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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-29
(45)【発行日】2024-06-06
(54)【発明の名称】軸状ワーク用の高周波誘導加熱装置
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/30 20060101AFI20240530BHJP
   C21D 1/42 20060101ALI20240530BHJP
   H05B 6/44 20060101ALI20240530BHJP
   H05B 6/10 20060101ALI20240530BHJP
   C21D 1/10 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
C21D9/30 B
C21D1/42 J
H05B6/44
H05B6/10 371
C21D1/10 R
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019224534
(22)【出願日】2019-12-12
(65)【公開番号】P2021091945
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】390026088
【氏名又は名称】富士電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100480
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 隆
(72)【発明者】
【氏名】己之上潤二
(72)【発明者】
【氏名】花木 昭宏
【審査官】河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-290729(JP,A)
【文献】特開平10-273730(JP,A)
【文献】特開2010-229539(JP,A)
【文献】特開2001-303134(JP,A)
【文献】特開2017-071808(JP,A)
【文献】特開2004-225092(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/30
C21D 1/42
H05B 6/44
H05B 6/10
C21D 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波電流が通電される加熱コイルを備えた加熱コイル体と一体化されたディスク型トランスを複数有し、前記各ディスク型トランスのディスク面が軸状ワークの軸方向に略垂直であって、前記各ディスク型トランスが互いに近接して軸状ワークの軸方向に一列に配置されて使用される軸状ワーク用の高周波誘導加熱装置であって、
当該各ディスク型トランスの間隔を所定間隔に保つと共に、前記軸状ワークと直交する方向への各ディスク型トランスの相対移動を許容する位置保持手段を有し、
前記位置保持手段は、固定部と、固定側部材と移動側部材を有する被挟持部と、押圧部を有し、
一列に並んだ全ディスク型トランスの並び方向のうち最も外側のディスク型トランスの外側に固定部が配置され、固定部が配置された反対側で最も外側のディスク型トランスの外側に押圧部が配置されており、
隣接するディスク型トランス同士の間に、前記被挟持部が配置されており、
前記押圧部は、一方の端のディスク型トランス、又は当該ディスク型トランスと一体の加熱コイル体を前記固定部側へ押さえ付ける機能を有し、
前記固定部は、他方の端のディスク型トランス、又は当該ディスク型トランスと一体の加熱コイル体と当接し、各ディスク型トランスの並び方向への前記他方の端のディスク型トランスの移動を阻止する機能を有し、
前記被挟持部は、隣接する一方のディスク型トランスに固定されていて、自由回転が可能な複数の球状の転動体を有し、隣接する他方のディスク型トランスと当接してこれらのディスク型トランス同士の間隔を所定間隔に保ち、固定するとともに、前記各転動体が、前記隣接する他方のディスク型トランスに当接し、
前記移動側部材は、前記ディスク型トランスの移動に追従して公転移動することを特徴とする軸状ワーク用の高周波誘導加熱装置。
【請求項2】
前記押圧部は、当該押圧部が押圧するディスク型トランス、又は当該ディスク型トランスと一体の加熱コイル体における、前記軸状ワークと直交する方向への移動に追従することを特徴とする請求項1に記載の軸状ワーク用の高周波誘導加熱装置。
【請求項3】
前記軸状ワークが、ジャーナル部とピン部を有し、前記ジャーナル部とピン部の接続部分の表面が、前記軸状ワークと直交する方向に突出していないクランクシャフトであり、
前記固定部は、前記クランクシャフトの前記ジャーナル部に配置されるディスク型トランス、又は当該ディスク型トランスと一体の加熱コイル体に当接するものであり、
前記押圧部は、前記ジャーナル部と隣接するピン部に配置されるディスク型トランス、又は当該ディスク型トランスと一体の加熱コイル体を押圧する場合に、前記押圧部材は、当該被挟持部材を構成する移動側部材を、当該被挟持部材を構成する固定側部材に押し付けた状態を保ちながら、前記被挟持部材によって、前記軸状ワークと直交する方向への当該ディスク型トランス、又は当該ディスク型トランスと一体の加熱コイル体の移動に追従して、移動させられることを特徴とする請求項1又は2に記載の軸状ワーク用の高周波誘導加熱装置。
【請求項4】
前記押圧部は、ディスク型トランス、又は当該ディスク型トランスと一体の加熱コイル体を押さえ付けた際に、撓んで当該押さえ付けた力に抗するコイルバネを有し、前記押圧部における当該コイルバネ前記軸状ワークと直交する方向への当該ディスク型トランス、又は当該ディスク型トランスと一体の加熱コイル体の移動に追従することを特徴とする請求項に記載の軸状ワーク用の高周波誘導加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスク型トランスが一体化された加熱コイル体を複数有する軸状ワーク用の高周波誘導加熱装置に関するものである。特に本発明は、クランクシャフトを高周波誘導加熱するのに適した高周波誘導加熱装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クランクシャフトは、中心がクランクシャフトの回転中心と一致したジャーナル部と、中心がクランクシャフトの回転中心と一致していないピン部を有する。
【0003】
