(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-29
(45)【発行日】2024-06-06
(54)【発明の名称】極低温冷凍機の装着構造および極低温冷凍機
(51)【国際特許分類】
F25B 9/14 20060101AFI20240530BHJP
【FI】
F25B9/14 530Z
(21)【出願番号】P 2020072419
(22)【出願日】2020-04-14
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】出村 健太
【審査官】町田 豊隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/073971(WO,A1)
【文献】特開平01-196479(JP,A)
【文献】特表平11-512512(JP,A)
【文献】特開2001-280724(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
極低温冷凍機の装着構造であって、
前記極低温冷凍機は、底面および前記底面と角度をなす側面を有する冷却ステージを備え、前記装着構造は、
前記極低温冷凍機の移動により前
記冷却ステージ
の前記底面と接触し又は接触解除される
上面を有する伝熱ステージと、
前記伝熱ステージ
の前記上面に対して
前記極低温冷凍機の移動に垂直な方向に弾性的に変位可能に設けられ、前記伝熱ステージ
の前記上面が前記冷却ステージの
前記底面と接触するとき前記冷却ステージの前記
側面と接触する伝熱構造と、を備えることを特徴とする極低温冷凍機の装着構造。
【請求項2】
前記伝熱構造は、各々が伝熱ステージ
の前記上面に対して弾性的に変位可能に設けられた複数の伝熱片を備え、
前記複数の伝熱片の各々が、前記伝熱ステージ
の前記上面が前記冷却ステージの
前記底面と接触するとき前記冷却ステージの前記
側面と接触することを特徴とする請求項1に記載の極低温冷凍機の装着構造。
【請求項3】
前記伝熱構造は、
前記冷却ステージの前記側面と接触する本体部分と、前記本体部分に対して外側に配置され、前記極低温冷凍機の移動に垂直な方向に前記伝熱ステージ
の前記上面に対して弾性的に変位可能である
板ばね層と、を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の極低温冷凍機の装着構造。
【請求項4】
前記伝熱構造は、前記伝熱ステージに取り付けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の極低温冷凍機の装着構造。
【請求項5】
前記伝熱ステージに接続されたスリーブをさらに備え、
前記伝熱構造は、前記スリーブに弾性的に支持されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の極低温冷凍機の装着構造。
【請求項6】
極低温冷凍機の装着構造であって、前記極低温冷凍機は、二段式の極低温冷凍機であり、
底面および前記底面と角度をなす側面を有する一段冷却ステージを備え、前記装着構造は、
前記極低温冷凍機の移動により前
記一段冷却ステージ
の前記底面と接触し又は接触解除される
上面を有する一段伝熱ステージと、
前記一段伝熱ステージ
の前記上面に対して
前記極低温冷凍機の移動に垂直な方向に弾性的に変位可能に設けられ、前記一段伝熱ステージ
の前記上面が前記一段冷却ステージの
前記底面と接触するとき前記一段冷却ステージの前記
側面と接触する伝熱構造と、を備えることを特徴とする極低温冷凍機の装着構造。
【請求項7】
装着構造に装着可能な極低温冷凍機であって、前記装着構造は、上面および前記上面と角度をなす側面を有する伝熱ステージを備え、前記極低温冷凍機は、
極低温冷凍機の移動により前
記伝熱ステージ
の前記上面と接触し又は接触解除される
底面を有する冷却ステージと、
前記冷却ステージ
の前記底面に対して
前記極低温冷凍機の移動に垂直な方向に弾性的に変位可能に設けられ、前記冷却ステージ
の前記底面が前記伝熱ステージの
前記上面と接触するとき前記伝熱ステージの前記
