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特許7496106アルミニウム合金製ねじ用素材及びアルミニウム合金製ねじ並びにその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-29
(45)【発行日】2024-06-06
(54)【発明の名称】アルミニウム合金製ねじ用素材及びアルミニウム合金製ねじ並びにその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/02 20060101AFI20240530BHJP
   C22C 21/06 20060101ALI20240530BHJP
   C22F 1/05 20060101ALI20240530BHJP
   C22F 1/057 20060101ALI20240530BHJP
   C22C 21/12 20060101ALI20240530BHJP
   B21J 5/00 20060101ALI20240530BHJP
   B21H 3/02 20060101ALI20240530BHJP
   B21K 1/46 20060101ALI20240530BHJP
   F16B 35/00 20060101ALI20240530BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20240530BHJP
【FI】
C22C21/02
C22C21/06
C22F1/05
C22F1/057
C22C21/12
B21J5/00 D
B21H3/02
B21K1/46 Z
F16B35/00 J
C22F1/00 604
C22F1/00 606
C22F1/00 612
C22F1/00 625
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 631A
C22F1/00 682
C22F1/00 681
C22F1/00 683
C22F1/00 684
C22F1/00 685
C22F1/00 686
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023565393
(86)(22)【出願日】2023-08-08
(86)【国際出願番号】 JP2023028901
【審査請求日】2023-10-24
(31)【優先権主張番号】P 2022159901
(32)【優先日】2022-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592226198
【氏名又は名称】株式会社ヤマシナ
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】弁理士法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】田内 雄一朗
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 健史
(72)【発明者】
【氏名】半田 岳士
(72)【発明者】
【氏名】池田 誠司
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-001602(JP,A)
【文献】特開2010-189750(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112853169(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00-21/18
C22F 1/04-1/057
F16B 23/00-43/02
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si:0.9~1.3wt%、
Cu:0.8~1.5wt%、
Mg:0.8~1.2wt%、
Cr:0.2~0.4wt%、
Mn:0.15~0.45wt%、
Ti:0.005~0.05wt%、を含有し、
残部がAlと不可避不純物からなり、
ねじ軸部の引張特性が、引張強さ460MPa以上、0.2%耐力380MPa以上、破断伸び10%以上であること、
を特徴とするアルミニウム合金製ねじ。
【請求項2】
前記Cuの含有量が1.1~1.5wt%であること、
を特徴とする請求項1に記載のアルミニウム合金製ねじ。
【請求項3】
前記Crの含有量が0.25wt%超0.4wt%以下であること、
を特徴とする請求項1又は2に記載のアルミニウム合金製ねじ。
【請求項4】
前記ねじ軸部に微細再結晶組織が形成され、前記微細再結晶組織の平均結晶粒径(円相当径)が120μm以下であること、
を特徴とする請求項1又は2に記載のアルミニウム合金製ねじ。
【請求項5】
Si:0.9~1.3wt%、
Cu:0.8~1.5wt%、
Mg:0.8~1.2wt%、
Cr:0.2~0.4wt%、
Mn:0.15~0.45wt%、
Ti:0.005~0.05wt%、を含有し、
残部がAlと不可避不純物からなり、
引張強さ430MPa以上、破断伸び8%以上の引張特性を有していること、
を特徴とするアルミニウム合金製ねじ用素材。
【請求項6】
前記Cuの含有量が1.1~1.5wt%であること、
を特徴とする請求項に記載のアルミニウム合金製ねじ用素材。
【請求項7】
前記Crの含有量が0.25wt%超0.4wt%以下であること、
を特徴とする請求項5又は6に記載のアルミニウム合金製ねじ用素材。
【請求項8】
Si:0.9~1.3wt%、Cu:0.8~1.5wt%、Mg:0.8~1.2wt%、Cr:0.2~0.4wt%、Mn:0.15~0.45wt%、Ti:0.005~0.05wt%、を含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金製ねじ用素材に冷間圧造加工を施し、ねじ頭部を形成する圧造加工工程と、
