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特許7496141液体噴流でガイドされた合成レーザービームを用いて被加工材を切断または切除する方法および装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-29
(45)【発行日】2024-06-06
(54)【発明の名称】液体噴流でガイドされた合成レーザービームを用いて被加工材を切断または切除する方法および装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/0622 20140101AFI20240530BHJP
   B23K 26/146 20140101ALI20240530BHJP
【FI】
B23K26/0622
B23K26/146
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021541693
(86)(22)【出願日】2020-01-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-14
(86)【国際出願番号】 EP2020051361
(87)【国際公開番号】W WO2020152136
(87)【国際公開日】2020-07-30
【審査請求日】2022-10-28
(31)【優先権主張番号】19152959.3
(32)【優先日】2019-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506387498
【氏名又は名称】シノヴァ エスアー
【氏名又は名称原語表記】SYNOVA SA
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブルッケル、フローレン
(72)【発明者】
【氏名】スーリエ、ギレ
(72)【発明者】
【氏名】ラポルト、グレゴイル
(72)【発明者】
【氏名】リヘルツハーゲン、ベルノルド
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0368090(US,A1)
【文献】特開2018-170474(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02208568(EP,A1)
【文献】特表2008-537511(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/0622
B23K 26/146
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルスレーザービーム(200)を用いて被加工材(310)の特定の材料を切断または除去するための方法(100)であって、
少なくとも一個のレーザー光源(301、301a)を用いて前記パルスレーザービーム(200)を発生させるステップ(101)と、
加圧された液体噴流(303)を供給して前記被加工材(310)に当てるステップ(102)と、
前記パルスレーザービーム(200)を前記加圧された液体噴流(303)中に入射させて前記加圧された液体噴流(303)と結合させて前記被加工材(310)に向かわせるステップ(103)と、を有し、
前記パルスレーザービーム(200)は前記被加工材(310)の前記特定の材料に基づいて選ばれる少なくとも2つの重ね合わされたパルス波(201,202)を有し、
第1パルス波(201)のパワーと周波数は第2パルス波(202)と異なり、
前記第1パルス波(201)は、前記被加工材(310)の前記特定の材料を切断または切除するように構成され、
前記第2パルス波(202)は、前記第1パルス波(201)を用いて前記被加工材(310)の前記特定の材料を切断または切除することによってできた表面(610)を平滑にするように構成される方法(100)。
【請求項2】
前記第2パルス波(202)は前記被加工材(310)の前記特定の材料を切断または切除しないように構成される請求項1に記載する方法(100)。
【請求項3】
前記第2パルス波(202)は前記被加工材(310)の前記特定の材料として均一な金属またはセラミック材料の表面を平滑にして、表面粗さプロファイルの算術平均を0.3μm以下にするように構成される請求項1または2記載する方法(100)。
【請求項4】
前記被加工材(310)の前記特定の材料の厚さが1mm以上である請求項1~3のいずれか1項に記載する方法(100)。
【請求項5】
前記被加工材(310)の2つ以上の材料を切断または切除するための請求項1~4のいずれか1項に記載する方法(100)であって、
前記被加工材(310)は複数の異なる材料層を有し、
前記パルスレーザービーム(200)は前記被加工材(310)の複数の異なる材料層のそれぞれに対して選ばれる少なくとも2つの重ね合わされたパルス波(201、202)を有する方法(100)。
【請求項6】
前記少なくとも2つの重ね合わされたパルス波(201、202)はさらに少なくとも一つのパラメータに基づいて選ばれる請求項1~5のいずれか1項に記載する方法(100)。
【請求項7】
前記第1パルス波(201)の周波数は前記第2パルス波(202)と技術的に異なる周波数レベルであって、前記第1パルス波(201)の周波数は1~40kHzであり、前記第2パルス波(202)の周波数は60~300kHzである請求項1~6のいずれか1項に記載する方法(100)。
【請求項8】
前記第1パルス波と前記第2パルス波は同期している請求項1~7のいずれか1項に記載する方法(100)。
【請求項9】
前記第1パルス波(201)と前記第2パルス波(202)は非同期である請求項1~8のいずれか1項に記載する方法(100)。
【請求項10】
前記第1パルス波(201)と前記第2パルス波(202)の少なくとも一つは複数のサブパルスからなるバーストを有する請求項1~9のいずれか1項に記載する方法(100)。
【請求項11】
前記被加工材(310)の前記特定の材料は、コバルト-クロム-ニッケル合金、または銅-亜鉛-ニッケル合金、銅基合金あるいはアモルファス鋼であり、
前記第1パルス波(201)の周波数は4~8kHzであり、前記第1パルス波(201)の半値全幅(FWHM)のパルス幅は90~160nsであり、
前記第2パルス波(202)の周波数は80~120kHzであり、前記第2パルス波(202)の半値全幅のパルス幅は5~20nsである請求項1~10のいずれか1項に記載する方法(100)。
【請求項12】
前記被加工材(310)の前記特定の材料は半導体であり、
