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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-29
(45)【発行日】2024-06-06
(54)【発明の名称】パターン形成方法、及び塗布装置
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/26 20060101AFI20240530BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20240530BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20240530BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20240530BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240530BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20240530BHJP
   B05C 5/00 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
B05D1/26 Z
B05D1/36 Z
B05D7/14 R
B05D7/24 301M
B41J2/01 125
B41J2/01 401
B41J2/01 123
B05C11/10
B05C5/00 101
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020054111
(22)【出願日】2020-03-25
(65)【公開番号】P2021154187
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000219314
【氏名又は名称】東レエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096080
【弁理士】
【氏名又は名称】井内 龍二
(74)【代理人】
【識別番号】100194098
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 一
(72)【発明者】
【氏名】三好 貴之
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-146243(JP,A)
【文献】特開2013-172060(JP,A)
【文献】特開2009-000600(JP,A)
【文献】特開2007-080603(JP,A)
【文献】特開2003-236453(JP,A)
【文献】特開2018-051525(JP,A)
【文献】有機物性化学 第7回 界面現象 -表面張力,界面活性剤,撥水,親水,接着-,2017年07月03日,p.1-8,https://web.archive.org/web/20170601000000*/https://www.molecularscience.jp/lecture/OrgPhysProp07.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00-7/26
B05C 5/00-21/00
B41J 2/01
2/165-2/20
2/21-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット法により基材にインクによるパターンを形成するパターン形成方法であって、
前記基材のインク塗布領域の周囲に前記インクと互いに混ざり合わない溶媒の液滴を吐出し前記溶媒の前記基材に対する濡れ性を利用して前記インク塗布領域との境界に、該インク塗布領域に塗布される前記インクの厚み方向に曲面を有する溶媒塗膜を形成する第1工程と、
前記インク塗布領域の周囲に前記溶媒塗膜が形成された後の前記インク塗布領域に前記インクの液滴を吐出して塗布する第2工程と、
前記インク塗布領域の周囲に形成された前記溶媒塗膜と、前記インク塗布領域に塗布された前記インクとを乾燥させることにより、前記インク塗布領域に前記インクによるパターンを形成する第3工程とを含むことを特徴とするパターン形成方法。
【請求項2】
前記第1工程では、
前記インク塗布領域の周囲のうち少なくとも前記インク塗布領域の境界近傍に吐出する前記溶媒の液滴径が前記インク塗布領域の塗布幅よりも小さくなるように、前記溶媒の液滴を吐出することを特徴とする請求項1記載のパターン形成方法。
【請求項3】
インクジェット法により基材にインクによるパターンを形成する塗布装置であって、
前記インクの液滴を吐出するインク塗布ユニットと、
前記インクと互いに混ざり合わない溶媒の液滴を吐出する溶媒塗布ユニットと、
前記溶媒塗布ユニットと前記基材とを相対走査させつつ、前記溶媒塗布ユニットから前記溶媒の液滴をインク塗布領域の周囲に吐出し前記溶媒の前記基材に対する濡れ性を利用して前記インク塗布領域との境界に、該インク塗布領域に塗布される前記インクの厚み方向に曲面を有する溶媒塗膜を形成する制御を行う溶媒吐出制御部と、
前記インク塗布ユニットと前記基材とを相対走査させつつ、前記インク塗布領域の周囲に前記溶媒塗膜が形成された後の前記インク塗布領域に、前記インク塗布ユニットから前記インクを吐出して塗布する制御を行うインク吐出制御部とを備えていることを特徴とする塗布装置。
【請求項4】
前記溶媒吐出制御部が、
前記インク塗布領域の周囲のうち少なくとも前記インク塗布領域の境界近傍に吐出する前記溶媒の液滴径が前記インク塗布領域の塗布幅よりも小さくなるように、前記溶媒の液滴を吐出制御可能に構成されていることを特徴とする請求項3記載の塗布装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はパターン形成方法、及び塗布装置に関し、より詳細には、インクジェット法により基材にインクによるパターンを形成するパターン形成方法、及び塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プリント基板又はパッケージ基板などの配線基板における配線パターンは、フォトリソグラフィー法を用いて形成されていた。このフォトリソグラフィー法は、成膜、レジスト塗布、露光、現像、エッチング、及びレジスト剥離などの多段の工程が必要であり、また、そのための高額な設備投資も必要であった。さらに、フォトリソグラフィー法は、基板全面に膜等を形成した後、不要な部分を除去してパターンを得るため、多くの塗布材料が無駄に消費され、また、現像液やエッチング液などの廃液が多く出るため、環境負荷も大きい。
