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特許7496300試料支持体、イオン化法及び質量分析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-29
(45)【発行日】2024-06-06
(54)【発明の名称】試料支持体、イオン化法及び質量分析方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/04 20060101AFI20240530BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20240530BHJP
   H01J 49/16 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
H01J49/04 090
G01N27/62 F
G01N27/62 G
H01J49/16 100
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020207048
(22)【出願日】2020-12-14
(65)【公開番号】P2022094173
(43)【公開日】2022-06-24
【審査請求日】2023-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】小谷 政弘
(72)【発明者】
【氏名】大村 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】田代 晃
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特許第4885142(JP,B2)
【文献】特開2016-121968(JP,A)
【文献】特開2020-136136(JP,A)
【文献】特開2011-210734(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0116707(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/04
H01J 49/14
H01J 49/16
G01N 27/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の成分のイオン化に用いられる試料支持体であって、
基板と、
前記基板上に設けられ、前記基板とは反対側の表面を有する多孔質層と、
前記表面を第1領域及び第2領域に仕切る仕切部と、を備え、
前記多孔質層は、前記表面に開口する複数の孔を有する本体層を含み、
前記仕切部は、前記第1領域と前記第2領域との間を通るように前記表面に形成された仕切溝を含み、
前記第1領域及び前記第2領域のそれぞれは、前記成分のイオン化に用いられる領域であり、
前記仕切溝は、前記第2領域を囲む環状を呈しており、前記第1領域から前記第2領域への前記試料の広がりを抑制する、試料支持体。
【請求項2】
前記仕切溝の幅は、前記仕切溝の深さよりも大きい、請求項1に記載の試料支持体。
【請求項3】
前記仕切溝の深さは、50μm以上300μm以下であり、
前記仕切溝の幅は、前記仕切溝の深さの2倍以上である、請求項2に記載の試料支持体。
【請求項4】
前記仕切部は、前記仕切溝として、前記第1領域を囲む環状の第1仕切溝の一部、前記第2領域を囲む環状の第2仕切溝の一部、及び前記第1仕切溝と前記第2仕切溝との間を通る第3仕切溝の一部を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の試料支持体。
【請求項5】
前記仕切溝は、環状に延在しており、
前記第1領域は、前記仕切溝の外側の領域であり、
前記第2領域は、前記仕切溝の内側の領域である、請求項1~3のいずれか一項に記載の試料支持体。
【請求項6】
所定の情報を表示する表示部を更に備え、
前記表示部は、前記表面に形成された表示溝を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の試料支持体。
【請求項7】
前記本体層は、絶縁層であり、
前記多孔質層は、少なくとも前記表面に沿って形成された導電層を更に含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の試料支持体。
【請求項8】
前記本体層は、絶縁層であり、
前記本体層は、少なくとも前記表面において外部に露出している、請求項1~6のいずれか一項に記載の試料支持体。
【請求項9】
前記基板及び前記本体層は、金属基板又はシリコン基板の表層が陽極酸化されることで形成されている、請求項7又は8に記載の試料支持体。
【請求項10】
前記仕切溝は、前記基板における前記多孔質層側の表面に形成された溝内に前記多孔質層が落ち込むことで、前記表面に形成されている、請求項1~9のいずれか一項に記載の試料支持体。
【請求項11】
請求項7に記載の試料支持体を用意する工程と、
前記試料を前記表面に配置する工程と、
エネルギー線を前記表面に照射することで前記成分をイオン化する工程と、を備える、イオン化法。
【請求項12】
請求項8に記載の試料支持体を用意する工程と、
前記試料を前記表面に配置する工程と、
