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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-29
(45)【発行日】2024-06-06
(54)【発明の名称】信号検出装置、及び信号検出方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 1/16 20060101AFI20240530BHJP
   G01R 23/16 20060101ALI20240530BHJP
   G16Y 40/10 20200101ALI20240530BHJP
【FI】
H04B1/16 Z
G01R23/16 D
G16Y40/10
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020089648
(22)【出願日】2020-05-22
(65)【公開番号】P2021184563
(43)【公開日】2021-12-02
【審査請求日】2023-03-16
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、支出負担行為担当官、総務省大臣官房会計課企画官、研究テーマ「IoT/5G時代の様々な電波環境に対応した最適通信方式選択技術の研究開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】393031586
【氏名又は名称】株式会社国際電気通信基礎技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100115749
【弁理士】
【氏名又は名称】谷川 英和
(74)【代理人】
【識別番号】100121223
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 悟道
(72)【発明者】
【氏名】清水 聡
(72)【発明者】
【氏名】臼井 誠
(72)【発明者】
【氏名】栗原 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】矢野 一人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 義規
【審査官】後澤 瑞征
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-517843(JP,A)
【文献】特表2012-531869(JP,A)
【文献】特表2019-518383(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/16
G01R 23/16
G16Y 40/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナによって受信された所定の周波数の信号を復調して受信信号を出力する復調器と、
所定のチャープ率のチャープ信号を取得する取得部と、
前記取得部によって取得されたチャープ信号を用いて前記受信信号に含まれるチャープ信号を検出する信号検出部と、を備え、
前記信号検出部は、
前記受信信号と前記取得部によって取得されたチャープ信号とを乗算して乗算信号を出力する乗算部と、
前記乗算信号をフーリエ変換するフーリエ変換部と、
前記フーリエ変換後の周波数スペクトルを用いて、前記受信信号に前記所定のチャープ率に応じたチャープ信号が含まれるかどうかを判定する判定部と、を備え
複数の周波数におけるチャープ信号の検出、及び複数のチャープ率に応じたチャープ信号の検出の少なくとも一方を行う、信号検出装置。
【請求項2】
アンテナによって受信された信号を復調して受信信号を出力する復調器と、
それぞれ異なるチャープ率のチャープ信号を取得するN個(Nは2以上の整数)の取得部と、
それぞれ異なる前記取得部によって取得されたチャープ信号を用いて前記受信信号に含まれるチャープ信号を検出するN個の信号検出部と、を備え、
前記信号検出部は、
前記受信信号と前記取得部によって取得されたチャープ信号とを乗算して乗算信号を出力する乗算部と、
前記乗算信号をフーリエ変換するフーリエ変換部と、
前記フーリエ変換後の周波数スペクトルを用いて、前記受信信号に所定のチャープ率に応じたチャープ信号が含まれるかどうかを判定する判定部と、を備える、信号検出装置。