【0003】
そこで、近年、電子素子や配線などの電子デバイスの構成要素をインクジェット法により形成するプリンテッドエレクトロニクスが注目されている。インクジェット法では、工数を減らすことが可能であり、必要な部分だけパターンを描画するため材料使用量が抑制され、また、現像液やエッチング液などの廃液が出ないため環境負荷も小さく、設備投資のコストも抑制することが可能である。
【0004】
しかしながら、インクジェット法では、ヘッド部内のインク流路に発生する泡噛みやノズル面の汚れや塵埃の付着等に起因して、ヘッド部のノズルから吐出されたインク液滴が基板のインク塗布領域から外れた位置に着弾する、いわゆる着弾位置ズレが生じることがある。このような着弾位置ズレによってインク塗布領域以外の箇所にインクが残留したままになると、残留したインクが基板の品質不良を招く虞があった。
【0005】
このような着弾位置ズレに対して様々な対策が検討されている。例えば、インクの吐出制御の改良、ヘッド部の改良、装置の機械的な動作精度の改善、又はノズル検査システムの開発などの対策が検討されている。しかしながら、着弾位置ズレを根絶することは難しく、このことが、インクジェット法を用いたプリンテッドエレクトロニクスの実用展開を妨げる要因の一つとなっている。
【0006】
とりわけ、前記泡噛みやノズル面の汚れや塵埃の付着などに起因して生じる突発的な着弾位置ズレを撲滅することは困難であり、上記列挙したような対策に加えて、万が一、突発的な着弾位置ズレが発生した場合であっても、着弾位置がずれたインク液滴がインク塗布領域以外の箇所に残留しないようにする方法が求められている。
【0007】
このような方法として、フォトリソグラフィーやレーザー等の方法で基板自体に親液性を有するパターン又は撥液性を有するパターンを前工程で予め形成しておき、基板自体に形成された親撥液性パターンを利用してインクのパターニングを行う方法が知られている。
【0008】
基板自体に親撥液性パターンを形成する方法の一例として、下記の特許文献1には、基板表面の所定位置に、液状態の表面張力によって部品を位置合わせするためのパターンが形成されたパターン基板の製造方法であって、感光体の表面に撥液粒子により所定パターンを形成した後、前記感光体から前記基板に前記所定パターンを転写することにより、前記撥液粒子で前記所定パターンを前記基板上に形成する方法が記載されている。
【0009】
また、基板に形成される電極表面に撥液層を形成する方法の一例として、下記の特許文献2には、転写印刷法を用いて形成されたソース電極、ドレイン電極の表面に、該ソース電極、ドレイン電極の材料に含有されている撥液性を有する成分(界面活性剤)を拡散させて、撥液層を形成した後、予めチャネル部に形成しておいた犠牲層を除去し、該犠牲層が除去されたチャネル部に、液滴塗布法(インクジェット法)を用いて半導体溶液を塗布して半導体膜を成膜する薄膜トランジスタの製造方法が記載されている。
【0010】
[発明が解決しようとする課題]
上記した特許文献1記載の製造方法では、液状態の表面張力によって部品を位置合わせするためのパターン基板を、マスクや版などを用いることなく、バリアブル・オンデマンドで製造できるとしているが、別途、露光装置や現像装置が必要となり、設備コストが嵩むという課題があった。
また、上記した特許文献2記載の製造方法では、転写印刷法と液滴塗布法とを用いるので依然として多段にわたる煩雑な工程が必要となり、インクジェット法を用いるコストメリットが半減してしまうという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2014-239169号公報
【文献】特許第5560629号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段及びその効果】
【0012】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであって、基材自体に親液性や撥液性を付与するための加工を施すことなく、吐出されたインク等の液滴の着弾位置ズレに起因する塗布欠陥の発生を簡易且つ低コストで防止可能なパターン形成方法、及び塗布装置を提供することを目的としている。
【0013】
上記目的を達成するために本発明に係るパターン形成方法(1)は、インクジェット法により基材にインクによるパターンを形成するパターン形成方法であって、
前記基材のインク塗布領域の周囲に前記インクと互いに混ざり合わない溶媒の液滴を吐出して溶媒塗膜を形成する第1工程と、
前記インク塗布領域の周囲に前記溶媒塗膜が形成された後の前記インク塗布領域に前記インクの液滴を吐出して塗布する第2工程と、
前記インク塗布領域の周囲に形成された前記溶媒塗膜と、前記インク塗布領域に塗布された前記インクとを乾燥させることにより、前記インク塗布領域に前記インクによるパターンを形成する第3工程とを含むことを特徴としている。
【0014】
上記パターン形成方法(1)によれば、前記第1工程において、前記基材の前記インク塗布領域の周囲に前記インクと互いに混ざり合わない溶媒の液滴を吐出して前記溶媒塗膜が形成される。そのため、前記第2工程において、前記インクの液滴が前記インク塗布領域の周囲に飛散したりして、突発的な前記インクの着弾位置ズレが発生した場合であっても、着弾位置がずれた前記インクが、前記溶媒塗膜と混じり合うことなく、前記溶媒塗膜との界面張力の差により、前記溶媒塗膜上から前記インク塗布領域に吸い寄せられて、前記インク塗布領域に塗布された前記インクと混ざり合うこととなる。したがって、前記基材に親液性や撥液性を付与するための加工を施すことなく、着弾位置がずれた前記インクが前記インク塗布領域以外の領域に残留するのを防止することができる。すなわち、前記インクの着弾位置ズレに起因する塗布欠陥の発生を簡易且つ低コストな方法、すなわちインクジェット法のみで防止することができる。
