(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-29
(45)【発行日】2024-06-06
(54)【発明の名称】スプリットサイクルエンジン
(51)【国際特許分類】
F02B 75/18 20060101AFI20240530BHJP
F02D 13/02 20060101ALI20240530BHJP
F02D 19/12 20060101ALI20240530BHJP
F02D 21/00 20060101ALI20240530BHJP
F02D 43/00 20060101ALI20240530BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20240530BHJP
F02P 5/152 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
F02B75/18 D
F02B75/18 P
F02D13/02 D
F02D19/12 A
F02D21/00
F02D43/00 301B
F02D43/00 301E
F02D43/00 301J
F02D43/00 301R
F02D45/00 368Z
F02P5/152
(21)【出願番号】P 2020503883
(86)(22)【出願日】2018-07-20
(86)【国際出願番号】 GB2018052060
(87)【国際公開番号】W WO2019020978
(87)【国際公開日】2019-01-31
【審査請求日】2021-07-19
【審判番号】
【審判請求日】2023-04-20
(32)【優先日】2017-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】504189391
【氏名又は名称】リカルド ユーケー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100141173
【氏名又は名称】西村 啓一
(72)【発明者】
【氏名】リチャード オズボーン
(72)【発明者】
【氏名】ケン ペンドルベリー
(72)【発明者】
【氏名】マシュー キーナン
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー アトキンズ
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー ウォード
(72)【発明者】
【氏名】ロバート モーガン
【合議体】
【審判長】河端 賢
【審判官】青木 良憲
【審判官】倉橋 紀夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平4-262025(JP,A)
【文献】特表2015-522122(JP,A)
【文献】特表2012-511664(JP,A)
【文献】特表2014-517185(JP,A)
【文献】特開2006-316718(JP,A)
【文献】特表2005-535823(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 75/18
F02D 13/02
F02D 19/12
F02D 21/00
F02D 43/00
F02D 45/00
F02P 5/152
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮ピストンを収容する圧縮シリンダと、
燃焼ピストンを収容する燃焼シリンダと、
前記圧縮シリンダから前記燃焼シリンダに圧縮作動流体を供給するように、前記圧縮シリンダと前記燃焼シリンダとの間に配置されるクロスオーバ通路と、
受信された前記燃焼シリンダ内の燃焼のピーク温度の値に基づいて、前記燃焼シリンダ内の燃焼のピーク温度
が選択された閾値を上回るか否かを判定す
るコントローラと、
前記クロスオーバ通路を通って前記圧縮シリンダから前記燃焼シリンダに供給される前記圧縮作動流体の温度を調節するように構成される冷却システムと、
を備え、
前記クロスオーバ通路は、
前記燃焼シリンダから排出される排出流体の熱を活用するレキュペレータ、
を備え、
前記レキュペレータは、前記熱を活用し、前記圧縮シリンダから前記燃焼シリンダに供給される前記圧縮作動流体を加熱して、
前記コントローラは、前記燃焼のピーク温度が
前記選択された閾値を上回るという判定に応じて、前記燃焼シリンダ内の燃焼のピーク温度が前記選択された閾値を下回るように、前記クロスオーバ通路を通って前記圧縮シリンダから前記燃焼シリンダに供給される前記圧縮作動流体の温度を調節するように前記冷却システムを制御するように構成される、
ことを特徴とするスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項2】
前記クロスオーバ通路を通って前記圧縮シリンダから前記燃焼シリンダに供給される前記圧縮作動流体の温度の調節は、
前記圧縮シリンダと前記クロスオーバ通路とのうち少なくとも一方内の前記圧縮作動流体の冷却、
を含む、
請求項1記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項3】
前記冷却システムは、
前記圧縮シリンダと前記クロスオーバ通路とのうち少なくとも一方にクーラントを噴射するクーラントインジェクタ、
を備える、
請求項1
または2記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項4】
前記クロスオーバ通路を通って前記圧縮シリンダから前記燃焼シリンダに供給される前記圧縮作動流体の温度の調節は、
前記圧縮シリンダと前記クロスオーバ通路とのうち少なくとも一方へのクーラントの噴射、
を含む、
請求項
3記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項5】
前記エンジンは、
前記燃焼シリンダの排気口内の温度の値を提供する排気センサ、
を備え、
受信されたピーク温度の前記値は、前記排気センサからの信号に基づく、
請求項1乃至
4のいずれかに記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項6】
前記エンジンは、
前記クロスオーバ通路を通って前記圧縮シリンダから前記燃焼シリンダに供給される前記圧縮作動流体の温度の値を提供する供給センサ、
を備え、
受信されたピーク温度の前記値は、前記供給センサからの信号に基づく、
請求項1乃至
5のいずれかに記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項7】
前記供給センサは、
前記クロスオーバ通路内のセンサ、
を備える、
請求項
6記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項8】
前記燃焼シリンダ内の前記燃焼のピーク温度の判定は、
前記エンジンに関連付けられた少なくとも1つのパラメータと、センサから受信された少なくとも1つの信号と、に基づいた、前記燃焼のピーク温度の推定値の特定、
を含む、
請求項1乃至
7のいずれかに記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項9】
前記少なくとも1つのパラメータは、
(i)
前記エンジンのRPMと、
(ii)前記エンジンが動作している期間のタイマの値と、
(iii)前記エンジンの温度と、のうち少なくとも1つ、
を含む、
請求項
8記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項10】
前記コントローラは、前記少なくとも1つのパラメータに関連付けられた
前記エンジンの過去の燃焼のピーク温度データに基づいて、前記燃焼のピーク温度を判定するように構成される、
請求項
8または
9記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項11】
前記クロスオーバ通路を通って前記圧縮シリンダから前記燃焼シリンダに供給される前記圧縮作動流体の温度の調節は、
前記燃焼のピーク温度が前記選択された閾値を上回るという判定に応じて、前記クロスオーバ通路を通って前記圧縮シリンダから前記燃焼シリンダに供給される前記圧縮作動流体の冷却を強化するための前記冷却システムの制御
、
を含む、
請求項1乃至
10のいずれかに記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項12】
前記クロスオーバ通路を通って前記圧縮シリンダから前記燃焼シリンダに供給される前記圧縮作動流体の温度の調節は、
前記燃焼のピーク温度が前記選択された閾値よりも低い冷却閾値を下回るという判定に応じて、前記クロスオーバ通路を通って前記圧縮シリンダから前記燃焼シリンダに供給される前記圧縮作動流体の冷却を軽減するための前記冷却システムの制御
、
を含む、
請求項1乃至
11のいずれかに記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項13】
前記選択された閾値の温度は、NOxおよび/または微粒子の生成を抑制するように選択される、
請求項1乃至
12のいずれかに記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項14】
前記選択された閾値は、NOx生成点未満である、
請求項1乃至
13のいずれかに記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項15】
前記コントローラは、
(i)前記クロスオーバ通路を通って前記圧縮シリンダから前記燃焼シリンダに供給される前記圧縮作動流体の圧力と、
(ii)前記クロスオーバ通路を通って前記圧縮シリンダから前記燃焼シリンダに供給される前記圧縮作動流体の温度と、
(iii)前記クロスオーバ通路から前記燃焼シリンダへの前記圧縮作動流体の流入を可能にする吸入弁の開閉に関連付けられたタイミングと、
(iv)前記燃焼シリンダへの燃料噴射のタイミングと、のうち少なくとも1つの値を受信するように構成され、
前記コントローラは、前記受信した値に基づいて、前記燃焼のピーク温度を判定するように構成される、
請求項1乃至
14のいずれかに記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項16】
前記コントローラは、前記燃焼シリンダ内の前記燃焼のピーク温度が前記選択された閾値を下回るように、
(i)前記クロスオーバ通路を通って前記圧縮シリンダから前記燃焼シリンダに供給される前記圧縮作動流体の圧力と、
(ii)前記クロスオーバ通路を通って前記圧縮シリンダから前記燃焼シリンダに供給される前記圧縮作動流体の温度と、
(iii)前記クロスオーバ通路から前記燃焼シリンダへの前記圧縮作動流体の流入を可能にする吸入弁の開閉に関連付けられたタイミングと、
(iv)前記燃焼シリンダへの燃料噴射のタイミングと、のうち少なくとも1つを制御するように構成される、
請求項1乃至