前記第1パルス波(201)の周波数は18~40kHzであり、前記第1パルス波(201)の半値全幅のパルス幅は200~500nsであり、
前記第2パルス波(202)の周波数は100~300kHzであり、前記第2パルス波(202)の半値全幅のパルス幅は15~30nsである請求項1~10のいずれか1項に記載する方法(100)。
【請求項13】
前記被加工材(310)の前記特定の材料は硬質材料であり、
前記第1パルス波(201)の周波数は1~13kHzであり、前記第1パルス波(201)の半値全幅のパルス幅は100~190nsであり、
前記第2パルス波(202)の周波数は50~150kHzであり、前記第2パルス波(202)の半値全幅のパルス幅は6~20nsである請求項1~10のいずれか1項に記載する方法(100)。
【請求項14】
パルスレーザービーム(200)を用いて被加工材(310)の特定の材料を切断または切除するための装置(300)であって、
該装置(300)は、
前記パルスレーザービーム(200)を発生する少なくとも1個のレーザー光源(301、301a)と、
加圧された液体噴流(303)を供給して前記被加工材(310)に当て、前記パルスレーザービーム(200)を前記加圧された液体噴流(303)の中に入射させて前記加圧された液体噴流(303)と結合させて前記被加工材(310)に向かわせる少なくとも1個の機械加工ユニット(302)と、を有し、
前記パルスレーザービーム(200)は前記被加工材(310)の前記特定の材料に基づいて選ばれる少なくとも2つの重ね合わされたパルス波(201、202)を有し、
第1パルス波(201)のパワーと周波数は第2パルス波(202)と異なり、
前記第1パルス波(201)は、前記被加工材(310)の前記特定の材料を切断または切除するように構成され、
前記第2パルス波(202)は、前記第1パルス波(201)を用いて前記被加工材(310)の前記特定の材料を切断または切除することによってできた表面(610)を平滑にするように構成される装置(300)。
【請求項15】
前記パルスレーザービーム(200)を発生させるために前記複数のレーザー光源(301,301a)のそれぞれが発光するレーザー光を重ね合わせる光学系(400)と、
前記パルスレーザービーム(200)を前記機械加工ユニット(302)までガイドする光結合素子(402)と、をさらに有する請求項14に記載する装置(300)。
【請求項16】
前記複数のレーザー光源(301,301a)が発光するレーザー光が少なくとも2つの互いに異なるパルス波周波数および/または少なくとも2つの互いに異なる色を有する請求項14または15に記載する装置(300)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は被加工材、具体的に被加工材の特定の材料を、加圧された液体噴流中に入射させてその加圧された液体噴流と結合させたレーザービームを用いて切断または切除するための方法および装置に関する。上記の方法および装置で用いられるレーザービームは、合成パルスレーザービーム、すなわち、重ね合わされた複数のレーザーパルスを含むパルスレーザービームである。本願発明の複数の実施形態によれば、前記合成パルスレーザービームの複数のパルス波によって、被加工材に複数の異なる効果を及ぼすことができ、例えば、同複数のパルス波を用いれば、それぞれのパルス波の働きにより、被加工材の特定の材料を切断または切除し、さらに平滑にすることができる。
【背景技術】
【0002】
被加工材を機械加工するための従来の方法は加圧された液体噴流に入射させその加圧された液体噴流と結合させた単一のレーザービームを用いる。このようなレーザービームを用いて被加工材を切断するため、液体噴流を被加工材を横切る所定の切断経路上を動かす。この液体噴流は通常液体噴流発生ノズルを用いて発生させ、レーザービームは発生した液体噴流中に入射させその液体噴流と結合させて、内部全反射により同液体噴流中でガイドされて被加工材上に当たる。従来の方法によるレーザービームは連続したレーザービームまたは単一のパルスレーザーを含むパルスレーザーのいずれかである。
【0003】
被加工材従来の方法で生じる問題、特に液体噴流でガイドされたレーザービームを用いて被加工材中に深い切り込みを入れたり、さらに被加工材を完全に切断する時に生じる問題は切断面の品質が悪く、さらに/または欠陥を有するという問題があることである。例えば、切断面はその表面粗さが極めて大きく、さらに/または表面品質が切断部上で不規則に変化している。
【0004】
さらに、従来の方法は被加工材を切断中にその被加工材中に欠陥を生じさせることが多い。特に端または表面の材料が部分的に欠け落ちてしまう。例えば、被加工材の表側および裏側の両方がこのようなチッピング(欠け落ち)の被害を受ける。また、従来の方法により切断されると、切断部上に尖鋭な端部ができる。
【0005】
前記した問題によって、従来の方法および装置を用いるのでは、所定の種類の材料を切断することが難しいか、または不可能である。例えば新しい種類の合金材料または極めて脆い材料の場合である。また、前記した問題により被加工材中に入れる切り込み深さ、または2個以上の部分に分断される被加工材の全厚さがかなりな程度制限される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そのため本願発明の実施形態は液体噴流でガイドされたレーザービームを用いて被加工材を切断または切除するための従来の方法および装置を改良すること目標とする。本願発明の目的は特に被加工材を切断または切除し、しかも切断または切除の結果を改良するのに適した方法および装置を提供することである。通常、切断表面または切除表面は従来の方法または装置を用いる場合よりも向上させなければならない。もっと具体的には、切断表面または切除表面の表面粗さは十分に低くしなければならない。さらに、切断部上の表面品質ばらつき部分および欠陥部分または欠け部分を少なくしまたは避けなければならない。
【0007】
前記した本願発明の目的は、すべての種類の複数の異なる材料、特に新しい合金材料および極めて脆い材料、を切断または切除する場合にも達成できなければならない。さらに、本願発明の方法および装置は、従来の方法および装置を用いるのに比べて、被加工材中により深い切り込みを入れたり、より深く切除でき、またはより厚い被加工材を分断できるものでなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記した本願発明の目的は後記する特許請求の範囲の独立請求項によって与えられる実施形態により達成される。これらの実施形態の有利な実施は独立請求項の従属請求項中で定められる。特に、本願発明の実施形態は液体噴流中に入射されその液体噴流と結合する合成パルスレーザービームの使用に基づく。合成パルスレーザービームは具体的に切断しようとする材料を切断し、その品質を向上させるのに適している。
