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特許7496094がんを治療又は予防するための医薬組成物の効果を期待できる対象を選択する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-29
(45)【発行日】2024-06-06
(54)【発明の名称】がんを治療又は予防するための医薬組成物の効果を期待できる対象を選択する方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6851 20180101AFI20240530BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20240530BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240530BHJP
   C07K 7/06 20060101ALI20240530BHJP
   C07K 7/08 20060101ALI20240530BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20240530BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20240530BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20240530BHJP
   A61K 38/08 20190101ALI20240530BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20240530BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240530BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240530BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20240530BHJP
   A61K 47/54 20170101ALI20240530BHJP
【FI】
C12Q1/6851 Z
G01N33/574 Z ZNA
G01N33/53 Y
C07K7/06
C07K7/08
C12Q1/06
C12Q1/04
C12Q1/686 Z
A61K38/08
A61K38/10
A61P35/00
A61P37/04
A61K39/00 H
A61K47/54
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2022096290
(22)【出願日】2022-06-15
(62)【分割の表示】P 2021502387の分割
【原出願日】2020-02-27
(65)【公開番号】P2022130480
(43)【公開日】2022-09-06
【審査請求日】2022-12-16
(31)【優先権主張番号】P 2019036458
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002912
【氏名又は名称】住友ファーマ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505443953
【氏名又は名称】株式会社癌免疫研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100211199
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 さやか
(72)【発明者】
【氏名】山川 絵里奈
(72)【発明者】
【氏名】後藤 正志
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/157692(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/115779(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
G01N 33/00-33/46
C07K 7/06
C07K 7/08
A61K 38/08
A61K 38/10
A61P 35/00
A61P 37/04
A61K 39/00
A61K 47/54
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
がんを治療又は予防するための医薬組成物の効果を期待できる対象を選択する方法であって、
前記対象から採取された試料を用いて、WT1 mRNAの発現量を決定する工程、並びに
WT1 mRNAの発現量が10000コピー/μg RNA未満又は以下の場合に、前記対象は前記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程を含み、
前記医薬組成物は、RMFPNAPYL(配列番号:2)、YMFPNAPYL(配列番号:8)、ALLPAVPSL(配列番号:5)、SLGEQQYSV(配列番号:6)、RVPGVAPTL(配列番号:7)、VLDFAPPGA(配列番号:9)、CMTWNQMNL(配列番号:3)、CYTWNQMNL(配列番号:4)、CNKRYFKLSHLQMHSRK(配列番号:11)、CNKRYFKLSHLQMHSRKH(配列番号:12)、CNKRYFKLSHLQMHSRKHTG(配列番号:13)、WAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:14)、CWAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:15)及びWAPVLDFAPPGASAYGSLC(配列番号:16)からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるペプチド若しくはその薬学上許容される塩、
C-CMTWNQMNL(C-C間はジスルフィドボンドを表す、配列番号:21)及びC-CYTWNQMNL(C-C間はジスルフィドボンドを表す、配列番号:10)からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるペプチド若しくはその薬学上許容される塩、又は
式(I):

[式中、X 及びY は、単結合を表し、腫瘍抗原ペプチドAは、以下のアミノ酸配列:
RMFPNAPYL(配列番号:2)、YMFPNAPYL(配列番号:8)、ALLPAVPSL(配列番号:5)、SLGEQQYSV(配列番号:6)、RVPGVAPTL(配列番号:7)及びVLDFAPPGA(配列番号:9)の中から選ばれるいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドを表し、腫瘍抗原ペプチドAのN末端アミノ酸のアミノ基が式(1)中のY と結合し、腫瘍抗原ペプチドAのC末端アミノ酸のカルボニル基が式(1)中の水酸基と結合し、
は、水素原子又は腫瘍抗原ペプチドBを表し、
腫瘍抗原ペプチドBは、腫瘍抗原ペプチドAとは配列が異なり且つ以下のアミノ酸配列:
CMTWNQMNL(配列番号:3)及びCYTWNQMNL(配列番号:4)の中から選ばれるいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドを表し、腫瘍抗原ペプチドBのシステイン残基のチオエーテル基が式(1)中のチオエーテル基と結合する。]
で表される化合物若しくはその薬学上許容される塩を含み、
前記試料は、血液、髄液又は骨髄液を含む、方法。
【請求項2】
前記医薬組成物が、RMFPNAPYL(配列番号:2)、YMFPNAPYL(配列番号:8)、ALLPAVPSL(配列番号:5)、SLGEQQYSV(配列番号:6)、RVPGVAPTL(配列番号:7)及びVLDFAPPGA(配列番号:9)からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記医薬組成物が、CMTWNQMNL(配列番号:3)及びCYTWNQMNL(配列番号:4)からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記医薬組成物が、RMFPNAPYL(配列番号:2)、YMFPNAPYL(配列番号:8)、ALLPAVPSL(配列番号:5)、SLGEQQYSV(配列番号:6)、RVPGVAPTL(配列番号:7)及びVLDFAPPGA(配列番号:9)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド、並びに
CMTWNQMNL(配列番号:3)及びCYTWNQMNL(配列番号:4)からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記医薬組成物が、式(I):

[式中、X及びYは、単結合を表し、腫瘍抗原ペプチドAは、以下のアミノ酸配列:
RMFPNAPYL(配列番号:2)、YMFPNAPYL(配列番号:8)、ALLPAVPSL(配列番号:5)、SLGEQQYSV(配列番号:6)、RVPGVAPTL(配列番号:7)及びVLDFAPPGA(配列番号:9)の中から選ばれるいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドを表し、腫瘍抗原ペプチドAのN末端アミノ酸のアミノ基が式(1)中のYと結合し、腫瘍抗原ペプチドAのC末端アミノ酸のカルボニル基が式(1)中の水酸基と結合し、
は、水素原子又は腫瘍抗原ペプチドBを表し、
腫瘍抗原ペプチドBは、腫瘍抗原ペプチドAとは配列が異なり且つ以下のアミノ酸配列:
CMTWNQMNL(配列番号:3)及びCYTWNQMNL(配列番号:4)の中から選ばれるいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドを表し、腫瘍抗原ペプチドBのシステイン残基のチオエーテル基が式(1)中のチオエーテル基と結合する。]
で表される化合物又はその薬学上許容される塩を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
式(1)で表される化合物が、式(2):

(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)
で表される化合物又はその薬学上許容される塩である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
式(1)で表される化合物が、式(3):

(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)で表される化合物又はその薬学上許容される塩である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記医薬組成物が、C-CMTWNQMNL(C-C間はジスルフィドボンドを表す、配列番号:21)及びC-CYTWNQMNL(C-C間はジスルフィドボンドを表す、配列番号:10)からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記医薬組成物が、CNKRYFKLSHLQMHSRK(配列番号:11)、CNKRYFKLSHLQMHSRKH(配列番号:12)、CNKRYFKLSHLQMHSRKHTG(配列番号:13)、WAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:14)、CWAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:15)及びWAPVLDFAPPGASAYGSLC(配列番号:16)、からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるペプチド又はその薬学上許容される塩をさらに含む、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記医薬組成物が、WAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:14)で表されるアミノ酸配列からなるペプチド又はその薬学上許容される塩をさらに含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記医薬組成物が、薬学上許容される担体を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記試料が、末梢血又は骨髄液を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
TP53野生型の場合に、前記対象は前記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程をさらに含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
BCOR野生型の場合に、前記対象は前記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程をさらに含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記WT1遺伝子のmRNA発現量が4000未満又は以下であった場合に、前記対象は前記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
請求項1~12のいずれか一項に記載された医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与した前記対象から採取した試料を用いて、WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞を検出する工程、及び
投与前の前記対象から採取した試料と比較して、前記WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞が増加していた場合に、前記対象は前記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程をさらに含む、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞を検出する工程が、WT1ペプチドとHLA分子との複合体を前記試料と反応させ、前記試料に含まれる前記複合体を認識するWT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞の存在又は細胞数を調べることにより実施される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記WT1ペプチドとHLA分子との複合体がテトラマーの形態である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記HLA分子が、前記対象のHLAに適合したものである、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞を検出する工程が、フローサイトメトリー法による解析を含む、請求項1619のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
請求項1~12のいずれか一項に記載された医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を複数回投与した対象において、遅延型過敏反応が検出された場合に、前記対象は前記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程をさらに含む、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
対象における請求項1~12のいずれか一項記載された医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与した箇所における反応と、前記対象における前記医薬組成物又は前記ペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与していない箇所における反応を比較し、投与した箇所における反応と投与していない箇所における反応との差が基準値以上である場合に、前記対象は前記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程をさらに含む、請求項21に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がんを治療又は予防するための医薬組成物の効果を期待できる対象を選択する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体による腫瘍細胞やウイルス感染細胞等の排除には細胞性免疫、とりわけ細胞傷害性T細胞(CTLと称する)が重要な働きをしている。CTLは、腫瘍細胞上の抗原ペプチド(腫瘍抗原ペプチド)とMHC(Major Histocompatibility Complex)クラスI抗原との複合体を認識した前駆体T細胞が分化増殖して生成されるものであり、腫瘍細胞を攻撃する。
【0003】
MHCは、ヒトではヒト白血球型抗原(HLA)と呼ばれ、HLA-A、B及びCwなどが知られている。腫瘍抗原ペプチドは、腫瘍で高発現しているタンパク質、すなわち腫瘍抗原タンパク質が細胞内で合成された後、プロテアーゼにより細胞内で分解されることによって生成される。生成された腫瘍抗原ペプチドは、小胞体内でMHCクラスI抗原と結合して複合体を形成し、細胞表面に運ばれて抗原提示される。この抗原提示された腫瘍抗原ペプチド(キラーペプチド)を腫瘍反応性のCTLが認識し、細胞傷害作用やリンフォカインの産生を介して抗腫瘍効果を示す。
【0004】
腫瘍抗原タンパク質又は腫瘍抗原由来のキラーペプチドをいわゆるがん免疫療法剤(がんワクチン)の主成分として利用することにより、がん患者の体内のがん特異的CTLを増強させる治療法の開発が検討されている。例えば、WT1(Wilm’s tumor 1)を標的としたがん免疫療法が開発されつつある。WT1は小児の腎癌であるウイルムス腫瘍の責任遺伝子として同定された遺伝子であり、ジンクフィンガー構造を有する転写因子である(非特許文献1参照)。当初、WT1遺伝子は癌抑制遺伝子であるとされたが、その後の研究により、造血器腫瘍や固形癌においてはむしろ癌遺伝子として働くことが示された。また、WT1遺伝子は多くの悪性腫瘍において高発現していることが報告されている(非特許文献2参照)。WT1は、白血病及び固形癌における新しい腫瘍抗原タンパク質であると考えられている(非特許文献3参照)。そこで、WT1タンパクあるいはWT1タンパク由来のペプチドを利用したがんワクチン療法や樹状細胞療法、WT1タンパク由来のペプチドとHLA複合体を認識するTCR様抗体、あるいはTCR様抗体を利用したキメラ抗原受容体(CAR)遺伝子改変T細胞療法などが開発中である。
【0005】
当該WT1タンパク質に関して、例えば、WT1126-134ペプチド、WT1235-243ペプチド、WT110-18ペプチド、WT1187-195ペプチド、WT1302-310ペプチド、及びWT137-45ペプチドなど、MHCクラスIに結合し提示されるキラーペプチドが報告されている(特許文献1、特許文献2、非特許文献4及び5参照)。
【0006】
また、がん免疫療法において重要な働きをしている細胞としては、CTLの他にヘルパーT(Th1)細胞が挙げられる。一般的に、抗原タンパク質は細胞内リソソームで分解され、13~17残基程度のアミノ酸から構成される断片ペプチドの一部が、抗原ペプチド(ヘルパーペプチド)としてMHCクラスII分子に結合する。その後、抗原ペプチドとMHCクラスII分子の複合体がTCR・CD3複合体に提示されて活性化されたTh1細胞は、CTLの誘導及び活性化を促す。ヒトのMHCクラスII分子としてHLA-DR、DQ及びDPなどが知られており、WT1タンパクに由来する複数のヘルパーペプチドがこれまで同定されている(非特許文献6及び7参照)。
【0007】
がん免疫療法の効果を十分発揮させるためには、予め対象の応答を予測し、その効果を期待できる対象を選択することが重要である。しかしながら、上記MHCクラスIに結合し提示されるキラーペプチド及び/又はMHCクラスII分子に結合するヘルパーペプチドを利用してWT1を標的としたがん免疫療法が開発されつつある一方で、これまでに、WT1抗原タンパク質由来の抗原ペプチドを利用したWT1ペプチドワクチンによる治療又は予防の効果が期待できる対象を予め選択する方法に関する報告はなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第00/06602号
【文献】国際公開第00/18795号
【非特許文献】
【0009】
【文献】Am J Hum Genet. 1993; 52: 192-203
【文献】Blood.1997; 89: 1405-1412
【文献】Immunogenetics. 2000; 51: 99-107
【文献】Clin Cancer Res. 2005; 11: 8799-807
【文献】Blood. 2008 Oct 1; 112(7): 2956-64
【文献】J Immunother. 2007; 30: 282-93
【文献】Cancer Immunol Immunother. 2010; 59: 1467-79
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明は、がんを治療又は予防するための医薬組成物の効果を期待できる対象を選択する方法を提供することを目的とする。ここで、医薬組成物は、WT1キラーペプチド及び/又はWT1ヘルパーペプチドを含む。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、Tumor Protein p53(TP53)遺伝子及び/又はBCL6 co-repressor(BCOR)遺伝子における変異の有無、並びにWT1遺伝子のmRNA発現量等に基づき、がんを治療又は予防するための医薬組成物の効果を期待できる対象を選択する方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、例えば、本発明は以下の発明を含む。
〔1〕
がんを治療又は予防するための医薬組成物の効果を期待できる対象を選択する方法であって、
上記対象から採取された試料を用いて、TP53遺伝子及び/又はBCOR遺伝子における変異の有無を決定する工程、並びに
TP53野生型及び/又はBCOR野生型の場合に、上記対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程を含み、
上記医薬組成物は、RMFPNAPYL(配列番号:2)、YMFPNAPYL(配列番号:8)、ALLPAVPSL(配列番号:5)、SLGEQQYSV(配列番号:6)、RVPGVAPTL(配列番号:7)、VLDFAPPGA(配列番号:9)、CMTWNQMNL(配列番号:3)、CYTWNQMNL(配列番号:4)、CNKRYFKLSHLQMHSRK(配列番号:11)、CNKRYFKLSHLQMHSRKH(配列番号:12)、CNKRYFKLSHLQMHSRKHTG(配列番号:13)、WAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:14)、CWAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:15)及びWAPVLDFAPPGASAYGSLC(配列番号:16)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、方法。
〔2〕
上記医薬組成物が、RMFPNAPYL(配列番号:2)、YMFPNAPYL(配列番号:8)、ALLPAVPSL(配列番号:5)、SLGEQQYSV(配列番号:6)、RVPGVAPTL(配列番号:7)及びVLDFAPPGA(配列番号:9)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、〔1〕に記載の方法。
〔3〕
上記医薬組成物が、CMTWNQMNL(配列番号:3)及びCYTWNQMNL(配列番号:4)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、〔1〕又は〔2〕に記載の方法。
〔4〕
上記医薬組成物が、RMFPNAPYL(配列番号:2)、YMFPNAPYL(配列番号:8)、ALLPAVPSL(配列番号:5)、SLGEQQYSV(配列番号:6)、RVPGVAPTL(配列番号:7)及びVLDFAPPGA(配列番号:9)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド、並びに
CMTWNQMNL(配列番号:3)及びCYTWNQMNL(配列番号:4)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の方法。
〔5〕
上記医薬組成物が、式(I):
【化1】

[式中、X及びYは、単結合を表し、腫瘍抗原ペプチドAは、以下のアミノ酸配列:
RMFPNAPYL(配列番号:2)、YMFPNAPYL(配列番号:8)、ALLPAVPSL(配列番号:5)、SLGEQQYSV(配列番号:6)、RVPGVAPTL(配列番号:7)及びVLDFAPPGA(配列番号:9)の中から選ばれるいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドを表し、腫瘍抗原ペプチドAのN末端アミノ酸のアミノ基が式(1)中のYと結合し、腫瘍抗原ペプチドAのC末端アミノ酸のカルボニル基が式(1)中の水酸基と結合し、
は、水素原子又は腫瘍抗原ペプチドBを表し、
腫瘍抗原ペプチドBは、腫瘍抗原ペプチドAとは配列が異なり且つ以下のアミノ酸配列:
CMTWNQMNL(配列番号:3)及びCYTWNQMNL(配列番号:4)の中から選ばれるいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドを表し、腫瘍抗原ペプチドBのシステイン残基のチオエーテル基が式(1)中のチオエーテル基と結合する。]
で表される化合物又はその薬学上許容される塩を含む、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の方法。
〔6〕
上記医薬組成物が、RMFPNAPYL(配列番号:2)のアミノ酸配列からなるペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の方法。
〔7〕
上記医薬組成物が、YMFPNAPYL(配列番号:8)のアミノ酸配列からなるペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の方法。
〔8〕
上記医薬組成物が、C-CMTWNQMNL(C-C間はジスルフィドボンドを表す、配列番号:21)のアミノ酸配列からなるペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の方法。
〔9〕
上記医薬組成物が、C-CYTWNQMNL(C-C間はジスルフィドボンドを表す、配列番号:10)のアミノ酸配列からなるペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の方法。
〔10〕
上記医薬組成物が、CWAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:15)のアミノ酸配列からなるペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の方法。
〔11〕
上記医薬組成物が、WAPVLDFAPPGASAYGSLC(配列番号:16)のアミノ酸配列からなるペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の方法。
〔12〕
上記医薬組成物が、WAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:14)のアミノ酸配列からなるペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、〔1〕~〔9〕のいずれかに記載の方法。
〔13〕
式(1)で表される化合物が、式(2):
【化2】

(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)
で表される化合物又はその薬学上許容される塩である、〔5〕に記載の方法。
〔14〕
式(1)で表される化合物が、式(3):
【化3】

(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)で表される化合物又はその薬学上許容される塩である、〔5〕に記載の方法。
〔15〕
上記医薬組成物が、CNKRYFKLSHLQMHSRK(配列番号:11)、CNKRYFKLSHLQMHSRKH(配列番号:12)、CNKRYFKLSHLQMHSRKHTG(配列番号:13)、WAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:14)、CWAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:15)及びWAPVLDFAPPGASAYGSLC(配列番号:16)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド又はその薬学上許容される塩をさらに含む、〔1〕~〔14〕のいずれかに記載の方法。
〔16〕
式(1)で表される化合物が、式(2):
【化4】

(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)
で表される化合物又はその薬学上許容される塩であり、
上記医薬組成物がさらにWAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:14)又はその薬学上許容される塩を含む、〔5〕に記載の方法。
〔17〕
式(1)で表される化合物が、式(3):
【化5】

(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)で表される化合物又はその薬学上許容される塩であり、
上記医薬組成物がさらにWAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:14)又はその薬学上許容される塩を含む、〔5〕に記載の方法。
〔18〕
上記医薬組成物が、薬学上許容される担体を含む、〔1〕~〔17〕のいずれかに記載の方法。
〔19〕
TP53野生型の場合に、上記対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する、〔1〕~〔18〕のいずれかに記載の方法。
〔20〕
TP53野生型及びBCOR野生型の場合に、上記対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する、〔1〕~〔19〕のいずれかに記載の方法。
〔21〕
上記対象から採取した試料を用いて、WT1遺伝子のmRNA発現量を決定する工程、及び上記WT1遺伝子のmRNA発現量が基準値未満又は以下であった場合に、上記対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程をさらに含む、〔1〕~〔20〕のいずれかに記載の方法。
〔22〕
〔1〕~〔18〕のいずれかに記載された医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与した上記対象から採取した試料を用いて、WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞を検出する工程、及び
投与前の上記対象から採取した試料と比較して、上記WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞が増加していた場合に、上記対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程をさらに含む、〔1〕~〔21〕のいずれかに記載の方法。
〔23〕
WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞を検出する工程が、WT1ペプチドとHLA分子との複合体を上記試料と反応させ、上記試料に含まれる上記複合体を認識するWT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞の存在又は細胞数を調べることにより実施される、〔22〕に記載の方法。
〔24〕
上記WT1ペプチドとHLA分子との複合体がテトラマーの形態である、〔23〕に記載の方法。
〔25〕
上記HLA分子が、上記対象のHLAに適合したものである、〔23〕又は〔24〕に記載の方法。
〔26〕
WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞を検出する工程が、フローサイトメトリー法による解析を含む、〔22〕~〔25〕のいずれかに記載の方法。
〔27〕
〔1〕~〔18〕のいずれかに記載された医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を複数回投与した対象において、遅延型過敏反応が検出された場合に、上記対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程をさらに含む、〔1〕~〔26〕のいずれかに記載の方法。
〔28〕
対象における〔1〕~〔18〕のいずれかに記載された医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与した箇所における反応と、上記対象における上記医薬組成物又は上記ペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与していない箇所における反応を比較し、投与した箇所における反応と投与していない箇所における反応との差が基準値以上である場合に、上記対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程をさらに含む、〔27〕に記載の方法。
〔29〕
上記対象の改訂IPSS(IPSS-R)に基づく核型がVery poor以外である場合に、上記対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程をさらに含む、〔1〕~〔28〕のいずれかに記載の方法。
〔30〕
対象における〔1〕~〔18〕のいずれかに記載された医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与した対象から採取された試料における骨髄芽球の割合を、上記医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与する前の対象から採取された試料における骨髄芽球の割合で除した値が、基準値未満又は以下であった場合に、上記対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程をさらに含む、〔1〕~〔29〕のいずれかに記載の方法。
〔31〕
上記試料が体液、粘膜、細胞、組織及び細胞又は組織の培養物並びにこれらの組合せからなる群から選択される、〔1〕~〔30〕のいずれかに記載の方法。
〔32〕
上記癌が、白血病、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫、胃癌、大腸癌、肺癌、乳癌、胚細胞癌、肝癌、皮膚癌、膀胱癌、前立腺癌、子宮癌、子宮頸癌、卵巣癌及び脳腫瘍からなる群から選択される、〔1〕~〔31〕のいずれかに記載の方法。
〔33〕
〔1〕~〔32〕のいずれかに記載の方法により、がんを治療又は予防するための医薬組成物の効果を期待できる対象を選択する工程、及び
選択された対象に対して〔1〕~〔18〕のいずれかに記載の医薬組成物を投与する工程を含む、がんの治療方法。
〔34〕
がんの治療方法に使用するための医薬組成物であって、
RMFPNAPYL(配列番号:2)、YMFPNAPYL(配列番号:8)、ALLPAVPSL(配列番号:5)、SLGEQQYSV(配列番号:6)、RVPGVAPTL(配列番号:7)、VLDFAPPGA(配列番号:9)、CMTWNQMNL(配列番号:3)、CYTWNQMNL(配列番号:4)、CNKRYFKLSHLQMHSRK(配列番号:11)、CNKRYFKLSHLQMHSRKH(配列番号:12)、CNKRYFKLSHLQMHSRKHTG(配列番号:13)、WAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:14)、CWAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:15)及びWAPVLDFAPPGASAYGSLC(配列番号:16)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド又はその薬学上許容される塩を含み、
上記治療方法は、〔1〕~〔33〕のいずれかに記載の方法により、がんを治療又は予防するための医薬組成物の効果を期待できる対象を選択する工程、及び
選択された対象に対して上記医薬組成物を投与する工程を含む、医薬組成物。
〔35〕
がんを治療又は予防するための医薬組成物の効果を期待できる対象を選択する方法であって、
上記対象から採取された試料を用いて、WT1遺伝子のmRNA発現量を決定する工程、及び
上記WT1遺伝子のmRNA発現量が基準値未満又は以下であった場合に、上記対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程を含み、
上記医薬組成物は、RMFPNAPYL(配列番号:2)、YMFPNAPYL(配列番号:8)、ALLPAVPSL(配列番号:5)、SLGEQQYSV(配列番号:6)、RVPGVAPTL(配列番号:7)、VLDFAPPGA(配列番号:9)、CMTWNQMNL(配列番号:3)、CYTWNQMNL(配列番号:4)、CNKRYFKLSHLQMHSRK(配列番号:11)、CNKRYFKLSHLQMHSRKH(配列番号:12)、CNKRYFKLSHLQMHSRKHTG(配列番号:13)、WAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:14)、CWAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:15)及びWAPVLDFAPPGASAYGSLC(配列番号:16)、からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、方法。
〔36〕
上記医薬組成物が、RMFPNAPYL(配列番号:2)、YMFPNAPYL(配列番号:8)、ALLPAVPSL(配列番号:5)、SLGEQQYSV(配列番号:6)、RVPGVAPTL(配列番号:7)及びVLDFAPPGA(配列番号:9)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、〔35〕に記載の方法。
〔37〕
上記医薬組成物が、CMTWNQMNL(配列番号:3)及びCYTWNQMNL(配列番号:4)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、〔35〕又は〔36〕に記載の方法。
〔38〕
上記医薬組成物が、RMFPNAPYL(配列番号:2)、YMFPNAPYL(配列番号:8)、ALLPAVPSL(配列番号:5)、SLGEQQYSV(配列番号:6)、RVPGVAPTL(配列番号:7)及びVLDFAPPGA(配列番号:9)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド、並びに
CMTWNQMNL(配列番号:3)及びCYTWNQMNL(配列番号:4)
からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、〔35〕~〔38〕のいずれかに記載の方法。
〔39〕
上記医薬組成物が、式(I):
【化6】