15のいずれかに記載のスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項17】
圧縮ピストンを収容する圧縮シリンダと、
燃焼ピストンを収容する燃焼シリンダと、
前記圧縮シリンダから前記燃焼シリンダに圧縮作動流体を供給するように、前記圧縮シリンダと前記燃焼シリンダとの間に配置されるクロスオーバ通路と、
前記クロスオーバ通路から前記燃焼シリンダへと流入する前記圧縮作動流体の流れを制御する吸入弁であって、(i)前記ピストンのサイクル中の第1位置で閉状態から開状態へと移動し、(ii)前記ピストンのサイクル中の第2位置で前記開状態から前記閉状態へと移動する、ように動作可能な吸入弁と、
受信された前記燃焼シリンダ内の燃焼のピーク温度の値に基づいて、前記燃焼シリンダ内の燃焼のピーク温度
が選択された閾値を上回るか否かを判定す
るコントローラと、
を備え、
前記クロスオーバ通路は、
前記燃焼シリンダから排出される排出流体の熱を活用するレキュペレータ、
を備え、
前記レキュペレータは、前記熱を活用し、前記圧縮シリンダから前記燃焼シリンダに供給される前記圧縮作動流体を加熱して、
前記コントローラは、前記判定された燃焼のピーク温度に基づいて、前記燃焼シリンダ内の燃焼のピーク温度が
前記選択された閾値を下回るように、前記第1位置と前記第2位置とを選択するように構成される、
ことを特徴とするスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項18】
圧縮ピストンを収容する圧縮シリンダと、
燃焼ピストンを収容する燃焼シリンダと、
前記圧縮シリンダから前記燃焼シリンダに圧縮作動流体を供給するように、前記圧縮シリンダと前記燃焼シリンダとの間に配置されるクロスオーバ通路と、
前記ピストンのサイクル中の噴射位置で前記燃焼シリンダに燃料を噴射する燃料インジェクタと、
受信された前記燃焼シリンダ内の燃焼のピーク温度の値に基づいて、前記燃焼シリンダ内の燃焼のピーク温度
が選択された閾値を上回るか否かを判定す
るコントローラと、
を備え、
前記クロスオーバ通路は、
前記燃焼シリンダから排出される排出流体の熱を活用するレキュペレータ、
を備え、
前記レキュペレータは、前記熱を活用し、前記圧縮シリンダから前記燃焼シリンダに供給される前記圧縮作動流体を加熱して、
前記コントローラは、前記燃焼シリンダ内の燃焼のピーク温度が
前記選択された閾値を下回るように、前記判定された燃焼のピーク温度に基づいて、前記噴射位置を選択するように構成される、
ことを特徴とするスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項19】
圧縮ピストンを収容する圧縮シリンダと、
燃焼ピストンを収容する燃焼シリンダと、
前記圧縮シリンダから前記燃焼シリンダに圧縮作動流体を供給するように、前記圧縮シリンダと前記燃焼シリンダとの間に配置されるクロスオーバ通路と、
コントローラと、
前記燃焼シリンダに供給される前記圧縮作動流体の温度を調節するように配置される冷却システムと、
を備え、
前記クロスオーバ通路は、
前記燃焼シリンダから排出される排出流体の熱を活用するレキュペレータ、
を備え、
前記レキュペレータは、前記熱を活用し、前記圧縮シリンダから前記燃焼シリンダに供給される前記圧縮作動流体を加熱して、
前記コントローラは、前記燃焼シリンダ内の燃焼のピーク温度が選択された範囲に収まるように、前記燃焼シリンダ内の燃焼のピーク温度の推定値に基づいて、前記クロスオーバ通路を通って前記圧縮シリンダから前記燃焼シリンダに供給される前記圧縮作動流体の温度を調節するように前記冷却システムを制御するように構成される、
ことを特徴とするスプリットサイクル内燃エンジン。
【請求項20】
スプリットサイクル内燃エンジンの制御方法であって、前記スプリットサイクル内燃エンジンは、
圧縮ピストンを収容する圧縮シリンダと、
燃焼ピストンを収容する燃焼シリンダと、
前記圧縮シリンダから前記燃焼シリンダに圧縮作動流体を供給するように、前記圧縮シリンダと前記燃焼シリンダとの間に配置されるクロスオーバ通路と、
前記クロスオーバ通路を通って前記圧縮シリンダから前記燃焼シリンダに供給される前記圧縮作動流体の温度を調節するように配置される冷却システムと、
を備え、
前記クロスオーバ通路は、
前記燃焼シリンダから排出される排出流体の熱を活用するレキュペレータ、
を備え、
前記レキュペレータは、前記熱を活用し、前記圧縮シリンダから前記燃焼シリンダに供給される前記圧縮作動流体を加熱して、
前記方法は、
前記燃焼シリンダ内の燃焼のピーク温度の値を受信する工程と、
前記受信された値に基づいて、前記燃焼シリンダ内の燃焼のピーク温度
が選択された閾値を上回るか否かを判定する工程と、
前記燃焼のピーク温度が
前記選択された閾値を上回るという判定に応じて、前記燃焼シリンダ内の燃焼のピーク温度が前記選択された閾値を下回るように、前記クロスオーバ通路を通って前記圧縮シリンダから前記燃焼シリンダに供給される前記圧縮作動流体の温度を調節するように前記冷却システムを制御する工程と、
を有する、
ことを特徴とするスプリットサイクル内燃エンジンの制御方法。
【請求項21】
スプリットサイクル内燃エンジンの制御方法であって、前記スプリットサイクル内燃エンジンは、
圧縮ピストンを収容する圧縮シリンダと、
燃焼ピストンを収容する燃焼シリンダと、
前記圧縮シリンダから前記燃焼シリンダに圧縮作動流体を供給するように、前記圧縮シリンダと前記燃焼シリンダとの間に配置されるクロスオーバ通路と、
前記クロスオーバ通路から前記燃焼シリンダへと流入する前記圧縮作動流体の流れを制御する吸入弁であって、(i)前記ピストンのサイクル中の第1位置で閉状態から開状態へと移動し、(ii)前記ピストンのサイクル中の第2位置で前記開状態から前記閉状態へと移動する、ように動作可能な吸入弁と、
を備え、
前記クロスオーバ通路は、
前記燃焼シリンダから排出される排出流体の熱を活用するレキュペレータ、
を備え、
前記レキュペレータは、前記熱を活用し、前記圧縮シリンダから前記燃焼シリンダに供給される前記圧縮作動流体を加熱して、
前記方法は、
前記燃焼シリンダ内の燃焼のピーク温度の値を受信する工程と、
前記受信された値に基づいて、前記燃焼シリンダ内の燃焼のピーク温度
が選択された閾値を上回るか否かを判定する工程と、
前記判定された燃焼のピーク温度に基づいて、前記燃焼シリンダ内の燃焼のピーク温度が
前記選択された閾値を下回るように、前記第1位置と前記第2位置とを選択する工程と、
を有する、
ことを特徴とするスプリットサイクル内燃エンジンの制御方法。
【請求項22】
スプリットサイクル内燃エンジンの操作方法であって、前記スプリットサイクル内燃エンジンは、
圧縮ピストンを収容する圧縮シリンダと、
燃焼ピストンを収容する燃焼シリンダと、
前記圧縮シリンダから前記燃焼シリンダに圧縮作動流体を供給するように、前記圧縮シリンダと前記燃焼シリンダとの間に配置されるクロスオーバ通路と、
前記ピストンのサイクル中の噴射位置で前記燃焼シリンダへと燃料を噴射する燃料インジェクタと、
を備え、
前記クロスオーバ通路は、
前記燃焼シリンダから排出される排出流体の熱を活用するレキュペレータ、
を備え、
前記レキュペレータは、前記熱を活用し、前記圧縮シリンダから前記燃焼シリンダに供給される前記圧縮作動流体を加熱して、
前記方法は、
前記燃焼シリンダ内の燃焼のピーク温度の値を受信する工程と、
前記受信された値に基づいて、前記燃焼シリンダ内の燃焼のピーク温度
が選択された閾値を上回るか否かを判定する工程と、
前記燃焼シリンダ内の燃焼のピーク温度が
前記選択された閾値を下回るように、前記判定された燃焼のピーク温度に基づいて、前記噴射位置を選択する工程と、
を有する、
ことを特徴とするスプリットサイクル内燃エンジンの操作方法。
【請求項23】
スプリットサイクル内燃エンジンの操作方法であって、前記スプリットサイクル内燃エンジンは、
圧縮ピストンを収容する圧縮シリンダと、
燃焼ピストンを収容する燃焼シリンダと、
前記圧縮シリンダから前記燃焼シリンダに圧縮作動流体を供給するように、前記圧縮シリンダと前記燃焼シリンダとの間に配置されるクロスオーバ通路と、
前記クロスオーバ通路を通って前記圧縮シリンダから前記燃焼シリンダに供給される前記圧縮作動流体の温度を調節するように配置される冷却システムと、
を備え、
前記クロスオーバ通路は、
前記燃焼シリンダから排出される排出流体の熱を活用するレキュペレータ、
を備え、
前記レキュペレータは、前記熱を活用し、前記圧縮シリンダから前記燃焼シリンダに供給される前記圧縮作動流体を加熱して、
前記方法は、
前記燃焼シリンダ内の燃焼のピーク温度が選択された範囲に収まるように、前記燃焼シリンダ内の燃焼のピーク温度の推定値に基づいて、前記クロスオーバ通路を通って前記圧縮シリンダから前記燃焼シリンダに供給される前記圧縮作動流体の温度を調節するように前記冷却システムを制御する工程、
を有する、
ことを特徴とす
るスプリットサイクル内燃エンジンの操作方法。
【請求項24】
請求項
20乃至
23のいずれかに記載の方法を実施するようにプロセッサをプログラムするように構成されたプログラム命令
、
を含む、
ことを特徴とするコンピュータプログラム製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スプリットサイクル内燃エンジンと、スプリットサイクル内燃エンジンの操作方法と、に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の内燃エンジンは、オットーサイクルやディーゼルサイクルに基づいて動作する。これらのサイクルでは、効率(すなわち、性能)向上が、原則的にNOx、微粒子、二酸化炭素の排ガスの発生増加を伴う。近年、大気汚染や地球温暖化への関心の高まりに伴い、排ガスに関する規制は、強化の一途をたどっている。この観点から前述のエンジンサイクルに関して考慮すると、サイクル効率向上は温度上昇をもたらし、より多くのNOxが形成される。したがって、効率に対して厳しく性能が制限される。NOxの形成を抑制するため、排気の後処理が提案されているが、製造工程の複雑化は免れない。
【0003】
オットーサイクルとディーゼルサイクルとの両方について、効率は、圧縮の終了時の圧力に基づく。ディーゼルサイクルの効率は、rpmと燃焼比とが燃焼の開始と終了との体積比に影響を及ぼすため、燃焼比にも基づく。したがって、従来のエンジンの効率向上は、実質的に重大な制限を伴う。これは、エンジンに関連付けられたピーク温度と圧力とが非常に高いレベルに到達し得るためである。
【0004】
NOx化合物の形成は、空気と燃料との混合物の温度が2100Kを越えて上昇する領域で発生する。例えば、局所的な「ホットスポット」で発生する場合もあれば、より大規模に、例えば、エンジンシリンダの全体にわたって発生する場合もある。NOx化合物は、ヒトの呼吸器の健康問題に関係し、これらの化合物の生成やその大気への排出は重要な健康リスクをもたらす。また、これらの化合物の形成は吸熱性であり、化学エネルギから動力への変換の最大化に関して本質的に有用性もない。
【0005】