側面と接触する伝熱構造と、を備えることを特徴とする極低温冷凍機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極低温冷凍機の装着構造および極低温冷凍機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、極低温冷凍機のコールドヘッドをスリーブを介してクライオスタットなどの極低温真空容器に装着することが知られている。極低温真空容器内には例えば超電導コイルなどの被冷却物が収容され、この被冷却物はスリーブに熱的に結合されている。コールドヘッドとスリーブを接触させることにより、極低温冷凍機は、スリーブを介して被冷却物を冷却することができる。
【0003】
極低温冷凍機を長期的に運転するなかで、極低温冷凍機のメンテナンスが定期的に必要とされうる。作業者は、スリーブからコールドヘッドをいくらか引き上げ、コールドヘッドとスリーブの接触を解除して極低温冷凍機にメンテナンスを施すことができる。極低温冷凍機は例えば室温などメンテナンス作業に都合のよい温度に昇温され、作業完了後に再冷却される。コールドヘッドの接触解除により、被冷却物は低温に保つことができる。したがって、極低温冷凍機とともに被冷却物を室温に昇温して極低温冷凍機にメンテナンスを施す場合に比べて被冷却物の再冷却時間を短縮することができ、メンテナンスの所要時間を短くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、上述の装着構造について検討し、以下の課題を認識した。コールドヘッドとスリーブとの熱接触は、コールドヘッドをスリーブに押し付けることによって実現される。この押し付け力によってコールドヘッドとスリーブとの接触圧が決まる。接触圧は熱抵抗に影響する。接触圧の不足は熱抵抗の増加を招き、熱抵抗は温度差をもたらす。もし、この温度差が大きければ、被冷却物の冷却温度は、極低温冷凍機が実現しうる到達温度ほどには十分に下がらないかもしれない。被冷却物の冷却不良を避けるために、より大きな冷凍能力をもつ極低温冷凍機を採用しなければならないかもしれない。
【0006】
多くの場合、二段式の極低温冷凍機が使用され、一段冷却ステージによって被冷却物を熱的に保護する輻射シールドが冷却され、二段冷却ステージによって被冷却物が冷却される。コールドヘッドからスリーブへの押し付け力は構造上、一段冷却ステージでの接触圧と二段冷却ステージでの接触圧に配分される。そのため、一段と二段の熱抵抗はトレードオフの関係にある。被冷却物の冷却不良を避けることを優先する観点からは、二段冷却ステージでの接触圧をより高めることが望まれる。しかし、その結果、一段冷却ステージでの接触圧は小さくなり、一段での熱抵抗は高まり、今度は輻射シールドの冷却が不十分となることが懸念される。
【0007】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、極低温冷凍機とその装着構造との間に良好な熱接触を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様によると、極低温冷凍機の装着構造が提供される。装着構造は、極低温冷凍機の移動により極低温冷凍機の冷却ステージと接触し又は接触解除される伝熱ステージと、伝熱ステージに対して弾性的に変位可能に設けられ、伝熱ステージが冷却ステージの第1面と接触するとき冷却ステージの第1面とは異なる第2面と接触する伝熱構造と、を備える。
【0009】
本発明のある態様によると、極低温冷凍機の装着構造が提供される。極低温冷凍機は、二段式の極低温冷凍機である。装着構造は、極低温冷凍機の移動により極低温冷凍機の一段冷却ステージと接触し又は接触解除される一段伝熱ステージと、一段伝熱ステージに対して弾性的に変位可能に設けられ、一段伝熱ステージが一段冷却ステージの第1面と接触するとき一段冷却ステージの第1面とは異なる第2面と接触する伝熱構造と、を備える。
【0010】
本発明のある態様によると、極低温冷凍機は、極低温冷凍機の移動により極低温冷凍機の装着構造に設けられた伝熱ステージと接触し又は接触解除される冷却ステージと、冷却ステージに対して弾性的に変位可能に設けられ、冷却ステージが伝熱ステージの第1面と接触するとき伝熱ステージの第1面とは異なる第2面と接触する伝熱構造と、を備える。
【0011】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、極低温冷凍機とその装着構造との間に良好な熱接触を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施の形態に係る装着構造を説明するための概略図である。
【
図2】実施の形態に係る装着構造を説明するための概略図である。
【
図3】
