(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-29
(45)【発行日】2024-06-06
(54)【発明の名称】ナノ構造体、電極及び電池
(51)【国際特許分類】
C23C 14/06 20060101AFI20240530BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240530BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20240530BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240530BHJP
C23C 14/24 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
C23C14/06 L
H01M4/38 Z
H01M4/134
H01M4/36 A
C23C14/24 F
(21)【出願番号】P 2020546010
(86)(22)【出願日】2019-09-09
(86)【国際出願番号】 JP2019035378
(87)【国際公開番号】W WO2020054665
(87)【国際公開日】2020-03-19
【審査請求日】2022-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2018168866
(32)【優先日】2018-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100108006
【氏名又は名称】松下 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】平山 雅章
(72)【発明者】
【氏名】畠 純一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 耕太
(72)【発明者】
【氏名】菅野 了次
(72)【発明者】
【氏名】阿川 義昭
(72)【発明者】
【氏名】石川 慶太
(72)【発明者】
【氏名】鳥巣 重光
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-070226(JP,A)
【文献】特開2009-046741(JP,A)
【文献】特開2004-148673(JP,A)
【文献】特開2012-057198(JP,A)
【文献】特開2013-235682(JP,A)
【文献】特表2014-534592(JP,A)
【文献】畠純一、他,アークプラズマ堆積法を用いたSi系負極膜の合成,構造と充放電特性評価,第59回電池討論会講演要旨集,2018年11月26日,p.280
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
H01M 4/00-4/62
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノサイズ粒子の堆積で得られ、Li-Si-O-Cの複合体であるナノ構造体であって、
前記ナノサイズ粒子の平均粒径は、5~30nmであり、
前記ナノサイズ粒子は、Li及びSiである
ナノ構造体。
【請求項2】
表面が、Li―Si―O、Si及びSiOxの結合状態になっている
請求項
1に記載のナノ構造体。
【請求項3】
請求項
1又は請求項2に記載のナノ構造体からなる電極。
【請求項4】
請求項
3に記載の電極
を備えた電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池等の電極に用いられるナノ構造体、電極及び電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電気自動車に使用されるリチウムイオン電池を高性能化するために、電極の開発が行われている。
例えば、このような開発において、SiにSi酸化物やLi-Si酸化物を複合化した電極を用いる事例がある。従来では、粉体のSiにSi酸化物やLi-Si酸化物を機械混合することや、熱処理することで電極を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-076372号公報
【文献】特開2014-220216号公報
【文献】国際公開WO2013-099278号公報
【文献】F. F. Cao, J. W. Deng, S. Xin, H. X. Ji, O. G. Schmidt, L. J. Wan and Y. G. Guo, Adv. Mater., 2011, 23, 4415-4420.
【文献】H. Jia, P. Gao, J. Yang, J. Wang, Y. Nuli and Z. Yang, Adv. Ener, Mater., 2011, 1, 1036-1039.
【文献】S. H. Ng, J. Wang, D. Wexler, S. Y. Chew and H. K. Liu, J. Phys. Chem. C, 2007, 111, 11131-11138.
【文献】H. Takezawa, S. Ito, H. Yoshizawa and T. Abe, Electrochim. Acta, 2017, 229, 438-444.