前記アルミニウム合金製ねじ用素材にT6熱処理を施す熱処理工程と、
前記アルミニウム合金製ねじ用素材に転造加工を施し、ねじ軸部を形成する転造加工工程と、を有すること、
を特徴とするアルミニウム合金製ねじの製造方法。
【請求項9】
前記圧造加工工程の前工程として、前記アルミニウム合金製ねじ用素材に断面減少率が30~85%となる絞り加工を施すこと、
を特徴とする請求項に記載のアルミニウム合金製ねじの製造方法。
【請求項10】
前記熱処理工程において、500~570℃で1~5時間保持する溶体化処理および160~190℃で2~12時間保持する時効処理を施し、
前記熱処理工程の後に前記転造加工工程を施すこと、
を特徴とする請求項又はに記載のアルミニウム合金製ねじの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルミニウム合金製のねじ及び当該ねじの製造に用いられるアルミニウム合金素材並びにアルミニウム合金製ねじの効率的な製造方法に関するものである。ねじにはボルト、ナットも含まれる。
【背景技術】
【0002】
従来、ボルトには機械的性質に優れた鋼材や良好な耐食性を有するステンレス鋼材が用いられてきた。しかしながら、近年では省エネルギーやCO排出量抑制の観点から、自動車等の輸送用機器の軽量化が切望されており、当該輸送用機器に用いられるボルト等のねじに対しても、軽量化が求められている。
【0003】
これに対して、ねじの軽量化を達成するために、アルミニウム合金製のボルトやアルミニウムよりも軽量なマグネシウム合金製のボルトが提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1(特開2017-202497号公報)では、「8質量%以上のZnを含有したAl-Mg-Zn系のアルミニウム合金製の線材に伸線処理を行って得られる伸線後素材から、半ネジとしての高品質のボルトを実現する高強度アルミニウム合金ボルトの製造方法を実現すること」を課題として、「8質量%以上のZnを含有したAl-Mg-Zn系のアルミニウム合金製の線材に伸線処理を行って形成される伸線後素材である線材にヘッダ加工を行って頭部中間要素を形成し、その後、熱処理を行い、次いで、軸部中間要素のうち、先端側に雄ネジの転造を行い、頭部中間要素側の少なくとも一部は非ネジ部とし、伸線後素材に熱処理を行う前に、軸部中間要素の雄ネジを形成する部分と非ネジ部となる部分とに第1段階絞りを行い、第1絞り工程後の軸部中間要素のうち、非ネジ部となる部分を除いて、雄ネジを形成する部分に第2段階絞りを行うことを特徴とするボルトの製造方法」が開示されている。
【0005】
また、特許文献2(特開2015-124409号公報)では、「高い強度と耐熱性が要求されるアルミニウム合金部材の素材に適したアルミニウム合金線材及びその製造方法、並びにアルミニウム合金部材を提供すること」を課題として、「質量%で、SiとMgとをそれぞれ0.7%以上、CuとZnとをそれぞれ1.5%以下含み、残部がAl及び不可避的不純物である組成を有し、550℃で溶体化処理した後、更に170℃×8時間の時効処理した後の引張強さが400MPa以上であり、前記時効処理した後、150℃×1000時間の耐熱試験した後の引張強さが370MPa以上であるアルミニウム合金線材」が開示されている。
【0006】
更に、特許文献3(特開2012-82474号公報)では、「耐熱性及び塑性加工性に優れるマグネシウム合金の線状体、この線状体から得られたボルト、ナット及びワッシャーを提供すること」を課題として、「マグネシウム合金からなる線状体であって、前記マグネシウム合金は、Znを0.1質量%以上6質量%以下、Caを0.4質量%超4質量%以下含有し、残部がMg及び不可避的不純物からなり、温度:150℃、応力:75MPa、保持時間:100時間以下の条件で前記線状体にクリープ試験を行ったとき、クリープひずみが1.0%以下であることを特徴とするマグネシウム合金の線状体」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-202497号公報
【文献】特開2015-124409号公報
【文献】特開2012-82474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では強度の高い7000系アルミニウム合金を用いたボルト、特許文献2ではZnやZrを添加して強度を高めた6000系アルミニウム合金を用いたボルトが提案されている。しかしながら、これらのアルミニウム合金は押出性、耐食性及び導電性に問題があり、7000系アルミニウム合金はZnを多く含有するためにリサイクル性にも問題がある。
【0009】
また、特許文献3にはマグネシウム合金を用いたボルトが提案されているが、マグネシウム合金製のボルトは、リサイクルの際に鉄のスクラップに混入してしまうと鋼材の品質低下を招く可能性がある。
【0010】
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明の目的は、リサイクルに適した6000系アルミニウム合金を用い、十分な機械的性質を有し、自動車部品用等の負荷がかかると共に高い信頼性が要求される締結にも使用できるアルミニウム合金製ねじを提供することにある。また、本発明は、本発明のアルミニウム合金製ねじの簡便かつ効率的な製造方法及び当該製造に好適に用いることができるアルミニウム合金製ねじ用素材を提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、アルミニウム合金製ねじ用素材及びアルミニウム合金製ねじ並びにその製造方法について鋭意研究を重ねた結果、Al-Cu-Mg-Si系化合物による析出強化を十分に発現させると共に、Mn添加量の上限値を低く抑えること等が極めて有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