このようなクランクシャフトのジャーナル部と、このジャーナル部と隣接するピン部を高周波焼入する際、従来は、ジャーナル部に近接対向する半開放構造の加熱コイルを備えたジャーナル部用の加熱コイル体と、ピン部に近接対向する半開放構造の加熱コイルを備えたピン部用の加熱コイル体を使用していた。
【0004】
ジャーナル部の中心は、クランクシャフトの回転中心と一致しているため、クランクシャフトが回転すると、ジャーナル部は位置を変更することなくその場で自転する。そして、ジャーナル部用加熱コイル体は、位置を変更することなくその場で停止している。停止したジャーナル部用加熱コイル体の加熱コイルに対して、ジャーナル部が回転(自転)することにより、ジャーナル部の全周囲が、順にジャーナル部用加熱コイル体の高周波電流が通電された加熱コイルに近接対向し、全周囲に高周波誘導電流が励起され、全周囲が均一に焼入温度まで昇温する。
【0005】
一方、ピン部の中心は、クランクシャフトの回転中心と一致していないため、クランクシャフトが回転すると、ピン部はクランクシャフトの回転中心を中心に円軌道を描くように回転移動(公転移動)する。ピン部は、クランクシャフトの回転中心の周囲を一回転する間に一回自転する。
【0006】
そして、ピン部用加熱コイル体は、このピン部の公転移動に追従して移動し、その際、ピン部に対して同方向から近接する。そのため、ピン部用加熱コイル体の半開放構造の加熱コイルと、自転するピン部は相対的に回転する。そして、ピン部がクランクシャフトの回転中心の周囲を一回転する間に、ピン部の全周囲が順にピン部用加熱コイル体の高周波電流が通電された加熱コイルに近接対向し、ピン部の全周囲に高周波誘導電流が励起されて、ピン部の全周囲が均一に焼入温度まで昇温する。
【0007】
また、ジャーナル部とピン部の境界部分には、第一加熱コイル体及び/又はピン部用加熱コイル体の加熱コイルが近接し、ジャーナル部及びピン部と同様に高周波誘導電流が励起されて焼入温度まで昇温する。
【0008】
ジャーナル部及びピン部が焼入温度まで昇温すると、各加熱コイルへの高周波電流の通電が停止され、さらに冷却ジャケットから冷却液が噴射供給され、ジャーナル部及びピン部が焼入温度から所定の温度まで急冷されて高周波焼入が完了する。
【0009】
ここで、ジャーナル部やピン部を良好に高周波焼入するためには、各加熱コイルが、それぞれジャーナル部及びピン部に対してクランクシャフトの軸方向に位置ずれしないようにする必要がある。ジャーナル部とピン部の間には、クランクシャフトの軸方向と直交する方向にのびるアーム部が設けられており、対向するアーム部の間に加熱コイル体を配置することにより、加熱コイル体は、両アーム部に拘束されて、熱処理対象のピン部及びジャーナル部の範囲を超えて軸方向に移動することが防止されていた。
【0010】
ただし、クランクシャフトの最も端に設けられたジャーナル部(エンドジャーナル部)のみは、一方側にしかアーム部がないため、エンドジャーナル部を高周波誘導加熱する加熱コイル体は、アーム部が存在しない側への自由な移動ができてしまい、軸方向の位置を固定することができない。
【0011】
そこで、エンドジャーナル部を高周波誘導加熱する加熱コイル体を、アーム部に向かって押圧する押圧部材を設け、当該加熱コイル体の軸方向への移動を阻止することができる構成が特許文献1に開示されている。
【0012】
特許文献1に開示された高周波焼入装置は、クランクシャフトにおける軸方向の一方側のみがアーム部に隣接している最端部のジャーナル部を高周波焼入する加熱コイル(コイル体)を、クランクシャフトの端部外方からアーム部側に押圧することにより、クランクシャフトに対する加熱コイルの位置ずれを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特許第3723316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、昨今のエンジンは小型化が図られ、クランクシャフトも小型化されている。
すなわち、クランクシャフトの軸方向の長さを短くするために、図9に示すような、アーム部が省略された形態のクランクシャフトWが開発されている。図9に示すクランクシャフトWには、アーム部が設けられていない。
【0015】
図9に示すクランクシャフトWの端のジャーナル部J(エンドジャーナル部)と、このジャーナル部Jと隣接するピン部Pを同時に高周波焼入する場合、特許文献1に開示されたような従来の高周波焼入装置のような押圧装置で、ジャーナル部Jを高周波焼入するコイル体と、ピン部Pを高周波焼入するコイル体のいずれを押圧しても、二つのコイル体をそれぞれ適切な位置に固定することはできない。
【0016】
そこで本発明は、軸状ワークの隣接する少なくとも二つの高周波誘導加熱対象部位を、同時に高周波誘導加熱する際に、個々の高周波誘導加熱対象部位に対して加熱コイルを適切に近接対向させることができる軸状ワーク用の高周波誘導加熱装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するための第1の様相は、高周波電流が通電される加熱コイルを備えた加熱コイル体と一体化されたディスク型トランスを複数有し、前記各ディスク型トランスが互いに近接して軸状ワークの軸方向に一列に配置されて使用される軸状ワーク用の高周波誘導加熱装置であって、各ディスク型トランスのディスク面が軸状ワークの軸方向に垂直であって、当該各ディスク型トランスの間隔を所定間隔に保つと共に、前記軸状ワークと直交する方向への各ディスク型トランスの相対移動を許容する位置保持手段を有し、
前記位置保持手段は、固定部と、固定側部材と移動側部材を有する被挟持部と、押圧部を有し、一列に並んだ全ディスク型トランスの並び方向のうち最も外側のディスク型トランスの外側に固定部が配置され、固定部が配置された反対側で最も外側のディスク型トランスの外側に押圧部が配置されており、隣接するディスク型トランス同士の間に、前記被挟持部が配置されており、前記押圧部は、一方の端のディスク型トランス、又は当該ディスク型トランスと一体の加熱コイル体を前記固定部側へ押さえ付ける機能を有し、前記固定部は、他方の端のディスク型トランス、又は当該ディスク型トランスと一体の加熱コイル体と当接し、各ディスク型トランスの並び方向への前記他方の端のディスク型トランスの移動を阻止する機能を有し、前記被挟持部は、隣接する一方のディスク型トランスに固定されていて、自由回転が可能な複数の球状の転動体を有し、隣接する他方のディスク型トランスと当接してこれらのディスク型トランス同士の間隔を所定間隔に保ち、固定するとともに、前記各転動体が、前記隣接する他方のディスク型トランスに当接し、前記移動側部材は、前記ディスク型トランスの移動に追従して公転移動する軸状ワーク用の高周波誘導加熱装置である。
【0018】
