(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-29
(45)【発行日】2024-06-06
(54)【発明の名称】平角線の被膜除去方法
(51)【国際特許分類】
H02G 1/12 20060101AFI20240530BHJP
H02K 15/04 20060101ALI20240530BHJP
H01F 5/00 20060101ALI20240530BHJP
H01F 41/10 20060101ALI20240530BHJP
H01B 7/02 20060101ALI20240530BHJP
H01B 7/00 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
H02G1/12 053
H02K15/04 E
H01F5/00 D
H01F41/10 C
H01B7/02 C
H01B7/00 303
(21)【出願番号】P 2021148780
(22)【出願日】2021-09-13
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100196346
【氏名又は名称】吉川 貴士
(72)【発明者】
【氏名】池田 遼太
【審査官】木村 励
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-21806(JP,A)
【文献】特開2021-40441(JP,A)
【文献】特開2001-86617(JP,A)
【文献】特開2003-324885(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 1/12
H01B 7/02
H01B 7/00
H02K 15/04
H01F 5/00
H01F 41/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面が矩形状をなす平角線の絶縁被膜を除去するための方法であって、
矩形状をなす前記平角線の断面を構成する第一の辺側の絶縁被膜を除去する第一被膜除去工程と、前記第一の辺と共に前記平角線の断面を構成し前記第一の辺と直交する第二の辺側の絶縁被膜を除去する第二被膜除去工程とを備えた平角線の被膜除去方法において、
前記第一及び第二被膜除去工程のうち
先に実施される前記
第一被膜除去工程よりも前に、
前記平角線の前記第一の辺側と対向する一対の平坦なプレス面を有する第一の辺側成形型と、前記平角線の前記第二の辺側と対向する一対の平坦なプレス面を有する第二の辺側成形型とを用いて、前記平角線のうち前記絶縁被膜の剥離が予定される領域を前記第一の辺及び前記第二の辺に沿った向きにプレスして、前記双方の辺の間の角部の曲率半径を小さくする曲率半径縮小工程をさらに備えることを特徴とする、平角線の被膜除去方法。
【請求項2】
前記第一及び第二被膜除去工程のうち先に実施される前記第一被膜除去工程よりも後に、
前記第二の辺に沿った向きの型締めにより、テーパ状をなし前記角部にC面取りを施すための第一成形面と、平坦状をなし前記第一の辺側の平坦面に型成形を施すための第二成形面とを有する一対の成形型を用いて、前記角部
に面取り加工を施す面取り工程をさらに備える請求項1に記載の平角線の被膜除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平角線の被膜除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に鑑み電気自動車やハイブリッド車など、車両の駆動装置やその周辺機器にモータを採用する動きが加速している。上記車両へ搭載されるモータには、搭載可能なスペースの関係上、小型であることが求められる一方で、車両の駆動性能を向上させるべく高出力であることが求められることが多い。
【0003】
ここで、モータの高出力化のためには、ステータコイルに流す電流値を高める必要がある。その一方で、スペースが制限された条件下で効率よくコイルに流れる電流値を高めるためには、断面が略矩形状をなし占積率が相対的に高い平角線(平角導線)でコイルを構成することが考えられる。
【0004】
この平角線は、ステータコアの円周方向に一定の間隔で形成されたスロット内に予め定められた順序で配置されることにより、三相のコイルを構成する。一方、この平角線は周囲を絶縁被膜で覆われた形態をなす。よって、各相を構成する平角線を電気的に接続するためには、平角線の端部の絶縁被膜を除去して平角線の端部同士を接合する必要がある。