【請求項3】
アンテナによって受信された、それぞれ異なる周波数の信号を復調して受信信号を出力するM個(Mは2以上の整数)の復調器と、
所定のチャープ率のチャープ信号を取得する取得部と、
前記取得部によって取得されたチャープ信号を用いて、それぞれ異なる前記復調器から出力された前記受信信号に含まれる前記所定のチャープ率に応じたチャープ信号を検出するM個の信号検出部と、を備え、
前記信号検出部は、
前記受信信号と前記取得部によって取得されたチャープ信号とを乗算して乗算信号を出力する乗算部と、
前記乗算信号をフーリエ変換するフーリエ変換部と、
前記フーリエ変換後の周波数スペクトルを用いて、前記受信信号に前記所定のチャープ率に応じたチャープ信号が含まれるかどうかを判定する判定部と、を備える、信号検出装置。
【請求項4】
アンテナによって受信された所定の周波数の信号を復調して受信信号を出力するステップと、
所定のチャープ率のチャープ信号を取得するステップと、
取得されたチャープ信号を用いて前記受信信号に含まれるチャープ信号を検出するステップと、を備え、
前記チャープ信号を検出するステップは、
前記受信信号と前記取得されたチャープ信号とを乗算して乗算信号を出力するステップと、
前記乗算信号をフーリエ変換するステップと、
前記フーリエ変換後の周波数スペクトルを用いて、前記受信信号に前記所定のチャープ率に応じたチャープ信号が含まれるかどうかを判定するステップと、を備え
複数の周波数におけるチャープ信号の検出、及び複数のチャープ率に応じたチャープ信号の検出の少なくとも一方を行う、信号検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受信信号からチャープ信号を検出する信号検出装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
IoT機器の普及に伴い、様々な方式の電波が空間を飛び交っている。その中でもLPWA(Low Power Wide Area)と言われる低電力で低速ながら長距離伝搬可能な通信方式がセンサネットワークなどで用いられるようになってきている。
【0003】
そのLPWAの方式の一つとしてLoRaがある(例えば、非特許文献1参照)。これはチャープ信号と呼ばれる時間とともに周波数が変化する信号を用いることで帯域を拡散し、低いSNでも長距離伝送を可能にする方法である。SF(Spreading Factor)と呼ばれる拡散パラメータを上げることで、伝送速度は遅くなるが、より低いSNでも伝送できる、といった調整が可能である。なお、SFは、チャープ信号における周波数の時間変化率であるチャープ率を示す値である。すなわち、各SFが所定のチャープ率に対応している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】加藤隆志、「ボイジャーに学ぶ超長距離ディジタル無線」、トランジスタ技術2019年6月号、p.87-100、2019年6月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方で、LoRaは低いSNでも通信できるがゆえに、その電波が受信されているにも関わらず、スペクトラムアナライザ等でその波形を検出できない場合がある。これでは、電波の状況を監視することができない。
【0006】
一般的に言えば、LoRaなどのチャープ信号を適切に検出できるようにしたいという要望があった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、受信信号に含まれるチャープ信号を検出することができる信号検出装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一態様による信号検出装置は、アンテナによって受信された信号を復調して受信信号を出力する復調器と、所定のチャープ率のチャープ信号を取得する取得部と、取得部によって取得されたチャープ信号を用いて受信信号に含まれるチャープ信号を検出する信号検出部と、を備え、信号検出部は、受信信号と取得部によって取得されたチャープ信号とを乗算して乗算信号を出力する乗算部と、乗算信号をフーリエ変換するフーリエ変換部と、フーリエ変換後の周波数スペクトルを用いて、受信信号に所定のチャープ率に応じたチャープ信号が含まれるかどうかを判定する判定部と、を備えた、ものである。
【0009】
