(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-29
(45)【発行日】2024-06-06
(54)【発明の名称】廃プラスチックの評価方法、廃プラスチックの評価システム
(51)【国際特許分類】
B09B 3/40 20220101AFI20240530BHJP
C04B 7/38 20060101ALI20240530BHJP
F23G 5/20 20060101ALI20240530BHJP
G01N 33/22 20060101ALI20240530BHJP
G01N 33/44 20060101ALI20240530BHJP
B09B 101/75 20220101ALN20240530BHJP
【FI】
B09B3/40 ZAB
C04B7/38
F23G5/20 A
G01N33/22 A
G01N33/44
B09B101:75
(21)【出願番号】P 2021005618
(22)【出願日】2021-01-18
【審査請求日】2023-08-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下田 翔
【審査官】宮部 愛子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-082091(JP,A)
【文献】特開2000-272941(JP,A)
【文献】特開2004-292200(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0194681(US,A1)
【文献】特開2000-169197(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 3/40
C04B 7/38
F23G 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント燃料としての利用の可否を検討する対象の廃プラスチックである、対象廃プラスチックに対して分析を行って、前記対象廃プラスチックに含まれる固定炭素の質量比と、N、O及びS、又はC、N及びSのいずれか一方の元素群に属する全ての対象分析元素の構成比率を測定する工程(a)と、
予め記録されていた、固定炭素の質量比及び前記対象分析元素毎の構成比率を説明変数とし、廃プラスチックの燃え切り時間を被説明変数とする回帰式を読み出す工程(b)と、
前記工程(b)で読み出された前記回帰式に対して、前記工程(a)で測定された、前記対象廃プラスチックに含まれる固定炭素の質量比の値及び前記対象分析元素の構成比率の値をそれぞれ適用することで、前記対象廃プラスチックの燃え切り時間を演算処理によって推定する工程(c)とを有することを特徴とする、廃プラスチックの評価方法。
【請求項2】
前記工程(b)の実行よりも前に、予め前記回帰式を演算処理によって導出する工程(d)を有し、
前記工程(d)は、
廃プラスチックからなる複数のサンプルのそれぞれに対して分析を行って、前記複数のサンプルのそれぞれに含まれる固定炭素の質量比及び前記対象分析元素の構成比率を測定する工程(d1)と、
前記複数のサンプルのそれぞれに対して燃焼処理を行って、燃え切り時間を測定する工程(d2)と、
前記工程(d2)で測定された前記複数のサンプルのそれぞれの燃え切り時間を被説明変数とし、前記工程(d1)で測定された前記複数のサンプルのそれぞれに含まれる固定炭素の質量比の値及び前記対象分析元素の構成比率の値を説明変数とする重回帰分析を演算処理によって行って、前記回帰式を導出する工程(d3)と、
前記工程(d3)で導出された前記回帰式を記録する工程(d4)とを有することを特徴とする、請求項1に記載の廃プラスチックの評価方法。
【請求項3】
前記工程(c)で推定された前記対象廃プラスチックの燃え切り時間と予め記憶された基準時間とを対比して、前記対象廃プラスチックの取り扱いを決定する工程(e)を有し、
前記工程(e)は、前記工程(c)で推定された前記対象廃プラスチックの燃え切り時間が前記基準時間よりも短い場合には、前記対象廃プラスチックをセメントキルンの窯前に投入することを決定する工程であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の廃プラスチックの評価方法。
【請求項4】
前記工程(e)は、前記工程(c)で推定された前記対象廃プラスチックの燃え切り時間が前記基準時間よりも長い場合には、前記対象廃プラスチックをセメントキルンの窯尻に投入するか、前記対象廃プラスチックに対して破砕するか、又は前記対象廃プラスチックの受け入れを見送るかのいずれかに決定することを特徴とする、請求項3に記載の廃プラスチックの評価方法。
【請求項5】
セメント燃料としての利用の可否を検討する対象の廃プラスチックである、対象廃プラスチックに対して分析を行って、前記対象廃プラスチックに含まれる固定炭素の質量比と、N、O及びS、又はC、N及びSのいずれか一方の元素群に属する全ての対象分析元素の構成比率を測定する分析設備と、
固定炭素の質量比及び前記対象分析元素毎の構成比率を説明変数とし、廃プラスチックの燃え切り時間を被説明変数とする回帰式が記録された記憶部と、
前記記憶部から前記回帰式を読み出すと共に、当該回帰式に対して、前記分析設備で測定された前記対象廃プラスチックに含まれる固定炭素の質量比の値及び前記対象分析元素の構成比率の値を適用して、前記対象廃プラスチックの燃え切り時間を演算処理によって推定する演算処理部とを備えることを特徴とする、廃プラスチックの評価システム。
【請求項6】