帯電した微小液滴を前記表面に照射することで前記成分をイオン化する工程と、を備える、イオン化法。
【請求項13】
請求項11又は12に記載のイオン化法が備える複数の工程と、
イオン化された前記成分を検出する工程と、を備える、質量分析方法。
【請求項14】
試料の成分のイオン化に用いられる試料支持体であって、
基板と、
前記基板上に設けられ、前記基板とは反対側の表面を有する多孔質層と、
前記表面を第1領域及び第2領域に仕切る仕切部と、を備え、
前記多孔質層は、前記表面に開口する複数の孔を有する本体層を含み、
前記仕切部は、前記第1領域と前記第2領域との間を通るように前記表面に形成された仕切溝を含み、
前記仕切溝は、前記基板における前記多孔質層側の表面に形成された溝内に前記多孔質層が落ち込むことで、前記表面に形成されている、試料支持体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料支持体、イオン化法及び質量分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、アルミニウムの層と、アルミニウムの層上に設けられたポーラスアルミナの層と、を備える試料ターゲットが記載されている。特許文献1に記載の試料ターゲットでは、試料が配置されたポーラスアルミナの層にレーザ光が照射されることで、試料の成分がイオン化される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4885142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の試料ターゲットでは、ポーラスアルミナの層に形成された複数の細孔がアルミニウムの層側には開口していない。そのため、例えば、ポーラスアルミナの層において複数の領域のそれぞれを測定領域として試料の成分をイオン化する場合に、液体を含む試料を一の領域に配置すると、複数の細孔内に収まりきらなかった試料が当該一の領域から流出して他の領域に拡がるおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、複数の領域のそれぞれにおいて試料の成分をイオン化する場合に、一の領域から他の領域に試料が拡がるのを防止することができる試料支持体、並びに、そのような試料支持体を用いたイオン化法及び質量分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の試料支持体は、試料の成分のイオン化に用いられる試料支持体であって、基板と、基板上に設けられ、基板とは反対側の表面を有する多孔質層と、表面を第1領域及び第2領域に仕切る仕切部と、を備え、多孔質層は、表面に開口する複数の孔を有する本体層を含み、仕切部は、第1領域と第2領域との間を通るように表面に形成された仕切溝を含む。
【0007】
この試料支持体では、多孔質層の表面を第1領域及び第2領域に仕切る仕切部が、第1領域と第2領域との間を通るように多孔質層の表面に形成された仕切溝を含んでいる。これにより、例えば、液体を含む試料を第1領域に配置した場合に、複数の孔内に収まりきらなかった試料が第1領域から流出して第2領域に広がるような事態が、仕切部によって防止される。よって、この試料支持体によれば、第1領域及び第2領域のそれぞれにおいて試料の成分をイオン化する場合に、第1領域から第2領域に試料が拡がるのを防止することができる。
【0008】
本発明の試料支持体では、仕切溝の幅は、仕切溝の深さよりも大きくてもよい。これによれば、第1領域から第2領域に試料が拡がるのをより確実に防止することができる。
【0009】
本発明の試料支持体では、仕切溝の深さは、50μm以上300μm以下であり、仕切溝の幅は、仕切溝の深さの2倍以上であってもよい。これによれば、第1領域から第2領域に試料が拡がるのをより確実に防止することができる。
【0010】
本発明の試料支持体では、仕切部は、仕切溝として、第1領域を囲む環状の第1仕切溝の一部、第2領域を囲む環状の第2仕切溝の一部、及び第1仕切溝と第2仕切溝との間を通る第3仕切溝の一部を含んでもよい。これによれば、第1領域から第2領域に試料が拡がるのをより確実に防止することができる。
【0011】
本発明の試料支持体では、仕切溝は、環状に延在しており、第1領域は、仕切溝の外側の領域であり、第2領域は、仕切溝の内側の領域であってもよい。これによれば、例えば、第1領域を試料の成分のイオン化に用いると共に、第2領域をマスキャリブレーションに用いることができる。その場合には、仕切溝を認識することで、マスキャリブレーションに用いられる試薬の存在範囲を容易に認識することができ、当該試薬の存在範囲に例えばエネルギー線を精度良く照射することが可能となる。
【0012】
本発明の試料支持体は、所定の情報を表示する表示部を更に備え、表示部は、表面に形成された表示溝を含んでもよい。これによれば、表示部を仕切溝と同一の方法により形成することができ、試料支持体を高効率で製造することができる。
【0013】
本発明の試料支持体では、本体層は、絶縁層であり、多孔質層は、少なくとも表面に沿って延在する導電層を更に含んでもよい。これによれば、エネルギー線を多孔質層の表面(すなわち、導電層)に照射することで、試料の成分を高効率でイオン化することができる。