このような構成により、受信信号に含まれるチャープ信号を検出することができる。したがって、例えば、LoRa方式によって無線通信が行われているかどうかを検出することができるようになる。また、例えば、LoRa方式の無線信号を捕捉し、電波の使用率を把握することも可能となる。
【0010】
また、本発明の一態様による信号検出装置では、取得部及び信号検出部をN個(Nは2以上の整数)ずつ備えており、N個の取得部は、それぞれ異なるチャープ率のチャープ信号を取得し、N個の信号検出部は、それぞれ異なる取得部によって取得されたチャープ信号を用いて受信信号に含まれるチャープ信号を検出してもよい。
【0011】
このような構成により、異なる複数のチャープ率に応じたチャープ信号のそれぞれを同時に検出することができる。例えば、LoRa方式の複数のSFに応じた各無線通信が行われているかどうかについて、一括して調べることができるようになる。また、周波数を切り替えることによって、それぞれのチャネルでの使用率を把握することも可能となる。
【0012】
また、本発明の一態様による信号検出装置では、復調器及び信号検出部をM個(Mは2以上の整数)ずつ備えており、M個の復調器は、それぞれ異なる周波数の信号を復調し、M個の信号検出部は、それぞれ異なる復調器から出力された受信信号に含まれる所定のチャープ率に応じたチャープ信号を検出してもよい。
【0013】
このような構成により、異なる複数の周波数についてチャープ信号を同時に検出することができる。例えば、LoRa方式の複数のチャネルに応じた各無線通信が行われているかどうかについて、一括して調べることができるようになる。また、SFを切り替えることによって、それぞれのSFでの使用率を把握することも可能となる。
【0014】
また、本発明の一態様による信号検出方法は、アンテナによって受信された信号を復調して受信信号を出力するステップと、所定のチャープ率のチャープ信号を取得するステップと、取得されたチャープ信号を用いて受信信号に含まれるチャープ信号を検出するステップと、を備え、チャープ信号を検出するステップは、受信信号と取得されたチャープ信号とを乗算して乗算信号を出力するステップと、乗算信号をフーリエ変換するステップと、フーリエ変換後の周波数スペクトルを用いて、受信信号に所定のチャープ率に応じたチャープ信号が含まれるかどうかを判定するステップと、を備えた、ものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様による信号検出装置等によれば、受信信号に含まれるチャープ信号を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施の形態による信号検出装置の構成を示すブロック図
図2】同実施の形態における信号検出部の構成を示すブロック図
図3】同実施の形態による信号検出装置の動作を示すフローチャート
図4A】同実施の形態における受信信号と取得されたチャープ信号との関係を示す図
図4B】同実施の形態における受信信号と取得されたチャープ信号との関係を示す図
図5】同実施の形態におけるフーリエ変換後の周波数スペクトルの一例を示す図
図6】同実施の形態におけるフーリエ変換後の周波数スペクトルの一例を示す図
図7】同実施の形態における複数のSF及びチャネルの検出結果の一例を示す図
図8】同実施の形態による信号検出装置の他の構成の一例を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明による信号検出装置について、実施の形態を用いて説明する。なお、以下の実施の形態において、同じ符号を付した構成要素及びステップは同一または相当するものであり、再度の説明を省略することがある。本実施の形態による信号検出装置は、装置内で取得したチャープ信号を用いて、受信信号にチャープ信号が含まれるかどうかを判定するものである。
【0018】
図1は、本実施の形態による信号検出装置1の構成を示すブロック図である。本実施の形態による信号検出装置1は、復調器10と、N個の取得部20-1~20-Nと、N個の信号検出部30-1~30-Nとを備える。なお、Nは、2以上の整数であるとする。また、取得部20-1~20-Nを特に区別しない場合には、取得部20と呼ぶことがある。他の構成要素についても同様である。また、本実施の形態では、信号検出装置1がLoRa方式の無線通信で使用される信号を検出する場合について主に説明するが、信号検出装置1は、それ以外のチャープ信号を検出してもよい。また、図1では、信号検出装置1がアンテナ5を含む場合について示しているが、そうでなくてもよい。信号検出装置1は、外部のアンテナに接続されて用いられてもよい。