前記記憶部は、前記回帰式に関する情報が更新可能に構成されていることを特徴とする、請求項5に記載の廃プラスチックの評価システム。
【請求項7】
前記記憶部は、燃え切り時間に関する基準時間に関する情報を記録しており、
前記演算処理部は、前記対象廃プラスチックの燃え切り時間の推定結果と、前記記憶部から読み出された前記基準時間との対比結果から、前記対象廃プラスチックの取り扱い方法に関する結果情報を出力することを特徴とする、請求項5又は6に記載の廃プラスチックの評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃プラスチックの評価方法、及び廃プラスチックの評価システムに関する。特に、セメント燃料としての利用に適しているかどうかの観点から、廃プラスチックを評価する方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
中国における廃プラスチック(以下、「廃プラ」と略記することがある。)の輸入規制に加え、廃プラの輸出に係るバーゼル法改正の影響等で各国の廃プラ受入規制が加速し、今後、国内において更なる廃プラ処理量の増加が見込まれている。
【0003】
一方で、廃プラは焼成用燃料として利用可能な程度の熱量を有している。そこで、セメントキルン(ロータリーキルン)においてセメントクリンカの焼成に利用される、主燃料である微粉炭の代替燃料(補助燃料)として、廃プラの利用が検討されている。従来、燃料リサイクルの観点から、セメントキルンの燃料として廃プラ等の可燃性固形廃棄物を用いる場合には、セメントクリンカの品質や製造工程に与える影響の小さい、セメントキルンの窯尻部や仮焼炉で利用されてきた。しかし、窯尻部や仮焼炉での可燃性固形廃棄物の使用量が飽和に近づいたため、窯前部に設置されている主バーナにおいて可燃性固形廃棄物を利用することが検討されている。
【0004】
しかしながら、セメントキルンの主バーナにおいて、廃プラ等の可燃性固形廃棄物を補助燃料として利用した場合、主バーナから噴出された可燃性固形廃棄物がセメントキルン内のセメントクリンカ上に着地し、その表面で燃焼を継続する現象(以下、「着地燃焼」と称する。)が生じる場合がある。この着地燃焼が生じると、可燃性固形廃棄物の着地点周辺のセメントクリンカが還元焼成され、セメントクリンカの色調の変化等を生じさせるため、好ましくない。
【0005】
例えば、下記特許文献1には、上記の課題に鑑みて、廃プラ等の可燃性固形廃棄物を浮遊状態で燃焼させるための技術について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-237571号公報
【文献】特開平4-227781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、廃プラの利用拡大が見込まれる状況においては、これまで工場で使用実績のない未知の廃プラをセメント燃料として受け入れる可能性がある。このため、燃焼性の観点から、対象となる廃プラを窯前部に投入してもよいかどうかや、投入するにあたっての条件等の判断指標を、予め確立させておくことが好ましい。しかし、現時点において、対象となる廃プラを窯前部に投入してもよいかどうかの判断基準は、確立されていない。
【0008】
廃プラを窯前部に対して投入してもよいかどうかの判断指標の一つとして、廃プラの粒径が挙げられる。一般的には、粒径が大きい廃プラの場合、セメントキルン内の気流中で完全燃焼せずに、上述した着地燃焼が生じやすいと考えられている。このため、廃プラの粒径が基準値よりも小さい場合にのみ窯前部に対して投入することを許容する判断を行う方法が考えられる。
【0009】
しかし、本発明者の鋭意検討の結果、粒径がほぼ同等であっても廃プラによって燃え切り時間に差異が生じることが確認された。このため、粒径を基準にして、窯前部への受け入れ可否の判断を行った場合には、廃プラによっては着地燃焼を生じさせ、セメントクリンカの品質を低下させるおそれがある。なお、粒径がほぼ同等であっても廃プラによって燃え切り時間に差異が生じる点については、「発明を実施するための形態」の項において、
図6を参照して後述される。
【0010】
別の方法として、燃焼試験装置を用いて、受け入れ対象となる廃プラの燃焼性を直接計測することが考えられる。しかし、このような試験装置では、最大でも数g程度の少量のサンプルしか測定できない。特に廃プラの場合には成分が不均一であることが多く、このような事情の下では、前記サンプルにおける燃焼性の結果をもって、受け入れ対象となる廃プラの燃焼性の結果の代表値とすることは、信頼性の観点から困難である。また、信頼性を確保するために、繰り返し燃焼試験を行うことも考えられるが、かかる方法だと労力がかかる上、受け入れ可否の判断に多くの時間を要してしまう。
【0011】
ところで、石炭については、炭素含有量、HとCの原子数比及びOとCの原子数比等を指標として、燃焼性を評価する方法が知られている(上記特許文献2参照)。特に石炭の燃焼性は、固定炭素や燃料比(=固定炭素/揮発分)と密接な相関関係があることが一般的に知られており、これらの値から燃焼性を推定することが可能である。しかしながら、本発明者の鋭意検討の結果、廃プラについて同様の指標で燃焼性を評価したところ、高い相関性が得られず、実用的ではないことが確認された。この点は、「発明を実施するための形態」の項において、
図7を参照して後述される。
【0012】
本発明は、上記の課題に鑑み、簡易な方法で廃プラスチックの燃焼性を評価することのできる方法及びシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る廃プラスチックの評価方法は、