【文献】R. Lv, J. Yang, J. Wang and Y. NuLi, Journal of Power Sources, 2011, 196, 3868-3873.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の電極では、繰り返し充放電したりした後の電池の容量維持率等を示すサイクル特性は、Siのみを電極に用いた場合に比べると良いが、さらなる改善が望まれている。
すなわち、Siのみからなる従来の電極では、
図21に示すように、充放電時においてSiとLi
xSiの体積変化に起因する歪みにより、粒子が割れ、それにより電気的パスが遮断され容量低下を招いてしまう。複合体負極では、Si酸化物やLi-Si酸化物からなるマトリックス成分が歪みを緩和することで、容量維持率が向上する。しかしながら、初回充電時にマトリックス成分の副反応が生じ可逆容量が減少してしまうこと、マトリックス成分自身は容量に寄与しないため、複合体あたりの容量が減少してしまうことが課題となっている。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するためのものであり、電池等に用いた場合に、充放電による放電容量の低下が少ないナノ構造体、電極及び電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した従来技術の問題点を解決し、上述した目的を達成するために、本発明のナノ構造体は、ナノサイズ粒子の堆積で得られるナノ構造体であって、前記ナノサイズ粒子は、平均粒径5~30nmのSi及びLiであり、下記(1)の条件を満たす。
Li/Siの比率y及びO/Siの比率zが「0<y,z≦4」
…(1)
【0007】
好適には、表面が、Li―Si―O、Si及びSiOxの結合状態になっており、
「0<x≦2」という条件を満たす。
【0008】
好適には、前記比率yは、0.4~1.6である。
【0009】
好適には、ナノサイズ粒子の堆積で得られ、Li-Si-O-Cの複合体であるナノ構造体であって、前記ナノサイズ粒子の平均粒径は、5~30nmであり、前記ナノサイズ粒子は、Li及びSiである。
【0010】
好適には、表面が、Li―Si―O、Si及びSiOxの結合状態になっている。
【0016】
本発明の電極は、上述した本発明のナノ構造体からなる。
【0017】
本発明の電池は、上述した電極を備えている。
【0018】
本発明のナノ構造体製造方法は、真空チャンバ内に被蒸着体を設置する被蒸着体設置工程と、前記真空チャンバ内にSiを第1の蒸着材料として設置し、Liを第2の蒸着材料として設置する蒸着材料設置工程と、前記真空チャンバ内の酸素圧を調整する酸素圧調整工程と、前記第1の蒸着材料のショット数N(1)、第2の蒸着材料のショット数N(2)、前記第1の蒸着材料との間で第1のアークプラズマ放電をさせる第1のアノード電極に印加する第1の放電電圧V(1)、前記第2の蒸着材料との間で第2のアークプラズマ放電をさせる第2のアノード電極に印加する第2の放電電圧V(2)を設定する設定工程と、
前記酸素圧調整工程で調整された酸素圧及び前記設定工程で設定された条件で、前記第1の蒸着材料及び前記第2の蒸着材料をアークプラズマ放電により前記被蒸着体に照射し、平均粒径5~30nmのSi及びLiのナノサイズ粒子を前記被蒸着体に堆積させて、下記(a)の条件を満たすナノ構造体を前記被蒸着体に形成するナノ構造体形成工程と、を有する。
Li/Siの比率y及びO/Siの比率zが「0<y,z≦4」
…(a)
【0019】
好適には、前記酸素圧調整工程は、前記酸素圧を3×10-4~5Paに設定し、前記設定工程は、前記ショット数N(1)を300~18000、前記ショット数N(2)を200~4800、前記第1の放電電圧V(1)を100~200V,前記第2の放電電圧V(2)を100~150に設定する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、上述した課題を解決するためのものであり、電池等に用いた場合に、充放電による放電容量の低下が少ないナノ構造体、電極及び電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態に係るナノ構造体を用いた電池の定電流充放電試験から得られたサイクル数に対する放電容量を示す図である。
【
図2】本発明の第1実施例のナノ構造体の中性子散乱長密度と、それから予測される主要な構成材料を示す図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るナノ構造体製造装置の模式図である。
【
図5】本発明の第1実施例のナノ構造体を製造するために用いるナノ構造体製造装置を説明するための図である。
【
図6】
図5に示すナノ構造体製造装置を用いて被蒸着体に合成膜を形成する場合の条件を説明するための図である。
【
図7】本発明の実施形態のAPD法により蒸着材料としてZrを用いて得られたナノ構造体の膜の状態を説明するためのSEMによる図である。
【
図8】本発明の実施形態のAPD法により蒸着材料としてSi及びLiを用いて得られたナノ構造体の膜の状態を説明するためのSTEMによる図である。
【
図9】スパッタリング法で合成した場合の膜状態を示す図である。
【
図10】Siのナノサイズ粒子を含有するナノ構造体の充放電前における表面のSEMを示す図である。
【
図11】