【0009】
本願発明の第1の特長は、パルスレーザービームを用いて被加工材の特定の材料を切断または除去するための方法であって、少なくとも一個のレーザー光源を用いて前記パルスレーザービームを発生させるステップと、加圧された液体噴流を供給して前記被加工材に当てるステップと、前記パルスレーザービームを前記加圧された液体噴流中に入射させて前記加圧された液体噴流と結合させて前記被加工材に向かわせるステップと、を有し、 前記パルスレーザービームは前記被加工材の前記特定の材料に基づいて選ばれる少なくとも2つの重ね合わされたパルス波を有し、第1パルス波のパワーと周波数は第2パルス波と異なる方法を与える。
【0010】
言い換えれば、前記第1の特長が与える方法を用いて切断または切除される単一の被加工材の材料用に、少なくとも2つのパルス波が選ばれ、重ね合わされて合成パルスレーザービームができる。各レーザーパルス波は特定のパターンが繰り返される所定のパルス波形を前記合成パルスレーザービームに与える。すなわち、所定のパルス波形とは、少なくとも第1レーザーパワーと第1レーザー周波数を有する第1レーザーパルス波形と第2レーザーパワーと第2レーザー周波数を有する第2レーザーパルス波形のそれぞれである。これら2つのレーザーパワーおよび2つの周波数が重なり合う。このようにして合成パルスレーザービームは繰り返しパターンを示す。
【0011】
主として前記方法は一種類の材料(特定の材料)からなる中実のブロックからできている被加工材を切断または切除するために指定され、このような特定の材料の切断に適した少なくとも2つのパルス波を用いる。しかし、前記方法は2つ以上の材料を含む被加工材、例えば複数の異なる材料からなる複数の層からできている被加工材にも使うことができる。この場合、理想的には各材料層ごとに少なくとも2つのパルス波を用いて切断または切除される。もしもそのような2つの材料層が一度に切断または切除される場合、複数のパルス波が選ばれること、特に材料層ごとに少なくとも2つのパルス波が選ばれることが望ましい。
【0012】
前記パルスレーザービーム中の第1パルス波は、例えば第1レーザー光源によって出力される主要/マスターレーザー発光によってできるものでよく、第2パルス波は例えば第2レーザー光源によって出力されるスレーブレーザー発光によってできるものでよい。各レーザー光源は、所定のパワー(独立したピークパワーおよび/またはパルス幅)および周波数(パルス繰り返し速度)を有する単一のパルスレーザービームを出力するものでよい。例えば、前記主要/マスターレーザー発光は、そのレーザー発光に対して切断あるいは切除される前記特定の材料が比較的強い吸収を示すように、かつ/または前記主要/マスターレーザー発光の光強度が前記スレーブレーザー発光よりも高くなるように選ばれる。一方、前記スレーブレーザー発光は、そのレーザー発光に対して前記特定の材料が比較的弱い吸収を示すように、かつ/または前記スレーブレーザー発光の光強度が前記主要レーザー発光よりも低くなるように選ばれる。しかし、上述の前記マスター/スレーブレーザー発光の効果は本明細書中では必ずしも「第1」および「第2」の名称で定められるわけではない。各レーザーパルス波のパワーと周波数の選択は切断または切除される前記特定の材料の周波数に依存する光吸収係数に基づく(依存する)。言い換えれば、前記特定の材料の光吸収はレーザー発光波長およびパルス特性が異なれば変化する。特に、2つの重ね合わせられるパルス波は単一の専用のレーザー光源によって作られるものでもよい。
【0013】
被加工材を完全に切断して/被加工材中に切込みを入れて、その後にできる切断表面が極めて均一になるように、または被加工材を切除し、その後にできるその切除表面が極めて均一になるように前記合成パルスレーザービームは合成される。(レーザービームを用いて切断する場合の)切断表面はレーザービームの進行方向に沿って、例えばレーザービームが垂直に被加工材表面に当たる場合は被加工材表面に垂直に形成される。切断によって、例えば被加工材が2つの部分に分断される。切除表面は、フライス加工表面とも言い(レーザービームを用いて切除/フライス加工する時)、被加工材表面から被加工材の材料を一層ずつ除去することによって形成される。このように、切除/フライス加工表面は新しい被加工材表面になり、均一な厚さの一つ以上の層が除去される場合は元の被加工材表面と平行となる。特に、切除された被加工材の材料の層によって切除表面の品質が決まる。
【0014】
特に、被加工材の特定の材料に基づいて前記少なくとも2つのパルス波を選ぶことによって、切断表面または切除表面の表面粗さが極めて小さくなり、切断表面または切除表面のばらつき部分がほとんど無いまたは全く無い表面になる。さらに、欠陥部分および欠け部分の発生がかなり減少し、または完全に抑制することもできる。また、いわゆる切断表面のテーパ形状効果も防げる。したがって、前記第1の特長の方法は被加工材、特に硬質材料および/または脆い材料でできた被加工材の切断および/または切除を全般的に改良する。さらに、前記第1の特長の方法によれば、切断部の表面品質を落とすことなく、従来技術の方法に比べて、被加工材中により深い切り込みを入れたり、より厚い被加工材を切断することや、被加工材のより厚い層を切除することが可能になる。
【0015】
本願発明の方法の一実施態様では、前記第1パルス波は前記被加工材の前記特定の材料を切断または切除するのに適しており、前記第2パルス波は前記被加工材の前記特定の材料を切断または切除するのに適していない。
【0016】
このことは、前記パルスレーザービーム中の前記第1パルス波(すなわち主要レーザー発光)のみを用いるだけで被加工材が完全に切断すること、あるいは被加工材中に少なくとも十分な切り込みを入れること、または被加工材が切除することができるが、表面品質は余り良くない状態であることを意味する。前記第2パルス波(第2パルスレーザー発光)を用いるだけでは、被加工材が完全に切断すること、あるいは被加工材中に少なくとも十分な切り込みを入れることはできないし、また被加工材を切除することもできないが、前記第2パルス波は被加工材の表面に引っかき傷をつけることのみができる。これらの2つのパルス波の能力はこれらパルス波の固有の特性、特にこれらパルス波それぞれのパワーと周波数によるものである。これらの特性は切断または切除する材料の種類に基づいて選ばれる。前記少なくとも2つのレーザーパルス波が重ね合わされて前記第1の特長の方法で用いられるパルスレーザービームになると、これらのレーザーパルス波が協働することにより被加工材を切断または切除し、しかも表面品質が改良される。
