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特許7496273積層計画修正支援装置、積層計画修正支援方法、及びプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-29
(45)【発行日】2024-06-06
(54)【発明の名称】積層計画修正支援装置、積層計画修正支援方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   B25J 9/10 20060101AFI20240530BHJP
   B25J 9/22 20060101ALI20240530BHJP
   G05B 19/42 20060101ALI20240530BHJP
   G05B 19/18 20060101ALI20240530BHJP
   B23K 9/095 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
B25J9/10 A
B25J9/22 A
G05B19/42 P
G05B19/18 C
G05B19/42 J
B23K9/095 505Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020161051
(22)【出願日】2020-09-25
(65)【公開番号】P2022054066
(43)【公開日】2022-04-06
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【弁理士】
【氏名又は名称】尾形 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100166981
【弁理士】
【氏名又は名称】砂田 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 伸志
(72)【発明者】
【氏名】飛田 正俊
(72)【発明者】
【氏名】藤井 達也
【審査官】稲垣 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-190264(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 - 21/02
G05B 19/42
G05B 19/18
B23K 9/095
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層造形物の積層計画におけるパスの積層方向及び積層順序を変更してパス間のエアカットで連結した複数の層内経路を層ごとに取得する層内経路取得手段と、
前記複数の層内経路のうち移動時間が第1の閾値以下となる少なくとも1つの層内経路を層ごとに抽出する層内経路抽出手段と、
層ごとに抽出された前記少なくとも1つの層内経路から一の層内経路を選択して層間のエアカットで連結した複数の全体経路を取得する全体経路取得手段と、
前記複数の全体経路のうち移動時間が第2の閾値以下となる少なくとも1つの全体経路を抽出する全体経路抽出手段と、
抽出された前記少なくとも1つの全体経路に関する情報を表示するように制御する制御手段と
を備えたことを特徴とする積層計画修正支援装置。
【請求項2】
前記パス間のエアカットは、前記積層造形物を造形するマニピュレータ及び前記積層造形物を造形のために位置付けるポジショナの少なくとも何れか一方によるパス間の空走移動動作であり、
前記層間のエアカットは、前記マニピュレータ及び前記ポジショナの少なくとも何れか一方による層間の空走移動動作であることを特徴とする請求項1に記載の積層計画修正支援装置。
【請求項3】
前記層内経路抽出手段は、前記複数の層内経路の前記マニピュレータによるパス間の空走移動動作であるエアカットの時間及び前記ポジショナによるパス間の空走移動動作であるエアカットの時間を、それぞれ、当該マニピュレータの移動速度及び当該ポジショナの移動速度を用いて算出し、
前記全体経路抽出手段は、前記複数の全体経路の前記マニピュレータによる層間の空走移動動作であるエアカットの時間及び前記ポジショナによる層間の空走移動動作であるエアカットの時間を、それぞれ、当該マニピュレータの移動速度及び当該ポジショナの移動速度を用いて算出することを特徴とする請求項2に記載の積層計画修正支援装置。
【請求項4】
抽出された前記少なくとも1つの全体経路における前記パス間のエアカットの時間及び前記層間のエアカットの時間は、予め定められたパス間時間以上であることを特徴とする請求項1に記載の積層計画修正支援装置。
【請求項5】
前記制御手段は、抽出された前記少なくとも1つの全体経路の移動時間に関する情報を更に表示するように制御することを特徴とする請求項1に記載の積層計画修正支援装置。
【請求項6】
前記制御手段は、抽出された前記少なくとも1つの全体経路における前記パス間のエアカットの時間の予め定められたパス間時間に対する比率に関する情報、及び、当該少なくとも1つの全体経路における前記層間のエアカットの時間の当該パス間時間に対する比率に関する情報の少なくとも何れか一方を更に表示するように制御することを特徴とする請求項1に記載の積層計画修正支援装置。
【請求項7】
前記パスごとに固有ひずみを取得する固有ひずみ取得手段と、
前記固有ひずみに基づいて前記積層造形物の変形量を取得する変形量取得手段と
を更に備え、
前記制御手段は、抽出された前記少なくとも1つの全体経路に対応する前記変形量を更に表示するように制御することを特徴とする請求項1に記載の積層計画修正支援装置。
【請求項8】
前記積層計画における全体経路を、抽出された前記少なくとも1つの全体経路から選択された一の全体経路で更新する更新手段を更に備えたことを特徴とする請求項1に記載の積層計画修正支援装置。
【請求項9】
コンピュータの層内経路取得手段が、積層造形物の積層計画におけるパスの積層方向及び積層順序を変更してパス間のエアカットで連結した複数の層内経路を層ごとに取得するステップと、
コンピュータの層内経路抽出手段が、前記複数の層内経路のうち移動時間が第1の閾値以下となる少なくとも1つの層内経路を層ごとに抽出するステップと、
コンピュータの全体経路取得手段が、層ごとに抽出された前記少なくとも1つの層内経路から一の層内経路を選択して層間のエアカットで連結した複数の全体経路を取得するステップと、
コンピュータの全体経路抽出手段が、前記複数の全体経路のうち移動時間が第2の閾値以下となる少なくとも1つの全体経路を抽出するステップと、
コンピュータの制御手段が、抽出された前記少なくとも1つの全体経路に関する情報を表示するように制御するステップと
を含むことを特徴とする積層計画修正支援方法。
【請求項10】
コンピュータに、
積層造形物の積層計画におけるパスの積層方向及び積層順序を変更してパス間のエアカットで連結した複数の層内経路を層ごとに取得する機能と、
前記複数の層内経路のうち移動時間が第1の閾値以下となる少なくとも1つの層内経路を層ごとに抽出する機能と、
層ごとに抽出された前記少なくとも1つの層内経路から一の層内経路を選択して層間のエアカットで連結した複数の全体経路を取得する機能と、
前記複数の全体経路のうち移動時間が第2の閾値以下となる少なくとも1つの全体経路を抽出する機能と、