セメント燃料としての利用の可否を検討する対象の廃プラスチックである、対象廃プラスチックに対して分析を行って、前記対象廃プラスチックに含まれる固定炭素の質量比と、N、O及びS、又はC、N及びSのいずれか一方の元素群に属する全ての対象分析元素の構成比率を測定する工程(a)と、
予め記録されていた、固定炭素の質量比及び前記対象分析元素毎の構成比率を説明変数とし、廃プラスチックの燃え切り時間を被説明変数とする回帰式を読み出す工程(b)と、
前記工程(b)で読み出された前記回帰式に対して、前記工程(a)で測定された、前記対象廃プラスチックに含まれる固定炭素の質量比の値及び前記対象分析元素の構成比率の値をそれぞれ適用することで、前記対象廃プラスチックの燃え切り時間を演算処理によって推定する工程(c)とを有することを特徴とする。
【0014】
廃プラスチックに含まれる固定炭素の量(質量比)や、廃プラスチックに含まれる窒素(N)、酸素(O)及び硫黄(S)、又は炭素(C)、窒素(N)及び硫黄(S)といった対象分析元素毎の構成比率は、一般的な分析方法や分析装置を用いて容易に測定できる。例えば、固定炭素の質量比(固定炭素量)は、JIS M 8812に準拠した工業分析によって容易に測定でき、対象分析元素毎の構成比率は、例えば市販の有機元素分析計を用いて容易に測定できる。つまり、上記方法によれば、対象となる廃プラスチックに対して、固定炭素の質量比及び対象分析元素の構成比率を測定した上で、この測定結果に関する情報を事前に取得されていた回帰式に適用するのみで、対象廃プラスチックが未知の廃プラスチックであっても、燃え切り時間を演算処理によって推定することができる。
【0015】
前記廃プラスチックの評価方法は、前記工程(b)の実行よりも前に、予め前記回帰式を演算処理によって導出する工程(d)を有し、
前記工程(d)は、
廃プラスチックからなる複数のサンプルのそれぞれに対して分析を行って、前記複数のサンプルのそれぞれに含まれる固定炭素の質量比及び前記対象分析元素の構成比率を測定する工程(d1)と、
前記複数のサンプルのそれぞれに対して燃焼処理を行って、燃え切り時間を測定する工程(d2)と、
前記工程(d2)で測定された前記複数のサンプルのそれぞれの燃え切り時間を被説明変数とし、前記工程(d1)で測定された前記複数のサンプルのそれぞれに含まれる固定炭素の質量比の値及び前記対象分析元素の構成比率の値を説明変数とする重回帰分析を演算処理によって行って、前記回帰式を導出する工程(d3)と、
前記工程(d3)で導出された前記回帰式を記録する工程(d4)とを有するものとしても構わない。
【0016】
本発明者の鋭意検討の結果、多数の廃プラサンプルに対して、固定炭素の質量比と対象分析元素毎の構成比率の値を説明変数とし、燃え切り時間を被説明変数とする重回帰分析を行ったところ、極めて高い相関性を見出すことが確認された。つまり、予め上記工程(d)によって、廃プラサンプルに対して重回帰分析を行って回帰式を作成及び記録しておくことで、受け入れ候補となる対象廃プラスチックに対して、固定炭素の質量比や、N、O及びS、又はC、N及びSといった対象分析元素毎の構成比率を計測するのみで、未知の廃プラに対しても、高い精度で燃え切り時間を推定することが可能となる。
【0017】
なお、対象分析元素としては、N、O及びS、又はC、N及びSに加えて、臭素(Br)、塩素(Cl)といったハロゲン系元素やリン(P)を含むものとしても構わない。
【0018】
前記廃プラスチックの評価方法は、前記工程(c)で推定された前記対象廃プラスチックの燃え切り時間と予め記憶された基準時間とを対比して、前記対象廃プラスチックの取り扱いを決定する工程(e)を有し、
前記工程(e)は、前記工程(c)で推定された前記対象廃プラスチックの燃え切り時間が前記基準時間よりも短い場合には、前記対象廃プラスチックをセメントキルンの窯前に投入することを決定する工程であるものとしても構わない。
【0019】
上記方法によれば、対象廃プラスチックの燃え切り時間が基準時間よりも短時間であると推定されることから、セメントキルンの窯前に投入しても着地燃焼を招くおそれがないと考えられる。これにより、セメントクリンカの品質低下を招くことなく、廃プラスチックを有効に利用できる。
【0020】
また、上記方法において、前記工程(e)は、前記工程(c)で推定された前記対象廃プラスチックの燃え切り時間が前記基準時間よりも長い場合には、前記対象廃プラスチックをセメントキルンの窯尻に投入するか、前記対象廃プラスチックに対して破砕するか、又は前記対象廃プラスチックの受け入れを見送るかのいずれかに決定するものとしても構わない。
【0021】
工程(c)で推定された燃え切り時間が基準時間よりも長い場合には、対象廃プラスチックをセメントキルンの窯前に投入すると、着地燃焼を招く可能性がある。そこで、このような対象廃プラスチックについては、セメントキルンの窯尻に投入するか、破砕処理を行うことで、着地燃焼のおそれを低減しながらセメント燃料として利用できる可能性がある。また、工程(c)で推定された燃え切り時間によっては、この対象廃プラスチックをセメント燃料として利用するのを見送ることで、セメントクリンカの品質に対する影響を抑制できる。なお、燃え切り時間が短い場合には、廃プラスチックを受け入れる段階での破砕処理において廃プラスチック破砕機のスクリーン径を大きくし、より粗粒化した廃プラスチックをセメント燃料として利用することも可能である。
【0022】
また、本発明に係る廃プラスチックの評価システムは、