【0015】
また本発明に係るパターン形成方法(2)は、上記パターン形成方法(1)において、
前記第1工程では、
前記インク塗布領域の周囲のうち少なくとも前記インク塗布領域の境界近傍に吐出する前記溶媒の液滴径が前記インク塗布領域の塗布幅よりも小さくなるように、前記溶媒の液滴を吐出することを特徴としている。
【0016】
上記パターン形成方法(2)によれば、前記第1工程において、前記インク塗布領域の境界近傍に吐出する前記溶媒が前記インク塗布領域に飛散したりして、突発的な前記溶媒の着弾位置ズレが発生した場合であっても、少なくとも前記インク塗布領域の境界近傍に吐出する前記溶媒の液滴径が前記インク塗布領域の塗布幅よりも小さいため、たとえ、着弾位置がずれた前記溶媒が前記インク塗布領域に残留したままの状態で前記インクが塗布された場合であっても、前記インク塗布領域に形成される前記パターンの欠陥や品質不良の発生を防止できる。また、前記溶媒の液滴径が前記インク塗布領域の塗布幅よりも小さいため、着弾位置がずれた前記溶媒の乾燥も早く進むこととなる。そのため、着弾位置がずれた前記溶媒が前記インク塗布領域に残留しにくく、着弾位置がずれた前記溶媒に起因する前記パターンの欠陥や品質不良の発生防止効果を高めることができる。
【0017】
また本発明に係る塗布装置(1)は、インクジェット法により基材にインクによるパターンを形成する塗布装置であって、
前記インクの液滴を吐出するインク塗布ユニットと、
前記インクと互いに混ざり合わない溶媒の液滴を吐出する溶媒塗布ユニットと、
前記溶媒塗布ユニットと前記基材とを相対走査させつつ、前記溶媒塗布ユニットから前記溶媒の液滴をインク塗布領域の周囲に吐出して溶媒塗膜を形成する制御を行う溶媒吐出制御部と、
前記インク塗布ユニットと前記基材とを相対走査させつつ、前記インク塗布領域の周囲に前記溶媒塗膜が形成された後の前記インク塗布領域に、前記インク塗布ユニットから前記インクを吐出して塗布する制御を行うインク吐出制御部とを備えていることを特徴としている。
【0018】
上記塗布装置(1)によれば、前記溶媒吐出制御部が行う吐出制御により、前記溶媒塗布ユニットから前記溶媒の液滴を前記インク塗布領域の周囲に吐出して前記溶媒塗膜を形成することができる。そのため、前記インク吐出制御部が行う吐出制御において、前記インク塗布ユニットから吐出された前記インクの液滴が前記インク塗布領域の周囲に飛散したりして、突発的な前記インクの着弾位置ズレが発生した場合であっても、着弾位置がずれた前記インクが、前記溶媒塗膜と混じり合うことなく、前記溶媒塗膜との界面張力の差により、前記溶媒塗膜上から前記インク塗布領域に吸い寄せられて、前記インク塗布領域に塗布された前記インクと混ざり合うこととなる。したがって、親液性や撥液性を付与するための加工が施された基材を用いなくても、着弾位置がずれた前記インクが前記インク塗布領域以外の領域に残留するのを防止することができる。すなわち、前記インクの着弾位置ズレに起因する塗布欠陥の発生を簡易且つ低コストな方法、すなわちインクジェット法のみで防止することができる。
【0019】
また本発明に係る塗布装置(2)は、上記塗布装置(1)において、前記溶媒吐出制御部が、前記インク塗布領域の周囲のうち少なくとも前記インク塗布領域の境界近傍に吐出する前記溶媒の液滴径が前記インク塗布領域の塗布幅よりも小さくなるように、前記溶媒の液滴を吐出制御可能に構成されていることを特徴としている。
【0020】
上記塗布装置(2)によれば、前記溶媒吐出制御部が行う吐出制御において、前記インク塗布領域の境界近傍に吐出する前記溶媒が前記インク塗布領域に飛散したりして、突発的な前記溶媒の着弾位置ズレが発生した場合であっても、少なくとも前記インク塗布領域の境界近傍に吐出する前記溶媒の液滴径が前記インク塗布領域の塗布幅よりも小さいため、たとえ、着弾位置がずれた前記溶媒が前記インク塗布領域に残留したままの状態で前記インクが塗布されたとしても、前記インク塗布領域に形成される前記パターンの欠陥や品質不良の発生を防止できる。また、前記溶媒の液滴径が前記インク塗布領域の塗布幅よりも小さい液滴が吐出されるため、着弾位置がずれた前記溶媒の乾燥も早く進むこととなる。そのため、着弾位置がずれた前記溶媒が前記インク塗布領域に残留しにくく、着弾位置がずれた前記溶媒に起因する前記パターンの欠陥や品質不良の発生防止効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施の形態に係る塗布装置を概略的に示す側面図である。
図2】実施の形態に係る塗布装置を概略的に示す平面図である。
図3】実施の形態に係る塗布装置を用いて基材上にインクによるパターンを形成している工程と、インクの着弾位置ズレが発生した場合の状態とを説明するための部分拡大図である。
図4】実施の形態に係る塗布装置を用いて基材上にインクによるパターンを形成している工程の一部と、貧溶媒の着弾位置ズレが発生した場合の状態とを説明するための部分拡大図である。
図5】インク塗布領域の塗布幅よりも液滴径が大きい貧溶媒がインク塗布領域に着弾した場合の状態を示す参考部分拡大図である。
図6】実施の形態に係る塗布装置が行う塗布動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係るパターン形成方法、及び塗布装置の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、実施の形態に係る塗布装置を概略的に示す側面図である。図2は、実施の形態に係る塗布装置を概略的に示す平面図である。
【0023】
図1、2に示すように、塗布装置1は、インクジェット法により基材Wにインクによるパターンを形成する機能を備えた装置であり、溶媒塗布ユニット10、インク塗布ユニット20、基材Wが載置されるステージ30、及び制御装置40を備えている。
【0024】