【0017】
本願発明の方法の一実施態様では、前記第1パルス波は前記被加工材の前記特定の材料を切断または切除するのに適しており、前記第2パルス波は前記被加工材の前記特定の材料の表面を平滑にする、特に前記第1パルス波を用いて前記特定の材料を切断または切除することによってできた表面を平滑にするのに適している。
【0018】
このことによって、切断部の縁が滑らかになり、さらに表面粗さがかなり小さくなり、または切除断面が平滑になる。また、欠陥部分および欠け部分を概ね防ぐことができる。
【0019】
本願発明の方法の一実施態様では、前記第2パルス波は前記被加工材の前記特定の材料として均一な金属またはセラミック材料の表面を平滑にして、表面粗さプロファイルの算術平均を0.3μm以下、好ましくは0.1μm以下にするのに適している。
【0020】
したがって、極めて滑らかな切断部または滑らかな切除部にすることができる。被加工材の厚さは0.3~1mm、例えば0.5mm程度でよく、または被加工材の厚さは1mmよりも厚くてもよく、特に数mm、例えば1~5mmでもよい。さらに、切断部の真直度は高く、特に切断部は完全に鉛直になる(ここで、「鉛直」は設計切断方向によって定められ、この切断方向とは例えば前記加圧された液体噴流の方向と平行であり、前記パルスレーザービームはこの液体噴流方向にガイドされる)。また、一つのパルス波のみを有するパルスレーザービームを用いた場合と違って、切断された被加工材の下側縁部には稜線ができない。
【0021】
本願発明の方法の一実施態様では、前記被加工材の前記特定の材料の厚さが1mm以上である。
【0022】
例えば、この厚さは数mmでよい。したがって、従来技術の場合と比べてかなり厚い被加工材を切断または切除できることになる。
【0023】
本願発明の方法の一実施態様では、前記方法は前記被加工材の2つ以上の材料を切断または切除するために用いる方法であり、前記被加工材は複数の異なる材料層を有し、前記パルスレーザービームは前記被加工材の複数の異なる材料層のそれぞれに対して選ばれる少なくとも2つの重ね合わされたパルス波を有する。
【0024】
すなわち、前記被加工材の複数の(特定の)材料を切断または切除できる。例えば、被加工材は、複数の異なる材料層を有するまたは複数の異なる材料層からできた、複数の材料からなる被加工材でよい。この複数の材料層は、金属、半導体および/またはセラミックスを有するものでよい。
【0025】
本願発明の方法の一実施態様では、前記少なくとも2つの重ね合わされたパルス波はさらに少なくとも一つのパラメータに基づいて、特に前記加圧された液体噴流の幅および/または圧力に基づいて選ばれる。
【0026】
前記液体噴流によりガイドされたパルスレーザービームの特定の環境がここでは考慮される。例えば、前記少なくとも2つのパルス波は前記加圧された液体噴流が不安定になったり、断絶したりすることがないように選ばれる。例えば、前記加圧された液体噴流が水噴流と仮定すると、2つのパルス波は水が蒸発しないように選ばれる。さらに、前記パルスレーザービームの用いる液体との相互作用、例えば用いる液体によって周波数シフトがおきる可能性やレーザー光が減衰することが考慮される。
【0027】
前記加圧された液体噴流が不安定になったり、断絶したりしないように前記2つのパルス波を選ぶため、次のことが関連している。選択したレーザーパルス波の特性(パルス幅、パルスエネルギー、平均パワー)と前記加圧された液体噴流との相互作用は通常非線形な関係を示す。前記加圧された液体噴流が断絶するか否か(すなわち、水の蒸発/キャビテーション並びに前記加圧された液体噴流の流体力学のモードおよび節の変化)は主にレーザーパルス波の周波数およびパルスのエネルギーに依存する。したがって、周波数および/またはパルスエネルギーは加圧された液体噴流の液体または特性(例えば、幅、圧力)に基づいて選べばよい。さらに、周波数および/またはパルスエネルギーはレーザービームが前記加圧された液体噴流中に入射して同液体噴流と結合している空間の割合に依存する。したがって、レーザービームの直径は前記加圧された液体噴流を発生させるのに用いるノズルの直径の半分よりも小さくなるように選べばよい。さらに、前記加圧された液体噴流とパルスの特性で決まる特定の断絶流束量が通常存在する。そのため、レーザーパルス波のピークパルス強度は2GW/cm2より小さくなるように選ばれる。
【0028】
本願発明の方法の一実施態様では、前記第1パルス波の周波数は前記第2パルス波の周波数整数倍と異なる。
【0029】
このことによりはパルスレーザービームの重ね合わせパターンが生じ、この重ね合わせパターンによって各パルス波が被加工材を問題なく切断または切除することに貢献することが可能になる。
【0030】
本願発明の方法の一実施態様では、前記第1パルス波の周波数は前記第2パルス波と技術的に異なる周波数レベルであり、特に前記第1パルス波の周波数は1~40kHzであり、前記第2パルス波の周波数は60~300kHzである。
【0031】
また、前記パルスレーザービームは少なくとも第3パルス波を含むものでよい。この第3パルス波の周波数は100kHz~1MHzでよい。3つの異なるパルス波を含むこのような合成パルスレーザービームを用いると、特に良い結果が得られる。パルス波周波数のこれらの異なる技術レベルは、パルス波それぞれの異なる目的にしたがって選ばれるものでよく、そのようなパルス波の目的とは、例えば前記第1パルスによる粗い切断または粗い切除、前記第2パルスによる切断表面/切断エッジまたは切除表面の粗い平滑化、および前記第3パルスによる切断表面/切断エッジまたは切除表面の微細な平滑化である。
【0032】
本願発明の方法の一実施態様では、前記第1パルス波と前記第2パルス波は同期している。
【0033】
本願発明の方法の一実施態様では、前記第1パルス波と前記第2パルス波は非同期である。
【0034】
このようにすれば、重ね合わされて合成された複数のパルス波を前記パルスレーザービーム中に発生させることができ、前記パルスレーザービームは時間とともに変化する。このことを用いれば被加工材中に特定の不均一な切込みを入れる、または被加工材表面上の所定の構造を補うことができる。
【0035】
本願発明の方法の一実施態様では、前記第1パルス波と前記第2パルス波の少なくとも一つは複数のサブパルスからなるバーストを有する。
【0036】