即ち、本発明は、
Si:0.9~1.3wt%、
Cu:0.8~1.5wt%、
Mg:0.8~1.2wt%、
Cr:0.2~0.4wt%、
Mn:0.15~0.45wt%、
Ti:0.005~0.05wt%、を含有し、
残部がAlと不可避不純物からなり、
ねじ軸部の引張特性が、引張強さ460MPa以上、0.2%耐力380MPa以上、破断伸び10%以上であること
を特徴とするアルミニウム合金製ねじ、を提供する。
【0013】
本発明のアルミニウム合金製ねじは、0.8~1.5wt%のCuを含有することで、Al-Cu-Mg-Si系化合物の析出強化によって高い引張強度と0.2%耐力が付与されている。また、Mnは主として再結晶組織の粗大化を抑制するために添加される元素であるが、添加量の上限値を0.45wt%とすることで、Mn量が多い場合に生じる焼き入れ感受性の低下を抑制している。その結果、アルミニウム合金製ねじの優れた機械的性質が担保されている。加えて、Mnの添加に起因する導電性及び熱伝導率の低下も抑制されている。更に、7000系アルミニウム合金のように大量のZnを含んでおらず、良好なリサイクル性を有している。
【0014】
本発明のアルミニウム合金製ねじは、前記Cuの含有量が1.1~1.5wt%であること、が好ましい。Cu含有量の下限値を1.1wt%とすることで、Al-Cu-Mg-Si系化合物の析出強化をより顕著に発現させることができ、アルミニウム合金製ねじの引張強度及び0.2%耐力をより高い値とすることができる。
【0015】
また、本発明のアルミニウム合金製ねじは、前記Crの含有量が0.25wt%超0.4wt%以下であること、が好ましい。Cr含有量の下限値を0.25wt%超とすることで、鋳造時に十分な数の微細晶出物が形成され、熱処理時の再結晶組織の粗大化をより確実に抑制することができる。
【0016】
また、本発明のアルミニウム合金製ねじは、ねじ軸部に微細再結晶組織が形成され、前記微細再結晶組織の平均結晶粒径(円相当径)が120μm以下であること、が好ましい。ねじ軸部に平均結晶粒径(円相当径)が120μm以下の微細再結晶組織が形成されていることで、当該ねじ軸部の強度及び信頼性を付与することができる。加えて、当該ねじ軸部を形成するための塑性加工性を担保することができる。
【0017】
また、本発明は、
本発明のアルミニウム合金製ねじ用のアルミニウム合金素材であって、
Si:0.9~1.3wt%、
Cu:0.8~1.5wt%、
Mg:0.8~1.2wt%、
Cr:0.2~0.4wt%、
Mn:0.15~0.45wt%、
Ti:0.005~0.05wt%、を含有し、
残部がAlと不可避不純物からなり、
圧縮率が60%以下となる圧縮試験で割れが発生しないこと、
を特徴とするアルミニウム合金製ねじ用素材、も提供する。
【0018】
本発明のアルミニウム合金製ねじ用素材は、O材とすることで、60%以下の圧縮率であれば割れが発生しない良好な成形性を発現させることができる。加えて、ねじの軸径まで伸線し、更にT6処理を施すことによって、高い引張強さ及び破断伸びを付与することができる。
【0019】
また、本発明は、
Si:0.9~1.3wt%、
Cu:0.8~1.5wt%、
Mg:0.8~1.2wt%、
Cr:0.2~0.4wt%、
Mn:0.15~0.45wt%、
Ti:0.005~0.05wt%、を含有し、
残部がAlと不可避不純物からなり、
引張強さ430MPa以上、破断伸び8%以上の引張特性を有していること、
を特徴とするアルミニウム合金製ねじ用素材、も提供する。
【0020】
本発明のアルミニウム合金製ねじ用素材は、ねじの軸径まで伸線し、更にT6処理を施すことによって、引張強さ430MPa以上、破断伸び8%以上の引張特性が付与されている。
【0021】
本発明のアルミニウム合金製ねじ用素材は、0.8~1.5wt%のCuを含有することで、Al-Cu-Mg-Si系化合物の析出強化によって高い引張強度と0.2%耐力が付与されている。また、Mnは主として再結晶組織の粗大化を抑制するために添加される元素であるが、添加量の上限値を0.45wt%とすることで、Mn量が多い場合に生じる焼き入れ感受性の低下を抑制している。その結果、本発明のアルミニウム合金製ねじ用素材は優れた機械的性質を有していることに加えて、Mnの添加に起因する導電性及び熱伝導率の低下も抑制されている。更に、7000系アルミニウム合金のように大量のZnを含んでおらず、良好なリサイクル性を有している。
【0022】
本発明のアルミニウム合金製ねじ用素材は、ねじの軸径まで伸線し、さらにT6処理した後の引張強さが430MPa以上、破断伸びが8%以上の引張特性を有しており、ねじ形状を付与するために圧造や転造加工等を施すことで、最終的に得られるアルミニウム合金製ねじの軸部に引張強さが460MPa以上、0.2%耐力が380MPa以上、破断伸びが10%以上の引張特性を付与することができる。
【0023】
本発明のアルミニウム合金製ねじ用素材は、前記Cuの含有量が1.1~1.5wt%であること、が好ましい。Cu含有量の下限値を1.1wt%とすることで、Al-Cu-Mg-Si系化合物の析出強化をより顕著に発現させることができ、アルミニウム合金製ねじ用素材の引張強度及び0.2%耐力をより高い値とすることができる。
【0024】
また、本発明のアルミニウム合金製ねじ用素材は、前記Crの含有量が0.25wt%超0.4wt%以下であること、が好ましい。Cr含有量の下限値を0.25wt%超とすることで、塑性加工時に十分な数の微細晶出物が形成され、熱処理時の再結晶組織の粗大化をより確実に抑制することができる。
【0025】
更に、本発明は、
