにも使用できる。或いは、炭素は湿気や酸、アルカリに対する耐蝕性にも優れているため、過酷な腐食環境に晒される場合にも使用できる。
【0018】
従って、磁石に使用してモータや電磁シリンダ等の電気式アクチェータに適用すると、それら電気式アクチェータの用途を拡大できると共に、信頼性も大幅に向上できる。また、炭素は、鉄を触媒として種々の同位体が生成されてこれらが鉄の核を覆う形で成長しているため、炭素が鉄の核から分離することはない。この面でも、安定性・信頼性に優れている。
【0019】
そして、本願発明の磁性体は耐熱性・耐蝕性に優れているため、磁石に適用するとネオジウム磁石に代替可能であると云えるが、安価かつ安定的に入手できる鉄と炭素とを原料にしているため、コストを抑制して安定的に供給可能である。
【0020】
本願発明の磁性微粒子は、請求項2のとおり、30~40ナノメートルの大きさを成すことにより、磁性核と炭素原子とを金属結合させて、化学的・物理的に高い安定性を確保できる。
【0021】
本願発明において、高活性化雰囲気は市販されている放電装置等を使用して実現できるため、画期的な炭素複合磁性体を提供できる。
【0022】
炭素複合磁性体は塗料にも適用できるが、例えば、磁性体入りの塗料を建物の壁等に塗布して電磁シールド性を実現したり、非スチール製の壁やパネルなどに塗布して白板又は黒板のような書き込み板と成すことにより、磁石で紙類を押さえることを可能としたり、磁石付き黒板拭きを取り付けることを可能にできる。つまり、非磁性体製の面に磁性を持たせて様々な用途に利用できる。
【0023】
樹脂製部材のような非磁性体製の部材に炭素複合磁性体入り塗料でマーキングし、これを磁力センサで読み取るといったことも可能である。すなわち、センシングシステムに利用することも可能である。
【0024】
医療用材料に使用すると、本願発明の磁性体は化学的安定性に優れているため、人体や動物への安全性を確保しつつ、高い造影効果や治療効果を実現できると云える。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】実施品のSEM断層写真であり、(A)はミクロンレベルでの写真、(B)は100ナノレベルでの写真である。
【
図2】(A)は10ナノレベルに拡大したHAADF画像(高角散乱環状視野走査透過顕微鏡画像)、(B)は(A)の矢印線に沿った箇所に存在する元素の種類と電気的強さを示すグラフである。
【
図3】(A)は
図2(A)とは異なる部位でのHAADF画像、(B)は(A)の矢印線に沿った箇所に存在する元素の種類と電気的強さを示すグラフである。
【
図4】
図2(A)、
図3(A)とは異なる部位でのHAADF画像、(B)は(A)の矢印線に沿った箇所に存在する元素の種類と電気的強さを示すグラフである。
【
図5】(A)(B)は炭素複合磁性体の模式図、(C)は磁性微粒子の模式図である。
【
図6】炭素複合磁性体の生成過程を示す模式図である。
【
図7】(A)は実施品の蛍光X線分析結果を示すグラフ、(B)は実施品のラマン分光スペクトルを示すグラフである。
【
図8】実施品の磁気特性を示すVSM試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(1).基本構造
次に、図面を参照しつつ、本願発明の実施形態を説明する。
図1は、母材としてグラファイトの粉体を使用した炭素組成物のSEM写真であり、(A)はミクロンレベルの拡大率で表示している。(A)において、左下コーナー寄り部位や右上コーナー寄り部位、及び上辺部に平滑状のブロック状体が見えるが、これは無数のグラファイト結晶が結合したグラファイト片1である。グラファイト母材は、多数のグラファイト片(或いはグラファイト粒)1よりなっている。なお、母材としては、グラファイトの板材や棒材も使用できる。
【0027】
図1(A)において、グラファイト片1の群で囲われた部位に多数の粒状体が見えるが、これは炭素複合磁性体の複合体であり、炭素複合磁性体の複合体は、無数の炭素系組成物から成っている。