塗布装置1では、溶媒塗布ユニット10がステージ30に載置された基材Wの上方を移動しつつ、溶媒塗布ユニット10からインクと互いに混ざり合わない溶媒が基材Wのインク塗布領域の周囲に吐出されて、該インク塗布領域の周囲に溶媒塗膜が形成される。
【0025】
また、塗布装置1では、インク塗布ユニット20がステージ30に載置された基材Wの上方を移動しつつ、前記インク塗布領域の周囲に前記溶媒被膜が形成された後の前記インク塗布領域にインク塗布ユニット20からインクが吐出されて、前記インク塗布領域にインクが塗布される。そして、基材W上のインク塗布領域にインクによるパターンが形成される。上記インクと互いに混ざり合わない溶媒とは、例えば、インクに対する貧溶媒である。以下、インクと互いに混ざり合わない溶媒が、貧溶媒であるとして説明する。
【0026】
なお、以下の説明では、溶媒塗布ユニット10とインク塗布ユニット20とが移動(走査)する方向をX軸方向、X軸方向と水平面上で直交する方向をY軸方向、X軸方向およびY軸方向の双方に直交する方向をZ軸方向として説明する。
【0027】
また、基材Wに形成されるパターンは、例えば、有機トランジスタ回路を構成する電極薄膜(SD電極など)、半導体薄膜、又は絶縁膜などの各種の回路パターンである。また、基材Wに形成されるパターンは、液晶パネルや有機ELパネルなどのカラーフィルターの画素パターン、高分子LEDなどの発光デバイス用途の他、微小幅(例えば、ミクロン(μm)オーダー、サブミクロンオーダー)のギャップを有する各種パターンなどでもよい。但し、本発明の対象となるインクにより形成されるパターンは、これらに限定されない。
【0028】
ステージ30は、基材Wを載置するステージ装置であり、基材Wが水平な姿勢を維持した状態で載置される構成になっている。なお、ステージ30は、基材Wが水平な姿勢でステージ表面に吸着保持できるように吸着機構を含んで構成されてもよい。基材Wは、例えば、ガラス基板、樹脂基板、樹脂フィルムなどのフレキシブル基板、又はシリコンウェハなどである。但し、本発明の対象となる基材Wは、これらに限定されない。また、基材Wには、親撥液性を付与するためのパターン加工が施されていないものが採用され得る。
【0029】
溶媒塗布ユニット10は、溶媒吐出ヘッド部11と、溶媒吐出ヘッド部11を支持する第1ガントリ部14とを備えている。
溶媒吐出ヘッド部11は、Y軸方向を長手方向とする略直方体の形状を有し、ピエゾ素子を駆動させて貧溶媒を吐出する溶媒吐出ヘッドモジュール12、13が組み込まれている。本実施の形態では、溶媒吐出ヘッドモジュール12、13が、Y軸方向に複数列組み込まれているとともに、X軸方向に隣接して組み込まれている。すなわち、溶媒吐出ヘッド部11が、複数行のノズル列を含んで構成されている。
【0030】
溶媒吐出ヘッドモジュール12、13は、貧溶媒を吐出する複数のノズル12a、13aを備え、溶媒吐出ヘッド部11の下面に複数のノズル12a、13aがY軸方向に所定のノズルピッチPで配列されている。
【0031】
溶媒吐出ヘッド部11では、溶媒吐出ヘッドモジュール12の複数のノズル12aと、溶媒吐出ヘッドモジュール13の複数のノズル13aとが、P/2のピッチだけ平行にずらして配置されている。この配置により、溶媒吐出ヘッド部11の移動方向(X軸方向)と直交する方向(Y軸方向)のノズル12a、13aの並びがP/2のピッチのノズルに相当するノズル密度を有するインクジェットヘッドが形成されている。
【0032】
また、溶媒吐出ヘッド部11は、溶媒塗布ユニット10の1回の走査で基材W全体のインク塗布領域の周囲に溶媒被膜を形成できる数のノズル12a、13aを備えている。換言すれば、溶媒吐出ヘッド部11のY軸方向のノズル列幅が、基材WのY軸方向の幅よりも大きくなるように、溶媒吐出ヘッド部11が構成されている。
【0033】
なお、図1、2に示す溶媒吐出ヘッド部11には、溶媒吐出ヘッドモジュール12、13がX軸方向に隣接して2行組み込まれているが、別の構成例では、溶媒吐出ヘッドモジュール12のみ、すなわち、X軸方向に1行だけ組み込まれている構成でもよいし、X軸方向に等間隔に3行以上組み込まれている構成でもよい。
【0034】
第1ガントリ部14は、略門型形状に形成され、ステージ30のY軸方向両外側に配置される脚部14aと、これら脚部14aを連結しY軸方向に延びるビーム部材14bとを備え、ビーム部材14bに溶媒吐出ヘッド部11が取付けられている。
【0035】
第1ガントリ部14は、ステージ30をY軸方向に跨いだ状態でX軸方向に移動可能に構成されている。例えば、第1ガントリ部14の脚部14aが、リニアステージなどの直動機構に取り付けられている。したがって、第1ガントリ部14がX軸方向に移動又は停止すると、溶媒吐出ヘッド部11もそれに付随してX軸方向に移動又は停止する。また、第1ガントリ部14の走査量を調節することにより、溶媒吐出ヘッド部11のX軸方向の位置が調節される。これらの構成により、溶媒吐出ヘッド部11が基材W上を移動しつつ、基材Wのインク塗布領域の周囲に溶媒吐出ヘッド部11から貧溶媒が吐出できるようになっている。
【0036】
インク塗布ユニット20は、インク吐出ヘッド部21と、インク吐出ヘッド部21を支持する第2ガントリ部24とを備えている。
インク吐出ヘッド部21は、Y軸方向を長手方向とする略直方体の形状を有し、ピエゾ素子を駆動させてインクを吐出するインク吐出ヘッドモジュール22、23が組み込まれている。本実施形態では、インク吐出ヘッドモジュール22、23が、Y軸方向に複数列組み込まれているとともに、X軸方向に隣接して組み込まれている。すなわち、インク吐出ヘッド部21が、複数行のノズル列を含んで構成されている。
【0037】
インク吐出ヘッドモジュール22、23は、インクを吐出する複数のノズル22a、23aを備え、インク吐出ヘッド部21の下面に複数のノズル22a、23aがY軸方向に所定のノズルピッチPで配列されている。
【0038】
インク吐出ヘッド部21では、インク吐出ヘッドモジュール22の複数のノズル22aと、インク吐出ヘッドモジュール23の複数のノズル23aとが、P/2のピッチだけ平行にずらして配置されている。この配置により、インク吐出ヘッド部21の移動方向(X軸方向)と直交する方向(Y軸方向)のノズル22a、23aの並びがP/2のピッチのノズルに相当するノズル密度を有するインクジェットヘッドが形成されている。