Si:0.9~1.3wt%、Cu:0.8~1.5wt%、Mg:0.8~1.2wt%、Cr:0.2~0.4wt%、Mn:0.15~0.45wt%、Ti:0.005~0.05wt%、を含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金製ねじ用素材に冷間圧造加工を施し、ねじ頭部を形成する圧造加工工程と、
前記アルミニウム合金製ねじ用素材にT6熱処理を施す熱処理工程と、
前記アルミニウム合金製ねじ用素材に転造加工を施し、ねじ軸部を形成する転造加工工程と、を有すること、
を特徴とするアルミニウム合金製ねじの製造方法、も提供する。
【0026】
本発明のアルミニウム合金製ねじの製造方法においては、良好な塑性加工性を有する本発明のアルミニウム合金製ねじ用素材を用いることで、簡便かつ効率的に圧造加工工程及び転造加工工程を実施することができる。また、固溶強化及び析出強化が得られると共に再結晶組織の粗大化等が抑制される本発明のアルミニウム合金製ねじ用素材を用いることで、熱処理工程後に得られるアルミニウム合金製ねじに高い強度及び信頼性を付与することができる。
【0027】
本発明のアルミニウム合金製ねじの製造方法においては、絞り工程におけるアルミニウム合金製ねじ用素材の断面減少率を30~85%とすることで、圧造工程での割れを抑制できるとともに、溶体化処理後の頭部とねじ軸部の境界における再結晶粒の粗大化を抑制することができる。さらに、ねじ軸部の結晶粒が微細となることで、高い強度および信頼性を付与することができる。
【0028】
また、本発明のアルミニウム合金製ねじの製造方法においては、前記熱処理工程において、500~570℃で1~5時間保持する溶体化処理および160~190℃で2~12時間保持する時効処理を施し、前記熱処理工程の後に前記転造加工工程を施すこと、が好ましい。時効処理後に転造加工を施すことで、溶体化処理から時効処理工程までに要する時間を短縮することができる。その結果、最終的に得られるねじに高い強度及び良好な寸法精度を付与することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、リサイクルに適した6000系アルミニウム合金を用い、十分な機械的性質を有し、自動車部品用等の負荷がかかると共に高い信頼性が要求される締結にも使用できるアルミニウム合金製ねじを提供することができる。また、本発明によれば、本発明のアルミニウム合金製ねじの簡便かつ効率的な製造方法及び当該製造に好適に用いることができるアルミニウム合金製ねじ用素材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明のアルミニウム合金製ねじの形状及び大きさの一例である。
図2】本発明のアルミニウム合金製ねじの形状及び大きさの一例である。
図3】本発明のアルミニウム合金製ねじの形状及び大きさの一例である。
図4】本発明のアルミニウム合金製ねじの形状及び大きさの一例である。
図5】本発明のアルミニウム合金製ねじの形状及び大きさの一例である。
図6】本発明のアルミニウム合金製ねじの製造方法を示す工程図の一例である。
図7】焼鈍処理後における実施アルミニウム合金製ねじ用素材の縦断面における組織写真である。
図8】T6熱処理後における実施アルミニウム合金製ねじ用素材の縦断面における組織写真である。
図9】実施例1として得られた実施アルミニウム合金製ねじの外観写真である。
図10】実施例2として得られた実施アルミニウム合金製ねじの外観写真である。
図11】実施アルミニウム合金製ねじの軸部の縦断面における組織写真である。
図12】焼鈍処理後における比較アルミニウム合金製ねじ用素材の縦断面における組織写真である。
図13】T6熱処理後における比較アルミニウム合金製ねじ用素材の縦断面における組織写真である。
図14】比較アルミニウム合金製ねじの軸部の縦断面における組織写真である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を参照しながら本発明のアルミニウム合金製ねじ用素材及びアルミニウム合金製ねじ並びにその製造方法についての代表的な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0032】
1.アルミニウム合金製ねじ用素材
(1)形状及び大きさ
本発明のアルミニウム合金製ねじ用素材は、アルミニウム合金製ねじを製造する際の素材となるアルミニウム合金製線材である。線材の長さ及び太さは本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、所望のアルミニウム合金製ねじの製造に適した形状及び大きさとすることができる。また、本発明のアルミニウム合金製ねじ用素材は、ナット類の製造にも用いることができる。
【0033】
(2)組成
本発明のアルミニウム合金製ねじ用素材は、Si:0.9~1.3wt%、Cu:0.8~1.5wt%、Mg:0.8~1.2wt%、Cr:0.2~0.4wt%、Mn:0.15~0.45wt%、Ti:0.005~0.05wt%、を含有し、残部がAlと不可避不純物からなっている。以下、各成分元素についてそれぞれ説明する。
【0034】
(2-1)必須の添加元素
Si:0.9~1.3wt%
Siは、Mg、Cuと共にAl-Cu-Mg-Si系析出物を形成し、引張強度や耐力を高める作用を有する。Si含有量が0.9wt%未満の場合は時効硬化能が不足し、アルミニウム合金製ねじ用素材に要求される機械的強度及び信頼性を得ることができない。一方で、Si含有量が1.3wt%よりも多くなると粗大な晶出物を形成しやすくなり、伸びの低下の原因となる。
【0035】
Cu:0.8~1.5wt%