【0005】
ここで、特許文献1には、予め所定の長さに切断して得た平角線をその長手方向軸線まわりに回転させながら所定の方向に平角線を搬送して、搬送方向に沿って設けられた複数の切削工程で、平角線の短辺側の絶縁被膜と長辺側の絶縁被膜を除去すると共に、平角線の角部に面取り加工を施して、絶縁被膜を平角線の全周にわたって除去する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、この種の加工に要するコストを低減することを考えた場合、初期設備投資だけでなくランニングコストをできる限り低く抑えることが重要となる。特許文献1に記載のように、絶縁被膜の除去と面取りを共に切削加工で実施した場合、必要な切削刃の数が多くなるため、切削刃の損耗に伴う交換コストが低ランニングコスト化の妨げとなる。この問題を解決するために、例えば切削加工による面取りを省略して、各辺2a,2bに沿った切削加工のみで平角線1の絶縁被膜2を導体3から除去する方法が考えられる(
図13を参照)。しかしながら、実際の平角線1の角部4は、
図14に示すように、相応の曲率半径を有する断面R形状をなしている。そのため、上述のように各辺2a,2bに沿った切削加工だけでは、角部4を覆う絶縁被膜2の一部が切削加工後の平角線1に残る可能性が高い。
【0008】
以上の事情に鑑み、本明細書では、ランニングコストの低減化を図りつつも、平角線の絶縁被膜を全周にわたって漏れなく除去可能とすることを、解決すべき技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題の解決は、本発明に係る平角線の被膜除去方法によって達成される。すなわち、この被膜除去方法は、平角線の絶縁被膜を除去するための方法であって、矩形状をなす平角線の断面を構成する第一の辺側の絶縁被膜を除去する第一被膜除去工程と、第一の辺と共に平角線の断面を構成し第一の辺と直交する第二の辺側の絶縁被膜を除去する第二被膜除去工程とを備えた平角線の被膜除去方法において、第一及び第二被膜除去工程のうち後に実施される第二被膜除去工程よりも前に、平角線に所定の型成形を施して、双方の辺の間の角部の曲率半径を小さくする曲率半径縮小工程をさらに備える点をもって特徴付けられる。
【0010】
このように、本発明に係る平角線の被膜除去方法では、矩形状をなす平角線の断面を構成する第一の辺側の絶縁被膜を除去する工程(第一被膜除去工程)と、第一の辺と直交する第二の辺側の絶縁被膜を除去する工程(第二被膜除去工程)のうち後に実施される被膜除去工程よりも前に、平角線に所定の型成形を施して、双方の辺の間の角部の曲率半径を小さくするようにした。このように、全ての辺に沿った絶縁被膜の除去加工を完了する前に、型成形により角部の曲率半径を小さく、言い換えると角部をより鋭くしておくことで、角部を覆う絶縁被膜を各辺の絶縁被膜に沿った状態に変形させ得る。そのため、各辺側の被膜除去加工を施すことで角部に残る絶縁被膜を完全に取り除くことができ、又は極力少なくすることができる。よって、切削による角部の面取り加工を省略して、各辺に沿った切削加工のみで、平角線の所要領域における絶縁被膜を全周にわたって漏れなく除去することができる。また、型成形であれば、切削刃のようにランニングコストを心配する必要もないため、角部の曲率増大化加工のために成形型が追加されたとしても、従来よりも切削刃の数を減らすことができる分だけランニングコストを低減化することが可能となる。
【0011】
また、本発明に係る平角線の被膜除去方法においては、第一及び第二被膜除去工程のうち先に実施される第一被膜除去工程よりも後に、角部に対して型成形による面取り加工を施す面取り成形工程をさらに備えてもよい。
【0012】