図1(A)のうち右上コーナー寄り部位に位置したグラファイト片1の表面にも多数の粒が見えるが、これらの粒も炭素複合磁性体の複合体である。
【0028】
図1(B)に示すのは、
図1(A)の一部を100ナノレベルに拡大した写真であり、粒径が100ナノ以下の粒が見える。これが炭素複合磁性体2であると推測される。炭素複合磁性体2の大きさには相当のバラツキがある。また、複数(多数)の炭素複合磁性体2が結合しているが、その数や形状はまちまちである。多数の炭素複合磁性体2が集まった複合体がぶどうの房のように大きく成長している状態も観察できる。いずれにしても、隣り合った炭素複合磁性体2の間には空間が空いており、従って、全体として
ポーラス構造になっている。
【0029】
図2~4の写真から、炭素複合磁性体2の表面に多数の磁性微粒子3が存在していることを確認できる。磁性微粒子3はやや丸みを帯びた塊の状態になっており、従って、近似的には、磁性微粒子3は直径が30~40ナノメートルの程度の大きさになっている。いずれにおいても、透過線の走査位置は左下から右上に向けて変化させている。
【0030】
図2(B)、
図3(B)、
図4(B)のグラフから、いずれの粒子も鉄を核にしていることと、周囲に炭素の群が存在していることとを理解できる。そして、粒子の直径は概ね30~40ナノメートルであるが、鉄のイオン半径は大まかには0.1ナノ(1Å)より少し小さい大きさであるので、
図2(A)、
図3(A)、
図4(A)に現れている粒子の核は、数十の鉄原子が体心立方格子の状態で結合した結晶であると推測される。従って、
図2(A)、
図3(A)、
図4(A)に最小単位として現れている粒は、鉄の結晶を核にした磁性微粒子3であると云える。
【0031】
炭素複合磁性体2の大きさがまちまちであるのに対して、磁性微粒子3の大きさにはあまり違いは見られないが、これは、鉄の結晶は安定的な大きさがあるためと推測される(母材から分離するに際して、安定した大きさで分離していると推測される。)。
【0032】
図4では各成分とも安定していないが、これは、磁性微粒子の成長が不十分で核成分の密度が小さくなっているためと推測される。なお、
図2~4において酸素と窒素が見られるが、酸素は処理炉内に残っていたものと推測される。窒素は、製造を窒素雰囲気下で行ったことから、炉内の窒素が固定(結合)されていると推測される。
【0033】
(2).構造モデル
正確には解明していないが、
図2~
図4に現れている炭素複合磁性体2は、
図5(A)(B)に模式的に示すように、グラファイトよりなる基材
(グラファイト母材)4の表面に多数の磁性微粒子3が結合した構造になっていると推測される(多数の基材4のうちの一部が、グラフェンやフラーレン、カーボンナノチューブで構成されていることも有り得る)。
【0034】
基材4の大きさや形状はまちまちであり、(A)のような球状や(B)のような楕円状の他に、小片状やヒトデ状などの形態も想定できる。基材4は立体形状であるが、グラフェンで構成されている場合はシート状になろう。
図5(A)(B)では、磁性微粒子3が概ね一定の密度で存在しているが、実際には、磁性微粒子3の密度はまちまちであると推測される。また、磁性微粒子3が複層構造を成して基材4に結合していることも想定される。
【0035】
磁性微粒子3についてみると、既述のとおり、成分と大きさとから推測して、各磁性微粒子3は鉄原子5が集まった結晶である磁性核6で構成されていることは間違いないと云える。そして、磁性微粒子3は炭素原子7を有するが、炭素原子7が鉄の結晶内に入り込むことはないので、炭素原子7(或いは分子)は、磁性核6の表面に結合していると推測される。この場合の結合は、クーロン力によって引き合う金属結合であると推測される。従って、磁性微粒子3は、化学的・物理的に極めて安定していると云える。
【0036】