CuはMg、SiとともにAl-Cu-Mg-Si系析出物を形成し、引張強度や耐力の向上に寄与する。Cu含有量が0.8wt%未満ではこれらの効果を十分に得ることができず、アルミニウム合金製ねじ用素材に要求される引張強度や耐力を得ることができない。一方で、Cu含有量が1.5wt%を超えて添加されると、焼き入れ感受性や耐食性を低下させる虞がある。Cuの含有量は1.1~1.5wt%とすることが好ましい。Cu含有量の下限値を1.1wt%とすることで、Al-Cu-Mg-Si系化合物の析出強化をより顕著に発現させることができ、アルミニウム合金製ねじ用素材の引張強度及び0.2%耐力をより高い値とすることができる。
【0036】
Mg:0.8~1.2wt%
Mgは時効処理した際にSi、Cuと共にAl-Cu-Mg-Si系析出物を形成し、引張強度や耐力を高める作用を有する。Mg添加量が0.8wt%未満の場合はアルミニウム合金製ねじ用素材に要求される引張強度や耐力を得ることができない。一方で、Mgを1.2wt%を超えて添加すると、粗大な晶出物を形成しやすくなり、伸びが低下する原因となる。また、Mg/Si比が大きくなり、引張強度や耐力が低下する原因となる場合がある。
【0037】
Cr:0.2~0.4wt%
Crは鋳造の際にAl-Cr系金属間化合物として金属組織中に微細に晶出し、T6処理時の再結晶組織の粗大化を抑制する。0.2wt%以上のCrを添加することで当該効果を得ることができるが、0.4wt%を超えてCrを添加すると再結晶化が抑制されて加工組織が維持され、成形性が低下する。また、0.4wt%を超えてCrを添加すると、焼き入れ感受性が低下し、アルミニウム合金製ねじ用素材の機械的性質が低下する。
【0038】
Mn:0.15~0.45wt%
Mnは鋳造の際にAl-Mn系金属間化合物として金属組織中に微細に晶出し、T6処理時の再結晶組織の粗大化を抑制する。0.15wt%以上のMnを添加することで当該効果を得ることができるが、0.45wt%を超えてMnを添加すると変形抵抗が増大し、塑性加工が難しくなる。さらに粗大な晶出物を形成しやすくなり、塑性加工の際に割れ等の欠陥が発生しやすくなる。また、0.45wt%を超えてMnを添加すると、焼き入れ感受性が低下し、アルミニウム合金製ねじ用素材の機械的性質が低下する。
【0039】
Ti:0.005~0.05wt%
Tiは鋳造組織を微細化する作用を有している。鋳造組織を微細化することで、押出加工等の塑性加工性を向上させることができる。なお、Tiは、Al-Ti-Bロッド等を用いて、鋳造直前に添加することが好ましい。
【0040】
(2-2)任意の添加元素
JISにおける6000系アルミニウム合金の規格の許容範囲内であれば、Zr及びZn以外の元素を添加することが許容される。ここで、Feは針状のAl-Fe-Si系化合物を形成しやすいため、0.3wt%以下とすることが好ましい。
【0041】
(2-3)不可避不純物
前記した元素以外の不可避的不純物については、本発明のアルミニウム合金製ねじ用素材の特性に影響を与えない範囲で含有することは許容される。ここで、Zr及びZnは押出性、耐食性及び導電性に悪影響を及ぼすため、0.1wt%未満とすることが好ましく、0.05wt%未満とすることがより好ましく、0.005wt%未満とすることが最も好ましい。
【0042】
(3)組織及び機械的性質
本発明のアルミニウム合金製ねじ用素材には、焼きなまし処理を施して優れた成形性を発現させたO材と、T6処理を施して高い強度と延性を両立させたT6材が存在する。O材を用いてアルミニウム合金製ねじを製造する場合は、転造加工工程の前又は後にT6処理を施す必要がある。
【0043】
本発明のアルミニウム合金製ねじ用素材のO材は、圧縮率が60%以下となる圧縮試験で割れが発生しない良好な成形性を有している。ここで、圧縮試験の方法及び条件は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の試験方法及び試験条件を用いることができるが、圧縮試験の試験片に直径と高さの比が1:2となる円柱状試験片を用いることが好ましい。
【0044】
一方で、本発明のアルミニウム合金製ねじ素材のT6材は、伸線加工後に必要に応じて熱処理が施された線材である。ここで、アルミニウム合金製ねじ用素材は上記のように組成が最適化されていることから、伸線加工時に再結晶組織が形成され、T6処理時の再結晶組織の粗大化が抑制されている。その結果、微細な再結晶組織を主とする組織が形成されている。
【0045】
アルミニウム合金製ねじ素材の微細組織を観察する方法は特に限定されず、従来公知の種々の組織観察手法を用いればよい。例えば、アルミニウム合金製ねじ素材を長手方向に対して平行に切断し、得られた縦断面試料を光学顕微鏡又は走査型電子顕微鏡で観察すればよい。なお、観察手法に応じて、断面試料には機械研磨、バフ研磨、電解研磨及びエッチング等を施すことが好ましい。
【0046】
また、Al-Cr系化合物及びAl-Mn-Fe-Si系化合物などが微細分散した組織となっており、ねじの軸部まで伸線し、T6処理をすることで、Al-Cu-Mg-Si系化合物、が微細に析出し、引張強さが430MPa以上、破断伸びが8%以上の引張特性を得ることが出来る。より好ましい引張強さは440MPa以上であり、最も好ましい引張強さは450MPa以上である。また、より好ましい破断伸びは9%以上であり、最も好ましい破断伸びは10%以上である。なお、0.2%耐力は370MPa以上であることが好ましく、380MPa以上であることがより好ましく、最も好ましい0.2%耐力は390MPa以上である。
【0047】
(4)製造方法
本発明のアルミニウム合金製ねじ用素材の製造方法は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、アルミニウム合金製線材の製造に適用される従来公知の種々の方法を用いることができる。以下、本発明のアルミニウム合金製ねじの製造方法の一例を示す。
【0048】
(4-1)溶解及び鋳造