図10に示すSiのナノサイズ粒子を含有するナノ構造体の30サイクルの充放電後における表面のSEMを示す図である。
【
図12】Siのナノサイズ粒子に加えてLi-Si-OおよびLi-C-Oを含有するナノ構造体の充放電前における表面のSEMを示す図である。
【
図13】
図12に示すSiのナノサイズ粒子に加えてLi-Si-OおよびLi-C-Oナノ構造体の425サイクルの充放電後における表面のSEMを示す図である。
【
図14】Siのナノサイズ粒子に加えてCuナノサイズ粒子を含有するナノ構造体の30サイクルの充放電後における表面のEDXマッピングを示す図である。
【
図15】Siのナノサイズ粒子に加えてLi-Si-OおよびLi-C-Oナノサイズ粒子を含有するナノ構造体の425サイクルの充放電後における表面のEDXマッピングを示す図である。
【
図16】Siのナノサイズ粒子に加えてLi-Si-OおよびLi-C-Oナノサイズ粒子を含有したナノ構造体を電池電極として用いた場合の充放電のイメージ図である。
【
図17】本発明の実施形態において、Siを10000ショットで合成したナノ構造体の原子間力顕微鏡像を説明するための図である。
【
図18】本発明の実施形態において、Siを10000ショットで合成したナノ構造体の原子間力顕微鏡像を説明するための図である。
【
図19】本発明の実施形態において、Li/Siの比率y=3.6で合成したナノ構造体の原子間力顕微鏡像を説明するための図である。
【
図20】ナノ構造体製造装置を用いたナノ構造体の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【
図21】充放電時においてSiとLixSiの体積変化に起因する歪みにより、粒子が割れるという問題を説明するための図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態に係わるナノ構造体及び電極、並びにその製造方法について説明する。
【0023】
[目的]
高容量負極材料であるSiは、Li合金化による体積膨張収縮により活物質粒子が微粉化し、電子やイオンの導電経路が途切れることで容量が低下する。ナノ構造による体積膨張収縮の抑制(非特許文献1,2)、導電助剤カーボンやイオン導電性物質との複合化(非特許文献3,4)により導電経路を確保するとサイクル特性は改善さた。一方,初回充放電効率と体積あたりのSi含有量が小さくなることが課題である。本実施形態では,SiとLi酸化物を緻密かつ高分散で複合化させることで初回充放電効率とSiの利用率向上を実現した。ナノ粒子を高密度に堆積することが可能なアークプラズマ堆積(APD)法を用いてSi-O-CおよびLi-Si-O-C複合体膜を合成し、構造と電気化学特性を調べた。
【0024】
[実験]
Cu板又はAl2O3単結晶基板上にアークプラズマ堆積法によりSi-O-C、Li-Si-O-C膜を合成した。B-doped Si/C,Li-metal/C をターゲットに用い、基板温度は室温、チャンバー内酸素圧力3x10-4 Paとした.ターゲットへの放電時の放電電圧V、コンデンサ容量C はSi: 100-150 V、 360μF、Li: 100V、360μF とした。
【0025】
Liの堆積レート0.066nmpulses-1とし、Siの堆積レート0.044nmpulses-1として、Li1.4-Siとなるよう放電回数(pulses)を制御した。得られた試料の構造は、XRR,XPS,AFM,TEMにより評価した。電気化学特性は、2032 型コインセルを用いて、対極:Li,電解液: 1 mol dm-3 LiPF6 in EC:DEC(3:7 vol.)とし、放電電圧範囲0.02~1.5V(vsLi/Li+)で充放電試験した。堆積レートから予測される含有Si量から、充放電容量(mAh gSi-1)を算出した。充放電反応前後の電極構造を比較するため、サイクル後のセルをAr雰囲気グローブボックス内で分解し,SEM-EDX観察を行った。
【0026】
[結果および考察]
XRR,AFMおよびTEMより,Si-O-CおよびLi-Si-O-C膜は厚さ60nmであり,空隙のない緻密な構造を有することがわかった。XPSスペクトルからSi-O-C膜には、Si,SiC及びSiOxが存在した。Li-Si-O-C膜では,Li-Si合金は観測されず,Si,SiOx,Li-Si-O及びLi2CO3からなる複合体膜であった。酸素はチャンバー内の残存酸素を取り込んだものである。
【0027】
図1は、定電流充放電試験から得られたサイクル数に対する放電容量を示すグラフである。
Si-O-C膜は130サイクル目で1286mAhgSi
-1まで容量が減少したのに対し、Li-Si-O-C膜は425サイクル目でも2776mAhgSi
-1を維持した。初回サイクルの充電容量と放電容量との比率である初回充放電効率は62%を示した。
【0028】
Li-Si-O-C膜の体積あたりの放電容量は、425サイクル目で347μAhcm-2 μm-1を示し、非特許文献5のLi-Si膜(15 μm, 40 μAh cm-2 μm-1@50th)に比べて優れていた。クーロン効率についても、Li-
Si-O-C膜は425サイクル目で99.6%と高い値を示した。Ex-situ SEM-EDXから、Si膜は充放電後に膜全体に亀裂が生じたが、Li-Si-O-Cは,425サイクル後も連続的なSiの分布が観測された。
