(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-05-29
(45)【発行日】2024-06-06
(54)【発明の名称】クロロプレン共重合体ラテックス及びその製造方法、加硫物、並びに、浸漬成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 11/02 20060101AFI20240530BHJP
C08F 236/16 20060101ALI20240530BHJP
B29C 41/14 20060101ALI20240530BHJP
B29C 41/36 20060101ALI20240530BHJP
【FI】
C08L11/02
C08F236/16
B29C41/14
B29C41/36
(21)【出願番号】P 2021530625
(86)(22)【出願日】2020-06-30
(86)【国際出願番号】 JP2020025683
(87)【国際公開番号】W WO2021006118
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2023-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2019126035
(32)【優先日】2019-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(74)【代理人】
【識別番号】100160897
【氏名又は名称】古下 智也
(72)【発明者】
【氏名】小野塚 正雄
(72)【発明者】
【氏名】大塚 秀仁
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-126586(JP,A)
【文献】国際公開第2016/166998(WO,A1)
【文献】特開2019-143002(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
C08F2/00-2/60
C08F236/00-236/22
A41D19/00-19/04
B29C41/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロロプレン由来の構造単位と、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン由来の構造単位と、を有するクロロプレン共重合体を含有するクロロプレン共重合体ラテックスであって、
前記クロロプレン共重合体が、エタノール/トルエン共沸混合物を用いて当該クロロプレン共重合体から抽出される抽出物のガスクロマトグラフィーにおいてアビエチン酸由来のピークを与え、
前記クロロプレン共重合体におけるトルエン不溶分が50~95質量%であり、
前記クロロプレン共重合体ラテックスに基材を浸漬した後に100℃で30分間加硫することにより前記基材上に得られる膜のJIS K 6251に準拠した500%伸長時モジュラスが
3.5MPa以下である、クロロプレン共重合体ラテックス。
【請求項2】
前記膜のJIS K 6251に準拠した100%伸長時モジュラスが0.5~1.2MPaである、請求項1に記載のクロロプレン共重合体ラテックス。
【請求項3】
前記2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン由来の構造単位の含有量が、前記クロロプレン由来の構造単位と前記2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン由来の構造単位との合計量を基準として0質量%を超え35質量%以下である、請求項1
又は2に記載のクロロプレン共重合体ラテックス。
【請求項4】
加硫促進剤を含有していない、請求項1~
3のいずれか一項に記載のクロロプレン共重合体ラテックス。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか一項に記載のクロロプレン共重合体ラテックスの加硫物。
【請求項6】
請求項1~
4のいずれか一項に記載のクロロプレン共重合体ラテックスの浸漬成形体。
【請求項7】
手袋、風船、カテーテル又は長靴である、請求項
6に記載の浸漬成形体。
【請求項8】
請求項1~
4のいずれか一項に記載のクロロプレン共重合体ラテックスを浸漬成形する工程を含む、浸漬成形体の製造方法。
【請求項9】
請求項1~
4のいずれか一項に記載のクロロプレン共重合体ラテックスを得るための製造方法であって、
重合転化率60~95%までクロロプレンと2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンとを乳化重合させる重合工程を含み、
前記重合工程においてクロロプレンと2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンとの合計100質量部に対して2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンが0質量部を超え35質量部以下である、クロロプレン共重合体ラテックスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロロプレン共重合体ラテックス及びその製造方法、加硫物、浸漬成形体及びその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
クロロプレン重合体は、医療用手術手袋、検査手袋、工業用手袋、風船、カテーテル、ゴム長靴等の浸漬成形体の材料として知られている。
【0003】
浸漬成形体用のクロロプレン重合体に関する技術は種々提案されている。
下記特許文献1には、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン及び硫黄が特定の割合で共重合したクロロプレン系重合体ラテックスと、金属酸化物と、加硫促進剤と、酸化防止剤とを含有するラテックス組成物が記載されている。