[式中、X及びYは、単結合を表し、腫瘍抗原ペプチドAは、以下のアミノ酸配列:
RMFPNAPYL(配列番号:2)、YMFPNAPYL(配列番号:8)、ALLPAVPSL(配列番号:5)、SLGEQQYSV(配列番号:6)、RVPGVAPTL(配列番号:7)及びVLDFAPPGA(配列番号:9)の中から選ばれるいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドを表し、腫瘍抗原ペプチドAのN末端アミノ酸のアミノ基が式(1)中のYと結合し、腫瘍抗原ペプチドAのC末端アミノ酸のカルボニル基が式(1)中の水酸基と結合し、
は、水素原子又は腫瘍抗原ペプチドBを表し、
腫瘍抗原ペプチドBは、腫瘍抗原ペプチドAとは配列が異なり且つ以下のアミノ酸配列:
CMTWNQMNL(配列番号:3)及びCYTWNQMNL(配列番号:4)の中から選ばれるいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドを表し、腫瘍抗原ペプチドBのシステイン残基のチオエーテル基が式(1)中のチオエーテル基と結合する。]
で表される化合物又はその薬学上許容される塩を含む、〔35〕~〔38〕のいずれかに記載の方法。
〔40〕
上記医薬組成物が、RMFPNAPYL(配列番号:2)のアミノ酸配列からなるペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、〔35〕~〔39〕のいずれかに記載の方法。
〔41〕
上記医薬組成物が、YMFPNAPYL(配列番号:8)のアミノ酸配列からなるペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、〔35〕~〔39〕のいずれかに記載の方法。
〔42〕
上記医薬組成物が、C-CMTWNQMNL(C-C間はジスルフィドボンドを表す、配列番号:21)のアミノ酸配列からなるペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、〔35〕~〔39〕のいずれかに記載の方法。
〔43〕
上記医薬組成物が、C-CYTWNQMNL(C-C間はジスルフィドボンドを表す、配列番号:10)のアミノ酸配列からなるペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、〔35〕~〔39〕のいずれかに記載の方法。
〔44〕
上記医薬組成物が、CWAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:15)のアミノ酸配列からなるペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、〔35〕~〔43〕のいずれかに記載の方法。
〔45〕
上記医薬組成物が、WAPVLDFAPPGASAYGSLC(配列番号:16)のアミノ酸配列からなるペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、〔35〕~〔43〕のいずれかに記載の方法。
〔46〕
上記医薬組成物が、WAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:14)のアミノ酸配列からなるペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、〔35〕~〔43〕のいずれかに記載の方法。
〔47〕
式(1)で表される化合物が、式(2):
【化7】

(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)
で表される化合物又はその薬学上許容される塩である、〔39〕に記載の方法。
〔48〕
式(1)で表される化合物が、式(3):
【化8】

(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)で表される化合物又はその薬学上許容される塩である、〔39〕に記載の方法。
〔49〕
上記医薬組成物が、CNKRYFKLSHLQMHSRK(配列番号:11)、CNKRYFKLSHLQMHSRKH(配列番号:12)、CNKRYFKLSHLQMHSRKHTG(配列番号:13)、WAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:14)、CWAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:15)及びWAPVLDFAPPGASAYGSLC(配列番号:16)、からなる群から選択されるアミノ酸配列からなるペプチド又はその薬学上許容される塩をさらに含む、〔35〕~〔48〕のいずれかに記載の方法。
〔50〕
式(1)で表される化合物が、式(2):
【化9】

(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)
で表される化合物又はその薬学上許容される塩であり、
上記医薬組成物がさらにWAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:14)又はその薬学上許容される塩を含む、〔39〕に記載の方法。
〔51〕
式(1)で表される化合物が、式(3):
【化10】

(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)で表される化合物又はその薬学上許容される塩であり、
上記医薬組成物がさらにWAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:14)又はその薬学上許容される塩を含む、〔39〕に記載の方法。
〔52〕
上記医薬組成物が、薬学上許容される担体を含む、〔35〕~〔50〕のいずれかに記載の方法。
〔53〕
上記対象から採取された試料を用いて、TP53遺伝子及び/又はBCOR遺伝子における変異の有無を決定する工程、並びに
TP53野生型及び/又はBCOR野生型の場合に、上記対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程をさらに含む、〔35〕~〔52〕のいずれかに記載の方法。
〔54〕
TP53野生型の場合に、上記対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する、〔53〕に記載の方法。
〔55〕
TP53野生型及びBCOR野生型の場合に、上記対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する、〔53〕又は〔54〕に記載の方法。
〔56〕
〔35〕~〔52〕のいずれかに記載された医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与した上記対象から採取した試料を用いて、WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞を検出する工程、及び
投与前の上記対象から採取した試料と比較して、上記WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞が増加していた場合に、上記対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程をさらに含む、〔35〕~〔55〕のいずれかに記載の方法。
〔57〕
WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞を検出する工程が、WT1ペプチドとHLA分子との複合体を上記試料と反応させ、上記試料に含まれる上記複合体を認識するWT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞の存在又は細胞数を調べることにより実施される、〔56〕に記載の方法。
〔58〕
上記WT1ペプチドとHLA分子との複合体がテトラマーの形態である、〔57〕に記載の方法。
〔59〕
上記HLA分子が、上記対象のHLAに適合したものである、〔57〕又は〔58〕に記載の方法。
〔60〕
WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞を検出する工程が、フローサイトメトリー法による解析を含む、〔56〕~〔59〕のいずれかに記載の方法。
〔61〕
〔35〕~〔52〕のいずれかに記載された医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を複数回投与した対象において、遅延型過敏反応が検出された場合に、上記対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程をさらに含む、〔35〕~〔60〕のいずれかに記載の方法。
〔62〕
対象における〔35〕~〔52〕のいずれかに記載された医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与した箇所における反応と、上記対象における上記医薬組成物又は上記ペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与していない箇所における反応を比較し、投与した箇所における反応と投与していない箇所における反応との差が基準値以上である場合に、上記対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程をさらに含む、〔61〕に記載の方法。
〔63〕
上記対象の改訂IPSS(IPSS-R)に基づく核型がVery poor以外である場合に、上記対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程をさらに含む、〔35〕~〔62〕のいずれかに記載の方法。
〔64〕
対象における〔35〕~〔52〕のいずれかに記載された医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与した対象から採取された試料における骨髄芽球の割合を、上記医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与する前の対象から採取された試料における骨髄芽球の割合で除した値が、基準値未満又は以下であった場合に、上記対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程をさらに含む、〔35〕~〔63〕のいずれかに記載の方法。
〔65〕
上記試料が体液、粘膜、細胞、組織及び細胞又は組織の培養物並びにこれらの組合せからなる群から選択される、〔35〕~〔64〕のいずれかに記載の方法。
〔66〕
上記癌が、白血病、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫、胃癌、大腸癌、肺癌、乳癌、胚細胞癌、肝癌、皮膚癌、膀胱癌、前立腺癌、子宮癌、子宮頸癌、卵巣癌及び脳腫瘍からなる群から選択される、〔35〕~〔65〕のいずれかに記載の方法。
〔67〕
〔35〕~〔66〕のいずれかに記載の方法により、がんを治療又は予防するための医薬組成物の効果を期待できる対象を選択する工程、及び
選択された対象に対して〔35〕~〔52〕のいずれかに記載の医薬組成物を投与する工程を含む、がんの治療方法。
〔68〕
がんの治療方法に使用するための医薬組成物であって、
RMFPNAPYL(配列番号:2)、YMFPNAPYL(配列番号:8)、ALLPAVPSL(配列番号:5)、SLGEQQYSV(配列番号:6)、RVPGVAPTL(配列番号:7)、VLDFAPPGA(配列番号:9)、CMTWNQMNL(配列番号:3)、CYTWNQMNL(配列番号:4)、CNKRYFKLSHLQMHSRK(配列番号:11)、CNKRYFKLSHLQMHSRKH(配列番号:12)、CNKRYFKLSHLQMHSRKHTG(配列番号:13)、WAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:14)、CWAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:15)及びWAPVLDFAPPGASAYGSLC(配列番号:16)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド又はその薬学上許容される塩を含み、
上記治療方法は、〔35〕~〔66〕のいずれかに記載の方法により、がんを治療又は予防するための医薬組成物の効果を期待できる対象を選択する工程、及び
選択された対象に対して上記医薬組成物を投与する工程を含む、医薬組成物。
〔69〕
がんを治療又は予防するための医薬組成物の効果を期待できる対象であるか否かの指標を提供するためのマーカーとしての、TP53遺伝子及び/又はBCOR遺伝子の使用であって、
上記医薬組成物は、RMFPNAPYL(配列番号:2)、YMFPNAPYL(配列番号:8)、ALLPAVPSL(配列番号:5)、SLGEQQYSV(配列番号:6)、RVPGVAPTL(配列番号:7)、VLDFAPPGA(配列番号:9)、CMTWNQMNL(配列番号:3)、CYTWNQMNL(配列番号:4)、CNKRYFKLSHLQMHSRK(配列番号:11)、CNKRYFKLSHLQMHSRKH(配列番号:12)、CNKRYFKLSHLQMHSRKHTG(配列番号:13)、WAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:14)、CWAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:15)及びWAPVLDFAPPGASAYGSLC(配列番号:16)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、使用。
〔70〕
遺伝子における変異の有無に基づき、がんを治療又は予防するための医薬組成物の効果を期待できる対象であるか否かの指標を提供する、〔69〕に記載の使用。
〔71〕
WT1遺伝子のmRNA発現量に基づき、がんを治療又は予防するための医薬組成物の効果を期待できる対象であるか否かの指標を提供するためのマーカーとしての、WT1遺伝子の使用であって、
上記医薬組成物は、RMFPNAPYL(配列番号:2)、YMFPNAPYL(配列番号:8)、ALLPAVPSL(配列番号:5)、SLGEQQYSV(配列番号:6)、RVPGVAPTL(配列番号:7)、VLDFAPPGA(配列番号:9)、CMTWNQMNL(配列番号:3)、CYTWNQMNL(配列番号:4)、CNKRYFKLSHLQMHSRK(配列番号:11)、CNKRYFKLSHLQMHSRKH(配列番号:12)、CNKRYFKLSHLQMHSRKHTG(配列番号:13)、WAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:14)、CWAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:15)及びWAPVLDFAPPGASAYGSLC(配列番号:16)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、使用。
〔72〕
WT1遺伝子のmRNA発現量が基準値未満又は以下である場合に、がんを治療又は予防するための医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する、〔71〕に記載の使用。
〔73〕
がんを治療又は予防するための医薬組成物の候補物質の効果を評価する方法であって、
上記医薬組成物又は上記医薬組成物に含まれるペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与した対象から採取した試料を用いて、WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞を検出する工程、及び
投与前の上記対象から採取した試料と比較して、上記WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞が増加していた場合に、上記候補物質はがんの治療及び予防に対して効果が期待できるとの指標を提供する工程を含み、
上記医薬組成物は、RMFPNAPYL(配列番号:2)、YMFPNAPYL(配列番号:8)、ALLPAVPSL(配列番号:5)、SLGEQQYSV(配列番号:6)、RVPGVAPTL(配列番号:7)、VLDFAPPGA(配列番号:9)、CMTWNQMNL(配列番号:3)、CYTWNQMNL(配列番号:4)、CNKRYFKLSHLQMHSRK(配列番号:11)、CNKRYFKLSHLQMHSRKH(配列番号:12)、CNKRYFKLSHLQMHSRKHTG(配列番号:13)、WAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:14)、CWAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:15)及びWAPVLDFAPPGASAYGSLC(配列番号:16)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、方法。
〔74〕
がんを治療又は予防するための医薬組成物の候補物質の効果を評価する方法であって、
上記医薬組成物又は上記医薬組成物に含まれるペプチド若しくはその薬学上許容される塩を複数回投与した対象において、遅延型過敏反応が検出された場合に、上記候補物質はがんの治療及び予防に対して効果が期待できるとの指標を提供する工程を含み、
上記医薬組成物は、RMFPNAPYL(配列番号:2)、YMFPNAPYL(配列番号:8)、ALLPAVPSL(配列番号:5)、SLGEQQYSV(配列番号:6)、RVPGVAPTL(配列番号:7)、VLDFAPPGA(配列番号:9)、CMTWNQMNL(配列番号:3)、CYTWNQMNL(配列番号:4)、CNKRYFKLSHLQMHSRK(配列番号:11)、CNKRYFKLSHLQMHSRKH(配列番号:12)、CNKRYFKLSHLQMHSRKHTG(配列番号:13)、WAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:14)、CWAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:15)及びWAPVLDFAPPGASAYGSLC(配列番号:16)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、方法。
〔75〕
がんを治療又は予防するための医薬組成物の効果を期待できる対象を選択する方法であって、
上記対象の改訂IPSS(IPSS-R)に基づく核型がVery poor以外である場合に、上記対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程を含み、
上記医薬組成物は、RMFPNAPYL(配列番号:2)、YMFPNAPYL(配列番号:8)、ALLPAVPSL(配列番号:5)、SLGEQQYSV(配列番号:6)、RVPGVAPTL(配列番号:7)、VLDFAPPGA(配列番号:9)、CMTWNQMNL(配列番号:3)、CYTWNQMNL(配列番号:4)、CNKRYFKLSHLQMHSRK(配列番号:11)、CNKRYFKLSHLQMHSRKH(配列番号:12)、CNKRYFKLSHLQMHSRKHTG(配列番号:13)、WAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:14)、CWAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:15)及びWAPVLDFAPPGASAYGSLC(配列番号:16)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、方法。
〔76〕
上記医薬組成物が、RMFPNAPYL(配列番号:2)、YMFPNAPYL(配列番号:8)、ALLPAVPSL(配列番号:5)、SLGEQQYSV(配列番号:6)、RVPGVAPTL(配列番号:7)及びVLDFAPPGA(配列番号:9)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、〔75〕に記載の方法。
〔77〕
上記医薬組成物が、CMTWNQMNL(配列番号:3)及びCYTWNQMNL(配列番号:4)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、〔75〕又は〔76〕に記載の方法。
〔78〕
上記医薬組成物が、RMFPNAPYL(配列番号:2)、YMFPNAPYL(配列番号:8)、ALLPAVPSL(配列番号:5)、SLGEQQYSV(配列番号:6)、RVPGVAPTL(配列番号:7)、及びVLDFAPPGA(配列番号:9)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド、並びに
CMTWNQMNL(配列番号:3)及びCYTWNQMNL(配列番号:4)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、〔75〕~〔77〕のいずれかに記載の方法。
〔79〕
上記医薬組成物が、式(I):
【化11】

[式中、X及びYは、単結合を表し、腫瘍抗原ペプチドAは、以下のアミノ酸配列:
RMFPNAPYL(配列番号:2)、YMFPNAPYL(配列番号:8)、ALLPAVPSL(配列番号:5)、SLGEQQYSV(配列番号:6)、RVPGVAPTL(配列番号:7)及びVLDFAPPGA(配列番号:9)の中から選ばれるいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドを表し、腫瘍抗原ペプチドAのN末端アミノ酸のアミノ基が式(1)中のYと結合し、腫瘍抗原ペプチドAのC末端アミノ酸のカルボニル基が式(1)中の水酸基と結合し、
は、水素原子又は腫瘍抗原ペプチドBを表し、
腫瘍抗原ペプチドBは、腫瘍抗原ペプチドAとは配列が異なり且つ以下のアミノ酸配列:
CMTWNQMNL(配列番号:3)及びCYTWNQMNL(配列番号:4)の中から選ばれるいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドを表し、腫瘍抗原ペプチドBのシステイン残基のチオエーテル基が式(1)中のチオエーテル基と結合する。]
で表される化合物又はその薬学上許容される塩を含む、〔75〕~〔78〕のいずれかに記載の方法。
〔80〕
上記医薬組成物が、RMFPNAPYL(配列番号:2)のアミノ酸配列からなるペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、〔75〕~〔79〕のいずれかに記載の方法。
〔81〕
上記医薬組成物が、YMFPNAPYL(配列番号:8)のアミノ酸配列からなるペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、〔75〕~〔79〕のいずれかに記載の方法。
〔82〕
上記医薬組成物が、C-CMTWNQMNL(C-C間はジスルフィドボンドを表す、配列番号:21)のアミノ酸配列からなるペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、〔75〕~〔79〕のいずれかに記載の方法。
〔83〕
上記医薬組成物が、C-CYTWNQMNL(C-C間はジスルフィドボンドを表す、配列番号:10)のアミノ酸配列からなるペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、〔75〕~〔79〕のいずれかに記載の方法。
〔84〕
上記医薬組成物が、CWAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:15)のアミノ酸配列からなるペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、〔75〕~〔83〕のいずれかに記載の方法。
〔85〕
上記医薬組成物が、WAPVLDFAPPGASAYGSLC(配列番号:16)のアミノ酸配列からなるペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、〔75〕~〔83〕のいずれかに記載の方法。
〔86〕
上記医薬組成物が、WAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:14)のアミノ酸配列からなるペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、〔75〕~〔83〕のいずれかに記載の方法。
〔87〕
式(1)で表される化合物が、式(2):
【化12】

(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)
で表される化合物である、〔1〕に記載の化合物又はその薬学上許容される塩である、〔79〕に記載の方法。
〔88〕
式(1)で表される化合物が、式(3):
【化13】

(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)で表される化合物である、〔1〕に記載の化合物又はその薬学上許容される塩である、〔79〕に記載の方法。
〔89〕
上記医薬組成物が、CNKRYFKLSHLQMHSRK(配列番号:11)、CNKRYFKLSHLQMHSRKH(配列番号:12)、CNKRYFKLSHLQMHSRKHTG(配列番号:13)、WAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:14)、CWAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:15)及びWAPVLDFAPPGASAYGSLC(配列番号:16)、からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド又はその薬学上許容される塩をさらに含む、〔75〕~〔88〕のいずれかに記載の方法。
〔90〕
式(1)で表される化合物が、式(2):
【化14】

(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)
で表される化合物又はその薬学上許容される塩であり、
上記医薬組成物がさらにWAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:14)又はその薬学上許容される塩を含む、〔79〕に記載の方法。
〔91〕
式(1)で表される化合物が、式(3):
【化15】

(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)で表される化合物又はその薬学上許容される塩であり、
上記医薬組成物がさらにWAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:14)又はその薬学上許容される塩を含む、〔79〕に記載の方法。
〔92〕
上記医薬組成物が、薬学上許容される担体を含む、〔75〕~〔91〕のいずれかに記載の方法。
〔93〕
上記対象から採取された試料を用いて、TP53遺伝子及び/又はBCOR遺伝子における変異の有無を決定する工程、並びに
TP53野生型及び/又はBCOR野生型の場合に、上記対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程をさらに含む、〔75〕~〔92〕のいずれかに記載の方法。
〔94〕
TP53野生型の場合に、上記対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する、〔93〕に記載の方法。
〔95〕
TP53野生型及びBCOR野生型の場合に、上記対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する、〔92〕又は〔93〕に記載の方法。
〔96〕
上記対象から採取した試料を用いて、WT1遺伝子のmRNA発現量を決定する工程、及び上記WT1遺伝子のmRNA発現量が基準値未満又は以下であった場合に、上記対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程をさらに含む、〔75〕~〔95〕のいずれかに記載の方法。
〔97〕
〔75〕~〔92〕のいずれかに記載された医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与した上記対象から採取した試料を用いて、WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞を検出する工程、及び
投与前の上記対象から採取した試料と比較して、上記WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞が増加していた場合に、上記対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程をさらに含む、〔75〕~〔96〕のいずれかに記載の方法。
〔98〕
WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞を検出する工程が、WT1ペプチドとHLA分子との複合体を上記試料と反応させ、上記試料に含まれる上記複合体を認識するWT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞の存在又は細胞数を調べることにより実施される、〔97〕に記載の方法。
〔99〕
上記WT1ペプチドとHLA分子との複合体がテトラマーの形態である、〔98〕に記載の方法。
〔100〕
上記HLA分子が、上記対象のHLAに適合したものである、〔98〕又は〔99〕に記載の方法。
〔101〕
WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞を検出する工程が、フローサイトメトリー法による解析を含む、〔97〕~〔100〕のいずれかに記載の方法。
〔102〕
〔75〕~〔92〕のいずれかに記載された医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を複数回投与した対象において、遅延型過敏反応が検出された場合に、上記対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程をさらに含む、〔75〕~〔101〕のいずれかに記載の方法。
〔103〕
対象における〔75〕~〔92〕のいずれかに記載された医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与した箇所における反応と、上記対象における上記医薬組成物又は上記ペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与していない箇所における反応を比較し、投与した箇所における反応と投与していない箇所における反応との差が基準値以上である場合に、上記対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程をさらに含む、〔102〕に記載の方法。
〔104〕
対象における〔75〕~〔92〕のいずれかに記載された医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与した対象から採取された試料における骨髄芽球の割合を、上記医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与する前の対象から採取された試料における骨髄芽球の割合で除した値が、基準値未満又は以下であった場合に、上記対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程をさらに含む、〔75〕~〔103〕のいずれかに記載の方法。
〔105〕
上記試料が体液、粘膜、細胞、組織及び細胞又は組織の培養物並びにこれらの組合せからなる群から選択される、〔75〕~〔104〕のいずれかに記載の方法。
〔106〕
上記癌が、白血病、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫、胃癌、大腸癌、肺癌、乳癌、胚細胞癌、肝癌、皮膚癌、膀胱癌、前立腺癌、子宮癌、子宮頸癌、卵巣癌及び脳腫瘍からなる群から選択される、〔75〕~〔105〕のいずれかに記載の方法。
〔107〕
〔75〕~〔106〕のいずれかに記載の方法により、がんを治療又は予防するための医薬組成物の効果を期待できる対象を選択する工程、及び
選択された対象に対して〔75〕~〔92〕のいずれかに記載の医薬組成物を投与する工程を含む、がんの治療方法。
〔108〕
がんの治療方法に使用するための医薬組成物であって、
RMFPNAPYL(配列番号:2)、YMFPNAPYL(配列番号:8)、ALLPAVPSL(配列番号:5)、SLGEQQYSV(配列番号:6)、RVPGVAPTL(配列番号:7)、VLDFAPPGA(配列番号:9)、CMTWNQMNL(配列番号:3)、CYTWNQMNL(配列番号:4)、CNKRYFKLSHLQMHSRK(配列番号:11)、CNKRYFKLSHLQMHSRKH(配列番号:12)、CNKRYFKLSHLQMHSRKHTG(配列番号:13)、WAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:14)、CWAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:15)及びWAPVLDFAPPGASAYGSLC(配列番号:16)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド又はその薬学上許容される塩を含み、
上記治療方法は、〔75〕~〔107〕のいずれかに記載の方法により、がんを治療又は予防するための医薬組成物の効果を期待できる対象を選択する工程、及び
選択された対象に対して上記医薬組成物を投与する工程を含む、医薬組成物。
〔109〕
がんを治療又は予防するための医薬組成物の効果を期待できる対象を選択する方法であって、
上記医薬組成物は、RMFPNAPYL(配列番号:2)、YMFPNAPYL(配列番号:8)、ALLPAVPSL(配列番号:5)、SLGEQQYSV(配列番号:6)、RVPGVAPTL(配列番号:7)、VLDFAPPGA(配列番号:9)、CMTWNQMNL(配列番号:3)、CYTWNQMNL(配列番号:4)、CNKRYFKLSHLQMHSRK(配列番号:11)、CNKRYFKLSHLQMHSRKH(配列番号:12)、CNKRYFKLSHLQMHSRKHTG(配列番号:13)、WAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:14)、CWAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:15)及びWAPVLDFAPPGASAYGSLC(配列番号:16)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド又はその薬学上許容される塩を含み、
上記医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与した対象から採取された試料における骨髄芽球の割合を、上記医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与する前の対象から採取された試料における骨髄芽球の割合で除した値が、基準値未満又は以下であった場合に、上記対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程を含む、方法。
〔110〕
上記医薬組成物が、RMFPNAPYL(配列番号:2)、YMFPNAPYL(配列番号:8)、ALLPAVPSL(配列番号:5)、SLGEQQYSV(配列番号:6)、RVPGVAPTL(配列番号:7)及びVLDFAPPGA(配列番号:9)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、〔109〕に記載の方法。
〔111〕
上記医薬組成物が、CMTWNQMNL(配列番号:3)及びCYTWNQMNL(配列番号:4)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、〔109〕又は〔110〕に記載の方法。
〔112〕
上記医薬組成物が、RMFPNAPYL(配列番号:2)、YMFPNAPYL(配列番号:8)、ALLPAVPSL(配列番号:5)、SLGEQQYSV(配列番号:6)、RVPGVAPTL(配列番号:7)及びVLDFAPPGA(配列番号:9)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド、並びに
CMTWNQMNL(配列番号:3)及びCYTWNQMNL(配列番号:4)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、〔109〕~〔111〕のいずれかに記載の方法。
〔113〕
上記医薬組成物が、式(I):
【化16】