抽出された前記少なくとも1つの全体経路に関する情報を表示するように制御する機能と
を実現させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形物の積層計画を修正する積層計画修正支援装置、積層計画修正支援方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
全ての作業線に対して、溶接方向毎に、その作業線の溶接作業に必要な時間、タッチセンシングに必要な時間、その作業線の始端への進入時間、および作業線の終端からの退避時間の総和を個別に算出する溶接時間算出ステップと、各作業線を溶接する順序、および溶接方向についての全ての組合せからなる解から、予め定める制約条件を満たさない解を除外する解除外ステップと、解除外ステップで除外されない解に対し、溶接時間算出ステップで算出されている時間と作業線間の移動に要する時間とを合計して、合計時間がほぼ最短となる解を選択する解選択ステップとを有する作業順序計画ステップを含む産業用ロボットの教示方法は、知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-190264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
パス間のエアカットを含む複数の層内経路を層間のエアカットで連結した全体経路から移動時間が短い全体経路を探索する際、全ての層内経路の組み合わせを対象として探索するのは膨大な時間がかかり効率的でない。このような場合に、ビード継ぎの制約条件を満たさない解の除外や部材のグループ化によって全解空間を絞り込むことは考えられるが、そのような絞り込みが行えない場合やそのような絞り込みを行っても全解空間を絞り込めない場合は、移動時間が短い全体経路を探索する際の効率の向上には限界がある。
【0005】
本発明の目的は、ビード継ぎの制約条件を満たさない解の除外や部材のグループ化によって全解空間を絞り込むに過ぎない場合に比較して、パス間のエアカットを含む複数の層内経路を層間のエアカットで連結した全体経路から移動時間が短い全体経路を探索する際の効率を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的のもと、本発明は、積層造形物の積層計画におけるパスの積層方向及び積層順序を変更してパス間のエアカットで連結した複数の層内経路を層ごとに取得する層内経路取得手段と、複数の層内経路のうち移動時間が第1の閾値以下となる少なくとも1つの層内経路を層ごとに抽出する層内経路抽出手段と、層ごとに抽出された少なくとも1つの層内経路から一の層内経路を選択して層間のエアカットで連結した複数の全体経路を取得する全体経路取得手段と、複数の全体経路のうち移動時間が第2の閾値以下となる少なくとも1つの全体経路を抽出する全体経路抽出手段と、抽出された少なくとも1つの全体経路に関する情報を表示するように制御する制御手段とを備えた積層計画修正支援装置を提供する。
【0007】
パス間のエアカットは、積層造形物を造形するマニピュレータ及び積層造形物を造形のために位置付けるポジショナの少なくとも何れか一方によるパス間の空走移動動作であってよく、層間のエアカットは、マニピュレータ及びポジショナの少なくとも何れか一方による層間の空走移動動作であってよい。その場合、層内経路抽出手段は、複数の層内経路のマニピュレータによるパス間の空走移動動作であるエアカットの時間及びポジショナによるパス間の空走移動動作であるエアカットの時間を、それぞれ、マニピュレータの移動速度及びポジショナの移動速度を用いて算出する、ものであってよく、全体経路抽出手段は、複数の全体経路のマニピュレータによる層間の空走移動動作であるエアカットの時間及びポジショナによる層間の空走移動動作であるエアカットの時間を、それぞれ、マニピュレータの移動速度及びポジショナの移動速度を用いて算出する、ものであってよい。
【0008】
抽出された少なくとも1つの全体経路におけるパス間のエアカットの時間及び層間のエアカットの時間は、予め定められたパス間時間以上であってよい。
【0009】
制御手段は、抽出された少なくとも1つの全体経路の移動時間に関する情報を更に表示するように制御する、ものであってよい。
【0010】
制御手段は、抽出された少なくとも1つの全体経路におけるパス間のエアカットの時間の予め定められたパス間時間に対する比率に関する情報、及び、少なくとも1つの全体経路における層間のエアカットの時間のパス間時間に対する比率に関する情報の少なくとも何れか一方を更に表示する、ものであってよい。
【0011】
積層計画修正支援装置は、パスごとに固有ひずみを取得する固有ひずみ取得手段と、固有ひずみに基づいて積層造形物の変形量を取得する変形量取得手段とを更に備え、制御手段は、抽出された少なくとも1つの全体経路に対応する変形量を更に表示するように制御する、ものであってよい。
【0012】
積層計画修正支援装置は、積層計画における全体経路を、抽出された少なくとも1つの全体経路から選択された一の全体経路で更新する更新手段を更に備えた、ものであってよい。
【0013】
また、本発明は、積層造形物の積層計画におけるパスの積層方向及び積層順序を変更してパス間のエアカットで連結した複数の層内経路を層ごとに取得するステップと、複数の層内経路のうち移動時間が第1の閾値以下となる少なくとも1つの層内経路を層ごとに抽出するステップと、層ごとに抽出された少なくとも1つの層内経路から一の層内経路を選択して層間のエアカットで連結した複数の全体経路を取得するステップと、複数の全体経路のうち移動時間が第2の閾値以下となる少なくとも1つの全体経路を抽出するステップと、抽出された少なくとも1つの全体経路に関する情報を表示するように制御するステップとを含む積層計画修正支援方法も提供する。
【0014】
更に、本発明は、コンピュータに、積層造形物の積層計画におけるパスの積層方向及び積層順序を変更してパス間のエアカットで連結した複数の層内経路を層ごとに取得する機能と、複数の層内経路のうち移動時間が第1の閾値以下となる少なくとも1つの層内経路を層ごとに抽出する機能と、層ごとに抽出された少なくとも1つの層内経路から一の層内経路を選択して層間のエアカットで連結した複数の全体経路を取得する機能と、複数の全体経路のうち移動時間が第2の閾値以下となる少なくとも1つの全体経路を抽出する機能と、抽出された少なくとも1つの全体経路に関する情報を表示するように制御する機能とを実現させるためのプログラムも提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ビード継ぎの制約条件を満たさない解の除外や部材のグループ化によって全解空間を絞り込むに過ぎない場合に比較して、パス間のエアカットを含む複数の層内経路を層間のエアカットで連結した全体経路から移動時間が短い全体経路を探索する際の効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施の形態における金属積層造形システムの概略構成例を示した図である。
図2】本発明の実施の形態における積層計画装置のハードウェア構成例を示す図である。
図3】(a),(b)は、本発明の実施の形態の第1の具体例について示した図である。