図1に示される伝熱構造を示す部分拡大図である。
【
図4】
図2に示される伝熱構造を示す部分拡大図である。
【
図5】
図3に示される伝熱構造のA-A線断面を概略的に示す図である。
【
図6】実施の形態に係る伝熱構造の変形例を概略的に示す図である。
【
図7】実施の形態に係る伝熱構造の他の変形例を概略的に示す図である。
【
図8】実施の形態に係る伝熱構造の他の変形例を概略的に示す図である。
【
図9】
図9(a)および
図9(b)は、実施の形態に係る伝熱構造の他の変形例を概略的に示す図である。
【
図10】
図10(a)および
図10(b)は、実施の形態に係る極低温冷凍機を説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。説明および図面において同一または同等の構成要素、部材、処理には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施の形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0015】
図1および
図2は、実施の形態に係る装着構造を説明するための概略図である。
図1には、極低温冷凍機10と例えば超電導コイルなどの被冷却物90との熱的な結合が解除された状態が示され、
図2には、両者が熱的に結合された状態が示されている。
【0016】
極低温冷凍機10は、この実施の形態においては、二段式のギフォード・マクマホン(Gifford-McMahon;GM)冷凍機である。極低温冷凍機10は、圧縮機12と、二段式のコールドヘッド14とを備える。
【0017】
圧縮機12は、極低温冷凍機10の冷媒ガスをコールドヘッド14から回収し、回収した冷媒ガスを昇圧して、再び冷媒ガスをコールドヘッド14に供給するよう構成されている。コールドヘッド14は、膨張機とも称され、供給された冷媒ガスを内部の膨張室で断熱膨張させることにより寒冷を発生させることができる。圧縮機12とコールドヘッド14との間の冷媒ガスの循環がコールドヘッド14での冷媒ガスの適切な圧力変動と容積変動の組み合わせをもって行われることにより、極低温冷凍機10の冷凍サイクル(例えばGMサイクル)が構成され、それによりコールドヘッド14の各冷却ステージが所望の極低温に冷却される。冷媒ガスは、作動ガスとも称され、通例はヘリウムガスであるが、適切な他のガスが用いられてもよい。
【0018】
コールドヘッド14は、コールドヘッドフランジ16、一段シリンダ18、一段冷却ステージ20、二段シリンダ22、および二段冷却ステージ24を備え、これらはコールドヘッド14の中心軸に沿って同軸に配置されている。一段シリンダ18は、コールドヘッドフランジ16を一段冷却ステージ20と連結し、二段シリンダ22は、一段冷却ステージ20を二段冷却ステージ24と連結する。一段冷却ステージ20および二段冷却ステージ24は、例えば銅(例えば純銅)などの高熱伝導金属、またはその他の熱伝導材料で形成されている。一段シリンダ18および二段シリンダ22は、例えばステンレスなどの金属で形成されている。冷却ステージを形成する熱伝導材料の熱伝導率は、シリンダを形成する材料の熱伝導率より高い。
【0019】
なおコールドヘッドフランジ16には駆動部17が取り付けられている。駆動部17は、一段シリンダ18および二段シリンダ22のそれぞれに収容された一段ディスプレーサおよび二段ディスプレーサを軸方向に往復させるモータを備える。また、駆動部17には、このモータによってディスプレーサと同期して駆動される圧力切替バルブも収納されている。圧力切替バルブは、コールドヘッド14への高圧冷媒ガスの受け入れと低圧冷媒ガスの送出を周期的に切り替えるよう構成されている。圧縮機12、コールドヘッドフランジ16、および駆動部17は、周囲環境27に配置されている。
【0020】
極低温冷凍機10の装着構造30は、真空容器26、例えばクライオスタットなどの極低温真空容器に極低温冷凍機10を装着するための器具である。装着構造30は、コールドヘッド収容スリーブ、または単にスリーブとも称される。装着構造30は、周囲環境27から隔離された気密領域28をコールドヘッド14と装着構造30との間に形成するよう真空容器26に設置される。周囲環境27は例えば室温の大気圧環境である。気密領域28は、真空に排気されてもよいし、あるいは、ヘリウムガスのような極低温で液化しない不活性ガスで充填されてもよい。また、装着構造30は、真空容器26と組み合わされて真空容器26内に真空領域29を区画するように真空容器26に設置される。