セメント燃料としての利用の可否を検討する対象の廃プラスチックである、対象廃プラスチックに対して分析を行って、前記対象廃プラスチックに含まれる固定炭素の質量比と、N、O及びS、又はC、N及びSのいずれか一方の元素群に属する全ての対象分析元素の構成比率を測定する分析設備と、
固定炭素の質量比及び前記対象分析元素毎の構成比率を説明変数とし、廃プラスチックの燃え切り時間を被説明変数とする回帰式が記録された記憶部と、
前記記憶部から前記回帰式を読み出すと共に、当該回帰式に対して、前記分析設備で測定された前記対象廃プラスチックに含まれる固定炭素の質量比の値及び前記対象分析元素の構成比率の値を適用して、前記対象廃プラスチックの燃え切り時間を演算処理によって推定する演算処理部とを備えることを特徴とする。
【0023】
上記システムによれば、セメント燃料として受け入れた実績のない未知の廃プラスチックであっても、分析設備で測定された固定炭素の質量比及び対象分析元素の構成比率の情報に基づいて、自動的に燃え切り時間を推定できる。この推定結果は、未知の廃プラスチックについての取り扱い方法の判断指標として活用できる。
【0024】
前記廃プラスチックの評価システムは、回帰式導出ユニットを備え、
前記回帰式導出ユニットは、
廃プラスチックからなる複数のサンプルのそれぞれに対して燃焼処理を行って燃え切り時間を測定する、サンプル用燃焼設備と、
前記複数のサンプルのそれぞれに対して分析を行って、前記複数のサンプルのそれぞれに含まれる固定炭素の質量比及び前記対象分析元素の構成比率を測定する、サンプル用分析設備と、
前記サンプル用燃焼設備で測定された、前記複数のサンプルのそれぞれの燃え切り時間を被説明変数とし、前記サンプル用分析設備で測定された、前記複数のサンプルのそれぞれに含まれる固定炭素の質量比の値及び前記対象分析元素の構成比率の値を説明変数とする重回帰分析を演算処理によって行って前記回帰式を導出する、回帰式導出処理部とを備え、
前記回帰式導出処理部は、前記回帰式を前記記憶部に記録するものとしても構わない。
【0025】
なお、上記において、前記サンプル用分析設備は、前記対象廃プラスチックの分析を行う分析設備と共通の設備であっても構わない。また、前記回帰式導出処理部は、前記記憶部から読み出した前記回帰式に基づいて前記対象廃プラスチックの燃え切り時間を推定する前記演算処理部と共通化されていても構わない。
【0026】
前記記憶部は、前記回帰式に関する情報が更新可能に構成されているものとしても構わない。
【0027】
上記構成によれば、廃プラスチックからなる複数のサンプルの数が増加することで、より推定精度が高められた回帰式を記憶部に更新することが可能となる。これにより、対象廃プラスチックの燃え切り時間をより精度よく推定できる。
【0028】
前記記憶部は、燃え切り時間に関する基準時間に関する情報を記録しており、
前記演算処理部は、前記対象廃プラスチックの燃え切り時間の推定結果と、前記記憶部から読み出された前記基準時間との対比結果から、前記対象廃プラスチックの取り扱い方法に関する結果情報を出力するものとしても構わない。
【0029】
上記システムによれば、セメント燃料として受け入れた実績のない未知の廃プラスチックであっても、セメントキルンの窯前部に投入してもよいかどうか等の、取り扱い態様に関する情報を自動的に出力できる。これにより、セメント工場の作業員の習熟度に関わらず、対象廃プラスチックに対する取り扱いに際して適切な判断が行える。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、簡易な方法で廃プラスチックの燃焼性を評価することができる。これにより、例えばセメント工場で受入実績のない未知の廃プラスチックであっても、セメントクリンカの品質への影響の有無を踏まえた上で、受入可能かどうか等の判断指標を簡易に示すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の廃プラスチックの評価システムの一実施形態の構成を模式的に示すブロック図である。
【
図2】本発明の廃プラスチックの評価方法の処理手順を示すフローチャートである。
【
図3】回帰式導出ユニットの一実施形態の構成を模式的に示すブロック図である。
【
図4】回帰式を導出する処理手順を示すフローチャートである。
【
図5】サンプル用燃焼設備の構成例を模式的に示す図面である。
【
図6】各サンプルSw(サンプルNo.1~17)に対する燃焼試験の結果を示すグラフである。
【
図7】各サンプルSwに含まれる固定炭素の質量比と各サンプルSwの燃え切り時間の関係を示すグラフである。
【
図8】各サンプルSwに対する燃え切り時間について、各サンプルSwに含まれる固定炭素の質量比を説明変数とする単回帰分析に基づく回帰式から算定された計算結果と、実測結果との関係を示すグラフである。
【
図9】各サンプルSwに対する燃え切り時間について、各サンプルSwに含まれる固定炭素の質量比、並びに窒素、酸素、及び硫黄の構成比率を説明変数とする重回帰分析に基づく回帰式から算定された計算結果と、実測結果との関係を示すグラフである。
【
図10】各サンプルSwに対する燃え切り時間について、各サンプルSwに含まれる固定炭素の質量比、並びに炭素、窒素、及び硫黄の構成比率を説明変数とする重回帰分析に基づく回帰式から算定された計算結果と、実測結果との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明に係る廃プラスチックの評価システム及び評価方法は、対象となる廃プラスチックの燃焼性を評価するためのシステム及び方法に関する。そして、この評価システム及び評価方法によって得られる、廃プラスチックの燃焼性の評価結果は、例えば、この廃プラスチックがセメント燃料としての利用に適しているかどうか、又は利用に際して留意すべき点がないかどうか等の判断材料として利用できる。