[式中、X及びYは、単結合を表し、腫瘍抗原ペプチドAは、以下のアミノ酸配列:
RMFPNAPYL(配列番号:2)、YMFPNAPYL(配列番号:8)、ALLPAVPSL(配列番号:5)、SLGEQQYSV(配列番号:6)、RVPGVAPTL(配列番号:7)及びVLDFAPPGA(配列番号:9)の中から選ばれるいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドを表し、腫瘍抗原ペプチドAのN末端アミノ酸のアミノ基が式(1)中のYと結合し、腫瘍抗原ペプチドAのC末端アミノ酸のカルボニル基が式(1)中の水酸基と結合し、
は、水素原子又は腫瘍抗原ペプチドBを表し、
腫瘍抗原ペプチドBは、腫瘍抗原ペプチドAとは配列が異なり且つ以下のアミノ酸配列:
CMTWNQMNL(配列番号:3)及びCYTWNQMNL(配列番号:4)の中から選ばれるいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドを表し、腫瘍抗原ペプチドBのシステイン残基のチオエーテル基が式(1)中のチオエーテル基と結合する。]
で表される化合物又はその薬学上許容される塩を含む、〔109〕~〔112〕のいずれかに記載の方法。
〔114〕
上記医薬組成物が、RMFPNAPYL(配列番号:2)のアミノ酸配列からなるペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、〔109〕~〔113〕のいずれかに記載の方法。
〔115〕
上記医薬組成物が、YMFPNAPYL(配列番号:8)のアミノ酸配列からなるペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、〔109〕~〔113〕のいずれかに記載の方法。
〔116〕
上記医薬組成物が、C-CMTWNQMNL(C-C間はジスルフィドボンドを表す、配列番号:21)のアミノ酸配列からなるペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、〔109〕~〔113〕のいずれかに記載の方法。
〔117〕
上記医薬組成物が、C-CYTWNQMNL(C-C間はジスルフィドボンドを表す、配列番号:10)のアミノ酸配列からなるペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、〔109〕~〔113〕のいずれかに記載の方法。
〔118〕
上記医薬組成物が、CWAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:15)のアミノ酸配列からなるペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、〔109〕~〔117〕のいずれかに記載の方法。
〔119〕
上記医薬組成物が、WAPVLDFAPPGASAYGSLC(配列番号:16)のアミノ酸配列からなるペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、〔109〕~〔117〕のいずれかに記載の方法。
〔120〕
上記医薬組成物が、WAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:14)のアミノ酸配列からなるペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、〔109〕~〔117〕のいずれかに記載の方法。
〔121〕
式(1)で表される化合物が、式(2):
【化17】

(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)
で表される化合物である、〔1〕に記載の化合物又はその薬学上許容される塩である、〔113〕に記載の方法。
〔122〕
式(1)で表される化合物が、式(3):
【化18】

(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)で表される化合物である、〔1〕に記載の化合物又はその薬学上許容される塩である、〔113〕に記載の方法。
〔123〕
上記医薬組成物が、CNKRYFKLSHLQMHSRK(配列番号:11)、CNKRYFKLSHLQMHSRKH(配列番号:12)、CNKRYFKLSHLQMHSRKHTG(配列番号:13)、WAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:14)、CWAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:15)及びWAPVLDFAPPGASAYGSLC(配列番号:16)、からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド又はその薬学上許容される塩をさらに含む、〔109〕~〔122〕のいずれかに記載の方法。
〔124〕
式(1)で表される化合物が、式(2):
【化19】

(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)
で表される化合物又はその薬学上許容される塩であり、
上記医薬組成物がさらにWAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:14)又はその薬学上許容される塩を含む、〔113〕に記載の方法。
〔125〕
式(1)で表される化合物が、式(3):
【化20】

(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)で表される化合物又はその薬学上許容される塩であり、
上記医薬組成物がさらにWAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:14)又はその薬学上許容される塩を含む、〔113〕に記載の方法。
〔126〕
上記医薬組成物が、薬学上許容される担体を含む、〔109〕~〔125〕のいずれかに記載の方法。
〔127〕
上記対象から採取された試料を用いて、TP53遺伝子及び/又はBCOR遺伝子における変異の有無を決定する工程、並びに
TP53野生型及び/又はBCOR野生型の場合に、上記対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程をさらに含む、〔109〕~〔126〕のいずれかに記載の方法。
〔128〕
TP53野生型の場合に、上記対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する、〔127〕に記載の方法。
〔129〕
TP53野生型及びBCOR野生型の場合に、上記対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する、〔127〕又は〔128〕に記載の方法。
〔130〕
上記対象から採取した試料を用いて、WT1遺伝子のmRNA発現量を決定する工程、及び上記WT1遺伝子のmRNA発現量が基準値未満又は以下であった場合に、上記対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程をさらに含む、〔109〕~〔129〕のいずれかに記載の方法。
〔131〕
〔109〕~〔126〕のいずれかに記載された医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与した上記対象から採取した試料を用いて、WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞を検出する工程、及び
投与前の上記対象から採取した試料と比較して、上記WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞が増加していた場合に、上記対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程をさらに含む、〔109〕~〔130〕のいずれかに記載の方法。
〔132〕
WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞を検出する工程が、WT1ペプチドとHLA分子との複合体を上記試料と反応させ、上記試料に含まれる上記複合体を認識するWT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞の存在又は細胞数を調べることにより実施される、〔131〕に記載の方法。
〔133〕
上記WT1ペプチドとHLA分子との複合体がテトラマーの形態である、〔132〕に記載の方法。
〔134〕
上記HLA分子が、上記対象のHLAに適合したものである、〔132〕又は〔133〕に記載の方法。
〔135〕
WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞を検出する工程が、フローサイトメトリー法による解析を含む、〔131〕~〔134〕のいずれかに記載の方法。
〔136〕
〔109〕~〔126〕のいずれかに記載された医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を複数回投与した対象において、遅延型過敏反応が検出された場合に、上記対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程をさらに含む、〔109〕~〔135〕のいずれかに記載の方法。
〔137〕
対象における〔109〕~〔126〕のいずれかに記載された医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与した箇所における反応と、上記対象における上記医薬組成物又は上記ペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与していない箇所における反応を比較し、投与した箇所における反応と投与していない箇所における反応との差が基準値以上である場合に、上記対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程をさらに含む、〔136〕に記載の方法。
〔138〕
上記対象の改訂IPSS(IPSS-R)に基づく核型がVery poor以外である場合に、上記対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程をさらに含む、〔109〕~〔137〕のいずれかに記載の方法。
〔139〕
上記試料が体液、粘膜、細胞、組織及び細胞又は組織の培養物並びにこれらの組合せからなる群から選択される、〔109〕~〔138〕のいずれかに記載の方法。
〔140〕
上記癌が、白血病、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫、胃癌、大腸癌、肺癌、乳癌、胚細胞癌、肝癌、皮膚癌、膀胱癌、前立腺癌、子宮癌、子宮頸癌、卵巣癌及び脳腫瘍からなる群から選択される、〔109〕~〔139〕のいずれかに記載の方法。
〔141〕
〔109〕~〔140〕のいずれかに記載の方法により、がんを治療又は予防するための医薬組成物の効果を期待できる対象を選択する工程、及び
選択された対象に対して〔109〕~〔126〕のいずれかに記載の医薬組成物を投与する工程を含む、がんの治療方法。
〔142〕
がんの治療方法に使用するための医薬組成物であって、
RMFPNAPYL(配列番号:2)、YMFPNAPYL(配列番号:8)、ALLPAVPSL(配列番号:5)、SLGEQQYSV(配列番号:6)、RVPGVAPTL(配列番号:7)、VLDFAPPGA(配列番号:9)、CMTWNQMNL(配列番号:3)、CYTWNQMNL(配列番号:4)、CNKRYFKLSHLQMHSRK(配列番号:11)、CNKRYFKLSHLQMHSRKH(配列番号:12)、CNKRYFKLSHLQMHSRKHTG(配列番号:13)、WAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:14)、CWAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:15)及びWAPVLDFAPPGASAYGSLC(配列番号:16)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド又はその薬学上許容される塩を含み、
上記治療方法は、〔109〕~〔140〕のいずれかに記載の方法により、がんを治療又は予防するための医薬組成物の効果を期待できる対象を選択する工程、及び
選択された対象に対して上記医薬組成物を投与する工程を含む、医薬組成物。
〔143〕
対象から採取された試料を用いて、TP53遺伝子及び/又はBCOR遺伝子における変異の有無を決定する工程、並びに
TP53野生型及び/又はBCOR野生型である対象に対してがんを治療又は予防するための有効量の医薬組成物を投与する工程を含み、
上記医薬組成物は、RMFPNAPYL(配列番号:2)、YMFPNAPYL(配列番号:8)、ALLPAVPSL(配列番号:5)、SLGEQQYSV(配列番号:6)、RVPGVAPTL(配列番号:7)、VLDFAPPGA(配列番号:9)、CMTWNQMNL(配列番号:3)、CYTWNQMNL(配列番号:4)、CNKRYFKLSHLQMHSRK(配列番号:11)、CNKRYFKLSHLQMHSRKH(配列番号:12)、CNKRYFKLSHLQMHSRKHTG(配列番号:13)、WAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:14)、CWAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:15)及びWAPVLDFAPPGASAYGSLC(配列番号:16)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、がんの治療方法。
〔144〕
対象から採取された試料を用いて、WT1遺伝子のmRNA発現量を決定する工程、及び
上記WT1遺伝子のmRNA発現量が基準値未満又は以下である対象に対してがんを治療又は予防するための有効量の医薬組成物を投与する工程を含み、
上記医薬組成物は、RMFPNAPYL(配列番号:2)、YMFPNAPYL(配列番号:8)、ALLPAVPSL(配列番号:5)、SLGEQQYSV(配列番号:6)、RVPGVAPTL(配列番号:7)、VLDFAPPGA(配列番号:9)、CMTWNQMNL(配列番号:3)、CYTWNQMNL(配列番号:4)、CNKRYFKLSHLQMHSRK(配列番号:11)、CNKRYFKLSHLQMHSRKH(配列番号:12)、CNKRYFKLSHLQMHSRKHTG(配列番号:13)、WAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:14)、CWAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:15)及びWAPVLDFAPPGASAYGSLC(配列番号:16)、からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、がんの治療方法。
〔145〕
対象の改訂IPSS(IPSS-R)に基づく核型がVery poor以外である場合に、上記対象に対してがんを治療又は予防するための有効量の医薬組成物を投与する工程を含み、
上記医薬組成物は、RMFPNAPYL(配列番号:2)、YMFPNAPYL(配列番号:8)、ALLPAVPSL(配列番号:5)、SLGEQQYSV(配列番号:6)、RVPGVAPTL(配列番号:7)、VLDFAPPGA(配列番号:9)、CMTWNQMNL(配列番号:3)、CYTWNQMNL(配列番号:4)、CNKRYFKLSHLQMHSRK(配列番号:11)、CNKRYFKLSHLQMHSRKH(配列番号:12)、CNKRYFKLSHLQMHSRKHTG(配列番号:13)、WAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:14)、CWAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:15)及びWAPVLDFAPPGASAYGSLC(配列番号:16)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド又はその薬学上許容される塩を含む、がんの治療方法。
〔146〕
RMFPNAPYL(配列番号:2)、YMFPNAPYL(配列番号:8)、ALLPAVPSL(配列番号:5)、SLGEQQYSV(配列番号:6)、RVPGVAPTL(配列番号:7)、VLDFAPPGA(配列番号:9)、CMTWNQMNL(配列番号:3)、CYTWNQMNL(配列番号:4)、CNKRYFKLSHLQMHSRK(配列番号:11)、CNKRYFKLSHLQMHSRKH(配列番号:12)、CNKRYFKLSHLQMHSRKHTG(配列番号:13)、WAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:14)、CWAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:15)及びWAPVLDFAPPGASAYGSLC(配列番号:16)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド若しくはその薬学上許容される塩を含む医薬組成物又は上記ペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与した対象から採取された試料における骨髄芽球の割合を、上記医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与する前の対象から採取された試料における骨髄芽球の割合で除した値が、基準値未満又は以下であった場合に、上記対象に対してがんを治療又は予防するための有効量の医薬組成物を投与する工程を含む、がんの治療方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、がんを治療又は予防するための医薬組成物の効果を期待できる対象を選択する方法が提供される。ここで、医薬組成物は、WT1キラーペプチド及び/又はWT1ヘルパーペプチド、又はその薬学上許容される塩を含む。各医薬組成物の効果を期待できる対象を選抜することで、その医薬組成物を用いて効果的ながんの治療又は予防を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】WT1ペプチドカクテルワクチンの試験結果と、リゴサチブのONTIME試験における対照(BSC)との比較を行った結果を示す。
図2】TP53野生型及びBCOR野生型、並びにTP53変異型又はBCOR変異型の生存曲線を示す。
図3】TP53野生型及びBCOR野生型、並びにTP53変異型又はBCOR変異型について、WT1抗原ペプチド特異的免疫反応の陽性又は陰性による生存曲線を比較した結果を示す。
図4】実施例5におけるWT1 mRNAの発現量により生存曲線を比較した結果(結果(1))を示す。
図5】WT1 mRNAの発現量について、WT1抗原ペプチド特異的免疫反応の陽性又は陰性による生存曲線を比較した結果(結果(1))を示す。
図6】実施例5におけるWT1 mRNAの発現量により生存曲線を比較した結果(結果(2))を示す。
図7】WT1 mRNAの発現量について、WT1抗原ペプチド特異的免疫反応の陽性又は陰性による生存曲線を比較した結果(結果(2))を示す。
図8】HLAテトラマーアッセイによる解析結果とWT1キラーペプチドコンジュゲートを用いたDTH試験の判定を双方向から解析した結果を示す。
図9】WT1抗原ペプチド特異的免疫反応の陽性又は陰性、及び骨髄芽球の安定化について、生存曲線を比較した結果を示す。
図10】WT1抗原ペプチド特異的免疫反応の陽性又は陰性による急性骨髄性白血病(AML)移行期間を比較した結果を示す。
図11】WT1抗原ペプチド特異的免疫反応の陽性又は陰性による生存曲線を比較した結果を示す。
図12】IPSS-Rの核型についてWT1抗原ペプチド特異的免疫反応の陽性又は陰性による生存曲線を比較した結果を示す。
図13】各性差の生存期間中央値を、ヒストリカルデータ及びリゴサチブ試験のBSCの生存期間中央値と比較した結果を示す。
図14】実施例11におけるWT1 mRNAの発現量により生存曲線を比較した結果を示す。
図15】WT1 mRNAの発現量について、WT1抗原ペプチド特異的免疫反応の陽性又は陰性による生存曲線を比較した結果を示す。
図16】末梢血中のWT1 mRNA発現量と骨髄液中のWT1 mRNA発現量の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0016】
本明細書において「アミノ酸残基」とは、ペプチド又はタンパク質分子上で、ペプチド又はタンパク質を構成しているアミノ酸の一単位に当たる部分を意味する。「アミノ酸残基」としては、天然若しくは非天然のα-アミノ酸残基、β-アミノ酸残基、γ-アミノ酸残基又はδ-アミノ酸残基が挙げられる。具体的には、天然のα-アミノ酸残基、オルニチン残基、ホモセリン残基、ホモシステイン残基、β-アラニン、γ-アミノブタン酸又はδ-アミノペンタン酸などが挙げられる。「アミノ酸残基」に、光学活性体があり得る場合、L体、D体の何れであってもよいが、L体が好ましい。
【0017】
本明細書において「アミノ酸残基」を略号で表示する場合、次の略号で記述する。
Ala又はA:アラニン残基
Arg又はR:アルギニン残基
Asn又はN:アスパラギン残基
Asp又はD:アスパラギン酸残基
Cys又はC:システイン残基
Gln又はQ:グルタミン残基
Glu又はE:グルタミン酸残基
Gly又はG:グリシン残基
His又はH:ヒスチジン残基
Ile又はI:イソロイシン残基
Leu又はL:ロイシン残基
Lys又はK:リジン残基
Met又はM:メチオニン残基
Phe又はF:フェニルアラニン残基
Pro又はP:プロリン残基
Ser又はS:セリン残基
Thr又はT:スレオニン残基
Trp又はW:トリプトファン残基
Tyr又はY:チロシン残基
Val又はV:バリン残基
Abu:2-アミノ酪酸残基(α-アミノ酪酸残基とも言う)
Orn:オルニチン残基
Cit:シトルリン残基
【0018】
本明細書において「ペプチド」のアミノ酸配列は、常法に従って、N末端アミノ酸のアミノ酸残基が左側に位置し、C末端アミノ酸のアミノ酸残基が右側に位置するように記述する。また「ペプチド」において、特に断りの無い限り、N末端アミノ酸のアミノ酸残基のアミノ基は水素原子と結合し、C末端アミノ酸のアミノ酸残基のカルボニル基は水酸基と結合している。ペプチドの二価基とは、N末端アミノ酸のアミノ酸残基のアミノ基及びC末端アミノ酸のアミノ酸残基のカルボニル基を介して結合する基を意味する。
【0019】
本明細書における化合物において、たとえば式(2)~及び(3)で表される化合物において、その部分構造にあたるペプチドについても、特に断りの無い限り、N末端アミノ酸のアミノ酸残基のアミノ基は水素原子と結合し、C末端アミノ酸のアミノ酸残基のカルボニル基は水酸基と結合している。
【0020】
本明細書における「R」は、水素原子又は腫瘍抗原ペプチドBを表し、好ましくは、腫瘍抗原ペプチドBが挙げられる。Rが水素原子である式(1)の化合物については、その配列はWT1タンパクの部分配列と完全に同一ではない。すなわち、Rが水素原子である式(1)の化合物は、腫瘍抗原ペプチドAのN末端側にシステイン残基が付加されたものとなるため、配列番号:1に記載のヒトのWT1のアミノ酸配列において連続する8~35残基のアミノ酸からなる部分ペプチドではない。
【0021】
が水素原子である式(1)の化合物として、例えば、以下のアミノ酸配列が挙げられる。
CRMFPNAPYL(配列番号:40)、
CCMTWNQMNL(配列番号:41)、
CCYTWNQMNL(配列番号:42)、
CALLPAVPSL(配列番号:43)、
CSLGEQQYSV(配列番号:44)及び
CRVPGVAPTL(配列番号:45)。
【0022】
本明細書における「X」及び「Y」は、独立して、単結合又は1~4残基のアミノ酸からなるペプチドの二価基を表す。Xのアミノ酸残基数とYのアミノ酸残基数の和は0~4の整数である。例えば、当該和が0の整数であるとは、X及びYが単結合であることを意味する。また、当該和が4の整数である場合としては、例えばX及びYが独立して2残基のアミノ酸からなるペプチドの二価基である場合、Xが3残基のアミノ酸からなるペプチドの二価基であり且つYが1残基のアミノ酸からなるペプチドの二価基である場合、Xが4残基のアミノ酸からなるペプチドの二価基であり且つYが単結合である場合などが挙げられる。
【0023】
当該和の整数として、好ましくは0~2が挙げられ、より好ましくは0~1が挙げられ、最も好ましくは0が挙げられる。すなわち、X及びYとしては、共に単結合である場合が最も好ましい。
【0024】
当該和の整数が2である場合としては、Xが2残基のアミノ酸からなるペプチドの二価基であり且つYが単結合である場合、X及びYが独立して1残基のアミノ酸からなるペプチドの二価基である場合、又はXが単結合であり且つYが2残基のアミノ酸からなるペプチドの二価基である場合が挙げられる。
【0025】
当該和の整数が1である場合としては、Xが1残基のアミノ酸からなるペプチドの二価基であり且つYが単結合である場合、又はXが単結合であり且つYが1残基のアミノ酸からなるペプチドの二価基である場合が挙げられる。このうち好ましくは、Xが単結合であり且つYがアラニン残基、ロイシン残基又はメチオニン残基である場合が挙げられる。
【0026】
本実施形態において、医薬組成物は、特定のWT1キラーペプチド及び/若しくはWT1ヘルパーペプチド又はその薬学上許容される塩、すなわち、RMFPNAPYL(配列番号:2)、YMFPNAPYL(配列番号:8)、ALLPAVPSL(配列番号:5)、SLGEQQYSV(配列番号:6)、RVPGVAPTL(配列番号:7)、VLDFAPPGA(配列番号:9)、CMTWNQMNL(配列番号:3)、CYTWNQMNL(配列番号:4)、CNKRYFKLSHLQMHSRK(配列番号:11)、CNKRYFKLSHLQMHSRKH(配列番号:12)、CNKRYFKLSHLQMHSRKHTG(配列番号:13)、WAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:14)、CWAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:15)及びWAPVLDFAPPGASAYGSLC(配列番号:16)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド又はその薬学上許容される塩を含む。本実施形態における医薬組成物が上記以外のペプチド又はその薬学上許容される塩を含むことを妨げるものではなく、医薬組成物は、上記以外のペプチド、例えば、他のWT1キラーペプチド及び/又はWT1ヘルパーペプチドをさらに含んでいてもよい。
【0027】
本明細書における「WT1ペプチド」とは、配列番号:1に記載のヒトのWT1のアミノ酸配列において存在する連続するアミノ酸からなる部分を含むペプチドである。
【0028】
WT1キラーペプチドとは、MHCクラスI拘束性WT1ペプチドを意味する。
本明細書における「MHCクラスI拘束性」とは、主要組織適合抗原(Major Histocompatibility Complex、MHC)のクラスIであるMHCクラスI分子と結合してCTLを誘導する特性を意味する。「MHCクラスI拘束性WT1ペプチド」とは、インビトロ及び/又はインビボで、MHCクラスI抗原に結合し、複合体として提示されるペプチドであり、且つ該複合体が前駆体T細胞に認識された結果CTLを誘導するペプチドを意味する。
【0029】
MHCは、ヒトではヒト白血球型抗原(HLA)と呼ばれる。MHCクラスI分子に相当するHLAは、HLA-A、B、Cw、F及びGなどのサブタイプに分類される。「MHCクラスI拘束性」として、好ましくは、HLA-A拘束性、HLA-B拘束性又はHLA-Cw拘束性が挙げられる。
【0030】
HLAの各サブタイプについて、多型(対立遺伝子)が知られている。HLA-Aの多型としては、HLA-A1、HLA-A2(A0201、A0206等)、HLA-A24などの27種以上が挙げられ、HLA-Bの多型としては、HLA-B7、HLA-B40、HLA-B4403などの59種以上が挙げられ、HLA-Cwの多型としては、HLA-Cw0301、HLA-Cw0401、HLA-Cw0602などの10種以上が挙げられる。これら多型の中、好ましくは、HLA-A2やHLA-A24が挙げられる。
【0031】
MHCクラスI拘束性WT1ペプチド(WT1キラーペプチド)は、「MHCクラスI拘束性WT1エピトープ」とも呼ばれる。本明細書における「MHCクラスI拘束性WT1エピトープ」とは、MHCクラスI抗原と結合し複合体として提示されるペプチドそのものを意味する。すなわち、MHCクラスI拘束性WT1ペプチドが、インビトロ及び/又はインビボで、Gamma-Interferon-inducible Lysosomal Thiol Reductase(GILT,GLT)等のプロテオソーム及び/若しくはプロテアーゼによる細胞内での結合体の分解(Proteolysis、ジスルフィド結合の還元的開裂)、並びに/又はEndoplasmic reticulum aminopeptidase 1(ERAP1、ER-aminopeptidase 1)による最適な残基数への切断(トリミングとも言う。)によって、MHCクラスI拘束性WT1エピトープを生成する。当該生成においては、まずプロテオソーム及び/若しくはプロテアーゼによる分解の結果、MHCクラスI拘束性WT1エピトープのC末端アミノ酸が生じ、次にERAP1によるトリミング(切断)の結果、MHCクラスI拘束性WT1エピトープのN末端アミノ酸が生じるという生成過程が主に考えられる。ただし、当該生成においては、当該生成過程以外の過程も経由し得る。尚、現在、ERAP1は、ERAAP(ER aminopeptidase associated with antigen presentation)とも呼ばれ、かつては、A-LAP、PILS-AP又はARTS-1とも呼ばれていた。
【0032】
したがって、MHCクラスI拘束性WT1ペプチドとしては、MHCクラスI拘束性WT1エピトープのC末端アミノ酸のカルボニル基にアミノ酸が付加されて生成されるアミノ酸からなるペプチドが好ましい。
【0033】
WT1キラーペプチドの長さは、WT1キラーペプチドとして機能する限り特に限定されないが、例えば、7~30残基、7~15残基、8~12残基、8~11残基、8残基、又は9残基のアミノ酸からなるもの又はこれらの結合体であってよい。WT1キラーペプチドは、7残基以上又は8残基以上のアミノ酸からなるもの又はこれらの結合体であってよく、30残基以下、25残基以下、22残基以下、20残基以下、18残基以下、15残基以下、12残基以下、11残基以下、10残基以下又は9残基以下のアミノ酸からなるもの又はこれらの結合体であってよい。
【0034】
WT1キラーペプチドとしては、例えば、RMFPNAPYL(配列番号:2)、YMFPNAPYL(配列番号:8)、ALLPAVPSL(配列番号:5)、SLGEQQYSV(配列番号:6)、RVPGVAPTL(配列番号:7)、VLDFAPPGA(配列番号:9)、CMTWNQMNL(配列番号:3)及びCYTWNQMNL(配列番号:4)、に記載されたアミノ酸配列を含むペプチド又は配列番号1~9の中から選ばれるいずれかのアミノ酸配列中にアミノ酸残基の改変を含有する改変アミノ酸配列を含み且つCTL誘導活性を有するペプチド等が挙げられる。本実施形態における医薬組成物は、例えば、RMFPNAPYL(配列番号:2)、YMFPNAPYL(配列番号:8)、ALLPAVPSL(配列番号:5)、SLGEQQYSV(配列番号:6)、RVPGVAPTL(配列番号:7)、VLDFAPPGA(配列番号:9)、CMTWNQMNL(配列番号:3)及びCYTWNQMNL(配列番号:4)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド又はその薬学上許容される塩を含むものであってもよい。また、本実施形態における医薬組成物は、例えば、HLAのサブタイプA2タイプ(A-0201、A0206等)に対応するRMFPNAPYL(配列番号:2)、YMFPNAPYL(配列番号:8)、ALLPAVPSL(配列番号:5)、SLGEQQYSV(配列番号:6)、RVPGVAPTL(配列番号:7)、及びVLDFAPPGA(配列番号:9)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド又はその薬学上許容される塩を含むものであってよく、例えば、HLAのサブタイプA24タイプ(A-2402等)に対応するCMTWNQMNL(配列番号:3)及びCYTWNQMNL(配列番号:4)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド又はその薬学上許容される塩を含むものであってもよい。また、本実施形態における医薬組成物は、例えば、RMFPNAPYL(配列番号:2)のアミノ酸配列からなるペプチド又はその薬学上許容される塩を含むものであってよく、YMFPNAPYL(配列番号:8)のアミノ酸配列からなるペプチド又はその薬学上許容される塩を含むものであってよく、C-CYTWNQMNL(C-C間はジスルフィドボンドを表す、配列番号:10)のアミノ酸配列からなるペプチド又はその薬学上許容される塩を含むものであってよく、C-CMTWNQMNL(C-C間はジスルフィドボンドを表す、配列番号:21)のアミノ酸配列からなるペプチド又はその薬学上許容される塩を含むものであってもよい。
【0035】
本明細書において「アミノ酸配列を含むペプチド」は、当該アミノ酸配列からなるペプチド並びに当該アミノ酸配列のN末端アミノ酸及び/又はC末端アミノ酸に更なるアミノ酸が付加されたペプチドを包含する。「MHCクラスI拘束性WT1ペプチド」が付加される場合、C末端側に付加されたペプチドが好ましい。「MHCクラスI拘束性WT1エピトープ」が付加される場合、C末端側への付加が好ましい。
【0036】
本発明における「アミノ酸配列中にアミノ酸残基の改変を含有する改変アミノ酸配列を含み且つCTL誘導活性を有するペプチド」は、「改変キラーペプチド」とも呼ばれる。当該改変キラーペプチドは、アミノ酸配列において、1~3個のアミノ酸が、欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、MHCクラスIに結合し、CTLを誘導するペプチドを意味する。置換されるアミノ酸の置換位置としては、9残基のアミノ酸からなるペプチドの場合、1位(N末端)、2位、3位及び9位が挙げられる。付加(挿入も包含される)されるアミノ酸の数は好ましくは1又は2であり、より好ましくは1である。好ましい付加位置としては、C末端が挙げられる。欠失されるアミノ酸の数は好ましくは1である。改変において、付加されるアミノ酸又は置換されるアミノ酸は、遺伝子によりコードされる20種類のアミノ酸以外の非天然アミノ酸であってもよい。
【0037】
HLAのサブタイプの多型ごとに、HLA抗原に結合できるペプチドのアミノ酸配列の規則性(結合モチーフ)が存在することが知られている。例えば、HLA-A24の結合モチーフとして、8~11残基のアミノ酸からなるペプチドにおいて、2位のアミノ酸が、Tyr、Phe、Met又はTrpであり、C末端のアミノ酸が、Phe、Leu、Ile、Trp又はMetであることが知られている(J.Immunol.,152,p3913,1994,J.Immunol.,155,p4307,1994,Immunogenetics,41,p178,1995)。よって、例えば9残基のアミノ酸からなるペプチドの場合、2位がTyr、Phe、Met又はTrpにより、及び/又は9位がPhe、Leu、Ile、Trp又はMetにより、置換することが可能であり、当該置換がなされたペプチドが改変キラーペプチドとして好ましい。同様に、HLA-A02:01の結合モチーフとして、8~11残基のアミノ酸からなるペプチドにおいて、2位のアミノ酸が、Leu又はMetであり、C末端のアミノ酸が、Val又はLeuであることが知られていることから、例えば9残基のアミノ酸からなるペプチドの場合、2位がLeu又はMetにより、及び/又は9位がVal又はLeuにより、置換することが可能であり、当該置換がなされたペプチドが改変キラーペプチドとして好ましい。
【0038】
改変キラーペプチドとしては例えば、次のようなペプチドが挙げられる。
RMFPNAPYL(配列番号:2)の改変キラーペプチドである
RYFPNAPYL(配列番号:22)(国際公開03/106682号参照);
FMFPNAPYL(配列番号:23)、
RLFPNAPYL(配列番号:24)、
RMMPNAPYL(配列番号:25)、
RMFPNAPYV(配列番号:26)若しくは
YMFPNAPYL(配列番号:8)(国際公開第2009/072610号参照);
CMTWNQMNL(配列番号:3)の改変キラーペプチドである
CYTWNQMNL(配列番号:4)(国際公開第02/79253号参照);
Xaa-Met-Thr-Trp-Asn-Gln-Met-Asn-Leu(配列番号:27)
(本配列中XaaはSer又はAlaを表す)若しくは
Xaa-Tyr-Thr-Trp-Asn-Gln-Met-Asn-Leu(配列番号:28)
(本配列中XaaはSer、Ala、Abu、Arg、Lys、Orn、Cit、Leu、Phe又はAsnを表す)(国際公開2004/026897号参照);
ALLPAVPSL(配列番号:5)の改変キラーペプチドである
AYLPAVPSL(配列番号:29)(国際公開第2003/106682号参照);
SLGEQQYSV(配列番号:6)の改変キラーペプチドである
FLGEQQYSV(配列番号:30)、
SMGEQQYSV(配列番号:31)若しくは
SLMEQQYSV(配列番号:32)(国際公開第2009/072610号参照);又は
RVPGVAPTL(配列番号:7)の改変キラーペプチドである
RYPGVAPTL(配列番号:33)(国際公開第2003/106682号参照)。
【0039】
広くHLAサブタイプをカバーする観点から、本実施形態における医薬組成物は、それぞれ異なるHLAのサブタイプに対応する複数のペプチドを含むことが好ましい。例えば、HLAのサブタイプA2タイプに対応する上記ペプチド又はその薬学上許容される塩及びHLAのサブタイプA24タイプに対応する上記ペプチド又はその薬学上許容される塩の両方を含むことが好ましい。そのような場合には、例えば、医薬組成物は、式(I):
【化21】