英国特許出願第1622114.5号と、英国特許出願第1706792.7号と、英国特許出願第1709012.7号とは、低温流体(冷凍工程により液相に凝縮された流体)用のクーラントインジェクタを使用するスプリットサイクル内燃エンジンを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】英国特許出願第1622114.5号
【文献】英国特許出願第1706792.7号
【文献】英国特許出願第1709012.7号
【発明の概要】
【0007】
本発明の態様は独立請求項に示され、任意選択の特徴は従属請求項に示される。本発明の態様は互いに併用されてもよく、ある態様の特徴がその他の態様に適用されてもよい。
【0008】
ここで、本開示の態様を、以下の添付の図面を参照ながら、例示として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】例示的なスプリットサイクル内燃エンジン装置の概略図である。
【
図2】例示的なスプリットサイクル内燃エンジン装置の概略図である。
【
図3】例示的なスプリットサイクル内燃エンジンの動作の温度エントロピ線図である。
【
図4】グラフに等圧線を加えた
図3の温度エントロピ線図である。
【
図5】当量比と、開始温度と、終了温度と、に基づいて、スプリットサイクル内燃エンジンの使用のシナリオ例を示すグラフである。
【
図6】スプリットサイクル内燃エンジンの操作方法の例示的な方法を示すフローチャートである。
【
図7】スプリットサイクル内燃エンジンの操作方法の例示的な方法を示すフローチャートである。
【
図8】スプリットサイクル内燃エンジンの操作方法の例示的な方法を示すフローチャートである。
【
図9】スプリットサイクル内燃エンジンの操作方法の例示的な方法を示すフローチャートである。
【
図10】スプリットサイクル内燃エンジンの操作方法の例示的な方法を示すフローチャートである。
【
図11】スプリットサイクル内燃エンジンの操作方法の例示的な方法を示すフローチャートである。
【
図12】スプリットサイクル内燃エンジンの操作方法の例示的な方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
一例では、燃焼シリンダ内の燃焼のピーク温度が選択された閾値を下回るように、冷却システムを制御するように構成されたコントローラを備える、スプリットサイクル内燃エンジンが開示される。コントローラは、燃焼中のNOxや微粒子の生成を抑制するために、燃焼のピーク温度を制御してもよい。これらの化学物質は人体に害を及ぼすことが知られていることから、この制御は環境上明らかに有利である。
【0011】
一例では、燃焼シリンダへの作動流体の流れを制御する吸入弁の開閉を制御するように構成されたコントローラを備える、スプリットサイクル内燃エンジンが開示される。コントローラは、燃焼中のNOxや微粒子の生成を抑制するために、選択されたタイミングで開閉し、燃焼のピーク温度を制御するように吸入弁を制御してもよい。これらの化学物質は人体に害を及ぼすことが知られていることから、この制御は環境上明らかに有利である。
【0012】
一例では、受信されたエンジン動作条件の指示に基づいて、燃料の反応度を調節する反 応度調節器を制御するように構成されたコントローラを備える、スプリットサイクル内燃 エンジンが開示される。コントローラは、燃料反応度が低い場合に、燃料の反応度を上げ るように、反応度調節器を制御してもよい。これにより、燃料の比率がより大きい場合、 燃料の燃焼が実現され得るため、効率の向上が可能になる。
【0013】
一例では、燃焼シリンダへと燃料を噴射する燃料インジェクタの噴射タイミングを制御するように構成されたコントローラを備える、スプリットサイクル内燃エンジンが開示される。コントローラは、燃焼シリンダ内の燃焼のピーク温度を制御するために、インジェクタのタイミングを制御してもよい。これにより、より低いピーク温度が実現可能となり、コントローラが燃焼中のNOxや微粒子の生成を抑制することが可能になる。これにより、これらの化学物質は人体に害を及ぼすことが知られていることから、明らかな環境上の利点がある。
【0014】
一例では、燃焼のピーク温度が選択された範囲に収まるように、燃焼のピーク温度の推定値に基づいて、冷却システムを制御するように構成されたコントローラを備える、スプリットサイクル内燃エンジンが開示される。これにより、コントローラは、エンジンが燃焼中にNOxや微粒子が放出される程の高温で動作することを防ぐことが可能になり得る。さらに、エンジン性能が悪化する程の低温でエンジンが動作することを防ぐことが可能になり得る。
【0015】
一例では、クロスオーバ通路内の作動流体が速度閾値を超える速度で燃焼シリンダへと流れ込むように、冷却システムを制御するように構成されたコントローラを備える、スプリットサイクル内燃エンジンが開示される。これにより、燃焼前に、燃料と作動流体とのよりよい混合が可能になる。これにより、燃料のリッチ度合いが低減され得て、その結果、燃料が完全燃焼し、すすなどの微粒子の生成を抑制するように、よりリーンな混合気が実現する。さらに、NOxなどの望ましくない汚染物質が生成される、より高いピーク温度での燃焼が発生する「ホットスポット」の発生が減り得る。
【0016】
一例では、速度閾値を超える速度で作動流体が燃焼シリンダへと流れ込むように、燃焼シリンダへの吸入弁により画定される断面積を制御するように構成されたコントローラを備える、スプリットサイクル内燃エンジンが開示される。これにより、燃焼前に、燃料と作動流体とのよりよい混合が可能になる。これにより、燃料のリッチ度合いが低減され、燃焼によりNOxまたは微粒子が生成される「ホットスポット」の発生が減り得る。
【0017】
図1は、選択された閾値を下回るように燃焼のピーク温度を制御するように配置されたスプリットサイクル内燃エンジン100の第1例を示す。エンジン100は、燃焼のピーク温度の指示をコントローラ60に提供するように配置される。コントローラ60は、指示に基づいて、燃焼のピーク温度を判定する。コントローラ60は、判定された燃焼のピーク温度に基づいて、エンジン100の燃焼シリンダ20に供給される作動流体の温度を調節するように冷却システムを制御する。特に、冷却システムは、エンジン100の圧縮シリンダ10と燃焼シリンダ20との間のクロスオーバ通路30内の作動流体が、燃焼プロセスの一部として、燃焼シリンダ20内で使用されたときに十分冷たくなるように、この温度を制御するように配置され得て、燃焼のピーク温度は選択された閾値を上回らない。コントローラ60は、燃焼シリンダ20に供給される作動流体の温度が選択された範囲内に制御され得るように、冷却システムの動作を制御するフィードバックループに基づいて動作してもよい。これにより、例えば、NOx化合物の生成が抑制され得るように、燃焼のピーク温度の制御が可能になり得る。フィードバックループは、冷却閾値に基づいてもよく、コントローラによる燃焼のピーク温度が冷却閾値を下回るという判定に応じて、コントローラは、作動流体の温度を調節して、燃焼のピーク温度が冷却閾値を超えるように冷却システムを制御する。これにより、コントローラは、選択されたピーク温度範囲内で動作するようにエンジンを制御可能になり得る。
【0018】
図示されるように、
図1は、圧縮シリンダ10と、燃焼シリンダ20と、を備えるスプリットサイクル内燃エンジン100の装置を示す。圧縮シリンダ10は、連結ロッド52を介してクランクシャフト70の一部上の各クランクに接続される圧縮ピストン12を収容する。燃焼シリンダ20は、連結ロッド54を介してクランクシャフト70の一部上の各クランクに連結される燃焼ピストン22を収容する。圧縮シリンダ10は、クロスオーバ通路30を介して燃焼シリンダ20に連結される。クロスオーバ通路30は、熱伝導のために使用され得るレキュペレータを備えてもよい。圧縮シリンダ10は、エンジン100の外側から流体を受ける吸入口8と、クロスオーバ通路30に連結される排出口9と、を備える。排出口9は、圧縮流体が圧縮シリンダ10へと逆流できないように、弁、例えば、逆流防止弁を備える。燃焼シリンダ20は、クロスオーバ通路30に連結される吸入弁18と、燃焼シリンダ20から排気口へと排気を通過させる排出弁19と、を備える。これらの連結により、クロスオーバ通路30を介した圧縮シリンダ10と燃焼シリンダ20との間の流体流路が構成される。
【0019】
エンジン100は、冷却システムをさらに備える。冷却システムは、液体流路を画定するクーラントインジェクタ14を介して圧縮シリンダ10に連結されるクーラント液貯蔵部40を備えるように図示されている。冷却システムは、
図1には示されていないが、クロスオーバ通路30へとクーラントを噴射するインジェクタをさらに備えてもよい。冷却システムは、レキュペレータを介した熱伝導の使用を含んでもよい。例えば、これは、レキュペレータを加熱するための、燃焼シリンダからの排気口における熱の活用を含んでもよい。これは、スプリットサイクル内燃エンジン100から逃げる熱を伝達するための、レキュペレータの活用を含んでもよい。エンジン100は、燃料貯蔵部80と燃焼シリンダ20との間に流体流路が画定されるように、燃料インジェクタ82を介して燃焼シリンダ20に連結される燃料貯蔵部80をさらに備えてもよい。
【0020】
エンジン100は、コントローラ60と、コントローラ60に連結される、黒字点線で図示される複数のセンサと、を備える。ただし、図示されるセンサは例示的に示されているだけであり、異なる数のセンサが設けられてもよく、異なる位置に設けられてもよいことが理解されよう。例えば、吸入口8は、温度センサをさらに備えてもよい。センサは、物理的な配線を介してコントローラ60に結合され得て、または無線接続され得る。
図1に示される例では、圧縮シリンダ10内には圧縮センサ11が存在する。圧縮センサ11は、例えば、吸気口8の近傍に載置されてもよく、またはクーラントインジェクタ14の近傍に載置されてもよい。圧縮センサ11は、温度センサを備えてもよい。
図1に示される例示的なエンジン100は、燃焼シリンダ20内に燃焼センサ21をさらに備える。圧縮センサ21は、温度センサを備えてもよく、圧力センサを備えてもよい。さらに、クロスオーバ通路30内のクロスオーバセンサ31が図示されている。クロスオーバセンサ31は、温度センサを備えてもよく、圧力センサを備えてもよい。さらに、エンジン100は、クランクシャフト70に載置されるクランクセンサ71を備える。クランクセンサは、エンジンからのトルク要求の指示を提供してもよい。さらに、燃焼シリンダ20の排出弁19の下流に排気センサ91が図示されている。排気センサ91は、温度センサを備えてもよく、圧力センサを備えてもよく、エンジンの排気中のNOx濃度の指示を提供するように構成されるラムダセンサを備えてもよい。いくつかの例では、クーラント液貯蔵部40は、例えば、貯蔵部40に収められた液体の、質量などの数量を測定するセンサをさらに備えてもよい。コントローラ60は、クーラントインジェクタ14と、燃料インジェクタ82および/または貯蔵部80と、にさらに結合される。
【0021】