【0033】
本発明が対象とする廃プラスチックは、廃棄物処理法に定める一般廃棄物や産業廃棄物に含まれるプラスチック類を指し、例えば、家庭や店舗、事務所等から排出される容器や包装物等の一般系廃プラスチックと、プラスチック製品の製造、加工又は流通段階等の事業活動に伴って排出される産業系廃プラスチックとを含む。産業系廃プラスチックには、例えば廃タイヤも含まれる。これらの廃プラスチックは、出処が多岐に渡ることから、それぞれの構成成分に差異が生じることが想定される。特に、セメント工場において燃料として受け入れた実績のない廃プラスチック(未知の廃プラスチック)については、直ちにセメント燃料として受け入れることができるか否かの判断を行うことが難しい。本発明に係る廃プラスチックの評価システム及び評価方法は、このような未知の廃プラスチックであっても、簡易な方法で燃焼性を評価して、セメント燃料として受け入れる際の判断基準を提供することを可能にするものである。
【0034】
以下、本発明に係る廃プラスチックの評価システム及び評価方法について、適宜図面を参照して説明する。
【0035】
図1は、本発明に係る廃プラスチックの評価システム(以下、単に「評価システム」と略記することがある。)の一実施形態の構成を模式的に示すブロック図である。
図1に示す評価システム1は、分析設備3と、演算処理部5と、記憶部7と、回帰式導出ユニット10とを備える。なお、
図2は、評価システム1で行われる処理手順、すなわち、本発明に係る廃プラスチックの評価方法を模式的に示すフローチャートである。以下、適宜
図2内のステップ番号を参照しながら説明する。
【0036】
(ステップS1)
評価対象となる廃プラスチック(以下、「対象廃プラスチックTw」と称する。)が、分析設備3によって分析される。
【0037】
分析設備3は、対象廃プラスチックTwに対して分析を行って、対象廃プラスチックTwに含まれる固定炭素の質量比、並びに、窒素(N)、酸素(O)及び硫黄(S)、又は炭素(C)、窒素(N)及び硫黄(S)のいずれか一方の元素群に属する全ての元素(以下、「対象分析元素」と称する。)の構成比率を測定する設備である。分析設備3は、複数の装置を含んで構成されていても構わない。
【0038】
対象廃プラスチックTwに含まれる固定炭素の質量比(固定炭素量)を分析する装置としては、JIS M 8812「石炭類及びコークス類-元素分析方法」に準拠する方法を利用して分析する装置が利用できる。また、対象廃プラスチックTwの構成元素の分析装置としては、例えば市販の有機元素分析計が利用できる。
【0039】
なお、対象廃プラスチックTwの量が極めて多い場合であっても、あるタイミングで一時に持ち込まれた対象廃プラスチックTwについては、出処が共通であることから、相互に固定炭素の質量比や構成元素の比率に大きな齟齬がないと考えられる。このため、持ち込まれた対象廃プラスチックTwの全てに対して上記分析処理を行う必要はなく、抽出・選択された一部の対象廃プラスチックTwに対する分析結果をもって、当該タイミングで持ち込まれた対象廃プラスチックTwの全体に対する結果として構わない。すなわち、このステップS1に係る処理は、簡易且つ短時間で行うことができる。
【0040】
このステップS1が工程(a)に対応する。
【0041】
(ステップS2)
演算処理部5によって、記憶部7から回帰式iFに関する情報が読み出される。
【0042】
記憶部7は、回帰式導出ユニット10において予め作成された回帰式iFに関する情報を記録している。記憶部7は、例えばフラッシュメモリ、ハードディスク等の記憶媒体で構成される。回帰式iFは、廃プラスチックに含まれる固定炭素の質量比及び廃プラスチックの対象分析元素毎の構成比率を説明変数とし、廃プラスチックの燃え切り時間を被説明変数とするように規定されている。
【0043】
このステップS2が工程(b)に対応する。なお、回帰式導出ユニット10が回帰式iFを導出する方法については後述される。
【0044】
(ステップS3)
演算処理部5において、分析設備3における対象廃プラスチックTwの分析結果が回帰式iFに導入される。この結果、対象廃プラスチックTwの燃え切り時間d5が演算処理によって推定される。
【0045】
演算処理部5は、記憶部7から読み出した回帰式iFに対して、分析設備3における対象廃プラスチックTwの分析結果を適用することで、対象廃プラスチックTwの燃え切り時間d5を演算処理によって推定する。より詳細には、演算処理部5は、分析設備3から対象廃プラスチックTwに含まれる固定炭素の質量比iT1と、対象分析元素の構成比率iT2の各値を取得すると共に、これらの各値を記憶部7から読み出された回帰式iFに適用することで、対象廃プラスチックTwの燃え切り時間d5を算出する。演算処理部5は、この演算処理が実現可能なソフトウェア手段又は専用のハードウェア手段で構成される。
【0046】
このステップS3が工程(c)に対応する。
【0047】
(ステップS4)
図2の例では、対象廃プラスチックTwの燃え切り時間d5に基づいて、対象廃プラスチックTwの取り扱い方法が決定される。例えば、記憶部7には、予め基準時間τに関する情報が記録されている。演算処理部5は、基準時間τと、推定した対象廃プラスチックTwの燃え切り時間d5とを対比して、対象廃プラスチックTwの取り扱い方法に関する情報を出力する。
