(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-29
(45)【発行日】2024-06-06
(54)【発明の名称】サブキャリア変調方式テラヘルツレーダー
(51)【国際特許分類】
G01S 7/03 20060101AFI20240530BHJP
G01S 13/34 20060101ALI20240530BHJP
H03B 7/08 20060101ALI20240530BHJP
H03B 19/00 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
G01S7/03 220
G01S13/34
H03B7/08
H03B19/00
(21)【出願番号】P 2019232617
(22)【出願日】2019-12-24
【審査請求日】2022-10-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 集会名:International Conference on Infrared,Millimeter,and THz Waves(IRMMW-THz 2019)(提出物件目録の客観的証拠資料の物件に対応) 発行日:令和1(2019)年9月6日 開催場所:Maison de la Chimie(メゾン・ド・ラ・シミ)(28 rue Saint Dominique 75007 Paris,France)(フランス共和国、75007、パリ、ルー・サン・ドミニク、28) 講演番号:Fr-AM-3-2
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業、探索加速型(本格研究ACCEL型)、「半導体を基軸としたテラヘルツ光科学と応用展開」、「RTDテラヘルツ光源・検出デバイスの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100078776
【氏名又は名称】安形 雄三
(74)【代理人】
【識別番号】100121887
【氏名又は名称】菅野 好章
(74)【代理人】
【識別番号】100200333
【氏名又は名称】古賀 真二
(72)【発明者】
【氏名】浅田 雅洋
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 左文
(72)【発明者】
【氏名】アドリアン ドブロユ
【審査官】石原 徹弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-135007(JP,A)
【文献】特開2014-098668(JP,A)
【文献】特開2012-191520(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0304044(US,A1)
【文献】〇白川 雄介、ドブロユ アドリアン、鈴木 佐文、浅田 雅洋、伊藤 弘 〇Yusuke Shirakawa, Adrian Dobroiu, Safumi Suzuki, Masahiro Asada, Hiroshi Ito,[18p-E206-2]共鳴トンネルダイオードテラヘルツ発振器を用いたサブキャリア周波数変調レーダによる絶対 距離測定法 [18p-E206-2]Absolute Distance Measurement Using a Subcarrier Frequency-Modulated Radar Based on a Terahertz Resonant-Tunneling-Diode Oscillator,2019年 第80回応用物理学会秋季学術講演会[講演予稿集] Extended Abstracts of The 80th JSAP Autumn Meeting 2019 ,公益社団法人応用物理学会 The Japan Society of Applied Physics
【文献】Adrian DOBROIU et al.,“Absolute and Precise Teraherthz-Wave Radar Based on an Amplitude-Modulated Resonant-Tunneling-Diode Oscillator”, Photonics,Photonics,MDPI,2018年11月27日,Vol.5,No.4,p.52,10.3390/photonics5040052