この様相では、位置保持手段は、固定部と、固定側部材と移動側部材を有する被挟持部と、押圧部を有し、一列に並んだディスク型トランスの並び方向のうち最も外側のディスク型トランスの外側に固定部が配置され、固定部が配置された反対側で両側に最も外側のディスク型トランスの外側に押圧部が配置されており、隣接するディスク型トランス同士の間に、被挟持部が配置されている。すなわち、ディスク型トランスには、少なくとも固定部と被挟持部とで挟まれたものと、被挟持部と押圧部とで挟まれたものとが存在する。
また、押圧部は、一方の端のディスク型トランス、又は当該ディスク型トランスと一体の加熱コイル体を固定部側へ押さえ付ける機能を有し、固定部は、他方の端のディスク型トランス、又は当該ディスク型トランスと一体の加熱コイル体と当接し、各ディスク型トランスの並び方向への他方の端のディスク型トランスの移動を阻止する機能を有する。
そして、被挟持部は、隣接する一方のディスク型トランスに固定されていて、隣接する他方のディスク型トランスと当接してこれらのディスク型トランス同士の間隔を所定間隔に保ち、固定するとともに、前記各転動体が、前記隣接する他方のディスク型トランスに当接し、前記移動側部材は、前記ディスク型トランスの移動に追従して公転移動する。
すなわち、押圧部がディスク型トランス、又は当該ディスク型トランスと一体の加熱コイル体を押圧すると、当該ディスク型トランスから被挟持部を介して隣接する別のディスク型トランスに押圧力が伝達される。つまり、移動側部材を固定側部材に押し付けた状態を保ちながら、移動側部材を公転移動させる。被挟持部材は、加熱コイル体の移動に追従しながら、当該ディスク型トランスから隣接する別のディスク型トランスに押圧力を伝達することができる。
【0019】
前記押圧部は、当該押圧部が押圧するディスク型トランス、又は当該ディスク型トランスと一体の加熱コイル体における、前記軸状ワークと直交する方向への移動に追従するのが好ましい。
【0020】
この構成によれば、押圧部は、当該押圧部が押圧するディスク型トランス、又は当該ディスク型トランスと一体の加熱コイル体における、前記軸状ワークと直交する方向への移動に追従するので、押圧部に押圧されるディスク型トランス、又は当該ディスク型トランスと一体の加熱コイル体は、前記軸状ワークと直交する方向に円滑に移動することができる。
【0021】
前記軸状ワークが、ジャーナル部とピン部を有し、前記ジャーナル部とピン部の接続部分の表面が、前記軸状ワークと直交する方向に突出していないクランクシャフトであり、 前記固定部は、前記クランクシャフトの前記ジャーナル部に配置されるディスク型トランス、又は当該ディスク型トランスと一体の加熱コイル体に当接するものであり、前記押圧部は、前記ジャーナル部と隣接するピン部に配置されるディスク型トランス、又は当該ディスク型トランスと一体の加熱コイル体を押圧する場合に、前記押圧部材は、当該被挟持部材を構成する移動側部材を、当該被挟持部材を構成する固定側部材に押し付けた状態を保ちながら、前記被挟持部材によって、前記軸状ワークと直交する方向への当該ディスク型トランス、又は当該ディスク型トランスと一体の加熱コイル体の移動に追従して、移動させられる軸状ワーク用の高周波誘導加熱装置である。
【0022】
前記押圧部は、ディスク型トランス、又は当該ディスク型トランスと一体の加熱コイル体を押さえ付けた際に、撓んで当該押さえ付けた力に抗するコイルバネを有し、前記押圧部における当該コイルバネ前記軸状ワークと直交する方向への当該ディスク型トランス、又は当該ディスク型トランスと一体の加熱コイル体の移動に追従することが好ましい。
【0023】
この構成によれば、押圧部は、ディスク型トランス、又は当該ディスク型トランスと一体の加熱コイル体を押さえ付けると、撓んで当該力に抗するコイルバネを有し、前記押圧部における当該コイルバネ前記軸状ワークと直交する方向への当該ディスク型トランス、又は当該ディスク型トランスと一体の加熱コイル体の移動に追従することから、コイルが追従機構を構成するので、追従機構が簡易な構成で実現できる。すなわち、ディスク型トランス、又はディスク型トランスと一体の加熱コイルと押圧部が接触する部位を、例えば摩擦力で固定すると、ディスク型トランス、又はディスク型トランスと一体の加熱コイル体が円軌道を描いて移動した際に、この円軌道の移動に追従して押圧部における撓むコイルバネの撓み方向が変化する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によると、軸状ワークにおける個々の高周波誘導加熱対象部位に対して加熱コイルを適切に近接対向させ、各熱処理対象部位を良好に高周波誘導加熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本実施形態に係る高周波誘導加熱装置の概略系統図である。
図2】本実施形態に係る高周波誘導加熱装置における、ディスク型トランスが一体化された2つの加熱コイル体が、ワークに近接配置されている状態を示す斜視図である。
図3図2において、ワークから2つの加熱コイル体を離間させ、さらにワークから固定部材を外した状態を示す斜視図である。
図4図3のワーク、固定部材、及びディスク型トランスが一体化された2つの加熱コイル体を、異なる角度位置から見た斜視図である。
図5図2図4のディスク型トランスが一体化された2つの加熱コイル体がワークであるクランクシャフトのジャーナル部とピン部に近接した状態を示す側面図であり、(a)は、上死点位置にあるピン部に一方の加熱コイル体が近接している状態を示し、(b)は、下死点位置にあるピン部に一方の加熱コイル体が近接している状態を示す。
図6】ワークと2つの加熱コイル体が離間している状態を示す側面図である。
図7】位置保持機構の、(a)は側面図であり、(b)は分解斜視図である。
図8図7(b)とは異なる角度位置から視た位置保持機構の分解斜視図である。
図9】本実施形態において、高周波誘導加熱する対象のワークの斜視図である。
図10】(a)~(d)は、ワークが回転した際における、被挟持部材の固定側部材と移動側部材の位置関係を仮想的に示す正面図である。
図11図2とは別の実施形態に係る高周波誘導加熱装置における、ディスク型トランスが一体化された2つの加熱コイル体が、ワークに近接配置されている状態を示す斜視図である。
図12図11の位置保持機構の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、軸状ワークW用の高周波誘導加熱装置1は、高周波発振器2、ディスク型トランス3(3a、3b)、加熱コイル4(4a、4b)を有する。
【0027】
高周波誘導加熱装置1は、商用電源20と接続されている。