【0014】
本発明の試料支持体では、本体層は、絶縁層であり、本体層は、少なくとも表面において外部に露出していてもよい。これによれば、帯電した微小液滴を多孔質層の表面(すなわち、絶縁層である本体層)に照射することで、試料の成分を高効率でイオン化することができる。
【0015】
本発明の試料支持体では、基板及び本体層は、金属基板又はシリコン基板の表層が陽極酸化されることで形成されていてもよい。これによれば、試料の成分を高効率でイオン化することが可能な構造を確実且つ容易に得ることができる。
【0016】
本発明の試料支持体では、仕切溝は、基板における多孔質層側の表面に形成された溝内に多孔質層が落ち込むことで、表面に形成されていてもよい。これによれば、例えば、金属基板又はシリコン基板の表層に溝を形成した後、金属基板又はシリコン基板の表層を陽極酸化させることで、仕切溝を含む多孔質層を形成することができる。そのため、例えば、金属基板又はシリコン基板の表層を陽極酸化させることで多孔質層を形成した後、多孔質層の表面に仕切溝を形成する場合に比べ、仕切溝の形成の際に多孔質層が破損するのを抑制することができる。
【0017】
本発明のイオン化法は、多孔質層が導電層を含む上記試料支持体を用意する工程と、試料を表面に配置する工程と、エネルギー線を表面に照射することで成分をイオン化する工程と、を備える。
【0018】
このイオン化法によれば、試料の成分を高効率でイオン化することができる。
【0019】
本発明のイオン化法は、多孔質層において絶縁層である本体層が外部に露出している上記試料支持体を用意する工程と、試料を表面に配置する工程と、帯電した微小液滴を表面に照射することで成分をイオン化する工程と、を備える。
【0020】
このイオン化法によれば、試料の成分を高効率でイオン化することができる。
【0021】
本発明の質量分析方法は、上記イオン化法が備える複数の工程と、イオン化された成分を検出する工程と、を備える。
【0022】
この質量分析方法によれば、試料の成分の分析を精度良く実施することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、複数の領域のそれぞれにおいて試料の成分をイオン化する場合に、一の領域から他の領域に試料が拡がるのを防止することができる試料支持体、並びに、そのような試料支持体を用いたイオン化法及び質量分析方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】第1実施形態の試料支持体の平面図である。
図2図1に示されるII-II線に沿っての試料支持体の断面図である。
図3図2に示される多孔質層の断面図である。
図4図2に示される試料支持体の製造工程を示す図である。
図5図3に示される本体層の形成工程を示す図である。
図6】一例としての本体層の表面のSEM画像を示す図である。
図7】一例としての多孔質層の断面のSEM画像を示す図である。
図8図1に示される試料支持体を用いたイオン化法及び質量分析方法を示す図である。
図9】第2実施形態の試料支持体の平面図である。
図10図9に示される試料支持体を用いたイオン化法及び質量分方法を示す図である。
図11】変形例の試料支持体の製造工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0026】
[第1実施形態]
図1及び図2に示されるように、第1実施形態の試料支持体1Aは、基板2と、多孔質層3と、を備えている。試料支持体1Aは、試料の成分のイオン化に用いられるものである。以下、基板2の厚さ方向をZ軸方向といい、Z軸方向に垂直な一方向をX軸方向といい、Z軸方向及びX軸方向の両方向に垂直な方向をY軸方向という。
【0027】
基板2は、Z軸方向に垂直な表面2a及び裏面2bを有している。基板2の形状は、例えば、X軸方向を長手方向とする長方形板状である。基板2の厚さは、例えば、0.5~1mm程度である。基板2の材料は、例えば、Al(アルミニウム)である。
【0028】
多孔質層3は、基板2上に設けられている。具体的には、多孔質層3は、基板2の表面2aの全体に形成されている。多孔質層3は、基板2とは反対側の表面3aを有している。多孔質層3は、絶縁層である本体層31を含んでいる。本体層31の材料は、例えば、Al(アルミナ)である。
【0029】
図3に示されるように、本体層31は、表面3aに開口する複数の孔33を有している。各孔33は、延在部34と、開口部35と、を含んでいる。延在部34は、Z軸方向に延在している。Z軸方向から見た場合における延在部34の形状は、例えば、円形状である。開口部35は、延在部34における表面3a側の端34aから表面3aに向かって拡幅されている。開口部35の形状は、例えば、延在部34の端34aから表面3aに向かって拡がる椀状又は円錐台状(テーパ状)である。なお、延在部34における基板2側の端は、本体層31内に位置している。
【0030】
多孔質層3は、導電層32を更に含んでいる。導電層32は、少なくとも多孔質層3の表面3a及び各開口部35の内面35aに沿って形成されている。試料支持体1Aでは、導電層32の材料は、試料との親和性(反応性)が低く且つ導電性が高い金属である。そのような金属としては、例えば、Au(金)、Pt(白金)、Cr(クロム)、Ni(ニッケル)、Ti(チタン)が挙げられる。