【文献】〇Adrian Dobroiu, Ryotaka Wakasugi, Yusuke Shirakawa, Safumi Suzuki, Masahiro Asada 〇Adrian Dobroiu, Ryotaka Wakasugi, Yusuke Shirakawa, Safumi Suzuki, Masahiro Asada,[11p-S421-7]Terahertz-Wave Amplitude-Modulated Radar Based on a Resonant-Tunneling-Diode Oscillator [11p-S421-7]Terahertz-Wave Amplitude-Modulated Radar Based on a Resonant-Tunneling-Diode Oscillator,2019年 第66回応用物理学会春季学術講演会[講演予稿集] Extended Abstracts of The 66th JSAP Spring Meeting 2019 ,公益社団法人応用物理学会 The Japan Society of Applied Physics
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42
G01S 13/00-13/95
H03B 7/08
H03B 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイアス-T回路を経てバイアスを印加される共鳴トンネルダイオード(RTD)によりテラヘルツ周波数帯の主キャリア信号を発振し、固定された第1被測定物及び可動な第2被測定物に照射するRTD発信器と、
周期的に周波数が変化するギガヘルツ周波数帯のサブキャリア信号を発振して、前記バイアス-T回路に印加するサブキャリア発振器と、
前記第1被測定物からの反射光及び前記第2被測定物からの反射光を検出して復調する検出部と、
前記検出部からの復調信号及び前記サブキャリア信号を混合して中間周波数信号を出力する混合器と、
前記中間周波数信号をフーリエ変換した周波数信号から、前記RTD発信器と前記第1被測定物及び前記第2被測定物との間の距離を演算する距離演算部と、
を具備したことを特徴とするサブキャリア変調方式テラヘルツレーダー。
【請求項2】
前記サブキャリア信号の1周期において線形に周波数が変化するようになっている
請求項1に記載のサブキャリア変調方式テラヘルツレーダー。
【請求項3】
前記RTD発信器と
前記第1被測定物及び前記第2被測定物との間にビームスプリッタが配置されており、
前記RTD発信器からの照射光が前記ビームスプリッタを透過して
前記第1被測定物及び前記第2被測定物に照射されると共に、前記第1被測定物からの反射光及び前記第2被測定物からの反射光が前記ビームスプリッタで反射されて前記検出部に入力されるようになっている
請求項1又は2に記載のサブキャリア変調方式テラヘルツレーダー。
【請求項4】
前記RTD発信器からの
前記照射光は、コリメートレンズを経て平行光にされて前記ビームスプリッタに照射され、前記ビームスプリッタで反射された反射光が集光レンズを経て前記検出部に入力されるようになっている
請求項3に記載のサブキャリア変調方式テラヘルツレーダー。
【請求項5】
バイアス-T回路を経てバイアスを印加される共鳴トンネルダイオード(RTD)によりテラヘルツ周波数帯の主キャリア信号を発振し、ビームスプリッタを経て被測定物に照射するRTD発信器と、
周期的に周波数が変化するギガヘルツ周波数帯の周波数fのサブキャリア信号を発振して、前記バイアス-T回路に印加するサブキャリア信号発振器と、
前記被測定物からの反射光を前記ビームスプリッタを経て検出して復調する検出部と、
前記サブキャリア信号を位相調整して90°の位相差を有する第1サブキャリア信号及び第2サブキャリア信号を出力する位相調整部と、
前記検出部からの復調信号及び前記第1サブキャリア信号を混合して第1中間周波数信号V
Qを出力する第1混合器と、
前記検出部からの復調信号及び前記第2サブキャリア信号を混合して第2中間周波数信号V
Iを出力する第2混合器と、
前記第1中間周波数信号V
Q及び前記第2中間周波数信号V
Iから、前記RTD発信器と前記被測定物との間の距離dsを演算する距離演算部と、
を具備し、
前記RTD発信器から前記ビームスプリッタまでの距離と、前記検出部から前記ビームスプリッタまでの距離とが同じであり、
前記サブキャリア信号発振器から前記RTD発信器、前記被測定物を経て、前記被測定物からの反射光が検出されて前記第1混合器及び前記第2混合器に達するまでの伝搬時間を”t
meas”とし、前記サブキャリア信号発振器から前記第1混合器及び前記第2混合器までの伝搬時間を”t
ref”とし、”A”を定数とした場合、前記第1中間周波数信号V
Q及び前記第2中間周波数信号V
Iは、
であり、
前記距離演算部が、
に基づいて前記距離dsを
によって演算することを特徴とするサブキャリア変調方式テラヘルツレーダー。
【請求項6】
前記サブキャリア信号の各周期において線形に周波数が変化するようになっている
請求項5に記載のサブキャリア変調方式テラヘルツレーダー。
【請求項7】
前記RTD発信器からの照射光は、コリメートレンズを経て平行光にされて前記ビームスプリッタに照射され、前記ビームスプリッタで反射された反射光が集光レンズを経て前記検出部に入力されるようになっている