合成時に適切な量のLi-Si-Oを含有した高密度な構造体を合成することで、Si負極の充放電効率、容量維持率,活物質利用率を増大させることが可能であることを見いだした。
【0029】
本実施形態のナノ構造体は、例えば、平均粒径が5~30nmのナノサイズ粒子を含有している。
当該ナノサイズ粒子は、所定の緻密性を有している。本実施形態のナノサイズ粒子の緻密性は、例えば、かさ密度が理論値の90~100%である。
また、当該ナノサイズ粒子は、所定の分散性を備えている。ナノ粒子合成後に得られる薄膜は、当該物質の理論密度の90%以上の値を有する。また、薄膜断面を電子顕微鏡観察すると、原子分布に由来する濃淡は観測できない程度に分散している。
【0030】
本実施形態のナノ構造体が含有する元素種は、典型金属または遷移金属であり、例えば、Zr,Li, Si,Cu,Nbの少なくとも一つである。
【0031】
また、本実施形態のナノ構造体は、例えば、複数のナノサイズ物質を含有する。
これにより、ナノ構造体内では、Li2ZrO3,Li4SiO4,Li2CO3,等の複合体(合成物)が存在する。
【0032】
その他の実施形態は、それぞれ前記ナノサイズ粒子であるSiCと、SiOxの複合体を含有する。
【0033】
また、その他の実施形態は、上記ナノサイズ粒子はSiであり、ナノ構造体の表面において、Si,SiC及びSiOxの結合状態を有する。
【0034】
本実施形態のナノ構造体のさらなる一実施例を以下に説明する。
[第1実施例]
本実施例のナノ構造体は、ナノサイズ粒子の堆積で得られるナノ構造体であって、当該ナノサイズ粒子が平均粒径5~30nmのSi及びLiである。
また、当該ナノ構造体は、下記(1)の条件を満たす。
【0035】
条件(1):
Li/Siの比率y及びO/Siの比率zが「0<y,z≦4」、且つ「0<x≦2」である。比率y,zは,例えば、ICP組分析から見積られるモル比である。
【0036】
ここで、以下の各要件を満たすようにナノ構造体を構成にすることで、当該要件を満たさい場合に比べて高い放電容量を得られることが分かった。
・Liを含有させる
・Li/Siの比率yを4以下にする。比率yは、0.4~1.6がより好ましい。
・O/Siの比率zを4以下にする
・Si及びLiのナノサイズ粒子が平均粒径5~30nmである
・SiOxの0<x≦2にする。
【0037】
上述した比率yが0.4~1.6の範囲が好ましい理由は、以下である。
組成分析(ICP)からLi-Si-O-C膜の構成元素比を測定した結果、容量との関連は、比率yが1.6以下の場合に50サイクル時の容放電容量がSiあたり2000mAh g-1以上になる。また、上記比率yが0.4~1.6の場合に,70サイクル時の容量維持率が50%以上になることが分かった。
【0038】
また、
図2に示すように、Li/Siが1.4の場合に高い放電容量が得られる。
【0039】
図2は、第1実施例のナノ構造体の中性子散乱長密度と、それから予測される主要な構成材料を示す図である。
Li/Siの比率yを0<x≦4の範囲で変更した測定したデータは、
図2に示すようになる。
図2に示す情報は、第1実施例において、異なるLi/Si比,酸素圧下で合成したLi-Si-O構造体の中性子散乱長密度の実数成分.中性子反射率測定から解析された値であり,膜の組成情報を含むものである。既存物質のデータとの比較から,比率y、zともに上限は4である.またLi/Si比(≦4)、酸素圧を制御することで複合体化して中間組成情報を得る。中性子反射率測定では、ナノ構造体に含有する主成分の情報が得られる。
【0040】
図3は、材料の中性子散乱長密度を示す図である。
以下はナノ構造体を得られることを確認している条件となる。すなわち、原子間力顕微鏡で表面にナノ粒子が観測されるため、その堆積によって構造体が得られると考えられる。ナノ構造体が得られるか否かに影響が大きい因子は真空チャンバ2内の酸素圧力とLi/Si比である。
真空チャンバ2内の酸素圧を3×10
-4~5Paに設定することで、優れた放電特性のナノ構造体が得られた。
【0041】
[第2実施例]
当該第2実施例のナノ構造体は、上記第2実施例のナノ構造体において、表面がLi―Si―O、Si及びSiOxの結合状態になっている。
このように、表面がLi―Si―O、Si及びSiOxの結合状態にすることで、これらのうち1成分又は2成分の結合状態の場合に比べて、高い放電容量が得られることがわかった。
また、ナノサイズ粒子のかさ密度の理論値を90~100%の範囲にすることで、それ以外の場合に比べて高い放電容量が得られることがわかった。
なお、上述した第1実施例のナノ構造体の表面では、Li―Si―O、Si及びSiOxの少なくとも一つが結合状態になっている。
【0042】
[ナノ構造体製造装置1]
図4は本発明の実施形態に係るナノ構造体製造装置1の模式図である。
ナノ構造体製造装置1は、アークプラズマ堆積法(APD)により、ナノ構造体膜を合成する。
発明者は、APDを所定の条件で用いることで、本実施形態のナノ構造体を合成できることを見出した。
APD法は、大きなプラズマエネルギーでイオン化した蒸着材料11を対向する被蒸着体10(基板)に堆積させるものであり、イオンエネルギーが高く、被蒸着体10との密着性に優れるコート材として利用される。
【0043】
本実施形態に係るナノ構造体製造装置1は円筒状の真空チャンバ2を備えている。
この真空チャンバ2内には、被蒸着材料保持部4が回転自在に設けられている。