【0021】
装着構造30は、極低温冷凍機10とともに、極低温冷凍機10の製造業者により顧客に提供されてもよい。被冷却物90を冷却する冷却装置が、極低温冷凍機10および装着構造30から構成されるとも言える。
【0022】
装着構造30も、コールドヘッド14に対応して二段式に構成される。装着構造30は、スリーブフランジ32、一段スリーブ体34、一段伝熱ステージ36、二段スリーブ体38、および二段伝熱ステージ40を備え、これらはコールドヘッド14の中心軸に沿って同軸に配置されている。
【0023】
スリーブフランジ32は、一例として、真空容器26の天板に形成された開口部に固定され、装着構造30はこの開口部から真空容器26内に延びている。また、スリーブフランジ32には、コールドヘッドフランジ16が例えばボルト等の締結部材33で取り付けられる。コールドヘッドフランジ16とスリーブフランジ32が締結されるとき、一段冷却ステージ20と二段冷却ステージ24がそれぞれ一段伝熱ステージ36と二段伝熱ステージ40に押し付けられることになる。スリーブフランジ32は、コールドヘッド14を受け入れる開口部を締結部材33よりも径方向に内側に有し、この開口部の内周面にはコールドヘッドフランジ16が接触している。
【0024】
締結部材33によるコールドヘッドフランジ16とスリーブフランジ32の締結が解除されているとき、コールドヘッドフランジ16は、スリーブフランジ32に対して軸方向に摺動可能であり、それにより、コールドヘッド14は、装着構造30に対し軸方向(
図1および
図2における上下方向)に移動可能である。可動範囲は例えば数cm以内、例えば2~3cm程度である。作業者は、手動により、または油圧ジャッキなどの補助器具を使用して、または動力源を有する昇降装置がコールドヘッド14に接続されている場合にはこれを作動させて、この可動範囲においてコールドヘッド14を軸方向に昇降させることができる。
【0025】
コールドヘッドフランジ16とスリーブフランジ32との間には例えばOリングなどのシール部材42が挟み込まれている。シール部材42は、スリーブフランジ32の開口部内周面に形成された周溝に配置されている。シール部材42が設けられているので、コールドヘッド14が装着構造30に対し上述の可動範囲内で軸方向に移動されても気密領域28は周囲環境27から隔離されている。
【0026】
一段スリーブ体34は、スリーブフランジ32を一段伝熱ステージ36と連結し、二段スリーブ体38は、一段伝熱ステージ36を二段伝熱ステージ40と連結する。一段スリーブ体34および二段スリーブ体38はそれぞれ、一段シリンダ18および二段シリンダ22を囲むように配置されている。一段伝熱ステージ36の中心部には、一段スリーブ体34の内部空間を二段スリーブ体38の内部空間に接続する開口部が設けられている。コールドヘッド14の二段シリンダ22および二段冷却ステージ24はこの開口部から二段スリーブ体38の内部空間へと挿入される。一段伝熱ステージ36および二段伝熱ステージ40は、例えば銅(例えば純銅)などの高熱伝導金属、またはその他の熱伝導材料で形成されている。一段スリーブ体34および二段スリーブ体38は、例えばステンレスなどの金属で形成されている。伝熱ステージを形成する熱伝導材料の熱伝導率は、スリーブ体を形成する材料の熱伝導率より高い。
【0027】
したがって、装着構造30の一段伝熱ステージ36は、極低温冷凍機10のコールドヘッド14の移動によりコールドヘッド14の一段冷却ステージ20と接触し又は接触解除される。同様に、装着構造30の二段伝熱ステージ40は、コールドヘッド14の移動により二段冷却ステージ24と接触し又は接触解除される。
【0028】
装着構造30は、詳細は後述するが、一段伝熱ステージ36に対して弾性的に変位可能に設けられた伝熱構造50を備える。伝熱構造50は、コールドヘッド14の移動に垂直な方向(すなわち軸方向に垂直な径方向)に一段伝熱ステージ36に対して弾性的に変位可能である。伝熱構造50は、一段伝熱ステージ36に取り付けられている。伝熱構造50は、一段伝熱ステージ36が一段冷却ステージ20の第1面と接触するとき一段冷却ステージ20の第1面とは異なる第2面と接触するように配置されている。この実施の形態においては、第1面は、一段冷却ステージ20の底面20aであり、第2面は、一段冷却ステージ20の底面20aと角度をなす一段冷却ステージ20の側面20bである。