下記特許文献2には、特定のテトラヒドロフラン不溶分量のクロロプレン系重合体ラテックス、金属酸化物、酸化防止剤、界面活性剤及びpH調整剤を含み、加硫促進剤を含まないゴム用組成物が記載されている。
下記特許文献3には、クロロプレン及びメタクリル酸を共重合させて得られる変性ポリクロロプレンと、水と、乳化剤と、カリウムイオンとを含有するポリクロロプレンラテックスが記載されている。
下記特許文献4には、クロロプレンと特定の共重合量の2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンとの共重合体を含有するメルカプタン変性ポリクロロプレンラテックスが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-044116号公報
【文献】国際公開第2016/166998号
【文献】特開2014-114342号公報
【文献】国際公開第2019/009038号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
浸漬成形体の膜に対しては、機械的特性として破断強度及び破断伸びを向上させることが求められる。これに対し、従来技術では、ポリマー構造の調整が不十分であったことから、高温又は長時間の加硫を行うことにより機械的特性を向上させることが必要であるものの、生産性向上及びコストダウンの観点から、加硫の低温化及び短時間化が求められる。この場合、例えば、加硫の短時間化のために加硫促進剤を用いることが考えられるものの、加硫促進剤は、皮膚炎等の皮膚疾患を発症させるIV型アレルギーのアレルゲン(原因物質)である傾向があることから、加硫促進剤の削減又は不使用化が求められる。しかしながら、従来技術では、加硫促進剤を用いないことによる機械的特性の低下を補うために長時間の加硫が必要である。このような事情から、加硫促進剤を用いることなく低温・短時間の加硫を行う場合であっても、優れた破断強度及び破断伸びを有する加硫物を得ることが求められる。
【0006】
本発明の一側面は、加硫促進剤を用いることなく低温・短時間(100℃、30分)の加硫を行う場合であっても、優れた破断強度及び破断伸びを有する加硫物を得ることが可能なクロロプレン共重合体ラテックスを提供することを目的とする。本発明の他の一側面は、前記クロロプレン共重合体ラテックスの加硫物、前記クロロプレン共重合体ラテックスの浸漬成形体及びその製造方法を提供することを目的とする。本発明の他の一側面は、前記クロロプレン共重合体ラテックスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、クロロプレン由来の構造単位と、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン由来の構造単位と、を有するクロロプレン共重合体を含有するクロロプレン共重合体ラテックスにおいて、クロロプレン共重合体におけるトルエン不溶分を調整すると共に、当該クロロプレン共重合体ラテックスが与える所定の加硫物の500%伸長時モジュラスを調整することにより上述の課題を解決できることを見出した。
【0008】
本発明の一側面は、クロロプレン由来の構造単位と、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン由来の構造単位と、を有するクロロプレン共重合体を含有するクロロプレン共重合体ラテックスであって、前記クロロプレン共重合体におけるトルエン不溶分が50~95質量%であり、前記クロロプレン共重合体ラテックスに基材を浸漬した後に100℃で30分間加硫することにより前記基材上に得られる膜のJIS K 6251に準拠した500%伸長時モジュラスが4.0MPa以下である、クロロプレン共重合体ラテックスを提供する。
【0009】
このようなクロロプレン共重合体ラテックスによれば、加硫促進剤を用いることなく低温・短時間(100℃、30分)の加硫を行う場合であっても、優れた破断強度及び破断伸びを有する加硫物を得ることができる。
【0010】
本発明の他の一側面は、上述のクロロプレン共重合体ラテックスの加硫物を提供する。本発明の他の一側面は、上述のクロロプレン共重合体ラテックスの浸漬成形体を提供する。本発明の他の一側面は、上述のクロロプレン共重合体ラテックスを浸漬成形する工程を含む、浸漬成形体の製造方法を提供する。
【0011】
本発明の他の一側面は、上述のクロロプレン共重合体ラテックスを得るための製造方法であって、重合転化率60~95%までクロロプレンと2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンとを乳化重合させる重合工程を含み、前記重合工程においてクロロプレンと2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンとの合計100質量部に対して2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンが0質量部を超え35質量部以下である、クロロプレン共重合体ラテックスの製造方法を提供する。
【0012】
このようなクロロプレン共重合体ラテックスの製造方法によれば、加硫促進剤を用いることなく低温・短時間(100℃、30分)の加硫を行う場合であっても、優れた破断強度及び破断伸びを有する加硫物を得ることが可能なクロロプレン共重合体ラテックスを得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一側面によれば、加硫促進剤を用いることなく低温・短時間(100℃、30分)の加硫を行う場合であっても、優れた破断強度及び破断伸びを有する加硫物を得ることが可能なクロロプレン共重合体ラテックスを提供することができる。本発明の他の一側面によれば、前記クロロプレン共重合体ラテックスの加硫物、前記クロロプレン共重合体ラテックスの浸漬成形体及びその製造方法を提供することができる。本発明の他の一側面によれば、前記クロロプレン共重合体ラテックスの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0015】