被蒸着体保持部4には基板8上に被蒸着体10が保持されている。
被蒸着材料保持部4の回転に連動して基板8が回転し、基板8に保持された被蒸着体10にナノ粒子が均一に形成される。
【0044】
また、
図4に示すように、真空チャンバ2内には同軸型真空アーク蒸着源5が収納されている。
【0045】
図4に示すように、同軸型真空アーク蒸着源5は、金属ナノ粒子作製用材料で構成されている円柱状又は円筒状のカソード電極12と、カソード電極12に固定された蒸着材料11と、ステンレス等から構成されている円筒状のアノード電極23と、ステンレス等から構成されている円筒状のトリガ電極(例えば、リング状のトリガ電極)13と、蒸着材料11とトリガ電極13との間に両者を離間させるために設けられた円板状又は円筒状の絶縁碍子(以下、ハット型碍子とも称す)14とから構成されており、これらは同軸状に取り付けられている。
【0046】
蒸着材料11は、容器10に対向して設けられている。蒸着材料11と絶縁碍子14とトリガ電極13との3つの部品は、図示していないが、ネジ等で密着させて同軸状に取り付けられている。
【0047】
アノード電極23は、図示していないが、支柱で真空フランジに容器10に対する角度が変更可能なように取り付けられ、この真空フランジは真空チャンバ11の上面に取り付けられている。
【0048】
カソード電極12は、アノード電極23の内部に同軸状にアノード電極の壁面から一定の距離だけ離して設けられている。カソード電極12は、その少なくとも先端部(アノード電極23の開口部側の端部に相当する)に蒸着材料11が固定されている
【0049】
蒸着材料11は、金属原子である。
本実施形態では、金属原子として、Li,Zr,Si,Cu,Nb等を例示する。
【0050】
トリガ電極13は、蒸着材料11あるいはカソード電極12との間にアルミナ等から構成された絶縁碍子14を挟んで取り付けられている。
【0051】
絶縁碍子14は蒸着材料11とトリガ電極13とを絶縁するように取り付けられており、また、トリガ電極13は絶縁体を介してカソード電極12に取り付けられていてもよい。これらのアノード電極23とカソード電極12とトリガ電極13とは、絶縁碍子14及び絶縁体により電気的に絶縁が保たれていることが好ましい。この絶縁碍子14と絶縁体とは一体型に構成されたものであっても別々に構成されたものでも良い。
【0052】
カソード電極12とトリガ電極13との間にはパルストランズからなるトリガ電源が接続されており、また、カソード電極12とアノード電極23との間にはアーク電源34が接続されている。アーク電源34は直流電圧源32とコンデンサユニット33とからなり、このコンデンサユニット33の両端は、それぞれ、カソード電極12とアノード電極23とに接続され、コンデンサユニット33と直流電圧源32とは並列接続されている。
直流電源31、32及びコンデンサユニット33を電源モジュール6と呼ぶ。
同軸型真空アーク蒸着源5では、蒸着材料11とアノード電極23との間にアーク放電が生じる。
【0053】
コンデンサユニット33は、1つ又は複数個のコンデンサ(
図4では、1個のコンデンサを例示してある)が接続したものであって、その1つの容量が例えば2200μF(耐電圧160V)であり、直流電圧源32により随時充電できるようになっている。
【0054】
トリガ電源13は、入力200Vのμsのパルス電圧を約17倍に変圧して、3.4kV(数μA)、極性:プラスを出力している。
アーク電源34は、所定の電圧、数Aの容量の直流電圧源32を有し、この直流電圧源からコンデンサユニット33に充放電を繰り返す。
ここで、直流電源32の直流電源電圧Va、コンデンサユニット33のコンデンサ容量C、蒸着材料11を放射するショット数N、その周波数(放電を繰り返す周期)Fは、蒸着材料11の種類及びその組み合わせによって選定される。
【0055】
トリガ電源32のプラス出力端子は、トリガ電極13に接続され、マイナス端子は、アーク電源34の直流電圧源32のマイナス側出力端子と同じ電位に接続され、カソード電極12に接続されている。アーク電源34の直流電圧源32のプラス端子は、グランド電位に接地され、アノード電極23に接続されている。コンデンサユニット33の両端子は、直流電圧源32のプラス端子及びマイナス端子間に接続されている。
【0056】
図4において、コントローラ18はトリガ電源32に接続されており、コントローラ18のスイッチをONにしてコントローラ18に接続されたトリガ電源32に信号を入力すると、このトリガ電源32から高電圧が出力されるように構成されている。また、コントローラ18は、CPU19に接続され、このCPUからの信号(外部信号)により、各コントローラを動作させることができるように構成することが好ましい。
【0057】
真空チャンバ2の壁面には、ガス導入系16及び真空排気系9が接続されている。このガス導入系16は、バルブ61、マスフローコントローラー62、バルブ63及び酸素ガスボンベ64がこの順序で金属製配管で接続されている。この酸素ガスは、蒸着材料の酸化を行うために導入する。
真空排気系9は、バルブ54、ターボ分子ポンプ51、バルブ52及びロータリーポンプ53がこの順序で金属製真空配管で接続されており、真空チャンバ2内を好ましくは0.1~1Paに真空排気できるように構成されている。
また、真空チャンバ2内は、好ましくは20~100℃に保たれている。