【0019】
復調器10は、アンテナ5によって受信された信号を復調して受信信号を出力する。なお、復調器10は、所定の周波数の信号を受信して復調するものである。その周波数は、ユーザによって指定されたチャネルの周波数であってもよい。復調器10は、N個の信号検出部30-1~30-Nのそれぞれに、同じ受信信号を出力する。後述するように、復調器10は、IQ復調器であり、復調した受信信号をIチャネルの受信信号とQチャネルの受信信号とに分ける。
【0020】
取得部20は、所定のチャープ率のチャープ信号を取得する。なお、N個の取得部20-1~20-Nは、それぞれ異なるチャープ率のチャープ信号を取得するものとする。例えば、取得部20-1~20-Nは、それぞれSF7~12に対応するチャープ信号を取得してもよい。本実施の形態では、この場合について主に説明する。この場合には、N=6となる。なお、LoRa方式のチャープ信号では、SFが1だけ大きくなるごとに、チャープ信号の周期(チャープ信号のスイープ1回分の時間)が倍になる。取得部20が取得するチャープ信号のチャープ率は、あらかじめ設定されていてもよい。チャープ信号の取得は、例えば、記憶媒体で記憶されているチャープ信号を読み出すことによって行われてもよく、チャープ信号を生成することによって行われてもよい。LoRa方式の信号を検出する場合には、例えば、取得部20によって取得されるチャープ信号は、周波数の時間変化が線形である線形チャープ信号であり、時間とともに周波数が増加するアップチャープであってもよい。それ以外のチャープ信号の取得については後述する。
【0021】
N個の信号検出部30-1~30-Nは、それぞれ異なる取得部20-1~20-Nによって取得されたチャープ信号を用いて受信信号に含まれるチャープ信号を検出する。なお、信号検出部30-Lは、取得部20-Lによって取得されたチャープ信号を用いて、受信信号に含まれるチャープ信号を検出するものとする。ここで、Lは1からNの任意の整数である。
【0022】
図2は、信号検出部30の構成を示すブロック図である。信号検出部30は、乗算部31と、フーリエ変換部32と、判定部33とを備える。
【0023】
乗算部31は、復調器10から出力された受信信号と、取得部20によって取得されたチャープ信号とを乗算して乗算信号を出力する。IQ信号を複素数で表現した場合に、乗算部31は、取得部20からのIQ信号の共役を取って、復調器10からのIQ信号と複素数での乗算を行うことになる。具体的には、図2で示されるように、乗算部31は、乗算器31a~31dと、加算器31e,31fとを備えており、それらを用いて、両信号の乗算結果(I+jQ)(I-jQ)=I+Q+j(Q-I)を算出してフーリエ変換部32に出力する。したがって、フーリエ変換部32に入力されるIチャネル成分はI+Q、Qチャネル成分はQ-Iとなる。なお、受信信号のIチャネルの信号をI、Qチャネルの信号をQとし、取得部20によって取得されたチャープ信号のIチャネルの信号をI、Qチャネルの信号をQとしている。
【0024】
フーリエ変換部32は、乗算部31から出力された乗算信号をフーリエ変換する。より詳細には、乗算部31から出力されたIチャネルの信号とQチャネルの信号とについて複素フーリエ変換を行う。このフーリエ変換によって、時間領域における乗算信号が、周波数領域の信号、すなわち周波数スペクトルに変換される。なお、このフーリエ変換は、例えば、高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)であってもよい。
【0025】
判定部33は、フーリエ変換後の周波数スペクトルを用いて、受信信号に所定のチャープ率に応じたチャープ信号が含まれるかどうかを判定する。そして、受信信号に、所定のチャープ率に応じたチャープ信号が含まれていると判定された場合には、その受信信号において、その所定のチャープ率に応じたチャープ信号が検出されたことになる。なお、本実施の形態では、ダウンチャープのように時間とともに周波数が減少するチャープ信号のチャープ率は負の値になるとする。そして、受信信号に含まれるチャープ信号のチャープ率と、取得部20によって取得されるチャープ信号のチャープ率との正負が同じである場合には、判定部33は、受信信号に所定のチャープ率のチャープ信号が含まれるかどうかを判定することになる。一方、両チャープ率の正負が異なる場合には、判定部33は、受信信号に、所定のチャープ率に(-1)を乗算したチャープ率の信号が含まれるかどうかを判定することになる。本実施の形態では、前者の場合、すなわち両チャープ率の正負が同じ場合について主に説明し、後者の場合については後述する。