高周波発振器2は、商用電源20から供給される電力を、高周波化してディスク型トランス3(3a、3b)に出力する。ディスク型トランス3(3a、3b)は、一次側(一次巻線)が高周波発振器2に接続されており、二次側(二次巻線)が加熱コイル4(4a、4b)に接続されている。
【0028】
図2に示すように本実施形態では、高周波誘導加熱装置1は二つのディスク型トランス3a、3bを有している。すなわち、ディスク型トランス3a、3bは、図1の高周波発振器2に対して並列に接続されており、ディスク型トランス3a、3bのそれぞれに加熱コイル4a、4bが接続されている。
【0029】
ディスク型トランス3a、3bは、若干大きさが相違するものの、基本的な構造は同じであるため、以下ではディスク型トランス3aについて説明し、ディスク型トランス3bの重複する説明は省略する。
【0030】
ディスク型トランス3aの外形形状は、図2に示すように、薄い箱形状を呈している。
ディスク型トランス3aは、剛性を有すると共に電磁誘導を受けにくい素材で構成された筐体12aを有する。すなわち、筐体12aの内部に一次巻線及び二次巻線が設けられており、筐体12aがディスク型トランス3aの外形(輪郭)を構成している。
筐体12aの下部には、接続端子9a、9b(図1図2)が設けられている。図1に示すように、接続端子9a、9bは、二次巻線の両端に設けられた端子である。
【0031】
また、筐体12aの上部には、係合部10が設けられている。係合部10は、図示しない固定構造物に吊り下げ部材22(チェーン)を介して吊り下げ支持された支持部材11に取付けられている。すなわち、係合部10は、支持部材11に連結軸14で連結されている。連結軸14は、支持部材11と係合部10を貫通している。また、連結軸14は、後述のワークW(クランクシャフト)にディスク型トランス3aを配置した際における、クランクシャフトWの軸方向と平行に延びている。係合部10と支持部材11の間には、連結軸14の延びる方向にクリアランスは設けられていない。すなわち、係合部10(ディスク型トランス3a)は、支持部材11(固定構造物)に対して連結軸14を介して揺動のみ可能に支持されている。
【0032】
また、ディスク型トランス3aの上方には、図示しない固定構造物と一体化された張出部材16が設けられている。張出部材16は、剛性を有しており、ディスク型トランス3aの動作に拘わらず、位置が固定された部材である。
【0033】
次に加熱コイル4a、4bについて説明する。
加熱コイル4a、4bは、大きさが若干相違するが、基本的な構造は同じであり、以下では加熱コイル4aについて説明し、加熱コイル4bの重複する説明は省略する。
【0034】
加熱コイル4aは、銅又は銅合金等の良導体で形成された管部材で構成されている。加熱コイル4a内には、冷却液を循環供給することができる。図1に示すように加熱コイル4aは、一対のリード部13a、13bと近接対向部13cを有する。リード部13a、13bの端部には、それぞれ接続端子8a、8b(図1図2)が設けられている。接続端子8a、8bは、それぞれディスク型トランス3aの接続端子9a、9bと通電可能に接続されている。また、近接対向部13cは、ワークW(クランクシャフト)に近接対向する部位である。近接対向部13cは、中心角が略180度の円弧形状の半開放構造を呈している。
【0035】
また、加熱コイル4aは、剛性を有すると共に電磁誘導を受けにくい素材で構成された側板5a、5b(図2)の間に設置されている。側板5a、5bは、所定の間隔を置いて平行に配置されている。また、両側板5a、5bには、加熱コイル4aの近接対向部13cに沿った円弧状に切り欠かれた部位があり、この円弧状に切り欠かれた部位の複数箇所(各側板5a、5bのそれぞれ3カ所)にスペーサ15a~15c(図1)が設置されている。各スペーサ15a~15cは、加熱コイル4aの近接対向部13cよりも半径方向の内側へ突出している。
【0036】
また、加熱コイル4aよりも下方の位置には、冷却液を噴射する冷却ジャケット6(図2)が設けられている。冷却ジャケット6は、図示しない冷却液の供給源から供給された冷却液(焼入水)を、ワークWの昇温した部位に向けて噴射する機能を有する。
【0037】
側板5a、5bと、側板5a、5bに固定された複数のスペーサ15a~15c、加熱コイル4、及び冷却ジャケット6は一体化されており、これらによって加熱コイル体7a(7b)が構成されている。
【0038】
加熱コイル4a(リード部13a、13b)の両端の前述の接続端子8a、8bは、加熱コイル体7aの上部に設けられている。加熱コイル体7aは、接続端子8a、8bを介してディスク型トランス3aの接続端子9a、9bと接続されている。加熱コイル4a側の接続端子8a、8bとディスク型トランス3a側の接続端子9a、9bが接続されると、ディスク型トランス3a(二次側)と加熱コイル4aは通電可能な状態になる。
【0039】
ディスク型トランス3aと加熱コイル体7aは、通電可能に接続されていると共に、ディスク型トランス3aの筐体12aと加熱コイル体7aの筐体(側板5a、5b)が一体化されている。
【0040】
支持部材11には、吊り下げたディスク型トランス3aをバランスするためのその他の構成が設けられているが、本発明の主要部とは直接関係がないため、説明を省略する。
【0041】
高周波誘導加熱装置1の誘導加熱対象のワークWは、図9に示すように、ピン部PA、PBと、ジャーナル部JA、JBを有するクランクシャフト(軸状ワーク)である。ジャーナル部JA、JBは、ワークWの長手方向の両側に配されている。ジャーナル部JAにはピン部PAが隣接して連続しており、ジャーナル部JBにはピン部PBが隣接して連続している。ピン部PAとピン部PBの間には、偏芯部Hが設けられている。すなわち、ワークWは、端から順にジャーナル部JA、ピン部PA、偏芯部H、ピン部PB、ジャーナル部JBが連続した構造を有する。
【0042】
ジャーナル部JAとピン部PAの接続部分の表面は、ワークWの半径方向外側に突出しておらず、ジャーナル部JAとピン部PAは滑らかに連続している。ジャーナル部JA、JBの中心は、ワークWの回転中心と一致している。また、ピン部PA、PBの中心は、ワークWの回転中心から外れており、ピン部PA、PBの位相は、180度ずれている。
【0043】
さらに、熱処理前のワークWには、ジャーナル部JAよりも端部側に余長部EAが設けられている。余長部EAは、端からジャーナル部JA側へいくほど大径となるテーパ面を構成している。また、余長部EAは、ワークWの熱処理が完了したら切断される部位である。同様に、ジャーナル部JBよりも端部側には余長部EBが設けられている。余長部EBは、円筒形状を呈している。余長部EBもワークWの熱処理が完了すると切断される。
【0044】