[式中、X及びYは、単結合を表し、腫瘍抗原ペプチドAは、以下のアミノ酸配列:
RMFPNAPYL(配列番号:2)、ALLPAVPSL(配列番号:5)、SLGEQQYSV(配列番号:6)、RVPGVAPTL(配列番号:7)、YMFPNAPYL(配列番号:8)及びVLDFAPPGA(配列番号:9)の中から選ばれるいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドを表し、腫瘍抗原ペプチドAのN末端アミノ酸のアミノ基が式(1)中のYと結合し、腫瘍抗原ペプチドAのC末端アミノ酸のカルボニル基が式(1)中の水酸基と結合し、
は、水素原子又は腫瘍抗原ペプチドBを表し、
腫瘍抗原ペプチドBは、腫瘍抗原ペプチドAとは配列が異なり且つ以下のアミノ酸配列:
CMTWNQMNL(配列番号:3)及びCYTWNQMNL(配列番号:4)の中から選ばれるいずれかのアミノ酸配列からなるペプチドを表し、腫瘍抗原ペプチドBのシステイン残基のチオエーテル基が式(1)中のチオエーテル基と結合する。]
で表される化合物又はその薬学上許容される塩を含むものであってもよい。
【0040】
上記式(I)で表される化合物は、システイン残基がジスルフィド結合を形成していること等により、溶液中での酸化剤などに対する安定性に優れており、医薬品原料として一定の品質を有する。
【0041】
また、本実施形態における医薬組成物が、上記式(I)で表される化合物(WT1キラーペプチドの結合体)を含む場合(Rが水素原子である場合を除く)、体内でERAP1によるN末端のシステイン残基間のジスルフィド結合の還元的開裂により、結合体が分解され、異なるHLAサブタイプに対応する2種類のエピトープが生成される。式(I)で表される結合体のように、異なるHLAサブタイプに対応する複数種類のエピトープが体内において生成される結合体は、対象により異なるHLAサブタイプに広く対応可能であり、大きなPopulationを一つの結合体によりカバーすることができるため、対象において効率的にCTLを誘導することができる(国際公開2014/157692号参照)。
【0042】
本実施形態における「腫瘍抗原ペプチドA」とは、7~30残基のアミノ酸からなるMHCクラスI拘束性WT1ペプチドである。式(1)において腫瘍抗原ペプチドAは、N末端アミノ酸のアミノ基が式(1)中のYと結合し、C末端アミノ酸のカルボニル基が式(1)中の水酸基と結合する。
【0043】
また、上記式(1)で表される化合物は、式(2):
【化22】

(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)
で表される化合物であってもよく、
式(3):
【化23】

(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)で表される化合物であってもよい。
【0044】
また、上記式(1)で表される化合物は、式(2):
【化24】

(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)
で表される化合物又はその薬学上許容される塩であり、
上記医薬組成物がさらにWAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:14)又はその薬学上許容される塩を含んでいてもよく、
式(1)で表される化合物が、式(3):
【化25】