特に、第1パルス波および/または第2パルス波の各パルスは複数のサブパルスからなるバーストを含む。このようなバーストのそれぞれは対応するサブパルスからできている。前記第1パルス波および/または第2パルス波を発生させる前記少なくとも一つのレーザー光源は、複数の周波数で発光するものでよく、高い周波数はバースト-インタパルスに特有の周波数であり、低い周波数はバースト繰り返し速度に対応する周波数である。バーストは隣り合うサブパルスの間の時間間隔を固定して発生させるものでよい。隣り合うバーストの間、すなわち一つのバーストの最後のサブパルスと次のバーストの第1サブパルスの間の固定時間間隔は長くしてもよい。
【0037】
本願発明の方法の一実施態様では、前記被加工材の前記特定の材料は、コバルト-クロム-ニッケル合金、特にフィノックス合金(すなわち、特定のコバルト-クロム-ニッケル合金)、または銅-亜鉛-ニッケル合金、銅基合金あるいはアモルファス鋼であり、 前記第1パルス波の周波数は4~8kHzであり、前記第1パルス波の半値全幅(FWHM)のパルス幅は90~160nsであり、前記第2パルス波の周波数は80~120kHzであり、前記第2パルス波の半値全幅のパルス幅は5~20nsである
【0038】
本願発明の方法の一実施態様では、前記被加工材の前記特定の材料は半導体であり、前記第1パルス波の周波数は18~40kHzであり、前記第1パルス波の半値全幅(FWHM)のパルス幅は200~500nsであり、前記第2パルス波の周波数は100~300kHzであり、前記第2パルス波の半値全幅(FWHM)のパルス幅は15~30nsである
【0039】
本願発明の方法の一実施態様では、前記被加工材の前記特定の材料は超硬質材料、特にセラミックまたはダイヤモンドであり、前記第1パルス波の周波数は1~13kHzであり、前記第1パルス波の半値全幅(FWHM)のパルス幅は100~190nsであり、前記第2パルス波の周波数は50~150kHzであり、前記第2パルス波の半値全幅(FWHM)のパルス幅は6~20nsである。
【0040】
上述した好ましいパラメータを用いれば、特に被加工材が前記した材料でできている場合、切断表面または切除表面の表面品質が著しく優れたものになる。
【0041】
本願発明の第2の特長は、パルスレーザービームを用いて被加工材の特定の材料を切断または切除するための装置であって、該装置は、前記パルスレーザービームを発生する少なくとも1個のレーザー光源と、加圧された液体噴流を供給して前記被加工材に当て、前記パルスレーザービームを前記加圧された液体噴流の中に入射させて前記加圧された液体噴流と結合させて前記被加工材に向かわせる少なくとも1個の機械加工ユニットと、を有し、前記パルスレーザービームは前記被加工材の前記特定の材料に基づいて選ばれる少なくとも2つの重ね合わされたパルス波を有し、第1パルス波のパワーと周波数は第2パルス波と異なる装置を与える。
【0042】
この第2の特長の装置は前記第1の特長の方法のために述べた同じ利点をもたらす。すなわち、第2の特長の装置を用いれば、被加工材の材料を切断または切除することができ、しかも従来技術の装置よりも高い品質にすることができる。
【0043】
本願発明の装置の一実施態様では、前記装置は前記パルスレーザービームを発生する単一のレーザー光源を有する。
【0044】
本願発明の装置の一実施態様では、前記装置は前記パルスレーザービームを発生する複数のレーザー光源を有する。
【0045】
例えば、2個のレーザー光源の場合、レーザー光の色(波長)は異なるものでよい。例えば、532nmと515nm(緑)、または532nm(緑)と1024nm(赤外線)である。
【0046】
本願発明の装置の一実施態様では、前記装置は前記パルスレーザービームを発生させるために前記複数のレーザー光源のそれぞれが発光するレーザー光を重ね合わせる光学系と、前記パルスレーザービームを前記機械加工ユニットまでガイドする光結合素子と、をさらに有する。
【0047】
この態様では、前記光学系は前記機械加工ユニットの外部に配置されることになる。例えば、前記光学系は前記レーザー光源を有するレーザーユニットの内部にあるか、または前記レーザー光源用のレーザーヘッド内にあるものでよい。
【0048】
本願発明の装置の一実施態様では、前記複数のレーザー光源が発光するレーザー光は少なくとも2つの互いに異なるパルス波周波数および/または少なくとも2つの互いに異なる色を有する。
【0049】
前記第2の特長の装置はさらに複数の周辺デバイスを含むものでよい。例えば、レーザーコントローラ、水供給コントローラ、ガス供給コントローラまたは動作軸コントローラのような周辺デバイスを含むものでよい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
本願発明の前記した特長および実施態様は、以下の図面と関連する所定の実施形態の次節の記載により説明される。
【0051】
図1図1は本願発明の実施形態にしたがう方法の流れ図を示す。
図2図2は本願発明の実施形態にしたがう方法で用いられるパルスレーザービームを概略的に示す。
図3図3は本願発明の実施形態にしたがう装置を示す。
図4図4は本願発明の実施形態にしたがう装置を示す。
図5図4は本願発明の実施形態にしたがう装置を示す。
図6図6は従来技術の方法/装置を用いて得られた切断結果と本願発明の実施形態にしたがう方法/装置を用いて得られた切断結果とを比較している。
図7図7は従来技術の方法/装置を用いて得られた切断結果を示す。
図8図8は従来技術のパルスレーザービームを示す。
図9図9は本願発明の実施形態にしたがう方法/装置を用いて得られた切断結果を示す。
図10図10は本願発明の実施形態にしたがう方法/装置を用いて実施される切断方法の一つを示す。
【発明を実施するための形態】
【0052】
図1は流れ図により本願発明の実施形態にしたがう方法100を示す。方法100はパルスレーザービームを用いて被加工材310の特定の材料を切断または切除するのに特に適している。方法100は本願発明の実施形態にしたがう装置300が実行する、または同装置300を用いて実行されるものでよい(装置300の詳細は図3を参照)。
【0053】
方法100は第1ステップ101を含み、第1ステップ101は一つ以上のレーザー光源、例えば装置300の第1レーザー光源301および/または第2レーザー光源301aを用いてパルスレーザー200(図2参照)を発生させるものである。さらに、方法100は第2ステップ102と第3ステップ103を含む。第2ステップ102は、例えば装置300が出力する加圧された液体噴流303を供給して被加工材310上に当てるものであり、第3ステップ103は合成パルスレーザービーム200を液体噴流303中に入射させて液体噴流303と結合させて被加工材310に向かわせるものである。
【0054】