【0058】
また、ナノ構造体製造装置1は、上述したように、ナノ構造体(合成物)を形成するナノサイズ粒子の平均粒径が5~30nmとなるように、直流電源32の直流電源電圧Va、コンデンサユニット33のコンデンサ容量C、蒸着材料11を放射するショット数n、その周波数(放電を繰り返す周期)Fを決定する。
【0059】
蒸着状態は、以下の方法により確認した。透過型電子顕微鏡とXRDで確認した。透過型電子顕微鏡でナノ粒子が球形であることを確認した。
【0060】
また、アノード電極23に印加される放電電圧は70V以上、1000V以下とする。
これは、放電電圧が70V未満であるとプラズマが前方にドリフト速度が遅く(10km/s以下)、1000Vを超えるとカソードとアノード間で放電が発生し不都合が生じるためである。
【0061】
アノード電極23と蒸着材料との間のアーク放電のためのコンデンサユニット33のコンデンサ容量は300μF以上である。コンデンサ容量が300μF未満だとナノサイズ粒子を形成できず、原子は飛び出すがそれを凝集できないためである。
【0062】
図5は、本発明の第1実施例及び第2実施例のナノ構造体を製造するために用いるナノ構造体製造装置1を説明するための図である。
図5に示すように、Siの第1の蒸着材料11(Si)と、Liの第2の蒸着材料11(Li)との2つの蒸着材料11を用意している。
また、第1の蒸着材料11(Si)を蒸着させて被蒸着体10の表面に向けて放出させるための第1の同軸型真空アーク蒸着源5(Si)及び第1の電源モジュール6(Si)と、第2の蒸着材料11(Li)を蒸着させて被蒸着体10の表面に向けて放出させるための第2の同軸型真空アーク蒸着源5(Li)及び第2の電源モジュール6(Li)とを備えている。
第1の同軸型真空アーク蒸着源5(Si)及び第2の蒸着材料11(Li)の基本構造は、同軸型真空アーク蒸着源5と同じである。
また、第1の電源モジュール6(Si)及び第2の電源モジュール6(Li)の基本構造は、電源モジュール6と同じである。
同軸型真空アーク蒸着源5と同じである。
また、第1のアノード電極23(Si)の内部に同軸状に第1のアノード電極23(Si)の壁面から一定の距離だけ離して設けられた第1のカソード電極12(Si)が設けられている。
第2のアノード電極23(Li)の内部に同軸状に第2のアノード電極23(Li)の壁面から一定の距離だけ離して設けられた第2のカソード電極12(Li)が設けられている。
【0063】
以下、ナノ構造体製造装置1を用いたナノ構造体の製造方法におけるナノサイズ粒子形成工程を説明する。
まず、真空チャンバ2内を高真空雰囲気にしておく。次いで、アーク電源32により、アノード電極23に対して、カソード電極12に直流電圧を印加しておく。その状態でトリガ電源31を起動し、トリガ電極13にパルス電圧を印加する。
すると、蒸着材料11の表面とトリガ電極13の表面との間に絶縁碍子14の円筒状部分の厚み分の距離(約1mm)を介して印加することで絶縁碍子14の表面でトリガ放電となる沿面放電が発生する。このトリガ放電によって、蒸着材料11の表面からその構成物質が蒸発し、蒸気や、イオンや電子等が発生する。また、蒸着材料11と絶縁碍子14のつなぎ目から電子が発生する。
【0064】
それらの蒸気、イオン、電子等によってアノード電極23内の圧力が上昇し、アノード電極23と蒸着材料11との間の絶縁耐圧が低下すると、コンデンサユニット33に充電された電荷よって、蒸着材料11とアノード電極23との間でアーク放電が発生する。
アーク放電は連続放電ではなく、パルス的放電であり、発生回数と間隔を調整して行われる。
【0065】
このアーク放電により、蒸着材料11に多量の電流が流入し、ジュール熱により蒸着材料11が蒸発すると、正電荷を有する荷電微粒子である金属イオンが、蒸着材料11の側面からアノード電極23に向けて大量に放出される。
かかるアーク放電によって生じたアーク電流により、アノード電極23内に磁場が形成される。その磁場は、正電荷を有する粒子に対し、アノード電極23の開口部方向に押しやる力を及ぼすので、アノード電極23に向けて放出されたイオンは、真空チャンバ2内に放出され、被蒸着材料保持部4の基板8上に保持された被蒸着体10の表面に向かって噴射される。そうすると被蒸着体10の表面に、ナノサイズ粒子からなる合成膜(ナノ構造体)が形成される。
【0066】
ナノ構造体製造装置1では、同軸型真空アーク蒸着源5の蒸着材料11である金属がプラズマになり、常温常圧で被蒸着体10に衝突し凝集することでナノサイズ粒子からなる合成膜(ナノ構造体)が得られる。
【0067】
図6は、ナノ構造体製造装置1を用いて被蒸着体10に合成膜を形成する場合の条件を説明するための図である。
図6に示す表において、「ナノ構造体」は被蒸着体10に形成される合成膜を示す。
また、各ナノ構造体毎に、ナノ構造体製造装置1に設定する前述した蒸着材料11、ショット数N、直流電源電圧Va、コンデンサ容量C、周波数Fの設定値を記載している。
【0068】
なお、
図6において、蒸着材料11が2つの場合は、複数のターゲットを用いた場合であり、
図1に示す同軸型真空アーク蒸着源5を複数用いたナノ構造体製造装置1を用いる。
本実施形態では、上述したようにAPD法を用いるため、大きなイオンエネルギーが被蒸着体10に到達時に一気に放出されることで、結晶成長を抑制し、ナノサイズ粒子が得られる。複数の蒸着材料11(ターゲット)を用いて膜化することで複相からなるナノ構造体の合成に成功した。