図4】(a),(b)は、本発明の実施の形態の第2の具体例について示した図である。
図5】(a),(b)は、本発明の実施の形態の第3の具体例について示した図である。
図6-1】(a),(b)は、本発明の実施の形態の第4の具体例について示した図である。
図6-2】(c),(d)は、本発明の実施の形態の第4の具体例について示した図である。
図6-3】(e),(f)は、本発明の実施の形態の第4の具体例について示した図である。
図7】本発明の実施の形態における積層計画装置の機能構成例を示した図である。
図8】本発明の実施の形態における制御装置の機能構成例を示した図である。
図9】本発明の実施の形態における積層計画装置の動作例を示したフローチャートである。
図10-1】本発明の実施の形態における積層計画装置が行う積層計画部修正処理の例を示したフローチャートである。
図10-2】本発明の実施の形態における積層計画装置が行う積層計画部修正処理の例を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0018】
[金属積層造形システムの構成]
図1は、本実施の形態における金属積層造形システム1の概略構成例を示した図である。
【0019】
図示するように、金属積層造形システム1は、溶接ロボット(マニピュレータ)10と、CAD装置20と、積層計画装置30と、制御装置50とを備える。また、積層計画装置30は、溶接ロボット10を制御する制御プログラムを、例えばメモリカード等のリムーバブルな記録媒体70に書き込み、制御装置50は、記録媒体70に書き込まれた制御プログラムを読み出すことができるようになっている。
【0020】
溶接ロボット10は、複数の関節を有する腕(アーム)11を備え、制御装置50が読み込んだ制御プログラムに従って動作することで溶接作業を行う。また、溶接ロボット10は、腕11の先端に手首部12を介して、積層造形物100を造形するための溶接トーチ13を有している。そして、金属積層造形システム1の場合、溶接ロボット10は、軟鋼製の溶加材(ワイヤ)14を溶融しながら、溶接トーチ13を移動させて、積層造形物100を製造する。具体的には、溶接トーチ13は、溶加材14を供給しつつ、シールドガスを流しながらアークを発生させて溶加材14を溶融及び固化し、母材90上に複数層のビードを積層して積層造形物100を製造する。尚、ここでは、溶加材14を溶融する熱源としてアークを用いるが、レーザやプラズマを用いてもよい。また、溶接ロボット10は、この他に、溶加材14を送給する送給装置等も含むが、これについては説明を省略する。
【0021】
CAD装置20は、コンピュータを用いて造形物の設計を行うと共に、設計によって得られた三次元データ(以下、「三次元CADデータ」という)を保持する機能を有している。
【0022】
積層計画装置30は、CAD装置20が保持する三次元CADデータに基づいて積層造形物100の積層計画を作成する。つまり、溶接トーチ13の軌道を決定すると共に、溶接ロボット10が溶接する際の溶接条件を決定する。そして、この決定した軌道に沿って決定した溶接条件でビードを形成するように溶接ロボット10を制御するための制御プログラムを生成し、この制御プログラムを記録媒体70に出力する。
【0023】
制御装置50は、記録媒体70から制御プログラムを読み込んで保持する。そして、この制御プログラムを動作させることにより、積層計画装置30で作成された積層計画に従って、つまり、積層計画装置30で決定された軌道に沿って、積層計画装置30で決定された溶接条件でビードを形成するよう、溶接ロボット10を制御する。
【0024】
また、金属積層造形システム1は、図示しないが、積層造形物100を造形のために位置付けるポジショナを備えていてもよい。例えば、中心軸のサポート材(図示せず)の周りに複数層のビードを積層して円柱状の積層造形物100を製造する場合、ポジショナは中心軸を中心として積層造形物100を回転させる回転ポジショナであってよい。或いは、ポジショナは、積層造形物100を直線状に移動させるリニアポジショナであってもよい。
【0025】
更に、金属積層造形システム1は、図示しないが、溶接ロボット10を平行移動させるための移動装置を備えていてもよい。
【0026】
[積層計画装置のハードウェア構成]
図2は、積層計画装置30のハードウェア構成例を示す図である。
【0027】
図示するように、積層計画装置30は、例えば汎用のPC(Personal Computer)等により実現され、演算手段であるCPU31と、記憶手段であるメインメモリ32及び磁気ディスク装置(HDD:Hard Disk Drive)33とを備える。ここで、CPU31は、OS(Operating System)やアプリケーションソフトウェア等の各種プログラムを実行し、積層計画装置30の各機能を実現する。また、メインメモリ32は、各種プログラムやその実行に用いるデータ等を記憶する記憶領域であり、HDD33は、各種プログラムに対する入力データや各種プログラムからの出力データ等を記憶する記憶領域である。
【0028】
また、積層計画装置30は、外部との通信を行うための通信I/F34と、ビデオメモリやディスプレイ等からなる表示機構35と、キーボードやマウス等の入力デバイス36と、記録媒体70に対してデータの読み書きを行うためのドライバ37とを備える。尚、図2は、積層計画装置30をコンピュータシステムにて実現した場合のハードウェア構成を例示するに過ぎず、積層計画装置30は図示の構成に限定されない。
【0029】
また、図2に示したハードウェア構成は、制御装置50のハードウェア構成としても捉えられる。但し、制御装置50について述べるときは、図2のCPU31、メインメモリ32、磁気ディスク装置33、通信I/F34、表示機構35、入力デバイス36、ドライバ37をそれぞれ、CPU51、メインメモリ52、磁気ディスク装置53、通信I/F54、表示機構55、入力デバイス56、ドライバ57と表記するものとする。
【0030】
[本実施の形態の概要]
本実施の形態では、積層計画装置30が、第1段階の処理として、積層造形物100の積層計画におけるパスの積層方向及び積層順序を変更してパス間のエアカットで連結した複数の層内経路を層ごとに取得し、この複数の層内経路のうち移動時間が第1の閾値以下となる少なくとも1つの層内経路を層ごとに抽出する処理を行う。次に、積層計画装置30は、第2段階の処理として、層ごとに抽出された少なくとも1つの層内経路から一の層内経路を選択して層間のエアカットで連結した複数の全体経路を取得し、この複数の全体経路のうち移動時間が第2の閾値以下となる少なくとも1つの全体経路を抽出する処理を行う。そして、積層計画装置30は、抽出された少なくとも1つの全体経路に関する情報を表示機構35(図2参照)に表示する。
【0031】
ここで、パス間のエアカットとは、溶接ロボット10又はポジショナによるパス間の空走移動動作である。また、層間のエアカットとは、溶接ロボット10又はポジショナによる層間の空走移動動作である。
【0032】
以下、上述した第1段階の処理及び第2段階の処理の具体例について説明する。
【0033】