請求項6に記載のサブキャリア変調方式テラヘルツレーダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体の共鳴トンネルダイオード(RTD(Resonant Tunneling Diode))テラヘルツ(THz)発振器のテラヘルツ周波数帯(約0.1THz~10THz)の主キャリア信号の出力を、周期的に周波数が線形的に変化するサブキャリア信号(約2GHz~30GHz)で強度変調し、サブキャリア信号と復調信号に対する信号処理により被測定物までの距離を測定するレーダーシステムを構成する新たな手法である。本発明のサブキャリア変調方式テラヘルツレーダーによれば、RTD発信器は反射光の再入力の影響を完全に回避でき、主キャリア信号はテラヘルツ波であるため、透過性などテラヘルツ波の特長はそのまま保たれる。また、RTDに印加される直流電源をサブキャリア信号で直接変調(バイアス-T回路)するだけで、簡単に出力のサブキャリア信号による高周波強度変調が可能であるため、超小型・高分解能のテラヘルツレーダーを構成でき、3Dイメージングシステムなどへの応用が可能となる。
【背景技術】
【0002】
テラヘルツレーダーや3Dイメージングには、室温光源としてトランジスタによる発振回路や、それと組み合わせた周波数逓倍器が用いられる。トランジスタによる発振回路のみの光源は、回路設計が難しい上、周波数が最高でも300GHz程度のサブテラヘルツまでに留まっているのが実情である。テラヘルツ波の周波数を高くすれば分解能は向上するが、高い周波数ではトランジスタ発振回路に周波数逓倍器を組み合わせた光源を用いる必要があり、装置が大型になってしまう問題がある。
電波と光波の中間に位置するテラヘルツ周波数帯は未開発の周波数帯であるが、実用化されればレーダーやイメージングなど様々な応用が期待されている。特に、多くの物質を透過するというテラヘルツ波の特長を生かして、見通しの悪い環境でのレーダーや透過3Dイメージングなど、他の周波数帯にない応用が可能である。
【0003】
このようなレーダーやイメージングにRTDによるテラヘルツ光源を用いると、これまでにない超小型・高分解能のシステムが可能になる。RTDは単体(光源素子と直流電源だけ)の簡易な構成で、高分解能レーダーやイメージングが可能な高周波(約2THzまで)が、室温で発生できるテラヘルツ光源である。他の単体の室温半導体素子では300GHz程度までの光源しかなく、このような高周波は発生できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-171966号公報
【文献】特開2006-210585号公報
【文献】WO2015/170425
【非特許文献】
【0005】
【文献】Cooper,K.B.;Dengler,R.J.;Llombart,N.;Thomas,B.;Chattopadhyay,G.;Siegel,P.S.“THz imaging radar for standoff personnel screening”IEEE Trans.Terahertz Sci.Technol.2011,1,169-182.
【文献】Caris,M.;Stanko,S.;Wahlen,A.;Sommer,R.;Wilcke,J.;Pohl,N.;Leuther,A.;Tessman,“A.Very high resolution radar at 300 GHz”In Proceedings of the 44th European Microwave Conference,Rome,Italy,6-9 October 2014;pp.1797-1799.
【文献】Jaeschke,T.;Bredendiek,C.;Pohl,N.“A 240 GHz ultra-wideband FMCW radar system with on-chip antennas for high resolution radar imaging”In Proceedings of the 2013 IEEE MTT-S International Microwave Symposium Digest,Seattle, WA,USA,
【文献】R.Izumi,S.Suzuki,and M.Asada,International Conference on Infrared,Millimeter,and Terahertz Waves(IRMMW-THz),MA3.1,2017.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、半導体の共鳴トンネルダイオード(RTD(Resonant Tunneling Diode))テラヘルツ(THz)発振器のテラヘルツ周波数帯(約0.1THz~10THz)の主キャリアRTDテラヘルツ発振器は、外部で反射された出力が乱反射などで素子に再入力されると、周波数が変動するという特性上の問題点があり、通常の方式でレーダーシステムを構成するには、アイソレーターなどの大型部品を必要とする。このため、RTDテラヘルツ発振器の大きな特長である超小型システムを構成することは、従来不可能であった。