本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。数値範囲の「A以上」とは、A、及び、Aを超える範囲を意味する。数値範囲の「A以下」とは、A、及び、A未満の範囲を意味する。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。「A又はB」とは、A及びBのどちらか一方を含んでいればよく、両方とも含んでいてもよい。本明細書に例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。「膜」との語は、平面図として観察したときに、全面に形成されている形状の構造に加え、一部に形成されている形状の構造も包含される。「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート、及び、それに対応するメタクリレートの少なくとも一方を意味する。「JIS」とは、日本工業規格(Japanese Industrial Standards)を意味する。
【0016】
<クロロプレン共重合体ラテックス>
本実施形態に係るクロロプレン共重合体ラテックスは、クロロプレン(2-クロロ-1,3-ブタジエン)由来の構造単位と、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン由来の構造単位と、を有するクロロプレン共重合体を含有する。当該クロロプレン共重合体は、クロロプレンと2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンとの共重合体である。クロロプレン共重合体におけるトルエン不溶分は、50~95質量%である。本実施形態に係るクロロプレン共重合体ラテックスに基材を浸漬した後に100℃で30分間加硫することにより基材上に得られる膜のJIS K 6251に準拠した500%伸長時モジュラスは、4.0MPa以下である。
【0017】
本実施形態に係るクロロプレン共重合体ラテックスによれば、加硫促進剤を用いることなく低温・短時間(100℃、30分)の加硫を行う場合であっても、優れた破断強度及び破断伸びを有する加硫物を得ることが可能であり、浸漬成形膜としてこのような加硫物を得ることができる。本実施形態に係るクロロプレン共重合体ラテックスによれば、18MPa以上(例えば18~25MPa)の破断強度を得ることができると共に、1000%以上(例えば1000~1500%)の破断伸びを得ることができる。本実施形態に係るクロロプレン共重合体ラテックスによれば、当該クロロプレン共重合体ラテックスが硫黄、酸化亜鉛、p-クレゾールとジシクロペンタジエンのブチル化反応生成物、及び、β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩を含有する場合において、加硫促進剤を用いることなく低温・短時間(100℃、30分)の加硫を行う場合であっても、優れた破断強度及び破断伸びを有する加硫物を得ることができる。
【0018】
本実施形態に係るクロロプレン共重合体ラテックスによれば、従来よりも穏和な条件(100℃、30分)の加硫によって生産性向上及びコストダウンを達成できる。本実施形態に係るクロロプレン共重合体ラテックスによれば、IV型アレルギーのアレルゲンの使用を控えつつ、優れた破断強度及び破断伸びを有する加硫物を得ることができる。本実施形態に係るクロロプレン共重合体ラテックスによれば、加硫促進剤を用いることなく、従来のクロロプレン共重合体ラテックスから得られる加硫物と同等又はそれ以上の機械的特性を得ることができる。本実施形態に係るクロロプレン共重合体ラテックスによれば、加硫促進剤を用いても、優れた破断強度及び破断伸びを有する加硫物を得ることができる。
【0019】
クロロプレン共重合体ラテックスに含まれるクロロプレン共重合体におけるクロロプレン由来の構造単位の含有量は、クロロプレン共重合体に含まれるクロロプレン由来の構造単位と2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン由来の構造単位との合計量、又は、クロロプレン共重合体に含まれる構造単位の全量を基準として、0質量%を超え100質量%未満であり、下記の範囲であることが好ましい。クロロプレン由来の構造単位の含有量は、加硫物の優れた破断強度及び破断伸びを得やすい観点から、99質量%以下が好ましく、97質量%以下がより好ましく、96質量%以下が更に好ましい。クロロプレン由来の構造単位の含有量は、加硫物の優れた破断強度及び破断伸びを得やすい観点から、65質量%以上が好ましく、68質量%以上がより好ましく、70質量%以上が更に好ましい。これらの観点から、クロロプレン由来の構造単位の含有量は、65~99質量%が好ましく、65~96質量%がより好ましい。クロロプレン由来の構造単位の含有量は、95質量%以下、93質量%以下、93質量%未満、91質量%以下、91質量%未満、90質量%以下、88質量%以下、85質量%以下、82質量%以下、80質量%以下、80質量%未満、78質量%以下、76質量%以下、76質量%未満、75質量%以下、72質量%以下、又は、71質量%以下であってよい。クロロプレン由来の構造単位の含有量は、70質量%超、71質量%以上、72質量%以上、75質量%以上、76質量%以上、76質量%超、78質量%以上、80質量%以上、80質量%超、82質量%以上、85質量%以上、88質量%以上、90質量%以上、91質量%以上、91質量%超、93質量%以上、93質量%超、又は、95質量%以上であってよい。
【0020】