図3は、第1の具体例について示した図である。図3では、平面状の積層造形物100の積層計画を示している。尚、この第1の具体例は、上述した第1段階の処理の具体例である。但し、ここでは、層内経路の移動時間が第1の閾値以下であるかどうかの判定については言及せず、単に初期積層計画よりも修正積層計画の方が層内経路の移動時間が短くなることについてのみ述べる。また、ここでは、パスを12本としているが、これはあくまで一例であり、パスの本数はM本としてよい(Mは自然数)。
【0034】
図3(a)に積層造形物100の最初の積層計画(初期積層計画)を示す。初期積層計画では、パスの積層順序は左から右への順序に設定され、パスの積層方向は始点が上側、終点が下側になるように設定されている。従って、あるパスの終点と次のパスの始点とを結ぶエアカットは左下から右上へ向かうことになる。つまり、図示するように、パス111を上から下へ積層した後、エアカット112を行って、パス111を上から下へ積層している。そして、パス111,・・・,11112も同様に、エアカット112,・・・,11211を入れながら上から下へ積層している。このように、初期積層計画では、エアカットが比較的長い経路となり、その経路を溶接トーチ13又はポジショナが移動する時間であるエアカット時間も長くなる。
【0035】
図3(b)に積層造形物100の修正された積層計画(修正積層計画)を示す。修正積層計画では、初期積層計画における一部のパスの始点と終点とを入れ替えている。つまり、図示するように、パス111を上から下へ積層した後、エアカット113を行って、パス111を下から上へ積層している。そして、パス111,・・・,11112も同様に、エアカット113,・・・,11311を入れながら上から下へ、下から上へと交互に方向が入れ替わるように積層している。これにより、エアカットする経路長が大幅に短縮される。
【0036】
図4は、第2の具体例について示した図である。図4では、円柱状の積層造形物100の積層計画を示している。尚、この第2の具体例も、上述した第1段階の処理の具体例である。但し、ここでも、層内経路の移動時間が第1の閾値以下であるかどうかの判定については言及せず、単に初期積層計画よりも修正積層計画の方が層内経路の移動時間が短くなることについてのみ述べる。
【0037】
図4(a)に積層造形物100の初期積層計画を示す。初期積層計画では、円柱状の積層造形物100の円周一部を積層する際に、1パス目の積層が終了すると、ポジショナで積層造形物100を半回転させて1パス目の終点を2パス目の始点まで移動させている。つまり、図示するように、パス121を反時計回りに積層した後、ポジショナの180°の回転によるエアカット122を行って、パス121を時計回りに積層している。
【0038】
図4(b)に積層造形物100の修正積層計画を示す。修正積層計画では、1パス目の始点と終点とを入れ替えている。つまり、図示するように、パス121を時計回りに積層した後、ポジショナの90°よりも小さい角度の回転によるエアカット123を行って、パス121を時計回りに積層している。これにより、2パス目の始点までの回転移動量は、図4(a)の場合に比べてわずかで済む。
【0039】
図5は、第3の具体例について示した図である。図5では、円柱状の積層造形物100の積層計画を示している。尚、この第3の具体例も、上述した第1段階の処理の具体例である。但し、ここでも、層内経路の移動時間が第1の閾値以下であるかどうかの判定については言及せず、単に初期積層計画よりも修正積層計画の方が層内経路の移動時間が短くなることについてのみ述べる。また、ここでは、パスを10本としているが、これはあくまで一例であり、パスの本数はM本としてよい(Mは自然数)。
【0040】
図5(a)に積層造形物100の初期積層計画を示す。初期積層計画では、円柱状の積層造形物100の表面に軸方向に積層する際に、上下に往復するようなエアカットが入っている。つまり、図示するように、パス131を右から左へ積層した後、エアカット132を行って、パス131を右から左へ積層し、その後、エアカット132を行って、パス131を右から左へ積層している。そして、パス131,・・・,13110も同様に、エアカット132,・・・,132を入れながら右から左へ積層している。ここで、エアカット132,・・・,132はポジショナの回転動作により行われ、パス131,・・・,13110の右から左への積層は溶接ロボット10の動作により行われる。
【0041】
図5(b)に積層造形物100の修正積層計画を示す。修正積層計画では、初期積層計画でパス同士が近いものをつなげるように順序と始点及び終点とを入れ替えている。つまり、図示するように、パス131を右から左へ積層した後、エアカット133を行って、パス131を右から左へ積層している。そして、パス131、131、131も同様に、エアカット133、133、133を入れながら右から左へ積層している。その後、エアカット133を行って、パス13110を左から右へ積層した後、エアカット13310を行って、パス131を左から右へ積層している。そして、パス131、131、131も同様に、エアカット133、133、133を入れながら左から右へ積層している。これにより、図5(a),(b)に細い破線矢印で示すように、ポジショナの位相回転量が大幅に短縮される。
【0042】
図6-1~図6-3は、第4の具体例について示した図である。図6-1~図6-3では、平面状の層を複数重ねた積層造形物100の積層計画を示している。尚、この第4の具体例は、上述した第1段階の処理及び第2段階の処理の具体例である。但し、ここでも、層内経路の移動時間が第1の閾値以下であるかどうかの判定及び全体経路の移動時間が第2の閾値以下であるかどうかの判定については言及しない。そして、単に初期積層計画よりも第1の修正積層計画の方が、それよりも第2の修正積層計画の方が層内経路の移動時間及び全体経路の移動時間が短くなることについてのみ述べる。また、ここでは、1層につきパスを12本としているが、これはあくまで一例であり、パスの本数は1層につきM本としてよい(Mは自然数)。
【0043】
図6-1(a)に積層造形物100のi層目の初期積層計画を示し、図6-1(b)に積層造形物100の(i+1)層目の初期積層計画を示す。初期積層計画では、四角形に沿って積層する場合に、i層目の積層パターンを(i+1)層目でも単純コピーして積層したとする。つまり、図6-1(a)に示すように、i層目において、パス141を上から下へ積層した後、エアカット142を行って、パス141を上から下へ積層したとする。そして、パス141,・・・,14112も同様に、エアカット142,・・・,14211を入れながら上から下へ積層したとする。また、図6-1(b)に示すように、(i+1)層目において、パス146を上から下へ積層した後、エアカット147を行って、パス146を上から下へ積層したとする。そして、パス146,・・・,14612も同様に、エアカット147,・・・,14711を入れながら上から下へ積層したとする。すると、図6-1(a)に示すように、i層目から(i+1)層目に移る際に右下から左上へのエアカット14212が発生する。
【0044】