グラファイトである基材4と磁性微粒子3との結合は、互いを構成する炭素同士の結合であるが、基材4を構成する炭素の一部と磁性微粒子3を構成する炭素の一部とがクーロン力によって金属結合している状態と、磁性微粒子3を構成する炭素の一部がグラファイトを構成する炭素の一部に置き換わっている態様とを想定できる。いずれにしても、磁性微粒子3と基材4とは合金のような状態に結合しているため、炭素複合磁性体2は全体として化学的・物理的に非常に安定している。
【0037】
基材4の単位表面積当たりの磁性微粒子3の密度が高いほど、炭素複合磁性体2の磁力は強くなる。従って、高磁力の炭素複合磁性体2を得るためには、基材4はできるだけ小さくて磁性微粒子3の密度が高いのがよい。
【0038】
他方、製品の磁力特性の面から見ると、製品が磁性微粒子3のみで構成されているのが理想的であり、そのためには、基材4(母材)から磁性微粒子3のみを取り出すか、又は、磁性微粒子3を基材4に結合していない状態で生成させるかする必要がある。特に、母材としてグラファイトの板材やロッドを使用した場合は、磁性微粒子3の密度を高くするためには、磁性微粒子3を基材4から分離させる必要性が高い。この点については、課題として研究を進めている。
【0039】
なお、グラファイトの粉体を母材とした場合、磁性微粒子3が安定化して存在するために基材4が必要であることも想定される。そうすると、現実的には、基材4をできるだけ小さくしつつ、磁性微粒子3の密度をできるだけ高くするのが好適であると云える。
【0040】
(4).製法
図1(A)等に示す実施品(サンプル)は、炭素源であるグラファイトと鉄源の材料とを処理炉に入れて、処理炉の内部を放電等によって電気的に高エネルギ状態にすることで製造できる。鉄源としては、例えば、皿状等の鉄製容器を使用できる。そして、処理炉内に高電圧で放電して炉内を高活性化雰囲気にすることにより、グラファイト材の表面から炭素原子を遊離(飛散)させると共に、鉄製容器から鉄の結晶を分離させる。
【0041】
この場合、炭素複合磁性体2の生成メカニズムは幾つか想定される。1つのメカニズムは、
図6(A)に示すように、ステンレス皿
等の容器から遊離した磁性核6がグラファイト(基材4)の表面に衝突して多数の炭素原子(分子)7を飛散させ、飛散した炭素分子7が基材4に結合して安定化するというものである。
【0042】
想定される他のメカニズムは、
図6(B)に示すように、遊離した磁性核6と炭素原子(分子)7とが結合して磁性微粒子3となり、この磁性微粒子3が母材であるグラファイトの基材4に結合するというものである。両方のメカニズムが働いている可能性も想定される。
【0043】
いずれにしても、グラファイト母材1からは炭素原子7が次々に遊離していくため、谷がどんどん深くなっていきつつ、炭素複合磁性体2の生成が促進されていくため山はどんどん高くなっていき、結果として、基材4の表面の凹凸が成長していると推測される。
【0044】
作図上の制限から
図6において基材4は静止した状態に表示しているが、グラファイト母材1が多数の基材4に分離・飛散し、基材4ごとに磁性微粒子3の生成が進んでいることも想定される。すなわち、飛散している基材4に磁性微粒子3や炭素原子7が結合していることも想定し得る。但し、本願発明者たちの実験では、グラファイト母材が炉内の全体に飛散することは防止できるので、基本的には、炭素原子7及び磁性核6とも、外部エネルギを受けて電離することによって結合していると解される。
【0045】
以上の説明では、グラファイト母材1から炭素原子7が遊離してこれが再結合する状態を述べたが、高エネルギ状態で、グラファイト母材1の一部でグラフェンが層間剥離し、このグラフェンが基になってフラーレンやカーボンナノチューブに構造変化したり、グラフェンが磁性核5を包み込んで金属含有の炭素組成物を構成したり、グラフェンを構成する炭素の一部が窒素原子に置換して窒化炭素に構造変化したりしていることも想定できる。
【0046】