このように角部に対して型成形により面取り加工を施すことによって、切削カスを出すことなく角部に面取り部を形成することができる。よって、ランニングコストと材料コストの両面で低コスト化を図りつつ絶縁被膜を全周にわたって漏れなく除去することが可能となる。また、先に実施される第一被膜除去工程よりも後に面取り成形工程を実施することで、面取り成形加工により発生する絶縁被膜の突出変形部(バリとも呼ばれる)を第二の辺側に発生させることができる。よって、後工程となる第二被膜除去工程で第二の辺側の絶縁被膜と共にこの突出変形部を確実に除去することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明に係る平角線の被膜除去方法によれば、ランニングコストの低減化を図りつつも、平角線の絶縁被膜を全周にわたって漏れなく除去することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る平角線の製造方法の要部の手順を示すフローチャートである。
【
図2】
図1に示す曲率半径縮小工程を実施する前の平角線のY-Z断面図である。
【
図3】
図1に示す曲率半径縮小工程を実施した後の平角線のY-Z断面図である。
【
図4】短辺側プレカット工程の概念を示すX-Y平面図である。
【
図5】
図1に示す短辺側被膜除去工程を実施する前の平角線のY-Z断面図である。
【
図6】
図1に示す短辺側被膜除去工程を実施した後の平角線のY-Z断面図である。
【
図7】長辺側プレカット工程の概念を示す平角線のX-Z平面図である。
【
図8】
図1に示す面取り成形工程の概念を示す平角線のY-Z断面図である。
【
図9】
図1に示す長辺側被膜除去工程を実施する前の平角線のY-Z断面図である。
【
図10】
図1に示す長辺側被膜除去工程を実施した後の平角線のY-Z断面図である。
【
図11】
図1に示す切断工程の概念を示す平角線のX-Z平面図である。
【
図12】被膜除去加工及び面取り加工を施した後の平角線の端部の斜視図である。
【
図13】平角線の被膜除去加工の概念を示す平角線の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係る平角線の製造方法の内容を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1は、平角線の製造方法の要部の手順を示している。すなわち、本実施形態に係る平角線の製造方法は、平角線材の絶縁被膜を除去する被膜除去工程と、被膜を除去した平角線材を切断する切断工程S5を具備するもので、被膜除去工程は、曲率半径縮小工程S1と、短辺側被膜除去工程S2と、面取り成形工程S3と、長辺側被膜除去工程S4とを具備する。ここで、短辺側被膜除去工程S2が本発明に係る第一被膜除去工程に相当し、長辺側被膜除去工程S4が本発明に係る第二被膜除去工程に相当する。以下、各工程S1~S4を中心に説明する。なお、以下では、平角線材の長手方向をX方向、X方向に直交する平角線材の仮想断面において、平角線材の長辺方向をY方向、短辺方向をZ方向と便宜的に規定して、方向に関する説明を行う。
【0017】
(S1)曲率半径縮小工程
この工程S1では、後工程となる短辺側被膜除去工程S2及び長辺側被膜除去工程S4の前に、平角線材の角部の曲率半径を所定の型成形により縮小させる。本実施形態では、
図2に示すように、所定長さに切断される前の平角線1a(後述する
図12を参照)である平角線材1に対して所定の型成形を施すことで、平角線材1の角部、正確には、絶縁被膜2に覆われる導体3のうち角部4の曲率半径を縮小させる。ここでは、一対の平坦なプレス面11a,11aを有する短辺側成形型11と、一対の平坦なプレス面12a,12aを有する長辺側成形型12とを用いて、平角線材1のうち絶縁被膜2の剥離が予定される領域(剥離予定領域5:後述する
図4を参照)をY方向及びZ方向にプレスすることにより、導体3の四つ角に設けられた角部4の表面が隣接する導体3の短辺側平坦面3a及び長辺側平坦面3bに沿うように導体3を変形させる(
図3を参照)。これにより、角部4の外周に位置する絶縁被膜2の表面と各プレス面11a,12aとの間の空間を埋めるように角部4が突出変形し、この結果として、角部4の曲率半径が縮小する。
【0018】
(S6)短辺側プレカット工程
また、本実施形態では、短辺側及び長辺側成形型11,12による角部4の成形工程(曲率半径縮小工程S1)を実施する際、併せて、平角線材1の外周を覆う絶縁被膜2のうち、平角線材1の短辺側(エッジワイズ側ともいう)の平坦部2aに切れ目6を形成する(短辺側プレカット工程S6)。この切れ目6は、短辺側の平坦部2aの幅方向(本実施形態ではZ方向)に沿って形成される。また、切れ目6は平角線材1の長手方向(本実施形態ではX方向)に所定の間隔を空けて形成される。本実施形態では、導体3を介して互いに対向する一対の平坦部2aそれぞれに対して一組の切れ目6,6が形成される(
