(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-29
(45)【発行日】2024-06-06
(54)【発明の名称】浸水対策構造
(51)【国際特許分類】
E04H 9/14 20060101AFI20240530BHJP
E04B 1/66 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
E04H9/14 Z
E04B1/66 A
(21)【出願番号】P 2020205445
(22)【出願日】2020-12-11
【審査請求日】2023-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】高山 百合子
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 一教
(72)【発明者】
【氏名】西山 正三
【審査官】河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-088791(JP,A)
【文献】特開2014-163083(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0240138(US,A1)
【文献】特開2016-205031(JP,A)
【文献】特開2021-134629(JP,A)
【文献】特開2014-037717(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/14
E04B 1/66
E06B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物を包囲する止水シートと、
外壁に固定された複数の支持金物と、
前記建物の周囲の地面に形成された平坦部と、を備える浸水対策構造であって、
前記支持金物は、前記建物に形成された隙間よりも高い位置に固定されており、
前記平坦部の前記建物側の縁および前記建物と反対側の縁に地盤面から突出した状態で敷設されたガイド材がそれぞれ配設されており、
前記止水シートは、上端部が前記支持金物に係止されているとともに、下端部が前記平坦部を覆うように敷設されることを特徴とする、浸水対策構造。
【請求項2】
前記止水シートの端部同士が、止水性を確保して接合されていることを特徴とする、請求項1に記載の浸水対策構造。
【請求項3】
前記平坦部に、前記止水シートに密着する止水材が設けられていることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の浸水対策構造。
【請求項4】
前記平坦部には金属板が敷設されており、
前記止水シートの下端部には、磁性材料が設置されていることを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の浸水対策構造。
【請求項5】
前記止水シートの上端部は、複数の前記支持金物に横架された棒状部材に係止部材を介して係止されることを特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の浸水対策構造。
【請求項6】
前記止水シートの上端部に棒状部材が取り付けられており、
前記止水シートは、前記棒状部材を前記支持金物に横架することにより前記支持金物に係止されることを特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の浸水対策構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の浸水対策構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、台風や豪雨等に起因する洪水氾濫や内水氾濫による建物への浸水が問題となっている。
図9(a)および(b)に示すように、建物101には、免震スリット、建物基礎113の天端や打継部に設けられた目地やスリット等の隙間111が存在しているため、建物101の外部の水位WLがこれらの隙間111よりも高くなると、建物101内に浸水する。建物101への浸水は、建物101内の居住空間や機器設備等に影響を及ぼすおそれがある。
隙間を有した建物の浸水防止構造として、例えば特許文献1には、外壁パネル同士の間に形成される縦目地の止水構造として、止水シートおよび止水部材を防水テープで外壁パネルに張り付ける構造が開示されている。
また、特許文献2には、免震スリットの上部(免震ピット塞ぎの下面)または下部(免震ピット擁壁の上面)に、風雨吹込み防止用のヒレ部が連接された浸水防止用プレートを設け、冠水した際の水がヒレ部を押し倒すことでスリットを遮蔽する免震建物が開示されている。