【0026】
ここで、受信信号とチャープ信号との乗算、乗算信号のフーリエ変換、及びフーリエ変換後の周波数スペクトルを用いた判定について、図4Aを用いて説明する。図4Aは、受信信号と、装置内で取得されたチャープ信号との周波数の時間変化を示すグラフである。無線機から送信される信号がチャープ信号であると、受信信号は一定のチャープ率で周波数が変化し、帯域の上限になると下限に戻り、変化が継続される。受信信号のチャープ率(SF)と同じチャープ率である装置内で取得したチャープ信号も、同様に変化する。そのため、図4Aで示されるように、両者の周波数の差は一定(f1、f2)になる。なお、図4Aで示される受信信号はベースバンドでの信号である。したがって、復調部10によって復調される信号の周波数に関わらず、図4Aで示される周波数帯は同じとなる。
【0027】
受信信号と、取得部20によって取得されたチャープ信号とを乗算した結果である乗算信号には、両信号の周波数の和の成分と、周波数の差の成分とが含まれることになるが、図4Aの場合には、その差の成分が一定になる期間が存在することになる。一方、周波数の和の成分は時間とともに変化するため、一定時間内で考えるとスペクトルが広がることになる。
【0028】
したがって、受信信号と、取得部20によって取得されたチャープ信号とのチャープ率が等しい場合には、乗算信号のフーリエ変換後の周波数スペクトルにおいてピークが存在することになる。一方、両信号のチャープ率が異なる場合には、乗算信号において周波数の和の成分も差の成分もスペクトルが広がるため、フーリエ変換後の周波数スペクトルにおいて、ピークは存在しないことになる。
【0029】
そのため、判定部33は、フーリエ変換後の周波数スペクトルにおいてピークが存在するかどうかによって、受信信号に、取得部20によって取得されたチャープ信号と同じチャープ率のチャープ信号が含まれているかどうかを判定できることになる。
【0030】
また、図1で示されるように、信号検出部30による処理を、複数のチャープ率(SF)について並行して行うことにより、ある時間のある周波数帯での各チャープ率のチャープ信号の有無を同時に検出することができる。一定の時間、その検出を行なった後に復調器10の設定周波数を変更することで、同時ではないが、他の周波数帯におけるチャープ信号の検出も可能になる。後述するように、図1で示される構成を周波数帯ごとに設けることによって、複数のチャープ率だけでなく、複数の周波数帯についても同時観測できるようにしてもよい。
【0031】
次に、信号検出装置1の動作について図3のフローチャートを用いて説明する。
【0032】
(ステップS101)復調器10は、アンテナ5によって受信された所定の周波数の信号を復調して、受信信号を出力する。
【0033】
(ステップS102)N個の取得部20-1~20-Nは、それぞれ異なるチャープ率のチャープ信号を取得する。
【0034】
(ステップS103)N個の信号検出部30-1~30-Nが有する各乗算部31は、それぞれ、受信信号と、取得された所定のチャープ率のチャープ信号とを乗算する。
【0035】
(ステップS104)N個の信号検出部30-1~30-Nが有する各フーリエ変換部32は、乗算結果を蓄積し、その蓄積されたデータの数からフーリエ変換を行うかどうか判断する。そして、フーリエ変換を行う場合にはステップS105に進み、そうでない場合には、ステップS101に戻る。
【0036】
なお、ステップS101~S103の各処理は、それぞれ並列して行われてもよい。また、受信信号とチャープ信号の乗算は、少なくともチャープ信号の1周期に相当する時間ごとに行われることが好適である。この周期はステップS104の判断で調整できる。なお、通常、チャープ信号の周波数の範囲は一定であるため(例えば、125kHzなど)、チャープ率(SF)が異なると、上記したように、周期が異なることになる。N個の信号検出部30-1~30-Nが有する各フーリエ変換部32は、受信信号とチャープ信号との乗算が開始されてから、各信号検出部30-1~30-Nに対応する取得部20-1~20-Nによって取得されるチャープ信号の1周期が経過した後に、フーリエ変換を行うと判断してもよい。または、最も周期の長いチャープ信号の1周期(LoRa方式ではSF12の1周期)が経過した後に、全てのフーリエ変換部32が、フーリエ変換を行うと判断してもよい。