複数のセンサは、少なくとも1つの信号をコントローラ60に送信するように構成され、エンジン100に関連付けられた少なくとも1つのパラメータの指示を提供する。エンジン100のパラメータとしては、エンジン内(例えば、排気、圧縮シリンダ10、クロスオーバ通路30などの異なる位置における)の作動流体の温度が挙げられ得る。これには、エンジン内の作動流体の圧力、エンジンに対する要求、エンジン内のNOx生成の値、吸入弁18の開閉のタイミング、燃焼シリンダ内への燃料の噴射タイミングが含まれ得る。エンジン100のパラメータは、エンジンノッキングの指示を含んでもよく、例えば、これは受信されたエンジン動作の音声信号に基づいてもよい。エンジンノッキングは、ピストンのサイクル中の適切なタイミングで燃料に点火しない場合に起こり得て、エンジンのノイズの聴取に基づいて検出され得て、エンジンノッキングの指示はエンジンのパラメータと捉えられてもよい。
【0022】
例えば、
図1に示される例では、圧縮センサ11は、圧縮シリンダ10に関連付けられた少なくとも1つのパラメータを測定するように構成される。燃焼センサ21は、燃焼シリンダ20に関連付けられた少なくとも1つのパラメータを測定するように構成される。クロスオーバセンサ31は、クロスオーバ通路30に関連付けられた少なくとも1つのパラメータ測定するように構成される。さらに、クランクセンサ71は、エンジン100のRPMを測定するように構成され、排気センサ91は、燃焼シリンダ20の排出弁19から排出される排気の少なくとも1つのパラメータを測定するように構成される。このように少なくとも1つのパラメータの測定により、燃焼シリンダ20内の燃焼のピーク温度の指示が提供される。各センサは、コントローラ60が燃焼シリンダ20内の燃焼のピーク温度を判定するために、ピーク温度の前記指示をコントローラ60に提供してもよい。
【0023】
エンジン100は、圧縮シリンダ10の吸入口8を通じて圧縮シリンダ10へと空気が吸い込まれるように構成される。圧縮ピストン12は、この空気を圧縮するように配置され、圧縮段階の間、クーラント液が圧縮シリンダ10に追加されてもよい。クロスオーバ通路30は、排出口9を介して作動流体を受け、吸入弁18を介して燃焼シリンダ20に送るように配置される。エンジン100は、燃料インジェクタ82を介して燃焼シリンダ20内の作動流体に燃料貯蔵部80から燃料を追加し、燃料と作動流体との混合気を(例えば、図示しない点火源の動作により)燃焼させ、クランクシャフト70の回転を通じて有効な動力を引き出すように、さらに構成される。
【0024】
燃料貯蔵部80は、コントローラ60が燃焼シリンダ20への燃料の供給を制御するように、コントローラ60に接続される。いくつかの例では、コントローラ60は、受信された少なくとも1つのエンジンのパラメータ100の指示に基づいて、噴射される燃料の量を判定するように構成される。例えば、コントローラ60は、排気センサ91から受信された燃焼のピーク温度の指示信号、またはクランクセンサ71から受信されたエンジン要求の指示信号による、少なくとも1つのパラメータの指示を取得するように構成されてもよい。
【0025】
運転時、コントローラ60は、燃焼のピーク温度の指示を受信するように構成される。信号は、
図1に示される複数のセンサのうち少なくとも1つから受信される。例えば、コントローラ60は、排気センサ91からの排気の温度の指示を受信してもよい。コントローラが燃焼のピーク温度を直接測定していないセンサからの指示を受信する場合、コントローラは、この受信された指示に基づいて、燃焼シリンダ20内の燃焼のピーク温度の推定値を判定する。例えば、受信された排気内の温度の指示は、燃焼シリンダ内の燃焼のピーク温度を推測するために使用されてもよい。コントローラが燃焼のピーク温度を直接測定するセンサ(例えば、燃焼センサ20)からの指示を受信する場合、コントローラは、ピーク温度を個別に判定するよりも、このピーク温度の指示を使用してもよい。
【0026】
燃焼のピーク温度は、通常、上死点(TDC)から下死点(BDC)へのピストン22の動きの最後に向かって発生する。コントローラ60がこのピーク温度を直接測定できないセンサ(例えば、燃焼シリンダ20内に無いセンサ)からの指示を受信する場合、コントローラ60は、受信した指示に基づいて、ピーク温度の推定値を判定するように構成されてもよい。これは、エンジンのパラメータの値(例えば、クロスオーバ通路における作動流体の温度)に基づいて、燃焼のピーク温度を推定可能な数学的モデルの使用を含んでもよい。例えば、このようなモデルは、エンジンのサイクル全体の熱発生について、および/または燃焼が発生した後の熱の散逸とその結果の冷却とについての過去のデータに基づいた値の判定を含んでもよい。センサは、システムおよび/または作動流体のパラメータ(例えば、温度、圧力)を測定してもよく、これがコントローラ60に提供される指示でもよい。この指示に基づいて、コントローラ60は、燃焼シリンダ20内のピーク温度の推定値を判定するために、公知の熱力学的関係を使用してもよい。例えば、受信した作動流体の圧力および温度の指示に基づいて、作動流体の濃度が判定されてもよい(例えば、圧力と、温度と、濃度と、を連係する状態の方程式に基づいて)。
【0027】
一例では、コントローラ60は、燃焼後の作動流体のパラメータを測定するセンサから、燃焼のピーク温度の指示を受信してもよい。例えば、この測定は、排気センサ91により実施されてもよい。排気センサ91は、排気内の作動流体の温度を測定するように構成されてもよい。燃焼後温度は、燃焼のピーク温度の指示を提供する。燃焼のピーク温度の推定値は、過去のデータ、例えば、ルックアップテーブルを使用した燃焼後温度に基づいて判定されてもよい。これにより、作動流体が燃焼シリンダ20から排出弁19を通過する時点は燃焼のピーク温度に達した時点の直後であるため、燃焼中の作動流体のピーク温度にごく近い値が提供され得ることが理解されよう。そのため、排気センサ91は、燃焼後温度を測定し、この測定値に基づいて、コントローラ60に燃焼のピーク温度の指示を提供してもよい。次いで、コントローラ60は、燃焼後温度に基づいてピーク燃焼温度を測定する。ピーク燃焼温度は、燃焼後温度よりも高い。ピーク燃焼温度は、燃焼後温度の値と、対応するピーク燃焼温度の値と、の相関関係を含むルックアップテーブルを使用して判定されてもよい。
【0028】
別の例では、コントローラ60は、燃焼の前に、作動流体のパラメータを測定するセンサから燃焼のピーク温度の指示を受信してもよい。例えば、この測定は、供給センサにより実施されてもよい。ここで、供給センサとは、エンジンのパラメータまたは燃焼前の作動流体の指示を提供する任意のセンサを指してもよく、例えば、指示は圧縮センサ11からでもよく、クロスオーバセンサ31からでもよい。クロスオーバセンサ31は、燃焼シリンダ20へと流れ込む前の、クロスオーバ通路30内の作動流体の温度を測定するように構成されてもよい。クロスオーバセンサ31は、したがって、燃焼前作動流体の温度を測定し、この温度の指示をコントローラ60に提供してもよい。次いで、コントローラ60は、燃焼前温度に基づいて、燃焼シリンダ20内の燃焼のピーク温度の推定値を判定する。燃焼前温度は、ピーク燃焼温度よりも低い。コントローラ60は、燃焼前温度の値と、対応するピーク燃焼温度の値と、の相関関係を含むルックアップテーブルを使用して、ピーク燃焼温度の推定値を判定してもよい。相関関係の値は、温度予測用の、システムの熱力学をモデリングする数学的モデルを使用して判定されてもよい。この値は、経験的に判定された値を含んでもよい。
【0029】
いずれの例で使用されるルックアップテーブルも、その他のパラメータを含んでもよいことが理解されよう。ルックアップテーブルにより、コントローラ60は、エンジン100の現在の条件と、作動流体の温度(例えば、燃焼前または燃焼後温度)と、に基づいて、燃焼のピーク温度の推定値を判定可能となり得る。例えば、その他のパラメータのうち1つは、クランクセンサ71から受信された信号に基づいて判定され得る、エンジン100に対する要求の指示を含んでもよい。1つのパラメータは、エンジン100が動作している期間を指示するタイマを含んでもよい。これにはエンジンの温度の指示が含まれてもよく、エンジンの始動中、エンジンが温まる間、動作温度は低くなる。そのため、エンジンが動作している時間は、エンジン自体の想定される温度の指示を提供してもよい。1つのパラメータは、エンジン100全体の温度の指示を含んでもよい。その他のパラメータは、燃焼シリンダ20における燃焼のピーク値の判定に影響し得る任意の適切なパラメータを含んでもよいことが理解されよう。例えば、エンジン100の始動中、燃焼シリンダ20は、通常動作中よりも冷たく、燃焼前温度とピーク燃焼温度との間の作動流体の温度の上昇は、燃焼シリンダ20が長期使用後に熱くなるときや、高要求時に比べて、小さくてもよい。エンジン100(例えば、燃焼シリンダ20)の温度の指示に基づいて、または例えば、エンジン100がどれほど長く動作しているかを示すタイマに基づいて、燃焼前温度からピーク燃焼温度への相関関係は、燃焼シリンダ20内の燃焼のピーク温度のより正確な推定値を提供してもよい。
【0030】
コントローラ60は、作動流体の温度が選択された閾値を上回るという判定に応じて、作動流体を冷却するように、冷却システムを制御するように構成される。エンジン100の始動中、エンジン100はより低い温度で動作し、したがって、コントローラ60は、燃焼のピーク温度の推定値が選択された閾値よりも随分低いと判定してもよい。この場合、コントローラ60は、冷却がほとんど、または全く実施されないように、冷却システムを制御してもよい。
【0031】
エンジン100が始動状態から通常動作モードに進むと、コントローラ60は、燃焼のピーク温度を判定し、作動流体の温度を調節するように冷却システムを制御するように構成される。冷却システムの制御は、燃焼のピーク温度が選択された閾値を上回らないような、燃焼のピーク温度の日常的モニタリングと、作動流体の冷却制御と、を含むフィードバックループに基づく。コントローラ60は、燃焼のピーク温度が選択された閾値を上回るという判定に応じて、作動流体の冷却を向上させるように冷却システムを作動させるように構成される。
図1に示される例では、これには、より多くのクーラントを圧縮シリンダ10に噴射するように、クーラントインジェクタ14の制御が含まれる。ただし、作動流体の温度を制御するその他の方法(例えば、レキュペレータを使用した熱伝導による)も提供され得ることが理解されよう。圧縮シリンダ10内の作動流体が圧縮されると、作動流体の熱の上昇の一部は、噴射されるクーラントにより吸収されてもよい。クーラントは、蒸発による潜熱を上回るために、ある程度の量の熱を吸収し、これが燃焼シリンダ20内の温度の上昇を抑えるように作用する。したがって、コントローラ60は、燃焼シリンダ20に噴射されたクーラントの量を制御することにより、作動流体の熱を制御できる。特に、コントローラ60は、作動流体が燃焼シリンダ20へと流入する前の、クロスオーバ通路30内の作動流体の熱に影響を及ぼすことができる。
【0032】