【0039】
また、インク吐出ヘッド部21は、インク塗布ユニット20の1回の走査で基材W全体のインク塗布領域にインクを吐出できる数のノズル22a、23aを備えている。換言すれば、インク吐出ヘッド部21のY軸方向のノズル列幅が、基材WのY軸方向の幅よりも大きくなるように、インク吐出ヘッド部21が構成されている。
【0040】
なお、図1、2に示すインク吐出ヘッド部21には、インク吐出ヘッドモジュール22、23がX軸方向に隣接して2行組み込まれているが、別の構成例では、インク吐出ヘッドモジュール22のみ、すなわち、X軸方向に1行だけ組み込まれている構成でもよいし、X軸方向に等間隔で3行以上組み込まれている構成でもよい。
【0041】
第2ガントリ部24は、略門型形状に形成され、ステージ30のY軸方向両外側に配置される脚部24aと、これら脚部24aを連結しY軸方向に延びるビーム部材24bとを備え、ビーム部材24bにインク吐出ヘッド部21が取付けられている。
【0042】
第2ガントリ部24は、ステージ30をY軸方向に跨いだ状態でX軸方向に移動可能に構成されている。例えば、第2ガントリ部24の脚部24aが、リニアステージなどの直動機構に取り付けられている。したがって、第2ガントリ部24がX軸方向に移動又は停止すると、インク吐出ヘッド部21もそれに付随してX軸方向に移動又は停止する。また、第2ガントリ部24の走査量を調節することにより、インク吐出ヘッド部21のX軸方向の位置が調節される。これらの構成により、インク吐出ヘッド部21が基材W上を移動しつつ、インク塗布領域の周囲に溶媒被膜が形成された後のインク塗布領域にインク吐出ヘッド部21からインクの液滴が吐出できるようになっている。
【0043】
なお、別の構成例では、溶媒塗布ユニット10とインク塗布ユニット20とが走査方向に所定間隔を設けて基台に固定され、該基台に配設されたステージ30をX軸方向(走査方向)に移動させる構成としてもよい。
【0044】
図1、2に示す構成例では、溶媒吐出ヘッド部11が、インク吐出ヘッド部21に対して走査方向の前側に配置されている。したがって、塗布動作を開始する際には、溶媒吐出ヘッド部11が先に基材W上に到達し、溶媒吐出ヘッド部11から貧溶媒をインク塗布領域の周囲に吐出する動作が開始され、その後、インク吐出ヘッド部21が基材W上に到達し、インク塗布領域の周囲に溶媒塗膜が形成された後のインク塗布領域に、インク吐出ヘッド部21からインクを吐出する動作が開始される。
【0045】
インク吐出ヘッド部21の走査は、溶媒吐出ヘッド部11による基材W上の走査が完了した後に開始するようにしてもよいし、溶媒吐出ヘッド部11による走査を開始してから所定時間経過後に開始するようにしてもよい。前記所定時間は、例えば、貧溶媒と基材Wとの濡れ性(表面張力の差)、貧溶媒の沸点(蒸発のしやすさ)、貧溶媒とインクとの界面張力(界面自由エネルギー)の差などを考慮して設定され得る。
いずれにしろ、インク吐出ヘッド部21の走査は、インク塗布領域の周囲への溶媒塗膜の形成が開始されてから、前記溶媒塗膜が完全に乾燥する前に開始し、前記溶媒塗膜が完全に乾燥する前に完了するように実行される。
【0046】
溶媒吐出ヘッド部11から吐出される貧溶媒とインク吐出ヘッド部21から吐出されるインクとは、互いに混ざり合わない性質を有するもので構成されている。例えば、貧溶媒が極性溶媒からなる場合、インクには、前記極性溶媒と混ざり合わない無極性溶媒(非極性溶媒ともいう)のインクが適用される。また、貧溶媒が無極性溶媒からなる場合、インクには、前記無極性溶媒と混ざり合わない極性溶媒のインクが適用される。
【0047】
貧溶媒又はインクに適用され得る極性溶媒は、例えば、水、アルコール類などのプロトン性極性溶媒でもよいし、ジメチルスルホキシド(Dimetylsulfoxid、略称DMSO)、又はN-メチルピロリドン(N-metylpyrrolidone、略称NMP)などの非プロトン性極性溶媒でもよい。
【0048】
また、インク又は貧溶媒に適用され得る無極性溶媒は、例えば、シクロヘキサン(cyclohexane)、キシレン(xylene)、シクロヘキシルベンゼン(Cyclohexylbenzene)、ヘキサン(hexane)、トルエン(toluene)、又はドデカン(dodecane)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0049】
貧溶媒としての極性溶媒と、インクに含まれる無極性溶媒との組み合わせ例としては、(1)ジメチルスルホキシド(DMSO)とシクロヘキサン(cyclohexane)、(2)ジメチルスルホキシド(DMSO)とキシレン(xylene)、(3)N-メチルピロリドン(NMP)とシクロヘキシルベンゼン(Cyclohexylbenzene)、(4)N-メチルピロリドン(NMP)とメトシキトルエン(Methoxytoluene)、(5)水とトルエン(toluene)、(6)水とドデカン(dodecane)などが挙げられる。
【0050】
また、インクには、上記溶媒の他に塗布用途に応じた各種の材料が含まれてもよい。例えば、導電性、半導体性、抵抗性、又は誘電性などの電子的又は電気的な機能を果たす機能性材料の他、界面活性剤、分散剤、保湿剤、着色剤、又は付着強化剤などの添加物などが含まれてもよい。前記機能性材料には、例えば、金ナノ粒子、銀ナノ粒子などの金属ナノ粒子が含まれる。本実施形態においては、インク吐出ヘッド部21から吐出されるインクとして、前記機能性材料を含む機能性インクが好適に適用される。
【0051】
このような機能性インクには、溶媒系のインクの他、無溶媒系のインクが採用され得る。溶媒系の機能性インクは、揮発性の溶媒に前記機能性材料を溶解または分散させたものであり、前記溶媒を乾燥工程で除去することで、前記機能性材料を含む固体膜のパターンを形成することができる。
また、前記溶媒系のインクには、溶液系のインクと分散系のインクとが含まれる。前記溶液系のインクは、前記機能性材料が溶媒中に分子レベルで分かれた状態で溶解しているものであり、例えば、有機ELや有機半導体のポリマー、又は色材の染料などの溶液が挙げられる。また、前記分散系のインクは、前記機能性材料が微小な粒子として溶媒中に浮遊した状態で存在しているものであり、例えば、金属粒子からなる導電性材料、液晶ディスプレイで用いられる色材の顔料の分散液などが挙げられる。
