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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-29
(45)【発行日】2024-06-06
(54)【発明の名称】地震動の評価方法及び評価システム
(51)【国際特許分類】
   G01V 1/28 20060101AFI20240530BHJP
   G01M 7/02 20060101ALI20240530BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20240530BHJP
【FI】
G01V1/28
G01M7/02 H
G01M99/00 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021116088
(22)【出願日】2021-07-14
(65)【公開番号】P2023012586
(43)【公開日】2023-01-26
【審査請求日】2023-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】徳光 亮一
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-026000(JP,A)
【文献】特開2018-200313(JP,A)
【文献】徳光 亮一 他,隣接地点間の地震動の空間変動に影響を与える表層地盤深さの推定,日本地震学会2020年度秋季大会,2020年,S16P-01
【文献】徳光 亮一 他,表層の地盤物性が隣接地点間における地震動の空間変動に与える影響に関する検討,日本地震工学会論文集,第19巻,第5号,2019年,156~169頁
【文献】高田 毅士 他,台湾集集地震記録に基づく地震動のマクロ空間相関特性,日本建築学会構造系論文集,2003年03月,第565号,41~48頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 1/28
G01M 7/02
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物へ入力される地震動の大きさを評価する方法であって、
隣接する地点の各々において地震観測記録として得られた波形に対し、これら波形間での振幅の平均波形成分<u>と、各波形の振幅と前記平均波形成分との間の残差を表すばらつき波形成分uを算出して、前記波形間のばらつき度合い指標εを下記の第1計算式
【数1】
によって計算し、
前記ばらつき度合い指標ε、表層地盤におけるS波速度の不均質性の変動係数μ、不均質媒質の波数k、地震波の波数k、地震波の散乱角ψ、地震波の伝播距離hを、下記の第2計算式
【数2】
に適用して、3次元表層地盤モデルの不均質パラメータである、前記表層地盤中のS波速度における水平方向の相関距離aと鉛直方向の相関距離aとを算出し、
前記水平方向の相関距離aと前記鉛直方向の相関距離aを基に、不均質性が反映された前記3次元表層地盤モデルを構築し、前記地震動の大きさを評価することを特徴とする地震動の評価方法。
【請求項2】
建物へ入力される地震動の大きさを評価する、地震動の評価システムであって、
隣接する地点の各々における地震観測記録として得られた波形に対し、これら波形間のばらつき度合い指標を計算する、ばらつき度合い指標の計算部と、
表層地盤のボーリング調査記録を使用して、前記表層地盤のS波速度、及び前記S波速度の不均質性の変動係数を推定する、S波速度の特性推定部と、
前記ばらつき度合い指標と、前記S波速度の不均質性の変動係数を基に、3次元表層地盤モデルの不均質パラメータである、前記表層地盤中のS波速度における水平方向の相関距離と鉛直方向の相関距離を推定する、表層地盤の不均質パラメータの推定部と、
前記水平方向の相関距離と前記鉛直方向の相関距離を基に、FEM解析のための前記3次元表層地盤モデルを構築する、3次元表層地盤モデル構築部と、
前記3次元表層地盤モデルの最下端に地震動を入射し、前記表層地盤中で伝播させて、前記表層地盤の最上端点に到達する入力地震動を推定することで、前記建物へ入力される地震動の大きさを評価する、入力地震動の評価部と、