(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)で表される化合物又はその薬学上許容される塩であり、
上記医薬組成物がさらにWAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:14)又はその薬学上許容される塩を含んでいてもよい。
【0045】
本実施形態における医薬組成物は、WT1ヘルパーペプチドをさらに含んでいてもよい。本実施形態における医薬組成物がCNKRYFKLSHLQMHSRK(配列番号:11)、CNKRYFKLSHLQMHSRKH(配列番号:12)、CNKRYFKLSHLQMHSRKHTG(配列番号:13)、WAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:14)、CWAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:15)及びWAPVLDFAPPGASAYGSLC(配列番号:16)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチドを含む場合には、上記群から選択される他のアミノ酸配列を含むペプチド及び/又はそれ以外の他のWT1ヘルパーペプチドをさらに含んでいてもよい。
【0046】
WT1ヘルパーペプチドとは、MHCクラスII拘束性WT1ペプチドを意味する。
本明細書における「MHCクラスII拘束性」とは、MHCクラスII分子と結合してヘルパーT細胞を誘導する特性を意味する。
【0047】
MHCクラスII分子に相当するHLAは、HLA-DR、DQ及びDPなどのサブタイプに分類される。「MHCクラスII拘束性」として、好ましくは、HLA-DR拘束性、HLA-DQ拘束性又はHLA-DP拘束性が挙げられる。
【0048】
本明細書における「MHCクラスII拘束性WT1ペプチド」とは、インビトロ及び/又はインビボで、MHCクラスII抗原に結合し、ヘルパーT細胞を誘導するペプチドを意味する。
【0049】
WT1ヘルパーペプチドの長さは、WT1ヘルパーペプチドとして機能する限り特に限定されないが、例えば、7~30残基又は14~30残基のアミノ酸からなるものであってよい。WT1ヘルパーペプチドは、7残基以上、8残基以上、10残基以上、12残基以上又は14残基以上のアミノ酸からなるものであってよく、30残基以下、25残基以下、22残基以下又は20残基以下のアミノ酸からなるものであってよい。
【0050】
WT1ヘルパーペプチドとしては、例えば、CNKRYFKLSHLQMHSRK(配列番号:11)、CNKRYFKLSHLQMHSRKH(配列番号:12)、CNKRYFKLSHLQMHSRKHTG(配列番号:13)、WAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:14)、CWAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:15)、WAPVLDFAPPGASAYGSLC(配列番号:16)、SGQAYMFPNAPYLPSCLES(配列番号:17)(国際公開2007/120673号参照)、RSDELVRHHNMHQRNMTKL(配列番号:18)(国際公開2007/120673号参照)、PGCNKRYFKLSHLQMHSRKHTG(配列番号:19)(国際公開2007/120673号参照)及びKRYFKLSHLQMHSRKH(配列番号:20)(国際公開2005/045027号参照)に記載されたアミノ酸配列を含むペプチド又は配列番号:11~20からなる群から選択されるいずれかのアミノ酸配列中にアミノ酸残基の改変を含有する改変アミノ酸配列を含み且つヘルパーT細胞誘導活性を有するペプチド等が挙げられる。本実施形態における医薬組成物は、例えば、CNKRYFKLSHLQMHSRK(配列番号:11)、CNKRYFKLSHLQMHSRKH(配列番号:12)、CNKRYFKLSHLQMHSRKHTG(配列番号:13)、WAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:14)、CWAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:15)及びWAPVLDFAPPGASAYGSLC(配列番号:16)からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むペプチド又はその薬学上許容される塩を含むものであってもよい。また、本実施形態における医薬組成物は、例えば、CWAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:15)のアミノ酸配列からなるペプチド又はその薬学上許容される塩を含むものであってよく、WAPVLDFAPPGASAYGSLC(配列番号:16)のアミノ酸配列からなるペプチド又はその薬学上許容される塩を含むものであってよく、WAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:14)のアミノ酸配列からなるペプチド又はその薬学上許容される塩を含むものであってよい。
【0051】
「アミノ酸配列を含むペプチド」については、上述したとおり、当該アミノ酸配列からなるペプチド並びに当該アミノ酸配列のN末端アミノ酸及び/又はC末端アミノ酸に更なるアミノ酸が付加されたペプチドを意味する。WT1ヘルパーペプチドは、当該アミノ酸配列に、1又は2以上のシステイン残基を含むものであってもよい。例えば、当該アミノ酸配列にシステイン残基が付加される場合、当該アミノ酸配列のN末端側又は/及びC末端側に付加されてよい。
【0052】
本明細書における「アミノ酸配列中にアミノ酸残基の改変を含有する改変アミノ酸配列を含み且つヘルパーT細胞誘導活性を有するペプチド」は、「改変ヘルパーペプチド」とも呼ばれる。当該改変ヘルパーペプチドは、アミノ酸配列において、1~3個のアミノ酸が、欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、MHCクラスIIに結合し、ヘルパーT細胞を誘導するペプチドを意味する。付加(挿入も包含される)されるアミノ酸の数は好ましくは1~3である。欠失されるアミノ酸の数は好ましくは1~5である。改変において、付加されるアミノ酸又は置換されるアミノ酸は、遺伝子によりコードされる20種類のアミノ酸以外の非天然アミノ酸であってもよい。
【0053】
改変ヘルパーペプチドとしては、例えば、次のようなペプチドが挙げられる。
SGQARMFPNAPYLPSCLES(配列番号:34)の改変ヘルパーペプチドである
SGQAYMFPNAPYLPSCLES(配列番号:35)(特許文献6参照)、
SGQARMFPNAPYLPSC(配列番号:36)若しくは
SGQAYMFPNAPYLPSC(配列番号:37);又は
PGCNKRYFKLSHLQMHSRKHTG(配列番号:19)の改変ヘルパーペプチドである
PGCNKRYFKLSHLQMHSRK(配列番号:38)、
PGCNKRYFKLSHLQMHSRKH(配列番号:39)、
CNKRYFKLSHLQMHSRK(配列番号:11)、
CNKRYFKLSHLQMHSRKH(配列番号:12)若しくは
CNKRYFKLSHLQMHSRKHTG(配列番号:13)。
【0054】
本実施形態におけるペプチド又は化合物は、本明細書の実施例に記載された方法、又は通常のペプチド合成において用いられる方法に準じて製造することができる。製造方法としては、文献(ペプタイド・シンセシス(Peptide Synthesis),Interscience,New York,1966;ザ・プロテインズ(The Proteins),Vol 2,Academic Press Inc.,New York,1976;ペプチド合成,丸善(株),1975;ペプチド合成の基礎と実験、丸善(株),1985;医薬品の開発 続 第14巻・ペプチド合成,広川書店,1991)などに記載されている方法が挙げられる。また、例えば、式(1)で表される化合物を製造する方法については、国際公開2014/157692号等を参照することもできる。
【0055】
例えば、Fmoc法若しくはBoc法を用いて固相合成機で製造する方法や、Boc-アミノ酸若しくはZ-アミノ酸を液相合成法で逐次縮合させて製造する方法が挙げられる(Fmocは9-フルオレニルメトキシカルボニル基、Bocはt-ブトキシカルボニル基、Zはベンジルオキシカルボニル基をそれぞれ表す)。
【0056】
本実施形態におけるペプチド又は化合物を製造するための中間体において、アミノ基、カルボキシ基、メルカプト基などの官能基は、必要に応じて保護、脱保護の技術を用い、適当な保護基で保護し、また脱保護することができる。好適な保護基、保護する方法、及び脱保護する方法としては、「Protective Groups in Organic Synthesis 2nd Edition(John Wiley &Sons, Inc.;1990)」などに詳細に記載されている。たとえば、メルカプト基の保護基としてはアセトアミドメチル基又はトリチル基などが挙げられる。
【0057】
本実施形態におけるペプチド又は化合物がジスルフィド結合を有する場合、通常のペプチド化学に用いられる方法に準じて、システイン残基を含む異なる2つのペプチド間で、又はシステイン残基を含むペプチドとシステイン間で、当該ジスルフィド結合を形成することができる。ジスルフィド結合の形成方法は、文献(ペプタイド・シンセシス(Peptide Synthesis),Interscience,New York,1966;ザ・プロテインズ(The Proteins),Vol 2,Academic Press Inc.,New York,1976;ペプチド合成,丸善(株),1975;ペプチド合成の基礎と実験、丸善(株),1985;医薬品の開発 続 第14巻・ペプチド合成,広川書店,1991)などに記載されている方法が挙げられる。
【0058】
具体的には、ペプチドに含まれるシステイン残基が1個の場合、システイン側鎖上のメルカプト基の保護基を含むすべての保護基を除去した後、不活性溶媒中で酸化させることにより、ジスルフィド結合を有する化合物(ジスルフィド化合物)を製造することができる。また、メルカプト基を持つ2つの中間体を適当な溶媒中に混合し酸化することにより製造することができる。当該酸化の方法としては、通常のペプチド合成でジスルフィド結合を形成させる公知の方法を適宜選択すればよい。例えば、ヨウ素酸化、アルカリ条件下で空気酸化反応に付す方法、又はアルカリ性若しくは酸性条件下酸化剤を添加してジスルフィド結合を形成する方法などが挙げられる。ここで、酸化剤としては、ヨウ素、ジメチルスルホキシド(DMSO)、フェリシアン化カリウムなどが挙げられる。溶媒としては水、酢酸、メタノール、クロロホルム、DMF若しくはDMSOなど、又はこれらの混合液を用いることができる。酸化反応によりしばしば、対称、非対称性ジスルフィド化合物の混合物を与える。目的の非対称性ジスルフィド化合物は種々のクロマトグラフィー、又は再結晶などで精製することによって得ることができる。あるいは活性化されたメルカプト基をもつ中間体とメルカプト基をもつ中間体を混合することにより選択的なジスルフィド結合を形成することができる。活性化されたメルカプト基をもつ中間体としては、Npys基(3-ニトロ-2-ピリジンスルフェニル基)が結合したメルカプト基などが挙げられる。あるいは、あらかじめ一方の中間体と例えば2,2'-ジチオビス(5-ニトロピリジン)を混合することによりメルカプト基を活性化した後、他方の中間体を加えることにより選択的なジスルフィド結合を形成することができる(Tetrahedron Letters.Vol.37.No.9,pp.1347-1350)。
【0059】
ペプチドに含まれるシステイン残基が2個以上の場合も、前記と同様の方法を用いることができる。この場合はジスルフィド結合様式が異なる異性体が得られる。システイン側鎖の保護基を特定の組み合わせにすることにより、目的のシステイン残基間でジスルフィド結合を形成した二量体を得ることができる。前記保護基の組み合わせとしては、MeBzl(メチルベンジル)基とAcm(アセトアミドメチル)基、Trt(トリチル)基とAcm基、Npys(3-ニトロ-2-ピリジルチオ)基とAcm基、S-Bu-t(S-tert-ブチル)基とAcm基などが挙げられる。例えばMeBzl基とAcm基の組み合わせの場合、まずMeBzl基とシステイン側鎖以外のその他の保護基を除去した後、ペプチド単量体を含む溶液を空気酸化反応に付して脱保護されたシステイン残基間にジスルフィド結合を形成し、次いでヨウ素による脱保護及び酸化を行ってAcm基で保護されていたシステイン残基間にジスルフィド結合を形成する方法などが挙げられる。
【0060】
得られた本実施形態におけるペプチド又は化合物は、当業者に公知の方法や通常のペプチド化学に用いられる方法に準じて精製することができる。例えば、種々のクロマトグラフィー(例えば、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、イオン交換カラムクロマトグラフィー、ゲルろ過、若しくは逆相クロマトグラフィー)、又は再結晶などで精製することができる。例えば、再結晶溶媒としては、メタノール、エタノール若しくは2-プロパノールなどのアルコール系溶媒、ジエチルエーテルなどのエーテル系溶媒、酢酸エチルなどのエステル系溶媒、ベンゼン若しくはトルエンなどの芳香族炭化水素系溶媒、アセトンなどのケトン系溶媒、ヘキサンなどの炭化水素系溶媒、ジメチルホルムアミド若しくはアセトニトリルなどの非プロトン系溶媒、水、又はこれらの混合溶媒などを用いることができる。その他精製方法としては、実験化学講座(日本化学会編、丸善)1巻などに記載された方法などを用いることができる。
【0061】
ジスルフィド化合物の精製方法は、文献(ペプタイド・シンセシス(Peptide Synthesis),Interscience,New York,1966;ザ・プロテインズ(The Proteins),Vol 2,Academic Press Inc.,New York,1976;ペプチド合成,丸善(株),1975;ペプチド合成の基礎と実験、丸善(株),1985;医薬品の開発 続 第14巻・ペプチド合成,広川書店,1991)などに記載されている。中でも、HPLCが好ましい。
【0062】
本実施形態における化合物において、1つ以上の不斉点がある場合、通常の方法に従って、その不斉点を有する原料(アミノ酸)を用いることによって、製造することができる。また、本実施形態における化合物の光学純度を上げるために、製造工程の適当な段階で光学分割などを行ってもよい。光学分割法として例えば、本実施形態における化合物若しくはその中間体を不活性溶媒中(例えばメタノール、エタノール、若しくは2-プロパノールなどのアルコール系溶媒、ジエチルエーテルなどのエーテル系溶媒、酢酸エチルなどのエステル系溶媒、トルエンなどの炭化水素系溶媒、又はアセトニトリルなどの非プロトン系溶媒、及びこれらの混合溶媒)、光学活性な酸(例えば、マンデル酸、N-ベンジルオキシアラニン、若しくは乳酸などのモノカルボン酸、酒石酸、o-ジイソプロピリデン酒石酸若しくはリンゴ酸などのジカルボン酸、又はカンファースルフォン酸若しくはブロモカンファースルフォン酸などのスルホン酸)と塩を形成させるジアステレオマー法により行うことができる。本実施形態における化合物又は中間体がカルボキシ基などの酸性官能基を有する場合は、光学活性なアミン(例えばα-フェネチルアミン、キニン、キニジン、シンコニジン、シンコニン、ストリキニーネなどの有機アミン)と塩を形成させることにより光学分割を行うこともできる。
【0063】
塩を形成させる温度としては、室温から溶媒の沸点までの範囲から選択される。光学純度を向上させるためには、一旦、溶媒の沸点付近まで温度を上げることが望ましい。析出した塩を濾取する際、必要に応じて冷却し収率を向上させることができる。光学活性な酸、又はアミンの使用量は、基質に対し約0.5~約2.0当量の範囲、好ましくは1当量前後の範囲が適当である。必要に応じ結晶を不活性溶媒中(例えばメタノール、エタノール、2-プロパノールなどのアルコール系溶媒、ジエチルエーテルなどのエーテル系溶媒、酢酸エチルなどのエステル系溶媒、トルエンなどの炭化水素系溶媒、アセトニトリルなどの非プロトン系溶媒及びこれらの混合溶媒)で再結晶し、高純度の光学活性な塩を得ることもできる。また、必要に応じて光学分割した塩を通常の方法で酸又は塩基で処理しフリー体として得ることもできる。
【0064】
本明細書における「薬学上許容される塩」としては、酸付加塩及び塩基付加塩が挙げられる。例えば、酸付加塩としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、ヨウ化水素酸塩、硝酸塩、リン酸塩などの無機酸塩、クエン酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩、ギ酸塩、プロピオン酸塩、安息香酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩などの有機酸塩が挙げられ、塩基付加塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩などの無機塩基塩、トリエチルアンモニウム塩、トリエタノールアンモニウム塩、ピリジニウム塩、ジイソプロピルアンモニウム塩などの有機塩基塩などが挙げられ、さらにはアルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸などの塩基性あるいは酸性アミノ酸といったアミノ酸塩が挙げられる。
【0065】
本実施形態におけるペプチド若しくは化合物又はその薬学上許容される塩の水和物、エタノール溶媒和物などの溶媒和物も、本実施形態に含まれる。さらに、本実施形態における医薬組成物は、式(I)で表される化合物のあらゆるジアステレオマー、エナンチオマーなどの存在し得るあらゆる立体異性体、及びあらゆる態様の結晶形も包含している。
【0066】
本実施形態における医薬組成物は、WT1遺伝子が発現しているがんやWT1遺伝子の発現レベルの上昇を伴うがん(WT1関連がん)の治療又は予防に用いることができる。このようながんとしては、例えば、白血病、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫、胃癌、大腸癌、肺癌、乳癌、胚細胞癌、肝癌、皮膚癌、膀胱癌、前立腺癌、子宮癌、子宮頸癌、卵巣癌、性腺外胚細胞腫瘍、脳腫瘍、脳癌、頭蓋外胚細胞腫瘍、骨癌、膵癌、頭頚部癌、顎癌、食道癌、下咽頭癌、喉頭癌、口唇及び口腔癌、髄芽腫、黒色腫、メルケル細胞癌、(胸膜中皮腫、心膜中皮腫、腹膜中皮腫等の)中皮腫、(骨肉腫、平滑筋肉腫、カポジ肉腫、悪性線維性組織球腫、脂肪肉腫、ユーイング肉腫、隆起性皮膚線維肉腫等の)肉腫、神経芽腫、網膜芽腫、肝芽腫、腎芽腫、グリア腫瘍、皮膚又は眼窩内悪性メラノーマ、扁平上皮癌、頸部扁平上皮癌、眼内黒色腫、胆道癌、結腸癌、十二指腸癌、小腸癌、直腸癌、肛門部癌、虫垂癌、胆管癌、肝外胆管癌、膵島細胞癌、精巣癌、卵管のカルシノーマ、子宮内膜カルシノーマ、子宮頚部カルシノーマ、膣カルシノーマ、外陰部カルシノーマ、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、リンパ形質細胞性リンパ腫、気管支腺腫/カルチノイド、バーキットリンパ腫、カルチノイド腫瘍、小脳アストロサイトーマ、慢性鼻腔及び副鼻腔癌、鼻咽頭癌、唾液腺癌、舌下腺癌、耳下腺癌、内分泌系癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、柔組織肉腫、尿道癌、陰茎癌、星状細胞腫、基底細胞癌、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ球性白血病を含む慢性又は急性白血病、小児固形がん、リンパ球性リンパ腫、腎臓又は尿管の癌、腎盂カルシノーマ、中枢神経系(CNS)腫瘍、原発性CNSリンパ腫、腫瘍新脈管形成、脊椎腫瘍、脳幹グリオーム、下垂体アデノーマ、カポシ肉腫、扁平上皮癌、扁平細胞癌、T細胞リンパ腫、多型性膠芽腫、悪性黒色腫、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、腎細胞癌、AIDS関連癌及びアスベスト誘発癌等が挙げられる。癌は、例えば、上記例示からなる群から選択されてもよく、例えば、白血病、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫、胃癌、大腸癌、肺癌、乳癌、胚細胞癌、肝癌、皮膚癌、膀胱癌、前立腺癌、子宮癌、子宮頸癌、卵巣癌及び脳腫瘍からなる群から選択されてもよい。がんは、例えば、白血病、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、膀胱癌、脳腫瘍、乳癌、肺癌、大腸癌、悪性リンパ腫、食道癌、頭頚部癌、肝癌、卵巣癌、膵癌、前立腺癌及び胃癌からなる群から選択されてもよく、白血病、骨髄異形成症候群及び多発性骨髄腫からなる群から選択されてもよく、骨髄異形成症候群、乳癌、肺癌、大腸癌及び膀胱癌からなる群から選択されてもよい。
【0067】
本実施形態において、対象は、ヒトであってもよく、ヒト以外の動物であってもよい。ヒト以外の動物は、哺乳動物であることが好ましい。対象は、がんを有するヒト、がんを有することが疑われるヒト又はがんの発症リスクのあるヒトであってよく、がんを有するヒトであることが好ましい。対象ががんを有する場合には、患者という表現をする場合もある。
【0068】
本実施形態のペプチド若しくは化合物又はその薬学上許容される塩は、各ペプチド若しくは化合物又は各塩に応じて適切な形態とすることにより、がんの細胞性免疫療法におけるCTL誘導剤の有効成分、がんワクチンの有効成分又は/及び医薬組成物の有効成分とすることができる。
【0069】
本実施形態の医薬組成物、ペプチド若しくは化合物又はその薬学上許容される塩は、ペプチド又は化合物の細胞性免疫が効果的に成立するように、薬学上許容される担体、例えば適当なアジュバントとともに投与することができる。また、同様の理由により、本実施形態の医薬組成物は、薬学上許容される担体、例えば適当なアジュバントを含むことができる。アジュバントとしては、沈降性アジュバントおよび油性アジュバント等が挙げられる。沈降性アジュバントは、ペプチドが吸着する無機物の懸濁剤を表す。沈降性アジュバントとしては、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化アルミニウム(アラム、Alum)、リン酸カルシウム、リン酸アルミニウム、ミョウバン、ペペス、カルボキシビニルポリマー等が挙げられる。油性アジュバントは、ペプチドを含む水溶液を鉱油で包みミセルをつくり乳化する油乳剤を表す。油性アジュバントとしては、具体的には、流動パラフィン、ラノリン、フロイントアジュバント(完全フロイントアジュバント、不完全フロイントアジュバント)、モンタナイド、W/Oエマルション等が挙げられる。また、例えば、アジュバントとしては、文献(Clin. Microbiol.Rev.,7:277-289,1994)に記載のものなどが応用可能であり、具体的には、菌体由来成分、GM-CSF、インターロイキン-2、インターロイキン-7若しくはインターロイキン-12などのサイトカイン、植物由来成分、海洋生物由来成分、水酸化アルミニウムの如き鉱物ゲル、リソレシチン、プルロニックポリオールの如き界面活性剤、ポリアニオン、ペプチド、又は油乳濁液(エマルジョン製剤)などを挙げることができる。菌体由来成分としては、リピドA(lipid A)、その誘導体であるモノホスホリルリピドA(monophosphoryl lipid A)、細菌(BCG菌などのMycobacterium属細菌が挙げられる)の死菌、細菌由来のタンパク質、ポリヌクレオチド、フロイント不完全アジュバント(Freund’s Incomplete Adjuvant)、フロイント完全アジュバント(Freund’s CompleteAdjuvant)、細胞壁骨格成分(例えばBCG-CWSなどが挙げられる)、トレハロースジミコレート(TDM)などが挙げられる。
【0070】
また本実施形態のペプチド又は化合物は、リポソーム製剤、直径数μmのビーズに結合させた粒子状の製剤、リピッドを結合させた製剤、W/Oエマルション製剤などにして投与することもできる。
【0071】
さらに本実施形態のペプチド又は化合物(コンジュゲート体)は、MHCクラスII拘束性WT1ペプチド(すなわちヘルパーペプチド)と共に投与することができる。共に投与する方法としては、コンジュゲート体とヘルパーペプチドを個別に投与することも可能であるが、一つの医薬組成物の中にコンジュゲート体とヘルパーペプチドを含むカクテル製剤(カクテル剤、カクテル)がより好ましい。本カクテル製剤は、MHCクラスI拘束性WT1ペプチド(すなわちキラーペプチド)を生じ得るコンジュゲート体及びMHCクラスII拘束性WT1ペプチド(すなわちヘルパーペプチド)を含むものである。よって、がん免疫療法におけるがんワクチンとして、ヘルパーペプチドを含有した本カクテル製剤を投与することによって、CTLを含む他のT細胞の機能亢進に重要であるヘルパーT細胞(helper T cell)の活性化も可能となり、コンジュゲート体の機能・薬効(細胞性免疫能など)を向上させることができる。
【0072】
本実施形態に係る、がんを治療又は予防するための医薬組成物の効果が期待できる対象を選択する方法(以下、「本実施形態の選択方法」ともいう)においては、以下の(1)~(6)からなる群から選択される1又は2以上の組合せに基づき、効果が期待できる対象であるとの指標を提供することができる。医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供することにより、対象の医薬組成物に対する応答を予測することも可能である
(1)TP53遺伝子及び/又はBCOR遺伝子における変異
(2)WT1遺伝子のmRNA発現量
(3)改訂IPSS(IPSS-R)に基づく核型
(4)WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞の増加の有無
(5)遅延型過敏反応の有無
(6)骨髄芽球の割合の変化
【0073】
(1)~(6)からなる群から選択される2以上の組合せに基づき、効果が期待できる対象であるとの指標を提供する場合、実施する順番は上記順番に限られるものではない。当業者は選抜の効率、対象の状態や負担等を考慮し、実施する工程及び順番を適宜設定することができる。また、例えば、病気、病状、ゲノム情報、治療に対するリスク要因及び検査データ等の患者の治療に関するビッグデータから、人工知能、機械学習、又は/及び統計学的方法等によって有効な組み合せを推測し、選択することも可能である。例えば、医薬組成物又はペプチドの投与を必要としない(1)~(3)から選択される1以上に基づく選抜を先に実施し、その結果に基づき医薬組成物の効果が期待できる対象を絞った後に、医薬組成物又はペプチドの投与を必要とする(4)~(6)から選択される1以上に基づく選抜を実施することにより、医薬組成物の効果が期待できる対象を選択することもできる。また、例えば、逆に先に(4)~(6)から選択される1以上に基づく選抜を実施し、その結果に基づき医薬組成物の効果が期待できる対象を絞った後に、(1)~(3)から選択される1以上に基づく選抜を実施することも可能である。さらに、例えば、既に対象のIPSS-Rに基づく核型が決定している場合には、(3)に基づく選抜により医薬組成物の効果が期待できる対象を絞った後に、(1)~(2)及び(4)~(6)から選択される1以上に基づく選抜を実施することも可能である。医薬組成物又はペプチドの投与を必要とする選抜を実施した後に、同じ対象に対して医薬組成物又はペプチドの未投与で実施することが好ましい選抜を実施する場合には、所定の期間が経過し、医薬組成物又はペプチドの投与の影響が十分減少してから行うことも可能である。
【0074】
本実施形態における試料は、対象から採取可能であれば特に限定されず、例えば、血液、リンパ液、腹水、胸水、痰、髄液(脳脊髄液)、涙液、鼻汁、唾液、尿、膣液、精液及び関節液等の体液、粘膜、細胞、組織、並びに細胞若しくは組織の培養物等が挙げられる。血液は、血漿、血清、間質液を含む。細胞は、赤血球、白血球、血小板、造血幹細胞、骨髄血、骨髄芽球等の血液細胞、血液循環腫瘍細胞、白血病細胞、異形成を伴う芽球、脳腫瘍、大腸癌細胞、肺癌細胞、乳癌細胞、子宮癌細胞、胃癌細胞、肝癌細胞、前立腺癌細胞、腎癌細胞、膵臓癌細胞、肉腫細胞、悪性中皮腫細胞、リンパ腫細胞等の悪性腫瘍(がん)細胞を含む。がんを含む組織をがん組織という。
【0075】
試料は、当該分野の公知の方法に基づいて対象より採取することができる。例えば、血液やリンパ液であれば、公知の採血方法により採取することができる。例えば、細胞や組織であれば、穿刺、穿刺吸引、擦過、腹腔洗浄、針生検及び外科的生検等の公知の方法により採取することができる。本実施形態における試料は、体液、粘膜、細胞、組織及び細胞又は組織の培養物並びにこれらの組合せからなる群から選択されてもよく、血液、髄液、血液細胞、がん細胞、がん組織及び細胞又はがん組織の培養物並びにこれらの組合せからなる群から選択されてもよく、血液、髄液、がん細胞、がん組織及びがん細胞又はがん組織の培養物並びにこれらの組合せからなる群から選択されてもよく、血液又は髄液であってもよい。
【0076】
がんを治療又は予防するための医薬組成物の効果としては、がんの種類及び対象の状態等により異なる場合もあるが、例えば、生存期間の延長、骨髄芽球の安定化、がん細胞の減少、転移の予防及び進行の遅延(骨髄異形成症候群(MDS)患者であれば、急性骨髄性白血病(AML)移行期間の延長)等が挙げられる。医薬組成物の効果が期待できる対象には、例えば、医薬組成物が奏効する可能性が高い対象、医薬組成物の投与により生存期間が延長する可能性が高い対象等が含まれる。
【0077】
「WT1抗原ペプチド特異的免疫反応」とは、WT1抗原ペプチドの投与等により特異的に誘導される免疫反応である。「WT1抗原ペプチド特異的免疫反応」が誘導されていることは、例えば、後述するHLAテトラマーアッセイによる判定結果が陽性であること且つ/又は遅延性過敏反応が陽性であること等により確認することができる。
【0078】
(1)TP53遺伝子及び/又はBCOR遺伝子における変異
TP53遺伝子は393アミノ酸からなる核内タンパク質p53をコードしている癌抑制遺伝子である。BCOR遺伝子は、BCL6のコリプレッサであり、転写因子に結合して、遺伝子発現を特異的に阻害する遺伝子である。いずれも予後不良因子であることが報告されている。
【0079】
本明細書において、TP53遺伝子及び/又はBCOR遺伝子における変異とは、TP53遺伝子及びBCOR遺伝子の両方における変異、TP53遺伝子における変異、又はBCOR遺伝子における変異を意味する。TP53遺伝子及び/又はBCOR遺伝子における変異は、それぞれの塩基配列に対してヌクレオチド塩基の置換、欠失、挿入又はこれらの組合せであってよい。TP53遺伝子及び/又はBCOR遺伝子における変異は、1~20個、1~10個、1~8個、1~5個、1~4個、1~3個、1~2個又は1個のヌクレオチド塩基の置換、欠失、挿入又はこれらの組合せであってよい。