選択された閾値は、燃焼のピーク温度に対する基準を含む。コントローラは、推定された燃焼のピーク温度と基準とを含む比較に基づいて、基準が満たされたかどうかを判定してもよい。選択された閾値は、この最大温度を超える燃焼のピーク温度は基準を満たさないという、最大温度の値でもよい。選択された閾値の値は、NOx化合物の形成を抑制するように選択されてもよい。コントローラは、ピーク燃焼温度の値を選択された閾値と比較してもよく、この比較は、燃焼のピーク温度の平均値、すなわち、シリンダ全体のピーク温度の「包括的な」値に基づく。他の例では、コントローラは、ピーク燃焼温度の値を選択された閾値と比較してもよく、この比較は、燃焼のピーク温度の局所的ピーク値に基づく。局所的ピーク値は、燃焼シリンダ20の任意の領域における最高の燃焼のピーク温度の値を含んでもよい。いくつかの例では、選択された閾値は、両方の値の指示を含んでもよい。選択された閾値は、2200ケルビン以下の温度を要してもよく、2150ケルビン未満の温度を要してもよく、2125ケルビン未満の温度を要してもよく、2100ケルビン未満の温度を要してもよく、2075ケルビン未満の温度を要してもよく、2050ケルビン未満の温度を要してもよく、2000ケルビン未満の温度を要してもよく、1900ケルビン未満の温度を要してもよい。この値は、作動流体と燃料との混合物の当量比により決まってもよく、したがって変化してもよいことが理解されよう。
【0033】
コントローラ60は、燃焼のピーク温度が選択された閾値を上回るという判定に応じて、燃焼シリンダ20に提供される作動流体の温度を調節するように、冷却システムを制御する。前述のとおり、温度は、冷却システムを使用して調節される。一例では、これは、圧縮シリンダ10へと噴射されるクーラントの量を増加させることにより実施されてもよいが、これに加えて、またはこれに代えて、クロスオーバ通路内のレキュペレータから離れる熱伝導を制御することにより実施されてもよい。コントローラ60は、判定された燃焼のピーク温度の指示に基づいて、冷却の程度を判定するように構成されてもよい。冷却システムは、噴射されたクーラントの量が、作動流体の温度が選択された閾値を下回るまで冷却されるために必要な冷却量に比例するように、連続的に作動されてもよい。冷却システムは、第1選択された閾値を超えて第1量のクーラントが噴射され、第2選択された閾値を超えて第2量のクーラントが噴射されるように、個別に作動されてもよい。このような閾値が複数あってもよい。
【0034】
コントローラ60は、燃焼シリンダ20内の燃焼のピーク温度を調節するように冷却システムを制御することにより、燃焼プロセスがNOx化合物の生成を減らすために、より低い温度で実施されるように、スプリットサイクル内燃エンジン100を制御してもよい。
【0035】
コントローラは、冷却システムがより多くのクーラントを噴射するように制御すると説明したが、別の方法によっても同様の結果が得られることが理解されよう。例えば、これは、別の種類のクーラントを噴射すること、またはクーラントを別の温度で噴射することによっても実現され得る。さらに、センサは、コントローラ60に燃焼のピーク温度の指示を提供するように構成されることが理解されよう。ただし、この指示は必ずしも温度を含む必要はなく、燃焼のピーク温度をそこから判定することができる任意の適切な熱力学的パラメータの測定を含み得る。例えば、公知の熱力学的関係を使用して、温度の値が圧力の値から判定されてもよい。
【0036】
別の態様では、
図1のスプリットサイクル内燃エンジン100は、吸入弁18のタイミングを使用して、燃焼シリンダ20内の作動流体の温度を調節するように動作してもよい。吸入弁18は、ピストンのサイクル中の第1位置にある閉状態から、ピストンのサイクル中の第2位置にある開状態へと移動するように動作可能である。吸入弁18が開状態のときは、クロスオーバ通路30内の作動流体は燃焼シリンダ20へと流入し、吸入弁18が閉状態のときは、作動流体は流入しない。運転時、コントローラ60は、選択された閾値および/または冷却閾値に基づいて、第1位置と第2位置とを選択してもよい。これらの2つの位置は、選択された期間だけこれらの位置が離れるように選択されてもよく、この期間は定数で固定され、および/または変数でもよい。燃焼シリンダ20内の燃焼は、通常、サイクル中のピストンのTDC位置で、またはこれに近接した位置で発生する。そのため、燃焼が発生する前にクロスオーバ通路30内の作動流体が燃焼シリンダ20に流入する時間を有するように、TDCよりも手前になるように、第1位置は選択される。燃焼によってより大きな力がピストンにかかるように、第2位置はTDCの位置、またはその手前になるように選択されてもよい。これは、燃焼において作動流体が膨張することにより、燃焼ピストン22がBDC位置へと移動するためである。吸入弁が燃焼中に開き続けている場合、作動流体の一部が、燃焼ピストン22により大きな力をかけるよりもむしろ、クロスオーバ通路内へと逆流し得る。したがって、作動流体の膨張が発生するよりも前に吸入弁が閉じるように第2位置が選択されれば、より大きな力が燃焼ピストン22に供給される。
【0037】
第1位置はTDCよりも手前であるため、燃焼が発生する前に、燃焼シリンダ20内の作動流体がいくらか圧縮される。これにより、この作動流体の温度が上昇する。燃焼前の作動流体の温度は、燃焼シリンダ20内の燃焼のピーク温度に影響を及ぼすため、コントローラ60は、この圧縮が引き起こす燃焼シリンダ20内の昇温を制御することにより、燃焼シリンダ20内の燃焼のピーク温度を調節できる。燃焼シリンダ20内の圧縮が引き起こす昇温の量は、第1位置により決まる。BDCを超えた直後に第1位置があるほど、作動流体の加熱量は大きくなる。したがって、コントローラ60は、決められた必要な加熱量に基づいて、第1位置を選択してもよい。これは、判定された燃焼シリンダ20内の燃焼のピーク温度に基づいて判定されてもよく、したがって、燃焼のピーク温度が選択された範囲に収まるように、燃焼の前に選択された温度となるように所望の量だけ作動流体が追加加熱される。
【0038】
例えば、燃焼のピーク温度の推定値が選択された閾値を上回るという判定に応じて、コントローラ60は、ピストンのサイクル中のより後ろの位置になる第1位置を選択する。コントローラ60は、燃焼のピーク温度が冷却閾値を下回るという判定に応じて、作動流体がより熱を受け得るように、ピストンのサイクル中のより手前の位置になる第1位置を選択する。同様に、コントローラ60は、燃焼のピーク温度と、冷却閾値と、選択された閾値と、に基づいて、第2位置を制御してもよい。
【0039】
別の態様では、
図1のスプリットサイクル内燃エンジン100は、燃焼シリンダ20内の作動流体の温度を調節するように、燃料インジェクタ82による燃料の噴射のタイミングを使用して動作してもよい。燃料の噴射は、ピストンのサイクル中の噴射位置で発生してもよい。この噴射は設定された期間にわたり発生してもよく、可変の期間にわたり発生してもよく、この期間は噴射される燃料の量に基づいてもよい。コントローラ60は、判定された燃焼のピーク温度の推定値に基づいて、噴射位置を選択するように構成される。例えば、コントローラ60は、選択された閾値を上回る燃焼のピーク温度の推定値の判定に応じて、ピストンのサイクル中の遅延噴射位置で燃料を噴射するように燃料インジェクタ82を制御してもよい。遅延噴射位置には、現在の噴射位置よりも後ろに位置する、ピストンのサイクル中の位置が含まれ得る。コントローラ60は、冷却閾値を下回る燃焼のピーク温度の推定値の判定に応じて、ピストンのサイクル中の早期噴射位置で燃料を噴射するように燃料インジェクタ82を制御してもよい。早期噴射位置には、現在の噴射位置よりも前に発生する、ピストンのサイクル中の位置が含まれ得る。
【0040】
通常、燃焼は、燃焼ピストン22のTDC位置またはその直後に発生する。燃焼がTDC位置で発生するように制御することにより、燃焼ピストン22がそのBDC位置に戻る間、より長期にわたって膨張する力が燃焼ピストン22にかかる。燃焼ピストン22の位置により画定される燃焼シリンダ20の容積は、ピストンのストロークの間に変化し、燃焼ピストン22のTDC位置で最小となる。このTDC位置における燃焼は、ピストンのサイクル中のより後ろの位置での燃焼に比べて、より大きな作動流体の膨張をもたらし得る。TDC付近での燃焼は、TDC後の燃焼に比べて、より大きな開始温度からの温度変化をもたらし得る。その結果、燃焼シリンダ20内の燃焼のピーク温度は、より早いタイミングで開始した燃焼の場合により高くなってもよい。燃焼は、燃料がなければ発生しない。
【0041】
コントローラ60は、ピストンのサイクル中の噴射位置で燃焼シリンダ20へと燃料を噴射するように、燃料インジェクタ82を制御するように構成される。コントローラは、ピストンのサイクル中のより後ろの位置で(例えば、TDC後)噴射されるように、燃料の噴射を遅らせてもよい。コントローラは、判定された燃焼シリンダ20内の燃焼のピーク温度の推定値に基づいて、ピーク温度の推定値が高すぎ、NOxが生成し得ると判定してもよい。燃焼シリンダ20内の温度を調節する方法として、コントローラは、ピストンのサイクル中のより後ろの位置で燃焼が発生するように、燃料の噴射を遅らせてもよい。これにより、燃焼のピーク温度は下がり、NOxの生成が抑制され得る。
【0042】
別の態様では、
図1のスプリットサイクル内燃エンジン100は、燃焼シリンダ20内の燃焼のピーク温度の推定値に基づいて、燃焼シリンダ20に供給される作動流体のピーク温度を調節するように冷却システムを制御するために、コントローラ60を用いて動作してもよい。コントローラ60は、燃焼シリンダ20内の燃焼のピーク温度が選択された範囲に収まるように推定値を使用してもよい。特に、エンジン100の通常動作中、コントローラは、燃焼シリンダ中の燃焼のピーク温度が選択された閾値を上回る、および/または冷却閾値を下回らないように、選択された範囲を選択してもよい。選択された範囲は、冷却閾値と選択された閾値との間の値の範囲にあるように選択されてもよい。これにより、効率とNOxの生成との両方が選択された基準を満たすように、コントローラ60がエンジンの動作を制御することが可能になる。
【0043】
コントローラ60は、受信されたエンジンのパラメータの指示に基づいて、燃焼のピーク温度の推定値を判定してもよい。例えば、コントローラ60は、受信されたエンジンに対する要求の指示に基づいて、推定値を判定してもよい。この場合、コントローラ60は、エンジンに対する要求の指示(例えば、燃焼シリンダ22に供給される作動流体の温度の指示)に基づいて、燃焼シリンダ20内で到達される燃焼のピーク温度の推定値を予測してもよい。
【0044】