クロロプレン共重合体ラテックスに含まれるクロロプレン共重合体における2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン由来の構造単位の含有量(2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンの共重合量)は、クロロプレン共重合体に含まれるクロロプレン由来の構造単位と2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン由来の構造単位との合計量、又は、クロロプレン共重合体に含まれる構造単位の全量を基準として、0質量%を超え100質量%未満であり、下記の範囲であることが好ましい。2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン由来の構造単位の含有量は、加硫物の優れた破断強度及び破断伸びを得やすい観点から、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、4質量%以上が更に好ましい。2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン由来の構造単位の含有量は、加硫物の優れた破断強度及び破断伸びを得やすい観点から、35質量%以下が好ましく、32質量%以下がより好ましく、30質量%以下が更に好ましい。これらの観点から、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン由来の構造単位の含有量は、1~35質量%が好ましく、4~35質量%がより好ましい。2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン由来の構造単位の含有量は、5質量%以上、7質量%以上、7質量%超、9質量%以上、9質量%超、10質量%以上、12質量%以上、15質量%以上、18質量%以上、20質量%以上、20質量%超、22質量%以上、24質量%以上、24質量%超、25質量%以上、28質量%以上、又は、29質量%以上であってよい。2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン由来の構造単位の含有量は、30質量%未満、29質量%以下、28質量%以下、25質量%以下、24質量%以下、24質量%未満、22質量%以下、20質量%以下、20質量%未満、18質量%以下、15質量%以下、12質量%以下、10質量%以下、9質量%以下、9質量%未満、7質量%以下、7質量%未満、又は、5質量%以下であってよい。
【0021】
クロロプレン共重合体は、クロロプレン及び2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン以外の単量体に由来する構造単位を有してよく、クロロプレン及び2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンを含む3種類以上の単量体の共重合体であってよい。このような単量体としては、アクリル酸のエステル類(アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル等)、メタクリル酸のエステル類(メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル等)、ヒドロキシ(メタ)アクリレート類(2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等)、1-クロロ-1,3-ブタジエン、ブタジエン、イソプレン、エチレン、スチレンなどが挙げられる。クロロプレン共重合体は、カルボキシル基含有ビニル単量体(例えばメタクリル酸)に由来する構造単位を有してよく、カルボキシル基含有ビニル単量体(例えばメタクリル酸)に由来する構造単位を有さなくてよい。カルボキシル基含有ビニル単量体(例えばメタクリル酸)に由来する構造単位の含有量は、クロロプレン共重合体の全量を基準として0.5質量%未満であってよい。
【0022】
本実施形態に係るクロロプレン共重合体ラテックスに含まれるクロロプレン共重合体におけるトルエン不溶分(23℃のトルエンに対して不溶な成分の含有量)は、クロロプレン共重合体の全量を基準として50~95質量%である。トルエン不溶分が50質量%未満である場合、又は、トルエン不溶分が95質量%を超える場合、加硫物の破断強度が損なわれる。
【0023】
クロロプレン共重合体におけるトルエン不溶分は、加硫物の優れた破断強度及び破断伸びを得やすい観点から、52質量%以上が好ましく、55質量%以上がより好ましく、57質量%以上が更に好ましい。クロロプレン共重合体におけるトルエン不溶分は、59質量%以上、60質量%以上、65質量%以上、70質量%以上、70質量%超、75質量%以上、80質量%以上、85質量%以上、85質量%超、86質量%以上、88質量%以上、89質量%以上、90質量%以上、91質量%以上、又は、93質量%以上であってよい。クロロプレン共重合体におけるトルエン不溶分は、加硫物(例えば膜状の加硫物)の優れた柔軟性を得やすい観点から、95質量%未満が好ましく、93質量%以下がより好ましい。クロロプレン共重合体におけるトルエン不溶分は、91質量%以下、90質量%以下、89質量%以下、88質量%以下、86質量%以下、85質量%以下、85質量%未満、80質量%以下、75質量%以下、70質量%以下、70質量%未満、65質量%以下、60質量%以下、59質量%以下、又は、57質量%以下であってよい。クロロプレン共重合体におけるトルエン不溶分は、重合時の重合転化率、連鎖移動剤の種類及び仕込み量等により調整できる。
【0024】
「トルエン不溶分」は、次の手順で測定できる。まず、クロロプレン共重合体ラテックスを凍結乾燥させて得られるクロロプレン共重合体を23℃のトルエンで溶解して溶解液を得る。この溶解液を遠心分離した後、200メッシュの金網を用いてゲル分を分離する。このゲル分を乾燥させて乾燥物を得た後にこの乾燥物の質量を測定することによりトルエン不溶分を得る。
【0025】
本実施形態に係るクロロプレン共重合体ラテックスに含まれるクロロプレン共重合体は、エタノール/トルエン共沸混合物(ETA)を用いて当該クロロプレン共重合体から抽出される抽出物(抽出成分)のガスクロマトグラフィーにおいてアビエチン酸由来のピークを与えることが好ましい。この場合、機械的特性(例えば破断強度)が更に良好な加硫物(例えば浸漬成形膜)が得られる。クロロプレン共重合体におけるアビエチン酸由来のピークの有無は、後述するように、乳化剤として添加するロジン酸類の種類に起因する。