さらに、特許文献3には、免震建物の下部躯体に、鉛直方向に移動可能な状態で浮力により上昇する水平の止水部材を取り付け、免震建物の上部躯体に固定側パッキンを取り付けた装置が開示されている。この止水部材は、磁力により固定側パッキンに止着可能な構造となっている。
【0003】
特許文献1の止水部材は、外壁パネルに貼り付ける構造のため、止水部材の設置およびメンテナンスは外壁パネル施工時(新築またはリフォーム時)のみに限定される。そのため性能の維持が困難である。
特許文献2の免震建物は、浸水防止用プレートが免震スリットの隙間に固定されているため、取り外しやメンテナンスが困難である。そのため、止水性能の維持が困難である。
さらに、特許文献3の止水装置は、止水部材の可動性能を維持するための定期的なメンテナンスが必要である。しかも、特許文献3の止水装置のメンテナンス時には、装置の取り付け取り外し工事が必要となり、費用と時間を要する。また、スリットを閉塞する浮体は、建物の側面から突出しているため、冠水時の漂流物や水中落下物により、下側に押されてスリット部が開口するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-003400号公報
【文献】特開2007-285078号公報
【文献】特開2015-175220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、建物への着脱が容易で、かつ、メンテナンスを随時行うことができ、なおかつ、建物内への浸水を効果的に抑制できる浸水対策構造を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための本発明の浸水対策構造は、建物の外壁に周設される止水シートと、前記外壁に固定された複数の支持金物と、前記建物の外周囲を囲うように地面に形成された平坦部とを備えている。前記支持金物は建物(外壁や外壁と基礎との間等)に形成された隙間よりも高い位置に固定されており、前記平坦部の前記建物側の縁および前記建物と反対側の縁に地盤面から突出した状態で敷設されたガイド材がそれぞれ配設されており、前記止水シートは上端部が前記支持金物に係止されているとともに下端部が前記平坦部を覆うように敷設されている。
かかる浸水対策構造によれば止水シートにより建物の隙間を覆っているため、建物の周囲が冠水した場合であっても建物内への浸水を抑制できる。止水シートは、支持部材に係止されていることで建物に周設されるため、建物への着脱が容易である。そのため、メンテナンスを適宜行うことができる。また、止水シートの下端部は、平坦部に敷設されているため、地面に密着させることで、水の浸透を抑制できる。
【0007】
前記止水シートの端部同士を、止水性を確保して接合することで、建物の周囲を覆うのが望ましい。なお、前記止水シートには、例えば、複数のシート部材が止水性を確保して接合されたものを使用することができる。
また、前記平坦部に、前記止水シートに密着する止水材が介設されていれば、より止水性が向上する。このような止水材としてゴム等の高弾性材からなる線材や帯状板材を使用すれば、止水シートを敷設した際の荷重により変形して止水シートに密着する。
また、前記平坦部には金属板が敷設されていて、前記止水シートの下端部に磁性材料が設置されていれば、止水シートが平坦部に密着するとともに、冠水時の水流等によってめくられることを防止できる。
さらに、前記止水シートの上端部は、複数の前記支持金物に横架された棒状部材に係止部材を介して係止してもよいし、前記止水シートの上端部に取り付けられた棒状部材を前記支持金物に横架することにより前記支持金物に係止してもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の浸水対策構造によれば、建物への着脱が容易で、かつ、メンテナンスを随時行うことができ、なおかつ、建物内への浸水を効果的に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態の浸水対策構造が設置された建物の斜視図である。
【
図3】平坦部を示す図であって、(a)は平面図、(b)は断面図である。
【
図4】止水シートを示す図であって、(a)は斜視図、(b)は接合部である。
【
図5】(a)は止水シートの設置状況を示す断面図、(b)は建物角部の止水シートの設置状況を示す概略図、(c)止水シートの下部を示す概略図である。
【
図7】冠水時の浸水対策構造の状況を示す断面図である。
【
図8】他の形態に係る止水シートの設置状況を示す斜視図である。
【
図9】隙間を有した建物の概要を示す図であって、(a)は、斜視図、(b)は当該建物の部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態では、
図1に示すように、外壁12と基礎13との間に隙間11(例えば、免震スリット、基礎天端の目地、打継部、通気部等)が形成された建物1に設置する浸水対策構造2について説明する。