次に、本発明の主要部である位置保持機構21(位置保持手段)について図7図8を参照しながら説明する。位置保持機構21は、ワークWの特定の位置に加熱コイル体7a、7bを保持する機能を有する。図7(a)、図7(b)、図8に示すように、位置保持機構21は、固定部材23(固定部)、被挟持部材24(被挟持部)、押圧部材25(押圧部)を有している。ディスク型トランス3a、3b(全ディスク型トランス)の並び方向の両側に固定部材23と押圧部材25が配置されており、隣接するディスク型トランス3a、3bの間に、被挟持部材24が配置されている。
【0045】
固定部材23(固定部)は、ワークWを回転可能に支持する回転支持部材(センタピン)に外嵌して装着される部材である。固定部材23は、剛性を有する筒状部材26と環状の当接部材27を有する。特に、当接部材27は、耐摩耗性に優れた素材で構成されている。当接部材27は、筒状部材26に対して同芯となるようにネジ止め等によって一体化されている。
【0046】
筒状部材26の内径は、ワークW(余長部EA)よりも大径であり、且つ、回転支持部材に固定できる大きさである。また、当接部材27の内径は、ワークWの余長部EAやジャーナル部JAよりも大径である。
【0047】
固定部材23が回転支持部材に取り付けられると、当接部材27は、ワークWと接触することなくジャーナル部JAと同芯に配置される。さらに、ワークWの余長部EAとジャーナル部JAの境界Kが含まれる鉛直面又はその付近に、当接部材27の端面が配置される。
【0048】
押圧部材25(押圧部)は、本体部28と当接機構部29を有する。押圧部材25は、ディスク型トランス3a、又はディスク型トランス3aと一体の加熱コイル体7aを固定部材23側へ押さえ付ける機能を有する。
【0049】
本体部28は、剛性を有しており、押圧部材25の骨格を構成している。本体部28は、取付部28a、延伸部28b、補強部28c、先端部28dを有している。
取付部28aは、平板状の部位であり、張出部材16にネジ止め等の固定手段によって固定される部位である。
延伸部28bは、取付部28aと連続すると共に取付部28aと平行(又は略平行)に延びる部位である。
補強部28cは、延伸部28bの長手方向に沿って延びており、延伸部28bと一体化して延伸部28bを補強する部位である。
先端部28dは、延伸部28bの自由端側に設けられた部位であり、当接機構部29を装着する部位である。
【0050】
先端部28dには、当接機構部29が固定されている。当接機構部29は、支持部29aと、押当部29bを有する。
【0051】
支持部29aは、細長い板状の部材を屈曲させて構成されており、一端が先端部28dに固定されており、自由端である他端付近に取付孔29cが設けられている。
【0052】
押当部29bは、コロ30a、保持部30b、取付部30cを有している。
コロ30aは、剛性を有する球体構造の部材である。保持部30bは、コロ30aを保持することができ、コロ30aの一部が保持部30bから露出している。コロ30aに外力が作用すると、コロ30aは、保持部30bに保持されながら外力に応じて自在に回転することができる。
【0053】
取付部30cは、軸状の部位であり、一端が保持部30bにおけるコロ30aが露出した部位とは反対側に固定されている。すなわち、取付部30cと保持部30bは一体である。取付部30cは、支持部29aの取付孔29cに取り付けられている。取付部30cが雄ネジであり、取付孔29cが雌ネジであるのが好ましい。
【0054】
すなわち、押当部29bは、先端部28dに対する押当部29b(コロ30a)の位置を微調整することができる。支持部材11(吊り下げ部材22)に吊り下げられた後述のディスク型トランス3aの筐体12aの表面に、コロ30aがちょうど当接するように、保持部30bに対するコロ30aの取り付け位置を調整することができる。本体部28が剛性を有しているので、張出部材16(固定構造物)に対するコロ30aの位置は固定されている。
【0055】
被挟持部材24(被挟持部)は、固定側部材31と、移動側部材32を有する。
【0056】
固定側部材31は、耐摩耗性を有する素材で構成された円板状の部材であり、一方の面が取付面31aを構成し、他方の面が当接面31bを構成している。固定側部材31は、後述のディスク型トランス3bの筐体12にネジ止め等の固定手段によって固定されている。その際、取付面31aが筐体12に密着し、当接面31bが露出面となる。当接面31bは摩擦係数が小さい平坦面を構成している。なお、この固定側部材31は、省略が可能であり、被挟持部材24は、後述の移動側部材32のみで構成することもできる。
【0057】
移動側部材32は、台座32aと押当部33a~33cを有する。
押当部33a~33cは、前述の押圧部材25の押当部29bと同様の機構を備えており、保持部34a~34cと球状のコロ35a~35c(転動体)を有する。すなわち、押当部33a~33cは、筐体として機能する保持部34a~34cに対して、コロ35a~35cが一部を露出した状態で保持された構造を有する。コロ35a~35cは、各々保持部34a~34cに対して自由回転が可能に保持されている。保持部34a~34cにおけるコロ35a~35cが露出した部位とは反対側の部位には取付部36a~36cが突出している。
【0058】
台座32aは、複数の押当部33a~33cを等角度間隔で設置することができる部材であり、本実施形態では円環状を呈している。台座32aには、等角度間隔で取付孔37a~37cが設けられている。各取付孔37a~37cに、押当部33a~33cの取付部36a~36cが装着されて、台座32aに押当部33a~33cが固定されている。取付部36a~36cを雄ネジとし、台座32aの取付孔37a~37cを雌ネジとするのが好ましい。
【0059】
図10(a)~図10(d)に示すように、台座32aの外径は、固定側部材31の外径よりも小さい。すなわち台座32aは、固定側部材31から逸脱することなく、台座32aの中心39が、固定側部材31の中心38を中心として所定の大きさの円軌道を描く公転移動をすることができる。台座32aが円軌道を描いて移動する際、押当部33a~33cの各々のコロ35a~35cは、固定側部材31の範囲内を移動する。すなわち、コロ35a~35cは、台座32aの公転移動中、常時固定側部材31に当接している。
【0060】
次に、位置保持機構21のレイアウトについて説明する。
図9に示すワークWは、余長部EBが回転駆動される図示しないチャックに把持されており、余長部EAが図示しないセンタピン(支持部材)で支持されている。すなわち、ワークWは回転可能に支持されている。
【0061】
図6に示す固定部材23は、ワークWを回転可能に支持するセンタピンに外嵌するように取り付けられている。この固定部材23が、ワークWの余長部EAの周囲に配置されており、固定部材23の端面が、余長部EAとジャーナル部JAの間の境界Kが含まれる鉛直面内に配置されている。