【0029】
真空領域29に露出される一段伝熱ステージ36の外面には、輻射シールド92が熱的に結合されている。輻射シールド92は、被冷却物90を熱的に保護するために、被冷却物90を囲むように配置されている。
図1及び
図2には輻射シールド92の一部のみが示される。輻射シールド92は、一段伝熱ステージ36に直接取り付けられてもよいし、あるいは、剛性または可撓性の伝熱部材を介して接続されてもよい。一段伝熱ステージ36には、輻射シールド92とともに、またはこれに代えて、別の被冷却物が熱的に結合されてもよい。また、真空領域29に露出される二段伝熱ステージ40の外面には被冷却物90が熱的に結合されている。被冷却物90は、二段伝熱ステージ40に直接取り付けられてもよいし、あるいは、剛性または可撓性の伝熱部材を介して接続されてもよい。
【0030】
図1に示されるように、コールドヘッド14と装着構造30の熱接触が解除された状態においては、コールドヘッド14が可動範囲の例えば上端に位置する。このとき、一段冷却ステージ20が一段伝熱ステージ36および伝熱構造50から物理的に離れ、二段冷却ステージ24が二段伝熱ステージ40から物理的に離れるので、極低温冷凍機10は、被冷却物90および輻射シールド92を冷却しない。コールドヘッド14が被冷却物90および輻射シールド92よりも高い温度例えば室温に昇温されたとしても、コールドヘッド14から被冷却物90および輻射シールド92への熱的な影響は限定的であるか、無視しうる。被冷却物90および輻射シールド92は極低温に維持される。
【0031】
図2に示されるように、コールドヘッド14と装着構造30が熱接触している状態においては、コールドヘッド14が可動範囲の下端に位置する。このとき、一段冷却ステージ20が一段伝熱ステージ36および伝熱構造50に物理的に接触し、それにより、一段冷却ステージ20は、一段伝熱ステージ36および伝熱構造50を介して輻射シールド92と熱接触する。それとともに、二段冷却ステージ24が二段伝熱ステージ40に物理的に接触し、それにより、二段冷却ステージ24は、二段伝熱ステージ40を介して被冷却物90と熱接触する。こうして、極低温冷凍機10は、被冷却物90および輻射シールド92を冷却することができる。輻射シールド92は、例えば30K~80K(通例は30K~50K、例えば40K)に冷却され、被冷却物90は、例えば3K~20K(通例は3K~4K)に冷却されうる。
【0032】
図3および
図4はそれぞれ、
図1および
図2に示される伝熱構造50を示す部分拡大図である。
図3には、一段冷却ステージ20と一段伝熱ステージ36の接触が解除された状態が示され、
図4には、一段冷却ステージ20と一段伝熱ステージ36が接触した状態が示される。
図5は、
図3に示される伝熱構造50のA-A線断面を概略的に示す図である。なお理解の容易のために、
図5ではコールドヘッド14の二段シリンダ22は破線で図示されている。
【0033】
伝熱構造50は、各々が一段伝熱ステージ36に対して弾性的に変位可能に設けられた複数の伝熱片52を備える。一段伝熱ステージ36が一段冷却ステージ20の第1面(例えば底面20a)と接触するとき、複数の伝熱片52の各々が一段冷却ステージ20の第2面(例えば側面20b)と接触する。
【0034】
複数の伝熱片52は、コールドヘッド14の一段冷却ステージ20が挿入されるとき一段冷却ステージ20を囲むように、一段伝熱ステージ36の外周に沿って取り付けられている。
図5に示されるように、周方向に隣り合う2つの伝熱片52はスリット54で隔てられている。また、
図3および
図4に示されるように、各伝熱片52の下端部が一段伝熱ステージ36に固定され、そこから各伝熱片52は軸方向上方に延在する。したがって、各伝熱片52の上端部が一段伝熱ステージ36に対して径方向に弾性的に変位可能である。各伝熱片52は、軸方向に延びる短冊状またはワイヤ状の伝熱要素であってもよい。
【0035】
伝熱片52は、一段伝熱ステージ36と同様に、例えば銅(例えば純銅)などの高熱伝導金属、またはその他の熱伝導材料で形成されている。各伝熱片52と一段伝熱ステージ36は、例えばねじなど機械的接合により構造的に一体化され、熱的に結合される。あるいは、伝熱片52は、半田など冶金的接合またはそのほか適宜の接合技術を利用して一段伝熱ステージ36に固定されてもよい。
【0036】