を備えることを特徴とする地震動の評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震動の評価方法及び評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば下記特許文献1に見られるように、地震時に、地表に設置した地震計等から得られた地震観測記録に基づいて、建物の揺れの大きさを推定するための各種の建物の地震応答評価手法が開発されている。
このような従来の建物の地震応答評価手法においては、一般的に、建物を1質点系または多質点系でモデル化し、基礎底面に相当する質点に、地表に設置した地震計等によって観測された地震動をそのまま入力して建物の応答を評価している。
【0003】
特許文献2には、地盤調査に基づき物性値の平均及び標準偏差を計算し、地盤モデルの物性値に反映する構成が開示されている。このような構成により、地盤の物性値のばらつきが地盤の安定性解析に与える影響を考慮しながら、地盤振動の解析を行うものとしている。
また、特許文献3には、振動計により観測した地表の水平成分及び垂直成分の微動のスペクトルを求め、周波数応答関数の近似値を算出し、既知のデータから設定される表層地盤プロファイルとの対比により、周波数応答関数を決定する構成が開示されている。
【0004】
実際の地盤の物性は不均質である。このため、地盤の物性の不均質により、地震動のばらつきが生じ、特に高振動領域における地震応答に影響が及ぶことがある。
より高い精度で地震動を評価することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-120139号公報
【文献】特開2005-336914号公報
【文献】特開平7-146373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、建物への入力地震動を高い精度で評価する、地震動の評価方法及び評価システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明の地震動の評価方法は、建物へ入力される地震動の大きさを評価する方法であって、隣接する地点の各々において地震観測記録として得られた波形に対し、これら波形間での振幅の平均波形成分<u>と、各波形の振幅と前記平均波形成分との間の残差を表すばらつき波形成分uを算出して、前記波形間のばらつき度合い指標εを下記の第1計算式
【数1】
によって計算し、前記ばらつき度合い指標ε、表層地盤におけるS波速度の不均質性の変動係数μ、不均質媒質の波数k、地震波の波数k、地震波の散乱角ψ、地震波の伝播距離hを、下記の第2計算式
【数2】
に適用して、3次元表層地盤モデルの不均質パラメータである、前記表層地盤中のS波速度における水平方向の相関距離aと鉛直方向の相関距離aとを算出し、前記水平方向の相関距離aと前記鉛直方向の相関距離aを基に、不均質性が反映された前記3次元表層地盤モデルを構築し、前記地震動の大きさを評価することを特徴とする。
このような構成によれば、3次元表層地盤モデルの不均質パラメータである、表層地盤中のS波速度における水平方向の相関距離aと鉛直方向の相関距離aとを基に、不均質性が反映された3次元表層地盤モデルを構築することができる。
ここで、実際の地盤においては、水平方向よりも鉛直方向が、短い間隔で、速度構造が変化する。これに対応して、特に、上記のような構成においては、水平方向の相関距離aと、鉛直方向の相関距離aとが、それぞれ別のパラメータとして式中にあらわれて、それぞれが別の値として求まっている。これにより、水平方向と鉛直方向で相関距離を同じ値として、等方的となるような場合に比べて、実際の地盤の特性を忠実かつ正確に、3次元表層地盤モデルに反映させることができる。
このようにして構築された3次元表層地盤モデルは、地盤の不均質性を、正確に評価したものとなる。このような地盤モデルを用いて地震動の大きさを評価することにより、建物への入力地震動を高い精度で評価することが可能となる。
【0008】