【0062】
また、図3図6に示すように、被挟持部材24の固定側部材31は、耐摩耗性を有し、ディスク型トランス3bの筐体12bにおける、ディスク型トランス3a側に面する部位に固定されている。すなわち、固定側部材31は、ディスク型トランス3bと一体化している。図4図6に示すように、固定側部材31に対応する移動側部材32(台座32a)は、ディスク型トランス3aの筐体12aにおける、ディスク型トランス3bに面する部位に固定されている。
【0063】
さらに、押圧部材25は、ディスク型トランス3aの筐体12aにおけるディスク型トランス3bとは反対側(図6で見て右側)の面に配置されている。押圧部材25は、ディスク型トランス3aを吊り下げる吊り下げ部材22と一体の支持部材11に取り付けられている。押圧部材25の押当部29b(コロ30a)が、ディスク型トランス3aの筐体12aに当接している。
【0064】
ディスク型トランス3aの一方側(図6で見て右側)には押圧部材25が設けられており、他方側(図6で見て左側)には被挟持部材24の移動側部材32が取り付けられている。また、ディスク型トランス3bの一方側(図6で見て右側)には被挟持部材24の固定側部材31が取り付けられている。
【0065】
さらに、ディスク型トランス3bの他方側(図6で見て左側)に取り付けられる部材は存在しないが、ディスク型トランス3b(加熱コイル体7b)をジャーナル部JAに配置すると、加熱コイル体7bにおける固定側部材31が配置された側とは反対側に固定部材23が配置される。そして、加熱コイル体7b(側板5b)に固定部材23の環状の当接部材27が当接する。
【0066】
さらに、ディスク型トランス3aをワークWのピン部PAに配置すると、ディスク型トランス3bに固定された固定側部材31と、ディスク型トランス3aに固定された移動側部材32が対向し、固定側部材31に移動側部材32の押当部33a~33c(コロ35a~35c)が当接する。
【0067】
次に、高周波誘導加熱装置1(図1)によって、ワークWを高周波誘導加熱する際の、ワークW、ディスク型トランス3a、3b(加熱コイル体7a、7b)、位置保持機構21の位置関係について説明する。
【0068】
図6に示すワークWに対し、図5(a)に示すように、ディスク型トランス3a、3bが一体化された加熱コイル体7a、7bと、固定部材23を配置する。
【0069】
また、図5(a)に示すように、ディスク型トランス3bは、加熱コイル体7bの側板5bが、固定部材23の環状の当接部材27に当接するように、加熱コイル4bをジャーナル部JA(図6)に近接配置する。すなわち、ディスク型トランス3b及び加熱コイル体7bが、当該位置にくるように吊り下げ部材22を駆動する。
【0070】
その結果、図1に示すスペーサ15aがワークW(ジャーナル部JA)に当接し、ジャーナル部JAに対する加熱コイル体7b及びディスク型トランス3bの高さ方向の位置が設定される。換言すると、ディスク型トランス3b及び加熱コイル体7bは、ジャーナル部JA上に載置され、ジャーナル部JA上で水平方向のバランスをとっている。
【0071】
図1に示す左右のスペーサ15b、15cの間隔は、ワークWの直径よりも若干大きい。加熱コイル体7bのスペーサ15b、15cの間隔は、ジャーナル部JAの直径より若干大きい。
【0072】
また、加熱コイル体7bの側板5bが、固定部材23の環状の当接部材27に当接し、加熱コイル体7b及びディスク型トランス3bの水平方向(ワークWの軸芯方向)の位置が固定される。このとき、加熱コイル体7bの加熱コイル4bは、ジャーナル部JAの略半周に渡る領域に近接対向している。
【0073】
また、ディスク型トランス3aと一体の加熱コイル体7aの加熱コイル4aを、ワークWのピン部PAに近接させる。すなわち、ディスク型トランス3a及び加熱コイル体7aが、当該位置にくるように吊り下げ部材22を駆動する。
【0074】
その結果、図1に示すスペーサ15aがワークW(ピン部PA)に当接し、ピン部PAに対する加熱コイル体7a及びディスク型トランス3aの高さ方向の位置が設定される。換言すると、ディスク型トランス3a及び加熱コイル体7aは、ピン部PA上に載置され、ピン部PA上で水平方向のバランスをとっている。このとき、加熱コイル4aがピン部PAの略半周に渡る領域に近接対向する。図1に示す左右のスペーサ15b、15cの間隔は、ワークWの直径よりも若干大きい。加熱コイル体7aのスペーサ15b、15cの間隔は、ピン部PAの直径より若干大きい。
【0075】
図5(a)に示すように、ワークWのピン部PAが上死点位置にあるときには、加熱コイル体7a(ディスク型トランス3a)は、上昇位置にある。また、図5(b)に示すように、ワークWのピン部PAが下死点位置にあるときには、加熱コイル体7a(ディスク型トランス3a)は、下降位置にある。
【0076】
図5(a)、図5(b)に示すように、ディスク型トランス3a、3bの間には空間Dが形成されているが、加熱コイル体7a、7bは近接している。
すなわち、ワークWのジャーナル部JAとピン部PAが隣接しているため、加熱コイル体7a(加熱コイル4a)と加熱コイル体7b(加熱コイル4b)は、ワークWの軸方向に近接している必要がある。
【0077】
一方、加熱コイル体7a、7bと一体のディスク型トランス3a、3bは近接している必要はなく、本実施形態では、ディスク型トランス3a、3bの間に空間D(図5(a))を設けている。この空間Dに、被挟持部材24が配置されている。
【0078】
加熱コイル4aをピン部PAに近接対向させると、図5(a)、図5(b)に示すように、ディスク型トランス3aの筐体12aに固定した被挟持部材24の移動側部材32が、ディスク型トランス3bの筐体12bに固定された固定側部材31に対向して当接する。
【0079】
ディスク型トランス3aの筐体12aにおける移動側部材32が設けられた側とは反対側には押圧部材25が設けられている。押圧部材25の当接機構部29(コロ30a)は、ディスク型トランス3aの筐体12aに当接している。
【0080】
押圧部材25(当接機構部29)がディスク型トランス3aを押圧すると、その押圧力は被挟持部材24の移動側部材32のコロ35a~35c(図4)を介してディスク型トランス3bに固定された固定側部材31に伝達される。
【0081】
すなわち、ディスク型トランス3a側の被挟持部材24の移動側部材32がディスク型トランス3b側の被挟持部材24の固定側部材31に当接するように、ディスク型トランス3a及び加熱コイル体7aは、吊り下げ部材22で吊り下げられている。すなわち、被挟持部材24の固定側部材31に移動側部材32のコロ35a~35cが当接することにより、ディスク型トランス3a、3bの間隔が所定間隔に保たれている。