【0007】
本発明は上述のような事情からなされたものであり、本発明の目的は、超小型・高分解能であり、外来光によってRTDテラヘルツ発振器の発振周波数が変動することなく安定し、室温においてもテラヘルツ周波数帯でのレーダー動作が可能なサブキャリア変調方式テラヘルツレーダーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はサブキャリア変調方式テラヘルツレーダーに関し、本発明の上記目的は、共鳴トンネルダイオード(RTD)により発振されたテラヘルツ周波数帯の主キャリア信号を、周期的に周波数が変化するギガヘルツ周波数帯のサブキャリア信号で変調し、周波数変調された照射光を被測定物に照射し、前記被測定物からの反射光を検出して復調し、前記サブキャリア信号及び前記復調信号を混合して後にフーリエ変換を行い、前記フーリエ変換された周波数信号から、前記照射位置から前記被測定物までの距離を測定することにより達成される。
【0009】
また、本発明はサブキャリア変調方式テラヘルツレーダーに関し、本発明の上記目的は、バイアス-T回路を経てバイアスを印加されるRTDによりテラヘルツ周波数帯の主キャリア信号を発振し、被測定物に照射するRTD発信器と、周期的に周波数が変化するギガヘルツ周波数帯のサブキャリア信号を発振して、前記バイアス-T回路に印加するサブキャリア発振器と、前記被測定物からの反射光を検出して復調する検出部と、前記検出部からの復調信号及び前記サブキャリア信号を混合して中間周波数信号を出力する混合器と、前記中間周波数信号をフーリエ変換した周波数信号から、前記RTD発信器と前記被測定物との間の距離を演算する距離演算部とを具備することにより、
或いは、
バイアス-T回路を経てバイアスを印加されるRTDによりテラヘルツ周波数帯の主キャリア信号を発振し、被測定物に照射するRTD発信器と、周期的に周波数が変化するギガヘルツ周波数帯のサブキャリア信号を発振して、前記バイアス-T回路に印加するサブキャリア発振器と、前記被測定物からの反射光を検出して復調する検出部と、前記サブキャリア信号を位相調整して90°の位相差を有する第1サブキャリア信号及び第2サブキャリア信号を出力する位相調整部と、前記検出部からの復調信号及び前記第1サブキャリア信号を混合して第1中間周波数信号を出力する第1混合器と、前記検出部からの復調信号及び前記第2サブキャリア信号を混合して第2中間周波数信号を出力する第2混合器と、前記第1中間周波数信号及び前記第2中間周波数信号から、前記RTD発信器と前記被測定物との間の距離を演算する距離演算部とを具備することにより達成される。
【発明の効果】
【0010】
従来のトランジスタ発振器の光源で構成するレーダーでは、周波数が300GHz程度のサブテラヘルツまでに留まっている。発振周波数を高くすれば分解能が向上するが、高い周波数ではトランジスタ発振器に周波数逓倍器を組み合わせた光源を用いる必要があり、装置が大型になってしまう問題が生じる。本発明のサブキャリア変調方式テラヘルツレーダーにより、超小型RTD発振器による周波数が最高2THz程度まで、単体構成の光源を用いることができ、簡易な超小型・高分解能のテラヘルツレーダーが可能になり、3Dイメージングや霧・塵などで見通しの悪い環境でのレーダーなどへの応用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の第1実施形態の構成例を示す模式図である。
【
図2】サブキャリア信号の一例を示す特性図である。
【
図4】第1実施形態における混合の動作を説明するための特性図である。
【
図5】本発明の第2実施形態の構成例を示す模式図である。
【
図6】第2実施形態における混合の動作を説明するための特性図である。
【
図7】本発明の第2実施形態の測定結果を示す特性図である。
【
図8】本発明の第3実施形態の構成例を示す模式図である。
【
図9】第3実施形態の動作例を示す周波数特性図である。
【
図10】第3実施形態の動作例を示す位相特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
テラヘルツ周波数帯(約0.1~10THz)は、多くの物質を透過するという特長を有しており、見通しの悪い環境でのレーダーや透過3Dイメージングなど、様々な分野での応用が期待されている。本発明で用いるRTDテラヘルツ発信器は単体の発振器であり、直流電源(バイアス)を接続するだけで広範囲のテラヘルツ波が発生できるため、超小型・高分解能のシステムの実現が可能である。しかしながら、RTDテラヘルツ発振器は、照射された光が乱反射などで再入力されると発振特性が変化してしまうため、従来のような反射波の特性を直接用いるレーダー方式は適用できないという問題がある。