本発明の地震動の評価システムは、建物へ入力される地震動の大きさを評価する、地震動の評価システムであって、隣接する地点の各々における地震観測記録として得られた波形に対し、これら波形間のばらつき度合い指標を計算する、ばらつき度合い指標の計算部と、表層地盤のボーリング調査記録を使用して、前記表層地盤のS波速度、及び前記S波速度の不均質性の変動係数を推定する、S波速度の特性推定部と、前記ばらつき度合い指標と、前記S波速度の不均質性の変動係数を基に、3次元表層地盤モデルの不均質パラメータである、前記表層地盤中のS波速度における水平方向の相関距離と鉛直方向の相関距離を推定する、表層地盤の不均質パラメータの推定部と、前記水平方向の相関距離と前記鉛直方向の相関距離を基に、FEM解析のための前記3次元表層地盤モデルを構築する、3次元表層地盤モデル構築部と、前記3次元表層地盤モデルの最下端に地震動を入射し、前記表層地盤中で伝播させて、前記表層地盤の最上端点に到達する入力地震動を推定することで、前記建物へ入力される地震動の大きさを評価する、入力地震動の評価部と、を備えることを特徴とする。
このような構成によれば、地震観測記録として得られた波形間のばらつき度合い指標と、表層地盤のボーリング調査記録を使用して推定されるS波速度の不均質性の変動係数を基に、3次元表層地盤モデルの不均質パラメータである、表層地盤中のS波速度における水平方向の相関距離と鉛直方向の相関距離を推定して、3次元表層地盤モデルを構築する。
ここで、実際の地盤においては、水平方向よりも鉛直方向が、短い間隔で、速度構造が変化する。これに対応して、特に、上記のような構成においては、水平方向の相関距離と、鉛直方向の相関距離とが、それぞれ別のパラメータとして式中にあらわれて、それぞれが別の値として求まっている。これにより、水平方向と鉛直方向で相関距離を同じ値として、等方的となるような場合に比べて、実際の地盤の特性を忠実かつ正確に、3次元表層地盤モデルに反映させることができる。
このようにして構築された3次元表層地盤モデルは、地盤の不均質性を、正確に評価したものとなる。このような地盤モデルを用いて地震動の大きさを評価することにより、建物への入力地震動を高い精度で評価することが可能となる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、建物への入力地震動を高い精度で評価する、地震動の評価方法及び評価システムを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る地震動の評価システムの構成を示す図である。
図2】本実施形態に係る地震動の評価方法を示すフローチャートである。
図3】不均質媒質に入射した波動場が、不均質媒質内の基準点から観測点に到達する成分、及びこの成分に含まれる散乱場の成分を模式的に示した図である。
図4】検証例において、検証に用いた3次元不均質地盤モデルの形状を示す図である。
図5】検証例における、不均質地盤モデルの側面および地表面のS波速度の分布を示す図である。
図6】検証例における、応答波の時刻歴波形を示す図である。
図7】検証例における、応答波形のコヒーレントな成分<u>およびばらつき波形成分uを計算した結果を示す図である。
図8図7に示す応答波形のコヒーレントな成分<u>およびばらつき波形成分uのパワースペクトルを示す図である。
図9】検証例における、周波数fとln(<ε>+1)との関係を整理した結果を示す図である。
図10】検証例における、観測点間の離間距離との関係を示す図である。
図11】検証例における、相関距離の推定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本発明による地震動の評価方法及び評価システムを実施するための形態について、図面に基づいて説明する。
本発明の実施形態に係る地震動の評価システムの構成を図1に示す。
図1に示されるように、地震動の評価システム10は、データ記憶部11と、ばらつき度合い指標の計算部12と、S波速度の特性推定部13と、表層地盤の不均質パラメータの推定部14と、3次元表層地盤モデル構築部15と、入力地震動の評価部16と、表層地盤の解析結果の表示部17と、を備える。この地震動の評価システム10は、地盤上に構築された建物に対する入力地震動を評価する。
【0012】
データ記憶部11は、外部から入力された表層地盤のボーリング調査記録と、地震観測記録のデータを記憶する。表層地盤のボーリング調査記録は、建物の施工に先立ち、建物を施工する敷地、または建物の敷地を含む一定のエリアを調査対象エリアとして表層地盤のボーリング調査を行うことで得られる。ボーリング調査は、調査対象エリア内で1箇所、または複数個所で行う。また、地震観測記録は、建物を施工する敷地、またはこの敷地を含むエリア内で、建物の施工に先立って地震観測を実施することで得られる。地震観測記録は、例えば、地表に設置した地震計等から得られる地震動の波形である。地震観測記録は、敷地内の複数地点に地震計等を設置して地震観測を実施することで得る。