この予測は、エンジン100に関連付けられた過去のデータに基づいてもよい。例えば、コントローラ60は、少なくとも1つのエンジンパラメータに対する1つまたは複数の値と、対応するピーク温度の推定値と、の相関関係を含むルックアップテーブルにアクセスしてもよい。コントローラ60は、エンジンに関する入力データ(例えば、エンジンの各パラメータ、またはエンジンが始動してからのエンジン測定値のログ)に基づいて、燃焼のピーク温度予測用のモデルを備える機械学習要素を備えてもよい。この機械学習要素は、入力データに関連付けられた公知の燃焼のピーク温度が有るデータに則り「訓練」されてもよい。これにより、機械学習要素の予測モデルが訓練データに基づいて学習および更新することが可能になり、ピーク温度の予測のためにより信頼できる正確なシステムを提供し得る。この推定値に基づいて、コントローラは、燃焼シリンダ20内の燃焼のピーク温度が選択された範囲に収まるように冷却システムを制御してもよい。
【0045】
図1のスプリットサイクル内燃エンジン100は、前述の例にかかる作動流体の温度を調節してもよい。温度調節は、前述の例の組合せに基づいてもよい。
【0046】
図2は、燃焼のピーク温度が選択された閾値を下回るように、制御するように構成されたスプリットサイクル内燃エンジン100の第2例を示す。
図2のエンジン100は、
図1のエンジン100と同様であるため、実質的に同一の機能を果たす構成部品は同一の参照符号で示し、その説明は省略する。
【0047】
図2のスプリットサイクル内燃エンジン100は、反応度調節器85をさらに備える。反応度調節器85は、コントローラ60が反応度調節器85の動作を制御し得るように、コントローラ60に接続される。反応度調節器85は、燃焼プロセス中に使用される燃料の反応度を調節するように動作可能である。反応度調節器85は、燃焼シリンダ20に噴射される(例えば、燃料貯蔵部80内の)燃料に作用するように動作可能なものとして図示されている。反応度調節器85はさらに、燃焼シリンダ20内の燃料に直接作用するように動作可能なものとして図示されている。反応度調節器85は、燃料の点火能力を向上させるように動作可能である。これは、燃料の反応性を向上させることと、燃焼シリンダ20内の燃料に点火する追加の手段を設けることと、のうち少なくとも一方を含んでもよい。コントローラ60はさらに、燃料の反応度が過剰反応度閾値を上回るという判定に応じて、反応度調節器85の動作を制御してもよい。これは、過剰反応を示す燃料により、燃焼のピーク温度が高くなり得るため、NOxの形成の抑制に寄与し得る。
【0048】
図示される例では、反応度調節器85は、燃焼シリンダ20内の燃料に対する追加の点火源を提供するために、電磁放射(例えば、レーザまたはマイクロ波放射)を燃料に向けるシステムを備える。これにより、より精密な点火のメカニズムが実現し、燃焼シリンダ20が点火閾値温度よりも低温の場合など、望ましくない点火条件でも燃料への点火が可能となり得る。コントローラ60は、燃焼シリンダ20内の温度および/または作動流体の温度が点火閾値を下回るという判定に応じて、燃料に対する追加の点火源を提供するために、反応度調節器85を制御するように構成されてもよい。反応度調節器85は、選択的なエネルギ伝達のシステムを備えてもよい。選択的なエネルギ伝達のシステムは、反応速度を向上させるために、燃料作動流体混合物内に存在するある種の化合物に対して的を絞った放射を提供してもよい。これには、燃焼がより低い開始温度で発生して、燃焼のピーク温度がより低い温度となることにより、NOxの生成が抑制されるように、化合物を分解して(例えば、CH4(メタン)を分解して)改善された燃焼に対して的を絞った放射を含んでもよい。
【0049】
いくつかの例では、反応度調節器85は、燃料に対して酸化剤またはフリーラジカルを供給するシステムを備えてもよい。この供給物は、燃焼シリンダ20内に供給されてもよく、燃料貯蔵部80内でもよい(例えば、燃焼シリンダ20への燃料の噴射の前)。酸化剤の供給により、より高い割合の燃料が点火することが可能になり、燃料の初期点火の可能性を向上し得る。例えば、好適な酸化剤としては、酸素またはオゾンが挙げられるが、任意の好適な酸化剤が追加され得ることが理解されよう。
【0050】
コントローラ60は、作動流体の圧力、濃度、温度のうち少なくとも1つの指示を受信し、これに基づいて、作動流体の点火パラメータを判定するように構成される。判定された点火パラメータは、燃料の点火能力の指示を提供してもよい。例えば、点火パラメータは、点火する燃料の予定割合の指示を提供してもよい。コントローラ60は、受信された指示に基づいて、点火パラメータを判定するように構成される。例えば、これは、ルックアップテーブルを用いて、作動流体の熱力学的性質の1つ以上の値に基づいて、点火パラメータの値を特定することを含んでもよい。これらの値は、理論的におよび/または経験的に判定されてもよい。例えば、コントローラ60は、燃料が冷たいときには、点火する可能性が低いと特定してもよく、したがって、作動流体の温度が低温であるとの指示の受信に応じて、点火パラメータが低い値であると判定してもよい。
【0051】
コントローラ60は、点火パラメータが点火閾値を下回るという判定に応じて、反応度調節器85を作動させるように構成される。反応度調節器85の動作は、点火パラメータの値を増加し、これにより燃料が点火する可能性を向上させることに寄与する。コントローラ60は、判定された点火パラメータに基づいて、反応度調節器85の動作の程度を判定するように構成されてもよい。例えば、反応度調節器85の動作の程度は、点火パラメータと点火閾値との差異の大きさに基づいて判定されてもよい。点火閾値は複数でもよく、コントローラ60は、点火パラメータがどの閾値を満たすかに基づいて、反応度調節器85の動作の程度を判定してもよい。反応度調節器85は、点火パラメータが点火閾値を下回る、あるいは大きく下回るとき、特にエンジン100の始動中に有益となり得る。例えば、燃焼シリンダ20の温度が非常に低い場合があり、反応度調節器85の動作により、随分低い温度においても燃料が点火し、燃焼の発生が可能にする。
【0052】
図3は、
図1または
図2に示されるスプリットサイクル内燃エンジンの動作の例示的な温度エントロピ線図を示す。点線は冷却無しのエンジンのサイクルを示し、実線は冷却有りのサイクルを示す。この図は、窒素のみのサイクルを使用するエンジンの近似値に基づいている。これらのサイクルは、同量の熱を出力する。クーラントが添加されたサイクルでは、その左下の点は、冷却無しのサイクルと比較して、温度とエントロピとの両方について低い値を示す。これは、クーラントの追加による、質量の増加、温度の低下に起因する。したがって、冷却有りのサイクルの右上の点は、冷却無しのサイクルよりも低い温度とエントロピとを示す。この点は、燃焼のピーク温度を示す。したがって、冷却の量は、この燃焼のピーク温度が選択された閾値を下回るように制御されてもよい。これにより、NOxの生成が抑制されるが、一方、同量の熱が放出されるため、エンジンの効率の低下を伴うことも避けられ得る。これは、燃焼シリンダの初期圧力と最終圧力との比が、冷却有りのサイクルと冷却無しのサイクルとの両方について同一であり得るためであり、エンジンサイクル効率がこの比に基づいて判定される。各サイクルの左上の点から右上の点へと延びる線の傾きは、熱エネルギから圧力への変換効率を示す。この傾きが緩いほど、変換効率が高いことを示す。
図3に示されるように、冷却有りのサイクルは、傾きがより浅いことから、熱エネルギから圧力への変換の効率がより高くなり得る。
【0053】
図4は、等圧線を加えた
図3のスプリットサイクル内燃エンジンの動作の例示的な温度エントロピ線図を示す。等圧線は、燃焼の初期圧力に対する最終圧力の比が冷却有りのサイクルと冷却無しのサイクルとの両方のサイクルについて同じであることを示す。この結果、両サイクルは、同レベルのエンジン効率で動作している。しかし、「冷却有り」サイクルの温度が冷却無しの場合よりも低くなるように制御されているため、燃焼の最大温度は、低くなり得る。さらにこれにより、NOxおよび/または微粒子の生成が抑制され得る。
【0054】
図5は、N-ドデカンと、メタン(CH
4)と、イソオクタンと、の燃焼について、燃焼相関関係における異なる開始温度と、それぞれに対応する最終温度と、の例を示すグラフである。このグラフは、開始温度におけるこれらの燃料それぞれの当量比の値も指示する。このグラフはさらに、これを超えると通常、NOxが生成される終了温度の領域も示し、その線は約2200ケルビンの最終温度に示される。通常、NOxの生成の温度の値は、本明細書内で挙げられた各燃料について同一である。例えば、選択された閾値は、NOxの生成が起こる温度の通常の値に基づいて選択されてもよい。このグラフはさらに、通常、燃料の完全燃焼が発生する開始温度の領域を示す。図示されるように、この領域は約690ケルビンの温度から約1600ケルビンの温度にまで広がっている。例えば、冷却閾値は、完全燃焼が発生する範囲の低い値に基づいて選択されてもよい。これは、燃焼の開始温度が同低い値を下回ると、燃料が完全に点火、燃焼せず、燃焼が非効率になり得るためである。
【0055】
グラフは、N-ドデカンが燃料であり、開始温度の範囲が690ケルビンから820ケルビンの場合、NOx域内の燃焼の最終温度に入ることなく完全燃焼が起こり得ることを示す。グラフは、当量比の温度範囲0.4-0.48にわたって、これが発生することを示す。当量比0.5と0.52とについては、この温度範囲内の低い開始温度の場合、燃焼の最終温度は、NOx域に到達しない。しかし、開始温度が高い場合、燃焼の最終温度は、NOx域に到達し得る。一例として、当量比が0.5、開始温度が約690ケルビンの場合、燃焼の終了温度は約2100ケルビンでNOx域に入っていない。別の例として、当量比が0.5、開始温度が820ケルビンの場合、燃焼の終了温度は約2220ケルビンでNOx域に入っている。これは、開始温度をある範囲に収めるよう制御することにより、所定の当量比について、燃焼の最終温度がNOx域に入ることを避け、よって、NOxの生成を抑制し得ることを示す。
【0056】
グラフに示されるように、当量比は、燃料-空気当量比(φ)である。ドデカンについて、燃料-空気当量比が0.4の場合、空気-燃料当量比(λ)は、2である。燃料-空気当量比は、リーン閾値に基づいて選択されてもよい。リーン比は、燃料-空気当量比に基づいて定義されてもよい。例えば、リーン閾値は、燃料-空気当量比0.4に基づいて選択されてもよく、これが0.42でもよく、0.44でもよく、0.46でもよく、0.48でもよく、0.5でもよい。燃料と作動流体混合物とのリーン度合いがある値を下回る場合、微粒子の生成が起こり得る。リーン閾値は、この値に基づいて選択されてもよい。微粒子の生成には、エンジン内のすすの発生が含まれてもよい。作動流体と燃料との混合物のリーン度合いは、混合物が微粒子の生成を避けるために十分リーンであるように制御されてもよい。通常、微粒子の生成は、燃料が十分な酸素と混合されず不完全燃焼が発生する、燃料の「リッチ域」の結果として起こる。さらに燃焼は、化合物HCやCO(これらが存在することにより、通常、燃焼が非効率的になる)の生成を避けるように制御され得る。当量比は、局所当量比に基づいてもよく、燃焼シリンダについての平均当量比に基づいてもよく、これらの両方に基づいてもよい。
【0057】
別の態様では、
図1または