【0013】
このため、本発明では反射波の再入力の問題を回避して、超小型RTDテラヘルツ発信器を用いて、超小型・高分解能のレーダーシステムを実現することを目的とする。レーダーシステムを実現できれば、透過3Dイメージングへの応用も容易である。
【0014】
テラヘルツ波を直接信号処理するのではなく、テラヘルツの主キャリア信号に乗せたサブキャリア信号(GHz程度)を用いれば、反射波がRTDに再入力されてテラヘルツ波の特性が変化しても、距離測定のための信号処理はサブキャリア信号のみであるため、テラヘルツ波の特性変化は問題にならない。この場合でも、主キャリア信号がテラヘルツ波なので、透過性などテラヘルツ波の特長はそのまま保たれる。サブキャリア信号に高い周波数が必要な場合でも、RTDは高周波で直接変調が可能であり、問題になることはない。
【0015】
以下に、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0016】
図1は本発明の第1実施形態を示しており、半導体共鳴トンネルダイオード(RTD)で構成されたRTD発信器10は、キャパシタC
1及びインダクタL
1のT接続で成るバイアス-T回路12を経てRTDバイアス回路11の直流電源で駆動され、テラヘルツ波の主キャリア信号を発振し、主キャリア信号を被測定物2に向けて照射する。RTDバイアス回路11の直流電源は、バイアス-T回路12のインダクタL
1を経てRTD発信器10に印加される。バイアス-T回路12のキャパシタC
1には、
図2に示すような周期Tで鋸歯状に周波数が変化するサブキャリア信号SCがサブキャリア発振器1から入力され、キャパシタC
1からの信号は、バイアスと加算された変調信号FMとしてRTD発信器10に入力され、RTD発信器10が発振する主キャリア信号が周波数変調される。サブキャリア信号SCは、
図2に示すように各周期Tにおいて周波数を線形に変化させた鋸歯状波であり、バイアス-T回路12のキャパシタC
1を経てRTD発信器10に印可されるので、RTD発信器10からのテラヘルツ出力波は変調信号FMで強度変調される。強度変調されたテラヘルツ出力波が被測定物2に対して照射され、テラヘルツ出力波は被測定物2で反射され、検出器20で検出されて復調される。照射時から検出時までの伝搬時間は、ToFである。検出器20で検出された信号は低ノイズ増幅器21で増幅され、
図3に示すような復調信号DMとして混合器22に入力される。
【0017】
サブキャリア発振器1からのサブキャリア信号SCも基準信号として混合器22に入力され、混合器22には
図4に示すような関係でサブキャリア信号SC及び復調信号DMが入力される。即ち、混合器22には、サブキャリア信号SCに対して伝搬時間ToFだけ遅れて復調信号DMが入力され、サブキャリア信号SCと復調信号DMとの間には、常に伝搬時間ToFにより決まる周波数差dfが存在している。混合器22で混合された中間周波数信号IFはフーリエ変換部23に入力され、フーリエ変換部23で高速フーリエ変換(FFT)が行われ周波数成分が求められる。高速フーリエ変換された周波数成分のFFTデータが距離演算部30に入力され、被測定物2までの距離が下記数式に従って演算される。
【0018】
サブキャリア信号SC及び復調信号DMの傾斜aは同一であり、最大周波数fmax、最小周波数fmin及び周期Tより下記数1で求められる。
【0019】
【数1】
光の速度c、周波数差df及び傾斜aより、伝搬距離sは下記数2で算出される。
【0020】
【数2】
そして、RTD発信器10から被測定物2までの距離dsは、RTD発信器10と検出器20がほぼ同じ位置にあるとして、テラヘルツ波が往復していることから下記数3となる。
【0021】
【数3】
図5は本発明の第2実施形態を、
図1に対応させて示しており、本実施形態では被測定物が固定された被測定物2Aと、モータステージに配置された可動な被測定物2Bとの2つである。被測定物2A及び2Bの例を挙げると、テラヘルツ波を透過かつ一部反射するプラスチックや紙の容器の表面と裏面が、それぞれ被測定物2A及び2Bに相当する。そして、RTD発信器10の前面にはコリメートレンズ13が配置されて照射光が平行光とされ、平行光がビームスプリッタ14に照射され、ビームスプリッタ14を透過した平行光が被測定物(可動)2Bに照射される。被測定物2Bでは一部の照射光が反射され、一部の照射光が透過し、透過した光は更に被測定物(固定)2Aに照射される。被測定物2Aで反射された反射光LG
Aは被測定物2Bを経てビームスプリッタ14で反射され、被測定物2Bで反射された反射光LG
Bもビームスプリッタ14で反射され、いずれの反射光も集光レンズ15を経て検出器20に入力されて検出される。検出器20で検出された検出信号は低ノイズ増幅器21で増幅されて混合器22に入力される。混合器22にはサブキャリア信号SCも入力されており、