【0013】
ばらつき度合い指標の計算部12は、敷地内の地震計等が設置された複数地点のなかで、隣接する地点の各々における地震観測記録として得られた波形に対し、これら波形間のばらつき度合い指標を計算する。
S波速度の特性推定部13は、表層地盤のボーリング調査記録を使用して、表層地盤のS波速度と、S波速度の平均、及び不均質性の変動係数を推定する。
表層地盤の不均質パラメータの推定部14は、ばらつき度合い指標と、推定されたS波速度の不均質性の変動係数を基に、3次元表層地盤モデルの不均質パラメータである、表層地盤中のS波速度における水平方向の相関距離と鉛直方向の相関距離とを推定する。
3次元表層地盤モデル構築部15は、推定された水平方向の相関距離と鉛直方向の相関距離とを基に、FEM解析のための3次元表層地盤モデルを構築する。
入力地震動の評価部16は、構築された3次元表層地盤をFEM解析することで、建物へ入力される地震動の大きさを評価する。具体的には、入力地震動の評価部16は、3次元表層地盤モデルの最下端に地震動を入射し、表層地盤中で伝播させて、表層地盤の最上端点に到達する入力地震動を推定することで、建物へ入力される地震動の大きさを評価する。
解析結果の表示部17は、入力地震動の評価部16におけるFEM解析の結果として、建物へ入力される地震動の大きさの評価結果を表示する。
【0014】
図2は、本実施形態に係る地震動の評価方法を示すフローチャートである。
本実施形態に係る地震動の評価方法は、地震動の評価システム10で、予め設定されたコンピュータプログラムに基づいた処理を行うことで実施される。図2に示すように、地震動の評価方法では、地震観測記録を取得するステップS11と、地震記録として得られた波形の振幅の平均及び残差を計算するステップS12と、地震記録として得られた波形の振幅のばらつき度合いを計算するステップS13と、地盤調査データを取得するステップS14と、3次元表層地盤モデルの不均質パラメータを算出するステップS15と、3次元表層地盤モデルを構築するステップS16と、建物へ入力される地震動の大きさを評価するステップS17と、を含む。
地震動の評価システム10で地震動の評価を行うには、予め、表層地盤のボーリング調査を行うことで得られた表層地盤のボーリング調査記録と、地震観測を実施することで得られた地震観測記録のデータを、データ記憶部11に記憶させておく。
【0015】
地震観測記録を取得するステップS11では、データ記憶部11に記憶された地震観測記録のデータから、隣接する任意の2点より地震観測記録の波形u、uを抽出して取得する。
【0016】
地震記録として得られた波形の振幅の平均及び残差を計算するステップS12では、ステップS11で取得した2点の波形u、uに対し、下記の式(1)、式(2)により、各波形のコヒーレントな、波形間での振幅の平均波形成分<u>、および各波形の振幅と平均波形成分<u>との間の残差を表すばらつき波形成分(残差)uを算出する。
【数3】
地震記録として得られた波形の振幅のばらつき度合いを計算するステップS13では、ばらつき度合い指標の計算部12において、地震動のばらつき度合い指標εを、次に式(3)として示される第1計算式により計算する。
【数4】
地盤調査データを取得するステップS14では、建物の施工に先立ち、建物を施工する敷地、または建物の近傍を調査対象エリアとして表層地盤のボーリング調査等を行うことで得た、地盤調査データを、データ記憶部11から取得する。ステップS14では、S波速度の特性推定部13において、表層地盤のボーリング調査記録を使用し、表層地盤における各層のS波の(平均)伝播速度vおよびS波速度の不均質性の変動係数μを求める。
【0017】
3次元表層地盤モデルの不均質パラメータを算出するステップS15では、表層地盤の不均質パラメータの推定部14により、ばらつき度合い指標εと、S波速度の不均質性の変動係数μを基に、次に式(4)として示される第2計算式に基づき、3次元表層地盤モデルの不均質パラメータを算出する。式(4)は、地盤の不均質パラメータと、隣接地点間の地震動のばらつき度合い指標εとの関係を示す。ステップS15では、式(4)の第2計算式に基づき、3次元表層地盤モデルの不均質パラメータである、表層地盤中のS波速度における水平方向の相関距離aと、鉛直方向の相関距離aとを算出し、推定する。