原料となるアルミニウムインゴット、アルミニウムスクラップ、添加元素の母合金を溶融し、脱滓処理や脱ガス処理等の既存の溶湯処理、成分調整を行い、本発明のアルミニウム合金製ねじ用素材の組成となるアルミニウム合金の溶湯を用意し、溶湯をフィルター装置および脱ガス装置を通した後、DC鋳造(半連続鋳造)にて、円柱状のビレットを成形する。なお、プロペルチ等の連続鋳造圧延法により、溶湯から直接線形状に加工しても良い。
【0049】
(4-2)押出加工
得られたビレットに対して500~540℃で均質化処理を施した後、均質化処理したビレットを450~550℃まで加熱し、金型温度450~550℃のダイスで、φ8.0~10.0mmの線状に押出加工する。
【0050】
(4-3)引き抜き加工
得られた線材に冷間引き抜き加工を施し、冷間圧造加工工程の線径まで伸線加工する。伸線加工する際、加工硬化を弱めるために途中で焼鈍を行ってもよい。冷間引き抜き加工する際は断面減少率が30~50%になるように加工することが好ましい。断面減少率が30%未満だと冷間圧造工程前に熱処理を施した場合、未再結晶となりやすいために圧造工程で割れが発生しやすくなり、50%を超えると十分な絞り工程を付与することができなくなる。
【0051】
(4-4)ヘッダー加工(冷間圧造加工)
引き抜き加工を行ったねじ用素材に絞り工程およびヘッダー加工を施し、ねじの頭部と軸部を形成し、中間材を形成する。ヘッダー加工する前に、焼鈍処理を行ってもよい。焼鈍処理は、350℃から400℃間で4時間から8時間保持することが好ましい。保持温度や保持時間が350℃や4時間未満だと焼鈍が十分でなく、ヘッダー加工の際に、割れや表面性状が悪化しやすくなる。400℃や8時間を超えるとその後ヘッダー加工や熱処理を行ってもねじとしての十分な引張強度や0.2%耐力を得ることができない。
【0052】
中間材の軸部を形成する絞り工程の際の線材からの断面減少率は30~85%であることが好ましい。断面減少率が30%未満だと加工ひずみが十分でなく、溶体化処理や時効処理の際に、再結晶組織が粗大化しやすく、十分な引張強度や0.2%耐力を得ることができない。逆に85%を超えるとヘッダー加工の際に軸部に割れが生じ易くなる。
【0053】
(4-5)T6熱処理
得られた中間材を500~570℃で溶体化処理を行い、焼き入れ処理を行った後、160~190℃で保持時間2~12hの条件で、時効処理を行う。より好ましい時効処理の条件は170~185℃、4~10hであり、最も好ましい時効処理の条件は175~185℃、6~10hである。
【0054】
(4-6)転造加工
時効処理を施した中間材の軸部に転造加工を施し、ねじ部を形成する。時効処理後に転造加工を施すことで、溶体化処理から時効処理工程までに要する時間を短縮することができる。その結果、最終的に得られるねじに高い強度及び良好な寸法精度を付与することができる。
【0055】
2.アルミニウム合金製ねじ
(1)形状及び大きさ
本発明のアルミニウム合金製ねじは頭部と軸部を備えた締結部品を広く含み、その形状及び大きさは本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の形状及び大きさとすることができる。
【0056】
本発明のアルミニウム合金製ねじは、摩耗、変形及び割れ等を抑制する観点から、六角フランジやキャップボルトとすることが好ましい。また、ねじ回しとしては、ヘックスローブのインターナル(リセス穴)やエクスターナル(E型)を用いることが好ましい。ヘックスローブはねじの頭とねじ回しの接触面が曲線で構成されており、従来一般的なボルト・ナットと比較してトルクの伝達効率が高く、応力集中が少ないため、耐久性を向上させることができる。本発明のアルミニウム合金製ねじに好適に用いることができる形状及び大きさの例を図1図5に示す。
【0057】
(2)組成
本発明のアルミニウム合金製ねじは、本発明のアルミニウム合金製ねじ用素材から製造されるものであり、上記のアルミニウム合金製ねじ用素材と同じ組成を有している。
【0058】
(3)組織及び機械的性質
アルミニウム合金製ねじの軸部には微細再結晶組織が形成され、当該微細再結晶組織の平均結晶粒径(円相当径)が120μm以下であること、が好ましい。ねじの軸部には高い強度及び信頼性が要求されるところ、平均結晶粒径(円相当径)が120μm以下の微細再結晶組織を形成することで、軸部に高い引張特性を付与することができる。より好ましい平均結晶粒径(円相当径)は100μm以下であり、最も好ましい平均結晶粒径(円相当径)は80μm以下である。
【0059】
結晶粒の平均粒径を求める方法は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、従来公知の種々の方法で測定すればよい。例えば、ねじ軸部の中心をとおる縦断面で切断し、得られた断面試料を光学顕微鏡又は走査型電子顕微鏡で観察し、母材結晶粒の粒径の平均値を算出することで求めることができる。その際、例えば、結晶粒径は交線法により測定することができる。その他、走査型電子顕微鏡に付属している後方散乱電子回折測定装置(SEM-EBSD)により測定してもよい。平均粒径を求めるための観察面積は軸部のサイズや形状にも依存するが、測定対象となる結晶粒が少なくとも20個以上となるように観察領域を決定することで、正確な値を得ることができる。なお、観察手法に応じて、断面試料には機械研磨、バフ研磨、電解研磨及びエッチング等を施せばよい。
【0060】
アルミニウム合金製ねじの軸部の引張特性は、JIS B 1057に準拠した引張試験方法で行った結果が、引張強さが460MPa以上、0.2%耐力が380MPa以上、破断伸びが10%以上となっている。また、より好ましい0.2%耐力は390MPa以上であり、最も好ましい0.2%耐力は400MPa以上である。また、より好ましい破断伸びは12%以上であり、最も好ましい破断伸びは14%以上である。