図6-2(c)に積層造形物100のi層目の第1の修正積層計画を示し、図6-2(d)に積層造形物100の(i+1)層目の第1の修正積層計画を示す。第1の修正積層計画では、i層目におけるエアカットを短縮すると共に、i層目の積層パターンを(i+1)層目では反転コピーして積層している。つまり、図6-2(c)では、i層目において、パス141を上から下へ積層した後、エアカット143を行って、パス141を下から上へ積層している。そして、パス141,・・・,14112も同様に、エアカット143,・・・,14311を入れながら上から下へ、下から上へと交互に方向が入れ替わるように積層している。また、図6-2(d)では、(i+1)層目において、パス14612を上から下へ積層した後、エアカット14812を行って、パス14611を下から上へ積層している。そして、パス14610,・・・,146も同様に、エアカット14811,・・・,148を入れながら上から下へ、下から上へと交互に方向が入れ替わるように積層している。これにより、層間のエアカット時間をゼロとすることができる。
【0045】
図6-3(e)に積層造形物100のi層目の第2の修正積層計画を示し、図6-3(f)に積層造形物100の(i+1)層目の第2の修正積層計画を示す。上述した第1の修正積層計画では、i層目のパス14112を積層した直後に(i+1)層目のパス14612を積層しており、パス14112を冷却する時間が殆どないため、エアカット時間を短縮しても結局は溶接ロボット10やポジショナの無駄な待ち時間が発生し得る。そこで、第2の修正積層計画では、(i+1)層目の1パス目を数列ずらすことで(i+1)層目の1パス目をエアカット直後に積層できるようにしている。つまり、図6-3(e)では、図6-2(c)と同様に、パス141,・・・,14112を、エアカット144,・・・,14411を入れながら上から下へ、下から上へと交互に方向が入れ替わるように積層している。その後、i層目から(i+1)層目に移る際にエアカット14412を入れている。また、図6-3(f)では、(i+1)層目において、パス14610を上から下へ積層した後、エアカット14910を行って、パス14611を下から上へ積層し、その後、エアカット14911を行って、パス14612を上から下へ積層している。そして、エアカット14912を行った後、図6-2(d)と同様に、パス146,・・・,146を、エアカット149,・・・,149を入れながら下から上へ、上から下へと交互に方向が入れ替わるように積層している。これにより、第2の修正積層計画では、第1の修正積層計画よりも若干エアカットが長くなるものの、初期積層計画よりは全体経路が短縮されている。
【0046】
[本実施の形態の詳細]
以下、このような概要を実現する金属積層造形システム1について、積層計画装置30及び制御装置50の構成及び動作を中心に詳細に説明する。
【0047】
(積層計画装置の機能構成)
図7は、本実施の形態における積層計画装置30の機能構成例を示した図である。図示するように、本実施の形態における積層計画装置30は、CADデータ取得部41と、CADデータ分割部42と、積層計画部43と、積層計画修正部44と、制御プログラム生成部45と、制御プログラム出力部46とを備える。
【0048】
CADデータ取得部41は、CAD装置20から、積層造形物100の三次元形状を表す三次元CADデータを取得する。
【0049】
CADデータ分割部42は、CADデータ取得部41が取得した三次元CADデータを複数の層に分割(スライス)することで、各層の形状をそれぞれが表す複数の層形状データを生成する。その際、CADデータ分割部42は、三次元CADデータを複数の層に分割し易い内部形式に変換してもよい。
【0050】
積層計画部43は、CADデータ分割部42が生成した複数の層形状データの各層の高さ及び幅に合ったビードを溶着する際の溶接トーチ13の位置や溶接条件を含む積層計画を生成する。このような積層計画を生成するには、ビードの高さや幅の他、ビードの断面形状を近似するモデルが必要である。これらは測定実験の実測値や、溶着金属量の断面積から計算して推定したものでもよい。例えば、溶接速度やワイヤ送給速度を数条件振って溶着量を変えつつ、ビードオンプレート溶接や鉛直に数層の積層を行い、各々の条件にて1層当たりの高さや幅を測定した結果をデータベース化する。そして、積層する際に積層する所望の高さや幅を満たす溶接速度と溶着量を選択し、測定した結果から各層の推定形状を随時計算し、溶接トーチ13の位置を決める。尚、溶着断面の計算は溶加材14の材質や、既に積層した部位の形状の状態によって計算方法を変えるようにしてもよい。この計算方法によって造形物を内包する積層を計画していく。
【0051】
積層計画修正部44は、積層計画修正装置の一例であり、積層計画部43が生成した積層計画における全体経路を溶接トーチ13又はポジショナが移動する時間が短くなるように、積層計画を修正する。
【0052】
具体的には、積層計画修正部44は、層内経路生成部44Aと、層内経路抽出部44Bと、全体経路生成部44Cと、全体経路抽出部44Dと、経路情報出力部44Eと、選択経路出力部44Fとを備える。
【0053】
層内経路生成部44Aは、積層計画部43が生成した積層計画におけるパスの積層方向及び積層順序を変更してパス間のエアカットで連結した複数の層内経路を層ごとに生成する。本実施の形態では、複数の層内経路を層ごとに取得する層内経路取得手段の一例として、層内経路生成部44Aを設けている。
【0054】
層内経路抽出部44Bは、層内経路生成部44Aが生成した複数の層内経路のうち移動時間が予め定められた第1の閾値以下となる少なくとも1つの層内経路を層ごとに抽出する。その際、層内経路抽出部44Bは、複数の層内経路に含まれるパス間のエアカットが、溶接ロボット10による空走移動動作であれば、そのエアカットの時間を溶接ロボット10の移動速度を用いて算出することにより、移動時間を算出する。また、複数の層内経路に含まれるパス間のエアカットが、ポジショナによる空走移動動作であれば、そのエアカットの時間をポジショナの移動速度を用いて算出することにより、移動時間を算出する。更に、層内経路抽出部44Bは、層内経路生成部44Aが生成した複数の層内経路のうちパス間のエアカットの時間が予め定められたパス間時間以上となる少なくとも1つの層内経路を層ごとに抽出してもよい。ここで、パス間時間とは、あるパスの温度を予め定められた温度以下にするためのそのパスの終了から次のパスの開始までの時間のことである。本実施の形態では、少なくとも1つの層内経路を層ごとに抽出する層内経路抽出手段の一例として、層内経路抽出部44Bを設けている。
【0055】
全体経路生成部44Cは、層内経路抽出部44Bが層ごとに抽出した少なくとも1つの層内経路から1つの層内経路を選択して層間のエアカットで連結した複数の全体経路を生成する。本実施の形態では、複数の全体経路を取得する全体経路取得手段の一例として、全体経路生成部44Cを設けている。
【0056】
全体経路抽出部44Dは、全体経路生成部44Cが生成した複数の全体経路のうち移動時間が予め定められた第2の閾値以下となる少なくとも1つの全体経路を抽出する。その際、全体経路抽出部44Dは、複数の全体経路に含まれる層間のエアカットが、溶接ロボット10による空走移動動作であれば、そのエアカットの時間を溶接ロボット10の移動速度を用いて算出することにより、移動時間を算出する。また、複数の層内経路に含まれる層間のエアカットが、ポジショナによる空走移動動作であれば、そのエアカットの時間をポジショナの移動速度を用いて算出することにより、移動時間を算出する。更に、全体経路抽出部44Dは、全体経路生成部44Cが生成した複数の全体経路のうち層間のエアカットの時間が予め定められたパス間時間以上となる少なくとも1つの全体経路を抽出してもよい。本実施の形態では、少なくとも1つの全体経路を抽出する全体経路抽出手段の一例として、全体経路抽出部44Dを設けている。