【0080】
本明細書において、TP53野生型とは、TP53遺伝子に変異が存在しない場合、又はTP53遺伝子に変異が存在しても本来の機能を失わない若しくは異常を伴わない場合(サイレント変異及びシノニマス変異等を含む)を言う。TP53変異型とは、TP53遺伝子に変異が存在し、かつ本来の機能を失う若しくは異常を伴う場合を言う。BCOR野生型とは、BCOR遺伝子に変異が存在しない場合、又はBCOR遺伝子に変異が存在しても本来の機能を失わない若しくは異常を伴わない場合(サイレント変異及びシノニマス変異等を含む)を言う。BCOR変異型とは、BCOR遺伝子に変異が存在し、かつ本来の機能を失う若しくは異常を伴う場合を言う。したがって、TP53野生型及び/又はBCOR野生型は、TP53又はBCORのいずれかが野生型である場合、並びにTP53及びBCORの両方が野生型である場合を含む。
【0081】
本実施形態の選択方法は、対象から採取された試料を用いて、TP53遺伝子及び/又はBCOR遺伝子における変異の有無を決定する工程と、
対象がTP53野生型及び/又はBCOR野生型の場合に、上記対象は医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程とを含む。
【0082】
対象、試料、医薬組成物等については上述したとおりである。
【0083】
TP53遺伝子及び/又はBCOR遺伝子における変異の有無を決定する工程とは、対象におけるTP53遺伝子及び/又はBCOR遺伝子に対応する遺伝子において、野生型の塩基配列との違い(変異)が認められ、その変異が、野生型が有していた本来の機能を失わせる変異又は異常を伴う変異である場合には、「TP53変異型及び/又はBCOR変異型」とし、野生型の塩基配列との違い(変異)が認められない場合又は変異が各遺伝子の転写量及び各遺伝子がコードするタンパク質の機能に変化が生じない変異(サイレント変異及びシノニマス変異等を含む)である場合には、「TP53野生型及びBCOR野生型」と決定する工程である。野生型の塩基配列との違い(変異)は、対象のTP53遺伝子及び/又はBCOR遺伝子に対応する遺伝子の塩基配列を、野生型のTP53遺伝子及び/又はBCOR遺伝子と比較することにより検出してもよい。対象のTP53遺伝子及び/又はBCOR遺伝子に対応する遺伝子の塩基配列の決定及び野生型の塩基配列との比較は、当業者に公知の方法により行うことができる。例えば、試料から常法によりDNAを抽出し、次世代シーケンス法(NGS)等により各遺伝子の配列を決定し、対応する野生型の遺伝子配列と比較することで変異の有無を決定することができる。また、例えば、変異によっては、塩基配列を決定しなくとも、PCR-RFLP(Restriction Fragment Length Polymorphism、制限酵素断片長多型)法により変異の有無を決定することもできる。また、例えば、市販のDNA変異/多型検出キットを使用して行うこともできる。
【0084】
本実施形態の選択方法は、例えば、TP53遺伝子及びBCOR遺伝子における変異の有無を決定する工程を含んでいてもよく、その結果、TP53野生型の場合に、上記対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程を含んでもよく、BCOR野生型の場合に、上記対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程を含んでもよく、TP53野生型及びBCOR野生型の場合に、上記対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程を含んでもよい。
【0085】
また、本実施形態の選択方法は、例えば、TP53遺伝子における変異の有無を決定する工程を含んでいてもよく、その結果、TP53野生型の場合に、上記対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程を含んでもよい。同様に、本実施形態の選択方法は、例えば、BCOR遺伝子における変異の有無を決定する工程を含んでいてもよく、その結果、BCOR野生型の場合に、上記対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程を含んでもよい。
【0086】
本実施形態の選択方法は、例えば、逆に、TP53変異型及び/又はBCOR変異型の場合に、その対象は医薬組成物の効果を期待できる対象ではないとの指標を提供することを含むものであってもよい。
【0087】
本来の機能を失わない又は異常を伴わない場合は、各遺伝子が野生型同一又は実質的に同一(サイレント変異及びシノニマス変異等を含む)を意味する。
【0088】
このように、TP53遺伝子及び/又はBCOR遺伝子は、がんを治療又は予防するための医薬組成物の効果を期待できる対象であるか否かの指標を提供するためのマーカーとして使用することができる。
【0089】
(2)WT1遺伝子のmRNA発現量
本発明は、別の形態において、WT1遺伝子のmRNA発現量に基づき、がんを治療又は予防するための医薬組成物の効果を期待できる対象を選択する方法を提供する。
【0090】
本実施形態の選択方法は、対象から採取された試料を用いて、WT1遺伝子のmRNA発現量を決定する工程と、
WT1遺伝子のmRNA発現量が基準値未満又は以下であった場合に、その対象は医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程とを含む。
【0091】
WT1遺伝子のmRNA発現量を決定する工程は、定量PCR等の当業者に公知の方法により実施することができる。また、例えば、WT1 mRNA測定キットII「オーツカ」(大塚製薬株式会社)等の市販のキットを用いて行うこともできる。例えば、試料からRNAを抽出し、WT1に特異的なプライマーを用いてリアルタイムPCR装置等によりRT-PCR等の定量PCR反応を行い、標準曲線に基づきWT1 mRNA及び内在性コントロールとしてハウスキーピング遺伝子(GAPDH、β-アクチン等)のmRNAの測定値を算出することができる。その後、例えば、以下の式(数1)に示すように、WT1 mRNA測定値をハウスキーピング遺伝子のmRNA測定値で除した値(ハウスキーピング遺伝子のmRNA 1コピーあたりのWT1 mRNAコピー数)に、健康成人の1μg RNAあたりのハウスキーピング遺伝子の平均mRNAコピー数(ハウスキーピング遺伝子のmRNA発現量)を乗じてWT1 mRNA発現量(コピー/μg RNA)を算出することができる。したがって、WT1 mRNA発現量(コピー/μg RNA)は、以下の式(数1)により算出される値であるとすることもできる。
【数1】
【0092】
ハウスキーピング遺伝子としてGAPDHを用いる場合には、例えば、試料からRNAを抽出し、WT1に特異的なプライマーを用いてリアルタイムPCR装置等によりRT-PCR等の定量PCR反応を行い、標準曲線に基づきWT1 mRNA及びGAPDH mRNAの測定値を算出することができる。その後、例えば、以下の式に示すように、WT1 mRNA測定値をGAPDH mRNA測定値で除した値(GAPDH mRNA 1コピーあたりのWT1 mRNAコピー数)に、健康成人の1μg RNAあたりの平均GAPDH mRNAコピー数(GAPDH mRNA発現量)を乗じてWT1 mRNA発現量(コピー/μg RNA)を算出することができる。したがって、WT1 mRNA発現量(コピー/μg RNA)は、以下の式(数2)により算出される値であるとすることもできる。なお、2.7×10(コピー/μg RNA)は、健康成人の1μg RNAあたりの平均GAPDH mRNA測定値である。
【数2】
【0093】
また、WT1 mRNA発現量(コピー/μg RNA)は、WT1 mRNA測定キットII「オーツカ」(大塚製薬株式会社)及び付属のプロトコルに従い、上記式(数2)により算出された値とすることもできる。
【0094】
本実施形態の選択方法においては、WT1遺伝子のmRNA発現量が基準値未満又は以下であった場合に、その対象は医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供することができる。WT1遺伝子のmRNA発現量の基準値は、例えば、50~100000(コピー/μg RNA)間の値であってよく、100~50000(コピー/μg RNA)間の値であってよく、1000~20000(コピー/μg RNA)間の値であってよく、2000~10000(コピー/μg RNA)間の値であってよく、3000~10000(コピー/μg RNA)間の値であってよく、4000~10000(コピー/μg RNA)間の値であってよい。また、WT1遺伝子のmRNA発現量の基準値は、例えば、50(コピー/μg RNA)以上の値、100(コピー/μg RNA)以上の値、250(コピー/μg RNA)以上の値、500(コピー/μg RNA)以上の値、750(コピー/μg RNA)以上の値、1000(コピー/μg RNA)以上の値、1000(コピー/μg RNA)以上の値、1250(コピー/μg RNA)以上の値、1500(コピー/μg RNA)以上の値、1750(コピー/μg RNA)以上の値、2000(コピー/μg RNA)以上の値、2250(コピー/μg RNA)以上の値、2500(コピー/μg RNA)以上の値、2750(コピー/μg RNA)以上の値、3000(コピー/μg RNA)以上の値、3250(コピー/μg RNA)以上の値、3500(コピー/μg RNA)以上の値、3750(コピー/μg RNA)以上の値、4000(コピー/μg RNA)以上の値であってよく、15000(コピー/μg RNA)以下の値、14000(コピー/μg RNA)以下の値、13000(コピー/μg RNA)以下の値、12000(コピー/μg RNA)以下の値、11000(コピー/μg RNA)以下の値、10000(コピー/μg RNA)以下の値であってよく、50(コピー/μg RNA)、100(コピー/μg RNA)、250(コピー/μg RNA)、500(コピー/μg RNA)、750(コピー/μg RNA)、1000(コピー/μg RNA)、1000(コピー/μg RNA)、1250(コピー/μg RNA)、1500(コピー/μg RNA)、1750(コピー/μg RNA)、2000(コピー/μg RNA)、2250(コピー/μg RNA)、2500(コピー/μg RNA)、2750(コピー/μg RNA)、3000(コピー/μg RNA)、3250(コピー/μg RNA)、3500(コピー/μg RNA)、3750(コピー/μg RNA)、4000(コピー/μg RNA)、15000(コピー/μg RNA)、14000(コピー/μg RNA)、13000(コピー/μg RNA)、12000(コピー/μg RNA)、11000(コピー/μg RNA)、10000(コピー/μg RNA)であってよい。本実施形態の選択方法においては、例えば、WT1遺伝子のmRNA発現量が4000(コピー/μg RNA)未満又は以下であった場合に、その対象は医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供するものであってよく、WT1遺伝子のmRNA発現量が10000(コピー/μg RNA)未満又は以下であった場合に、その対象は医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供するものであってよい。本実施形態の選択方法においては、WT1遺伝子のmRNA発現量が4000~10000(コピー/μg RNA)間の値未満又は以下であった場合に、その対象は医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供するものであることが好ましい。
【0095】
対象が骨髄異形成症候群(MDS)患者である場合には、WT1遺伝子のmRNA発現量の基準値は、100000(コピー/μg RNA)以下の値であることが好ましく、4000~10000(コピー/μg RNA)間の値であることがより好ましく、10000(コピー/μg RNA)以下の値であることがさらに好ましい。対象から採取された試料におけるWT1遺伝子のmRNA発現量が上記基準値未満又は以下である場合には、OSが長くなる傾向にある。
【0096】
このように、WT1遺伝子は、がんを治療又は予防するための医薬組成物の効果を期待できる対象であるか否かの指標を提供するためのマーカーとして使用することができる。
【0097】
(3)改訂IPSS(IPSS-R)に基づく核型
本発明は、別の形態において、改訂IPSS(IPSS-R)に基づく核型に基づき、がんを治療又は予防するための医薬組成物の効果を期待できる対象を選択する方法を提供する。
【0098】
本実施形態の選択方法は、対象の改訂IPSS(IPSS-R、“Greenberg et al., Blood 120, no.12, p2454-2465 (2012)”)に基づく核型がVery poor以外である場合に、その対象は医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程を含む。本実施形態の選択方法は、この工程の前に、対象から採取された試料を用いて、対象のIPSS-Rに基づく核型を決定する工程を含んでいてもよい。
【0099】
IPSS-Rに基づく核型は、G分染法及びQ分染法等当業者に公知の方法により解析して決定することができる。対象のIPSS-Rに基づく核型が、Very poor以外である場合に、その対象は医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標が提供される。本実施形態の選択方法は、例えば、対象のIPSS-Rに基づく核型が、Good/Very good、Intermediate又はPoorである場合に、その対象は医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標が提供されてもよく、Intermediate又はPoorである場合に、その対象は医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標が提供されてもよく、Poorである場合に、その対象は医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標が提供されてもよく、Good/Very goodである場合に、その対象は医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標が提供されてもよく、Good/Very good又はIntermediateである場合に、その対象は医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標が提供されてもよい。また、対象のIPSS-Rに基づく核型が、Very poorである場合に、その対象は医薬組成物の効果を期待できる対象ではないとの指標が提供されてもよい。
【0100】
(4)WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞の増加の有無
本発明は、別の形態において、WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞の増加の有無に基づき、がんを治療又は予防するための医薬組成物の効果を期待できる対象を選択する方法を提供する。
【0101】
本実施形態の選択方法は、医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与した対象から採取した試料を用いて、WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞を検出する工程と、
投与前の対象から採取した試料と比較して、上記WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞が増加していた場合に、対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程とを含む。対象、試料、医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩等については上述したとおりである。
【0102】
WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞の検出は、例えば、HLAモノマー法、HLAダイマー法、HLAテトラマー法(Int.J.Cancer:100,565-570(2002))、HLAペンタマー法、HLAデキストラマー法、エリスポット法、リアルタイムRT-PCR法及び限界希釈法(Nat.Med.:4,321-327(1998))によりWT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞の存在又は細胞数を測定することにより確認することができる。したがって、WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞を検出する工程は、WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞の存在又は細胞数を測定する工程であってもよい。WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞の検出は、HLAテトラマー法により測定することが好ましい。HLAテトラマーは、HLAα鎖とβ2ミクログロブリンをペプチドと会合させた複合体(HLAモノマー)をビオチン化し、蛍光標識したアビジンに結合させることにより4量体化して作製する。HLAテトラマーでWT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞を染色し、フローサイトメーターで解析することによりWT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞の存在又は細胞数を測定することができる。HLAモノマー法、HLAダイマー法、HLAペンタマー法及びHLAデキストラマー法も同様の原理に基づきWT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞の存在又は細胞数を測定することができる。
【0103】
WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞を検出する工程は、WT1ペプチドとHLA分子との複合体を上記試料と反応させ、上記試料に含まれる上記複合体を認識するWT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞の存在又は細胞数を調べることにより実施されてもよい。WT1ペプチドとHLA分子との複合体は、例えば、HLAモノマー、HLAダイマー、HLAテトラマー、HLAペンタマー及びHLAデキストラマーからなる群から選択されてもよい。ここで、HLA分子は、対象のHLAに適合していることが好ましい。HLA分子は、例えば、HLA-A24抗原又はHLA-A2抗原であってよい。WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞を検出する工程は、フローサイトメトリー法による解析を含んでいてもよい。
【0104】
また、上記試料に含まれる上記複合体を認識するWT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞の存在又は細胞数を調べることは、例えば、CD8陽性又はCD8/CD3陽性のWT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞に対するHLAテトラマー結合細胞の割合を測定することにより行われてもよい。
【0105】
HLAテトラマーに結合したWT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞の存在又は細胞数は、例えば、CD8陽性細胞、又はCD8/CD3陽性細胞に対するHLAテトラマー結合細胞の割合を測定することにより求めることができる。
【0106】
ここでCD8陽性細胞は、例えば蛍光標識したマウス抗ヒトCD8モノクローナル抗体を用いて標識・検出することができる。またCD3陽性細胞は蛍光標識したマウス抗ヒトCD3モノクローナル抗体を用いて標識・検出することができる。
【0107】
ここで用いる蛍光色素は、HLAテトラマーにおいて用いられる蛍光色素と異なるものを用いる必要がある。すなわち、PE標識したHLAテトラマーを用いる場合は、FITC標識したマウス抗ヒトCD8モノクローナル抗体、及びPerCP標識したマウス抗ヒトCD3モノクローナル抗体を用いるというように、蛍光色素を区別する必要がある。
【0108】
具体的な操作は、CD8陽性細胞に対するHLAテトラマー結合細胞の割合を測定する場合は、例えば、PE標識HLAテトラマーと生体試料とを接触させた後、FITC標識マウス抗ヒトCD8モノクローナル抗体をさらに添加して反応させ、染色された細胞をフローサイトメーターや蛍光顕微鏡で解析する。CD8陽性細胞(CD8)を選択し、その中のテトラマー陽性細胞(CD8tetramer)の割合を、WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞の割合とすることができる(以下):
WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞(%)=
(CD8tetramer細胞数/CD8細胞数)×100。
【0109】
また、CD3陽性及びCD8陽性細胞に対するHLAテトラマー結合細胞の割合を測定する場合は、例えばPE標識HLAテトラマーと生体試料とを接触させた後、FITC標識マウス抗ヒトCD8モノクローナル抗体及びPerCP標識マウス抗ヒトCD3抗体をさらに添加して反応させ、染色された細胞をフローサイトメーターや蛍光顕微鏡で解析する。CD3陽性及びCD8陽性細胞(CD3CD8)を選択し、その中のテトラマー陽性細胞(CD3CD8tetramer)の割合を、WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞の割合とすることができる(以下):
WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞(%)=
(CD3CD8tetramer細胞数/CD3CD8細胞数)×100。
【0110】
本実施形態の選択方法は、投与前の対象から採取した試料と比較して、WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞が増加していた場合に、対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程を含む。医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与する前の対象から採取した試料は、投与後の対象から採取した試料と同種である。例えば、投与前の対象から採取した試料が血液である場合には、投与後の対象から採取した試料も血液である。試料の採取のタイミングは適宜設定できるが、例えば、直近の投与後、投与直後~12ヶ月、投与直後~6ヶ月、投与直後~3ヶ月、投与直後~2ヶ月、投与直後~1ヶ月、投与直後~4週間、投与直後~3週間、投与直後~2週間、投与直後~1週間、投与直後~3日間又は投与直後~1日に採取した試料を用いることができる。また、例えば、投与直後以降及び/又は12か月以内であってよく、例えば投与後1日、3日、1週間、2週間、3週間、4週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月若しくは6ヶ月未満又は以内に採取した試料を用いることができる。また、例えば、投与後1日、3日、1週間、2週間、3週間、4週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月若しくは6ヶ月以上又は超に採取した試料を用いることができる。投与回数は特に制限されず、1回~1000回、1回~100回、1回~50回、1回~10回、1回~5回、1回~3回、1回~2回又は1回行ってもよい。投与回数は、例えば、1回以上又は1000回未満であってよく、100回、50回、10回、5回、4回、3回若しくは2回未満又は以内であってよく、100回、50回、10回、5回、4回、3回若しくは2回以上又は超であってもよい。
【0111】
WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞が増加していた場合には、投与前の対象から採取した試料におけるWT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞が検出されず、投与後の対象から採取した試料においてWT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞が検出された場合も含まれる。
【0112】
例えば、投与後の対象から採取した試料におけるCD8 T細胞中のWT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞の比率(陽性率)が、投与前の対象から採取した試料におけるCD8 T細胞中のWT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞の比率(陽性率)と比較して所定の比率以上増加していた場合に、WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞が増加していたとすることができる。また、例えば、
(a)投与前の対象から採取した試料におけるWT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞が検出されず、投与後の対象から採取した試料においてWT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞が検出され、その比率(陽性率)が基準値以上である場合、及び/又は
(b)投与後の対象から採取した試料におけるCD8 T細胞中のWT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞の比率(陽性率)が、投与前の対象から採取した試料におけるCD8 T細胞中のWT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞の比率(陽性率)と比較して、所定の比率以上である場合
に、WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞が増加していたとすることができる。
【0113】
(a)について
投与前の対象から採取した試料におけるWT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞が検出されない(存在しない)場合には、投与後の対象から採取した試料におけるWT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞の細胞数と比較した倍率を算出することができない。この場合には、例えば、予め設定した基準値以上であればWT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞が増加した(陽性)と判断することができる。例えば、当業者であれば、既に行っている試験の結果等を参考に、WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞が陽性であると判断される範囲を設定し、その範囲に含まれるWT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞の数について、WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞が増加した(陽性)と判断する基準となる値を適宜設定することができる。例えば、WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞を検出する工程が、フローサイトメトリー法による解析を含む場合、CD8が陽性且つWT1ペプチドが陽性である細胞集団が含まれるゲートを設定し、その範囲に含まれる投与後の対象から採取した試料におけるWT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞数(イベント)が基準値以上、例えば、1以上、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、15以上、又は20以上であれば、WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞が増加した(陽性)と判断することができる。
【0114】
(b)について
投与前の対象から採取した試料におけるWT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞が検出された場合には、投与後の対象から採取した試料におけるCD8 T細胞中のWT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞の比率(陽性率)が、投与前の対象から採取した試料におけるCD8 T細胞中のWT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞の比率(陽性率)と比較して、所定の比率以上である場合に、WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞が増加した(陽性)と判断することができる。例えば、当業者であれば、既に行っている試験の結果等を参考に、WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞が陽性であると判断される範囲を設定し、その範囲に含まれるWT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞の数の投与前後の比率について、WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞が増加(陽性)と判断する基準となる値を適宜設定することができる。例えば、WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞を検出する工程が、フローサイトメトリー法による解析を含む場合、CD8が陽性且つWT1テトラマーが陽性である細胞集団が含まれるゲートを設定し、その範囲に含まれる投与後の対象から採取した試料における投与後のCD8 T細胞中のWT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞比率(陽性率)が投与前と比較して維持されたとする比率以上である場合に、WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞が増加した(陽性)と判断することができる。また、維持されたとする比率以下である場合に、WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞が減少した(陰性)と判断することができる。維持されたとする比率は、例えば、0.1超~5.0倍未満、0.5超~2.0倍未満、0.8超~1.2倍未満、0.9超~1.1倍未満又は1.0倍等と設定することができる。維持されたとする比率は、例えば、0.01、0.05、0.1、0.15、0.2、0.25、0.3、0.35、0.4、0.45、0.5、0.55、0.6、0.65、0.7、0.75、0.8、0.85、0.9、0.95若しくは1.0以上又は超であってよく、5.0倍、4.5倍、4.0倍、3.5倍、3.0倍、2.5倍、2.0倍、1.8倍、1.5倍、1.4倍、1.3倍、1.2倍、1.1倍若しくは1.0倍未満又は以下であってよい。