パルスレーザービーム200を発生するステップ101は図1の方法100で特に重要である。特に、パルスレーザー200は切断または切除しようとする特定の被加工材310の材料に基づいて発生させる。すなわち該特定の被加工材310の材料の特性にしたがってレーザービーム200中のパルス波を選択することによって発生させる。この目的のため、方法100は少なくとも2個の重ね合わされたパルス波201、202を有するパルスレーザービーム200を発生するステップ101を有する。各パルス波は被加工材310の特定の材料に基づいて選択される。前記2個の重ね合わされたパルス波201、202のうちの第1パルス波201のパワーと周波数は前記2個の重ね合わされたパルス波201,202のうちの第2パルス波202と相違する。
【0055】
図2の(b)は合成パルスレーザービーム200を概略的に示し、この合成パルスレーザービーム200は図1中に示す方法100で用いられる。さらに、図2の(a)は2個のパルス波201、202を示し、これらのパルス波201、202はそれぞれパルスレーザービーム200中に含まれる。図2中ではレーザーパワーPがy軸で示され、時間がx軸で示されている。2個のパルス波201、202が重ね合わされてパルスレーザービーム200となっている。重ね合わされたパルス波201、202は最終的なレーザービーム200中の時間に対するレーザービームパワーの合成されたパターンを作っている。2個のパルス波201、202のパワーと周波数は互いに異なる(例えば、図2中ではパルス波202のピークパワーはパルス波201より低く、パルス波202の周波数はパルス波201よりも高い)。図2(b)中に示す合成パルスレーザービーム200が最終的に特定の被加工材材料を切断または切除するのに用いられる。
【0056】
少なくとも2個の別々のパルス波形(少なくとも一つのレーザー光源301、301aにより作られた)がレーザービーム200中で重ね合わされている。ここで、少なくとも2個のパルス波201、202の周波数は互いに異なる。例えば、第1パルス波201の周波数は1~25kHzでよく、第2パルス波202の周波数は80~250kHzでよい。一例として、第1パルス波201の周波数をf1=10kHzで、第2パルス波202の周波数をf2=100kHzとすることができる。
【0057】
一方、第2パルス波202の周波数f2は第1パルス波201の周波数f1の整数倍となるように選ばなくてもよい。さらに、f2はf1とは技術的に異なる周波数レベルから選ぶことができる(例えば、f1はns-周波数レベルで、f2はps-周波数レベルとしてよい)。少なくとも2個のパルス波201、202はさらに同期していても、非同期であってもよく、少なくとも一つのレーザー光源301、302が同期している状態から非同期の状態に切り替わってもよいし、その逆でもよい。
【0058】
第1パルス波201は材料を切断または切除するだけでよく、第1パルス波201により切断または切除のみする場合、切断表面の品質が低く、すなわち表面粗さが大きく、例えば表面粗さ(Ra)の算術平均がRa>0.3μm、またはRa>1μmとなる。このような状態でも、パルス波201が被加工材310の特定の材料を切断または切除するのに適していると考えて差し支えない。第2パルス波202のみでは、被加工材310の特定の材料に引っ掻き傷をつけることしかできず(すなわち、その特定の材料の最表面のみに引っ掻き傷をつけるだけで)、被加工材310の特定の材料を実質的に切断したり切除したりする(すなわち、所定の深さまで切断または切除する)のには適していないと考えられる。
【0059】
しかし、少なくとも2個のパルス波201,202が重ね合わされてパルスレーザービーム200になると、第1パルス波201は被加工材310の特定の材料の比較的大きい部分を除去して切断または切除を行い、第2パルス波202が切断または切除された表面を平滑にすることができる(例えば、Ra?0.3μmまたはRa?0.1μmにすることもできる)。従来は切断または切除できなかった新しい種類の材料もこのようにすれば切断することができる。
【0060】
図3は本願発明の実施形態にしたがう装置300を示す。装置300は通常パルスレーザービーム200を用い、パルスレーザービーム200を加圧された液体噴流中に入射させてその加圧された液体噴流と結合させて被加工材310を機械加工、特に被加工材310を切断または切除する。この目的のために、装置300は機械加工ユニット302により加圧された液体噴流303を発生して供給し、パルスレーザービーム200を加圧された液体噴流303の中に入射させてその加圧された液体噴流303と結合させる。パルスレーザービーム200は一つのレーザー光源または複数のレーザー光源301、301a(2個は一例にすぎない)から受光する。このパルスレーザービーム200の結合は機械加工ユニット302中で行われるのが好ましい。機械加工工程の間、被加工材310は機械加工表面上に配置されればよい。この機械加工表面は装置300の一部であっても、そうでなくてもよい。どちらの場合でも、装置300は前記機械加工表面上に配置された被加工材310を機械加工できるようになっている。この場合、装置300は前記機械加工表面の3次元までの動きを制御できる。装置300は特に液体噴流でガイドされたパルスレーザービーム200を被加工材310を横切る切断または切除の経路上を動かして被加工材310を切断または切除できる。このパルスレーザービーム200の動きは連続的な動きでも、ステップ単位の動きでもよく、その動きの速度は選択する/変化させることができる。
【0061】
図4は本願発明の実施形態にしたがう装置300を示し、この装置300は図3中に示す装置300に別の構成が追加されたものである。図3図4中にある同一の構成要素は同じ参照符号が付けられ、同じ機能を果たす。したがって、図4の装置300も少なくとも一個のレーザー光源301、301aを有し、合成パルスレーザービーム200を機械加工ユニット302に供給し、機械加工ユニットに合成パルスレーザービーム200を供給し、機械加工ユニット中で合成パルスレーザービーム200が加圧された液体噴流中303に入射させられその加圧された液体噴流303と結合する。
【0062】