【0031】
図1に示されるように、X軸方向における試料支持体1Aの両端部1a(図1において、二点鎖線の外側の両端部)は、例えば、質量分析装置に試料支持体1Aが取り付けられる際に被保持部として機能する。多孔質層3の表面3aのうち両端部1aの間の領域は、測定領域として機能する。当該領域は、例えば、X軸方向を長手方向とする長方形状である。
【0032】
試料支持体1Aは、仕切部4と、表示部5と、を更に備えている。仕切部4は、多孔質層3の表面3aのうち両端部1aの間の領域を複数の領域Aに仕切っている。具体的には、仕切部4は、環状(例えば円環状)に延在する複数の仕切溝41と、直線状に延在する複数の仕切溝42と、を含んでいる。複数の仕切溝41は、例えばマトリックス状に配列されている。各仕切溝41は、領域Aを画定している。各仕切溝41は、隣り合う領域Aの間を通るように多孔質層3の表面3aに形成されている。
【0033】
複数の仕切溝42は、X軸方向に沿って延在する複数の第1部分と、Y軸方向に沿って延在する複数の第2部分と、を含んでいる。仕切溝42の第1部分は、両端部1aに至っている。仕切溝42の第2部分は、Y軸方向における多孔質層3の両端に至っている。各第1部分と各第2部分とは、互いに交差しており、互いに連結されている。つまり、複数の仕切溝42は、格子状に延在している。各仕切溝42は、隣り合う仕切溝41の間を通るように多孔質層3の表面3aに形成されている。
【0034】
仕切部4について、隣り合う領域A(一対の領域A)に着目して説明する。本実施形態では、一例として、X軸方向において隣り合う一対の領域Aのうち、一の領域Aを第1領域A1とし、他の領域Aを第2領域A2とする。仕切部4は、第1仕切溝4a(仕切溝41)、第2仕切溝4b(仕切溝41)及び第3仕切溝4c(仕切溝42)を含んでいる。第1仕切溝4aは、第1領域A1を囲んでいる。第2仕切溝4bは、第2領域A2を囲んでいる。第3仕切溝4cは、第1仕切溝4aと第2仕切溝4bとの間を通っている。このように、第1領域A1と第2領域A2との間には、第1仕切溝4a、第2仕切溝4b及び第3仕切溝4cが通っており、第1領域A1と第2領域A2とは、第1仕切溝4a、第2仕切溝4b及び第3仕切溝4cによって仕切られている。なお、第1領域A1及び第2領域A2は、X軸方向において隣り合う任意の一対の領域A、又は、Y軸方向において隣り合う任意の一対の領域Aであってもよい。
【0035】
図2に示されるように、仕切溝41は、基板2の表面2aに形成された溝2c内に多孔質層3が落ち込むことで、多孔質層3の表面3aに形成されている。具体的には、多孔質層3は、基板2における裏面2bとは反対側の面(表面2a及び溝2cの内面)の全体に亘って、一続きに形成されている。基板2の表面2aに形成された多孔質層3、及び溝2c内に形成された多孔質層3の厚さは、略同じである。仕切溝41は、溝2cの内面に形成された多孔質層3の表面3aによって形成されている。
【0036】
仕切溝41の幅は、仕切溝41の深さよりも大きい。仕切溝41の深さは、50μm以上300μm以下である。本実施形態では、仕切溝41の深さは、50μm程度である。仕切溝41の幅は、仕切溝41の深さの2倍以上である。仕切溝41は、作業者の視認によって認識され得る。つまり、仕切溝41は、隣り合う領域Aの間を仕切る仕切部としての機能だけではなく、各領域Aを認識するためのマーキングとしての機能も有している。
【0037】
仕切溝42は、仕切溝41と同様に、基板2の表面2aに形成された溝2c内に多孔質層3が落ち込むことで、多孔質層3の表面3aに形成されている。仕切溝42の幅は、仕切溝42の深さよりも大きい。仕切溝42の深さは、50μm以上300μm以下である。本実施形態では、仕切溝42の深さは、例えば50μm程度である。仕切溝42の幅は、仕切溝42の深さの2倍以上である。仕切溝42は、作業者の視認によって認識され得る。つまり、仕切溝42は、隣り合う領域Aの間を仕切る仕切部としての機能だけではなく、各領域Aを認識するためのマーキングとしての機能も有している。
【0038】
仕切溝41,42の深さは、共焦点レーザ顕微鏡を用いて取得される値である。仕切溝41,42の幅は、顕微鏡によって撮影された画像から取得される値である。
【0039】
図1に示されるように、表示部5は、複数の第1表示溝51と、複数の第2表示溝52と、を含んでいる。複数の第1表示溝51は、X軸方向に沿って並んでいる。複数の第1表示溝51は、複数の領域Aの全体に対して、Y軸方向における一方の側に配置されている。各第1表示溝51は、Y軸方向に沿って並んでいる複数の領域Aの列に対応している。第1表示溝51は、例えば数字を表している。
【0040】
複数の第2表示溝52は、Y軸方向に沿って並んでいる。複数の第2表示溝52は、複数の領域Aの全体に対して、X軸方向における一方の側に配置されている。各第2表示溝52は、X軸方向に沿って並んでいる複数の領域Aの行に対応している。第2表示溝52は、例えば英文字を表している。
【0041】