(3).性状
図7(A)は、金属材料として鉄製容器を使用した実施物の蛍光X線分析結果を示すグラフであり、鉄製容器を構成していた鉄の原子(結晶)が炭素複合磁性体に取り込まれていることを確認できるが、この
図7(A)のグラフは、
図2(B)、
図3(B)、
図4(B)ともぴったりと符合している。
【0047】
図8は、実施品の磁気特性を示すVSM評価結果を示すグラフであり、このグラフから、炭素組成物に磁性を有する金属である鉄が包含されている事実を確認できるが、この金属は、鉄製容器を構成していた鉄であり、これも、
図2(B)、
図3(B)、
図4(B)と符合している。
【0048】
図7,8では、試料として、炭素組成物の粉末を塩水に投入・攪拌して沈殿させたものを使用した。この場合、aは沈殿層のうち下層に溜まったもの、bは沈殿層の上部に溜まったもので、cはaとbとの混合物であるが、aの磁力が強くてbの磁力が弱いという事実は、aはFeの含有割合が高くて比重が大きく、bはFeの含有割合が低くて比重が小さいことを意味している。
【0049】
図7(B)は、実施品のラマン分光スペクトルを示すグラフであり、グラファイト結晶が高いピークとして現れていると共に、カーボンナノチューブやフラーレンも現れている。すなわち、炭素が遊離しやすい高活性化状態になっていることにより、グラファイト母材を構成していた炭素が、カーボンナノチューブやフラーレンに構造変化していると推測される。或いは、既述のとおり、層間剥離したグラフェンが基になって、フラーレンやカーボンナノチューブ等に変化している可能性も考えられる。
【0050】
更に、実施例の製造工程は窒素が存在する状態で行われているが、興味深いのは、窒化炭素と思われる物質が存在していることである。窒化炭素がどのような状態で存在しているのか解明していないが、本実施物には、六方晶窒化炭素も生成されていると推測される。
図2(B)、
図3(B)、
図4(B)に窒素が現れていることに照らすと、磁性核6の外面に結合している可能性も有り得る。
【0051】
図9は、他の実施品の磁気特性評価結果であり、縦軸に磁化量、横軸に地場の強さを表示している。
図9の結果は
図8とも整合している。いずれにしても、炭素複合磁性体2に含まれる鉄の量によって磁気特性は大きく変化する。
【0052】
炭素複合磁性体2は磁石として利用できるため、炭素層で覆われて耐蝕性・耐熱性に優れた磁石を製造可能となる。従って、既に述べたように、過酷な環境で使用できる電気式アクチェータの用途として有望であると期待される。また、炭素複合磁性体2は、焼結や樹脂への練り込みなどによって所望の形状に形成できる。従って、成型性に優れていて、モールド式モータへの適用も容易である。この点も、本願発明品の利点である。
【0053】
モータ用磁石の場合は磁力は強いほどよいが、用途によっては、さほどの磁力を要しない場合もあろう。
図8のa,b,cの例から理解できるように、組成物には、磁力の強いものも弱いものも含まれているが、強い磁力のものを必要とする場合は、遠心分離機などで篩い分けたらよい。
【0054】
さて、処理炉内に酸素と窒素が存在していることに起因しているためと思われるが、炭素複合磁性体に、Fe3CやFe3O4,Fe3Nが存在していることが確認されている。これらの化合物がどのような形で存在しているのか明らかではないが、これらの化合物が磁性核を形成していることも推測される。すると、これら化合物の特性を利用して磁性体を得ることも可能であると思料される。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本願発明は、炭素複合磁性体等に具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0056】
1 粒状のグラファイト母材(基材)
2 炭素複合磁性体
3 磁性微粒子
4 基材(グラファイト)
5 鉄原子
6 磁性核(鉄の結晶)
7 炭素原子(或いは炭素分子)