図4は装置300の機械加工ユニット302中に配置される光学系および液体回路のさらに詳細部分を示す。機械加工ユニット302は、パルスレーザービーム200を加圧された液体噴流303中に入射させてパルスレーザービーム200を加圧された液体噴流303と結合させるために用いられる、少なくとも一個のレンズのような光学素子を特に含むものでよい。パルスレーザービーム200は機械加工ユニット302の外部で作られ、機械加工ユニット302中に入光する。機械加工ユニット302中では、ミラーまたはビームスプリッタ402または他の光学素子によってパルスレーザービーム200をガイドして少なくとも一個のレンズ403に向かわせる。ビームスプリッタ402を用いて、例えば工程制御のために、さらに装置300の外部からレーザー光の一部を入射・結合させることもできる。機械加工ユニット302はまた光学的に透明な保護窓(図示せず)を有するものでよい。この保護窓により、前記光学系すなわちその一例としては光学素子403を、前記液体回路および加圧された液体噴流303を発生させる機械加工ユニット302の領域から分離できる。
【0063】
加圧された液体噴流303を発生させるために、機械加工ユニット302は液体ノズル開口を有する液体噴流発生ノズルを含むものでよい。この液体噴流発生ノズルは保護された環境中で加圧された液体噴流を発生させるため機械加工ユニット302の内部に配置されるのが好ましい。前記液体ノズル開口によって加圧された液体噴流303の幅が決まる。前記液体ノズル開口の直径は、例えば10~200μmであり、加圧された液体噴流の直径の直径は、例えば前記液体ノズル開口の約0.6~1倍になる。加圧された液体噴流303の圧力は外部の液体源を介して供給されるのが好ましい。加圧された液体噴流303の圧力は好ましくは50~800barの間である。 装置300から加圧された液体噴流303を出力するため、機械加工ユニット302は出口開口を有する出口ノズルを含むものでよい。この出口開口は前記液体ノズル開口よりも大きいことが好ましい。
【0064】
図4は、装置300が例えば複数のレンズのような複数の光学素子からなる組である光学系400含むものでよいことをさらに示す。光学系400は2個以上のレーザー光源(図4では2個のレーザー光源301、301a)が出光するレーザー光を重ね合わせてパルスレーザービーム200を発生する。さらに、装置300はパルスレーザービーム200を機械加工ユニット302まで、さらにその中までガイドする光結合素子401を有するものでよい。光結合素子401は、例えば光ファイバでよい。
【0065】
図5は本願発明の実施形態にしたがう装置300を示す。この装置300は図3に示す装置300に別の構成要素が追加されたものである。図4図5中にある同一の構成要素は同じ参照符号が付けられ、同じ機能を果たす。したがって、図5の装置300も少なくとも1個のレーザー光源301、301aを有し、合成パルスレーザービーム200を機械加工ユニット302に供給し、機械加工ユニット302中で合成パルスレーザービーム200が加圧された液体噴流303中に入射させられその加圧された液体噴流303と結合する。
【0066】
図5に示す装置300はさらに制御ユニット500を含む。制御ユニット500は少なくとも1個のレーザー光源301を制御することができる(例えば、少なくとも1個のレーザー光源301、301aのレーザーコントローラ―に命令できる)。例えば、制御ユニット500は少なくとも1個のレーザー光源301、301aに発生させるパルス波201、202を決めて、これらのパルス波が最終的に重ね合って合成パルスレーザービーム200になる。制御ユニット500にはまた少なくとも2個のパルス波201、202を示す信号が入力されるものでよい。すなわち、制御ユニット500は少なくとも1個のレーザー光源301、301aのそれぞれのレーザーコントローラに指示して、指示に従ったレーザー発光を出力させる。この場合、制御ユニット500は特にパルス波201とパルス波202のうちの一つ、またはそれぞれを制御用の参照信号とするものでよい。ここでレーザー光源301、301aのそれぞれのレーザーコントローラは、制御ユニット500からの指示にしたがって、パルスパワー、パルス幅、パルス補充速度、パルスバースト率(パルスがバーストを含む場合に、パルスごとのバースト率)またはパルス間の停止時間を設定できるものでよい。装置300はヒト-機械インタフェース(HMI)501を含むものでよい。ヒト-機械インタフェース(HMI)501を用いて、装置300のユーザーは制御ユニット500に入力することができる。例えば、ユーザーの入力は切断または切除する被加工材310の特定の材料の少なくとも一つのパラメータを含む場合もある。制御ユニット500はこのようにして少なくとも1個のレーザー光源301、301aを制御するものでよい。
【0067】
装置300はさらに複数の周辺デバイスを含むものでよく、制御ユニット500はそのような1台以上の周辺デバイスに指示信号を与えるものでよい。この場合、制御ユニット500は選択したレーザーパルス波201、202に基づいて前記周辺デバイスを制御することができ、例えば前記周辺デバイスを指示して、指示に対応する動作を始動、中断、停止および/または再始動することができる。
【0068】
例えば、図5中に示す装置300は周辺デバイスとして液体/気体供給コントローラ502と動作軸コントローラ504(例えば、「コンピュータ数値制御(CNC)」)を含む。動作軸コントローラ504は被加工材310が置かれている機械加工表面、または代わりに被加工材310自身をX、YおよびZ方向並びに/またはa、bおよびc回転方向に動かすものでよい。この場合、Z方向は加圧された液体噴流303と平行な方向であり、XおよびY方向は、Z方向に垂直な方向になり、例えば機械表面の平面を特定する。したがって、被加工材310を3次元の自由度で動かして、X,YおよびZ方向に変位させることができ、またはこれらの方向に平行な一つ以上の軸のそれぞれの周りで回転させることができる。
【0069】
制御ユニット500は複数の異なる周辺デバイスのそれぞれに指示信号を与える。制御ユニット500は複数の周辺デバイスのそれぞれを他と独立に制御できる。制御ユニット500から与えられる指示にしたがって、複数の周辺デバイスは指示された動作を行うことができる。例えば、少なくとも1個のレーザー光源301、301aはレーザー発光用のレーザー光の供給を始動、休止または停止できる。液体/ガス供給コントローラ502は液体/ガス圧力制御弁503を制御して、機械加工ユニット302への液体(例えば、水)および/またはガス(供給する水の保護用ガスとしてヘリウム)の供給を始動、中断または停止することができる。動作軸コントローラ504によって被加工材310に特定の動きをさせることができる。すなわち、動作軸コントローラ504は被加工材310が配置される機械加工表面を制御できる。このようにすれば、被加工材301を加圧された液体噴流303中のパルスレーザービーム200に対して相対的に動かすことができ、切断経路または切除経路を定めることができる。
【0070】