【数5】
ここで、kは不均質媒質の波数、kは地震波の波数、ψは地震波の散乱角である。
また、上式(4)におけるhは、地震波の伝播距離、すなわち、隣接地点間の地震動のばらつきに影響を与える地震深さである。本実施形態においては、地震波の伝播距離hを、2点間の水平方向の離間距離ξにより、下記の式(5)のように表現している。
【数6】
表層地盤の不均質パラメータの推定部14は、例えば、上式(4)の左辺と右辺の差を目的関数として、これが0に近づくような最適化問題を解くことにより、水平方向の相関距離aと、鉛直方向の相関距離aとを算出するように構成することができる。
【0018】
3次元表層地盤モデルを構築するステップS16では、ステップS15で算出された、水平方向の相関距離aと鉛直方向の相関距離aを基に、不均質性が反映された3次元表層地盤モデルを構築する。
より具体的には、3次元表層地盤モデルを構築する際に、地盤要素の物性値の各々に、水平方向の相関距離aと鉛直方向の相関距離aを満足するようにランダム性を付与することにより、3次元表層地盤モデルに水平方向の相関距離aと鉛直方向の相関距離aの値を反映させる。
建物へ入力される地震動の大きさを評価するステップS17では、ステップS16で構築された、不均質性が反映された3次元表層地盤モデルに対してFEM解析を実施することで、表層地盤上の建物へ入力される地震動の大きさを評価する。このときのFEM解析では、3次元表層地盤モデルの最下端に地震動を入射し、表層地盤中で伝播させて、表層地盤の最上端点に到達する入力地震動を推定する。入力地震動の評価部16におけるFEM解析の推定結果は、解析結果の表示部17において、建物へ入力される地震動の大きさの評価結果として表示される。
【0019】
上式(4)として示される第2計算式は、次に説明されるように立式される。
まず、波形全体の振幅の大きさIは、コヒーレントな波形の振幅の大きさIおよび散乱に伴う波形の振幅の大きさIを用いて、次の式(6)のように表現できる。
【数7】
これにより、εは、上式(3)を用いて、次の式(7)のように表現できる。
【数8】
対象とする地盤内における波動場のエネルギーが一定の場合(内部減衰がない場合)、(7)式のI/Iは、次の式(8)のように、距離の指数関数で表現できる。
【数9】
ここで、αは散乱係数である。
【0020】
次に、式(8)における散乱係数αを求める。散乱理論に基づき、不均質媒質に入射する地震波の散乱係数αを不均質媒質の相関距離および変動係数で表現する。
図3に示すように、単位ベクトルsの方向で不均質媒質Vに入射した波動場が、不均質媒質V内の基準点Oからベクトルrに位置する観測点Pに到達する成分をU(r)とし、さらにU(r)に含まれる散乱場の成分をU(r)とすると、U(r)は、次の式(9)のように表現できる。
【数10】
ここで、r´は不均質媒質V内の基準点から不均質媒質V内の点Qまでの位置ベクトル、iは虚数単位である。
式(9)中のF(r´)は、不均質媒質Vにおける散乱ポテンシャルで、次の式(10)のように表現できる。
【数11】
ここで、n1(r´)は伝播速度の変動分である。
n1(r´)≪1の場合、式(10)は、次の式(11)のように近似できる。
【数12】
rがr´に比べて十分に大きい場合、式(9)中の|r-r´|は、次の式(12)のように近似できる。
【数13】
ここで、oは不均質媒質V内の基準点Oから観測点Pまでの単位ベクトルである。
【0021】
式(12)から、次の式(13)が得られる。
【数14】
式(13)を式(9)に代入すると、観測点Pにおいて観測される散乱場U(r)は、次の式(14)のように表現できる。
【数15】
ここで式(14)の右辺のf(o,s)は、不均質媒質Vに単位ベクトルsの向きに入射した平面波に対する単位ベクトルoの向きの散乱波の振幅を意味する。
式(14)のF(r´)に式(11)を代入すると、式(14)のf(o,s)は、次の式(15)のように表現できる。
【数16】