第1表示溝51及び第2表示溝52は、所定の情報を表示する態様で多孔質層3の表面3aのうち両端部1aの間の領域に形成されている。第1表示溝51及び第2表示溝52は、仕切溝41,42と同様に、基板2の表面2aに形成された溝内に多孔質層3が落ち込むことで、多孔質層3の表面3aに形成されている。試料支持体1Aでは、所定の情報は、複数の領域Aのそれぞれを識別するための情報である。例えば、所定の領域Aへ試料を配置する際に、第1表示溝51及び第2表示溝52の組合せによって、所定の領域Aを特定することができる。
【0042】
多孔質層3の寸法について説明する。図3に示されるように、複数の孔33の深さDの平均値は、3μm以上100μm以下である。一例として、領域Aにおいて、平均値±10%の深さDを有する孔33の数は、全体の孔33の数の60%以上(好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上)である。複数の孔33の幅Wの平均値は、40nm以上350nm以下である。一例として、領域Aにおいて、平均値±10%の幅Wを有する孔33の数は、全体の孔33の数の60%以上(好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上)である。深さDの平均値を幅Wの平均値で除した値は、9以上2500以下である。一例として、領域Aにおいて、平均値±10%の「深さDの平均値を幅Wの平均値で除した値」を有する孔33の数は、全体の孔33の数の60%以上(好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上)である。導電層32の厚さTは、10nm以上200nm以下である。
【0043】
深さDの平均値は、次のように取得される値である。まず、試料支持体1Aを用意し、試料支持体1AをZ軸方向に平行に切断する。続いて、本体層31の切断面のいずれか一方のSEM画像を取得する。続いて、領域Aに対応する領域において、複数の孔33についての深さDの平均値を算出し、深さDの平均値を取得する。
【0044】
幅Wの平均値は、次のように取得される値である。まず、試料支持体1Aを用意し、複数の延在部34を横切るように試料支持体1A(具体的には、本体層31)をZ軸方向に垂直に切断する。続いて、本体層31の切断面のいずれか一方のSEM画像を取得する。続いて、領域Aに対応する領域において、複数の孔33(具体的には、複数の延在部34)に対応する複数の画素群を抽出する。この画素群の抽出は、例えば、SEM画像に対して二値化処理を施すことで実施される。続いて、複数の画素群に基づいて、複数の孔33(具体的には、複数の延在部34)についての面積の平均値を有する円の直径を算出し、当該直径を幅Wの平均値として取得する。
【0045】
基板2及び本体層31は、金属基板の表層が陽極酸化されることで形成されている。基板2及び本体層31は、例えば、Al基板の表層が陽極酸化されることで形成されている。なお、金属基板としては、Al基板以外に、Ta(タンタル)基板、Nb(ニオブ)基板、Ti(チタン)基板、Hf(ハフニウム)基板、Zr(ジルコニウム)基板、Zn(亜鉛)基板、W(タングステン)基板、Bi(ビスマス)基板、Sb(アンチモン)基板等が挙げられる。
【0046】
本体層31には、それぞれが略一定の幅Wを有する複数の孔33が一様に(均一な分布で)形成されている。隣り合う孔33のピッチ(中心線間の距離)は、例えば、275nm程度である。領域Aにおける複数の孔33の開口率(Z軸方向から見た場合に領域Aに対して複数の孔33が占める割合)は、実用上は10~80%であり、特に60~80%であることが好ましい。なお、複数の孔33においては、各孔33の幅Wが不揃いであってもよいし、部分的に孔33同士が繋がっていてもよい。
【0047】
試料支持体1Aの製造方法について説明する。まず、図4の(a)に示されるように、基板2を用意し、基板2の表面2aに仕切部4用の溝2cを形成する。このとき、基板2の表面2aに、図1に示される表示部5用の溝も形成する。仕切部4用の溝2c及び表示部5用の溝の形成には、例えば、エッチング、レーザ加工、機械加工等が用いられる。
【0048】
続いて、図4の(b)に示されるように、基板2の表面2aに本体層31を形成する。続いて、図4の(c)に示されるように、本体層31上に導電層32を形成する。導電層32の形成には、例えば、蒸着法、スパッタ法、メッキ法、原子層堆積法(ALD:Atomic Layer Deposition)等が用いられる。
【0049】
以上により、試料支持体1Aを得る。以上の試料支持体1Aの製造方法では、仕切部4用の溝2c内に多孔質層3が落ち込むことで、多孔質層3の表面3aに複数の仕切溝41及び複数の仕切溝42が形成される。また、表示部5用の溝内に多孔質層3が落ち込むことで、多孔質層3の表面3aに、図1に示される複数の第1表示溝51及び複数の第2表示溝52が形成される。
【0050】
本体層31の形成について説明する。まず、図5の(a)に示されるように、基板2を用意し、基板2の表層を陽極酸化して、基板2の表面2aに酸化層30を形成する。酸化層30は、基板2とは反対側に開口する複数の孔30aを有している。
【0051】
続いて、図5の(b)に示されるように、酸化層30を除去して、基板2の表面2aを外部に露出させる。基板2の表面2aには、椀状又は円錐台状(テーパ状)の複数の凹部が形成されている。当該複数の凹部は、複数の孔30aに対応する位置に形成される。
【0052】