【0052】
また、溶媒吐出ヘッド部11から吐出される貧溶媒は、インクよりも基材Wに対する撥液性が相対的に高い溶媒で構成されることが好ましい。係る構成により、先に吐出される貧溶媒の基材W上での濡れ広がりが抑制され、インク塗布領域の周囲に形成される溶媒塗膜と、インク塗布領域に塗布されるインクとの境界がより正確に画定されることとなる。
【0053】
制御装置40は、コンピュータ装置、及び記憶装置(いずれも図示せず)などを含んで構成されている。制御装置40は、例えば、溶媒塗布ユニット10とインク塗布ユニット20とをそれぞれ基材Wに対して相対走査させる制御を行うとともに、溶媒吐出ヘッド部11から貧溶媒を吐出する制御と、インク吐出ヘッド部21からインクを吐出する制御を行い、また、これら制御に必要な各種演算を行うように構成されている。
【0054】
前記記憶装置には、基材Wにパターンを形成するための設計データの他、塗布動作を実行させるためのプログラムなどが記憶されている。前記設計データには、例えば、基材W上のインクを吐出するインク塗布領域の座標データ、貧溶媒を吐出するインク塗布領域周囲の座標データなどが含まれている。
【0055】
制御装置40が、本発明に係る塗布装置を構成する溶媒吐出制御部、及びインク吐出制御部として動作する機能を備えている。
すなわち、制御装置40は、溶媒塗布ユニット10と基材Wとを相対走査させつつ、溶媒塗布ユニット10の溶媒吐出ヘッド部11から貧溶媒の液滴をインク塗布領域の周囲に吐出して溶媒塗膜を形成する制御を行う。
また、制御装置40は、インク塗布ユニット20と基材Wとを相対走査させつつ、インク塗布領域の周囲に溶媒塗膜が形成された後のインク塗布領域に、インク塗布ユニット20のインク吐出ヘッド部21からインクを吐出して塗布する制御を行う。
【0056】
図3は、実施の形態に係る塗布装置1を用いて、基材W上にインクによるパターンを形成している工程と、インクの着弾位置ズレが発生した場合の状態とを説明するための部分拡大図である。
図4は、実施の形態に係る塗布装置1を用いて、基材W上にインクによるパターンを形成している工程の一部と、貧溶媒の着弾位置ズレが発生した場合の状態とを説明するための部分拡大図である。
【0057】
図3、4では、便宜上、溶媒吐出ヘッドモジュール12、13の一部と、インク吐出ヘッドモジュール22、23の一部と、基材Wの一部とを簡略化して記載しており、基材Wの部分平面図と、走査方向の手前側から見た基材Wの部分断面図とを示している。また、図3、4には、溶媒吐出ヘッドモジュール12、13と、インク吐出ヘッドモジュール22、23とがそれぞれ走査方向(X軸方向)に移動しながら、基材W上に貧溶媒液滴15とインク液滴25とを吐出して塗布する工程を示している。
【0058】
図3(a)は、塗布動作の開始前の状態を示しており、基材Wの手前側に溶媒吐出ヘッド部11とインク吐出ヘッド部21とが配置されている。基材W上には、インクが塗布されるインク塗布領域Wi(基材W上の座標領域)が設定されている。
【0059】
図3(b)は、基材Wのインク塗布領域Wiの周囲に貧溶媒液滴15を吐出して溶媒塗膜16を形成する工程(第1工程)を示している。すなわち、溶媒吐出ヘッド部11が基材W上をX軸方向に走査されつつ、基材W上のインク塗布領域Wiの周囲に対して、溶媒吐出ヘッドモジュール12、13内の対応するノズル12a、13a(図3(b)において、黒塗りのノズル)から貧溶媒液滴15が連続的に吐出されて、インク塗布領域Wiの周囲に溶媒塗膜16が形成される。貧溶媒液滴15が吐出されるインク塗布領域Wiの周囲は、インク塗布領域Wiの境界部分から一定範囲の領域でもよいし、インク塗布領域Wiを除く全ての領域でもよい。
【0060】
図3(c)は、インク塗布領域Wiの周囲に溶媒塗膜16が形成された後のインク塗布領域Wiにインク液滴25を吐出して塗布する工程(第2工程)を示している。すなわち、インク塗布ユニット20が基材W上をX軸方向に走査されつつ、インク塗布領域Wiの周囲に溶媒塗膜16が形成された後のインク塗布領域Wiに対して、インク吐出ヘッドモジュール22、23内の対応するノズル22a、23a(図3(c)において、黒塗りのノズル)からインク液滴25が連続的に吐出される。そして、インク塗布領域Wiにインクが塗布され、インク液パターン26が形成される。
【0061】
なお、この第2工程において、ノズル22a、23aから吐出されたインク液滴25が、インク塗布領域Wiの周囲の溶媒塗膜16上に飛散したりして、突発的なインクの着弾位置ズレが発生した場合、インク液滴25aは、溶媒塗膜16と混じり合うことなく、溶媒塗膜16上からインク塗布領域Wiに吸い寄せられて、インク液パターン26と混ざり合うこととなる。したがって、着弾位置がずれたインク液滴25aが、インク塗布領域Wiの周囲に残留しないこととなる。
【0062】
図3(d)は、インク塗布領域Wiの周囲に形成された溶媒塗膜16と、インク塗布領域Wiに塗布されたインク液パターン26とを乾燥させることにより、インク塗布領域WiにインクによるパターンPTを形成する工程(第3工程)を示している。
【0063】
すなわち、基材W上のインク塗布領域Wiに塗布されたインク液パターン26が乾燥し、硬化して、機能性材料を含むパターンPTが形成される。パターンPTは、機能性材料に基づく機能を発揮するものとなる。この第3工程において、溶媒塗膜16(すなわち、貧溶媒)を揮発させて完全に消失させ、インクによるパターンPT以外は何も残らないようにすることも可能である。なお、第2工程において着弾位置がずれたインク液滴25aは、上述のようにインク塗布領域Wiの周囲に残留しない。したがって、パターンPTが配線パターンである場合、配線パターン間の短絡などの欠陥の発生が防止される。
【0064】
図4(a)は、図3(b)に示した第1工程において、溶媒吐出ヘッドモジュール12、13内の対応するノズル12a、13aからインク塗布領域Wiの境界近傍に吐出された貧溶媒液滴15aが、インク塗布領域Wi内に飛散して、突発的な貧溶媒の着弾位置ズレが発生した状態を例示している。