【0048】
具体的には、演算処理部5は、推定した対象廃プラスチックTwの燃え切り時間d5の値が基準時間τよりも十分短時間である場合には、対象廃プラスチックTwをセメントキルンの窯前に投入可能である旨の情報を出力する。一方、推定した対象廃プラスチックTwの燃え切り時間d5の値が基準時間τよりも長時間である場合には、その差異の大きさに応じて、対象廃プラスチックTwをセメントキルンの窯尻に投入する、対象廃プラスチックTwに対して破砕処理を行う、対象廃プラスチックTwをセメント燃料として受け入れることを見送る、等のオプションを出力する。これにより、対象廃プラスチックTwが、セメント燃料として受け入れた実績のない未知の廃プラスチックである場合にも、セメント燃料として受け入れてもよいか否か、又は、受け入れるに際して留意すべき事項等を、簡易な処理によって認識できる。
【0049】
このステップS4が工程(e)に対応する。ただし、演算処理部5がステップS4に対応する演算処理を行うか否かは任意である。
【0050】
図3は、回帰式導出ユニット10の一実施形態の構成を模式的に示すブロック図である。
図3に示す回帰式導出ユニット10は、サンプル用分析設備13と、サンプル用燃焼設備14と、回帰式導出処理部15とを備える。
図4は、回帰式導出ユニット10において行われる回帰式iFの導出手順を模式的に示すフローチャートである。以下、適宜
図4内のステップ番号を参照しながら説明する。
【0051】
回帰式導出ユニット10では、回帰式iFを導出するために、事前に準備された廃プラスチックからなる複数のサンプルSwに対して処理が行われる。
【0052】
(ステップS11)
廃プラスチックからなる複数のサンプルSwが、サンプル用分析設備13によって分析される。このサンプル用分析設備13は、複数のサンプルSwのそれぞれに対して分析を行って、複数のサンプルSwのそれぞれに含まれる固定炭素の質量比及び対象分析元素の構成比率を測定する設備である。すなわち、サンプル用分析設備13は、
図1に示す分析設備3と同様の機能を有する設備である。なお、サンプル用分析設備13と分析設備3とを共通の設備で構成しても構わない。
【0053】
このステップS11が工程(d1)に対応する。
【0054】
(ステップS12)
複数のサンプルSwに対して、サンプル用燃焼設備14によって燃焼処理が行われる。このサンプル用燃焼設備14は、各サンプルSwを燃焼させると共に、燃え切り時間の測定が可能な構成である。
【0055】
図5は、サンプル用燃焼設備14の一例を模式的に示す概念図である。このサンプル用燃焼設備14は、急速昇温を模擬するために電気加熱バッチ式の縦型管状炉で構成されている。詳細には、サンプル用燃焼設備14は、反応管41と、加熱部42と、計測部43とを含む。
【0056】
反応管41は、例えばアルミナ製の円管であり、上部と下部にはそれぞれ冷却用の水冷ジャケット45が装着されている。加熱部42は、例えばらせん型の炭化ケイ素発熱体で構成される。加熱部42と反応管41とは一体化されており、鉛直方向dVに移動可能である。
【0057】
計測部43は、例えばコンピュータと電子天秤を含んで構成される。電子天秤の底面からは、耐熱性の高い部材からなる吊下げフック46が設置されており、この吊下げフック46には、廃プラスチックからなるサンプルSwが収容されたバスケットが取り付けられている。バスケットは、例えば白金製である。
【0058】
サンプル用燃焼設備14は、反応管41に対して底面側から雰囲気ガスを導入するためのガス供給口51、及び、反応管41内でサンプルSwが燃焼した後の燃焼排ガスを排出するためのガス排出口52を備える。更に、計測部43(特に電子天秤)を燃焼排ガスから保護する観点から、計測部43内を陽圧にする目的で不活性ガス(例えば窒素ガス)を導入するための不活性ガス供給口53が設けられている。
【0059】
まず、計測部43(電子天秤)に対して、廃プラスチックからなるサンプルSwが収容されたバスケットを吊るしておく。そして、加熱部42からの発熱によって、反応管41内の温度を所定の温度(例えば1400℃)に加熱させた後、この反応管41を速やかにバスケットの位置まで鉛直方向dVに移動させる。この移動が完了した時点を燃焼開始時刻とし、計測部43(電子天秤)によって測定される質量を連続的に測定することで、サンプルSwの燃焼時間が計測される。
【0060】
燃焼時間は、例えば電子天秤の計測値が恒量となった時点の質量をサンプル中の可燃分が完全燃焼としたときの質量とみなした上で、この可燃分の99%が燃え切った時間(99%反応時間)として計測される。
【0061】
図5に示すサンプル用燃焼設備14は、あくまで一例である。サンプル用燃焼設備14は、セメント原料がセメントキルン内で燃焼されるような高温環境下において、廃プラスチックからなるサンプルSwの燃焼時間を計測可能であれば、どのような装置構成であっても構わない。
【0062】
このステップS12が工程(d2)に対応する。
【0063】
(ステップS13)
回帰式導出処理部15において、ステップS12で測定された複数のサンプルSwのそれぞれの燃え切り時間を被説明変数とし、ステップS11で測定された複数のサンプルSwのそれぞれに含まれる固定炭素の質量比の値及び対象分析元素の構成比率の値を説明変数とする重回帰分析が、演算処理によって行われる。この結果、回帰式iFが作成される。
【0064】
回帰式導出処理部15は、この回帰式の作成処理が実現可能なソフトウェア手段又は専用のハードウェア手段で構成される。作成される回帰式iFの具体的な例については、実施例の項で後述される。