続いて、図5の(c)に示されるように、再度、基板2の表層を陽極酸化して、基板2の表面2aに本体層31を形成する。本体層31において、各孔33は、延在部34の端34aから基板2とは反対側に向かって拡幅された開口部35を含んでいる。以上のように陽極酸化が二段階で実施されることで、各孔33に開口部35が形成される。また、陽極酸化が二段階で実施されることで、複数の孔33の配列及び形状の規則性及び均一性が向上する。なお、以上の本体層31の形成では、基板2は、Al基板であり、酸化層30及び本体層31は、Al層である。
【0053】
図6は、一例としての本体層31の表面(開口部35側の表面)のSEM画像を示す図である。図6に示される本体層31は、Al基板の表層の陽極酸化を二段階で実施することで形成されたものである。図6に示される本体層31では、複数の孔33(黒色の部分)の幅Wの平均値が110nmであり、複数の孔33の深さDの平均値が10μmであり、深さDの平均値を幅Wの平均値で除した値が91である。
【0054】
図7は、一例としての多孔質層3の断面(Z軸方向に平行な断面)のSEM画像を示す図である。図7に示される多孔質層3は、本体層31の表面(開口部35側の表面)に対するPtの蒸着を実施することで形成されたものである。ここでは、本体層31を回転させながら、本体層31の表面に垂直な方向に対して30度の傾斜した方向からPtの蒸着を実施した。図7に示される多孔質層3では、導電層32の厚さTが50nmであり、導電層32の入り込み量(本体層31の表面に垂直な方向における「導電層32が形成された範囲」の幅)が506nmである。図7に示される多孔質層3では、各孔33が開口部35を含んでいるため、導電層32の厚さTに対し、導電層32の入り込み量が十分に確保されたと考えられる。
【0055】
試料支持体1Aを用いたイオン化法及び質量分析方法について説明する。まず、図8の(a)に示されるように、試料支持体1Aを用意する(用意する工程)。なお、図8に示される試料支持体1Aは、図1に示される試料支持体1Aとは異なる数の領域Aを有しているが、図1図7を用いて説明した構造と同様の構造を有している。また、図8においては、仕切溝42及び表示部5の図示が省略されている。続いて、試料Sを試料支持体1Aの多孔質層3の表面3aに配置する(配置する工程)。一例として、ピペット8によって、液体を含む試料Sを各領域Aに滴下する。これにより、試料Sの成分S1は、複数の孔33を介して多孔質層3の表面3a側から基板2側に移動し、例えば表面張力によって表面3a側に留まる。
【0056】
続いて、図8の(b)に示されるように、試料Sの成分が導入された試料支持体1Aをスライドグラス7の載置面7a上に配置する。スライドグラス7は、ITO(Indium Tin Oxide)膜等の透明導電膜が形成されたガラス基板であり、載置面7aは、透明導電膜の表面である。続いて、試料支持体1Aの導電層32(図1参照)に電圧を印加しつつ、レーザ光(エネルギー線)Lを試料支持体1Aの多孔質層3の表面3aのうち、試料Sが配置された領域Aに照射する。これにより、表面3aに配置されていた試料Sの成分S1をイオン化する(イオン化する工程)。一例として、表面3aに配置されていた試料Sの成分S1に対して、レーザ光Lを走査する。以上の工程が、試料支持体1Aを用いたイオン化法に相当する。以上のイオン化法の一例は、表面支援レーザ脱離イオン化法(SALDI:Surface-Assisted Laser Desorption/Ionization)として実施される。
【0057】
続いて、試料Sの成分S1のイオン化によって放出された試料イオン(イオン化された成分)S2を質量分析装置において検出し(検出する工程)、試料Sを構成する分子のマススペクトルを取得する。一例として、質量分析装置は、飛行時間型質量分析方法(TOF-MS:Time-of-Flight Mass Spectrometry)を利用する走査型質量分析装置である。以上の工程が、試料支持体1Aを用いた質量分析方法に相当する。
【0058】
以上説明したように、試料支持体1Aでは、多孔質層3の表面3aを第1領域A1及び第2領域A2に仕切る仕切部4が、第1領域A1と第2領域A2との間を通るように多孔質層3の表面3aに形成された仕切溝41,42を含んでいる。これにより、例えば、液体を含む試料Sを第1領域A1に配置した場合に、複数の孔33内に収まりきらなかった試料Sが第1領域A1から流出して第2領域A2に広がるような事態が、仕切部4によって防止される。よって、試料支持体1Aによれば、複数の領域Aのそれぞれにおいて試料Sの成分S1をイオン化する場合に、第1領域A1から第2領域A2に試料Sが拡がるのを防止することができる。
【0059】
試料支持体1Aでは、仕切溝41,42の幅が、仕切溝41,42の深さよりも大きい。これにより、第1領域A1から第2領域A2に試料Sが拡がるのをより確実に防止することができる。また、仕切溝41,42をより確実に認識することができ、試料Sの成分S1の存在範囲をより確実に認識することができる。
【0060】
試料支持体1Aでは、仕切溝41,42の深さが、50μm以上300μm以下であり、仕切溝41,42の幅が、仕切溝41,42の深さの2倍以上である。これにより、第1領域A1から第2領域A2に試料Sが拡がるのをより確実に防止することができる。また、仕切溝41,42をより確実に認識することができ、試料Sの成分S1の存在範囲をより確実に認識することができる。