【0069】
また、
図6に示す条件において、真空チャンバ2内の圧力は、ナノ構造体がLiZrOxの場合は0.9Paであり、それ以外は、3×10
-4Paである。Li,Siともに酸化物を形成しやすいため、この程度の酸素圧でもある程度酸化が進行すること確認した。
【0070】
上述したナノ構造体製造装置1を用いて、APD法で蒸着を行うことで、平均粒径が5~30nmのナノサイズ粒子を含有するナノ構造体(ナノ粒子膜)を得ることができる。当該ナノ構造体には、5~30nmのナノサイズ粒子が緻密につまった平滑膜が形成されている。
【0071】
蒸着材料11として例えば、Zr,Li,Si,Cu,Nb等の金属伝導体・高融点材料、又は高融点・低融点材料の組み合わせを用いることで、構造体金属又は金属酸化物が得られる。
【0072】
蒸着材料11として2種類以上のターゲットを用いた場合でも、数10nm粒子が凝集することなく、均一に分散することが確認された。
【0073】
図7は本発明の実施形態のAPD法により蒸着材料11としてSiを用いて得られたナノ構造体の膜の状態を説明するためのTEMによる図である。
図8は本発明の実施形態のAPD法により蒸着材料11としてSi及びLiを用いて得られたナノ構造体の膜の状態を説明するためのTEMによる図である。
【0074】
ナノ粒子からなる膜を形成するという観点からは、本実施形態のAPD法で得られたナノ構造体の膜は、
図7及び
図8になり、スパッタリング法で得られた膜よりも表面にクラックがない緻密性を備えており、
図9に示すスパッタリング法よりも均一である。
図9の画像は、「J. P. Maranchi, A. F. Hepp and P. N. Kumta, Electrochemical and Solid-State Letters, 2003, 6, A198-A201.」から引用したものである。
図7に示すSi-O-Cからなるナノ構造体の膜厚は60nmである。また、
図8に示すLi-Si-O-Cからなるナノ構造体の膜厚は100nmである。
【0075】
ナノ構造体製造装置1では、被蒸着体10が真空チャンバ2内あるいは被蒸着体10(基板材)から酸素を取り込むことで、酸化物が得られる。
複層の場合、酸素圧制御により、特定元素を選択的に酸化させる。これにより、金属/酸化物複合体の合成物が得られる。
【0076】
また、上述したナノ構造体製造装置1を用いて得られたナノ構造体を用いて、Si-O-C,Li-Si-O-C,Si-Cu-O-Cからなるリチウムイオン電池電極材料を合成し、評価した。その際の膜厚は50~100nmであった。
評価の結果、当該リチウムイオン電池電極材料は、いずれも3000mAh/gの高い充放電活性を示した。
そのなかでも、Li-Si-O-Cはサイクル維持率も高く、300サイクル以上の高容量が維持された。
【0077】
図10は、Si, Si-O, Si-Cを含有するナノ構造体の充放電前における表面のSEMを示す図である。
図11は、
図10に示すSi, Si-O, Si-Cを含有するナノ構造体の30サイクルの充放電後における表面のSEMを示す図である。
図12は、Si, Li-Si-O, Li-C-Oを含有するナノ構造体の充放電前における表面のSEMを示す図である。
図13は、
図12に示すSi, Li-Si-O, Li-C-Oを含有するナノ構造体の425サイクルの充放電後における表面のSEMを示す図である。
【0078】
図10及び
図11に示す断面SEM観察から、サイクル劣化するSi-O-Cは従来同様に激しい形態変化が生じる。
一方、
図12及び
図13に示すように、Li-Si-O-Cは、被蒸着体10(基板材料)に由来する構造を維持し、Li成分を導入したナノサイズ粒子は、形態変化が抑制され、優れたサイクル特性が得られる。
ここで、Li/Siの比率yは、1.6以下が好ましい。当該比率yは、ICP組成分析から見積られるモル比である。また、さらに好ましくは、上記比率yは、0.4~1.6である。これにより、キャパシタ容量、出力、サイクル安定性をバランスよく設計できる。
Li-Si-O-Cナノ構造体は、従来のSi類極膜と比べて、サイクル及び出力に優れている。
【0079】
図14は、Si―O―Cで構成されるナノ構造体の30サイクルの充放電後の表面のEDXマッピングを示す図である。
図15は、Li―Si―O―Cで構成されるナノ構造体の425サイクルの充放電後の表面のEDXマッピングを示す図である。
【0080】
Si―O―Cで構成されるナノ構造体は、Siが全面に存在し、全体に不規則に亀裂が入り、Cu(集電体)が露出し、最終的にはSiが微細化することが確認された。
また、Li―Si―O―Cで構成されるナノ構造体は、長期サイクル後もCu(集電体)の形態が反映された電極形態を維持し、Li―Si―O―Cが連続的に分布している。
【0081】
図16は、Li―Si―O―Cで構成されるナノ構造体を電池電極として用いた場合の充放電のイメージ図である。
図16に示すように、Li―Si―O、Si及びSiO
xが高い緻密性を持つ状態から充電されると、Li合金化に伴うSiの膨張に対し,Li―Si―Oが緩和材の役割または可逆的な電気化学反応を示すことでSiの過剰な膨張を防ぐ.過剰な膨張による
図41に示すようなSiの構造劣化を抑制することで長期サイクルが可能となる.