図1は、浸水対策構造2を備える建物1である。建物1に隙間が形成されていると、洪水氾濫や内水氾濫等によって建物外部に隙間11よりも高い水位WLの冠水(浸水)が生じた場合に、隙間11から水Wが流入するおそれがある(
図9(b)参照。本実施形態の浸水対策構造2は、冠水時に隙間11から建物1内に水が流入することを防止あるいは低減するためのものである。本実施形態の浸水対策構造2は、支持金物3と、平坦部4と、止水シート5とを有している。
【0011】
支持金物3は、隙間11よりも高い位置において、建物1の外壁12に固定されている。
図2に支持金物3を示す。本実施形態では、
図2に示すように、複数の支持金物3が、建物1の周方向に所定の間隔をあけて、外壁12に固定されている。支持金物3は、外壁の壁面に重ねた状態で固定される第一片31と、壁面と直交する方向に第一片31から延設される第二片32とによりL形に形成された部材である。建物1の側面毎に配設された複数の支持金物3には、それぞれ二本の棒状部材33が横架されている。二本の棒状部材33は、所定の間隔をあけて平行になるように、支持金物3の第二片32に固定されている。
【0012】
図3に平坦部4を示す。平坦部4は、
図3(a)に示すように、建物1を囲うように、建物1の周囲の地盤面GLに形成されている。平坦部4は、
図3(b)に示すように、建物1の周囲に平らな面を形成している。本実施形態では、平坦部4の建物1側の縁および建物1と反対側の縁にそれぞれガイド材41が配設されている。ガイド材41は、地盤面に敷設された棒状部材からなり、地盤面から突出した状態で平坦部4の位置を示している。本実施形態のガイド材41は、
図3(a)に示すように、建物1の角部を省略することで間欠的に設けられているが、ガイド材41の配置は限定されるものではなく、例えば、建物1を囲うように連続して配設してもよい。
【0013】
本実施形態の平坦部4には、金属板42が敷設されている。金属板42は、ガイド材41同士の間の地盤面GLに敷設されている。金属板42は、建物の周方向に連続している。
また、平坦部4の表面(金属板42の上面)には、止水材43が設けられている。止水材43は、圧力により押し広げられる材質の弾性材により構成されており、上載された止水シート5の自重や、冠水時の水の重みによって変形することで、止水シート5に密着する。このような止水材43には、ゴム等の弾性材からなる線材や帯状板材を使用すればよい。止水材43は、平坦部4と止水シート5との間に水みちが形成されることがないように、建物1の周方向に連続して、あるいは、変形した際に連続するように(例えば、千鳥状)配設されている。
【0014】
止水シート5は、建物1を包囲するように設けられている(
図1参照)。
図4(a)および(b)に止水シート5を示す。止水シート5は、
図4(a)に示すように、複数のシート部材51を建物の外周方向に連結することにより、建物1の周囲を覆う大きさに形成されている。シート部材51(止水シート5)は、撥水性または難透水性を有しており、かつ、冠水時の漂流物等によって容易に破れることがない強度を有している。また、シート部材51(止水シート5)は、折り畳むことや巻き取ることが可能な柔軟性、あるいは、折り畳むための折り目がついている。
シート部材51同士の接合部52では、
図4(b)に示すように、止水ジッパー53により止水性を確保した状態でシート部材51同士が接合されている。止水ジッパー53の構成は限定されるものではないが、例えば、一方のシート部材51の端部に形成された凹部53aと、他方のシート部材51の端部に形成された凸部53bとを嵌合するものを採用可能である。このとき、接合部52の建物1側または地盤側の面は、平坦になるように構成されているのが望ましい。
【0015】
止水シート5は、
図4(a)に示すように、上端部が支持金物3に棒状部材33を介して係止されている。止水シート5の上端部には、複数の係止部材54が取り付けられている。止水シート5は、複数の支持金物3に横架された棒状部材33に係止部材54を介して係止される。係止部材54の構成は支持金物3に係止可能であれば限定されるものではないが、本実施形態では、止水シート5の上端に固定される棒状の固定部55と、固定部55の上端に形成されて、二本の棒状部材33に横架される棒状の係止部56とによりT字状を呈している。
止水シート5は、
図5(a)に示すように、支持金物3から地盤面GLまでの高さと、建物1の側面から平坦部4の建物1と反対側の縁(ガイド材41)までの距離とを足した長さよりも大きな長さを有している。すなわち、止水シート5は、建物1の壁面と地盤面GLとの角部において、冠水時の水によって引張力が作用することがないように、長さに余裕を持たせている。
【0016】
また、止水シート5は、