図5には、一例として、12個の伝熱片52が示されているが、伝熱片52の数はこれより多くてもよいし、少なくてもよい。また、この実施の形態においては、各伝熱片52の形状および寸法(高さ、幅、厚さ)は同じであるが、これは必須ではなく、少なくとも1つの伝熱片52の形状または寸法のいずれかが他の少なくとも1つの伝熱片52とは異なってもよい。
【0037】
図3に示されるように、伝熱構造50の入口径(D1)、すなわち、対向する2つの伝熱片52の上端の径方向間隔は、一段冷却ステージ20の端面の径(D2)と等しいか、または若干小さくてもよい。一段冷却ステージ20が伝熱構造50に挿入されるとき伝熱片52と摺動しながら接触するように、これら2つの径(D1、D2)の寸法公差が定められていてもよい。一段冷却ステージ20の側面20bと接触する各伝熱片52の径方向内向きの面が、一段冷却ステージ20の側面20bと平行であってもよい。
【0038】
各伝熱片52の上端面はテーパ面56であってもよい。テーパ面56は、各伝熱片52の外周面を内周面に接続し、径方向内向きに軸方向下方に向けて傾斜している。これにより、一段冷却ステージ20が伝熱構造50に挿入されるとき、まず一段冷却ステージ20の端面外周がテーパ面56に突き当たる。テーパ面56は、一段冷却ステージ20を案内するガイド面として働き、それにより、一段冷却ステージ20は伝熱構造50に容易に受け入れられる。また、コールドヘッド14と装着構造30との間にいくらかの軸ずれがあったとしても、一段冷却ステージ20はテーパ面56にガイドされて伝熱構造50に挿入されることができる。
【0039】
以上の構成を有する極低温冷凍機10および装着構造30の動作を説明する。極低温冷凍機10のメンテナンスが許容されるタイミングが到来すると、極低温冷凍機10の冷却運転が停止される。このとき、
図2および
図4に示されるように、一段冷却ステージ20は一段伝熱ステージ36および伝熱構造50と物理的かつ熱的に接触し、二段冷却ステージ24は二段伝熱ステージ40と物理的かつ熱的に接触している。
【0040】
作業者が締結部材33を操作することによって、コールドヘッドフランジ16とスリーブフランジ32との締結が解除される。そして、コールドヘッド14が装着構造30からいくらか引き上げられる。コールドヘッドフランジ16とスリーブフランジ32の間にはシール部材42が設けられているので、周囲環境27からの気密領域28の隔離は保持される。
【0041】
こうして、
図1および
図3に示されるように、一段冷却ステージ20は一段伝熱ステージ36および伝熱構造50から物理的に離れて熱的に非接触となる。二段冷却ステージ24は二段伝熱ステージ40から物理的に離れて熱的に非接触となる。被冷却物90および輻射シールド92を低温に保ちつつ、コールドヘッド14を昇温することができる。
【0042】
極低温冷凍機10のメンテナンスが行われる。コールドヘッド14の駆動部17およびディスプレーサがコールドヘッド14から取り外される。コールドヘッド14の外側構造、すなわち、コールドヘッドフランジ16、一段シリンダ18、一段冷却ステージ20、二段シリンダ22、および二段冷却ステージ24は、そのまま装着構造30に装着されている。そして、メンテナンスが施された(または新品の)駆動部17およびディスプレーサがコールドヘッド14に取り付けられる。そして、極低温冷凍機10の冷却運転が再開される。
【0043】
作業者はコールドヘッド14を装着構造30に再び押し込む。一段冷却ステージ20が軸方向に挿入され各伝熱片52に対し軸方向に摺動するとき、一段冷却ステージ20は、各伝熱片52を径方向外向き(
図4の矢印58)に押し広げるように弾性的に撓ませる。各伝熱片52の径方向内向きの面が一段冷却ステージ20の側面20bに追従して、
図2および
図4に示されるように、一段冷却ステージ20と各伝熱片52が弾性的に面接触する。それとともに、一段冷却ステージ20の底面20aが一段伝熱ステージ36に接触して押し付けられる。
【0044】
そして、締結部材33によってコールドヘッドフランジ16とスリーブフランジ32が締結される。一段冷却ステージ20は一段伝熱ステージ36および伝熱構造50と物理的かつ熱的に接触し、二段冷却ステージ24は二段伝熱ステージ40と物理的かつ熱的に接触し、
図2および
図4に示される状態に戻る。
【0045】