【0065】
このステップS13が工程(d3)に対応する。
【0066】
(ステップS14)
回帰式導出処理部15で作成された回帰式iFが、記憶部7に記録される。なお、回帰式導出処理部15を構成する機能的手段がコンピュータで構成される場合、このコンピュータからネットワーク回線と通じて回帰式iFに関する情報が記憶部7に記録されるものとしても構わないし、同じコンピュータ内に構築されている記憶領域からなる記憶部7に記録されるものとしても構わない。
【0067】
このステップS14が工程(d4)に対応する。
【実施例】
【0068】
以下、実施例を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、この実施例の内容には限定されない。
【0069】
下記表1は、検証に利用された、廃プラスチックからなる複数のサンプルSwの工業分析値及び元素分析値である。各サンプルSwは、セメントキルンの窯前にて利用可能な、20~30mm径のスクリーンを有する破砕機を通過した破砕品である。つまり、各サンプルSwは粒径が20mm前後で共通化されている。
【0070】
なお、表2は、各項目の測定方法を示している。この測定処理(分析処理)の少なくとも一部が、ステップS11に対応する。
【0071】
【0072】
【0073】
なお、元素分析において、酸素(O)の構成比率については、例えばJIS M 8813に準拠した差数法により算出された。詳細には、廃プラスチックからなる各サンプルSwの構成成分が、酸素(O)、炭素(C)、水素(H)、窒素(N)、硫黄(S)、及び灰分(不燃分)のみであると仮定して、100%から酸素以外の成分の質量%を引いた値をもって、含有酸素率とした。
【0074】
(燃焼試験)
燃焼試験としては、ステップS12において上述した方法が採用された。すなわち、
図5に示すサンプル用燃焼設備14を用いて、表1に示す各サンプルSwに対して燃焼試験を行い、可燃分の99%が燃え切った時間(99%反応時間)を測定することで、各サンプルSwの燃え切り時間が測定された。
【0075】
図6は、各サンプルSw(サンプルNo.1~17)に対する燃焼試験の結果を示すグラフである。各サンプルSwにつき、それぞれ4グラムを秤量した上で燃焼試験が行われた。なお、同一サンプル内での不均一性や測定バラツキを考慮するために、それぞれのサンプルに対して3回の繰り返し試験が行われた。
【0076】
図6において、横軸は各サンプル番号を示し、縦軸は燃焼時間を示している。
図6のグラフ上のプロットは3回分の測定結果の平均値を示しており、プロット上下のエラーバーは標準偏差を示している。
【0077】
廃プラスチックの燃焼は、燃焼反応初期に起こる揮発分放出による揮発分燃焼と、試料中の固定炭素の燃焼に起因するチャー燃焼の大きく二つの段階に分けられる。この燃焼試験では、燃焼開始の時点から、1秒あたりの可燃分の減少率が1%を下回った時点までの経過時間をもって、揮発分放出時間とされた。また、チャー燃焼時間は、上述した方法で計測された燃え切り時間と揮発分放出時間との差によって算出された。
【0078】
図6の結果によれば、揮発分放出時間については各サンプルSw間で大きな相違はない一方で、チャー燃焼時間については各サンプルSw間で相違が確認される。チャー燃焼時間は、燃料内(すなわち各サンプルSw内)の固定炭素の量に影響を受ける。この結果、各サンプルSwの燃焼時間は、各サンプルSwに含まれる固定炭素の質量比に左右される可能性が高いと推定される。一方で、上述したように、各サンプルSwは粒径が20mm前後で共通化されていることから、粒径を同等にした場合であっても、燃え切り時間に差異が生じることが確認された。
【0079】
(固定炭素の比率に基づく単回帰分析)
そこで、各サンプルSw(サンプルNo.1~17)のそれぞれについて、固定炭素の質量比と燃え切り時間(99%反応時間)の相関関係を確認すべく、燃え切り時間を被説明変数、固定炭素の質量比[%]を説明変数とする単回帰分析を行った。この結果を、
図7及び
図8に示す。
【0080】
図7は、各サンプルSwに含まれる固定炭素の質量比と各サンプルSwの燃え切り時間との関係を示すグラフである。
図7において、横軸は各サンプルSwに含まれる固定炭素の質量比[%]を示しており、縦軸は各サンプルSwの燃え切り時間を示している。この例では、単回帰分析の結果、燃え切り時間をyとして、固定炭素の比率をxとすると、回帰式として y=0.1928x+0.7395 、決定係数 R
2=0.4477 が算出された。
【0081】
図8は、上記回帰式に対して各サンプルSwの固定炭素の質量比[%]を適用することで得られた計算値としての燃え切り時間を横軸とし、実測された燃え切り時間を縦軸としてグラフ化したものである。
【0082】
回帰式の決定係数R
2が1から大きく離れた値であることから、この回帰式は廃プラスチックの燃え切り時間を推定するモデルとしては、精度が低いことが分かる。このことは、
図8において、計算値が実測値から大きく離れていることにも現れている。つまり、固定炭素のみの単一パラメータによる単回帰分析では、廃プラスチックの燃え切り時間を推定するには不十分であることが分かる。この事実は、本発明者の鋭意研究により、新たに見出された知見である。
【0083】
(複数の被説明変数を用いた重回帰分析)
上記の知見に基づき、燃焼性に影響を及ぼすと予想される複数のパラメータ(被説明変数)を用いて、燃え切り時間に対する重回帰分析を行った。表3は重回帰分析に利用されたパラメータの一覧である。
【0084】
【0085】