【0082】
以下、上述した実施例1のナノ構造体の特性について説明する。
図17、
図18は、Siを10000ショットで合成したナノ構造体の原子間力顕微鏡像を説明するための図である。
図17は、真空チャンバ2内の酸素圧3×10
-4Paにおいて合成した場合、
図18は、酸素圧5Paにおいて合成した場合の図である。
図17、
図18のいずれにおいても、30nm以下の粒子の堆積によって合成されていく様子が確認できる。
【0083】
図19は、Li/Siの比率y=3.6(Si:6280ショット, Li:620ショット)で合成したナノ構造体の原子間力顕微鏡像を説明するための図である。
図19においても、30 nm以下の粒子の堆積によって合成されていく様子が確認できる。
【0084】
上述した実施形態では、基板8の上に被蒸着体10を載せた例を例示したが、単結晶または箔箔を基板(かつ被蒸着体)として蒸着したものを用いてもよい。
当該基板(かつ被蒸着体)の種類としては、ナノ構造体を製造するものとしては化学的に安定なものであれば特に限定されない。具体的にはAl2O3, SrTiO3などの酸化物やCu, Ti, Au, Ptなどの金属板等でもよい。
【0085】
図20は、ナノ構造体製造装置1を用いたナノ構造体の製造方法を説明するためのフローチャートである。
以下、
図20に各ステップについて説明する。
【0086】
ステップST1:
被蒸着体10が置かれた基板8を被蒸着材料保持部4に保持させる。
ステップST1のタイミングは、ステップST3の前であれば特に限定されない。
【0087】
ステップST2:
蒸着材料11を設置する。
ステップST2のタイミングは、ステップST4の前であれば特に限定されない。
第1実施例のナノ構造体を製造する場合は、
図5に示すように、真空チャンバ2内にSiを第1の蒸着材料11(Si)として設置し、Liを第2の蒸着材料11(Li)として設置する。
【0088】
ステップST3:
真空チャンバ2内の酸素圧を調整する。
第1実施例のナノ構造体を製造する場合は、
図5に示す真空チャンバ2内の酸素圧を3×10
-4~5Paに設定する。
【0089】
ステップST4:
ショット数N、直流電源電圧Va、コンデンサ容量C、周波数Fを設定する。
これらの設定のタイミングは、ステップS4前であれば特に限定されない。
第1実施例のナノ構造体を製造する場合は、
図5に示す第1の同軸型真空アーク蒸着源5(Si)によるショット数N(Si)を300~18000、第2の同軸型真空アーク蒸着源5(Li)によるショット数N(Li)を200~4800、第1の放電電圧V(Si)を100~200V,第2の放電電圧V(Li)を100~150に設定する。
また、それ以外の値は、
図6に示すように設定する。このように設定することで、放電特性に優れた上述した第1実施例のナノ構造体が得られた。
【0090】
ステップST5:
被蒸着材料保持部4を回転する。
【0091】
ステップST6:
前述したナノサイズ粒子形成工程を実行する。
すなわち、被蒸着体10被蒸着体に、蒸着材料11をアークプラズマ蒸着源から照射し、被蒸着体10内に、平均粒径は、5~30nmのナノサイズ粒子を含有させてナノ構造体を製造する。
【0092】
本発明は上述した実施形態には限定されない。
すなわち、当業者は、本発明の技術的範囲またはその均等の範囲内において、上述した実施形態の構成要素に関し、様々な変更、コンビネーション、サブコンビネーション、並びに代替を行ってもよい。
例えば、上述した実施形態では、APD法で、ナノ構造体を形成する場合を例示したが、その他、粉体プロセスで形成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明はリチウムイオン電池等を取り扱う自動車産業、エネルギー産業、家電産業化学工業など広範囲な技術分野に適用される。
【符号の説明】
【0094】
1…金属ナノ粒子製造装置
2…真空チャンバ
4…被蒸着材料保持部
5,5(Li),5(Si)…同軸型真空アーク蒸着源
6,6(Li),6(Si)…電源モジュール(電源装置)
8…基板
10…被蒸着体
11,11(Li),11(Si)…蒸着材料
12…カソード電極
13…トリガ電極
15…絶縁碍子
18…コントローラ
23…アノード電極
31…トリガ電源
32…直流電圧源
33…コンデンサユニット