図2のいずれかのエンジン100は、燃焼シリンダ20へと流入する作動流体の流れが選択された基準を満たすように、コントローラ60がクロスオーバ通路30内の作動流体の少なくとも1つの熱力学的性質を制御するように動作してもよい。特に、コントローラ60は、作動流体が速度閾値を超える速度で燃焼シリンダ20に流入するように、クロスオーバ通路30内の作動流体の圧力と濃度とのうち少なくとも一方を制御するように構成される。速度閾値は、燃焼シリンダ20へと流入する作動流体が、燃料と、燃焼シリンダ20内の作動流体と、のリーンな混合を実現するように選択される。例えば、作動流体は、大量の乱流を発生させ、燃料インジェクタ82を越える流体の速い流れを実現するような速度で吸入弁18を通って流入してもよい。燃焼シリンダ20へと燃料が噴射されると、この燃料は作動流体の流速に従って好適に分散してもよい。これにより、周囲よりも高い温度で燃える「燃料のポケット」の発生数が抑えられ得て、したがって、形成されるNOxおよび/またはすすの量が抑えられ得る。さらにこれにより、燃料が完全に反応し、熱分解生成物を残さず、したがって、より高い割合の燃料が消費されて有用な出力を産出されることが可能になる。
【0058】
運転時、コントローラ60は、クロスオーバ通路30内の作動流体の圧力と濃度とのうち少なくとも一方の指示を受信するように構成される。この指示は、圧力および/または濃度がここから判定され得る、好適な熱力学的パラメータを測定するように構成され得るクロスオーバセンサ31から受信されてもよい。コントローラ60は、測定されたパラメータと、圧力および/または濃度の対応する値と、の相関関係を示すルックアップテーブルまたは数学的モデルを用いて、圧力および/または濃度を判定してもよい。コントローラ60は、この判定された値を入力閾値と比較するように構成される。入力閾値は、速度閾値以上の速度での作動流体の燃焼シリンダへの流入を生じさせることが期待されるクロスオーバ通路内の測定されたパラメータの値でもよい。コントローラ60は、この比較に基づいて、作動流体の圧力および/または濃度を制御するように構成される。作動流体の圧力および/または濃度は、流体が速度閾値を上回る速度で燃焼シリンダ20へと流入するように制御される。
【0059】
速度閾値は、作動流体との燃料のリーンな混合を実現するために、燃焼シリンダ20への、および燃焼シリンダ20内の流体の乱流を引き起こす速度となるように選択される。速度閾値の値は、クロスオーバ通路30内の作動流体の圧力および/または濃度に基づいて判定されてもよく、さらに燃焼シリンダ20と吸入弁18との寸法に基づいて判定されてもよく、燃焼シリンダ20へと流入する流体の流れをモデル化するために使用され得る。したがって、速度閾値の値は、速度閾値での燃焼シリンダ20へと流入する作動流体の流れによって、燃料のリーンな混合が実現するように選択される。燃料のリーンな混合は、完全燃焼が発生し、微粒子の生成が抑制されるように、選択される。任意に、リーン度合いは、すべての燃料が一度に点火するのではなく、燃料の点火が燃焼ストローク期間にわたってずらして発生するように選択されてもよく、これにより、エンジン100からの動力の出力がより一定に供給され得る。例えば、速度閾値は350メートル/秒(m/s)超であってもよく、345m/sであってもよく、343m/sであってもよく、340m/sであってもよく、335m/sであってもよく、330m/sであってもよく、325m/sであってもよく、320m/sであってもよく、310m/sであってもよく、300m/sであってもよい。ただし、この値はエンジンの異なるパラメータに応じて決まることから、非常に高くも低くもなり得ることが理解されよう。例えば、圧力または濃度は速度閾値の値に影響を及ぼし得る。通常、これらの速度では、燃焼シリンダ20へと流入する流体の流れは、燃焼シリンダ20へと流入する作動流体の流れと干渉する音速を超えた現象であるチョーク流れとなる。
【0060】
入力閾値は、速度閾値および/または燃焼シリンダ20内の乱流の選択されたレベルに基づいて選択される。例えば、入力閾値は、経験上のデータおよび/または燃焼シリンダ20内の乱流の関連付けられたレベルの指示を提供する数学的モデルに基づいて選択されてもよい。入力閾値は、当該入力閾値での圧力および/または濃度を有する作動流体が速度閾値で燃焼シリンダ20へと流入するように、選択されてもよい。
【0061】
コントローラ60は、作動流体の圧力および/または濃度が入力閾値を上回るという判定に応じて、作動流体の圧力および/または濃度を制御するように構成される。コントローラ60は、冷却システムを用いて作動流体の圧力および/または濃度を制御してもよい。コントローラ60は、圧力および/または濃度が入力閾値を下回るという判定に応じて、冷却システムの動作を制御するように構成される。これにより、作動流体の温度が下がり得て、クロスオーバ通路30内により大きな圧力および/または高い濃度が実現し得る。例えば、973Kおよび7MPaのエンジン100では、温度を700Kに下げることにより、40%の濃度上昇がもたらされる。冷却システムの動作の程度は、作動流体の圧力および/または濃度と入力閾値との値の差異の程度に基づいて判定されてもよい。
図1と
図2との例では、冷却システムは、エンジン100の圧縮シリンダ10へとクーラントを噴射するクーラントインジェクタ14を備える。この冷却システムの動作は、圧縮シリンダ10へと噴射されるクーラントの量を増加させることを含んでもよい。コントローラ60は、判定された流体の圧力および/または濃度に基づいて噴射されるクーラントの量をさらに制御してもよい。
【0062】
クロスオーバ通路30内の圧力の上昇は、クロスオーバ通路30と燃焼シリンダ20との圧力差を増加させ、したがって、燃焼シリンダ20への吸入弁18が開状態へと移動することに応じて、燃焼シリンダ20へと流入する作動流体の流れはより高速となる。濃度の上昇は、燃焼シリンダ20内で気体を運搬する酸素の濃度を上昇させる。濃度の上昇により、さらに、燃焼シリンダ20内の作動流体の初期温度が低くなり、NOxの生成の可能性が低減する。この濃度上昇は、気体の質量を増加させ、その結果、燃焼時の圧力が上昇し、温度上昇は抑えられる。これにより、燃焼のピーク温度が低減し、よって、NOxの発生を抑制する。
【0063】
別の態様では、スプリットサイクル内燃エンジン100は、選択された弁開閉タイミングに基づいて動作してもよい。弁開閉タイミングには、吸入弁18が閉位置から開状態へと移動するピストンのサイクル中の第1位置に関連付けられたタイミングと、吸入弁18が開位置から閉状態へと移動するピストンのサイクル中の第2位置に関連付けられたタイミングと、を含む。吸入弁18がコントローラ60による制御は受けていない選択された位置で移動するように、第1位置と第2位置とは固定されてもよい。したがって、コントローラ60は、選択された位置に基づいて、入力閾値を判定してもよい。これには、吸入弁18が第1位置で開状態に移動した後、入力閾値におけるクロスオーバ通路30内の作動流体が速度閾値よりも速い速度で燃焼シリンダ20へと流入し得るように、各位置でのエンジン100の条件に基づいて、入力閾値の値を判定することが含まれる。
【0064】
別の態様では、スプリットサイクル内燃エンジン100は、燃焼シリンダ20に対する吸入弁18の移動の制御に基づいて動作してもよい。吸入弁18は、閉状態から開状態へと移動してもよい。開状態への移動は、流体がそこを介して燃焼シリンダ20へと流入するクロスオーバ通路内の作動流体用の断面積が設けられるような、弁の移動を含む。吸入弁18は、閉状態と、複数の開状態と、の間で移動するように構成されてもよい。複数の開状態は、それぞれ異なる断面積が画定される一連の個別の状態を含んでもよく、断面積が連続的に変化する連続した状態を含んでもよい。コントローラ60は、作動流体がそこを介して燃焼シリンダ20に流入するために選択された断面積が画定されるように、吸入弁18の移動を制御するように構成される。
【0065】
コントローラ60は、選択された断面積が確定されるように、吸入弁の移動を制御するように構成される。コントローラは、クロスオーバ通路30内の作動流体が断面積を介して、速度閾値を超える速度で燃焼シリンダ20へと流入するように、選択された断面積を選択するように構成される。コントローラ60は、受信されたエンジンのパラメータの指示に基づいて、選択された断面積を判定してもよい。例えば、コントローラ60は、(例えば、ベルヌーイの流れに基づく)数学的モデルを用いて、燃焼シリンダ20へと流入する流体の速度の推定値を判定するように構成されてもよい。コントローラ60は、例えば、数学的モデルまたはルックアップテーブルに基づいて、作動流体が速度閾値を下回る速度で燃焼シリンダ20へと流入するには、断面積が選択された断面積に限定される必要があると判定してもよい。したがって、コントローラ60は、吸入弁18を開状態へと移動するように制御してもよく、この開状態への移動には弁を開くことが含まれるが、必ずしも弁を全開状態まで開く必要はない。むしろ、弁は全開状態のある部分まで開かれてもよく、例えば、吸入弁は半開状態まで移動してもよい。吸入弁18を移動させる程度は、受信されたクロスオーバ通路30内の圧力の指示に基づいてもよい。例えば、クロスオーバ通路30内の圧力が非常に高い場合、コントローラ60は、断面積がより大きい場合でも、作動流体がなお速度閾値よりも速い速度で燃焼シリンダ20へと流入し得るため、全開状態にまで開くように吸入弁18を制御してもよい。別の例では、コントローラ60は、クロスオーバ通路30内の圧力があまり高くないと判定する場合があり、したがって、画定された断面積が非常に小さく、燃焼シリンダ20へと流入する作動流体の流れがずっと速くなるような、わずかに開いた状態まで開くように吸入弁18を制御してもよい。
【0066】
コントローラ60は、作動流体が速度閾値を超える速度で燃焼シリンダへと流入するように、弁リフトを制御するように構成される。作動流体が燃焼シリンダへと流入する速度は、通常、吸入弁18が開いたとき、またはその直後に起こる流れのピーク速度として判定されてもよい。この速度は、排気センサからの測定値に基づいて判定されてもよい。例えば、NOxおよび/または微粒子の生成が閾値レベルを上回ると排気センサが判定した場合、流速は低速すぎる。燃焼シリンダ20へと流入する作動流体の流速が速度閾値を上回るように吸入弁18の移動を制御することにより、燃焼シリンダ内の空気と燃料との混合物がリーン閾値を上回るリーン比となってもよい。リーン閾値は、完全燃焼を発生させ、微粒子の生成を抑制するために、燃料の各ユニットに十分な酸素が供給されるように、燃料と作動流体とが十分に混ぜ合わされると、微粒子の生成を抑制し得る。速度閾値を上回るように流速を制御することは、燃料と作動流体との混合について燃料インジェクタ82に対する要件が減るため、燃料インジェクタ82にかかる応力を低減し得る。これにより、インジェクタの寿命が延び得る。さらに、吸入弁18を低リフトで開く動作を続けることにより、移動の距離が短くなることで、吸入弁18の閉状態から開状態への移動に要する時間が短縮され得る。これにより、作動流体をクロスオーバ通路30から燃焼シリンダ20へと供給するプロセスの速度が早まる。この結果、吸入弁18は、ピストンのサイクル中のより遅いタイミングで開かれてもよい。