【0061】
試料支持体1Aでは、仕切部4が、第1領域A1を囲む環状の第1仕切溝4a、第2領域A2を囲む環状の第2仕切溝4b、及び第1仕切溝4aと第2仕切溝4bとの間を通る第3仕切溝4cを含んでいる。これにより、第1領域A1から第2領域A2に試料Sが拡がるのをより確実に防止することができる。
【0062】
試料支持体1Aは、所定の情報を表示する表示部5を備えている。表示部5は、表面3aに形成された第1表示溝51及び第2表示溝52を含んでいる。これにより、表示部5を仕切溝41,42と同一の方法により形成することができ、試料支持体1Aを高効率で製造することができる。
【0063】
試料支持体1Aでは、本体層31が、絶縁層である。多孔質層3は、少なくとも表面3aに沿って延在する導電層32を含んでいる。これにより、レーザ光Lを多孔質層3の表面3a(すなわち、導電層32)に照射することで、試料Sの成分S1を高効率でイオン化することができる。
【0064】
試料支持体1Aでは、基板2及び本体層31が、金属基板の表層が陽極酸化されることで形成されている。これにより、試料Sの成分S1を高効率でイオン化することが可能な構造を確実且つ容易に得ることができる。
【0065】
試料支持体1Aでは、仕切溝41,42が、基板2における多孔質層3側の表面2aに形成された溝2c内に多孔質層3が落ち込むことで、表面3aに形成されている。これにより、例えば、金属基板の表層に溝を形成した後、金属基板の表層を陽極酸化させることで、仕切溝41,42を含む多孔質層3を形成することができる。そのため、例えば、金属基板の表層を陽極酸化させることで多孔質層を形成した後、多孔質層の表面に仕切溝を形成する場合に比べ、仕切溝の形成の際に多孔質層が破損するのを抑制することができる。
【0066】
試料支持体1Aを用いたイオン化法によれば、試料Sの成分S1を高効率でイオン化することができる。試料支持体1Aを用いた質量分析方法によれば、試料Sの成分S1の分析を精度良く実施することができる。
【0067】
[第2実施形態]
図9に示される試料支持体1Bは、仕切部4が1つの仕切溝41のみを含んでいる点、並びに、表示部5が複数の第1表示溝51及び複数の第2表示溝52に代えて複数の第3表示溝53を含んでいる点で、上述した試料支持体1Aと相違している。
【0068】
図9に示されるように、試料支持体1Bでは、多孔質層3の表面3aのうち両端部1aの間の領域の全体が、領域Aである。仕切溝41は、例えば、領域Aの1つの角部に配置されている。各第3表示溝53は、例えば、領域Aの3つの角部(仕切溝41が配置されていない3つの角部)のそれぞれに配置されている。
【0069】
仕切溝41は、第1領域A1と第2領域A2との間を通るように多孔質層3の表面3aに形成されている。第1領域A1は、領域Aのうち仕切溝41の外側の領域である。第2領域A2は、領域Aのうち仕切溝41の内側の領域である。第2領域A2は、例えば、マスキャリブレーションに用いられる試薬が滴下される領域である。仕切部4は、領域Aを第1領域A1及び第2領域A2に仕切っている。
【0070】
各第3表示溝53は、X字状に延在している。第3表示溝53は、所定の情報を表示する態様で多孔質層3の表面3aに形成されている。第3表示溝53は、仕切溝41と同様に、基板2の表面2aに形成された溝2c内に多孔質層3が落ち込むことで、多孔質層3の表面3aに形成されている。試料支持体1Bでは、所定の情報は、質量分析装置に試料支持体1Bが取り付けられる際に試料支持体1Bの位置及び角度に関する情報であり、例えば、質量分析装置に試料支持体1Bが取り付けられる際に試料支持体1Bの位置合せに用いられる。試料支持体1Bは、試料支持体1Aと同様な製造方法により製造され得る。
【0071】
試料支持体1Bを用いたイオン化法及び質量分析方法について説明する。まず、図10の(a)に示されるように、試料支持体1Bを用意する(用意する工程)。続いて、試料Sを試料支持体1Bの多孔質層3の表面3aに配置する(配置する工程)。一例として、試料Sに表面3aの第1領域A1を押し付けて試料Sの成分を表面3aの第1領域A1に転写する。
【0072】
続いて、質量分析装置に試料支持体1Bを取り付け、図10の(b)に示されるように、試料支持体1Aを用いたイオン化法と同様に、表面3aに配置されていた試料Sの成分S1をイオン化する(イオン化する工程)。以上の工程が、試料支持体1Bを用いたイオン化法に相当する。続いて、試料Sの成分S1のイオン化によって放出された試料イオン(イオン化された成分)S2を質量分析装置において検出し(検出する工程)、試料Sを構成する分子の二次元分布を画像化するイメージング質量分析を実施する。以上の工程が、試料支持体1Bを用いた質量分析方法に相当する。
【0073】
以上説明したように、試料支持体1Bでは、仕切溝41が、環状に延在しており、第1領域A1が、仕切溝41の外側の領域であり、第2領域A2が、仕切溝41の内側の領域である。これにより、第1領域A1を試料Sの成分S1のイオン化に用いると共に、第2領域A2をマスキャリブレーションに用いることができる。また、仕切溝41を認識することで、マスキャリブレーションに用いられる試薬の存在範囲を容易に認識することができ、当該試薬の存在範囲に例えばレーザ光Lを精度良く照射することが可能となる。