【0026】
アビエチン酸由来のピークは、次の手順で測定できる。まず、クロロプレン共重合体ラテックスを凍結乾燥させて得られたクロロプレン共重合体を裁断することにより試験片を得る。コンデンサー付属のナス形フラスコにこの試験片を入れ、JIS K 6229で規定されるエタノール/トルエン共沸混合物(ETA)で抽出物(ロジン酸類等)抽出する。ガスクロマトグラフを用いたガスクロマトグラフィーによりこの抽出物を測定することでアビエチン酸由来のピークを確認できる。
【0027】
本実施形態に係るクロロプレン共重合体ラテックスは、加硫剤を含有してよい。加硫剤としては、硫黄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム等が挙げられる。
【0028】
本実施形態に係るクロロプレン共重合体ラテックスは、加硫促進剤を含有してよく、加硫促進剤を含有していなくてもよい。加硫促進剤としては、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸ナトリウム等のジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤;エチレンチオウレア、ジエチルチオウレア、トリメチルチオウレア、トリエチルチオウレア、N,N’-ジフェニルチオウレア、N,N’-ジエチルチオウレア等のチオウレア系加硫促進剤;1,3-ジフェニルグアニジン等のグアニジン系加硫促進剤;テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド等のチウラム系加硫促進剤;チアゾール系加硫促進剤;キサントゲン酸系加硫促進剤などが挙げられる。本実施形態に係るクロロプレン共重合体ラテックスは、ジチオカルバミン酸塩系加硫促進剤、チオウレア系加硫促進剤、グアニジン系加硫促進剤、チウラム系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、及び、キサントゲン酸系加硫促進剤からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有しなくてよい。本実施形態に係るクロロプレン共重合体ラテックスは、加硫促進剤を含有せずとも、優れた機械的特性を有する加硫物を得ることができる。
【0029】
本実施形態に係るクロロプレン共重合体ラテックスは、界面活性剤、凍結安定剤、乳化安定剤、粘度調整剤、酸化防止剤、防腐剤等の添加剤を含有することができる。界面活性剤の含有量は、クロロプレン共重合体100質量部に対して0.1質量部未満であってよい。
【0030】
本実施形態に係るクロロプレン共重合体ラテックスにおいて、当該クロロプレン共重合体ラテックスに基材を浸漬(例えば10秒浸漬)した後に100℃で30分間加硫することにより基材上に得られる膜(加硫物)のJIS K 6251に準拠した500%伸長時モジュラス(JIS K 6251に準拠して測定される500%伸長時モジュラス)は、加硫物の優れた破断伸びを得る観点から、4.0MPa以下である。500%伸長時モジュラスは、加硫物の優れた破断伸びを得やすい観点から、3.5MPa以下が好ましく、3.0MPa以下がより好ましく、2.5MPa以下が更に好ましく、2.0MPa以下が特に好ましく、1.8MPa以下が極めて好ましく、1.5MPa以下が非常に好ましい。500%伸長時モジュラスは、1.4MPa以下、1.3MPa以下、又は、1.2MPa以下であってよい。500%伸長時モジュラスは、0.3MPa以上、0.5MPa以上、0.7MPa以上、0.8MPa以上、1.0MPa以上、1.2MPa以上、1.3MPa以上、1.4MPa以上、又は、1.5MPa以上であってよい。これらの観点から、500%伸長時モジュラスは、0.1~4.0MPa、0.1~2.0MPa、又は、0.7~1.2MPaであってよい。500%伸長時モジュラスは、であってよい。500%伸長時モジュラスは、単量体の種類及び仕込み量、重合時の重合転化率、重合温度等により調整できる。
【0031】
本実施形態に係るクロロプレン共重合体ラテックスにおいて、当該クロロプレン共重合体ラテックスに基材を浸漬(例えば10秒浸漬)した後に100℃で30分間加硫することにより基材上に得られる膜(加硫物)のJIS K 6251に準拠した100%伸長時モジュラス(JIS K 6251に準拠して測定される100%伸長時モジュラス)は、下記の範囲であることが好ましい。100%伸長時モジュラスは、加硫物の優れた破断伸びを得やすい観点から、1.5MPa以下が好ましく、1.2MPa以下がより好ましく、1.0MPa以下が更に好ましく、0.9MPa以下が特に好ましい。100%伸長時モジュラスは、0.8MPa以下、又は、0.7MPa以下であってよい。100%伸長時モジュラスは、0.1MPa以上、0.3MPa以上、0.5MPa以上、0.7MPa以上、0.8MPa以上、又は、0.9MPa以上であってよい。これらの観点から、100%伸長時モジュラスは、0.1~1.5MPa、0.1~1.2MPa、又は、0.5~1.2MPaであってよい。100%伸長時モジュラスは、単量体の種類及び仕込み量、重合時の重合転化率、重合温度等により調整できる。
【0032】
上述の伸長時モジュラスを与える膜は、クロロプレン共重合体ラテックスに基材を浸漬した後に45℃の流水で1分間洗浄し、100℃で30分間加硫することにより得られてよい。基材を浸漬する際のクロロプレン共重合体ラテックスの温度は、23℃であってよい。上述の伸長時モジュラスを与える膜は、基材を凝固液(例えば23℃)に浸漬(例えば1秒浸漬)した後に、クロロプレン共重合体ラテックスに当該基材を浸漬して得られてよい。凝固液としては、例えば、水62質量部、硝酸カリウム四水和物35質量部及び炭酸カルシウム3質量部を混合して得られる凝固液を用いることができる。基材は、例えば、外径50mmの陶器製の円筒であってよい。
【0033】