したがって、実施の形態に係る極低温冷凍機10および装着構造30によれば、コールドヘッド14の移動により装着構造30との熱接触が解除され、被冷却物90および輻射シールド92を低温に保ちつつコールドヘッド14を昇温しメンテナンスをすることができる。被冷却物90および輻射シールド92をコールドヘッド14とともに室温に昇温して極低温冷凍機10にメンテナンスを施す場合に比べて被冷却物90および輻射シールド92の再冷却時間を短縮することができ、メンテナンスの所要時間を短くすることができる。
【0046】
多数の伝熱片52を有する伝熱構造50が一段伝熱ステージ36に設置されることにより、一段冷却ステージ20と一段伝熱ステージ36との接触面積を増加することができ、それにより、一段冷却ステージ20と一段伝熱ステージ36の間に生じうる熱抵抗を低減することができる。また、一段冷却ステージ20が伝熱構造50に挿入されるとき伝熱片52と摺動しながら接触し、伝熱片52に生じる弾性力が伝熱片52を一段冷却ステージ20に押し付ける。こうして、伝熱構造50は、一段冷却ステージ20を比較的強力に締め付けることができる。伝熱構造50と一段冷却ステージ20の間の接触面圧を増加し、熱抵抗を低減することができる。
【0047】
ここで注目すべきは、接触面圧がコールドヘッド14の移動の方向とは異なる方向、たとえば、おおむね直交する方向に生じることである。そのため、伝熱構造50の追加により接触面積は増加しているが、コールドヘッド14を押し込むのに必要とされる力はそれほど増加しない。したがって、コールドヘッド14を軸方向に移動させるための作業負荷はあまり変わらない。既存の昇降装置をそのまま使うことができる。
【0048】
コールドヘッド14が装着構造30と熱接触するとき、コールドヘッド14を軸方向に押し込む力は、一段部と二段部に構造力学的に分配され、その結果として一段部と二段部それぞれの接触面圧が決まる。本実施の形態においては、伝熱構造50が一段伝熱ステージ36に設置されることにより、一段冷却ステージ20と一段伝熱ステージ36の熱接触が改善される。そのため、一段部に比べて二段部の接触面圧が大きくなるようにコールドヘッド14および装着構造30を設計することができる。このようにして、一段部だけでなく二段部についても良好な熱接触を提供することができる。
【0049】
図6は、実施の形態に係る伝熱構造50の変形例を概略的に示す図である。
図6に示されるように、一段冷却ステージ20は、底面20aを側面20bに接続する傾斜面20cを有してもよい。一段冷却ステージ20は円柱状の形状を有するので、傾斜面20cは円錐台の側面にあたる形状を有する。一段冷却ステージ20の底面20aは、一段伝熱ステージ36に接触しうる。一段冷却ステージ20の形状に対応して、伝熱構造50の各伝熱片52は、第1伝熱面52bと第2伝熱面52cを有してもよい。第1伝熱面52bが一段冷却ステージ20の側面20bと接触し、第2伝熱面52cが一段冷却ステージ20の傾斜面20cと接触しうる。なお一段冷却ステージ20の傾斜面20cの少なくとも一部が一段伝熱ステージ36に接触するように一段伝熱ステージ36の形状が定められていてもよい。
【0050】
図7は、実施の形態に係る伝熱構造50の他の変形例を概略的に示す図である。伝熱構造50の各伝熱片52が単一の材料で形成されることは必須ではない。
図7に示されるように、一段冷却ステージ20の側面20bと接触する各伝熱片52の径方向内向きの面60は、伝熱片52の本体部分62を形成する高熱伝導材料とは異なる材料で形成されてもよい。面60は、高熱伝導金属のメッキ層であってもよく、たとえば、銅の本体部分62に形成された金、銀、またはインジウムのメッキ層であってもよい。
【0051】
図8は、実施の形態に係る伝熱構造50の他の変形例を概略的に示す図である。典型的には、銅などの熱伝導率の良い金属材料は比較的軟らかい。そのため、伝熱片52の全体がこうした材料のみで形成される場合には、伝熱片52は低剛性となりがちである。そうすると、一段冷却ステージ20が伝熱構造50に挿入されるとき、伝熱片52が比較的容易に変形し、そのため、一段冷却ステージ20と伝熱片52の接触面圧は小さくなりがちである。熱抵抗を低減するには、高い接触面圧が望まれる。
【0052】
そこで、
図8に示されるように、伝熱片52は、本体部分62と板ばね層64の二層構造を有してもよい。本体部分62は例えば銅などの高熱伝導材料で形成され、一段冷却ステージ20に接触する。板ばね層64は、本体部分62に対して外周部に配置され、本体部分62と一体化されている。板ばね層64は、たとえば真鍮、ステンレス鋼など、本体部分62を形成する材料に比べて硬い金属またはその他の材料で形成される。よって、板ばね層64は、本体部分62に比べて高い剛性をもつ。また、板ばね層64を形成する材料は、典型的には、本体部分62に比べて低い熱伝導率を有する。このようにすれば、一段冷却ステージ20が伝熱構造50に挿入されるとき伝熱片52に生じる弾性力が増加され、伝熱構造50と一段冷却ステージ20の間の接触面圧を増加し、熱抵抗を低減することができる。