【0057】
経路情報出力部44Eは、全体経路抽出部44Dが抽出した少なくとも1つの全体経路に関する情報を表示機構35(図2参照)に出力する。これにより、表示機構35には、全体経路に関する情報が表示される。ここで、全体経路に関する情報は、全体経路を把握可能な情報であれば、如何なる情報でもよい。例えば、全体経路におけるパスに番号を付し、その番号に対してパスの積層方向及び積層順序をテキストで示したものでもよいし、全体経路におけるパスの積層方向及び積層順序をグラフィックで示したものでもよい。本実施の形態では、少なくとも1つの全体経路に関する情報を表示するように制御する制御手段の一例として、経路情報出力部44Eを設けている。
【0058】
また、経路情報出力部44Eは、全体経路抽出部44Dが抽出した少なくとも1つの全体経路の移動時間に関する情報を表示機構35(図2参照)に出力してもよい。これにより、表示機構35には、このような移動時間に関する情報も表示される。ここで、全体経路の移動時間に関する情報は、このような移動時間を把握可能な情報であれば、如何なる情報でもよい。例えば、全体経路の移動時間に関する情報は、全体経路の積層が完了するまでの溶接ロボット10又はポジショナの稼働合計時間でもよい。本実施の形態では、少なくとも1つの全体経路の移動時間に関する情報を更に表示するように制御する制御手段の一例としても、経路情報出力部44Eを設けている。
【0059】
或いは、経路情報出力部44Eは、全体経路抽出部44Dが抽出した少なくとも1つの全体経路におけるエアカット時間の予め定められたパス間時間に対する比率に関する情報を表示機構35(図2参照)に出力してもよい。これにより、表示機構35には、このような比率に関する情報も表示される。この場合、エアカット時間は、パス間のエアカットの時間と、層間のエアカットの時間とを含む。但し、パス間のエアカットの時間と、層間のエアカットの時間とを区別しない場合は、単に「エアカット時間」と表記することにする。ここで、全体経路におけるエアカット時間のパス間時間に対する比率に関する情報は、このような比率を把握可能な情報であれば、如何なる情報でもよい。例えば、全体経路におけるエアカット時間のパス間時間に対する比率に関する情報は、全体経路における続けて積層される2つのパスの各組み合わせについてのエアカット時間のパス間時間に対する比率に関する情報でもよい。比率に関する情報は、比率そのものであってもよいが、「1よりも十分に大きい」、「1にほぼ等しい」、「1よりも十分に小さい」等の比率の範囲を示す文言又は記号であってもよい。「1よりも十分に大きい」とは、エアカット時間が長すぎるので、短縮すると効率化につながる、ということを意味する。「1にほぼ等しい」とは、エアカットしている間に冷却も十分なされるので、すぐに次のパスへ移り易い、ということを意味する。「1よりも十分に小さい」とは、エアカットを効率化しても次のパスを開始できるまでの待ち時間が長く、エアカット効率化の意義が薄いので、冷却が効率化されるパス順序を再設定した方がよい、ということを意味する。また、例えば、全体経路におけるエアカット時間のパス間時間に対する比率に関する情報は、全体経路における続けて積層される2つのパスの全ての組み合わせの中でのエアカット時間のパス間時間に対する比率の最大値でもよい。本実施の形態では、少なくとも1つの全体経路におけるパス間のエアカットの時間のパス間時間に対する比率に関する情報、及び、少なくとも1つの全体経路における層間のエアカットの時間のパス間時間に対する比率に関する情報の少なくとも何れか一方を更に表示するように制御する制御手段の一例としても、経路情報出力部44Eを設けている。
【0060】
選択経路出力部44Fは、表示機構35(図2参照)に表示された全体経路に関する情報、全体経路の移動時間に関する情報、全体経路におけるエアカット時間のパス間時間に対する比率に関する情報等を参照してユーザが設定したい全体経路を選択すると、この選択を受け付ける。そして、選択された全体経路を特定する情報を積層計画部43に出力する。これにより、積層計画部43では、先に生成した積層計画における全体経路が、選択された全体経路によって更新される。本実施の形態では、積層計画における全体経路を、抽出された少なくとも1つの全体経路から選択された一の全体経路で更新する更新手段の一例として、選択経路出力部44Fを設けている。
【0061】
制御プログラム生成部45は、積層計画部43が生成し、積層計画修正部44が修正した積層計画に従って溶接を行うように溶接ロボット10を制御するための制御プログラムを生成する。
【0062】
制御プログラム出力部46は、制御プログラム生成部45が生成した制御プログラムを記録媒体70に出力する。
【0063】
(制御装置の機能構成)
図8は、本実施の形態における制御装置50の機能構成例を示した図である。図示するように、本実施の形態における制御装置50は、制御プログラム取得部61と、制御プログラム記憶部62と、制御プログラム実行部63とを備える。
【0064】
制御プログラム取得部61は、記録媒体70に記録された制御プログラムを取得する。
【0065】
制御プログラム記憶部62は、制御プログラム取得部61が取得した制御プログラムを記憶する。
【0066】
制御プログラム実行部63は、制御プログラム記憶部62に記憶された制御プログラムを読み出して実行する。これにより、制御プログラム実行部63は、積層計画部43が生成し、積層計画修正部44が修正した積層計画に従ってビードを形成するよう、溶接ロボット10を制御する。
【0067】
(積層計画装置の動作)
図9は、本実施の形態における積層計画装置30の動作例を示したフローチャートである。
【0068】
積層計画装置30では、まず、CADデータ取得部41が、CAD装置20から三次元CADデータを取得する(ステップ301)。
【0069】
次に、CADデータ分割部42が、ステップ301で取得された三次元CADデータを複数の層に分割して、層形状データを生成する(ステップ302)。
【0070】
次に、積層計画部43が、ステップ302で生成された層形状データから積層計画を生成する(ステップ303)。
【0071】
次いで、積層計画修正部44が、ステップ303で生成された積層計画を修正する積層計画修正処理を行う(ステップ304)。この積層計画修正処理の詳細については、後述する。
【0072】
その後、制御プログラム生成部45が、ステップ303で生成され、ステップ304で修正された積層計画に基づいて、制御プログラムを生成する(ステップ305)。具体的には、積層計画に従ってビードを形成するように溶接ロボット10を制御する制御プログラムを生成する。
【0073】
最後に、制御プログラム出力部46が、ステップ305で生成された制御プログラムを記録媒体70に出力する(ステップ306)。
【0074】