式(15)のU(r´)は、不均質媒質Vの伝播速度の変動が小さく、散乱が弱い場合、Born近似を適用し、次の式(16)のように表現できる。
【数17】
【0022】
式(16)を式(15)に代入すると、次の式(17)が得られる。
【数18】
式(17)において、k=k(s-o)とした。またベクトルkの大きさは、図3に示すように、単位ベクトルsと単位ベクトルoのなす角をθとすると、次の式(18)のようになる。
【数19】
ここで、不均質媒質Vにおいて、単位立体角から散乱される波動場の強さを、微分散乱断面積dσ(o、s)とすると、dσ(o、s)は散乱振幅f(o、s)との間に、次の式(19)のような関係がある。
【数20】
ここで、f(o、s)は、f(o、s)の共役複素数を示す。また、右辺の<>は平均を示す。
【0023】
式(19)のf(o、s)に式(17)を代入すると、次の式(20)のようになる。
【数21】
また、不均質媒質V内における基準点Oから位置ベクトルr´の地点およびr´の地点における伝播速度の変動分の相関関数をBn(r)とすると、Bn(r)は、次の式(21)のようになる。
【数22】
ここで、r=r´-r´である。
ベクトルrの大きさが、伝播速度の変動の相関距離よりも大きい範囲では、相関関数Bn(r)の値はほぼ無視できる。
(r´+r´)/2=rとし、式(21)を式(20)に代入すると、微分散乱断面積dσ(o、s)は、次の式(22)のように表現できる。
【数23】
ここで、dV、dVはそれぞれr、rによる微小体積である。
【0024】
不均質媒質Vにおける伝播速度の変動のスペクトル密度をφ(k)とすると、φ(k)は、相関関数Bn(r)のフーリエ変換で表現できることから、次の式(23)のようになる。
【数24】
式(23)を式(22)に代入すると、dσ(o、s)は、次の式(24)のように表現できる。
【数25】
不均質媒質Vからの散乱断面積σ(o、s)は、次の式(25)のように、微分散乱断面積dσ(o、s)を全立体角で積分することにより得ることができる。
【数26】
【0025】
式(25)に式(24)を代入し、dΩを極座標に変換すると、次の式(26)のように表現できる。
【数27】
ここで、φは平面波の入射方向(s)に対する偏角である。
なお、上記の式(6)~式(26)は、「光学の原理 第7版 III」(Born, M.,Wolf,E.著、草川徹訳)および「Wave propagation and scattering in random media」(Ishimaru,A著)を参考に導出している。
【0026】
ばらつき波形成分uの大きさに影響を与える散乱角の閾値をψとすると、球全体の表面積に対する閾値ψの範囲内の表面積の割合γは、次の式(27)のようになる。
【数28】
式(27)のγを用いて、一次散乱の範囲における散乱断面積σ(o、s)と散乱係数α(o、s)の関係を、次の式(28)のようにする。
【数29】
式(28)のスペクトル密度φ(k)について、非等方的なガウス型として、次の式(29)を定義する。
【数30】
ここで、aは、不均質媒質における、水平方向に延在する一の軸線方向であるx軸方向の相関距離、aは、水平面内においてx軸方向に直交する方向であるy軸方向の相関距離、aは、水平面と直交する鉛直方向であるz軸方向の相関距離である。また、ks1(=ksinθcosφ)は、不均質媒質におけるx軸方向の波数、ks2(=ksinθsinφ)は、不均質性を定義するy軸方向の波数、ks3(=k(1-cosθ))は、不均質性を定義するz軸方向の波数である。
【0027】
水平方向の不均質性は等方的、すなわちa=aが成立するものとする。
式(29)を式(28)に代入すると、係数α(o、s)は、次の式(30)のようになる。
【数31】
ここで式(18)より、kをθで微分すると、次の式(31)が得られる。
【数32】
式(18)および式(31)を、式(30)のsinθおよびcosθに代入すると、α(o、s)は、次の式(32)のように、kで積分した形式で表現できる。
【数33】
式(8)のI/Iの関係を式(7)に代入すると、<ε>とαの関係は、次の式(33)のようになる。
【数34】
式(33)のαに式(32)を代入し、両辺に対数をとると、式(4)のように、ガウス型による地盤の不均質性および地盤深さと地震動のばらつきとの関係式が得られる。
【0028】