【0065】
図4(a)に例示した第1工程では、インク塗布領域Wiの周囲のうち少なくともインク塗布領域Wiの境界近傍に吐出する貧溶媒液滴15aの液滴径がインク塗布領域Wiの塗布幅Wdよりも小さくなるように、貧溶媒の吐出制御が行われる。換言すれば、インク塗布領域Wiに着弾した貧溶媒のドット径がインク塗布領域Wiの塗布幅Wdよりも小さくなるように、貧溶媒の液滴径の調整が行われる。
【0066】
図4(b)は、図4(a)に例示した第1工程の後に第2工程が行われたときの状態を示している。インク塗布領域Wiに着弾した貧溶媒液滴15aは、インク塗布領域Wiに吐出されたインク液滴25により形成されたインク液パターン26により覆われるため、インク塗布領域Wiに形成されたインク液パターン26が、着弾位置がずれた貧溶媒液滴15aによって途切れることもない。その後の第3工程では、溶媒塗膜16とインク液パターン26とを乾燥させる。インク塗布領域Wiに形成されたパターンPTは、欠陥のない、品質上問題のないものとなる。
【0067】
なお、図5は、インク塗布領域Wiの塗布幅Wdよりも液滴径が大きい貧溶媒液滴15bがインク塗布領域Wiに着弾した場合の状態を示す参考部分拡大図であり、基材Wの部分平面図と、基材Wの部分断面図を示している。
【0068】
図5(a)には、第1工程において、インク塗布領域Wiの塗布幅Wdよりも液滴径が大きい貧溶媒液滴15bが、インク塗布領域Wiに着弾し、着弾位置ズレが発生した状態を示している。
図5(b)は、図5(a)に例示した第1工程の後の第2工程において、インク塗布領域Wiにインクが吐出されて、インク液パターン26が形成された状態を示している。
【0069】
図5(b)に示すように、インク塗布領域Wiの境界近傍に吐出する貧溶媒液滴15bの液滴径がインク塗布領域Wiの塗布幅Wdよりも大きい場合、インク液パターン26が、インク塗布領域Wiに着弾した貧溶媒液滴15bにより途切れることとなり、パターン欠陥が生じ、品質上問題が生じることとなる。本実施の形態では、貧溶媒液滴15aの液滴径がインク塗布領域Wiの塗布幅Wdよりも小さくなるように、貧溶媒の吐出制御が行われるので、図5に例示したような品質上の問題が生じない。
【0070】
図6は、実施の形態に係る塗布装置1が行うパターン形成処理動作の一例を示すフローチャートである。
ステップS1では、塗布装置1のステージ30に基材Wが搬入される。例えば、図示しないロボットハンド等により基材Wがステージ30上に載置される。この際に、例えば、基材Wに設けられた位置決め用のアライメントマークが読み込まれて、該アライメントマークを基準にして、基材W上のパターン形成位置が補正される構成としてもよい。
【0071】
ステップS2では、制御装置40が、基材W上にインクによるパターンPTを形成するための設計データを読み込む。前記設計データには、例えば、基材W上のインク塗布領域Wiの座標データ(例えば、描画するパターンPTのビットマップデータ)などが含まれている。
【0072】
ステップS3では、制御装置40が、前記設計データに基づいて、インク塗布領域Wiの周囲に貧溶媒を吐出する溶媒吐出ヘッド部11のノズル12a、13aと、インク塗布領域Wiにインクを吐出するインク吐出ヘッド部21のノズル22a、23aとを選定する。
【0073】
ステップS4では、溶媒塗布工程(第1工程)が開始される。すなわち、制御装置40は、溶媒吐出ヘッド部11を基材Wに対して相対走査させつつ、ステップS3で選定された溶媒吐出ヘッド部11のノズル12a、13aから貧溶媒液滴15をインク塗布領域Wiの周囲に吐出して塗布し、溶媒塗膜16を形成する制御を実行する(図3(b)を参照)。前記相対走査の速度は、例えば、30~50mm/secに設定され得るが、この速度範囲に限定されない。前記相対走査の速度は、塗布装置1の仕様、基材Wの種類やサイズ、形成されるパターンPTの種類などに応じて、適宜設定され得る。
【0074】
また、ステップS4の溶媒塗布工程(第1工程)では、制御装置40は、インク塗布領域Wiの周囲のうち少なくともインク塗布領域Wiの境界近傍に吐出する貧溶媒の液滴径がインク塗布領域Wiの塗布幅Wdよりも小さくなるように、貧溶媒の液滴径を調整して、微小液滴を吐出する制御を実行する。なお、前記インク塗布領域Wiの境界近傍は、例えば、インク塗布領域Wiへの貧溶媒の着弾位置ズレが生じる可能性がある領域である。
【0075】
したがって、図4を用いて説明したように、インク塗布領域Wiの境界近傍において着弾位置がずれた貧溶媒液滴15aがインク塗布領域Wiに残留したままの状態でインク液パターン26が形成された場合であっても、品質上問題となることがない。また、インク塗布領域Wi内において、着弾位置がずれた貧溶媒液滴15aの周囲には、貧溶媒が存在しないため、着弾位置がずれた貧溶媒液滴15aの乾燥も早く進むこととなり、形成されるパターンPTの欠陥や品質不良の発生防止効果が高められる。
【0076】
ステップS5では、インク塗布工程(第2工程)が開始される。すなわち、制御装置40は、インク吐出ヘッド部21を基材Wに対して相対走査させつつ、インク塗布領域Wiの周囲に貧溶媒による溶媒塗膜16が塗布された後のインク塗布領域Wiにインク液滴25を吐出して塗布する制御を実行する(図3(c)を参照)。前記相対走査の速度は、例えば、30~50mm/secに設定され得るが、この速度範囲に限定されない。前記相対走査の速度は、塗布装置1の仕様、基材Wの種類やサイズ、形成されるパターンPTの種類などに応じて、適宜設定され得る。
【0077】
なお、ステップS5のインク塗布工程(第2工程)において、図3(c)に例示したように、突発的なインク液滴25aの着弾位置ズレが発生した場合、着弾位置がずれたインク液滴25aが、溶媒塗膜16と混じり合うことなく、溶媒塗膜16上からインク塗布領域Wiに吸い寄せられて、インク塗布領域Wiに塗布されたインク液パターン26と混ざり合うこととなる。
【0078】