<クロロプレン共重合体ラテックスの製造方法>
本実施形態に係るクロロプレン共重合体ラテックスの製造方法は、本実施形態に係るクロロプレン共重合体ラテックスを得るための製造方法である。本実施形態に係るクロロプレン共重合体ラテックスの製造方法は、重合転化率60~95%までクロロプレンと2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンとを乳化重合させる重合工程を含み、重合工程においてクロロプレンと2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンとの合計100質量部に対して2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンが0質量部を超え35質量部以下である。
【0034】
重合工程における乳化重合開始前の2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンの仕込み量は、クロロプレンと2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンとの合計100質量部、又は、クロロプレン共重合体を得るための単量体の全量を基準として、0質量部を超え、下記の範囲が好ましい。2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンの仕込み量は、加硫物(例えば膜状の加硫物)の優れた柔軟性を得やすい観点から、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、4質量部以上が更に好ましく、5質量部以上が特に好ましい。2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンの仕込み量は、加硫物の優れた破断強度及び破断伸びを得やすい観点から、32質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましい。これらの観点から、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンの仕込み量は、0質量部を超え32質量部以下が好ましく、5~30質量部がより好ましい。2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンの仕込み量は、7質量部以上、7質量部超、9質量部以上、9質量部超、10質量部以上、12質量部以上、15質量部以上、18質量部以上、20質量部以上、20質量部超、22質量部以上、24質量部以上、24質量部超、25質量部以上、28質量部以上、29質量部以上、又は、30質量部以上であってよい。2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンの仕込み量は、29質量部以下、28質量部以下、25質量部以下、24質量部以下、24質量部未満、22質量部以下、20質量部以下、20質量部未満、18質量部以下、15質量部以下、12質量部以下、10質量部以下、9質量部以下、9質量部未満、7質量部以下、7質量部未満、又は、5質量部以下であってよい。
【0035】
重合工程における重合温度(乳化重合の重合温度)は、下記の範囲であることが好ましい。重合温度は、加硫物の好適な伸長時モジュラスが得られやすい観点から、10℃以上が好ましく、12℃以上がより好ましく、15℃以上が更に好ましい。重合温度は、加硫物の優れた破断強度を得やすい観点から、30℃未満が好ましく、25℃以下がより好ましく、23℃以下が更に好ましい。これらの観点から、重合温度は、10℃以上30℃未満が好ましく、10~25℃がより好ましい。
【0036】
乳化重合に際して連鎖移動剤を用いることができる。連鎖移動剤としては、特に限定されるものではなく、n-ドデシルメルカプタン、tert-ドデシルメルカプタン等の長鎖アルキルメルカプタン類;ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド、ジエチルキサントゲンジスルフィド等のジアルキルキサントゲンジスルフィド類;ヨードホルムなどが挙げられる。連鎖移動剤としては、クロロプレンの乳化重合に一般的に使用されている公知の連鎖移動剤を使用することができる。
【0037】
乳化重合開始前の連鎖移動剤の仕込み量は、重合終了後のトルエン不溶分が50~95質量%となるように種類及び量を調整することができる。トルエン不溶分は連鎖移動剤の種類及び量以外にも重合転化率の影響を受けるため、連鎖移動剤の種類及び量、重合転化率等を適宜調整してトルエン不溶分を調整することが好ましい。例としては、クロロプレンと2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンとの合計100質量部に対してジイソプロピルキサントゲンジスルフィドを0.14質量部仕込み、重合転化率60~95%(例えば90%程度)まで重合することで、好適なトルエン不溶分のクロロプレン共重合体ラテックスが得られる。
【0038】
乳化重合に用いる乳化剤としては、ロジン酸類が好適であり、アビエチン酸由来のピークを与えるロジン酸類が好ましい。アビエチン酸由来のピークを与えるロジン酸類としては、不均化されていない生のロジン酸等が挙げられる。
【0039】
一般的に用いられるその他の乳化剤及び/又は脂肪酸類を用いることもできる。その他の乳化剤としては、芳香族スルフィン酸ホルマリン縮合物の金属塩(例えばβ-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩)、ドデシルベンゼンスルフォン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルフォン酸カリウム、アルキルジフェニルエーテルスルフォン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルスルフォン酸カリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルフォン酸ナトリウム、ポリオキシプロピレンアルキルエーテルスルフォン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルフォン酸カリウム、ポリオキシプロピレンアルキルエーテルエーテルスルフォン酸カリウム等が挙げられる。