【0037】
(ステップS105)N個の信号検出部30-1~30-Nが有する各フーリエ変換部32は、乗算部31から出力された乗算信号をフーリエ変換して周波数スペクトルを取得する。
【0038】
(ステップS106)N個の信号検出部30-1~30-Nが有する各判定部33は、フーリエ変換後の周波数スペクトルにおいて、ピークが含まれるかどうかに応じて、受信信号に所定のチャープ率に応じたチャープ信号が含まれるかどうかを判定する。このようにして、アンテナ5で受信された信号について、各チャープ率のチャープ信号の検出が行われることになる。
【0039】
なお、図3のフローチャートのステップS104において、各フーリエ変換部32がフーリエ変換を行うと判断するタイミングが異なる場合には、フーリエ変換等の各処理は、チャープ率ごとにそれぞれ別のタイミングで行われてもよい。
【0040】
図5図6は、乗算信号をフーリエ変換した結果である周波数スペクトルの一例を示す図である。図5図6のそれぞれにおいて、横軸は0から125kHzまでの周波数であり、縦軸は信号のパワー(強度)である。また、図5は、受信信号のSFと、取得部20によって取得されたチャープ信号のSFとが一致している場合を示しており、図6は、両者が異なる場合を示している。なお、図5では、両SFは10であり、図6では、取得部20によって取得されたチャープ信号のSFは8であり、受信信号のSFはそれとは異なっている。
【0041】
図5では、2箇所の大きなピークが見られる。したがって、このようにピークが存在することによって、受信信号にSF10のチャープ信号が含まれていると判定することができる。一方、図6では、ピークがあるようにも見えるが、周辺の雑音のスペクトルとの差は小さい。したがって、受信信号にSF8のチャープ信号が含まれていないと判定することができる。
【0042】
ここで、判定部33が、周波数スペクトルにピークが存在するかどうか、すなわち取得部20によって取得されたチャープ信号と同じチャープ率(SF)のチャープ信号が受信信号に含まれているかどうかを判定する方法の一例について説明する。判定部33は、周波数スペクトルにおいて、パワーの大きい方から4つのピークを特定する。そのピークの特定は、パワーの大きい方から4つの極大値を特定することによって行うことができる。なお、4つのピークを特定するのは、受信信号に、2つのチャープ信号が含まれている可能性を考慮したものである。次に、判定部33は、その4つのピークのパワーについて平均を取得する。この平均を第1の平均とする。また、判定部33は、特定した4つのピークを除いた周波数スペクトルについて、パワーの平均を取得する。この平均を第2の平均とする。また、判定部33は、周波数スペクトルの全体について標準偏差を取得する。その後、判定部33は、第1の平均と第2の平均との差の絶対値を、全体の標準偏差で除算した結果と、あらかじめ設定されている所定の閾値とを比較する。その閾値は、正の実数である。そして、判定部33は、除算結果の方が所定の閾値よりも大きい場合に、受信信号に、取得部20によって取得されたチャープ率のチャープ信号が含まれていると判定し、除算結果の方が所定の閾値よりも小さい場合に、受信信号に、取得部20によって取得されたチャープ率のチャープ信号が含まれていないと判定してもよい。なお、除算結果が所定の閾値に等しい場合には、判定部33は、取得部20によって取得されたチャープ率のチャープ信号が受信信号に含まれていると判定してもよく、または、含まれていないと判定してもよい。また、これ以外の方法によって、周波数スペクトルにピークが含まれているかどうかの判定が行われてもよいことは言うまでもない。
【0043】