【0082】
さらに、張出部材16に固定された押圧部材25がディスク型トランス3aを押圧するため、固定部材23から離れる方向へのディスク型トランス3aの移動が阻止されている。これにより、ディスク型トランス3a及び加熱コイル体7aの水平方向の位置が固定されている。
【0083】
次に、ワークWを高周波誘導加熱する際の、位置保持機構21の動作について説明する。
【0084】
高周波誘導加熱装置1の高周波電源側から加熱コイル4a、4bに高周波電力が供給されると、加熱コイル4a、4bには高周波電流が通電され、加熱コイル4a、4bに近接しているジャーナル部JAとピン部PAが高周波誘導加熱される。
【0085】
その際、ワークWは回転駆動されており、ワークWが1回転する毎に、ジャーナル部JAとピン部PAの全周囲が順に加熱コイル4a、4bと対向し、均一に高周波誘導加熱されて焼入温度まで昇温する。
【0086】
ジャーナル部JAが回転(自転)する間、ジャーナル部JAに配置された加熱コイル4b(加熱コイル体7b)は、その場で停止しており、ジャーナル部JAの全周面に順に近接する。一方、ピン部PAは、ワークWが回転すると、ワークWの回転中心の周囲を、円軌道を描いて回転(公転)する。
【0087】
図5(b)は、ピン部PAが下死点位置にある状態を示している。ピン部PAが下死点位置にくると、加熱コイル体7a及び加熱コイル体7aと一体のディスク型トランス3aも追従して下降する。
【0088】
そのため、加熱コイル体7a、7bは相対的に移動する。すなわち、ピン部PAの公転移動と同様に加熱コイル体7a及びディスク型トランス3aが回転する。その際、被挟持部材24の固定側部材31と移動側部材32(コロ35a~35c)が相対移動し、コロ35a~35cは固定側部材31から外力を受けて回転する。すなわち、コロ35a~35cは、固定側部材31に押し付けられながら固定側部材31上を転がる。
【0089】
その結果、加熱コイル体7aは、ピン部PAの公転移動に円滑に追従することができる。すなわち、加熱コイル体7aは、ワークWの軸方向の位置が、位置保持機構21によってピン部PAの位置に維持されながら、公転移動するピン部PAに追従することができる。そのため、ピン部PAは、高周波電流が通電された加熱コイル4aによって良好に高周波波誘導加熱される。
【0090】
また、ディスク型トランス3b(固定側部材31)が、ディスク型トランス3a(移動側部材32)に押圧されているため、加熱コイル体7bは、常時固定部材23(当接部材27)に押し付けられており、ワークWの軸芯方向の加熱コイル体7bの位置がジャーナル部JAの位置に維持される。そのため、ジャーナル部JAは、高周波電流が通電された加熱コイル4bによって良好に高周波誘導加熱される。
【0091】
このときの位置保持機構21の動作を、図10(a)~図10(d)を参照しながらさらに説明する。
【0092】
図10(a)~図10(d)は、ワークWのジャーナル部JAにディスク型トランス3bと一体の加熱コイル体7bを配置し、ピン部PAにディスク型トランス3aと一体の加熱コイル体7aを配置した際における、位置保持機構21の固定側部材31と移動側部材32の位置関係を示す正面図である。すなわち、図10(a)~図10(d)は、ディスク型トランス3aの描写を省略し、固定側部材31と移動側部材32の位置関係を示したものである。
【0093】
図10(a)は、ピン部PAが上死点位置(最も高さ位置が高い位置)にあるときにおける固定側部材31に対する移動側部材32の位置を示している。
図10(b)は、図10(a)の回転角度位置から90度回転したときにおける固定側部材31に対する移動側部材32の位置を示している。
図10(c)は、図10(a)の回転角度位置から180度回転し、ピン部PAが下死点位置(最も高さ位置が低い位置)にあるときにおける固定側部材31に対する移動側部材32の位置を示している。
図10(d)は、図10(a)の回転角度位置から270度回転したときにおける固定側部材31に対する移動側部材32の位置を示している。
【0094】
ジャーナル部JAの中心は、ワークWの回転中心と一致しているため、ワークWが回転しても、ジャーナル部JAの高さ位置は変化しない。すなわち、ジャーナル部JAに近接対向する加熱コイル体7b及びディスク型トランス3bの位置は変化しない。
【0095】
一方、ピン部PAの中心は、ワークWの回転中心から外れた位置にあるため、ワークWが回転すると、ピン部PAは、ワークWの回転中心の周囲を公転(円軌道を描いて移動)する。そのため、ピン部PAに近接対向する加熱コイル体7a及びディスク型トランス3aは、ピン部PAに追従して移動する。
【0096】
そのため、ワークWが1回転する間に、停止したディスク型トランス3bに固定された固定側部材31に対して、円軌道を描いて移動するディスク型トランス3aに固定された移動側部材32が、図10(a)~図10(d)に示すように相対移動する。
【0097】
図10(a)~図10(d)に示すように、ワークWが1回転する間に、移動側部材32の押当部33a~33cは、固定側部材31の当接面31bの範囲内でディスク型トランス3aの移動に追従して移動する。そのため、移動側部材32は、固定側部材31に対して円滑に移動することができる。すなわち、移動側部材32を固定側部材31に押し付けた状態を保ちながら、移動側部材32(加熱コイル体7a)を公転移動させることができる。換言すると、被挟持部材24は、ディスク型トランス3aと一体の加熱コイル体7aの円軌道を描く移動に追従して、押当部33a~33c(コロ35a~35c)を移動させる追従機構を構成している。
【0098】
その結果、加熱コイル体7b(側板5b)が固定部材23に当接し、ワークWの軸芯方向の加熱コイル体7bの位置が固定されて、高周波電流が通電された加熱コイル4bによってジャーナル部JAの全周面が均一に高周波誘導加熱される。また、被挟持部材24の固定側部材31と移動側部材32が当接することにより、ディスク型トランス3aのワークWの軸芯方向の位置が固定されるので、高周波電流が通電された加熱コイル4aによってピン部PAの全周面が均一に高周波誘導加熱される。
【0099】
ジャーナル部JAとピン部PAの高周波誘導加熱後(両部位が焼入温度まで昇温した後)、加熱コイル4a、4bへの高周波電流の通電を停止し、さらに、個々の加熱コイル体7a、7bに設けられた冷却ジャケット6(図2)から冷却液をジャーナル部JA及びピン部PAに噴射供給して両部位を急冷し、高周波焼入が完了する。
【0100】