なお、表3に示す工業分析値のうち、固定炭素以外の各項目(水分、灰分、揮発分)は、元素分析における酸素(O)の構成比率の算定に利用された。
【0086】
(実施例1)
各サンプルSw(サンプルNo.1~17)のそれぞれについて、燃え切り時間を被説明変数とし、固定炭素の質量比[%]、並びに窒素(N)、酸素(O)、及び硫黄(S)の構成比率を説明変数とする重回帰分析を行った。つまり、この実施例1では、窒素(N)、酸素(O)、及び硫黄(S)が対象分析元素に対応する。この結果を、表4及び
図9に示す。
【0087】
【0088】
表4によれば、t値の絶対値が 2 より大きく、P-値が 0.05 より小さいことから、t値及びP-値が5%の有意水準を満たしている。このことから、説明変数と被説明変数の関係が統計的に推認できることが分かる。
【0089】
表4の結果から、燃え切り時間yは、固定炭素の質量比[%]をx
1、窒素(N)の構成比率[%]をx
2、酸素(O)の構成比率[%]をx
3、硫黄(S)の構成比率[%]をx
4とすると、下記(1)式、
y=1.7192 +0.1870*x
1 - 0.7404*x
2 - 0.0425*x
3 + 3.0266*x
4 …(1)
によって規定される回帰式で算定されることが分かる。この例では、(1)式が
図1及び
図3を参照して上述した回帰式iFに対応する。
【0090】
図9は、(1)式に示す回帰式に対して各サンプルSwのそれぞれの値、すなわち、固定炭素の質量比[%]、窒素(N)の構成比率[%]、酸素(N)の構成比率[%]、及び硫黄(S)の構成比率[%]を適用することで得られた計算値としての燃え切り時間を横軸とし、実測された燃え切り時間を縦軸としてグラフ化したものである。
【0091】
図9によれば、
図8の結果と比較すると、計算値が実測値に対して近似した値を示していることが分かる。また、回帰式の決定係数R
2 = 0.9253 であり、1に極めて近い値であることからも、(1)式に示す回帰式は、廃プラスチックの燃え切り時間を推定するモデルとして、極めて精度が高いことが分かる。
【0092】
(実施例2)
各サンプルSw(サンプルNo.1~17)のそれぞれについて、燃え切り時間を被説明変数とし、固定炭素の質量比[%]、並びに炭素(C)、窒素(N)、及び硫黄(S)の構成比率を説明変数とする重回帰分析を行った。つまり、この実施例2では、炭素(C)、窒素(N)、及び硫黄(S)が対象分析元素に対応する。この結果を、表5及び
図10に示す。
【0093】
【0094】
表5においても、表4と同様に、t値の絶対値が 2 より大きく、P-値が0.05 より小さいことから、t値及びP-値が5%の有意水準を満たしている。このことから、説明変数と被説明変数の関係が統計的に推認できることが分かる。
【0095】
表5の結果から、燃え切り時間yは、固定炭素の質量比[%]をx
1、炭素(C)の構成比率[%]をx
5、窒素(N)の構成比率[%]をx
2、硫黄(S)の構成比率[%]をx
4とすると、下記(2)式、
y= -1.7475 + 0.1816*x
1 + 0.0408*x
5 - 0.6171*x
2 + 3.4561*x
4 …(2)
によって規定される回帰式で算定されることが分かる。この例では、(2)式が
図1及び
図3を参照して上述した回帰式iFに対応する。
【0096】
図10は、(2)式に示す回帰式に対して各サンプルSwのそれぞれの値、すなわち、固定炭素の質量比[%]、炭素(C)の構成比率[%]、窒素(N)の構成比率[%]、及び硫黄(S)の構成比率[%]を適用することで得られた計算値としての燃え切り時間を横軸とし、実測された燃え切り時間を縦軸としてグラフ化したものである。
【0097】
図10によれば、
図9と同様に、計算値が実測値に対して近似した値であることが分かる。また、回帰式の決定係数R
2 = 0.9036 であり、1に極めて近い値であることからも、(2)式に示す回帰式が、(1)式に示す回帰式と同様に廃プラスチックの燃え切り時間を推定するモデルとして、極めて精度が高いことが分かる。
【0098】
以上によれば、廃プラスチックからなる各サンプルSwに対して、固定炭素の質量比と対象分析元素(N、O及びS、又はC、N及びS)毎の構成比率の値を説明変数とし、燃え切り時間を被説明変数とする重回帰分析を行うことで得られた回帰式iFによって、未知の廃プラスチックの燃え切り時間を精度よく推定できることが分かる。この回帰式iFは、上述したように、ステップS11~S13の各工程を経て作成された後、記憶部7に記録される。
【0099】
つまり、本発明に係る評価システム及び評価方法によれば、評価対象となる廃プラスチック(対象廃プラスチックTw)に対して、固定炭素の質量比や、含有されるN、O及びS、又はC、N及びSといった対象分析元素毎の構成比率を計測した後、予め作成された回帰式iFを読み出した上で、当該回帰式iFに対して計測結果の値を適用するだけで、対象廃プラスチックTwの燃え切り時間d5を精度良く推定できることが分かる。
【符号の説明】
【0100】
1 :評価システム
3 :分析設備
5 :演算処理部
7 :記憶部
10 :回帰式導出ユニット
13 :サンプル用分析設備
14 :サンプル用燃焼設備
15 :回帰式導出処理部
41 :反応管
42 :加熱部
43 :計測部
45 :水冷ジャケット
46 :吊下げフック
51 :ガス供給口
52 :ガス排出口
53 :不活性ガス供給口
Sw :サンプル
Tw :対象廃プラスチック
d5 :燃え切り時間
iF :回帰式
iT1 :固定炭素の質量比
iT2 :対象分析元素の構成比率