図1で示されるように、複数の取得部20-1~20-Nによって取得された複数のチャープ信号を用いて、受信信号に含まれるチャープ信号を検出することによって、例えば、受信信号にSF7~12に対応するチャープ信号が含まれているかどうかを同時に判定することができる。また、復調器10によって復調する周波数(チャネル)を変更しながらその判定を繰り返すことによって、複数の周波数について、受信信号にSF7~12に対応するチャープ信号が含まれているかどうかを判定することができる。図7は、LoRaのSF7~12について、また、チャネル24~38について、チャープ信号の検出を行った結果を示すテーブルである。各数値は、上記説明の除算結果の値である。例えば、上記の所定の閾値を0.3などに設定することによって、判定部33は、チャネル25の受信信号について、判定実施回数のうち85.9%の割合で閾値を超える判定結果となったためSF7のチャープ信号が含まれていると判定することができる。なお、ここで100%とならない場合があるのは、LoRaの信号の中に無送信区間や逆チャープと呼ばれる周波数偏移が逆の成分があるためである。それらを加味して85.9%は高い値であり、チャネル25においてSF7のチャープ信号が検出されたことになる。
【0044】
以上のように、本実施の形態による信号検出装置1によれば、受信信号に含まれるチャープ信号を検出することができる。したがって、例えば、LoRa方式によって無線通信が行われているかどうかを検出することができるようになる。また、例えば、スペクトラムアナライザ等でチャープ信号の波形を検出できないような状況であっても、信号検出装置1を用いることによって、適切にチャープ信号を検出することができる。また、N個の取得部20-1~20-N及びN個の信号検出部30-1~30-Nを用いることによって、異なる複数のチャープ率のチャープ信号を同時に検出することができ、例えば、LoRa方式の複数のSFに応じた各無線通信が行われているかどうかについて、一括して効率よく調べることができる。また、N個の信号検出部30-1~30-Nについて復調器10を共用できるため、取得されるチャープ信号ごとに復調器を設けた場合と比較して、装置をコンパクトにすることができる。また、周波数を切り替えることによって、それぞれのチャネルでの使用率を把握することも可能となる。
【0045】
次に、本実施の形態による信号検出装置1の変形例について説明する。
【0046】
[単一のチャープ率のチャープ信号の検出]
本実施の形態では、Nが2以上の整数である場合について主に説明したが、Nは1であってもよい。その場合には、受信信号に含まれている一つのチャープ率のチャープ信号について検出することができる。そのような検出を、取得するチャープ信号のチャープ率を変更しながら、また、受信する無線信号の周波数を変更しながら行うことによって、複数の周波数について、複数のチャープ率のチャープ信号が含まれているかどうかを検出することができるようになる。
【0047】
[複数の周波数におけるチャープ信号の検出]
本実施の形態では、複数のチャープ率のチャープ信号を同時に検出する場合について主に説明したが、一つのチャープ率のチャープ信号の検出を、複数の周波数(チャネル)について同時に行なってもよい。図8は、そのようなチャープ信号の検出を行う信号検出装置1の構成を示すブロック図である。図8において、信号検出装置1は、M個の復調器10-1~10-Mと、取得部20と、M個の信号検出部30-1~30-Mとを備える。Mは2以上の整数である。
【0048】
M個の復調器10-1~10-Mは、それぞれ異なる周波数の信号を復調する。M個の復調器10-1~10-Mは、例えば、M個のそれぞれ異なるチャネルの信号を復調してもよい。M個の信号検出部30-1~30-Mは、それぞれ異なる復調器10-1~10-Mから出力された受信信号に含まれる所定のチャープ率に応じたチャープ信号を検出する。その所定のチャープ率は、取得部20によって取得されるチャープ信号のチャープ率である。信号検出部30-Kは、復調器10-Kによって復調された受信信号を用いて、受信信号に含まれるチャープ信号を検出するものとする。ここで、Kは1からMの任意の整数である。
【0049】
なお、複数の信号検出部30が、それぞれ異なる周波数の信号の復調結果である受信信号について、同じチャープ率のチャープ信号を同時に検出する以外は、復調器10、取得部20、信号検出部30の構成は上記のとおりであり、その詳細な説明を省略する。
【0050】