上述したような地震動の評価方法は、建物へ入力される地震動の大きさを評価する方法であって、隣接する地点の各々において地震観測記録として得られた波形に対し、これら波形間での振幅の平均波形成分<u>と、各波形の振幅と平均波形成分<u>との間の残差を表すばらつき波形成分uを算出して、波形間のばらつき度合い指標εを式(3)として示した第1計算式によって計算し、ばらつき度合い指標ε、表層地盤におけるS波速度の不均質性の変動係数μ、不均質媒質Vの波数k、地震波の波数k、地震波の散乱角ψ、地震波の伝播距離hを、式(4)として示した第2計算式に適用して、3次元表層地盤モデルの不均質パラメータである、表層地盤中のS波速度における水平方向の相関距離aと鉛直方向の相関距離aとを算出し、水平方向の相関距離aと鉛直方向の相関距離aを基に、不均質性が反映された3次元表層地盤モデルを構築し、地震動の大きさを評価する。
このような構成によれば、3次元表層地盤モデルの不均質パラメータである、表層地盤中のS波速度における水平方向の相関距離aと鉛直方向の相関距離aとを基に、不均質性が反映された3次元表層地盤モデルを構築することができる。
ここで、実際の地盤においては、水平方向よりも鉛直方向が、短い間隔で、速度構造が変化する。これに対応して、特に、上記のような構成においては、水平方向の相関距離aと、鉛直方向の相関距離aとが、それぞれ別のパラメータとして式中にあらわれて、それぞれが別の値として求まっている。これにより、水平方向と鉛直方向で相関距離を同じ値として、等方的となるような場合に比べて、実際の地盤の特性を忠実かつ正確に、3次元表層地盤モデルに反映させることができる。
このようにして構築された3次元表層地盤モデルは、地盤の不均質性を、正確に評価したものとなる。このような地盤モデルを用いて地震動の大きさを評価することにより、建物への入力地震動を高い精度で評価することが可能となる。
【0029】
また、上述したような地震動の評価システム10は、建物へ入力される地震動の大きさを評価する、地震動の評価システム10であって、隣接する地点の各々における地震観測記録として得られた波形に対し、これら波形間のばらつき度合い指標εを計算する、ばらつき度合い指標の計算部12と、表層地盤のボーリング調査記録を使用して、表層地盤のS波速度、及びS波速度の不均質性の変動係数μを推定する、S波速度の特性推定部13と、ばらつき度合い指標εと、S波速度の不均質性の変動係数μを基に、3次元表層地盤モデルの不均質パラメータである、表層地盤中のS波速度における水平方向の相関距離aと鉛直方向の相関距離aを推定する、表層地盤の不均質パラメータの推定部14と、水平方向の相関距離aと鉛直方向の相関距離aを基に、FEM解析のための3次元表層地盤モデルを構築する、3次元表層地盤モデル構築部15と、3次元表層地盤モデルの最下端に地震動を入射し、表層地盤中で伝播させて、表層地盤の最上端点に到達する入力地震動を推定することで、建物へ入力される地震動の大きさを評価する、入力地震動の評価部16と、を備える。
このような構成によれば、地震観測記録として得られた波形間のばらつき度合い指標εと、表層地盤のボーリング調査記録を使用して推定されるS波速度の不均質性の変動係数μを基に、3次元表層地盤モデルの不均質パラメータである、表層地盤中のS波速度における水平方向の相関距離aと鉛直方向の相関距離aを推定して、3次元表層地盤モデルを構築する。
ここで、実際の地盤においては、水平方向よりも鉛直方向が、短い間隔で、速度構造が変化する。これに対応して、特に、上記のような構成においては、水平方向の相関距離aと、鉛直方向の相関距離aとが、それぞれ別のパラメータとして式中にあらわれて、それぞれが別の値として求まっている。これにより、水平方向と鉛直方向で相関距離を同じ値として、等方的となるような場合に比べて、実際の地盤の特性を忠実かつ正確に、3次元表層地盤モデルに反映させることができる。
このようにして構築された3次元表層地盤モデルは、地盤の不均質性を、正確に評価したものとなる。このような地盤モデルを用いて地震動の大きさを評価することにより、建物への入力地震動を高い精度で評価することが可能となる。
【0030】
(検証例)
ここで、上式(4)式の適用性を検証するため、3次元FEM不均質地盤モデルを用いた地震動シミュレーションにより計算した隣接地点間の応答波を対象に地震動のばらつきを計算し、式(4)を用いて地盤モデルの不均質パラメータを推定した。