図10-1及び図10-2は、図9のステップ304の積層計画修正処理の例を示したフローチャートである。尚、ここでは、層内経路抽出部44Bが複数の層内経路のうちパス間のエアカットの時間がパス間時間以上となる層内経路を抽出することは考えないものとする。また、全体経路抽出部44Dが複数の全体経路のうち層間のエアカットの時間がパス間時間以上となる全体経路を抽出することも考えないものとする。これらについては後で述べる。更に、ここでは、全体経路抽出部44Dが表示機構35(図2参照)に対し、全体経路に関する情報及び全体経路の移動時間に関する情報を出力し、全体経路におけるエアカット時間のパス間時間に対する比率に関する情報は出力しないものとして説明する。
【0075】
図10-1に示すように、積層計画修正処理を開始すると、積層計画修正部44では、まず、層内経路生成部44Aが、層のインデックスiを1に設定する(ステップ321)。つまり、1つ目の層に着目する。
【0076】
次に、層内経路生成部44Aは、層のインデックスiを層の個数Nまで1ずつ増加させながら、各インデックスiについてステップ322の処理を行う。
【0077】
即ち、層内経路生成部44Aは、層内経路PI(i,1)~PI(i,MI(i))を生成する(ステップ322)。具体的には、層内経路生成部44Aは、i層目の積層計画からパスの積層方向及び積層順序を変更してこれらのパスをパス間のエアカットで連結することにより、層内経路PI(i,1)~PI(i,MI(i))を生成する。ここで、MI(i)は、i層目の積層計画から生成される層内経路の個数を示す。
【0078】
その後、層内経路生成部44Aは、層のインデックスiに1を加算する(ステップ323)。つまり、次の層に着目する。そして、層のインデックスiが層の個数Nを超えたかどうかを判定する(ステップ324)。
【0079】
その結果、層のインデックスiが層の個数Nを超えていないと判定すれば、層内経路生成部44Aは、処理をステップ322へ戻す。
【0080】
一方、層のインデックスiが層の個数Nを超えたと判定すれば、層内経路生成部44Aは、処理をステップ325へ進める。
【0081】
次いで、積層計画修正部44では、層内経路抽出部44Bが、層のインデックスiを1に設定する(ステップ325)。つまり、1つ目の層に着目する。
【0082】
また、層内経路抽出部44Bは、層内経路のインデックスjを1に設定する(ステップ326)。つまり、1つ目の層内経路に着目する。
【0083】
次に、層内経路抽出部44Bは、層のインデックスiを層の個数Nまで1ずつ増加させ、層内経路のインデックスjをi層目の層内経路の個数MI(i)まで1ずつ増加させながら、各インデックスi,jの組み合わせについてステップ327~ステップ329の処理を行う。
【0084】
即ち、層内経路抽出部44Bは、層内移動時間TI(i,j)を算出する(ステップ327)。ここで、層内移動時間TI(i,j)とは、ステップ322で生成されたi層目のj番目の層内経路PI(i,j)の移動に要する時間である。層内経路抽出部44Bは、層内経路PI(i,j)におけるパス間のエアカットが溶接ロボット10によるエアカットであれば、そのエアカットの時間を溶接ロボット10の移動速度を用いて求めることにより、層内移動時間TI(i,j)を算出する。また、層内経路PI(i,j)におけるパス間のエアカットがポジショナによるエアカットであれば、そのエアカットの時間をポジショナの移動速度を用いて求めることにより、層内移動時間TI(i,j)を算出する。そして、層内経路抽出部44Bは、ステップ327で算出された層内移動時間TI(i,j)が予め定められた第1の閾値Th1より短いかどうかを判定する(ステップ328)。
【0085】
その結果、層内移動時間TI(i,j)が第1の閾値Th1より短いと判定すれば、層内経路抽出部44Bは、層内経路PI(i,j)及び層内移動時間TI(i,j)を記憶する(ステップ329)。ここで、層内経路PI(i,j)及び層内移動時間TI(i,j)を記憶する記憶領域としては、少なくとも層内経路抽出部44B及び全体経路生成部44Cが共通にアクセス可能な記憶領域を用いればよい。そして、層内経路抽出部44Bは、処理をステップ330へ進める。
【0086】
一方、層内移動時間TI(i,j)が第1の閾値Th1より短くないと判定すれば、層内経路抽出部44Bは、層内経路PI(i,j)及び層内移動時間TI(i,j)を記憶せずに、処理をステップ330へ進める。
【0087】
その後、層内経路抽出部44Bは、層内経路のインデックスjに1を加算する(ステップ330)。つまり、次の層内経路に着目する。そして、層内経路のインデックスjがi層目の層内経路の個数MI(i)を超えたかどうかを判定する(ステップ331)。
【0088】
その結果、層内経路のインデックスjがi層目の層内経路の個数MI(i)を超えていないと判定すれば、層内経路抽出部44Bは、処理をステップ327へ戻す。
【0089】
一方、層内経路のインデックスjがi層目の層内経路の個数MI(i)を超えたと判定すれば、層内経路抽出部44Bは、処理をステップ332へ進める。
【0090】
その後、層内経路抽出部44Bは、層のインデックスiに1を加算する(ステップ332)。つまり、次の層に着目する。そして、層のインデックスiが層の個数Nを超えたかどうかを判定する(ステップ333)。
【0091】
その結果、層のインデックスiが層の個数Nを超えていないと判定すれば、層内経路抽出部44Bは、処理をステップ326へ戻す。
【0092】
一方、層のインデックスiが層の個数Nを超えたと判定すれば、層内経路抽出部44Bは、処理を図10-2へ進める。
【0093】
そして、図10-2に示すように、積層計画修正部44では、全体経路生成部44Cが、全体経路PT(1)~PT(MT)を生成する(ステップ341)。具体的には、全体経路生成部44Cは、図10-1のステップ329で記憶された層内経路PI(i,1)~PI(i,LI(i))(i=1,・・・,N)から層ごとに1つずつ層内経路を選択してこれらの層内経路を1層目からN層目まで層間のエアカットで連結することにより、全体経路PT(1)~PT(MT)を生成する。ここで、LI(i)は、i層目の層内経路の個数MI(i)のうち、図10-1のステップ329で記憶された層内経路の個数を示す。また、MTは全体経路の個数を示す。
【0094】
次いで、積層計画修正部44では、全体経路抽出部44Dが、全体経路のインデックスkを1に設定する(ステップ342)。つまり、1つ目の全体経路に着目する。
【0095】
また、全体経路抽出部44Dは、全体経路のインデックスkを全体経路の個数MTまで1ずつ増加させながら、各インデックスkについてステップ343~ステップ345の処理を行う。
【0096】
即ち、全体経路抽出部44Dは、全体移動時間TT(k)を算出する(ステップ343)。ここで、全体移動時間TT(k)とは、ステップ341で生成されたk番目の全体経路PT(k)の移動に要する時間である。全体経路抽出部44Dは、全体経路PT(k)における層間のエアカットが溶接ロボット10によるエアカットであれば、そのエアカットの時間を溶接ロボット10の移動速度を用いて求めることにより、全体移動時間TT(k)を算出する。また、全体経路PT(k)における層間のエアカットがポジショナによるエアカットであれば、そのエアカットの時間をポジショナの移動速度を用いて求めることにより、全体移動時間TT(k)を算出する。そして、全体経路抽出部44Dは、ステップ343で算出された全体移動時間TT(k)が予め定められた第2の閾値Th2より短いかどうかを判定する(ステップ344)。