【0115】
医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を複数回投与する場合には、例えば、各投与後のいずれかの時点でWT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞が増加した(陽性)又は変わらない(維持)と判定された場合、陽性判定又は維持判定とし、いずれの時点においてもWT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞が減少した(陰性)判定であった場合、陰性判定としてもよい。
【0116】
上述したように、WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞の増加の有無に基づき、がんを治療又は予防するための医薬組成物の候補物質の効果を評価することも可能である。すなわち、本実施形態における、がんを治療又は予防するための医薬組成物の候補物質の効果を評価する方法は、上記医薬組成物又は上記医薬組成物に含まれるペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与した対象から採取した試料を用いて、WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞を検出する工程と、
投与前の上記対象から採取した試料と比較して、上記WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞が増加していた場合に、上記候補物質はがんの治療及び予防に対して効果が期待できるとの指標を提供する工程とを含む。対象、試料、医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩等については上述したとおりである。
【0117】
(5)遅延型過敏反応の有無
本発明は、別の形態において、遅延型過敏反応の有無に基づき、がんを治療又は予防するための医薬組成物の効果を期待できる対象を選択する方法を提供する。
【0118】
本実施形態の選択方法は、医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を複数回投与した対象において、遅延型過敏反応が検出された場合に、対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程を含む。対象、試料、医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩等については上述したとおりである。
【0119】
医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与した対象に対して、同じ医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与すると、遅延型過敏反応が検出される場合がある。遅延型過敏反応(Delayed Type Hypersensitivity、DTH反応)は、Coombs-Gell分類のIV型に属する細胞性免疫機序によるアレルギー反応である。この遅延型過敏反応の有無は、WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞の免疫反応が誘導されているか否かの指標とすることができる。
【0120】
遅延型過敏反応の試験(DTH試験)は、医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を1回以上投与された対象に、同じ医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与することにより行うことができる。つまり、本実施形態の選択方法は、医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を1回以上投与した対象において、同じ医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与し、遅延型過敏反応が検出された場合に、対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供するものである。前者の1回以上の投与は、DTH試験のための投与ではなく、後者の同じ医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩の投与が、DTH試験のための投与に該当する。ここで、同じ医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩は、実質的に同じであればよく、例えば、1回以上投与された医薬組成物が2種類以上のペプチドが混合されたワクチンである場合に、DTH試験において2種類以上のペプチドを別々に投与して試験することを妨げない。例えば、1回以上投与された医薬組成物がRMFPNAPYL(配列番号:2)のアミノ酸配列からなるペプチド、C-CYTWNQMNL(配列番号:10)のアミノ酸配列からなるペプチド、及びWAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:14)のアミノ酸配列からなるペプチドを含む場合に、RMFPNAPYL(配列番号:2)のアミノ酸配列からなるペプチド及びC-CYTWNQMNL(配列番号:10)のアミノ酸配列からなるペプチドと、C-CYTWNQMNL(配列番号:10)のアミノ酸配列からなるペプチドを別々に投与することでDTH試験を行ってもよい。また、RMFPNAPYL(配列番号:2)のアミノ酸配列からなるペプチド及びC-CYTWNQMNL(配列番号:10)のアミノ酸配列からなるペプチドは、式3に示されるように、コンジュゲートの形態であってもよい。
【0121】
DTH試験において、医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩は通常皮内に投与される。対象に対して医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩が最初に投与される箇所とは、異なる箇所に投与されることが好ましい。DTH試験のための投与後の判定のタイミングは当業者が適宜設定できるが、例えば、直近の投与後1時間~1週間後、12時間~5日後、1日後~3日後又は2日後に行うことができる。また、例えば、投与直後以降及び/又は1週間以内であってよく、例えば、投与後1日、2日、3日、4日、5日若しくは6日未満又は以内であってよく、投与後1日、2日、3日、4日、5日若しくは6日以上又は超であってよい。また、DTH試験は異なるタイミングで複数回行い、結果の平均値により遅延型過敏反応の有無を判定することが好ましい。DTH試験の回数は、例えば、2回以上及び/又は20回以内であってよく、例えば、2回、3回、4回、5回、7回、10回、15回若しくは20回未満又は以内であってよく、例えば、2回、3回、4回、5回、7回、10回若しくは15回以上又は超であってもよい。当業者であれば、遅延型過敏反応を検出するために十分な医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩の投与量を適宜設定することができる。
【0122】
DTH試験における遅延型過敏反応が検出されたか否か(遅延型過敏反応の有無)の判定については、例えば、医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を1回以上投与した対象において、DTH試験のための医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与した箇所における反応と、上記対象におけるDTH試験のための上記医薬組成物又は上記ペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与していない箇所における反応を比較し、投与した箇所における反応と投与していない箇所における反応との差が基準値以上である場合に、遅延型過敏反応が検出された(遅延型過敏反応有り)とすることができる。対象における上記医薬組成物又は上記ペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与していない箇所とは、投与する医薬組成物又は上記ペプチド若しくはその薬学上許容される塩によって、全く何も投与していない箇所であってもよく、医薬組成物におけるペプチド若しくはその薬学上許容される塩以外の担体及び溶媒等のみ(ビークル)を投与した箇所であってもよい。
【0123】
また、投与箇所と投与していない箇所の反応の差は、例えば、投与箇所と投与していない箇所(対照)との発赤長径の差から導き出すことができる。当業者であれば、WT1抗原ペプチド特異的免疫反応が陽性であると判定する基準値を適宜設定することができるが、例えば、投与していない箇所に対する投与箇所の皮膚における発赤長径が+0.1mm~100mm間の値以上である場合に、遅延型過敏反応が検出されたとしてもよく、+0.5mm~50mm間の値以上である場合に、遅延型過敏反応が検出されたとしてもよく、+1mm~10mm間の値以上である場合に、遅延型過敏反応が検出されたとしてもよく、2mm以上である場合に、遅延型過敏反応が検出されたとしてもよい。それ以上であると遅延型過敏反応が検出されたとする上記発赤長径の範囲の下限値が0.1mm、0.2mm、0.3mm、0.4mm、0.5mm、0.6mm、0.7mm、0.8mm、0.9mm、1.0mmであってよく、上限値が、100mm、90mm、80mm、70mm、60mm、50mm、40mm、30mm、20mm、15mm、10mmであってよい。投与していない箇所に対する投与箇所の皮膚における発赤長径に対応するスコアを予め設定しておき、スコアにより遅延型過敏反応の有無を判定することもできる。例えば、発赤長径が2mm未満をスコア0、2mm以上5mm未満をスコア+/-、5mm以上10mm未満をスコア1、10mm以上15mm未満をスコア2、15mm以上をスコア3と設定することもできる。上記判定には、複数回投与後の対象におけるスコアの平均を用いてもよく、投与後の対象における最大のスコアを用いてもよい。
【0124】
上述したように、遅延型過敏反応の有無に基づき、がんを治療又は予防するための医薬組成物の候補物質の効果を評価することも可能である。すなわち、本実施形態における、がんを治療又は予防するための医薬組成物の候補物質の効果を評価する方法は、医薬組成物又は上記医薬組成物に含まれるペプチド若しくはその薬学上許容される塩を複数回投与した対象において、遅延型過敏反応が検出された場合に、医薬組成物の候補物質はがんの治療及び予防に対して効果が期待できるとの指標を提供する工程を含む。
【0125】
上記医薬組成物又は上記医薬組成物に含まれるペプチド若しくはその薬学上許容される塩を複数回投与した対象において、遅延型過敏反応が検出された場合に、上記候補物質はがんの治療及び予防に対して効果が期待できるとの指標を提供する工程を含む。対象、試料、医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩等については上述したとおりである。
【0126】
(6)骨髄芽球の割合の変化
本実施形態の選択方法は、医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与した対象から採取された試料における骨髄芽球の割合を、上記医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与する前の対象から採取された試料における骨髄芽球の割合で除した値が、基準値未満又は以下であった場合に、上記対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程を含む。対象、試料、医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩等については上述したとおりである。
【0127】
骨髄液等の試料における骨髄芽球の割合の、医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩の投与前後の変化が、小さいほど骨髄芽球が安定化しているといえる。例えば、医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩の投与後の対象における骨髄芽球の割合を、医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩の投与前の対象における骨髄芽球の割合で除した割合(以下、骨髄芽球の変化率ともいう)が、0%~300%以下、0%~200%以下、0%~150%以下、0%~100%以下、0%~50%以下であった場合に、対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供するとしてもよい。ここで、骨髄芽球の変化率は、例えば、0%以上若しくは300%未満又は以下であってよく、例えば、50%、100%、150%、200%若しくは250%以上又は超であってもよく、50%、100%、150%、200%若しくは250%未満又は以下であってもよい。
【0128】
また、例えば、1時点から数時点の骨髄芽球の変化率の平均に基づき、上記基準値未満又は以下であると判断してもよく、又は1時点から数時点の骨髄芽球の変化率の最大値に基づき、上記基準値未満又は以下であると判断してもよく、例えば、上記基準値未満又は以下で2時点以上推移した場合に、上記基準値未満又は以下であると判断してもよい。上記時点は、医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩の投与後の骨髄芽球の割合の測定タイミングを意味する。骨髄芽球の割合の測定タイミングは、例えば、1日~365日毎、1日~180日毎、1日~90日毎、1日~60日毎、1日~30日毎、1日~4週毎であってもよい。測定タイミングは、例えば、1日毎以上又は365日未満であってよく、180日、90日、60日、30日、4週間、3週間、2週間、1週間、3日若しくは1日毎以上又は超であってもよく、180日、90日、60日、30日、4週間、3週間、2週間、1週間若しくは3日未満又は以下であってもよい。また、例えば、治療後100日までの骨髄芽球の変化率が、150%以下において2時点以上推移した場合に、骨髄芽球の変化率が150%以下であると判断することができる。
【0129】
(7)性差
本実施形態の選択方法は、上記(1)~(6)からなる群から選択される1又は2以上の組合せに基づき、効果が期待できる対象であるとの指標を提供することができるが、対象の性別が雄(対象がヒトである場合には男性)である場合には、対象は上記医薬組成物の効果を期待できる対象であるとの指標を提供する工程をさらに含んでもよい。
【0130】
(がんの治療又は予防方法)
本実施形態のがんの治療又は予防方法は、上述した選択方法により、がんを治療又は予防するための医薬組成物の効果を期待できる対象を選択する工程と、
選択された対象に対して医薬組成物を投与する工程とを含む。
【0131】
本実施形態のがんの治療又は予防方法は、上述した(1)~(6)からなる群から選択される1又は2以上の組合せに基づく選択方法により、がんを治療又は予防するための医薬組成物を投与する対象を決定し、当該医薬組成物を投与することを含む。また、本実施形態のがんの治療又は予防方法は、上述した(1)~(6)からなる群から選択される1又は2以上の組合せに基づく選択方法により、対象にがんを治療又は予防するための医薬組成物を投与するか否かを決定し、対象に当該医薬組成物を投与することを含む。したがって、本実施形態のがんの治療又は予防方法は、例えば、(1)にて上述したように、TP53遺伝子及び/又はBCOR遺伝子における変異の有無を決定し、TP53野生型及び/又はBCOR野生型の対象に対してがんを治療又は予防するための医薬組成物を投与することを含む。本実施形態のがんの治療又は予防方法は、例えば、(2)にて上述したように、WT1遺伝子のmRNA発現量を決定し、WT1遺伝子のmRNA発現量が基準値未満又は以下であった対象に対して、がんを治療又は予防するための医薬組成物を投与することを含む。本実施形態のがんの治療又は予防方法は、例えば、(3)にて上述したように、IPSS-Rに基づく核型がVery poor以外である対象に対して、がんを治療又は予防するための医薬組成物を投与することを含む。本実施形態のがんの治療又は予防方法は、例えば、(4)にて上述したように、医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与した対象から採取した試料を用いて、WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞を検出し、投与前の対象から採取した試料と比較して、上記WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞が増加していた対象に対して、当該医薬組成物を投与することを含む。本実施形態のがんの治療又は予防方法は、例えば、(5)にて上述したように、医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を複数回投与したことにより、遅延型過敏反応が検出された対象に対して、当該医薬組成物を投与することを含む。本実施形態のがんの治療又は予防方法は、例えば、(6)にて上述したように、医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与した後の骨髄芽球の割合を、上記医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与する前の骨髄芽球の割合で除した値が、基準値未満又は以下であった対象に対して、当該医薬組成物を投与することを含む。
【0132】
本実施形態のがんの治療又は予防方法における、製剤中の本実施形態の医薬組成物の投与量は、治療目的の疾患、患者の年齢、体重などにより適宜調整することができるが、0.0001mg~1000mgであってよく、0.001mg~1000mgであってよく、0.1mg~10mgであってよい。例えば、1回の投与量は、1.75mg~17.5mg、3.5mg~10.5mg又は10.5mgであってよい。また、1回の投与量は、0.0001mg以上、0.0005mg以上、0.001mg以上、0.005mg以上、0.01mg以上、0.05mg以上、0.1mg以上、0.25mg以上、0.5mg以上、0.75mg以上、1.0mg以上、1.25mg以上、1.5mg以上、1.75mg以上、2.0mg以上、2.25mg以上、2.5mg以上、2.75mg以上、3.0mg以上、3.25mg以上、3.5mg以上、3.75mg以上、4.0mg以上、4.25mg以上、5.5mg以上、5.75mg以上、6.0mg以上であってよく、1000mg以下、750mg以下、500mg以下、250mg以下、125mg以下、100mg以下、50mg以下、mg以下、40mg以下、35mg以下、30mg以下、25mg以下、20mg以下、15mg以下、10mg以下であってよい。
【0133】
投与方法としては、皮内投与、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与、経皮投与などが挙げられる。CTLを効率良く誘導する皮内投与及び皮下投与が好ましい。投与回数及び投与間隔は、治療又は予防目的の疾患、患者の個体差により適宜調整することができるが、通常複数回であり、数日~数月に1回投与するのが好ましい。例えば、1日間~6ヶ月毎に1回投与してもよく、3日間~3ヶ月毎に1回投与してもよく、1週間~4週間毎に1回投与してもよく、2週間~4週間に1回投与してもよく、6週間、5週間、4週間、3週間、2週間又は1週間毎に1回投与してもよい。また、最小で1日間、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月毎、最大で12ヶ月、10ヶ月、8ヶ月、6ヶ月、5ヶ月、4ヶ月、3ヶ月、2ヶ月、1ヶ月、6週間、5週間、4週間、3週間、2週間、1週間、6日間又は5日間毎に1回投与してもよい。
【0134】
上記投与のタイミングは、所定の期間が経過後、例えば、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月、4ヶ月、5ヶ月、6ヶ月、7ヶ月、8ヶ月、9ヶ月、10ヶ月、11ヶ月又は12ヶ月経過後に変更することも可能である。例えば、最初の6ヶ月間は、2週間毎に1回投与し、1ヶ月以降5ヶ月までは2週間毎に1回投与し、6ヶ月以降は、2週間~4週間毎に1回投与するとすることもできる。例えば、最初の6ヶ月は2週間毎に投与し、その後は2週間~4週間毎に投与するとすることもできる。
【0135】
本実施形態は、がんの治療又は予防方法に使用するための医薬組成物も含む。医薬組成物、がんの治療又は予防方法等については、上述したとおりである。
【0136】
本実施形態には、がんを治療又は予防するための医薬組成物を投与する対象を決定する方法も含まれる。対象は、上述した(1)~(6)からなる群から選択される1又は2以上の組合せに基づき決定することができる。上記方法は、例えば、(1)にて上述したように、TP53遺伝子及び/又はBCOR遺伝子における変異の有無を決定し、TP53野生型及び/又はBCOR野生型の対象を、がんを治療又は予防するための医薬組成物を投与する対象に決定することを含む。また、上記方法は、例えば、(2)にて上述したように、WT1遺伝子のmRNA発現量を決定し、WT1遺伝子のmRNA発現量が基準値未満又は以下であった対象を、がんを治療又は予防するための医薬組成物を投与する対象に決定することを含む。また、上記方法は、例えば、(3)にて上述したように、IPSS-Rに基づく核型がVery poor以外である対象を、がんを治療又は予防するための医薬組成物を投与する対象に決定することを含む。また、上記方法は、例えば、(4)にて上述したように、医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与した対象から採取した試料を用いて、WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞を検出し、投与前の対象から採取した試料と比較して、上記WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞が増加していた対象を、当該医薬組成物を投与する対象に決定することを含む。また、上記方法は、例えば、(5)にて上述したように、医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を複数回投与したことにより、遅延型過敏反応が検出された対象を、当該医薬組成物を投与する対象に決定することを含む。また、上記方法は、例えば、(6)にて上述したように、医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与した後の骨髄芽球の割合を、上記医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与する前の骨髄芽球の割合で除した値が、基準値未満又は以下であった対象を、当該医薬組成物を投与する対象に決定することを含む。
【0137】
本実施形態には、がんを治療又は予防するための医薬組成物を投与するか否かを決定する方法も含まれる。がんを治療又は予防するための医薬組成物を投与するか否かは、上述した(1)~(6)からなる群から選択される1又は2以上の組合せに基づき決定することができる。上記方法は、例えば、(1)にて上述したように、対象から採取した試料を用いてTP53遺伝子及び/又はBCOR遺伝子における変異の有無を決定し、TP53野生型及びBCOR野生型の場合には、がんを治療又は予防するための医薬組成物を対象に投与し、TP53変異型及び/又はBCOR変異型の場合には、がんを治療又は予防するための医薬組成物を対象に投与しないことを決定することを含む。また、上記方法は、例えば、(2)にて上述したように、対象から採取した試料におけるWT1遺伝子のmRNA発現量を決定し、WT1遺伝子のmRNA発現量が基準値未満又は以下であった場合には、がんを治療又は予防するための医薬組成物を対象に投与し、WT1遺伝子のmRNA発現量が基準値以上又は基準値超であった場合には、がんを治療又は予防するための医薬組成物を対象に投与しないことを決定することを含む。また、上記方法は、例えば、(3)にて上述したように、対象のIPSS-Rに基づく核型がVery poor以外である場合には、がんを治療又は予防するための医薬組成物を対象に投与し、対象のIPSS-Rに基づく核型がVery poorである場合には、がんを治療又は予防するための医薬組成物を対象に投与しないことを決定することを含む。また、上記方法は、例えば、(4)にて上述したように、医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与した対象から採取した試料を用いて、WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞を検出し、投与前の対象から採取した試料と比較して、上記WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞が増加していた場合には、当該医薬組成物を対象に投与し、上記WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞が維持又は減少していた場合には、当該医薬組成物を対象に投与しないことを決定することを含む。また、上記方法は、例えば、(5)にて上述したように、医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を複数回投与したことにより、対象において遅延型過敏反応が検出された場合には、当該医薬組成物を対象に投与し、対象において遅延型過敏反応が検出されない場合には、当該医薬組成物を対象に投与しないことを決定することを含む。また、上記方法は、例えば、(6)にて上述したように、医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与した後の骨髄芽球の割合を、上記医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与する前の骨髄芽球の割合で除した値が、基準値未満又は以下であった場合に、当該医薬組成物を対象に投与し、基準値以上又は基準値超であった場合には、当該医薬組成物を対象に投与しないことを決定することを含む。
【0138】
本実施形態には、がんを治療又は予防するための医薬組成物を投与すべき対象をスクリーニングする方法も含まれる。上記スクリーニングは、上述した(1)~(6)からなる群から選択される1又は2以上の組合せに基づき実施することができる。上記方法は、例えば、(1)にて上述したように、TP53遺伝子及び/又はBCOR遺伝子における変異の有無を決定し、TP53野生型及び/又はBCOR野生型の対象を選択することを含む。また、上記方法は、例えば、(2)にて上述したように、WT1遺伝子のmRNA発現量を決定し、WT1遺伝子のmRNA発現量が基準値未満又は以下であった対象を選択することを含む。また、上記方法は、例えば、(3)にて上述したように、IPSS-Rに基づく核型がVery poor以外である対象を選択することを含む。また、上記方法は、例えば、(4)にて上述したように、医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与した対象から採取した試料を用いて、WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞を検出し、投与前の対象から採取した試料と比較して、上記WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞が増加していた対象を選択することを含む。また、上記方法は、例えば、(5)にて上述したように、医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を複数回投与したことにより、遅延型過敏反応が検出された対象を選択することを含む。また、上記方法は、例えば、(6)にて上述したように、医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与した後の骨髄芽球の割合を、上記医薬組成物又はペプチド若しくはその薬学上許容される塩を投与する前の骨髄芽球の割合で除した値が、基準値未満又は以下であった対象を選択することを含む。
【実施例
【0139】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は何らこれらに限定されるも
のではない。
【0140】
〔実施例1:本実施例における対象及びWT1ペプチドカクテルワクチンの効果〕
以下の実施例は特に言及しない限り原則として、インフォームドコンセントを取得した再発・難治性骨髄異形成症候群(MDS)患者のうち、下記の式(3)に示されるWT1キラーペプチドコンジュゲート及びWAPVLDFAPPGASAYGSL(配列番号:14)で表されるWT1ヘルパーペプチドを含むW/Oエマルション形態のカクテルワクチン(国際公開2014/157692号参照。以下、WT1ペプチドカクテルワクチンともいう)の第1及び2相臨床試験に参加した患者数は47症例であり、そのHLA型に関する内訳は、HLA-A02:01又はHLA-A02:06陽性の骨髄異形成症候群(MDS)患者12症例、HLA-A24:02陽性のMDS患者28症例、HLA-A02:01陽性かつHLA-A24:02陽性のMDS患者5症例、HLA-A02:06陽性かつHLA-A24:02陽性のMDS患者2症例である。また、第1相試験における症例は、高リスク患者(H)7症例に加え、低リスク患者(L)5症例を含んでおり、第2相試験における症例は高リスク患者(H)35症例である、本実施例では高リスク患者のみを対象とし、アザシチジン無効高リスク患者42症例(第1相試験の7症例と第2相試験の35症例の合計)を対象として行った。なお、上記高リスク患者は、改訂IPSS(IPSS-R)におけるリスク分類において、Intermediate~Very highの患者に該当する。アザシチジン無効高リスク患者42症例には、アザシチジンが奏功しないか又は奏功しなくなった患者40症例、アザシチジンの副作用により、投与が継続できなかった症例2症例が含まれる。
【化26】