図4を参照)。これにより、剥離予定領域5が画定される。すなわち、一組の切れ目6,6間の領域が剥離予定領域5として画定される。
【0019】
(S2)短辺側被膜除去工程
この工程S2では、所定の型成形が施された平角線材1の所定領域(剥離予定領域5)に対して、所定の被膜除去手段により被膜除去処理を施す。この際、適用可能な被膜除去手段は任意であり、例えば
図5に示すように、剥離用の刃部材13を平角線材1の短辺側の平坦部2aのうち一組の切れ目6の間(
図4を参照)の部分に押し当て、幅方向(ここではZ方向)に滑らせることで、平坦部2aのうち一組の切れ目6で区画された部分が剥がされ、平角形状を成す導体3から除去される。上述した剥離動作(除去動作)は、導体3を介して互いに対向する一対の平坦部2aに対して行われる。上述した除去作業(切削加工)の完了時点では、
図6に示すように、平角線材1の絶縁被膜2のうち短辺側の平坦部2aのみが除去された状態にある。一方、長辺側(フラットワイズ側ともいう)の平坦部2bは未だ導体3の長辺側平坦面3bに付着した状態にある。
【0020】
なお、この際、絶縁被膜2の短辺側の平坦部2a全てを確実に除去(剥離)する観点から、カットラインL1は、絶縁被膜2と導体3との境界から導体3側にわずかにずれた位置に設定されるのがよい。図示例の場合だと、刃部材13の刃面13aのY方向位置が、カットラインL1のY方向位置と一致するように、平角線材1に対する刃部材13の位置が設定される。ここで、導体3の角部4は、前工程S1で鋭角化(曲率半径縮小化)されているので、上述したカットラインL1の位置で絶縁被膜2(平坦部2a)を剥離することで、角部4を覆う絶縁被膜2が完全に除去され(
図6に示す状態)、又はわずかに角部4上に残った状態となる。
【0021】
(S7)長辺側プレカット工程
また、本実施形態では、短辺側平坦部2aの除去工程S2と併せて、平角線材1の外周を覆う絶縁被膜2のうち、平角線材1の長辺側の平坦部2bに切れ目7を形成する(
図7に示す長辺側プレカット工程S7)。この切れ目7は、長辺側の平坦部2bの幅方向(本実施形態ではY方向)に沿って形成される。また、切れ目7は平角線材1の長手方向(本実施形態ではX方向)に所定の間隔を空けて形成される。本実施形態では、導体3を介して互いに対向する一対の平坦部2bそれぞれに対して一組の切れ目7,7が形成される(
図7を参照)。これにより、後工程となる長辺側被膜除去工程S4で除去(剥離)される平坦部2bの長手方向範囲が画定される。
【0022】
(S3)面取り成形工程
この工程S3では、前工程(曲率半径縮小工程S1)で鋭角化された角部4に対して型成形による面取り加工を施す。本実施形態では、短辺側被膜除去工程S2を実施した後の平角線材1の角部4に対して、型成形による面取り加工を施す。この際、適用可能な型成形手段は任意であり、例えば
図8に示すように、長辺方向(Y方向)の型締めにより、角部4を含む平角線材1の短辺側の部分を所定の形状に型成形可能な成形面を有する一対の成形型14が用いられる。本図示例に係る成形型14はそれぞれ、テーパ状をなし角部4にC面取りを施すための第一成形面14aと、平坦状をなし導体3の短辺側の平坦面3aに型成形を施す第二成形面14bとを有する。
【0023】
上記構成をなす一対の成形型14,14間に平角線材1の剥離予定領域5を配置し、一対の成形型14,14を接近させる(型締めする)ことにより、平角線材1の角部(導体3の角部4)及び露出状態にある導体3の短辺側平坦面3aに第一及び第二成形面14a,14bによる型成形を施す。この結果、角部4にテーパ状の面取り部8が成形される。また、角部4を第一成形面14aで成形するのと同時に、角部4と短辺側で隣接する導体3の短辺側平坦面3aを第一成形面14aと連続する第二成形面14bで成形することで、角部4の一部が第一成形面14aに沿って長辺側に変形すると共に、角部4の長辺側を覆っていた絶縁被膜2(の長辺側の平坦部2b)の端部2b1が押し曲げられた状態となる。以上のようにして、角部4の面取り成形加工が実施される。
【0024】
(S4)長辺側被膜除去工程
この工程S4では、角部4に対して型成形による面取り加工が施された平角線材1の所定領域(剥離予定領域5)に対して、所定の被膜除去手段により被膜除去処理を施す。この際、適用可能な被膜除去手段は任意であり、例えば