【0097】
その結果、全体移動時間TT(k)が第2の閾値Th2より短いと判定すれば、全体経路抽出部44Dは、全体経路PT(k)及び全体移動時間TT(k)を記憶する(ステップ345)。ここで、全体経路PT(k)及び全体移動時間TT(k)を記憶する記憶領域としては、少なくとも全体経路抽出部44D及び経路情報出力部44Eが共通にアクセス可能な記憶領域を用いればよい。そして、全体経路抽出部44Dは、処理をステップ346へ進める。
【0098】
一方、全体移動時間TT(k)が第2の閾値Th2より短くないと判定すれば、全体経路抽出部44Dは、全体経路PT(k)及び全体移動時間TT(k)を記憶せずに、処理をステップ346へ進める。
【0099】
その後、全体経路抽出部44Dは、全体経路のインデックスkに1を加算する(ステップ346)。つまり、次の全体経路に着目する。そして、全体経路のインデックスkが全体経路の個数MTを超えたかどうかを判定する(ステップ347)。
【0100】
その結果、全体経路のインデックスkが全体経路の個数MTを超えていないと判定すれば、全体経路抽出部44Dは、処理をステップ343へ戻す。
【0101】
一方、全体経路のインデックスkが全体経路の個数MTを超えたと判定すれば、全体経路抽出部44Dは、処理をステップ348へ進める。
【0102】
次いで、積層計画修正部44では、経路情報出力部44Eが、ステップ345で記憶された全体経路PT(1)~PT(LT)及び全体移動時間TT(1)~TT(LT)を経路情報として表示機構35(図2参照)に出力する(ステップ348)。すると、積層計画装置30では、全体経路PT(1)~PT(LT)及び全体移動時間TT(1)~TT(LT)が経路情報として表示機構35に表示される。ここで、LTは、全体経路の個数MTのうち、ステップ345で記憶された全体経路の個数を示す。
【0103】
ここで、ユーザが、表示機構35に表示された全体経路PT(1)~PT(LT)及び全体移動時間TT(1)~TT(LT)を参照して、設定したい1つの全体経路PT_SELを選択したとする。すると、積層計画修正部44では、選択経路出力部44Fが、この選択された全体経路PT_SELを積層計画部43に出力する(ステップ349)。これにより、積層計画部43は、図9のステップ303で生成した積層計画における全体経路を、この選択された全体経路PT_SELで置き換える。
【0104】
尚、上記動作例では、図10-1において、層内経路抽出部44Bが複数の層内経路のうちパス間のエアカットの時間がパス間時間以上となる層内経路を抽出することに言及しなかった。また、図10-2において、全体経路抽出部44Dが複数の全体経路のうち層間のエアカットの時間がパス間時間以上となる全体経路を抽出することに言及しなかった。これは、層内経路抽出部44B及び全体経路抽出部44Dがこのような処理を行うかどうかに関わらず、結果的に、図10-2のステップ347までで抽出された全体経路PT(1)~PT(LT)におけるエアカット時間がパス間時間以上となっていればよいからである。但し、層内経路抽出部44Bが複数の層内経路のうちパス間のエアカットの時間がパス間時間以上となる層内経路を抽出する場合は、図10-1のステップ328に「PI(i,j)におけるパス間のエアカットの時間がパス間時間以上である」という条件を含めればよい。また、全体経路抽出部44Dが複数の全体経路のうち層間のエアカットの時間がパス間時間以上となる全体経路を抽出する場合は、図10-2のステップ344に「PT(k)における層間のエアカットの時間がパス間時間以上である」という条件を含めればよい。
【0105】
(制御装置の動作)
制御装置50では、まず、制御プログラム取得部61が、記録媒体70から制御プログラムを取得して制御プログラム記憶部62に記憶する。この状態で、溶接ロボット10を用いて実際に積層造形物100を造形する際には、制御プログラム実行部63が制御プログラム記憶部62に記憶された制御プログラムを読み出してこれを実行する。
【0106】
[変形例]
上記では、経路情報出力部44Eが、全体経路に関する情報に加え、全体経路の移動時間に関する情報又は全体経路におけるエアカット時間のパス間時間に対する比率に関する情報を表示機構35(図2参照)に出力してもよいとしたが、これには限らない。例えば、経路情報出力部44Eは、全体経路に関する情報に加え、複数の全体経路を積層造形物100の変形予測結果に基づいて絞り込むための情報を表示機構35に出力してもよい。例えば、まず、積層計画修正部44の図示しない固有ひずみ取得部が、層内経路PI(i,1)~PI(i,MI(i))のそれぞれについて固有ひずみを取得して付与する。次に、積層計画修正部44の図示しない変形量算出部が、弾性解析を行って、積層造形物100全体としての変形量を算出する。次いで、経路情報出力部44Eが、この変形量を表示機構35に出力する。すると、積層計画装置30では、積層造形物100全体としての変形量が表示機構35に表示される。これにより、ユーザは、全体経路PT(1)~PT(LT)のうち、変形量を可能な限り抑制できる経路を選択できるようになる。尚、付与する固有ひずみは、予め要素試験等から取得した値を参照するとよい。この場合、固有ひずみ取得部は、パスごとに固有ひずみを取得する固有ひずみ取得手段の一例であり、変形量算出部は、固有ひずみに基づいて積層造形物の変形量を取得する変形量取得手段の一例である。また、経路情報出力部44Eは、抽出された少なくとも1つの全体経路に対応する変形量を更に表示するように制御する制御手段の一例である。
【0107】
[本実施の形態の効果]
以上述べたように、本実施の形態では、積層造形物100の積層計画におけるパスの積層方向及び積層順序を変更してパス間のエアカットで連結した複数の層内経路を層ごとに取得し、この複数の層内経路のうち移動時間が第1の閾値以下となる少なくとも1つの層内経路を層ごとに抽出するようにした。次に、層ごとに抽出された少なくとも1つの層内経路から一の層内経路を選択して層間のエアカットで連結した複数の全体経路を取得し、この複数の全体経路のうち移動時間が第2の閾値以下となる少なくとも1つの全体経路を抽出するようにした。そして、抽出された少なくとも1つの全体経路に関する情報を表示機構35(図2参照)に表示するようにした。これにより、パス間のエアカットを含む複数の層内経路を層間のエアカットで連結した全体経路から移動時間が短い全体経路を探索する際の効率がより一層向上することとなった。
【符号の説明】
【0108】
1…金属積層造形システム、10…溶接ロボット、20…CAD装置、30…積層計画装置、41…CADデータ取得部、42…CADデータ分割部、43…積層計画部、44…積層計画修正部、44A…層内経路生成部、44B…層内経路抽出部、44C…全体経路生成部、44D…全体経路抽出部、44E…経路情報出力部、44F…選択経路出力部、45…制御プログラム生成部、46…制御プログラム出力部、50…制御装置、61…制御プログラム取得部、62…制御プログラム記憶部、63…制御プログラム実行部、70…記録媒体
図1
図2
図3
図4
図5
図6-1】
図6-2】
図6-3】
図7
図8
図9
図10-1】
図10-2】