【0040】
乳化重合開始時の水性乳化液のpHは10.5~13.5であることが好ましい。水性乳化液とは、乳化重合開始直前の連鎖移動剤、クロロプレン、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン等を含有する混合液を指すが、各成分を後添加したり、分割添加したりすることにより、その組成が変わる場合も包含される。乳化重合開始時の水性乳化液のpHが10.5以上であると、より安定的に重合反応を制御することができる。pHが13.5以下であると、重合中の過度な粘度上昇が抑制されて、より安定的に重合反応を制御することができる。
【0041】
重合開始剤としては、通常のラジカル重合で用いられる過硫酸カリウム、過酸化ベンゾイル、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等が挙げられる。
【0042】
重合工程における重合転化率は、60~95%である。重合反応は、重合禁止剤を加えることにより停止させることができる。重合転化率が60%以上であると、トルエン不溶分の低下が抑制され、加硫物(例えば浸漬成形膜)の破断強度が損なわれることが抑制されると共に、コストアップを避けることができる。重合転化率は、加硫物の優れた破断強度を得やすい観点から、63%以上が好ましく、65%以上がより好ましく、67%以上が更に好ましい。重合転化率は、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、86%以上、88%以上、89%以上、90%以上、92%以上、又は、93%以上であってよい。重合転化率が95%以下であると、未反応モノマーの減少による重合反応性の低下が抑制され、生産性の低下が避けられると共に加硫物(例えば浸漬成形膜)の優れた破断強度が得られる。重合転化率は、加硫物の優れた破断強度を得やすい観点から、93%以下が好ましい。重合転化率は、92%以下、90%以下、89%以下、88%以下、86%以下、85%以下、80%以下、75%以下、70%以下、67%以下、又は、65%以下であってよい。
【0043】
重合禁止剤としては、ジエチルヒドロキシルアミン、チオジフェニルアミン、4-tert-ブチルカテコール、2,2’-メチレンビス-4-メチル-6-tert-ブチルフェノール、p-クレゾールとジシクロペンタジエンのブチル化反応生成物等が挙げられる。乳化重合終了後の未反応単量体は、常法の減圧蒸留等の方法で除去することができる。
【0044】
本実施形態に係るクロロプレン共重合体ラテックスの製造方法では、重合後に凍結安定剤、乳化安定剤、粘度調整剤、酸化防止剤、防腐剤等を任意に添加することができる。
【0045】
<加硫物、浸漬成形体これらの製造方法>
本実施形態に係る加硫物は、本実施形態に係るクロロプレン共重合体ラテックスの加硫物であり、本実施形態に係るクロロプレン共重合体ラテックスを加硫して得られたものである。本実施形態に係る加硫物の製造方法は、本実施形態に係るクロロプレン共重合体ラテックスを加硫して加硫物を得る工程を含む。本実施形態に係る加硫物は、膜状であってよい。膜状の加硫物の厚さ(例えば最小の厚さ)は、0.01~0.5mm、0.1~0.5mm、0.1~0.3mm、又は、0.1~0.2mmであってよい。
【0046】
本実施形態に係る浸漬成形体は、本実施形態に係るクロロプレン共重合体ラテックスの浸漬成形体である。本実施形態に係る浸漬成形体は、本実施形態に係るクロロプレン共重合体ラテックスを用いた浸漬成形体であり、本実施形態に係るクロロプレン共重合体ラテックスを浸漬成形して得られたものである。本実施形態に係る浸漬成形体の製造方法は、本実施形態に係るクロロプレン共重合体ラテックスを浸漬成形する工程を含む。本実施形態に係る浸漬成形体を製造する際の成形方法としては、例えば凝固液浸漬法が挙げられるが、これに限定されるものではなく、常法に従って成形すればよい。本実施形態に係る浸漬成形体は、基材上に形成された浸漬成形膜であってよい。本実施形態に係る加硫物及び浸漬成形体は、破断強度、破断伸び等の機械的特性に優れている。本実施形態に係る浸漬成形体は、本実施形態に係る加硫物の成形体であってよい。本実施形態に係る浸漬成形体は、手袋、風船、カテーテル又は長靴であることが好ましい。
【0047】
本実施形態に係る加硫物及び浸漬成形体は、加硫剤及び/又は加硫促進剤を含有してよく、加硫剤及び/又は加硫促進剤を含有しなくてもよい。加硫剤及び/又は加硫促進剤を配合するか否かは、目的とする加硫物及び浸漬成形体に応じて決定すればよい。加硫剤及び加硫促進剤としては、例えば、上述のとおり例示した加硫剤及び加硫促進剤を用いることができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
<クロロプレン重合体ラテックスの作製>
(実施例1)
内容積40リットルの重合缶に、クロロプレン単量体95質量部、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン単量体5質量部、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド0.14質量部、純水100質量部、トール生ロジン(不均化されていない生のロジン酸、ハリマ化成グループ株式会社製)4.8質量部、水酸化カリウム1.50質量部、及び、β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(商品名「デモールN」、花王株式会社製)0.40質量部を添加した。重合開始前の水性乳化液のpHは12.8であった。重合開始剤として過硫酸カリウム0.1質量部を添加し、重合温度15℃にて窒素気流下で重合を行った。重合転化率89%となった時点で、重合禁止剤であるジエチルヒドロキシルアミンを加えて重合を停止させることによりラテックスを得た。このラテックスを減圧蒸留して未反応の単量体を除去することで、固形分濃度60質量%のクロロプレン重合体ラテックスを得た。