【0061】
3.アルミニウム合金製ねじの製造方法
本発明のアルミニウム合金製ねじの製造方法に関する工程図の一例を図6に示す。本発明のアルミニウム合金製ねじの製造方法は、本発明のアルミニウム合金製ねじ用素材に対して圧造加工を施し、ねじ頭部を形成する圧造加工工程(S01)と、アルミニウム合金製ねじ用素材にT6熱処理を施す熱処理工程(S02)と、アルミニウム合金製ねじ用素材に転造加工を施し、ねじ軸部を形成する転造加工工程(S03)と、を有している。以下、各工程について説明する。
【0062】
(1)圧造加工工程(S01)
圧造加工工程はアルミニウム合金製ねじの頭部を形成するための工程であり、パンチとダイスを用いてアルミニウム合金製ねじ用素材を塑性変形させることで、簡便かつ効率的に頭部を形成することができる。
【0063】
アルミニウム合金製ねじ用素材の直径がねじ軸部と一致している場合はそのまま圧造加工工程を施せばよく、アルミニウム合金製ねじ用素材の直径がねじ軸部よりも大きい場合、圧造加工の前加工として、絞り加工等によって形状や大きさを調整すればよい。圧造加工の条件は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の加工条件を用いることができる。
【0064】
ここで、断面減少率が40%程度の伸線の後に焼鈍を施し、圧造加工工程で断面減少率を30~80%とすることで、アルミニウム合金製ねじの強度を確実に安定させることができる。アルミニウム合金製ねじの靭性を向上させるためには、圧造加工工程における断面減少率を大きくすることが好ましい。
【0065】
(2)熱処理工程(S02)
熱処理工程はアルミニウム合金製ねじにT6熱処理を施し、強度及び耐力等の機械的性質を向上させるための工程である。
【0066】
アルミニウム合金製ねじを500~570℃で溶体化処理を行い、焼き入れ処理を行った後、160~190℃で保持時間2~12hの条件で、時効処理を行う。より好ましい時効処理の条件は170~185℃、4~10hであり、最も好ましい時効処理の条件は175~185℃、6~10hである。
【0067】
熱処理工程は転造加工工程の前に施してもよく、後に施してもよい。アルミニウム合金製ねじに高い強度及び耐力が要求される場合は転造加工工程の前に熱処理工程を施すことが好ましく、延性が要求される場合は転造加工工程の後に熱処理工程を施すことが好ましい。
【0068】
(3)転造加工工程(S03)
転造加工工程は、ねじ軸部にねじ形状を付与するための工程である。転造加工工程の加工条件は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の条件を用いることができるが、ねじの谷底に丸みを設けることが好ましい。
【0069】
アルミニウム合金製ねじ用素材に圧造加工工程(S01)及び転造加工工程(S03)を施すことで、アルミニウム合金製ねじ用素材の組織が微細化及び均質化され、引張強さ、0.2%耐力及び破断伸びを向上させることができる。例えば、引張強さに関して、20~30MPa程度増加させることができる。
【0070】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それら設計変更は全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例
【0071】
≪実施例≫
(1)アルミニウム合金製ねじ用素材
表1に記載の組成(wt%)を有するアルミニウム合金(実施例1~実施例10)の溶湯に対して脱ガス処理及び濾過処理を行った後、DC連続鋳造によってビレットを得た。次に、当該ビレットを550℃に加熱して押出加工を施すことで、表1に記載の直径を有する押出材を得た。その後、冷間引き抜き加工を施し、ねじの線径まで伸線加工した。
【0072】
ここで、伸線加工は2回実施し、1回目の伸線加工でアルミニウム合金線材の直径を表1に記載の値とした後、380℃で5時間の焼鈍を施して軟化させ、2回目の伸線加工で表1に記載の直径を有するアルミニウム合金線材を得た。
【0073】
【表1】
【0074】
得られた線材を、560℃で2時間溶体化処理を施し、その後180℃で6時間の人工時効処理を施した(T6熱処理)。伸線方向の引張試験片(JISZ2201の2号試験片)を採取し、JISZ2241の引張試験法に従って引張特性を評価した。得られた結果を表1に示す。なお、試験繰り返し数は3本とし、平均値を計算した。本発明の実施アルミニウム合金製ねじ用素材(T6材)は優れた引張特性を有しており、全ての場合において、引張強さが430MPa以上、破断伸びが8%以上となっている。
【0075】
焼鈍処理後及びT6熱処理後の各線材について、長手方向に平行な断面(縦断面)で切断し、鏡面研磨及びエッチングを施すことによって断面観察試料を調整し、光学顕微鏡による組織観察を行った。焼鈍処理後及びT6熱処理後における各線材の縦断面における組織写真を図7及び図8にそれぞれ示す。引抜きおよび絞りでの加工率や組成による差異は認められるものの、T6熱処理後の各線材は微細な再結晶組織を有していることが分かる。
【0076】
また、上記の引張試験法と同様にして、1回目の伸線加工後に焼鈍した状態でのアルミニウム合金線材の引張特性を評価した。得られた結果を表2に示す。本発明の実施アルミニウム合金製ねじ用素材(O材)は、10%以上の高い破断伸びを有していることが分かる。
【0077】
【表2】
【0078】
次に、焼鈍処理後の実施アルミニウム合金製ねじ用素材(O材)の成形性を評価するために、限界圧縮率を測定した。具体的には、実施アルミニウム合金製ねじ用素材(O材)からなる試験片(直径と高さの比が1:2)を島津製作所製の300kN油圧万能試験機を用い、試験速度10~20mm/minの条件で圧縮し、割れが発生した時点での圧縮率を限界圧縮率とした。得られた結果を表2に示す。本発明の実施アルミニウム合金製ねじ用素材(O材)は、60%以下の圧縮率では割れが発生しない良好な成形性を有していることが分かる。