検証に用いた3次元不均質地盤モデルの形状を図4に示す。モデルのサイズは水平2方向を300m、深さ方向を200mとした。またFEMモデルのメッシュサイズは1m×1mとした。
地盤の平均S波速度構造は300m/sとし、ばらつきのパターンがガウス型の自己相関関数に従うようにS波速度を変動させた。地盤の水平方向の相関距離aは30m、鉛直方向の相関距離aは3mとした。変動係数μは0.15とした。また初期乱数を変化させることにより、すべての検討ケースにおいて5種類の地盤モデルを作成した。
不均質地盤モデルの側面および地表面のS波速度の分布の例を図5に示す。
入力地震動はインパルス的な震動を与えることを目的に、y方向のみに振幅を持つ加振時間0.02秒の三角型関数の変位波形を地盤モデルの底面より鉛直方向に平面波入射した。また図4に太線Lで示すとおり、地盤モデル地表の中央部でx方向、y方向ともに長さ100mの線上に1.0m間隔で応答波形の抽出地点を設定し、変位応答の時刻歴波形を抽出した。応答波の抽出時間はモデル底面より入力を開始してから約2.5秒間とした。
【0031】
応答波の時刻歴波形の例として、表層でx=100~200m、y=150mの線上に位置する応答波抽出地点より5m間隔で応答波の時刻歴波形を描いた結果を図6に示す。
図6において、初動の波形が地点間で異なっているのが確認できる。また図6に示す時刻歴波形のうち、x=100mに示す波形とx=105mおよびx=150mに示す波形より、離間距離が5mおよび50mの応答波形のコヒーレントな成分<u>およびばらつき波形成分uを計算した結果を図7に示す。離間距離が5mの波形に比べ離間距離が50mの波形では、ばらつき波形成分の初動振幅が大きくなっている。
図7に示す応答波形のコヒーレントな成分<u>およびばらつき波形成分uのパワースペクトルを図8に示す。離間距離が5mの場合は、パワースペクトル振幅が全周波数帯にわたり、ばらつき波形成分uよりもコヒーレントな波形成分<u>の方が大きいのに対し、離間距離が50mの場合は、5Hz付近より高周波数側でほぼ同レベルとなっている。つまり、離間距離が大きくなるほどばらつき波形成分uのパワースペクトルが低周波数側から相対的に大きくなるのが確認できる。
【0032】
初期乱数が異なる5種類の不均質地盤モデルの地表において抽出したすべての応答波のうち、離間距離が5m、10m、15m、20m、25m、30mとなる観測点ペアより振幅の平均のパワースペクトルおよびばらつき波形成分のパワースペクトルの比の平均<ε>を計算し、周波数fとln(<ε>+1)との関係を整理した結果を図9に示す。離間距離が大きくなるほど、ln(<ε>+1)は大きな値となっている。周波数fが大きくなるほどln(<ε>+1)も大きくなる傾向が見られる。また観測点間の離間距離が小さいほど、ln(<ε>+1)も小さくなるのが確認できる。
図9の結果を式(4)に適用し、不均質地盤モデルの相関距離(a、a)を推定する。探索範囲はaが1~50mの範囲で1m単位、aがaの0.01、0.1、1.0、10、100倍の範囲で設定した。また式(4)において、hは、図10に示すように、地震計を設置した2点の観測点間の離間距離ξとの関係に基づき設定した。ψは、20°に設定した。
相関距離の推定結果を図11に示す。a、aともに、地震動シミュレーションにおいて設定した不均質地盤モデルの相関距離(a=30m、a=3m)をおおむね推定することができている。また、a、aの推定結果に基づき、式(4)で左辺のln(<ε>+1)を計算した結果を図9に破線で示す。式(4)によるln(<ε>+1)の評価(図9の破線)は、地震動シミュレーションの応答波形によるln(<ε>+1)の結果(図9の実線)をおおむね表現できている。
【符号の説明】
【0033】
10 地震動の評価システム 15 3次元表層地盤モデル構築部
12 ばらつき度合い指標の計算部 16 入力地震動の評価部
13 S波速度の特性推定部 V 不均質媒質
14 表層地盤の不均質パラメータの推定部
図1
図2
図3
図4
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図6
図7
図8
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図10
図11