【0050】
(実施例2~10及び比較例1~6)
下記表1及び表2に示した条件(重合成分、仕込み量、重合温度、重合転化率等)に変更したこと以外は実施例1と同様に行うことによりクロロプレン重合体ラテックスを得た。実施例10では、不均化ロジン酸カリウム(商品名「ロンヂスK-25」、荒川化学工業株式会社製)を使用した。
【0051】
<2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンの共重合量>
上述のクロロプレン重合体ラテックスを凍結乾燥させて得られたクロロプレン重合体3gを2mm角の立方体に裁断することにより試験片を得た。熱分解ガスクロマトグラフ(日本電子株式会社製の商品名「JMS-Q1050GC」にフロンティア・ラボ株式会社製の商品名「PY-3030D」を取り付けた装置)を用いてこの試験片における2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンの共重合量(基準:クロロプレン由来の構造単位と2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン由来の構造単位との合計量)を測定した。結果を表1及び表2に示す。
【0052】
<アビエチン酸ピークの測定>
上述のクロロプレン重合体ラテックスを凍結乾燥させて得られたクロロプレン重合体3gを2mm角の立方体に裁断することにより試験片を得た。コンデンサー付属のナス形フラスコにこの試験片を入れ、JIS K 6229で規定されるエタノール/トルエン共沸混合物(ETA)で抽出物(ロジン酸類)を抽出した。ガスクロマトグラフ(商品名「GC-2010Plus」、株式会社島津製作所製)を用いて下記測定条件でこの抽出物を測定した。このガスクロマトグラフィーにおいて、クロロプレン重合体がアビエチン酸由来のピーク(ピークトップ)を有するか否かを確認した。結果を表1及び表2に示す。
【0053】
[ガスクロマトグラフィーの測定条件]
・使用カラム:FFAP 0.32mmφ×25m(膜厚0.3μm)
・カラム温度:200℃→250℃
・昇温速度:10℃/min
・注入口温度:270℃
・検出器温度:270℃
・注入量:2μL
【0054】
<トルエン不溶分の測定>
上述のクロロプレン重合体ラテックスを凍結乾燥させて得られたクロロプレン重合体1gを2mm角の立方体に裁断することにより試験片を得た。コニカルビーカーにこの試験片を入れた後、23℃のトルエンで16時間溶解して溶解液を得た。この溶解液を遠心分離(14000rpm、10分)した後、200メッシュの金網を用いてゲル分を分離した。このゲル分を乾燥させて乾燥物を得た後にこの乾燥物の質量を測定することによりトルエン不溶分を得た。結果を表1及び表2に示す。
【0055】
<評価サンプルの作製>
(クロロプレン重合体ラテックス組成物の作製)
上述のクロロプレン重合体ラテックス(固形分として100質量部。以下、「質量部」は、当該クロロプレン重合体ラテックスの固形分100質量部に対する量を示す)に後述の水分散液5.1質量部を混合した後、純水を加えて組成物の全体の固形分濃度を30質量%に調整することによりクロロプレン重合体ラテックス組成物を作製した。上記水分散液は、陶器製ボールミルを用いて、硫黄1質量部、2種酸化亜鉛(商品名「酸化亜鉛2種」、堺化学工業株式会社製)2質量部、p-クレゾールとジシクロペンタジエンのブチル化反応生成物(商品名「ノクラックPBK」、大内新興化学工業株式会社製)2質量部、β-ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩(商品名「デモールN」、花王株式会社製)0.1質量部、及び、純水13質量部を20℃で16時間混合することにより調製した。
【0056】
(加硫フィルムの作製)
外径50mmの陶器製の円筒を、純水62質量部、硝酸カリウム四水和物35質量部及び炭酸カルシウム3質量部を混合して得られる凝固液(23℃)に1秒間浸した後に取り出した。4分間乾燥させた後、23℃において上述の円筒を上述のクロロプレン重合体ラテックス組成物に10秒間浸した。その後、45℃の流水で1分間洗浄した後、100℃で30分間加硫することにより円筒の外周面等に加硫フィルム(評価サンプル)を作製した。加硫フィルムを円筒の外周面から剥離して以下の評価を行った。
【0057】
<評価>
試験片測厚器(商品名「ASKER SDA-12」、高分子計器株式会社製)を用いて加硫フィルムの中央部の3か所の厚さ(フィルム厚)を測定し、最小の厚さを加硫フィルムの厚さとして得た。結果を表1及び表2に示す。
【0058】
加硫フィルムについて、JIS K 6251に準拠して100%伸長時モジュラス、500%伸長時モジュラス、破断強度及び破断伸びを測定した。結果を表1及び表2に示す。
【0059】
【0060】
【0061】
表1及び表2から明らかなように、実施例1~10では、破断強度、破断伸び等の機械的特性に優れていた。実施例2と実施例10との対比によれば、クロロプレン共重合体がアビエチン酸由来のピークを与えること、及び、不均化されていない生のロジン酸を用いることにより破断強度が向上することが確認された。
【0062】
比較例1では、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエンを共重合していないと共に500%伸長時モジュラスが4.0MPaを超えることから、破断伸びが劣っていた。比較例2では、500%伸長時モジュラスが4.0MPaを超えることから、破断伸びが劣っていた。比較例3及び4では、クロロプレン共重合体におけるトルエン不溶分が50質量%未満であることから、破断強度が劣っていた。比較例5及び6では、クロロプレン共重合体におけるトルエン不溶分が95質量%を超えることから、破断強度が劣っていた。