動作軸コントローラ504は被加工材310の機械加工ユニット302に対する相対的なx-y―z方向位置を変化させることができる。特に、動作軸コントローラ504はパルスレーザービーム200のレーザーパルスのそれぞれの後に被加工材310の位置を変えることができる。ここで、被加工材の位置はステップ単位で変化させてもよいし、連続的に変化させてもよい。動作軸コントローラ504が、被加工材310を所定の軌道上を動かしながら被加工材310のx-y-z方向位置の変化を加速または減速させることも可能である。このようにすることにより、切り込みまたは切除の深さを変化させることができる。
【0071】
図6は、従来技術の装置600および方法により得られた切断結果(a)と本願発明の実施形態にしたがう方法100および装置300により得られた切断結果(b)との比較を概略的に示す。
【0072】
特に、図6(a)に示す装置600は機械加工ユニット602を含み、液体噴流603を出力し、液体噴流603の中にはレーザービームが入射して液体噴流603と結合する。このレーザービームは連続的なレーザービームまたは単一のパルス波を有するパルスレーザービームである。液体噴流603中のレーザービームは所定の切断経路620上を動いて被加工材310を横切る。これにより切断表面601(影が付けられている)ができる。しかし、残念ながら切断表面601の表面品質は余り高くない。特に、切断表面601には表面品質ばらつき部分604ができることが多い。この表面品質ばらつき部分604は切断経路の沿ったどの部分の切断表面にも発生しうる。さらに、欠陥部分または欠け部分605、606が切断部の縁上にできる。特に、欠け部分606は被加工材310の表の面にでき(すなわち、装置600に向き合う側)、欠け部分605は被加工材310の裏の面にできる。
【0073】
しかし、本願発明の実施形態にしたがう図6(b)中に示す装置300を用いるやり方で、または本願発明の実施形態にしたがう通常の方法100を用いるやり方で、同じ切断経路620に沿って被加工材310が切断されれば、切断表面610はかなり改良される。特に、切断表面610は表面品質ばらつき部分のない極めて均一な表面になっている。さらに、例えば欠けによって生じる欠陥部分も抑えられている。
【0074】
図7は従来技術の方法および装置600の場合で、用いるパルスレーザービームの種類を変えて得られる複数の切断結果を示す。これらの切断結果に関して、図8は2つの従来技術のパルスレーザービームを概略的に示す。標準的なレーザー光源は一つの型のパルス波しか出力できない。この点に関し、図8の(a)は高パワーで低い周波数のパルス波801を示す一方、図8の(b)は低パワーで高い周波数のパルス波802を示す。複数の異なるオプションの間での切り替え、例えば互いに異なるパルス波801とパルス波802との間で切り替えると、レーザービームが不安定になり、切断部の結果が正確でなくなる。特に、図7の(a)はパルス波801を用いたときの切断結果を示し、図7の(b)では図8のパルス波802を用いたときの切断結果を示す。
【0075】
高パワーで低い周波数のパルス波801を用いた場合、欠け部分700が多く生じ、切断表面701の品質は余りよくないが、テーパ形状にはなっていない。例えば、図8(a)中に示す大きなレーザーパルスを用いてフィノックス合金材料を切断すると、切断表面上に火山状の構造ができ、すなわち表面粗さが大きくなる。
【0076】
低パワーで高い周波数のパルス波802を用いると、欠けの発生は比較的少ないが、切断表面はテーパ形状になる場合が多く、良くない品質の表面になる。例えば、0.25mmよりも厚い金属基板を図8(b)中に示す比較的短いレーザーパルスを用いて切断する時の大きな問題は、テーパ効果が>10μmになり、表面粗さが許容範囲になるのは頂面から底側までの最初の100~200μmまでの表面のみだけである。
【0077】
図9は本願発明の実施形態にしたがう方法100および装置300を用いて得られた切断結果を概略的に示すものであり、この切断結果は図7中に示す切断経路と同様な切断経路620に対応する結果である。テーパ形状や欠け部分がない高い品質の切断表面610が得られた。したがって、この切断品質は従来技術の装置600および方法をかなり改良したものになっている。
【0078】
本願発明の実施形態にしたがう方法100を用いて実施される既定の切断方法においては、被加工材310の特定の材料を合成パルスレーザービーム200のみを用いて切断する。この方法では、被加工材310の切断は、比較的遅い速度での単一のパス(すなわち、材料が切断されて単一層ができる)、あるいは例えば比較的速い速度で複数のパス(すなわち、すべての材料を除去するには複数の層が必要である)のいずれかで行うか、または、単一あるいは複数のパスで切断するが最後のパス(仕上げパス)ではブリッジ部分を残して材料を保持して、その後切断表面を平滑にしてブリッジ部分を切断する。
【0079】
図10は代わりの切断方法を概略的に示すものであり、この切断方法は本願発明の実施形態にしたがう方法100を用いて実施できるので有利である。この切断方法は通常のパルスレーザービームと合成パルスレーザービーム200の両方を用いる。第1ステップでは、被加工材310の特定の材料は最終切断部1000よりも大きいが深さが浅い切り込み1001を入れる機械加工を行うものでよい。例えば、切り込み1001は最終切断部1000よりも10~60μm大きく、その深さが最終切断部1000の90~95%でよい。この第1ステップを行うために、被加工材310を始めに高速で切断して切り込み1001を入れることを(前記特定の材料用に選んだ)前記した少なくとも2つのパルス波201、202の一つのみを用いることができる。その後第2ステップでは、被加工材310中の所望の切断部1000を仕上げるため、合成パルスレーザービーム200を用いて最終切断部1000ができる。まとめると、高速切断でしかも高い表面品質という結果になる。
【0080】
本願発明を様々な実施形態および実施態様とともに説明した。しかし、当業者ならば、添付した図面を見て、明細書および独立請求項を読めば、他の変更例を理解し、考えつくことができる。発明の詳細な説明中だけでなく特許請求の範囲中で、「有する(comprising)」は他の要素やステップを排除するものではなく、不定冠詞「a」または「an」は複数を排除するものではない。単一の要素または他のユニットは特許請求の範囲中の複数の物や製品の機能を果たしてもよい。所定の複数の手段が互いに異なる請求項に記載されているからといって、これらの手段の組み合わせを用いて好都合な実施態様にすることできないということを示すものではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10