【0067】
コントローラ60は、吸入弁18の設計に関するデータに基づいて、吸入弁18の移動を判定してもよい。例えば、弁の形状または面摩擦レベルなどの寸法が考慮されてもよい。クロスオーバ通路30から燃焼シリンダ20への流体流路の詳細項目(例えば、形状、長さ、直径など)が、流速に影響を及ぼし得ることが理解されよう。コントローラ60は、流体の流れについて吸入弁18により画定される断面積を判定する際に、吸入弁18に特有であるルックアップテーブルにアクセスしてもよい。
【0068】
別の態様では、スプリットサイクル内燃エンジン100は、可変の弁開閉タイミングに基づいて動作してもよい。これは、吸入弁18が選択された第1位置で開状態へと移動した後に、速度閾値よりも速い速度で作動流体が燃焼シリンダ20へと流入するように、作動流体の圧力および/または濃度の判定された値に基づいて、第1位置と第2位置とをコントローラ60が選択することを含んでもよい。
【0069】
スプリットサイクル内燃エンジン、例えば、
図1と
図2とのスプリットサイクル内燃エンジン100の操作方法を、
図6を参照して以下に説明する。この方法は、ステップ600で開始し、ピーク温度の指示が受信されるステップ610に進む。前述のとおり、この指示は1つ以上のセンサから受信されてもよく、エンジンのパラメータに関する情報を提供してもよい。ステップ620では、ステップ610で受信された指示に基づいて、燃焼シリンダ20内の燃焼のピーク温度が判定される。ピーク温度は、前述のとおりに判定されてもよい。ステップ630では、判定されたピーク温度が選択された閾値と比較される。ピーク温度が選択された閾値を下回るという判定に応じて、方法はステップ640に進み、ピーク温度は冷却閾値と比較される。ステップ640では、判定されたピーク温度が冷却閾値を上回る場合、エンジンのピーク温度が好適な範囲内にあると判定される。次いで、方法は最初に折り返し、別のピーク温度の指示が受信される。この折り返しは可変の時間尺度で実施されてもよく、例えば、選択された期間に指示は受信されてもよく、エンジンのパラメータの値の変動がより大きい始動時に、より頻繁に指示は受信されてもよい。ステップ630での判定されたピーク温度が選択された閾値を上回るという判定に応じて、またはステップ640での判定されたピーク温度が冷却閾値を下回るという判定に応じて、方法はステップ650に進む。ステップ650では、冷却システムが、判定されたピーク温度に基づいて作動流体の温度を調節するように制御される。この温度は、燃焼のピーク温度を好適な範囲内に動かすことを目的として調節されてもよい。次いで、方法は、ステップ610に折り返す。受信された指示の頻度は、ステップ640よりも、ステップ650からの折り返しに対する方が高くてもよい。
【0070】
スプリットサイクル内燃エンジン、例えば、
図1と
図2とのスプリットサイクル内燃エンジン100の操作方法を、
図7を参照して以下に説明する。この方法のステップ700-740は、前述の
図6のステップ600-640にそれぞれ対応するため、その説明は省略する。ステップ750では、判定されたピーク温度が選択された閾値を上回ることに応じて、または判定されたピーク温度が冷却閾値を下回ることに応じて、作動流体の温度を調節するように吸入弁の開閉に対する第1位置と第2位置とが選択される。作動流体の温度は、燃焼のピーク温度を好適な範囲内(例えば、冷却閾値と選択された閾値との間)に動かすことを目的として調節されてもよい。
【0071】
スプリットサイクル内燃エンジン、例えば、
図1と
図2とのスプリットサイクル内燃エンジン100の操作方法を、
図8を参照して以下に説明する。この方法は、ステップ800で開始し、エンジンパラメータの指示が受信されるステップ810に進む。ステップ820では、ステップ810で受信された指示に基づいて、燃料の点火パラメータが判定される。点火パラメータは、前述のとおりに判定されてもよい。ステップ830では、点火パラメータが点火閾値と比較される。点火パラメータが点火閾値を上回るという判定に応じて、方法はステップ840に進み、点火パラメータは過剰反応度閾値と比較される。点火パラメータが過剰反応度閾値を下回ることに応じて、点火パラメータは好適な範囲内にあるとみなされ、方法はステップ810に折り返し、この折り返しは前述のとおりに実施される。点火パラメータが点火閾値を下回るか、過剰反応度閾値を上回るかのいずれかに応じて、方法はステップ850に進み、例えば、反応度がエンジンの動作について好適な範囲に収まるように作動流体を調節するように反応度調節器が作動される。
【0072】
スプリットサイクル内燃エンジン、例えば、
図1と
図2とのスプリットサイクル内燃エンジン100の操作方法を、
図9を参照して以下に説明する。この方法のステップ900-940は、前述の
図6のステップ600-640にそれぞれ対応するため、その説明は省略する。ステップ950では、判定されたピーク温度が選択された閾値を上回ることに応じて、または判定されたピーク温度が冷却閾値を下回ることに応じて、インジェクタの噴射位置が選択される。噴射位置は、前述のとおり、作動流体の温度を調節するように選択される。
【0073】
スプリットサイクル内燃エンジン、例えば、
図1と
図2とのスプリットサイクル内燃エンジン100の操作方法を、
図10を参照して以下に説明する。この方法は、ステップ1000で開始し、ピーク温度の指示が受信されるステップ1010に進む。ステップ1010で受信された指示に基づいて、燃焼のピーク温度の推定値が前述のとおり判定されてもよい。ステップ1030では、燃焼のピーク温度が選択された範囲に収まるように冷却システムが制御される。このステップは、燃焼のピーク温度が選択された範囲に対して低いか高いかに基づいて、作動流体の冷却の増大および/または低減を含んでもよい。
【0074】
スプリットサイクル内燃エンジン、例えば、
図1と
図2とのスプリットサイクル内燃エンジン100の操作方法を、
図11を参照して以下に説明する。この方法は、ステップ1100で開始し、エンジンパラメータの指示が受信されるステップ1110に進む。ステップ1120では、このエンジンパラメータの指示に基づいて、エンジンパラメータの値(
図11の例では、圧力および/または温度)が判定されてもよい。この判定は、指示の内容により決まる。これは、あるエンジンパラメータの値を処理して別のパラメータの値(圧力または温度)を求めるための熱力学的関係の使用を含んでもよい。ステップ1130では、判定されたパラメータ(圧力および/または温度)は、入力閾値と比較される。パラメータが入力閾値を上回ることに応じて、作動流体は燃焼シリンダでの使用に好適であるとみなされ、方法は1110に折り返す。パラメータが入力閾値までに収まることに応じて、方法はステップ1140に進み、作動流体が速度閾値よりも速い速度で燃焼シリンダ20へと流入するために好適な範囲に収まるように、作動流体のパラメータ(圧力/温度)が制御される。次いで、方法は、ステップ1110に折り返す。
【0075】
スプリットサイクル内燃エンジン、例えば、
図1と
図2とのスプリットサイクル内燃エンジン100の操作方法を、
図12を参照して以下に説明する。この方法のステップ1200-1230は、前述の
図11のステップ1100-1130にそれぞれ対応するため、その説明は省略する。ステップ1240では、吸入弁の移動は、作動流体がそこを介してクロスオーバ通路30から燃焼シリンダ20へと流入する吸入弁の開口の断面積を画定するように制御される。断面積は、前述のとおり、作動流体が速度閾値を超える速度で燃焼シリンダ20に流入するように選択される。
【0076】
NOxに関して説明してきたが、NOxという用語は、任意の適当な酸化窒素化合物、例えば、N2Oやその他の窒素と酸素との任意の組合せを包含するとみなされ得ることが理解されよう。窒素原子を1つ有する化合物のみに限定されると解釈されるものではない。
【0077】
ピストンのサイクルは周期的に循環するものであり、したがって、ピストンのサイクル中の後ろに発生するとは、時間的に後に発生することを示し得ることが理解されよう。ピストンの各サイクルは、燃焼ピストン22がその下死点(「BDC」)位置から開始されるとみなされ得る。ピストンのサイクル中、燃焼ピストン22は続いて、BDC位置から上死点(TDC)位置へと移動するように進み、その後、BDC位置へと戻って来る。したがって、例えば、ピストンのサイクルのより手前の/より後ろの位置で燃料を噴射するインジェクタや、ピストンのサイクルのより手前の/より後ろの位置での吸入弁開閉という記載は、BDCからBDCへと移動するピストンのサイクルに基づいている。
【0078】
図面全体を参照し、本明細書に記載のシステムと装置との機能性を示すために概略的な機能ブロック図が使用されていることが明白であろう。ただし、この機能性は図示のとおりに分割される必要はなく、記載された、または以下に請求されたもの以外のハードウェアのいかなる特定の構造をも暗示するものと解されるべきではないことが明白であろう。図面に示される1つ以上の部品の機能は、本開示の装置全体を通してさらに分割および/または分配されてもよい。いくつかの実施形態では、図面に示される1つ以上の部品の機能は、1つの機能体に統合されてもよい。
【0079】
いくつかの例では、1つ以上のメモリ要素は、本明細書に記載の動作を実行するために使用されるデータおよび/またはプログラム命令を格納することができる。本開示の実施形態は、本明細書および/または請求項に記載の1つ以上の方法を実行させるようにプロセッサをプログラミングし、および/または、本明細書および/または請求項に記載のデータ処理装置を提供するように動作可能なプログラム命令を含む、有形の非一時的記憶媒体を提供する。
【0080】
本明細書に概略説明された動作や装置は、論理ゲートのアセンブリなどの固定論理、またはプロセッサにより実行されるソフトウェアおよび/またはコンピュータプログラム命令などのプログラマブルロジックを用いて実施されてもよい。プログラマブルロジックのその他の例として、プログラマブルプロセッサ、プログラマブルデジタル論理(例えば、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、消去可能プログラマブル読み出し専用メモリ(EPROM)、電気的消去可能プログラマブル読み出し専用メモリ(EEPROM))、特定用途向け集積回路ASIC、またはその他の任意の種類のデジタルロジック、ソフトウェア、コード、電子的命令、フラッシュメモリ、光学ディスク、CD-ROM、DVD ROM、磁気カードまたは光学カード、電子的命令の格納に適したその他の種類の機械読取可能媒体、またはこれらの任意の組合せが挙げられる。
【0081】
前述の説明から、図面に示される実施形態は、単なる例示であり、本明細書に記載され請求項に示されるように、一般化、省略、または代用され得る特徴を包含することが明白であろう。本開示の文脈において、本明細書に記載された装置と方法との他の例や変形例が当業者には自明であろう。