また、ステップS5のインク塗布工程(第2工程)は、ステップS4の溶媒塗布工程(第1工程)が開始された後、基材W上の溶媒塗膜16が完全に乾燥する前に開始され、溶媒塗膜16が完全に乾燥する前に完了される。このような塗布動作を実行するために、溶媒吐出ヘッド部11とインク吐出ヘッド部21との走査時間間隔が適宜調整されている。
【0079】
ステップS6では、乾燥工程(第3工程)が実行される。すなわち、第3工程では、インク塗布領域Wiの周囲に形成された溶媒塗膜16と、インク塗布領域Wiに塗布されたインク液パターン26とを乾燥させて、インク塗布領域WiにパターンPTを形成する。
なお、塗布装置1は、塗布完了後の基材Wを加熱するヒーターなどの基板加熱部をステージ30に装備してもよく、乾燥工程(第3工程)において、前記基板加熱部を用いて、基材W上の溶媒塗膜16やインク液パターン26の乾燥(溶媒等の蒸発)が促進される構成としてもよい。
【0080】
ステップS7では、パターンPTが形成された基材Wをステージ30から搬出し、基材Wに対するパターン形成処理を終え、制御装置40は、溶媒塗布ユニット10とインク塗布ユニット20とを初期位置に移動する制御を行う。前記搬出は、例えば、ロボットハンドなどにより行われる。パターンPTが形成された基材Wは、後工程に搬送される。
【0081】
上記実施の形態に係る塗布装置1が実行するパターン形成方法によれば、前記第1工程において、基材Wのインク塗布領域Wiの周囲にインクと互いに混ざり合わない貧溶媒液滴15を吐出して溶媒塗膜16が形成される。そのため、前記第2工程において、突発的なインク液滴25aの着弾位置ズレが発生した場合であっても、着弾位置がずれたインク液滴25aが、溶媒塗膜16と混じり合うことなく、溶媒塗膜16との界面張力の差により、溶媒塗膜16上からインク塗布領域Wiに吸い寄せられて、インク塗布領域Wiに塗布されたインク液パターン26と混ざり合うこととなる。
【0082】
したがって、基材Wに親液性や撥液性を付与するための加工を施すことなく、着弾位置がずれたインク液滴25aがインク塗布領域Wi以外の領域に残留するのを防止することができる。インクの着弾位置ズレに起因する塗布欠陥の発生を簡易且つ低コストな方法、すなわち、インクジェット法のみで防止できるとともに、インクジェット法による高精度なパターンPTを形成することが可能となる。
【0083】
また、上記実施の形態に係る塗布装置1が実行するパターン形成方法によれば、第1工程では、インク塗布領域Wiの周囲のうち少なくともインク塗布領域Wiの境界近傍に吐出する貧溶媒液滴15の液滴径がインク塗布領域Wiの塗布幅Wdよりも小さくなるように、貧溶媒液滴15の液滴径が調整されて、微小液滴として吐出される。
【0084】
したがって、第1工程において、突発的な貧溶媒液滴15aの着弾位置ズレが発生し、着弾位置がずれた貧溶媒液滴15aがインク塗布領域Wiに残留したままの状態でインク液パターン26が形成された場合であっても、インク塗布領域Wiに形成されるパターンPTの欠陥や品質不良の発生を防止できる。また、貧溶媒液滴15aの液滴径がインク塗布領域Wiの塗布幅Wdよりも小さく、また、インク塗布領域Wi内において、着弾位置がずれた貧溶媒液滴15aの周囲には、貧溶媒が存在しないため、着弾位置がずれた貧溶媒液滴15aの乾燥も早く進むこととなる。そのため、着弾位置がずれた貧溶媒液滴15aがインク塗布領域Wiに残留しにくく、着弾位置がずれた貧溶媒液滴15aに起因するパターンPTの欠陥や品質不良の発生防止効果を高めることができる。
【0085】
なお、第1工程において、インク塗布領域Wiの境界近傍には、前記微小液滴(塗布幅Wdよりも小さい液滴径の貧溶媒液滴15)を吐出し、前記境界近傍から離れた部分には、前記微小液滴よりも大きな液滴径の貧溶媒液滴15を吐出してもよい。また、前記境界近傍から離れるにつれて、貧溶媒液滴15の液滴径が、前記微小液滴の液滴径から大きくなるように吐出してもよい。係る方法によれば、溶媒塗膜16を形成する第1工程に要する時間を短縮することができ、第2工程に速やかに移行することが可能となる。貧溶媒液滴15の液滴径の大きさ調節は、例えば、各ノズル12a、13aから液滴を吐出するための駆動素子(ピエゾ素子)への印加電圧を調節することなどにより行うことができる。
【0086】
以上、本発明の実施の形態を詳細に説明したが、上記説明はあらゆる点において本発明の例示に過ぎない。本発明の範囲を逸脱することなく、種々の改良、変更、又は構成の組み合わせが可能であることは言うまでもない。
【0087】
上記実施の形態では、溶媒吐出ヘッド部11が第1ガントリ部14に、インク吐出ヘッド部21が第2ガントリ部24に、それぞれ取り付けられているが、別の構成例では、1つのガントリ部に、溶媒吐出ヘッド部11とインク吐出ヘッド部21とが走査方向に並べて取り付けられた構成としてもよい。また、1つのヘッド部内に、複数の溶媒吐出ヘッドモジュール12、13と、複数のインク吐出ヘッドモジュール22、23とが走査方向に並べて配設された構成としてもよい。かかる構成により、溶媒吐出ヘッドモジュール12、13と、複数のインク吐出ヘッドモジュール22、23との物理的な距離(間隔)が短くなり、短い時間間隔で、貧溶媒とインクとを連続的に吐出することが可能となり、貧溶媒の着弾後の濡れ広がり時間を短く均一にして、より高精細なパターンを形成することが可能となる。
【0088】
本発明は、インクジェット印刷技術を利用して、各種の配線基板、有機トランジスタ、フレキシブルディスプレイ、電子ペーパー、コイルアンテナ等の各種の電子デバイスを製造するプリンテッドエレクトロニクス分野などにおいて広く利用することができる。
【符号の説明】
【0089】
1 塗布装置
10 溶媒塗布ユニット
11 溶媒吐出ヘッド部
12、13 溶媒吐出ヘッドモジュール
12a、13a ノズル
14 第1ガントリ部
14a 脚部
14b ビーム部材
15、15a、15b 貧溶媒液滴
16 溶媒塗膜
20 インク塗布ユニット
21 インク吐出ヘッド部
22、23 インク吐出ヘッドモジュール
22a、23a ノズル
24 第2ガントリ部
24a 脚部
24b ビーム部材
25、25a インク液滴
26 インク液パターン
30 ステージ
40 制御装置
W 基材
Wi インク塗布領域
Wd インク塗布幅
P ノズルピッチ
PT パターン
図1
図2
図3
図4
図5
図6