【0053】
図9(a)および
図9(b)は、実施の形態に係る伝熱構造50の他の変形例を概略的に示す図である。伝熱構造50は、スリーブ、例えば装着構造30の一段スリーブ体34に弾性的に支持されていてもよい。
図9(a)に示されるように、各伝熱片52が、例えばスプリングなどの弾性部材66によって一段スリーブ体34に支持されていてもよい。このようにしても、一段冷却ステージ20が伝熱構造50に挿入されるとき伝熱片52に生じる弾性力を増加させることができる。この場合、
図9(b)に示されるように、各伝熱片52が一段伝熱ステージ36に剛に接続されるのではなく、可撓性の伝熱部材68によって一段伝熱ステージ36に接続されてもよい。
【0054】
図10(a)および
図10(b)は、実施の形態に係る極低温冷凍機を説明するための概略図である。
図10(a)には、一段冷却ステージ20と一段伝熱ステージ36の接触が解除された状態が示され、
図10(b)には、一段冷却ステージ20と一段伝熱ステージ36が接触した状態が示される。上述の実施の形態においては、伝熱構造50が装着構造30に設けられているが、以下に説明するように、伝熱構造50は、極低温冷凍機のコールドヘッド14に設けられてもよい。
【0055】
したがって、伝熱構造50は、一段冷却ステージ20に対して弾性的に変位可能に設けられてもよい。伝熱構造50は、コールドヘッド14の移動に垂直な方向(すなわち軸方向に垂直な径方向)に一段冷却ステージ20に対して弾性的に変位可能である。伝熱構造50は、一段冷却ステージ20に取り付けられている。伝熱構造50は、一段冷却ステージ20が一段伝熱ステージ36の第1面と接触するとき一段伝熱ステージ36の第1面とは異なる第2面と接触するように配置されている。この実施の形態においては、第1面は、一段伝熱ステージ36の上面36aであり、第2面は、一段伝熱ステージ36の上面36aと角度をなす一段伝熱ステージ36の側面36bである。
【0056】
伝熱構造50は、各々が一段冷却ステージ20に対して弾性的に変位可能に設けられた複数の伝熱片52を備える。一段冷却ステージ20が一段伝熱ステージ36の第1面(例えば上面36a)と接触するとき、複数の伝熱片52の各々が一段伝熱ステージ36の第2面(例えば側面36b)と接触する。
【0057】
このようにしても、極低温冷凍機のコールドヘッド14とその装着構造30との間に良好な熱接触を提供することができる。
【0058】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。ある実施の形態に関連して説明した種々の特徴は、他の実施の形態にも適用可能である。組合せによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態それぞれの効果をあわせもつ。
【0059】
上述の実施の形態では、伝熱構造50がコールドヘッド14または装着構造30の一段部に設けられているが、伝熱構造50は二段部に設けられてもよい。したがって、例えば、伝熱構造50は、二段伝熱ステージ40に対して弾性的に変位可能に設けられ、二段伝熱ステージ40が二段冷却ステージ24の第1面と接触するとき二段冷却ステージ24の第1面とは異なる第2面と接触してもよい。また、伝熱構造50は、単段式のコールドヘッド、またはその装着構造に設けられてもよい。
【0060】
極低温冷凍機10は、GM冷凍機には限られない。極低温冷凍機10は、パルス管冷凍機、スターリング冷凍機、またはそのほかのタイプの極低温冷凍機であってもよい。
【0061】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用の一側面を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0062】
10 極低温冷凍機、 20 一段冷却ステージ、 20a 底面、 20b 側面、 24 二段冷却ステージ、 30 装着構造、 36 一段伝熱ステージ、 40 二段伝熱ステージ、 50 伝熱構造、 52 伝熱片、 90 被冷却物、 92 輻射シールド。