このように、本実施形態に係る高周波誘導加熱装置1によると、軸状のワークW(クランクシャフト)に、加熱コイル体7a、7bを軸方向に支持する部位(従来のクランクシャフトのアーム部)が存在しなくても、加熱コイル4a、4bを隣接するジャーナル部JA、ピン部PAの位置に保持することができる。これにより、ワークWを良好に高周波誘導加熱(高周波焼入)することができる。
【0101】
本実施形態では、ディスク型トランス3bに被挟持部材24の固定側部材31を固定した場合について説明したが、固定側部材31は省略することもできる。すなわち、ディスク型トランス3bの筐体12bの表面に凹凸がなく、筐体12bが耐摩耗性を有している場合には、位置保持機構21は、固定側部材31を設けず移動側部材32のみで構成し、筐体12bに移動側部材32のコロ35a~35cを直に接触させてもよい。
【0102】
この場合には、移動側部材32の台座32aと筐体12a(ディスク型トランス3a)の間にスペーサを設けることにより、両ディスク型トランス3a、3bの間隔を所定間隔(加熱コイル4aが、ピン部PAに適正に近接対向する間隔)にすることができる。また、押当部33a~33cの取付部36a~36c(図8)に座金(図示せず)を設けることによってコロ35a~35cの突出位置を調整することもできる。
【0103】
また、本実施形態では、押圧部材25(押圧部)がディスク型トランス3aの筐体12を押圧する場合について説明したが、押圧部材25は、加熱コイル体7a(側板5a)を押圧してもよい。
【0104】
さらに、本実施形態では、固定部材23(固定部)は、ディスク型トランス3bと一体の加熱コイル体7bの側板5bに当接する場合について説明したが、代わりに、固定部材23がディスク型トランス3bの筐体12bに当接するようにしてもよい。
【0105】
次に、位置保持機構21の変形例について図11図12を参照しながら説明する。
図11図12に示す位置保持機構41は、押圧部材45と、図8に示す位置保持機構21と同様の固定部材23及び被挟持部材24を有する。
【0106】
すなわち、位置保持機構41と位置保持機構21とでは、押圧部材45のみが押圧部材25と相違しており、その他の構成は同じである。よって、ここでは重複する説明は省略し、押圧部材45の構成について説明する。
【0107】
押圧部材45(押圧部)は、本体部48と当接機構部49を有する。
本体部48は、剛性を有しており、押圧部材45の骨格を構成している。本体部48は、取付部48a、延伸部48b、補強部48c、先端部48dを有している。
取付部48aは、平板状の部位であり、図示しない固定構造物にネジ止め等の固定手段によって固定される部位である。
延伸部48bは、取付部48aと連続すると共に取付部48aと平行(又は略平行)に延びる部位である。
補強部48cは、延伸部48bの長手方向に沿って延びており、延伸部48bと一体化して延伸部48bを補強する部位である。
先端部48dは、延伸部48bの自由端側に設けられた部位であり、当接機構部49を装着する部位である。
【0108】
先端部48dには、当接機構部49が固定されている。当接機構部49は、支持部49aと、押当部49bを有する。
【0109】
支持部49aは、細長い板状の部材を屈曲させて構成されており、一端が先端部48dに固定されており、自由端である他端に押当部49bが取り付けられている。
【0110】
押当部49bは、コロ50a、保持部50bを有している。
コロ50aは、剛性を有する球体構造の部材である。保持部50bは、コロ50aを保持することができ、コロ50aの一部が保持部50bから露出している。コロ50aに外力が作用すると、コロ50aは、保持部50bに保持されながら外力に応じて自在に回転することができる。
【0111】
押圧部材25が張出部材16に取り付けられて、延伸部28bが上下方向に延びているのに対し、押圧部材45は、延伸部48bが水平方向に延びて、側方にある図示しない固定構造物に取り付けられている。
【0112】
押圧部材45のコロ50aが、ディスク型トランス3aの筐体12aを押圧し、ディスク型トランス3aに固定された移動側部材32がディスク型トランス3bに固定された固定側部材31を押圧する。また、ディスク型トランス3bと一体の加熱コイル体7bの側板5bが、固定部材23に当接している。そのため、ワークWの軸芯方向におけるディスク型トランス3a、3b(加熱コイル体7a、7b)の位置は固定されており、加熱コイル体7a、7b(加熱コイル4a、4b)は、それぞれピン部PA、ジャーナル部JAに近接対向する。すなわち、加熱コイル4a、4bの位置が、ワークWの軸芯方向にずれることがない。そのため、ワークWのジャーナル部JAとピン部PAは、良好に高周波誘導加熱(高周波焼入)される。
【0113】
以上説明した各実施形態では、加熱コイル体7a、7bに一体化された二つのディスク型トランス3a、3bについて説明したが、軸状ワークの同時に高周波誘導加熱する箇所が三カ所以上ある場合には、これら三カ所以上の各々の熱処理対象部位に加熱コイル体が一体化されたディスク型トランスが配置される。すなわち、加熱コイル体が一体化されたディスク型トランスが、三つ以上一列に並ぶように配置されており、そのディスク型トランスの列の両側に固定部材(固定部)と押圧部材(押圧部)を配置し、隣接する各ディスク型トランスの間に、それぞれ被挟持部材(被挟持部)を配置する。
【0114】
このように構成すると、ディスク型トランスに一体化された各加熱コイル体の加熱コイルが、軸状ワークの各々の熱処理対象部位に対向配置され、軸状ワークの軸方向に位置ずれすることがない。また、各ディスク型トランス同士が、互いに円滑に軸状ワークの軸方向(各ディスク型トランスが並ぶ方向)と直交する方向に相対移動することができる。
【0115】
以上の実施形態では、押圧部としての押圧部材25(位置保持機構21)や、押圧部材45(位置保持機構41)は、ディスク型トランス3aの円軌道を描く移動に追従(同期)して移動するものであった。
【0116】
本発明の押圧部としては、これ以外に、固定構造物に一端を固定されたコイルバネの先端でディスク型トランス3aの筐体12aを押圧してもよい。この場合には、ディスク型トランス3aが円軌道を描くように移動すると、コイルバネは、途中(中間)の部位が変形しながらディスク型トランス3a(筐体12a)を押圧する。また、コイルバネの代わりに、柔軟性を有するロッドを使用することもできる。
【符号の説明】
【0117】
1 高周波誘導加熱装置
3a、3b ディスク型トランス
4a、4b 加熱コイル
7a、7b 加熱コイル体
21 位置保持機構(位置保持手段)
23 固定部
24 被挟持部
25 押圧部
35a~35c コロ(転動体)
図1
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図12