(式中、CとCの間の結合はジスルフィド結合を表す。)で表される
【0141】
第1及び2相臨床試験においては、ワクチン誘導として、6ヶ月間、2週間毎に上記WT1ペプチドカクテルワクチンを皮内投与(ID)し、その後は投与を中止するまで2週間~4週間毎の投与を継続した。第1相試験では、コホート1は投与量を3.5mg(WT1キラーペプチドコンジュゲート2mg+WT1ヘルパーペプチド1.5mg)、コホート2は投与量を10.5mg(WT1キラーペプチドコンジュゲート6mg+WT1ヘルパーペプチド4.5mg)として行った。第2相試験では、推奨投与量10.5mg(WT1キラーペプチドコンジュゲート6mg+WT1ヘルパーペプチド4.5mg)により行った。
【0142】
本試験における生存期間中央値(mOS)は、8.6ヶ月(90%信頼区間6.8-11.1ヶ月)であり、ヒストリカルデータ(95%信頼区間5.0-7.2ヶ月、Prebet et al., Journal of Clinical Oncology 29, no.24, p3322-3327(2011))の5.6ヶ月と比較して延長傾向にあることが分かった。
【0143】
〔実施例2:WT1ペプチドワクチンの効果及び核型の影響〕
実施例1におけるWT1ペプチドカクテルワクチンの試験結果と、リゴサチブのONTIME試験(第3相臨床試験、Garcia-Manero et al., The Lancet Oncology 17, no.4, p496-508 (2016)のTable S1 “MDS cytogenetic prognosis”)における対照(リゴサチブ試験のBSC)との比較を行った結果を図1に示す。なお、リゴサチブの第3相試験における患者集団との違いを考慮し、アザシチジンの副作用による無効症例2症例及び芽球数<5%以下のハイリスク症例6症例、及び核型不明の1症例を、実施例1の42症例から除いた33症例で比較を実施している。
【0144】
核型別のmOSは、核型Very poorを除くGood/Very good~Poor群では、リゴサチブ試験のBSCと比較して長い傾向にあり、mOSの延長がWT1ペプチドカクテルワクチンの効果によるものである可能性が示唆された。核型Very poor群では、WT1ペプチドカクテルワクチン投与群のmOSはリゴサチブ試験のBSCと同等であった。
【0145】
〔実施例3:WT1ペプチドワクチンによる治療の効果が期待できる患者を選択するための遺伝子バイオマーカーの探索〕
実施例1に記載の高リスク症例42症例のうち、インフォームドコンセントを取得した29症例について骨髄異形性症候群(MDS)に関連する遺伝子検査を実施した。29症例中、アザシチジンの副作用による無効症例である1症例を除く28症例を続く遺伝子解析に用いた。WT1ペプチドカクテルワクチンの投与開始前28日以内に、患者から骨髄液を採取した。
【0146】
骨髄液からのDNA抽出及び検体の品質評価
骨髄液0.5mLのサンプルから、Wizard Genomic DNA purification Kit(プロメガ株式会社)を用いて、本キット付属のプロトコル(3A Isolating Genomic DNA from whole blood)に従って、DNAの抽出を行った。
【0147】
抽出したDNAの品質評価として、アガロースゲル電気泳動により、高分子領域に明確なバンドが検出できるかを確認した。また、Quant-iT PicoGreen dsDNA Assay Kit(Life Technologies社)を用いてプレートリーダーで蛍光強度を測定し、検量線から濃度を算出した。
【0148】
次世代シーケンス法(NGS)によるアッセイ
急性骨髄性白血病(AML)、骨髄異形性症候群(MDS)、骨髄増殖性腫瘍(MPN)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性骨髄単球性白血病(CMML)、及び若年性骨髄単球性白血病(JMML)等の骨髄性悪性腫瘍に関連した変異をターゲットとしたTruSight Myeloid Sequencing Panel(イルミナ株式会社)を用いて、次世代シーケンス法(NGS)によりアッセイを行った。骨髄液より抽出したゲノムDNAに対して、TruSight Myeloid Sequencing Panelが対象とする配列を解析した。上記パネルを用いて測定対象領域を増幅しライブラリを作製した後、AgilentDNA1000 Kit(アジレントテクノロジーズ社)を用いた電気泳動分析で鎖長分布を確認し、リアルタイムPCR装置(アプライドバイオシステム社)を用いて定量を行った。定量結果をライブラリ平均サイズで補正し、ライブラリ濃度を算出した。MiSeq(イルミナ社)で塩基配列を決定した。上記パネルは、以下の表1に示された40遺伝子が網羅されている。
【0149】
【表1】
【0150】
バイオインフォマティクス解析
上記MiSeq(イルミナ株式会社)にて決定した塩基配列を、MiSeq Reporter(イルミナ株式会社)を用いたバイオインフォマティクス解析によって遺伝子変異を解析した。
【0151】
結果
遺伝子変異解析の結果を表2に示す。表中の太横線はmOSを表す線であり、上から下へ行くほど生存期間(OS)が長くなる順番になっている。なお、IPSS-R核型がGood/Very good又はIntermediateである患者のIPSS-R核型の記載は省略している。
【0152】
【表2】
【0153】
TP53変異型又はBCOR変異型の症例は、OSが短い傾向にあることが分かった。これにより、TP53及びBCOR遺伝子における変異の有無が、WT1ペプチドワクチンによる治療の効果が期待できる患者を選択するための遺伝子マーカーとして有用である可能性が示唆された。また、OSの短い集団に核型Very poorの症例が多い傾向が見られた。
【0154】
〔実施例4:TP53/BCOR遺伝子変異の遺伝子マーカーとしての有用性〕
TP53及びBCOR遺伝子における変異の有無の遺伝子マーカーとしての有用性を検証するため、上記変異の有無による生存曲線の比較を行った。
【0155】
実施例1に記載の患者を、TP53野生型及びBCOR野生型である患者17症例、TP53変異型又はBCOR変異型である患者11症例に分け、生存曲線を比較した。図2に示されるように、TP53野生型及びBCOR野生型の全生存期間中央値(mOS)は、TP53又はBCOR変異型のmOSと比較して長い傾向にあった。
【0156】
さらに、TP53野生型及びBCOR野生型17症例、TP53変異型又はBCOR変異型11症例について、後述するHLAテトラマーアッセイ及び遅延型過敏反応により、WT1ペプチドカクテルワクチンによって誘導されるWT1抗原ペプチド特異的免疫反応を確認した。TP53野生型及びBCOR野生型、又はTP53変異型若しくはBCOR変異型について、生存期間(OS)及び免疫反応を比較した結果を図3に示す。なお、図3に示される結果は、免疫反応の判定が不能であった4症例を除く、TP53野生型及びBCOR野生型15症例、TP53変異型又はBCOR変異型9症例に関するものである。
【0157】
TP53野生型及びBCOR野生型については、全生存期間が長い傾向にあることが示された。また、TP53野生型及びBCOR野生型は、免疫反応が陽性である症例が多く見受けられた(14症例/15症例)。一方、TP53変異型又はBCOR変異型は、免疫反応の陽性・陰性にかかわらず、全生存期間が短い傾向にあることが示された。
【0158】
これにより、TP53及びBCOR遺伝子における変異の有無が、WT1ペプチドワクチンによる治療の効果が期待できる患者を選択するための遺伝子マーカーとして有用であることが示された。
【0159】
〔実施例5:WT1 mRNAの遺伝子マーカーとしての有用性 1〕
実施例1のアザシチジン無効高リスク患者42症例のうち、アザシチジンの副作用による無効症例である2症例を除く40症例について、WT1 mRNAの発現を確認した。
【0160】
末梢血からのDNA抽出及び検体の品質評価
WT1ペプチドカクテルワクチンの投与開始前28日以内に、患者から末梢血及び骨髄液を採取した。全血7mL又は骨髄液0.5mLより、RNA全自動精製装置QIAcube(Qiagen社)を用いてRNAの抽出及び精製を行った。QIAcubeユーザーマニュアルに従い、RNeasy mini Kit(Qiagen社)の試薬やチューブ等、及びサンプルをセットした。QIAcubeに保存されている、QIAcube Standard ProgramからRNeasy-Mini- programを選択し、RNAを抽出した。
【0161】
WT1 mRNAの発現解析
WT1 mRNAの発現解析は、WT1 mRNA測定キットII「オーツカ」(大塚製薬株式会社)を用いて行った。以下、特に言及しないかぎり試薬は上記キット付属のものを使用した。
【0162】
RNase free水を添加することにより抽出したRNAの濃度を50ng/μLに調整した。WT1・GAPDH混合RNA標準液を標準液1、標準液1を標準液希釈液で10倍希釈したものを標準液2、同様に10倍希釈を繰り返し、標準液5まで調製した。1反応あたり、RT-PCR用ミックス液(R1)10μL及び金属イオン溶液5μLの割合で混和したものを反応液とした。リアルタイムPCR装置(アプライドバイオシステムズ 7500 Fast Dx、アプライドバイオシステムズ社)を使用し、上記キットに付属のプロトコルの「3.測定操作」に従ってRT-PCR反応を行った。標準液1~5より作成した標準曲線を用いて、サンプルのWT1 mRNA及びGSDPH mRNAの測定値を算出した。
【0163】
上記キットに付属のプロトコルの「4.WT1 mRNA発現量の算出方法」に従って、以下のようにWT1 mRNA発現量を算出した。
具体的には以下の式に示すように、WT1 mRNA測定値をGAPDH mRNA測定値で除した値(GAPDH mRNA 1コピーあたりのWT1 mRNAコピー数)に、健康成人の1μg RNAあたりの平均GAPDH mRNAコピー数(GAPDH mRNA発現量)を乗じてWT1 mRNA発現量を算出した。なお、2.7×10(コピー/μg RNA)は、健康成人の1μg RNAあたりの平均GAPDH mRNA測定値である。
【数3】
【0164】
結果(1)
WT1 mRNAの発現解析の結果を図4に示す。40症例中全症例において末梢血中にWT1 mRNAの発現が認められた。WT1 mRNA発現量が10000コピー/μg RNA未満である症例のmOSは、WT1 mRNA発現量が10000コピー/μg RNA以上である症例のmOSと比較して長い傾向にあった。
【0165】
さらに、WT1 mRNA発現量が10000コピー/μg RNA未満である27症例、WT1 mRNA発現量が10000コピー/μg RNA以上である13症例について、後述するHLAテトラマーアッセイ及び遅延型過敏反応によりWT1抗原ペプチド特異的免疫反応を確認した。WT1 mRNAの発現量について、生存期間(OS)及びWT1抗原ペプチド特異的免疫反応を比較した結果を図5に示す。なお、図5に示される結果は、WT1抗原ペプチド特異的免疫反応の判定が不能であった4症例を除く、WT1 mRNA発現量が10000コピー/μg RNA未満である25症例、WT1 mRNA発現量が10000コピー/μg RNA以上である11症例に関するものである。
【0166】
WT1 mRNA発現量が10000コピー/μg RNA未満である症例群については、WT1抗原ペプチド特異的免疫反応が認められた症例のOSが長い傾向にあることが示された。一方、WT1 mRNA発現量が10000コピー/μg RNA以上である症例群は、WT1抗原ペプチド特異的免疫反応の陽性と陰性によるOSに差は見られなかった。また、末梢血中のWT1 mRNA発現量と骨髄液中のWT1 mRNA発現量が相関関係にあり、骨髄液中でも同様の傾向が見られることも確認した(図16)。
【0167】
結果(2)
WT1 mRNAの発現解析の結果を図6に示す。40症例中全症例において末梢血中にWT1 mRNAの発現が認められた。WT1 mRNA発現量が4000コピー/μg RNA未満である症例のmOSは、WT1 mRNA発現量が4000コピー/μg RNA以上である症例のmOSと比較して長い傾向にあった。
【0168】
さらに、WT1 mRNA発現量が4000コピー/μg RNA未満である22症例、WT1 mRNA発現量が4000コピー/μg RNA以上である18症例について、後述するHLAテトラマーアッセイ及び遅延型過敏反応によりWT1抗原ペプチド特異的免疫反応を確認した。WT1 mRNAの発現量について、生存期間(OS)及びWT1抗原ペプチド特異的免疫反応を比較した結果を図7に示す。なお、図7に示される結果は、WT1抗原ペプチド特異的免疫反応の判定が不能であった4症例を除く、WT1 mRNA発現量が4000コピー/μg RNA未満である21症例、WT1 mRNA発現量が4000コピー/μg RNA以上である15症例に関するものである。
【0169】
WT1 mRNA発現量が4000コピー/μg RNA未満である症例群については、WT1抗原ペプチド特異的免疫反応が認められた症例のOSが長い傾向にあることが示された。一方、WT1 mRNA発現量が4000コピー/μg RNA以上である症例群は、WT1抗原ペプチド特異的免疫反応の陽性・陰性によるOSに差は見られなかった。また、末梢血中のWT1 mRNA発現量と骨髄液中のWT1 mRNA発現量が相関関係にあり、骨髄液中でも同様の傾向が見られることも確認した(図16)。
【0170】
これにより、WT1 mRNAの発現量が、WT1ペプチドワクチンによる治療の効果が期待できる患者を選択するための遺伝子マーカーとして有用であることが示された。また、上記マーカーの基準値として、10000コピー/μg RNA及び4000コピー/μg RNAの両方が有用であることが示された。
【0171】
〔実施例6:HLAテトラマーアッセイによるWT1抗原ペプチド特異的免疫反応の検出〕
WT1ペプチドカクテルワクチンの投与前後に患者から採取した血液について、テトラマー試薬を用いてフローサイトメトリー法により、リンパ球中又はCD8陽性リンパ球中のWT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞比率の測定を実施した。
【0172】
投与及び採血
実施例1のアザシチジン無効高リスク患者42症例について検査を実施した。HLA型に関する42症例の内訳は、HLA-A02:01あるいはHLA-A02:06陽性の骨髄異形成症候群(MDS)患者10症例、HLA-A24:02陽性のMDS患者25症例、HLA-A02:01陽性かつHLA-A24:02陽性のMDS患者5症例、HLA-A02:06陽性かつHLA-A24:02陽性のMDS患者2症例である。患者からの末梢血の採取及びアッセイは、医薬組成物の投与開始前28日以内、2回目投与後15日目、6回目投与後15日目、12回目投与後15日目、18回目投与後15日目、以降6回投与毎に投与後15日目、最終投与後28日以内に行った。投与は一回につきWT1ペプチドカクテルワクチン1.75mg、3.5mg又は10.5mgを患者に皮内投与した。
【0173】
HLAテトラマー試薬
WT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞はHLA拘束性があるため、患者のHLAに適合したテトラマー試薬を用いて測定を行った。HLA-A24:02陽性の患者用として、WT1タンパク質のCYTWNQMNLから成るペプチド(配列番号:4)を用いて作製された蛍光色素Phycoerythrin(PE)標識HLA-A24:02のテトラマー(T-Select HLA-A24:02 WT1(mutant)Tetramer-CYTWNQMNL PE標識、株式会社医学生物学研究所)を用いた。以下、本試薬を「PE標識WT1 2402」とも表す。
【0174】
HLA-A02:01又はHLA-A02:06陽性の患者用として、WT1タンパク質のRMFPNAPYLから成るペプチド(配列番号:2)を用いて作製された蛍光色素アロフィコシアニン(APC)標識HLA-A02:01のテトラマー(T-Select HLA-A02:01 WT1126-134 Tetramer-RMFPNAPYL-APC、株式会社医学生物学研究所、HLA-A02:01及びHLA-A02:06の両方を検出可能)及びWT1タンパク質のVLDFAPPGAから成るペプチド(配列番号:9)を蛍光色素Phycoerythrin(PE)で標識したHLA-A02:01のテトラマー(HLA-A02:01 Tetramer-VLDFAPPGA-PE、株式会社医学生物学研究所に委託製造、HLA-A02:01及びHLA-A02:06の両方を検出可能)を用いた。以下、前者の試薬を「APC標識WT1 0201」、後者の試薬を「PE標識WT1 0201」とも表す。テトラマー試薬は使用前にマイクロチューブに入れ、室温にて1620×gで5分間遠心し上清を使用した。
【0175】
染色
HLA-A24:02を持つ患者対象の染色は以下のように行った。
サンプル用チューブに採取した血液を2.5mL及びコントロール用チューブに残りの血液を分注した。サンプル用チューブにPE標識WT1 2402を5μL添加した。暗所・室温で10分反応させた後、サンプル用チューブにFITC標識CD8(サイトスタット/コールタークローンT8-FITC、ベックマン・コールター株式会社)を15μL、7-AAD(7-AAD Staining Solution、日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)、PC5標識CD4(IO Test CD4-PC5、ベックマン・コールター株式会社)、PC5標識CD19(IO Test CD19-PC5、ベックマン・コールター株式会社)を各12.5μLずつ添加し撹拌した。室温で15分反応させた後、Lysing solution調製液(BD FACSTM Lysing solution(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)を精製水で10倍希釈したもの)を26mLずつ添加した後、攪拌し、室温で10分静置後、300×gで5分遠心した。アスピレーターで上清を吸引除去し、攪拌後30mLのアジ化PBS(1%アジ化ナトリウム含有PBS)を各チューブに分注して、300×gで5分遠心した。アスピレーターで上清を吸引除去後、300μLのCellFix調製液(BD FACS Cell Fix、日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)に再浮遊させ、測定用チューブに移し替えた。
【0176】
HLA-A02:01又はHLA-A02:06を持つ患者対象の染色は以下のように行った。
サンプル用チューブに採取した血液を2.5mL及びコントロール用チューブに残りの血液を分注した。サンプル用チューブにAPC標識WT1 0201とPE標識WT1 0201を5μLずつ添加した。暗所・室温で10分反応させた後、サンプル用チューブFITC標識CD8を15μL、7-AAD、APC-H7標識CD3(CD3 APC-H7標識、日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)、Pacific Blue標識CD4(IOTest CD4-Pacific Blue、ベックマン・コールター株式会社)、PE-Cy7標識CD19(IOTest CD19-PC7、ベックマン・コールター株式会社)を各12.5μLずつ添加し撹拌した。室温で15分反応させた後、Lysing solution調製液を26mLずつ添加した後、よく攪拌した。室温で10分静置後、300×gで5分遠心した。アスピレーターで上清を吸引除去し、攪拌後30mLのアジ化PBSを各チューブに分注して、300×gで5分遠心した。アスピレーターで上清を吸引除去後、300μLのCellFix調製液に再浮遊させ、測定用チューブに移し替えた。
【0177】
HLA-A24:02及び、HLA-A02:01又はHLA-A02:06の両方を持つ患者対象の染色は、HLA-A24:02を持つ患者対象の染色及びHLA-A02:01あるいはHLA-A02:06を持つ患者対象の染色の両方の操作により行った。
【0178】
フローサイトメトリー解析
フローサイトメトリー法により、リンパ球中又はCD8陽性リンパ球中のWT1抗原ペプチド特異的CD8 T細胞比率の測定を実施した。
【0179】
上記で作成したサンプルをフローサイトメーターFACS CantoII(BD biosciences社)で測定した。フローサイトメーターでは細胞の特性(大きさ及び内部構造)に応じた強度の散乱光(大きさを反映した前方散乱光(FSC)及び内部構造を反映した側方散乱光(SSC))、並びに結合した標識抗体量に依存した蛍光が発生する。サンプル中の個々の細胞について、これらのパラメータの強度を測定した。得られたパラメータの強度を基に個々の細胞の分布をグラフ化することにより、特定のポピュレーションを算出することができる。細胞の大きさと内部構造からリンパ球に相当し、かつ抗CD4抗体・抗CD19抗体・7-AAD staining solutionが陰性、さらに抗CD8抗体のみ陽性(HLA-A02:01あるいはHLA-A02:06を持つ患者対象)あるいは抗CD3抗体・抗CD8抗体が両方とも陽性(HLA-A02:01/06を持つ患者対象)となるリンパ球分画を抽出して、当該分画でのテトラマー陽性/リンパ球分画又はテトラマー陽性/CD8陽性細胞分画を評価した。FITC標識CD8陽性且つPE標識WT1 2402陽性細胞集団のゲートは、y軸の10を目安に設定した(ゲートCD8(+)tet(+))。FITC標識CD8陽性且つPE標識WT1 0201陽性細胞集団のゲートは、y軸の3x10を目安に設定した(ゲートCD8(+)tet(+))。FITC標識CD8陽性且つAPC標識WT1 0201陽性細胞集団のゲートは、y軸の3x10を目安に設定した(ゲートCD8(+)tet(+))。
【0180】
HLA-A24:02患者では、WT1ペプチドカクテルワクチンの投与前にゲートCD8(+)tet(+)にイベントを認めた場合はWT1ペプチドカクテルワクチンの投与前後のCD8強陽性リンパ球を分母としたPE標識WT1 24:02陽性細胞の比率を比較した。投与前にゲートCD8(+)tet(+)にイベントを認めない場合は、投与後にゲートCD8(+)tet(+)内のイベント数を算出した。HLA-A02:01あるいはHLA-A02:06患者では、WT1ペプチドカクテルワクチンの投与前にゲートCD8(+)tet(+)にイベントを認めた場合は、WT1ペプチドカクテルワクチンの投与前後のCD8強陽性リンパ球を分母としたPE標識WT1 02:01あるいは02:06陽性細胞かつAPC標識WT1 02:01あるいは02:06陽性細胞の比率を比較した。投与前にゲートCD8(+)tet(+)にイベントを認めない場合は、投与後にゲートCD8(+)tet(+)内のイベント数を算出した。HLAテトラマーアッセイによるWT1抗原ペプチド特異的免疫反応が陽性か陰性かの判断するための基準を以下のように設定した。投与後、いずれかの時点で陽性又は維持と判定された場合、HLAテトラマーアッセイによる判定は陽性又は維持とした。投与後、いずれの時点においても陰性判定であった場合HLAテトラマーアッセイによる判定は陰性とした。
【0181】
【表3】
【0182】
結果
上記基準に基づき、全47症例について判定を行った結果、HLAテトラマーアッセイによる判定が陽性と判定されたのは30症例(63.8%)、HLAテトラマーアッセイによる判定が維持と判定されたのは3症例(6.4%)、HLAテトラマーアッセイによる判定が陰性と判定されたのは13症例(27.7%)であった。1症例(2.1%)については、HLAテトラマーアッセイによる判定が不能であった。
【0183】
〔実施例7:遅延性過敏反応(DTH反応)の検出〕
DTH用薬液の調製
実施例1に示されたWT1ペプチドカクテルワクチンのうち、WT1キラーペプチドコンジュゲート20mgに注射用水2mL、WT1ヘルパーペプチド18mgに注射用水1.8mLをそれぞれ加え、WT1キラーペプチドコンジュゲート溶液(10mg/mL)及びWT1ヘルパーペプチド溶液(10mg/mL)を調製した。さらに、乳酸リンゲル液を用いてそれぞれ10倍に希釈(1mg/mL)した。DTH用薬液は調製後3時間以内に使用した。
【0184】
接種及び測定
2種類のDTH用薬液(WT1キラーペプチドコンジュゲート溶液、WT1ヘルパーペプチド溶液)100μL(100μg)をそれぞれ3cm以上離して患者の前腕に皮内注射した。陰性コントロールとして、DTH用薬液の投与部位より3cm以上離れた同側前腕に乳酸リンゲル液(コントロール溶液)100μLを皮内注射した。投与2日後に発赤径[長径、短径、及び性状(二重発赤、硬結、潰瘍など)]を測定した。WT1キラーペプチドコンジュゲート溶液又はWT1ヘルパーペプチド溶液の発赤長径からコントロール溶液の発赤長径の差を算出し、その差により、以下の表に従ってDTH反応をスコア化した。
【0185】
【表4】
【0186】
DTH試験は、WT1ペプチドカクテルワクチンの投与開始前(投与前28日以内)、2回投与後2日目、12回投与後2日目、最終投与後(投与後28日以内)に行った。DTH反応を上記基準に基づきスコア判定した。投与後の各症例における最大のスコアを以降の解析に供した。
【0187】
結果
上記基準に基づき全47症例についてスコア判定した結果、スコア0が11症例(23.4%)、スコア+/-が4症例(8.5%)、スコア1が9症例(19.1%)、スコア2が4症例(8.5%)、スコア3が9症例(19.1%)、スコア判定が不能であった患者が7症例(14.9%)、DTH試験が実施できなかった患者が3症例(6.4%)であった。
【0188】
〔実施例8:WT1抗原ペプチド特異的免疫反応の陽性又は陰性を分類する基準の設定〕
WT1ペプチドカクテルワクチンによって誘導されるWT1抗原ペプチド特異的免疫反応に関し、HLAテトラマーアッセイによる判定結果とWT1キラーペプチドコンジュゲートを用いたDTH試験の最大スコアを双方向から解析し、WT1抗原ペプチド特異的免疫反応の陽性又は陰性を分類する基準を設定した。
【0189】
本実施例については、WT1抗原ペプチド特異的免疫反応の総合的な判定を目的としていることから、実施例1に記載の高リスク症例42症例に低リスク症例5症例を加えた全47症例を解析対象とした。ただし、このうち、実施例6においてHLAテトラマーアッセイによる判定が不能であった1症例、並びに実施例7においてDTHスコア判定不能と判断された症例及びDTH試験が実施できなかった10症例は、本解析から除外した。
【0190】
HLAテトラマーアッセイによる判定結果により陽性判定となった症例の多くは、WT1キラーペプチドコンジュゲートを用いたDTH試験の判定においても+/-以上のスコアであることが分かった(図8の左図)。また、WT1キラーペプチドコンジュゲートを用いたDTH試験の判定が+/-未満のスコアである症例の多くが、HLAテトラマーアッセイで陰性判定であることが分かった(図8の右図)。これらの結果より、図8の右図及び左図において、それぞれの矢印で示す位置をWT1抗原ペプチド特異的免疫反応陽性の基準として設定した。
【0191】
すなわち、HLAテトラマーアッセイによる判定結果が陽性であるか、WT1キラーペプチドコンジュゲートを用いたDTH試験の判定が+/-以上のスコア(対照との差が2mm以上)である場合には、WT1ペプチドカクテルワクチンによるWT1抗原ペプチド特異的免疫反応が陽性であると判定することができる。一方、HLAテトラマーアッセイによる解析結果が維持又は陰性であり、且つWT1キラーペプチドコンジュゲートを用いたDTH試験の判定が0(対照との差が2mm未満)である場合には、WT1ペプチドカクテルワクチンによるWT1抗原ペプチド特異的免疫反応が陰性であると判定することができる。
【0192】
全47症例を上記の基準で分類したところ、33症例(70.2%)がWT1抗原ペプチド特異的免疫反応陽性と判定され、9症例(19.1%)がWT1抗原ペプチド特異的免疫反応陰性であると判定された。5症例については、DTH試験未実施又はDTH試験により内出血を認めたため判定不能であり、WT1抗原ペプチド特異的免疫反応が不明(10.7%)であった。
【0193】
〔実施例9:WT1抗原ペプチド特異的免疫反応及び臨床効果の解析〕
実施例1に記載のアザシチジン無効高リスク患者42症例中、実施例8の基準によりWT1抗原ペプチド特異的免疫反応が陽性であると判定された28症例、陰性と判定された8症例の計36症例について、臨床効果との関係を以下のように解析した。なお、アザシチジンの副作用による無効症例である2症例、DTH試験未実施又はDTH試験により内出血を認めたためWT1抗原ペプチド特異的免疫反応が判定不能であった4症例は解析より除いている。
【0194】
骨髄芽球の変化
WT1抗原ペプチド特異的免疫反応と骨髄芽球の変化について解析した。初回投与後約3ヶ月(2週間1回投与で2回目投与後約15日及び/又は6回目投与後約15日に骨髄液を採取)後までの骨髄芽球の割合のPre値に対する変化が150%以下において2時点以上推移した場合には、芽球の安定化ありと判定し、骨髄芽球の割合のPre値に対する変化が150%を超えた場合には、芽球の安定化なし(増悪)と判定した。図9に示されるように、WT1抗原ペプチド特異的免疫反応が陽性である症例群においては、芽球が長期的に安定した症例が多く認められた。
【0195】
AML移行期間
WT1抗原ペプチド特異的免疫反応の陽性又は陰性による急性骨髄性白血病(AML)移行期間を比較した。図10に示されるように、WT1抗原ペプチド特異的免疫反応が陽性である症例群においては、AML移行期間が長い傾向にあった。
【0196】
生存曲線
WT1抗原ペプチド特異的免疫反応の陽性又は陰性による生存曲線を比較した。図11に示されるように、WT1抗原ペプチド特異的免疫反応が陽性であると判定された28症例のmOSは、WT1抗原ペプチド特異的免疫反応が陰性であると判定された8症例のmOSと比較して長い傾向にあった。
【0197】
骨髄芽球の安定化と生存曲線
図9に示されるように、WT1抗原ペプチド特異的免疫反応が陰性であると判定された8症例において、骨髄芽球の安定化が認められた症例はなかった。一方、免疫反応が陽性であると判定された28症例においては、15症例(53.6%)において骨髄芽球の安定化が認められた。WT1抗原ペプチド特異的免疫反応が陽性であり、且つ骨髄芽球の安定化が認められた症例のmOSが最も長い傾向にあった。
【0198】
核型と生存曲線
核型が不明である1症例を除く35症例をIPSS-Rの核型別に分類し、WT1抗原ペプチド特異的免疫反応と生存曲線を比較した。図12に示されるように、Good/Intermediate/Poor群においては、WT1抗原ペプチド特異的免疫反応が陽性であると判定された症例群は、WT1抗原ペプチド特異的免疫反応が陰性であると判定された症例群と比較してmOSが長い傾向にあることが分かった。また、予後不良である核型Very Poor群においても同様にWT1抗原ペプチド特異的免疫反応が陽性であると判定された症例群のmOSはWT1抗原ペプチド特異的免疫反応が陰性であると判定された症例群よりも長い傾向にあった。
【0199】
結果
WT1抗原ペプチド特異的免疫反応が陽性であると判断された症例群は、WT1抗原ペプチド特異的免疫反応が陰性であると判断された症例群と比較して、骨髄芽球の安定化した症例が多く認められ、AML移行期間の延長が認められた。また、mOSも延長傾向にあることが示された。WT1抗原ペプチド特異的免疫反応が誘導されることにより、骨髄芽球が安定化し、それに伴ってAML移行期間及び生存期間の延長が認められた可能性が示唆された。核型が予後良好である症例群と予後不良である症例群とで層別解析を行った場合にも、同様にmOSの延長の傾向が見られた。
【0200】
〔実施例10:性差による解析〕
実施例1のアザシチジン無効高リスク患者42症例のうち、アザシチジンの副作用による無効症例である2症例を除く40症例について、各性差の生存期間中央値を、ヒストリカルデータ及びリゴサチブ試験のBSCの生存期間中央値と比較した。
【0201】
表5に示されるように、男性でWT1抗原ペプチド特異的免疫反応が陽性であると判定される症例が多く認められた。ヒストリカルデータ(Prebet et al., Journal of Clinical Oncology 29, no.24, 3322-3327)及びリゴサチブのONTIME試験(Garcia-Manero et al., The Lancet Oncology 17, no.4, p496-508 (2016))の対照(リゴサチブ試験のBSC)と比較した結果、図13に示されるように、WT1ペプチドカクテルワクチンは女性よりも男性においてOSの延長が認められ、効果が高い可能性が示唆された。
【0202】
【表5】
【0203】
〔実施例11:WT1 mRNAの遺伝子マーカーとしての有用性 2〕
実施例1のアザシチジン無効高リスク患者42症例のうち、アザシチジンの副作用による無効症例である2症例を除く40症例について、WT1 mRNAの発現を確認した。
【0204】
末梢血からのDNA抽出及び検体の品質評価
WT1ペプチドカクテルワクチンの投与開始前28日以内に、患者から末梢血及び骨髄液を採取した。全血7mL又は骨髄液0.5mLより、RNA全自動精製装置QIAcube(Qiagen社)を用いてRNAの抽出及び精製を行った。QIAcubeユーザーマニュアルに従い、RNeasy mini Kit(Qiagen社)の試薬やチューブ等、及びサンプルをセットした。QIAcubeに保存されている、QIAcube Standard ProgramからRNeasy-Mini- programを選択し、RNAを抽出した。
【0205】
WT1 mRNAの発現解析
WT1 mRNAの発現解析は、WT1 mRNA測定キットII「オーツカ」(大塚製薬株式会社)を用いて行った。以下、特に言及しないかぎり試薬は上記キット付属のものを使用した。
【0206】
RNase free水を添加することにより抽出したRNAの濃度を50ng/μLに調整した。WT1・GAPDH混合RNA標準液を標準液1、標準液1を標準液希釈液で10倍希釈したものを標準液2、同様に10倍希釈を繰り返し、標準液5まで調製した。1反応あたり、RT-PCR用ミックス液(R1)10μL及び金属イオン溶液5μLの割合で混和したものを反応液とした。リアルタイムPCR装置(アプライドバイオシステムズ 7500 Fast Dx、アプライドバイオシステムズ社)を使用し、上記キットに付属のプロトコルの「3.測定操作」に従ってRT-PCR反応を行った。標準液1~5より作成した標準曲線を用いて、サンプルのWT1 mRNA及びGSDPH mRNAの測定値を算出した。
【0207】
上記キットに付属のプロトコルの「4.WT1 mRNA発現量の算出方法」に従って、以下のようにWT1 mRNA発現量を算出した。
具体的には以下の式に示すように、WT1 mRNA測定値をGAPDH mRNA測定値で除した値(GAPDH mRNA 1コピーあたりのWT1 mRNAコピー数)に、健康成人の1μg RNAあたりの平均GAPDH mRNAコピー数(GAPDH mRNA発現量)を乗じてWT1 mRNA発現量を算出した。なお、2.7×10(コピー/μg RNA)は、健康成人の1μg RNAあたりの平均GAPDH mRNA測定値である。
【数4】
【0208】
WT1 mRNAの発現解析の結果を図14に示す。40症例中全症例において末梢血中にWT1 mRNAの発現が認められた。WT1 mRNA発現量が10000コピー/μg RNA以下である症例のmOSは、WT1 mRNA発現量が10000コピー/μg RNAより高い症例のmOSと比較して長い傾向にあった。
【0209】
さらに、WT1 mRNA発現量が10000コピー/μg RNA以下である30症例、WT1 mRNA発現量が10000コピー/μg RNAより高い10症例について、後述するHLAテトラマーアッセイ及び遅延型過敏反応によりWT1抗原ペプチド特異的免疫反応を確認した。WT1 mRNAの発現量について、生存期間(OS)及びWT1抗原ペプチド特異的免疫反応を比較した結果を図15に示す。なお、図15に示される結果は、WT1抗原ペプチド特異的免疫反応の判定が不能であった4症例を除く、WT1 mRNA発現量が10000コピー/μg RNA以下である28症例、WT1 mRNA発現量が10000コピー/μg RNAより高い8症例に関するものである。
【0210】
これにより、WT1 mRNAの発現量が、WT1ペプチドワクチンによる治療の効果が期待できる患者を選択するための遺伝子マーカーとして有用であることが示された。また、上記マーカーの基準値として、10000コピー/μg RNAが有用であることが示された。
【0211】
WT1 mRNA発現量が10000コピー/μg RNA以下である症例群については、WT1抗原ペプチド特異的免疫反応が認められた症例のOSが長い傾向にあることが示された。一方、WT1 mRNA発現量が10000コピー/μg RNAより高い症例群は、WT1抗原ペプチド特異的免疫反応の陽性と陰性によるOSに差は見られなかった。また、末梢血中のWT1 mRNA発現量と骨髄液中のWT1 mRNA発現量が相関関係にあり、骨髄液中でも同様の傾向が見られることも確認した(図16)。
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【配列表】
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