図9に示すように、剥離用の刃部材15を平角線材1の長辺側の平坦部2bのうち一組の切れ目7,7の間(
図7を参照)の部分に押し当て、幅方向(ここではY方向)に滑らせることで、平坦部2bのうち一組の切れ目7,7で区画された部分が剥がされ、導体3から除去される。上述した剥離動作(除去動作)は、導体3を介して互いに対向する一対の平坦部2bに対して行われる。これにより、平角線材1の剥離予定領域5における絶縁被膜2が全周にわたって除去され、四隅に面取り部8を有する導体3が露出した状態となる(
図10を参照)。
【0025】
なお、短辺側被膜除去工程S2と同様、絶縁被膜2の全ての長辺側の平坦部2bを確実に除去(剥離)する観点から、カットラインL2は、絶縁被膜2と導体3との境界から導体3側にわずかにずれた位置に設定されるのがよい。図示例の場合だと、刃部材15の刃面15aのZ方向位置が、カットラインL2のZ方向位置と一致するように、平角線材1に対する刃部材15の位置が設定される。ここで、絶縁被膜2の端部2b1は、面取り成形工程S3の際に導体3から遠ざかる向きに押し曲げられた状態にある。そのため、上述のように、絶縁被膜2と導体3の境界付近で絶縁被膜2の平坦部2bを導体3から剥離させることで、端部2b1を含む長辺側の平坦部2bの全てが導体3から確実に除去され得る。
【0026】
(S5)切断工程
以上のようにして、必要箇所(剥離予定領域5)の絶縁被膜2を全て除去した後、当該除去した部分を所定の切断手段(例えばせん断加工)で切断する。これにより、例えば
図11に示すように、長手方向端部で導体3が露出した状態の平角線1aが得られる。
【0027】
然る後、導体3の各角部、具体的には、平角線1aの最も先端側に位置する導体3の先端面3cと長辺側平坦面3bとの間の角部、及び、先端面3cと短辺側平坦面3aとの間の角部にそれぞれ面取り加工を施す。これにより、
図12に示すように、短辺側平坦面3aと長辺側平坦面3bとの間に第一面取り部9aが形成されると共に、先端面3cと長辺側平坦面3bとの間に第二面取り部9bが形成され、かつ先端面3cと短辺側平坦面3aとの間に第三面取り部9cが形成された平角線1aが得られる。このうち第一面取り部9aは、面取り成形工程S3で形成した面取り部8の一部であり、長辺側被膜除去工程S4で長辺側の絶縁被膜2(平坦部2b)を除去することで得られる。
【0028】
なお、第二及び第三面取り部9b,9cの形成手段(面取り加工手段)は任意であり、型成形が好適な一例として挙げられる。また、各面取り部9b,9cの形成順序(各面取り加工の順序)も任意であり、例えば切断工程S5の後に実施してもよく、切断工程S5以前に実施してもよい。また、切断工程S5以前に実施する場合、既述の各工程S1~S5と同時に実施することも可能である。一例として、第三面取り部9cを、短辺側の平坦部2aの除去加工(短辺側被膜除去工程S2)と同時に実施してもよく、第二面取り部9bを、導体3の切断加工(切断工程S5)と同時に実施してもよい。
【0029】
以上のようにして、平角線1aの端部に対する加工が完了した後、所定の曲げ加工等を施すことにより、コイルセグメントとしての平角線が完成する(図示は省略)。
【0030】
以上述べたように、本実施形態に係る平角線の製造方法では、矩形状をなす平角線材1の断面を構成する短辺側の絶縁被膜2(2a)を除去する工程S2と、長辺側の絶縁被膜2(2b)を除去する工程S4のうち後に実施される被膜除去工程S4よりも前に、所定の型成形を平角線材1の剥離予定領域5に施して、導体3の角部4の曲率半径を小さくするようにした。このように、全ての辺に沿った絶縁被膜2(2a,2b)の除去加工を完了する前に、型成形により角部4の曲率半径を小さくしておくことで、絶縁被膜2のうち角部4を覆う部分が各辺の絶縁被膜2(短辺側平坦部2aと長辺側平坦部2b)に沿った向きに変形するので、各辺の被膜除去加工を施した後に絶縁被膜2の一部が角部4の表面に残る事態を回避することができる。よって、切削による角部4の面取り加工を省略して、各辺に沿った切削加工(各被膜除去工程S2,S4)のみで、剥離予定領域5における全ての絶縁被膜2を確実に除去することができる。また、型成形であれば、切削刃のようにランニングコストを心配する必要もないため、角部4の曲率増大化加工のために成形型11,12(