【0079】
(2)アルミニウム合金製ねじ
表1に示す実施例1~3の組成を有するアルミニウム合金製ねじ用素材(O材)に伸線加工を施し、表3に記載の直径を有するアルミニウム合金線材を得た。当該伸線加工における絞り率を表3に示す。
【0080】
次に、適当な長さに切断したアルミニウム合金線材にT6熱処理(560℃で2時間溶体化処理の後、180℃で6時間の人工時効処理)を施した後、圧造加工を施し、アルミニウム合金製ねじの軸部と頭部を形成した。次に、ねじ軸部に対して転造加工を施し、本発明の実施アルミニウム合金製ねじを得た。
【0081】
【表3】
【0082】
実施例1及び実施例2として得られた実施アルミニウム合金製ねじ(六角穴付キャップボルト)の外観写真を図9及び図10にそれぞれ示す。実施アルミニウム合金製ねじには欠陥や表面の荒れ等は認められず、良好な形状を有していることが分かる。実施例3として得られた実施アルミニウム合金製ねじの形状及び大きさは実施例1の場合と同様であり、欠陥や表面の荒れ等は認められなかった。
【0083】
次に、ねじ部の機械的性質を評価するために、JIS B 1057(非鉄金属性ねじ部材の引張試験方法)に基づき、引張試験を行った。実施アルミニウム合金製ねじの頭部とねじ部を固定し、軸方向に引張荷重を印加して破断時の荷重及び伸びを測定した。引張試験には島津製作所製の精密万能試験機(AG-X plus)を用い、試験速度は2mm/minとした。得られた結果を表3に示す。実施アルミニウム合金製ねじは、3つの引張試験片の全てにおいて引張強さが460MPa以上、0.2%耐力が380MPa以上、破断伸びが10%以上となっていることが分かる。
【0084】
実施例1、実施例2及び実施例3における実施アルミニウム合金製ねじの軸部の組織写真を図11に示す。実施アルミニウム合金製ねじの軸部には、微細な再結晶組織が形成されていることが分かる。また、図11に示す組織写真を用いて平均結晶粒径(円相当径)を算出したところ、表3に示す値が得られた。何れの実施アルミニウム合金製ねじの軸部においても、平均結晶粒径(円相当径)は120μm以下となっている。
【0085】
≪比較例≫
表1に記載の組成(wt%)を有するアルミニウム合金(比較例1~比較例8)について、実施例の場合と同様にして比較アルミニウム合金製ねじ用素材を得た。
【0086】
T6熱処理を施した各比較アルミニウム合金製ねじ用素材に対して、実施例と同様にして引張特性を評価した。得られた結果を表1に示した。比較アルミニウム合金製ねじ用素材は全ての場合において引張強さが430MPaに達しておらず、比較例6については破断伸びも7.3%に留まっている。なお、比較例8については鋳造割れが発生し、引張試験を実施することができなかった。
【0087】
焼鈍処理を施した各比較アルミニウム合金製ねじ用素材に対して、実施例と同様にして引張特性及び限界圧縮率を評価した。得られた結果を表2に示した。焼鈍処理後の比較アルミニウム合金製ねじ用素材は良好な成形性を有しているが、表1に示すように、T6熱処理を施した際に十分な強度を得ることができない。
【0088】
実施例の場合と同様にして、焼鈍処理後及びT6熱処理後の各線材について、光学顕微鏡による組織観察を行った。焼鈍処理後及びT6熱処理後における各線材の縦断面における組織写真を図12及び図13にそれぞれ示す。比較アルミニウム合金製ねじ用素材においては、T6熱処理後に組織が顕著に粗大化していることが分かる。
【0089】
また、実施例の場合と同様にして、比較例1、2及び9における比較アルミニウム合金製ねじを得た。比較アルミニウム合金製ねじの形状及び大きさは実施例1及び3の場合と同様である。実施例の場合と同様にして、得られた比較アルミニウム合金製ねじの引張特性を評価し、得られた結果を表3に示した。
【0090】
比較例1、2および比較例9の国際合金規格6056合金製のねじは引張強さが440MPaに達しておらず、0.2%耐力も370MPaに達していない。また、実施アルミニウム合金製ねじは、破断伸びについても6056製ねじよりも高い値を有している。当該結果より、本発明の実施アルミニウム合金製ねじは、従来の6000系アルミニウム合金を用いた場合よりも優れた引張特性と信頼性を有するねじになっていることが分かる。
【0091】
実施例の場合と同様にして、比較例1及び比較例2における比較アルミニウム合金製ねじの軸部の組織観察を行った。得られた組織写真を図14に示す。比較アルミニウム合金製ねじの軸部の組織は粗大化が進行していることが確認できる。比較例1、比較例2及び比較例9について平均結晶粒径(円相当径)を算出したところ、表3に示す値が得られた。比較例1において、平均結晶粒径(円相当径)は206μmと大きな値となっている。
【要約】
本発明は、リサイクルに適した6000系アルミニウム合金を用い、十分な機械的性質を有し、自動車部品用等の負荷がかかると共に高い信頼性が要求される締結にも使用できるアルミニウム合金製ねじを提供する。また、本発明のアルミニウム合金製ねじの簡便かつ効率的な製造方法及び当該製造に好適に用いることができるアルミニウム合金製ねじ用素材を提供する。本発明のアルミニウム合金製ねじは、Si:0.9~1.3wt%、Cu:0.8~1.5wt%、Mg:0.8~1.2wt%、Cr:0.2~0.4wt%、Mn:0.15~0.45wt%、Ti:0.005~0.05wt%、を含有し、残部がAlと不可避不純物からなり、ねじ軸部の引張特性が、引張強さ460MPa以上、0.2%耐力380MPa以上、破断伸び10%以上であること、を特徴とする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14