【0074】
[変形例]
本発明は、上述した実施形態に限定されない。例えば、仕切部4は、多孔質層3の表面3aを少なくとも2つの領域に仕切っていればよい。仕切部4は、例えば、多孔質層3の表面3aを横切る1つの仕切溝のみを含んでいてもよい。その場合には、当該仕切溝に対して表面3aの一方の側が第1領域A1であり、当該仕切溝に対して表面3aの他方の側が第2領域A2である。
【0075】
仕切部4は、表面3aの全体を完全に仕切っていなくてもよい。例えば、試料支持体1Aにおいて、仕切部4は、第1仕切溝4aにおける第2仕切溝4b側の一部、第2仕切溝4bにおける第1仕切溝4a側の一部、及び第1仕切溝4aと第2仕切溝4bとの間を通る第3仕切溝4cの一部のみを含んでいてもよい。例えば、仕切部4は、多孔質層3の表面3aの一部のみを横切る仕切溝を含んでいてもよい。その場合には、当該仕切溝に対して表面3aの一方の側が第1領域A1であり、当該仕切溝に対して表面3aの他方の側が第2領域A2である。
【0076】
試料支持体1Aの仕切部4は、仕切溝42の第1部分及び第2部分の少なくとも一方を含んでいなくてもよい。その場合には、仕切溝41の深さが100μm以上であることが好ましい。
【0077】
多孔質層3は、導電層32を含んでおらず、絶縁層である本体層31は、少なくとも多孔質層3の表面3a及び各開口部35の内面35aにおいて外部に露出していてもよい。その場合には、帯電した微小液滴(charged-droplets)を多孔質層3の表面3a(すなわち、絶縁層である本体層31)に照射することで、試料Sの成分S1を高効率でイオン化することができる。
【0078】
多孔質層3が導電層32を含んでいない試料支持体1A,1Bを用いたイオン化法及び質量分析方法は、次のとおりである。まず、試料支持体1A,1Bを用意する(用意する工程)。続いて、試料Sを試料支持体1A,1Bの多孔質層3の表面3a(すなわち、本体層31の表面)に配置する(配置する工程)。続いて、質量分析装置において、帯電した微小液滴を試料支持体1A,1Bの多孔質層3の表面3aに照射することで、試料Sの成分S1をイオン化する(イオン化する工程)。一例として、表面3aに配置されていた試料Sの成分S1に対して、帯電した微小液滴を走査する。以上の工程が、試料支持体1A,1Bを用いたイオン化法に相当する。以上のイオン化法の一例は、脱離エレクトロスプレーイオン化法(DESI:Desorption Electrospray Ionization)として実施される。続いて、試料Sの成分S1のイオン化によって放出された試料イオンS2を質量分析装置において検出し(検出する工程)、試料Sを構成する分子の質量分析を実施する。以上の工程が、試料支持体1A,1Bを用いた質量分析方法に相当する。
【0079】
いずれの試料支持体1A,1Bにおいても、複数の孔33の深さDの平均値が3μm以上100μm以下であり、且つ深さDの平均値を複数の孔33の幅Wの平均値で除した値が9以上2500以下であれば、幅Wの平均値は、40nm以上350nm以下でなくてもよい。その場合において、多孔質層3が導電層32を含んでいるときには、導電層32の厚さTは、10nm以上200nm以下でなくてもよい。
【0080】
多孔質層3が導電層32を含んでいる試料支持体1A,1Bでは、導電層32は、各孔33において、延在部34の内面に達していてもよい。
【0081】
本体層31は、導電性を有する層(例えば、金属層等)であってもよい。その場合、多孔質層3において、導電層32を省略することができる。
【0082】
基板2及び本体層31は、Si(シリコン)基板の表層が陽極酸化されることで形成されていてもよい。
【0083】
多孔質層3が導電層32を含んでいる試料支持体1A,1Bを用いたイオン化では、レーザ光L以外のエネルギー線(例えば、イオンビーム、電子線等)が試料支持体1A,1Bの多孔質層3の表面3aに照射されてもよい。
【0084】
仕切部4は、次のように形成されてもよい。まず、図11の(a)に示されるように、基板2を用意し、基板2の表面2aに本体層31を形成する。続いて、図11の(b)に示されるように、基板2に至る溝2cを本体層31に形成する。続いて、図11の(c)に示されるように、本体層31上に導電層32を形成する。このとき、導電層32が溝2cの内面にも形成される。以上により、試料支持体1Aを得る。なお、表示部5も、この仕切部4の形成と同様に形成されてもよい。試料支持体1Bの仕切部4及び表示部5も、この仕切部4の形成と同様に形成されてもよい。
【符号の説明】
【0085】
1A,1B…試料支持体、2…基板、3…多孔質層、3a…表面、31…本体層、32…導電層、33…孔、4…仕切部、41,42…仕切溝、4a…第1仕切溝、4b…第2仕切溝、4c…第3仕切溝、5…表示部、51…第1表示溝、52…第2表示溝、53…第3表示溝、A1…第1領域、A2…第2領域、L…レーザ光(エネルギー線)、S…試料、S1…成分、S2…試料イオン(イオン化された成分)。
図1
図2
図3
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図11