図6に示すように、被測定物2Aからの復調信号DM
Aは、検出器20に到達するまでの遅れToF
Aがあり、被測定物2Bからの復調信号DM
Bは、検出器20に到達するまでの遅れToF
Bがある。また、復調信号DM
Aは周波数差df
Aを有し、復調信号DM
Bは周波数差df
Bを有している。混合器22からの中間周波数信号IFは、第1実施形態と同様にフーリエ変換部23に入力されて高速フーリエ変換がなされ、距離演算部30において各被測定物2A及び2Bまでの距離が、第1実施形態と同様に演算される。
【0022】
図7は、サブキャリア信号SCが最大周波数f
maxが10.5GHz、最小周波数f
minが3.5GHz、周期Tが2μ秒で変化する場合の実際の測定結果を示しており、固定された被測定物2Aは誤差2.35mmで測定されており、可動な被測定物2Bは誤差1.38mmで測定されている。ステージ位置の距離と測定距離が相違するのは、サブキャリア発振器1からのサブキャリア信号SCが直接混合器22に到達するまでの時間と、サブキャリア信号SCがRTD発信器10に入力され、RTD発信器10からの照射光が、被測定物2A及び2B、ビームスプリッタ14、検出器20を経て混合器22に到達するまでの時間とで相違し、その相違を加味した値になっているからである。
【0023】
測定結果の直線には雑音による僅かな変動が含まれるので、測定結果を平均して距離を算出すると同時に、その標準偏差から誤差を導出している。被測定物2Aでは誤差(標準偏差)が2.35mmであり、被測定物2Bでは誤差(標準偏差)が1.38mmとなっている。
【0024】
【0025】
第3実施形態では、サブキャリア信号SCを位相調整して90°位相の異なる2つのサブキャリア信号SCc及びSCs(sinとcos)を出力する位相調整部40を具備しており、
図8では位相進み回路41により、90°位相の異なるサブキャリア信号SCc及びSCsを形成している。0°のサブキャリア信号SCcは混合器22cに入力され、90°のサブキャリア信号SCsは混合器22sに入力される。また、低ノイズ増幅器21からの復調信号DMは混合器22c及び22sに入力され、混合器22c及び22sからの中間周波数信号IFc及びIFsが、それぞれノイズ除去用のローパスフィルタ(LPF)42c及び42sを経て距離演算部30に入力される。LPF42cからの中間周波数信号V
I及びLPF42sからの中間周波数信号V
Qは、下記数4で表わされる。
【0026】
【数4】
ただし、“A”は定数、“t
meas”は、サブキャリア信号発振器1からRTD発信器10を経て、更に被測定物2を経て反射光が検出されて混合器22c及び22sに達するまでの伝搬時間、“t
ref”はサブキャリア信号発振器1から混合器22c及び22sまでの伝搬時間、fはサブキャリア信号SCの周波数である。
【0027】
上記数4より下記数5が成立するので数6が得られる。
【0028】
【0029】
【数6】
上記数4でφは下記数7としているので、伝搬時間t
measと伝搬時間t
refの差が求まり、数7及び数8から測定距離dsを演算することができる。ただし、RTD発信器10からビームスプリッタ14までの距離と、検出器20からビームスプリッタ14までの距離とは、同じになるように配置されている。
【0030】
【0031】
【数8】
図9は第3実施形態の中間周波数信号V
I及びV
Qの信号レベルをサブキャリア信号SCの周波数fを変えながら測定した結果を示しており、
図10は位相φを示している。
図10を全位相として連続的に示すと
図11となる。
図11では、位相φが周波数fに対して数7に合致して直線的に変化し、中間周波数信号V
I及びV
Qから位相tan
-1(V
Q/V
I)が正しく得られており、この結果から数8に基づいて距離dsが抽出されている。
【0032】
サブキャリア発振器1からのサブキャリア信号SCが直接混合器22c及び22sに到達するまでの時間と、サブキャリア信号SCがRTD発信器10に入力され、RTD発信器10からの照射光が、被測定物2、ビームスプリッタ14、検出器20を経て混合器22c及び22sに到達するまでの時間とで相違するため、測定した距離はその相違を加味した値になっている。
【0033】
上記第1~第3実施形態では、低出力(約10μW)のRTD発信器を用いているが、誤差は出力にほぼ逆比例するので、高出力RTDを用いると誤差は小さくなる。また、上記実施形態では500GHzのテラヘルツ波を用いているが、2THz程度までのRTD発信器を全く同様に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0034】
1 サブキャリア発振器
2、2A、2B 被測定物
10 RTD発信器
11 RTDバイアス回路
12 バイアス-T回路
20 検出器
21 低ノイズ増幅器(LNA)
22、22c、22s 混合器
30 距離演算部
40 位相調整部