このような構成により、複数の周波数について同時にチャープ信号を検出することができるようになる。また、取得部20によって取得されるチャープ信号のチャープ率を切り替えることによって、それぞれのチャープ率のチャープ信号に関する使用率を把握することも可能となる。また、M個の信号検出部30-1~30-Mについて、取得部20を共用できるため、信号検出部30-1~30-Mごとに取得部20を備える場合よりも、装置をコンパクトにすることができる。
【0051】
[複数の周波数、及び複数のチャープ率のチャープ信号の検出]
複数の周波数(チャネル)のそれぞれについて、複数のチャープ率のチャープ信号の検出を同時に行ってもよい。この場合には、信号検出装置1は、M個の復調器10-1~10-Mと、N個の取得部20-1~20-Nと、M×N個の信号検出部30-1~30-(M×N)とを備えていてもよい。なお、M個の復調器10-1~10-M、N個の取得部20-1~20-Nは、上記説明と同様のものであるとする。また、信号検出部30-(K×L)は、復調器10-Kからの受信信号に、取得部20-Lによって取得されたチャープ率のチャープ信号が含まれるかどうかを検出する。このようにして、複数の周波数の信号に含まれる複数のチャープ率のチャープ信号を一括して検出することができるようになる。
【0052】
[周波数偏移が逆であるチャープ信号を用いたチャープ信号の検出]
検出対象のLoRa信号とチャープ率の絶対値は同じであるが、周波数偏移が逆であるチャープ信号を用いてチャープ信号を検出することもできる。そのことについて、図4Bを用いて説明する。図4Bでは、取得されたチャープ信号と、受信信号とは、チャープ率の絶対値は同じであるが、周波数偏移が逆になっている。すなわち、受信信号はアップチャープであるが、取得されたチャープ信号はダウンチャープになっている。この場合には、受信信号と、取得されたチャープ信号との周波数の和が一定になる。したがって、両信号のチャープ率の絶対値が等しい場合には、乗算部31から出力される乗算信号に含まれる周波数の和の成分と差の成分とのうち、和の成分が一定の値となり、その一定の値の和の成分が、所定の期間だけ出力されるため、上記説明と同様に、乗算信号についてフーリエ変換を行うことによってピークを検出できるかどうかに応じて、受信信号に、取得されたチャープ信号のチャープ率に応じたチャープ信号が含まれるかどうかを判定することができる。なお、ピークが検出された場合には、受信信号に、取得されたチャープ信号のチャープ率に(-1)を掛けたチャープ率のチャープ信号が含まれていることになる。検出されたチャープ信号のチャープ率が、取得されたチャープ信号のチャープ率と異なる以外は、上記実施の形態と同様であり、その詳細な説明を省略する。
【0053】
なお、上記実施の形態では、信号検出装置1がLoRa方式のチャープ信号を検出する場合について主に説明したが、信号検出装置1は、他の方式のチャープ信号を検出してもよいことは言うまでもない。その場合には、取得部20は、その方式に応じたチャープ信号を取得することが好適である。
【0054】
また、上記実施の形態において、各処理または各機能は、単一の装置または単一のシステムによって集中処理されることによって実現されてもよく、または、複数の装置または複数のシステムによって分散処理されることによって実現されてもよい。
【0055】
また、上記実施の形態において、各構成要素は専用のハードウェアにより構成されてもよく、または、ソフトウェアにより実現可能な構成要素については、プログラムを実行することによって実現されてもよい。例えば、ハードディスクや半導体メモリ等の記録媒体に記録されたソフトウェア・プログラムをCPU等のプログラム実行部が読み出して実行することによって、各構成要素が実現され得る。その実行時に、プログラム実行部は、記憶部や記録媒体にアクセスしながらプログラムを実行してもよい。
【0056】
また、本発明は、以上の実施の形態に限定されることなく、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上より、本発明の一態様による信号検出装置等によれば、受信信号に含まれるチャープ信号を検出できるという効果が得られ、チャープ信号を検出する装置等として有用である。
【符号の説明】
【0058】
1 信号検出装置
10、10-1~10-M 復調器
20、20-1~20-N 取得部
30、30-1~30-(M×N) 信号検出部
31 乗算部
32 フーリエ変換部
33 判定部
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8