図5(b)に示すように、建物1の壁面に沿って配設された一方のシート部材51と、当該壁面に接続する他の壁面に沿って設けられた他方のシート部材51との間に、建物1の角部に面する扇状の範囲を覆うことが可能な拡幅部分を下端部に有している。
止水シート5のうち、平坦部4を覆う部分には、
図5(c)に示すように、磁性材料7が固定されている。本実施形態では、複数の磁石(磁性材料7)が、止水シート5に接着されている。
【0017】
本実施形態の浸水対策構造2は、支持金物3の上面を覆うカバーシート6を有している。
図6にカバーシート6を示す。カバーシート6は、支持金物3(棒状部材33)に係止された止水シート5の上端と建物1の外壁12との間に形成された空間を覆うことで、当該空間に直接降り注ぐ雨水や、建物1の外壁12に沿って流下する水が止水シート5と建物1との間に流入することを防止している。カバーシート6には、カバーシート6の上端部の形状を保持するための形状保持部材61が固定されている。カバーシート6は、形状保持部材61を棒状部材33に係止することでカバーシート6と建物1との間に形成された空間を覆っている。形状保持部材61は、カバーシート6の端部が外壁12に当接するように、カバーシート6の位置決めを行うとともに、カバーシート6が水の重量などによって撓むことを抑制する。本実施形態の形状保持部材61は、一対の棒状部材33に横架される横材と、形状保持部材61のずれを抑制するために一対の棒状部材33同士の間に挿入される縦材とによりT字状を呈している。
【0018】
図7に浸水対策構造2の利用状況を示す。本実施形態の浸水対策構造2によれば、止水シート5により建物1の隙間11を覆うため、建物1の周囲が冠水した場合であっても、隙間11から建物1内に水が流入することを防止あるいは低減できる。
止水シート5は、複数のシート部材51を連結することにより構成されているとともに、支持金物3に係止されていることで建物1に周設されるため、建物1への着脱が容易である。そのため、メンテナンスを適宜行うことができる。また、止水シート5は、通常時は取り外しておき、冠水等が生じるおそれがある雨や台風が予想される前に設置すればよく、浸水対策構造2によって建物1の意匠が阻害される可能性が低い。
【0019】
また、止水シート5の下端部は、平らな平坦部4に敷設されているため、地盤面GLに密着させやすく、水の浸透を防止あるいは低減できる。また、止水シート5の下端部には磁性材料7が設置されているため、平坦部4に敷設された金属板42に接合される。そのため、冠水時等の水の流れなどによって止水シート5がめくれることを防止される。
また、平坦部4と止水シート5との間に止水材43が介設されているため、止水シート5の重みや止水シート5の上に溜まった水Wの重さによって止水材43が変形する(押し広げられる)ことで、止水シート5と平坦部4との密着性が向上し、止水性がより高まる。
さらに、ガイド材41が金属板42の上面よりも高くなるように突出しているため、止水シート5と金属板42との当接面の前後に堰が形成された状態となり、止水性がより高められている。
【0020】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前述の実施形態に限られず、前記の各構成要素については本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、支持金物3に横架された棒状部材33に、止水シート5の上端部に固定された係止部材54を係止することで止水シート5を設置したが、止水シート5の設置方法は限定されるものではなく、例えば、
図8に示すように、止水シート5の上端部に取り付けられた棒状部材57を支持金物3に横架してもよい。
また、磁性材料7は、止水シート5に接着する場合に限定されるものではなく、例えば、磁石を止水シート5に縫い付けてもよい。また、止水シート5に形成されたポケットに磁性材料7を収納してもよい。また、磁性材料は必要に応じて設置すればよく、省略してもよい。
平坦部4では、止水シート5の上面に土のう等の重しを載せることで、止水性を向上させてもよい。
また、カバーシート6は必要に応じて設置すればよい。例えば、支持金物3の上方にベランダ等の外壁12から張り出した部分が形成されている場合など、止水シート5と外壁12との間に水が流入するおそれが低い場合には省略してもよい。
また、止水シート5と平坦部4との密着性が確保できるのであれば、止水材43は省略してもよい。
また、前記実施形態では複数のシート部材51の端部同士を連結して止水シート5を形成したが、1枚の止水シート5の端部同士を接合することにより建物1を覆ってもよい。
【符号の説明】
【0021】
1 建物
11 隙間
12 外壁
13 基礎
2 浸水対策構造
3 支持金物
33 棒状部材
4 平坦部
41 ガイド材
42 金属板
5 止水シート
51 シート部材
52 接合部
54 係止部材
6 カバーシート
7 磁性材料