図2を参照)が追加されたとしても、従来よりも切削刃の数を減らすことができる分だけランニングコストを低減化することが可能となる。
【0031】
また、本実施形態では、角部4に対して型成形により面取り加工を施すようにしたので、切削カスを出すことなく角部4に面取り部を形成することができる。よって、ランニングコストと材料コストの両面で低コスト化を図りつつ、剥離予定領域5における全ての絶縁被膜2を確実に除去することが可能となる。また、先に実施される短辺側被膜除去工程S2よりも後に面取り成形工程S3を実施することで、絶縁被膜2のバリ(突出した状態の端部2b1)を長辺側に発生させることができる。よって、後工程となる長辺側被膜除去工程S4で長辺側の絶縁被膜2(2b)と共にこの突出した状態の端部2b1を確実に除去することが可能となる。
【0032】
特に、本実施形態のように、短辺側被膜除去工程S2の後に面取り成形工程S3を実施し、然る後、長辺側被膜除去工程S4を実施することによって、確実に絶縁被膜2(2b)の端部2b1を除去でき、かつ残りの絶縁被膜2(2b)の除去と同時に除去できる(効率が良い)。加えて、面取り加工した後に長辺側の絶縁被膜2(2b)の除去を切断により行うのであれば、切断距離(Y方向の切断距離)が短くて済むため、刃部材15への負荷が軽減される。これによっても刃部材15の摩耗を抑制して刃部材15の交換に係るランニングコストを低減化することが可能となる。
【0033】
以上、本発明の一実施形態について述べたが、本発明に係る平角線の被膜除去方法は、その趣旨を逸脱しない範囲において、上記以外の構成を採ることも可能である。
【0034】
例えば、曲率半径縮小工程S1に関し、上記実施形態では、何れも平坦なプレス面11a,12aを有する成形型11,12を用いて、平角線材1の剥離予定領域5にY方向及びZ方向のプレスを施すことで、導体3の角部4を変形させる場合を例示したが、もちろん上記以外の態様で型成形を実施してもかまわない。例えば図示は省略するが、少なくとも何れか一方の成形型11(12)のプレス面11a(12a)を凸面形状として、型成形を施してもよい。この場合、導体3の角部4が各辺に沿った平坦面3a,3bよりも外側に突出した形状となるため、その後の被膜除去加工により角部4を覆う絶縁被膜2をより確実に除去することが可能となる。凸面形状の具体的な例として、平坦面とテーパ面との組み合わせ、又は断面円弧状など凸曲面形状などを挙げることが可能である。
【0035】
また、曲率半径縮小工程S1の順序に関し、上記実施形態では、短辺側被膜除去工程S2と長辺側被膜除去工程S4の何れよりも前に曲率半径縮小工程S1を実施する場合を例示したが、もちろんこれには限られない。例えば短辺側被膜除去工程S2の後でかつ長辺側被膜除去工程S4の前に実施するなど、後に行われる被膜除去工程よりも前に実施する限りにおいて曲率半径縮小工程S1の順序は任意に設定可能である。
【0036】
また、面取り成形工程S3に関し、本実施形態では、短辺側被膜除去工程S2の後でかつ長辺側被膜除去工程S4の前に面取り成形工程S3を実施する場合を例示したが、もちろんこれには限られない。例えば図示は省略するが、短辺側被膜除去工程S2と長辺側被膜除去工程S4の双方を実施した後に、面取り成形工程S3を実施してもかまわない。要は、少なくとも一方の被膜除去工程S2(S4)と曲率半径縮小工程S1を実施した後であれば、面取り成形工程S3は任意の順序で実施することが可能である。
【0037】
また、短辺側被膜除去工程S2と長辺側被膜除去工程S4の順序に関しても上記実施形態に記載の態様に限られることはなく、例えば長辺側被膜除去工程S4の後に面取り成形工程S3を実施し、然る後に短辺側被膜除去工程S2を実施してもかまわない。
【符号の説明】
【0038】
1 平角線材
1a 平角線
2 絶縁被膜
2a 短辺側平坦部
2b 長辺側平坦部
2b1 端部
3 導体
3a 短辺側平坦面
3b 長辺側平坦面
3c 先端面
4 角部
5 剥離予定領域
6,7 切れ目
8,9a,9b,9c 面取り部
11,12 成形型
13 刃部材
14 成形型
15 刃部材
L1,L2 カットライン
S1 曲率半径縮小工程
S2 短辺側被膜除去工程
S3 面取り成形工程
S4 長辺側被膜除去工程
S5 切断工程
S6 短辺側プレカット工程
S7 長辺側プレカット工程